(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150977
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】高温超電導線材、超電導コイルおよび超電導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20241017BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H01B12/06
H01F6/06 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064059
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
(72)【発明者】
【氏名】戸坂 泰造
(72)【発明者】
【氏名】阿部 格
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA28
5G321CA42
5G321CA50
5G321CA52
(57)【要約】
【課題】高温超電導線材の各層が剥離する方向への機械的な強度を向上させて剥離を抑制することである。
【解決手段】高温超電導線材Wは、金属基板1の片面に他の層とともに積層された超電導層3を有し、テープ状を成す超電導積層体Bと、超電導積層体Bの外周を覆う保護層としての第1金属層4と、第1金属層4の上から超電導積層体Bの外周を覆う安定化層としての第2金属層5と、第2金属層5の上から超電導積層体Bの外周を覆う第3金属層6と、を備え、第3金属層6は、第2金属層5よりも、高硬度、高ヤング率、高降伏応力の少なくともいずれかの性質を有する、めっき層で形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の片面に他の層とともに積層された超電導層を有し、テープ状を成す超電導積層体と、
前記超電導積層体の外周を覆う保護層としての第1金属層と、
前記第1金属層の上から前記超電導積層体の外周を覆う安定化層としての第2金属層と、
前記第2金属層の上から前記超電導積層体の外周を覆う第3金属層と、
を備え、
前記第3金属層は、前記第2金属層よりも、高硬度、高ヤング率、高降伏応力の少なくともいずれかの性質を有する、めっき層で形成されている、
高温超電導線材。
【請求項2】
前記第1金属層の材質は、銀であり、
前記第2金属層の材質は、銅であり、
前記第3金属層の材質は、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金のいずれかである、
請求項1に記載の高温超電導線材。
【請求項3】
前記第3金属層の材質は、ニッケルにリンが添加された合金である、
請求項1に記載の高温超電導線材。
【請求項4】
前記第3金属層の材質として用いられる前記ニッケルに添加される前記リンの重量比は、7wt%以上、20wt%以下の範囲となっている、
請求項3に記載の高温超電導線材。
【請求項5】
前記第3金属層の上から前記超電導積層体の少なくとも片面を覆い、絶縁性を有する絶縁層を備える、
請求項1または請求項2に記載の高温超電導線材。
【請求項6】
前記第3金属層の上から前記超電導積層体の少なくとも片面を覆い、離形性を有する離形層を備える、
請求項1または請求項2に記載の高温超電導線材。
【請求項7】
前記超電導積層体の端部に、前記第3金属層で覆われていない非めっき部が形成されている、
請求項1または請求項2に記載の高温超電導線材。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の高温超電導線材を備え、
前記高温超電導線材が巻回され、前記高温超電導線材のターン間の少なくとも一部が樹脂で含浸され、前記高温超電導線材のターン同士が互いに固定されている、
超電導コイル。
【請求項9】
請求項8に記載の超電導コイルを備え、
複数の前記超電導コイルが軸方向に積層された状態で互いに固定され、かつ前記超電導コイルが互いに電気的に連結されている、
超電導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高温超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、REBCO(REBa
2Cu
3Oy
7-δ)線材と呼ばれる第2世代の高温超電導線材が知られている。この高温超電導線材は、
