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特開2024-150773設備点検方法、及び、設備点検システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150773
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】設備点検方法、及び、設備点検システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20241016BHJP
   G06F 3/04845 20220101ALI20241016BHJP
   G06T 19/00 20110101ALI20241016BHJP
【FI】
G06F3/01 510
G06F3/04845
G06T19/00 600
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130543
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2023047638の分割
【原出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】森下 力
(72)【発明者】
【氏名】谷本 絢太
(72)【発明者】
【氏名】山本 高嗣
(57)【要約】
【課題】好適に設備の点検を行うことが可能な設備点検方法を提供する。
【解決手段】予め取得した点検対象設備の建屋全体の三次元点群データがHMD10(ヘッドマウントディスプレイ)の表示部11に表示され、前記表示部11を通して前記装着者が視認する現実空間に前記三次元点群データを前記装着者が重ね合わせるマッチング工程(ステップS103)と、前記HMD10が、前記三次元点群データに予め設定された点検箇所を示すタグを、前記表示部11に表示するタグ表示工程(ステップS105)と、前記タグに応じて前記点検箇所の点検を前記装着者が行う点検工程(ステップS106)と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め取得した点検対象設備の建屋全体の三次元点群データが、装着者が装着したヘッドマウントディスプレイの表示部に表示され、前記表示部を通して前記装着者が視認する現実空間に前記三次元点群データを前記装着者が重ね合わせるマッチング工程と、
前記ヘッドマウントディスプレイが、前記三次元点群データに予め設定された点検箇所を示すタグを、前記表示部に表示するタグ表示工程と、
前記タグに応じて前記点検箇所の点検を前記装着者が行う点検工程と、
を含む設備点検方法。
【請求項2】
前記点検工程において、
前記装着者が前記タグを選択することで、選択された前記タグに対応する前記点検箇所の管理台帳が前記表示部に表示され、前記装着者が前記管理台帳に点検結果を入力する、
請求項1に記載の設備点検方法。
【請求項3】
前記点検工程において入力された点検結果に異常があると判定された場合、前記ヘッドマウントディスプレイが、異常がある前記点検箇所と関連付けられた他の前記点検箇所の点検を優先的に行うように促すための報知を行う報知工程をさらに含む、
請求項2に記載の設備点検方法。
【請求項4】
前記マッチング工程において、
前記現実空間と前記三次元点群データの位置合わせが行われた後、前記表示部における前記三次元点群データの表示が消去される、
請求項1に記載の設備点検方法。
【請求項5】
前記タグ表示工程において、
前記タグは、点検の順番、及び/又は、点検完了の有無を識別可能に表示される、
請求項1に記載の設備点検方法。
【請求項6】
前記マッチング工程において、
前記表示部に前記三次元点群データを移動させるための操作画像が表示され、前記装着者が前記操作画像を操作することによって前記三次元点群データが前記現実空間と対応する位置に移動される、
請求項1に記載の設備点検方法。
【請求項7】
予め取得した点検対象設備の建屋全体の三次元点群データ、及び、前記三次元点群データの点検箇所を記憶する記憶部と、
ヘッドマウントディスプレイに設けられ、前記三次元点群データ及び前記点検箇所を現実空間に重ね合わせて表示可能な表示部と、
を具備し、
前記表示部は、
前記三次元点群データに予め設定された点検箇所を示すタグを表示可能である、
