(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150640
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20241016BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20241016BHJP
H01L 23/48 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L25/04 C
H01L23/48 P
H01L23/48 G
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024117527
(22)【出願日】2024-07-23
(62)【分割の表示】P 2021093612の分割
【原出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 洋明
(72)【発明者】
【氏名】大島 正範
(72)【発明者】
【氏名】平野 敬洋
(57)【要約】 (修正有)
【課題】粗化領域に起因する問題を解決又は抑制する半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体装置は、第1電極を有する半導体素子12、22と、半導体素子を封止する封止体50と、封止体の内部で第1電極に対向する第1面を有する第1導体板と、を備える。第1導体板の第1面14a、24aは、第1電極が接合された実装領域R1と、実装領域の周囲に位置する粗化領域R2と、粗化領域と第1面の外周縁との間に位置する非粗化領域R3と、を有する。粗化領域における表面粗さは、非粗化領域における表面粗さよりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極(12b、22b)を有する半導体素子(12、22)と、
前記半導体素子を封止する封止体50と、
前記封止体の内部で前記第1電極に対向する第1面(14a、24a)を有する第1導体板(14、24)と、
を備え、
前記第1導体板の前記第1面は、
前記第1電極が接合された実装領域(R1)と、前記実装領域の周囲に位置する粗化領域(R2)と、前記粗化領域と前記第1面の外周縁との間に位置する非粗化領域(R3)とを有し、
前記粗化領域における表面粗さは、前記非粗化領域における表面粗さよりも大きい、
半導体装置。
【請求項2】
前記粗化領域は、前記実装領域の外周縁に沿って、連続的又は断続的に延びている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記粗化領域は、前記実装領域の外縁に沿って連続的に延びており、前記実装領域を取り囲んでいる、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1導体板の第1面は、金属の被膜(52)で覆われているとともに、前記粗化領域では、前記金属の酸化膜(54)でさらに覆われている、請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1導体板は、前記第1面の反対側に位置するとともに前記封止体の第1面(50b)に露出する第2面(14b、24b)をさらに有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体素子は、前記第1電極の反対側に位置する第2電極(12a、22a)をさらに有し、
前記半導体装置は、前記半導体素子を挟んで前記第1導体板に対向する第2導体板(16、26)をさらに備え、
前記第2導体板は、前記封止体の内部で前記第2電極に接合された第3面(16b、26b)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第2導体板の前記第3面は、導体スペーサ(18、28)を介して、前記半導体素子の前記第2電極に接合されている、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第2導体板は、前記第3面の反対側に位置するとともに前記封止体の第2面(50a)に露出する第4面(16a、26a)をさらに有する、請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
半導体装置の製造方法であって、
第1導体板の第1面の一部を粗化して、前記第1面の一部に粗化領域を形成する工程と、
前記第1導体板の前記第1面の前記粗化領域とは異なる実装領域に、半導体素子を含む少なくとも一つの部材を接合する工程と、
