(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150684
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】エアバッグ用基布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/647 20060101AFI20241016BHJP
D06M 13/127 20060101ALI20241016BHJP
D06M 13/282 20060101ALI20241016BHJP
D03D 1/02 20060101ALI20241016BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20241016BHJP
【FI】
D06M15/647
D06M13/127
D06M13/282
D03D1/02
D03D15/283
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119354
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2022557061の分割
【原出願日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020172494
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 史章
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐環境試験後のFMVSS302が定める燃焼性評価において、エアバッグ基布の樹脂塗布面着火と非塗布面着火でいずれも燃焼性が抑制されるエアバッグ基布の提供。
【解決手段】ポリアミドのマルチフィラメント織物であるエアバッグ用基布であって、該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下であり、シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であり、105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が0%以上1.4%以下であり、かつ、85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が350N以上であることを特徴とする、エアバッグ用基布、並びにその製法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドのマルチフィラメント織物であるエアバッグ用基布であって、
該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、
該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下であり、
シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であり、
105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が0%以上1.4%以下であり、かつ、
85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が350N以上であることを特徴とする、エアバッグ用基布。
【請求項2】
前記織物に含まれる油剤成分量が0重量%以上0.04重量%以下である、請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
前記織物の構成糸の重量に対して、リン原子を10ppm以上300ppm以下含有する、請求項1又は2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
前記ポリアミドの分子鎖末端において、カルボン酸末端量がアミン末端量を上回り、その差が10ミリモル当量/kg以上50ミリモル当量/kg以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
80℃、95%環境下、400時間後のFMVSS302の燃焼試験において、経緯方向ともに、以下の1)又は2):
1)基布の表裏どちらから着火した場合でも、自己消火である、
2)表裏の燃焼速度がともに100mm/分以下であり、かつ、表裏の燃焼速度の比が1.0以上3.0以下である、
を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
以下の工程:
ポリアミドを溶融紡糸して、シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下であるポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程、
得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程、
35℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程、
乾燥工程、
前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程、及び
加硫セット工程、
を含むことを特徴とする、ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項7】
前記精練工程において、アルカリ洗液又は界面活性剤の処理浴以降に、水すすぎを行う、請求項6に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項8】
前記精練工程において、織物搬送の経張力を0.08N/cm以上0.8N/cm以下とする、請求項6又は7に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項9】
前記加硫セット工程において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上で加硫セット加工を行う、請求項6~8のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車安全に係るエアバッグに用いられるエアバッグ用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1に記載されるように、走行中の車両が歩行者に衝突すると、衝突された歩行者は、下半身を車体前部によって払われて、車体前部のフード上面に二次衝突することが知られ、また、フード上面より立ち上がるように設けられたウィンドシールドガラス両側縁の剛性の高いフロントピラーに衝突することに対しても保護が求められている。
そこで、以下の特許文献2に記載されるように、歩行者用エアバッグ装置は、エンジンルーム内の後部の上部において、左右の車体側メンバ間に架設される支持部材に取り付けられたリテーナケースに、折り畳まれて収納されている。
また、以下の特許文献3には、従来、車輌の衝突時に乗員保護用に使用されているエアバッグを、歩行者の保護にも適用することが開示されている。
【0003】
これら車外で展開するエアバッグは、これまでの車内に搭載されている運転席用や助手席用などのエアバッグに要求される特性に加え、車外に搭載される為の固有の耐久性が求められる。即ち、屋外での環境条件や車の性能維持の為に行われる作業条件、例えば、光、紫外線、熱、雨、雪、低温、湯水、油や溶剤類、洗剤、埃、などにも耐えることが必要になる。特に、エアバッグが密閉された堅牢な容器内に収納されない場合、あるいは密閉容器が破損した場合には、これらの環境要因の影響は大きくなる。
【0004】
これに対して、例えば、以下の特許文献4には、バッグ本体基布の外表面に被覆材を施すことが開示されている。
【0005】
