(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015088
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】バイオチップ又はマイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
G03F 7/039 20060101AFI20240125BHJP
C08F 16/38 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G03F7/039 601
C08F16/38
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201173
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2019141645の分割
【原出願日】2019-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100214639
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直哉
(72)【発明者】
【氏名】川満 昇一
(57)【要約】
【課題】高い撥水性を有する現像膜を形成でき、かつ良好な現像性を有する新規な感光性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の感光性組成物は、下記式(1)で表される構成単位を含む重合体と、光酸発生剤及び光塩基発生剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含む。
[式(1)中、R
ff
1~R
ff
4は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキルエーテル基を表す。R
ff
1及びR
ff
2は、連結して環を形成してもよい。]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に配置された撥水性膜と、
を備え、
前記撥水性膜は、下記式(1)で表される構成単位を含む重合体(P)と、光酸発生剤とを含む、バイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【化1】
[式(1)中、R
ff
1~R
ff
4は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキルエーテル基を表す。R
ff
1及びR
ff
2は、連結して環を形成してもよい。]
【請求項2】
前記撥水性膜は、開口部を有する、請求項1に記載のバイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記重合体(P)は、実質的に水素原子を含まない、請求項1又は2に記載のバイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記重合体(P)は、全フッ素化されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記重合体(P)は、前記構成単位をモル基準で最も多く含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のバイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記構成単位が下記式(2)で表される、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【化2】
【請求項7】
前記撥水性膜は、前記重合体(P)以外の他の重合体を含まない、請求項1~6のいずれか1項に記載のバイオチップ又はマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性組成物、デバイス及びデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光性組成物から形成された感光性膜にパターンを形成するための技術として、フォトリソグラフィ技術が知られている。フォトリソグラフィ技術では、感光性膜をパターン状に露光した後に感光性膜を現像することによって、感光性膜にパターンを形成することができる。本明細書では、現像処理された感光性膜を「現像膜」と呼ぶことがある。
【0003】
フォトリソグラフィ技術は、バイオチップ、マイクロ流路チップなどのデバイスの作製にも利用される。例えば、特許文献1には、フォトリソグラフィ技術を用いてバイオチップを作製するための感光性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デバイスが利用される分野によっては、現像膜について、高い撥水性が求められる。さらに、現像膜を形成するための感光性組成物には、良好な現像性が求められる。
【0006】
そこで本発明は、高い撥水性を有する現像膜を形成でき、かつ良好な現像性を有する新規な感光性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
下記式(1)で表される構成単位を含む重合体と、
光酸発生剤及び光塩基発生剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、
を含む、感光性組成物を提供する。
【化1】
[式(1)中、R
ff
1~R
ff
4は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキルエーテル基を表す。R
ff
1及びR
ff
2は、連結して環を形成してもよい。]
【0008】
さらに本発明は、
基板と、
前記基板の上に配置され、開口部を有する撥水性膜と、を備え、