前記第1導体板に接合された前記半導体素子を封止体によって封止する工程と、
を備え、
前記粗化領域は、前記実装領域の周囲に位置するとともに、前記第1面の外周縁から離れて位置しており、
前記接合する工程では、前記第1導体板の前記第1面のうち、前記粗化領域と前記外周縁との間に位置する非粗化領域が、治具(100)によって支持される、
製造方法。
【請求項10】
前記粗化領域を形成する工程では、前記第1導体板の前記第1面にレーザ(L)を照射することによって、前記粗化領域を形成する、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、半導体装置が開示されている。この半導体装置は、半導体素子と、半導体素子を封止する封止体と、封止体の内部で半導体素子に対向する表面を有する導体板とを備える。導体板の表面は、半導体素子の電極が接合された実装領域と、実装領域の周囲に位置する粗化領域とを有する。粗化領域では、封止体との密着性を向上するために、例えばレーザ照射といった粗化処理によって、表面粗さが高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置の製造工程では、例えば半導体素子と導体板とを接合する際に、治具を用いて導体板を位置決めすることがある。このとき、導体板の表面に粗化領域が設けられていると、粗化領域の凹凸によって治具の摩耗が徐々に進行していくことで、治具の位置決め精度が低下するおそれがある。そこで、導体板の表面の一部に非粗化領域を設け、その非粗化領域を治具によって支持することが考えられる。しかしながら、非粗化領域を単に設けるだけでは、粗化領域の面積が減少することによって、第1導体板と封止体との間の剥離という新たな問題を招くおそれがある。本明細書は、このような粗化領域に起因するトレードオフの問題を、解決又は抑制し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、半導体装置(10)に具現化される。この半導体装置は、第1電極(12b、22b)を有する半導体素子(12、22)と、前記半導体素子を封止する封止体(50)と、前記封止体の内部で前記第1電極に対向する第1面(14a、24a)を有する第1導体板(14、24)とを備える。前記第1導体板の前記第1面は、前記第1電極が接合された実装領域(R1)と、前記実装領域の周囲に位置する粗化領域(R2)と、前記粗化領域と前記第1面の外周縁(14e、24e)との間に位置する非粗化領域(R3)とを有する。前記粗化領域における表面粗さは、前記非粗化領域における表面粗さよりも大きい。ここで、前記半導体素子の前記第1電極は、実装領域へ直接的に接合されていてもよいし、導体スペーサといった他の部材を介して、実装領域へ間接的に接合されていてもよい。
【0006】
上記した構成では、第1導体板の第1面に、実装領域及び粗化領域に加えて、非粗化領域が設けられている。非粗化領域の表面粗さは、粗化領域の表面粗さよりも小さい。従って、第1導体板を治具で位置決めする際は、非粗化領域を治具によって支持することで、治具の摩耗を抑制することができる。但し、前述したとおり、非粗化領域を単に設けるだけでは、第1導体板と封止体との間の剥離を招くおそれがある。この点に関して、発熱源である半導体素子の近辺では、封止体との密着性に優れた粗化領域が配置されており、封止体との密着性に劣る非粗化領域については、粗化領域の外側に配置されている。このような構成によると、非粗化領域が存在する場合でも、第1導体板と封止体との間の剥離が効果的に抑制される。
【0007】
本明細書が開示する技術は、半導体装置の製造方法にも具現化される。この製造方法は、第1導体板の第1面の一部を粗化して、前記第1面の一部に粗化領域を形成する工程と、前記第1導体板の前記第1面の前記粗化領域とは異なる実装領域に、半導体素子を含む少なくとも一つの部材を接合する工程と、前記第1導体板に接合された前記半導体素子を封止体によって封止する工程とを備える。前記粗化領域は、前記実装領域の周囲に位置するとともに、前記第1面の外周縁から離れて位置している。そして、前記接合する工程では、前記第1導体板の前記第1面のうち、前記粗化領域と前記外周縁との間に位置する非粗化領域が、治具によって支持される。この製造方法によると、粗化領域に起因する治具の摩耗を抑制して、半導体装置の製造品質を高めることができる。
【0008】
