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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150778
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】育毛剤、およびこれを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/062 20060101AFI20241016BHJP
   C07K 5/078 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 5/072 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 5/065 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 5/083 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 5/093 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 5/097 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20241016BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20241016BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20241016BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C07K5/062
C07K5/078
C07K5/072
C07K5/065
C07K5/083
C07K5/093
C07K5/097
C07K14/435
A23L33/18
A61K8/64
A61Q7/00
A61P17/14
A61K38/05
A61K38/06
A61P43/00 107
A61K38/39
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130906
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2021533956の分割
【原出願日】2020-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019137125
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 聖子
(72)【発明者】
【氏名】真野 博
(72)【発明者】
【氏名】清水 純
(72)【発明者】
【氏名】君羅 好史
(72)【発明者】
【氏名】野村 佳歩
(57)【要約】      (修正有)
【課題】頭髪における発毛または育毛の促進、あるいは脱毛の進行予防の少なくともいずれかの作用を奏するアミノ酸、ペプチド等を含む育毛剤、およびこれを含む飲食品を提供する。
【解決手段】育毛剤は、Hyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有する、育毛剤。
【請求項2】
前記ペプチドは、コラーゲン由来である、請求項1に記載の育毛剤。
【請求項3】
前記育毛剤は、前記ペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物である、請求項1または請求項2に記載の育毛剤。
【請求項4】
前記コラーゲンペプチド混合物は、その重量平均分子量が100Da以上8000Da以下である、請求項3に記載の育毛剤。
【請求項5】
前記育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の育毛剤。
【請求項6】
前記育毛剤は、頭髪における発毛または育毛の促進剤、あるいは脱毛進行予防剤である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の育毛剤。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の育毛剤を含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛剤、およびこれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲン加水分解物(以下、「コラーゲンペプチド混合物」とも記す)は、生体に対して様々な生理活性を示すことが公知である。たとえば国際公開第2012/102308号(特許文献1)は、コラーゲンペプチド混合物がインスリン分泌を制御する酵素に対して作用を示すことから、コラーゲンペプチド混合物を糖尿病の治療または予防剤として用いることを開示している。特開2009-120512号公報(特許文献2)は、コラーゲンペプチド混合物が軟骨の再生を促進する作用を示すことから、コラーゲンペプチド混合物を関節軟骨再生促進剤として用いることを開示している。特開2005-029488号公報(特許文献3)は、コラーゲンペプチド混合物が血圧降下作用を示すことから、コラーゲンペプチド混合物を血圧降下剤として用いることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/102308号
【特許文献2】特開2009-120512号公報
【特許文献3】特開2005-029488号公報
【特許文献4】特開2009-161509号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tanimura S et al., Cell Stem Cell, 2011年, Vol 8,pp.177-87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで特開2009-161509号公報(特許文献4)および上記非特許文献1は、XVII型コラーゲンが脱毛抑制作用および毛髪の脱色素化抑制作用を有することを開示しているが、上述のコラーゲンペプチド混合物において、頭髪における発毛または育毛の促進作用、あるいは脱毛の進行予防作用を示すことはこれまで知られていない。このためコラーゲンペプチド混合物、およびこれに含まれるコラーゲン由来のアミノ酸およびペプチド等が有する新たな生理活性として、頭髪における発毛または育毛の促進作用、あるいは脱毛の進行予防作用を探索する研究が鋭意進められている。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明は、頭髪における発毛または育毛の促進、あるいは脱毛の進行予防の少なくともいずれかの作用を奏するアミノ酸、ペプチド等を含む育毛剤、およびこれを含む飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コラーゲンペプチド混合物が有する新たな生理活性を探索する中で、コラーゲンペプチド混合物に含まれる所定のアミノ酸、および所定のペプチド等において、頭髪における発毛または育毛の促進作用、あるいは脱毛の進行予防作用の少なくともいずれかを奏することを知見し、本発明に到達した。本発明は、具体的には以下のとおりである。
