(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150794
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】自動車のサブフレーム構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
B62D21/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059963
(22)【出願日】2023-04-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚記
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA31
3D203BA13
3D203CA23
3D203CA33
3D203CA55
3D203CA57
3D203CA58
3D203CA62
3D203DA72
3D203DA83
(57)【要約】
【課題】走行時にサスペンションアームや他の車体部品から入力する様々な荷重に対する剛性を向上させた自動車のサブフレーム構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車のサブフレーム構造1は、左右一対のサイドメンバ10と、クロスメンバ20と、を備えたものであって、クロスメンバ20は、車両前方側における左右のサスペンションアーム連結部11を結ぶ直線上に配設された略矩形断面中空部材21と、一枚の金属板からパネル状に形成され、略矩形断面中空部材21よりも車両後方側に配設され、両側辺部23aの後端23a1が車両後方側のサスペンションアーム連結部13よりも車両後方側に位置するパネル状部材23と、を有し、パネル状部材23は車両後方側から車両幅方向の中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲し、湾曲の中央から両端に向かってビード幅が漸次増加するように形成されたビード部25を有するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部が設けられた左右一対のサイドメンバと、車両幅方向に延在し、両端部が左右の前記サイドメンバに接続されたクロスメンバと、を備えた自動車のサブフレーム構造であって、
前記クロスメンバは、
車両前方側における左右の前記サスペンションアーム連結部を結ぶ直線上に配設され、略矩形断面を有する中空の略矩形断面中空部材と、
金属板からパネル状に形成され、前記略矩形断面中空部材よりも車両後方側に配設されて、車両幅方向の側辺部の後端が車両後方側の前記サスペンションアーム連結部よりも車両後方側に位置するように前記側辺部が左右の前記サイドメンバに接続されたパネル状部材と、を有し、
前記パネル状部材は、車両後方側の前記サスペンションアーム連結部よりも車両後方側から車両幅方向の中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲するビード部を有し、
該ビード部は、湾曲の中央から両端に向かってビード幅が漸次増加するように形成されている、ことを特徴とする自動車のサブフレーム構造。
【請求項2】
前記パネル状部材は、後辺部が車両幅方向の両端から中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲し、
前記ビード部は、前記後辺部に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項3】
前記各サイドメンバの先端部に、前記略矩形断面中空部材よりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部が設けられていること、を特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項4】
前記屈曲突出部は、車両幅方向の車外側に傾斜している傾斜部位における車外側の側面部に開口部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項5】
前記屈曲突出部における車内側の谷部の内面側に、上面と下面とを繋いで中空の断面の一部又は全部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項6】
