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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150974
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置および内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02P 17/12 20060101AFI20241017BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F02P17/00 E
F02D19/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064051
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】519048584
【氏名又は名称】株式会社セイブ・ザ・プラネット
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】山尾 明宏
【テーマコード(参考)】
3G019
3G092
【Fターム(参考)】
3G019BA01
3G019EA11
3G092AB09
3G092AB19
3G092BA08
(57)【要約】
【課題】複数種類の気体燃料を混合した燃料を用いる内燃機関において、適切な着火動作を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】この内燃機関1の点火装置は、内燃機関1の燃焼室21内に配置される点火プラグ43と、点火プラグに対して高電圧の放電電圧を供給する点火回路40と、燃焼室21内に配置される検出プローブ51を有するイオン電流検出回路50とを有する。点火回路40は、イオン電流検出回路50が検出した燃焼室21内のイオン電流値に基づいて、放電条件を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の気体燃料を燃料とする内燃機関用の点火装置であって、
前記内燃機関の燃焼室内に配置され、着火動作を行う点火プラグと、
前記点火プラグに対して高電圧の放電電圧を供給する点火回路と、
前記燃焼室内に配置される検出プローブを流れるイオン電流を検出するイオン電流検出回路と、
を有し、
前記点火回路は、前記イオン電流検出回路が検出した前記燃焼室内のイオン電流値に基づいて、放電条件を調整する、点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載の点火装置であって、
前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値に基づいて、放電条件を調整する、点火装置。
【請求項3】
請求項1に記載の点火装置であって、
前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値に基づいて、前記放電電圧の供給タイミングを調整する、点火装置。
【請求項4】
請求項1に記載の点火装置であって、
前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値に基づいて、前記放電電圧の電圧値を調整する、点火装置。
【請求項5】
請求項2に記載の点火装置であって、
前記気体燃料は、水素ガスとアンモニアガスとを含み、
前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値が大きいほど、前記放電電圧の電圧値を小さくする、点火装置。
【請求項6】
請求項2に記載の点火装置であって、
前記気体燃料は、水素ガスとアンモニアガスとを含み、
前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値が大きいほど、前記放電電圧の供給タイミングを遅角させる、点火装置。
【請求項7】
複数種類の気体燃料を燃料とする内燃機関であって、
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の点火装置と、
第1気体燃料および第2気体燃料を混合させて混合燃料とする混合器と、
前記混合燃料を前記燃焼室内に供給する燃料供給部と、
を有し、
