(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150795
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】自動車のサブフレーム構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
B62D21/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059967
(22)【出願日】2023-04-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚記
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203BA13
3D203CA23
3D203CA33
3D203CA55
3D203CA57
3D203CA58
3D203CA62
3D203DA72
3D203DA83
(57)【要約】
【課題】車両の前面衝突の初期段階において、衝突エネルギーを吸収し、かつ衝突エネルギーを吸収する部位を短縮した自動車のサブフレーム構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車のサブフレーム構造1は、車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部11、13が設けられた左右一対のサイドメンバ10と、車両幅方向に延在し、両端部が左右のサイドメンバ10に接続されたクロスメンバ20と、を備えたものであって、各サイドメンバ10の先端部10aに、クロスメンバ20よりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部15が設けられていることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部が設けられた左右一対のサイドメンバと、車両幅方向に延在し、両端部が左右の前記サイドメンバに接続されたクロスメンバと、を備えた自動車のサブフレーム構造であって、
前記各サイドメンバの先端部に、前記クロスメンバよりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部が設けられている、ことを特徴とする自動車のサブフレーム構造。
【請求項2】
前記屈曲突出部は、車両幅方向の車外側に傾斜している傾斜部位における車外側の側面部に開口部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項3】
前記屈曲突出部は、前記クランク状の屈曲における車内側の谷部の内面側に、上面と下面を繋いで中空の断面の全部又は一部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項4】
前記中空断面閉塞縦壁部は、前記屈曲突出部の中空の断面の1/3以上を閉塞することを特徴とする請求項3に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項5】
前記屈曲突出部は、その先端が閉じた形状であることを特徴とする請求項3に記載の自動車のサブフレーム構造。
【請求項6】
前記サイドメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板で形成されたものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のサブフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前面衝突に対する衝突性能を向上させた自動車のサブフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、サスペンションアームと車体とを結合するサブフレームが設置されたものがある。サブフレームは、一般的に、車両前後方向に延在する左右一対のサイドメンバに、車両幅方向に延在するクロスメンバの両端部が接続されている。そして、サブフレームには、車両前後方向に互いに離間した2つのクロスメンバが設けられて上面視で井桁状のものと、車両後方側に1つのクロスメンバが設けられて上面視でH型状のものがある。また、サイドメンバとクロスメンバはそれぞれ別部品であって、これらが別の部品により接続されたものに限らず、サイドメンバとクロスメンバとが一体化されたものもある。
【0003】
