(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150855
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】流体機器
(51)【国際特許分類】
F04B 45/053 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
F04B45/053 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063852
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福井 克彦
【テーマコード(参考)】
3H077
【Fターム(参考)】
3H077AA08
3H077CC02
3H077DD09
3H077DD14
3H077EE21
3H077EE22
3H077EE23
3H077FF03
3H077FF08
(57)【要約】
【課題】帯電した流体が薄膜部材に接しても、薄膜部材にピンホールが発生するのを抑制することができる流体機器を提供する。
【解決手段】流体が接する一面を有する樹脂製の薄膜部材と、前記薄膜部材の他面と対向する対向部材と、を備え、前記薄膜部材における前記一面と前記他面との間の厚みが、前記流体に帯電した電荷が通過する程度に薄く形成された、流体機器であって、前記対向部材は、前記薄膜部材の前記他面が接触又は近接する電気絶縁性の絶縁部を有する、流体機器。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が接する一面を有する樹脂製の薄膜部材と、前記薄膜部材の他面と対向する対向部材と、を備え、前記薄膜部材における前記一面と前記他面との間の厚みが、前記流体に帯電した電荷が通過する程度に薄く形成された、流体機器であって、
前記対向部材は、前記薄膜部材の前記他面が接触又は近接する電気絶縁性の絶縁部を有する、流体機器。
【請求項2】
前記対向部材は、金属製の本体部と、前記本体部に設けられた樹脂製の前記絶縁部と、を有する、請求項1に記載の流体機器。
【請求項3】
前記絶縁部は、前記薄膜部材の前記他面における前記絶縁部に接触又は近接する部分の長さよりも長く形成されている、請求項1又は請求項2に記載の流体機器。
【請求項4】
前記流体機器は、前記流体を吐出するローリングダイアフラムポンプであり、
前記薄膜部材は、前記ローリングダイアフラムポンプのローリングダイアフラムの薄膜部であり、
前記対向部材は、前記ローリングダイアフラムポンプのシリンダである、請求項1又は請求項2に記載の流体機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体、液晶、有機EL、太陽電池等の製造プロセスにおいて、薬液を塗布又は調合するときに当該薬液を送給するポンプとして、例えば特許文献1に記載されたローリングダイアフラムポンプが知られている。このローリングダイアフラムポンプは、金属製のシリンダと、シリンダ内に往復移動可能に設けられたピストンと、シリンダとピストンとを連結する薄膜部(繋ぎ部)を有する樹脂製のローリングダイアフラムと、を備えている。
【0003】
シリンダ内でピストンが往復移動すると、ローリングダイアフラムの薄膜部が変形する。薄膜部が変形すると、ポンプ室の容積が変化することで、移送流体がポンプ室に吸い込まれて外部へ吐出される。ローリングダイアフラムの薄膜部の一面は、シリンダの内周面に密着する密着面とされている。薄膜部の他面は、ポンプ室内の移送流体が接する接触面とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ローリングダイアフラムポンプでは、ポンプ室に吸入される移送流体が帯電している場合がある。その場合、移送流体に帯電した電荷が、ローリングダイアフラムの薄膜部の接触面から密着面を介してシリンダに放電されることによって、薄膜部にピンホールが発生するおそれがある。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、帯電した流体が薄膜部材に接しても、薄膜部材にピンホールが発生するのを抑制することができる流体機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の流体機器は、流体が接する一面を有する樹脂製の薄膜部材と、前記薄膜部材の他面と対向する対向部材と、を備え、前記薄膜部材における前記一面と前記他面との間の厚みが、前記流体に帯電した電荷が通過する程度に薄く形成された、流体機器であって、前記対向部材は、前記薄膜部材の前記他面が接触又は近接する電気絶縁性の絶縁部を有する。
