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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150854
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】流動化砂組成物及びその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/08 20060101AFI20241017BHJP
   C09K 17/18 20060101ALI20241017BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20241017BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20241017BHJP
   C09K 17/40 20060101ALI20241017BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20241017BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20241017BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
E02D3/08
C09K17/18 P
C09K17/02 P
C09K17/06 P
C09K17/40 P
E02D3/10 104
E02D3/12
C04B28/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063851
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(74)【代理人】
【識別番号】100088708
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 英典
(72)【発明者】
【氏名】矢部 浩史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竹史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮彦
【テーマコード(参考)】
2D040
2D043
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040CA03
2D040CA04
2D040CA10
2D040CB03
2D043EA01
2D043EA04
2D043EA05
2D043EA10
4G112PB03
4G112PB11
4H026CA04
4H026CA05
4H026CB01
4H026CB03
4H026CB08
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】流動化砂組成物として、充填後に適度な強度と共に用途に応じた的確な透水係数も得られるようにして、陥没等の被害や再発の虞を確実に阻止できるようにする。
【解決手段】材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混入しており、地盤側空洞部に充填された後に適宜な強度を発現する空洞充填用の流動化砂組成物の製造方法であって、前記流動化砂組成物が地盤側空洞部へ充填後に適度な強度と共に要求される透水係数を満たすため、前記塑性化剤の添加量を増減した態様、又は、前記高炉スラグ微粉末の添加量を増減した態様での透水係数を予め調べておき、それを参照して要求される所定の透水係数に調整することを特徴としている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混入して、地盤側空洞部に充填された後に適宜な強度を発現する空洞充填用の流動化砂組成物の製造方法であって、