サブフレームは、ガソリン車の場合では一般的にエンジンを避けて配置されるが、電気自動車の場合ではその必要がない。しかしながら、電気自動車はバッテリーを搭載する必要があるため、車両重量が増加する。そのため、電気自動車のサブフレームにおいては、従来のガソリン車ではそれほど重要視されていなかった車両の前面衝突を想定した衝突性能が求められるようになっている。
【0004】
これまでに、例えば特許文献1~3に開示されているように、前面衝突性能を向上させたサブフレーム構造に関する技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、車両前後方向に延びる左右一対の縦メンバ(本願のサイドメンバに相当)に設けられて車両衝突時に各縦メンバの下方へ向けた折れ変形を促進する変形促進部を備えたフロントサブフレーム構造が開示されている。そして、特許文献1によれば、車両衝突時に各縦メンバを変形促進部で確実に折るととともに衝突荷重を確実に吸収することができ、フロントサブフレームから車体側へ衝突荷重が伝達されることを抑制することができるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、車両前方の側に行くに従って幅方向外側に偏向しながら延在する第1サイドメンバ及び第2サイドメンバそれぞれにおける偏向度合いが大きくなる部分を連結する第2クロスメンバを備えた車両用サブフレームが開示されている。そして、特許文献2によれば、オフセット衝突等において、第1サイドメンバ及び第2サイドメンバの一方に前面衝突荷重が印加されたとき、一方のサイドメンバの不要な変形を抑制しながら、他方のサイドメンバへ衝突荷重を伝達して分散できるとされている。
【0007】
さらに、特許文献3には、クロスメンバから車体の後方側に離間し、サイドメンバに対して前後方向で互いに離間した部位に連結部材が連結され、各サイドメンバには連結部材の連結部の間に脆弱部が設けられた車両用サブフレームが開示されている。そして、特許文献3によれば、連結部材で車両用サブフレームの強度及び剛性を高めることができると共に、連結部材の連結部に対して脆弱部を適切に配置することで車両用サブフレームに所要の衝突性能を発揮させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-50213号公報
【特許文献2】特開2022-074054号公報
【特許文献3】特開2020-164094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び3の技術は、サイドメンバに折れ変形を発生させて、衝突時に車両が受ける運動エネルギーの一部を吸収するものである。しかしながら、サイドメンバに折れ変形が発生するまでの衝突初期の弾性変形が生じる過渡的な段階において衝突エネルギーを吸収することができないという問題があった。
【0010】
また、特許文献2の技術は、前面衝突時に圧壊して衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスをサイドメンバの前方に配設することにより、サイドメンバに折れ変形が発生するまでの衝突初期の段階においても衝突エネルギーを吸収するものである。しかしながら、例えば電気自動車では、航続距離拡大のため積載バッテリーの大型化やキャビン拡大により車両先端部のショートノーズ化が進展しているため、衝突エネルギー吸収に必要な変形部の短縮が必要とされている。そのため、所望の衝突エネルギーを吸収するために所定長さのクラッシュボックスを配設することを要する特許文献2の技術を電気自動車に適用することは困難であった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、衝突初期の過渡的な段階において衝突エネルギーを吸収し、かつ衝突エネルギーを吸収する部位を短縮した自動車のサブフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る自動車のサブフレーム構造は、車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部が設けられた左右一対のサイドメンバと、車両幅方向に延在し、両端部が左右の前記サイドメンバに接続されたクロスメンバと、を備えたものであって、
前記各サイドメンバの先端部に、前記クロスメンバよりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部が設けられている、ことを特徴とするものである。