前記クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板で形成されたものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサブフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行時にサスペンションアームや他の車体部品から入力する様々な荷重に対する剛性を向上させた自動車のサブフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、サスペンションアームと車体とを結合するサブフレームが設置されたものがある。サブフレームは、一般的に、車両前後方向に延在する左右一対のサイドメンバに、車両幅方向に延在するクロスメンバの両端部が接続されている。そして、サブフレームには、車両前後方向に互いに離間した2つのクロスメンバが設けられて上面視で井桁状のものと、車両後方側に1つのクロスメンバが設けられて上面視でH型状のものがある。また、サイドメンバとクロスメンバはそれぞれ別部品であって、これらが別の部品により接続されたものに限らず、サイドメンバとクロスメンバとが一体化されたものもある。
【0003】
サブフレームは、車両の走行時にサスペンションアームから入力する荷重による変形だけでなく、スタビライザやステアリングギアボックス等のサブフレームに装着された車体部品や車体との取付部から入力する荷重によっても変形するため、高い剛性が求められる。そして、サブフレームの高剛性化は、乗り心地の向上に繋がり、自動車の価値を向上させる。
【0004】
また、ガソリン車の場合、サブフレームは一般的にエンジンを避けて配置されるが、電気自動車の場合はその必要がない。しかしながら、電気自動車は、バッテリーを搭載する必要があるため、車両重量が増加する。そのため、電気自動車のサブフレームにおいては、より剛性を高めた構造が求められる。
【0005】
これまでに、例えば特許文献1~3に開示されているように、自動車のサブフレーム構造に求められる性能や構造に関する技術がいくつか提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-50213号公報
【特許文献2】特開2022-074054号公報
【特許文献3】特開2020-164094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車のサブフレームにおいては、前述したように、走行時にサスペンションアームから入力する荷重に加え、サブフレームに装着された他の車体部品や車体との取付部から入力する様々な向きの荷重に対する高い剛性が要求される。
特に、電気自動車のサブフレームにおいては、自動車のエネルギー効率の観点から軽量であることも求められる。サブフレームの軽量化のためには、金属板材のプレス成形により製造する場合では板厚を薄くすることが効果的であるが、板厚を薄くすると一般に剛性は低下するので、高剛性化と軽量化はトレードオフの関係にある。
また、板厚を薄くすると低下する車両性能としては、衝突性能や、一度の荷重が入力したときの変形強度、疲労強度等があるが、これらは強度の高い金属材料を適用することで解決できる。しかし、一般的な金属材料においては高強度化しても弾性係数はほとんど変化しないので、金属材料の高強度化による高剛性化は期待できない。
【0008】
このように、自動車(特に電気自動車)のサブフレームにおいては、金属材料の強度によらず高剛性化を実現する構造が要求される。
しかしながら、特許文献1、2のサブフレームは、車両の前面衝突を想定した衝突性能を向上させるものであり、走行時においてサスペンションアームや他の車体部品から入力する様々な向きの荷重に対する剛性を向上させるものではなかった。
【0009】
また、特許文献3のサブフレームは、クロスメンバから車体の後方側に離間して供えられた連結部材により、第1のサイドメンバと第2のサイドメンバを斜交い構造で連結するものであった。そして、特許文献3によれば、連結部材によりサブフレームの強度及び剛性を高めることができるとされている。
【0010】
しかしながら、特許文献3のサブフレームにおいては、車両前方側のクロスメンバと車両後方側の連結部材との間に大きな空間が存在している。そのため、サブフレームに装着された他の車体部品や車体との取付部から入力する様々な向きの荷重に対して十分に剛性を向上させることができないといった課題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、サスペンションアームから入力する荷重に加え、他の車体部品や車体との取付部から入力する様々な向きの荷重に対して高い剛性を有する自動車のサブフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る自動車のサブフレーム構造は、車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部が設けられた左右一対のサイドメンバと、車両幅方向に延在し、両端部が左右の前記サイドメンバに接続されたクロスメンバと、を備えたものであって、
前記クロスメンバは、
車両前方側における左右の前記サスペンションアーム連結部を結ぶ直線上に配設され、略矩形断面を有する中空の略矩形断面中空部材と、