設備点検システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の点検を行うための設備点検方法、及び、設備点検システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、設備の点検を行うための設備点検方法に関する技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、点検対象機器に取り付けたRFIDタグと、RFIDタグとの間でデータを非接触方式で送受可能な携帯情報端末と、携帯情報端末の点検データを蓄積可能な管理用PCと、を使用する点検方法の技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、携帯情報端末でRFIDのデータを読み取ると、RFIDタグが取り付けられた点検対象機器に応じた点検値入力画面が携帯情報端末に表示される。点検作業を行う作業者は、目視で読み取った点検対象機器の点検値を、当該点検値入力画面から入力することができる。このように構成することにより、特許文献1に記載の技術では、点検値を書き込む際に他の機器の入力画面に入力するなどの記入ミスの発生を防止することができる。
【0004】
しかしながら特許文献1に記載の技術では、RFIDタグが点検対象機器に取り付けられているため、点検の対象となる機器を把握することはできるものの、より詳細な点検箇所(その機器のどの部分を点検すべきか等)までは把握することができない。また同一施設内に多数の点検対象機器が存在する場合には、点検対象機器が施設内のどこに設置されているのかを予め把握しておく必要がある。従って特許文献1に記載の技術では、予め点検箇所を理解しているようなある程度熟練した作業者が点検を行う場合には支障がないが、点検作業に慣れていない作業者が点検を行う場合には点検箇所の間違いや、点検作業の効率の低下が発生するおそれがある。そこで、熟練した作業者でなくても、点検箇所を容易に認識することができ、より好適に点検を行うことが可能な設備点検方法、及び、設備点検システムの技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-61262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の一態様は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、点検対象箇所が多数点在する場合においても好適に設備の点検を行うことが可能な設備点検方法、及び、設備点検システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本開示の一態様に係る設備点検方法は、予め取得した点検対象設備の建屋全体の三次元点群データが、装着者が装着したヘッドマウントディスプレイの表示部に表示され、前記表示部を通して前記装着者が視認する現実空間に前記三次元点群データを前記装着者が重ね合わせるマッチング工程と、前記ヘッドマウントディスプレイが、前記三次元点群データに予め設定された点検箇所を示すタグを、前記表示部に表示するタグ表示工程と、記タグに応じて前記点検箇所の点検を前記装着者が行う点検工程と、を含むものである。
【0009】
また、本開示の一態様においては、前記点検工程において、前記装着者が前記タグを選択することで、選択された前記タグに対応する前記点検箇所の管理台帳が前記表示部に表示され、前記装着者が前記管理台帳に点検結果を入力するものである。
【0010】
また、本開示の一態様においては、前記点検工程において入力された点検結果に異常があると判定された場合、前記ヘッドマウントディスプレイが、異常がある前記点検箇所と関連付けられた他の前記点検箇所の点検を優先的に行うように促すための報知を行う報知工程をさらに含むものである。
【0011】
また、本開示の一態様においては、前記マッチング工程において、前記現実空間と前記三次元点群データの位置合わせが行われた後、前記表示部における前記三次元点群データの表示が消去されるものである。
【0012】
また、本開示の一態様においては、前記タグ表示工程において、前記タグは、点検の順番、及び/又は、点検完了の有無を識別可能に表示される、ものである。
【0013】
また、本開示の一態様においては、前記マッチング工程において、前記表示部に前記三次元点群データを移動させるための操作画像が表示され、前記装着者が前記操作画像を操作することによって前記三次元点群データが前記現実空間と対応する位置に移動されるものである。
【0014】
また、本開示の一態様に係る設備点検システムは、予め取得した点検対象設備の建屋全体の三次元点群データ、及び、前記三次元点群データの点検箇所を記憶する記憶部と、ヘッドマウントディスプレイに設けられ、前記三次元点群データ及び前記点検箇所を現実空間に重ね合わせて表示可能な表示部と、を具備し、前記表示部は、前記三次元点群データに予め設定された点検箇所を示すタグを表示可能であるものである。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一態様によれば、点検対象箇所が多数点在する場合においても好適に設備の点検を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る設備点検システムの全体的な構成を示した模式図。