前記混合器は、前記イオン電流検出回路が検出した前記イオン電流値に基づいて、前記第1気体燃料と前記第2気体燃料との混合比を調整する、内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4ストローク(または4サイクル)レシプロエンジンと呼ばれる内燃機関においては、ピストンの往復動作に合わせて排気バルブ・吸気バルブの開閉、燃料の導入、および点火動作を行うことにより、排気工程、吸気工程、圧縮工程および膨張工程を繰り返す。
【0003】
従来の内燃機関については、例えば、特許文献1に記載されている。内燃機関の燃料には、従来、ガソリン、軽油、プロパンガスおよびアルコールなどが用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-82193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、カーボンフリー燃料として、アンモニアガスが着目されている。ただし、アンモニアは、ガソリン等の従来の燃料に比べて燃焼速度が遅く、着火しにくいことから、専焼(アンモニア単体での燃焼)で安定的にレシプロエンジンを動作させることが困難である。このため、一般的には、水素等の助燃材を添加した混合燃料が用いられている。
【0006】
燃料にアンモニアガスと水素ガスとを混合器を用いて混合させて使用する場合、その混合比を厳密に制御するためには、複雑な機構が必要となる。一方で、アンモニアガスと水素ガスとの混合比によって着火しやすさが変化するため、混合比に応じて点火プラグにおける放電タイミングや放電電圧値を調整することが好ましい。
【0007】
本発明の目的は、複数種類の気体燃料を混合した燃料を用いる内燃機関において、適切な着火動作を行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、複数種類の気体燃料を燃料とする内燃機関用の点火装置であって、前記内燃機関の燃焼室内に配置され、着火動作を行う点火プラグと、前記点火プラグに対して高電圧の放電電圧を供給する点火回路と、前記燃焼室内に配置される検出プローブを流れるイオン電流を検出するイオン電流検出回路と、を有し、前記点火回路は、前記イオン電流検出回路が検出した前記燃焼室内のイオン電流値に基づいて、放電条件を調整する。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の点火装置であって、前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値に基づいて、前記放電条件を調整する。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明の点火装置であって、前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値基づいて、前記放電電圧の供給タイミングを調整する。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明の点火装置であって、前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値に基づいて、前記放電電圧の電圧値を調整する。
【0012】
本願の第5発明は、第2発明の点火装置であって、前記気体燃料は、水素ガスとアンモニアガスとを含み、前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値が大きいほど、前記放電電圧の電圧値を小さくする。
【0013】
本願の第6発明は、第2発明の点火装置であって、前記気体燃料は、水素ガスとアンモニアガスとを含み、前記点火回路は、前記イオン電流値のピーク値が大きいほど、前記放電電圧の供給タイミングを遅角させる。
【0014】
本願の第7発明は、複数種類の気体燃料を燃料とする内燃機関であって、第1発明ないし第6発明のいずれか一発明の点火装置と、第1気体燃料および第2気体燃料を混合させて混合燃料とする混合器と、前記混合燃料を前記燃焼室内に供給する燃料供給部と、を有し、前記混合器は、前記イオン電流検出回路が検出した前記イオン電流値に基づいて、前記第1気体燃料と前記第2気体燃料との混合比を調整する。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明~第7発明によれば、イオン電流値のピーク値から適切な放電条件を決定し、適切な着火動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る内燃機関用の要部概略図である。
図2】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の回路図である。
図3】通電制御の流れを示したフローチャートである。