【0013】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記屈曲突出部は、車両幅方向の車外側に傾斜している傾斜部位における車外側の側面部に開口部が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記屈曲突出部は、前記クランク状の屈曲における車内側の谷部の内面側に、上面と下面を繋いで中空の断面の全部又は一部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
(4)上記(3)に記載のものにおいて、
前記中空断面閉塞縦壁部は、前記屈曲突出部の中空の断面の1/3以上を閉塞することを特徴とするものである。
【0016】
(5)上記(3)又は(4)に記載のものにおいて、
前記屈曲突出部は、その先端が閉じた形状であることを特徴とするものである。
【0017】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、
前記サイドメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板で形成されたものであること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るサブフレーム構造においては、左右一対のサイドメンバと、クロスメンバと、を備え、サイドメンバは、クロスメンバよりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する屈曲突出部を有する。これにより、車両の前面衝突時にサイドメンバに塑性変形が生じるまでの衝突初期の過渡的な弾性変形の段階において、屈曲突出部が蛇腹状に圧壊する塑性変形が生じて衝突エネルギーを吸収することができる。
さらに、本発明に係るサブフレーム構造においては、屈曲突出部の車両前後方向における長さを衝突初期に衝突エネルギーを吸収するのに必要な程度に設定すればよいため、車両先端部のショートノーズ化が進展している電気自動車等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造の構成を説明する上面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造における屈曲突出部を説明する図である((a)上面図、(b)側面図)。
【
図3】本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造を備えた車両の前面衝突解析により求めた、屈曲突出部の変形挙動を示す図である(その1:(a)衝突開始時、(b)剛体壁の侵入量4mm、(c)侵入量20mm)。
【
図4】本発明の実施の形態に係る自動車のサブフレーム構造を備えた車両の前面衝突解析により求めた、屈曲突出部の変形挙動を示す図である(その2:(d)剛体壁の侵入量40mm、(e)侵入量80mm)。
【
図5】本発明に係る自動車のサブフレーム構造において、サイドメンバの先端部に設けた屈曲突出部の内部に設置する中空断面閉塞縦壁部を説明する図である。
【
図6】本発明に係る自動車のサブフレーム構造において、屈曲突出部の内部に中空断面閉塞縦壁部として設けるパッチ部品の一例を示す図である。
【
図7】本発明に係る自動車のサブフレーム構造において、屈曲突出部の一部としてサイドメンバの先端部に設ける補強部品の一例を示す図である。
【
図8】実施例において、車両の前面衝突に対する衝突性能の調査対象としたサブフレーム構造において、サイドメンバの先端部に設けた屈曲突出部の拡大図である((a)中空の屈曲突出部、(b)内部にパッチ部品を設置した屈曲突出部、(c)先端に中空断面閉塞縦壁部を形成した略中空部材の先端部に補強部品を接合して形成した屈曲突出部)。
【
図9】実施例において、発明例1~3に係るサブフレーム構造を備えた車両に対して前方から剛体壁を衝突させる衝突解析により求めた荷重-変位曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態に係るサブフレーム構造1は、
図1に一例として示すように、サイドメンバ10と、クロスメンバ20と、を備えたものである。また、サブフレーム構造1には、サスペンションアーム101と、車体との取付部103が設けられている。
以下、サブフレーム構造1の各構成について説明する。なお、本願の図面において、「前後」は車両前後方向、「左右」は車両幅方向(車両の進行方向に向かって左右方向)、「上下」は車両上下方向を示している。
【0021】
<クロスメンバ>
クロスメンバ20は、
図1に示すように、車両幅方向に延在し、両端部が左右のサイドメンバ10に接続されたものである。本実施の形態に係るサブフレーム構造1では、略矩形断面中空部材21と、パネル状部材23と、の2つのクロスメンバ20が設けられている。
