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  • 特開-植物栽培装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150861
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20241017BHJP
   A01G 9/02 20180101ALI20241017BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
A01G9/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063873
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】516180737
【氏名又は名称】大幅 元吉
(74)【代理人】
【識別番号】100154335
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】大幅 元吉
【テーマコード(参考)】
2B314
2B327
【Fターム(参考)】
2B314MA33
2B314PB12
2B314PB15
2B314PB18
2B314PB27
2B314PB43
2B314PB47
2B327UA13
2B327UA16
2B327UA27
(57)【要約】
【課題】漏水の防止、貯水容器の収容空間の確保、貯水容器への日射や容器内の空気の熱膨張の防止、および潅水用不織布の保水量の維持を可能とした植物栽培装置を提供する。
【解決手段】植物栽培装置1Aは、植物栽培容器2と潅水装置3とを有する。潅水装置3には、通水孔9が設けられた底部に栓11をした給水用開口部10が設けられる。また、土壌中に貯水容器4を収容する容器ホルダー5を備える。そして、容器ホルダー5の上面を覆うように、断熱塗料で塗装された遮光断熱カバー6を備える。底部には、潅水用不織布7を張って貯水容器4に密着させる布ホルダー8を備える。一方、植物栽培容器2には、底部に、潅水用不織布7の高さ位置Hと同じ深さまで形成された雨水排水孔2が設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層から順に(A)砂層と(B)栽培用土壌の層との二層からなる土壌が収容された植物栽培容器と、上方から前記(B)を貫通して前記(A)に挿入された潅水装置と、を有し、
前記潅水装置は、底部に通水孔が設けられた貯水容器と、この貯水容器の前記土壌内への収容空間を確保する容器ホルダーと、断熱塗料で塗装されて前記容器ホルダーの上面を覆うように設けられる遮光断熱カバーと、前記貯水容器の底面に敷かれた潅水用不織布と、この潅水用不織布を張って前記貯水容器の底部に密着させる布ホルダーと、を備え、
前記貯水容器は、底部に形成された給水用開口部と、この給水用開口部を給水時以外は塞ぐ栓とが設けられ、かつ、
前記植物栽培容器は、底部に、前記潅水用不織布の高さ位置と同じ深さまで形成された雨水排水孔が設けられることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
下層から順に(A)砂層と(B)栽培用土壌の層との二層からなる土壌が収容された植物栽培容器と、上方から前記(B)を貫通して前記(A)に挿入された潅水装置と、を有し、
前記潅水装置は、底部に通水孔が設けられた貯水容器と、この貯水容器の前記土壌内への収容空間を確保する容器ホルダーと、断熱塗料で塗装されて前記容器ホルダーの上面を覆うように設けられる遮光断熱カバーと、前記貯水容器の底面に敷かれた潅水用不織布と、この潅水用不織布を張って前記貯水容器の底部に密着させる布ホルダーと、を備え、
さらに、前記貯水容器内に挿入される水位計測装置と、前記貯水容器と接続された給水タンクと、前記貯水容器外部に取り付けられた脱気バルブと、前記貯水容器と前記給水タンクとの間に取り付けられた給水バルブと、前記貯水容器内部に取り付けられた通水孔バルブと、を備え、
前記水位計測装置により計測された水位の変化により前記貯水容器に給水が必要となった場合には、前記通水孔バルブを閉じる一方、前記脱気バルブを開け、さらに前記給水バルブを開けて給水を可能とし、
給水を止めるには、前記給水バルブを閉じ、さらに前記脱気バルブを閉じる一方、前記通水孔バルブを開けることにより、
自動的に給水を行い、かつ、
前記植物栽培容器は、底部に、前記潅水用不織布の高さ位置と同じ深さまで形成された雨水排水孔が設けられることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項3】
