(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150905
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/46 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
H02K3/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063939
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐
(72)【発明者】
【氏名】志村 樹
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA05
5H604CC01
5H604CC05
5H604PB03
5H604QA01
(57)【要約】
【課題】ローレンツ力によって導線が振動することを防止することができる回転電機を提供する。
【解決手段】転電機は、固定子と、回転子と、を備えている。固定子は、複数のボビン130と、電機子巻線112と、を有している。また、ボビン130の胴部131の側面部131a、131bは、複数の突起136と、2つの突起136の間に形成される溝部137と、を有している。そして、電機子巻線112における1層目の導線は、溝部137に一部が配置される第1導線112a1と、第1導線112a1と隣接し、突起136に巻かれる第2導線112a2と、を有している。また、突起136における溝部137からの突出高さH1は、導線の高さよりも小さく設定される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
前記固定子と対向して配置される回転子と、を備え、
前記固定子は、
複数のボビンと、
前記ボビンの胴部に集中巻された平角線からなる導線を有する電機子巻線と、を有し、
前記ボビンの前記胴部の側面部は、複数の突起と、2つの前記突起の間に形成される溝部と、を有し、
前記電機子巻線における1層目の導線は、
前記溝部に一部が配置される第1導線と、
前記第1導線と隣接し、前記突起に巻かれる第2導線と、を有し、
前記突起における前記溝部からの突出高さは、前記導線の高さよりも小さく設定される
回転電機。
【請求項2】
複数の前記突起の数は、前記電機子巻線の前記導線の層数と同数以上である
請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記突起における前記溝部からの突出高さは、前記導線の高さの半分の長さに設定されている
請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
前記溝部における2つの前記突起の間の長さは、前記導線の長手方向の長さに前記導線の巻膨らみ余裕を加えた長さに設定される
請求項1に記載の回転電機。
【請求項5】
前記導線は、導体に絶縁被膜をコーティングすることで形成され、
前記突起における前記溝部からの突出高さ及び前記溝部における2つの前記突起の間の長さは、前記導体にコーティングされた前記絶縁被膜の厚さを考慮して設定される
請求項3又は4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記胴部は、
前記突起と前記溝部が形成された第1側面部と、
前記第1側面部と対向し、前記突起と前記溝部が形成された第2側面部と、を有し、
前記第2側面部における、前記第1側面部の前記溝部が形成された位置と対向する位置には、前記突起が形成され、
前記第2側面部における、前記第1側面部の前記突起が形成された位置と対向する位置には、前記溝部が形成される
請求項1に記載の回転電機。
【請求項7】
前記突起に突出方向の先端側である前記導線と接触する接触面は、前記導線の形状に合わせて一部に曲面が形成される
請求項1に記載の回転電機。
【請求項8】
前記導線における2層目以降の導線は、少なくとも4本の導線と接触して配置される
請求項1に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エレベーターの巻上機やその他各種の装置には、固定子と、回転子を有する回転電機が設けられている。従来の回転電機としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。
【0003】
