(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015063
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】人体の健康状態を推定するシステム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/10 20190101AFI20240125BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20240125BHJP
【FI】
G06N20/10
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200084
(22)【出願日】2023-11-27
(62)【分割の表示】P 2022196139の分割
【原出願日】2019-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2018021518
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018094644
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516390174
【氏名又は名称】アクシオンリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
(57)【要約】
【課題】患者の健康状態を精度よく推定できるシステムを提供する。
【解決手段】人体の健康状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクスであって、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む各段階のマトリクスを格納した第1のストレージと、第1の患者の検査時における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化し、そのマトリクスの複数の各々のセルを、前記各々のセルに対応する検査結果の偏差値に応じた色および/または濃淡で表示した第1のヒートマップを生成する生成ユニットと、前記第1のヒートマップに基づき前記第1の患者の健康状態を推定するように構成された第1の推定ユニットとを有するシステムを提供する。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の健康状態を推定するシステムであって、
人体の健康状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクスであって、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む前記各段階のマトリクスを格納した第1のストレージと、
第1の患者の検査時における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化し、そのマトリクスの複数の各々のセルを、前記各々のセルに対応する検査結果の偏差値に応じた色および/または濃淡で表示した第1のヒートマップを生成する生成ユニットと、
前記第1のヒートマップに基づき前記第1の患者の健康状態を推定するように構成された第1の推定ユニットとを有するシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の推定ユニットは、多数の患者の各検査時における多数の前記第1のヒートマップと前記多数の患者の健康状態との対応関係を機械学習により学習した第1の人工知能により、前記第1の患者の前記検査時における健康状態を推定するように構成された第1のAIユニットを含む、システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1のAIユニットは、前記多数の第1のヒートマップを画像認識して前記多数の患者の健康状態との対応関係を機械学習した人工知能を含む、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記生成ユニットは、疾患、投薬および/または生活環境の影響により相互に関連することが知られている検査項目のグループに属する前記セルの色および/または濃淡を強調するように前記第1のヒートマップを生成する、システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
第1の検査時点から時間が経過した前記第1の患者の第2の検査時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第2のヒートマップと、前記第1のヒートマップとの変位に基づき前記第1の患者の健康状態の推移を推定するように構成された第2の推定ユニットをさらに有する、システム。
【請求項6】
請求項5において、
多数の前記第2のヒートマップと前記多数の患者の経時的な状態変化との対応関係を機械学習により学習した第2の人工知能により、前記第1の患者の前記健康状態の推移を推定するように構成された第2のAIユニットをさらに有する、システム。
【請求項7】
コンピュータにより、患者の健康状態を推定する方法であって、
前記コンピュータは、多数の検査対象の複雑系の状態の経時的変化の各段階に該当する前記多数の検査対象の複雑系の状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクスであって、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む前記各段階のマトリクスを格納した第1のストレージを有し、
当該方法は、
第1の患者の検査時における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化し、そのマトリクスの複数の各々のセルを、前記各々のセルに対応する検査結果の偏差値に応じた色および/または濃淡で表示した第1のヒートマップを生成し、前記第1のヒートマップに基づき前記第1の患者の健康状態を推定するように構成された第1の推定処理を、前記コンピュータに実行させることを含む、方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1の推定処理は、多数の患者の各検査時における多数の前記第1のヒートマップと前記多数の患者の健康状態との対応関係を機械学習により学習した第1の人工知能により、前記第1の患者の前記検査時における健康状態を推定することを含む、方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
疾患、投薬および/または生活環境の影響により相互に関連することが知られている検査項目のグループに属する前記セルの色および/または濃淡を強調するように前記第1のヒートマップを生成する処理を、前記コンピュータに実行させることを含む、方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれかにおいて、
第1の検査時点から時間が経過した前記第1の患者の第2の検査時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第2のヒートマップと、前記第1のヒートマップとの変位に基づき前記第1の患者の健康状態の推移を推定する第2の推定処理を前記コンピュータが実行することをさらに有する、方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記第2の推定処理は、多数の前記第2のヒートマップと前記多数の患者の経時的な状態変化との対応関係を機械学習により学習した第2の人工知能により、前記第1の患者の前記健康状態の推移を推定することを含む、方法。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれかに記載の方法をコンピュータにより実行するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の健康状態を推定するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、健康管理対象者の食事や健康状態から適切なアドバイスメッセージを生成して、健康管理のカリキュラム実行のモチベーションを向上させることができる健康管理サーバを提供することが記載されている。この文献には、健康管理対象者が保有する端末とネットワークを介して接続された健康管理サーバであって、健康管理対象者が選択した一のカリキュラム情報を端末から受信する受信部と、健康管理対象者の行動パターンを記憶する記憶部と、カリキュラム情報に基づく行動が継続されている場合の継続パターンと、カリキュラム情報に基づく行動が停滞した場合の停滞パターンと、に分析する分析部と、将来予測される健康管理対象者の身体情報および容姿を推測する人工知能部と、身体情報および容姿を生成する生成部と、画像情報または文例情報として端末に送信する送信部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人体(人間)のような数多くの要素で構成され、それぞれの要素が相互に且つ複雑に絡み合った複雑なシステムを検査対象の複雑系として、その状態を精度よく推定できるシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、多数の検査対象の複雑系の個別の複雑系の状態を推定するシステムである。このシステム(診察システム、診断システム)は、多数の検査対象の複雑系の経時的変化の各段階に該当する前記多数の検査対象の複雑系の状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクス(静的マトリクス)を格納した第1のストレージと、個別の複雑系である第1の複雑系の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第1のマトリクスに基づき第1の複雑系の第1の状態を推定するように構成された第1の推定ユニットとを有する。各段階のマトリクスは、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む。本明細書において、多数とは、2-3個を含む複数ではなく、少なくとも5、または少なくとも10の複雑系または検査項目などを対象としていることを示す。
【0006】
このシステムにおいては、特定の異常を判断するように用意された検査項目(パラメータ)の検査結果の数値の上昇あるいは減少だけにより、検査対象の複雑系の状態を判断するのではなく、多数の検査項目について、それら相互の、すなわち、検査項目間の相関を、検査対象の複雑系の状態を判断する指標として用いる。さらに、多数の検査項目間の相関は、特定の相関が特定の異常を示唆するとは限らないと考えられる。このため、本システムにおいては、多数の検査対象の複雑系の多数の検査項目間の多数の相関を事前に取得し、多数の検査対象の複雑系が時間経過により遷移する複数の段階(状態)の中で、その段階の状態の判断が確定していると考えられる特定された複数の各段階(静的な状態)について、多数の相関を複数のセルを含む1つのマトリクス(静的マトリクス)として纏め、各段階のマトリクスを準備する。
【0007】
複雑系の経時的な各段階の一例は、正常な状態、事前に要因が判明している各種の異常な状態(正常ではない状態、非正常な状態)、正常状態とも非正常状態とも言えない準正常な状態などである。準正常な状態は、要因が判明していない非正常な状態であってもよい。特定の準正常な状態が、多数の検査対象の複雑系の状態変位から確定していれば、正常状態、非正常状態、準正常状態の各段階のマトリクスのいずれにも含まれない状態(段階)を、新たな非正常状態、あるいは新たな準非正常状態として推定してもよい。検査対象の複雑系が人間あるいは動物であれば、健康状態が、例えば、年齢、体力、生活環境、疾病などの様々な要因により良好な状態から経時的に(徐々にあるいは急激に)悪化したり、治療や環境の変化などにより、経時的に回復あるいは好転することがある。
【0008】
第1の推定ユニットは、複数の第1のマトリクスと複数の第1の状態との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、第1の複雑系の第1の状態を推定するように構成された第1のAIユニットを含んでもよい。人工知能(AI)は、複数のセルを含む第1のマトリクスを画像認識して第1の状態との対応関係を機械学習した人工知能であってもよい。マトリクスを構成する複数のセルの各々は、2または複数の検査項目の検査結果の相関情報を含む2次元または3次元のセルであってもよく、典型的には、第1の検査項目の検査結果と第2の検査項目の検査結果との相関を統計的に処理した情報(相関係数、相関分析)を、散布図、分布図、等値線、色などにより示す2次元のセルであってもよい。これらのセルを含むマトリクスは人工知能による画像認識により解析したり、分類したりすることが可能である。したがって、第1の複雑系の検査結果を、各段階のマトリクスをフィルターとして画像に変換して人工知能により画像認識して第1の複雑系の第1の状態を精度よく推定できる。