前記流動化砂組成物が地盤側空洞部へ充填後に適度な強度と共に要求される透水係数を満たすため、前記塑性化剤の添加量を増減した態様、又は、前記高炉スラグ微粉末の添加量を増減した態様での透水係数を予め調べておき、それを参照して要求される所定の透水係数に調整することを特徴としている流動化砂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記塑性化剤の添加量を増減する態様では、前記材料砂の100重量部に対し前記塑性化剤を少なくとも0.05~0.1重量部を含む範囲で透水係数の変化を調べることを特徴とする請求項1に記載の流動化砂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記高炉スラグ微粉末を増減する態様では、前記材料砂の100重量部に対し前記高炉スラグ微粉末を少なくとも1~5重量部を含む範囲で透水係数の変化を調べることを特徴とする請求項1に記載の流動化砂組成物の製造方法。
【請求項4】
材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混入しており、地盤側空洞部に充填された後に適宜な強度を発現する空洞充填用の流動化砂組成物であって、請求項1から3の何れかにより製造されて空洞充填後に所定の透水係数となるよう調整されていることを特徴とする流動化砂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地盤と構造物の間に生じた空洞部に注入する空洞充填用の流動化砂組成物の製造方法、及びその製造方法により作成されて空洞充填後に掘削や矢板の打ち込みなどに支障のない適度な強度と所定の透水係数となるよう調整された流動化砂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国には山間部に限らず都市部にも地盤の空洞箇所が多く存在している。山間部では、昔の石炭や亜炭鉱山廃抗、戦時中の地下壕、地下砕石場跡及び廃棄された地下埋設物などの地下空洞や空間が至る所に放置されており、ときにこれらが突然崩落し、地表面や地上施設に陥没や沈下・傾斜の災害をもたらしている。また、都市部において、埋設管や地中トンネルといった地中構造物、河川の樋門樋管や橋脚といった杭式構造物には、その構造物直下に空洞やゆるみ領域が存在し、それに伴う沈下や地震による損傷が懸念されている。
【0003】
従来の対策としては、地上あるいは既設構造物内の路下からボーリング削孔し、その孔から充填することが多い。充填材料は、一般にセメント系固化材(グラウト材であり、例えば、特開2022-54928号公報を参照)を含むものである。しかし、このグラウト材では、非透水性であるため時間経過により固化した充填箇所と既存の地盤との間に水の道が発生し易く、再び吸出し等が発生し、空洞が再発する。また、河川堤防では縦断方向に存在する樋管・樋門で同様に水道が発生すると、豪雨時にパイピング現象が発生し、破堤に至ることがある。
【0004】
本出願人らは、グラウト系以外の空洞充填材として、特許文献1などに記載の流動化砂(流動化物)を空洞部に充填したり、更に、充填後に所定の硬度となるよう改良した特許文献2などに記載の流動化砂組成物を開発してきた。前者は、砂を主材料として、流動化剤と塑性化剤を含有し充填後においても固化しない流動化砂を空洞部に充填し、自然放置により流動化砂を塑性化させる構成である。この流動化砂では、圧入圧力により脱水されると砂としての強度を発現するが、排水が望めない地盤や圧入脱水を行わない態様だと強度不足となる。そこで、後者は、材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤とを混入した流動化砂組成物により、空洞部に充填された後に適宜な強度を確実に発現させるようにした構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5780714号公報
【特許文献2】特許第7231513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記流動化砂組成物は、地盤性状から脱水できない箇所でも、目的に応じた任意の強度を発現できる。ところで、地盤側空洞部といっても、例えばトンネル覆工背面への充填、構造物基礎への充填、河川護岸背面への充填、既設法面背面への充填、アンカーの定着注入用充填、地下埋設管の閉塞用充填、岩盤の開口亀裂の充填、等の色々な態様がある。上記流動化砂組成物は、各態様への充填材として充填後の強度を掘削可能な任意の値に調整し易く、空洞への充填操作性に優れ、グラウト系充填材にはない透水性も期待される。また、砂粒子を主材とした流体充填材であり現地盤とのなじみががよく、グラウト系充填材と比較してコトス的に有利でありCO の排出量も少ない。
【0007】