特許文献1には、鉄心の周囲を覆う絶縁部材の巻回部に平角線を複数層に重ねて巻回した回転電機のコイルが記載されている。そして、絶縁部材の巻回部は、巻回軸に直交する断面が方形状であり、平角線の横断面は、長辺および短辺を有する長方形状であることが記載されている。また、平角線の一方の長辺が絶縁部材の巻回部に対向するように巻回されている。そして、特許文献1には、絶縁部材の巻き始め部分に対応する巻回部の相対向する一対の辺に沿ってそれぞれ段状突起部を形成することが記載されている。また、段状突起部の幅は、そこに巻回された初期ターン部の平角線の倒れを阻止し得る幅である。さらに、段状突起部の高さHは初期ターン部に隣接する複数層の実ターン部の最外層の平角線が、初期ターン部の平角線に係止されて巻回軸の方向へのずれを阻止される高さであることが記載されている。
【0004】
また、一般的に回転電機のコイルは、駆動中の振動や熱膨張の影響で解けたりしないように、ワニス等の樹脂を用いて固定される。しかしながら、長期的に運用された回転電機のコイルは、繰り返し温度変化や電磁力にさらされることで、樹脂層の摩耗や油脂分の減少が起こり、導線同士の結合力が弱まる。
【0005】
導線同士の結合力が弱まると、コイルに作用するローレンツ力等の作用で、コイルが振動し、振動による摩擦でエナメル層などのコイル表面の被膜が剥がれてしまう。そして、被膜が剥がれたコイルの導線は、導線同士の接触による層間短絡や導線とコアの接触による地絡などを引き起こす原因となっていた。
【0006】
このため、定期的なメンテナンスによる摩耗箇所の確認や、摩耗を低減する対策が必要である。そして、集中巻の回転電機では、コイルに作用するローレンツ力が固定子ヨーク側に発生する。例えば、アウターロータ型の回転電機では、内径方向にローレンツ力が発生し、その力の大きさは周期的である。なお、インターロータ型の回転電機では、外径方向にローレンツ力が発生する。このため、コイルの導線が内径方向に変位しないように、絶縁物等で固定したり、接着を強化したりする必要があった。
【0007】
このような問題の対策として、特許文献1に記載されている技術では、導線の幅方向がボビンの段状突起部に接触することで、導線がローレンツ力によって変位することを規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された技術において、ローレンツ力による変位を規制することができるのは、コイルの1層目だけであった。通常、集中巻コイル構造の回転電機では、平角線である導線が何層も重ねて巻かれている。その結果、特許文献1に記載された技術では、2層目以降に作用したローレンツ力による変位を規制する効果はなく、1層目以外は振動し、動線の被膜が剥がれる、という問題を有していた。
【0010】
本目的は、上記の問題点を考慮し、ローレンツ力によって導線が振動することを防止することができる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、目的を達成するため、回転電機は、固定子と、固定子と対向して配置される回転子と、を備えている。固定子は、複数のボビンと、ボビンの胴部に集中巻された平角線からなる導線を有する電機子巻線と、を有している。また、ボビンの胴部の側面部は、複数の突起と、2つの突起の間に形成される溝部と、を有している。そして、電機子巻線における1層目の導線は、溝部に一部が配置される第1導線と、第1導線と隣接し、突起に巻かれる第2導線と、を有している。また、突起における溝部からの突出高さは、導線の高さよりも小さく設定される。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の回転電機によれば、ローレンツ力によって導線が振動することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施の形態例にかかる回転電機を示す概略構成図である。
【
図2】第1の実施の形態例にかかる回転電機を示す断面図である。
【
図3】第1の実施の形態例にかかる回転電機の一部の固定子を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態例にかかる回転電機のボビンを示す斜視図である。
【
図5】第1の実施の形態例にかかる回転電機のボビンの一部を拡大して示す図である。
【
図6】第2の実施の形態例にかかる回転電機のボビンを示す正面図である。
【
図7】第2の実施の形態例にかかる回転電機のボビンに導線を巻いた状態を示す断面図である。
【
図8】第3の実施の形態例にかかる回転電機のボビンを示す斜視図である。
【
