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特開2024-150874アンモニア製造用触媒の製造方法、アンモニアの製造方法及び脱硝方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150874
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】アンモニア製造用触媒の製造方法、アンモニアの製造方法及び脱硝方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/66 20060101AFI20241017BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20241017BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20241017BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B01J23/66 M
C01C1/04 E
B01J37/02 101D
B01J37/02 101C
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063892
(22)【出願日】2023-04-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源環境を実現」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】岩本 正和
(72)【発明者】
【氏名】松方 正彦
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC01
4D148AC02
4D148AC04
4D148AC09
4D148AC10
4D148BA07X
4D148BA11Y
4D148BA16Y
4D148BA18X
4D148BA21Y
4D148BA22Y
4D148BA23Y
4D148BA34X
4D148BA38Y
4D148BA41X
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC38A
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169CB82
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC18Y
4G169EC22Y
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB30
4G169FB31
4G169FB46
4G169FC10
(57)【要約】
【課題】NTA反応に適用可能な、触媒活性の高いアンモニア製造用触媒の製造方法、並びにかかるアンモニア製造用触媒の製造方法を用いたアンモニアの製造方法及び脱硝方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、担体であるTiOへの金属の担持をアルコール中で行うようにしているので、アルコールが還元剤として作用して、還元されて担持される金属は微粒子となり、その結果、担持される金属の表面積が増大し、従来の含浸法で製造した触媒と比較して、触媒活性が高く、NH収率が高い触媒を製造する。本発明に係るアンモニアの製造方法は、前記のアンモニア製造用触媒を用いているので、酸素及び水蒸気共存下で高い収率でNHに転換する、NOと還元剤からNHを製造するアンモニア製造方法を提供する。本発明に係る脱硝方法は、NTA反応を用いたNH-SCR脱硝プロセスが効率よく実施される。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に金属を担持させてなり、酸素及び水(水蒸気を含む。)の共存下でNO及び還元剤からアンモニアを製造するためのアンモニア製造用触媒の製造方法であって、
アルコール中で、TiOからなる担体に金属を担持させることを特徴とするアンモニア製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記担体に希土類元素を担持させた後に、前記金属を担持させることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記金属がAgであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンモニア製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンモニア製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記希土類元素がNd(ネオジム)であることを特徴とする請求項2に記載のアンモニア製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
酸素及び水(水蒸気を含む。)の共存下でNOと還元剤を含む混合ガスに、
前記請求項1または前記請求項2に記載のアンモニア製造用触媒の製造方法で得られたアンモニア製造用触媒を接触させることを特徴とするアンモニアの製造方法。
【請求項7】
前記還元剤がC(プロピレン)であることを特徴とする請求項6に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項8】
前記接触を250~450℃の温度で行うことを特徴とする請求項6に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項9】
NOと、酸素及び水(水蒸気を含む。)が共存する排ガスに還元剤を混合させた混合ガスに、前記請求項1または前記請求項2に記載のアンモニア製造用触媒の製造方法で得られたアンモニア製造用触媒を接触させてアンモニアを製造する第1工程と、
前記第1工程の残存ガスと、還元剤となる前記第1工程で製造されたアンモニアを混合して残りのNOを還元する第2工程と、
を含むことを特徴とする脱硝方法。
【請求項10】
前記排ガスに混合される還元剤がC(プロピレン)であることを特徴とする請求項9に記載の脱硝方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア製造用触媒の製造方法、アンモニアの製造方法及び脱硝方法に関する。さらに詳しくは、NO to Ammonia(NTA)反応に適用可能なアンモニア製造用触媒の製造方法、アンモニアの製造方法及び脱硝方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関などの燃焼機関から排出される排ガスには、窒素酸化物(NO)等の有害物質が含まれ、これら有害物質を除去する必要がある。排ガスに含まれる窒素酸化物(NO)を除去する方法としては、アンモニア(NH)を還元剤とした選択的接触還元方法(Selective Catalytic Reduction:SCR)が広く用いられている。
【0003】
かかるSCRでは、還元剤であるアンモニアの排気管中への噴射によって窒素酸化物の削減を可能とする。よって、SCRの実施にあたっては、かかるアンモニアを効率的に製造することが重要となる。
【0004】
アンモニアの製造方法として、最も広く使用されている技術として、ハーバー・ボッシュ法が挙げられる。ハーバー・ボッシュ法は、原料としての窒素及び水素を、鉄を主成分とした触媒と高温高圧下で接触させることでアンモニアを製造する方法である。
【0005】
工業的に重要なプロセスの1つとして知られているハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造は、アンモニア生成反応が平衡反応であり、熱力学的には高圧、低温条件下での反応が好ましいとされる。しかし、触媒の反応速度を確保するために、一般に400~600℃の高温、10~20MPaの高圧条件を必要とし、加えて、高純度原料を製造するにも多大なエネルギーを要する。
【0006】
このように多大なエネルギーを要するハーバー・ボッシュ法以外の合成方法として、種々の担体に金属を担持した担持金属触媒を用いた合成方法が検討されている。例えば、内燃機関の希薄排ガス中に含有されている窒素酸化物を還元触媒での選択的接触還元によってアンモニアを用いて還元し、その際排ガス中に含有されている一酸化窒素の一部を二酸化窒素に酸化し、その後に排ガスとアンモニアを一緒に還元触媒上に導く方法について記載がある(例えば、特許文献1等を参照。)。
【0007】
また、非特許文献1には、NH-SCR脱硝プロセスに関し、高温過渡条件下でのNO浄化率を良好とするためにH型モルデナイトゼオライト吸着材を用いる技術について記載されている。
【0008】
非特許文献2には、ペロブスカイト(La1-xSrxCoO)をアルミナ担持体に
支持した触媒にパラジウム等の元素を添加することでNOの吸蔵や還元に効果を示す技
術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-61470号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sakai, M.; Hamaguchi, T.; Tanaka, T. Improving high-temperature Nox conversion in the combined nsr-sCR system whith an scr catalyst mixed whith an NH3 adsorbent. Appl. Catal., A: General 2019, 582, 117105.
