(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150692
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池、電池パック、電気自動車及びエネルギー貯蔵装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/64 20060101AFI20241016BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20241016BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241016BHJP
【FI】
H01M4/64 A
H01M50/531
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119536
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2022573150の分割
【原出願日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】202010478294.4
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BYD Company Limited
【住所又は居所原語表記】No. 3009, BYD Road, Pingshan, Shenzhen, Guangdong 518118, P. R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼▲華▼▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】王高武
(72)【発明者】
【氏名】林文生
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼玲
(72)【発明者】
【氏名】朱燕
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱暴走の問題を効果的に解決し、使用安全性を向上させることができるリチウムイオン電池、動力電池モジュール、電池パック、電気自動車及びエネルギー貯蔵装置を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池は、ケースと、前記ケース内に封止された電極体とを含み、前記電極体は、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に位置するセパレータとを含み、前記正極シートは、正極集電体と、前記正極集電体に担持された正極材料層とを含み、正極集電体、正極材料層、負極シート及びセパレータのうちの融点が最も低いものを有効部材として定義し、前記有効部材は、下式の条件を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、前記ケース内に封止された電極体とを含み、
前記電極体は、セパレータを挟んで交互に積層された複数の正極シート及び負極シートを含む積層状電極体、又は、積層され捲回された正極シート、セパレータ及び負極シートを含む捲回状電極体であり、前記正極シートは、正極集電体と、前記正極集電体に担持された正極材料層とを含み、前記正極集電体を有効部材として定義し、前記有効部材は、以下の条件を満たし、
【数1】
ここで、Lは、前記有効部材の第1方向での寸法であり、Lの単位がmであり、Wは、前記有効部材の第2方向での寸法であり、Wの単位がmであり、d
2は、前記有効部材の厚さであり、d
2の単位がmであり、ρは、前記有効部材の密度であり、ρの単位がkg/m
3であり、C
pは、前記有効部材の比熱容量であり、C
pの単位がJ/(Kg・℃)であり、前記第1方向は、前記有効部材における電流の引き出し方向と平行であり、前記第2方向は、前記第1方向と交差する、ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記有効部材は、以下の条件を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【数2】
【請求項3】
