(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150793
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】電流測定装置および電流測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20241017BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01R15/18 C
G01R19/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058223
(22)【出願日】2023-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】進藤 勇佑
【テーマコード(参考)】
2G025
2G035
【Fターム(参考)】
2G025AA00
2G025AB14
2G025AC01
2G035AC02
2G035AC03
2G035AD10
2G035AD14
2G035AD18
2G035AD19
2G035AD20
2G035AD55
2G035AD56
2G035AD66
(57)【要約】
【課題】測定対象電流に含まれる直流成分と交流成分とを分離して測定する。
【解決手段】電流測定装置は、コアとコイルと素子と交流測定回路とローパスフィルタと電流調整回路と直流測定回路とを備える。コアには、測定対象電流によって磁束が流れる。コイルは、コアに外嵌されている。素子は、コアに沿って流れるコア磁束に基づいてフィードバック電圧を発生させる。交流測定回路は、フィードバック電圧に基づいて測定対象電流の交流成分を測定する。ローパスフィルタは、フィードバック電圧から、所定周波数以上の交流成分を除去する。電流調整回路は、交流成分が除去されたフィードバック電圧に基づいて、コイルに対して、コア磁束の直流成分を打ち消す側にフィードバック電流を流す。直流測定回路は、フィードバック電流に基づいて測定対象電流の直流成分を測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に流れている電流としての測定対象電流を測定する電流測定装置であって、
前記測定対象電流によって磁束が流れるコアと、
前記コアに外嵌されているコイルと、
前記コアに沿って流れる磁束としてのコア磁束に基づいてフィードバック電圧を発生させる素子と、
前記フィードバック電圧に基づいて前記測定対象電流の交流成分を測定する交流測定回路と、
前記フィードバック電圧から、所定周波数以上の交流成分を除去するローパスフィルタと、
前記交流成分が除去された前記フィードバック電圧に基づいて、前記コイルに対して、前記コア磁束の直流成分を打ち消す側にフィードバック電流を流す電流調整回路と、
前記フィードバック電流に基づいて前記測定対象電流の直流成分を測定する直流測定回路と、
を備える電流測定装置。
【請求項2】
前記交流測定回路は、前記素子によって発生した前記フィードバック電圧を増幅させるオペアンプを有し、
前記交流測定回路は、増幅された前記フィードバック電圧に基づいて、前記測定対象電流の交流成分を測定する、
請求項1に記載の電流測定装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルタが前記フィードバック電圧から前記所定周波数以上の交流成分を除去するよりも前に、前記フィードバック電圧から前記所定周波数よりも大きい前段階周波数以上の交流成分を除去する前段階ローパスフィルタを、さらに備え、
前記交流測定回路は、前記前段階周波数以上の交流成分が除去された前記フィードバック電圧に基づいて、前記測定対象電流の交流成分を測定する、
請求項1又は2に記載の電流測定装置。
【請求項4】
測定対象に流れている電流としての測定対象電流によって磁束が流れるコアと、
前記コアに外嵌されているコイルと、
前記コアに沿って流れる磁束としてのコア磁束に基づいてフィードバック電圧を発生させる素子と、
を用いて前記測定対象電流を測定する電流測定方法であって、
前記フィードバック電圧に基づいて前記測定対象電流の交流成分を測定する工程と、
前記フィードバック電圧から、ローパスフィルタによって所定周波数以上の交流成分を除去する工程と、
前記交流成分が除去された前記フィードバック電圧に基づいて、前記コイルに対して、前記コア磁束の直流成分を打ち消す側にフィードバック電流を流す工程と、
前記フィードバック電流に基づいて前記測定対象電流の直流成分を測定する工程と、
