(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150853
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】RNAの検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6816 20180101AFI20241017BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20241017BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241017BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20241017BHJP
【FI】
C12Q1/6816 Z
C12Q1/6886 Z
C12N15/12
C12N9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063850
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若尾 摂
(72)【発明者】
【氏名】中寺 康仁
(72)【発明者】
【氏名】上田 洋二
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA12
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
(57)【要約】
【課題】本発明は、RNAを高感度かつ特異的に検出することを目的とする。
【解決手段】本発明は、56℃で5分間加温することで活性が50%以下に低下する脱リン酸化酵素で検出対象となるRNAの5’末端を脱リン酸化し、前記酵素を60℃以上80℃以下で失活させ、テトラアルキルアンモニウム塩存在下ハイブリダイゼーションを行う工程を経ることを特徴とするRNAの検出方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のRNAを検出する方法であって
工程a):前記試料に脱リン酸化酵素を作用させて前記RNAの5’末端のリン酸基を除去する工程、
工程b):工程a)で得られた反応液を60℃以上80℃以下に加温し、前記脱リン酸化酵素を失活させる工程、および
工程c):工程b)で得られた反応液を、テトラアルキルアンモニウム塩存在下、前記RNAを捕捉可能なプローブDNAに接触させて、当該RNAと前記プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる工程
を含み、
前記脱リン酸化酵素は、56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記RNAがマイクロRNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
テトラアルキルアンモニウム塩がテトラメチルアンモニウムクロリドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
テトラアルキルアンモニウム塩及び56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下する脱リン酸化酵素を含む、RNA検出用のキット。
【請求項5】
検出対象のRNAがマイクロRNAである、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
テトラアルキルアンモニウム塩がテトラメチルアンモニウムクロリドである、請求項4または5に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAの検出方法およびRNA検出用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAマイクロアレイは、支持体上に固相化したプローブDNAと検出対象核酸とのハイブリダイゼーション反応を検出原理としている。より多くの検出対象核酸を捉えるため、複数のプローブDNAを支持体上に固定化して用いるが、精度良く検出するためには、検出対象核酸に特異的な配列を持つように設計したプローブDNAを用いる必要がある。ゲノムDNAやメッセンジャーRNAの検出においては、塩基配列の相同性を指標に、他の分子と相同性の低い領域を選択し、20塩基~100塩基程度の長さのプローブDNAを合成して用いることが行われている。また、プローブ設計時には、ハイブリダイゼーション強度の指標であるTm値を計算し、複数のプローブDNA間でTm値に差が生じないよう工夫されている。
【0003】
特異的に検出するための別のアプローチとして、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを高めることで、類似配列のハイブリダイゼーションを抑える方法が行われている。具体的には、ハイブリダイゼーション反応温度や、ハイブリ反応溶液中の塩強度、ホルムアミドの添加等で、適宜調整することができる。
【0004】
また、RNAの検出における特異度向上の方法として、テトラメチルアンモニウム塩共存下でLAMP法による検出を行うことにより、プライマーとのハイブリダイゼーション配列依存性を低下させることで、検出の特異度を向上させる方法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