図2】設備点検システムの全体的な構成を示したブロック図。
図3】設備点検方法の一例を示したフローチャート。
図4】表示部を介して現実空間の視界上に三次元点群データが表示された様子を示した図。
図5】三次元点群データを移動させるための立体図形が表示された様子を示した図。
図6】立体図形を用いて三次元点群データを移動させる様子を示した図。
図7】タグを選択して管理台帳が表示された様子を示した図。
図8】次の点検項目を示すタグが表示される様子を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、図1及び図2を用いて、本発明の一実施形態に係る設備点検システム1の全体構成について説明する。
【0018】
設備点検システム1は、種々の設備の点検を行うためのものである。設備点検システム1による点検の対象となる設備は特に限定するものではなく、任意の設備(各種インフラ設備、工場設備等)を点検の対象とすることが可能である。本実施形態では一例として、揚排水機場Aの点検を行うことを想定している。設備点検システム1は、主としてヘッドマウントディスプレイ10及び管理サーバ20を具備する。
【0019】
ヘッドマウントディスプレイ10(以下、単にHMD10と称する)は、点検を行う作業者の頭部に装着され、当該作業者に複合現実を提供するものである。HMD10は、眼鏡型のウェアラブルデバイスにより構成される。HMD10は、主として表示部11、センサ部12、通信部13等を具備する。
【0020】
表示部11は、点検者の視界の前方に配置され、当該点検者に適宜の映像を提供するものである。表示部11は、例えば透明な液晶ディスプレイ等により構成される。点検者は、表示部11越しに見える現実空間に、表示部11に表示された映像を重ね合わせて視認することができる。
【0021】
センサ部12は、各種情報の検出が可能なものである。センサ部12は、各種情報を検出可能な少なくとも1つのセンサにより構成される。用いられるセンサの種類は、HMD10の用途に応じて任意に選択される。センサ部12に用いられるセンサとしては、例えば深度センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、各種カメラ等が挙げられる。センサ部12によって、HMD10を装着した作業者の位置、向き、身体(手など)の動作、周囲(現実空間)の3次元形状等を検出することができる。HMD10は、センサ部12によって作業者の手の動きを検出し、その動きに応じた操作を行うことができる。またセンサ部12を用いることで、HMD10は周囲の空間を認識することができる。これによってHMD10は、例えばHMD10を装着した者の視点の変更や移動に追従して、表示部11に表示された映像を動かすことができる。
【0022】
通信部13は、適宜の通信方法(例えば、インターネット、携帯通信網等)によって外部の機器と通信を行うものである。本実施形態では、通信部13は、後述する管理サーバ20の通信部25と通信を行い、各種情報の送受信を行うことができる。
【0023】
HMD10の利用者は、HMD10に設けられた各種スイッチを操作することで、電源のON/OFFの切り替えや、音量の調節等を行うことができる。またHMD10の利用者は、所定の操作に応じて表示部11に各種アイコンや操作画面を表示させ、当該アイコン等を操作することでHMD10に関する各種の操作を行うことができる。
【0024】
なお、詳細な説明は省略するが、HMD10は上記以外にも、各種処理に必要なCPU等の演算処理装置、RAMやROM等の記憶装置等を適宜備えている。
【0025】
管理サーバ20は、点検に関する各種情報を管理するものである。管理サーバ20としては、物理サーバ、仮想サーバ等、任意のサーバを用いることができる。管理サーバ20は、例えば点検作業の管理者が勤務する管理事務所B等に設置することができる。管理サーバ20は、主として三次元点群データベース21、管理台帳データベース22、タグデータベース23、点検順序データベース24、通信部25等を具備する。
【0026】
三次元点群データベース21は、点検の対象となる設備(点検対象設備)の三次元点群データが保存されるものである。点検対象設備の三次元点群データは、予め測定され、三次元点群データベース21に記憶されている。この際、三次元点群データベース21には、点検対象設備を識別するための情報(例えば、番号、設備の名称、設備の住所等)と、当該点検対象設備の三次元点群データとが紐付けられて記憶される。
【0027】
例えば三次元点群データベース21には、本実施形態の点検対象設備である揚排水機場Aの建屋全体の三次元点群データが記憶される。当該三次元点群データには、揚排水機場Aの建屋や、この建屋の中に設置されている各種機器(ポンプP、エンジン、制御盤等)の三次元点群データが含まれる。三次元点群データは、適宜の測定機器(三次元レーザスキャナー等)を用いて測定することが可能である。図4には、一例として、揚排水機場Aに設置されたポンプPの三次元点群データP'を示している。
