(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150949
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】金属板評価器具
(51)【国際特許分類】
G01N 19/04 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
G01N19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064008
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】平口 智也
(72)【発明者】
【氏名】佐々本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】牧野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田上 忠晴
(57)【要約】
【課題】 製缶処理を行うことなく、ラミネート金属板のフェザリング性を評価することが可能な金属板評価器具を提供する。
【解決手段】 金属板評価器具は、金属板上に樹脂フィルムがラミネートされたラミネート金属板のフェザリング性の評価に用いられる。金属板評価器具は、前記ラミネート金属板が設置される試料設置部を有する第1部材と、前記試料設置部に対応する位置に設けられている缶切り刃を有する第2部材と、前記第2部材を前記第1部材に対して近接させる移動機構と、を備える。前記試料設置部は、前記第2部材が前記第1部材に対して近接した際に前記缶切り刃が挿入されるスリットを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板上に樹脂フィルムがラミネートされたラミネート金属板のフェザリング性の評価に用いられる金属板評価器具であって、
前記ラミネート金属板が設置される試料設置部を有する第1部材と、
前記試料設置部に対応する位置に設けられている缶切り刃を有する第2部材と、
前記第2部材を前記第1部材に対して近接させる移動機構と、を備え、
前記試料設置部は、前記第2部材が前記第1部材に対して近接した際に前記缶切り刃が挿入されるスリットを有する、金属板評価器具。
【請求項2】
前記第2部材は、前記缶切り刃の前記スリットに対する挿入角度を調整する角度調整手段を有し、
前記缶切り刃は、前記角度調整手段を介して前記第2部材に設けられている、請求項1に記載の金属板評価器具。
【請求項3】
前記試料設置部は、壁部を有する器状に形成され、
前記試料設置部の前記壁部は、前記缶切り刃の進行方向をガイドするガイド機構を有する、請求項1又は2に記載の金属板評価器具。
【請求項4】
前記第1部材及び、前記第2部材は、レバー状に形成され、
前記移動機構は、前記第1部材及び、前記第2部材の一端側に設けられている回動軸を有し、
前記第1部材及び、前記第2部材は、前記回動軸の軸回りに回動可能に連結されている、請求項1又は2に記載の金属板評価器具。
【請求項5】
前記第1部材及び、前記第2部材は、レバー状に形成され、
前記移動機構は、前記第1部材及び、前記第2部材の一端側に設けられている回動軸を有し、
前記第1部材及び、前記第2部材は、前記回動軸の軸回りに回動可能に連結されている、請求項3に記載の金属板評価器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板上に樹脂フィルムがラミネートされたラミネート金属板のフェザリング性を評価する金属板評価器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶用材料には、金属板上に塗装・焼付けにより装飾が行われた金属材料が用いられている。従来の金属材料には、塗装・焼付けの省略による製造工程の合理化が求められている。また、従来の金属材料には、塗装に用いられる溶媒の乾燥工程(焼付工程)の省略による低環境負荷化、塗装の塗料に含まれるBPA(Bisphenol A)等の環境ホルモン溶出を回避する等が求められている。
【0003】
そこで近年では、従来の金属材料に代えて金属板上に樹脂フィルムがラミネートされたラミネート金属板が缶用材料に用いられている。特に、BPAは、微量であっても人体に影響を及ぼす可能性があるため、使用が規制される恐れがある。また、BPAの溶出量は、飲料缶よりも食缶の方が多いため、今後、食缶の分野においてもラミネート金属板の使用が促進されることが予測される。
【0004】