図4】気体燃料の混焼比毎のイオン電流値に対応する電圧値の模式図である。
図5】イオン電流値に対応する電圧値のピーク値と、混焼比とを示したマップの概略図である。
図6】回転数、吸気圧および混焼比に対応する放電条件を示した3次元マップの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<1.内燃機関用点火装置の構成>
本発明の第1実施形態に係る内燃機関用の構成について、図面を参照しつつ説明する。図1は、内燃機関1の要部概略図である。図2は、第1実施形態に係る内燃機関用の点火装置である点火回路40と、イオン電流検出回路50の簡易的な回路図である。
【0019】
本実施形態の内燃機関1は、自動車等の車両の車体に搭載され、当該車両の駆動力を発生させるための装置である。内燃機関1は、例えば、4気筒内燃エンジンである。内燃機関1は、ECU10と、それぞれ燃焼室21を有する4つの気筒20と、燃料供給部30と、点火回路40と、イオン電流検出回路50とを有する。図1には、1つの燃焼室21に関係する部分のみが表されている。
【0020】
ECU10は、内燃機関1の各部の動作を制御する電子制御ユニット(Engine Control Unit)である。ECU10は、車体のトランスミッションやエアバックの作動等を総合的に制御するコンピュータである。ECU10には、内燃機関1に備えられた各種センサの出力が入力される。ECU10は、これらの入力信号に基づいて、燃料供給部30、点火回路40、イオン電流検出回路50、および内燃機関1の各部の動作を制御する。
【0021】
燃焼室21はそれぞれ、燃料供給部30から供給された燃料を燃焼させるための空間を有する。燃焼室21において燃料が燃焼・爆発することでピストン(図示省略)を上下に動かすことにより、駆動力を生成する。
【0022】
燃料供給部30は、第1気体燃料タンク31、第2気体燃料タンク32、混合器33、および4つのインジェクタ34を有する。
【0023】
第1気体燃料タンク31は、第1気体燃料であるアンモニアガスを貯留する貯留部である。第1気体燃料タンク31内のアンモニアガスは、第1供給配管311を介して混合器33へと供給される。
【0024】
第2気体燃料タンク32は、第2気体燃料である水素ガスを供給する貯留部である。第2気体燃料タンク32内の水素ガスは、第2供給配管321を介して混合器33へと供給される。
【0025】
混合器33は、混合室330と、第1燃料バルブ331と、第2燃料バルブ332を有する。混合室330は、第1気体燃料タンク31から供給されたアンモニアガスと、第2気体燃料タンク32から供給された水素ガスとを混合するための空間を有する。混合室330には、第1供給配管311の下流側の端部と、第2供給配管321の下流側の端部とが接続されている。
【0026】
第1燃料バルブ331は、第1供給配管311の下流側端部に介挿された、流量調整弁である。第1燃料バルブ331は、第1気体燃料タンク31から混合室330へ供給されるアンモニアガスの流量を調整する。
【0027】
第2燃料バルブ332は、第2供給配管321の下流側端部に介挿された、流量調整弁である。第2燃料バルブ332は、第2気体燃料タンク32から混合室330へ供給されるアンモニアガスの流量を調整する。
【0028】
混合室330内でンモニアガスと水素ガスとが混合された混合燃料は、混合燃料供給配管333を介して、4つのインジェクタ34のそれぞれへ供給される。混合燃料供給配管333には、開閉弁334と、混合室330からインジェクタ34へ向かう気体の流れを発生させるポンプ335とが介挿される。
【0029】
インジェクタ34は、各気筒に混合燃料を供給する。この内燃機関1は、筒内噴射式の所謂直噴エンジンであり、混合燃料を直接燃焼室21内に噴射する。このため、インジェクタ34の噴射口は、燃焼室21内に配置される。なお、本発明はこれに限られず、内燃機関1は、インジェクタ34の噴射口が吸気ポートに配置されるポート噴射式のエンジンであってもよい。
【0030】
点火回路40は、内燃機関1の各気筒20に配置された点火プラグ43に火花放電を発生させるための高電圧を印加する装置である。図2に示すように、点火回路40は、トランス41と、通電制御部42と、点火プラグ43とを有する。
【0031】
トランス41は、電磁結合された1次コイルL1および2次コイルL2を有する。2次コイルL2は、1次コイルL1よりも巻き数が大きい。2次コイルL2は、その両端部に、高圧側端子411と、低圧側端子412とを有する。
【0032】
通電制御部42は、1次コイルL1への通電を制御する。通電制御部42は、バッテリ421と、イグナイタ422とを有する。