特に限定されないが、上記した粗化領域を形成する工程では、前記第1導体板の前記第1面にレーザを照射することによって、前記粗化領域を形成してもよい。このような構成によると、レーザを照射する強度や時間を調整することによって、粗化領域の表面粗さを自由に変更することができる。また、レーザを照射する範囲を調整することによって、様々な形状を有する粗化領域を自由に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例の半導体装置10の外観を示す平面図。
【
図2】
図1中のII-II線における断面図であって、半導体装置10の内部構造を示す。
【
図3】
図1の平面図から第1上側導体板16、第2上側導体板26及び封止体50の図示を省略した平面図であって、半導体装置10の内部構造を示す。
【
図4】半導体装置10の電気的な構成を示す回路図。
【
図5】第1下側導体板14及び第2下側導体板24の各上面14a、24aに設けられた実装領域R1、粗化領域R2及び非粗化領域R3を示す平面図。
【
図6】
図2中のVI-VI部の拡大図であって、第1下側導体板14の上面14aにおける断面構造を示す。
【
図7】半導体装置10を製造するときに、治具100を用いて第1下側導体板14を支持する様子を示す。
【
図8】粗化領域R2の幅Wと、第1下側導体板14と封止体50との間に生じるせん断応力と、第1上側導体板16と封止体50との間に生じるせん断応力との関係を示すデータの一例である。
【
図9】
図9(A)-
図9(D)は、実装領域R1の周辺に設けられた粗化領域R2のいくつかの変形例を示す。
【
図10】
図10(A)-
図10(D)は、実装領域R1の周辺に設けられた粗化領域R2のいくつかの変形例を示す。
【
図11】
図11は、実装領域R1の周辺に設けられた粗化領域R2の一変形例であって、実装領域R1に対して多重に設けられた環状の粗化領域R2を示す。
【
図12】半導体装置10の製造方法の一工程を示す図であって、特に、下側導体板14、24の各上面14a、24aにレーザLを照射することによって、粗化領域R2を形成する様子を示す。
【
図13】半導体装置10の製造方法の一工程を示す図であって、下側導体板14、24の各上面14a、24aの実装領域R1に、半導体素子12、22及び導体スペーサ18、28が接合された様子を示す。
【
図14】半導体装置10の製造方法の一工程を示す図であって、導体スペーサ18、28に上側導体板16、26が接合された様子を示す。
【
図15】半導体装置10の製造方法の一工程を示す図であって、半導体素子12、22を封止する封止体50が成形された様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本技術の一実施形態において、前記粗化領域(R2)は、前記実装領域(R1)の外周縁に沿って、連続的又は断続的に延びていてもよい。このような構成によると、発熱源である半導体素子の近辺では、第1導体板と封止体との間の密着性が十分に高められることで、第1導体板と封止体との間の剥離が効果的に抑制される。
【0011】
上記の実施形態において、前記粗化領域は、前記実装領域の外縁に沿って連続的に延びており、前記実装領域を取り囲んでいてもよい。このような構成によると、発熱源である半導体素子の位置する実装領域と、封止体との密着性に劣る非粗化領域との間が、封止体との密着性に優れる粗化領域によって完全に隔離される。これにより、第1導体板と封止体との間の剥離がより効果的に抑制される。
【0012】
本技術の一実施形態において、前記第1導体板(14、24)の第1面(14a、24a)は、金属の被膜(52)で覆われているとともに、前記粗化領域は、前記金属の酸化膜(54)でさらに覆われていてもよい。このような構造によると、第1導体板の第1面に設けられた金属の被膜を、例えばレーザ照射によって酸化させることにより、微細な凹凸を有する粗化領域を形成することができる。
【0013】
本技術の一実施形態において、前記第1導体板は、前記第1面の反対側に位置するとともに前記封止体(50)の表面に露出する第2面(14b、24b)をさらに有してもよい。このような構成によると、第1導体板が、半導体素子の熱を封止体の外部へ放熱する放熱板として機能することができる。
【0014】
本技術の一実施形態において、前記半導体素子(12、22)は、いわゆる縦型の半導体素子であって、前記第1電極(12b、22b)の反対側に位置する第2電極(12a、22a)をさらに有してもよい。この場合、前記半導体装置は、前記半導体素子を挟んで前記第1導体板に対向する第2導体板(16、26)をさらに備えてもよい。そして、前記第2導体板は、前記封止体の内部で前記第2電極に接合された第3面(16b、26b)を有してもよい。但し、他の実施形態として、本明細書が開示する技術は、縦型の半導体素子を採用する半導体装置にも、同様に適用することができる。