本出願人らは、上記流動化砂組成物の実施を通して、例えば、使用される材料砂の産地が異なると充填固化後の透水係数が変わることと、粒度分布の粗い材料砂だと充填固化後の透水係数が大きくなり、逆に粒度分布が細かな材料砂だと充填固化後の透水係数が小さくなるとの現象を得た。これらを更に検討し、図1に示したような産地別の材料砂について、粒径と通過質量百分率の関係を調べ、また、流動化砂組成物の物性として、充填固化後の透水係数を任意に調整管理する製造方法を可能にすべく検討を重ねてきた。
【0008】
本発明の目的は、地盤側空洞部へ充填された後に適度な強度を得られるようにした特許文献2の流動化砂組成物を、更に改良して充填後に適度な強度と共に用途に応じた的確な透水係数も得られるようにして、陥没等の被害や再発の虞を阻止できるようにした流動化砂組成物の製造方法及びその製造方法で作られて充填後は所定の透水係数となるよう調整された流動化砂組成物を提供することにある。他の目的ないしは具体的な目的は以下の内容説明のなかで明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混入しており、地盤側空洞部に充填された後に適宜な強度を発現する空洞充填用の流動化砂組成物の製造方法であって、前記流動化砂組成物が地盤側空洞部へ充填後に適度な強度と共に要求される透水係数を満たすため、前記塑性化剤の添加量を増減した態様、又は、前記高炉スラグ微粉末の添加量を増減した態様での透水係数を予め調べておき、それを参照して要求される所定の透水係数に調整することを特徴としている。
【0010】
以上の本発明は、流動化砂組成物の充填固化後の透水係数が予め調整可能になれば、用途に応じたより的確な透水係数の充填材となり、陥没等の被害や再発の虞を解消し易くなるとの課題認識から検討され開発されたものである。
【0011】
(使用例)本発明方法で製造された流動化砂組成物の使用例を挙げると次のような場合である。すなわち、地盤と構造物の境界にできた空洞(河川堤防や法面背面,構造物基礎,トンネル)に充填する態様である。このような場所に発生する空洞は、水の流れなどによる地盤の吸出しによって空洞が発生拡大することが多い。例えば、このような空洞にグラウトで充填した場合、原地盤と充填域の境界に再び水の流れが発生する。その際、水の流れは充填域と原地盤の透水性の違いによって以下のような態様となる。
・原地盤の透水性が大で、充填域の透水性が小さいと境界部で水の流れが速くなる。
・原地盤の透水性が大で、充填域の透水性が大きいと境界部で水の流れが遅くなる。
・原地盤の透水性が小(主に、粘性土)だと、余り吸出しが発生しないが、沈下によって構造物との間に空洞が発生する。この様な現象を前提にすると、充填材としては、極限的には地盤と同じ透水係数とすることが最も合理的と考えられる。
【0012】
(使用要領)本発明の流動化砂組成物の最も好ましい使用例や適用要領としては、次のように地盤の透水性に合わせて使うようにすることである。
A:流動化砂組成物の透水係数が大(例えば、図2図3のグラフにおいて、透水係数(m/s)が1.E-05 より高い)の場合の好適な使用例は、原地盤が礫・粗砂地盤であり、構造物との境界において吸出し等で発生した空洞を充填する。
B:流動化砂組成物の透水係数が中(例えば、図2図3のグラフにおいて、透水係数(m/s)が 1.E-07 ~1.E-05 程度)の場合の好適な使用例は、原地盤が細砂・シルト混じり砂であり、構造物との境界において吸出し等で発生した空洞を充填する。具体的な構造物は、トンネル・樋門樋管・河川護岸背面・既設被覆法面背面が挙げられる。
C:流動化砂組成物の透水係数が小(例えば、図2図3のグラフにおいて、透水係数(m/s)が1.E-07 より低い)の場合の好適な使用例は、原地盤がシルト・粘土地盤であり、原地盤の沈下等によって発生した空洞、岩盤等の亀裂又はセメント構造物に囲われた空間を充填する。ここで、具体的な構造物は、地下ピット・埋設管の管内・アンカーなどの定着・岩盤亀裂が挙げられる。
【0013】
以上の本発明は、以下のように具体化されることがより好ましい。