【0008】
本発明に係る育毛剤は、Hyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有する。
【0009】
上記アミノ酸および上記ペプチドは、コラーゲン由来であることが好ましい。
上記育毛剤は、上記アミノ酸または上記ペプチドのいずれかを少なくとも含むコラーゲンペプチド混合物であることが好ましい。
【0010】
上記コラーゲンペプチド混合物は、その重量平均分子量が100Da以上8000Da以下であることが好ましい。
【0011】
上記育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤であることが好ましい。
上記育毛剤は、頭髪における発毛または育毛の促進剤、あるいは脱毛進行予防剤であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る飲食品は、上記育毛剤を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、頭髪における発毛または育毛の促進、あるいは脱毛の進行予防の少なくともいずれかの作用を奏するアミノ酸、ペプチド等を含む育毛剤、およびこれを含む飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】マグネシウム欠乏特殊飼料を与えたコントール群の生後11週齢のヘアレスマウスの頭部を示す図面代用写真である。
図2】Pro-Hypを含むマグネシウム欠乏特殊飼料を与えた第1群の生後11週齢のヘアレスマウスの頭部を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について、さらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。本明細書において「育毛剤」における「育毛」の用語には、毛髪を育てる作用を表す「育毛」の意味のみならず、新しい毛髪を生やし、その成長を促す作用を表す「発毛」の意味、および毛髪を抜けにくくする作用を表す「脱毛の進行予防」の意味がいずれも含まれるものとする。
【0016】
[育毛剤]
本発明に係る育毛剤は、Hyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有する。このような特徴を備える育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有し、もって頭髪における発毛または育毛の促進作用、あるいは脱毛の進行予防作用の少なくともいずれかを奏することができる。
【0017】
〔頭髪における発毛または育毛の促進、あるいは脱毛の進行予防の作用を奏する所定のアミノ酸、または所定のペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体〕
上述のとおり育毛剤は、Hyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有する。本明細書において「アミノ酸」は、別段の表記がない限り、3文字表記の略号で表される。さらに「アミノ酸」は、別段の表記がない限り、L型アミノ酸を意味する。本明細書において「ペプチド」は、たとえば「Pro-Hyp」であれば、N末端側からプロリン、ヒドロキシプロリンの順にC末端側へ向けて配列したペプチド(ジペプチド)を意味し、「Glu-Hyp-Gly」であれば、N末端側からグルタミン酸、ヒドロキシプロリン、グリシンの順にC末端側へ向けて配列したペプチド(トリペプチド)を意味する。このことは、「Pro-Hyp」および「Glu-Hyp-Gly」以外のジペプチドおよびトリペプチドの記載についても同様である。
【0018】
育毛剤は、Hyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-GlyならびにPro-Ala-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸、またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有することが好ましい。育毛剤は、Pro-HypまたはHyp-Glyの少なくともいずれかのペプチド、もしくはその塩、あるいはその化学修飾体を含有することがより好ましい。さらに育毛剤は、HypとProとの組合せを含有する態様、あるいはHypとGlyとの組合せを含有する態様であってもよい。これらの場合、育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用をより顕著に示すことができる。
【0019】
上記アミノ酸およびペプチドの「塩」は、たとえば上記アミノ酸またはペプチドの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機塩基塩などとして形成される。
【0020】
上記アミノ酸およびペプチドの「化学修飾体」とは、構成単位であるアミノ酸残基が有する遊離の官能基が化学修飾された化合物を意味する。化学修飾は、たとえばヒドロキシプロリンの水酸基、N末(アミノ末端)側のアミノ酸のアミノ基およびC末(カルボキシル末端)側のアミノ酸のカルボキシル基に対して実行することができる。化学修飾の具体的手段およびその処理条件は、従来公知のアミノ酸およびペプチドを対象とした化学修飾技術が適用される。このような化学修飾によって、上記アミノ酸およびペプチドの化学修飾体は、弱酸性から中性で溶解性が向上する効果、他の有効成分との相溶性が向上する効果などを奏することができる。
【0021】
たとえばGlu-Hyp-Glyのトリペプチドに対し、ヒドロキシプロリンにおける水酸基の化学修飾として、O-アセチル化などを行うことができる。このO-アセチル化は、たとえば水溶媒中または非水溶媒中で無水酢酸を作用させることによって実行することができる。グリシンにおけるカルボキシル基の化学修飾として、エステル化、アミド化などを行うことができる。上記エステル化は、上記ペプチドをメタノールに懸濁した後、これに乾燥塩化水素ガスを通気することによって実行することができる。上記アミド化は、上記ペプチドにカルボジイミドなどを作用させることによって実行することができる。
【0022】
さらにペプチド中の遊離のアミノ基の化学修飾として、メチル化を行うことができる。ペプチド中の遊離の水酸基の化学修飾として、リン酸化および硫酸化の少なくともいずれかを行うことができる。
【0023】
上記アミノ酸およびペプチドは、コラーゲン由来であることが好ましい。この場合、原料としてのコラーゲンは、たとえば牛、豚、羊、鶏、ダチョウなどに代表される動物の皮、皮膚、骨、軟骨、腱など、あるいは魚類の骨、皮、鱗などに対して従来公知の脱脂または脱灰処理、抽出処理などを実行することにより得ることができる。さらに上記ペプチドの原料として、ゼラチンを用いることもできる。ゼラチンは、上述のようにして得たコラーゲンを熱水抽出などの従来公知の方法で処理することにより得ることができる。コラーゲンおよびゼラチンは、市販のものを原料として用いることもできる。