また、以下の特許文献5には、塗布量が20g/m2以下でありながら、軽量性に優れ、耐熱試験および耐湿試験前後で、通気度、更には難燃性を保持しうるエアバッグ用基布とするため、特定の水溶性樹脂のみで被覆することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-108903号公報
【特許文献2】特開2018-172006号公報
【特許文献3】特開2006-205805号公報
【特許文献4】特開2004-115981号公報
【特許文献5】特開2001-214371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エアバッグは車内外などでの使用など、使用される条件の多様性に伴い、エアバッグ基布の裏表どちらを外表面に用いても、難燃性に優れることが望まれる。ここで、燃焼性評価の規格(FMVSS302)においては、試料を水平に保持し、客室内への表出面を下にして着火する。したがって、通常はエアバッグ基布の外表面となる織物面(樹脂塗布面の逆側)を下にして評価する。樹脂塗布面をエアバッグ基布の外表面とする場合、樹脂塗布面を下にして着火するが、樹脂塗布面を着火すると燃焼速度が増加する。
また、客室外に装着され、展開するエアバッグにおいては、屋外での環境条件に暴露されたのちの難燃焼性が望まれる。
【0008】
特許文献4では、樹脂塗布面をエアバッグ基布の外表面とする場合の難焼性、さらには屋外での環境条件に暴露されたのちの難焼性については十分に検討されていない。
特許文献5では、エアバッグ基布の表裏両面の難燃性については検討されていない。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、耐環境試験後のFMVSS302が定める燃焼性評価において、エアバッグ基布の樹脂塗布面着火と非塗布面着火でいずれも燃焼性が抑制されるエアバッグ基布を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コーティングされた織物からなるエアバッグ用基布であり、この基布が特定の化学特性を有し、かつ、熱寸法安定であることによって、燃焼特性が環境影響を受けにくくなることを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]ポリアミドのマルチフィラメント織物であるエアバッグ用基布であって、
該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、
該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下であり、
シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であり、
105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が0%以上1.4%以下であり、かつ、
85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が350N以上であることを特徴とする、エアバッグ用基布。
[2]前記織物に含まれる油剤成分量が0重量%以上0.04重量%以下である、前記[1]に記載のエアバッグ用基布。
[3]前記織物の構成糸の重量に対して、リン原子を10ppm以上300ppm以下含有する、前記[1]又は[2]に記載のエアバッグ用基布。
[4]前記ポリアミドの分子鎖末端において、カルボン酸末端量がアミン末端量を上回り、その差が10ミリモル当量/kg以上50ミリモル当量/kg以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
[5]80℃、95%環境下、400時間後のFMVSS302の燃焼試験において、経緯方向ともに、以下の1)又は2):
1)基布の表裏どちらから着火した場合でも、自己消火である、
2)基布の表裏の燃焼速度がともに100mm/分以下であり、かつ、表裏の燃焼速度の比が1.0以上3.0以下である、を満たす、前記[1]~[4]のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
[6]以下の工程:
ポリアミドを溶融紡糸して、シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下であるポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程、
得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程、
35℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程、
乾燥工程、
前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程、及び
加硫セット工程、
を含むことを特徴とする、ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法。
[7]前記精練工程において、アルカリ洗液又は界面活性剤の処理浴以降に、水すすぎを行う、前記[6]に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
[8]前記精練工程において、織物搬送の経張力を0.08N/cm以上0.8N/cm以下とする、前記[6]又は[7]に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
[9]前記加硫セット工程において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上で加硫セット加工を行う、前記[6]~[8]のいずれかに記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエアバッグ用基布は、コーティング面と非コーティング面の両面の燃焼性評価の差異が少なく、さらに、耐環境試験後の難燃性維持に優れる。この基布により、とりわけ、客室外に装着され、環境変化条件が過酷になるエアバッグ装置に適したエアバッグクッションが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、ポリアミドのマルチフィラメント織物からなるエアバッグ用基布であって、
該織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有し、
該シリコーン膜量が10g/m2以上100g/m2以下であり、
シクロペンタノン類の含有量が該織物重量に対して0ppm以上250ppm以下であり、
105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が0%以上1.4%以下であり、かつ、
85℃、95%相対湿度環境下400時間後の刃梳き抵抗が350N以上であることを特徴とする、エアバッグ用基布である。
【0015】
エアバッグ用基布の構成糸は、ポリアミドのマルチフィラメントからなる長繊維である。ポリアミド繊維は、融点が高く、熱容量も大きいため、エアバッグを火薬展開する場合に耐溶融性による耐バースト性に優れる。さらに、アミド基や高分子末端基のアミノ基またはカルボキシル基の存在によりコーティング被膜との接着性に優れる。ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド4・6、それらの共重合体およびそれらの混合物からなる繊維が挙げられる。なかでも、主としてポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミド6・6繊維が好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミドとは100%のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される融点が250℃以上のポリアミドを指す。本発明のポリアミド6・6繊維は、融点が250℃未満とならない範囲で、ポリヘキサメチレンアジパミドにポリアミド6、ポリアミド6・I、ポリアミド6・10、ポリアミド6・Tなどを共重合、あるいはブレンドしたポリマーからなる繊維を含んでもよい。