【非特許文献2】Onrubia-Calvo, J. A.; Pereda-Ayo, b.; De-La-Torre, U.; Gonzalez-Velasco, J. r. Strontium doping and impregnation onto alumina improve the NOx storage and reduction capacity of LaCoO3 perovskites. Catal. Today 2019, 333, 208-218.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、排ガス雰囲気(酸素(O)及び水蒸気共存下。)で窒素酸化物からアンモニアを高収率で生成するアンモニア製造用触媒について、適当なものが提供されていないのが実情であった。かかるアンモニア製造用触媒の開発は、現在は生成されるアンモニアが低収率であるがゆえ合理的な回収等が一般には行われていない、燃焼排ガス中に含まれるNO等の窒素酸化物を回収して、NHに転換、資源化する、NO to Ammonia(NTA)反応により、排ガス雰囲気で窒素酸化物からアンモニアを高収率で生成できれば、SCRへの一助となる。
【0012】
かかるNTA反応は、種々の燃焼排ガス中に含まれる一酸化窒素(NO)を炭化水素等の水素源と反応させて効率的にアンモニア(NH)に転換しようとするものである。NTA反応の原料となる一酸化炭素(NO)は、Nと比較してエネルギー的に高い位置にあり、NHへの変換に要するエネルギーは、ハーバー・ボッシュ法よりもはるかに小さくなる可能性がある。
【0013】
すなわち、NTA反応は、効率化が必要とされているハーバー・ボッシュ法を部分的に代替可能であり、エネルギー消費量の少ない窒素循環サイクルを実施し、CO排出量削減に貢献できることになると考えられる。加えて、前記した技術はいずれも、間欠的にアンモニアを生成する方法である一方、NTAないしはSCRの実施に際して連続的にアンモニアを供給できる技術が提供されれば理想的である。
【0014】
本発明は、前記に鑑みてなされたものであって、NTA反応に適用可能な、触媒活性の高いアンモニア製造用触媒の製造方法、並びにかかるアンモニア製造用触媒の製造方法を用いたアンモニアの製造方法及び脱硝方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、
担体に金属を担持させてなり、酸素及び水(水蒸気を含む。)の共存下でNO及び還元剤からアンモニアを製造するためのアンモニア製造用触媒の製造方法であって、
アルコール中で、TiOからなる担体に金属を担持させることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、前記した本発明において、前記担体に希土類元素を担持させた後に、前記金属を担持させることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、前記した本発明において、前記金属がAgであることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、前記した本発明において、前記アルコールがエタノールであることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、前記した本発明において、前記希土類元素がNd(ネオジム)であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るアンモニアの製造方法は、
酸素及び水(水蒸気を含む。)の共存下でNOと還元剤を含む混合ガスに、
前記した本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法で得られたアンモニア製造用触媒を接触させることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るアンモニアの製造方法は、前記した本発明において、前記還元剤がC(プロピレン)であることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るアンモニアの製造方法は、前記した本発明において、前記接触を250~450℃の温度で行うことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る脱硝方法は、
NOと、酸素及び水(水蒸気を含む。)が共存する排ガスに還元剤を混合させた混合ガスに、前記本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法で得られたアンモニア製造用触媒を接触させてアンモニアを製造する第1工程と、
前記第1工程の残存ガスと、還元剤となる前記第1工程で製造されたアンモニアを混合して残りのNOを還元する第2工程と、
を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明に係る脱硝方法は、前記した本発明において、前記排ガスに混合される還元剤がC(プロピレン)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、担体であるTiOへの金属の担持をアルコール中で行うようにしているので、アルコールが還元剤として作用して、還元されて担持される金属は微粒子となり、その結果、担持される金属の表面積が増大し、従来の含浸法で製造した触媒と比較して、触媒活性が高く、NH収率が高い触媒を製造することができる。
【0026】
本発明に係るアンモニアの製造方法は、前記した本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法で得られたアンモニア製造用触媒を用いているので、酸素及び水蒸気共存下(混合ガスから酸素を除去する必要がない。)で高い収率でNHに転換することを可能とする、NOと還元剤からNHを製造するアンモニア製造方法を提供することができる。
【0027】
本発明に係る脱硝方法は、前記した本発明に係るアンモニア製造用触媒を用いて、酸素及び水蒸気が共存する排ガス中のNOから高収率でアンモニアを製造し(第1工程)、残存ガス中のNOを第1工程で得られたアンモニアを還元剤としてさらに除去するようにしているので(第2工程)、連続的にアンモニアが供給され、NTA反応を用いたNH-SCR脱硝プロセスが効率よく実施されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】使用した金属の活性結果を示した図である。
図2】Ag、Ni、Zn、Sn、Bi及びInの活性曲線を示した図である。
図3】含浸法で得られたアンモニア製造用触媒の触媒活性を確認した図である。
図4】Agの担持量を2.0質量%としたアンモニア製造用触媒の触媒活性を確認した図である。
図5】Agの担持量を2.0質量%としたアンモニア製造用触媒の触媒活性を確認した図である。
図6】アンモニア製造用触媒を400℃で連続使用した場合の触媒活性の変化を示した図である。
図7】Cの分圧を変化させた場合の結果を示した図である。
図8】HOの分圧を変化させた場合の結果を示した図である。
図9】アンモニア製造用触媒のAg担持量及び繰り返し使用と触媒活性との関係を示した図である。
図10】Ndを担持したTiOの細径分布を示した図である。
図11】Ndを担持したアンモニア製造用触媒の触媒活性を確認した図である。
図12】Ndをあらかじめ担持したアンモニア製造用触媒のAg担持量及び繰り返し使用と触媒活性との関係を示した図である。
図13】TiOと2.0Ag/TiO上でのNH及びCの燃焼反応を確認した図である。
図14】2.0Ag/TiOと2.0AgET/TiO2触媒上でのC燃焼活性とNH3燃焼活性を確認した図である
図15】2.0AgET/TiO触媒の繰り返し使用によるC燃焼活性とNH燃焼活性の変化を測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一態様について説明する。
【0030】
(I)アンモニア製造用触媒の製造方法:
以下、本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法について説明する。
本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法は、
担体に金属を担持させてなり、酸素及び水(水蒸気を含む。)の共存下でNO及び還元剤からアンモニアを製造するためのアンモニア製造用触媒の製造方法であって、
アルコール中で、TiOからなる担体に金属を担持させること、
を基本構成として含む。
【0031】
なお、本明細書では、比較的高い頻度で載せられる化合物や元素等を化学式で簡略化して記載する場合がある(例えば、アンモニアをNH、プロピレンをC、水をHO、酸素をO、酸化チタン(二酸化チタン)をTiO、銀をAg、ネオジムをNd、等々としている。)。
【0032】