【0024】
上記アミノ酸およびペプチドは、上記コラーゲンおよびゼラチンの両方またはいずれか一方に対し、エンド型プロテアーゼおよびエキソ型プロテアーゼの2種以上を組み合わせて加水分解することによって得ることができる。上記アミノ酸およびペプチドは、上記の加水分解によって他のコラーゲンペプチドとともに混在するコラーゲンペプチド混合物として得られるが、このコラーゲンペプチド混合物自体、およびこれを部分精製した混合物を本発明に係る育毛剤として用いることができる。すなわち育毛剤は、上記アミノ酸または上記ペプチドのいずれかを少なくとも含むコラーゲンペプチド混合物であることも好ましい。さらに、上記コラーゲンペプチド混合物をさらに精製することにより、上述したアミノ酸、またはペプチドのいずれかを含む精製物を高純度で得ることができる。上記アミノ酸およびペプチドは、コラーゲン由来である場合、後述するコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法を用いることにより得ることが好ましい。
【0025】
さらに上記コラーゲンペプチド混合物は、その重量平均分子量が100Da以上8000Da以下であることが好ましい。上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、より好ましくは100Da以上6000Da以下であり、さらに好ましくは100Da以上4000Da以下である。上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量が上述した範囲内である場合、育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖作用をより顕著に示し、もって頭髪における発毛および育毛の促進作用、ならびに脱毛の進行予防作用の少なくともいずれかをより十分に得ることができる。上記重量平均分子量が8000Daを超える場合、育毛剤は、上述した効果が不十分となる恐れがある。
【0026】
上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、以下の測定条件の下でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実行することにより求めることができる。
機器 :高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel(登録商標)G2000SWXL
カラム温度:40℃
カラムサイズ:7.8mmI.D.×30cm、5μm
溶離液:45質量%アセトニトリル(0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む)
流速 :1.0mL/min
注入量:10μL
検出 :UV214nm
分子量マーカー:以下の5種を使用
Cytochrom C Mw:12000
Aprotinin Mw:6500
Bacitracin Mw:1450
Gly-Gly-Tyr-Arg Mw:451
Gly-Gly-Gly Mw:189。
【0027】
具体的には、約0.2gの上記コラーゲンペプチド混合物を含む試料を約100mlの蒸留水に添加し、撹拌した後、0.2μmフィルターを用いてろ過することにより、重量平均分子量を測定する試料(被測定物)を調製する。この被測定物を上述したサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより、上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量を求めることができる。
【0028】
〔育毛剤の製造方法〕
育毛剤に含まれる上記アミノ酸またはペプチドは、従来公知の方法により得ることができる。たとえば上記アミノ酸(Hyp)は、市販のアミノ酸を購入することにより得ることができる。上記アミノ酸は、コラーゲンまたはゼラチンを加水分解する方法を用いることにより得ることもできる。
【0029】
上記ペプチド(Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyおよびSer-Hyp-Gly)は、従来公知の液相または固相のペプチド合成方法、あるいはコラーゲンまたはゼラチンを加水分解する方法を用いることによりそれぞれ得ることができる。上記ペプチドは、効率性の観点から後述するアミノ酸を用いた化学合成方法、あるいは後述するコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法を用いることにより製造することが好ましい。さらに上記ペプチドは、コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法に代えて、1次酵素を省略し2次酵素のみにより酵素処理する方法、1次酵素および2次酵素による酵素処理を同時に行う方法を用いることにより製造することも可能である。以下、育毛剤に含まれるペプチドの中から「Glu-Hyp-Gly」に着目し、これを製造する方法を育毛剤に含まれるペプチドの製造方法の例示として説明する。
【0030】
<化学合成方法>
上記ペプチドは、一般的なペプチド合成法を用いて得ることができる。このペプチド合成法としては、固相合成法および液相合成法が公知である。固相合成法には、Fmoc法とBoc法とが知られている。上記ペプチドは、Fmoc法およびBoc法のいずれの方法を用いても得ることができる。ペプチドの固相合成法として、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドの合成方法は、次のように行うことができる。
【0031】
まず表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズを固相として準備する。縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミドを別途準備する。次に、上記アミノ酸配列においてC末(カルボキシル末端)側のアミノ酸であるグリシンのアミノ基をFmoc(fluorenyl-methoxy-carbonyl)基で保護するとともに、上記縮合剤を用いた脱水反応により上記グリシンのカルボキシル基と上記固相の上記アミノ基とをペプチド結合させる。さらに上記固相を溶媒で洗浄することにより、残存する縮合剤およびアミノ酸を除去した後、上記固相にペプチド結合しているグリシンのアミノ基の保護基を除去(脱保護)する。
【0032】
続いて、Fmoc基でアミノ基を保護したヒドロキシプロリンを準備し、このヒドロキシプロリンのカルボキシル基と、上記グリシンの脱保護したアミノ基とを上記縮合剤を用いることによりペプチド結合させる。以後、同様の要領で上記ヒドロキシプロリンのアミノ基の脱保護、Fmoc基で保護したグルタミン酸の準備、ならびにこのグルタミン酸と上記ヒドロキシプロリンとをペプチド結合させる反応を実行することにより、上記固相にGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを合成する。最後に、上記グルタミン酸のアミノ基の脱保護を行い、さらに上記固相から上記トリペプチドをトリフルオロ酢酸で温浸して切り離すことにより、上記トリペプチドを製造することができる。