ラミネート金属板の缶には、その開缶する際にフィルムが羽のように残る現象(フェザリング)が生じない程度の開缶性が要求される。フェザリングを改善するものとして、例えば、接着層と接着層の反対側の配向層とからなるポリエステル樹脂フィルムが、アルミニウム合金板の表面に被覆されたポリエステル樹脂被覆アルミニウム合金板が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、客先によっては食品を缶のまま温めるお客様を想定し、加熱したまま開缶するといった特殊な試験を行うこともあり、限られた水準や工数の中で全ての要求を満たすことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フェザリングの評価は、例えば、製造された試作材を製缶し、内容物の充填、巻締めなどの処理がなされた後に、缶切にて開缶することにより行われる。しかしながら、製缶機器を有しない場合は、これらの処理を製缶メーカに依頼しなければならない問題がある。
【0008】
また特許文献1においては、フェザリングの評価試験としてV字引裂き試験が行われている。具体的には、樹脂被覆アルミニウム合金板に対し、互いに平行な2本の線状の切込みを入れ、切込みの評価面にフィルムが切断される程度のキズをつける。切込みの間の部分を折り曲げ、55℃の水に30分浸漬させた後、水中で切込みの間の部分を引裂いてV字状の引裂き部を形成する。引裂き部には、評価面より剥離したフィルムが残存する。引裂き部全体の面積及び、剥離したフィルムの面積を用いて算出したフィルムの剥離比率によってフェザリングを評価することが行われる。
【0009】
特許文献1に記載されたV字引裂き試験では、缶切り刃を用いて開缶した際のフィルムの破断とは態様が異なるためフェザリングを正しく評価ができない恐れがある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、製缶処理を行うことなく、ラミネート金属板のフェザリング性を評価することが可能な金属板評価器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0012】
[1]
金属板上に樹脂フィルムがラミネートされたラミネート金属板のフェザリング性の評価に用いられる金属板評価器具であって、
前記ラミネート金属板が設置される試料設置部を有する第1部材と、
前記試料設置部に対応する位置に設けられている缶切り刃を有する第2部材と、
前記第2部材を前記第1部材に対して近接させる移動機構と、を備え、
前記試料設置部は、前記第2部材が前記第1部材に対して近接した際に前記缶切り刃が挿入されるスリットを有する、金属板評価器具。
[2]
前記第2部材は、前記缶切り刃の前記スリットに対する挿入角度を調整する角度調整手段を有し、
前記缶切り刃は、前記角度調整手段を介して前記第2部材に設けられている、[1]に記載の金属板評価器具。
[3]
前記試料設置部は、壁部を有する器状に形成され、
前記試料設置部の前記壁部は、前記缶切り刃の進行方向をガイドするガイド機構を有する、[1]又は[2]に記載の金属板評価器具。
[4]
前記第1部材及び、前記第2部材は、レバー状に形成され、
前記移動機構は、前記第1部材及び、前記第2部材の一端側に設けられている回動軸を有し、
前記第1部材及び、前記第2部材は、前記回動軸の軸回りに回動可能に連結されている、[1]~[3]のいずれかに記載の金属板評価器具。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、移動機構により、第2部材を第1部材に対して近接させることができる。第2部材を第1部材に対して近づけることにより、第2部材に設けられた缶切り刃が第1部材の試料設置部に設置されたラミネート金属板を穿つことができる。この際、第2部材の移動は、缶切り具の缶切り刃による開缶動作に酷似しているため、缶切り具による生じる材料破壊の再現が可能となり、ラミネート金属板のフェザリング性の評価精度を高めることが可能となる。また、本発明の金属板評価器具を用いることにより、ラミネート金属板を缶体に加工することなく、フェザリング性を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1のA-A線に沿った下レバーの断面図である。
【
図6】金属板評価器具によるラミネート金属板のフェザリング性の評価の態様を示す説明図である。
【
図7】金属板評価器具によるラミネート金属板のフェザリング性の評価の態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施形態として、図面を参照して金属板評価器具を説明する。
図1は、金属板評価器具の全体構成を示している。