本発明に係るアンモニア製造用触媒(以下、単に「触媒」とする場合もある。)の創造方法にあっては、担体に金属を担持させるものである。担体に担持する金属として使用されるものとしては、特に制限はないが、例えば、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Zn(亜鉛)、Sn(すず(錫))、Bi(ビスマス)、In(インジウム)、等を使用可能であり、この中で、アンモニア製造用触媒として高い触媒活性を期待できるという点で、Ag(銀)を使用することが好ましい。
【0033】
担体としては、本発明にあっては、TiO(酸化チタン(二酸化チタン))を使用する。金属を担持可能な担体は、アンモニアの製造について高い触媒活性が期待でき、また、容易に入手可能である等の理由で、TIOを使用するようにしている。
【0034】
使用するTiOの結晶構造としては、ルチル型TiO、アナターゼ型TiO、ブロッカイト型TiO等があるが、活性温度範囲が広く、また、高いSVでも高い触媒活性を維持することができる等の理由で、ルチル型TiOを使用することが好ましい。なお、ルチル型TiOやアナターゼ型TiOは、触媒学会等でより容易に入手可能であり、例えば、サンプル番号として、JRC-TIO-16(ルチル型TiO)、JRC-TIO-17(アナターゼ型TiO)等を使用することができる。
【0035】
TiOからなる担体に金属を担持させるには、本発明にあっては、担持をアルコール中で行うようにする。このようにTiOへの金属の担持をアルコール中で行った場合、アルコールは還元剤として作用する。
【0036】
アルコールとしては、還元剤として機能することができるものであれば特に制限はなく、例えば、C1~C5のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、t-ブタノール、ブタノール、オクタノール、ペンタノール(1-ペンタノールや2-ペンタノール)、等を使用することができるが、人畜無害であり、取り扱いが容易等という点で、エタノールを使用することが好ましい。
【0037】
エタノール等のアルコールを用いて、担体に金属を担持させるには、まず、金属の硝酸塩や酢酸塩、水酸化物等の金属を含む化合物(金属が銀であれば、硝酸銀等。)をアルコールに溶解させて溶液とする(A液とする。)。
【0038】
一方、担体であるTiOを加熱したアルコール(60~80℃とすることが好ましいが、特に限定されない。)に分散させた懸濁液を調製し(B液とする。)、B液中にA液を滴下することにより、水溶液中に金属微粒子(金属銀微粒子等。)が生成するとともに、かかる金属微粒子がTiO上に担持される。
【0039】
金属がTiOに担持されたら、加熱状態を維持し、アルコールを蒸発させる。アルコールが完全に蒸発されたら、生成物を、例えば、80~120℃で4~24時間乾燥するようにすればよい。
【0040】
金属の担持量(質量%)は、金属を含む化合物の添加量等を調整し、所望の担持量とすることができる。担持量は、特に制限はなく、概ね、触媒全体の0.55~10.0質量%とすることが好ましいが、これには限定されない。
【0041】
エタノール等のアルコールは、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)等と比較すると還元力がかなり弱い。このような還元剤を用いた場合、反応の進行はゆっくりとなるが、還元されて担持される金属は微粒子となり、その結果、担持される金属の表面積が増大し、従来の含浸法で製造した触媒と比較して、触媒活性が高く、NH収率が高い触媒が得られることになる。
【0042】
本発明のように、エタノール等のアルコールを用いて、担体に金属を担持させた触媒は、高温下(例えば、450℃を超える温度等。)での使用では、若干の活性劣化が生じる(例えば、500℃、8回の繰り返しの使用で、NH収率が93%→66%程度になる等。)。一方、本発明で得られた触媒は、例えば、450℃以下で使用することにより、活性の低下を抑制することができる、活性が安定したアンモニア製造用触媒となる。
【0043】
本発明にあっては、担体であるTiOに金属を担持する前に、希土類元素を担持させることが好ましい。希土類元素を担持した後で金属を担持することにより触媒活性が向上し、NH収率の高い触媒となることに加えて、触媒活性が安定化して、長期の使用ないし繰り返しの使用にも耐えうる(触媒活性の低下を抑制することができる。)アンモニア製造用触媒となる。
【0044】
担体に担持されたAg等の金属は触媒反応中に凝集する場合があり、その結果、高温下での使用等によっては、触媒活性が経時的に劣化して、収率が低下してしまう可能性がある。一方、あらかじめNd等の希土類元素を担持してからAg等の金属を担持すると、担体の表面積が広がるとともに表面での金属の安定性が向上する。これは、Nd等の希土類元素を担持させることによって、担体(TiO)上に大きな凹凸あるいは細孔が生じ、そこに担持されたAg等の金属粒子も動きにくくなるためと考えられる。
【0045】
使用可能な希土類元素としては、例えば、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)等を使用することができ、Nd(ネオジム)を使用することが好ましい。
【0046】
Nd等の希土類元素を担体であるTiOに担持させるには、特に制限はなく、従来公知の通常の含浸法、沈殿法、イオン交換法等を用いることができる。含浸法を用いる場合、溶媒として所定量の希土類金属の化合物(酸化物や酢酸塩、硝酸塩等。)を、水等の溶媒(希土類元素がNdであれば、希硝酸等。)に溶解させてC液を調製する。なお、C液は、希土類元素を含む水溶液として安定して存在すれば十分であるので、例えば、希土類元素の酢酸塩と水を組み合わせて、C液を調製してもよい。
【0047】
一方、担体であるTiOを加熱した溶媒(例えば、水等を使用することができる。温度は60~80℃とすることが好ましいが、特に限定されない。)に溶解させた懸濁液を調製し(D液とする。)、D液中にC液をゆっくりと滴下することにより、かかるNdがTiO上に担持される。
【0048】
Nd(ネオジム)等の希土類元素がTiOに担持されたら、加熱状態を維持し、溶媒(水等。)を蒸発させる。溶媒が完全に蒸発されたら、生成物を、例えば、80~120℃で4~24時間乾燥するようにすればよい。
【0049】
このようにして得られた、Nd等の希土類元素を担持したTiOに対して、アルコールを還元剤としてAg(銀)等の金属を担持させるには、TiOを、希土類元素を担持したTiOに置き換えて、前記した方法を用いて行えばよい。以上により、担体であるTiOに、あらかじめNd等の希土類元素を担持させた上、さらにAg等の金属を担持させた構成のアンモニア製造用触媒が得られることになる。
【0050】
Nd等の希土類元素の担持量(mol%)は、希土類元素を含む化合物の添加量等を調整(化合物を溶解した溶液の濃度の調整にも相当。)し、所望の担持量とすることができる。担持量は、さらに担持するAg等の金属の担持量等を勘案して適宜決定することができるが、概ね、0.5~5.0mol%とすることが好ましく、0.5~4.0molとすることがさらに好ましく、1.0~3.0molとすることが特に好ましいが、これには限定されない。
【0051】
得られた触媒は、空気中で450~600℃で4~24時間焼成することが好ましい。また、触媒は、焼成後、粉砕処理等の従来公知の処理により、粒径が0.1~5.0mm程度とすることが好ましい。
【0052】
(II)アンモニアの製造方法及び脱硝方法:
次に、本発明に係るアンモニアの製造方法及び脱硝方法について説明する。なお、本発明では、還元ガス(還元能を奏するガス状の媒体)についても「還元剤」として載せている。
【0053】
本発明に係るアンモニアの製造方法は、酸素及び水(水蒸気を含む。)の共存下でNOxと還元剤を含む混合ガスに、前記した本発明のアンモニア製造用触媒を接触させること、を基本構成として含む。
【0054】
還元剤としては、水素原子供給能を備えるものであれば特に制限はないが、炭化水素ガスを使用することが好ましく、例えば、C(CH=CH-CH)(プロピレン)、C(プロパン)、CとHの混合ガス、C(エチレン)、COH(エタノール)、等を使用することができ、燃焼性と水素供給能力のバランス等を考慮して、C(プロピレン)を使用することが好ましい。
【0055】
アンモニア製造用触媒は、本発明にあっては、O(酸素)及びHO(水(水蒸気を含む。以下、HO(水)について同じ。))の共存下で適用される。ここで、かかるOとHOが共存する混合ガスであって、還元剤が導入される混合ガスとしては、本発明としては、その1つとして、例えば、排ガス(排気ガス)等を想定している。
【0056】
排ガスには、炭素と水素を燃焼させることによって生成される化学物質が含まれ、例えば、NO(NO、NO等。)、O、CO、CO、HO、N、SO(SO、SO等。)が含まれると考えられる。
【0057】
アンモニアを製造するには、所定の温度下で、O及びHOの共存下で、NOと、C等の還元剤を含む混合ガスに前記した本発明のアンモニア製造用触媒を接触させることにより、簡便に実施することができる。
【0058】