【0033】
<コラーゲンまたはゼラチンを用いた製造方法>
さらにコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理することにより、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを製造する方法は、次のように行うことができる。
【0034】
ここでコラーゲンまたはゼラチンを「2段階で酵素処理する」とは、次のことを意味する。すなわち、コラーゲンまたはゼラチンのペプチド結合を切断する従来公知の方法により1次酵素処理を実行した後に、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、アミノペプチダーゼN活性およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を併有する酵素、またはアミノペプチダーゼN活性を有する酵素およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の組合せにより2次酵素処理を実行することをいう。1次酵素処理を実行することにより、コラーゲンペプチド混合物前駆体を得ることができる。さらに2次酵素処理を実行することにより、上記コラーゲンペプチド混合物前駆体から上記Glu-Hyp-Glyを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法について、以下さらに詳述する。
【0035】
(1次酵素処理)
1次酵素処理で用いる酵素としては、コラーゲンまたはゼラチンのペプチド結合を切断することが可能な酵素であれば、特に限定されるべきではなく、任意のタンパク質分解酵素を用いることができる。具体的には、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼなどを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記チオールプロテアーゼとしては、植物由来のキモパパイン、パパイン、ブロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼなどを用いることができる。セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンDなどを用いることができる。酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモトリプシンなどを用いることができる。1次酵素処理で用いる酵素としては、本発明に係る育毛剤を医薬、特定保健用食品などに用いることを考慮した場合、病原性微生物由来の酵素を用いることなく、それ以外の酵素を用いることが好ましい。
【0036】
1次酵素処理における酵素量としては、たとえばコラーゲンまたはゼラチン100質量部に対し上述した酵素を0.1~5質量部とすることが好ましい。1次酵素処理における処理温度は30~65℃とし、処理時間は10分~72時間とすることが好ましい。上記1次酵素処理により得られるコラーゲンペプチド混合物前駆体の重量平均分子量は、好ましくは500~20000Da、より好ましくは500~10000Da、さらに好ましくは500~8000Daである。重量平均分子量が上述の範囲にあれば、分子量が適切なペプチドが十分に生成しているといえる。1次酵素処理の後に、必要に応じて酵素を失活させることができる。この場合の失活温度としては、たとえば70~100℃とすることが好ましい。コラーゲンペプチド混合物前駆体の重量平均分子量は、上述したSECを用いる方法によって求めることができる。
【0037】
(2次酵素処理)
2次酵素処理で用いる酵素としては、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、アミノペプチダーゼN活性およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を併有する酵素、またはアミノペプチダーゼN活性を有する酵素およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の組合せを挙げることができる。ここで本明細書において「アミノペプチダーゼN活性を有する酵素」とは、ペプチド鎖のN末側からアミノ酸を遊離させる働きを有するペプチダーゼであって、N末側から2番目にプロリンあるいはヒドロキシプロリン以外のアミノ酸が存在する場合に作用する酵素をいう。本明細書において「プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素」とは、N末側から3番目がプロリンあるいはヒドロキシプロリンであるペプチドから、N末側の3アミノ酸残基のみを遊離するペプチダーゼをいう。2次酵素処理で用いる酵素も、本発明に係る育毛剤を医薬、特定保健用食品などに用いることを考慮した場合、病原性微生物由来の酵素を用いることなく、それ以外の酵素を用いることが好ましい。
【0038】
アミノペプチダーゼN活性を有する酵素としては、たとえばアミノペプチダーゼN(EC3.4.11.2.;T.Yoshimoto et al., Agric. Biol. Chem., 52:217-225(1988))などを挙げることができる。またたとえば、Aspergillus属由来のアミノペプチダーゼN活性を有する酵素を挙げることができる。プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素としては、たとえばプロリルトリぺプチジルアミノペプチダーゼ(EC3.4.14.;A.Banbula et al., J.Biol. Chem., 274:9246-9252(1999))などを挙げることができる。
【0039】
2次酵素処理を実行することにより、上記コラーゲンペプチド混合物前駆体に含まれていなかったペプチド含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。具体的には、上記Glu-Hyp-Glyを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。
【0040】
2次酵素処理における酵素量としては、たとえば上記コラーゲンペプチド混合物前駆体100質量部に対して上述した酵素を0.01~5質量部とすることが好ましい。2次酵素処理における処理温度は30~65℃とし、処理時間は10分~72時間とすることが好ましい。上記2次酵素処理により得られるコラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、好ましくは100~10000Da、より好ましくは100~8000Da、さらに好ましくは100~4000Daである。コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量も、上述したSECを用いる方法によって求めることができる。
【0041】