近年、miRNAは、細胞内のみならず、細胞を含まない検体である血清、血漿、尿、脊髄液等の体液にも多く存在し、その存在量が、がんをはじめとした様々な疾患のバイオマーカーとなる可能性が示唆されている。miRNAはヒトにおいて2600種以上が存在し、高感度なDNAマイクロアレイ等の測定系を利用した場合、そのうちの1000種を超えるmiRNAの発現を血清・血漿中で同時に検出することが可能である。そこで、DNAマイクロアレイを用いて血清・血漿、尿、脊髄液等の体液を対象としたバイオマーカー探索研究が実施されており、疾患を早期に発見できるバイオマーカー検査への展開が期待されている。miRNAの検出精度について、マイクロアレイを含むいくつかの検出技術を用いた比較評価がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
RNA検出の特異性を高めるため、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを高くすると、Tm値の低いRNAが検出できなくなる。このためマイクロアレイでRNAを特異的に検出することと、多くのRNAを検出できる感度を両立させることは、困難であった。特に、miRNAは15~25塩基と短く、特異的な配列を選択してプローブDNAを設計することは困難であることから、プローブ配列による特異性の確保やTm値を揃えることが困難であった。
【0008】
発明者は、試料中のmiRNAを、プローブDNAの固定化された担体と接触させることで検出することを試みた。具体的には、一般的な脱リン酸化酵素であるタカラバイオ社製アルカリホスファターゼ(型番2250A)を、試料に作用させて前記miRNAの5’末端のリン酸基を除去し、得られた反応液を、一般的なアルカリホスファターゼ失活処理温度である100℃に加温することで、前記アルカリホスファターゼを失活させた。得られた反応液に含まれる当該miRNAを、T4 RNA リガーゼによって蛍光色素標識し、得られた反応液を、前記miRNAを捕捉可能なプローブDNAに接触させて当該miRNAと前記プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせることによって、miRNAを検出した(比較例1)。しかし、ハイブリダイゼーションの特異性が低いという問題があった。
【0009】
そこで、特許文献1を参考に、テトラアルキルアンモニウム塩を用いてハイブリダイゼーション配列依存性を低下させることで、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させることを試みた。具体的には、前記プローブDNAとのハイブリダイゼーションの工程において、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)存在下でハイブリダイゼーションを行うことで検出の特異度の向上を試みた(比較例2)。しかし、この場合は検出感度が低下するという問題が生じた。
【0010】
このように、RNAの5’末端脱リン酸化を経る、ハイブリダイゼーションによるRNAの検出において、特にmiRNAの検出において、検出の特異度を向上させるためにテトラメチルアンモニウムクロリドを用いた場合、高感度での検出は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、テトラアルキルアンモニウム塩を含む溶液を用いたハイブリダイゼーションによるRNAの検出において、miRNAの5’末端脱リン酸化のために、低温で失活する脱リン酸化酵素を用いることで、特異的かつ高感度に検出できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は
(1)試料中のRNAを検出する方法であって
工程a):前記試料に脱リン酸化酵素を作用させて前記RNAの5’末端のリン酸基を除去する工程、
工程b):工程a)で得られた反応液を60℃以上80℃以下に加温し、前記脱リン酸化酵素を失活させる工程、および
工程c):工程b)で得られた反応液を、テトラアルキルアンモニウム塩存在下、前記RNAを捕捉可能なプローブDNAに接触させて、当該RNAと前記プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる工程
を含み、
前記脱リン酸化酵素は、56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下することを特徴とする、方法。
(2)前記RNAがマイクロRNAである、(1)に記載の方法。
(3)テトラアルキルアンモニウム塩がテトラメチルアンモニウムクロリドである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)テトラアルキルアンモニウム塩及び56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下する脱リン酸化酵素を含む、RNA検出用のキット。
(5)検出対象のRNAがマイクロRNAである、(4)に記載のキット。
(6)テトラアルキルアンモニウム塩がテトラメチルアンモニウムクロリドである、(4)または(5)に記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、RNAを高感度で検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、試料中のRNAを検出する方法であって
工程a):前記試料に脱リン酸化酵素を作用させて前記RNAの5’末端のリン酸基を除去する工程、