かかる温度(触媒の反応温度となる。)は、特に制限はなく、担持させる金属の種類等により適宜決定できるが、TiOに金属としてAgを担持させた場合は、250~500℃とすることが好ましく、250~450℃とすることがさらに好ましく、250~400℃とすることが特に好ましい。
【0059】
なお、繰り返し使用する場合は、触媒活性の低下(触媒の劣化)を考慮して使用するが、本発明に係るアンモニア製造用触媒は、好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下で使用すれば触媒活性の低下が抑制できる。あるいは、前記したようにNd等の希土類元素を担持すれば触媒活性の低下を抑制できる。その場合、使用を繰り返しても触媒活性の低下が少ないので、頻繁に触媒を交換しなくとも安定した状態で運転することができ、触媒の反応系では、混合ガス(排ガス)中のNOから低コストかつ高収率でNHを生産できることになる。
【0060】
排ガスを想定した供給される混合ガスにおいて、構成する各ガスの割合(分圧)は特に制限はないが、例えば、下記の範囲とすることができる。
【0061】
(混合ガス(排ガス等)における各ガスの割合(分圧))
(酸素):0~20%
O(水(水蒸気)):0~15%
(プロピレン):0.02~2.0%
(窒素):バランス
【0062】
本発明に係るアンモニア製造用触媒を用いたアンモニアの製造は、下記の式(X)によりなされると考えられる。
(X)NO+C+13/4O→NH+3CO+3/2H
【0063】
また、排ガス等の混合ガスが、本発明に係るアンモニア製造用触媒等の触媒と接触してNHに転換される反応機構想定としては、以下の式(1)~式(5)に記載する式を考慮することができ、その、式(1)~式(5)に示す各式を合わせると 上述の反応式を導き出すことができる。なお、排ガス(混合ガス)中の水は、反応助剤となると考えられる。
(1)NO+1/2O→NO
(2)HO→H+OH
(3)NO+OH→HNO
(4)Ag+HNO→AgNO+1/2H
(5)AgNO+C+9/4O→Ag+NH+3CO+3/2H
【0064】
前記した式(反応式)に示したように、担体表面のAg等の金属の存在により、NOがNOに酸化される。例えば、NOに対する表面-OH基の反応性が小さいルチル型TiOからなる担体の場合は、共存水蒸気から担体表面にOHとHが生成し、共存水蒸気から生成するOHとNOから硝酸根を経由してNHが生成すると考えられる。一方、アナターゼ型TiOからなる担体表面の-OH基はNOとの反応性に富み、硝酸根を経由してNHが生成すると考えられる。なお、式(4)では1/2Hと記載しているが、表面格子酸素が反応に関与する場合はかかる1/2HをOHとすることができる。
【0065】
また、アンモニア製造用触媒を用いてNHを製造し、得られたNHを還元剤として用いてNH-SCR脱硝を行う(本発明に係る脱硝方法を行う)場合、
NOと、酸素及び水(水蒸気を含む。)が共存する排ガスに還元剤を混合させた混合ガスに、前記したアンモニア製造用触媒の製造方法で得られたアンモニア製造用触媒を接触させてアンモニアを製造する第1工程と、
かかる第1工程の残存ガスと、還元剤となる前記第1工程で製造されたアンモニアを混合して残りのNOを還元する第2工程と、
を基本工程として含む方法を実施すればよい。
【0066】
具体的には、以下のような流れとなる。すなわち、供給源から供給される排ガスを所望の温度に調整して、反応系に供給する。反応系にはアンモニア製造用触媒を存在させ、反応系にはC等の還元剤が供給され、排ガスと還元剤は混合された状態で、所定の温度でアンモニア製造用触媒と接触し、アンモニアが製造される(第1工程)(なお、前記した式(1)~(5)を参照。)。
【0067】
製造されたNHは、かかる第1工程の残存ガス(排ガス等とアンモニア製造用触媒とが接触されてアンモニアが製造された後で残ったガス。)を後工程の第2工程で残りのNOを還元するNH-SCR脱硝で還元剤として用いることができる。得られたアンモニアは、脱硝用反応系に供給され、NH-SCR触媒を収容した脱硝用反応系にあっては、供給された還元剤であるNHのもと、NH-SCR触媒が脱硝処理を行うことになる(第2工程)。下記の式(Y)に従いNOが除去される。
(Y)NO+NH+1/2O→N+3/2H
【0068】
なお、排ガスとアンモニア製造用触媒が接触する温度(反応温度)や、排ガスに混合される還元剤の種類等は、前記したアンモニアの製造方法のところで載せた内容を適用することができる。また、NH-SCRに使用される触媒は、例えば、活性炭、銅ゼオライト触媒等のゼオライト触媒、バナジウム-酸化チタン系触媒の酸化物触媒等を用いることができる。
【0069】
(III)発明の効果:
以上説明した本発明に係るアンモニア製造用触媒の製造方法によれば、担体であるTiOへの金属の担持をアルコール中で行うようにしているので、アルコールが還元剤として作用して、還元されて担持される金属は微粒子となり、その結果、担持される金属の表面積が増大し、従来の含浸法で製造した触媒と比較して、触媒活性が高く、NH収率が高い触媒を製造することができる。
【0070】
また、かかる本発明で得られたアンモニア製造用触媒を用いた本発明に係るアンモニアの製造方法によれば、酸素及び水蒸気共存下(混合ガスから酸素を除去する必要がない。)で連続的に高い収率でNHに転換することを可能とする、NOと還元剤からNHを製造するアンモニア製造方法を提供することができる。
【0071】
本発明に係るアンモニア製造用触媒を用いたアンモニアの製造方法では、排ガス中のNOから大気圧でNHを製造でき、かつ、エネルギー準位もNよりNOが高いことから、従来の高温高圧を必要とするハーバー・ボッシュ法よりも低エネルギーでNHを製造できる。
【0072】
一般に、Nにおける元素NとNの結合エネルギーは、941.6kJ/mol、NH3における元素NとHの結合エネルギーは、444.1kJ/molである。ハーバー・ボッシュ法にあっては、高温高圧環境において、NからNHに至るように反応させる必要がある。
【0073】
一方、NOにおける元素NとOの結合エネルギーは、626.8kJ/molである。本実施形態のアンモニア製造方法では、NOからNHに転換する前記の反応式として示すことができるので、ハーバー・ボッシュ法よりも低エネルギーでNHを製造できると考えられる。このようなNTA法はハーバー・ボッシュ法を部分的に代替可能であり、その結果、CO(二酸化炭素)の排出量削減に貢献できると期待できる。
【0074】
本発明に係る脱硝方法は、前記した本発明に係るアンモニア製造用触媒を用いて、酸素及び水蒸気が共存する排ガス中のNOから高収率でアンモニアを製造し(第1工程)、残存ガス中のNOを第1工程で得られたアンモニアを還元剤としてさらに除去するようにしているので(第2工程)、連続的にアンモニアが供給され、NTA反応を用いたNH-SCR脱硝プロセスが効率よく実施されることになる。
【0075】
なお、前記のアンモニアの製造方法や脱硝方法では、酸素及び水蒸気が共存する排ガス中のNOから、NOを濃縮することなく、1段のNOでNHを製造できるため、従来のハーバー・ボッシュ法のように高純度のNを得るための空気深冷分離装置や、Hを得るための天然ガス改質プロセスあるいは水電気分解装置が不要となる。また、工場排ガスへの脱硝プロセスに供給する還元剤のNHの輸送や貯蔵・脱硝用注入設備及びそのインフラ設備が不要となり、脱硝コストの削減に寄与すると考えられる。
【0076】
(V)実施形態の変形:
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0077】
例えば、前記した説明では、希土類元素であるNd(ネオジム)を担体であるTiOに担持させるための種々の手段を示したが、これらは一例であり、TiO2に希土類元素や金属等を担持させるために実施される従来公知の手段等を適用することができる。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例等に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
アンモニア製造用触媒の製造:
以下の方法を用いて、本発明に係るアンモニア製造用触媒を製造した。
【0080】
準備した担体:
担体であるTiO(サンプル番号 JRC-TIO-16、JRC-TIO-17)は触媒学会から入手した。ルチル型TiOであるJRC-TIO-16(堺化学工業株式会社製)は、比表面積は109m/g、Ag担持後の焼成により33~37m/gとなった。
【0081】
また、JRC-TIO-17は、Degussa社(ドイツ)製のP-25を用いた。かかるP-25は、Evonik Japan株式会社により販売され、アナターゼ型担体(約70%)+ルチル型担体(約20%)+アモルファス型担体(10%)により構成されたものである(以降、P-25を「アナターゼ型TiO」とすることもある。)。JRC-TIO-17の比表面積は、Ag担持前後によらず50m/gであった。
【0082】