前記正極集電体の1つの辺に正極タブが引き出され、前記第1方向は、前記正極タブの引き出し方向と平行である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記第2方向は、前記第1方向と垂直である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記正極集電体は、
前記正極集電体の厚さd2の値の範囲が6μm~15μmの間にあるという条件と、
前記正極集電体の密度ρの値の範囲が2000kg・m-3~3000kg・m-3の間にあるという条件と、
前記正極集電体の比熱容量Cpの値の範囲が800J・kg-1・K-1~900J・kg-1・K-1の間にあるという条件と、
前記正極集電体の第1方向での寸法Lと前記正極集電体の第2方向での寸法Wとの比L/wの値の範囲は、0~30の間にあるという条件とのうちの少なくとも1つを満たす、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記正極集電体の材料は、アルミニウムを含む、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記電極体は、
前記正極材料層がリン酸鉄リチウム材料を含むという条件と、
前記負極シートが黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、ケイ素系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含む負極活物質を含むという条件とのうちの少なくとも1つを満たす、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記リチウムイオン電池が長方形電池であるという条件と、
前記リチウムイオン電池の長さが500mm~2500mmであるという条件とのうちの少なくとも1つを満たす、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記ケース内に封止された電極体は、複数であり、複数の前記電極体は、直列接続された複数の電極体群に分けられる、ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記ケースと前記電極体との間に封止膜がさらに設置され、前記電極体は、封止膜内に封止される、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
少なくとも1つの請求項1~10のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を含む、ことを特徴とする電池パック。
【請求項12】
請求項11に記載の電池パックを含む、ことを特徴とする電気自動車。
【請求項13】
請求項11に記載の電池パックを含む、ことを特徴とするエネルギー貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、リチウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、リチウムイオン電池、電池パック、電気自動車及びエネルギー貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、独特な特徴でますます多くの分野で応用され、特に動力電池は、より急速に発展する。リチウム電池を電気自動車の主なエネルギー供給源とする場合、特に近年、三元系電池が広い範囲で使用されるため、リチウムイオン動力電池が熱暴走(電池の発熱の連鎖反応による、電池の昇温速度が急激に変化する過熱、発火、爆発の現象)して、発火し、爆発する事故が発生する場合があり、電池パックにおいて、一旦1つの電池が熱暴走すると常に電池パック又は電池システムにおける隣接する電池の熱暴走を誘発し、すなわち熱拡散するので、電池パック全体が暴走し、発火爆発などの重大な結果を招く。現在、リチウムイオン電池は、使用安全性について依然として挑戦に直面する。
【発明の概要】
【0003】
本願は、関連技術における技術的課題の1つを少なくともある程度解決しようとする。このため、本願の1つの目的は、熱暴走の問題を効果的に解決し、使用安全性を向上させることができるリチウムイオン電池を提供することである。
【0004】