【0016】
<マルチフィラメント>
基布の構成糸の繊度は150dtex以上750dtex以下が好ましい。150dtex以上であると資材用途の織物にした場合の機械物性に優れる。750dtex以下であれば、無杼織機で800rpm以上の高速製織をする際に、緯糸挿入する上で搬送重量が重過ぎて追随できないようなことがなく生産性の問題がない。より好ましくは220dtex以上であり、また、より好ましくは550dtex以下であり、さらに好ましくは450dtex以下である。
本実施形態においては、基布の構成糸は単糸束からなるマルチフィラメントであり、単糸の繊度は1dtex以上7dtex以下が好ましい。単糸繊度が1dtex以上であれば、織糸から基布まで加工する間での機械特性の劣化が少なく、7dtex以下であれば、コーティング被膜との微視的な接着性が良く、ひいては燃焼速度抑制やその挙動の安定化に好ましい。さらには、基布の柔軟性が良く、エアバッグとした場合の収納性が良い。
単糸断面の形状は、丸断面でも異型断面でもよい。
【0017】
基布織物の建て込み具合は、平面内の充填度であるカバーファクターで表せる。カバーファクターは基布の構成糸の繊度と織密度から求められる。構成糸の繊度d(dtex)と織密度D(本/2.54cm)により、経方向(w)と緯方向(f)を合算してカバーファクターCFを求める。
CF=(√(dw)×Dw)+(√(df)×Df)
本実施形態においてカバーファクターが1,800以上2,500以下が好ましい。カバーファクターが1,800以上で大きければ、織密度効果により基布の機械物性が良くて好ましい。カバーファクターはより好ましくは2,000以上である。カバーファクターが2,500以下で小さいほど、構成糸の混み合いが少なく、基布の柔軟性が良い。エアバッグとしての収納性に優れて好ましい。カバーファクターはより好ましくは2,300以下である。
【0018】
本実施形態のエアバッグ用基布は、織物の少なくとも片面にシリコーン膜の層を有するものである。シリコーン膜は塗膜であってもよく、張りあわせ膜であってもよい。シリコーン膜の量は、10g/m2以上100g/m2以下である。シリコーン膜の量が、10g/m2以上であれば、エアバッグの気密性に寄与し、さらに、燃焼抑制に寄与する。より好ましくは15g/m2以上である。シリコーン量が、100g/m2以下であれば、基布が軽量であり、また、収納性も良い。シリコーン膜の量はより好ましくは70g/m2以下、一層好ましくは40g/m2以下である。
【0019】
本実施形態のエアバッグ用基布は、シクロペンタノン類の含有量が、構成糸重量に対して250ppm以下である。シクロペンタノン類とは、
図1に示す化合物a)Cyclopentanon、b)Cyclopenten-1-one、c)1,1’-Bicyclopentyl-2-one、d)Cyclopentanone, 2-cyclopentylideneを意味し、シクロペンタノン類の含有量とは、これらの化合物の含有量の合計である。シクロペンタノン類が、250ppm以下であれば、シリコーン層の接着が良く、湿熱環境後の燃焼速度の増加が少ない。より好ましくは、シクロペンタノン類が、150ppm以下であり、最も好ましくは、50ppm以下である。シクロペンタノン類の含有量の下限としては、0ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましい。シクロペンタノン類は、ポリアミドとシリコーンの接着を阻害し、特に湿熱環境後での接着を弱める。シクロペンタノンは、ポリアミドに由来する。ポリアミドは、溶融温度で熱劣化してシクロペンタノンが生成される。ポリアミドを織糸として基布に加工するまでの間に除去しきれなかったシクロペンタノンが基布中に存在する。シクロペンタノンの含有量はガスクロマトグラフで分析することができるが、シクロペンタノンは分析過程も含めて部分的に2量化するため、シクロペンタノン類として定量する。シクロペンタノン類の含有量は、製織に用いるポリアミド原糸のシクロペンタノン類の含有量と、これを基布加工する際の加工条件によって減量変化する。
基布の織物中シクロペンタノン類の含有量を、構成糸重量に対して250ppm以下とするには、製織後の精練でアルカリ洗液を用い35℃以上の温度で精練することが好ましい。より好ましくはアルカリ洗液を用い60℃以上の温度で精練する。さらに、アルカリ洗液の後に中性水ですすぎを行うことでシクロペンタノン類の含有量が低減される。また、こうした精練工程で基布が弛緩することで基布の構成糸間への洗液の浸透が促進され、シクロペンタノン類の含有量が低減される。
【0020】
本実施形態のエアバッグ用基布は、105℃で60分間での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率が1.4%以下である。熱寸法安定性が1.4%以下と低く、値が小さいほど湿熱環境後の燃焼速度の増加が少ない。該熱寸法安定性はより好ましくは、1.0%以下で、いっそう好ましくは0.8%以下である。基布の熱寸法安定性は、基布加工の最終段階での熱セットの影響で変わる。通常、寸法変化は、経方向が大きく、緯方向は比較的小さく安定であり、0.1%以下である。
エアバッグ基布の燃焼速度を抑制するには、燃焼炎への燃焼ガスの供給を抑え込めばよい。燃焼ガスは主としてポリアミドの分解ガスからなるが、水平法の燃焼で、シリコーン層を上に向けて基布を設置する場合、基布上面の燃焼炎への燃焼ガス供給は難燃性のシリコーン層が上面へのガス移行を抑えるため、燃焼速度を抑制する。一方、水平法の燃焼で、シリコーン層を下に向けて基布を設置する場合、基布上面の燃焼炎への燃焼ガス供給は遮られず、燃焼速度は大きい。特に、湿熱環境後ではシリコーン層接着の低下と基布の寸法変化(収縮)でシリコーン層の剥離、ひび割れが生じ、シリコーン層の燃焼ガス遮断がないため、いっそう燃焼速度が増加してしまう。そこで、シクロペンタノン類の含有量が少なく、寸法安定性が良いことがあいまって、湿熱環境後の燃焼速度増加を抑制することができる。
105℃、60分の加熱前後での経緯方向それぞれの収縮寸法変化率のうち、より大きい収縮寸法変化率を0~1.4%とするには、シリコーン塗布後の加硫セット工程において、160℃以上の温度で経方向のオーバーフィード0.8%以上であることが好ましい。より好ましくは1.0%以上のオーバーフィード加工である。8.0%以下のオーバーフィード加工であれば、安定した加工ができて好ましい。
【0021】
本実施形態のエアバッグ用基布は、湿熱環境後(85℃、95%相対湿度の環境下400時間)の刃梳き抵抗が350N以上であることが好ましい。より好ましくは420N以上であり、一層好ましくは470N以上である。刃梳き抵抗は、織物の構成糸ズレの抵抗であり、織物組織の構成糸の拘束力にシリコーン接着の抵抗が合わさったものである。刃梳き抵抗が350N以上で大きいほど、シリコーン層の接着に優れている。この、刃梳き抵抗が高いことは燃焼速度を抑制する一因となる。一方で、刃梳き抵抗が800N以下であれば、引裂き抵抗が十分高い値となる。
【0022】
本実施形態のエアバッグ用基布は、織物に含まれる油剤成分量が0.04重量%以下であることが好ましい。油剤成分量が0.04重量%以下で少ないほど、精練工程における脱油工程が十分であることが示される。織物に含まれる油剤成分量はより好ましくは0.02重量%以下である。油剤成分量が少ないことで、ポリアミド繊維とシリコーン層の接着が良好である上に、シクロペンタノンの含有量が減っていることで、接着の改善、さらには湿熱環境後の接着ダメージの回避に寄与する。製織原糸は加工油分を1%程度有しており、製織後の精練で除去することができる。一方で、油剤成分量は0.005重量%以上が好ましい。引裂き抵抗が十分高い値となる。
【0023】
