(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150923
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び磁気軸受制御装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04D19/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063973
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】笠原 一哉
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA09
3H131BA11
3H131CA13
3H131CA41
(57)【要約】
【課題】書き込み可能な不揮発性メモリに格納された情報が破損した場合に専門の技術者等でなくても復旧が可能な真空ポンプ、及び磁気軸受制御装置を提案する。
【解決手段】真空ポンプ100は、制御部100B内に、第1記憶手段204が正常であるかを判定し、第1記憶手段204が異常であれば第3記憶手段203に格納された個体識別情報を正として第1記憶手段204に格納された個体識別情報を上書きする、又は第2記憶手段202が正常であるかを判定し、第2記憶手段202が異常であれば第3記憶手段203に格納された個体識別情報を正として第2記憶手段202に格納された個体識別情報を上書きする判定上書き手段を備えることを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置を備えた真空ポンプであって、
前記磁気軸受装置の個体識別情報と、前記磁気軸受装置の諸特性に関する制御情報とに基づいて前記磁気軸受装置を制御する制御部と、
前記制御部内に、前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第1記憶手段と、
前記磁気軸受装置内に、前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第2記憶手段と、
前記磁気軸受装置内に、前記個体識別情報が格納された書き込み不可能な第3記憶手段と、
前記制御部内に、前記第1記憶手段が正常であるかを判定し、前記第1記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第1記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする、又は前記第2記憶手段が正常であるかを判定し、前記第2記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第2記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする判定上書き手段と、を備えることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記第1記憶手段は、前記制御情報を格納しており、
前記第2記憶手段は、前記制御情報を格納しており、
前記第3記憶手段は、前記制御情報を格納しており、
前記判定上書き手段は、前記第1記憶手段が正常であるかを判定し、前記第1記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記制御情報を正として前記第1記憶手段に格納された前記制御情報を上書きする、又は前記第2記憶手段が正常であるかを判定し、前記第2記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記制御情報を正として前記第2記憶手段に格納された前記制御情報を上書きすることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置の制御を行う磁気軸受制御装置であって、
前記磁気軸受装置の個体識別情報と、前記磁気軸受装置の諸特性に関する制御情報とに基づいて前記磁気軸受装置を制御する制御部と、を備え、
前記制御部内に、前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第1記憶手段と、
前記制御部内に、前記磁気軸受装置内に設けられ前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第2記憶手段、及び前記磁気軸受装置内に設けられ前記個体識別情報が格納された書き込み不可能な第3記憶手段にアクセスするアクセス手段と、
前記制御部内に、前記第1記憶手段が正常であるかを判定し、前記第1記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第1記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする、又は前記第2記憶手段が正常であるかを判定し、前記第2記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第2記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする判定上書き手段と、を備えることを特徴とする磁気軸受制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、及び磁気軸受制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプ等の真空ポンプでは、回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置が使用されている。磁気軸受装置は、回転軸の変位を検出するセンサと回転軸の位置を調整する電磁石を備えていて、センサと電磁石は磁気軸受制御装置に対して電気的に接続されている。磁気軸受制御装置は、センサで検出した変位に基づいて電磁石を励磁制御し、これにより回転軸を磁気浮上させることができる(例えば特許文献1参照)。また、半導体製造装置等のチャンバ内からプロセスガスを排気する際に真空ポンプを使用する場合においては、プロセスガスが固体化して磁気軸受装置内で副生成物が堆積することを避けるため、磁気軸受装置内を所定の温度範囲に維持するヒータや冷却装置が設けられている。磁気軸受制御装置は、このヒータや冷却装置も制御している。