2次酵素処理は、上述したGlu-Hyp-Glyのトリペプチドを生成することを主たる目的として実行される。このため上記コラーゲンペプチド混合物前駆体に含まれるペプチドが過剰に加水分解されてしまわないように、2次酵素処理における酵素量、処理温度、処理時間およびpHを調整することが好ましい。これによりコラーゲンペプチド混合物を上述した重量平均分子量の範囲内とすることが好ましい。2次酵素処理の後に、酵素を失活させる必要がある。この場合の失活温度としては、たとえば70~100℃とすることが好ましい。さらに120℃で数秒以上の殺菌処理を行うことが好ましい。また、これに200℃以上の熱をかけて噴霧乾燥させることも可能である。
【0042】
2次酵素処理では、上記アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の他に、異なる活性を併有する酵素を用いることができ、かつ異なる活性を有する酵素を2種以上併用することもできる。これにより副生成物を分解し除去することが可能となる。この場合において用いる酵素としては、原料となるコラーゲンの種類、1次酵素処理に用いる酵素の種類に応じて適宜選択することが好ましい。上述した異なる活性としては、たとえばプロリダーゼ活性、ヒドロキシプロリダーゼ活性などのジペプチダーゼ活性を挙げることができる。これにより副生成物となるジペプチドなどを分解除去することができる。
【0043】
さらにアミノペプチダーゼN活性は、基本的にN末端側のアミノ酸を1つずつ遊離させる活性である。このため1次酵素処理によって得られるコラーゲンペプチド混合物前駆体に分子量が極めて大きいペプチドが含まれる場合、2次酵素処理をアミノペプチダーゼN活性を有する酵素のみで実行したとき、その処理時間が著しく長期化する。このような場合に対応するため、2次酵素処理では、たとえばプロリンのカルボキシル基側を加水分解する活性(プロリダーゼ活性)を有するエンドペプチダーゼであるプロリルオリゴペプチダーゼを用いることができる。これにより2次酵素処理を効率的に行うことができる。
【0044】
コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法では、1次酵素処理によって比較的分子量の大きなペプチドを生成することができる。このペプチドは、たとえば[X1-Gly-X2-Glu-Hyp-Gly](X1およびX2≠Hyp)で表されるアミノ酸配列を有することができる。続く2次酵素処理では、上記[X1-Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドにアミノペプチダーゼN活性を有する酵素が作用し、N末端のX1が遊離することにより[Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが得られる。次に、上記[Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドに、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素が2度作用し、グリシンおよびX2が遊離することにより、[Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドが得られる。
【0045】
(コラーゲンペプチド混合物の精製)
上述した2段階での酵素処理を実行することにより、Glu-Hyp-Glyを含むコラーゲンペプチド混合物を製造することができる。上記コラーゲンペプチド混合物には、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチド以外のペプチドも含まれているため、必要に応じて精製することが好ましい。この場合の精製方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば限外濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの各種液体クロマトグラフィーなどを用いることができる。
【0046】
具体的には、コラーゲンペプチド混合物を以下の操作により精製することができる。すなわち上記コラーゲンペプチド混合物の約2g/10mLをイオン交換カラム(たとえば商品名:「トヨパール(登録商標)DEAE-650」、東ソー株式会社製)に負荷した後、蒸留水で溶出される第1ボイドボリューム画分を回収する。次いで、第1ボイドボリューム画分を上記イオン交換カラムとは逆のイオン交換基を有するカラム(たとえば商品名:「トヨパール(登録商標)SP-650」、東ソー株式会社製)に負荷した後、蒸留水で溶出される第2ボイドボリューム画分を回収する。
【0047】
次に、第2ボイドボリューム画分をゲル濾過カラム(たとえば商品名:「セファデックスLH-20」、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に負荷し、30質量%メタノール水溶液で溶出することにより、Glu-Hyp-Glyのトリペプチドが含まれる画分を回収する。最後に、この画分に対して逆相カラム(たとえば商品名:「μBondasphere 5μC18 300Åカラム」、ウォーターズ社製)を装填した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む32質量%以下のアセトニトリル水溶液の直線濃度勾配で分画することにより、Glu-Hyp-Glyを高純度で得ることができる。
【0048】
〔毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤、頭髪における発毛または育毛の促進剤、脱毛進行予防剤〕
本発明に係る育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤であることが好ましい。育毛剤は、上述のようにHyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸、またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有し、もって毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を示すことができる。これにより育毛剤は、頭髪における発毛または育毛の促進作用、あるいは脱毛進行予防作用の少なくともいずれかを奏することができる。したがって育毛剤は、毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤として毛乳頭細胞の細胞増殖を促進させる用途に適用することができる。
【0049】
育毛剤は、上記アミノ酸、またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有することから、頭髪における発毛または育毛の促進剤、あるいは脱毛進行予防剤であることも好ましい。育毛剤は、上述のように毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有するため、頭髪における発毛または育毛の促進剤として毛乳頭細胞を増殖させることにより、頭髪の発毛または育毛を促進する治療に用いることができる。さらに育毛剤は、頭髪における脱毛進行予防剤として毛乳頭細胞を増殖させることにより、毛乳頭細胞の減少によって発生する脱毛の進行を抑制ならびに予防する目的で用いることもできる。