を含む電流測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象に流れている電流としての測定対象電流を測定する電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電流測定装置の中には、コアと、ホール素子と、電流調整回路と、コイルと、電流測定回路と、を備えるものがある。コアには、測定対象電流によって磁束が流れる。コイルは、コアに外嵌されている。ホール素子は、コアに沿って流れる磁束としてのコア磁束に基づいてフィードバック電圧を発生させる。電流調整回路は、そのフィードバック電圧に基づいて、コイルに対して、コア磁束を打ち消す側にフィードバック電流を流す。電流測定回路は、そのフィードバック電流に基づいて、測定対象電流を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電流測定装置によれば、フィードバック電流によって、コア磁束を打ち消すことができる。そのため、磁気比例式の電流測定装置に用いられるものと比較してコアの断面積が小さい場合でも、コア磁束を充分に抑えて、コア内の発熱や磁気飽和などを充分に抑えることができる。
【0005】
しかしながら、本発明者らは、以下に示す問題が起こり得る点に着目した。すなわち、フィードバック電圧に基づいて、フィードバック電流を発生させる際には、電流調整回路の応答遅れが発生する。そのため、測定対象電流に含まれる交流成分の周波数が高い場合には、測定対象電流の交流成分に対するフィードバック電流の交流成分の位相遅れが顕著になる。その特性によって、弊害が発生し得る。具体的には、例えば最も極端には、当該位相遅れが当該交流成分の半波長になった場合には、コア磁束の交流成分をフィードバック電流の交流成分によって打ち消すどころか、逆に増幅してしまう。
【0006】
また、このように測定対象電流に直流成分と交流成分とが含まれる場合、フォードバック電流にも、直流成分と交流成分とが含まれる。そのため、このようなフィードバック電流に基づいて測定対象電流を測定する電流測定回路は、測定対象電流に含まれる直流成分と交流成分とを分離して測定することができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、測定対象電流の交流成分に対するフィードバック電流の交流成分の位相遅れによる弊害を抑止すると共に、測定対象電流に含まれる直流成分と交流成分とを分離して測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フィードバック電圧に基づいて測定対象電流に含まれる交流成分を測定してから、フィードバック電圧から交流成分を除去し、フィードバック電流に基づいて、測定対象電流に含まれる直流成分を測定すれば、上記目的を達成できることを見出して、本発明に至った。本発明は、以下の(1)~(3)の電流測定装置および(4)の電流測定方法である。
【0009】
(1)測定対象に流れている電流としての測定対象電流を測定する電流測定装置であって、
前記測定対象電流によって磁束が流れるコアと、
前記コアに外嵌されているコイルと、
前記コアに沿って流れる磁束としてのコア磁束に基づいてフィードバック電圧を発生させる素子と、
前記フィードバック電圧に基づいて前記測定対象電流の交流成分を測定する交流測定回路と、
前記フィードバック電圧から、所定周波数以上の交流成分を除去するローパスフィルタと、
前記交流成分が除去された前記フィードバック電圧に基づいて、前記コイルに対して、前記コア磁束の直流成分を打ち消す側にフィードバック電流を流す電流調整回路と、
前記フィードバック電流に基づいて前記測定対象電流の直流成分を測定する直流測定回路と、
を備える電流測定装置。
【0010】
本構成によれば、ローパスフィルタは、フィードバック電圧から交流成分を除去する。電流調整回路は、その交流成分が除去されたフィードバック電圧に基づいて、コイルに対してフィードバック電流を流す。そのため、フィードバック電流には、そもそもコア磁束の交流成分を打ち消すための交流成分が含まれない。そのため、測定対象電流の交流成分に対するフィードバック電流の交流成分の位相遅れが発生しない。そのため、当該位相遅れによる弊害を抑止できる。
【0011】
また、このように、フィードバック電流には交流成分が含まれないため、コア磁束においては、交流成分が打ち消されずに残る。交流測定回路は、そのコア磁束に基づくフィードバック電圧に基づいて、測定対象電流の交流成分を測定できる。他方、直流測定回路は、その交流成分がローパスフィルタによって除去されたフィードバック電圧に基づくフィードバック電流に基づいて、測定対象電流の直流成分を測定できる。以上のことから、測定対象電流に含まれる直流成分と交流成分とを、分離して測定できる。