前記撥水性膜が下記式(1)で表される構成単位を含む重合体を有する、デバイスを提供する。
【化2】
[式(1)中、R
ff
1~R
ff
4は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキルエーテル基を表す。R
ff
1及びR
ff
2は、連結して環を形成してもよい。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い撥水性を有する現像膜を形成でき、かつ良好な現像性を有する新規な感光性組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2A】基板の上に感光性膜が配置された状態を示す図である。
【
図2B】
図2Aの感光性膜の一部を露光している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0012】
[感光性組成物]
本実施形態の感光性組成物は、下記式(1)で表される構成単位(A)を含む重合体(P)と、光酸発生剤及び光塩基発生剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含む。
【化3】
【0013】
式(1)中、Rff
1~Rff
4は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキルエーテル基を表す。Rff
1及びRff
2は、連結して環を形成してもよい。「パーフルオロ」は、炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子に置換されていることを意味する。式(1)において、パーフルオロアルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1であることがさらに好ましい。パーフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。パーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基などが挙げられる。
【0014】
式(1)において、パーフルオロアルキルエーテル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。パーフルオロアルキルエーテル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。パーフルオロアルキルエーテル基としては、パーフルオロメトキシメチル基などが挙げられる。
【0015】
Rff
1及びRff
2が連結して環を形成している場合、当該環は、5員環であってもよく、6員環であってもよい。この環としては、パーフルオロテトラヒドロフラン環、パーフルオロシクロペンタン環、パーフルオロシクロヘキサン環などが挙げられる。
【0016】
構成単位(A)の具体例としては、例えば、下記式(A1)~(A8)で表される構成単位が挙げられる。
【化4】
【0017】
構成単位(A)は、上記式(A1)~(A8)で表される構成単位のうち、構成単位(A2)、すなわち下記式(2)で表される構成単位であることが好ましい。
【化5】
【0018】
構成単位(A)は、例えば、下記式(3)で表される化合物に由来する。式(3)において、R
ff
1~R
ff
4は、式(1)と同じである。
【化6】
【0019】
上記式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式(M1)~(M8)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0020】
重合体(P)は、構成単位(A)を1種又は2種以上含んでいてもよい。重合体(P)は、例えば、構成単位(A)を主成分として含む。本明細書において、「主成分」は、重合体(P)にモル基準で最も多く含まれる構成単位を意味する。重合体(P)における構成単位(A)の含有率は、例えば80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは95モル%以上である。重合体(P)は、例えば、実質的に構成単位(A)からなる。
【0021】
重合体(P)は、構成単位(A)以外の他の構成単位(B)をさらに含んでいてもよい。他の構成単位(B)を形成する化合物としては、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンなどのフッ素含有オレフィン化合物;パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのパーフルオロビニルエーテル化合物;パーフルオロアリルビニルエーテル、パーフルオロブテニルビニルエーテルなどの2つ以上の重合性二重結合を有し、かつ環化重合可能な含フッ素化合物が挙げられる。
【0022】
重合体(P)は、実質的に水素原子を含まないことが好ましく、感光性組成物から形成される現像膜の撥水性を向上させる観点から、全フッ素化されていることがより好ましい。「重合体が全フッ素化されている」とは、重合体において、炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子に置換されていることを意味する。本発明者らが知る限り、全フッ素化された重合体を感光性組成物に利用した例はない。
【0023】
重合体(P)の重合方法は、特に限定されず、例えば、ラジカル重合などの一般的な重合方法を利用できる。重合体(P)を重合するための重合開始剤は、全フッ素化された化合物であってもよい。
【0024】
重合体(P)の重量平均分子量は、例えば、5,000~1,000,000である。重合体(P)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、100℃~150℃である。本明細書において、Tgは、JIS K7121:1987の規定に準拠して求められる中間点ガラス転移温度 (Tmg)を意味する。