TIO以外の担体や、担持させるための金属(Ag等。)やその他の化合物や試薬(エタノール等。)等は、試薬会社から特級試薬等を購入し、そのまま検討に用いた。
【0083】
製造方法(1):
担体への金属の担持(エタノール中で金属を担持する(エタノール法)):
担体をエタノール中で金属を担持させる方法を用いた。還元剤としてエタノールを用いた触媒の製造(担体への金属の担持)は以下のようにして行った。
【0084】
なお、以下では、エタノール中で担体へ金属を担持させる(エタノールを還元剤として用いて触媒を製造する。)方法を、「エタノール法」とする場合もある。なお、(2)も含め、Ag等の金属の担持量は触媒全体に対して0.7~5.0質量%となるようにし、各検討で具体的に示している。また、担持量の調整は、使用する硝酸銀等の濃度を調整することにより実施した。
【0085】
まず、硝酸銀(AgNO)を還元剤であるエタノール中に溶解させてA液とした。一方、担体であるTiOをエタノール中に懸濁させたB液をそれぞれ準備した。70~80℃に加熱したB液にA液をゆっくりと添加して、エタノール中でTiO担体にAgを担持させた。A液をすべて添加した後も加熱を持続し、エタノールをすべて蒸発させた。得られた固形物を80℃に保った乾燥機に入れ、一晩乾燥して、AgをTiOに担持させたアンモニア製造用触媒を得た。
【0086】
製造方法(2):
担体への金属の担持(あらかじめNd(ネオジム)を担持させた後、エタノール法を用いてエタノール中で担体に金属を担持させる):
担体であるTiOにあらかじめNd(ネオジム)を担持させる場合は、以下のようして行った。担体であるTiOに対して所定量(1~5mol%)(担持量は各検討で具体的に示している。)のNd(ネオジム)を通常の含浸法で担持させた。
【0087】
(i)具体的には、所定量の酸化ネオジムを希硝酸に溶解してC液とした。また、担体であるTiOを水中に懸濁させてD液とした。D液を70~80℃に加温したD液にC液をゆっくりと加えた。C液の添加終了後もD液の加温を続け、水をすべて蒸発させた。得られた固形物を80℃に保った乾燥機で一晩乾燥して生成物を得た。
【0088】
(ii)かかる生成物を(1)の担体(TiO)に置き換えて(1)を適用して、Ndをあらかじめ担持した上に、AgをTiOに担持させたアンモニア製造用触媒を得た。
【0089】
前記製造方法(1)、製造方法(2)(これらは実施例となり、これらで得られたアンモニア製造用触媒を用いた検討によるアンモニアの生成(製造)も同様。)で得られたすべての触媒の固形物は、空気中で500℃×4時間の条件で焼成した。また、焼成後、固形物を乳鉢で粉砕し、粒径が0.3~0.6mmとなるように等級分けした。なお、後記する製造方法(3)も含め、触媒の結晶構造と担持されたAgの粒子サイズは、X線回折計を用いて測定した。Brucker(米国)のD2_Phaserを測定に使用し、CuKαラインとNiフィルターを用いた。BET比表面積とBJH細孔分布は、液体窒素温度で測定されたNの吸脱着等温線を使用して決定した。
【0090】
製造方法(3):
担体への金属の担持(含浸法)):
なお、参考例として実施している、エタノール中で担体に金属を担持させない(エタノールを還元剤として利用しない。)場合の、TiOへのAgの担持は、硝酸銀(AgNO)溶液を用いた従来の含浸法によって行った。なお、Ag等の金属(予備検討(1)では他の金属等も担持させている。)の担持量は触媒全体に対して0.7~5.0質量%となるようにし(担持量は各検討で具体的に示している。)、硝酸銀溶液の濃度を調整することにより実施した。
【0091】
Agを担持する場合、それぞれの担体をAgNO水溶液に溶解し、所定のAg担持量(例えば、全体の5.0質量%)に調整した。水溶液から蒸発乾固で回収した固形物を大気中で500℃にて4時間焼成し、焼成後の固形物を乳鉢で粉砕し粒径が0.3~0.6mmに調整して銀をTiOに担持させたアンモニア製造用触媒を得た。
【0092】
また、得られた触媒は、下記のように記載している。例えば、「○○Ag/TiO」とした場合、○○はAgの担持量(質量%)である(〇〇AgET/TiOや△△Nd○○AgET/TiOとした場合の○○も同様。)。
【0093】
「〇〇AgET/TiO」とした場合、ETは、「エタノール法で得られた」触媒であることを示している(△△Nd○○AgET/TiOとした場合のETも同様。)。さらに、「△△Nd○○AgET/TiO」とした場合、△△はNdの担持量(mol%)である。なお、前記について、本明細書中や図中において、「/」を削除したり、(ET)等のように( )(かっこ書き)で載せたりしているところもある。
【0094】
(触媒活性の確認方法)
触媒活性は、一般的に使用される常圧固定床式流通系反応装置(固定床式触媒反応装置)を用いて測定した。なお、触媒活性の測定は、排ガスを想定した混合ガスをアンモニア製造用触媒に接触させて、還元剤の転化及びアンモニアの製造等を確認することができ、アンモニアの製造の実施と同視できると考えている。
【0095】
用いた石英反応管の外径と内径は、それぞれ14mm(外径)、12mm(内径)である。反応管内に外径5mmの熱電対シース管を入れ、管内に挿入した熱電対により触媒層の温度を測定した。本検討では、触媒の量を変化させて、反応中の空間速度(SV)を変化させた。
【0096】
(標準反応条件)
標準的な評価条件(標準反応条件)を以下に示す。具体的には、触媒活性は通常の常圧固定床式流通系反応装置で測定した。反応管に触媒0.6mLを充填させ、反応管の上部から任意の濃度(標準反応条件の場合は、下記の濃度)に調整したNO、C、O、HO及びN(バランス)の混合ガスを反応管上部から100mL/分(空間速度SV=10000/時間)で流した。
【0097】
なお、SVは空間速度(Spase Velocity)を示し、SV[/時間]=供給ガス流量[mL/時間]/触媒量[mL]で計算される。
【0098】
反応管出口ガスは、2.4mガスセルを備えたフーリエ変換赤外分光計(FT-IR)を用いて、反応管出口ガス中のNH濃度、C濃度を測定した(FT-IRでは、NHとCの吸光度からNH生成速度とC燃焼速度を測定した。)。
【0099】
なお、特に断らない限り、触媒活性は高温から冷却しながら測定した。各反応温度に1時間保持し3分ごとに触媒活性を測定した。触媒活性の値には後半30分間の平均値を用いた。
【0100】
アンモニア収率(YNH3)[%]、プロピレンの転化率(C転化率(XC3H6))[%]は反応管入口及び出口のNO濃度、C濃度を用いて以下のように計算した(順に式(I)及び式(II)。また、還元剤の有効利用率ε[%]は下記式(III)で計算した。これはCの1分子が何分子のNHを生成するかを示す指標となる。
【0101】
(標準反応条件)
触媒量:0.6mL
触媒重量:0.3~0.5g(担持した酸化物の比重による。)
反応ガス全流量:100mL/分
(空間速度(SV):10000/時間)
ガス分圧:0.10%NO
0.50%C
10%O
10%H
バランスN
【0102】
【数1】
【0103】
予備検討(1):
最適な金属の確認(Agの選定):
図1に示した22種の金属(元素)をTiO上に担持して、NOをNHに転換する反応(NO to Ammonia:NTA)の触媒活性の程度を確認した。なお、適する金属の確認であるので、担体への金属の担持は含浸法(前記の製造方法(3))を用いて行った。なお、本実施例における触媒活性については、存在するNO等のNOをアンモニアに転換する(NO to Ammonia(NTA))ものであり、NTAに関する活性(NTA活性)と同視でき、単に「触媒活性」と記載している。
【0104】
含浸法を用いてのTiOへの金属の担持に際し、Agの担持は前記製造方法(3)のとおりであり、Ag以外の金属については、対象となる金属の硝酸塩等を用いて、製造方法(3)に従って実施した。
【0105】
担持量は全て金属として、2質量%とした。なお、実際には金属酸化物として担持されているものも多いと考えられるが、担持量が極めて少ない状態では、酸化物組成式をXRDによって測定することが困難であったので、すべて金属として担持量を算出した。また、評価は標準反応条件で行った。
【0106】
図1は、使用した金属の活性結果を示した図である。丸(〇)で囲んでいる6種の金属以外はNH収率が一桁にとどまり、これらの金属の触媒活性は小さかった。300~500℃の温度範囲では、Ag、Ni、Zn、Sn、Bi及びInの6種の金属が、比較的高い活性を示した。
【0107】
図2は、Ag、Ni、Zn、Sn、Bi及びInの活性曲線を示した図である。図2に示すように、活性の順序はAg>Ni>Zn>Sn>Bi>Inとなった。なお、図1に示すように、高い活性を示す金属種が周期律表の右半分に集まっていること、例えばNiとZnの間にあるCuは活性が低かったが、Cuの下のAgは高い活性であること等が明らかである。
【0108】
予備検討(2):
担持させる金属をAgとした場合(Ag触媒)における担体の効果:
前記の検討により、Agが活性成分(担持させる金属)として最も有効であることが確認できた。本検討では、Agの担体としてTiOが最適かどうかを確認した。