【0022】
<サイドメンバ>
サイドメンバ10は、
図1に示すように、車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部11、13が設けられた左右一対のものである。そして、各サイドメンバ10の先端部10aに、クロスメンバ20であって車両前方側に配設された略矩形断面中空部材21よりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部15を有する。
【0023】
<作用効果>
サブフレーム構造1においては、車体側へ傾斜してクランク状に屈曲した屈曲突出部15の車両内側の谷部15aは、前面衝突時に車両前方から衝突荷重を受けた際に屈曲突出部15が車両前後方向に圧壊(塑性変形)する起点となる部位である。そのため、サブフレーム構造1の屈曲突出部15においては、サイドメンバ10が塑性変形する前の衝突初期の段階において衝突エネルギーを吸収することが可能となる。
また、本実施の形態1に係る自動車のサブフレーム構造1においては、衝突エネルギーの一部を屈曲突出部15で分担して吸収する。これにより、サイドメンバ10で吸収する衝突エネルギー量が軽減され、サイドメンバ10の衝突強度、一発入力強度(一度の荷重入力に対する変形強度)、疲労強度の向上も期待できる。さらには、衝突性能の向上分を相殺するように各車体部品の板厚を減少させることにより、従来のサブフレーム構造と同等の構造を維持したまま軽量化することもできる。
【0024】
なお、屈曲突出部15は、その車両前後方向における長さを衝突初期に衝突エネルギーを吸収するのに必要な程度に設定すればよい。そのため、サブフレーム構造1は、車両先端部のショートノーズ化が進展している電気自動車にも好ましく適用することができる。
【0025】
<好適なサブフレーム構造>
屈曲突出部15は、
図2に示すように、上面視で車両幅方向車外側に傾斜する傾斜部位15bにおける車外側の側面部15b1に開口部15b2が形成されていることが好ましい。このことについて、
図1に示すサブフレーム構造1を備えた車両が壁に前面衝突する衝突解析を行い、車両前方から衝突荷重を受けて屈曲突出部15が圧壊する変形挙動を求めた解析結果に基づいて説明する。
【0026】
開口部15b2が形成されている側面部15b1は、車両前方から衝突荷重を受けた際に車両前後方向に圧壊する起点となる谷部15aに対向している(
図3(a))。そのため、車両前方から衝突荷重を受けると、まず、屈曲突出部15の谷部15aを圧壊の起点として屈曲し始める(
図3(b))。そして、衝突が進行して壁が侵入すると、谷部15aに対向する車外側の側面部15b1に設けた開口部15b2は車両前後方向に押しつぶされ、車両上下方向に広がるように変形する(
図3(b)~(c))。
【0027】
この開口部15b2の変形により谷部15aを起点とする折れ曲がりが促進され、
図4(d)及び(e)に示すように、壁の侵入量が40mm~80mmと進展するに従い、屈曲突出部15の上面15cと下面15dが蛇腹状に圧壊(座屈変形)する塑性変形が生じる。
このように、屈曲突出部15の車外側の側面部15b1に開口部15b2が形成されていることで、衝突初期における蛇腹状の圧壊を促進し、衝突エネルギー吸収量を増加することが可能となる。
【0028】
屈曲突出部15は、谷部15aを起点とする圧壊(座屈変形)を安定して生じさせるためには、車両前後方向に対する傾斜部位15bの傾斜角度(
図2中に示すθ)が10°~45°(
図2ではθ=30°)であることが好ましい。
傾斜角度が10°よりも小さいと、屈曲突出部15において圧壊が生じる起点の位置が変動し、安定した圧壊が生じなくなる恐れがある。
また、傾斜角度が45°よりも大きいと、屈曲突出部15の先端に入力する衝突荷重の車両前後方向の分力が小さくなり、屈曲突出部15の車両前後方向の圧壊による衝突エネルギー吸収量が小さくなって好ましくない。
【0029】
屈曲突出部15の圧壊による衝突エネルギー吸収量は、圧壊(座屈変形)を開始する衝突初期の荷重(座屈耐力)が高いほど大きくすることができる。そして、屈曲突出部15の座屈耐力を向上させるためには、開口部15b2の変形に伴う中空の屈曲突出部15の断面崩れを抑制することが効果的である。
【0030】
そこで、屈曲突出部15は、