(1)、前記塑性化剤の添加量を増減する態様では、前記材料砂の100重量部に対し前記塑性化剤を少なくとも0.05~0.1重量部を含む範囲で透水係数の変化を調べる構成である(請求項2)。これは、図2のグラフから分かるように、塑性化剤の添加量が標準配合の1倍つまり材料砂1.000g当たり0.5g(0.05重量部)未満になると透水係数(m/s)がかなり小さくなり、逆に添加量が2倍つまり材料砂1.000g当たり1g(0.1重量部)を超えると透水係数(m/s)の増大があまり期待できないからである。なお、この塑性化剤の添加量範囲では、透水係数(m/s)が使用材料砂の産出地により異なるものの、概略1.E-07~1.E-3.5程度である。
(2)、前記高炉スラグ微粉末を増減する態様では、前記材料砂の100重量部に対し前記高炉スラグ微粉末を少なくとも1~5重量部を含む範囲で透水係数を調べる構成である(請求項3)。これは図3のグラフから分かるように、高炉スラグ微粉末の添加量が標準配合の添加量1%である材料砂1.000g当たり10g(1重量部)未満になると透水係数(m/s)がかなり大きくなり、逆に添加量5%である材料砂1.000g当たり50g(5重量部)を超えると透水係数(m/s)がかなり小さくなるからである。なお、この高炉スラグ微粉末の添加量範囲では、透水係数(m/s)が使用材料砂の産出地により異なるものの、概略1.E-08~1.E-04程度である。
【0014】
(3)、一方、請求項4の発明は、材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混入しており、地盤側空洞部に充填された後に適宜な強度を発現する空洞充填用の流動化砂組成物であって、請求項1から3の何れかにより製造されて空洞充填後に所定の透水係数となるよう調整されている構成である。(請求項4)。これは、上記本発明の製造方法で作られた流動化砂組成物を特定したものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明方法では、流動化砂組成物として、透水係数が広い範囲で選択可能となりかつ任意の透水係数として作成でき、それにより充填材として品質を向上して陥没等の被害や再発の虞を防ぐ上でより有用となる。すなわち、本発明の流動化砂組成物では、充填固化した状態で、任意の強度と、任意の透水性(透水係数)を発現でき、しかも充填時には流動性になっているため様々な空洞の隅々まで確実に充填可能となる。ここで、任意の強度は特許文献2に記載されている通りである。任意の透水係数は、塑性化剤又は高炉スラグ微粉末の添加量に応じた透水係数を予め調べておき、それを参照して要求される透水係数に調整する。なお、グラウト系充填材ではセメントで固化するため透水性はない。
【0016】
請求項2の発明では、塑性化剤の配合量に比例して、固化までに流動化剤による中和が早くなり、間隙を大きくした状態で固化し、透水係数の大きな流動化砂組成物となる。
【0017】
請求項3の発明では、例えば、高炉スラグ微粉末の添加量に比例して、固化による流動化砂間隔内の結晶構造が少なくなって、透水係数の小さな流動化砂組成物となる。
【0018】
請求項4の発明では、透水係数が調整管理された流動化砂組成物となるため陥没等の被害や再発の虞を確実に防ぐ上で高い評価が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】流動化砂組成物に使用される主材料である産地別の砂(材料砂)について、粒径と通過質量百分率の関係を調べたグラフである。
図2】本発明方法を適用して製造される流動化砂組成物として、塑性化剤の添加量を変えたときの透水係数の変動を示すグラフである。
図3】本発明方法を適用して製造される流動化砂組成物として、高炉スラグ微粉末の添加量を変えたときの透水係数の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の流動化砂組成物及びその製造方法を必要に応じて図1図3を参照しながら詳述する。
【0021】
(全体構成)対象の流動化砂組成物は、地盤側空洞部に充填された後に適宜な強度を発現するもので、主材である材料砂に対し、添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混入して製造される。この構成は特許文献2に開示のものとほぼ同じ。本発明の製造方法では、特許文献2の製造方法と異なる構成として、流動化砂組成物が地盤側空洞部へ充填後に適度な強度と共に要求される任意の透水係数を満たすため、塑性化剤の添加量を増減した態様、又は、前記高炉スラグ微粉末の添加量を増減した態様での透水係数を予め調べておき、それを参照して要求される所定の透水係数に調整するようにしたものである。
【0022】