【0109】
担体として、TiO(ルチル型TiOとアナターゼ型TiO)のほか、ZrO、CeO、ZnO、Y、Al、MgOを用意した。これらの担体にAgを、担持量が触媒全体に対して2~5質量%となるように担持させた。また、担体としてTiOが最適かどうかの確認であるので、担体への金属の担持は含浸法(前記の製造方法(3))を用いて行った。
【0110】
まず、標準反応条件に対して、水(水蒸気)を存在させない条件での活性を確認したところ、アナターゼ型TiO(28%)>ZrO(18%)>ルチル型TiO(10%)CeO(8%)>ZnO(5%)>Y(4%)>Al(2%)>MgO(1%)という結果であった。なお、担体の後ろの(〇〇%)は、NHの最大収率(%)を示している。この結果より、塩基性~中性の担体が良好なNH生成活性を与えることが確認できた。なお、アナターゼ型TiOの活性は、繰り返しの使用により徐々に低下した。
【0111】
また、標準反応条件(10%の水(HO)の存在下で、SV=10000/時間としている。)では、Ag/アナターゼ型TiOとAg/ルチル型TiOのNHの最大収率はほとんど同じであったが、Ag/ルチル型TiOの活性温度範囲はAg/アナターゼ型TiOより広かった。また、Ag/アナターゼ型TiOと比較して、Ag/ルチル型TiOは高いSVでも高い触媒活性を維持する等の相違があることに着目し、以降の検討はAg/ルチル型TiOを用いることとした(なお、以下、特に記さない限り、使用したTiOはルチル型TiOである。)。
【0112】
なお、以下の検討のブランクとして、含浸法(製造方法(3))で得られた触媒(Agの担持量0.7質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、5.0質量%とした。)について、標準反応条件で触媒活性を確認した結果を図3として示す。
【0113】
なお、図3以降の図面中の、1st、2nd、3rd、4th、……、〇th~、の記載は、触媒を繰り返して使用した場合の1回目、2回目、3回目、4回目、……、〇回目、を示す(図11及び図12では、1回目を「_1」、2回目を「_2」といった表記としているものもある。)。また、「質量%」は、「wt%」として示しているところもある。ここで、触媒を繰り返し使用した場合において、図3及び後記する図9図15等には、すべての結果を載せておらず、一部を削除して抜粋して載せている。
【0114】
図3は、含浸法で得られたアンモニア製造用触媒の触媒活性を確認した図である。上段は反応温度とアンモニア収率YNH3との関係、下段は反応温度と還元剤の有効利用率εとの関係、をそれぞれ示す。)。図3では、Agの担持量を1.0質量%としたもの(1.0wtAg)が高い触媒活性を示しているが、アンモニア収率(YNH3)は70%程度であり、繰り返し使用により徐々に触媒活性が低下していることが確認できる。
【0115】
検討(1):
アルコール(エタノール)中でAgを担持させた触媒の触媒活性向上の確認:
次に、Ag/TiOの触媒活性の向上を図るため、アルコール中でTiOにAgを担持する(還元剤としてアルコール(エタノール)を用いた。)場合の触媒活性向上を確認した(前記したが、還元剤としてエタノールを用いて、TiOにAgを担持させる製造方法を、エタノール法と呼ぶこともある。)。
【0116】
前記したが、エタノール法とは、TiOにAgを担持させることをエタノール中で行う方法(担持のための溶媒及び還元剤としてエタノールを用いる方法となる。)である。エタノールにおける水素の還元力は、NaBH(水素化ホウ素ナトリウム)等に比べるとかなり弱いので、Agの還元がゆっくりと進行し、微粒子状のAg(銀)を担体上に担持できることが期待できる。
【0117】
製造方法(1)(エタノール法)を用いて、Agの担持量を2.0質量%としたアンモニア製造用触媒(2.0AgET/TiO)の触媒活性を確認した図を図4及び図5に示す。比較のため、製造方法(3)(含浸法)で担持したアンモニア製造用触媒(2.0Ag/TiO)の結果も併せて示した。
【0118】
図4上段に示すように、含浸法で得られたアンモニア製造用触媒では、370℃でのYNH3が42%であったところ、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒では400℃でのYNH3が69~60%であった。このように、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒は、NHの収率が約1.5倍に向上した。
【0119】
一方、NHの収率について、触媒を繰り返し使用した場合に着目すると、450℃を超えた温度での最高収率を示す温度では、69%(1回目)→63%(2回目)→60%(3回目)と、使用を繰り返すと変化(低下)し、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒は、前記の温度では繰り返し使用により収率が低下することが確認された。
【0120】
図4下段は、反応温度(温度変化)に対してXC3H6をプロットした図であり、C転化率の温度依存性を示している。エタノール法により得られた触媒と含浸法により得られた触媒ではCの燃焼活性(C転化率)の差が見られたが、その差は僅かであった。また、エタノール法で得られた触媒のCの燃焼活性(C転化率)は、使用を繰り返しても全く変化しなかった(後記するが、図3等で確認された、繰り返し使用によるNH収率(YNH3)の低下は、生成したNHの逐次酸化(燃焼)が進行しやすくなるためと考えられる。)。
【0121】
図5上段は、C転化率とNH収率との関係を示した図である。C転化率(XC3H6)が85%程度になるまでは、含浸法で得られた触媒とエタノール法で得られた触媒のNH収率(YNH3)はほぼ一致している。一方、XC3H6が85%以上となると、含浸法で得られた触媒のYNH3が急激に低下したことが確認できる。
【0122】
一方、エタノール法で得られた触媒では、同じ領域(C転化率(XC3H6)が85%程度になるまで)ではYNH3が60~69%まで上昇した後、急激に低下することが確認できた。本図からは、XC3H6が95%くらいになるまでは、YNH3が上昇して、NHの生成が効率的に進行していることが明らかである。図5上段に示される結果は、エタノール法で得られた触媒では、XCが高い時に、C3H6の1分子から生成するNH分子数が多くなっていることを示している。
【0123】
図5下段は、還元剤の有効利用率(ε)を反応温度に対してプロットした(有効利用率(ε)の温度依存性)図である。含浸法で得られた触媒の場合、εの値は350℃付近でいったん平坦になる(一定化する)が、温度上昇とともにほぼ単調に低下した。温度が高いほどCの単純酸化反応の割合が増加するためと考えられる。
【0124】
一方、エタノール法で得られた触媒では、反応温度が380~420℃の範囲ではεがいったん上昇した後、420~500℃の範囲では低下することが確認できた。380~420℃では、NH生成に活性な中間体が選択的に生成している可能性がある。
【0125】
これらの検討で、エタノール法で得られた触媒(2.0AgET/TiO)の触媒活性が、使用の繰り返しにより低下することが確認された。かかる低下は、エタノール法で得られた触媒を高温(500℃)で使用することによって引き起こされている可能性があると考え、かかる可能性を確認するため次の操作を行った。
【0126】
エタノール法(製造方法(1))で得られた未使用のアンモニア製造用触媒(2.0AgET/TiO)を反応管に充填した後、反応温度を400℃のみとして触媒活性を確認した。結果を図6に示す。
【0127】
図6は、アンモニア製造用触媒を400℃で連続使用した場合の触媒活性の変化を示した図である。室温から400℃までの加熱時間中にCの燃焼(Cの転化)とNHの生成が始まり、Cの燃焼活性化はすぐに一定値に達した。
【0128】
一方、NHの収率(YNH3)は、バラツキが大きいものの、反応時間とともに徐々に向上し、反応時間が200分経過した以降でほぼ一定になった。実験値のバラツキも小さくなり、YNH3は最大で約80%に達した。図6からわかるように、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒(2.0AgET/TiO)は、400℃以下で利用すれば触媒活性は低下しないことが確認できた。
【0129】
検討(2):
分圧を変化させた場合の挙動変化の確認:
前記で確認された、製造方法(1)のエタノール法で得られたアンモニア製造用触媒(2.0AgET/TiO)が400℃以下では安定した活性を示すことを踏まえて、同触媒を用いて、400℃で、混合ガスを構成するガスそれぞれの分圧を変化させて、XC3H6及びYNH3の変化を確認した。
【0130】
図7は、Cの分圧を変化させた場合の結果を示した図である。Cの分圧(PC3H6)が0.5%以上となると、YNH3が徐々に上昇するが、その増加率はC3H6の分圧の増加率よりも小さかった。PC3H6が0.7%付近で、YNH3が極大となった。
【0131】