【0025】
感光性組成物における重合体(P)の含有率は、例えば1wt%以上であり、好ましくは5wt%以上である。重合体(P)の含有率は、99.9wt%以下であってもよく、80wt%以下であってもよい。
【0026】
本実施形態の感光性組成物は、光酸発生剤及び光塩基発生剤のうちのいずれか1つを含むことが好ましく、光酸発生剤を含むことが好ましい。光酸発生剤は、特定の波長の光が照射されることによって酸を発生する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリアリールスルホニウム塩、ジアリールヨードニウム塩及びスルホニルジアゾメタンが挙げられる。
【0027】
トリアリールスルホニウム塩に含まれるカチオンとしては、例えば、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル-4-メチルフェニルスルホニウム、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウム、ジフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルスルホニウム及び4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムが挙げられる。トリアリールスルホニウム塩に含まれるアニオンとしては、トリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、トリス(ノナフルオロイソブチル)トリフルオロホスフェート及びビス(ノナフルオロイソブチル)テトラフルオロホスフェートが挙げられる。
【0028】
ジアリールヨードニウム塩に含まれるカチオンとしては、例えば、ジフェニルヨードニウム、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウム、4-メチル-4’-メチルプロピルジフェニルヨードニウム、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム及び4-メトキシフェニルフェニルヨードニウムが挙げられる。ジアリールヨードニウム塩に含まれるアニオンとしては、トリアリールスルホニウム塩について上述したものが挙げられる。
【0029】
スルホニルジアゾメタンとしては、例えば、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(tert-ブチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン及びビス(p-トルエンスルホニル)ジアゾメタンが挙げられる。
【0030】
光酸発生剤は、好ましくは、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ノナフルオロイソブチル)トリフルオロホスフェート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムビス(ノナフルオロイソブチル)テトラフルオロホスフェート、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(p-トルエンスルホニル)ジアゾメタンである。光酸発生剤は、BASF社製のIRGACURE(登録商標)250;サンアプロ社製のCPI(登録商標)-100P、CPI(登録商標)-210S;富士フイルム和光純薬社製のWPAG-638、WPAG-199などであってもよい。本実施形態の感光性組成物は、光酸発生剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0031】
光塩基発生剤は、特定の波長の光が照射されることによって塩基を発生する化合物であれば特に限定されない。光塩基発生剤としては、例えば、N-シクロヘキシルカルバミン酸1-(アントラキノン-2-イル)エチル、N,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチル、ピペリジン-1-カルボン酸9-アントリルメチル、N,N-ジシクロヘキシルカルバミン酸9-アントリルメチル、N,N-ジシクロヘキシルカルバミン酸1-(アントラキノン-2-イル)エチル、イミダゾール-1-カルボン酸1-(アントラキノン-2-イル)エチル、シクロヘキシルアンモニウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオン酸塩、(E)-N-シクロヘキシル-3-(2-ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、ジシクロヘキシルアンモニウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオン酸塩、1,2-ジシクロヘキシル-4,4,5,5-テトラメチルビグアニジウム=n-ブチルトリフェニルボラート、1,2-ジイソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム=2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナート、4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボン酸(2-ニトロフェニル)メチル、4-(メタクリロイルオキシ)ピペリジン-1-カルボン酸(2-ニトロフェニル)メチル、グアニジウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオン酸塩及び(E)-1-ピペリジノ-3-(2-ヒドロキシフェニル)-2-プロペン-1-オンが挙げられる。光塩基発生剤としては、富士フイルム和光純薬社製のWPBGシリーズを用いることができる。本実施形態の感光性組成物は、光塩基発生剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0032】