【0003】
このような磁気軸受装置は、回転軸を磁気浮上させるうえでの制御に関し、電流値や基準値等の諸特性が機種によって異なっている。また、回転軸を含む回転体の機械的中心位置と電気的中心位置との誤差は個体毎に異なるうえ、ヒータ等を備える場合の温度に関するパラメータは各個体に対して設定されることから、磁気軸受装置の制御においてこれらに係わる諸特性は個体毎に相違する。
【0004】
特許文献1の如き従来の真空ポンプにおいて、磁気軸受装置は、機種毎に抵抗値が異なる抵抗と、書き込み可能な不揮発性メモリ(EEP-ROM)を備えていて、書き込み可能な不揮発性メモリには、磁気軸受装置の個体を特定するための個体識別情報(例えば磁気軸受装置の製造番号等)、及び磁気軸受装置における機種毎並びに個体毎の諸特性に関する制御情報が格納されている。また磁気軸受制御装置も、書き込み可能な不揮発性メモリを備えていて、この書き込み可能な不揮発性メモリには、磁気軸受装置の機種を特定する機種情報、磁気軸受装置の個体を特定するための個体識別情報、及び磁気軸受装置における機種毎並びに個体毎の諸特性に関する制御情報が格納されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで磁気軸受装置と磁気軸受制御装置は、例えばシリアル通信によって信号を送受信しているが、電磁気的な要因によって通信時にノイズが混入したり、制御の処理が通信中に意図せず終了したりすることにより、書き込み可能な不揮発性メモリに格納された情報が破損するおそれがある。ここで従来の真空ポンプは、特許文献1に示されているように、磁気軸受装置と磁気軸受制御装置の不揮発性メモリに同じ情報を格納していて、一方の不揮発性メモリに格納している制御情報等を用いて他方の不揮発性メモリに格納している制御情報等を上書きする機能を備えている。
【0007】
なお、磁気軸受装置の動作条件としては、磁気軸受装置の不揮発性メモリに格納されている個体識別情報と、磁気軸受制御装置の不揮発性メモリに格納されている個体識別情報が一致しているときに動作するように設定されている。これは、特に磁気軸受装置と磁気軸受制御装置とが分離可能な真空ポンプにおいては磁気軸受装置と磁気軸受制御装置との組み合わせが変更されることがあることから、現在接続されている磁気軸受装置と磁気軸受制御装置とが最後に組み合わされていたものであることを確認する必要があるからである。ここで、書き込み可能な不揮発性メモリにおいて個体識別情報が破損した場合には、一方の個体識別情報と他方の個体識別情報が不一致となるため、制御情報等の上書きを行うことができず、専門の技術者等でなければ真空ポンプを復旧させることができない。
【0008】
このような点に鑑み、本発明は、書き込み可能な不揮発性メモリに格納された情報が破損した場合に専門の技術者等でなくても復旧が可能な真空ポンプ、及び磁気軸受制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置を備えた真空ポンプであって、前記磁気軸受装置の個体識別情報と、前記磁気軸受装置の諸特性に関する制御情報とに基づいて前記磁気軸受装置を制御する制御部と、前記制御部内に、前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第1記憶手段と、前記磁気軸受装置内に、前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第2記憶手段と、前記磁気軸受装置内に、前記個体識別情報が格納された書き込み不可能な第3記憶手段と、前記制御部内に、前記第1記憶手段が正常であるかを判定し、前記第1記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第1記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする、又は前記第2記憶手段が正常であるかを判定し、前記第2記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第2記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする判定上書き手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このような真空ポンプにおいて、前記第1記憶手段は、前記制御情報を格納しており、前記第2記憶手段は、前記制御情報を格納しており、前記第3記憶手段は、前記制御情報を格納しており、前記判定上書き手段は、前記第1記憶手段が正常であるかを判定し、前記第1記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記制御情報を正として前記第1記憶手段に格納された前記制御情報を上書きする、又は前記第2記憶手段が正常であるかを判定し、前記第2記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記制御情報を正として前記第2記憶手段に格納された前記制御情報を上書きすることが好ましい。
【0011】