【0012】
以上、本構成によれば、測定対象電流の交流成分に対するフィードバック電流の交流成分の位相遅れによる弊害を抑止できると共に、測定対象電流に含まれる直流成分と交流成分とを、分離して測定できる。
【0013】
(2)前記交流測定回路は、前記素子によって発生した前記フィードバック電圧を増幅させるオペアンプを有し、
前記交流測定回路は、増幅された前記フィードバック電圧に基づいて、前記測定対象電流の交流成分を測定する、
前記(1)に記載の電流測定装置。
【0014】
本構成によれば、オペアンプを用いて、交流測定回路を実現できる。
【0015】
(3)前記ローパスフィルタが前記フィードバック電圧から前記所定周波数以上の交流成分を除去するよりも前に、前記フィードバック電圧から前記所定周波数よりも大きい前段階周波数以上の交流成分を除去する前段階ローパスフィルタを、さらに備え、
前記交流測定回路は、前記前段階周波数以上の交流成分が除去された前記フィードバック電圧に基づいて、前記測定対象電流の交流成分を測定する、
前記(1)又は(2)に記載の電流測定装置。
【0016】
本構成によれば、測定対象電流に含まれる交流成分についての測定範囲を、前段階周波数以下且つ所定周波数以上の範囲に絞り込むことができる。
【0017】
(4)測定対象に流れている電流としての測定対象電流によって磁束が流れるコアと、
前記コアに外嵌されているコイルと、
前記コアに沿って流れる磁束としてのコア磁束に基づいてフィードバック電圧を発生させる素子と、
を用いて前記測定対象電流を測定する電流測定方法であって、
前記フィードバック電圧に基づいて前記測定対象電流の交流成分を測定する工程と、
前記フィードバック電圧から、ローパスフィルタによって所定周波数以上の交流成分を除去する工程と、
前記交流成分が除去された前記フィードバック電圧に基づいて、前記コイルに対して、前記コア磁束の直流成分を打ち消す側にフィードバック電流を流す工程と、
前記フィードバック電流に基づいて前記測定対象電流の直流成分を測定する工程と、
を含む電流測定方法。
【0018】
本構成の方法によれば、前記(1)の装置と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上の通り、前記(1)の装置および(4)の方法によれば、測定対象電流の交流成分に対するフィードバック電流の交流成分の位相遅れによる弊害を抑止できると共に、測定対象電流に含まれる直流成分と交流成分とを、分離して測定できる。さらに、前記(1)を引用する前記(2)(3)の構成によれば、それぞれの追加の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態の電流測定装置を示す回路図である。
【
図3】比較形態の電流測定装置を示す回路図である。
【
図5】第2実施形態の電流測定装置を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【0022】
[第1実施形態]
図1に示す本実施形態の電流測定装置100は、所定の回路の一部としての測定対象10に対して設置される。以下、測定対象10に流れている電流を「測定対象電流tI」という。測定対象電流tIには、例えば主成分としての直流成分tIdと、ノイズなどとしての交流成分tIaとが含まれる。
【0023】
電流測定装置100は、コア20とホール素子30と交流測定回路40とローパスフィルタ50と電流調整回路60とコイル70と直流測定回路80とを備える。
【0024】
コア20は、金属などの磁性体であって、測定対象10を取り囲むように測定対象10の周方向に延在している。コア20の周方向の一部には、ギャップGpが設けられている。以下、コア20に沿って流れる磁束を「コア磁束φ」という。コア20の内部には、測定対象電流tIによってコア磁束φが発生する。より具体的には、測定対象電流tIの直流成分tIdによって、コア磁束の直流成分φdが発生し、測定対象電流tIの交流成分tIaによって、コア磁束の交流成分φaが発生する。
【0025】
コイル70は、コア20に外嵌されている。以下、測定対象電流の直流成分tIdが一定となる状態を「定常状態」という。測定対象電流tIは、大半のタイミングにおいて定常状態となる。より具体的には、測定対象10が属する回路の始動のタイミングや出力変更のタイミングや停止のタイミングなどの特定のタイミング以外には、定常状態となる。その定常状態では、コイル70に流れる後述のフィードバック電流bIによる磁束によって、コア磁束の直流成分φdが0になる。そのため、定常状態では、コア磁束φは、交流成分φaのみとなる。
【0026】