感光性組成物における光酸発生剤の含有率は、例えば0.1wt%~10wt%であり、好ましくは1wt%~5wt%である。感光性組成物における光塩基発生剤の含有率は、例えば0.1wt%~10wt%であり、好ましくは1wt%~5wt%である。
【0033】
本実施形態の感光性組成物は、重合体(P)、光酸発生剤及び光塩基発生剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。他の成分としては、重合体(P)以外の重合体、溶媒、光増感剤、酸化防止剤、接着促進剤、レベリング剤、消泡剤、沈殿防止剤、分散剤、可塑剤、増粘剤などが挙げられる。
【0034】
感光性組成物に含まれる溶媒は、例えば、重合体(P)、光酸発生剤及び光塩基発生剤を溶解又は分散させるものであることが好ましい。溶媒としては、例えば、1H-トリデカフルオロヘキサン(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC2000)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC6000)、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE3000)、ジクロロペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AK-225)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(旭硝子社製、サイトップ(登録商標)CT-solv100E)、1-メトキシノナフルオロブタン(スリーエムジャパン社製、Novec(登録商標)7100)、1-エトキシノナフルオロブタン(スリーエムジャパン社製、Novec(登録商標)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(スリーエムジャパン社製、Novec(登録商標)7300)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロ-4-(1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロポキシ)ペンタン(スリーエムジャパン社製、Novec(登録商標)7600)、2H,3H-パーフルオロペンタン(三井・ケマーズフロロケミカル社製、Vertrel(登録商標)XF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-トリデカフルオロ-1-ノナノール、ヘキサフルオロベンゼン、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール、1H,1H,7H-ドデカフルオロ-1-ヘプタノールなどの含フッ素化合物類、及び、これら以外の市販のフッ素系溶媒(例えば、スリーエムジャパン社製のフロリナート(登録商標)FC-770、及び、セントラル硝子社製のセレフィン(登録商標)1233Z);シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、2-ブタノンなどの非フッ素ケトン類;乳酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ベンジル、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレンカーボネートなどのエステル類;ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、アニソール、ジグライム、トリグライムなどのエーテル類が挙げられる。感光性組成物は、これらの溶媒を1種又は2種以上含んでいてもよい。感光性組成物に含まれる成分の溶解性、及び、感光性組成物の成膜性の観点から、溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール及び1H,1H,7H-ドデカフルオロ-1-ヘプタノールが好ましい。
【0035】
感光性組成物における溶媒の含有率は、例えば98.9wt%以下であり、好ましくは94wt%以下である。溶媒の含有率の下限値は、特に限定されず、例えば15wt%である。感光性組成物は、溶媒を含んでいなくてもよい。
【0036】
[デバイス]
図1に示すように、本実施形態のデバイス10は、基板1及び撥水性膜2を備える。撥水性膜2は、基板1の上に配置され、基板1に接している。後述のとおり、撥水性膜2は、上述した感光性組成物から作製された感光性膜を現像することによって得られる現像膜である。そのため、撥水性膜2は、上述した重合体(P)を含む。
【0037】
撥水性膜2は、開口部5を有しており、当該開口部5は、例えば、基板1の表面の一部を露出させる。撥水性膜2は、複数の開口部5を有していてもよい。開口部5は、撥水性膜2を厚さ方向に貫通している。開口部5は、孔の形状を有していてもよく、溝の形状を有していてもよい。開口部5が孔の形状を有する場合、開口部5は、例えば、平面視で円の形状を有する。撥水性膜2において、1つ又は複数の開口部5が所定のパターンで形成されていてもよい。
【0038】
開口部5が平面視で円の形状を有する場合、開口部5の直径は、例えば1~1000μmであり、好ましくは10~500μmである。開口部5が溝の形状を有する場合、開口部5の幅は、例えば1~2000μmであり、好ましくは10~1000μmである。撥水性膜2が複数の開口部5を有する場合、隣接する2つの開口部5の距離は、例えば1~2000μmであり、好ましくは1~1000μmであり、より好ましくは10~1000μmであり、さらに好ましくは10~500μmである。