【0015】
本技術の一実施形態において、前記第2導体板の前記第3面は、導体スペーサ(18、28)を介して、前記半導体素子の前記第2電極に接合されていてもよい。但し、他の実施形態として、第2導体板の前記第3面は、導体スペーサといった他の部材が介在することなく、半導体素子の第2電極へ直接的に接合されてもよい。
【0016】
前記第2導体板は、前記第3面の反対側に位置するとともに前記封止体の表面(50a)に露出する第4面(16a、26a)をさらに有してもよい。このような構成によると、第2導体板が、半導体素子の熱を封止体の外部へ放熱する放熱板として機能することができる。
【実施例0017】
(実施例1) 図面を参照して、実施例の半導体装置10について説明する。本実施例の半導体装置10は、パワー半導体装置であって、例えば電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車といった電動自動車において、コンバータやインバータといった電力変換回路に用いることができる。但し、半導体装置10の用途は特に限定されない。半導体装置10は、様々な装置や回路に広く採用することができる。
【0018】
図1-
図4に示すように、半導体装置10は、第1半導体素子12と、第2半導体素子22と、これらの半導体素子12、22を封止する封止体50とを備える。封止体50は、絶縁性材料で構成されている。特に限定されないが、本実施例における封止体50は、封止用材料(例えばエポキシ樹脂)を用いたインサート成形によって成形されている。
【0019】
第1半導体素子12と第2半導体素子22(以下、半導体素子12、22と略すことがある)は、それぞれパワー半導体素子であって、互いに同一の構成を有している。第1半導体素子12は、上面電極12a、下面電極12b、及び複数の信号パッド12cを有する。上面電極12a及び複数の信号パッド12cは、第1半導体素子12の上面に位置しており、下面電極12bは、第1半導体素子12の下面に位置している。同様に、第2半導体素子22は、上面電極22a、下面電極22b及び複数の信号パッド22cを有する。
【0020】
一例ではあるが、半導体素子12、22は、それぞれRC(Reverse Conducting)-IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であって、単一の半導体基板にIGBTとダイオードとが一体に形成されている。IGBTのコレクタ及びダイオードのカソードは、下面電極12b、22bに接続されており、IGBTのエミッタ及びダイオードのアノードは、上面電極12a、22aに接続されている。なお、半導体素子12、22は、RC-IGBTに限定されず、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)といった、他の種類のパワー半導体素子であってもよい。また、半導体基板の材料についても特に限定されず、例えば、シリコン(Si)、炭化シリコン(SiC)又は窒化物半導体であってもよい。
【0021】
半導体装置10は、第1下側導体板14と、第1上側導体板16と、第2下側導体板24と、第2上側導体板26とをさらに備える。これらの導体板14、16、24、26は、銅又はその他の金属といった導体で構成されている。なお、これらの導体板14、16、24、26の一部又は全部が、絶縁体の基板上に導体層が形成された積層基板(絶縁基板とも称される)であってもよい。第1下側導体板14の上面14aと、第1上側導体板16の下面16bとは、封止体50の内部で互いに対向しており、それらの二つの面14a、16bの間に第1半導体素子12が配置されている。
【0022】
第1半導体素子12の下面電極12bは、第1下側導体板14の上面14aに接合されている。第1半導体素子12の上面電極12aは、導体スペーサ18を介して第1上側導体板16の下面16bに接合されている。特に限定されないが、第1半導体素子12の下面電極12bは、第1下側導体板14の上面14aに、はんだ層13を介して接合されている。第1半導体素子12の上面電極12aは、第1導体スペーサ18の下面に、はんだ層15を介して接合されている。そして、第1導体スペーサ18の上面は、第1上側導体板16の下面16bに、はんだ層17を介して接合されている。これにより、第1下側導体板14と第1上側導体板16との間は、第1半導体素子12を介して電気的に接続されている。
【0023】