本願の一態様において、本願は、リチウムイオン電池を提供する。本願の実施例によれば、該リチウムイオン電池は、ケースと、前記ケース内に封止された電極体とを含み、前記電極体は、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に位置するセパレータとを含み、前記正極シートは、正極集電体と、前記正極集電体に担持された正極材料層とを含み、正極集電体、正極材料層、負極シート及びセパレータのうちの融点が最も低いものを有効部材として定義し、前記有効部材は、以下の条件を満たし、
【数1】
ここで、Lは、前記有効部材の第1方向での寸法であり、Lの単位がmであり、Wは、前記有効部材の第2方向での寸法であり、Wの単位がmであり、d
2は、前記有効部材の厚さであり、d
2の単位がmであり、ρは、前記有効部材の密度であり、ρの単位がkg/m
3であり、C
pは、前記有効部材の比熱容量(本明細書において熱容量、比熱容量及び比熱は相互に交換して使用できる)であり、C
pの単位がJ/(Kg・℃)(すなわちJ/(Kg・K))であり、前記第1方向は、前記有効部材における電流の引き出し方向と平行であり、前記第2方向は、前記第1方向と交差する。該リチウムイオン電池において、電極体部材の異なる方向での寸法などのパラメータを合理的に最適化し設計することにより、電池の安全性を大幅に向上させ、上記条件を満たすリチウムイオン電池は、電池の熱暴走又は熱拡散の発生確率を効果的に低下させ、電池の発熱による隣接する電池又は外部への損傷を回避する。
【0005】
本願の別の態様によれば、本願は、リチウムイオン電池を提供し、前記リチウムイオン電池は、ケースと、前記ケース内に封止された電極体とを含み、前記電極体は、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に位置するセパレータとを含み、前記正極シートは、正極集電体と、前記正極集電体に担持された正極材料層とを含み、前記正極集電体は、以下の条件を満たし、
【数2】
ここで、Lは、前記正極集電体の第1方向での寸法であり、Lの単位がmであり、Wは、前記正極集電体の第2方向での寸法であり、Wの単位がmであり、d
2は、前記正極集電体の厚さであり、d
2の単位がmであり、ρは、前記正極集電体の密度であり、ρの単位がkg/m
3であり、C
pは、前記正極集電体の比熱容量であり、C
pの単位がJ/(Kg・℃)であり、前記第1方向は、前記正極集電体における電流の引き出し方向と平行であり、前記第2方向は、前記第1方向と交差する。
【0006】
本願の別の態様において、本願は、電池パックを提供する。本願の実施例によれば、該動力電池モジュール又は電池パックは、少なくとも1つの前述したリチウムイオン電池を含む。該電池パックに熱暴走及び熱拡散が発生する可能性が明らかに低下し、使用安全性が明らかに向上する。
【0007】
本願のさらなる態様において、本願は、電気自動車又はエネルギー貯蔵装置を提供する。本願の実施例によれば、該電気自動車又はエネルギー貯蔵装置は、前述した電池パックを含む。該電気自動車は、非常に優れた安全性及び長い耐用年数を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本願の一実施例の積層状電極体の概略構成図である。
【
図2】
図1における正極シートのA-A線に沿った断面概略構成図である。
【
図3】本願の一実施例の捲回状電極体を構成する積層体の展開状態の概略構成図である。
【
図4】本願の一実施例の捲回状電極体の概略構成図である。
【
図5】本願の一実施例の捲回状電極体の概略構成図である。
【
図6】
図4及び
図5における1つの捲回部の平面概略構成図である。
【
図7】
図6におけるB-B線に沿った断面概略構成図である。
【
図8】本願の別の実施例の1つの捲回部の平面概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本願の実施例を詳細に説明する。以下に説明する実施例は例示的なものであり,本願を解釈するために用いられ,本願を限定するものと理解すべきではない。実施例において具体的な技術又は条件を明記せず,本分野の文献に記載された技術又は条件に応じて又は製品の明細書に従って行う。使用した試薬又は機器は、製造業者を明記していないが、いずれも市販されている従来の製品である。
【0010】
本願の一態様において、本願は、リチウムイオン電池を提供する。本願の実施例によれば、該リチウムイオン電池は、ケースと、上記ケース内に封止された電極体とを含み、上記電極体は、正極シートと、負極シートと、上記正極シートと上記負極シートとの間に位置するセパレータとを含み、上記正極シートは、正極集電体と、上記正極集電体に担持された正極材料層とを含み、正極集電体、正極材料層、負極シート及びセパレータのうちの融点が最も低いものを有効部材として定義し、上記有効部材は、以下の条件を満たし、