【0039】
撥水性膜2の厚さは、特に限定されず、例えば0.01~100μmであり、好ましくは0.1~50μmである。
【0040】
基板1としては、例えば、ガラス板;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドなどを含む熱可塑性プラスチックシート;シリコンウェハ;ステンレス鋼(SUS)、アルミニウムなどを含む金属板;銅箔などの金属箔と樹脂基板との積層体などが挙げられる。基板1は、耐熱性の点から、ガラス板、特に石英ガラス板が好ましい。
【0041】
撥水性膜2の組成は、例えば、溶媒をほとんど含まないことを除いて、上述した感光性組成物の組成と同じである。撥水性膜2は、例えば、重合体(P)以外に、上述した光酸発生剤及び光塩基発生剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
【0042】
撥水性膜2における重合体(P)の含有率は、例えば1wt%以上であり、好ましくは5wt%以上である。撥水性膜2における重合体(P)の含有率は、99.9wt%以下であってもよく、80wt%以下であってもよい。撥水性膜2における光酸発生剤の含有率は、例えば0.1wt%~10wt%であり、好ましくは1wt%~5wt%である。撥水性膜2における光塩基発生剤の含有率は、例えば0.1wt%~10wt%であり、好ましくは1wt%~5wt%である。
【0043】
撥水性膜2は、重合体(P)を含むことによって、高い撥水性を有する。水に対する撥水性膜2の接触角は、例えば60度以上であり、好ましくは90度以上である。水に対する撥水性膜2の接触角の上限値は、特に限定されず、例えば130度であってもよく、110度であってもよい。撥水性膜2の接触角は、JIS R3257:1999で規定された「静滴法」に準拠して測定することができる。詳細には、次の方法によって撥水性膜2の接触角を測定することができる。まず、ニードルを備えたシリンジをニードルの先端部が撥水性膜2に接触しない位置に保持する。ニードルの先端部より2μLの液滴(蒸留水の水滴)を出し、液滴がニードルの先端部に保持された状態でシリンジを下降させ、撥水性膜2に液滴を接触させる。シリンジを上昇させ、液滴のみを膜上に置き、その液滴の接触角を市販の接触角計で測定する。
【0044】
撥水性膜2を備えるデバイス10は、バイオチップ、マイクロ流路チップなどに適している。マイクロ流路チップの具体例としては、マイクロリアクターが挙げられる。一例として、本実施形態のデバイス10は、バイオチップとして利用できる。
【0045】
次に、デバイス10の製造方法について説明する。まず、
図2Aに示すように、上述した感光性組成物を基板1に塗布し、感光性膜3を作製する。感光性組成物を基板1に塗布する方法は、特に限定されず、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、バー塗布法などが挙げられる。感光性膜3は、例えば、感光性組成物を基板1に塗布した後に、当該感光性組成物を乾燥させることによって作製することができる。感光性組成物の乾燥条件は、特に限定されず、例えば、感光性組成物を加熱することによって感光性組成物を乾燥させてもよい。感光性組成物の加熱は、例えば50℃~120℃の温度で10~2000秒間行ってもよい。感光性膜3の厚さは、例えば、撥水性膜2の厚さと同じである。
【0046】
次に、感光性膜3の一部を露光する。感光性膜3の一部を露光する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。まず、
図2Bに示すように、感光性膜3の上にマスク20を配置する。マスク20は、開口部25を有しており、開口部25を介して感光性膜3の表面の一部が露出している。次に、マスク20の表面に対して、光源30から光を照射する。これにより、マスク20の開口部25から露出している感光性膜3の表面を露光することができる。光源30から照射される光は、感光性膜3に含まれる光酸発生剤又は光塩基発生剤の種類に応じて選択でき、例えば、紫外線、可視光線、赤外線、電子線及び放射線からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、紫外線を含むことが好ましい。光源30から照射される光の波長は、例えば100~500nmであり、好ましくは200~450nmであり、より好ましくは365nmである。光源30から照射される光による露光量は、例えば5~10000mJ/cm
2である。光源30としては、例えば半導体発光素子が挙げられ、好ましくは発光ダイオード(LED)、スーパールミネッセントダイオード(SLD)及びレーザーダイオード(LD)である。光源30は、高圧水銀ランプであってもよい。
【0047】
露光された感光性膜3の部分では、光酸発生剤から酸が発生する、又は、光塩基発生剤から塩基が発生する。生じた酸又は塩基によって、重合体(P)に含まれる構成単位(A)が分解する。構成単位(A)の分解は、例えば、下記式(4)の反応式によって表される。
【化8】
【0048】
次に、必要に応じて、露光された感光性膜3について加熱処理を行う。加熱処理では、ホットプレート、オーブンなどの公知の加熱装置を利用できる。加熱処理は、例えば、60℃~200℃の条件下で60~600秒間行う。
【0049】