金属板からパネル状に形成され、前記略矩形断面中空部材よりも車両後方側に配設されて、車両幅方向の側辺部の後端が車両後方側の前記サスペンションアーム連結部よりも車両後方側に位置するように前記側辺部が左右の前記サイドメンバに接続されたパネル状部材と、を有し、
前記パネル状部材は、車両後方側の前記サスペンションアーム連結部よりも車両後方側から車両幅方向の中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲するビード部を有し、
該ビード部は、湾曲の中央から両端に向かってビード幅が漸次増加するように形成されている、ことを特徴とするものである。
【0013】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記パネル状部材は、後辺部が車両幅方向の両端から中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲し、
前記ビード部は、前記後辺部に沿って形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記各サイドメンバの先端部に、前記略矩形断面中空部材よりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部が設けられていること、を特徴とするものである。
【0015】
(4)上記(3)に記載のものにおいて、
前記屈曲突出部は、車両幅方向の車外側に傾斜している傾斜部位における車外側の側面部に開口部が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
(5)上記(3)又は(4)に記載のものにおいて、
前記屈曲突出部における車内側の谷部の内面側に、上面と下面とを繋いで中空の断面の一部又は全部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、
前記クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板で形成されたものであること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るサブフレーム構造によれば、車両の走行時に、サスペンションアームから入力する荷重に加え、他の車体部品や車体との取付部から入力する様々な向きの荷重に対する剛性を高めることができる。
【0019】
また、本発明に係るサブフレーム構造においては、サイドメンバに、クロスメンバよりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する屈曲突出部を設けたものとする。これにより、車両の前面衝突時にサイドメンバに塑性変形が生じるまでの衝突初期の過渡的な弾性変形の段階において、屈曲突出部が蛇腹状に圧壊する塑性変形が生じて衝突エネルギーを吸収することができる。
さらに、本発明に係るサブフレーム構造においては、屈曲突出部の車両前後方向における長さを衝突初期に衝突エネルギーを吸収するのに必要な程度に設定すればよいため、車両先端部のショートノーズ化が進展している電気自動車等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造の構成を説明する上面図である。
【
図2】本発明に至った経緯における検討、及び実施例での剛性調査の対象としたサブフレーム構造における入力荷重モードを示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造におけるクロスメンバのパネル状部材の具体例を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造において、パネル状部材に追加して形成する補剛ビード部の一例を示す上面図である。
【
図5】本発明の実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造において、サイドメンバに設けられるサスペンションアーム連結部の他の具体例を示す上面図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係る自動車のサブフレーム構造を示す上面図である。
【
図7】本発明の実施の形態2に係る自動車のサブフレーム構造における屈曲突出部を説明する図である((a)上面図、(b)側面図)。
【
図8】本発明の実施の形態2に係る自動車のサブフレーム構造を備えた車両の前面衝突解析により求めた、屈曲突出部の変形挙動を示す図である(その1:(a)衝突開始時、(b)剛体壁の侵入量4mm、(c)侵入量20mm)。
【
図9】本発明の実施の形態2に係る自動車のサブフレーム構造を備えた車両の前面衝突解析により求めた、屈曲突出部の変形挙動を示す図である(その2:(d)剛体壁の侵入量40mm、(e)侵入量80mm)。
【