【数3】
ここで、Lは、上記有効部材の第1方向での寸法であり、Lの単位がmであり、Wは、上記有効部材の第2方向での寸法であり、Wの単位がmであり、d
2は、上記有効部材の厚さであり、d
2の単位がmであり、ρは、上記有効部材の密度であり、ρの単位がkg/m
3であり、C
pは、上記有効部材の比熱容量であり、C
pの単位がJ/(Kg・℃)であり、上記第1方向は、上記有効部材における電流の引き出し方向と平行であり、上記第2方向は、上記第1方向と交差する。該リチウムイオン電池において、電極体部材の異なる方向での寸法などのパラメータを合理的に最適化し設計することにより、電池の安全性を大幅に向上させ、上記条件を満たすリチウムイオン電池は、電池の熱暴走又は熱拡散の発生確率を効果的に低下させるとともに、何らかの追加の部材がなく、電池システムの設計を変更せず、余計なコストを追加しない。また、本願のリチウムイオン電池において、A値が大きいほど、電池の安全性が相対的に低下し、850を超えると、電池内部構造の設計により、生成された熱をタイムリーに排出することができず、電池の安全性が低下し、A値が小さいほど、電池のスペースの浪費が深刻であり、電池形状が電気自動車内の電池の配置に不利である。
【0011】
いくつかの実施例では、上記有効部材は、以下の条件を満たす。
【数4】
【0012】
これにより、リチウムイオン電池の安全性がさらに向上し、熱暴走及び熱拡散の発生確率がさらに低下する。
【0013】
具体的には、本願の発明者は、以下の2つの方程式及びモデルに基づいて合理的な設計及び最適化を行い、本願のリチウムイオン電池を得て、具体的には以下のとおりである。
以下の一般的な熱平衡方程式に基づいて、
【数5】
境界条件は、
【数6】
であり、
ここで、ρは、システムにおける所定の成分の密度を表し、Tは、システムが熱平衡に達したときの温度を表し、tは、時間を表し、C
pは、所定の成分の比熱を表し、kは、熱伝導係数を表し、Qは、生成された熱量を表し、hは、ケースと空気の熱係数を表し、Eは、起電力を表し、Uは、端子電圧を表し、Iは、充放電電流を表し、T
surfaceは、システムの表面温度を表し、T
roomは、室温を表す。
【0014】
1次元熱拡散モデルについて、以下のとおりである。
【数7】
ここで、Qは、t=0の時点にx=0点で与えられた熱量であり、ΔTは、ゼロ点からx=R離れた箇所での温度の室温に対する増分値であり、ρは、熱伝導体の密度であり、cは、熱伝導体の比熱容量であり、δは、熱伝導体の厚さであり、αは、熱伝導係数α=k/(ρc)であり、kは、熱伝導体の熱伝導率であり、m
2=2h/(kδ)である。
【0015】
上記方程式及びモデルに基づき、発明者の実際の研究経験を組み合わせ、かつ以下の原則に従って、発明者は、本願を提出する。熱暴走は、電池内部での短絡によるものが多く、短絡すると、短絡点での温度が急速に上昇することがあり、電池の熱暴走を引き起こし、さらに発火又は爆発を引き起こしやすい。本願のリチウムイオン電池では、電池における有効部材の寸法、熱力学などのパラメータを制御することにより、電池が短絡したときに短絡点を迅速に溶断させて、短絡点を切断し、熱量のさらなる生成を阻止するとともに、材料が暴走点に達しないことを保証することにより、電池の安全を大幅に保証し、さらに熱暴走現象の発生を回避し、電池の安全性を大幅に向上させることができる。
【0016】
具体的には、本願のリチウムイオン電池は、液体電池、固体電池又はポリマー電池であってもよく、液体電池及びポリマー電池は、正極シートと、負極シートと、正極シートと負極シートとの間に位置する分離フィルム(すなわちセパレータ)とを含んでもよく、当然のことながら、電極体は、電解液をさらに含み、固体電池は、正極シートと、負極シートと、正極シートと負極シートとの間に位置する固体電解質層(すなわちセパレータ)とを含む。
【0017】
いくつかの実施例では、負極シートは、負極集電体と、負極集電体に担持された負極材料層とを含んでもよく、このような実施形態では、正極集電体、正極材料層、負極集電体、負極材料層及びセパレータのうちの融点が最も低いものを有効部材として定義する。
【0018】