【0008】
本開示の流体機器によれば、薄膜部材の他面は、当該他面と対向する対向部材の絶縁部に接触又は近接するので、帯電した流体が薄膜部材の一面に接しても、流体に帯電した電荷が薄膜部材を通過して対向部材に放電されるのを、絶縁部によって抑制することができる。これにより、薄膜部材にピンホールが発生するのを抑制することができる。
【0009】
(2)前記(1)の流体機器において、前記対向部材は、金属製の本体部と、前記本体部に設けられた樹脂製の前記絶縁部と、を有するのが好ましい。
この場合、対向部材の全体が樹脂製の絶縁部だけで構成される場合と比較して、対向部材の強度を高めることができる。
【0010】
(3)前記(1)又は(2)の流体機器において、前記絶縁部は、前記薄膜部材の前記他面における前記絶縁部に接触又は近接する部分の長さよりも長く形成されているのが好ましい。
流体に帯電した電荷が、薄膜部材の他面における絶縁部に接触又は近接する部分の端から、対向部材に直接放電されるのを抑制することができる。これにより、薄膜部材にピンホールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0011】
(4)前記(1)から(3)のいずか一の流体機器において、前記流体機器は、前記流体を吐出するローリングダイアフラムポンプであり、前記薄膜部材は、前記ローリングダイアフラムポンプのローリングダイアフラムの薄膜部であり、前記対向部材は、前記ローリングダイアフラムポンプのシリンダであるのが好ましい。
この場合、流体に帯電した電荷がローリングダイアフラムの薄膜部を通過してシリンダに放電されるのを、絶縁部によって抑制することができる。これにより、ローリングダイアフラムの薄膜部にピンホールが発生するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の流体機器によれば、帯電した流体が薄膜部材に接しても、薄膜部材にピンホールが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る流体機器であるローリングダイアフラムポンプを示す斜視図である。
【
図2】ローリングダイアフラムポンプの断面図であり、吐出工程が終了した状態を示している。
【
図3】
図2のローリングダイアフラムポンプの一部拡大断面図である。
【
図4】ローリングダイアフラムポンプの断面図であり、吸込工程が終了した状態を示している。
【
図5】
図4の要部拡大断面図であり、シリンダの絶縁構造を示している。
【
図6】第2実施形態に係る流体機器である流体制御弁を示す断面図である。
【
図7】
図6の要部拡大断面図であり、シリンダの絶縁構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る流体機器であるローリングダイアフラムポンプ1を示す斜視図である。
図2は、ローリングダイアフラムポンプ1の断面図である。
図1及び
図2において、ローリングダイアフラムポンプ1は、例えば、半導体製造装置に使用される薬液等の移送流体(流体)を送給するポンプである。ローリングダイアフラムポンプ1は、ハウジング2と、ピストン3と、ローリングダイアフラム4と、を備えている。本実施形態のローリングダイアフラムポンプ1(以下、単にポンプ1ともいう)は、その長手方向(軸方向)を上下方向に向けた状態で配置されているが、上下方向以外の方向に向けた状態で配置されてもよい。
【0015】
<ハウジングの構成>
ハウジング2は、シリンダ(対向部材)11と、ポンプヘッド12と、底板13と、を有している。シリンダ11は、円筒状に形成されており、軸方向上端部の外周に設けられた第1フランジ部11aと、軸方向下端部の外周に設けられた第2フランジ部11bと、を有している。
【0016】