図9】第3の実施の形態例にかかる回転電機のボビンの一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、回転電機の実施の形態例について、
図1~
図9を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0015】
1.第1の実施の形態例
1-1.回転電機の構成例
まず、第1の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる回転電機の構成について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、回転電機を示す概略構成図である。
図2は、回転電機を示す断面図である。なお、以下の説明において、「内径側」および「外径側」という記載は、それぞれ回転軸中心に対して距離が近い側(半径方向の内側)と遠い側(半径方向の外側)を意味する。また、「径方向」という記載は、回転軸と垂直に交わる直線方向を意味し、「円周方向」という記載は、回転軸(後述するシャフト4)の回転方向を意味する。
【0016】
本例の回転電機は、例えば、エレベーターの巻上機に用いられる。
図1及び
図2に示すように、本例の回転電機100は、スロット数が36、磁極数が32の集中巻アウターロータ型永久磁石同期モータである。なお、スロット数及び磁極数については、限定されないものであり、例えば、スロット数を48、磁極数を40としてもよい。また、回転電機100は、アウターロータ型のモータに限定されるものではなく、インナーロータ型のモータであってもよい。
【0017】
回転電機100は、ロータケース2と、シャフト4と、固定子10と、回転子20と、を備えている。ロータケース2は、有底の略円筒状に形成されている。ロータケース2の軸方向の一端部には、シャフト4が固定されている。ロータケース2の筒孔内には、固定子10と、回転子20が配置される。そして、ロータケース2は、回転子20を覆う。回転子20は、シャフト4の中心軸を中心に回転する。なお、ロータケース2は、回転子20の全体を覆う必要はなく、シャフト4と回転子20を固定し、シャフト4と回転子20を同時に回転する部品であればよい。
【0018】
なお、回転電機100のシャフト4及びロータケース2の軸方向をZ方向とし、Z方向と直交する方向をX方向、Z方向及びX方向と直交する方向をY方向とする。
【0019】
また、ロータケース2に固定された回転子20の内径側には、固定子10が配置されている。回転子20と固定子10は、所定のギャップ102を介して対向している。また、回転子20と固定子10の中心は、一致している。
【0020】
回転子20は、ロータケース2の内壁面に固定されている。
図2に示すように、回転子20は、磁性体からなる回転子コア120と、複数の永久磁石122とを有している。回転子コア120は、円環状に形成されている。回転子コア120は、例えば、鋳造した磁性体を、旋盤等を用いて加工した一体コアや、プレス加工やレーザ加工で任意の形状に形成された磁性体の積層コアである。磁性体の材質としては、一般的に薄板のケイ素鋼板が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
複数の永久磁石122は、回転子コア120の内径側に固定されており、円周方向に沿って配置されている。永久磁石122は、その磁化方向が半径方向の内側である中心軸を向いている。また、永久磁石122は、その磁極が交互になるように円周方向に並べられている。本例では、複数の永久磁石122は、16極対を構成する。
【0022】
永久磁石122の材質としては、フェライト磁石系や、ネオジム磁石系、サマリウムコバルト磁石系などその他各種の材質が適用される。また、永久磁石122は、径方向や周方向、軸方向に複数に分割されていてもよい。永久磁石122における回転子コア120への固定方法は、接着材を用いた接着でもよく、または、磁石の全部あるいは一部を覆う介在物でギャップ102の方向から押さえつける方法でもよく、特に限定されるものではない。
【0023】
固定子10は、略円筒状の固定子ヨーク110と、複数の固定子ティース116と、複数のボビン130と、電機子巻線112とを有している。なお、ボビン130と、ボビン130に巻回された電機子巻線112により固定子コイルが構成される。複数の固定子ティース116は、固定子ヨーク110の外周面から半径方向の外側に向けて突出している。複数の固定子ティース116は、固定子ヨーク110の円周方向に沿って等間隔に並べて配置されている。本例では、固定子ティース116は、36個設けられている。