前記水位計測装置は、前記土壌への潅水により減少した水量を、栽培される植物の吸水量と捉え、その栽培される植物と同種の植物を同様の環境下で栽培する際に、予め前記吸水量分の水を、前記給水タンクより給水する請求項2に記載の植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潅水装置を有する植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
底面給水法は、土壌表面の通気性を維持しながら、植物の吸水量に見合う分量の水を給水できるので、優れた潅水方法として広く知られている。
【0003】
この方法において、本出願人は、下記特許文献1に記載される植物栽培容器を提案している。つまり、底部に通水孔が設けられた以外は開口部が存在しない貯水容器と、潅水シートと、土壌が収容された底部が透水性をもつ植物栽培容器とを有し、貯水容器と植物栽培容器とを潅水シート上に置き、通水孔を介して潅水シートに水を浸透させ、この潅水シートの毛管現象にて土壌に潅水を行う植物栽培容器である。この提案により、毛管現象による潅水を行いながら、土壌水分量を一定に保ち、貯水容器内からの吸水量の計量を容易とし、かつ衛生を確保できるとともに、水面からの蒸発を防ぐことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-193928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通水孔が給水容器の底面にあっても、給水用の開口部が上部にあった場合、通水孔を手のひらで押えることなどにより漏水を防止しなければならず、面倒な作業となる。
【0006】
また、プランターのような栽培容器にて、上述の提案のような植物栽培容器を利用する場合、土壌中に貯水容器を収容できるよう空間を設ける必要がある。
【0007】
さらに、日射を受けると潅水シート上にアオコが発生して、潅水シートの水分保有性能が低下し、送水量が減少することがある。
【0008】
加えて、日中の直射日光等を受けることにより貯水容器内の空気が熱膨張し、その空気圧が平衡状態より高まることから、植物の必要とする吸水量よりも多めの給水が必要となることがある。
【0009】
また、潅水シートを経由して送水する際に、貯水容器からの距離が大きくなると、水量が不足することがある。
【0010】
さらに、装置を露地で使用する場合、雨水が装置内に溜まり、土壌水分量が過多となることがある。
【0011】
本発明の目的は、これらの課題を解決した植物栽培装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0013】
<1> 下層から順に(A)砂層と(B)栽培用土壌の層との二層からなる土壌が収容された植物栽培容器と、上方から前記(B)を貫通して前記(A)に挿入された潅水装置と、を有し、前記潅水装置は、底部に通水孔が設けられた貯水容器と、この貯水容器の前記土壌内への収容空間を確保する容器ホルダーと、断熱塗料で塗装されて前記容器ホルダーの上面を覆うように設けられる遮光断熱カバーと、前記貯水容器の底面に敷かれた潅水用不織布と、この潅水用不織布を張って前記貯水容器の底部に密着させる布ホルダーと、を備え、前記貯水容器は、底部に形成された給水用開口部と、この給水用開口部を給水時以外は塞ぐ栓とが設けられ、かつ、前記植物栽培容器は、底部に、前記潅水用不織布の高さ位置と同じ深さまで形成された雨水排水孔が設けられることを特徴とする植物栽培装置である。
【0014】
<2> 下層から順に(A)砂層と(B)栽培用土壌の層との二層からなる土壌が収容された植物栽培容器と、上方から前記(B)を貫通して前記(A)に挿入された潅水装置と、を有し、前記潅水装置は、底部に通水孔が設けられた貯水容器と、この貯水容器の前記土壌内への収容空間を確保する容器ホルダーと、断熱塗料で塗装されて前記容器ホルダーの上面を覆うように設けられる遮光断熱カバーと、前記貯水容器の底面に敷かれた潅水用不織布と、この潅水用不織布を張って前記貯水容器の底部に密着させる布ホルダーと、を備え、さらに、前記貯水容器内に挿入される水位計測装置と、前記貯水容器と接続された給水タンクと、前記貯水容器外部に取り付けられた脱気バルブと、前記貯水容器と前記給水タンクとの間に取り付けられた給水バルブと、前記貯水容器内部に取り付けられた通水孔バルブと、を備え、前記水位計測装置により計測された水位の変化により前記貯水容器に給水が必要となった場合には、前記通水孔バルブを閉じる一方、前記脱気バルブを開け、さらに前記給水バルブを開けて給水を可能とし、給水を止めるには、前記給水バルブを閉じ、さらに前記脱気バルブを閉じる一方、前記通水孔バルブを開けることにより、自動的に給水を行い、かつ、前記植物栽培容器は、底部に、前記潅水用不織布の高さ位置と同じ深さまで形成された雨水排水孔が設けられることを特徴とする植物栽培装置である。