第1フランジ部11aの外形は、例えば正四角形状に形成されている。第1フランジ部11aの四隅には、それぞれ厚み方向(上下方向)に貫通する挿通孔11cが形成されている。第2フランジ部11bは、例えば円環形状に形成されている。シリンダ11における両フランジ部11a,11bの間には、その厚み方向(左右方向)に貫通する通気口11fが形成されている。この通気口11fは、真空ポンプ又はアスピレータ等の減圧装置(図示省略)と接続されている。
【0017】
底板13は、シリンダ11の軸方向下端に固定されている。底板13は、例えば、アルミニウム等の金属製の円板である。底板13には、加圧空気及び減圧空気をハウジング2内に給排するための給排口13aが形成されている。給排口13aの一端は、底板13の上面の中心部で開口している。給排口13aの他端は、底板13の外周面で開口している。給排口13aの他端は、図示を省略するが、バルブを切り替えることで、加圧空気を供給するエアコンプレッサ等の空気供給装置と、加圧空気を強制排出する真空ポンプ又はアスピレータ等の減圧装置とのいずれかに接続されるようになっている。
【0018】
ポンプヘッド12は、例えば、有蓋円筒形状に形成された樹脂製(ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)等)の部材である。ポンプヘッド12は、シリンダ11の第1フランジ部11aの上面において、シリンダ11の開口を閉塞するように配置されている。ポンプヘッド12は、シリンダ11と略同一の内径を有している。これにより、ポンプヘッド12の内部空間は、シリンダ11の内部空間と共に、ピストン3を収容し得る収容空間を構成している。
【0019】
ポンプヘッド12の軸方向上端面には、金属製のフランジ板17が取り付けられている。フランジ板17は、シリンダ11の第1フランジ部11aと略同一の外形となるように、例えば正四角形状に形成されている。フランジ板17の四隅には、それぞれ厚み方向(上下方向)に貫通する挿通孔17aが形成されている。
【0020】
ポンプヘッド12の軸方向上端部には、単一の接続口18、及び複数の接続口19が、厚み方向に貫通して形成されている。接続口18は、エア抜き等の目的でポンプ室5(後述)内の移送流体を排出するための排出口として用いられる。接続口19は、ポンプ室5に移送流体を吸い込むための吸込口、又はポンプ室5から移送流体を吐出するための吐出口として用いられる。
【0021】
接続口18には、両端部に雄ねじが切られた筒状のコネクタ21の一方の端部がフランジ板17を貫通して取り付けられている。コネクタ21の他方の端部には、コネクタ21に挿通するチューブを固定するためのナットが取り付けられている。同様に、接続口19には、両端部に雄ねじが切られた筒状のコネクタ22の一方の端部がフランジ板17を貫通して取り付けられている。コネクタ22の他方の端部には、コネクタ22に挿通するチューブを固定するためのナットが取り付けられている。本実施形態では、接続口19及びコネクタ22は4個ずつ設けられている。
【0022】
吸入口として用いられる接続口19に取り付けられたコネクタ22(例えば、
図1に示すコネクタ22a)は、図示を省略するが、移送流体を貯溜するタンクにチューブ及びバルブ等を介して接続されている。吐出口として用いられる接続口19に取り付けられたコネクタ22(例えば、
図1に示すコネクタ22b)は、図示を省略するが、移送流体を塗布する噴射ノズル等の流体供給部にチューブ及びバルブ等を介して接続されている。
【0023】
<ピストンの構成>
ピストン3は、ハウジング2の内周面に対して摺動可能に配置されるとともに、ハウジング2の軸方向(上下方向)に往復移動可能に配置されている。ピストン3は、例えば、樹脂製(ポリプロピレン(PP)等)の円柱部材である。ピストン3の中心部には、貫通孔3aが軸方向に貫通して形成されている。
【0024】
図3は、
図2のポンプ1の一部拡大断面図である。本実施形態のピストン3は、大径部31と、小径部32と、を有している。大径部31は、シリンダ11の内径よりも若干小さい外径を有している。大径部31の外周面31aには、その全周にわたって環状のシール溝31bが形成されている。
【0025】