別のいくつかの実施例では、負極シートは、リチウム箔、リチウムリボンであってもよく、このような実施形態では、正極集電体、正極材料層、リチウム箔(又はリチウムリボン)及びセパレータのうちの融点が最も低いものを有効部材として定義する。
【0019】
さらなるいくつかの実施例では、負極シートは、多孔質集電体と、多孔質集電体に堆積された負極活物質とを含んでもよい。このような実施例では、正極集電体、正極材料層、多孔質集電体及びセパレータのうちの融点が最も低いものを有効部材として定義する。
【0020】
また、正極シートと負極シートには、それぞれ、電流を引き出す正極タブと負極タブが設置され、具体的には、正極シートと負極シートにおける1つの辺にそれぞれ正極タブと負極タブが引き出され、かつ正極タブと負極タブは、同一側に設置されてもよく(
図8を参照)、対向して設置されてもよく(
図1及び
図7を参照)、タブの引き出し方向は、電流の引き出し方向である。
【0021】
電極体において、複数の正極シート10及び負極シート20は、順に交互に積層して設置されて積層状電極体(概略構成図は
図1を参照)を構成し、隣接する正極シートと負極シートとの間にセパレータが設置されてもよく、正極シート、セパレータ及び負極シートは、積層して設置されてから捲回されて捲回状電極体(概略構成図は
図2を参照)を構成してもよく、具体的な方式は、いずれも従来の技術を参照しながら行うことができ、ここで説明を省略する。
【0022】
なお、積層状電極体については、具体的には、
図1に示すように、交互に積層して設置された複数の正極シート10及び負極シート20を含み、隣接する正極シート10と負極シート20との間にセパレータ(図示せず)が設置される。この場合、Lは、1つの有効部材の第1方向での寸法であり、Wは、1つの有効部材の第2方向での寸法であり、d
2は、1つの有効部材の厚さ(積層方向に沿った寸法)である。
【0023】
捲回状電極体については、具体的には、
図3、
図4、
図5、
図6及び
図7に示すように、正極シート10、負極シート20及びセパレータ40は、積層して設置されてから捲回され、具体的には、順に積層して設置された正極シート10、セパレータ40及び負極シート20を積層体30として定義し、積層体30は、順に連なる複数の捲回部31(
図3を参照)に分割され、捲回状態にある際、複数の捲回部31は、順に積層して設置され(
図4を参照)、この場合、Lは、1つの捲回部における有効部材の第1方向での寸法であり、Wは、複数の捲回部における有効部材の第2方向での寸法の平均値であり、d
2は、1つの捲回部における有効部材の厚さである。
【0024】
なお、本明細書に記載された第2方向が第1方向と交差することは、具体的には、第1方向と第2方向とのなす角が0度より大きく90度以下であってもよいことを意味し、いくつかの具体的な実施例では、第1方向と第2方向とのなす角は、具体的に90度であってもよく、すなわち第1方向は、第2方向と垂直であってもよい。
【0025】
具体的には、リチウムイオン電池における各部材の一般的な材料によれば、一般的に正極集電体の融点が低く、熱暴走の際に正極集電体が溶断したときに電極材料が暴走しないため、電池の安全を大幅に保証することができる。熱暴走を引き起こす電池内部の様々な短絡形態、例えば正極材料と負極材料との間の短絡、正極集電体と負極シートとの間の短絡、負極集電体と正極シートとの間の短絡などのうち、正極集電体と負極材料が接触して短絡した後に生成される熱量が最大であり、実験によると、短絡すると、短絡点での温度が200℃まで急速に上昇することがあるため、材料の暴走を引き起こし、さらに発火又は爆発を引き起こしやすい。本願のリチウムイオン電池において、短絡点が溶断したときに材料が暴走点に達しないことを保証することを基本的な目的とし、正極集電体を有効部材として選択することにより、熱暴走及び熱拡散を効果的に回避し、さらに電池の使用安全性を大幅に向上させることができる。
【0026】
以下に正極集電体を有効部材とし、本願の解決手段をさらに詳細に説明する。
【0027】
本願の実施例によれば、
図1及び
図2に示すように、正極シート10の1つの辺に正極タブ11がさらに引き出され、具体的には、正極タブの引き出し方向は、正極集電体における電流の引き出し方向であるため、この場合、第1方向は、正極タブの引き出し方向と平行である。
【0028】