本実施形態のエアバッグ用基布は、リン原子の含有量が、構成糸重量に対して10ppm以上300ppm以下であることが好ましい。リン原子の含有量が多いほど燃焼ガス発生が抑制されて燃焼抑制効果がある。リン原子の含有量はより好ましくは、30ppm以上であり、一層好ましくは、40ppm以上である。一方で、リン原子がシリコーン架橋の触媒毒として作用することがあるため、含有量にも上限がある。リン原子の含有量は、より好ましくは200ppm以下であり、一層好ましくは150ppm以下である。
リン原子は、ポリアミド樹脂の製造に用いられる触媒に由来する。触媒としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸などのリン酸化合物、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸エチルなどのホスフィン酸化合物、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸エチルなどの亜ホスホン酸化合物、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウムなどのホスホン酸化合物、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸などの亜リン酸化合物などを添加することができる。
ポリアミドにはフェニルホスホン酸またはその金属塩がリン成分としてポリマー重量あたり10ppm以上300ppm以下含まれていることが好ましい。フェニルホスホン酸等は一般的に重合触媒として使用されることがある。
【0024】
フェニルホスホン酸またはその金属塩を含むポリアミド6・6を得る方法としては、溶液重合時にフェニルホスホン酸またはその金属塩を添加してもよいし、フェニルホスフィン酸またはその金属塩を添加しても工程の中で酸化されてフェニルホスホン酸等に変化するため、いずれの添加剤を用いてもよい。
重合工程中に添加剤を導入してもよい。酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、チアゾール系化合物や、フェニルホスホン酸などのリン系化合物、2-メルカプトベンズイミダゾールなどのイミダゾール系化合物、およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、酢酸銅とハロゲン、等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、光沢改善剤(酸化チタン、炭酸カルシウム等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、酢酸マンガンのような光安定剤、消泡剤を少量含んでもよい。
【0025】
ポリアミドの重合において、シクロペンタノン類の生成を抑制するために、重合反応を均一に短時間で進行させるためには、アミノ末端基とカルボ末端基の濃度バランスをとって重合度を上げることが重要である。
繊維が高物性であるためには、重合度が高いほうが好ましい。高重合度のポリアミドはアミノ末端基量とカルボ末端基量の合算が150ミリモル当量/kgポリマー以下であることが好ましく、より好ましくは130ミリモル当量/kgポリマー以下であり、いっそう好ましくは110ミリモル当量/kgポリマー以下である。一方、繊維が均一であるためには、50ミリモル当量/kgポリマー以上であることが好ましく、より好ましくは70ミリモル当量/kgポリマー以上であり、いっそう好ましくは90ミリモル当量/kgポリマー以上である。
そのうえで、本実施形態においては、ポリアミドのカルボキシル末端基濃度がアミノ末端基濃度に対して過剰であり、その末端基濃度差は5ミリモル当量/kgポリマー以上80ミリモル当量/kgポリマー以下であることが好ましく、より好ましくは10ミリモル当量/kgポリマー以上60ミリモル当量/kgポリマー以下であり、さらに好ましくは20ミリモル当量/kgポリマー以上50ミリモル当量/kgポリマー以下である。カルボキシル末端基濃度が多く、濃度差が5ミリモル当量/kgポリマー以上で大きいと、ポリアミド内部環境として水素イオン濃度が多く、リン化合物の触媒毒性が抑制され、ポリアミドとシリコーンの接着性が良く、また、接着の耐湿熱性が良い。カルボキシル末端基濃度過剰の濃度差が80ミリモル当量/kgポリマー以下であれば、高重合度となり、延伸時に高強度の繊維を得やすい。また、カルボキシル末端基濃度の方が多い場合は、溶融時の3級アミン発生が抑制され、紡糸操業性がよく、毛羽品位の良い織糸が得られる。
【0026】
本発明の他の実施形態は、以下の工程:
ポリアミドを溶融紡糸して、シクロペンタノン類の含有量が0ppm以上800ppm以下であるポリアミドのマルチフィラメント糸を得る工程、
得られたポリアミドのマルチフィラメント糸を織糸として織物を得る工程、
35℃以上の温度でアルカリ洗液を用いる精練工程、
乾燥工程、
前記織物の少なくとも片面にシリコーン塗布してシリコーン膜の層を形成する工程、及び
加硫セット工程、
を含むことを特徴とする、ポリアミドのマルチフィラメント織物のエアバッグ用基布の製造方法である。
溶融紡糸する前のポリアミド樹脂のシクロペンタノン類の含有量は、0ppm以上1,000ppm以下であるものが好ましく、800ppm以下がより好ましく、80ppm以下であるものが一層好ましい。
【0027】
ポリアミド繊維を構成する樹脂組成物は、これを製造するための重合反応装置としては、比較的低温にて加熱し高圧下で水分を除去する工程、高温にて重縮合反応を進める工程、が有用である。その際の反応装置は1槽でもよいし、連続する2槽の装置としてもよい。このポリアミド樹脂組成物は、重合反応装置からストランド状などで吐出して、一旦冷却/カッティングし、ペレット状にした後、乾燥して水分を除去し、繊維用に適したペレットが得られる。ポリアミド繊維用の樹脂組成物の製造方法では、ポリアミド樹脂組成物を液相で重合した後、さらに重合度を高めるための固相重合を行うことができる。溶融温度以下で行う固相重合法は、ポリマー自体の熱劣化も抑えることが可能であり、ポリマー中のシクロペンタノン類を増大させないために好ましい方法である。 ポリアミドの樹脂は、例えば、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、チアゾール系化合物や、フェニルホスホン酸などのリン系化合物、2-メルカプトベンズイミダゾールなどのイミダゾール系化合物、およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物、等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、光沢改善剤(酸化チタン、炭酸カルシウム等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を少量含んでもよい。
【0028】
溶融紡糸における紡糸温度は290℃以上310℃以下であることが好ましい。紡糸温度を310℃以下に設定することで、ポリアミドの熱分解が抑えられるため好ましく、より好ましくは300℃以下であり、さらに好ましくは295℃以下である。一方で、紡糸温度が290℃以上であることでポリアミドが十分な溶融流動性を示し、吐出孔間の吐出量が均一化され、高倍率延伸が可能となるため好ましい。
溶融紡糸工程における滞留時間(ポリアミド樹脂が溶融され、紡糸口金から吐出されるまでの時間)は短いほど好ましい。滞留時間は30分以下であることが好ましく、15分以下であることがより好ましく、0.5分以上7分以下であることがさらに好ましい。溶融温度においてポリマー中のシクロペンタノン類が増加するため、短時間であることが好ましい。
また、溶融紡糸工程において、溶融部には1軸又は2軸のエクストルーダーが用いられることが好ましい。このエクストルーダーによってポリアミド樹脂に適度な圧力を加えながらポリマー配管、ギヤポンプ、紡糸パックへ導くことができるため、これら流路において異常滞留を起こすことが無く、ポリアミドの熱分解によるシクロペンタノン類の増大が抑えられるため好ましい。