シール溝31bには、Oリング34が装着されている。Oリング34は、例えば、フッ素ゴム等のゴム材料からなる。シール溝31bにおけるOリング34よりも径方向外側には、摺動リング35が装着されている。摺動リング35の内周面とシール溝31bの底面との間は、Oリング34によりシールされている。
【0026】
摺動リング35の外径は、シリンダ11の内径よりも僅かに大きい。したがって、摺動リング35の外周面は、シリンダ11の内周面11dに押し付けられながら摺動する。これにより、摺動リング35の外周面とシリンダ11の内周面11dとの間がシールされ、摺動リング35は、後述する作動流体室6と減圧室7との間を隔てている。
【0027】
小径部32は、大径部31から軸方向上側に延びている。小径部32は、大径部31よりも軸方向に長く形成されている。小径部32の外径は、大径部31の外径よりも小さい。小径部32の外周面32aと、シリンダ11の内周面11dとの間には、環状の隙間が形成されている。小径部32の外周面32aの軸方向上側は、後述する薄膜部43が密着する部分とされている。小径部32の上面には、後述する可動部41の下面の外形に沿う窪み部32bが形成されている。
【0028】
<ローリングダイアフラムの構成>
図2及び
図3において、ローリングダイアフラム4は、ハウジング2内に収容されている。ローリングダイアフラム4は、樹脂製(例えばPTFE等のフッ素樹脂)の部材である。ローリングダイアフラム4は、ピストン3の軸方向上端部に配置された可動部41と、ハウジング2に固定された環状の固定部42と、可動部41と固定部42とを連結している薄膜部(薄膜部材)43と、を有している。
【0029】
固定部42は、シリンダ11の第1フランジ部11aの上面に形成された環状の凹部11eに嵌め込まれ、シリンダ11とポンプヘッド12との間に位置している。この状態で、フランジ板17の各挿通孔17a及び第1フランジ部11aの各挿通孔11cには、通しボルト23が挿入されている。
【0030】
通しボルト23の両端部には、それぞれ所定数の皿ばね24を介してナット25が締め込まれている。各通しボルト23の両端部は、ナット25及び所定数の皿ばね24と共にキャップ26に覆われて保護されている。各ナット25の締め込みにより、固定部42は、シリンダ11とポンプヘッド12との接合面間に強く挟持され、ハウジング2に固定されている。
【0031】
可動部41は、下方に向かって漸次縮径するように截頭円錐体形状に形成されている。可動部41は、小径部32の窪み部32bに嵌め込まれ、ピストン3と同軸上に配置されている。可動部41は、ピストン3の小径部32と略同一の外径を有している。可動部41の下面には、ねじ穴41aが形成されている。ねじ穴41aには、ピストン3の貫通孔3aに挿通された通しボルト36の先端部が締め込まれている。これにより、可動部41は、ピストン3の小径部32に固定され、ピストン3と共に軸方向に往復移動可能である。
【0032】
薄膜部43は、固定部42の径方向内端と可動部41の径方向外端とを連結する部分である。薄膜部43は、可撓性を有し、
図3に示す状態においてシリンダ11の内周面11dと小径部32の外周面32aとの間で断面U字状に屈曲している。具体的には、薄膜部43は、固定部42の径方向内端からシリンダ11の内周面11dに沿って軸方向下側に延びた後、径方向内側に折り返して、小径部32の外周面32aに沿って可動部41まで軸方向上側に延びている。この状態において、薄膜部43は、シリンダ11の内周面11d及び小径部32の外周面32aに密着している。
【0033】
ピストン3が
図4に示す位置まで移動すると、薄膜部43の大部分は、シリンダ11の内周面11dに沿って密着する円筒形状に変形する。この状態から、ピストン3が
図2に示す位置まで移動すると、薄膜部43は、一部が小径部32の外周面32aに沿って密着するとともに、他部がシリンダ11の内周面11dに沿って密着した二重の円筒形状に変形する。
【0034】
<ハウジング内の区画室>
図2において、ポンプ1のハウジング2内には、ピストン3及びローリングダイアフラム4等によって、ポンプ室5、作動流体室6、及び減圧室7が区画形成されている。
【0035】