以下、対象の流動化砂組成物の構成素材を説明した後、流動化砂組成物の製造方法を明らかにし、最後に塑性化剤の添加量(配合量)を変えて製造した流動化砂組成物の透水係数の変動を調べた実施例1、高炉スラグ微粉末の添加量(配合量)を変えて製造した流動化砂組成物の透水係数の変動を調べた実施例2により細部を明らかにする。
【0023】
構成素材は以下の通りである。
(1)材料砂は、従来の流動化砂や流動化砂組成物の製造に用いられてきたものであればよく、一部にシルトや礫を含んでいてもよい。図1のグラフは産出地a~eの砂について、粒径と通過質量百分率の関係を示している。図1において、後述する実施例1と2では蓋井島産の砂eと、男鹿産の砂dと、法木産の砂bとを使用した。蓋井島産の砂eは適正含水比30%、男鹿産の砂dは適正含水比25%、法木産の砂bは適正含水比35%、木曽川下流域の砂cは適正含水比30%であり、材料砂としては、粒径が0.074~2.0mm程度のものが好ましい。なお、左右の破線はSCP(サンドコンパクションパイル)工法で許容された範囲を示している。また、粒径加積曲線からは、一般的に蓋井島産の砂eや男鹿島産の砂dのように粒径が広い範囲にわたって分布していると締固め特性がよく、法木産の砂bのように粒径が狭い範囲に集中していると締固め特性が悪いと言われている。また、法木産の砂bの左付近からdの右付近の間が従来の流動化砂や流動化砂組成物に用いられている実積範囲であり、平均粒径D50=0.5mm程度、細粒分含有率Fc=5%以下のものである。
【0024】
(2)高炉スラグ微粉末は、製鋼工程で生じる粉粒状の副産物であり、主成分がCaO、SiO、Al、MgOである。高炉スラグには、除冷スラグと水砕スラグがあり、このうち、水砕スラグが好ましい。水砕スラグとは、溶融状態の高炉スラグを加圧水で急冷することにより生成されるガラス質(非結晶)で粒状のものである。高炉スラグ微粉末は、比表面積が2,750~10,000cm/gのものが好ましい。
【0025】
高炉スラグ微粉末の配合量(添加量)は、製造される流動化砂組成物の硬さを左右する以外に、流動化砂組成物の透水係数に影響大であり、材料砂100重量部に対し0.5~5.5重量部、好ましくは1~5重量部である。この値は、図3のグラフから推察されるごとく同じ添加量でも、使用される材料砂により製造される流動化砂組成物の透水係数が変動する。このため、製造時の設計において、高炉スラグ微粉末の添加量は目的ないしは必要とされる透水係数の流動化砂組成物が得られるよう、用いられる材料砂毎に予め作成された図3のようなグラフを参考にして決められる。
【0026】
(3)消石灰及び石膏から選択される1種又は2種である。これらの物質は、高炉スラグ微粉末が例えば、公知の流動化砂に添加された際に消石灰又は石膏の存在により、反応が促進され、固化ないしは硬化を促進して、適度の強度を発現し易くする。なお、高炉スラグ微粉末単独では適度の強度が確実に発現できない。
【0027】
消石灰は、水酸化カルシウムであり、生石灰を水または水蒸気で消和して作られる。市販の建築用消石灰や工業用消石灰で粉末状のものが好適である。消石灰の配合量は、高炉スラグ微粉末100重量部に対して、10重量部~200重量部、好ましくは20重量部~100重量部である。消石灰の配合量が多過ぎると、流動化砂組成物のpHがアルカリとなり、アルカリ分が溶出することで環境に対する影響の点で好ましくなく、また少な過ぎると、高炉スラグ微粉末との反応が促進されない。
【0028】
石膏としては、二水石膏、半水石膏、無水石膏が挙げられ、このうち、半水石膏が入手し易い点で好ましい。石膏の具体例としては、天然石膏、排煙脱硫処理によって副生する石膏、天然無水石膏、ふっ酸の製造過程で副産するふっ酸無水石膏等が挙げられる。石膏の配合量は、高炉スラグ微粉末100重量部に対して、10重量部~200重量部、好ましくは20重量部~100重量部である。石膏の配合量が多過ぎると、経済性の点で好ましくなく、また少な過ぎると、高炉スラグ微粉末との反応が促進されない。
【0029】
材料砂に対して、添加物として高炉スラグ微粉末、消石灰及び石膏の3成分を含む構成、或いは添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰又は石膏の2成分を含む構成でもよい。これらの構成では、粉末状でも水に溶解してもよい。
【0030】