【0024】
ここで、ギャップ102の内周側であって、2つの固定子ティース116、116で囲まれた空間をスロット118と呼ぶ。スロット118は、複数の固定子ティース116と同様に、固定子ヨーク110の円周方向に沿って36個並んでいる。
【0025】
固定子ヨーク110及び固定子ティース116は、回転子コア120と同様に、磁性体で構成される。固定子ヨーク110及び固定子ティース116は、一体コアでもよく、固定子ヨーク110を円周方向に分割した分割コアでもよい。
【0026】
固定子ティース116には、ボビン130が固定されている。ボビン130は、固定子ティース116の周囲を囲むように配置される。ボビン130の固定子ティース116への固定方向は、接着材を用いた接着でもよく、あるいは機械的にボルト等で固定子ヨーク110に固定しもよい。
【0027】
ボビン130には、電機子巻線112がコイルとして集中巻されている。これにより、固定子コイルが形成される。本例において、電機子巻線112は、断面が略長方形の平角電線で構成される。電機子巻線112は、例えば、銅を主成分とした電気導体に絶縁被膜(例えば、エネメルやエンプラ等)がコーティングされた導線が使用される。なお、ボビン130の詳細な構成については、後述する。
【0028】
電機子巻線112を構成する導線の長手方向の長さWは、導線の長手方向の絶縁被膜の厚さWBを含めた幅である。そして、導線の長手方向の長さWは、導線の導体幅WAに対して、W=WA+2*WBで表される。同様に、導線の短手方向の長さHは、導線の短手方向の絶縁被膜の厚さHBと、導線の導体高さHAに対して、H=HA+2*HBであらわされる。
【0029】
電機子巻線112は、長方形の長手方向Wがボビン130の径方向側面に接触するように巻き付けられ、巻回数が任意の巻数に到達するまで導線の上に導線を重ねて巻かれる。電機子巻線112は、ボビン130に巻きつけられた後、ワニス等の樹脂を含浸させることで固定される。また、皮膜に接着効果のある融着層を設けた自己融着線を用い、加熱処理で固定してもよい。
【0030】
なお、本例では、外周方向にまっすぐ伸びた固定子ティース116により、スロット118が、オープンスロットで構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、固定子ティース116の先端部に円周方向に延びる略楕円状の鍔部を設け、スロット118をセミクロースで構成してもよい。
【0031】
図3は、固定子10について、電流を通電した際のU相、2スロット分を抜粋した断面図である。
図3における電機子巻線112状に記載した丸印141とバツ印142は、電流の向きを示している。丸印141は、紙面の手前向きに流れる電流を示し、バツ印142は紙面の奥向きに流れる電流を示している。また、電機子巻線112には、交流電流が流れる。そのため、
図3に示す電流向きはある時点の電流の向きであり、固定子ティース116の両側の電機子巻線112は一体であるため、その電流の向きは互いに逆方向となる。
【0032】
図3に示す破線の矢印は、漏れ磁束の経路140を示す。漏れ磁束は、電機子巻線112に通電することによって発生する。この漏れ磁束は、回転子20側には鎖交せず、回転電機100のトルクとならない。漏れ磁束の経路140は、固定子ティース116からスロット118を貫通し、隣接する固定子ティース116及び固定子ヨーク110を通る。
【0033】
この漏れ磁束の経路140は、固定子10の中で完結した回路状の磁束分布である。そして、漏れ磁束は、隣接するスロット118間で全てのスロット118に発生する。漏れ磁束がスロット118を通る経路において、電機子巻線112に鎖交する際に、ローレンツ力が発生する。このローレンツ力は、電機子巻線112を構成する導線全体に発生する。
アウターロータ型のモータにおいて、ローレンツ力の発生方向は、固定子10の半径方向の内側である内周側を向いている。なお、インナーロータ型のモータでは、ローレンツ力の発生方向は、固定子の半径方向の外側である外周側を向いている。そして、ローレンツ力の発生方向は、回転電機100の回転方向によらず一定方向である。また、ローレンツ力は、回転電機100の電機角において、1周期あたり2回の周期的な力を発生する。
【0034】
なお、インナーロータ型のモータでは、ローレンツ力の発生方向は、固定子の半径方向の外側である外周側を向く。
【0035】
[ボビンの構成]
次に、ボビン130の構成について、
図4を参照して説明する。
図4は、ボビン130を示す斜視図である。