【0009】
このシステムは、各段階のマトリクスに含まれる複数のセルのそれぞれに、第1の複雑系の第1の時点における複数の検査項目の検査結果同士の関係を反映した第1のマトリクスを生成するように構成された第1の生成ユニットを含んでもよい。検査対象の第1の複雑系の第1の時点における多数の検査項目の検査結果間の第1の関係と、各段階のマトリクスの多数の検査項目間の多数の相関関係とを比較して第1の複雑系の第1の時点における第1の状態を推定できる。
【0010】
このシステムは、第1の複雑系の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を用いて、複数のセルに展開した第1のマトリクスを生成するように構成された第2の生成ユニットを含んでもよい。各段階において、検査結果間に相関があれば、その情報を用いて、検査対象の第1の複雑系の検査結果を第1のマトリクスに強調したり、編集したりして表すことが可能となり、より精度よく第1の状態を推定しやすくなる。
【0011】
このシステムは、複数のセルが多数の検査項目をXおよびY軸とする2次元に配置された第1のマトリクスを出力するように構成された出力ユニットをさらに有していてもよい。複数のセルが2次元に配置された第1のマトリクスは、人間も画像として把握することができ、このシステム、特に、AIが推定した経緯および/または結果を、専門家が追跡したり、追認することが可能となる。
【0012】
このシステムは、さらに、第1の時点から時間が経過した第1の複雑系の第2の時点における第2のマトリクスと、第1の時点における第1のマトリクスとの変位に基づき第1の複雑系の状態の推移を推定するように構成された第2の推定ユニットをさらに有していてもよい。第2のマトリクスは、第2の時点における検査対象の第1の複雑系の多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化したものである。
【0013】
ストレージは、各段階のマトリクスの間の多数の相関情報が遷移する情報を含む移行マトリクス(段階移行マトリクス)であって、多数の検査対象のシステムの経時的な状態の変化を反映した移行マトリクスを含んでもよい。第2の推定ユニットは、第1のマトリクスから第2のマトリクスへの変位と段階間のマトリクスとを比較して、第2のマトリクスに基づき推定された第1の複雑系の第2の状態を検証するように構成されたユニットを含んでもよい。移行マトリクスは、多数の相関が他の段階から遷移(推移、変位)する情報含んでいてもよく、多数の相関の他の段階への遷移または変位を含んでいてもよい。多数の検査項目の静的な相関に加えて、多数の検査項目の経時的な変化を、段階間の遷移を示す移行マトリクス(動的マトリクス)と比較することが可能であり、症状の推定をより高い精度で提供できる。
【0014】
第2の推定ユニットは、第1の複雑系の第2の時点以降の状態の推移を推定するように構成されたユニットを含んでもよい。第1の複雑系の過去の経時変化の過程(経過)に基づき、その延長で、第1の複雑系の今後の経過を推定してもよい。
【0015】
第2の推定ユニットは、複数の第1のマトリクスと複数の第2のマトリクスとの間の変位と、多数の検査対象の複雑系の経時的な状態変化との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、第1の複雑系の状態の推移を推定するように構成された第2のAIユニットを含んでもよい。第2のAIユニットは、第1のAIユニットと共通であってもよく、共通の人工知能を用いるように構成されていてもよい。また、第2のAIユニットは、第1の複雑系の状態の経時的な変位を、段階間の動的マトリクスをフィルターとして画像に変換した個別の変位マトリクスを画像認識して第2の状態を推定する機能を含んでもよい。
【0016】
各段階のマトリクスおよび段階移行のマトリクスは、できるだけ多くの検査対象の複雑系の検査結果を含むことが望ましく、このシステムにより状態が推定された第1の複雑系の検査結果を自動的にこれらのマトリクスの情報として組み込んでもよい。検査対象の複雑系の検査結果の数は多ければ多い方が望ましく、このシステムは、検査対象の複雑系のレプリカを用いて各段階の多数の検査項目間の多数の相関情報(相関関係)を自動生成するように構成されたユニットを含んでもよい。レプリカは複雑系を模したシミュレータであってもよく、乱数を用いて統計的に検査結果が得られるモデルであってもよい。
【0017】
検査対象の複雑系は人体であってもよく、他の動物、植物、プラント、船舶、車両、タービンエンジンなどの多数の要素を含む他の複雑系であってもよい。検査対象の複雑系が人体の場合は、当該システムは、医師の診察の予備診察システムとして機能してもよい。
【0018】
本発明の他の態様の1つは、コンピュータにより、多数の検査対象の複雑系の個別の複雑系の状態を推定する方法である。コンピュータは、多数の検査対象の複雑系の状態の経時的変化の各段階に該当する多数の検査対象の複雑系の状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクスであって、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む各段階のマトリクスを格納した第1のストレージを有する。当該方法は、個別の複雑系である第1の複雑系の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第1のマトリクスに基づき第1の複雑系の第1の状態を推定する第1の推定処理を、コンピュータに実行させることを含む。
【0019】
第1の推定処理は、複数の第1のマトリクスと複数の第1の状態との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、第1の複雑系の前記第1の状態を推定することを含んでもよい。また、当該方法は、各段階のマトリクスに含まれる複数のセルのそれぞれに、第1の複雑系の第1の時点における複数の検査項目の検査結果同士の関係を反映した第1のマトリクスを生成する処理をコンピュータに実行させることを含んでもよい。また、当該方法は、第1の複雑系の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関関係を用いて、複数のセルに展開した第1のマトリクスを生成する処理をコンピュータに実行させることを含んでもよい。
【0020】
当該方法は、さらに、第1の時点から時間が経過した第1の複雑系の第2の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第2のマトリクスと、第1のマトリクスとの変位に基づき第1の複雑系の状態の推移を推定する第2の推定処理をコンピュータが実行することをさらに有してもよい。
【0021】
ストレージは、各段階のマトリクスの間の多数の相関情報が遷移する情報を含む移行マトリクスであって、多数の検査対象のシステムの経時的な状態の変化を反映した移行マトリクスを含んでもよい。第2の推定処理は、第1のマトリクスから第2のマトリクスへの変位と移行マトリクスとを比較して、第2のマトリクスに基づき推定された第1の複雑系の第2の状態を検証することを含んでもよい。また、第2の推定処理は、第1の複雑系の前記第2の時点以降の状態の推移を推定することを含んでもよい。
【0022】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の方法をコンピュータにより実行するためのプログラム(プログラム製品)である。プログラムは、適当な記録媒体に記録して提供してもよく、ネットワークを介して提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】複雑系の一例である患者の健康状態が経時的に変化する段階の一例を示す図。
【
図3】健康体、未病および疾病の患者の統計的なデータを模式的に示す図。
【
図4】各段階のマトリクス(静的マトリクス)の一例であり、超健康体の段階のマトリクスの一例を示す図。
【
図5】
図4に示すマトリクスの一部を拡大して示す図。
【
図6】各段階のマトリクスの一例であり、未病の段階のマトリクスの一例を示す図。
【
図7】各段階のマトリクスの一例であり、疾病の段階のマトリクスの一例を示す図。
【
図9】超健康体の段階のマトリクスにセルとして含まれる散布図の幾つかの例を示す図。
【
図10】未病の段階のマトリクスにセルとして含まれる散布図の幾つかの例を示す図。
【
図11】疾病の段階のマトリクスにセルとして含まれる散布図の幾つかの例を示す図。
【
図13】移行マトリクス(ベクトルマップ)の一例を示す図。
【
図14】各段階のマトリクスのセルに含まれる相関が段階により変化する様子を示す図であり、
図14(a)は超健康体の段階、
図14(b)は未病の段階、
図14(c)は疾病の段階の一例を示す図である。
【
図15】各段階で検査項目の検査結果の分布が各段階で変化する様子を示す図であり、
図15(a)は、LDLの検査結果の分布を示し、
図15(b)はTCの検査結果の分布を示す図。
【
図16】個別マトリクスに含まれるセルの一例を示す図。
【
図17】個別変位マトリクスに含まれるセルの一例であり、
図17(a)は静的マトリクスのセルに、患者の検査結果の変位を反映した例を示し、
図17(b)は相関情報により変位を表徴した例を示す図。
【
図18】マトリクスの自動生成の例を示す図である、
図18(a)は実サンプルによる相関情報の例を示し、
図18(b)はレプリカによる相関情報の例を示す図。
【
図19】個別マトリクスの他の例であるヒートマップの一例を示す図であり、
図19(a)は濃淡でヒートマップを示し、
図19(b)は
図19(c)に示す対応表にしたがって、濃淡を記号に置き換えた図。
【
図20】ヒートマップの生成方法を示す図であり、
図20(a)は対角線のセルの情報を展開する様子を示し、
図20(b)は対角線のセルの偏差値を
図20(c)に示す相関係数を用いてシフトする様子を示す図。
【
図21】
図19のヒートマップに対して時間が経過したヒートマップの一例であり、
図21(a)は濃淡でヒートマップを示し、
図21(b)は濃淡に対応する記号でヒートマップを示す図。
【
図22】
図19および
図21に示すヒートマップの差分を示すヒートマップの一例であり、
図22(a)は濃淡で差分ヒートマップを示し、
図22(b)は濃淡に対応する記号で差分ヒートマップを示す図。
【
図23】診察システムの処理の概要を示すフローチャート。
【
図24】ハイブリッドエンジンを搭載した診断エンジンの概要を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、人体(人間、人)を検査対象のシステムとする予備診察システムの概要を示している。この予備診察システム(診察システム、診断システム、診断装置、システム)10は、検査対象の複雑系である人(患者)の検査結果2に基づいて、診察結果(推定あるいは診断された患者の健康状態を含む)3を出力し、専門家である医師5のレビューを経て、患者にレポート6を提出する。診察システム10の一例は、診察システム用のプログラム(プログラム製品)を実行するコンピュータにより実現されるものである。同一の患者の過去および現在の検査結果2、プログラム51などを格納したライブラリー(ストレージ)11と、各段階のマトリクス(段階毎のマトリクス、段階単位のマトリクス)である静的マトリクス13、および段階間の移行を示すマトリクス(移行マトリクス、段階移行マトリクス、動的マトリクス)14を格納したライブラリー(第1のストレージ)12とを含む。
【0025】
複雑系が経時的変化により状態が、正常な状態から、非正常な状態へ、異常とまでは言えないが正常状態でもない、準正常な状態を経て遷移していくことが知られている。複雑系として人間を例にすると、超健康体(正常な状態)から病体・疾患(異常状態、非正常な状態)へ、未病(準正常な状態)と称される状態を経て変化する。
【0026】
図2に、超健康体と未病と疾病との関係を示している。ヘルスケアで言えば、血液検査や尿検査の測定データ(検査結果)が、正常値に入っている場合は、従来の診断基準からは正常で特に問題があるということにはならない。すなわち、各測定データが正常値に入っていれば、各測定データに関する疾病については、健康体であると判定され、測定対象となったすべての測定データが正常値の範囲内であれば、疾病に関する危険性はなく、超健康体と認識されている。