図1に示されているように、金属板評価器具100は、棒状に形成されている下レバー10と、下レバー10に連結されている棒状の上レバー20と、を有している。
【0016】
第1部材としての下レバー10は、その軸の軸方向の一端側(以下、先端側とも称する)に設けられている試料設置部11を有する。下レバー10は、その先端部12において、レバー回動軸30を介して第2部材としての上レバー20と連結されている。レバー回動軸30は、金属板評価器具100を正面からみて下レバー10の軸方向に対して垂直な方向に沿ってその軸が位置するように設けられている。上レバー20は、レバー回動軸30の軸回りに図中の一点鎖線で示す軌跡に沿って回動可能に設けられている。レバー回動軸30は、上レバー20を下レバー10に対して近接させる移動機構として機能する。
【0017】
上レバー20は、その軸方向の先端側と基端側との間に設けられている缶切り刃21を有する。缶切り刃21は、試料設置部11に対応する位置に設けられている。具体的には、缶切り刃21は、上レバー20が下レバー10に近づくように回動した際に試料設置部11と接する位置に設けられている。
【0018】
缶切り刃21は、上レバー20に設けられている缶切り刃回動軸22を介して上レバー20に接続されている。缶切り刃21としては、例えば、市販の缶切り具に用いられている刃を用いることができる。
【0019】
缶切り刃回動軸22は、金属板評価器具100を正面からみて上レバー20の軸方向に対して垂直な方向に軸が位置するように設けられている。尚、本実施形態においては、缶切り刃21及び、缶切り刃回動軸22は、棒状に形成された接続部23を介して互いに接続されている。缶切り刃21は、缶切り刃回動軸22の軸回りに図中の二点鎖線で示す軌跡に沿って回動可能に設けられている。
【0020】
尚、下レバー10及び、上レバー20は、金属、耐熱樹脂など耐熱性に優れる素材で形成されることが好ましい。下レバー10及び、上レバー20が、このような素材であることにより、所望の試験環境の温度(例えば、高温)に保つことが可能になる。耐熱性に優れる素材としては、特には限定されないが、一般的な用途に用いられる鋼材である普通鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、銅、真鍮、亜鉛合金等の金属、ポリカーボネート、ナイロン、ポリアセタール、ベークライト等の樹脂が挙げられる。
【0021】
図2は、
図1のA-A線に沿った下レバー10の断面を示している。
図2に示すように、下レバー10の試料設置部11は、壁部及び底部によって器状に形成されている。試料設置部11の底部には、当該底部を貫通して形成されたスリット13が設けられている。試料設置部11の底部のスリット13上に、金属板上に樹脂フィルムがラミネートされたラミネート金属板40が設置される。
【0022】
下レバー10の先端側には、レバー回動軸30を挿通可能に形成された軸孔14が設けられている。軸孔14は、金属板評価器具100を正面からみて下レバー10の軸方向に対して垂直な方向に貫通して形成されている。尚、下レバー10は、例えば、湯中などの高温の環境で試験が行われることを想定して、軸方向の長さを十分に確保することが望ましい。このように、軸方向の長さを十分に確保することでユーザが、高温物に触れることにより火傷することを防止することができる。すなわち、湯中に試料設置部11を試料ごと浸漬させ、湯の外にある上レバー20および下レバー10を操作することで試験を行うことができる。
【0023】
図3は、下レバー10の上面を示している。
図3に示すように、下レバー10の試料設置部11は、上面視が円状に形成されている。スリット13は、試料設置部11の底部に形成されている。スリット13には、上レバー20及び、下レバー10が互いに近接した際に缶切り刃21が挿入される。
【0024】
スリット13の幅は3.5mm以上16.5mm以下とするとよく、4.0mm以上10.0mm以下とすることが好ましい。スリット13の幅が3.5mm未満であると、ラミネート金属板40が剪断的に破壊されるため、フィルムが切れやすくなり、フェザリングが過度に小さくなる傾向がある。
【0025】
また、スリット13の幅がより小さい条件では、缶切り刃21とスリット13との間のクリアランスが小さくなり、ラミネート金属板40に切り込みを入れるため要する力が大きくなるので好ましくない。
【0026】
スリット13の幅が16.5mm超えると、ラミネート金属板40の変形が市販の缶切り具で開缶する場合よりも緩やかになる。このため、ラミネート金属板40のフィルムが伸びて切れにくくなり、フィルムの切れ残り量であるフェザリング量が市販の缶切り具で開缶する場合よりも大きくなる傾向がある。また、缶切り刃21とスリット13とのクリアランスが大きくなると、ラミネート金属板40が大きく曲がるので好ましくない。