図9に示すように、強度を担うテープ状の金属基板1の上に、結晶配向性を担う中間層2が形成され、さらにその上の超電導層3が形成されている。さらに、空気に触れることによる超電導層3の劣化を防止するために、超電導層3を取り囲むように配置された保護層4(第1金属層)が必要となる。通常、第1金属層の材料としては、銀(Ag)が用いられている。しかし、銀は高価であるため、超電導層3の劣化防止のために必要な最小限の厚さ(数μm程度)で保護層4が形成されている。
【0003】
さらに、クエンチの発生時に、迂回電流によって焼損しないようにするために、安定化層5(第2金属層)が保護層4(第1金属層)を覆っている。この第2金属層の種類、厚さは、クエンチ電流が、迂回する際に焼損しない電気抵抗となるように選定されている。通常、第2金属層の材質としては、銅(Cu)が用いられている。そして、この第2金属層は、数μm~数十μm程度の厚さで第1金属層を覆うように密着施工されている。第1金属層に第2金属層の役割(安定化)も担わせることも可能だが、通常は、第1金属層である銀が高価であるため、銅による第2金属層が用いられている。また、超電導層3の種類、結晶配向のさせ方などが異なる複数の高温超電導線材が考案されており、複数のメーカーから市販されている。ここで、超電導コイル11(
図10)に使用される超電導線材は、銀の第1金属層、銅の第2金属層の構成で超電導層3を保護し、かつ安定化させており、この構成は、各メーカーでほぼ共通している。
【0004】
図10に示すように、従来、薄いテープ状の高温超電導線材(REBCO線材)がパンケーキ状に巻回され、ターン間に絶縁テープ7が設けられ、含浸樹脂8で固着させたものがある。ここで、絶縁テープ7には、その表面の一部または全周に、エポキシ樹脂で構成される含浸樹脂8との接着力を弱める離形処理、例えば、離形層10を設ける処理がなされている。これにより、超電導コイル11が極低温に冷却される際に生じる内部応力による剥離劣化を防止するための構成となっている。従来、様々な剥離劣化の防止の技術が考案されているが、その中でも線材の剥離に対する高強度化を図った考案がある。例えば、断面視でC型の金属部材により高温超電導線材の外周が補強され、超電導層3の上面を高強度化し、かつ動きにくくし、剥離を防ぐ構成としている。また、2枚の高温超電導線材が重ねられ、幅方向の両端部がハンダなどで接続され、熱応力を受けた際に加わる力を、この両端部のみで受ける構成としている。線材の幅方向の中央部は、隣り合う線材との接続がないため、熱応力は、線材のそれぞれで分断され、剥離応力は殆ど加わらないようになる。
【0005】
REBCO線材を高温超電導磁石用のコイルの線材として使用するにあたり、課題は多岐にわたり、それらに対する特許も多くなされている。ここで、課題のひとつとして、REBCO線材の内部剥離による超電導特性の劣化のしやすさがあり、その対策にも様々なものがある。例えば、前述のように、多層構成の上に、保護層4(第1金属層)、安定化層5(第2金属層)を有した構成のREBCO線材がある。この線材の長手方向の引張強度は、金属基板1の材質、厚さでコントロールできる。しかし、線材の平面に垂直な方向、つまり、多層構成に対しては剥離させる方向への引張強度は、非常に弱い。ピール試験、劈開試験では、弱い力で金属基板1と超電導層3とが剥離する。この方向に働く力としては、テープ状のREBCO線材をパンケーキ状に巻線し、含浸したパンケーキコイルにおいて、極低温への冷却時に発生する熱応力がある。特に、通電のために極低温冷却が必要な超電導コイル11がその冷却時に剥離劣化してしまうことが大きな課題である。このように、REBCO線材は、巻線によるコイル化の際に、熱応力による劣化がしやすいため、REBCO線材よりも弱い力で剥離する箇所を別に設けたり、線材自体を高強度化することで剥離しにくくしたりする対応がなされている。
【0006】
REBCO線材の保護層4(第1金属層)は、超電導層3を空気環境から守り、大気放置時の劣化を防ぐ役割を持っている。また、安定化層5(第2金属層)は、超電導層3がクエンチした際に、電流が迂回する経路としての役割を持っている。通常使われる材料としては、第1金属層に銀(Ag)が使われ、第2金属層に銅(Cu)が使われる。第1金属層は数μmの厚さで薄く、第2金属層は数μm~数十μmの厚さで機械的に弱く、熱応力がかかった場合に、これらの内部の超電導層3が剥離してしまうほどに変形してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5259487号公報
【特許文献2】特許第5512175号公報
【特許文献3】特許第6505565号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y.Yanagisawa, TEION KOGAKU (J. Cryo. Super. Soc. Jap.) Vol.48 No.4 (2013), P.151