また、紡糸口金から吐出される前の段階で、金属繊維不織布フィルターや、サンド等によってポリアミド樹脂を濾過することで、紡糸操業が安定化するため好ましい。
紡糸口金における口金孔の形状は製造するフィラメントを構成する単繊維の断面形状に応じて選択すればよい。紡糸口金からの紡出糸を冷却風にて固化し、工程油剤を付与し、引取った後、延伸し、熱処理することで本発明に用いるポリアミド繊維を得る。
【0029】
ポリアミド繊維として、上記の適切な製法によってポリマー中のシクロペンタノン類の量が少ないことが重要である。製織に用いるポリアミド繊維のシクロペンタノン類の量が少ないことで、エアバッグ用基布のシクロペンタノン類の量を少なくすることができる。ポリアミド繊維のシクロペンタノン類の量は、800ppm以下が好ましく、より好ましくは600ppm以下であり、いっそう好ましくは400ppm以下、特に好ましくは80ppm以下である。
ポリアミド繊維フィラメントは強度が7cN/dtexであることが好ましい。強度が7cN/dtex以上であることにより、製織工程における織張力を高めても毛羽が発生し難く、高密度な織物を製造工程通過性良く得ることができるため好ましく、7.5cN/dtex以上であることがより好ましく、8cN/dtex以上であることがさらに好ましく、よりさらに好ましくは9.0cN/dtex以上であり、最も好ましくは9.5cN/dtex以上である。ポリアミド繊維フィラメントの引張強度は、他の特性および製造コスト等を考慮すると、実質的に10.5cN/dtex以下である。
ポリアミド繊維の油剤付着率は0.6~1.5wt%であることが好ましい。油剤付着率が1.5wt%以下であれば、べたつき(タック性)によって緯糸が飛走し難いということがほとんどなく、また、交絡による単糸集束以上に単糸集束が良すぎて見掛け断面積が減ることにより緯糸搬送媒体である空気や水が緯糸搬送力を失ってゆくことがなく、製織安定性が良好である。一方、油剤付着率が0.6wt%以上であれば、適切な摩擦低減効果によりスムーズに緯糸供給されるため、製織停台なく生産性に優れる。
【0030】
製織において、織機は、ウォータージェット織機、エアジェット織機、レピア織機などを用いることができる。エアバッグ用基布は高密度織物であり、整経工程および製織工程においては、経糸張力を高めて、工程通過性よく製造することが好ましい。製織で経糸張力を高めに設定し、効果的な筬打ち条件を作ることで高密度織物が形成される。とりわけ経糸が十分に噛み込んだ屈曲形態が作られ、経クリンプは大きくなる。
【0031】
このようにして製織された織物は、精練工程でポリアミド繊維の工程油剤を洗い落とし、同時に、繊維中のシクロペンタノン類の含有量を減らすことができる。
精練工程は、温水や加圧熱水などを選択でき、処理工程は1段階でも、2段階以上の多段階処理でもよい。また従来公知の精練剤を付与して精練を施すことも好ましい。非イオン活性剤とソーダ灰の組み合わせや高級アルコール硫酸塩とソーダ灰の組み合わせが用いられる。とりわけ、ソーダ灰などアルカリ剤による精練は、繊維表面の工程油剤を除去するとともに繊維中のシクロペンタノンの減量に有効である。
精練工程の温度は35℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上98℃以下の範囲である。精練工程の温度が高いほど繊維中のシクロペンタノン類の含有量を減らすことができる。精練工程は、精練剤による精練の後、水洗処理(水すすぎ)を行うことが好ましい。ポリアミド繊維の繊維内部の水素イオン濃度を高くするため、水洗工程を多段にしたり、滞留時間を長くすることが好ましい。ポリアミド繊維の繊維内部の水素イオン濃度を高くすることで、リン化合物が有するシリコーン付加反応の触媒毒性を抑制し、シリコーンと織物の接着性阻害を回避することができる。
精練工程は、製織工程の後に連続して行ってもよく、一旦製織した後、別工程で行ってもよい。また、バッチ方式、連続方式のいずれも採用することができるが、処理ゾーンに基布を供給、排出させながら連続的に処理を行うことが生産性に優れるため好ましい。
精練工程では、織物組織を緩めることでシクロペンタノンの除去を促進できる。
精練浴中での織物の把持について、幅方向では把持せずに搬送するのが好ましい。経糸方向では、搬送張力を0.8N/cm以下にするのが好ましく、一層好ましくは0.5N/cm以下である。
搬送中に織物たるみなくしわ発生を回避するためには0.08N/cm以上の経張力とするのが好ましい。
搬送では、張力制御をするために、ダンサーロールを設けるなど張力負荷制御することができる。
精練工程では、浴温と構成繊維の熱収縮特性に応じて織物収縮するが、収縮が生じながらも経張力を低位に制御し、幅方向は収縮に任せて、織物組織を緩めることがシクロペンタノン除去に寄与する。
【0032】
織物は熱セット工程で熱固定することが好ましい。熱セット温度は110℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは130℃以上150℃以下であり、熱セット時間は0.1分以上30分以下の範囲で適宜選択すればよい。そして熱セット工程で織物収縮力が所定の力に保持される様に緊張させながら乾燥することが好ましい。織物を熱固定すれば、引き続く樹脂塗布工程の工程性の安定化が図れる。
【0033】
精練工程後の織物は熱セット工程の前に、必要に応じて乾燥処理を施してもよい。乾燥温度は80℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、100℃以上120℃以下であることがより好ましい。また、処理時間は0.1分以上30分以下で適宜選択することが好ましい。乾燥は織物を弛緩状態で行ってもよいし、緊張状態で行ってもよい。
【0034】
本実施形態のエアバッグ用基布は、シリコーンをコーティング加工し、仕上熱セット加工してエアバッグ用コ-ト基布とする。
塗布するシリコーンは難燃性、耐熱性、空気遮断性等に優れているものが好ましい。
シリコーンは、付加反応型硬化シリコーンゴムを無溶媒で塗布するものが好ましい。
シリコーンは、その主成分のアルケニルオルガノポリシロキサンはコーティング剤のベースポリマーであり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個含有する。通常、実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、分子鎖が主にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。更に主鎖のケイ素原子に結合したアルケニル基の位置は特に制限されず、該アルケニル基は分子鎖末端部分のケイ素原子および分子鎖非末端部分のケイ素原子のどちらか一方にのみ結合していてもよいし、これら両者に結合していてもよい。側鎖のオルガノ基としとしては、例えば、炭素原子数1~10の、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換または置換の一価炭化水素基が挙げられる。中でも、メチル基、フェニル基またはこれら両者の組み合わせが好ましい。アルケニル基として、炭素原子数2~8のアルケニル基が挙げられる。ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。これらの中でもビニル基が好ましい。
【0035】