【0027】
しかしながら、特定疾患へと遷移する可能性を含む将来リスクを管理するという視点では、検査項目の検査結果の間の弱い相関を分析すること必要があることを本願の発明者は提案する。検査結果(入力データ)間の相関を確認することにより、例えば、人体内部の特定の臓器に関連する複数データの関連性が表れる可能性がある。それらの相関を、クラスタリングされた複数データのマトリクスとして表現することにより、超健康体からどの程度離れているのかを偏差値(標準偏差から)として解析できる可能性がある。年齢・身体条件・体内で想定される骨密度・筋肉量・脂肪・血管年齢・毛細血管の活性度・免疫活性・HLA・DNA・microRNA・エクソソームなどの様々な検査項目の検査結果の相関を、遷移する段階毎に、あるいはその他の条件とともに統計処理し、個人の検査結果と比較することにより、健康から未病を経て疾患へとシフトするノード(変化点/複数の疾患への分岐のポイント)を推定あるいは予測できる可能性がある。それに基づいて、各疾患へと到達するまでの疾患成長マップ(病木)を作成し、この移動をトレースすることで、将来に起こる疾患リスクの予測推定が可能となる。
【0028】
図2に示すように、人体(人)の経時的変化として、超健康体210から未病220を経て病体230まで段階的に状態を設定できる。さらに、未病220については、母集団201である人の健康状態の分布が正規分布であるとしたときに、以下のように「レベル1」(レベル0は超健康体210)から「レベル5」までを設定できる。
レベル0:超健康体
健康体の中で、現在知られている疾患リスクの兆候が全く無い人を指す。所謂、超健康体、スーパーノーマルと言われる人で、人間ドック受診者の数パーセントしかいないという統計がある。
レベル1:未病の始まり/健康体予備軍
超健康体と比較して、標準偏差値が45~50の範囲にあって、疾患を示すマーカー物質や入力値の組み合わせが1つ以上検出されている場合を示す。但し、レベル2には該当しない場合をレベル1とする。
レベル2:未病の進行開始/非健康状態
標準偏差値が40~50の範囲にあり、疾患を示すマーカー物質や入力値の組み合わせが、2つ以上検出されている場合。レベル1または3では無いもの。
レベル3:未病の代表的位置/疾患リスクの顕在化
標準偏差値が35~45の範囲にあり、疾患を示すマーカー物質や入力値の組み合わせが、3つ以上検出されている場合。レベル4では無いもの。
レベル4:未病の要注意状態/疾患リスク注意
標準偏差値が30~40の範囲にあり、疾患を示すマーカー物質や入力値の組み合わせが、4つ以上検出されている場合。可能であれば、一度、医療機関で精密検査を受けた方が良いかも知れません。レベル5では、無い。
レベル5:未病から疾患への明確な移行期/疾患リスク警告
標準偏差値20~35の範囲にあり、疾患を示すマーカー物質や入力値の組み合わせが、5つ以上検出されている場合。特定の疾患または合併症だと医療機関で指摘される危険領域に進んでいる可能性がある。急いで、精密検査を受けた方が良い領域に入っている。
【0029】
図3に、たとえば、免疫タイプ(HLA)や免疫活性度(免疫細胞の数と活動度)、その他の基礎的健康維持の為の各種のパラメータ等をベースにして母集団201の経時的変化を段階的に示している。右側から、段階的に超健康状態(超正常mOsn)210から健康体(mOcsn、未病レベル1)、未病A(略健康:mOnd、未病レベル2または3)、未病B(近病気:mOndx、未病レベル3または4)、発病初期(病気初期:mOcx、未病レベル5)、合併症(各種合併:mCx)、感染症(各種:mXinfx)、病体(疾患:mXooo)などの病体・疾病230へとシフトが起る。さらに、各段階に該当する人を抽出したときに、それぞれの段階において、抽出された人の母集団の状態(健康状態)は何等かの分布、例えば、正規分布を持っている。したがって、各段階の分布のどの位置に対象者の健康状態が該当するかにより、未病のレベル1-5の中で、安定しているのか、悪化する可能性があるのか、改善される方向にいるのか、などの判断が可能になる。
【0030】
例えば、現在の血液検査データは、人間ドックやその他医療機関の検査を通して統計的に健康体と思われる人々の基準値をベースにそれぞれの検査項目が単独でその範囲に入っていれば、正常/健康と判断されるのが一般的である。しかしながら、経験のある医者であれば、いくつかの項目が完全に基準値から外れていなくともその値の差分がより悪化している傾向を示すことに気付いた場合は、問題があると考える。この健康体から未病へとシフトするのかがどのタイミングで発生し、また、病体へとシフトして行くのかは、年齢や健康を担保する基礎パラメータと免疫活性により変化することが知られている。本願においては、通常の健康体と呼ばれる対象から各データの相関が殆ど無いことを確認した超健康体を積極的・意図的に実際の測定データから抽出して、これを超健康体の基準データとして、超健康状態210から未病段階220を経て様々な疾病段階230へとシフトすることを、多数の検査項目の検査結果、例えば、年齢、身体条件、体内で想定される骨密度、筋肉量、脂肪、血管年齢、毛細血管の活性度、免疫活性、HLA、DNA、micr
oRNA、エクソソームなどの検査結果あるいは解析結果の相関情報を参照することにより推定可能とする。また、健康から未病を経て疾患へとシフトするノード(変化点/複数の疾患への分岐のポイント)から、各疾患へと到達する迄の疾患成長マップ(病木)を作成し、この移動をトレースすることで、将来に起こる疾患リスクの予測推定を可能とする。
【0031】
図4に、各段階のマトリクスである静的マトリクス13の一例を示している。また、
図5に、静的マトリクス13の一部を拡大して示している。この静的マトリクス13は、正常状態(超健康体)の静的マトリクス131の一例である。静的マトリクス13は、検査対象の患者が含まれる人種毎、性別毎、特定の地域毎の人々、あるいは人類全体といった多数の人間(多数の検査対象のシステム)を母集団とする検査結果の統計データから作成される相関図の集合体である。1つ(1種類)の静的マトリクス13は、母集団に含まれる人間が経る可能性がある、いくつかの状況・状態の1つを代表し、複数の状態に対して、複数の静的マトリクス13がそれぞれライブラリー12に用意される。正常状態の静的マトリクス131は、患者が属する母集団の中で、健康診断などで正常と判断された患者の検査結果の統計データの相関を解析した結果の一例である。
【0032】
各段階のマトリクスである静的マトリクス13は、患者(対象者)が属する母集団を形成する多数の患者の多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む。具体的には、静的マトリクス13は、多数の検査項目の中の、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセル138を含む。各セル138は、多数の患者の各個人の各検査項目(各パラメータ)の検査結果(測定点)が統計的に処理された相関情報を含む。本例の静的マトリクス13は、各セル138が2次元で、多数の検査項目の中の2つの検査項目の検査結果の相関が散布
図139により示されている。すなわち、本例の静的マトリクス13は、多数の患者の各個人の各検査項目の検査結果が各検査項目間の相関を示すようにX軸とY軸とを座標としてプロットされた、各検査項目間の相関を示す多数の散布
図139の集合体(マトリクス)である。
【0033】
なお、セル138に含まれる相関情報は、多数の検査データのうち、異なる2つの検査項目の数値(検査結果)をX座標およびY座標とした点をプロットした2次元の散布
図139に限らず、3次元または多次元の相関であってもよく、散布図の代わりに、散布図により得られた、相関の有無、相関係数(正、負を含めた)などの情報を数値、色、模様、図形などにより示したものであってもよい。静的マトリクス13も、セル138を2次元に並べたものに限らず、3次元あるいはn次元に並べたものであってもよい。例えば、多数の検査項目の数値あるいは相関を含むセル138を、多数の検査項目のそれぞれを座標とする多次元の位置(関係)で示してもよい。セル138を2次元に並べた静的マトリクス13は、医師などの人間の専門家がレビューしやすい情報形態の1つである。本明細書において、マトリクスは、多数のセル(2次元または3次元以上の多次元の平面または空間であって1または複数の値の統計的な情報および/または相関情報を表現できる単位)が、2次元または3次元以上の多次元に配列された集合体(マップ、アレイ、行列)を示す。
【0034】
静的マトリクス13に含まれる多数の検査項目(検査内容)としては、血液検査、尿検査、呼気・皮膚ガス測定、体温・内臓脂肪・皮下脂肪・筋肉量・体脂肪率・推定骨量・血圧・血流・心拍数・自律神経興奮度等の測定値と、画像診断結果と、microRNA・ncRNA・DNA等とも共に問診票などが対象となり、これらの検査により得られる測定値(検査結果)が散布
図139の対象となる。例えば、血液検査の測定項目の一例としては、TG(中性脂肪)、HDL(HRLコレステロール)、LDL(LDLコレステロール)、FBS(グルコース(空腹時))、HbA1c(ヘモグロビンA1c)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、gGT(γ-グルタミールトランスファラーゼ)、ALP(アルカリホスファタ
ーゼ)、LD(乳酸脱水素酵素)、TP(総たんぱく)、TC(総コレステロール)、BUN(尿素窒素)、Cr(クレアチニン)、eGFR(推算糸球体濾過量)、UA(尿酸)、RBC(赤血球数)、Hb(ヘモグロビン)、Ht(ヘマトクリット)、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球色素量)、MCHC(平均赤血球色素濃度)が挙げられる。
【0035】
図4および
図5に示した静的マトリクス13には、超健康体と判断された患者についての、上記の検査項目と、他の項目、例えば、Weist(腹囲)、BMI、BP_H(最高血圧)、BP_L(最低血圧)などの身体あるいは心肺検査項目とを含む多数の検査項目間の散布
図139が、画像認識しやすいように2次元に配置されている。この静的マトリクス13においては、検査項目間の相関を示すように、全ての数値を点として並べたものが左下の三角形の範囲134aのセル138で、その相関を図式と数値で表現したものが右上の三角形の範囲134bのセル138となる。殆ど相関の見られないものは、小さな数値が示され、「+」の値は正の相関があることを示し、「-」の数値は負の相関があることを示している。検査項目同士によっては、大きな相関があることがわかる。また、この静的マトリクス13においては、各セル138の相関係数の正負および大小を右上の三角形の範囲134bのセル138に図形(傾きと楕円形状)および色の濃淡により示している。なお、三角形の範囲の境界となる対角線134c上に配置されたセル138は、各検査項目の検査結果の各段階における分布を示している。
【0036】
図6に、静的マトリクス13の異なる例を示している。相関情報を含む複数のセル138を含むマトリクス13は、対象者の母集団の条件を変えることによりいくつでも生成できる。ここでは、経時的変化の各段階、すなわち、超健康体、未病の各レベル、各疾患などに対して、それぞれの段階の対象者を母集団としたマトリクスを、静的な状態のマトリクス(静的マトリクス)13として生成する。
【0037】
図6に示す静的マトリクス13は、準正常状態(未病)の静的マトリクス132の一例であり、患者が属する母集団の中で、健康診断などで正常とも非正常とも判断されなかった多数の患者の検査結果の統計データの相関を解析した結果の一例である。未病とは、測定データ・入力データ群の中で、超健康体と病体を除いたものを指す。超健康体とは、臨床医や人間ドックで全ての項目(測定データ・入力データ・問診)で正常値を示している患者を示し、病体とは、医者から病気と判断された患者を示す。通常、もっとも多数の患者が属する可能性がある状態であり、未病は、健康体に近い状態から、病体に近い状態を複数の段階的な状態で定義し、それぞれについてヒート・マップを用意することも可能である。
【0038】
図7に、静的マトリクス13のさらに異なる例を示している。
図7に示す静的マトリクス13は、非正常状態(病体)の静的マトリクス133の一例であり、患者が属する母集団の中で、医師に特定の病気であると判断された多数の患者の検査結果の統計データの相関を解析した結果の一例である。病体の静的マトリクス133は、特定の疾病(疾患)について、その疾病の進行段階毎に、用意することができる。