【非特許文献2】伊藤ら、「電析 Ni-P 合金めっき膜の微細構造と磁性」、東京都立産業技術研究所研究報告第4号(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高温超電導線材の各層が剥離する方向への機械的な強度を向上させて剥離を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る高温超電導線材は、金属基板の片面に他の層とともに積層された超電導層を有し、テープ状を成す超電導積層体と、前記超電導積層体の外周を覆う保護層としての第1金属層と、前記第1金属層の上から前記超電導積層体の外周を覆う安定化層としての第2金属層と、前記第2金属層の上から前記超電導積層体の外周を覆う第3金属層と、を備え、前記第3金属層は、前記第2金属層よりも、高硬度、高ヤング率、高降伏応力の少なくともいずれかの性質を有する、めっき層で形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態により、高温超電導線材の各層が剥離する方向への機械的な強度を向上させて剥離を抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1から第4実施形態の超電導線材を示す断面図。
【
図4】第7実施形態の高温超電導線材の一例を示す側面図。
【
図5】第7実施形態の高温超電導線材の他の例を示す側面図。
【
図7】補強層の効果を説明するための電流と電圧の関係を示すグラフ。
【
図8】第9実施形態の超電導磁石装置を示す断面図。
【
図11】従来の超電導コイルで絶縁テープがずれている状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、高温超電導線材、超電導コイルおよび超電導磁石装置の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1を用いて説明する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0014】
図1は、第1実施形態の高温超電導線材Wである。この高温超電導線材Wは、REBCO線材(酸化物超電導線材)である。
【0015】
高温超電導線材Wは、薄膜状の複数の層が積層されたテープ状を成す超電導積層体Bを備える。この超電導積層体Bは、強度を担うテープ状の金属基板1の片面に、結晶配向性を担う中間層2が形成され、さらにその上に超電導層3が形成されているものである。
【0016】
さらに、高温超電導線材Wは、保護層4と安定化層5と補強層6とを備える。保護層4は、超電導積層体Bの外周を覆う第1金属層である。安定化層5は、保護層4の上から超電導積層体Bの外周を覆う第2金属層である。補強層6は、安定化層5の上から超電導積層体Bの外周を覆う第3金属層である。
【0017】
補強層6(第3金属層)は、安定化層5(第2金属層)よりも、高硬度、高ヤング率、高降伏応力の少なくともいずれかの性質を有する、めっき層で形成されている。つまり、補強層6は、高温超電導線材Wの製造時において、安定化層5よりも硬度が高いこと、安定化層5よりもヤング率が高いこと、安定化層5よりも降伏応力の大きいことの少なくともいずれかの条件が満たされるように形成されている。この補強層6が安定化層5の周囲に密着するように、めっき層で覆う構成としている。
【0018】
めっきにより補強層6(第3金属層)が安定化層5(第2金属層)の周囲を覆う施工が行われることで、高温超電導線材Wの平面に対して垂直な方向への引張り応力に対する歪みを小さくすることができる。その結果、超電導コイル11(
図6)の冷却時に発生する超電導コイル11の内部の熱応力に対して強度が増し、劣化しにくい構成となる。また、その際に、めっき時の内部応力が引張応力となるような条件で施工することで、めっき層である補強層6(第2金属層)で、その内部の張力が、補強層6の平面に垂直な方向への変位を抑える方向に寄与する。
【0019】
したがって、補強層6(第3金属層)による補強は、保護層4(第1金属層)と安定化層5(第2金属層)の厚膜化による補強よりも、同じ厚さならば、強度を強くすることができる。また、同じ程度の強度ならば、薄肉化が可能となる。その結果、超電導コイル11(
図6)の冷却時の熱応力に対する歪みを低減し、剥離劣化を抑制することができる。また、高温超電導線材Wの薄肉化により、高温超電導線材Wを超電導コイル11にした際の単位体積当たりの巻き数が増え、超電導コイル11として高密度化を図ることができる。
【0020】