同様に、第2下側導体板24の上面24aと、第2上側導体板26の下面26bとは、封止体50の内部で互いに対向しており、それらの二つの面24a、26bの間に第2半導体素子22が配置されている。第2半導体素子22の下面電極22bは、第2下側導体板24の上面24aに、はんだ層23を介して接合されている。第2半導体素子22の上面電極22aは、導体スペーサ28を介して第1上側導体板16の下面16bに接合されている。詳しくは、第2半導体素子22の上面電極22aが、第2導体スペーサ28の下面にはんだ層25を介して接合されており、第2導体スペーサ28の上面が、第2上側導体板26の下面26bに、はんだ層27を介して接合されている。これにより、第2下側導体板24と第2上側導体板26との間は、第2半導体素子22を介して電気的に接続されている。
【0024】
第2下側導体板24は、封止体50の内部に位置する継手部30において、第1上側導体板16と電気的に接続されている。これにより、第1半導体素子12と第2半導体素子22は、電気的に直列に接続されている。一例ではあるが、継手部30の一部は、第2下側導体板24と一体に形成され、継手部30の他の一部は、第1上側導体板16と一体に形成されており、それらがはんだ層31を介して互いに接合されている。但し、他の実施形態として、継手部30の少なくとも一部が、第1上側導体板16及び第2下側導体板24とは独立した部材で構成されてもよい。
【0025】
第1下側導体板14の下面14bと、第2下側導体板24の下面24bとは、封止体50の下面50bにおいて外部に露出している。これにより、第1下側導体板14と第2下側導体板24とは、半導体装置10において導電経路の一部を構成するだけでなく、半導体素子12、22の熱を外部へ放出する放熱板としても機能する。同様に、第1上側導体板16の上面16aと、第2上側導体板26の上面26aとは、封止体50の上面50aにおいて外部に露出している。これにより、第1上側導体板16と第2上側導体板26についても、半導体装置10において導電経路の一部を構成するだけでなく、半導体素子12、22の熱を外部へ放出する放熱板としても機能する。
【0026】
半導体装置10は、第1電力端子40(P端子)、第2電力端子42(N端子)及び第3電力端子44(O端子)をさらに備える。これら三つの電力端子40、42、44は、封止体50の内外に亘って延びている。一例ではあるが、三つの電力端子40、42、44は、互いに平行であって、封止体50から第1方向(
図1における上下方向)に沿って突出している。第1電力端子40は、封止体50の内部において、第1下側導体板14と電気的に接続されている。第2電力端子42は、封止体50の内部において、第2上側導体板26と電気的に接続されている。そして、第3電力端子44は、封止体50の内部において、第2下側導体板24と電気的に接続されている。特に限定されないが、本実施例における半導体装置10では、第1電力端子40が、第1下側導体板14と一体に形成されており、第3電力端子44が、第2下側導体板24と一体に形成されている。
【0027】
半導体装置10はさらに、複数の第1信号端子46と、複数の第2信号端子48とを備える。複数の第1信号端子46及び複数の第2信号端子48は、封止体50を挟んで、三つの電力端子40、42、44とは反対側に位置している。複数の第1信号端子46は、互いに平行であって、封止体50から第1方向(
図1、
図2における上下方向)に沿って突出している。複数の第1信号端子46は、封止体50の内部において、第1半導体素子12の複数の信号パッド12cにそれぞれ接続されている。複数の第1信号端子46には、例えば、第1半導体素子12にゲート信号を入力するためのゲート信号端子が含まれる(
図4参照)。複数の第1信号端子46と複数の信号パッド12cとの間は、ボンディングワイヤ36を介してそれぞれ接続されている。但し、他の実施形態として、複数の第1信号端子46と複数の信号パッド12cとの間が、例えばはんだ付けやろう付け等によって、直接的に接続されてもよい。
【0028】
同様に、複数の第2信号端子48は、互いに平行であって、封止体50から第1方向に沿って突出している。複数の第2信号端子48は、封止体50の内部において、第2半導体素子22の複数の信号パッド22cにそれぞれ接続されている。複数の第2信号端子48には、例えば、第2半導体素子22にゲート信号を入力するためのゲート信号端子が含まれる。複数の第2信号端子48と複数の信号パッド22cとの間は、ボンディングワイヤ38を介して接続されている。但し、他の実施形態として、複数の第2信号端子48と複数の信号パッド24cとの間が、例えばはんだ付けやろう付け等によって、直接的に接続されてもよい。