【0039】
図8に、超健康体の静的マトリクス131、未病の静的マトリクス132および病体の静的マトリクス133の各段階のマトリクス13を並べて配置している。また、
図9に、超健康体の静的マトリクス131に含まれる代表的な相関
図139の幾つかの例を示し、
図10に、未病の静的マトリクス132に含まれる代表的な相関
図139の幾つかの例を示し、
図11に、病体の静的マトリクス133に含まれる代表的な相関
図139の幾つかの例を示している。
図9に含まれる超健康体の代表的な相関
図139にはほとんど相関が認められず、プロットは分散している。
図10に含まれる相関
図139には、超健康体に対し、明らかな相関が認められる検査項目があることが示されている。
図11に含まれる相関
図139には、未病と同程度あるいはさらに強い相関を示す検査項目があることが示されている。
【0040】
これらの図は一例であり、各段階に含まれる患者の数に差があるため、各マトリクス13に含まれる散布
図139の測定値の数にばらつきがある。各段階のマトリクス13は、母集団に含まれるサンプル数が増大することにより、いっそう各段階の特性が明らかになるはずである。これらのマトリクス13からわかるように、各段階(各状態)で、強い相関が認められる検査項目に増減があり、各段階で、多数の検査項目間の相関をまとめた静的マトリクス13が異なることがわかる。したがって、これらの静的マトリクス13と、各患者の検査データに含まれる多数の検査項目間の関係(第1の関係)とを比較することにより、各患者の検査時(第1の時点)における状態を推定することができる。あるいは、各患者の検査結果を、これらの静的マトリクス13をフィルターとして評価することが可能であり、各患者の状態を推定することができる。
【0041】
図12に、静的マトリクス13の他の例を示している。この静的マトリクス13のセル138は、散布
図139と、散布図の相関を示す確率分布137とを相関情報136として含む。各セル138は、各散布
図139と、統計的な確率(標準偏差)の異なる領域を示す等高線とを含む。本願の発明者により、散布
図139にまとめられた2つの検査項目の検査データの相関が1つの正規分布で表現できるケースと、複数の正規分布の混合として表現することが必要なケースとが見出されている。相関が複数の正規分布の混合として示される場合は、それらの正規分布が1対1で混合されていてもよく、異なる比で混合されていてもよい。検査項目間の相関を確率分布で表現することにより、後述するように、各患者の検査項目間の関係を画像化するフィルターとして静的マトリクス13を使用することができる。また、統計データの数が少ないときにレプリカから統計的に意味がある数のサンプルを仮想的に生成して、静的マトリクス13を生成したり、静的マトリクス13の散布
図139の一部あるいは全部を補充してもよい。
【0042】
図13に、各段階の相関を示す静的マトリクス13に対して、各段階の移行、すなわち、静的マトリクス13の間の相関情報の遷移(動的な情報)を含む移行マトリクス(動的マトリクス)14の一例を示している。
図13は、移行マトリクス(ベクトルマップ)14に含まれる複数のセル148の1例であり、病体(非正常)の移行マトリクス143に含まれる1つのベクトル付き散布
図149を示している。
図13に示した散布
図149は、検査項目のうちの、総コレステロール値(TC)と、低比重リボ蛋白質(ND LDL)との相関を示したものである。移行マトリクスの一例であるベクトルマップ14は、各段階の静的マトリクス13の間の多数の相関の変位を含み、患者が含まれる母集団の経時的な状態の変化を反映したものである。本例のベクトルマップ14は、相関情報の変位を示すセル148として、散布
図149に、経時変化の方向と量とを矢印(ベクトル)147で示している。
【0043】
図14に、各段階の静的マトリクス13に含まれるセル138の一例として、総コレステロール値(TC)と低比重リボ蛋白質(ND LDL)と相関情報136を含む散布
図139を示している。
図14(a)は超健康体の段階のマトリクス131に含まれる散布
図139、
図14(b)は未病の段階のマトリクス132に含まれる散布
図139、
図14(c)は病体の段階のマトリクス133に含まれる散布
図139を示す。
図15(a)に、低比重リボ蛋白質(ND LDL)の測定値の各段階における分布を示し、
図15(b)に、総コレステロール値(TC)の測定値(検査結果)の各段階における分布を示している。
【0044】
まず、
図15(a)および(b)に示すように、超健康体の分布135aは低いピークのカーブを示し、病体の分布135cは高いピークのカーブを示し、未病の分布135bはそれらの間になる。したがって、総コレステロール値(TC)と低比重リボ蛋白質(ND LDL)との相関は、段階によって変化(変位)し、
図14(a)~(c)に示すように、超健康体の段階の静的マトリクス131の散布
図139では相関がほとんど見られず、未病の段階の静的マトリクス132の散布
図139では、ある程度の相関が表れ、病体の段階の静的マトリクス133の散布
図139では高い相関がみられる。このように、段階により、マトリクス13のセル138の散布
図139の状態が変化し、プロットが移動することがわかる。
【0045】
このため、前回の検査結果2が得られた第1の時点から時間が経過した次回の検査結果の第2の時点における多数の検査項目間の第2の関係の、前回の検査結果2の検査項目間の第1の関係に対する変位と、各状態のベクトル付きの移行マトリクス14とを比較することにより、患者の状態の遷移を推定することができる。したがって、今回の第2の関係と静的マトリクス13とを比較することにより推定される状態(第2の静的な状態)を、移行マトリクス14から推定される状態と比較することにより、次回の検査結果から推定される状態を検証でき、より精度の高い確率で、次回の検査結果に対応する状態を推定できる。
【0046】
図1に戻って、診察システム10は、ライブラリー12の各段階の静的マトリクス13をフィルターとして、検査対象の複雑系(個別の複雑系、第1の複雑系)である患者の、それぞれの検査時の検査結果2を各段階の個別マトリクス(第1のマトリクス、第2のマトリクス)17として生成する第1のフィルタリングユニット(静的フィルタリングユニット、静的フィルタ)15と、段階の移行を示す移行マトリクス14をフィルターとして検査結果2の変位(遷移、差分)を個別変位マトリクス(変位、変位マトリクス)18として生成する第2のフィルタリングユニット(動的フィルタリングユニット、動的フィルタ)16とを含む。さらに、診察システム10は、各段階の個別マトリクス17に基づき、第1の複雑系である患者(対象者)の健康状態(第1の状態)を推定するように構成された第1の推定ユニット(第1の推定機能、推定手段)21を含む。
【0047】
この診察システム10は、多数の検査対象の複雑系である多数の患者(人間)の中の、個別の第1の複雑系である患者個人(対象者)の状態を推定するシステムである。上述したように、各段階のマトリクス(静的マトリクス)13は、多数の検査対象の患者の状態の経時的変化の中の、複数にグループ分けされた経時的な段階の各段階(超健康体、未病および疾患)に該当する多数の患者の状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む。さらに、静的マトリクス13は、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセル138を含む。第1のフィルタリングユニット15は、対象者(患者、第1の複雑系)の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクス13の少なくともいずれかのマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化し、個別マトリクス(第1のマトリクス)17を生成する。第1の推定ユニット21は、個別マトリクス17に基づき、患者のその時の状態(第1の状態)、例えば、超健康体、未病のレベルのいずれかであることを推定する。
【0048】
対象者の個別マトリクス17を生成する方法の1つは、各段階のマトリクス13に含まれる複数のセル138のそれぞれに、対象者の検査時点(第1の時点)における複数の検査項目の検査結果同士の関係を反映することである。第1のフィルタリングユニット15は、この方法で個別マトリクス17を生成するように構成された第1の生成ユニット(第1の生成機能、生成手段)15aを含む。
【0049】
個別マトリクス17を生成する他の方法の1つは、対象者の検査時点(第1の時点)における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクス13の多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報136を用いて、複数のセル138に展開することである。第1のフィルタリングユニット15は、この方法で個別マトリクス17を生成するように構成された第2の生成ユニット(第2の生成機能、生成手段)15bを含む。
【0050】
図16に、第1の生成ユニット15aにより生成された個別マトリクス17の一例を示している。この個別マトリクス17は、個別マトリクス17に含まれる検査項目間の関係(第1の関係)として、中性脂肪(TG)とHRLコレステロール(HDL)との関係を示している。例として、3人の患者(対象者)の関係をプロットしており、患者Aの測定値(関係)は相関が低い(確率が低い)位置であるので面積の小さなドット171で表示される。一方、患者Cの測定値は、相関の中心179に近い、相関が高い(確率が高い)位置であるので面積の大きなドット173で表示される。患者Bの測定値は、相関が中間(確率が中間)の位置であるので、面積が中間のドット172で表示される。したがって、例えば、患者Aの第1回目の検査結果は、各段階の静的マトリクス13をフィルターとして、位置が共通しても、各段階により面積が異なる多数のドットからなる画像を含む複数の個別マトリクス17に変換される。患者が異なる場合や、同一の患者でも検査結果が異なる場合でも、各段階の静的マトリクス13をフィルターとして表示することにより、多数のドットの中における位置が異なり、各ドットの面積も異なる。したがって、各患者の各検査で、各段階で異なる表示(出力、画像)を備えた個別マトリクス17が生成される。
【0051】
個別マトリクス(第1のマトリクス)17より患者(第1の複雑系)の健康状態(第1の状態)を推定するように構成された第1の推定ユニット21は、複数の個別マトリクス17と、それに対応する健康状態との対応関係を機械学習により学習した人工知能により第1の複雑系である患者の健康状態(第1の状態)を、その患者の個別マトリクス17より推定するように構成されたAIユニット(第1のAIユニット、状態推定AI)20を含む。AIユニット20は、人工知能を内在したシステム(装置)であってもよく、システム10の外部に用意された人工知能を利用して健康状態を推定するシステムであってもよい。典型的なAIユニット20は、複数のセル138を含む個別マトリクス17を画像認識して、患者の健康状態(第1の状態)との対応関係を機械学習した人工知能を含むものである。
【0052】
図16に示すように、各患者の検査結果は、静的マトリクス13の各セル138に示された相関情報、例えば等高線上137の、似た傾向を示す人達の位置からの距離で示される。したがって、ある段階、例えば未病レベル3の患者の最も多い中心(2軸の平均値:
標準偏差値 50:50)からのユークリッド距離に比例させて、個別の患者の検査結果を、個別マトリクス17において、ドットの大きさや色(輝度)でフィルタリングして表示することが可能である。例えば、AIユニット20に、個別マトリクス17のセル138に、個別の患者の情報を、の代表的な中心に近ければ、大きなサイズのドットとして認識させ、中心から離れていれば、小さなサイズのドットとして認識させることができる。
【0053】
図16においては、XY軸(2軸)ということで、それぞれ違った大きさの2つドットでの表現を、特徴を示すパターンとして最終的には認識されるようにしているが、ドットの表現は、上述したように、色や輝度であってもよい。他の表現としては、例えば、(sizeTG、sizeHDL)としてベクトル量として扱う等が考えられる。その場合でも、中心からのユークリッド距離に合わせて、ドットのサイズを変えることで、明確にその相関の中でのポジションを示し、強調処理を施して、AIユニット20が画像認識により、個別マトリクス17に示されている情報を把握し、機械学習の結果として、その個別マトリクス17に対応する健康状態を推定するように構成することが可能である。個別マトリクス17に患者の検査結果を反映する方法は、この方法には限定されず、他の例の1つについては、さらに後述する。