また、安定化層5(第2金属層)よりも機械的に高強度な金属を補強層6(第3金属層)として、超電導積層体Bの全周の面にめっきすることにより、剥離劣化を防ぐことができる。なお、高強度とは、その下地となっている第2金属層よりも、高硬度、高ヤング率、高降伏応力であることを示す。
【0021】
また、高温超電導線材Wを超電導コイル11(
図6)にするときに、応力に対して超電導層3の歪みを減らし、劣化を防止することができる。また、剥離する別の箇所を設けることで、超電導層3での剥離応力を緩和する方法ではなく、超電導積層体Bの各層が剥離する方向に対する機械的な強度を向上させ、各層を剥離しにくくし、超電導積層体Bの剥離劣化を低減させることができる。
【0022】
また、高温超電導線材Wが高強度化され、高温超電導線材Wを取り扱う際の作業性、ハンドリングが改善される。さらに、補強層6による高強度化により、熱応力による歪みが小さくなり、剥離劣化しにくくなる。
【0023】
また、超電導コイル11(
図6)が一旦劣化してしまうと、昇温し、分解し、取り換えて、再組立てを行い、再冷却する必要があり、時間的にもコスト的にも大きな損失となってしまうため、第1実施形態の剥離劣化防止の機能が有用である。
【0024】
(第2実施形態)
つぎに、第2実施形態について
図1を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0025】
図1に示すように、保護層4(第1金属層)の材質は、銀(Ag)で構成されている。また、安定化層5(第2金属層)の材質は、銅(Cu)で構成されている。また、補強層6(第3金属層)の材質は、銅合金(Cu合金)、ニッケル(Ni)、ニッケル合金(Ni合金)、クロム(Cr)、クロム合金(Cr合金)のいずれかで構成されている。
【0026】
安定化層5(第2金属層)の銅よりも、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金は高硬度であり、かつ、銅との密着性も良好なため、補強層6(第3金属層)により安定しためっき層が形成される。
【0027】
したがって、超電導積層体Bの各層の剥離劣化を防止するための高強度化に効果があり、高温超電導線材Wを巻回して超電導コイル11(
図6)とする際に、熱応力に対して劣化しにくい高温超電導線材Wとすることが可能となる。
【0028】
(第3実施形態)
つぎに、第3実施形態について
図1を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0029】
図1に示すように、補強層6(第3金属層)の材質は、ニッケル(Ni)にリン(P)が添加された合金で構成されている。
【0030】
ニッケルは銅より高硬度であり、かつニッケルにリンを添加することで磁性が弱くなる。つまり、補強層6の磁性を低減させることができる。そのため、高温超電導線材Wを巻回して超電導コイル11(
図6)にした場合に、電流変化時に発生する交流損失を低減することができる。
【0031】
(第4実施形態)
つぎに、第4実施形態について
図1を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0032】
図1に示すように、補強層6(第3金属層)の材質は、リン(P)の添加量が重量比で7wt%以上、20wt%以下の範囲となっている合金で構成されている。なお、リンの添加量は、12wt%以上、15wt%以下の範囲が好ましい。
【0033】
例えば、Ni-P合金は、リンが7wt%以上(12.5at%以上)で結晶性が減少し、アモルファス状態へと移行していき、12wt%程度以上(21.5at%以上)でアモルファスとなり磁性が低減することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。第4実施形態では、補強層6(第3金属層)の材質として用いられるニッケルに添加されるリンの重量比が7wt%以上、20wt%以下の範囲となっていることで、補強層6がアモルファス状態となり、大幅に磁性を低減させることができる。さらに、リンの添加量が12wt%以上、15wt%以下の範囲であれば、補強層6の強度を維持したまま、さらに磁性を低減させることができる。
【0034】
また、高温超電導線材Wを巻回して超電導コイル11(
図6)にした場合に、電流変化時に発生する交流損失を、ニッケルだけのめっき層よりも低減することができる。
【0035】
(第5実施形態)
つぎに、第5実施形態について
図2を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0036】
図2に示すように、第5実施形態の高温超電導線材Wは、補強層6(第3金属層)の上から超電導積層体Bの少なくとも片面を覆い、絶縁性を有する絶縁層9を備える。このようにすれば、高温超電導線材Wを巻回したときに、ターン間の電気絶縁の信頼性が向上する。