図5に示すように、車外側に傾斜したクランク状の屈曲における車内側の谷部15aの内面側に、上面15cと下面15dと繋いで中空の断面の全部又は一部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部17が設けられていることが好ましい。これにより、屈曲突出部15の座屈耐力を向上し、衝突エネルギー吸収量を向上させることができる。
【0031】
中空断面閉塞縦壁部17が設けられた屈曲突出部15の具体的な例として、
図6及び
図7(a)に示す構造が挙げられる。
【0032】
図6は、中空断面閉塞縦壁部としてパッチ部品17Aを谷部15aの内面側に設置した屈曲突出部15である。
一方、
図7(a)は、略中空部材10Aの先端部における壁面を折り曲げて形成した中空断面閉塞縦壁部17Bにより中空の断面を閉塞し(
図7(b))、屈曲突出部15の先端部に相当する補強部品19(
図7(c))を接合したものである。
【0033】
中空断面閉塞縦壁部17は、屈曲突出部15の中空断面の1/3(33%)以上を閉塞することが好ましい。1/3未満だと、屈曲突出部15の車外側の側面部15b1に形成された開口部15b2の変形に伴う屈曲突出部15の断面崩壊を抑制する効果が小さく、座屈耐力を十分に向上させることが出来ないためである。
【0034】
また、屈曲突出部15は、車両前方側の先端を閉じた形状とすることが好ましい。これにより、車両の前面衝突の際に、屈曲突出部15の先端の変形を抑制し、座屈耐力が低下するのを防ぐことができる。先端を閉じた形状とするためには、例えば、屈曲突出部15の先端に板状部材を接合するとよい。
【0035】
本発明に係るサブフレーム構造において、サイドメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板で構成されていることが好ましい。これにより、車両前方からの衝突強度を高めるだけでなく、変形強度や疲労強度を向上させることができる。
一方、クロスメンバは、その材質を特に限定するものではなく、要求される衝突強度や変形強度に応じて適宜選択すればよい。
【0036】
なお、本発明において、屈曲突出部は、前述したように、車両前方から衝突荷重が入力する衝突初期においては圧壊することで衝突エネルギーを吸収するものである。しかしながら、屈曲突出部が圧壊し終わった衝突後期においては、サブフレーム構造から車体側へと入力する衝突荷重が過度に高くなる傾向にあり、衝突荷重の増大により乗員障害値を上昇させてしまうことがある。
【0037】
このような観点から、本発明に係るサブフレーム構造においては、衝突後期の衝突エネルギーを吸収して車体側へと入力する荷重を低下させる対策を施すことが好ましい。このよう対策としては、例えば、サイドメンバにおける車両後方側のサスペンションアーム連結部の後方に変形誘発ビードを設ける、等が挙げられる。
【0038】
本発明に係るサブフレーム構造は、クロスメンバの形状及び個数を特に限定はするものではない。例えば、前後方向に略矩形断面のクロスメンバが2つ配設され、上面視で井桁状のサブフレーム構造であってもよいし、車両前方側に1つのクロスメンバが配設され、上面視でH型状のサブフレーム構造であってもよい。
もっとも、本発明は、前述したサブフレーム構造1のように、略矩形断面中空部材21と、パネル状部材23と、の2つのクロスメンバ20を備えたものしてもよい。
【0039】
サブフレーム構造1において、略矩形断面中空部材21は、
図1に示すように、車両前方側のサスペンションアーム連結部11同士を結ぶ直線上に配設されたものであり、車両幅方向に直交する断面において略矩形断面を有する中空の部材である。
また、パネル状部材23は、車両幅方向の側辺部23aの後端23a1が車両後方側のサスペンションアーム連結部13よりも車両後方側に位置するように側辺部23aが左右のサイドメンバ10に接続されたものである。
【0040】
さらに、パネル状部材23は、車両後方側のサスペンションアーム連結部13よりも車両後方側から車両幅方向の中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲するビード部25を有する。そして、ビード部25は、湾曲の中央から両端25aに向かってビード幅が漸次増加するように形成されている。ここで、ビード幅は、ビード部25の湾曲に沿った方向に直交する断面における幅である。
なお、軽量化の観点から、パネル状部材23は、車両前後方向における後辺部23bが車両幅方向の両端から中央に向かって車両前方側に凸状に湾曲し、ビード部25は、後辺部23bの湾曲に沿って形成されていることが好ましい。
【0041】
このように、クロスメンバ20として略矩形断面中空部材21とパネル状部材23とを備えたサブフレーム構造1は、車両の走行時においてサスペンションアーム連結部11、13や車体取付部等から入力する荷重対して剛性を高めることも可能となる。