ポンプ室5は、ハウジング2内の軸方向上側(軸方向一方側)において、ローリングダイアフラム4により区画形成されている。本実施形態のポンプ室5は、ローリングダイアフラム4の可動部41及び薄膜部43と、ポンプヘッド12とにより囲まれて形成されている。ポンプ室5は、接続口18,19のそれぞれと連通している。ポンプ室5は、ピストン3の往復移動によりローリングダイアフラム4の薄膜部43が変形することで、室内の容積が変化するようになっている(
図4参照)。
【0036】
作動流体室6は、ハウジング2内の軸方向下側(軸方向他方側)において、ピストン3の軸方向下端部(軸方向他端部)により区画形成されている。作動流体室6は、給排口13aと連通している。給排口13aを介して接続される空気供給装置及び減圧装置を用いて、加圧空気及び減圧空気(作動流体)が作動流体室6内に給排されることで、ハウジング2内でピストン3が往復移動するようになっている。
【0037】
減圧室7は、ピストン3、ローリングダイアフラム4の薄膜部43、及びシリンダ11により、ハウジング2内のポンプ室5と作動流体室6との間に区画形成されている。減圧室7は、通気口11fと連通している。減圧室7は、ポンプ1の駆動時に、通気口11fを介して接続される減圧装置により、所定の圧力(負圧)に減圧されるようになっている。
【0038】
<ポンプの駆動方法>
ポンプ1の作動流体室6内の加圧空気を外部に強制排出して作動流体室6内を減圧させると、ピストン3が軸方向下側に復移動する吸込工程が行われる。吸込工程では、ピストン3の復移動に追従して、ローリングダイアフラム4の可動部41が下方へ移動する(
図2に示す状態から
図4に示す状態に変化する)。その過程で、ローリングダイアフラム4の薄膜部43は、シリンダ11の内周面11dと小径部32の外周面32aとの隙間で屈曲している状態から、シリンダ11の内周面11dに大部分が密着した状態となるまで、屈曲位置が下方へ変位するようにローリングする。これに伴って、ポンプ室5の容積が拡大するので、タンク内の移送流体が接続口18を通じてポンプ室5に吸い込まれる。
【0039】
作動流体室6内に加圧空気が供給されると、ピストン3が軸方向上側に往移動する吐出工程が行われる。吐出工程では、ピストン3の往移動に追従して、ローリングダイアフラム4の可動部41が上方へ移動する(
図4に示す状態から
図2に示す状態に変化する)。その過程で、ローリングダイアフラム4の薄膜部43は、シリンダ11の内周面11dに大部分が密着している状態から、シリンダ11の内周面11dと小径部32の外周面32aとの隙間で屈曲する状態となるまで、屈曲位置が上方へ変位するようにローリングする。これに伴って、ポンプ室5の容積が縮小するので、ポンプ室5内の移送流体が各接続口19から吐出される。
【0040】
吸込工程及び吐出工程では、減圧室7は、通気口11fを介して接続される減圧装置により所定の圧力(負圧)になるように減圧される。これにより、ローリングダイアフラム4の薄膜部43を、シリンダ11の内周面11d及び小径部32の外周面32aにそれぞれ確実に密着させることができる。上記のように吸込工程と吐出工程とが交互に繰り返し行われることで、タンクに貯溜された移送流体は、ポンプ1から流体供給部に送給される。
【0041】
シリンダ11の外周には、シリンダ11内で摺動するピストン3の位置を検出する複数のセンサ8が設けられている。各センサ8の検出信号に基づいて、ポンプ1の駆動制御が行われる。各センサ8は、例えば磁気型の近接センサであり、ピストン3の下端部に取り付けられた環状の永久磁石9の磁気を検出する。
【0042】
永久磁石9は、減圧室7においてピストン3の小径部32の外周に嵌め込まれており、大径部31と略同一の外径を有している。永久磁石9は、自重により大径部31と小径部32との段差面33(
図3参照)に当接した状態で、ピストン3に保持されている。これにより、永久磁石9は、ピストン3と共に往復移動する。
【0043】
<シリンダの絶縁構造>
例えば、ピストン3が
図4に示す位置にあるとき、ローリングダイアフラム4の薄膜部43の一面43aには、ポンプ室5内の移送流体が接する。また、薄膜部43の他面43b(一面43aと反対側の面)の大部分は、シリンダ11の内周面11dと対向して密着する。薄膜部43における一面43aと他面43bとの間の厚みは、薄膜部43の可撓性を担保するために、移送流体に帯電した電荷が通過する程度に薄く形成されている。
【0044】