工程b):工程a)で得られた反応液を60℃以上80℃以下に加温し、前記脱リン酸化酵素を失活させる工程、および
工程c):工程b)で得られた反応液を、テトラアルキルアンモニウム塩存在下、前記RNAを捕捉可能なプローブDNAに接触させて、当該RNAと前記プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる工程
を含み、
前記脱リン酸化酵素は、56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下することを特徴とする、方法である。
【0015】
1.試料について
本発明を適用できる試料は検出対象となるRNAを含むと期待されるものであればよい。本発明の試料としては、生物試料を用いることができる。
【0016】
生体試料は、例えば、血液、血清、血漿、尿、便、髄液、唾液、ぬぐい液、各種組織液等の体液や、各種組織、パラフィン包埋検体(FFPE)およびその切片、各種飲食物並びにそれらの希釈物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。比較解析する複数の検体は、異なる組織に由来する複数の検体でもよいし、異なる生体から分離された同一の組織に由来する複数の検体でもよく、また、同一組織内の異なる部位(例えば、腫瘍等の病変部と非病変部)に由来する複数の検体でもよい。
【0017】
本発明において検出対象となるRNAは複数のリボヌクレオチドがホスホジエステル結合したリボ核酸であって、その分子量、塩基数や由来によって限定されない。本発明において検出対象となるRNAは、mRNA(メッセンジャーRNA)、tRNA(トランスファーRNA)、rRNA(リボソームRNA)、stRNA(低分子一過性RNA)を含むncRNA(ノンコーディングRNA)、snRNA(核内低分子RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)、hnRNA、lncRNA(長鎖非コードRNA)、lincRNA(長鎖遺伝子間非コードRNA)、miRNA(マイクロRNA)、siRNA(低分子干渉RNA)、piRNA(piwi干渉RNA)、tiRNA(転写開始RNA)、PASR(プロモーター関連RNA)を含む。本発明において検出対象となるRNAは細胞外液RNA、循環RNAのほか、生物試料中に存在し得る微生物、寄生生物またはRNAウイルスから得られるRNAも含む。また、本発明において検出対象となるRNAは、生体試料から分離したRNAおよび化学的に合成したRNAを含む。好ましくは、検出対象となるRNAは、ncRNA、miRNA、siRNA群から選択される。ハイブリダイゼーションで高感度に検出することが困難であるmiRNAの検出において特に本発明が有効であることから、検出対象となるRNAはさらに好ましくはmiRNAである。
【0018】
2.脱リン酸化酵素について
本発明において用いる脱リン酸化酵素は、検出対象となるRNAの5’末端のリン酸基を除去できる酵素である。本発明において用いる脱リン酸化酵素は、アルカリホスファターゼを含む。
【0019】
本発明において用いる脱リン酸化酵素は、56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下することを特徴とする。例えば、一般的な脱リン酸化酵素として子牛胸腺由来アルカリホスファターゼを用いた場合には、失活のためには100℃、5分での加温処理といった、高温での処理を要する。これに対して本発明で用いる脱リン酸化酵素は、一般的な脱リン酸化酵素より低温である、例えば75℃、5分間の加温処理で失活する。これによって、後述する失活工程(工程b))での温度を低下させることが可能となる。このため、当該失活工程における、検出対象となるRNAの分解を防ぐことができ、結果として高い感度にてRNAを検出できるという利点がある。また、本発明に用いる脱リン酸化酵素は、当該失活工程において、短時間の加温処理で失活させられることから、操作が簡便であるという利点も有する。
【0020】
本発明において用いる56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下する脱リン酸化酵素の例としては、ロシュ社のrAPidアルカリホスファターゼ(型番4898133001)、ニッポンジーン社のAlkaline Phosphatase, recombinant (Calf intestine)(型番312-08011)、ニューイングランドバイオラボ社のQuick CIP(型番M0525S)を挙げることができる。
【0021】
任意の脱リン酸化酵素が本発明において用いる脱リン酸化酵素に該当するか否かを判定するためには、以下のような試験を行う。
【0022】
市販されている脱リン酸化酵素の活性を評価する場合には、当該酵素に添付されている反応緩衝液、またはメーカー推奨の反応緩衝液を用いて加温する。自ら製造した脱リン酸化酵素を評価する場合には、適宜、当該酵素を用いた反応に適した反応緩衝液を用いて加温する。加温の際の酵素濃度は、1ユニット/μLとする。脱リン酸化酵素活性を評価するために、酵素溶液を希釈して用いる場合には前述の反応緩衝液を用いて希釈する。
【0023】
脱リン酸化酵素活性の低下を評価するためには上記緩衝液中で56℃で5分間加温する。56℃で加温することで失活反応が緩やかに進み、脱リン酸化酵素の活性低下を正確に評価することができる。
【0024】