【0029】
以上の構成により、本実施例の半導体装置10では、第1電力端子40と第3電力端子44との間が、第1半導体素子12を介して接続されており、第2電力端子42と第3電力端子44との間が、第2半導体素子22を介して接続されている。前述したように、第1半導体素子12及び第2半導体素子22は、スイッチング素子であるIGBTを内蔵しており、第1信号端子46又は第2信号端子48からゲート信号が入力されることで、それぞれ独立してターンオン及びターンオフされる。このような構成を有することで、本実施例の半導体装置10は、コンバータやインバータといった電力変換回路において、上下一対のアームを構成することができる。
【0030】
図3、
図5に示すように、第1下側導体板14の上面14aは、実装領域R1と粗化領域R2と非粗化領域R3とを有する。実装領域R1は、第1半導体素子12が実装された領域であって、第1半導体素子12の下面電極12bが接合されている。粗化領域R2は、粗化処理された領域であって、実装領域R1及び非粗化領域R3よりも大きな表面粗さを有する。粗化領域R2は、実装領域R1の周囲に位置している。特に限定されないが、本実施例における粗化領域R2は、実装領域R1の外周縁に沿って連続的に延びており、実装領域R1を取り囲んでいる。ここで、粗化領域R2の幅Wは、特に限定されないが、0.5mm以上とすることができる。
【0031】
非粗化領域R3は、粗化領域R2と第1下側導体板14の上面14aの外周縁14eとの間に位置している。特に限定されないが、本実施例における非粗化領域R3は、粗化領域R2の外側から上面14aの外周縁14eまで、連続的に延びている。また、非粗化領域R3は、環状に形成された粗化領域R2によって、実装領域R1から完全に隔離されている。非粗化領域R3は、粗化処理されていない領域であり、粗化領域R2よりも小さな表面粗さを有する。なお、粗化領域R2及び非粗化領域R3の具体的な構成については、特に限定されない。
【0032】
一例ではあるが、
図6に示すように、本実施例の半導体装置10では、第1下側導体板14の上面14aが、ニッケルといった金属の被膜52で覆われているとともに、粗化領域R2では、当該金属の酸化膜54でさらに覆われている。このような構造については、特に限定されないが、第1下側導体板14の上面14aに設けられた金属の被膜52を、例えばレーザ照射によって酸化させることによって、微細な凹凸を有する粗化領域R2を形成することができる。
【0033】
図7に示すように、半導体装置10の製造工程では、治具100を用いて第1下側導体板14を位置決めすることがある。このとき、第1下側導体板14の上面14aに非粗化領域R3が設けられていると、非粗化領域R3を治具100によって支持することで、治具100の摩耗を抑制することができる。これにより、治具100の摩耗に起因して半導体装置10の製造品質が低下するという問題を、未然に回避することができる。
【0034】
ここで、第1下側導体板14の上面14aに、非粗化領域R3を単に設けるだけでは、第1下側導体板14と封止体50との間の剥離を招くおそれがある。そのことから、発熱源である第1半導体素子12の近辺では、封止体50との密着性に優れた粗化領域R2が配置されるとよく、封止体50との密着性に劣る非粗化領域R3については、粗化領域R2の外側に配置されているとよい。このような構成によると、非粗化領域R3が存在する場合でも、第1下側導体板14と封止体50との間の剥離が効果的に抑制される。
【0035】
図8は、粗化領域R2の幅Wと、第1下側導体板14と封止体50との間に生じるせん断応力と、第1上側導体板16と封止体50との間に生じるせん断応力との関係を、シミュレーションによって求めたデータを示す。
図7に示すように、粗化領域R2の幅Wが大きくなるほど、第1下側導体板14と封止体50との間に生じるせん断応力も、第1上側導体板16と封止体50との間に生じるせん断応力も、それぞれ低下していく。即ち、粗化領域R2の幅Wが大きくなるほど、封止体50の剥離が生じ難いことを示している。そして、粗化領域R2の幅Wが0.5mm以上であれば、第1下側導体板14の上面14aの全体に粗化領域R2を設けた場合と同程度に、封止体50の剥離が抑制されることを確認することができる。
【0036】
上述した第1下側導体板14に係る構成は、第2下側導体板24にも採用されている。即ち、第2下側導体板24の上面24aにも、第1下側導体板14と同様に、実装領域R1と粗化領域R2と非粗化領域R3とが設けられている。
【0037】
図9、
図10、