また本発明は、回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置の制御を行う磁気軸受制御装置であって、前記磁気軸受装置の個体識別情報と、前記磁気軸受装置の諸特性に関する制御情報とに基づいて前記磁気軸受装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部内に、前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第1記憶手段と、前記制御部内に、前記磁気軸受装置内に設けられ前記個体識別情報が格納された書き込み可能な第2記憶手段、及び前記磁気軸受装置内に設けられ前記個体識別情報が格納された書き込み不可能な第3記憶手段にアクセスするアクセス手段と、前記制御部内に、前記第1記憶手段が正常であるかを判定し、前記第1記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第1記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする、又は前記第2記憶手段が正常であるかを判定し、前記第2記憶手段が異常であれば前記第3記憶手段に格納された前記個体識別情報を正として前記第2記憶手段に格納された前記個体識別情報を上書きする判定上書き手段と、を備えることを特徴とする磁気軸受制御装置でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の真空ポンプは、制御部内に、個体識別情報が格納された書き込み可能な第1記憶手段が設けられていて、磁気軸受装置内には、個体識別情報が格納された書き込み可能な第2記憶手段と、個体識別情報が格納された書き込み不可能な第3記憶手段が設けられている。すなわち、第3記憶手段は書き込み不可能であるため、通信時にノイズが混入したり、制御の処理が通信中に意図せず終了したりすることがあっても、第3記憶手段に格納された個体識別情報は破損することがない。ここで制御部内に設けられた判定上書き手段は、第1記憶手段が正常であるかを判定し、第1記憶手段が異常であれば第3記憶手段に格納された個体識別情報を正として第1記憶手段に格納された個体識別情報を上書きする、又は第2記憶手段が正常であるかを判定し、第2記憶手段が異常であれば第3記憶手段に格納された個体識別情報を正として第2記憶手段に格納された個体識別情報を上書きするように構成されている。すなわち、異常と判定された第1記憶手段や第2記憶手段に格納されている個体識別情報は破損している可能性があるが、これを第3記憶手段に格納された正常な個体識別情報で上書きすることができるため、第1記憶手段と第2記憶手段に格納されている個体識別情報は一致することになる。従って、制御部内の書き込み可能な記憶手段(例えば第1記憶手段)に格納された磁気軸受装置の諸特性に関する制御情報と、磁気軸受装置内の書き込み可能な記憶手段(例えば第2記憶手段)に格納された磁気軸受装置の諸特性に関する制御情報の何れか一方で何れか他方を上書きすることができるため、専門の技術者等でなくても真空ポンプを復旧させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る真空ポンプの一実施形態を概略的に示した縦断面図である。
【
図2】
図1に示した真空ポンプのアンプ回路の回路図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】磁気軸受装置と磁気軸受制御装置の電気的構成を概略的に示した図である。
【
図6】磁気軸受制御装置で磁気軸受装置を制御する際の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図6に示したAとBに関係するフローチャートである。
【
図8】
図6の変形例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る真空ポンプの一実施形態であるターボ分子ポンプについて、図面を参照しながら説明する。
【0015】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。ターボ分子ポンプ100は、磁気軸受装置100Aと磁気軸受制御装置100Bで構成されている。本実施形態の磁気軸受制御装置100Bは、磁気軸受装置100Aと分離していて、ケーブルを介して磁気軸受装置100Aと電気的に接続されているものとして示したが、磁気軸受装置100Aに組み込まれていてもよい。なお、磁気軸受制御装置100Bは、本願明細書等の「制御部」に相当する。
図1において、磁気軸受装置100Aには、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が備えられている。そして、外筒127の内方には、中心軸CAを中心に回転する回転体103(ロータ)が備えられている。回転体103は、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に備えている。この回転体103の中心にはロータ軸113(回転軸)が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0016】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、磁気軸受制御装置100Bに送るように構成されている。
【0017】
この磁気軸受制御装置100Bにおいては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0018】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0019】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が磁気軸受制御装置100Bに送られるように構成されている。
【0020】
そして、磁気軸受制御装置100Bにおいて、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0021】
このように、磁気軸受制御装置100Bは、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0022】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、磁気軸受制御装置100Bによって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0023】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。磁気軸受制御装置100Bでは、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0024】