【0015】
<3> 前記水位計測装置は、前記土壌への潅水により減少した水量を、栽培される植物の吸水量と捉え、その栽培される植物と同種の植物を同様の環境下で栽培する際に、予め前記吸水量分の水を、前記給水タンクより給水する<2>に記載の植物栽培装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の植物栽培装置の第1の態様では、底部に給水用開口部が設けられるので、漏水を防止することができる。また、容器ホルダーを備えるので、土壌中に貯水容器を収容する空間を確保できる。さらに、容器ホルダーの上面を覆うように遮光断熱カバーを備えるので、容器ホルダーの上部からの日射を防ぐことができる。加えて、遮光断熱カバーは断熱塗料で塗装されるので、貯水容器内の空気の熱膨張を防ぐことができる。また、潅水用不織布を張って貯水容器の底部に密着させる布ホルダーを備えるので、潅水の流れの抵抗を低下させるとともに、潅水流路の断面積を大きく拡げられる。さらに、植物栽培容器の底部に、潅水用不織布の位置と同じ高さまでの深さに形成された雨水排水孔が設けられるので、植物栽培装置内に入った雨水が雨水排水孔から流出し、潅水用不織布の水分を通常の状態に維持できる。
【0017】
本発明の植物栽培装置の第2の態様では、水位計測装置により計測された水位の変化により自動的に給水を行えるので、貯水容器の栓や布ホルダーがなくても、漏水や潅水の流れの抵抗の懸念せずに効率的な潅水が可能となる。また、貯水容器の栓以外は第1の態様と同じ部材を備えるため、これらの部材により第1の態様と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の形態の植物栽培装置の構成図である。
図2図2は、本発明の第2の形態の植物栽培装置の構成図である。
図3図3は、本発明の植物栽培装置を用いた際の土壌のマトリックポテンシャルと実測給水量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[第1の形態]
図1は、本発明の第1の形態の植物栽培装置の構成図である。図1に示すように、本発明の第1の形態の植物栽培装置1Aは、植物栽培容器2と、潅水装置3とからなる。
【0021】
植物栽培容器2は、下層の砂層からなる土壌Aと、上層の栽培用土壌からなる土壌Bとの二層からなる土壌が収容され、この土壌内に栽培される植物(栽培植物)が植えられる。栽培用土壌は、栽培対象の植物の種類に応じて適宜選択すればよいが、一般には、植物が生育し易いよう、適度な養分を含み、かつ適度な保水性を有する土壌が好ましく、たとえば培養土等の肥料を含んだ土が好適に用いられる。また、植物栽培容器2としては、たとえば、植木鉢、プランター等の植物の栽培容器として一般的に知られている、透水性を有し、根の侵入を防止することが可能な容器であれば、特に制限はない。
【0022】
潅水装置3は、貯水容器4と、容器ホルダー5と、遮光断熱カバー6と、潅水用不織布7と、布ホルダー8とを備えている。
【0023】
貯水容器4は、ボトル状の容器であり(図中では「水ボトル」と称している。」、底部に通水孔9が設けられ、この通水孔9を介して潅水用不織布7に通水するようになっている。これにより、貯水容器4は、内部に水や養液を入れた後は、通水孔以外は開口部が存在しないように、蓋により密閉される。なお、通水孔9の位置、形状および大きさは、特開2021-193928号公報の段落[0029]-[0032]に記載したように、所定の条件を満たすように形成したり、容器の形状に合わせて、2~7mm程度の大きさにしたり、楕円形状に形成することが好ましい。
【0024】
また、底部、つまり通水孔9が設けられたのと同じ側に、給水用開口部10が形成され、この給水用開口部10は、給水時以外は栓11により塞がれている。このように、貯水容器4は、通水孔9と同じ側に給水用開口部10と栓11が設けられるので、貯水容器4に給水する際には、栓11を外せば、その状態で給水を行うことができ、漏水が起こらない。そして、貯水容器4が満水となったことを確認したのであれば、栓11を閉めればよい。これにより、貯水容器4は、給水した水を無駄なく利用できる。
【0025】
なお、貯水容器4は、内部の水等の残量を目視で把握し易いように、一部または全部が透明であることが好ましく、目盛りを付すと、精確に計量できるので、より好ましい。このような透明の容器としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレートからなり、いわゆるPETボトルと呼ばれる市販の飲料容器の使用済みのものが、敢えて購入する必要がないので好適に用いることができる。