【0028】
管理台帳データベース22は、点検対象設備の点検内容に関する情報(管理台帳)が保存されるものである。管理台帳データベース22には、点検項目を識別するための情報(例えば、番号、点検対象設備の名称、点検対象となる機器の名称、点検項目の名称等)と、当該点検項目の内容に関する情報(規格値、測定値、測定値の単位等)とが紐付けられて記憶される。図7には、一例として、HMD10の表示部11に呼び出された所定の点検項目(図例では「吐出圧力」)に関する管理台帳Dを示している。
【0029】
タグデータベース23は、三次元点群データベース21に記憶されている三次元点群データ上の点検箇所に設定されたタグ(タグデータ)が保存されるものである。ここでタグとは、点検箇所に関する情報である。本実施形態において、タグには、点検項目名、三次元点群データ上における点検箇所を示す情報(座標等)、及び、当該点検箇所に対応する管理台帳を呼び出すための情報(URL等)が含まれている。図4には、一例として、表示部11(より詳細には、表示部11に呼び出されたポンプPの三次元点群データP'上)に表示されたタグT1及びタグT2を示している。図4に示すように、表示部11に呼び出されたタグT1及びタグT2には、例えば点検項目名が記載されると共に、その点検箇所を指し示すように表示される。
【0030】
点検順序データベース24は、複数の点検項目(点検箇所)の点検すべき順番に関する情報が保存されるものである。点検順序データベース24には、各点検対象設備ごとに、予め定められた点検の順番が記憶される。
【0031】
通信部25は、適宜の通信方法(例えば、インターネット、携帯通信網等)によって外部の機器と通信を行うものである。本実施形態では、通信部25は、HMD10の通信部13と通信を行い、各種情報の送受信を行うことができる。
【0032】
なお、詳細な説明は省略するが、管理サーバ20は上記以外にも、各種処理に必要なCPU等の演算処理装置、RAMやROM等の記憶装置等を適宜備えている。また、管理サーバ20には、例えば点検作業を管理する管理者等が使用する液晶モニター等の表示装置、キーボード等の入力装置等が適宜設けられる。
【0033】
次に、上述の設備点検システム1を用いた設備点検方法について説明する。
【0034】
点検の事前準備として、本実施形態の点検対象設備である揚排水機場Aの外観および屋内を含む建屋全体の三次元点群データが測定され、管理サーバ20の三次元点群データベース21に記憶される。また、当該三次元点群データの点検箇所にはタグが設定され、当該タグに関する情報が管理サーバ20のタグデータベース23に記憶される。
【0035】
図3に示すステップS101において、点検を行う作業者は、HMD10を操作して、管理サーバ20の三次元点群データベース21に記憶された三次元点群データ、及び、タグデータベース23に記憶されたタグをHMD10に読み込む。この際作業者は、HMD10を操作し、管理サーバ20に記憶された複数の点検対象設備に関するデータの中から、今回の点検対象となる設備(揚排水機場A)を選択する。管理サーバ20は、選択された設備の三次元点群データ等をHMD10に送信する。ステップS101の工程が行われた後、ステップS102に移行する。
【0036】
ステップS102において、作業者はHMD10を操作して、三次元点群データ及びタグを表示部11に表示させる。図4には一例として、表示部11にポンプPの三次元点群データP'、及び、当該三次元点群データP'上の点検箇所に設定されたタグT1及びタグT2が表示された例を示している。なお、本実施形態では便宜上タグT1及びタグT2のみを図示しているが、実際には、この2つのタグだけでなく、今回の点検対象となる揚排水機場Aの点検箇所全てにタグが表示される。
【0037】
図4に示すように、透明な表示部11に三次元点群データP'を表示することで、作業者からは、表示部11を介して見える現実空間のポンプPと、三次元点群データP'とを、同時に視認することができる。なお、表示部11に表示された三次元点群データ及びタグは、任意に非表示に切り替えることもできる。ステップS102の工程が行われた後、ステップS103に移行する。
【0038】
ステップS103において、作業者はHMD10を操作して、現実空間と三次元点群データとの位置合わせ(マッチング)を行う。例えば、ステップS102において三次元点群データを表示部11に表示させた時点では、図4に示すように現実空間のポンプPと、当該ポンプPの三次元点群データP'の位置がずれていることが想定される。そこでステップS103では、両者の位置を合わせる作業が行われる。
【0039】