【0054】
診察システム10は、さらに、前の検査時点(第1の時点)から時間が経過した患者(第1の複雑系)の次の検査時点(第2の時点)における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクス13の少なくともいずれかのマトリクスの多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した個別マトリクス(第2のマトリクス)と、前の時点の個別マトリクス(第1のマトリクス)との変位に基づき患者(第1の複雑系)の状態の推移を推定するように構成された第2の推定ユニット22をさらに含む。
【0055】
第2のフィルタリングユニット16は、第1のフィルタリングユニット15において、各検査時点で生成される個別マトリクス17同士の差分を示す変位マトリクス18として生成するように構成された第2の個別変位マトリクス生成ユニット16bを含む。また、ストレージ12に予め格納された移行マトリクス14に、検査時点が異なる個別マトリクス17(第1のマトリクスおよび第2のマトリクス)の検査結果の変化(変位、推移)を含めた変位マトリクス18を生成するように構成された第1の個別変位マトリクス生成ユニット16aを含む。
【0056】
図17に、第1の個別変位マトリクス生成ユニット16aにより生成された個別変位マトリクス18の一例を示している。
図17(a)は、患者Aの検査結果の変位(推移、ベクトル)181と、患者Bの検査結果の変位(ベクトル)182とを、例として、病体の静的マトリクス133の総コレステロール値(TC)と低比重リボ蛋白質(LDL)の散布
図139に重ねて示している。
図17(b)は、
図13に示した移行マトリクス14のベクトル付きの散布図(ベクトルマップ)143をフィルターとして画像化された個別変位マトリクス18を、病体の静的マトリクス133の総コレステロール値(TC)と低比重リボ蛋白質(LDL)の散布
図139に重ねて示している。患者Aのベクトル181は、ベクトルマップ143の密度の低い個所(レアケース)に位置するので、ベクトル181は強調されないか、または、縮小される。一方、患者Bのベクトル182は、ベクトルマップ143の密度の高い個所に位置するので、ベクトル182は強調される。
【0057】
このように、患者Aの検査結果の変位は、各状態のベクトル付きの移行マトリクス14をフィルターとして、位置が共通し、ベクトルの大きさが異なる多数のベクトルからなる画像を含む複数の個別変位マトリクス18に変換される。変位がない場合は、ドットで表示されるか、または、表示されない。患者が異なり、同一の患者でも検査結果の変位が異なれば、多数のベクトルまたはドットの位置が異なり、各ベクトルの大きさも異なる。したがって、各患者の各検査結果の変位で、各状態で異なる画像を備えた個別変位マトリクス18が生成される。
【0058】
第2の推定ユニット22は、複数の第1のマトリクス17と複数の第2のマトリクス17との間の変位と、多数の検査対象の複雑系である患者の経時的な状態変化との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、患者の健康状態の推移を推定するように構成された第2のAIユニット20を含む。本例においては、上述したAIユニットと共通のユニットが採用されている。AIユニット20は、個別変位マトリクス18に含まれる画像を、過去の多数の患者の同様の画像と比較して、患者の検査結果の変位に対応する状態を推定し、第1の推定ユニット21により静的に推定された患者の最新の健康状態を検証することができる。AIユニット20は、患者の時間的に異なる検査結果2があり、各状態の個別変位マトリクス18が得られる場合は、個別変位マトリクス18を画像認識して、個別マトリクス17により推定された患者の状態を検証する機能を含む。
【0059】
上述したように、診察システム10は、検査対象の複雑系である人間(患者)の第1の時点(前回、今回、次回)における多数の検査項目間の第1の関係と、静的マトリクス13の多数の検査項目間の多数の相関とを比較して、患者の、そのときどきの健康状態(第1の静的な状態)を推定する静的判断ユニット(第1の推定ユニット)21を含む。また、診察システム10は、第1の時点から時間が経過した患者の第2の時点(今回、次回)における多数の検査項目間の第2の関係の第1の関係に対する変位と各段階からの移行マトリクス14、例えば、ベクトルマップとを比較して、第2の関係に基づき静的判断ユニット21により、その都度、推定される第2の静的な状態を検証する動的判断ユニット(第2の推定ユニット)22を含む。
【0060】
本例においては、これらのユニット21および22は、共通の人工知能ユニット(AIユニット)20を含み、AIユニット20は、第1の関係と各段階の静的マトリクス13との関係を画像認識して、そのときどきの第1の静的な状態を推定する機能23を含んでもよい。一例では、AIユニット20は、検査項目間の静的な関係である第1の関係を各段階の静的マトリクス13、等高線付きの静的マトリクス13をフィルターとして画像に変換した各状態の個別マトリクス17を画像認識して、そのときどきの第1の静的な状態を推定する機能を含んでもよい。
【0061】
AIユニット20は、さらに、検査結果間の変位と、各段階の移行マトリクス14との関係を画像認識して、時間経過後に検査したときの患者の第2の静的な状態を推定する機能24を含んでもよい。すなわち、この機能(ユニット)24は、検査時点の異なる個別マトリクス(第1のマトリクスおよび第2のマトリクス)17の変位と移行マトリクス14とを比較して、現時点の個別マトリクス(第2のマトリクス)17に基づき推定された患者の最新の健康状態を検証するように構成されている。一例では、上述したように、AIユニット20は、検査結果間の変位を各段階の移行マトリクス14をフィルターとして画像に変換した各状態の個別変位マトリクス18を画像認識して、静的に推定された時間経過後の患者の第2の健康状態を推定および確認する機能を含んでもよい。
【0062】
AIユニット20は、さらに、患者の今回または次回(第2の時点)以降の状態の推移を推定するように構成されたユニット25を含んでもよい。フィルタリングされた結果から現在の健康状態の位置(段階)と、その後の健康状態(症状)の遷移リスクを予測推定することができる。すなわち、フィルタリングされた個別変位マトリクス18には、患者の今までの状態の変位がベクトルで強調されており、多数の検査項目間の検査値から得られる多数のベクトルを含む画像から、AIユニット20は、過去の多数の患者の同様の画像と比較して、患者の今後の状態の推移を推定することができる。
【0063】
AIユニット20は、個別マトリクス17に含まれる画像を、画像認識処理することにより、患者の検査結果に対応する状態を推定することができる。すなわち、AIユニット20は、過去の多数の患者の同様の画像と比較して、患者の現在の状態を推定することができる。したがって、AIユニット20は、患者の現在状態をスタートとして次の移行先を推定することなどを可能とする。一方、患者の個別マトリクス17および/または個別変位マトリクス18が全く代表的な領域に入っていない場合、確率が低い場合は、例外として、他の段階の静的マトリクス13または移行マトリクス14とのマッチングをトライしたり、再判定したり、新たな分類、段階、移行経路を生成するなどの多種多様な処理を付加することができる。例外的な処理は、その後、新しいマトリクス、段階または経路として順次登録され、例外処理が新たな知識としてAIユニット20は、複雑なケースであっても、その後は、例外では無く、認識および推定される。
【0064】
診察システム10は、複数のセル138が、多数の検査項目をXおよびY軸とする2次元に配置された個別マトリクス(第1のマトリクス)17を出力するように構成された出力ユニット35をさらに有してもよい。上記の各図において、セル138および各マトリクスを2次元で示しているが、診察システム10およびAIユニット20において処理されるセルおよびマトリクスは2次元でなくてもよく、3次元または多次元であってもよい。一方、診察システム10およびAIユニット20の推定(診察結果、診断結果)をレビューする専門家、例えば、医師や技術者は、診察システム10およびAIユニット20がその結果に至った要因を理解する必要がある。このため、セルおよびマトリクスを人間が容易に把握できる状態で出力することは有用である。
【0065】
診察システム10は、さらに、統計データから自動で静的マトリクス13および移行マトリクス14を自動的に作成するユニット30を含んでもよい。自動作成ユニット30は、患者の検査結果2に対応して推定された健康状態(症状)が高い精度で判明し、専門家である医師の確認がされると、その段階の静的マトリクス13に、確認された検査結果2を追加する。それとともに、検査項目間の相関毎に、新たな傾向がみられるかを判断し、新たな傾向があると判断されると、実データにレプリカ(疑似データ/複製データ)を追加させて、静的マトリクス13および移行マトリクス14に含まれるサンプル数を大幅に増加させる。静的マトリクス13および移行マトリクス14のサンプル数が増加することにより、サンプル数に対応する個別マトリクス17および個別変位マトリクス18を自動生成することができ、それらによりAIユニット20の学習をさらに進めることができる。
【0066】
図18に、自動作成ユニット30がレプリカを用いて静的マトリクス13に含まれるサンプル数を増加させる様子を示している。未病の静的マトリクス132の中性脂肪(TG)とHRLコレステロール(HDL)との相関を示す散布
図139において、
図18(a)に対し新たな相関が見つかると、
図18(b)に示すように新たな相関を含むレプリカモデルを生成し、その相関に対応するサンプルを、正規分布をなすように生成する。複数の正規分布を含む場合は、50:50あるいは他の比率で混合することによりサンプル数を増加させることができ、例えば、この処理によりサンプル数を1桁あるいはそれ以上に増やすことができる。
【0067】
図19に個別マトリクス17の異なる例を示している。この個別マトリクス17は、第2の生成ユニット15bにより生成されるマトリクスの一例であり、患者の検査時点における多数の検査項目の検査結果を、患者が属する静的マトリクス13の相関情報136を用いて、所定のルールにしたがって複数のセル138に展開したものである。検査項目の一例は、BMI(ボディマス指数)、LF/HF(心拍変動、交感神経、副交感神経比)、BP/LおよびBP/H(血圧)、Heart R(心拍)、HbA1c(ヘモグロビンA1c)、TP(総たんぱく)、Alb(アルブミン)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、γ-GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)、BUN(尿素窒素)、eGFR(推算糸球体濾過量)、AMY(アミラーゼ)、UA(尿酸)、LDL(LDLコレステロール)であるが、これらに限定されない。
【0068】
図19に示す個別マトリクス17は、これらの検査項目をXおよびY軸に並べたヒートマップ175であり、対角線のセル138dに表示される、これらの検査項目の検査結果が平均値の場合は、該当するセル138を白色で示し、検査結果が平均値より低い(良好)な場合は偏差値に応じて青色の10段階の濃度で示し、検査結果が平均値より高い(不良)な場合は偏差値に応じて赤色の10段階の濃度で示している。さらに、各検査項目の検査結果を、所定のルールにしたがって、静的マトリクス13に含まれる検査項目間の検査結果の相関情報(相関係数)136が反映されるように、良好な方向または不良な方向にシフトさせて、色および濃淡を変えて表示し、患者の健康状態がヒートマップ上のパターンとして表れやすくしている。
図19(a)は、色と濃淡とを用いて表示されるヒートマップ175をグレースケールで示し、
図19(b)に、
図19(c)に示した各色の濃淡を図面上の記号に置き換えたヒートマップ175aを示している。以下においても同様である。
【0069】