具体的には、正極タブは、正極集電体に溶接されてもよく、正極集電体から切り出されて形成されてもよく、すなわち正極タブと正極集電体は、一体成形されてもよい。なお、正極タブがどのような方式で正極集電体から引き出されても、正極集電体の第1方向に沿った寸法は、いずれも正極タブの第1方向に沿った寸法を含まない。理解できるように、負極タブの状況は、正極タブと同じであってもよく、ここでは説明を省略する。さらに、第2方向は、実際の状況に応じて選択されてもよく、いくつかの具体的な実施例では、第2方向は、第1方向と垂直である。これにより、上記条件との整合度がより高く、熱暴走及び熱拡散の発生確率がより低く、電池の安全性がより高い。
【0029】
いくつかの実施例では、
図1及び
図2に示すように、リチウムイオン電池における電極体は、積層状電極体であってもよく、上記積層状電極体は、交互に積層して設置された複数の正極シート10及び負極シート20を含み、Lは、1つの正極シート10における上記正極集電体12の上記第1方向での寸法であり、Wは、1つの正極シート10における上記正極集電体12の上記第2方向での寸法であり、d
2は、1つの正極シート10における上記正極集電体12の厚さであり、
図1及び
図2に示す電極体において、L、W及びd
2は、図に示すとおりである。
【0030】
別のいくつかの実施例では、リチウムイオン電池における電極体は、捲回状電極体であってもよく、
図3~
図7に示すように、上記捲回状電極体は、順に連なる複数の捲回部31に分割された積層体30を捲回して構成され、上記捲回状電極体において、複数の捲回部31は、積層して設置され、各上記捲回部31は、順に積層して設置された正極シート10、セパレータ40及び負極シート20を含み、Lは、1つの上記捲回部31における上記正極集電体12の上記第1方向での寸法であり、Wは、複数の上記捲回部31における上記正極集電体12の上記第2方向での寸法の平均値であり、d
2は、1つの上記捲回部31における上記正極集電体12の厚さであり、具体的には、
図3~
図7に示す捲回状電極体において、W=(W1+W2+W3+W4+W5)/5、Lは図に示すとおりである。
【0031】
いくつかの実施例では、上記正極集電体の材料は、アルミニウム、例えばアルミニウム箔を含み、負極集電体は、銅箔である。電池の各パラメータ(有効部材の層数、異なる方向での寸法、厚さ、比熱容量などのパラメータ)を合理的に設計する場合、アルミニウムが低融点であることとの組み合わせにより、短絡点が溶断したときに材料が暴走しないことを効果的に保証することができる。これにより、熱暴走及び熱拡散を回避し、リチウムイオン電池の安全性を大幅に保証する。
【0032】
いくつかの具体的な実施例では、上記正極集電体の厚さd2の値の範囲は、6μm~15μmの間(具体的には、例えば6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μmなど)にあってもよく、上記正極集電体の密度ρの値の範囲は、2000kg・m-3~3000kg・m-3の間(具体的には、例えば2000kg・m-3、2100kg・m-3、2200kg・m-3、2300kg・m-3、2400kg・m-3、2500kg・m-3、2600kg・m-3、2700kg・m-3、2800kg・m-3、2900kg・m-3、3000kg・m-3など)にあり、上記正極集電体の比熱容量Cpの値の範囲は、800J・kg-1・℃-1~900J・kg-1・℃-1の間(具体的には、例えば800J・kg-1・℃-1、810J・kg-1・℃-1、820J・kg-1・℃-1、830J・kg-1・℃-1、840J・kg-1・℃-1、850J・kg-1・℃-1、860J・kg-1・℃-1、870J・kg-1・℃-1、880J・kg-1・℃-1、890J・kg-1・℃-1、900J・kg-1・℃-1など)にある。具体的には、d2、ρ、Cpは、正極集電体の熱特性であり、三者の積が大きいほど、短絡点が溶断しにくく、暴走リスクも大きくなるが、上記範囲内にあることにより、短絡点が溶断したときに材料が暴走しないことを効果的に保証することができ、電池の安全性をよりよく保証する。
【0033】