【0050】
育毛剤は、経口的にまたは非経口的に種々の形態で投与することができる。その形態としては、経口的に投与する場合、たとえば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉剤、液剤、懸濁製剤、乳化製剤などの剤型とすることができる。さらに上述した剤型の育毛剤を、飲食品に混合することもできる。育毛剤は、たとえば上述したアミノ酸、アミノ酸の組み合わせ、またはペプチドの少なくともいずれかを含むが、これらは腸管で迅速に吸収されるため、経口投与による摂取が可能である。
【0051】
育毛剤は、非経口的に投与する場合、たとえば軟膏、クリーム、ローションなどの外用剤、経皮剤などの剤型とすることができる。さらに頭皮に直接塗り込むための液剤または塗布剤とすることもできる。
【0052】
育毛剤の投与量は、対象者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、製剤の種類などによって異なる。上記育毛剤を経口投与する場合、投与量は、たとえば成人1日あたり0.0001~2500mg/kgであることが好ましく、0.0001~500mg/kgであることがより好ましい。育毛剤は、その剤型がたとえば錠剤である場合、1錠当たり0.001~80質量%で育毛剤が含まれる錠剤とし、たとえば粉剤である場合、0.001~100質量%で育毛剤が含まれる粉剤とすることができる。上記投与量は、非経口的に投与する場合、その他の形態の製剤によって投与する場合などにおいて、経口投与の場合の投与量を参考にして適宜決めることができる。育毛剤は、1日1~数回に分けて投与することができ、あるいは1~数日に1回投与することもできる。
【0053】
育毛剤は、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、他の有効成分、製剤用の担体などを適宜含有させることができる。他の有効成分として、イヌリン、コーヒー酸、キナ酸およびこれらの誘導体、マジョラムからの抽出物、金不換、ヒメハギ(遠志)および白眉草、仮鷹爪などの各種の生薬、ローヤルゼリー、エキナセアからの抽出物、アサイーからの抽出物、クプアスからの抽出物などを挙げることができる。さらに医薬製剤に製剤化する際に用いる薬学上許容される担体としては、希釈剤、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガカント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(乳糖、ショ糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(バレイショデンプン)および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)などを挙げることができる。
【0054】
〔用途発明〕
本発明に係る育毛剤は、上述のようにHyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸またはペプチド、もしくはそれらの塩、あるいはそれらの化学修飾体を含有する。育毛剤は、上述したアミノ酸、またはペプチドの未知の属性として毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有し、もって頭髪における発毛または育毛の促進作用、あるいは脱毛進行予防作用の少なくともいずれかを奏することができる。換言すれば本発明は、頭髪における発毛または育毛の促進用、あるいは脱毛進行予防用の上記アミノ酸またはペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体であるといえる。
【0055】
[飲食品]
本発明に係る飲食品は、上記育毛剤を含む。たとえば育毛剤に含まれることが好ましい上記のペプチドは、上述のとおり腸管で迅速に吸収されるため、経口投与による摂取が可能である。したがって、本発明は、上記育毛剤を含む飲食品として食事または飲料に混ぜて摂取することができる。さらに本発明に係る飲食品は、特定保健用食品、または機能性表示食品として用いることもできる。飲食品に含まれる育毛剤の濃度としては、0.001~100質量%であることが好ましい。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
[実施例1:細胞生物学的試験(in vitro試験)]
〔試料の準備〕
<アミノ酸、ペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物の準備>
毛乳頭細胞に対する細胞増殖促進作用を評価する試料として、後述する表1~2に表すアミノ酸、アミノ酸の組合せ、ジペプチド、トリペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物を、上述した方法により製造し、または後述するメーカーから入手することにより準備した。
【0058】
ここで表1中に表されるアミノ酸、アミノ酸の組合せおよびペプチドは、アミノ酸を一文字で表記する略号を用いる。表1中、「PO」は、プロリン-ヒドロキシプロリンで表されるジペプチド(商品名:「G-3025」、BACHEM社製)であり、「OG」は、ヒドロキシプロリン-グリシンで表されるジペプチド(商品名:「G-2365」、BACHEM社製)である。「GPO」は、グリシン-プロリン-ヒドロキシプロリンで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。なお「PO」は、N末端側からプロリン、ヒドロキシプロリンの順にC末端側へ向けて配列したペプチドを意味する。このことは、「PO」以外のペプチドの記載についても同様である。
【0059】
さらに表1中、「AOG」は、アラニン-ヒドロキシプロリン-グリシンで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)であり、「EOG」は、グルタミン酸-ヒドロキシプロリン-グリシンで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。「SOG」は、セリン-ヒドロキシプロリン-グリシンで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)であり、「GP」は、グリシン-プロリンで表されるジペプチド(商品名:「G-3015」、BACHEM社製)である。「LO」は、ロイシン-ヒドロキシプロリンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)であり、「FO」は、フェニルアラニン-ヒドロキシプロリンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)であり、「EO」は、グルタミン酸-ヒドロキシプロリンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。
【0060】