上記加温後の酵素活性の評価は、市販の脱リン酸化酵素の活性定量キットであるAttoPhos(登録商標) AP Fluorescent Substrate System(プロメガ社、型番S1000)を用いて実施する。励起光:444nm、蛍光:555nmでの蛍光測定によって酵素活性を測定し、酵素活性が50%であれば、評価対象の酵素は本発明において用いる脱リン酸化酵素に該当すると判断される。
【0025】
3.5’末端脱リン酸化工程(工程a))について
本発明の工程a)は、試料に脱リン酸化酵素を作用させることで、検出対象となるRNAの5’末端のリン酸基を除去する工程である。
【0026】
例えば後述するRNA検出のためにT4 RNA リガーゼを用いて検出対象となるRNAを標識する場合、5’末端にリン酸基が残存していると、所望の標識化反応の他に、検出対象のRNAが分子間で結合する、望まない副反応を起こすという問題がある。このような場合には、検出対象となるRNAの5’末端のリン酸基を除去してから当該標識を行う必要がある。
【0027】
本発明の工程a)において、脱リン酸化酵素は、検出対象となるRNAの5’末端のリン酸基を除去する反応に用いる。
【0028】
リン酸基の除去反応の後、後の工程において脱リン酸化酵素が標識体に作用することを防ぐため、加温等により脱リン酸化酵素の酵素活性を失わせる必要がある。
【0029】
4.脱リン酸化酵素失活工程(工程b))について
本発明の工程b)は、工程a)で得られた反応液を60℃以上80℃以下に加温し、前記脱リン酸化酵素を失活させる工程である。
【0030】
前述の通り、本発明において用いる脱リン酸化酵素は、56℃で5分間加温することで酵素活性が50%以下に低下することを特徴としている。当該酵素を、後述の好ましい反応時間、60℃以上80℃以下に加温すると、56℃の場合より速やかに酵素活性の低下が進み、失活する。
【0031】
このように失活工程を行うことで、前述のような失活工程における検出対象となるRNAの加水分解によるRNA検出感度の低下の問題は回避でき、後の工程における、残存する脱リン酸化酵素が引き起こす標識体への副反応も抑制することができる。
【0032】
失活工程における好ましいpHは、7.0以上12.0以下であり、好ましくは7.0以上11.0以下であり、最も好ましくは7.5以上9.0以下である。
【0033】
前述の通り本発明の失活工程における温度は60℃以上80℃以下であるが、好ましくは65℃以上75℃以下である。失活工程の好ましい反応時間は1分以上15分以下であり、さらに好ましくは2分以上10分以下であり、最も好ましくは3分以上7分以下である。
【0034】
脱リン酸化酵素が完全に失活できているか評価する方法は、失活処理した後に残存する活性を測定すればよい。酵素活性の評価方法は、当業者が適宜設定することができるが、例えば、米国特許第5773226号明細書に記載の方法や、市販の脱リン酸化酵素の活性定量キットであるAttoPhos(登録商標) AP Fluorescent Substrate System(プロメガ社、型番S1000)を用いて実施することができる。本発明においては、このような酵素活性評価によって定量した酵素活性が加温処理前と比較して0.1%以下に低下していれば、脱リン酸化酵素は失活したと判断する。
【0035】
5.ハイブリダイゼーションの工程(工程c))について
本発明の工程c)は、前記工程b)にて得られた検出対象となるRNAを含む反応液を、テトラアルキルアンモニウム塩存在下、前記RNAを捕捉可能なプローブDNAと接触させて当該RNAと前記プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる工程である。
【0036】
核酸のハイブリダイゼーション方法は、ハイブリダイゼーションをテトラアルキルアンモニウム存在下で行うこと以外は、周知の方法で行うことができ、例えば、「Sambrook,J.ら、(1998) Molecular Cloning:A Laboratory Manual (2nd ed.),Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York」に記載された方法を用いることができる。具体的には、予め相補鎖核酸を有するプローブDNAが固定化された支持体に、検出対象となる核酸とテトラアルキルアンモニウム塩を含む溶液を添加し、一定温度にてインキュベートすることにより、ハイブリダイゼーションを行うことができる。テトラアルキルアンモニウム塩の添加前に、検出対象となるRNAを高温にて一定時間熱変性させることで、より核酸結合の特異性を向上させることも可能である。また、検出対象となるRNA、プローブDNAおよびハイブリダイゼーション用試薬を混合し、一定温度にてインキュベートすることによりハイブリダイゼーションを行った後に、相補鎖核酸プローブを支持体に固定化することも可能である。
【0037】
ハイブリダイゼーション時のストリンジェンシーは、温度、塩濃度、プローブの鎖長、プローブのヌクレオチド配列のGC含量及びハイブリダイゼーション溶液中のカオトロピック剤の濃度等によって調整できることが知られている。ストリンジェントな条件としては、例えば、Sambrook, J. et al. (1998) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載された条件などを用いることができる。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、及びキャリアDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。当業者は、所望するRNAの検出のために用意した核酸プローブとしての機能を得るための条件を適宜決定することができる。