図10】本発明に係る自動車のサブフレーム構造において、サイドメンバの先端部に設けた屈曲突出部の内部に設置する中空断面閉塞縦壁部を説明する図である。
【
図11】本発明に係る自動車のサブフレーム構造において、屈曲突出部の内部に中空断面閉塞縦壁部として設けるパッチ部品の一例を示す図である。
【
図12】本発明に係る自動車のサブフレーム構造において、屈曲突出部の一部としてサイドメンバの前端部に設ける補強部品の一例を示す図である。
【
図13】実施例1において、剛性の調査対象としたサブフレーム構造を示す図である((a)発明例1、(b)比較例)。
【
図14】実施例において、衝突性能の調査対象としたサブフレーム構造において、サイドメンバの先端部に設けた屈曲突出部の拡大図である((a)中空の屈曲突出部のみ、(b)屈曲突出部の内部にパッチ部品を設置、(c)前端に縦壁を形成したサイドメンバの前端部に補強部品を接合)。
【
図15】実施例2において、発明例2~4に係るサブフレーム構造を備えた車両の衝突解析により求めた荷重-変位曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[発明に至った経緯]
発明者は、自動車の走行時を想定して、剛性を向上させるサブフレーム構造を鋭意検討した。
【0022】
当該検討においては、
図2に示すような、左右のサイドメンバ10と、クロスメンバ20と、を備えたサブフレーム構造1に対象とした。そして、サスペンションアーム連結部11、13に荷重が入力する入力荷重モード(
図2(a))と、車体との取付部であるサイドメンバ10の先端部10aに荷重が入力する入力荷重モード(
図2(b))と、についてサブフレーム構造1の剛性を評価した。
【0023】
サスペンションアーム連結部11、13への入力荷重モードは、
図2(a)(i)~(iii)に示すように、サスペンションアーム101に入力する荷重の方向の異なる3パターンとした。ここで、
図2(a)(i)は、車両幅方向における右方向に荷重が入力するモード、
図2(a)(ii)は車両前後方向の後方向に荷重が入力するモード、
図2(a)(iii)は車両上下方向における上方向に荷重が入力するモード、である。
【0024】
また、車体との取付部(サイドメンバ10の先端部10a)への入力荷重モードは、
図2(b)(i)~(iii)に示すように、左右のサイドメンバ10の先端部10aそれぞれに入力する荷重の大きさと方向が異なる3パターンとした。ここで、
図2(b)(i)は、車両上方向と車両下方向に逆向きの入力荷重モード(ねじり)、
図2(b)(ii)は、車両幅方向の一方向の入力荷重モード(横曲げ)、
図2(b)(iii)は、車両上方向に大きさの異なる入力荷重モード(折れ変形)である。
【0025】
これらの入力荷重モードに対するサブフレーム構造1の剛性を検討した結果、サブフレーム構造1の剛性を効果的に向上させるには以下の(1)~(3)が有効であることを見出した。
【0026】
(1)左右のサイドメンバ10を連結するクロスメンバ20として、車両前方側の左右のサスペンションアーム連結部11同士を結ぶ直線上に、断面二次モーメントの高い略矩形断面の略矩形断面中空部材を配設すること。
(2)さらに、クロスメンバ20として、略矩形断面中空部材よりも車両後方側にパネル状部材を配設し、サイドメンバ10における車両後方側のサスペンションアーム連結部よりも車両後方側にまで車両幅方向の側辺部を接続すること。
(3)パネル状部材については、上面視で車両前方側に凸状に湾曲したビード部を設け、そのビード幅を車両幅方向の両端に向かって漸次増加させること。
【0027】
そして、上記の(1)~(3)を備えることで、サブフレーム構造1全体を面外に曲げる入力荷重モード(
図2(b)(i)ねじり、(iii)折れ変形)や、サブフレーム構造1全体を面内に曲げる入力荷重モード(
図2(b)(ii)横曲げ)に対して特に有効であることが判明した。
【0028】
本発明は、かかる検討に基づいてなされたものであり、以下にその構成を説明する。
発明を完成するに至った。
【0029】
[実施の形態1]
本実施の形態1に係るサブフレーム構造1は、
図1に一例として示すように、サイドメンバ10と、クロスメンバ20と、を備えたものである。また、サブフレーム構造1には、サスペンションアーム101と、車体との取付部103が設けられている。
以下、サブフレーム構造1の各構成について説明する。なお、本願の図面において、「前後」は車両前後方向、「左右」は車両幅方向(車両の進行方向に向かって左右方向)、「上下」は車両上下方向を示している。
【0030】
≪サイドメンバ≫
サイドメンバ10は、
図1に示すように、車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部11、13が設けられた左右一対のものである。
【0031】
≪クロスメンバ≫
クロスメンバ20は、