【0033】
バッテリ421は、直流電力を充放電可能な電源装置(蓄電池)である。本実施形態では、バッテリ421は、トランス41の1次コイルL1およびイグナイタ422と、電気的に接続される。バッテリ421は、トランス41の1次コイルL1およびイグナイタ422に、直流電圧を供給する。
【0034】
イグナイタ422は、1次コイルL1の通電を制御する。イグナイタ422は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子である。イグナイタ422は、ECU10から供給される点火信号に従ってON/OFFし、1次コイルL1の通電を制御する。
【0035】
点火プラグ43は、燃焼室21の内部に配置され、燃焼室21内で着火動作を実現するための装置である。点火プラグ43は、トランス41の2次コイルL2の高圧側端子411と、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、点火プラグ43の一端は、高圧側端子411に接続され、点火プラグ43の他端は、接地される。2次コイルL2の高圧側端子411に高電圧が誘起されると、点火プラグ43のギャップにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、燃焼室21に充填された燃料に点火される。
【0036】
イオン電流検出回路50は、燃焼室21内に配置される検出プローブを流れるイオン電流を検出するための装置である。本実施形態では、イオン電流を検出する検出プローブとして点火プラグ43が用いられる。しかしながら、イオン電流検出回路50は、点火プラグ43とは別の検出プローブを有していてもよい。イオン電流検出回路50は、コンデンサ51と、ツェナーダイオード52と、ダイオード53と、オペアンプ54と、第1抵抗55と、第2抵抗56とを有する。
【0037】
2次コイルL2の低圧側端子412には、ツェナーダイオード52のカソードが接続される。ツェナーダイオード52のアノードには、ダイオード53のアノードが接続される。ダイオード53のカソードは接地される。また、コンデンサ51は、ツェナーダイオード52と並列に接続される。このコンデンサ51によってバイアス電圧が生成される。
【0038】
オペアンプ54の反転入力端子は、ツェナーダイオード52のアノードとコンデンサ51との接続点と、第1抵抗55を介して接続される。オペアンプ54の非反転入力端子は接地される。また、オペアンプ54の反転入力端子と出力端子とは、第2抵抗56を介して接続される。これにより、オペアンプ54の出力端子からは、点火プラグ43のギャップ間を流れるイオン電流の電流値に比例する電圧値Viの電位が生じる。オペアンプ54の出力端子は、ECU10と接続される。すなわち、ECU10には、イオン電流検出回路50から、イオン電流の電流値に比例する電圧値Viが入力される。
【0039】
このように、本実施形態において、ECU10、点火回路40、およびイオン電流検出回路50によって、内燃機関1の点火装置が構成されている。
【0040】
<2.イオン電流計測値を用いた通電制御>
続いて、イオン電流検出回路50において検出された電圧値Viを用いたイグナイタ422での通電制御について、説明する。
【0041】
本実施形態のように、アンモニアガスおよび水素ガスの混合燃料を用いる場合、燃料の混合比によって点火プラグ43を放電させるための放電タイミングや放電エネルギーを適宜調整することが好ましい。例えば、アンモニアガスの比率が大きくなると、混合燃料の着火性が低下するため、放電タイミングを進角させるとともに、放電エネルギーを大きくすることが好ましい。一方、水素ガスの比率が大きくなると、混合燃料の着火性が上昇するため、放電タイミングを遅角させるとともに、放電エネルギーを小さくすることが好ましい。
【0042】
一方、混合器33において、第1燃料バルブ331および第2燃料バルブ332によって、第1気体燃料タンク31から供給されるアンモニアガスの流量と第2気体燃料タンク32から供給される水素ガスの流量とをある程度調整できるものの、厳密に混合比を調整することは困難である。
【0043】
そこで、ECU10は、イオン電流検出回路50の検出した電圧値Viを用いて、混合燃料におけるアンモニアガスと水素ガスとの混合比を推測し、推測混合比に基づいて点火プラグ43における放電電圧値および放電タイミングを調整する。図3は、ECU10における通電制御の流れを示したフローチャートである。
【0044】
図3に示すように、ECU10は、まず、第1燃料バルブ331の開度および第2燃料バルブ332の開度から、混合燃料の混合比を推測し、推測した混合比に基づいて放電条件(放電タイミングおよび放電エネルギー)を決定する(ステップS1)。