ホール素子30は、ギャップGpに設けられた電圧発生用の素子である。つまり、ホール素子30は、ギャップGpを通過するコア磁束φに基づいてフィードバック電圧bVを発生させる。具体的には、
図2に示すように、ホール素子30には、コア磁束の直流成分φdによって、フィードバック電圧の直流成分bVdを発生し、コア磁束の交流成分φaによって、フィードバック電圧の交流成分bVaが発生する。ただし、前述の通り、コア磁束φは、定常状態では交流成分φaのみであることから、フィードバック電圧についても、定常状態では交流成分bVaのみである。
【0027】
図1に示すように、交流測定回路40は、オペアンプ43を有する。オペアンプ43の非反転入力端子は、ホール素子30の一端に電気的に接続されており、反転入力端子は、ホール素子30の他端に電気的に接続されている。また、オペアンプ43の正側電源端子は、定電圧源Vsのプラス端子に電気的に接続されており、オペアンプ43の負側電源端子は、グランド側配線Gdに電気的に接続されている。以上のことから、オペアンプ43は、ホール素子30からのフィードバック電圧bVを増幅して出力端子から出力する。以下、オペアンプ43によって増幅されたフィードバック電圧bVを「増幅フィードバック電圧BV」という。増幅フィードバック電圧BVも、フィードバック電圧bVと同様、直流成分BVdと交流成分BVaとを含むが、定常状態では交流成分BVaのみである。
【0028】
図2に示すように、交流測定回路40は、その定常状態での交流成分BVaのみの増幅フィードバック電圧BV=BVaに基づいて、コア磁束の交流成分φaを算出して、測定対象電流の交流成分tIaを算出することができる。以上のことから、交流測定回路40は、ホール素子30からのフィードバック電圧bVに基づいて、測定対象電流の交流成分tIaを測定する。
【0029】
図1に示すように、オペアンプ43の出力端子は、ローパスフィルタ50を介して電流調整回路60の入力端子に電気的に接続されている。具体的には、ローパスフィルタ50は、電気抵抗54とコンデンサ59とを有する。オペアンプ43の出力端子は、電気抵抗54の一端に電気的に接続されている。電気抵抗54の他端は、電流調整回路60の入力端子に電気的に接続されると共に、コンデンサ59を介してグランド側配線Gdに電気的に接続されている。
【0030】
以上のことから、ローパスフィルタ50は、電気抵抗54の抵抗値とコンデンサ59の静電容量とによって決まる所定周波数以上の交流成分を除去する。その所定周波数は、測定対象電流tIに含まれると想定される交流成分tIaの周波数よりも小さい。そのことから、
図2に示すように、ローパスフィルタ50は、オペアンプ43から出力される増幅フィードバック電圧BV=BVd+BVaから、略全ての交流成分BVaを除去する。これによって、増幅フィードバック電圧BVは、実質的に直流成分BVdのみとなる。その直流成分BVdは、前述の通り定常状態では0である。そのことから、電流調整回路60に入力される増幅フィードバック電圧BV=BVdは、定常状態では0である。
【0031】
図1に示すように、電流調整回路60の正側電源端子は、定電圧源Vsのプラス端子に電気的に接続されており、電流調整回路60の負側電源端子は、グランド側配線Gdに電気的に接続されている。電流調整回路60の出力端子は、コイル70の一端に電気的に接続されている。以上のことから、
図2に示すように、電流調整回路60は、ローパスフィルタ50を通過した直流成分BVdだけの増幅フィードバック電圧BV=BVdに基づいて、コイル70に対して、直流成分bIdだけのフィードバック電流bIを流す。
【0032】
具体的には、電流調整回路60は、入力される増幅フィードバック電圧BVが0の場合、現在のフィードバック電流bIを維持する。他方、入力される増幅フィードバック電圧BVが0以外の場合には、増幅フィードバック電圧BVの大きさに基づいて、フィードバック電流bIの大きさを変化させる。それによって、フィードバック電流bIの大きさを、コア磁束の直流成分φdを丁度打ち消すだけの大きさにフィードバック制御する。
【0033】
図1に示す直流測定回路80は、シャント抵抗86を有する。コイル70の他端は、そのシャント抵抗86を介して、グランド側配線Gdに電気的に接続されている。そのことから、シャント抵抗86には、フィードバック電流bIが流れる。そのシャント抵抗86の端子間電圧は、フィードバック電流bIと、シャント抵抗86の電気抵抗値Rとの積bI×Rになる。
【0034】
図2に示すように、直流測定回路80は、そのシャント抵抗86の端子間電圧sVを測定する。その端子間電圧sVに基づいて、フィードバック電流bI=bIdを算出して、測定対象電流の直流成分tIdを算出することができる。以上のことから、直流測定回路80は、フィードバック電流bIに基づいて、測定対象電流の直流成分tIdを測定する。