図1に示すように、車両幅方向に延在し、両端部20aが左右のサイドメンバ10に接続されたものであり、略矩形断面中空部材21と、パネル状部材23と、を有する。
図3(a)に、クロスメンバ20の
図1中におけるA-A断面の断面図を示す。
【0032】
(略矩形断面中空部材)
略矩形断面中空部材21は、
図1に示すように、左右のサイドメンバ10における車両前方側のサスペンションアーム連結部11同士を結ぶ直線上に配設されたものであり、車両幅方向に直交する断面において略矩形断面を有する中空の部材である。そして、両端部21aがサイドメンバ10に接続している。
【0033】
(パネル状部材)
パネル状部材23は、
図1に示すように、金属板からパネル状に形成され、略矩形断面中空部材21よりも車両後方側に配設されたものである。そして、パネル状部材23は、車両幅方向の側辺部23aの後端23a1が車両後方側のサスペンションアーム連結部13よりも車両後方側に位置するように側辺部23aが左右のサイドメンバ10に接続されたものである。
【0034】
さらに、パネル状部材23は、車両後方側のサスペンションアーム連結部13よりも車両後方側から車両幅方向の中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲するビード部25を有する。そして、ビード部25は、湾曲の中央から両端25aに向かってビード幅が漸次増加するように形成されている。ここで、ビード幅は、ビード部25の湾曲に沿った方向に直交する断面における幅とする。
【0035】
≪作用効果≫
本実施の形態1に係るサブフレーム構造1の作用効果は以下のとおりである。
略矩形断面中空部材21は、車両前方側における左右のサスペンションアーム連結部11を結ぶ直線上に配設されているため、車両前方側において車体と接続して荷重が入力するサイドメンバ10の先端部10aの近傍に位置している。これにより、サスペンションアーム連結部11、13に荷重が入力する入力荷重モード(
図2(a)(i)~(iii))だけでなく、サイドメンバ10の先端部10aに荷重が入力する入力荷重モード(
図2(b)(i)~(iii))に対して剛性を向上させる効果を奏する。
【0036】
また、パネル状部材23は、略矩形断面中空部材21よりも車両後方側に配設され、車両幅方向の側辺部23aは、その後端23a1が車両後方側のサスペンションアーム連結部13よりも車両後方側に位置するように左右のサイドメンバ10に接続されている。これにより、略矩形断面中空部材21の後方の左右のサイドメンバ10とパネル状部材23とが一体化した構造にすることができ、
図2(a)、(b)に示す種々の入力荷重モードに対する剛性を向上させることができる。
【0037】
さらに、パネル状部材23は、車両前方側に凸状に湾曲してビード幅が湾曲の中央から両端に向かって漸次増加するように形成されたビード部25を有する。これにより、
図2(b)(ii)に示した横曲げの入力荷重モードや、
図2(b)(iii)の折れ変形の入力荷重モードに対する剛性を高めることができる。
【0038】
このように、本実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造1においては、様々な入力荷重モードに対する剛性を向上させることができる。
また、本実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造1においては、様々な入力荷重モードに対する剛性を向上させて変形を抑制することにより、衝突強度、一発入力強度(一度の荷重入力に対する変形強度)、疲労強度の向上も期待できる。さらには、剛性の向上分を相殺するように各車体部品の板厚を減少させることにより、従来のサブフレーム構造と同等の構造を維持したまま軽量化することもできる。
なお、本実施の形態1に係るサブフレーム構造による剛性向上に関しては、後述する実施例1において検証した。
【0039】
本実施の形態1に係るサブフレーム構造1において、略矩形断面中空部材21は、左右の車両前方側のサスペンションアーム連結部11を連結するように配置することが望ましい。これにより、サスペンションアーム連結部11からの入力荷重に対する剛性を効果的に向上させることができる。
【0040】
また、略矩形断面中空部材21は、略矩形断面における車両前方側の角部21c(
図3(a)参照)がサスペンションアーム連結部11よりも車両前方側に位置するように配設することが好ましい。これにより、自動車の電動化によって得られる空間を有効に活用することができる。
【0041】
図1に示すサブフレーム構造1において、パネル状部材23は、車両前後方向における後辺部23bが車両幅方向の両端から中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲し、ビード部25は、後辺部23bの湾曲に沿って形成されている。これにより、サブフレーム構造1の剛性を向上させるとともに、軽量化することができて好ましい。