また、サブフレーム構造1に、略矩形断面中空部材21とパネル状部材23と備えることにより、サブフレーム構造1の前面衝突に対する剛性を高めることが可能となる。そのため、そのため、前面衝突時に車両前方から衝突荷重を受けた際に屈曲突出部15は、サブフレーム構造1からの反力を受け、効率的に圧壊(座屈変形)することができる。
【実施例0042】
本発明に係る自動車のサブフレーム構造の作用効果を検証するための調査を行ったので、以下、これについて説明する。
【0043】
本実施例では、実施の形態で述べたサブフレーム構造1を備えた車両を解析対象とした衝突解析を行い、衝突性能を調査した。
サブフレーム構造1は、
図1に示したように、左右一対のサイドメンバ10と、クロスメンバ20と、を備え、クロスメンバ20は、略矩形断面中空部材21と、パネル状部材23と、を有するものである。
【0044】
各サイドメンバ10は、
図8(a)に示すように、略矩形断面中空部材21よりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部15が設けられている。そして、各屈曲突出部15には、車両前後方向に対して車両幅方向の車外側に傾斜している傾斜部位15bにおける車外側の側面部15b1に開口部15b2を形成した。
【0045】
本実施例では、
図8に示すように、中空の屈曲突出部15の内部に中空断面閉塞縦壁部を設けて座屈耐力を向上させた場合の衝突性能について調査した。
図8(a)に示す屈曲突出部15は、中空断面閉塞縦壁部が設けられていないものである(発明例1)。
図8(b)に示す屈曲突出部15Aは、クランク状の屈曲における車内側の谷部15aの内面側に、上面15cと下面15dとを繋いで中空の断面の一部(屈曲突出部15Aの中空の断面の43%>33%)を閉塞するパッチ部品17Aが設けられたものである(発明例2、
図6参照)。
一方、
図8(c)に示す屈曲突出部15は、先端部の一部を折り曲げて形成した中空断面閉塞縦壁部17Bにより内部(屈曲突出部15Bの中空の断面の全部)を閉塞した略中空部材に、屈曲突出部15の先端部に相当する補強部品19を接合したものである(発明例3、
図7参照)。
【0046】
実施例では、発明例1~3に係るサブフレーム構造1を備えた車両の解析対象とし、車両前方から剛体壁を衝突させ、車両後方の締結部(
図1のサイドメンバ10の車両前後方向の後端)を完全固定して衝突解析を行った。
【0047】
図9に、発明例1~3に係るサブフレーム構造1をそれぞれ備えた車両の衝突解析により求めた、衝突初期における荷重-変位曲線を示す。ここで、荷重は車両前方に衝突して侵入する剛体壁に対する反力とし、変位は車両前後方向における剛体壁の車体側への侵入量とした。
【0048】
図9に示すように、荷重は、剛体壁が衝突して変位が増加、すなわち剛体壁の侵入に伴って増加し、ピークに達した後は徐々に低下している。
【0049】
発明例1~3を比較すると、衝突開始直後における荷重の増加に大きな差異は見られないが、屈曲突出部15にパッチ部品17A又は中空断面閉塞縦壁部17Bを設けた発明例2及び3では荷重のピーク値がそれぞれ14%、12%大きくなった(発明例1:243kN、発明例2:278kN、発明例3:273kN)。
【0050】
以上の結果から、屈曲突出部55において圧壊の起点となる谷部50aの内側に中空断面閉塞縦壁部57を設けることで屈曲突出部55の座屈耐力を増大できることが分かる。
さらに、発明例2、3においては、衝突開始から40msまでの衝突初期の段階において発明例2よりも荷重が高い値を示していることから、衝突エネルギー吸収量が増大していることが示唆された。
車両前後方向に延在し、車両前後方向の2か所にサスペンションアーム連結部が設けられた左右一対のサイドメンバと、車両幅方向に延在し、両端部が左右の前記サイドメンバに接続されたクロスメンバと、を備えた自動車のサブフレーム構造であって、
前記各サイドメンバの先端部に、前記クロスメンバよりも車両前方側に突出し、車両幅方向の車外側へと傾斜してクランク状に屈曲する中空の屈曲突出部が設けられており、
前記屈曲突出部は、車両幅方向の車外側に傾斜している傾斜部位における車外側の側面部に開口部が形成されていることを特徴とする自動車のサブフレーム構造。
前記屈曲突出部は、前記クランク状の屈曲における車内側の谷部の内面側に、上面と下面を繋いで中空の断面の全部又は一部を閉塞する中空断面閉塞縦壁部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のサブフレーム構造。