図4に示すように、ボビン130は、中空の筒状に形成されている。ボビン130は、略角筒状の胴部131と、2つの鍔部132とを有している。鍔部132は、胴部131の軸方向(
図4に示す例ではY方向)の両端部に形成されている。鍔部132は、胴部131の両端部から外側に向けて張り出して形成されている。鍔部132は、胴部131におけるギャップ102に面した外周側と、スロット118の底面である内周側にそれぞれ形成される。
【0036】
胴部131は、筒孔を有する略角筒状に形成されている。そして、胴部131の筒孔には、固定子ティース116が挿入される。胴部131は、第1側面部131aと、第1側面部131aに対向する第2側面部131bと、第3側面部131cと、第4側面部131dとを有している。第1側面部131a及び第2側面部131bは、回転電機100の円周方向に沿って配置される。また、第3側面部131cと第4側面部131dは、互いに対向する。
【0037】
第1側面部131a及び第2側面部131bは、それぞれ略長方形状に形成されている。なお、第1側面部131aと第2側面部131bは、同一の構成を有しているため、第1側面部131aについて説明する。第1側面部131aの長手方向の一端部に第3側面部131cが形成されており、第1側面部131aの長手方向の他端部に第4側面部131dが形成されている。また、第1側面部131aの短手方向の両端部に鍔部132が形成されている。
【0038】
第1側面部131aには、それぞれ複数の突起136が形成されている。突起136は、第1側面部131aにおける長手方向の一端部から他端部に沿って連続する突条である。また、複数の突起136は、第1側面部131aにおける短手方向に所定の間隔を開けて並べて配置される。突起136の間隔の長さは、電機子巻線112を構成する導線の長手方向の長さWに応じて設定される。なお、突起136の間隔の長さ及び突起136の突出高さについては、後述する。
【0039】
第1側面部131aにおける突起136の間には、溝部137が形成される。溝部137は、突起136と同様に、第1側面部131aにおける長手方向の一端部から他端部に沿って連続して形成される。
【0040】
ボビン130は、樹脂を用いて射出成形や3Dプリント等の手段により形成される。また、本例のボビン130は、一体成形品で説明したが、これに限定されるものではなく、固定子ティース116に装着しやすいように、例えば、軸方向に対して複数に分割し、固定子ティース116に嵌合可能な形状で形成してもよい。
【0041】
1-2.電機子巻線の巻回状態
次に、上述した構成を有するボビン130に巻き付けられる電機子巻線112の巻回状態について
図5を参照して説明する。
図5は、ボビン130の一部を拡大して示す図である。なお、
図5に示すハッチングされた電機子巻線112は、コイルの1層目を示している。
【0042】
ここで、従来の突起の無いボビン構造では、平角線を示す電機子巻線の導線が
図3に示すローレンツ力が作用していた。そして、従来のボビン構造では、動線の移動は、ボビンに設けた鍔部のみで規制していたため、電機子巻線全体がローレンツ力により振動する、という問題を有していた。
【0043】
これに対して、本例の回転電機100によれば、下記の理由により、電機子巻線112に作用するローレンツ力による導線の変位を抑制することができる。
【0044】
図5に示すように、電機子巻線112は、ボビン130の突起136と溝部137に沿って整列して巻かれている。そして、2層目以降の電機子巻線112の導線112b1、112b2、112b3は、1層目の電機子巻線112の凹凸に重なるように順に巻かれる。
【0045】
ここで、突起136の幅W1は、電機子巻線112の導線の長手方向の長さWと同等である。また、2つの突起136の間隔である溝部137の幅W2は、電機子巻線112の導線の長手方向の長さWに導線の巻膨らみ余裕WCを加えた長さに設定される。すなわち、W=W1<W2の関係である。巻膨らみ余裕WCは、導線の長手方向の絶縁被膜の厚さWBの2倍程度の値である。また、突起136における溝部137からの突出高さ(以下、単に高さという)H1は、導線の短手方向の長さHに対し、H1<Hの関係に設定されている。なお、本例では、突起136の高さH1は、導線の短手方向の長さHの半分の長さに設定されている。
【0046】