一方、PC3H6が0.5%より小さくなるとYNH3も減少したが、直線的な減少ではなく、上に凸の相関を示した。図7にも示すように、この理由は、PC3H6の低下とともにεが上昇しているためであると考えられる。NTA反応系の後に、通常のアンモニア選択還元(NH-SCR)プロセスをシリーズで接続し、アンモニア製造用触媒を用いて、NO等のNOから生成したNHによって残存NOを選択的に還元する場合、NTA反応系では、供給されるNO量の半分をNHに転換することが求められる。一方、図7からは、かかる条件を達成するためのPC3H6は、わずか0.25%であることが確認できる。
【0132】
図8は、HOの分圧を変化させた場合の結果を示した図である。図8上段に示すように、XC3H6に対するHOの効果は、HOの分圧(PH2O)が高くなるほどXC3H6が減少した。これに対し、図8下段に示すPH2OとYNH3との関係は、PH2Oが低い時は、380℃付近にYNH3の極大値が発現するが、PH2Oが高くなると、より高温でYNH3が高くなり、複雑な現象であった。ただし、いずれの温度でも、PH20が15%でYNH3は低下することが確認できた。
【0133】
検討(3):
アンモニア製造用触媒のAg担持量との関係:
製造方法(1)を用いて得られた、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒のAg担持量を変化させて触媒活性を確認した。図9は、アンモニア製造用触媒のAg担持量及び繰り返し使用と触媒活性との関係を示した図である。Agの担持量は、図3と同様、0.7質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、5.0質量%とした。
【0134】
図9からは、触媒活性温度(反応温度)を500℃まで上げるとYNH3が次第に低下することが確認でき、これは図3と同様である。触媒活性の劣化の状況を含めて、触媒の性能を全体的に確認するため、本検討では触媒活性温度(反応温度)を主として500~250℃とした。また、前記した検討で確認された、初期活性が極めて高かった、担持量を1.5質量%とした触媒(1.5AgET/TiO)については、合計で8回の繰り返し使用を行った。
【0135】
図9に示すように、1.5AgET/TiOについて、第1回目では、YNH3は93%であったが、8回目では66%まで低下した。また、いずれの触媒でも、使用を繰り返すと、高温側活性が徐々に失われることや、低温側活性はほとんど変化しないことが確認された。これらは、後記するが、繰り返しの使用によって高温側のNHの燃焼活性が向上するためであると考えられる。本結果より、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒は、触媒活性の向上には有効である一方、一定の温度(例えば、450℃)を超えると、繰り返し使用によるNTA性の低下が生じることが確認できた。
【0136】
検討(4):
Nd(ネオジム)の担持による、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒の安定化の確認:
Agを担持させる前に、担体であるTiOにNd(ネオジム)をあらかじめ担持させた、エタノール法で得られたアンモニア製造用触媒について、Ndを担持させることの効果を確認した。
【0137】
まず、担体であるTiOにNdを担持させて、TiOの表面積あるいは細孔が変化するかどうかを確認するため、以下の検討を実施した。
製造方法(2)(i)を用いて、TiOにNdを1mol、3mol及び5mol担持させた。これらを空気中で500℃×4時間焼成させ、BET比表面積及びBJH細孔径を測定した。BET比表面積の測定結果を表1、BJH細孔径の測定結果を図10にそれぞれ示す(なお、図10等の図の凡例では、TiOの「2」等の数字を下付きとしていないものもある。)。
【0138】
(結果)
【表1】
【0139】
表1に示すように、Ndの担持量が0mol、1mol、3mol、5molと増加するにつれてBET表面積も増加し、5NdTiOにあっては、Ndを担持しなかったものと比較して約1.5倍の比表面積となった。
【0140】
また、図10は、Ndを担持したTiOの細径分布を示した図である(上段はNdのみの担持、下段はさらにAgを担持(後記する。))。図10上段に示すように、Ndの担持とともに直径14nmの細孔が生成し、担持量が増えるとともに次第に増加していることが確認された。
【0141】
次に、製造方法(2)(ii)を用いて、(2)(i)で得られた担体に、エタノール法を用いてAgの担持量が1.0質量%となるようにAgを担持させた。同様にBET比表面積を測定した結果をあわせて表1に載せている。表1に示すように、Ndを担持させなかった触媒を除いて、いずれの触媒も表面積はAgの担持前よりわずかに大きくなった。
【0142】
Agを担持させた後の細孔径を図10下段に示している。細孔径は、Agを担持させる前後で変化がなくほぼ一定であった。一方、細孔容積(図10の縦軸、dV/dd)は、Agを担持させた触媒の方が大きくなった。
【0143】
以上の結果をもとに、あらかじめNdを担持させた触媒の、還元剤としてCを用いた場合の触媒活性を確認した。製法方法(2)を用いて、Agの担持量を1.0質量%として、Ndの担持量を1molと5mol(1.0AgET/1NdTiOと1.0AgET/5NdTiOを製造した。)の触媒活性を比較した。結果を図11に示す。
【0144】
図11は、Ndを担持したアンモニア製造用触媒の触媒活性を確認した図である。1.0AgET/1NdTiOは1回目の測定から2回目の測定で活性が少し増加し、以後は一定の活性を示した。これに対して、1.0AgET/5NdTiOでは、前記した図9に類似した触媒活性の低下が認められた。また、1.0AgET/1NdTiOのYNH3は、1.0AgET/5NdTiOのYNH3よりも高かった。
【0145】
以上の結果から、TiOに対してAgを担持する前に適当量のNdを担持させてからAgを担持するようにすると、アンモニア製造用触媒としての触媒活性が安定化するばかりでなく、触媒活性自体も向上(YNH3も向上)することが確認された。その一方、Ndの担持量が過大となると、使用する金属の種類(本検討ではAg)やかかる金属の担持量により左右されるが、本検討の組み合わせでは触媒の不安定化と活性低下を招く場合があることが確認された。以下、Ndの担持量を1mol(○○AgET/1NdTiO)(○○はAg担持量であり、後記する。)として、以下の検討を行った。
【0146】
検討(5):
Ndを担持させた触媒についてのAg担持量との関係確認:
エタノール法で得られた、Agを担持させる前にあらかじめNdを担持させたアンモニア製造用触媒について、製造方法(2)を用いて、Ndの担持量を1molとして(1NdTiO)、Agの担持量を0.7質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、5.0質量%としたアンモニア製造用触媒を製造して、触媒活性を確認した。結果を図12に示す。
【0147】
図12は、Ndをあらかじめ担持したアンモニア製造用触媒のAg担持量及び繰り返し使用と触媒活性との関係を示した図である。いずれの触媒でも3~4回の活性試験を繰り返した。図12上段によれば、使用の繰り返しによる活性変化はゼロではないがわずかであり、前記した図3(含浸法で得られたアンモニア製造用触媒の触媒活性)と比較すると触媒活性が非常に安定することが確認できた。さらに、1.0AgET/1NdTiOでは、YNH3が最大で88~89%が安定して得られ、ほとんどのNOをNH3に転換できた。
【0148】
この結果より、Ndの担持量を1mol(○○AgET/1NdTiO)とした場合の触媒活性(YNH3)を、含浸法でAgを担持させた触媒の触媒活性(前記した図3の内容。)とあわせて表2に示した。
【0149】
(触媒活性)
【表2】
【0150】
表2にも載せたように、触媒活性の順序は(共通なので「/1NdTiO2」の記載は省略する。)、いずれも、1.0AgET>0.7AgET=(含浸法では、「>」である。)1.5AgET>2.0AgET>5.0AgETとなった。両者を比較すると、触媒活性の順序は概ね変化せず、Ndをあらかじめ担持させて、エタノール法を用いてAgを担持させて得られた触媒の方が、YNH3についてすべて増加していることが確認できた。
【0151】
最高活性温度に着目すると、エタノール法を用いてAgを担持させて得られた触媒における、YNH3の最高活性温度の順序は(こちらも共通なので「/1NdTiO」の記載は省略する。)、0.7AgET(460℃)>1.0AgET(450℃)>1.5AgET(420℃)>2.0AgET(360℃)>5.0AgET(310℃)であった(○○AgETの後ろの( )書きは、最高活性温度を示す。)。これは図3に示した、含浸法で得られた触媒の活性温度域とほぼ共通する。
【0152】
以上の結果から、担体であるTiOに少量のNdを担持すると、Ag触媒の安定化ばかりでなく高活性化も達成できること、一方、活性温度域は単純な含浸法触媒とほとんど同じであることが確認できた。