「PA」は、プロリン-アラニンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)であり、「PAG」は、プロリン-アラニン-グリシンで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。「PG」は、プロリン-グリシンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。「PP」は、プロリン-プロリンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。「O」は、ヒドロキシプロリン(商品名:「080-01642」、富士フィルム和光純薬株式会社製)であり、「G」は、グリシン(商品名:「073-00732」、富士フィルム和光純薬株式会社製)であり、「P」は、プロリン(商品名:「161-04602」、富士フィルム和光純薬株式会社製)であり、「P+O」は、上記プロリンとヒドロキシプロリンとの組合せであり、「O+G」は、上記ヒドロキシプロリンとグリシンとの組合せである。
【0061】
さらに、表2中に表されるコラーゲンペプチド混合物A(商品名:「TYPE-S」、新田ゼラチン株式会社製、重量平均分子量(Mw):約750Da)は、後述する条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、以下の組成を含んでいた。
Pro-Hyp:8ppm、Hyp-Gly:7389ppm、Gly-Pro-Hyp:8ppm、Ala-Hyp-Gly:199ppm、Glu-Hyp-Gly:9ppm、Ser-Hyp-Gly:176ppm、Gly-Pro:1159ppm、Pro-Ala-Gly:2229ppm、合計:11177ppm。
【0062】
表2中に表されるコラーゲンペプチド混合物B(商品名:「コラペプPU」、新田ゼラチン株式会社製、重量平均分子量(Mw):約630Da)は、後述する条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、以下の組成を含んでいた。
Pro-Hyp:8ppm、Hyp-Gly:3447ppm、Gly-Pro-Hyp:36ppm、Ala-Hyp-Gly:436ppm、Glu-Hyp-Gly:4ppm、Ser-Hyp-Gly:120ppm、Gly-Pro:2379ppm、Pro-Ala-Gly:2645ppm、合計:9074ppm。
【0063】
LC-MS/MSによる定量解析は、次の条件で実行した。
HPLC装置:「ACQUITY UPLC H-Class Bio」、Waters
Corporation製)
カラム:「Hypersil GOLD PFP 2.1×150mm、5μm(Thermo Fisher Scientific. Inc製)
カラム温度:40℃(リニアグラジエント)
移動相:(A)0.2%ギ酸および2mM酢酸アンモニウム含有水溶液
(B)100%メタノール
(グラジエント設定)
Time(分) 流速(μL/分) 移動相(A)の質量%
イニシャル 200 98
3.50 200 98
3.51 400 5
7.00 400 5
7.10 200 98
17.00 200 98
注入量:0.5μl。
【0064】
MS/MS装置:「Xevo TQ-XS」、Waters Corporation社製
イオン化法:Positive ESI
Capillary (kV):1
Desolvation temperature(℃):500
Source temperature(℃):150
MRM条件:
ペプチド(略号) precursor ion(m/z) product ion(m/z)
Gly-Pro(GP) 173 116
Hyp-Gly(OG) 189 86
Pro-Hyp(PO) 229 132
Ala-Hyp-Gly(AOG) 260 189
Glu-Hyp-Gly(EOG) 318 225
Gly-Pro-Hyp(GPO) 286 155
Ser-Hyp-Gly(SOG) 276 189
Pro-Ala-Gly(PAG) 244 141。
【0065】
<毛乳頭細胞の準備>
まず、ヒト正常毛乳頭細胞HFDPC-C(タカラバイオ株式会社製)を入手し、次いで上記毛乳頭細胞を細胞培養用96ウェルプレート(Corning社製)の各ウェルに0.2×104個/dishとなるように播種した。さらに上記毛乳頭細胞の入手時に付属していた成長因子を含む基本培地(商品名:「Follicle Dermal Papilla Cell Basal Medium」、タカラバイオ株式会社製)を、各ウェルに対し200μLずつ供給するとともに、各ウェル中で上記毛乳頭細胞を24時間、37℃で前培養した。
【0066】
次に、上記毛乳頭細胞がサブコンフルエントになったことを確認した後、各ウェル中の上記基本培地を、上述した成長因子を含まない別の基本培地(商品名:「Follicle Dermal Papilla Cell Basal Medium」、タカラバイオ株式会社製)200μLに置換した。以上により、上記試料を添加することによって細胞増殖が促進するか否かを判断するための毛乳頭細胞を準備した。
【0067】
〔細胞増殖試験〕
上述のように準備された毛乳頭細胞に対し、上記の各試料であるアミノ酸、アミノ酸の組合せ、ペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物を表1~2に示す最終濃度となるように添加するとともに、各ウェル中で上記毛乳頭細胞を72時間、37℃で培養した。ここで上述のように準備された毛乳頭細胞を含むウェルの一つに対し、精製水を20μL添加し、他の毛乳頭細胞と同様に72時間、37℃で培養することにより対照試験体(コントロール)を準備した。その後、精製水または各試料を添加したウェル中の毛乳頭細胞に対し、それぞれニュートラルレッド法により生存している細胞数(生細胞数)をカウントした。ここで「ニュートラルレッド法」とは、細胞が培養されているウェル中へ最終濃度が150μg/mLとなるようにニュートラルレッドを添加し、20分培養した後、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、さらに上記ウェル中へ抽出液として1質量%酢酸を含む50質量%エタノール溶液200μL添加し、撹拌する。その後、ニュートラルレッドを含む上記ウェルの波長540nmにおける吸光度を測定することにより、上記ウェル中の生細胞数を測定する方法をいう。
【0068】
さらに、精製水を添加したウェル中の毛乳頭細胞(対照試験体)の生細胞数に対する各試料を添加したウェル中の毛乳頭細胞の生細胞数を細胞増殖率(%)として求めることにより、各試料が有する毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を評価した。さらに上記細胞増殖率(%)を統計処理することにより、各試料が有する毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用の有意性を評価した。この有意性の評価は、統計処理としてソフトウエア(商品名:「エクセル統計(Ver2.1)」、株式会社社会情報サービス製」を用い、Smirnov-Grubbs(両側検定)を実行し、かつ有意水準(P値)として0.05をしきい値に設定した。その後、Student’s t-test(t検定)を実行することにより判断することとした。結果を表1および表2に示す。表1~2中、「++」が付された試料において、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用に有意性があると判断された。「+」が付された試料では、細胞増殖率(%)が100を超えた。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