【0038】
テトラアルキルアンモニウム塩としては、カウンターアニオンとして塩化物イオンを有するものが好ましく、特にテトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)、テトラエチルアンモニウムクロリド(TEAC)が好ましい。ハイブリダイゼーション溶液中のテトラアルキルアンモニウム塩の終濃度は、適宜決定することができるが、1M以上4M以下の範囲が好ましく、より好ましくは2.5M以上3.5M以下である。
【0039】
本発明のプローブDNAは、検出対象のRNAと直接的に、かつ選択的に結合し得る物質であり、DNAからなるものの他、DNA誘導体を含むものでもよい。ここでの誘導体は、蛍光団などによるラベル化誘導体、修飾ヌクレオチド(例えば、ハロゲン、メチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、チオ、カルボキシメチルなどの基を含むヌクレオチド、及び塩基の再構成、二重結合の飽和、脱アミノ化、酸素分子の硫黄分子への置換などを受けたヌクレオチドなど)を含む誘導体などの化学修飾誘導体を意味する。
【0040】
プローブDNAの鎖長は、ハイブリダイゼーションの安定性を確保する観点から、20塩基以上とすることが好ましい。そのような鎖長の核酸プローブは、周知の化学合成法等により容易に調製することができる。
【0041】
本発明において、プローブDNAとの接触方法は、検出対象となるRNAとプローブDNAとがハイブリダイゼーションを行える温度、濃度および時間で行われるものであれば特に制限はない。
【0042】
プローブDNAは、支持体に固定化されているものが好ましい。支持体に固定化されているプローブDNAとしては、支持体表面の複数の領域に、複数の異なる組成のプローブDNAが固定化されたDNAマイクロアレイが好ましい。DNAマイクロアレイを使用する核酸検出法では、工程b)で得られた反応液に含まれる検出対象となるRNAと、当該RNAにハイブリダイズし得るプローブを備えるDNAマイクロアレイとを接触させ、プローブDNAにハイブリダイズした当該RNAを検出することができる。サンプルに検出対象となるRNA以外の核酸が含まれる場合、当該RNAとDNAマイクロアレイとを接触させた後、DNAマイクロアレイ上のプローブとハイブリダイズしなかった核酸を洗浄等により除去することが好ましい。複数のプローブを備えるDNAマイクロアレイを使用することにより、2種以上の検出対象となるRNAを同時に検出することができる。
【0043】
ハイブリダイゼーションは、通常のハイブリダイズの条件下において行えばよく、例えばノーザンハイブリダイゼーションの場合には、5 x SSPE、50%ホルムアミド、5 x Denhardt's solution、0.1~0.5%SDSといった一般的なハイブリダイゼーション溶液を用いて、32℃以上65℃以下程度の適当なハイブリダイゼーション温度で反応を行なえばよい。ただし、適当なアニーリング温度又はハイブリダイゼーション温度は、上記例示に限定されず、プライマー又はプローブとして用いる癌検出用ポリヌクレオチドのTm値及び実験者の経験則に基づいて定められ、当業者であれば容易に定めることができる。
【0044】
クロスハイブリダイゼーションとは、検出対象のRNAが、検出対象のRNAに合わせて設計した核酸プローブとは別の核酸プローブに結合する現象のことである。
【0045】
支持体上に固定化されるプローブDNAの種類の数は特に限定されない。例えばmiRNAが測定対象である場合、配列が同定されている公知のmiRNAの全てを網羅する数の、対応する相補的な配列のプローブDNAを、それぞれ支持体表面上の表面上の異なる領域に固定化したDNAマイクロアレイを用いて、miRNAの発現量を測定してもよい。
【0046】
DNAマイクロアレイが、特異的にハイブリダイゼーション可能なものであるか評価するためには、当該DNAマイクロアレイの、合成RNAとのハイブリダイゼーションを用いることができる。
【0047】
すなわち、特異性の評価は、合成したRNAをDNAマイクロアレイで検出し、検出対象のRNAに対応したプローブDNAでの検出シグナル強度に対して、クロスハイブリダイゼーションによって生じる非捕捉プローブ(すなわち、非検出対象のRNAに対応したプローブDNA)の検出シグナル強度を比較することで行える。比較の方法は当業者が適宜設定すればよいが、例えば、S/N比(捕捉プローブのシグナル強度/非捕捉プローブの検出シグナル強度)を計算することで、測定条件ごとの特異性を比較評価することが容易になる。
【0048】
上記評価で用いる合成RNAは、1種類のものでもよいし、複数種類の合成RNAを混和したものでもよい。複数種類の合成RNAを混和して評価に用いる場合には、検出した複数種類の合成RNAに対応したプローブDNAの検出シグナル強度の中央値、クロスハイブリダイゼーションによって生じる非捕捉プローブの検出シグナルの中央値を代表値として用いることができる。
【0049】
6.検出工程(工程d))について
本発明の検出工程(工程d))は、工程c)においてプローブDNAに対してハイブリダイズした検出対象のRNAを検出する工程である。
【0050】