このヒートマップ175は、2次元化された個別マトリクス17であって、画像解析の対象とする表現として好適なものの1つである。各検査項目の検査結果を、検査項目のみの検査結果としてだけではなく、その他の検査項目(各測定要素、問診などを含む)と相関係数を用いて関連付けて、患者の健康状態を評価することができる。さらに、超健康体、未病レベル、疾患などの各段階の静的マトリクス13に纏められた各段階の相関を考慮して、健康状態を評価できる。さらに、複数の検査項目間の相関(グループ相関)を考慮して健康状態を評価することも可能となる。例えば、グルコースやHbA1c、フラクトサミンは、膵臓疾患に対するグループ相関が知られている。静的マトリクス13では、それぞれ相関係数が高く表れるので、グループに属する1つ検査項目の検査結果が悪い値(偏差値)を示せば、グループに属する他の検査項目の検査結果も悪い値を示すことが多く、X軸およびY軸の検査項目がグループに属する検査項目の場合は、検査項目が交差するセルの値が不良の方向にシフトして表示される。したがって、グループに属するそれぞれの検査項目の検査結果が不良の(悪い)方向に強調して表示される。
【0070】
一方、グループに属する検査項目が良い場合は、相互に良くなる方向にシフトして表示され、相関が殆ど無い検査項目間について、検査結果がそのままの値で表示される。患者の検査時の状態によっては、相互に相関がある予定の検査項目の検査結果が相関を示さないケースもあり、また、検査項目によって逆の相関を示すケースもある。患者によって様々な状態が起こり得るが、多数の患者を、各段階に分けて統計処理した静的マトリクス13を用いることにより、その時々の患者の健康状態をより精度よく、人工知能の画像認識能力を利用して推定または判断することができる。
【0071】
図20を参照して、本例において採用されているヒートマップ175の生成方法(ルール、シフト方法)について説明する。ヒートマップ175の横軸(X軸)にある検査項目(入力項目)の偏差値Xjと、縦軸(Y軸)にある検査項目の偏差値Yjにより4つのケースにわけて、ルールが設定される。
【0072】
1)50<Xiかつ50<Yjの場合
この場合は、どちらの検査項目の検査結果も健康側にある(色は、白から青)ので、X軸およびY軸の検査項目のZスコアZSxiおよびZSyjを使って、X軸の検査項目の偏差値Xiが相対的に大きな場合に、比例してより大きなシフトΔsを発生させて、Y軸方向の検査項目と交差するセル138の表示を示す偏差値を生成するようにしている。さらに、以下の条件を含めるようにしている。
・偏差値Xiが50~60程度であれば、あまりシフトΔsが大きく発生しない。
・偏差値Xiが50の場合は、シフトはさせずにそのY軸の検査項目の偏差値Yjを維持する。
・静的マトリクス13の各セル138の相関情報136に含まれる相関係数CCijが0.2より大きい場合のその係数に合わせて、より健康傾向あるいは悪化傾向を強める。
・相関係数CCijが-0.2より小さい場合は、逆に、Y軸の検査項目の偏差値Yjを
弱める。
・相関係数CCijが上記以外(ゼロを含む)は、シフトはせずに同じ偏差値Yjを維持する。
【0073】
これらの条件を満足するように、セルCijの表示するための偏差値SCijを求めるための変換式の一例は以下の通りである。
CCijが正の場合(ただしCCij>0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj
Δs=k1×(√(|(ZSyj+1.0)×(ZSxi+1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
ただし、ZスコアZSは以下の式で示される。
ZS=(xi―μx)/σx
xiは標本値、μxは算術平均、σxは標準偏差である。
また、定数k1は比例定数であり、例えば、0.6である。定数k2はシフト比率、定数k3はウェイトファクターである。以下においても同様である。
【0074】
CCijが負の場合(ただしCCij<-0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj-50×Δs
Δs=k1×(√(|(ZSyj+1.0)/(ZSxi+1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
【0075】
2)Xi<50かつ50<Yjの場合
このケースは、X軸の検査項目の検査値の偏差値Xiが50未満であり、疾患傾向が疑われている場合となる。この場合のシフト量は、Y軸の検査項目の検査値の偏差値Yjが健康(白~青)を示しているので、相関係数CCijが正の場合は、実際の値よりも平均値(白)へとシフトさせる、つまり、本来の青色を薄い色へと変えるシフトする。相関係数CCijが負の場合は、逆方向にシフトする。この場合のセルCijの表示するための偏差値SCijを求めるための変換式の一例は以下の通りである。
CCijが正の場合(ただしCCij>0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj-50×Δs
Δs=k1×(√(|(ZSyj+1.0)/(ZSxi-1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
CCijが負の場合(ただしCCij<-0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj
Δs=k1×(√(|(ZSyj+1.0)×(ZSxi-1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
【0076】
3)Xi<50かつYj<50の場合
このケースは、X軸の検査項目の検査値の偏差値Xiが50未満であり、疾患傾向が疑われている場合である。さらに、比較すべき相手のY軸の検査項目の検査結果の偏差値Yj)も50未満であり、同様に疾患傾向にある。したがって、どちらも検査項目も疾患傾向であり、相関係数CCijが0.2より大きい場合のその係数に合わせて、より疾患を強
調する赤側へとシフトさせる。相関係数CCijが-0.2より小さい場合は、逆に、疾
患傾向の赤を弱める操作を行う。CCijがその間にある場合(ゼロを含む)は、シフトはせずに同じY軸の検査項目の検査結果の偏差値Yjを維持する。この場合のセルCijの表示するための偏差値SCijを求めるための変換式の一例は以下の通りである。
CCijが正の場合(ただしCCij>0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj-50×Δs
Δs=k1×(√(|(ZSyj-1.0)/(ZSxi-1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
CCijが負の場合(ただしCCij<-0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj
Δs=k1×(√(|(ZSyj-1.0)×(ZSxi-1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
【0077】
4)50<XiかつYj<50の場合
この場合は、X軸の検査項目の検査結果の偏差値Xiが健康側にある一方、Y軸の検査項目の検査結果の偏差値Yjに疾患傾向が疑われている。このため、相関係数CCijが0.2より大きい場合のその係数に合わせて、より疾患傾向を弱める処理を行い、相関係数
CCijが-0.2より小さい場合は、逆に、疾患傾向を強める処理を行う。この場合のセルCijの表示するための偏差値SCijを求めるための変換式の一例は以下の通りである。
CCijが正の場合(ただしCCij>0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj-50×Δs
Δs=k1×(√(|(ZSyj-1.0)/(ZSxi+1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
CCijが負の場合(ただしCCij<-0.2):
SCij=(Δs+1.0)×Yj
Δs=k1×(√(|(ZSyj-1.0)×(ZSxi+1.0)×CCij|)-1.0)×k2×k3
【0078】
例えば、
図20において、BMIの検査結果の偏差値は50以上の例えば60程度の良好な値であり、HbA1cの検査結果は偏差値が50以下、例えば40以下の値であり、eGFRの検査結果は50以下、例えば45以下の値であるとする。
図20(c)に示すように、BMIとeGFRとは弱い正の相関が認められ、BMIとHbA1cとは強い正の相関が認められているとする。この場合、
図20(b)に示すように、BMIの検査結果は、eGFRおよびHbA1cとの関係を示すセル138xおよび138yにおいては良好である青色の濃淡が弱く表示される。eGFRおよびHbA1cの検査結果は、BMIとの関係を示すセル138vおよび138uにおいて不良である赤色の濃淡が弱く表示される。
【0079】
シフト比率k2は、1であってもよく、グループ相関(疾患傾向や健康のトライアングル)が見えた段階で、シフト量に対して補正をしてもよい。疾患傾向の初期、免疫系が低下している場合、睡眠や食事、ストレスや体力の消耗等の患者の条件に応じて変化させてもよい。ウェイトファクターk3を、特定の疾患やある薬や生活環境の影響を考慮して変更することにより、特定の変化をよりフォーカスさせて表示するヒートマップ175を生成できる。AIユニット20により、そのような条件に焦点を当てて解析を進める場合に、調整用のパラメータとして機能させることができる。
【0080】
上記の処理方法は、シフト量Δsを偏差値の位置(意味)よってヒートマップ175の濃淡の差が大きく表示され、患者の状態が、より直に見えるようにする処理方法の一例であり、ヒートマップ175の生成方法はこれに限定されない。しかしながら、上記の処理方法は、簡単な乗算と除算をベースに、その偏差値の位置を示すZスコアを利用して、あまり複雑な処理をせずに、画像として認識されやすいパターンを形成するという点では、1つの好適な方法である。特に、検査結果の偏差値の意味が、平均の50で大きく変わっているという点を強調することができ、偏差値が大きくなれば、確率的にはあまり起こらないケースとして考える必要があり、これもパターンに反映させることができる。
【0081】
図21に、同一の患者の数か月後の時点(第2の時点)のヒートマップ(個別マトリクス)175の例を示している。
図19のヒートマップと比較することにより、数か月の間の患者の状態の変化を、パターンの相違として容易に把握することができる。したがって、AIユニット20は、ヒートマップ175のパターンを認識することにより、その時々の患者の状態を推定することができ、さらに、患者の健康状態の推移を推定することができる。
【0082】
図22に、第2の個別変位マトリクス生成ユニット16bが生成した、変位マトリクス18の一例を示している。
図22に示す変位マトリクス18は、
図19に示したヒートマップ175と、
図21に示したヒートマップ175の色(青および赤)の差と、濃淡の差とを抽出したヒートマップ(差分ヒートマップ)185である。AIユニット20は、差分ヒートマップ185に表れるパターンを画像認識し、機械学習した結果と照合することにより、患者の健康状態の推移をさらに明確に推定することが可能となる。
図22において、
図22(a)は差分ヒートマップ185を濃淡で示し、
図22(b)に各色の濃淡を図面上の記号に置き換えた差分ヒートマップ185aを示している。
【0083】
図23に、診察システム10における処理の概要を示している。この処理500は、コンピュータ50により、多数の検査対象の複雑系の個別の複雑系の状態を推定する方法である。ステップ510において、第1のフィルタリングユニット15は、フィルタリング用の静的マトリクス13を抽出するために、患者が属する段階(患者の健康状態が属する段階)を判断する。患者の健康状態が属する経時的に変化する段階は、例えば、多数の検査項目の全てまたは一部の検査結果の偏差値に基づき判断できる。各検査項目の検査結果は、
図19に示したヒートマップ175においては対角線に配置されたセル138dに表れる。したがって、対角線のセル138dの色と濃淡とのパターンにより、患者が属する(患者の健康段階を判断し、その段階の静的マトリクス13を選択することができる。選択される静的マトリクス13は1つに限定されず、患者の健康状態に該当する可能性がある複数の段階の静的マトリクス13を抽出してもよい。
【0084】
ステップ520において、第1のフィルタリングユニット15が患者個別のマトリクス17を生成する。ステップ520において、個別の複雑系である患者の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、静的マトリクス13の多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報316に基づきマトリクス化した個別マトリクス(第1のマトリクス)17を生成する。このステップにおいては、各段階のマトリクス13に含まれる複数のセル138のそれぞれに、第1の複雑系である患者の第1の時点における複数の検査項目の検査結果同士の関係を反映した個別マトリクス17を生成してもよい。また、患者の第1の時点における多数の検査項目の検査結果を、各段階のマトリクス13の多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報316を用いて、複数のセル138に展開し、ヒートマップ175を生成してもよい。