【0037】
例えば、超電導積層体Bの外周全体を覆うように絶縁層9が形成されている。なお、超電導積層体Bの外周を構成する4つの面(表面、裏面、両端縁面)のうち、いずれか一面または二面のみに絶縁層9が形成されるものでもよい。
【0038】
高温超電導線材Wがパンケーキ状に巻回され、樹脂8(
図6)が含浸されることで、超電導コイル11(
図6)を作成ことが可能となる。補強層6のめっきが施されている高温超電導線材Wの外周表面に、絶縁の機能を持たせることにより、従来技術のように、ターン間に別の絶縁テープ7(
図10)を共巻きする必要がない。また、他の離形部材をどこかに意図的に設ける必要もない。
【0039】
絶縁層9を高温超電導線材Wとは別に用意し、共巻きすることでターン間を絶縁する従来のコイル製作方法と比較して、第5実施形態の高温超電導線材Wでは、その巻回作業が簡便に行える。また、巻き乱れなどのトラブルが少なくなる。
【0040】
例えば、従来例に示すように、共巻きする離形コーティングの絶縁テープ7(
図11)が、線材に対してずれて巻かれることによるコイル形状の厚さの増加、絶縁不良などの不安定な要因が生じる。これに対して、第5実施形態の高温超電導線材Wは、従来例のような要因が起きにくくなり、その結果、超電導コイル11(
図6)としての安定性向上に加え、電流密度増加にも寄与できる。
【0041】
(第6実施形態)
つぎに、第6実施形態について
図3を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0042】
図3に示すように、第6実施形態の高温超電導線材Wは、補強層6(第3金属層)の上から超電導積層体Bの少なくとも片面を覆い、離形性を有する離形層10を備える。例えば、高温超電導線材Wは、絶縁層9の上に、さらに高温超電導線材Wの片面において絶縁層9を離形層10で覆う構成となっている。なお、離形性とは、他の部分よりも剥離しやすい性質を有することを示す。また、離形層10は、超電導積層体Bの各層の破壊強度および剥離強度よりも弱いことが好ましい。
【0043】
このようにすれば、高温超電導線材Wに剥離応力が加わった際に、超電導積層体Bで積層された各層が破壊または剥離される前に、離形層10が樹脂8(
図6)から剥離されるようになり、超電導積層体Bの剥離劣化または絶縁不良を抑制することができる。
【0044】
また、高温超電導線材Wを巻いて超電導コイル11(
図6)を作成する際に、含浸に用いられるエポキシ樹脂の含浸樹脂8(
図6)と高温超電導線材Wとが固着されないようになる。その結果、コイル冷却時などの熱応力発生時に、離形層10が剥がれ、劣化を引き起こす超電導層3の剥離を防止することができる。
【0045】
高温超電導線材Wは、補強層6(第3金属層)による補強で、剥離劣化しにくくなるとともに、離形層10を意図的に持たせることで、巻回した際に超電導特性の劣化をもたらす高温超電導線材Wの剥離がしにくくなる。さらに、補強層6による補強以上に劣化しにくい超電導コイル11(
図6)とすることができる。また、超電導コイル11として、より厳しい条件、例えば、コイル内外径比が大きくなるという条件にも対応することができる。
【0046】
(第7実施形態)
つぎに、第7実施形態について
図4から
図5を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0047】
第7実施形態の高温超電導線材Wは、超電導積層体Bの端部に、補強層6(第3金属層)で覆われていない非めっき部Nが形成されている。
【0048】
例えば、超電導積層体Bの長手方向の全体に渡ってめっきを施す際に、超電導積層体Bの一方の端部または両端部の片面または全面にマスキングが施され、このマスキングによりめっきされない非めっき部Nが形成されるようにする。このようにすれば、高温超電導線材Wの端部同士を電気的に接続するときに、補強層6が抵抗にならずに済む。
【0049】
具体的には、安定化層5(第2金属層)まで施工した超電導積層体Bに対し、補強のためにその上から補強用の補強層6をめっきする際に、超電導積層体Bの両端部に補強層6がめっきされないようにマスキングが施される。
【0050】
ここで、
図4に示すように、両面めっき非施工の場合は、長尺の超電導積層体Bの両端部において、超電導積層体Bの両面にマスキングを施す。すると、安定化層5(第2金属層)が両面に露出される。
【0051】
また、
図5に示すように、片面めっき非施工の場合は、長尺の超電導積層体Bの両端部において、超電導積層体Bの片面にマスキングを施す。すると、安定化層5(第2金属層)が片面のみに露出される。
【0052】
第7実施形態の高温超電導線材Wを用いて超電導コイル11(