前述の工程b)において脱リン酸化酵素を失活させた後に、検出対象となるRNAを、蛍光色素、りん光色素、放射線同位体などの標識体によって標識してから工程c)に付してもよい(工程b’))。この場合は、当該標識が発する光や放射線を検出することで当該RNAを検出することができる。
【0051】
本発明において使用できる標識体としては、蛍光色素、りん光色素、放射線同位体など、標識に用いる公知の物質を用いることができる。好ましいのは、測定が簡便で、信号が検出しやすい蛍光色素である。具体的には、シアニン(シアニン2)、アミノメチルクマリン、フルオロセイン、インドカルボシアニン(シアニン3)、シアニン3.5、テトラメチルローダミン、ローダミンレッド、テキサスレッド、インドカルボシアニン(シアニン5)、シアニン5.5、シアニン7、オイスターなどの公知の蛍光色素が挙げられる。あるいはビオチンを含む標識体を用いて標識し、上述した蛍光色素を結合したストレプトアビジンと反応させて検出することもできる。
【0052】
蛍光色素によって検出対象のRNAが標識されている場合、当該RNAの検出には、蛍光顕微鏡や蛍光スキャナなどを用いることができる。
【0053】
検出対象となるRNAが蛍光色素によって標識されている場合の定量方法の一例は、次のとおりである。最初に、脱リン酸化酵素の一種であるアルカリホスファターゼを用いてRNAの5’末端のリン酸基を除去し、続いてT4 RNA リガーゼを用いて、3’末端に標識体を取り込ませる。標識したサンプルにハイブリダイゼーション溶液を加えた上で、DNAマイクロアレイと反応させる。その後、蛍光リーダーを用いて、検出する。
【0054】
上記のT4 RNA リガーゼを用いた検出対象となるRNAの標識方法は、当該RNA一分子に対して標識体が一分子結合するため、標識を定量することによって当該RNAを定量できることから、例えばDNAマイクロアレイを用いた検出において好ましい。
【0055】
検出対象となるRNAの5’末端を脱リン酸化せずに、RNAリガーゼを作用させることで、標識が結合したヌクレオチドによって当該RNAを標識しようとした場合、所望の標識化反応の他に、望まない副反応として検出対象となるRNA同士が結合するという反応が競合する。この副反応を防ぐためには、前述の脱リン酸化酵素による5’末端脱リン酸化工程(工程a))を行う必要がある。このようにして得られた反応液に対して、当該脱リン酸化酵素の活性が残った状態で標識化反応を行った場合、残存する脱リン酸化酵素が標識体への副反応を引き起こすため、本発明の失活工程(工程b))を行う必要がある。
【0056】
検出対象となるRNAが標識されていない場合は、表面プラズモン共鳴による測定方法や、核酸が有する吸収極大である260nmの波長の吸光度を測定することでも当該RNAを検出することができる。
【0057】
7.キットについて
本発明は、前述のテトラアルキルアンモニウム塩および、本発明において用いる脱リン酸化酵素を含む、RNA検出用のキットを含む。
【0058】
本発明のキットが検出対象とするRNAは、前述の「1.試料について」において検出対象となるRNAとして説明したRNAであればよく、最も好ましくはmiRNAである。
【0059】
本発明のキットにおけるテトラアルキルアンモニウム塩は、前述の「5.ハイブリダイゼーションの工程(工程c))について」において説明したテトラアルキルアンモニウム塩であればよく、最も好ましくはテトラメチルアンモニウムクロリドである。
【0060】
本発明のキットにはプローブDNAを含めることができ、プローブDNAは、当該プローブDNAが固定化されたDNAマイクロアレイとしてキットに含めることもできる。検出対象となるRNAを当該DNAマイクロアレイと接触させた後に当該DNAマイクロアレイを洗浄するための洗浄液をキットに含めることもできる。
【0061】
本発明のキットには、ハイブリダイゼーションの工程(工程c))において、工程b)で得られた反応液を希釈してハイブリダイゼーションに付すための溶液を含めることもできる。前述のテトラアルキルアンモニウム塩は、当該溶液に含有させることで本発明のキットに含ませてもよい。
【0062】
本発明のキットには、検出対象となるRNAを標識するための標識体または標識化のための試薬を含ませてもよい。
【0063】
本発明のキットには、上記の他に試料から検出対象となるRNAを抽出するための試薬、当該抽出物を精製するためのカラム、当該抽出や精製のための遠心用チューブ、使用説明書等を含ませてもよい。
【実施例0064】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例により技術的範囲が限定されるものではない。
【0065】
<参考例1、2>
本発明に適した酵素は、次の手順で評価できる。評価対象酵素の反応緩衝液(参考例1は50 mM Tris-HCl, 0.1 mM EDTA, pH8.5、参考例2は50mM Tris-HCl, 1mM MgCl2,pH9.0)を用いて1ユニット/μLに希釈したアルカリホスファターゼを、56℃で5分間加温した加温処理品と、未処理品を用意した。酵素活性測定には、AttoPhos AP Fluorescent Substrate System(プロメガ社、型番S1000)を用い、マニュアルに従って実施した。加温処理品及び未処理品について、それぞれ10-4ユニット/μLとなるよう希釈した上で、96well blackプレートに10μLずつ分注し、AttoPhos AP Fluorescent Substrateを150μL添加した。混合した後、室温遮光下で15分インキュベートした後、プレートリーダーで蛍光を測定した(励起光:444nm、蛍光:555nm)。
【0066】