図5に示すように、電機子巻線112の1層目には、例えば、第1導線112a1、第2導線112a2、第3導線112a3の順に巻かれている。第1導線112a1は、溝部137に巻かれており、2つの突起136、136の間に配置される。また、第1導線112a1に隣接する第2導線112a2は、突起136上に巻かれている。そして、第2導線112a2に隣接する第3導線112a3は、溝部137に巻かれており、2つの突起136、136の間に配置される。
【0047】
第1導線112a1及び第3導線112a3は、一部が溝部137内に嵌まり込んでいる。本例では、突起136の高さH1が導線の短手方向の長さHの半分の長さに設定されているため、第1導線112a1及び第3導線112a3の半分が溝部137に嵌まり込、残りの半分が溝部137から露出している。
【0048】
また、第1導線112a1及び第3導線112a3は、一部が2つの突起136、136の間に配置されることで、第1導線112a1及び第3導線112a3は、2つの突起136、136に当接する。これにより、第1導線112a1及び第3導線112a3における内径方向への変位を規制することができる。
【0049】
なお、突起136上に配置された第2導線112a2は、第1導線112a1及び第3導線112a3の一部に当接する。これにより、第2導線112a2における内径方向への変位を規制することができる。
【0050】
これにより、電機子巻線112の1層目の導線112a1、112a2、112a3は突起136で変位および振動を規制することができる。また、電機子巻線112の最内径の導線は、他の導線112a1、112a2、112a3と連続した導線である。そのため、電機子巻線112の最内径の導線においても、他の導線が規制されることで動きを抑制することができる。
【0051】
また、電機子巻線112の2層目には、例えば、第1導線112b1、第2導線112b2、第3導線112b3の順に巻かれている。第1導線112b1は、1層目の第1導線112a1上に巻かれており、第2導線112b2は、1層目の第2導線112a2上に巻かれている。そして、第3導線112b3は、1層目の第3導線112a3上に巻かれている。
【0052】
第1導線112b1は、最内径の導線と1層目の第2導線112a2及び2層面の第2導線112b2と接触している。また、第2導線112b2は、2層目の第1導線112b1及び第3導線112b3と接触している。そして、第3導線112b3は、1層目の第2導線112a2及び2層面の第2導線112b2と接触している。
【0053】
上述したように、1層目の導線112a1、112a2、112a3は、突起136により、変位が規制されている。この規制された導線112a1、112a2、112a3に当接することで、2層目の導線112b1、112b2、112b3全体の変位も規制することができる。なお、電機子巻線112の3層目以降の導線についても同様であるため、その説明は省略する。また、本例の回転電機100のように、径方向に11列、円周方向に3層の導線が巻かれた構成であれば、上記効果により、半分以上の導線の変位を規制することができ、実質的に電機子巻線112全体の振動を低減する効果を得ることができる。
【0054】
2つの突起136、136の間である溝部137に複数本の導線を配置することが考えられるが、上述した導線の変位を規制するためには、2つの突起136、136の間である溝部137に配置される導線の数は、1本であることが好ましい。
【0055】
では、突起136の高さH1は、導線の短手方向の長さHの半分の長さに設定したが、これに限定されるものではない。しかしながら、突起136の高さH1を導線の短手方向の長さHの半分よりも短くした場合、1層目の導線における突起136と当接する面積が小さくなる。また、突起136の高さH1を導線の短手方向の長さHの半分よりも長くした場合、2層目の導線における1層目の導線と当接する面積が小さくなる。そのため、突起136の高さH1は、導線の短手方向の長さHの半分の長さに設定することが好ましい。
【0056】
上述したように、電機子巻線112のコイル層数に対して、突起136の数を同数に設定すれば最大の効果が得られる。なお、本例では、胴部131の第1側面部131a及び第2側面部131bの全面に突起136を設けている。これにより、突起136により導線の変位を規制する効果に加えて、電機子巻線112を接着した際の導線同士の結合力を高めることができる。
【0057】
ここで、従来の回転電機における電機子巻線の導線は、1層目と2層目の導線が円周方向の面だけで接着される。この場合、径方向に働くローレンツ力は、導線の接触面に対して、せん断方向の力になるため、導線同士の接着が剥がれやすい方向となる。
【0058】