【0042】
本発明において、パネル状部材に形成するビード部は、ビード幅が湾曲の中央から両端に向かって漸次増加するものであれば、ビード幅やビード高さ等の形状については特に限定はない。しかし、サイドメンバ先端部に荷重が入力する横曲げの入力荷重モードや、折れ変形の入力荷重モードに対する剛性を高めるには、湾曲の両端のビード幅は、湾曲の中央のビード幅の4~5倍程度とし、湾曲の両端のビード幅は90mm~120mm程度とするのが好ましい。また、ビード高さは10mm~30mm程度とするのが好ましい。
【0043】
また、本発明に係るサブフレーム構造においては、パネル状部材23は、1枚の金属板から形成することができ、特に、
図3に示すように、パネル状部材23と略矩形断面中空部材21の下部21dとを1枚の金属板の張出成形により形成するとよい。これにより、部品点数の削減による軽量化と生産性の向上を図ることができる。
【0044】
パネル状部材23は、
図3(b)に示すように、深絞り成形により凹部27を形成したものであってもよい。このように凹部27を形成することで、ステアリングギア等の部品を凹部27に配置することができ、サブフレーム構造1の剛性を向上させるとともに、車両内部の限られたスペースを有効活用することが可能となる。
【0045】
さらに、パネル状部材23については、
図4に例示するように、補剛ビード部29を追加して形成することで、サブフレーム構造1の剛性をさらに向上させることも容易にできる。
【0046】
なお、
図1に示すサブフレーム構造1においては、サイドメンバ10の車両幅方向車外側の側面に開口部を設け、サスペンションアーム101を開口部に挿入してサスペンションアーム連結部11、13に連結するものであった。このようなサブフレーム構造1においては、サスペンションアーム101からの入力荷重に対して高い剛性と疲労強度を有するが、サイドメンバ10を閉断面構造とすることができないため、車両前方からの衝突強度を確保できない恐れがある。
【0047】
そこで、本発明は、
図5に例示するように、サイドメンバ10とサスペンションアーム101とをフランジ部15をサスペンションアーム連結部として用いサブフレーム構造1Aであってもよい。このようなサブフレーム構造1Aにおいても、サスペンションアーム連結部(フランジ部15、サスペンションアーム連結部17)からの入力荷重モードに対する剛性を高めることができ、さらには、車両前方からの衝突強度を向上させることができる。
【0048】
[実施の形態2]
前述した本実施の形態1に係るサブフレーム構造1は、車両走行時における種々の入力荷重モードに対して剛性を向上させるものであった。もっとも、本実施の形態2に係るサブフレーム構造は、剛性だけでなく車両前面からの衝突性能を向上させたものとして構成することができる。
【0049】
本実施の形態2に係るサブフレーム構造3は、
図6に一例として示すように、サイドメンバ30と、クロスメンバ20と、を備えたものである。ここで、クロスメンバ20は、前述した実施の形態1と同様(
図1)、車両幅方向に延在し、両端部が左右のサイドメンバ30に接続されたものであり、略矩形断面中空部材21と、パネル状部材23と、を有する。
【0050】
サイドメンバ30は、
図6に示すように、車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部31、33が設けられた左右一対のものである。そして、各サイドメンバ30の先端部30aに、略矩形断面中空部材21よりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部35が設けられている。
【0051】
屈曲突出部35の車両内側の谷部35aは、前面衝突時に車両前方から衝突荷重を受けた際に屈曲突出部35が車両前後方向に圧壊(塑性変形)する起点となる部位である。そのため、サブフレーム構造3の屈曲突出部35においては、サイドメンバ10が塑性変形する前の衝突初期の段階において衝突エネルギーを吸収することが可能となる。
なお、本実施の形態2では略矩形断面中空部材21と、パネル状部材23により前面衝突に対する屈曲突出部35よりも車両前後方向の後方側のサブフレーム構造3の剛性を向上できる。そのため、前面衝突時に車両前方から衝突荷重を受けた際に屈曲突出部35は、サブフレーム構造3からの反力を受け、効率的に圧壊(座屈変形)することができる。
【0052】
さらに、屈曲突出部35は、その車両前後方向における長さを衝突初期に衝突エネルギーを吸収するのに必要な程度に設定すればよい。そのため、サブフレーム構造3は、車両先端部のショートノーズ化が進展している電気自動車にも好ましく適用することができる。
【0053】
なお、屈曲突出部35は、
図7に示すように、車両幅方向車外側に傾斜する傾斜部位35bの側面部35b1に開口部35b2を形成されていることが好ましい。このことについて、