いくつかの具体的な実施例では、上記正極集電体の第1方向での寸法Lと上記正極集電体の第2方向での寸法Wとの比L/wの値の範囲は、0~30の間(具体的には、例えば1、2、5、8、10、12、15、18、20、22、25、28、30など)にある。L/wは、電池内部のオーム抵抗を決定し、L/wが大きいほど、オーム抵抗が大きくなり、電池の発熱が大きくなり、またL/wは、正極集電体の抵抗の大きさを決定し、その値が大きいほど、電極体が短絡点で溶断するに至るまでの総発熱量が大きくなり、暴走リスクも大きくなる。上記範囲内にあることにより、電池の正常な動作を保証することができるとともに、暴走リスクが低く、発熱量を一定の範囲内に制御することにより、電池の発熱による隣接する電池又は外部への損傷を回避することができる。
【0034】
いくつかの具体的な実施例では、本願のリチウムイオン電池において、正極材料層及び負極活物質の具体的な種類は、特に限定されず、当業者であれば、実際の必要に応じて柔軟に選択し調整することができる。いくつかの具体的な実施例では、正極材料層は、リン酸鉄リチウム材料を含んでもよい。いくつかの具体的な実施例では、負極シートは、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、ケイ素系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含んでもよい負極活物質を含む。これにより、上記熱暴走条件との整合度がより高く、リチウムイオン電池の熱暴走リスクがより低い。
【0035】
いくつかの具体的な実施例では、上記リチウムイオン電池は、長方形電池であってもよく、さらに、上記リチウムイオン電池の長さは、500mm~2500mm(具体的には、例えば500mm、800mm、1000mm、1500mm、1800mm、2000mm、2200mm、2500mmなど)であってもよい。具体的には、一定の強度を持つケース(好ましくは金属ケース)を有するリチウムイオン電池であってもよい。該形状及び寸法範囲内にあるリチウムイオン電池は、上記熱暴走条件との整合度がより高く、上記熱暴走条件に基づき、リチウムイオン電池がより低い熱暴走リスクを有するように正確に制御することができる。
【0036】
理解できるように、これまで説明した部材以外に、リチウムイオン電池は、従来のリチウムイオン電池に必要な構造及び部材をさらに有してもよく、例えば電解液又は固体電解質、必要な接続配線などを含んでもよく、具体的にはいずれも従来の技術を参照しながら行うことができ、ここで説明を省略する。
【0037】
いくつかの具体的な実施例では、上記ケース内に封止された電極体は、複数であり、複数の上記電極体は、直列接続された複数の電極体群に分けられる。具体的には、例えば、ケース内に封止された電極体が15個であり、5個ずつの電極体が1つの電極体群に分けられると、ケース内には、直列接続された3個の電極体群が含まれる。
【0038】
いくつかの具体的な実施例では、上記ケースと上記電極体との間に封止膜がさらに設置され、上記電極体は、封止膜内に封止される。これにより、電極体をよりよく保護し、破損などの問題を回避し、電池の安全性を向上させ、電池の耐用年数を延長することができる。
【0039】
本願の別の態様において、本願は、リチウムイオン電池を提供する。本願の実施例によれば、上記リチウムイオン電池は、ケースと、上記ケース内に封止された電極体とを含み、上記電極体は、正極シートと、負極シートと、上記正極シートと上記負極シートとの間に位置するセパレータとを含み、上記正極シートは、正極集電体と、上記正極集電体に担持された正極材料層とを含み、上記正極集電体は、以下の条件を満たし、
【数8】
ここで、Lは、上記正極集電体の第1方向での寸法であり、Lの単位がmであり、Wは、上記正極集電体の第2方向での寸法であり、Wの単位がmであり、d
2は、上記正極集電体の厚さであり、d
2の単位がmであり、ρは、上記正極集電体の密度であり、ρの単位がkg/m
3であり、C
pは、上記正極集電体の比熱容量であり、C
pの単位がJ/(Kg・℃)であり、上記第1方向は、上記正極集電体における電流の引き出し方向と平行であり、上記第2方向は、上記第1方向と交差する。
【0040】
理解できるように、該リチウムイオン電池に係るケース、正極シート、負極シート及びセパレータは、いずれもここまでの記載で説明したものと同一であってもよく、ここでは説明を省略する。
【0041】
本願の別の態様において、本願は、動力電池モジュールを提供する。本願の実施例によれば、該動力電池モジュールは、少なくとも1つの前述したリチウムイオン電池を含む。該動力電池モジュールに熱暴走及び熱拡散が発生する可能性は明らかに低下しており、使用安全性が明らかに向上している。
【0042】