外筒127の内周側で且つ回転体103の外周側には、回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0025】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0026】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入って磁気軸受装置100Aの内部を移送されてきた排気ガスは、下流側の排気口133へと送られる。
【0027】
さらに、磁気軸受装置100Aの用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部(配設されたネジ付スペーサ131に対向する部位)には円筒部102dが垂下される。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0028】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0029】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0030】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外筒127へと伝達する。
【0031】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0032】
また、磁気軸受装置100Aの用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0033】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0034】
ここに、磁気軸受装置100Aは、機種毎並びに個体毎の制御パラメータ(機種毎並びに個体毎の諸特性に関する制御情報)に基づいた制御を要する。この制御情報を格納するために、上記磁気軸受装置100Aは、その本体内に電子回路部141を備えている。本実施形態の電子回路部141は、EEP-ROM等の書き込み可能な不揮発性メモリ(後述する第2記憶手段202)、書き込み不可能な不揮発性メモリ(後述する第3記憶手段203)、そのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0035】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。磁気軸受装置100A内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、磁気軸受装置100A内部に付着して堆積する。
【0036】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、磁気軸受装置100A内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、磁気軸受装置100A内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、磁気軸受装置100Aの性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0037】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管(冷却装置)を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0038】
次に、このように構成される磁気軸受装置100Aに関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0039】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0040】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0041】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0042】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0043】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、磁気軸受制御装置100Bの図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0044】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0045】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0046】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0047】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、磁気軸受装置100Aに生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0048】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0049】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0050】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0051】
次に、