このため、移送流体に帯電した電荷が、薄膜部43の一面43aから他面43bを介してシリンダ11に放電されると、薄膜部43にピンホールが発生するおそれがある。特に、シリンダ11がアースされている場合、移送流体に帯電した電荷は、低い電位であってもシリンダ11に放電されるので、薄膜部43にピンホールが発生しやすくなる。
【0045】
そこで本実施形態では、移送流体に帯電した電荷が薄膜部43を通過しないように、シリンダ11に絶縁構造が施されている。
図5は、シリンダ11の絶縁構造を示す
図4の要部拡大断面図である。
図4及び
図5において、シリンダ11は、金属製の本体部14と、本体部14に設けられた樹脂製の絶縁部15と、を有する。
【0046】
本体部14は、例えば、アルミニウム又はステンレス等の金属や、これらの金属を含む合金等により、円筒状に形成された部品である。本体部14の軸方向両端部には、上述した第1フランジ部11a及び第2フランジ部11bが一体に形成されている。また、本体部14には、上述した通気口11fが形成されている。本体部14の軸方向上側の内周には、環状の溝部14bが形成されている。
【0047】
絶縁部15は、例えば、ポリプロピレン(PP)又はフェノール樹脂(PF)等の合成樹脂により、円筒状に形成された電気絶縁性の部品である。絶縁部15は、本体部14の溝部14bに嵌め込まれて固定されている。絶縁部15は、本体部14と略同一の内径を有している。本体部14の溝部14bを除く内周面14a、及び絶縁部15の内周面15aは、シリンダ11の内周面11dを構成している。
【0048】
ピストン3が
図5(
図4)に示す位置にあるとき、絶縁部15の内周面15aには、この内周面15aに対向する薄膜部43の他面43bが密着(接触)する。
図5に示す状態において、絶縁部15の軸方向の長さL1は、薄膜部43の他面43bにおける絶縁部15に密着する部分の軸方向の長さL2よりも長い。したがって、ピストン3が
図2に示す位置にあるときも、絶縁部15の内周面15aには、この内周面15aに対向する薄膜部43の他面43bが密着(接触)する。
【0049】
<作用効果>
第1実施形態のローリングダイアフラムポンプ1によれば、ローリングダイアフラム4の薄膜部43の他面43bは、シリンダ11の電気絶縁性の絶縁部15に密着する。このため、帯電した移送流体が薄膜部43の一面43aに接しても、移送流体に帯電した電荷が薄膜部43を通過してシリンダ11の本体部14に放電されるのを、絶縁部15によって抑制することができる。これにより、薄膜部43にピンホールが発生するのを抑制することができる。
【0050】
シリンダ11は、樹脂製の絶縁部15が設けられる金属製の本体部14を有するので、シリンダ11全体が樹脂製の絶縁部15だけで構成される場合と比較して、シリンダ11の強度を高めることができる。これにより、移送流体の圧力に対するシリンダ11の耐圧性を高めることができる。
【0051】
例えば、絶縁部15が、本体部14に施した絶縁塗料の塗膜によって構成される場合、前記塗膜の一部が剥離して本体部14が露出すると、移送流体に帯電した電荷が、本体部14の露出部分に放電されるおそれがある。これに対して、本実施形態の絶縁部15は、樹脂製の部品であり、前記塗膜よりも剥離しにくいので、移送流体に帯電した電荷が本体部14に放電されるのをさらに抑制することができる。
【0052】
絶縁部15の軸方向の長さL1は、薄膜部43の他面43bにおける絶縁部15に密着する部分の長さL2よりも長い。このため、移送流体に帯電した電荷が、薄膜部43の他面43bにおける前記密着する部分の下端から、本体部14に直接放電されるのを抑制することができる。これにより、薄膜部43にピンホールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0053】
[第2実施形態]
<全体構成>
図6は、第2実施形態に係る流体機器である流体制御弁50を示す断面図である。
図6において、流体制御弁50は、例えば、半導体製造装置に使用される配管経路において、薬液等の流体の流れを制御する制御弁である。流体制御弁50は、ボディ部60と、アクチュエータ部70と、を備えている。
【0054】