【0085】
ステップ530において、第1の推定ユニット21は、個別マトリクス17に基づいて患者のその時点における状態(健康状態)を推定する。このステップ530においては、複数の個別マトリクス17と複数の健康状態との対応関係を機械学習により学習した人工知能を含むAIユニット20により患者の健康状態を推定してもよい。
【0086】
ステップ540において、第2のフィルタリングユニット16が、第1の時点から時間が経過した第2の時点における患者の検査項目の検査結果を纏めた個別マトリクス17と、第1の時点の個別マトリクス17との変位情報を含む個別変位マトリクス18を生成する。このステップ540においては、移行マトリクス14に、患者の健康状態の変位を反映した個別変位マトリクス18を生成してもよく、差分ヒートマップ185を生成してもよい。
【0087】
ステップ550は、第2の推定ユニット22が、変位マトリクス18に基づき、患者の健康状態の推移を推定する。ステップ550においては、最新の個別マトリクス17に示される患者の状態が、過去の個別マトリクス17から推定される状態と合致しているのかを検証する処理を含んでいてもよい。また、ステップ550は、患者の今後の健康状態の推移を推定する処理を含んでいてもよい。ステップ560において、診察システム10は、推定された患者の健康状態を含む診断結果3と、その根拠となるヒートマップなどの情報を出力し、専門家である医師が推定された健康状態を確認する。医師は、推定された健康状態に基づき、必要であれば、さらに検査項目を追加したり、治療の方針を定めたりすることができる。
【0088】
コンピュータ50にこれらの処理を実行させるためのプログラム(プログラム製品、ソフトウェア)51は、適当な記録媒体に記録して提供することが可能であり、インターネットなどのコンピュータネットワークを介して提供することも可能である。
【0089】
上記に示した診察システム(診断システム)10は、ヘルスケアや病気に限らず、複雑で高度なシステムの状態を、定期的な、または連続的な観測データに基づき推定できる。このため、システム全体のアクティビティと個々のオペレーション状態の悪化や、構成部品の劣化・故障・異常(経時変化含む)による自動交換・修理・補修をする様なシステムにも適用可能である。このシステム10においては、人工知能(AI)を含むシステムが、高度システムの正常値と故障・異常リスクを、複数のパラメータの変動値の相関関係から予測推定することを可能とする。
【0090】
AIを含むシステムは、知識ベースの推論エンジン(検証エンジン、最適化エンジンを含む)および深層学習型のAIエンジンという2系統のエンジンを含むハイブリッドシステム(診断システム)において、健康度と疾患リスク(高度システムの正常値と故障・異常リスク)を予測推定することが可能である。
【0091】
図24に、他の診断システムの一例を示している。この診断システム300は、人(人体、人間)を診断の対象(対象物)としている。この診断システム(アクシオンシステム)300は、人工知能(AI)321と、対象物である人間の診察者(診断者)である医者のエキスパートシステムとしての機能を含む推論エンジン322と、入力データ311に対する人工知能321と推論エンジン322との診断結果に対して人工知能321を教育するための入力データのレプリカを含む入力レプリカ313を生成する教育システム330とを含むハイブリッドエンジン(診断エンジン、アクシオンエンジン、AXiRエンジン)320を含む。入力データ311は、入力処理モジュール325、プリ・プロセッシングモジュール326および相関処理モジュール327を経て、推論エンジン322およびAIエンジン321に提供される。
【0092】
診断エンジン320は、人工知能(AIエンジン)321と推論エンジン322との出力を検証する検証エンジン323と、検証エンジン323と検証結果により入力レプリカ313を最適化するための最適化エンジン323と、最適化エンジン323の最適化要件にしたがい入力レプリカ313を生成するレプリカ生成モジュール(レプリカジェネレータ)319とを含む。この例では、ハードウェア構成として、レプリカジェネレータ319が診断エンジン320とは別のハードウェアにおいて構成されているが、同一のハードウェアで構成されてもよい。
【0093】
このハイブリッド型の診断エンジン320においては、まず、AIエンジン321は、検証エンジン323と最適化エンジン324からのフィードバックを受けて生成される入力レプリカ313により教育され、診断精度の自動あるいは自律的な向上が実現される。次に、診断エンジン320は、推論エンジン322とAIエンジン321の2つをハイブリッド実装しているので、AIエンジン321が教育された後に、医療エキスパートシステムである推論エンジン322と、AIエンジン321との両方の視点から、非侵襲・侵襲の測定データを含む入力データ311から人体内部要素の活性状態(健康度・不健康度・未病)や機能不全・不具合(疾病度合い)、劣化・腫瘍・癌化に関する推測・推定を行いアドバイスや参考となる健康情報や見落としがちな視点(可能性・危険性)を提供することができる。
【0094】
すなわち、診断エンジン320は、予測・推論精度を向上させる目的で、AIエンジン321の自己学習機能と検証エンジン323と最適化エンジン324の2つが機能してこれを支援する点が特徴となっている。特に、推論エンジン322とAIエンジン321は、ハイブリッド型として機能するが、また、AIエンジン321が連続して予測・推論精度が推論エンジン322のそれを上回ると切り替わる点が特徴となっている。少ない入力データ量でも機能する様に、外部にレプリカ生成モジュール319が存在しており、最適化エンジン324の指示で、レプリカ生成のバリエーションが変化する構造となっている。
【0095】
実装されるAIエンジン321は、ディープラーニング(深層学習)350を基本とする。教育システム330は、AIエンジン321を、少ない入力データ311でも機能する様に(自律的に教育されるように)3つのエンジン、推論エンジン322、検証エンジン323、および最適化エンジン324を使用し、AIエンジン321のサポートと自己学習機能の一部役割を果たしてAIエンジン321の成長を支援する。また、教育システム330の3つのエンジン322~324は、診断システム300およびAIエンジン321の予測精度・推論精度を向上させる機能も担っている。すなわち、教育システム330は、一種の精度向上のためのフィードバック回路の様な機能を担う。
【0096】
教育システム330により、段階的にAIエンジン321は、推論エンジン322の予測精度を超えることになる。AIエンジン321と推論エンジン322との勝率は、検証エンジン323およびその下流で最終判定を行う最終判定・決定モジュール328が判断することなり、初期段階では、これらのエンジン323およびモジュール328は、推論エンジン322の診断結果(推論、予測)を優先する。その後、例えば、AIエンジン321が3カ月間平均で80%の勝率を超えたり、勝率90%を連続して超えた場合は、検証エンジン323および最終判定・決定モジュール328はAIエンジン321の診断結果を優先し、推論エンジン322はバックアップ側に回り、その推論や予測は当面利用されない。しかしながら、検証エンジン323および最適化エンジン324は、AIエンジン321がメイン動作している場合でも機能は継続して支援する。
【0097】
したがって、この診断エンジン320の機能、性質、能力などは、教育システム330に含まれる3つのエンジン、すなわち、推論エンジン322、検証エンジン323および最適化エンジン324により左右される。これらのエンジン322~324は、基本的にメタ・モデルという概念を基本とする。つまり、診断の対象物、例えば、人体の高精度の異常・故障の予測を必要とする複雑な系に対して、これを構成するシステム要素・構成部品が存在し、この要素・部品の機能がこれらの予測根拠となり、システムの入力と出力が定義可能であるようにする。診断の対象物の、好調・不調・障害・故障が、その程度は別として内部構成要素や部品の不具合から発生していると想定可能であり、その原因や問題点を測定データ・観測データから予測し、対応についてアドバイスを行い、必要とされる情報や期待される情報を提供するという事を想定して設計できる。
【0098】
これらのエンジン322、323および324の機能を記述するメタ・モデル記述ファイル314により、外部に可能な限り定義体や相関情報・入力情報・統計情報・評価情報をモデル記述しておいて、複数のシステムやアプリケーションに対して、この記述情報を変更する事で対応可能な構成としている。したがって、診断エンジン320は、入力データ311及びメタ・モデル記述ファイル314が変更されることで、その役割や守備範囲・対応が違ったものとなる。また、同一のアプリケーション対象分野であっても、特化した入力データ311とすることで、専門性・性格の異なる診断エンジン320を作成(教育)する事が可能となる。一例は、ヘルスケア分野での健康度測定、乳癌や膵臓癌、腎臓癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、大腸癌など違った分野の入力データ311を前提としたメタ・モデル記述ファイル314を前提としたシステムである。本診断エンジン320が適用できる分野はヘルスケアに限定されず、ガスタービンエンジン、ファクトリオートメーションなどの工業的分野、金融などの商業あるいはサービス分野、およびゲームなどの娯楽分野などであってもよいことは上述した通りである。
【0099】
推論エンジン322は、メタ・モデル記述ファイル314で定義され、複雑なシステムの良・不良・不調・故障・破損と因果関係にある、または、直接関係する内部パーツとそれらの関係性・活性度・リカバリー機能・免疫力・調整メカニズム・劣化要因の推定根拠となる入力データ311を利用して、これらの相関を示す。推定エンジン322は、入力データ311から、診断対象物の内部レプリカ313を推定し、1次予測とする。この1次予測が、ある範囲で信頼可能とすれば、2次予測として、入力データを再推定する。この2次予測から、その先に懸念されるシステムの良・不良・不調・故障・破損(限界)の時期と被害を3次予測として実行する。
【0100】
出力処理モジュール329を介して出力データ312を決定する場合、入力データ(測定データ及び問診表)311とこれから生成されるレプリカ313、すなわち、内部レプリカ、更に、その内部レプリカのバリエーションからの再度生成入力レプリカ、これと測定データとの差分値(分散値)の最小のものを有力な候補として上げる。この場合、入力データ311との相関性を記述したファイルから推定することになる。検証エンジン323がある事から、絞込みが難しい場合は、追試を行って新しい入力データ311および問診データを得ることで推定精度を向上してもよい。これは、最適化エンジン324にも利用され、予測・推定精度向上に貢献する。入出力相関テーブル/記述ファイル315は、この精度向上を確実にする意味でも、定期的に見直しをして更新する必要がある。相関テーブル情報は、入力データや問診情報と人体の内部パーツ(臓器・血管・骨・脊髄・その他)との関係性を示すものを含むようにする必要がある。出力データ312は、患者のソーシャルタイプ解析を行うPEエンジン318を介して出力されるようにしてもよい。
【0101】
入力レプリカ313は、統計データや実データを元に確率モデルから生成され、実際の測定データの代わりをするデータである。平均値と分散値から指定された確率モデルで、ヘルスケアにおける入力データ311は、血液検査、尿検査、呼気・皮膚ガス測定、体温・内臓脂肪・皮下脂肪・筋肉量・体脂肪率・推定骨量・血圧・血流・心拍数・自律神経興奮度等の測定値と画像診断結果、microRNA・ncRNA・DNA等とも共に問診票などもこのデータに含まれる。
【0102】