図5を参照しながら磁気軸受装置100Aが備える電子回路部141と磁気軸受制御装置100Bの電気的構成について説明する。電子回路部141は、抵抗201と、例えば書き込み可能な不揮発性メモリである第2記憶手段202と、例えば書き込み不可能な不揮発性メモリである第3記憶手段203を備えている。磁気軸受制御装置100Bは、例えば書き込み可能な不揮発性メモリである第1記憶手段204と、ROMテーブル205を備えている。
【0052】
抵抗201は、磁気軸受装置100Aの機種に対応して決められた抵抗値を有するものであり、抵抗201の抵抗値を計測することによって磁気軸受装置100Aの機種を特定することができる。ここで、磁気軸受装置100Aの機種に関する情報を機種情報と称する。
【0053】
第2記憶手段202は、本実施形態においては、上述した機種情報の他、個体識別情報、制御情報、履歴情報を格納している。ここで個体識別情報とは、磁気軸受装置100Aの個体を特定するための情報であり、例えば磁気軸受装置100Aのそれぞれに付けられた製造番号がこの情報に相当する。制御情報とは、磁気軸受装置100Aの諸特性に関する情報であり、本実施形態では、機種制御情報と個体制御情報からなる情報である。ここで機種制御情報とは、磁気軸受装置100Aにおける機種毎に特定される制御情報であり、例えば磁気軸受装置100Aの機種に対応して設定される制御パラメータ(具体的な一例として、ロータ軸113を上側径方向電磁石104等で磁気浮上させる際の電流値等)である。また個体制御情報とは、磁気軸受装置100Aにおける個体毎に特定される制御情報であり、例えば磁気軸受装置100Aの個体に対応して設定される制御パラメータであり、具体的な一例として、磁気軸受装置100Aにおける回転体103の機械的中心位置と電気的中心位置との誤差補正用のデータである。また、この個体制御情報には、磁気軸受装置100Aが組み込まれたターボ分子ポンプ100においてヒータ等を備える場合の温度に関するパラメータ等も含まれる。そして履歴情報とは、磁気軸受装置100Aを稼動させた履歴に関する情報(具体的な一例として、磁気軸受装置100Aの運転を開始した日時と運転を停止した日時等)である。
【0054】
第3記憶手段203は、本実施形態においては、上述した機種情報、個体識別情報、制御情報(機種制御情報と初期の個体制御情報)を格納している。
【0055】
第1記憶手段204は、本実施形態においては、上述した機種情報、個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)、履歴情報を格納している。
【0056】
ROMテーブル205は、本実施形態においては、複数種類の磁気軸受装置100Aにおける機種毎の制御情報(機種制御情報と初期の個体制御情報)を格納している。
【0057】
また磁気軸受制御装置100Bは、磁気軸受装置100Aと電気的に接続されるケーブルを介して互いの信号を送受信する機能や磁気軸受装置100Aの動作を制御する機能を具現化するための不図示の半導体素子(例えばマイクロプロセッサ)を備えている。この半導体素子からの指令により、磁気軸受制御装置100Bは、本明細書等のアクセス手段や判定上書き手段として機能する。なお本実施形態において、磁気軸受装置100Aと磁気軸受制御装置100Bは、シリアル通信によって信号を送受信している。また磁気軸受装置100Aと磁気軸受制御装置100Bは、それぞれの電源をオン/オフする電源スイッチの他、後述するRESETスイッチを備えている。
【0058】
次に、
図6、
図7を参照しながら磁気軸受制御装置100Bで磁気軸受装置100Aを制御する際の流れについて説明する。
【0059】
磁気軸受制御装置100Bの電源がオンされると(
図6のS1)、磁気軸受制御装置100Bは、アクセス手段を機能させて抵抗201にアクセスして、磁気軸受装置100Aの機種情報を取得する。これにより、磁気軸受装置100Aの機種を特定することができる(
図6のS2)。なお磁気軸受装置100Aの機種を特定するにあたり、磁気軸受制御装置100Bは、第3記憶手段203にアクセスして、第3記憶手段203が格納している機種情報を取得してもよい。また磁気軸受制御装置100Bは、抵抗201と第3記憶手段203の両方にアクセスして、機種情報が共通するか確認し、共通する場合は以下の動作を実行する一方、共通しない場合は警告動作を実行してもよい。
【0060】
次いで磁気軸受制御装置100Bは、磁気軸受装置100Aの電子回路部141に第2記憶手段202が存在するか否かを判断する(
図6のS3)。第2記憶手段202が存在しないと判断される場合、磁気軸受制御装置100Bは、後述する
図7に示したフローチャートによる制御を実行する。
【0061】
第2記憶手段202が存在すると判断される場合(
図6のS3でYESの場合)、磁気軸受制御装置100Bは、第2記憶手段202が正常であるか否かを判断する(
図6のS4)。第2記憶手段202が正常でない状態になる要因としては、例えば通信時のノイズの混入、制御の処理が通信中に意図せず終了する、磁気軸受装置100A内の温度が第2記憶手段202の許容値を超えて上昇する等が挙げられる。第2記憶手段202が正常であるか否かは、例えばチェックサムや巡回冗長検査(Cyclic Redundancy Check: CRC)等を利用した故障診断によるものでもよいし、第2記憶手段202に格納した情報と第1記憶手段204に格納した情報が一致するか否かで判断してもよい。
【0062】
第2記憶手段202が異常であると判断される場合(
図6のS4でNOの場合)は、書き込み可能な第2記憶手段202に格納されている各種の情報が破損している可能性がある。ここで磁気軸受制御装置100Bは、第3記憶手段203に格納されている個体識別情報を正として、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報を上書きする(