図11に示すように、粗化領域R2の形状については、様々に変形することができる。例えば、
図9(A)、(B)に示すように、粗化領域R2は、実装領域R1の外周縁に沿って、断続的に設けられていてもよい。
図9(C)、(D)に示すように、粗化領域R2は、実装領域R1の外周縁のうち、一部の辺のみに沿って設けられてもよい。
図10(A)、(B)に示すように、粗化領域R2は、複数の粗化領域R2の集合で構成されてもよく、この場合、実装領域R1の角部にのみ設けられてもよいし、実装領域R1の角部を除いて設けられてもよい。あるいは、
図10(C)、(D)に示すように、環状に形成された粗化領域R2の内部に、少なくとも一つの粗化されていない領域が設けられていてもよい。
図11に示す変形例では、実装領域R1を多重に取り囲むように、複数の粗化領域R2が形成されている。この場合、それぞれの粗化領域R2の幅W1、W2の和が、0.5mm以上であるとよい。即ち、W1+W2≧0.5mmの関係が満たされるとよい。
【0038】
以下、
図12-
図15を参照して、半導体装置10の製造方法について説明する。
図12に示すように、先ず、第1下側導体板14の上面14aの一部、及び、第2下側導体板24の上面24aの一部を粗化して、それらの上面14a、24aの一部に粗化領域R2を形成する。粗化領域R2は、実装領域R1の周囲に設けられ、上面14a、24aの外周縁14e、24eから離れて位置している。特に限定されないが、この工程では、第1下側導体板14及び第2下側導体板24の各上面14a、24aにレーザLを照射することによって、粗化領域R2が形成されてもよい。
【0039】
次に、
図13に示すように、第1下側導体板14の実装領域R1に、第1半導体素子12及び第1導体スペーサ18を接合するとともに、第2下側導体板24の実装領域R1に、第2半導体素子22及び第2導体スペーサ28を接合する。次に、
図14に示すように、第1導体スペーサ18に、第1上側導体板16を接合するとともに、第2導体スペーサ28に、第2上側導体板26を接合する。このように、
図13、
図14に示す工程では、第1下側導体板14の実装領域R1に、第1半導体素子12及びその他の必要な部材を接合し、第2下側導体板24の実装領域R1に、第2半導体素子22及びその他の必要な部材を接合する。これらの接合する工程では、
図7に示したように、治具100を用いて第1下側導体板14及び第2下側導体板24を支持してもよい。この場合、粗化領域R2の外側に位置する非粗化領域R3を治具100によって支持するとよく、それによって治具100の摩耗を抑制することができる。
【0040】
次に、
図14に示すように、封止体50を成形することによって、第1半導体素子12及び第2半導体素子22を封止する。一例ではあるが、封止体50は、インサート成形によって形成することができる。その後、他の必要な工程が実施されることによって、半導体装置10は完成する。
【0041】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。本実施例における第1半導体素子12及び第2半導体素子22は、本明細書が開示する技術における半導体素子の一例である。本実施例における第1半導体素子12の下面電極12b及び第2半導体素子22の下面電極22bは、本明細書が開示する技術における半導体素子の第1電極の一例である。本実施例における第1半導体素子12の上面電極12a及び第2半導体素子22の上面電極22aは、本明細書が開示する技術における半導体素子の第2電極の一例である。本実施例における第1下側導体板14及び第2下側導体板24は、本明細書が開示する技術における第1導体板の一例である。本実施例における第1下側導体板14の上面14a及び第2下側導体板24の上面24aは、本明細書が開示する技術における第1導体板の第1面の一例である。本実施例における第1下側導体板14の下面14b及び第2下側導体板24の下面24bは、本明細書が開示する技術における第1導体板の第2面の一例である。本実施例における第1上側導体板16及び第2上側導体板26は、本明細書が開示する技術における第2導体板の一例である。本実施例における第1上側導体板16の下面16b及び第2上側導体板26の下面26bは、本明細書が開示する技術における第2導体板の第3面の一例である。本実施例における第1上側導体板16の上面16a及び第2上側導体板26の上面26aは、本明細書が開示する技術における第2導体板の第4面の一例である。
【0042】
特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。