〔考察〕
表1~2によれば、Hyp、Pro-Hyp、Hyp-Gly、Gly-Pro、Leu-Hyp、Phe-Hyp、Pro-Ala、Pro-Gly、Pro-Pro、Glu-Hyp、Gly-Pro-Hyp、Ala-Hyp-Gly、Glu-Hyp-Gly、Pro-Ala-GlyならびにSer-Hyp-Glyからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸、またはペプチドは、いずれも毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有することが分かった。これらのアミノ酸、またはペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物も、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有していた。さらにProおよびHypのアミノ酸の組合せ、HypおよびGlyのアミノ酸の組合せも、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有していた。これにより上記アミノ酸およびペプチド、ならびにこれらを含むコラーゲンペプチド混合物は、育毛剤として、具体的には毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤、頭髪における発毛または育毛の促進剤、あるいは脱毛進行予防剤として有効であることが示唆された。
【0072】
[実施例2:ヘアレスマウスを用いた発毛効果および育毛効果の確認試験(in vivo試験)]
生後8週齢の雌雄が混在したヘアレスマウス30匹を、星野実験動物株式会社から入手することにより準備した。上記ヘアレスマウスについて、雌雄を区別することなく6匹ずつ次の5群に分けた。すなわち上記の複数群は、通常飼料(商品名:「ラボMRストック」、日本農産工業株式会社製)を与えたノーマル群と、マグネシウム欠乏特殊飼料(商品名:「HR-AD飼料」、日本農産工業株式会社製)を与えたコントール群と、上記マグネシウム欠乏特殊飼料にPro-Hypを、その含有量が0.3質量%となるように加えた混餌を与えた第1群と、上記マグネシウム欠乏特殊飼料に上記コラーゲンペプチド混合物Aを、その含有量が5質量%となるように加えた混餌を与えた第2群と、上記マグネシウム欠乏特殊飼料に後述する組成からなるコラーゲンペプチド混合物Cを、その含有量が2.5質量%となるように加えた混餌を与えた第3群とからなる。
【0073】
上記コラーゲンペプチド混合物Cは、新田ゼラチン株式会社が開発中のコラーゲンペプチド混合物であって、上述した条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、以下の組成を含んでいた。
Pro-Hyp:12772ppm、Hyp-Gly:6353ppm、Gly-Pro-Hyp:32010ppm、Ala-Hyp-Gly:454ppm、Glu-Hyp-Gly:24ppm、Ser-Hyp-Gly:239ppm、Gly-Pro:26387ppm、Pro-Ala-Gly:2183ppm、合計:80422ppm。
【0074】
上記の各群のヘアレスマウスを、温度23±2℃、相対湿度55±10%、照明サイクル12時間、明期7:00~19:00、自由摂食の条件の下で3週間飼育し、生後11週齢としたときの頭部を観察した。ここでヘアレスマウスは、生後2週齢を経過すると脱毛が始まり、生後4週齢頃には無毛になることが知られる。入手時において、上記ヘアレスマウスの頭部は無毛であった。図1は、マグネシウム欠乏特殊飼料を与えたコントール群の生後11週齢のヘアレスマウスの頭部を示す。図2は、Pro-Hypを含むマグネシウム欠乏特殊飼料を与えた第1群の生後11週齢のヘアレスマウスの頭部を示す。
【0075】
その結果、図1および図2を対比することから理解されるように、Pro-Hypを含む混餌を摂食したヘアレスマウスにおいて頭髪で発毛が確認された。
【0076】
さらに脱毛が始まる前である生後2週齢のヘアレスマウスを星野実験動物株式会社から入手し、当該ヘアレスマウスの頭髪量を10とした場合において、各群の生後11週齢におけるヘアレスマウスの頭髪量を目視により測定した。結果を、表3に示す。表中の数値は、各群における6匹のヘアレスマウスの頭髪量の平均値を表す。
【0077】
【表3】
【0078】
〔考察〕
上記によれば、Pro-Hyp、コラーゲンペプチド混合物Aおよびコラーゲンペプチド混合物Cは、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有し、もって育毛剤として、具体的には毛乳頭細胞の細胞増殖促進剤、頭髪における発毛および育毛の促進剤、ならびに脱毛進行予防剤として有効であることが示唆された。
【0079】
[実施例3:対照試験(細胞生物学的試験:in vitro試験)]
〔試料の準備〕
<アミノ酸、ペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物の準備>
毛乳頭細胞に対する細胞増殖促進作用を評価する試料として、市販のアミノ酸であるアラニン(商品名:「L-アラニン」、関東化学株式会社製、カタログ番号:01101-30)、アルギニン(商品名:「L-アルギニン」、富士フィルム和光純薬株式会社製、カタログ番号:015-04613)、グルタミン(商品名:「L-グルタミン」、富士フィルム和光純薬株式会社製、カタログ番号:074-00522)およびプロリン(商品名:「L-プロリン」、富士フィルム和光純薬株式会社製、カタログ番号:161-04602)を準備した。
【0080】
<毛乳頭細胞の準備>
上述した実施例1における<毛乳頭細胞の準備>の項目で説明したことと同じ方法により、毛乳頭細胞を準備した。
【0081】
〔細胞増殖試験〕
上述した実施例1における〔細胞増殖試験〕の項目で説明したことと同じ要領により、各試料(アミノ酸)が有する毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用およびその有意性を評価した。結果を表4に示す。いずれの試料においても、毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有意に示すとは認められなかった。
【0082】
【表4】
【0083】
〔考察〕
表4によれば、アラニン、アルギニン、グルタミンおよびプロリンは毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用がネガティブであり、Hypなどの特定のアミノ酸に限って毛乳頭細胞の細胞増殖促進作用を有することが示唆された。
【0084】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2