図6のS5)。第3記憶手段203は、例えば書き込み不可能な不揮発性メモリであるため、仮に磁気軸受装置100Aと磁気軸受制御装置100Bが通信する際にノイズが混入しても、第3記憶手段203に格納されている情報が破損することがない。すなわち第3記憶手段203には、磁気軸受装置100Aに書き込んだときの個体識別情報がそのまま残されているため、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報を第3記憶手段203に格納されている個体識別情報で上書きすることにより、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報を当初の正しい状態に書き換えることができる。
【0063】
図6のS4で第2記憶手段202が正常であると判断される場合(
図6のS4でYESの場合)や
図6のS5の処理を行った場合、磁気軸受制御装置100Bは、第2記憶手段202に格納されている機種情報と
図6のS2で取得した機種情報が一致するか否かを判断する(
図6のS6)。ここで機種情報が一致しないと判断される場合(
図6のS6でNOの場合)、磁気軸受制御装置100Bは警告動作を実行する(
図6のS7)。警告動作は、一例として磁気軸受装置100Aや磁気軸受制御装置100Bからアラーム音を出力させる、警告ランプを点滅させる、磁気軸受装置100Aや磁気軸受制御装置100Bに設けられているモニターに警告内容を表示させる等の動作である。警告動作を実行した後、磁気軸受制御装置100Bは、磁気軸受装置100Aの運転を禁止(ロック)させる(
図6のS8)。
【0064】
一方、機種情報が一致すると判断される場合(
図6のS6でYESの場合)、磁気軸受制御装置100Bは、第1記憶手段204が正常であるか否かを判断する(
図6のS9)。第1記憶手段204が正常か否かの判断は、第2記憶手段202と同様に、例えばチェックサムや巡回冗長検査CRC等を利用した故障診断によるものでもよいし、第1記憶手段204に格納した情報と第2記憶手段202に格納した情報が一致するか否かによるものでもよい。ここで、第1記憶手段204が異常であると判断される場合(
図6のS9でNOの場合)は、書き込み可能な第1記憶手段204に格納されている各種の情報が破損している可能性があるため、磁気軸受制御装置100Bは、
図6に示したS14~S16の処理を実行して第1記憶手段204に格納されている各種の情報を上書きする。なおS14~S16の処理については後述する。
【0065】
図6のS9で第1記憶手段204が正常であると判断される場合(
図6のS9でYESの場合)、磁気軸受制御装置100Bは、
図6のS2で取得した機種情報と第1記憶手段204に格納されている機種情報が一致するか否かを判断する(
図6のS10)。ここで機種情報が一致しないと判断される場合(
図6のS10でNOの場合)、磁気軸受制御装置100Bは警告動作を実行し(
図6のS11)、更に磁気軸受装置100Aの運転を禁止(ロック)させる(
図6のS12)。
【0066】
図6のS10で機種情報が一致すると判断される場合(
図6のS10でYESの場合)、磁気軸受制御装置100Bは、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報と、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報が一致するか否かを判断する(
図6のS13)。そして全ての情報が一致すると判断される場合(
図6のS13でYES)、磁気軸受制御装置100Bは、磁気軸受装置100Aを通常通りに制御して磁気軸受装置100Aを稼動させ(
図6のS17)、その後、磁気軸受装置100Aを停止させる(
図6のS18)。
【0067】
一方、
図6のS13を実行した際、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報と、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報が一部でも一致していない場合は、磁気軸受制御装置100Bは警告動作を実行する(
図6のS14)。ここでの警告動作としては、アラーム音を出力したり、警告ランプを点滅させたりする動作の他、個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報の何れが一致していないかの内容を磁気軸受装置100Aや磁気軸受制御装置100Bに設けられているモニターに表示することが好ましい。例えば個体識別情報や履歴情報が一致していない場合は、最後に磁気軸受装置100Aを稼動させていたときの磁気軸受制御装置100Bが取り外されて別の磁気軸受制御装置100Bが磁気軸受装置100Aに接続されていることが考えられる。作業者は、モニターに表示された内容を確認することによって、磁気軸受装置100Aと磁気軸受制御装置100Bとを正しい組み合わせで接続したり、以下に説明する情報の上書きを行うか否かを判断したりすることができる。
【0068】
ここで作業者が、磁気軸受装置100Aや磁気軸受制御装置100Bに設けられているRESETスイッチを所定時間以上操作すると(
図6のS15)、磁気軸受制御装置100Bは、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報により、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報を上書きする(
図6のS16)。なお上書きする情報は、個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報の全てでもよいし、不一致の情報のみでもよい。このようにして
図6のS16の処理を実行することにより、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報と、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報、制御情報(機種制御情報と個体制御情報)及び履歴情報が一致させることができる。その後、磁気軸受制御装置100Bは、磁気軸受装置100Aを通常通りに制御して磁気軸受装置100Aを稼動させ(
図6のS17)、その後、磁気軸受装置100Aを停止させる(
図6のS18)。
【0069】
ここで