入力レプリカ生成モジュール319は、統計データ、及び実際のデータに基づき、実際の測定データの代わりをするデータ(入力レプリカ)313を生成するモジュールである。レプリカのモデルは、非相関モデル(単純モデルともいう、データ間に相関がないモデル)であってもよく、上述したように、超健康体、未病などの相関があるモデル(相関モデル、階層モデル)であってもよい。相関モデルは、入出力相関テーブル315を介して導入できる。相関テーブル315は、入力データ(検査データ)311と内部の状態指標(各パーツの活性率などで)との相関を定義したファイルである。したがって、相関処理モジュール327は、上述した静的マトリクス13および移行マトリクス14を含めた統計モデルとして、測定データについて正常な範囲と異常な範囲が統計的に分るものについて、それらが関連する内部の状態を指標として定義できる。AIエンジン321は、疾患リスクとして、疾患の相関(量)とパターンを複数個所学習しながら病木/疾患マップとして、このシフト経路を学習することができる。そして、他の健康を維持する標準変数を入れた形で、疾患シフトの経路を確定させることが可能となる。したがって、この診断エンジン320を含むシステム300に、上述した診察システム10としての機能を含めることが可能である。
【0103】
上記には、多数の検査対象のシステム(複雑系)の中の第1の検査対象のシステムの状態を推定するシステム10が開示されている。このシステム(診察システム、診断システム)は、経時的に変化する検査対象のシステムの複数の状態の中で特定された複数の静的な状態の各状態について、多数の検査対象のシステムの各状態における多数の検査項目間の多数の相関を、各状態の多数の相関のまとまりである各状態の静的マトリクス13として格納した第1のユニット11と、第1の検査対象のシステムの第1の時点における多数の検査項目間の第1の関係と、各状態の静的マトリクスの多数の検査項目間の多数の相関とを比較して第1の検査対象のシステムの第1の静的な状態を推定する静的判断ユニット21とを有する。
【0104】
静的判断ユニット21は、第1の関係と各状態の静的マトリクスとの関係を画像認識して第1の静的な状態を推定する第1のAIユニット(人工知能ユニット)20を含んでもよい。第1のAIユニット20は、第1の関係を各状態の静的マトリクス13をフィルターとして画像に変換した各状態の個別マトリクスを画像認識して第1の静的な状態を推定するユニットを含んでもよい。
【0105】
診察システム10は、さらに、各状態の静的マトリクス間の多数の相関の変位を含む各状態の動的マトリクス14であって、多数の検査対象のシステムの経時的な状態の変化を反映した動的マトリクスを格納した第2のユニット12と、第1の時点から時間が経過した第1の検査対象のシステムの第2の時点における多数の検査項目間の第2の関係の第1の関係に対する変位と各状態の動的マトリクスとを比較して、第2の関係に基づき静的判断ユニットにより推定される第2の静的な状態を検証する動的判断ユニット22とを有していてもよい。動的マトリクスは、多数の相関の他の状態からの変位を含んでいてもよく、多数の相関の他の状態への変位を含んでいてもよい。多数の検査項目の静的な相関に加えて、多数の検査項目の経時的な変化を、各状態の動的マトリクスと比較することが可能であり、症状の推定をより高い精度で提供できる。
【0106】
さらに、動的判断ユニット22は、第1の検査対象のシステムの第2の時点以降の状態の推移を推定する機能を含んでいてもよい。動的判断ユニットは、過去の経過により状態を推定するので、その延長で今後の経過を推定することができる。動的判断ユニット22は、変位と各状態の動的マトリクスとの関係を画像認識して第2の静的な状態を推定する第2のAIユニット(本例では共通したAIユニット)20を含んでもよい。第2のAIユニットは、第1のAIユニットと共通であっても、独立していてもよい。また、第2のAIユニットは、変位を各状態の動的マトリクスをフィルターとして画像に変換した各状態の個別変位マトリクスを画像認識して第2の静的な状態を推定するユニットを含んでもよい。このシステム10は、動的判断ユニットの検証結果に基づいて、第1の関係および第2の関係の少なくともいずれかを、各状態の静的マトリクスおよび各状態の動的マトリクスに加える自動生成ユニット30を有していてもよい。自動生成ユニットは、検査対象のシステムのレプリカを用いて各状態の多数の検査項目間の多数の相関を自動生成するユニットを含んでもよい。
【0107】
上記にて開示されている他の態様の1つは、AI(人工知能)により、多数の検査対象のシステムの中の第1の検査対象のシステムの状態を推定する方法である。AIは、経時的に変化する多数の検査対象のシステムの複数の状態の中で特定された複数の静的な状態の各状態について、多数の検査対象のシステムの各状態における多数の検査項目間の多数の相関を、各状態の前記多数の相関のまとまりである各状態の静的マトリクスとして格納した第1のユニットにアクセス可能であり、方法は、AIが、第1の検査対象のシステムの第1の時点における多数の検査項目間の第1の関係と、各状態の静的マトリクスの多数の検査項目間の多数の相関とを比較して第1の検査対象のシステムの第1の静的な状態を推定する第1のステップを含んでもよい。第1のステップは、第1の関係を各状態の静的マトリクスをフィルターとして画像に変換した各状態の個別マトリクスを画像認識して第1の静的な状態を推定することを含んでもよい。
【0108】
このAIは、各状態の動的マトリクスを格納した第2のユニットにアクセス可能であってもよく、方法は、さらに、第1の時点から時間が経過した第1の検査対象のシステムの第2の時点における多数の検査項目間の第2の関係の第1の関係に対する変位と各状態の動的マトリクスとを比較して、第2の関係に基づき静的判断ユニットにより推定される第2の静的な状態を検証する第2のステップを含んでもよい。第2のステップは、第2の関係の前記第1の関係に対する変位を各状態の動的マトリクスをフィルターとして画像に変換した各状態の個別変位マトリクスを画像認識して第2の静的な状態を推定することを含んでもよい。さらに、この方法は、第1の検査対象のシステムの第2の時点以降の状態の推移を推定する第3のステップを有していてもよい。
【0109】
上記には、さらに、多数の検査対象の複雑系の個別の複雑系の状態を推定するシステムが開示されている。このシステムは、前記多数の検査対象の複雑系の経時的変化の各段階に該当する前記多数の検査対象の複雑系の状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクスであって、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む各段階のマトリクスを格納した第1のストレージと、個別の複雑系である第1の複雑系の第1の時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第1のマトリクスに基づき前記第1の複雑系の第1の状態を推定するように構成された第1の推定ユニットとを有する。前記第1の推定ユニットは、複数の前記第1のマトリクスと複数の前記第1の状態との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、前記個別の複雑系の前記第1の状態を推定するように構成された第1のAIユニットを含んでもよい。前記第1のAIユニットは、前記複数のセルを含む前記第1のマトリクスを画像認識して前記第1の状態との対応関係を機械学習した人工知能を含んでもよい。システムは、前記各段階のマトリクスに含まれる前記複数のセルのそれぞれに、前記第1の複雑系の前記第1の時点における複数の検査項目の検査結果同士の関係を反映した前記第1のマトリクスを生成するように構成された第1の生成ユニットをさらに有してもよい。システムは、前記第1の複雑系の前記第1の時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を用いて、前記複数のセルに展開した前記第1のマトリクスを生成するように構成された第2の生成ユニットをさらに有してもよい。システムは、前記複数のセルが、前記多数の検査項目をXおよびY軸とする2次元に配置された前記第1のマトリクスを出力するように構成された出力ユニットをさらに有してもよい。
【0110】
このシステムは、第1の時点から時間が経過した前記第1の複雑系の第2の時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第2のマトリクスと、前記第1のマトリクスとの変位に基づき前記第1の複雑系の状態の推移を推定するように構成された第2の推定ユニットをさらに有してもよい。前記ストレージは、前記各段階のマトリクスの間の前記多数の相関情報が遷移する情報を含む移行マトリクスであって、前記多数の検査対象のシステムの経時的な状態の変化を反映した移行マトリクスを含み、前記第2の推定ユニットは、前記第1のマトリクスから前記第2のマトリクスへの変位と前記移行マトリクスとを比較して、前記第2のマトリクスに基づき推定された前記第1の複雑系の第2の状態を検証するように構成されたユニットを含んでもよい。前記第2の推定ユニットは、前記第1の複雑系の前記第2の時点以降の状態の推移を推定するように構成されたユニットを含んでもよい。前記第2の推定ユニットは、複数の前記第1のマトリクスと複数の前記第2のマトリクスとの間の変位と、前記多数の検査対象の複雑系の経時的な状態変化との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、前記第1の複雑系の前記状態の推移を推定するように構成された第2のAIユニットを含んでもよい。このシステムは、前記検査対象の複雑系のレプリカを用いて前記各段階の前記多数の検査項目間の多数の相関情報を自動生成するように構成されたユニットを含んでもよい。当該システムは典型的には予備診察システムであり、前記検査対象の複雑系は人体であってもよい。
【0111】
上記には、さらに、コンピュータにより、多数の検査対象の複雑系の個別の複雑系の状態を推定する方法が開示されている。前記コンピュータは、前記多数の検査対象の複雑系の状態の経時的変化の各段階に該当する前記多数の検査対象の複雑系の状態を示唆する多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を含む各段階のマトリクスであって、複数の検査項目の検査結果同士の相関情報を含む複数のセルを含む各段階のマトリクスを格納した第1のストレージを有し、当該方法は、個別の複雑系である第1の複雑系の第1の時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第1のマトリクスに基づき前記第1の複雑系の第1の状態を推定する第1の推定処理を、前記コンピュータに実行させることを含む。前記第1の推定処理は、複数の前記第1のマトリクスと複数の前記第1の状態との対応関係を機械学習により学習した人工知能により、前記第1の複雑系の前記第1の状態を推定することを含んでもよい。この方法は、前記各段階のマトリクスに含まれる前記複数のセルのそれぞれに、前記第1の複雑系の前記第1の時点における複数の検査項目の検査結果同士の関係を反映した前記第1のマトリクスを生成する処理を、前記コンピュータに実行させることを含んでもよい。この方法は、さらに、前記第1の複雑系の前記第1の時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報を用いて、前記複数のセルに展開した前記第1のマトリクスを生成する処理を、前記コンピュータに実行させることを含んでもよい。
【0112】
この方法は、前記第1の時点から時間が経過した前記第1の複雑系の第2の時点における前記多数の検査項目の検査結果を、前記各段階のマトリクスの少なくともいずれかのマトリクスの前記多数の検査項目の検査結果間の多数の相関情報に基づきマトリクス化した第2のマトリクスと、第1のマトリクスとの変位に基づき第1の複雑系の状態の推移を推定する第2の推定処理を前記コンピュータが実行することをさらに有してもよい。前記ストレージは、前記各段階のマトリクスの間の前記多数の相関情報が遷移する情報を含む移行マトリクスであって、前記多数の検査対象のシステムの経時的な状態の変化を反映した移行マトリクスを含み、前記第2の推定処理は、前記第1のマトリクスから前記第2のマトリクスへの変位と前記移行マトリクスとを比較して、前記第2のマトリクスに基づき推定された前記第1の複雑系の第2の状態を検証することを含んでもよい。前記第2の推定処理は、前記第1の複雑系の前記第2の時点以降の状態の推移を推定することを含んでもよい。また、これらに記載の方法をコンピュータにより実行するためのプログラムも開示されている。
【0113】
なお、以上においては、人体(人間)を検査対象の複雑系とする診察システムを説明したが、検査対象の複雑系は、家畜、ペットを含む他の動植物であってもよく、プラント、船舶、車両、エンジンなどのハードウェア(メカトロニクス)であってもよく、アプリケーション、AIなどのソフトウェアであってもよい。
【符号の説明】
【0114】
10 システム、 12 ストレージ
21 第1の推定ユニット