【0027】
スリット13は、缶切り刃21を挿通可能に形成されており、本実施形態においては、上面視が矩形状に形成されている。
【0028】
尚、
図3においては、試料設置部11の底部を貫通して形成された水切り孔15が4つ設けられている。試料設置部11の底部に水切り孔15が形成されていることにより、例えば、温水等で満たされた恒温槽内において試験を行う際に、試料設置部11内に入った温水を外部に排出することが可能となる。
【0029】
図4は、上レバー20の正面を示している。
図4に示すように、上レバー20の先端側には、レバー回動軸30を挿通可能に形成された軸孔24が設けられている。軸孔24は、金属板評価器具100を正面からみて上レバー20の軸方向に対して垂直な方向に貫通して形成されている。
【0030】
軸孔24は、例えば、当該軸方向に対して垂直な方向において2つ設けられているとよい。すなわち、軸孔24が形成されている周囲は、例えば、下レバー10の軸孔14を挟み込むことが可能な二股形状に形成されているとよい。したがって、上レバー20の2つの軸孔24間に下レバー10の軸孔14を配置し、レバー回動軸30を挿通することにより、下レバー10及び、上レバー20がレバー回動軸30を中心にして回動することができる。すなわち、上レバー20が力点とし、レバー回動軸30を支点とすることで、作用点である試料に対して、てこの原理により効率よく力を加えることができる。
【0031】
上レバー20には、缶切り刃回動軸22を挿通可能に形成された軸孔26が設けられている。軸孔26は、金属板評価器具100を正面からみて上レバー20の軸方向に対して垂直な方向に貫通して形成されている。
【0032】
軸孔26は、例えば、当該軸方向に対して垂直な方向において2つ設けられているとよい。すなわち、軸孔26が形成されている周囲は、例えば、接続部の軸孔(図示せず)を挟み込むことが可能に凹状に形成されているとよい。したがって、上レバー20の2つの軸孔24間に接続部の軸孔を配置し、缶切り刃回動軸22を挿通することにより、接続部23及び、缶切り刃21が缶切り刃回動軸22を中心にして回動することができる。すなわち、上レバー20が回動する際に、缶切り刃21が鉛直方向の下側に位置するように缶切り刃21の角度を調整することが可能となる。このように、上レバー20は、缶切り刃21の試料設置部11のスリット13に対する挿入角度を調整する角度調整手段としての缶切り刃回動軸22を有する。
【0033】
接続部23と缶切り刃21との間には、接続部23の周面の外側に向かって延びて形成された鍔部25が形成されている。鍔部25は、試料設置部11の壁部の形状に応じて形成されている。鍔部25は、本実施形態においては、円板状に形成されている。鍔部25の径は、試料設置部11の壁部の径と略同一に形成するとよい。このように鍔部25を形成することにより、試料設置部11の壁部を、缶切り刃21の進行方向をガイドするガイド機構として機能させることができる。
【0034】
図5は、上レバー20の下面を示している。
図5に示すように、缶切り刃21は取付プレート27に取り付けられている。缶切り刃21は、例えば、取付プレート27に溶接等によって取り付けられている。尚、缶切り刃21の取付プレート27への取り付け態様は特には限定されず、例えば、接着剤や、固定用ボルトおよびナットを用いて缶切り刃21が取付プレート27に取り付けられてもよい。
【0035】
取付プレート27は、鍔部25の外形よりも小さく形成されているとよい。このように取付プレート27を形成することにより、試料設置部11における鍔部25の移動が干渉することを防止することができる。
【0036】
取付プレート27は、本実施形態においては、4つのボルト28によって鍔部25に取り付けられている。このように、取付プレート27が取り外し可能に鍔部25に取り付けられてことにより、取付プレート27を交換するだけで缶切り刃21を容易に交換することができる。
【0037】
また、例えば、市販の缶切り刃具の缶切り刃21を用いた取付プレート27を鍔部25に取り付けることにより、より精度の高い再現性を得ることができる。さらに、顧客の要望に応じた形態や状態の缶切り刃21を用いた取付プレート27を鍔部25に取り付けることにより、容易に試験環境を変更することが可能となる。尚、取付プレート27の鍔部25への取り付け態様は特には限定されず、例えば、接着剤を用いて取付プレート27が鍔部25に取り付けられてもよい。
【0038】
図6及び
図7は、金属板評価器具100によるラミネート金属板40のフェザリング性の評価の態様を示している。