ボディ部60は、流体を外部から流入する入力ポート61と、流体を外部へ流出する出力ポート62と、入力ポート61と出力ポート62の間に形成された弁座63と、を有している。入力ポート61及び出力ポート62のそれぞれには、管継手90が設けられている。各管継手90は、スリーブ91と、ユニオンナット92と、を有している。
【0055】
アクチュエータ部70は、シリンダ(対向部材)71、ピストン72、シャフト73、蓋部材74、ばね75、ハンドル76、及びダイアフラム80を備えている。シリンダ71は、例えば円筒状に形成され、その軸方向を上下方向に向けた状態で配置されている。シリンダ71内には、ピストン72がシリンダ71と同軸上に配置された状態で上下方向に往復移動するように収容されている。なお、流体制御弁50は、シリンダ71の軸方向を上下方向以外の方向に向けた状態で配置されてもよい。
【0056】
ダイアフラム80は、樹脂製(例えばPTFE等のフッ素樹脂)の部材である。ダイアフラム80は、円柱状の弁体部(可動部)81と、環状の固定部82と、弁体部81と固定部82とを連結している可撓性を有する環状の薄膜部(薄膜部材)83と、を有している。
【0057】
弁体部81は、ピストン72の下端に固定され、シリンダ71内に挿入されている。固定部82は、ボディ部60に形成された環状の係合部64に係合されて固定されている。薄膜部83は、
図6に示す状態においてシリンダ71の軸方向下側の内周に形成された環状のテーパ面71bに沿って配置される。弁体部81がピストン72と共に上下方向に往復移動すると、薄膜部83が変形することによって、弁体部81は、ボディ部60の弁座63に対して当接又は離間する。
【0058】
ピストン72の上側には、当該ピストン72と同軸上に配置されて上方に延びるシャフト73が一体に形成されている。シャフト73の上端部は、シリンダ71の上端部に固定された蓋部材74を、遊びをもって貫通してシリンダ71の上方に突出している。シリンダ71内における蓋部材74とピストン72との間には、ばね75がシャフト73に挿入して配置されている。これにより、ばね75は、ピストン72とシャフト73を下方に押圧付勢している。
【0059】
シリンダ71の上端部の外周には、雄ねじ部71aが形成されている。雄ねじ部71aには、ハンドル76の内周に形成された雌ねじ部76aが締め込まれている。ハンドル76の中央部には、シャフト73の上端部が遊びをもって貫通している。シャフト73のハンドル76よりも上方に突出している部分には鍔部材77が固定されている。ハンドル76を回転させてシリンダ71に対して上方へ移動させると、ハンドル76が鍔部材77の下面に当接することで、シャフト73が持ち上げられるようになっている。
【0060】
ハンドル76が緩める方向に回転操作されると、ハンドル76がシリンダ71に対して上方へ移動するとともに、シャフト73がハンドル76と共に上方へ持ち上げられる。そうすると、ピストン72がばね75の付勢力に抗して上方へ移動し、ダイアフラム80の弁体部81が、弁座63に対して上方へ離間する。これにより、ボディ部60内において入力ポート61から出力ポート62に向かって流れる流体の流量が増加する。
【0061】
一方、ハンドル76が締め付ける方向に回転操作されると、ハンドル76がシリンダ71に対して下方へ移動することで、ハンドル76によるピストン72の持ち上げ力が解除される。そうすると、ピストン72がばね75の付勢力により下方へ移動し、ダイアフラム80の弁体部81が、弁座63に当接するまで下方へ移動する。これにより、ボディ部60内において入力ポート61から出力ポート62に向かって流れる流体の流量が減少する。
【0062】
<シリンダの絶縁構造>
ダイアフラム80の弁体部81が
図6に示す位置にあるとき、ダイアフラム80の薄膜部83の一面(下面)83aには、ボディ部60内を流れる流体が接する。また、薄膜部83の他面(上面)83bは、シリンダ71のテーパ面71bと対向して接触又は近接する。薄膜部83における一面83aと他面83bとの間の厚みは、薄膜部83の可撓性を担保するために、流体に帯電した電荷が通過する程度に薄く形成されている。
【0063】
このため、流体に帯電した電荷が、薄膜部83の一面83aから他面83bを介してシリンダ71に放電されると、薄膜部83にピンホールが発生するおそれがある。特に、シリンダ71がアースされている場合、流体に帯電した電荷は、低い電位であってもシリンダ71に放電されるので、薄膜部83にピンホールが発生しやすくなる。