【0026】
容器ホルダー5(図中では「ボトルホルダー」と称している。)は、土壌Bを貫通し、土壌Aに挿入されるように設けられており、少なくとも上面に開口が形成され、内部に貯水容器4を収容される空間が確保され、ここに貯水容器4が収容されている。この容器ホルダー5の形状は、貯水容器4の角の有無に関わらず、貯水容器4の収容空間を確保し易いことから、円筒状であることが好ましい。
【0027】
遮光断熱カバー6は、容器ホルダー5の上端に、その上面を覆うように設けられている。この断熱カバー6は、断熱塗料で塗装されている。断熱塗料としては、特に制限はなく、たとえば、セラミック系、アクリルシリコン系、光安定剤や紫外線吸収剤が添加されたもの等、一般に市販されている塗料から適宜選択すればよい。中でも、貯水容器4に直射日光が当たることを防止できれば足りる一方、栽培する植物への悪影響を防ぐ必要があることから、安価かつ安全性の高い塗料を、好適に用いることができる。また、遮光断熱カバー6の形状は、容器ホルダー5にムラなく被せられるように、容器ホルダー5の形状に合わせることが好ましく、円筒状に形成することが好適である。
【0028】
潅水用不織布7は、貯水容器4の底面に敷かれている。また、布ホルダー8は、土壌A上に、容器ホルダー5底面を覆うように設けられており、この布ホルダー8により、潅水用不織布7が、引っ張られた状態で保持され、貯水容器4の底部に密着するようになっている。なお、潅水用不織布7としては、適切な毛管作用があれば特に制限はなく、一般に流通する不織布から適宜選択すればよい。
【0029】
潅水用不織布7は、毛管作用により、貯水容器4からの水流をON・OFFする役割と、水を土壌に搬送する役割を持つ。栽培植物の吸水量が少ない場合は、この役割に特段の問題はない。しかし、1日あたりの吸水量が2Lを超えるような場合、栽培植物の吸水量が不足する事態が生じ得る。その際に、潅水用不織布7において毛管作用が断絶する懸念がある。特に、梅雨時などの日射が急増するような場合に、その断絶は起こりやすい。この毛管作用の断絶が、発生した日の翌朝まで続く場合、灌水ができなくなる。この懸念を解消するため、貯水容器-潅水用不織布-土壌Aの通水経路とした上で、貯水容器4の底に密着するよう潅水用不織布7を張った布ホルダー8を設けたのである。
【0030】
貯水容器4から通水された水は、潅水用不織布7を透過し、直下に敷き詰めた好ましくは1cm程度の土壌Aを経由して、土壌Bに毛管浸透する。この毛管浸透は、布ホルダー8を設けることにより、貯水容器-潅水用不織布-土壌Aの通水経路において、植物の吸水量の増減に十分に対応できることが判明した。
【0031】
より詳しくは、布ホルダー8を設けたことにより、潅水用不織布のみによる送水方法に比べ、潅水流れの抵抗を低下させるとともに、潅水流路の断面積を十倍以上に改善する結果が得られた。
【0032】
一方、植物栽培容器2は、その底面より、潅水装置3が潅水用不織布7を備える高さ位置Hと同じ深さまで、雨水排水孔12が形成されている。これにより、容器内に入った雨水は、土壌Bを経て雨水排水孔から流出する。したがって、常に潅水用不織布7の水分状態は、通常状態、つまり水分量過多でない適切な状態を維持できる。そのため、本発明の植物栽培装置は、露地において利用する場合でも、降雨の影響を受けない場所と同様の役割を果たせることになる。
【0033】
[第2の形態]
図2は、本発明の第2の形態の植物栽培装置の構成図である。第2の形態の植物栽培装置1Bは、第1の形態の植物栽培装置1Aに加えて、潅水装置3が、さらに、水位計測装置13と、給水タンク14と、脱気バルブ15と、給水バルブ16と、通水孔バルブ17とを備えている。なお、それ以外の他の構成は、通水孔バルブ17によって栓が不要となったことを除けば、第1の形態と同様であるため、図中に同じ番号を付して説明は省略する。
【0034】
より詳しくは、水位計測装置13は、貯水容器4内に挿入されており、給水タンク14は、貯水容器4と接続されている。また、脱気バルブ15は、貯水容器4の外側上方に取り付けられており、給水バルブ16は、貯水容器4と給水タンク14との間に取り付けられており、通水孔バルブ17は、貯水容器4の内底面近く、つまり通水孔に近い位置に取り付けられている。
【0035】
この構成により、植物栽培装置1Bでは、水位計測装置13により、常時、貯水容器4の水位を計測することができる。そして、水位計測装置13により計測された水位の変化により、貯水容器4に給水が必要となった場合は、次の操作手順をとる。つまり、まず、通水孔バルブ17を閉じ、続いて脱気バルブ15を開け、その後、給水バルブ16を開ける。これにより、給水タンク14から貯水容器4への給水が可能となる。