(4)含水比調整用水は、特に流動化剤に影響する金属イオン等の陽イオンを含む工業用水や海水は避けて中性の水道水を用いることが好ましい。水の使用量は通常、製造される流動化砂組成物の含水比25~40%の範囲で調整されるよう算出される。この含水比は、高くなると空洞への投入容量も比例して多くなるためその点も考慮される。
【0031】
(5)流動化剤は、砂の粒子間の間隙水の粘性を高め、飽和状態で砂と水の分離を抑制してポンプ圧送性などの取扱性を向上させる添加剤である。具体的には、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤などである。好ましくは、粘性を高め砂粒子の沈降分離を抑制するアニオン系高分子剤である。これは、高分子の親水基が水分を保持する性能に優れ、また、砂粒子ないしは土粒子を高分子の端部にある粘着部を介して接合する。流動化剤の配合量ないしは添加量は、砂材料100重量部に対し0.01~2.0重量部であり、好ましくは0.1~1.0重量部である。この配合量は、少な過ぎると砂材料が流動化せず、配管内で分離したり目詰まりしたりして圧送できなくなり、逆に多過ぎても流動化効果は変わらずコスト上昇要因となる。流動化砂中に流動化剤が多くなりすぎると、透水性を下げる要因ともなる。
【0032】
(6)塑性化剤は、流動化剤を電気的に中和して流動化剤の高分子を保持不能にし砂粒子ないしは土粒子同士の摩擦を回復させる作用があり、分子量10~10のカチオン系高分子剤が好適である。このカチオン系高分子剤としては、ポリエチレンポリアミン・ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物などである。なお、塑性化剤は遅効性塑性化剤と称することもある。
【0033】
塑性化剤の配合量(添加量)は、製造される流動化砂組成物の透水係数に影響大であり、砂材料に対し0.05~0.1重量部である。塑性化剤は、少な過ぎると、流動化砂組成物が塑性化し難く、多過ぎると塑性化が早く起こり充填操作に支障をきたす。この値は、図2のグラフから推察されるごとく同じ添加量でも、使用される材料砂により製造される流動化砂組成物の透水係数が変動する。このため、製造時の設計において、塑性化剤の添加量は目的ないしは必要とされる透水係数の流動化砂組成物が得られるよう、用いられる材料砂毎に予め作成された図2のようなグラフを参考にして決められる。
【0034】
次に、本発明に係る流動化砂組成物の製造方法について図2図3を参考にしつつ説明する。この製造方法は、材料砂に対し添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤とを混入して、製造される流動化組成物として、地盤側空洞部に充填固化した後に適宜な強度を発現させる点で特許文献2の製造方法と同じ。特許文献2の製造方法に比べ以下の点が異なっている。実施例1の製造方法では、塑性化剤の添加量を可変させて流動化組成物の透水係数を変動させる。実施例2では、高炉スラグ微粉末の添加量を増減させて流動化組成物の透水係数を変動させる。これらは産地別砂つまり用いられる材料砂毎に行われる。図2は実施例1として塑性化剤の添加量(倍)による透水係数(m/s)の変化を調べた結果を示し、図3は実施例2として高炉スラグ微粉末の添加量(%)による透水係数の変化を調べた結果を示している。
【0035】
(実施例1)この実施例1では、材料砂に対し、添加物として高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤と、塑性化剤とを混合槽に入れて混合する。この場合、好ましくは材料砂と、高炉スラグ微粉末と、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種とを混合する第1工程と、該第1工程で得られた混合物に含水比調整用水及び流動化剤を混合する第2工程と、第2工程で得られた混合物に塑性化剤を混合する第3工程とを経ることである。
【0036】
実施例1は、材料砂に対し高炉スラグ微粉末(比表面積4.000cm/g)と、消石灰と、含水比調整用水と、流動化剤としてアニオン系高分子剤とが標準配合で混合される。具体的には、材料砂1.000g:高炉スラグ微粉末30g:消石灰10g :含水比調整用水275g(この内訳は、砂の含水量99g+加水量40g+流動化剤用希釈液100g+固化材用溶解水36g):流動化剤6.4g(原液量)である。なお、この例では消石灰だけを入れ、石膏を使用しなかった。但し、石膏も入れるようにしてもよい。これに対し、混入される塑性化剤としてカチオン系高分子剤の添加量(倍)が1倍、1.1倍、1.2倍、2倍にした場合である。この値は、材料砂1.000gに対し塑性化剤0.5g(0.05重量部)を基準つまり標準配合としており、実施例1だと塑性化剤の添加量1倍が0.05重量部、添加量1.1倍が0.055重量部、添加量1.2倍が0.06重量部、添加量2倍が0.1重量部となる。