【0035】
以下、
図3に示すように、
図1に示す本実施形態からローパスフィルタ50を省いたものを「比較形態」という。以下、この比較形態と比較しつつ、本実施形態の効果について説明する。
【0036】
図3に示す比較形態の場合、ローパスフィルタが無いことから、オペアンプ43から電流調整回路60に入力される増幅フィードバック電圧BVには、直流成分BVdのみならず、交流成分BVaも含まれる。そのため、電流調整回路60によって出力されるフィードバック電流bIにも、直流成分bIdのみならず交流成分bIaが含まれる。その交流成分bIaによって、以下の問題が起こり得る。
【0037】
すなわち、
図4に示すようにして、フィードバック電圧bVに基づいて、フィードバック電流bIを発生させる際には、電流調整回路60の応答遅れが発生する。そのため、測定対象電流tIに含まれる交流成分tIaの周波数が高い場合には、測定対象電流の交流成分tIaに対するフィードバック電流の交流成分bIaの位相遅れが顕著になる。その特性によって、弊害が発生し得る。具体的には、例えば最も極端には、当該位相遅れが測定対象電流の交流成分tIaの半波長になった場合には、コア磁束の交流成分φaをフィードバック電流の交流成分bIaによって打ち消すどころか、逆に増幅してしまう。
【0038】
その点、本実施形態によれば、
図2に示すように、ローパスフィルタ50が、増幅フィードバック電圧BV=BVd+BVaから交流成分BVaを除去して、直流成分BVdのみにする。その直流成分BVdのみの増幅フィードバック電圧BV=BVdに基づいて、電流調整回路60が、コイル70に対して、直流成分bIdのみのフィードバック電流bIを流す。そのため、フィードバック電流bIには、そもそもコア磁束の交流成分φaを打ち消すための交流成分が含まれない。そのため、測定対象電流の交流成分tIaに対するフィードバック電流bIの交流成分の位相遅れが発生しない。そのため、当該位相遅れによる弊害を抑止できる。
【0039】
さらに、本実施形態によれば、以下に示す弊害も解消できる。すなわち、
図4に示すように、比較形態の場合、ホール素子30からのフィードバック電圧bVに、直流成分bVdと交流成分bVaとの両方が含まれるのに加えて、電流調整回路60からのフィードバック電流bIにも、直流成分bIdと交流成分bIaとの両方が含まれる。そのことから、比較形態では、測定対象電流tIに含まれる直流成分tIdと交流成分tIaとを効率的に分離して測定することができない。
【0040】
その点、
図2に示す本実施形態では、前述の通り、ホール素子30からのフィードバック電圧bV=bVd+bVaは、定常状態では交流成分bVaのみである。そのため、交流測定回路40は、定常状態において、その交流成分bVaのみのフィードバック電圧bVに基づいて、測定対象電流の交流成分tIaを測定できる。他方、フィードバック電流bI=bIdについては、前述の通り、常に直流成分bIdのみである。そのため、直流測定回路80は、その直流成分bIdのみのフィードバック電流bIに基づいて、測定対象電流の直流成分tIdを測定できる。以上のことから、本実施形態では、測定対象電流tIに含まれる直流成分tIdと交流成分tIaとを、分離して測定できる。
【0041】
また、本実施形態によれば、オペアンプ43を用いて、交流測定回路40を実現できる。また、通常の磁気平衡式と比較してコア内の磁場が常に0A/m付近であり、透磁率の磁場依存性の影響が小さいため、交流測定回路60は、より精度良く測定できる。
【0042】
なお、本実施形態は、換言すれば、
図2に示す電流測定装置100の各部による動作を各工程として、測定対象電流tIに含まれる直流成分tIdと交流成分tIaとを分離して測定する電流測定方法を実施している。この電流測定方法によっても、以上に示した電流測定装置100の場合と同様の効果が得られる。
【0043】
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明する。本実施形態については、第1実施形態をベースにこれと異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同一又は類似の点については、説明を適宜省略する。
【0044】
図5に示すように、本実施形態の電流測定装置100は、さらに前段階ローパスフィルタ50pを備える。オペアンプ43の出力端子は、順に前段階ローパスフィルタ50pとローパスフィルタ50とを介して、電流調整回路60の入力端子に電気的に接続されている。
【0045】