【0045】
その後、ECU10は、燃料供給部30を制御して、インジェクタ34から燃焼室21内へ混合燃料を噴射させる(ステップS2)。
【0046】
一方、ECU10は、点火回路40のイグナイタ422をON/OFFさせて、通電による電気エネルギー蓄積と、通電遮断による高電圧誘起を行うことで、点火プラグ43における放電を行う(ステップS3)。これにより、燃焼室21内で混合燃料が着火・燃焼する。
【0047】
ステップS3では、具体的には、ECU10が、放電タイミングより前に、イグナイタ422をONさせて1次コイルL1へ通電を開始する。これにより、トランス41内に磁束が形成される。その後、ECU10がイグナイタ422をOFFさせて1次コイルL1への電力供給を遮断すると、電磁誘導によって2次コイルL2の両端に高電圧が発生する。これにより、点火プラグ43に高電圧が印加され、点火プラグ43のギャップにおいて放電が生じる。この放電開始のタイミングを、放電タイミングと称している。
【0048】
放電条件のうち、放電エネルギーは、1次コイルL1への通電時間や、1次コイルL1に供給される電圧値によって調整することができる。このため、ECU10は、設定された放電エネルギーに見合う通電時間で1次コイルL1への通電を行う。また、バッテリ421から1次コイルL1に供給する電圧が可変である場合、ECU10は、設定された放電エネルギーに見合う電圧値で1次コイルL1に通電を行う。また、放電条件のうち、放電タイミングは、1次コイルL1への通電遮断のタイミングによって決まる。このため、ECU10は、設定された放電タイミングに合う通電遮断時刻と、そこから遡って通電開始時刻とを決定する。
【0049】
このように、放電を行うよりも前から1次コイルL1への通電が開始される。このため、ステップS2の混合燃料の噴射を行う前から、ステップS3の放電を行うための1次コイルL1への通電を開始している場合がある。
【0050】
放電後、ECU10は、イオン電流検出回路50から入力される電圧値Viに基づいて、電圧値Viのピーク値を取得する(ステップS4)。そして、ECU10は、取得したピーク値に基づいて、混合燃料におけるアンモニアガスと水素ガスとの混合比を算出する(ステップS5)。なお、以下では、混合燃料におけるアンモニアガスの割合を「混焼比」と称する。
【0051】
ここで、電圧値Viのピーク値と混合燃料におけるアンモニアガスと水素ガスとの混合比との関係について、図4を参照しつつ説明する。図4は、気体燃料の種類毎のイオン電流値に対応する電圧値Viの模式図である。図4には、アンモニアガス50%・水素ガス50%(混焼比50%)の混合気体燃料G1、アンモニアガス25%・水素ガス75%(混焼比25%)の混合気体燃料G2、水素ガス100%(混焼比0%)の気体燃料G3の3種類について、電圧値Viの経時変化が示されている。
【0052】
図4に示すように、50%、25%、0%と混焼比(アンモニアガス混合比)が小さくなるにつれて、順に、電圧値Viのピーク値が大きくなっている。すなわち、アンモニアガスと水素ガスとの混合燃料において、水素ガスの割合が大きくなるにつれて、イオン電流に対応する電圧値Viが大きくなる。この関係を利用することにより、電圧値Viのピーク値から、混合燃料中のアンモニアガスと水素ガスとの混合比を推測することができる。なお、図4中、混焼比50%、25%、0%のそれぞれについて、放電タイミングを異ならせているため、電圧値Viのピークのタイミングが異なる。
【0053】
この関係を用いて、ステップS5において、ECU10では、図5に示すようなマップM1を用いて、イオン電流検出回路50から入力された電圧値Viのピーク値に基づいて、混焼比を算出する。図5は、電圧値Viのピーク値と、混焼比とを示したマップM1の概略図である。
【0054】
ガソリン等の炭化水素を含む燃料を使用した場合、アンモニアガスや水素ガス等の炭化水素を含まない燃料を使用する場合と比べて、非常に大きく不安定なイオン電流が発生する。また、ガソリン等の炭化水素を含む燃料を使用した場合、炭化水素の反応過程に生じるケミカルイオンによるイオン電流ピークと、その後窒素の反応過程に生じるサーマルイオンによるイオン電流ピークとの2つのピークが発生する。これに対し、アンモニアガスや水素ガス等の炭化水素を含まない燃料を使用する場合、比較的小さく安定した1つのイオン電流ピークを検出できる。このため、図4に示すような混焼比毎のイオン電流(電圧値Vi)の波形が安定し、再現性が高い。したがって、電圧値Viから推測される混焼比の信頼度が高い。