具体的には、該動力電池モジュールにおいて、複数のリチウムイオン電池は、直列接続、並列接続及びその組み合わせの方式で接続されてもよく、一部のリチウムイオン電池が接続されてモジュールを構成し、複数のモジュールがさらに接続されて動力電池モジュールを構成してもよく、当然のことながら、具体的には実際の必要に応じて設計及び選択を行うことができ、ここで説明を省略する。
【0043】
本願のさらなる態様において、本願は、電池パックを提供する。本願の実施例によれば、該電池パックは、少なくとも1つの前述したリチウムイオン電池又は前述した動力電池モジュールを含む。該電池パックは、高い使用安全性及び長い耐用年数を有する。
【0044】
本願のさらなる態様において、本願は、電気自動車を提供する。本願の実施例によれば、該電気自動車は、前述した動力電池モジュール又は前述した電池パックを含む。該電気自動車は、非常に優れた安全性及び長い耐用年数を有する。
【0045】
理解できるように、前に説明された動力電池モジュール以外に、該電気自動車は、従来の電気自動車に必要な構造及び部材、例えば車体、タイヤ、モータ、フレーム、内装などをさらに含んでもよく、具体的には従来の技術に基づいて行うことができ、ここで説明を省略する。
【0046】
本願の別の態様において、本願は、エネルギー貯蔵装置を提供する。本願の実施例によれば、エネルギー貯蔵装置は、前述した動力電池モジュール又は前述した電池パックを含む。該エネルギー貯蔵装置は、熱暴走及び熱拡散の発生確率が明らかに低下し、優れた安全性及び長い耐用年数を有する。以下に本願の実施例を詳細に説明する。
【0047】
以下の実施例及び比較例において動力電池モジュールが使用され、動力電池モジュールは、複数のリチウムイオン電池を直列接続して形成され、各リチウムイオン電池は、積層電池であり、正極集電体は、アルミニウム箔であり、正極材料は、リン酸鉄リチウム材料であり、負極集電体は、銅箔であり、負極材料は、黒鉛であり、分離フィルムは、ポリオレフィン分離フィルムであり、電解液は、六フッ化リン酸リチウム有機電解液であり、リチウムイオン電池は、長さが1000mmである長方形電池である。
【0048】
性能試験:
釘刺試験は、『GB/T 31485-2015電気自動車用動力バッテリの安全要件及び試験方法』の方法により行われ、具体的な釘刺手順は、以下のとおりである。
【0049】
充電:室温で、バッテリセルは、まず1C+0.2Cの電流で終止電圧2.0Vまで放電し、30min置き、次に1C+0.2Cの電流で3.8Vまで充電された。
【0050】
釘刺:直径テーパが45°~60°の耐高温鋼針(針の表面が滑らかであり、錆、酸化層及び油汚れがない)を(25±5)mm/sの速度でバッテリの極板に垂直な方向から貫通させ、好ましくは貫通位置を穿刺面の幾何学的中心に近接させ、鋼針をバッテリに留めて1h観察した。
【0051】
各実施例及び比較例のパラメータ及び試験結果は、以下の表に示すとおりである。
【表1】
【数9】
【0052】
試験結果から分かるように、Aが850より大きい場合、電池は、釘刺実験に合格できず、熱暴走が発生したが、Aが850より小さく3より大きい場合、電池は、釘刺実験に合格でき、熱暴走が発生せず、これは、本願の条件を満たすリチウムイオン電池がより低い暴走リスク及びより高い安全性を有することを説明する。
【0053】
本明細書の説明において、用語「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」又は「いくつかの例」などを参照する説明は、該実施例又は例を組み合わせて説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性が本願の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記用語の例示的な表現は、必ずしも同じ実施例又は例を意味するわけではない。また、説明された具体的な特徴、構造、材料又は特徴は、いずれか1つ又は複数の実施例又は例において適切な方式で結合することができる。また、互いに矛盾しない限り、当業者であれば、本明細書において説明された異なる実施例又は例、及び異なる実施例又は例の特徴を結合するか又は組み合わせることができる。
【0054】
以上、本願の実施例を示し、説明したが、理解できるように、上記実施例は、例示的なものであり、本願を限定するものと理解すべきではなく、当業者であれば、本願の範囲で上記実施例に対して変更、修正、交換及び変形を行うことができる。