具体的には、作業者はHMD10を操作して、図5に示すような立体図形Mを表示部11に表示させる。立体図形Mは、互いに直交する3方向(X方向、Y方向及びZ方向)を指し示した矢印図形M1と、目盛の入った球体状の球体図形M2と、により構成されている。
【0040】
立体図形Mは、表示部11に表示された三次元点群データの位置を調節するためのものである。作業者は、表示部11上の立体図形Mを手で掴んで移動(X方向、Y方向及びZ方向への位置の変更、及び、回転)させることができる。立体図形Mを移動させると、図6に示すように、立体図形Mに追従するように三次元点群データも移動する。作業者は、三次元点群データと現実空間とが一致するように、立体図形Mを移動させる。例えば作業者は、ポンプPを目印にして、ポンプPと、当該ポンプPの三次元点群データP'の位置が一致するように立体図形Mを移動させることで、三次元点群データと現実空間とを一致させることができる。
【0041】
なお、図示は省略しているが、立体図形Mの他に、三次元点群データを移動させるための操作メニュー(操作パネル、数値入力部、アイコン等)を表示部11に表示させることも可能である。例えば、数値入力部を用いて三次元点群データの移動量(X、Y、Z方向の変位量や、回転量)を数値で入力可能とすることで、精密な位置合わせを行うことができる。また例えば、三次元点群データの縮尺を変更可能な操作パネルを用いて、三次元点群データの大きさを調節することもできる。
【0042】
また例えば、操作パネルを用いて、三次元点群データ上の任意の場所に瞬時に移動する(言い換えると、三次元点群データ上の任意の場所を瞬時に表示させる)こともできる。これによって、比較的大規模な設備の三次元点群データであっても、効率的に位置合わせを行うことができる。
【0043】
ステップS103において現実空間と三次元点群データとの位置合わせを行った後、作業者が所定の操作を行うことで、表示部11における三次元点群データが消去(非表示に変更)される。これによって表示部11上では、現実空間の点検箇所にタグが付された映像(図7参照)が提供されることになる。
【0044】
なお、HMD10を装着した作業者が移動した場合、HMD10は内部的に作業者の移動に追従して三次元点群データを移動させる。したがって、現実空間と、点検箇所を指し示したタグの位置とがずれることはない。このようにして、HMD10によって、現実空間と三次元点群データとを複合した複合現実が提供される。ステップS103の工程が行われた後、ステップS104に移行する。
【0045】
ステップS104において、作業者はHMD10を操作して、点検作業を開始する。例えば作業者は、HMD10の表示部11に表示された操作メニューを用いて、点検作業を開始する旨をHMD10に入力する。ステップS104の工程が行われた後、ステップS105に移行する。
【0046】
ステップS105において、HMD10は、管理サーバ20の点検順序データベース24に記憶された点検の順番に従って、表示部11にタグを表示する。具体的には、HMD10は、点検順序データベース24に記憶された点検の順番を参照し、そのうち最も順序の早い点検項目に対応するタグのみを表示部11に表示させ、その他の点検項目に対応するタグを非表示とする。図7には、ポンプPの2つの点検項目「吐出圧力」及び「振動」のうち、点検順番が早い「吐出圧力」に対応するタグT1のみを表示させた例を示している。
【0047】
このように点検箇所がタグによって表示されるため、作業者は点検箇所を容易に把握することができる。この機能によって、例えば熟練した作業者だけでなく、まだ点検作業に慣れていない作業者であっても、円滑に点検を行うことができる。また、本実施形態では、点検順序の最も早いタグのみが表示されるため、作業者は、点検の順番(次に点検すべき点検箇所)を容易に把握することができる。なお、タグに加えて、タグの位置を指し示す矢印等を表示部11に表示させることも可能である。これによって、例えば比較的遠方にタグが表示されている(タグの位置が把握し難い)場合であっても、容易にタグを探して移動することができ、作業効率を向上させることができる。ステップS105の工程が行われた後、ステップS106に移行する。
【0048】
ステップS106において、作業者は、点検箇所の点検を行い、HMD10を用いて測定値を入力する。具体的には、作業者はステップS105において表示部11に表示されたタグが指し示す点検箇所の点検を行う。例えば図7に示した例では、作業者は、タグT1が指し示す計器を用いてポンプPの「吐出圧力」を測定する。その後作業者は、HMD10を用いてタグT1を選択(例えば、複合現実上でタッチ操作)する。HMD10は、管理サーバ20と通信し、選択されたタグT1が指し示す点検箇所に対応する管理台帳Dを呼び出し、表示部11に表示する。またHMD10は、管理台帳Dと共に、数値等の入力に用いられるキーボードKを表示部11に表示する。作業者は、表示部11に表示されたキーボードKを操作して、管理台帳Dに測定値を入力する。管理台帳Dに入力された測定値は、管理サーバ20へと送信され、管理台帳データベース22に記憶される。なお、管理台帳Dに入力された測定値をHMD10自身に記憶させるように構成してもよい。作業者は、測定値の入力が完了(確定)した場合、その旨をキーボードKを用いて入力する。