図6に示すサブフレーム構造3を備えた車両が壁に前面衝突する衝突解析を行い、車両前方から衝突荷重を受けて屈曲突出部35が圧壊する変形挙動を求めた解析結果に基づいて説明する。
【0054】
開口部35b2が形成されている側面部35b1は、
図7に示すように、車両前方から衝突荷重を受けた際に車両前後方向に圧壊する起点となる谷部35aに対向している(
図8(a))。そのため、車両前方から衝突荷重を受けると、まず、屈曲突出部35の谷部35aを圧壊の起点として屈曲し始める(
図8(b))。そして、衝突が進行して壁が侵入すると、谷部35aに対向する車外側の側面部35b1に設けた開口部35b2は車両前後方向に押しつぶされ、車両上下方向に広がるように変形する(
図8(b)~(c))。
【0055】
この開口部35b2の変形により谷部35aを起点とする折れ曲がりが促進され、
図9(d)及び(e)に示すように、壁の侵入量が40mm~80mmと進展するに従い、屈曲突出部35の上面35cと下面35dが蛇腹状に圧壊(座屈変形)する塑性変形が生じる。
このように、屈曲突出部35の車両外側の側面部に開口部35b2を形成することで、衝突初期における蛇腹状の圧壊を促進し、衝突エネルギー吸収量を増加することが可能となる。
【0056】
屈曲突出部35は、谷部35aを起点とする圧壊(座屈変形)を安定して生じさせるためには、車両前後方向に対する傾斜部位35bの傾斜角度(
図7(a)中に示すθ)が10°~45°(
図7(a)ではθ=30°)であることが好ましい。
【0057】
傾斜角度が10°よりも小さいと、屈曲突出部35において圧壊が生じる起点の位置が変動し、安定した圧壊が生じなくなる恐れがある。
また、傾斜角度が45°よりも大きいと、屈曲突出部35の先端に入力する衝突荷重の車両前後方向の分力が小さくなり、屈曲突出部35の車両前後方向の圧壊による衝突エネルギー吸収量が小さくなって好ましくない。
【0058】
屈曲突出部35の圧壊による衝突エネルギー吸収量は、圧壊(座屈変形)を開始する衝突初期の荷重(座屈耐力)が高いほど大きくすることができる。そして、屈曲突出部35の座屈耐力を向上させるためには、開口部35b2の変形に伴う中空の屈曲突出部35の断面崩れを抑制することが効果的である。
【0059】
そこで、
図10に示すように、屈曲突出部35における車内側の谷部35aの内面側に、上面と下面と繋いで中空の断面の全部又は一部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部37が設けられていることが好ましい。これにより、屈曲突出部35の座屈耐力を向上し、衝突エネルギー吸収量を向上させることができる。
【0060】
中空断面閉塞縦壁部37が設けられた屈曲突出部35の具体的な例として、
図11及び
図12(a)に示す構造が挙げられる。
【0061】
図11は、中空断面閉塞縦壁部としてパッチ部品37Aを谷部35aの内面側に設置した屈曲突出部35である。
一方、
図12(a)は、略中空部材30Aの先端部における壁面を折り曲げて中空断面閉塞縦壁部37Bを形成し(
図12(b))、屈曲突出部35の先端部に相当する補強部品39(
図12(c))を接合したものである。
【0062】
中空断面閉塞縦壁部37は、屈曲突出部35の中空断面の1/3(33%)以上を閉塞することが好ましい。1/3未満だと、屈曲突出部35の車外側の側面部35b1に形成した開口部35b2の変形に伴う屈曲突出部35の断面崩壊を抑制する効果が小さく、座屈耐力を十分に向上させることが出来ないためである。
【0063】
また、屈曲突出部35は、車両前方側の先端を閉じた形状とすることが好ましい。これにより、車両の前面衝突の際に、屈曲突出部35の先端の変形を抑制し、座屈耐力が低下するのを防ぐことができる。開口端部が閉じた形状とするためには、例えば、屈曲突出部35の先端に板状部材を接合するとよい。
【0064】
本実施の形態2に係るサブフレーム構造3において、屈曲突出部は、前述したように、車両前方から衝突荷重が入力する衝突初期に圧壊することで衝突エネルギーを吸収するものである。そのため、屈曲突出部が圧壊し終わった変形後期においては車両に入力する衝突荷重は過度に高くなる傾向にあり、衝突荷重の増大により乗員障害値を上昇させてしまうことがある。
この観点から、本発明に係るサブフレーム構造においては、変形後期の衝突エネルギーを吸収して荷重を低下させるために、例えば、サイドメンバにおける車両後方側のサスペンションアーム連結部の後方に変形誘発ビードを設ける、等の対策を施すことが好ましい。
【0065】
なお、本発明に係るサブフレーム構造において、サイドメンバは、屈曲突出部の有無によらず、引張強度590MPa級以上の鋼板で構成されていることが好ましい。これにより、車両前方からの衝突強度を高めるだけでなく、変形強度や疲労強度を向上させることができる。