これに対して、本例の回転電機100では、電機子巻線112の導線を互い違いのレンが積み状に配置している。そのため、
図5に示すように、導線は、導線の円周方向の面だけではなく、径方向の面でも他の導線と接触している。すなわち、2層目以降の導線は、少なくとも4本以上の導線と接触している。また、突起136の高さH1は、導線の短手方向長さHの半分の長さに設定されている。そのため、導線における径方向の面で他の導線と接触する面積を均一にできる。これにより、任意の導線に対して接着する導線の数を従来よりも増加させることができる。ワニスや導線の自己融着によって、導線の接触面積も各層で偏りがなく、導線同士の結合力を最大限に高めることができる。
【0059】
このように、本例の回転電機100によれば、突起136による動線の振動の低減効果だけでなく、導線同士が互いに移動を規制する振動抑制効果も得ることができる。これにより、導線が移動することで生じる故障の発生を抑制できる回転電機100を提供することができる。
【0060】
2.第2の実施の形態例
次に、第2の実施の形態例にかかる回転電機ついて
図6~
図7を参照して説明する。
図6は、第2の実施の形態例にかかる回転電機のボビンを示す正面図、
図7は、第2の実施の形態例にかかる回転電機のボビンに導線を巻いた状態を示す断面図である。
【0061】
この第2の実施の形態例にかかる回転電機が、第1の実施の形態例にかかる回転電機100と異なる点は、ボビンの構成である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる回転電機と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0062】
図6及び
図7に示すように、ボビン230は、略角筒状の胴部231と、2つの鍔部232とを有している。胴部231は、互いに対向する第1側面部231aと、第2側面部231bとを有している。第1側面部231a及び第2側面部231bには、複数の突起236と、複数の溝部237が形成されている。
【0063】
なお、突起236の高さH1は、第1の実施の形態例にかかるボビン130の突起136の高さH1と同等である。突起136の径方方向の長さ(幅)W1は、第1の実施の形態例にかかるボビン130の突起136の幅W1と同等である。そして、溝部237の幅W2は、第1の実施の形態例にかかるボビン130の溝部137の幅W2と同等である。
【0064】
また、第2側面部231bにおける第1側面部231aの突起236が形成された位置と円周方向で対向する位置には、溝部237が形成されている。さらに、第2側面部231bにおける第1側面部231aの溝部237が形成された位置と円周方向で対向する位置には、突起236が形成されている。すなわち、突起236は、胴部231を間に挟んで、第1側面部231aと第2側面部231bにおいて、互い違いに配置される。
【0065】
そして、このボビン230には、電機子巻線212がコイルとして集中巻されている。電機子巻線212の1層目の導線は、突起236及び溝部237上に巻かれる。上述したように、突起236は、胴部231を間に挟んで、第1側面部231aと第2側面部231bにおいて、互い違いに配置されている。そのため、第1側面部231aの突起236上に配置された導線212eは、第2側面部231bでは、溝部237に配置される。そのため、各層におけるボビン230の胴部231を導線212eが一周する1ターン当たりの周長を一定にすることができる。
【0066】
ここで、上述した第1の実施の形態例における回転電機100では、同じ層でも、突起136上に配置される導線(例えば、第2導線112a2)と、溝部137に配置される導線(例えば、第1導線112a1)が発生する。そのため、1ターン当たりの導線長さが、突起136上に配置された導線と、溝部137に配置された導線とで、異なる。その結果、巻線機等でコイルを形成する際に、送り量などを調節する必要があった。
【0067】
これに対して、第2の実施の形態例にかかる回転電機によれば、各層の導線の周長が一定であるため、1ターン毎に導線の送り量を調節する必要がなくなる。これにより、線機等でコイルを形成する際に導線にかかるテンションの大きさを一定にすることができ、コイルがばらつきにくくすることができる。その結果、コイルを製作する際における導線の位置の不整やテンションの不均一を改善でき、コイル部品の歩留まり向上を図ることができる。
【0068】