【0049】
なお、ステップS106における測定値の入力に関して何らかの異常がある場合には、その旨を報知(エラー表示等)することも可能である。異常としては、例えば測定値が規格値から所定の閾値以上ずれている場合や、点検の順序が間違っている場合等が想定される。ステップS106の測定値の入力後にHMD10又は管理サーバ20によって異常の有無の判定を行い、異常が発見された場合には、HMD10の表示部11にエラー表示を行う等して、作業者に異常があることを報知することができる。また、HMD10だけでなく、管理サーバ20の液晶モニターにエラー表示を行うことで、管理者にも同時に異常があることを報知することができる。なお、報知の方法は特に限定するものではなく、例えば音声等によって報知を行うことも可能である。ステップS106の工程が行われた後、ステップS107に移行する。
【0050】
ステップS107において、HMD10は、今回の点検対象となる設備の点検が全て完了したか否かを判定する。未点検の点検箇所がある場合、ステップS105に移行する。このようにして、予め予定された点検箇所の点検が全て完了するまで、ステップS105及びステップS106の処理が繰り返される。
【0051】
例えば、ステップS107から移行したステップS105において、HMD10は、次の点検項目に対応するタグを表示部11に表示させる。これによって、例えば図8に示すように、次の点検項目(点検箇所)を示すタグT2が表示されると共に、点検が完了したタグT1が非表示とされる。その後のステップS106において、作業者は、タグT2が指し示す点検箇所の点検を行い、測定値の入力を行う。
【0052】
このようにして、予め予定された点検箇所の点検が全て完了するまで、ステップS105及びステップS106の処理が繰り返される。予め予定された点検箇所の点検が全て完了した場合、ステップS107からステップS108に移行する。
【0053】
ステップS108において、作業者はHMD10を操作して、点検作業を終了する。例えば作業者は、HMD10の表示部11に表示された操作メニューを用いて、点検作業を終了する旨をHMD10に入力する。これによってHMD10は、点検作業に関する処理(例えば、管理サーバ20との通信や、タグの表示等)を終了する。
【0054】
なお、ステップS108で点検作業を終了する旨が入力された時点で、点検漏れが発生している場合には、その旨を報知(エラー表示等)することも可能である。例えばステップS108で点検作業を終了する旨が入力された後に、HMD10又は管理サーバ20によって点検漏れの有無の判定を行い、点検漏れが発見された場合には、HMD10の表示部11にエラー表示を行う等して、作業者に点検漏れがあることを報知することができる。点検漏れがあった場合には、例えばステップS105の処理に戻り、HMD10によって点検漏れのあった箇所を案内することができる。
【0055】
このように本実施形態では、HMD10を用いて現実空間に三次元点群データを重ね合わせることで、点検箇所を容易に把握することができる。これによって、熟練者に限らず、点検作業に慣れていない作業者であっても、点検を容易に行うことができる。また、HMD10を用いて管理サーバ20(管理台帳)に直接測定値を入力できるため、例えば紙面に記入した測定値を転記する必要がなくなり、作業効率の向上を図ると共に、転記のミスを防止することができる。
【0056】
以上の如く、本実施形態に係る設備点検方法は、
予め取得した点検対象設備の三次元点群データがHMD10(ヘッドマウントディスプレイ)の表示部11に表示され、前記表示部11を通して視認される現実空間に前記三次元点群データが重ね合わされるマッチング工程(ステップS103)と、
前記三次元点群データにおける点検箇所を示すタグが前記表示部11に表示されるタグ表示工程(ステップS105)と、
前記タグに応じて前記点検箇所の点検が行われる点検工程(ステップS106)と、
を含むものである。
このように構成することにより、点検対象箇所が多数点在する場合においても好適に設備の点検を行うことができる。すなわち、タグによって点検箇所を把握することができるため、熟練した作業者だけでなく、点検作業に不慣れな作業者であっても、円滑に点検作業を行うことができる。
【0057】
また、本実施形態に係る設備点検方法は、
前記点検工程(ステップS106)において、
前記タグが選択されることで、選択された前記タグに対応する前記点検箇所の管理台帳Dが前記表示部11に表示され、前記管理台帳Dに点検結果が入力されるものである。