シリコーンの、架橋成分の有機ケイ素化合物として、ケイ素原子結合水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンシラン、ジオルガノハイドロジェンシリル基(即ち、分子鎖末端のケイ素原子に結合した水素原子として)を少なくとも2個(特に、2個又は3個)含有する直鎖状または分岐状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、およびジオルガノハイドロジェンシリル基を少なくとも2個(特に、2個又は3個)含有する炭化水素化合物からなる群より選択される少なくとも1種である。このケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が例示される。また、上記ジオルガノハイドロジェンシリル基としてはジメチルハイドロジェンシリル基等が挙げられる。具体例としては、メチルシラン((CH3)SiH3)、ジメチルシラン((CH3)2SiH2)、エチルシラン((C2H5)SiH3)、ジエチルシラン((C2H5)2SiH2)、ヘキシルシラン((C6H13)SiH3)、ジヘキシルシラン((C6H13)2SiH2)、n-オクチルシラン((n-C8H17)SiH3)、ジ(n-オクチル)シラン((n-C8H17)2SiH2)、フェニルシラン((C6H5)SiH3)、ジフェニルシラン((C6H5)2SiH2)、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシリルエチル)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシリルエチル)フェニルシランおよび1,4-ビス(ジメチルハイドロジェンシリル)ベンゼン等が挙げられる。
【0036】
架橋成分の含有量は、全コーティング剤中のアルケニル基に対する本成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.01以上5.0以下の範囲内となる量であり、好ましくは、0.1以上2.0以下の範囲内となる量であり、特に好ましくは、0.1以上1.0以下の範囲内となる量である。このとき、全コーティング剤中に存在するアルケニル基に対する(A)成分中のアルケニル基の割合は90モル%以上100モル%以下が好ましく、95~100モル%がより好ましい。
シリコーンの反応触媒、成分は白金族金属系触媒であり、ヒドロシリル化反応触媒として公知のものが使用できる。例えば、白金(白金黒を含む。)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸;塩化白金酸とオレフィンとの錯体;白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;白金とトリフェニルフォスフィンとの錯体;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとの錯体などが挙げられる。これらの中で、特にビニル基含有環状シロキサンとの錯体;白金とトリフェニルフォスフィンとの錯体等の白金系触媒が望ましい。
上記以外に、シリコーンに成分を含有してもよい。例えば、硬化樹脂の性状改良のための無機充填剤として、樹脂強度補強のための微粉末シリカ、樹脂靭性を強化する炭酸カルシウム粉末などが、硬化反応制御剤として、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレン系化合物、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物など。接着性向上剤としてメチルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤などが、挙げられる。
【0037】
エアバッグ用基布のシリコーン塗布量は、10g/m2以上100g/m2以下であり、より好ましくは15g/m2以上70g/m2以下であり、一層好ましくは20g/m2以上40g/m2以下である、10g/m2以上の塗布量で、必要とする気密性が得られる。一方で、100g/m2以下の塗布量で、コート織物が柔軟性を有し、収納性が良く、バッグ全体の重量が抑えられる。
織物表面にシリコーンをコーティングする方法としては、織物を樹脂溶液槽に浸漬させた後、余分な樹脂をマングル、バキューム、さらにはコーティングナイフ等を用いて形成・均一化する方法、コンマコーターなどのバーコーティング法、スプレー装置やフォーミング装置を用いて樹脂を吹き付ける方法などが採用できる。これらの内、樹脂を均一に、かつ、少なく塗布するという観点からは、無溶媒シリコーンをナイフコーティングする方法が好ましい。
特に、エアナイフコーティング法で塗布する場合、ナイフと該織物との接圧を15N/cm以上15N/cm以下の範囲内で、かつ、基布張力が100N/cm以上3000N/cm以下の範囲内で塗工することが好ましい。ナイフを高接圧にすれば塗膜厚を薄く、塗布量を軽量に、均一に制御することができる。コーティング加工工程での基布張力は、織物を経方向に伸張し、熱歪を蓄えるように作用する。
【0038】
シリコーンコーティングの後に、シリコーンを加硫架橋したり、基布を最終熱セットする目的で加硫セット加工(仕上熱セット加工)を行う。ここで、コーティング工程での経張力による経ひずみを安定化することが重要である。そのため、織物の送り方向すなわち経方向に0.8%以上のオーバーフィードでセット加工をすることが好ましく、より好ましくは1.0%以上3.0%以下のオーバーフィード加工である。織糸の収縮率や、各工程の熱処理条件に応じて、オーバーフィード量を決めればよい。オーバーフィードの送り込みをすることで経方向のひずみが解消され、基布の熱寸法安定性を改善することが可能になる。
仕上熱セット加工は、シリコーン加硫の促進とナイロン織物の寸法安定性の改善に寄与しうる温度を選択する。仕上熱セット加工温度として160℃以上210℃以下が好ましい。より好ましくは、170℃以上200℃以下である。
仕上熱セット加工で、経方向に0.8%以上3.0%以下のオーバーフィードで、160℃以上210℃以下の温度とすれば、基布の熱寸法安定性を改善するに好ましい。
【0039】
本実施形態のエアバッグ用基布は、80℃、95%環境下400時間後のFMVSS302の燃焼試験において、基布の表裏どちらから着火した場合でも、経緯方向いずれも自己消火であるか、または、燃焼速度が100mm/分以下であることが好ましい。つまり、エアバッグ用基布は、80℃、95%環境下400時間後のFMVSS302の燃焼試験において、基布の表裏どちらから着火した場合でも、経緯方向いずれも、規定時間内に試験片に着火しない又はA標線手前で消炎するもの、すなわち、自己消火性判定か、または、燃焼速度が100mm/分以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態のエアバッグ用基布は、湿熱処理により燃焼性が増大しないことが好ましい。つまり、エアバッグ用基布は、80℃、95%環境下400時間保持する湿熱処理を行う前の燃焼速度に対する、湿熱処理後の燃焼速度の増加が、40%以下であることが好ましく、より好ましくは、30%以下であり、一層好ましくは20%以下である。
シリコーンがナイロン織物に十分接着し、さらには、熱寸法安定であることが相俟って、湿熱処理による燃焼速度の増加が抑制される。湿熱処理による燃焼速度増加が抑制されれば、過酷な環境下で車載されたエアバッグでも、難燃焼性を維持できる。
【0040】
本実施形態のエアバッグ用基布は、FMVSS302燃焼試験で、湿熱処理後における燃焼速度の評価において、織物面着火(コーティング面を上にして着火)に対するコート面着火(コーティング面を下にして着火)の燃焼速度比が3.0以下であり、より好ましくは2.5以下である。燃焼速度比の下限は1.0以上が好ましい。シリコーンがポリアミド繊維織物に十分接着し、さらには、熱寸法安定であることにより、燃焼速度のコーティング表裏差が環境条件下で拡大しない。つまり、過酷な環境下で車載されたエアバッグで、コーティング面を表出させるエアバッグクッションの場合でも、難燃焼性を維持できる。
また、前記したように、本実施形態のエアバッグ用基布は、湿熱環境後(85℃、95%相対湿度の環境下400時間)の刃梳き抵抗が350N以上であることが好ましい。より好ましくは420N以上であり、一層好ましくは470N以上である。刃梳き抵抗は、織物の構成糸ズレの抵抗であり、織物組織の構成糸の拘束力にシリコーン接着の抵抗が合わさったものである。刃梳き抵抗が350N以上で大きいほど、シリコーン層の接着に優れている。この、刃梳き抵抗が高いことは燃焼速度を抑制する一因となる。一方で、刃梳き抵抗が800N以下であれば、引裂き抵抗が十分高い値となる。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例における各種評価は、下記の方法にしたがって実施した。