一方、クロスメンバは、その材質を特に限定するものではなく、要求される衝突強度や変形強度に応じて適宜選択すればよい。
【実施例0066】
本発明に係る自動車のサブフレーム構造の作用効果を検証するための調査を行ったので、以下、これについて説明する。
【0067】
実施例1では、
図13に示す自動車のサブフレーム構造の剛性について調査した。
図13(a)は発明例1としたサブフレーム構造41であり、
図13(b)は比較例としたサブフレーム構造43である。
【0068】
発明例1に係るサブフレーム構造41は、実施の形態1で述べたサブフレーム構造1(
図1)と同様、左右一対のサイドメンバ50と、車両幅方向に延在して両端部がサイドメンバに接続するクロスメンバ60を備えたものである。そして、クロスメンバ60は、略矩形断面中空部材61と、パネル状部材63と、を有するものである。
【0069】
略矩形断面中空部材61は、
図13(a)に示すように、左右のサイドメンバ50における車両前方側のサスペンションアーム連結部51同士を結ぶ直線状に配設されている。
【0070】
パネル状部材63は、略矩形断面中空部材61よりも車両後方側に配設されており、車両幅方向の両端から中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲した後辺部63bに沿って形成されたビード部65を有する。そして、ビード部65は、その両端65aに向かってビード幅が漸次増加するように形成されている。
【0071】
比較例に係るサブフレーム構造43は、
図13(b)に示すように、左右のサイドメンバ50と、クロスメンバ70と、を備えたものである。
比較例に係るサブフレーム構造43において、サイドメンバ50は発明例1と同一のものとした。
これに対し、クロスメンバ70は、
図13(b)に示すように、第1クロスメンバ71と、第1クロスメンバ71と、第2クロスメンバ73と、第3クロスメンバ75と、を有する。
第1クロスメンバ71は、パネル状の部材であり、車両前方側のサスペンションアーム連結部51を連結するように配設されている。これに対し、第2クロスメンバ73と第3クロスメンバ75は、略矩形断面を有する中空の部材であり、車両前後方向において互いに離間するように配設されている。
【0072】
発明例1に係るサブフレーム構造41は、比較例に係るサブフレーム構造43における4箇所の部品(
図13(b)中において矢印で差し示す部品)を撤去し、略矩形断面中空部材61とパネル状部材63とをクロスメンバ60として設置したものである。また、パネル状部材63は、比較例の第1クロスメンバ71を車両後方側に延長したものとした。
【0073】
そして、発明例1に係るサブフレーム構造41において、略矩形断面中空部材61の板厚は2.4mm、パネル状部材63の板厚は2.1mmとし、その他の部品(サイドメンバ50等)の板厚は、比較例と同様とした。なお、本発明例1に係るサブフレーム構造41及び比較例に係るサブフレーム構造43のサイドメンバ50は、引張強度590MPa級の鋼板で構成した。
【0074】
実施例1では、
図2に示す各入力荷重モードについて、発明例1に係るサブフレーム構造41と比較例に係るサブフレーム構造43の剛性を評価した。
【0075】
そして、発明例1と比較例のそれぞれについて求めた剛性により、発明例1に係るサブフレーム構造41の剛性向上率を算出した。ここで、剛性向上率は、従来例の剛性を基準としたときの発明例1の剛性の向上率であり、下式により算出した。
剛性向上率[%]=(発明例1の剛性-比較例の剛性)/(比較例の剛性)×100
表1に、比較例に対する発明例1に係るサブフレーム構造の剛性向上率の結果を示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、発明例1に係るサブフレーム構造41においては、
図2に示す(a)、(b)全ての入力荷重モードで剛性が向上する結果であった。特に、車体との取付部であるサイドメンバ50の先端部50aに荷重が入力する入力荷重モード(
図2(b)(i)~(iii))においては剛性向上率が30%増加しており、顕著な剛性向上が確認できた。
発明例2~4を比較すると、衝突開始直後における荷重の増加に大きな差異は見られないが、屈曲突出部55にパッチ部品57A又は中空断面閉塞縦壁部57Bを設けた発明例3及び4では荷重のピーク値がそれぞれ14%、12%大きくなった(発明例2:243kN、発明例3:278kN、発明例4:273kN)。
以上の結果から、屈曲突出部55において圧壊の起点となる谷部55aの内側に中空断面閉塞縦壁部(パッチ部品57A、中空断面閉塞縦壁部57B)を設けることで屈曲突出部55の座屈耐力を増大できることが分かる。
さらに、発明例3、4においては、衝突開始から40msまでの衝突初期の段階において発明例2よりも荷重が高い値を示していることから、衝突エネルギー吸収量が増大していることが示唆された。