このように構成することにより、点検結果(測定値)を容易に記録することができる。特に本実施形態では、作業者がHMD10を用いて入力した測定値が、管理サーバ20の管理台帳データベース22に直接入力されるため、転記作業が不要になり、作業効率の向上や、転記ミスの発生を防止することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る設備点検方法は、
前記マッチング工程(ステップS103)において、
前記現実空間と前記三次元点群データの位置合わせが行われた後、前記表示部11における前記三次元点群データの表示が消去されるものである。
このように構成することにより、現実空間が認識し易くなる。また、三次元点群データを非表示とすることにより、HMD10の処理負荷を軽減することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る設備点検方法は、
前記タグ表示工程(ステップS105)において、
前記タグは、点検の順番、及び/又は、点検完了の有無を識別可能に表示されるものである。
このように構成することにより、点検の順番や完了の有無を容易に把握することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る設備点検方法は、
前記タグ表示工程(ステップS105)において、
前記タグは、点検の順番に従って表示及び非表示が切り替えられるものである。
このように構成することにより、表示部11に表示されるタグの数を減らすことができ、現実空間の視認性を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る設備点検方法は、
前記マッチング工程(ステップS103)において、
前記表示部11に前記三次元点群データを移動させるための立体図形M(操作画像)が表示され、前記HMD10の装着者(作業者)が前記立体図形Mを操作することによって前記三次元点群データが前記現実空間と対応する位置に移動されるものである。
このように構成することにより、作業者が現実空間と三次元点群データの位置を確認しながら両者の位置を合わせることができるため、効率的に位置合わせを行うことができる。
【0062】
また、本実施形態に係る設備点検システム1は、
予め取得した点検対象設備の三次元点群データ、及び、前記三次元点群データの点検箇所を記憶する記憶部(三次元点群データベース21及びタグデータベース23)と、
HMD10(ヘッドマウントディスプレイ)に設けられ、前記三次元点群データ及び前記点検箇所を現実空間に重ね合わせて表示可能な表示部11と、
を具備するものである。
このように構成することにより、好適に設備の点検を行うことができる。すなわち、表示部11に表示された点検箇所を把握することができるため、熟練した作業者だけでなく、点検作業に不慣れな作業者であっても、円滑に点検作業を行うことができる。
【0063】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0064】
上記実施形態では、タグの表示と非表示を切り替えて、次に点検を行う点検箇所のタグのみを表示させることで、作業者に点検の順番を識別させる例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、点検の順番を識別させる方法は任意に変更することが可能である。例えば、各点検箇所に表示されたタグに適宜の方法(例えば、数字、色分け等)で点検の順番を表示させることも可能である。
【0065】
また、上記実施形態では、タグによって点検の順番を識別する例を示したが、タグを用いてその他の情報を識別可能に構成することも可能である。例えば、点検が完了した点検箇所のタグと、まだ点検が完了していない点検箇所のタグとの表示に差異(例えば、色の違いや、表示メッセージの違い等)を設けることで、点検の完了の有無(点検済みか、未点検か)を識別できるように構成することも可能である。
【0066】
また、上記実施形態では、予め定められた点検の順番が点検順序データベース24に記憶され、この点検の順番に従って点検が行われるものとしたが、点検順序データベース24に記憶される点検の順番は任意の方法で決定することができる。例えば、HMD10を装着した作業者が行った一連の点検の順番を、HMD10を介して点検順序データベース24に記憶させ、次回の点検以降、この点検の順番で点検を誘導するように構成することも可能である。このような構成によれば、例えば最初に熟練者が正しい(効率的な)点検の順番で点検を行い、その順番を次回以降利用することで、点検作業に不慣れな作業者であっても効率的に点検作業を行うことができる。また、点検順序データベース24に複数のパターンの点検の順番を記憶させて、作業者の所望の順番を選択させるように構成することも可能である。