表1に測定結果を示す。参考例1はニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)を測定した結果である。加温処理することにより、酵素活性が24%まで低下しており、50%以下であることから、本発明において用いる脱リン酸化酵素に該当する。参考例2として示したタカラバイオ社製アルカリホスファターゼ(型番2250A)は、加温処理後であっても70%の活性が残っており、50%を上回っていることから、本発明において用いる脱リン酸化酵素に該当しない。
【0067】
【0068】
<実施例1、比較例1、2>
(合成RNA溶液の調製)
実施例1および比較例1、2においては、ヒトmiRNAの配列が登録されているmiRBaseから無作為に選択した107種のmiRNA配列を核酸合成メーカーで合成した。この時、生体内のmiRNAと同様になるよう、5’末端にはリン酸基を付与した。合成RNAはTEバッファーに溶解し、各miRNAの濃度が100amol/μLになるように混和した合成miRNAカクテルを、本発明の試料として調製した。
【0069】
(DNAマイクロアレイによる核酸の測定)
実施例1および比較例1、2においては、東レ株式会社製の「“3D-Gene” human miRNA oligo chip」(miRBase release 22対応、2632種のmiRNAを検出可能)を用いて、以下の実験を行った。
【0070】
(実施例1)
合成miRNAカクテル(各合成miRNAの量は100amol)にニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)を4ユニット添加し(工程a))、37℃で30分反応させた後、酵素を失活させるため75℃で5分間加温した(工程b))。次にT4 RNA リガーゼを含む「“3D-Gene”miRNA labeling kit」(東レ社製)を用いて蛍光標識した(工程b’))。
【0071】
蛍光標識したサンプルは、TMAC含有ハイブリダイゼーション溶液(3M テトラメチルアンモニウムクロリド、50mM Tris-HCl(pH7.0)、0.5mM EDTA(pH8.0)、0.1重量%サルコシル、10容量%ホルムアミド)に添加し、“3D-Gene”miRNA human oligo chipで測定した。ハイブリダイゼーションは、42℃で16時間行った(工程c))。
【0072】
ハイブリダイゼーション後は、“3D-Gene” miRNA human oligo chipのプロトコールに従い、DNAチップを洗浄した後、蛍光スキャナを用いて測定した(工程d))。
【0073】
各条件で測定した結果は、バックグラウンドノイズを減算し、底が2のログに変換した。その上で、合成miRNAカクテルのシグナル強度中央値、クロスハイブリダイゼーションしたプローブ数及びそれらのシグナル強度中央値、およびS/N比を算出した(表2)。
【0074】
(比較例1)
アルカリホスファターゼ処理(工程a))は、アルカリホスファターゼとしてニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)の代わりにタカラバイオ社製アルカリホスファターゼ(型番2250A)を用いた点以外は実施例1と同様に、アルカリホスファターゼの失活(工程b))は、75℃ではなく100℃にて行った点以外は実施例1と同様に、蛍光標識(工程b’))は実施例1と同様に、ハイブリダイゼーション(工程c))は、前述のTMAC含有ハイブリダイゼーション溶液の代わりに、TMACを含まないハイブリダイゼーション溶液(1重量%ウシ血清アルブミン(BSA)、5×SSC、1重量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、50ng/mLサケ精子DNA溶液、5重量%デキストラン硫酸ナトリウム、30%ホルムアミド)を用いた点以外は実施例1と同様に行った。
【0075】
ハイブリダイゼーション後は、実施例1と同様の方法で測定・計算を行った(工程d))(表2)。
【0076】
(比較例2)
アルカリホスファターゼ処理(工程a))は、アルカリホスファターゼとしてニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)の代わりにタカラバイオ社製アルカリホスファターゼ(型番2250A)を用いた点以外は実施例1と同様に、アルカリホスファターゼの失活(工程b))は、75℃ではなく100℃にて行った点以外は実施例1と同様に、蛍光標識(工程b’))およびハイブリダイゼーション(工程d))は、実施例1と同様の方法で行った。
【0077】
ハイブリダイゼーション後は、実施例1と同様の方法で測定・計算を行った(表2)。
【0078】
(実施例1、比較例1、2の結果)
比較例1は、合成miRNAカクテルのシグナル強度中央値は9.11、クロスハイブリダイゼーションしたプローブ数が215種あり、またS/N比が1.46であった。
【0079】
比較例2は、クロスハイブリダイゼーションしたプローブの数は少ない、すなわち特異度は向上したものの、合成miRNAカクテルのシグナル強度中央値が8.44まで低下、すなわち感度は低下している。比較例2においてハイブリダイゼーション時にTMACを共存させたことにより、検出の特異度が向上したものと考えられる。
【0080】
一方で、実施例1では、クロスハイブリダイゼーションしたプローブ数は比較例1と比べて少なく抑えられた、すなわち特異度が向上した。さらに、合成miRNAカクテルのシグナル強度中央値が11.69と高く、またS/N比も2.24となっている、すなわち感度も向上しており、比較例1、2に比べて良好であることから、本発明の効果が示されたと考える。