【0153】
なお、図12下段は、還元剤の有効利用率εを反応温度に対してプロットした結果を示す。なお、XC3H6及びYNH3が低い時は、ε値の測定誤差が大きいのでXC3H6を20%以上として比較した。
【0154】
含浸法で得られた触媒の場合、図3に示すようにNHの収率が最大となった時のεは、大きくても18~19であった。一方、エタノール法で得られた触媒のεの値は、図12によれば20~21まで向上し、あらかじめNdを担持させた触媒では、例えば、AgET/1NdTiOでは最高で25程度に達することが確認できた。
【0155】
図12によれば、Agの担持量が低ければ低いほど活性温度域は高温化することがわかるが、εも向上することが明らかである。εが大きいほど少量の還元剤(C等)を添加すれば済むことになるので実用上のメリットは大きいと考えられる。
【0156】
検討(6):
NHが選択的に生成する理由の検討:
本発明である、製造方法(1)のエタノール法で得られたアンモニア製造用触媒が、排ガス等の混合ガスで想定される、O濃度が10%となる過剰酸素の共存下であっても、還元生成物であるNHが選択的に生成する理由を検討した。かかる検討のため、下記の混合ガス(NOが共存しない。)を、SV=10000/時間で触媒上に流す評価を行った。
【0157】
(混合ガスの構成)
NH 0.1%
0.5%
10%
O 10%
バランス
【0158】
触媒として、担体のみ(TiOのみ)と、含浸法を用いて製造した2.0Ag/TiOを用いた。本評価では、混合ガス中にNOが共存していない場合のCの酸化活性、NHの酸化活性を個別に測定することができる。結果を図13に示す。なお、図13では、「XC3H6 on TiO」や「XC3H6 on 2.0Ag/TiO」のように示しているのは、「TiOの燃焼率」「2.0Ag/TiO(2.0質量%のAgを担持したTiO)の燃焼率」をそれぞれ示す(Cも同様。)。
【0159】
図13は、TiOと2.0Ag/TiO上でのNH及びCの燃焼反応を確認した図(反応温度と燃焼率との関係)である。担体のみ(TiOのみ)の場合は、NHの燃焼は非常に進行しにくく、500℃においても数%のNHが燃焼するだけであった。Cの燃焼も進行しにくく、燃焼が活発となるのは450℃以上であった。
【0160】
一方、2.0Ag/TiOの場合、NHの燃焼温度は、担体のみの場合と比較して低下し、350~450℃となった。また、Cの燃焼温度はさらに低下し、250~400℃であった(なお、図13では、350℃以下で一部のNHが反応するデータとなっているが、これは燃焼反応によるものではなく、触媒上へのNHの吸着であると考えられる。)。
【0161】
反応機構の議論のために、NHが生成する反応式を以下のように想定する。なお、化学量論に忠実に載せた前記した(1)~(5)に対して、下記の反応式(7)、(8)及び(10)では、化学量論は無視している。
NO+1/2O→NO (4a)
NO+OH→HNO (5a)
Ag+HNO→AgNO+OH (6)
AgNO+C+O→Ag+NH+CO+HO (7)
+O→CO+HO (8)
HNCO+HO→NH+CO (9)
NH+O→N,NO,NO+HO (10)
【0162】
通常のNTA反応中のCの燃焼温度の立ち上がりは、前記した図3図6に明らかなように250~400℃であり、図13の結果とほとんど同じであった。Cの燃焼に伴ってNHが生成していること(式(7))を考えると、本評価で実施しているC燃焼曲線(式(8))は、NH生成曲線(式(7))とほぼ同一と考えることができる。なお、ここでは式(8)の進行に伴ってNH3が生成して、式(10)でNHが燃焼していると仮定し、反応機序を考えている。
【0163】
図13からは、2.0Ag/TiO触媒上では250~400℃でNHが生成し、350~450℃で燃焼していることが確認できる。かかる触媒上では、NH生成温度がNH燃焼温度よりも大幅に低く、この2つの温度に挟まれた領域(図13の矢印で示した、網掛けした領域。)ではCの燃焼に伴ってNHが生成しているが、生成したNHの燃焼はわずかしか進行しない状態になっている。換言すると、生成と燃焼の活性温度域が異なるため、Oが過剰に存在するもとでのNHへの還元反応が可能になっていると結論することができる。
【0164】
次に、エタノール法(製造方法(1))を用いて得られた触媒を用いた場合に、触媒活性の向上や触媒の繰り返し使用(反応の繰り返し)による触媒活性の低下が前記した考えで説明できるかどうかを検討した。
【0165】
図14は、2.0Ag/TiOと2.0AgET/TiO触媒上でのC燃焼活性とNH燃焼活性を確認した図である。図14に示すように、エタノール法での製造の有無によるC燃焼活性の変化はわずかであったが、NH燃焼活性は大きく変化したことが確認された。2.0AgET/TiO触媒上でのNH燃焼は2.0Ag/TiOよりも40~50℃高温で進行した。このNH燃焼活性の高温化が、図4図5で示したNH生成量の増加と最大活性温度の高温化を引き起こしていることは明らかである。
【0166】
次に、図15は、2.0AgET/TiO触媒の繰り返し使用(反応の繰り返し)によるC燃焼活性とNH燃焼活性の変化を測定した図である。C燃焼活性は触媒の繰り返し使用(反応の繰り返し)によって多少変化するが、その変化量はわずかであった。それに対して、NH燃焼活性は、触媒の繰り返し使用によって大きく低温化し、生成したNHが非常に燃えやすくなっていることが確認された。かかる低温化が、前記した図4図5に示した高温での触媒活性の低下を引き起こしていると考えられる。
【0167】
図15から明らかなようにNH燃焼活性の低温化は350℃を下限としている。この結果は、図4図5で触媒活性の繰り返し変化で350℃以下の低温活性が再現することとよく一致している。よって、NH酸化能の変化と触媒活性の変化を関連づける前記の考えが正しいことを裏付けている。
【0168】
式(7)では量論不明のままAgNO(硝酸銀)と還元剤であるC(プロピレン)の反応でNHが生成することとしているが、この反応は多くの素反応から成立しているはずである。その詳細をここで議論することはできないが、これまでの炭化水素によるNOの選択還元(HC-SCR)の検討結果等を参照すると、最終段は前記した式(9)となっている可能性が高いと考えられる。
【0169】
すなわち、最終段の中間体はイソシアン酸(吸着状態ではイソシアネート)であり、これが水と反応してNHを与える。この反応で水は必須の基質であり、水添加によって本NTA反応が促進される結果とよく一致している。
【0170】
以上より、10%酸素共存下という酸素が過剰となる酸化雰囲気下で還元生成物であるNHが選択的に生成する理由は、NHが「生成する」温度域よりもNHが「燃焼する」温度域がかなり高いためであると考えられる。
【0171】
また、繰り返し使用によってAg/TiO触媒のNH燃焼活性が低下する理由は、NHの燃焼活性を示す温度が使用の繰り返しによって低温化して、NH酸化能が高くなる(低温化する)ことによって引き起こされるためと考えられる。
【0172】
予備検討(3):
還元剤の種類によるNTA反応の変化の確認:
以外の還元剤について、NTA反応がどのように進行するかを比較・評価した。本検討ではC(プロパン)、CH(メタン)、H(水素)、及びCOH(エタノール)について確認した。触媒は、製造方法(3)で得られた5Ag/TiO(Agの担持量が5.0質量%)を使用した。
【0173】
なお、本検討では、供給する水素量を統一した。例えば、Cは分子内にCの8/6倍の水素を持つので、活性測定時のC供給量はC供給量の6/8倍、0.5(%)×6/8=0.375(%)とした(下記の「混合ガスの構成」を参照。)。結果を表3に示す。
【0174】
(混合ガスの構成)
:0.5%C、0.1%NO、10%O、10%H
SV 10000/時間、温度 200~450℃
:0.375%C、0.1%NO、10%O、10%H
SV 10000/時間、温度 200~450℃
CH:0.75%CH、0.1%NO、10%O、10%H
SV 10000/時間、温度 325~450℃
:1.5%H、0.1%NO、10%O、10%H
SV 30000/時間、温度 220~450℃
OH:0.5%COH、0.1%NO、10%O、10%H
SV 90000/時間、温度 200~450℃
【0175】
(測定結果)
【表3】
【0176】
表3に示すように、C、CH、Hを還元剤とした場合は、NHは全く生成しなかった。一方、COH(エタノールガス)では微量であるがNHが生成した。なお、他の報告を参考に、本検討では、エタノールについては、SV=90000/時間と、高速で反応ガスを流している。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明は、NTAやNH-SCRに適用できるアンモニアを高収率で製造するアンモニア製造用触媒を提供する手段として有利に利用することができ、産業上の利用可能性は高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15