その他の構成は、上述した第1の実施の形態例にかかる回転電機と同様であるため、それらの説明は省略する。このようなボビン230を有する回転電機においても、上述した第1の実施の形態例にかかる回転電機100と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0069】
3.第3の実施の形態例
次に、第3の実施の形態例にかかる回転電機ついて
図8~
図9を参照して説明する。
図8は、第3の実施の形態例にかかる回転電機のボビンを示す斜視図、
図9は、第3の実施の形態例にかかる回転電機のボビンの一部を拡大して示す
【0070】
この第3の実施の形態例にかかる回転電機が、第1の実施の形態例にかかる回転電機100と異なる点は、ボビンの構成である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる回転電機と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0071】
図8に示すように、ボビン330は、略角筒状の胴部331と、2つの鍔部332とを有している。胴部331は、互いに対向する第1側面部331a及び第2側面部331bと、互いに対向する第3側面部331c及び第4側面部331dと、を有している。第1側面部331a及び第2側面部331bには、複数の突起336と、複数の溝部337が形成されている。
【0072】
図9に示すように、突起336における突出方向の先端側、すなわち円周方向の接触面336aは、電機子巻線312の導線に対応して、一部に曲面が形成されている。接触面336aは、突起336における溝部337側の角部から中心に向かうにつれて円弧状に形成されている。そして、接触面336aにおける曲面の曲率は、電機子巻線312の導線の角部に形成される曲面の曲率と同じ曲率に設定される。
【0073】
これにより、ボビン330に導線を巻いてコイルを形成していく際に、電機子巻線312における径方向への変移を突起336における接触面336aの曲面部分で規制することができる。その結果、突起336の接触面336a上で導線の位置がずれることを防止することができ、コイル部品の歩留まり向上を図ることができる。
【0074】
なお、突起336の接触面336aを曲面状に形成した例を説明したが、溝部337における導線と接触する面も同様に、曲面状に形成してもよい。
【0075】
その他の構成は、上述した第1の実施の形態例にかかる回転電機と同様であるため、それらの説明は省略する。このようなボビン330を有する回転電機においても、上述した第1の実施の形態例にかかる回転電機100と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0076】
なお、上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0077】
なお、上述した実施の形態例では、突起と溝部をボビンにおける回転電機の円周方向に配置された長辺部である第1側面部と第2側面部に設けた例を説明したが、ボビンの短辺部である第3側面部及び第4側面部に突起と溝部を設けてもよい。さらに、ボビンの胴部を角筒状に形成したが、胴部の形状は角筒に限定されるものではなく、その他各種の形状であってもよい。すなわち、電機子巻線を胴部に巻き付けた際の電機子巻線の膨らみに応じて、胴部の側面部の形状を曲面状に湾曲させて形成してもよい。
【0078】
さらに、回転電機として、エレベーターの巻上機に用いられる回転電機を適用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、本例の回転電機は、その他各種の装置に用いられる回転電機に適用できるものである。
【0079】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
2…ロータケース、 4…シャフト、 10…固定子、 20…回転子、 100…回転電機、 102…ギャップ、 110…固定子ヨーク、 112、212、312…電機子巻線、 112a1、112a2、112a3、112b1、112b2、112b3、212e…導線、 116…固定子ティース、 118…スロット、 120…回転子コア、 122…永久磁石、 130、230、330…ボビン、 131、231、331…胴部、 131a、231a、331a…第1側面部、 131b、231b、331b…第2側面部、 131c、331c…第3側面部、 131d、331d…第4側面部、 132、232、332…鍔部、 136、236、336…突起、 137、237、337…溝部、 140…経路、336a…接触面