【0042】
(1)基布のシリコーン塗布量
基布から0.3m角の面積(A)の試料を採取し、ジクロロメタンで脱脂し、105℃で乾燥する。これを、90%蟻酸200gに常温で溶解し、ガラス焼結フィルター(株式会社コスモスピード製 VIDTECガラス濾過器17G-3)で不溶解分を濾別し、充分に蟻酸洗浄、水洗を行い、不溶解分を105℃で乾燥し、質量を精秤する(M)。コ一ティング重量(g/m2)は、蟻酸不溶解分(M)を布帛試料の面積(A)で割って得た。
【0043】
(2)溶融紡糸前のポリアミド樹脂、繊維、及び基布の織物中シクロペンタノン類の定量
試料として、ポリアミド樹脂、ポリアミド繊維、又は、基布を刻んで、標準状態(20℃、相対湿度65%、24時間以上放置)として準備した。
HS-SPME-GC/MS法で分析した。試料の10mg程度を精秤し、ヘッドスペース用のバイアル瓶に詰め、SPMEファイバーアセンブリーを装着した。SPMEファイバーアセンブリーは、PDMSファイバーにポリジメチルシロキサンがコーティングされたものである。試料セッティングしたバイアル瓶をブロックヒーターで180℃5分加熱したのち取り出して5分間室温冷却した。SPMEを取り出してGC/MS分析した。シクロペンタノン標品を用いて定量分析し、a)シクロペンタノンに加えて、b)Cyclopenten-1-one、c)1,1’-Bicyclopentyl-2-one、d)Cyclopentanone, 2-cyclopentylideneの4つの化合物を合算してシクロペンタノン類の含有量とした。このとき、ポリアミド繊維が試料の場合は、精秤した試料中のシクロペンタノンの含有量(ppm)を求めた。また、試料が基布の場合は、精秤した基布重量からシリコーン塗布量を差し引いた織物重量に換算し、構成織物中のシクロペンタノンの含有量(ppm)を求めた。
GC/MSはAgilent社製で、GC:7890B、MS:5977Bである。諸条件を以下のようにした。
カラム:DB-1MS(30m×0.25mm、膜厚0.25μm)
カラム温度:40℃(3分)→20℃/分→300℃
カラム流量:1.0ml/分
カラム流量:1.0mL/分
注入法:スプリットレス
注入温度:250℃
インターフェース温度:280℃
イオン源温度:230℃
イオン源:EI法
スキャン範囲:50-500m/z
【0044】
(3)基布の構成糸の末端基定量(基布20cm□)
基布から構成糸を引きはがして試料を5~10g採取した。
(3a)アミノ末端基濃度
基布から構成糸を引きはがした試料繊維試料を精秤し、これを90%フェノール水溶液に溶解させた。完全に溶解した後、0.05Nの塩酸水溶液で溶液のpHが3になるまで滴定した。滴定量からポリマー1kg当りのアミノ末端基濃度を算出した。
(3b)カルボキシル末端基濃度
前記と同様に構成糸試料を精秤し、これを170℃のベンジルアルコールに溶解させた。完全に溶解した後にフェノールフタレイン指示薬を添加した。その後、0.1NのNaOHエチレングリコール溶液で比色滴定した。滴定量からポリマー1kg当りのカルボキシル末端基濃度を算出した。
カルボキシル末端基濃度からアミノ末端基濃度を引いた値を構成織物の末端基の差とし、カルボキシル末端基濃度とアミノ末端基濃度を足した値を構成織物の末端基の合算とした。
【0045】
(4)基布の織物中リン含有量の定量
基布から構成糸を引きはがして試料を約0.5g採取した。
構成糸中の、リン酸基に由来するリン原子含有率は、以下の装置及び条件を用いて誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により求めた。
(測定条件)
ICP-AES装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、iCAP6300Duo
高周波出力:1150W
プラズマガス:12L/min
補助ガス:0.5L/min
ネブライザガス:0.5L/min
測光:軸方向
測定波長:213nm
前処理方法:試料を硫酸、硝酸及び塩酸で湿式分解し検液とした。
【0046】
(5)基布の油剤成分量
JISL1095(2010)9.30に準じソックスレー抽出で計測した。溶媒はシクロヘキサンを用いた。基布試料につき、JISK0068(2001)の水分気化によるカールフィッシャー滴定法により水分率を計測して、基布試料の精秤重量から絶乾重量を求める。さらに、基布重量からシリコーン塗布量を差し引いた織物重量に換算し、構成織物の試料重量とした。ソックスレーで抽出した油剤成分量と構成織物の試料重量から、構成織物中の油剤成分量(wt%)を求めた。抽出乾固物の秤量精度を確保するために、必要がある場合は、基布試料を新規に入れ替えて追加抽出を繰り返した。
【0047】
(6)基布の収縮寸法変化率
基布を温度20℃相対湿度65%の環境下に24時間以上さらしたものを用い、基布の経緯方向に沿って150mm角の切片を試料として採取する。採取した切片に、経緯方向夫々の間隔が100mmの標線を正確な間隔で描く。試料切片を張力無しに105℃の熱風オーブンに60分間入れておく。取り出して温度20℃相対湿度65%の環境下に24時間以上さらしたのち、標線間距離を経緯方向夫々計測する。元の100mmに対する、標線間距離の収縮変化率(%)を算出する。3回繰り返して平均値を求めた。経緯の2方向で大きな収縮変化率を示す方向の値を収縮寸法変化率として採用する。
【0048】
(7)基布の燃焼速度、湿熱処理後の燃焼速度増加、及び表裏の燃焼速度比(C/W比)
FMVSS302燃焼試験を行った。
標準状態の基布と、80℃95%相対湿度の環境下で400時間保持した後に標準状態にした基布について、U字枠に固定し水平法で設置する際、コーティング面を下にして試料端部からバーナー炎で着火し燃焼速度を評価した。経緯それぞれの方向で試験し、湿熱処理前後での燃焼速度増(%)を評価した。
また、80℃95%相対湿度の環境下で400時間保持した後に標準状態にした基布試料につき、試料をU字枠に固定し水平法で設置する際、コーティング面を下にして試料端部からバーナー炎で着火する場合と、織物面を下にして試料端部からバーナー炎で着火する場合と、それぞれ燃焼速度評価し、織物面を下とした燃焼速度(W評価)に対するコーティング面を下とした燃焼速度(C評価)の比率を評価し、湿熱処理後の表裏の燃焼速度比(C/W比)として以下の表に示す。
【0049】
(8)基布の湿熱処理後の通気増加
コスモ計器株式会社製「高圧通気度測定機」を用い、圧力50kPaで通気度(mm/s)を求めた。基布試料は、標準状態試料と、これを80℃、95%相対湿度の環境下で400時間保持した後に標準状態にしたもので比較評価し、湿熱処理後の通気量増(mm/s)を求めた。
【0050】
(9)基布の湿熱処理後の刃梳き抵抗
80℃95%相対湿度の環境下で400時間保持した後に標準状態にした基布の刃梳き抵抗をASTM-D6479(2015)に準じて経緯方向それぞれ5つの試料で測定し、それらの値を平均した。
基布試料は、80℃、95%相対湿度の環境下で400時間保持した後に標準状態にしたものを用いた。
【0051】
(10)基布のスクラブ評価
コーティング接着性を揉み試験で確認した。試験装置はスクラブテスタで、試験はISO 5981に準拠して行った。標準状態の基布と、80℃、95%相対湿度の環境下で400時間保持した後に標準状態にした基布について試験し、200回以上の揉み回数から、50回ごとに観察し、剥離が認められたもみ回数を評価した。
【0052】
[実施例1]
末端封鎖されていないポリアミド6・6ポリマーで、フェニルホスホン酸を重合触媒とし、ヨウ化銅とヨウ化カリウムを熱安定剤とするポリマーを重合してチップで払い出し、さらに、固相重合した。