【0067】
また、上記実施形態では1つのHMD10を例示して説明しているが、例えば複数のHMD10を用いて、複数名の作業者による点検作業を行うことも可能である。例えば点検順序データベース24に、HMD10を複数用いる場合における各HMD10(各作業者)の点検の順序を記憶させておくことで、複数の作業者に適切な点検の順番を案内することができる。なおこの場合、複数の作業者の点検箇所が互いに重複せず、かつ、漏れの無いように点検の順序を記憶させておくことで、効率的に点検作業を行うことができる。
【0068】
また、上記実施形態のステップS106で入力された測定値に異常がある(測定値が規格値から所定の閾値以上ずれている)場合には、当該点検箇所と相関する他の点検箇所の点検を優先して行うように作業者に指示することも可能である。ここで、点検箇所が相関するとは、複数の点検箇所の測定値が相互に関係しあう状態であり、一方に異常が発生した場合、他方にも異常が発生する可能性が高いと考えられる。例えば、管理サーバ20に、互いに相関する点検箇所を予め関連付けて記憶しておき、そのうちのいずれかの点検箇所で測定値に異常が発生した場合には、HMD10を用いて相関のある他の点検箇所の点検を優先的に行うように作業者に促す指示を出す。これによって、特定の設備に異常が発生していることを速やかに確認することができる。
【0069】
さらに、測定値に異常がある場合、その原因となる箇所を推定し、HMD10や管理サーバ20で報知することも可能である。例えば各点検箇所の異常の原因は、各設備のメーカー等が準備した原因究明フローチャート等を用いることで推定することができる。そこで、測定値に異常がある場合には、当該原因究明フローチャート等を用いて速やかに原因箇所を推定し、速やかに異常の解消を図ることができる。
【0070】
また、測定値に異常があった場合には、次回以降の点検の際にその旨を報知してもよい。例えば、測定値に異常があった点検箇所を管理サーバ20に記憶しておき、次回以降の点検の際には、当該点検箇所のタグに、異常があった旨を表示させる。作業者は当該タグの表示を見ることで、当該点検箇所が重要な点検箇所であることを認識することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、HMD10を装着した作業者が複合現実を利用して点検作業を行う例を示したが、当該点検作業の様子を管理サーバ20でも同時に確認できるように構成してもよい。例えば、HMD10で提供される複合現実を、管理サーバ20の液晶モニターでもリアルタイムで表示させることで、作業者以外の関係者(管理者等)も点検作業の様子を確認することができる。また、HMD10と管理サーバ20との通信を利用することで、作業者と管理者とで相談しながら点検作業を行うことも可能となる。
【0072】
また、上記実施形態では、設備点検システム1を用いて点検作業を行う例を示したが、設備点検システム1の利用方法はこれに限るものではない。例えば、HMD10を装着した者と、管理サーバ20を操作する者とで、各種情報を共有するために利用することも可能である。例えば、三次元点群データベース21に記憶された点検対象設備の三次元点群データを用いて構成された三次元仮想空間(メタバース)を、HMD10を装着した者や管理サーバ20を操作する者で共有することで、例えば点検対象設備の点検に関する会議や、点検方法の研修等を行うことができる。これによって、実際に現場に行かなくても、立体的な三次元点群データを用いて直感的に現場の情報を把握することができる。
【0073】
また、上記実施形態では、設備点検システム1がHMD10及び管理サーバ20を具備する例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、設備点検システム1の構成は任意に変更することが可能である。例えば、管理サーバ20の機能をHMD10に内蔵し、HMD10単体で設備点検システム1を構成することも可能である。また、管理サーバ20を複数のサーバで構成し、管理サーバ20の機能を複数のサーバで分担することも可能である。
【0074】
また、上記実施形態で例示した設備点検方法(図3参照)は一例であり、その内容は任意に変更することが可能である。例えば、上記実施形態におけるステップ(工程)の順序の入れ替え、省略、追加等を任意に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 設備点検システム
10 ヘッドマウントディスプレイ
11 表示部
12 センサ部
20 管理サーバ
21 三次元点群データベース
22 管理台帳データベース
23 タグデータベース
24 点検順序データベース
図1
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図8