【0037】
以上の条件で製造された流動化砂組成物を試験用の地盤側空洞に充填固化した状態で、透水係数を計測した。その結果を次の表1に一覧している。表1中、SRは流動化砂組成物の略、P1添加量は塑性化剤の添加量である。SR(d)は男鹿島産の砂を使用した流動化砂組成物、SR(e)は蓋井島産の砂を使用した流動化砂組成物、SR(b)は法木産の砂を使用した流動化砂組成物である。
【0038】
なお、充填固化した流動化砂組成物の透水係数を求める方法は、日本工業規格の土の透水試験方法(JIS A1218:2020)に基づいて行った。この方法では、透水係数が比較的大きい場合に適している定水位透水試験と、透水係数の比較的小さい場合に適している変水位透水試験があるが、対象の流動化砂組成物を後者の試験より計測した。計測方法の説明は省くが、丸善出版(株)、公益社団法人 地盤工学会の発行の『地盤材料試験の方法と解説』「第一回改訂版」-二分冊の1、第467~489頁を参照されたい。
【0039】
(表1)

上記した如くP1添加量の1倍が0.05重量部、2倍が0.1重量部、1.1倍が0.055重量部、1.2倍が0.06重量部に相当している。
【0040】
図2のグラフからは、塑性化剤の添加量が1倍つまり材料砂1.000g当たり0.05重量部未満だと、透水係数がかなり小さくなり、逆に塑性化剤の添加量が2倍つまり材料砂1.000g当たり0.1重量部を超えると透水係数の増大が緩やかとなることが分かる。すなわち、製造される流動化砂組成物は、塑性化剤の配合量に比例して、流動化剤による中和が早くなり、間隙を大きくした状態で硬化ないしは固化し、透水係数の大きな充填物になるものと推察される。なお、図2のグラフには、材料砂が10%粒径のものを用いたときの推定透水係数を付記した。これは、日本工業規格の土の粒度試験方法(JIS A1204)にて粒度分布を求め、求めた粒度分布から例えばHazenの式を用いて得られたものである。
【0041】
(実施例2)この実施例2では、材料砂に対し、添加物として、消石灰及び石膏から選択される1種又は2種と、含水比調整用水と、流動化剤としてアニオン系高分子剤と、塑性化剤としてカチオン系高分子剤とを標準配合で混合すると共に、高炉スラグ微粉末(比表面積4.000cm/g)の添加量(%)を増減させる。具体的には、材料砂1.000g:高炉スラグ微粉末10gか、30gか、50gの何れか:消石灰10g:含水比調整用水275g(この内訳は、砂の含水量99g+加水量40g+流動化剤用希釈液100g+固化材用溶解水36g):流動化剤6.4g(原液量):塑性化剤0.5gである。なお、この例でも消石灰だけを入れ、石膏を使用しなかった。但し、石膏も入れるようにしてもよい。ここで、高炉スラグ微粉末の標準配合である3%は、材料砂1.000gに対し高炉スラグ微粉末30g(3重量部)となり、また、高炉スラグ微粉末1%が1重量部、5%が5重量部となる。
【0042】
以上の条件で製造された流動化砂組成物を試験用の地盤側空洞に充填固化した状態で、透水係数を計測し、その結果を次の表2に一覧している。表2中、SR、SR(d)、SR(e)、SR(b)は実施例1と同じ。
【0043】

(表2)
【0044】
図3のグラフからは、高炉スラグ微粉末の添加量が1%つまり材料砂1.000g当たり1重量部未満だと、透水係数がかなり大きくなり、逆に添加量が5%つまり材料砂1.000g当たり5重量部を超えると透水係数がかなり小さくなることが分かる。すなわち、製造される流動化砂組成物としては、高炉スラグ微粉末の添加量(配合量)に反比例して、固化による流動化砂間隙内の結晶構造が少なくなって、透水係数の小さなものとなる。
【0045】
なお、以上の本発明は、各請求項で特定される構成を備えておればよいものである。細部は、これをベースとして色々に展開可能であり、例えば、各実施例では石膏を省略して消石灰だけを混入したが、消石灰及び石膏を混合したり、石膏の一方だけを混入するようにしてもよい。
図1
図2
図3