【0081】
実施例1では、TMAC含有ハイブリダイゼーション溶液を用いることに加え、低温での加温処理で速やかに失活する性質を持つアルカリホスファターゼを用いたために75℃で失活工程を行うことが可能となった。これによって失活工程におけるmiRNAのアルカリ加水分解を防ぐことができ、結果としてシグナル強度中央値が向上、すなわちRNA検出感度が向上したものと考えられる。
【0082】
【0083】
<実施例2、比較例3、4>
(ヒト血清中の核酸抽出)
実施例2および比較例3、4においては、「Isogen LS」(ニッポンジーン社)を用い、ヒト血清300μLから核酸を含む溶液を取得し、miRNeasy Mini Kit(キアゲン社、型番217004)を用いてRNAを精製した。RNA溶液は遠心濃縮器を用いて4μLになるように調製した。
【0084】
(DNAマイクロアレイによる核酸の測定)
実施例2および比較例3、4においては、東レ株式会社製の「“3D-Gene” human miRNA oligo chip」(miRBase release 22対応、2632種のmiRNAを検出可能)を用いて、以下の実験を行った。
【0085】
(実施例2)
前述のヒト血清中の核酸抽出の工程によって調整した、ヒト血清由来RNA2μLにニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)を4ユニット添加し、37℃で30分反応させた後(工程a))、酵素を失活させるため75℃で5分間加温した(工程b))。次にT4 RNA リガーゼを含む「“3D-Gene”miRNA labeling kit」(東レ社製)を用いて蛍光標識した(工程b’))。
【0086】
蛍光標識したサンプルは、TMAC含有ハイブリダイゼーション溶液(3M テトラメチルアンモニウムクロリド、50mM Tris-HCl(pH7.0)、0.5mM EDTA(pH8.0)、0.1重量%サルコシル、10容量%ホルムアミド)に添加し、“3D-Gene”miRNA human oligo chipで測定した。ハイブリダイゼーションは、42℃で16時間行った(工程c))。
【0087】
ハイブリダイゼーション後は、“3D-Gene” miRNA human oligo chipのプロトコールに従い、DNAチップを洗浄した後、蛍光スキャナを用いて測定した(工程d))。
【0088】
各条件で測定した結果は、バックグラウンドノイズを減算し、底が2のログに変換した。その上で、ヒト血清由来miRNAのシグナル強度中央値、及び検出したmiRNA数を算出した(表3)。
【0089】
(比較例3)
アルカリホスファターゼ処理(工程a))は、アルカリホスファターゼとしてニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)の代わりにタカラバイオ社製アルカリホスファターゼ(型番2250A)を用いた点以外は実施例2と同様に、アルカリホスファターゼの失活(工程b))は、75℃ではなく100℃にて行った点以外は実施例2と同様に、蛍光標識(工程b’))は実施例2と同様に、ハイブリダイゼーション(工程c))は、前述のTMAC含有ハイブリダイゼーション溶液の代わりにTMACを含まないハイブリダイゼーション溶液(1重量%ウシ血清アルブミン(BSA)、5×SSC、1重量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、50ng/mLサケ精子DNA溶液、5重量%デキストラン硫酸ナトリウム、30%ホルムアミド)を用いた点以外は実施例2と同様に行った。
【0090】
ハイブリダイゼーション後は、実施例2と同様の方法で測定・計算を行った(工程d))(表3)。
【0091】
(比較例4)
アルカリホスファターゼ処理(工程a))は、アルカリホスファターゼとしてニッポンジーン社製アルカリホスファターゼ(型番312-08011)の代わりにタカラバイオ社製アルカリホスファターゼ(型番2250A)を用いた点以外は実施例2と同様に、アルカリホスファターゼの失活(工程b))は、75℃ではなく100℃にて行った点以外は実施例2と同様に、蛍光標識(工程b’))およびハイブリダイゼーション(工程c))は実施例2と同様の方法で行った。
【0092】
ハイブリダイゼーション後は、実施例2と同様の方法で測定・計算を行った(表3)。
【0093】
(実施例2、比較例3、4の結果)
比較例3は、ヒト血清由来miRNAのシグナル強度中央値が高くまた検出したmiRNA数も多いことがわかる。しかし、比較例1と実施例1の比較から、本測定条件はクロスハイブリダイゼーションが多く生じていることが推察される。実施例2において比較例3と比べてmiRNA数が少ないのは、ハイブリダイゼーション時にTMACを共存させたことにより、検出の特異度が向上したことによるものと推察される。
【0094】
TMAC含有ハイブリダイゼーション溶液を用いた比較例4と実施例2を比べると、実施例2ではヒト血清由来miRNAカクテルのシグナル強度中央値が大きくなっている。実施例2では、低温での加温処理で速やかに失活する性質をもつアルカリホスファターゼを使うことにより75℃で失活工程を行うことが可能となった。これによって失活工程におけるmiRNAのアルカリ加水分解を防ぐことができ、結果としてシグナル強度中央値が向上、すなわちRNA検出感度が向上したものと考えられる。
【0095】