【0036】
一方、給水タンク14からの給水を止めるには、この逆の操作手順をとる。つまり、まず、給水バルブ16を閉じ、続いて脱気バルブ15を閉じ、その後、通水孔バルブ17を閉じる。これにより、通常の潅水動作の状態に戻すことができる。
【0037】
この給水を行う時間の間隔は、貯水容器4の容量や栽培植物の吸水量によって決まる。また、バイオ系液肥などの液肥を利用する場合は、貯水容器4内の液肥を、最長でも一日で使い切るように、貯水容器4の容量の設計ないしは選定を行う。
【0038】
このように、植物栽培装置1Bは、水位計測装置13により計測された水位の変化により、各バルブを開閉制御するため、給水タンク14から貯水容器4へ自動的な給水が可能となる。
【0039】
また、水位計測装置13では、土壌への潅水により減少した水量を、栽培植物の吸水量と捉え、その栽培される植物と同種の植物を同様の環境下で栽培する際に、予め前記吸水量分の水を、給水タンクより給水するようにしてもよい。
【0040】
理論上、土壌水分量は、土壌微粒子の孔隙で生じる毛管力により、一定の保水量に維持されている。この土壌水分量は、土壌を構成する砂、シルト、粘土などの成分や含有する有機物などによって決まる。栽培植物の吸水によって土壌が乾燥すると、土壌に発生する負圧が駆動力となって水が吸い上げられ、当初の水分の保水状態に戻るため、潅水動作は停止する。その際の潅水量は時間の関数となり、植物の吸水特性と概ね同等となる。したがって、このデータを潅水制御のための信号に利用すれば、同一環境にある同一植物に対して、最適な潅水制御を行うことが可能となる。これにより、パイロット植物の吸水特性と同期した潅水制御が実現できる。
【0041】
たとえば、図3に示すグラフでは、本発明の植物栽培装置1Bにて、栽培植物Pとして大玉トマトを栽培した場合における、実測給水量と、その際の上述の理論に基づき得られた土壌のマトリックポテンシャルのデータ、つまり要求水量との経時変化を比較している。なお、グラフでは、給水量をml/min、土壌のマトリックポテンシャルの値を-kPaで、いずれも縦軸に、測定時刻を横軸に、それぞれ示してある。
【0042】
図3の結果から、理論に基づく数値である土壌のマトリックポテンシャルの値の増減パターンと、給水量の増減パターンが良く一致していることが判る。
【0043】
そのため、この増減パターンが計測された大玉トマトをパイロット植物として、その栽培時の給水量を、パイロット植物の吸水量と捉え、同種の植物を同様の環境下で栽培する際の給水量として、予め決定することができる。
【0044】
この手法の利点は、環境負荷と栽培成果の両面から評価できる。環境負荷としては、過不足のない潅水が行われるため、地下浸透が殆ど抑制され、窒素やリン酸による環境汚染を防止できる。栽培成果としては、栽培植物の必要とする最適な潅水が行われるため、栽培植物は水ストレスから解放され、生長が促進されるとともに、収量の増加および良品率の向上が図られる。
【0045】
植物の土壌栽培では、何時どの程度の量を潅水するかは、土壌水分、気温、湿度、日射量、植物の葉面積などの各種データに基づき決定される。これらは、物理法則に基づいて求められ、物理的手法と言える。これに対し、本発明の植物栽培装置の場合は、栽培植物が何時どの程度の水を必要としているかを、パイロット植物のデータから特定でき、植物による植物のための潅水が行える。つまり、いわゆる「植物応答法」や「スピーキング・プラント(Speaking Plant)アプローチ」の潅水が実現できる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明したが、本発明の植物栽培装置は、上記実施の形態に限定されず、その範囲内で想定されるあらゆる技術的思想を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、場所を問わず効率的な潅水が可能なため、室内、ベランダ、屋外などで潅水シートの毛管現象により潅水を行って植物を栽培する際に、広く用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1A,1B 植物栽培装置
2 植物栽培容器
3 潅水装置
4 貯水容器(水ボトル)
5 容器ホルダー(ボトルホルダー)
6 遮光断熱カバー
7 潅水用不織布
8 布ホルダー
9 通水孔
10 給水用開口部
11 栓
12 雨水排水孔
13 水位計測装置
14 給水タンク
15 脱気バルブ
16 給水バルブ
17 通水孔バルブ
H 潅水用不織布の位置の高さ
図1
図2
図3