ポリマーチップを300℃で溶融し、290℃の滞留時間180秒で溶融紡糸法にて吐出し、脂肪族合成エステル系の紡糸油剤を付与した上で延伸し、ポリアミド6・6繊維470dtex136フィラメントを得た。この繊維は、リン元素を140ppm含有し、銅元素が60ppmであり、ヨウ素元素が1800ppmであった。カルボキシル末端基濃度とアミノ末端基濃度の差が50ミリモル当量/kgポリマーである。繊維中のシクロペンタノン類は500ppmであった。JISL1017(2002)8.14による沸騰水収縮率が7.5%であった。
この繊維を無撚無糊で整経し、緯糸に同一糸を用いて、ウォータージェット織機で平織に製織した。
該織物はオープンソーパー型精練機にて精練した。アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/lとソーダ灰0.5g/lを含んだ80℃温水浴中に1分間浸漬滞留した後、中性の80℃温水浴3層中に順次1分間ずつ浸漬した。精練中の織物を安定搬送するため、ダンサーロールで経張力を0.22N/cmに制御した。引き続き、110℃の熱風で3分間乾燥させた。
さらに、無溶媒付加型シリコーン樹脂をエアナイフコーティング法にて20g/m2塗布量となるようにコーティングした。このとき、経方向に基布張力を580N/mとし、所望の塗布量となるようにナイフ刃厚を選んだ。
引続き、ピンテンター熱処理機を用い、経のオーバーフィード縮み分が2.0%、幅出し分が0%とし、190℃で2分間処理してエアバッグ用コート基布を得た。織密度と構成糸繊度からカバーファクターが2145であった。
得られた基布の物性を以下の表1に記す。寸法安定性は、経方向の変化率が大きいため経変化を採用した。湿熱処理による燃焼速度の増加が抑えられている。さらに、コート面を下にした燃焼速度は、織物面下にした燃焼速度に対して大きめだが、湿熱処理後もその程度を保っている。
【0053】
[実施例2~4]
織物をオープンソーパー型精練機にて精練する際、温水浴の温度を以下の表1に記載の温度にした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0054】
[比較例1]
織物をオープンソーパー型精練機にて精練する際、中性の80℃温水浴3層中に順次1分間ずつ浸漬した後、110℃で3分間乾燥させたことを除いて、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
湿熱処理による燃焼速度の増加が大きい。さらに、コート面を下にした燃焼速度は、織物面下にした燃焼速度を基準にして大きめで、湿熱処理後はその差が大きい。
【0055】
[実施例5~7、比較例2]
ナイフコーティング後の、ピンテンター熱処理機を用いた加硫セット工程において、経のオーバーフィード縮み分を以下の表1又は2に記載の値にした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
比較例2では、湿熱処理による燃焼速度の増加が大きい。さらに、コート面を下にした燃焼速度は、織物面下にした燃焼速度を基準にして大きめで、湿熱処理後はその差が大きい。
【0056】
[実施例8]
生機をオープンソーパー型精練機にて精練する際、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/lとソーダ灰0.5g/lを含んだ60℃温水浴中に1分間浸漬滞留した後、中性の60℃温水浴3層中に順次1分間ずつ浸漬した後、110℃で3分間乾燥させたことを除いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
ナイフコーティング後に、ピンテンター熱処理機を用い、経のオーバーフィード縮み分が1.5%、幅出し分が0%とし、190℃で2分間処理してエアバッグ用コート基布を得たことを除いて、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0057】
[比較例3]
ナイフコーティング後の、ピンテンター熱処理機を用いた加硫セット工程において、経のオーバーフィード縮み分を0.5%とした以外は、実施例8と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
湿熱処理による燃焼速度の増加が多い。
【0058】
[比較例4]
生機をオープンソーパー型精練機にて精練する際、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/lとソーダ灰0.5g/lを含んだ30℃温水浴中に1分間浸漬滞留した後、中性の30℃温水浴に1分間浸漬した後、110℃で3分間乾燥させた。また、ナイフコーティング後の、ピンテンター熱処理機を用いた加硫セット工程において、経のオーバーフィード縮み分を1.0%とした。それらを除いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0059】
[実施例9]
末端封鎖をせず、次亜リン酸を重合触媒とし、ヨウ化銅とヨウ化カリウムを熱安定剤とするポリアミド6・6ポリマーを重合してチップで払い出し、さらに、固相重合した。
ポリマーチップを吐出し、脂肪族合成エステル系の紡糸油剤を付与した上で延伸し、ポリアミド6・6繊維470dtex136フィラメントを得た。この繊維は、リン元素を10ppm含有し、銅元素が60ppmであり、ヨウ素元素が1800ppmであった。カルボキシル末端基濃度とアミノ末端基濃度の差が50ミリモル当量/kgポリマーである。繊維中のシクロペンタノン類は400ppmであった。
この繊維で実施例1と同様にエアバッグ用基布を得た。湿熱処理による燃焼速度の増加が抑えられている。さらに、コート面を下にした燃焼速度は、織物面下にした燃焼速度を基準にして大きめだが、湿熱処理後もその程度を保っている。
【0060】
[比較例5]
生機をオープンソーパー型精練機にて精練する際、アルカリ洗液を用いず、中性の80℃温水浴3層中に順次1分間ずつ浸漬した後、110℃で3分間乾燥させたことを除いて実施例10と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
湿熱処理による燃焼速度の増加が大きい。
【0061】
[実施例10]
実施例9でポリアミド6・6ポリマーを重合する際、等モルモノマー塩にヘキサメチレンジアミンを追加し、カルボキシル末端基濃度とアミノ末端基濃度の差が小さくなるようにした。ポリマーチップを吐出し、脂肪族合成エステル系の紡糸油剤を付与した上で延伸し、ポリアミド6・6繊維470dtex136フィラメントを得た。この繊維は、リン元素を10ppm含有し、銅元素が60ppmであり、ヨウ素元素が1800ppmであった。カルボキシル末端基濃度とアミノ末端基濃度の差が5ミリモル当量/kgポリマーである。繊維中のシクロペンタノン類は400ppmであった。この繊維で実施例1と同様にエアバッグ用基布を得た。
【0062】
[実施例11]
織物をオープンソーパー型精練機にて精練する際、織物搬送の張力を1.5N/cmとした以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0063】
[実施例12]
織物をオープンソーパー型精練機にて精練する際、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/lとソーダ灰0.5g/lを含んだ80℃温水浴中に1分間浸漬滞留した後に、中性の80℃温水浴浸漬をせずに熱風乾燥工程へと続けた以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を得た。
【0064】
上記実施例1~12、比較例1~5の条件、物性結果等を以下の表1、2に示す。
【表1】
【0065】
本発明のエアバッグ基布は、環境条件下での難燃性が安定化され、コーティング基布の表裏両面での難燃性の差が小さく維持される。このため、エアバッグクッションとしてコーティング表裏両面を区別なく使用可能な基布になる。コーティング面を表出させてコーティング膜の被覆でエアバッグクッション内面を環境条件から保護するエアバッグクッション設計も可能となる。より厳しい環境条件下での難燃性が安定化されており、客室外装着のエアバッグにも好適に用いることができる。