【0064】
そこで本実施形態では、流体に帯電した電荷が薄膜部83を通過しないように、シリンダ71に絶縁構造が施されている。
図7は、シリンダ71の絶縁構造を示す
図6の要部拡大断面図である。
図6及び
図7において、シリンダ71は、金属製の本体部78と、本体部78に設けられた樹脂製の絶縁部79と、を有する。
【0065】
本体部78は、例えば、アルミニウム又はステンレス等の金属や、これらの金属を含む合金等により、円筒状に形成された部品である。本体部78には、上述した雄ねじ部71aが形成されている。本体部14の軸方向下側の内周には、環状の溝部78bが形成されている。
【0066】
絶縁部79は、例えば、ポリプロピレン(PP)又はフェノール樹脂(PF)等の合成樹脂により、環状に形成された電気絶縁性の部品である。絶縁部79は、本体部78の溝部78bに嵌め込まれて固定されている。絶縁部79の軸方向下側の内周には、環状のテーパ面79aが形成されている。絶縁部79のテーパ面79aは、シリンダ71のテーパ面71bを構成している。
【0067】
ダイアフラム80の弁体部81が
図7(
図6)に示す位置にあるとき、絶縁部79のテーパ面79aには、このテーパ面79aに対向する薄膜部83の他面83bが接触又は近接する。
図7に示す状態において、絶縁部79の径方向の長さL3(内径と外径との差)は、薄膜部83の他面83b(絶縁部79に密着する部分)の径方向の長さL4(内径と外径との差)よりも長い。
【0068】
<作用効果>
第2実施形態の流体制御弁50によれば、ダイアフラム80の薄膜部83の他面83bは、シリンダ71の電気絶縁性の絶縁部79に密着する。このため、帯電した流体が薄膜部83の一面83aに接しても、流体に帯電した電荷が薄膜部83を通過してシリンダ71の本体部78に放電されるのを、絶縁部79によって抑制することができる。これにより、薄膜部83にピンホールが発生するのを抑制することができる。
【0069】
シリンダ71は、樹脂製の絶縁部79が設けられる金属製の本体部78を有するので、シリンダ71全体が樹脂製の絶縁部79だけで構成される場合と比較して、シリンダ71の強度を高めることができる。これにより、流体の圧力に対するシリンダ71の耐圧性を高めることができる。
【0070】
例えば、絶縁部79が、本体部78に施した絶縁塗料の塗膜によって構成される場合、前記塗膜の一部が剥離して本体部78が露出すると、流体に帯電した電荷が、本体部78の露出部分に放電されるおそれがある。これに対して、本実施形態の絶縁部79は、樹脂製の部品であり、前記塗膜よりも剥離しにくいので、流体に帯電した電荷が本体部78に放電されるのをさらに抑制することができる。
【0071】
絶縁部79の径方向の長さL3は、薄膜部83の他面83bの径方向の長さL4よりも長い。このため、流体に帯電した電荷が、薄膜部83の他面83bにおける絶縁部79に接触又は近接する部分の外周端から、本体部78に直接放電されるのを抑制することができる。これにより、薄膜部83にピンホールが発生するのをさらに抑制することができる。
【0072】
[その他]
以上のとおり開示した実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものでない。例えば、本開示の流体機器は、第1実施形態のローリングダイアフラムポンプ1、及び第2実施形態の流体制御弁50に限定されるものでなく、ベローズポンプやチューブであってもよい。シリンダ11,71は、金属製の本体部14,78と、樹脂製の絶縁部15,79とにより構成されているが、樹脂製の部品からなる絶縁部15,79だけで構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 ローリングダイアフラムポンプ(流体機器)
4 ローリングダイアフラム
11 シリンダ(対向部材)
14 本体部
15 絶縁部
43 薄膜部(薄膜部材)
43a 一面
43b 他面
50 流体制御弁(流体機器)
71 シリンダ(対向部材)
78 本体部
79 絶縁部
80 ダイアフラム
83 薄膜部(薄膜部材)
83a 一面
83b 他面