図6のS3に示した、磁気軸受制御装置100Bが磁気軸受装置100Aの電子回路部141に第2記憶手段202が存在するか否かを判断し、第2記憶手段202が存在しないと判断される場合(
図6のS3でNOの場合)の流れについて、
図7を参照しながら説明する。この場合に磁気軸受制御装置100Bは、第1記憶手段204が正常であるか否かを判断する(
図7のS21)。第1記憶手段204が正常か否かの判断は、第2記憶手段202と同様に、例えばチェックサムや巡回冗長検査CRC等を利用した故障診断によるものでもよいし、第2記憶手段202に格納した情報と第2記憶手段202に格納した情報が一致するか否かによるものでもよい。
【0070】
第1記憶手段204が正常であると判断される場合(
図7のS21でYESの場合)、磁気軸受制御装置100Bは、
図6のS2で取得した機種情報と第1記憶手段204に格納されている機種情報が一致するか否かを判断する(
図6のS22)。ここで機種情報が一致すると判断される場合(
図6のS22でYESの場合)は、第1記憶手段204に格納されている各種の情報に異常はなく、また磁気軸受装置100Aに対応する機種情報が格納されているとして、磁気軸受制御装置100Bは磁気軸受装置100Aを動作させることが可能であると判断される。一方、機種情報が一致しないと判断される場合(
図6のS22でNOの場合)、磁気軸受制御装置100Bは警告動作を実行し(
図6のS23)、更に磁気軸受装置100Aの運転を禁止(ロック)させる(
図6のS24)。
【0071】
一方、第1記憶手段204が異常であると判断される場合(
図7のS21でNOの場合)は、書き込み可能な第1記憶手段204に格納されている各種の情報が破損している可能性がある。ここで磁気軸受制御装置100Bは、警告動作を実行する(
図6のS25)。ここでの警告動作としては、アラーム音を出力したり、警告ランプを点滅させたりする動作の他、第1記憶手段204に格納されている各種の情報を初期化する必要がある旨をモニターに表示させることが挙げられる。これにより作業者は、モニターに表示された内容を確認することによって、以下に説明する初期化を行うか否かを判断することができる。
【0072】
ここで作業者が、磁気軸受装置100Aや磁気軸受制御装置100Bに設けられているRESETスイッチを所定時間以上操作すると(
図6のS26)、磁気軸受制御装置100Bは、
図6のS2で取得した機種情報に基づいて、ROMテーブル205に格納されている機種毎の制御情報の中から一の制御情報を選択し、その制御情報で第1記憶手段204の機種制御情報を上書きする(
図6のS27)。これにより、第1記憶手段204に格納されている各種の情報を初期化することができる。
【0073】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更、組み合わせが可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0074】
例えば
図6を参照しながら説明した磁気軸受制御装置100Bで磁気軸受装置100Aを制御する際の流れは、
図8に示すものでもよい。
図8に示した制御では、S9で第1記憶手段204が正常であるか否かを判断し、異常であると判断される場合(
図8のS9でNOの場合)において、磁気軸受制御装置100Bは、第3記憶手段203に格納されている個体識別情報を正として、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報を上書きする(
図8のS19)。上述したように第3記憶手段203には、書き込み当初の個体識別情報が残されているため、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報を当初の正しい状態に書き換えることができる。
【0075】
また、
図6、
図8に示したS5の処理において、磁気軸受制御装置100Bは、第3記憶手段203に格納されている個体識別情報だけでなく、制御情報(機種制御情報と初期の個体制御情報)を正として、第2記憶手段202に格納されている個体識別情報及び制御情報を上書きしてもよい。ここで制御情報を上書きする際は、機種制御情報のみでもよい。また
図8に示したS19の処理において、磁気軸受制御装置100Bは、第3記憶手段203に格納されている個体識別情報だけでなく、制御情報(機種制御情報と初期の個体制御情報)を正として、第1記憶手段204に格納されている個体識別情報及び制御情報を上書きしてもよい。ここで制御情報を上書きする際は、機種制御情報のみでもよい。第3記憶手段203に格納されている制御情報は、通信時にノイズが混入したり制御の処理が通信中に意図せず終了したりすることがあっても初期の状態で維持されるため、第1記憶手段204や第2記憶手段202に格納されている制御情報で上書きする場合に比して、より信頼性の高い情報で上書きすることができる。
【0076】
また、
図7に示したS27の処理において、磁気軸受制御装置100Bは、
図6のS2で取得した機種情報に対応する制御情報が第3記憶手段203に格納されている場合、ROMテーブル205に制御情報を格納した日時と第1記憶手段204に制御情報を格納した日時を比較して何れが新しいか判断し、新しい制御情報で第1記憶手段204に格納されている制御情報を上書きしてもよい。磁気軸受装置100Aの製造日と磁気軸受制御装置100Bの製造日は同時期であるとは限られず、それ故、それぞれに格納されている制御情報のバージョンが異なっていることがあるが、上記の機能を用いることにより、新しいバージョンの制御情報を用いて第1記憶手段204に格納されている制御情報を上書きすることができる。なお上書きする制御情報は、機種制御情報のみでもよい。
【符号の説明】
【0077】
100、:ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
100A:磁気軸受装置
100B:磁気軸受制御装置(制御部、判定上書き手段、アクセス手段)
202:第2記憶手段
203:第3記憶手段
204:第1記憶手段