図6に示すように、ラミネート金属板40のフェザリング性の評価をする際には、ラミネート金属板40を試料設置部11の底部に設置する。
【0039】
ラミネート金属板40は、試料設置部11の底部に応じた形状に形成されていることが好ましい。本実施形態においては、ラミネート金属板40は、円板状に形成されているとよい。このようにラミネート金属板40を形成することで、缶切り刃21をラミネート金属板40に挿通する際に、ラミネート金属板40がずれることを防止することができる。
【0040】
次いで、上レバー20を下レバー10に近づくように回動させる。このときに、缶切り刃21は、缶切り刃回動軸22を中心にして回動することにより、鉛直方向の下側に位置するように角度が調整される。また、鍔部25が試料設置部11の壁部に沿って移動することにより、缶切り刃21の移動方向が案内される。したがって、缶切り刃21がラミネート金属板40の表面に対して垂直な角度で接する。
【0041】
図7に示すように、さらに上レバー20を下レバー10に近づけると、缶切り刃21がラミネート金属板40に挿通される。このときに缶切り刃21は、
図7に示す円弧に沿ってラミネート金属板40に挿通される。缶切り刃21が挿通されたラミネート金属板40は、フィルムの切れ残り量(フェザリング量)が測定され、その長さに応じた評価がなされる。
【0042】
この際、ラミネート金属板40が鍔部25によって押圧されて固定されるため、ラミネート金属板40が曲がることなく、缶切り刃21が挿通される。また、ラミネート金属板40の缶切り刃21との接触部分がスリット13の周囲の部材によって強固に支持されているため、缶切り刃21による力を当該接触部分の周囲に分散させることなく、集中的に与えることが可能となる。これにより、ラミネート金属板40を缶体に製缶することなく、板状のままフェザリング性を評価することが可能となる。
【0043】
このように、缶切り刃21がラミネート金属板40に挿通されることにより、缶切り具を用いて開缶する動作と同様に缶切り刃21を動作させることができる。このため、製缶を行う前の板材であっても高い精度でフェザリング性を評価することができる。
【0044】
尚、金属板評価器具100は、水中で用いることもできる。例えば、高温に加熱された水の中でラミネート金属板40を穿つようにしてもよい。このように水中で金属板評価器具100を用いた場合には、水切り孔15から水が排出されるため、水中であっても容易に缶切り刃21でラミネート金属板40を穿つことができる。
【0045】
(変形例)
上述の実施形態においては、試料設置部11の底部にスリット13が形成されている例を説明した。金属板評価器具100は、スリット13の開口形状を調整可能な調整手段を有するとよい。
【0046】
図8は、変形例における下レバー10の断面を示している。試料設置部11の底部には、スリット13の周囲を囲むように環状に形成された支持部11bが形成されている。
【0047】
支持部11bの上には、プレート16が載置されている。プレート16は、試料設置部11の底部に応じた板状に形成されている。本変形例においては、プレート16は円板状に形成されている。プレート16の中央には、厚さ方向に貫通して形成されたスリット形状調整孔17が設けられている。スリット形状調整孔17は、例えば、スリット13よりも開口面積が小さく形成されている。スリット形状調整孔17を有するプレート16を開口形状毎に用意し、当該プレート16を交換することによって、スリット13の開口幅を調整することが可能となる。すなわち、プレート16は、調整手段として機能する。尚、スリット13の開口幅を調整することで、樹脂フィルムの切れ残り量であるフェザリング量を調整することが可能となる。これによりフェザリング性の評価の精度を高めることが可能となる。
【0048】
尚、上述の実施形態においては、下レバー10を第1部材とし、上レバー20を第2部材とした例を説明した。第1部材及び、第2部材は、このような形態に限られず、例えば、板状に形成されるようにしてもよい。このように、第1部材及び、第2部材を形成した場合には、第1部材及び、第2部材を互いに対向するように配置し、第2部材をプレス機のように上下動させてもよい。このように金属板評価器具100を構成しても、上述の実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【実施例0049】
(試験例1:ラミネート金属板のフェザリング性を評価)
ラミネート金属板のフェザリング性を評価した。フェザリング性の評価にあたっては、金属板評価器具、市販の缶切り具、せん断器具等を用いて行った。
【0050】
(金属板評価器具)