具体的には、前段階ローパスフィルタ50pは、前段階電気抵抗54pと前段階コンデンサ59pとを有する。オペアンプ43の出力端子は、前段階電気抵抗54pの一端に電気的に接続されている。前段階電気抵抗54pの他端は、電気抵抗54の一端に電気的に接続されると共に、前段階コンデンサ59pを介して、グランド側配線Gdに電気的に接続されている。
【0046】
以上のことから、前段階ローパスフィルタ50pは、前段階電気抵抗54pの抵抗値と前段階コンデンサ59pの静電容量とによって決まる前段階周波数以上の交流成分を除去する。他方、ローパスフィルタ50は、前段階電気抵抗54pの抵抗値と電気抵抗54の抵抗値との和と、コンデンサ59の静電容量と、によって決まる周波数以上の交流成分を除去する。その所定周波数よりも、前段階周波数の方が大きい。
【0047】
測定対象電流tIは、交流成分として、低周波成分tIaLと高周波成分tIaHとを含む。低周波成分tIaLは、例えば1kHz程度の交流成分である。高周波成分tIaHは、例えば30kHz以上の交流成分である。そのことから、コア磁束φも、交流成分として、低周波成分φaLと高周波成分φaHとを含む。そのことから、
図6に示すように、ホール素子30からのフィードバック電圧bVも、交流成分として、低周波成分bVaLと高周波成分bVaHとを含む。そのことから、オペアンプ43からの増幅フィードバック電圧BVも、交流成分として、低周波成分BVaLと高周波成分BVaHとを含む。
【0048】
図6に示すように、前段階ローパスフィルタ50pは、増幅フィードバック電圧BV=BVd+BVaL+BVaHから、高周波成分BVaHを除去する。他方、ローパスフィルタ50は、当該高周波成分BVaHが除去された増幅フィードバック電圧BV=BVd+BVaLから、残りの低周波成分BVaLを除去する。
【0049】
なお、ここでも前述の通り、定常状態では、増幅フィードバック電圧の直流成分BVdは0である。そのことから、前段階ローパスフィルタ50pを通過した後、ローパスフィルタ50を通過する前の増幅フィードバック電圧BV=BVd+BVaLは、定常状態では低周波成分BVaLのみとなる。
【0050】
交流測定回路40は、定常状態において、その低周波成分BVaLのみの増幅フィードバック電圧BV=BVaLを測定する。その低周波成分BVaLのみの増幅フィードバック電圧BV=BVaLに基づいて、コア磁束の低周波成分φaLを演算して、測定対象電流の低周波成分tIaLを演算することができる。ただし、このとき、増幅フィードバック電圧の低周波成分BVaLの一部は、前段階抵抗値54pで除去されるので、その分は勘案する必要はある。以上のことから、交流測定回路40は、高周波成分BVaHが除去された増幅フィードバック電圧BVに基づいて、測定対象電流の低周波成分tIaLを測定する。
【0051】
以上の通り、本実施形態によれば、測定対象電流tIに含まれる交流成分tIaL,tIaHについての測定範囲を、前段階周波数以下且つ所定周波数以上の範囲に絞り込むことができる。そのことから、交流測定回路40は、測定対象電流の低周波成分tIaLのみを測定することができる。
【0052】
[他の実施形態]
以上の実施形態は、例えば以下のように変更して実施できる。
図1に示す交流測定回路40が、オペアンプ43の出力電圧ではなく、ローパスフィルタ50の電気抵抗54の端子間電圧を測定するようにしてもよい。つまり、この場合、交流測定回路40は、増幅フィードバック電圧BVのうちの除去される交流成分BVaを測定する。この態様によっても、測定対象電流の交流成分tIaを測定できる。
【0053】
また、
図5に示す第2実施形態において、交流測定回路40が、前段階電気抵抗54pの端子間電圧をさらに測定するようにしてもよい。つまり、この場合、交流測定回路40は、増幅フィードバック電圧BVのうちの、前段階ローパスフィルタ50pによって除去される高周波成分BVaHをさらに測定する。ただし、このとき、低周波成分BVaLの一部も、前段階抵抗値54pで除去されるので、その分は勘案する必要はある。この態様によれば、測定対象電流に含まれる高周波成分tIaHと低周波成分tIaLとを、分離して測定できる。
【符号の説明】
【0054】
10 測定対象
20 コア
30 ホール素子(素子)
40 交流測定回路
50 ローパスフィルタ
60 電流調整回路
70 コイル
80 直流測定回路
100 電流測定装置
tI 測定対象電流
tId 測定対象電流の直流成分
tIa 測定対象電流の交流成分
bV フィードバック電圧
bVa フィードバック電圧の交流成分
BV 増幅フィードバック電圧(増幅されたフィードバック電圧)
BVa 増幅フィードバック電圧の交流成分
BVaL 増幅フィードバック電圧の低周波成分
BVaH 増幅フィードバック電圧の高周波成分
bI フィードバック電流