次に、感光性膜3を現像することによって撥水性膜2を形成する。感光性膜3の現像は、例えば、露光された感光性膜3の部分を現像液で除去することによって行う。現像液としては、例えば、上記式(4)の反応式で生じた重合体(P)の分解生成物を溶解することができる一方、重合体(P)をほとんど溶解しないものを用いる。現像液は、塩基性、特に弱塩基性であることが好ましい。現像液としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルィド、ジメチルスルホン、テトラメチルウレア、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、酢酸イソアミル、ジメチルアンモニウム、ハロゲン化炭化水素類などの有機溶剤;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基の水溶液;プロピルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリンなどの有機塩基の水溶液を用いることができる。現像処理は、例えば、パドル法、ディッピング法又はシャワー法によって行うことができる。現像処理の時間は、例えば30~180秒間である。現像処理の後に、得られた撥水性膜2を水によって洗浄してもよい。撥水性膜2の洗浄時間は、例えば30~90秒間である。洗浄処理を行った後に、撥水性膜2を乾燥させてもよい。
【実施例0050】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
まず、室温(20℃±15℃)のアルゴン雰囲気下で、パーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン(式(M2)で表される化合物)22.6gを50mLの1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(三井・ケマーズフロロプロダクツ社製バートレルXF)に溶解させた。アルゴン雰囲気下を維持しながら、得られた溶液にパーフルオロ過酸化ベンゾイルを0.155g加え、撹拌混合した。次に、凍結脱気法により溶液から溶存酸素を除去した。溶液について、撹拌しながら、40℃に加熱し、72時間反応を行った。得られた反応混合物をクロロホルム300mLに添加した。この操作によって生じた沈殿物をろ過により回収した。得られた濾物は、パーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソランの重合体(重合体(P))であった。重合体の収量は19.2gであり、収率は81.0%であった。
【0052】
次に、得られた重合体10gを1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン90mLに溶解させた。得られた溶液と、光酸発生剤としてトリス(4-メチルフェニル)スルホニウムノナフルオロブタンスルホネート(富士フイルム和光純薬社製のWPAG-638)0.4gとをガラスバイアル(200mL)内に加え、これらを十分に攪拌することによって、均一な溶液を得た。得られた溶液を孔径0.20μmのPTFEフィルタでろ過することによって、実施例1の感光性組成物を調製した。
【0053】
(比較例1)
まず、下記式(5)~(7)で表される構成単位からなる重合体を準備した。重合体における式(5)で表される構成単位の含有率は63モル%であり、式(6)で表される構成単位の含有率は26モル%であり、式(7)で表される構成単位の含有率は11モル%であった。
【化9】
【0054】
次に、上記の重合体100質量部、光酸発生剤としてトリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート2.5質量部、界面活性剤R-08(DIC社製)0.1質量部、トリペンチルアミン0.2質量部、サリチル酸0.09質量部及び乳酸エチル(EL)600質量部を混合することによって、比較例1の感光性組成物を調製した。
【0055】
(現像性)
実施例1及び比較例1の感光性組成物について、次の方法によって現像性を評価した。まず、4インチの石英ガラス板の上に感光性組成物を塗布した。感光性組成物の塗布は、1000回転/分で30秒間のスピンコートによって行った。次に、感光性組成物について、ホットプレートを用いて、100℃で300秒間加熱して感光性膜を形成した。
【0056】
次に、マスク(直径50μmの円形ホールパターンを形成できるマスク)を介して、感光性膜を露光した。このとき、光源として高圧水銀ランプを用い、露光量を800mJ/cm2に調節した。露光された感光性膜の部分では、光酸発生剤から酸が発生し、重合体が分解した。感光性膜の露光後に、重合体の分解を促進するために、ホットプレートを用いて、感光性膜を120℃で120秒間加熱した。
【0057】
次に、露光された感光性膜に対し、現像操作を行った。現像液としては、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)の2.38wt%水溶液を用いた。現像処理は、ディップ法によって、60秒間行った。これにより、現像膜を形成した。現像膜の厚さは3.0μmであった。現像膜については、水洗を行った後に、120℃60秒間の条件で乾燥処理を行った。
【0058】
次に、現像膜を顕微鏡(KEYENCE社製、VHX DIGITAL MICROSCOPE)で観察した。現像膜に直径50μmのホールが開口していることを確認できた場合、感光性組成物の現像性が良好(○)であると判断した。現像膜に直径50μmのホールが開口していなかった又は現像膜にパターンが形成されていなかった場合、感光性組成物の現像性が不良(×)であると判断した。結果を表1に示す。
【0059】
(接触角)
実施例1及び比較例1のそれぞれの感光性組成物から作製された現像膜について、上述の方法によって、水に対する接触角を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
表1からわかるとおり、重合体(P)を含む感光性組成物は、良好な現像性を有していた。さらに、重合体(P)を含む感光性組成物から形成された現像膜は、水に対する接触角が大きく、高い撥水性を有していた。この程度に高い撥水性を有する現像膜は、バイオチップ、マイクロ流路チップなどの用途に適している。