【0055】
ステップS5に続いて、ECU10は、図6に示すような3次元マップM2を用いて、放電条件(放電タイミングおよび放電エネルギー)を決定する(ステップS6)。図6は、3次元マップM2の一例を示した図である。3次元マップM2には、内燃機関1の回転数、吸気圧、および混焼比の3つの条件毎に、放電条件が予め決められている。これにより、ステップS6において、ECU10は、回転数、吸気圧および混焼比に応じて最適な放電条件を決定することができる。
【0056】
3次元マップM2に規定される放電条件は、回転数および吸気圧が同じである場合、混焼比(アンモニアガスの混合比)が大きいほど、放電タイミングを進角させるとともに、放電エネルギーを大きくする。すなわち、イオン電流値(電圧値Vi)のピーク値が小さいほど、放電電圧の供給タイミングを進角させるとともに、放電電圧の電圧値を大きくする。これにより、アンモニアガスの割合が大きくなり、着火性が低下するにつれて、放電タイミングを進角させるとともに放電電圧の電圧値を大きくして着火させやすくする。
【0057】
つまり、3次元マップM2に規定される放電条件は、回転数および吸気圧が同じである場合、混焼比(アンモニアガスの混合比)が小さいほど、放電タイミングを遅角させるとともに、放電エネルギーを小さくする。すなわち、イオン電流値(電圧値Vi)のピーク値が大きいほど、放電電圧の供給タイミングを遅角させるとともに、放電電圧の電圧値を小さくする。これにより、水素ガスの割合が大きくなり、着火性が上昇するにつれて、放電タイミングを遅角させてより上死点に近いクランク角において、放電電圧の電圧値を着火に必要な範囲で小さくして着火を行う。
【0058】
そして、ECU10は、ステップS6で決定した新たな放電条件が、現在の放電条件と一致しているか否かを判断する(ステップS7)。新たな放電条件が現在の放電条件と一致していると判断した場合(ステップS7:Yes)、ECU10は、ステップS2に戻り、燃料噴射および放電を行う。
【0059】
一方、新たな放電条件が現在の放電条件と一致していないと判断した場合(ステップS7:Yes)、ECU10は、放電条件を新たな放電条件に更新する(ステップS8)。その後、ECU10は、ステップS2に戻り、燃料噴射および放電を行う。
【0060】
このように、イオン電流に対応する電圧値Viを検出することによって、燃料の混焼比(アンモニアガスと水素ガスとの混合比)を推測できる。そして、推測された混焼比を用いて適切な放電条件(放電タイミングおよび放電エネルギー)を決定することにより、複数種類の気体燃料を混合した燃料を用いる場合であっても、適切な着火動作を行うことができる。
【0061】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0062】
上記の実施形態では、混合燃料は、アンモニアガスと水素ガスとを混合したものであった。しかしながら、混合燃料は、これに限られない。例えば、混合燃料は、アンモニアガスと、水素ガスに加えて、酸素ガスを助燃剤として含んでいてもよい。
【0063】
また、上記の実施形態では、第1気体燃料と第2気体燃料との供給源は、いずれもタンク(ガスボンベ)であった。しかしながら、第1気体燃料と第2気体燃料との供給源は、必ずしもこのような気体燃料の貯留部に限られない。気体燃料の供給源は、例えば、気体燃料を発生させる装置であってもよい。具体的には、気体燃料の供給源は、例えば、アンモニア水からアンモニアを気化させてアンモニアガスを生成する装置や、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを生成する装置であってもよい。そのような装置を用いる場合、気体燃料の発生量を厳密にコントロールすることは困難である。このため、本願のように複数の気体燃料の混合比を推測する技術は、特に有用である。
【0064】
本発明の内燃機関用点火装置は、自動車等の車両のみならず、発電機等の様々な装置や産業機械に搭載されて、内燃機関の点火プラグに電気火花を発生させて燃料を点火させるために使用されるものであればよい。
【0065】
上記の内燃機関用点火装置の細部の形状や構造は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 内燃機関
10 ECU
20 気筒
21 燃焼室
30 燃料供給部
31 第1気体燃料タンク
32 第2気体燃料タンク
33 混合器
34 インジェクタ
40 点火回路
43 点火プラグ
50 イオン電流検出回路
M1 マップ
M2 3次元マップ
Vi 電圧値
図1
図2
図3
図4
図5
図6