金属板評価器具の缶切の刃としては、市販のロータリー式の缶切り具の缶切の刃を用いた。
【0051】
(ラミネート金属板)
金属板に樹脂フィルムをラミネートすることによりラミネート金属板を作成した。金属板としては、厚さ0.22mmのTFS(Tin Free Steel、金属Cr層:120mg/m2、Cr酸化物層:金属Cr換算で10mg/m2、調質度:T3CA)を用いた。樹脂フィルムは、フィルムラミネート法(フィルム熱融着法)で金属板の両面に樹脂フィルムを被覆した。
【0052】
(フェザリング性の評価)
金属板評価器具を用いてラミネート金属板を破断した際のフェザリング性を評価した。具体的には、光学顕微鏡を用いてフィルムの切れ残り量をフェザリング量として測定し、最大フェザリング量と、最小フェザリング量を記録した。
【0053】
(比較例の作成及び、フェザリングの評価)
市販の缶切り具を用いて、ラミネート金属板を穿ち、そのフェザリング性を評価したものを比較例1とした。
市販のせん断器具を用いて、ラミネート金属板をせん断し、そのフェザリング性を評価したものを比較例2とした。
特許文献1の方法により、ラミネート金属板を破断し、そのフェザリング性を評価したものを比較例3とした。
【0054】
表1に、発明例及び、比較例1~3の最大フェザリング量及び、最小フェザリング量を示す。
【0055】
【0056】
表1に示すように、比較例1では、缶巻締部が存在しないのでラミネート金属板に剛性がなく、ラミネート金属板が曲がってしまい、切り込みが入らず、フェザリング量を測定することができなかった。
【0057】
比較例2のせん断具では、缶切り具でラミネート金属板を穿ちながら切り込みを入れるような切込みの形態を再現することできず、フェザリングはほとんど発生しなかった。
【0058】
これに対して、発明例では、最大フェザリング量、最小フェザリング量を得ることができた。したがって、発明例では、ラミネート金属板を缶体に製缶することなく、フェザリング性を評価することができることが確認された。
【0059】
(試験例2:スリットの幅とラミネート金属板のフェザリング性との関係評価)
試料設置部のスリットの幅が互いに異なる複数の金属板評価器具を用いてラミネート金属板のフェザリング性を評価した。
【0060】
(金属板評価器具)
金属板評価器具のスリットの幅は、2mm(発明例4)、4mm(発明例1)、10mm(発明例2)、16mm(発明例3)とした。発明例1~4については、各々のスリットの幅を有するSUS製のプレートを試料設置部の底部として用いて作成した。缶切り刃は厚さ1.6mm、幅11mmとした。他の態様については、試験例1と同一であるので説明を省略する。また、ラミネート金属板については、試験例1と同一のものを用いているので説明を省略する。
【0061】
(フェザリング性の評価)
缶切り具を用いて、ラミネート金属板で製缶された缶体を開缶した際のフェザリング性をコントロールとし、発明例1~4の金属板評価器具を用いてラミネート金属板を破断した際のフェザリング性を評価した。尚、フェザリング性の評価方法は、試験例1と同一であるので説明を省略する。
【0062】
(コントロールの作成及び、フェザリング性の評価)
市販のロータリー式の缶切り具を用いて、ラミネート金属板で缶胴及び、缶蓋が製缶された缶体を開缶することによって、ラミネート金属板のフェザリング性を評価した。缶体は、90℃の水道水を入れた後に巻き締めて作製された。コントロールのフェザリング量は、最大4mm、最小2mmであった。
【0063】
再現性は、コントロールのフェザリング量を参照した。最大フェザリング量が4mm以内、最小フェザリング量が2mm以上の範囲であれば◎とした。最大フェザリング量が6mm以内、最小フェザリング量が1mm以上の範囲であれば〇とした。発明例1~4の最大フェザリング量、最小フェザリング量及び、再現性の結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
(発明例1~4のフェザリング性評価)
表2に示すように、スリットの幅に応じてフェザリング量が変化している。具体的には、発明例1~3はコントロールのフェザリング量に近い値が得られた。したがって、発明例1~3は、適切なフェザリング量であり、コントロールのフェザリング量をよく再現しているといえる。発明例4は、フェザリング量がコントロールよりも過少に再現された。発明例4は、発明例1~3よりもスリットの幅が狭いため、フェザリング量が少なくなったと考えられる。
【0066】
以上のことから金属板評価器具を用いることにより、コントロールと同程度のフェザリング性が得られ、コントロールのフェザリング性を再現よく試験することができた。