図6)を製作した場合、高温超電導線材Wの両端部は、安定化層5(第2金属層)の材質が露出する。通常、安定化層5には銅のようにハンダ接続しやすい材料が使われているため、この部分の電気抵抗が小さくなるような接続を行うことができる。また、接続電気抵抗を低減するためのハンダ接続のために、めっき層を削り落とす作業の必要もなくなる。
【0053】
発明者らは、幅4mmの高温超電導線材Wを用いた実験を行った。その結果、例えば、2~3μm程度のNi-Pめっき(高リンタイプ)を施した高温超電導線材Wを他の高温超電導線材Wとハンダ接続し、その際のオーバーラップが100mm程度で、電気抵抗が44nΩ程度であった。しかし、Ni-Pめっきを予め施さないようにすることで、10nΩ程度に低減できることが分かった。4分の1程度に1箇所の割合で接続電気抵抗を小さくできるため、損失低減、永久電流モードの時定数増加を図ることが可能となる。
【0054】
(第8実施形態)
つぎに、第8実施形態について
図6から
図7を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0055】
図6は、高温超電導線材Wを備えるパンケーキ状の超電導コイル11の斜視図とその一部拡大断面図を示している。例えば、高温超電導線材W(
図2)がパンケーキ状に巻回され、この高温超電導線材Wのターン間の少なくとも一部が含浸樹脂8で含浸されている。第8実施形態では、高温超電導線材Wのターン間の全てが含浸樹脂8で含浸され、高温超電導線材Wのターン同士が互いに固定されている。
【0056】
超電導コイル11が冷却される際に、超電導コイル11を構成している高温超電導線材W、含浸樹脂8の熱膨張係数の差異により歪みが生じ、内部に応力がかかる。通常、テープ状の超電導積層体Bの各層間を剥離させるような応力が生じるが、補強層6(第3金属層)による補強により、熱応力に対して歪みを低減できる。
【0057】
その結果、超電導層3が剥離しにくくなり、高温超電導線材Wが劣化せず、超電導コイル11としての特性を維持することができる。また、高温超電導線材Wの特徴である高磁場の発生が可能な超電導コイル11とすることができる。
【0058】
図7のグラフは、発明者らが行ったNi-Pめっきの効果を検証する試験結果を示す。発明者らは、Ni-Pめっきを2~3μm程度の厚さで超電導積層体Bの全周に施し、さらに全周にエポキシ電着による絶縁施工を施した高温超電導線材Wを作成した。発明者らは、この高温超電導線材Wを用いて、塗り込みエポキシ樹脂の含浸により、内外径比が「3」のパンケーキコイルを試作し、その超電導特性(電流-電圧特性)を液体窒素中で測定した。
【0059】
比較例として、発明者らは、特性が同等の同じロット(超電導特性の指標となるn値の最小値が25)のREBCO線材に対してNi-Pめっきを施さず、絶縁層9のみを全周に施工したREBCO線材を巻回し、内外径比が「3」のパンケーキコイルを試作した。そして、発明者らは、その超電導特性を液体窒素中で測定した。
【0060】
このグラフに示すように、めっき無しパンケーキコイルは、Ni-Pめっき有りのパンケーキコイルよりも、低い電流値で電圧が発生し始め、臨界電流値(Ic)は、29.3Aに低下した。一方、めっき有りのパンケーキコイルの臨界電流値(Ic)は、63.5Aであった。超電導特性の指標としているn値は、めっき施工した線材によるパンケーキコイルでは、24となり、線材のn値とほぼ等しいのに対し、めっき施工していない線材によるパンケーキコイルでは、5.3に低下していた。明らかに超電導特性が劣化しており、Ni-Pめっきによる補強、剥離劣化防止の効果が示されている。
【0061】
(第9実施形態)
つぎに、第9実施形態について
図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、適宜他の図面を参照する。
【0062】
図8は、複数個の超電導コイル11を備える超電導磁石装置12を一部断面にした斜視図を示している。例えば、複数個の超電導コイル11が、その中心軸Cの軸方向に沿って積層された状態で互いに固定され、かつ隣接する超電導コイル11同士が互いに電気的に連結されている。
【0063】
パンケーキ状の超電導コイル11は、それぞれが直列に、外周接続部14と内周接続部15で電気的に接続されている。また、超電導磁石装置12の上下に配置されている1対の端子13は、超電導磁石装置12の電極である。これらの端子13に他の外部装置(図示略)が接続され、端子13に通電されることで、全ての超電導コイル11に通電される構成となっている。
【0064】
それぞれの超電導コイル11が互いに密接して固定されているため、冷却時の熱応力は、通常、1枚のパンケーキコイルで構成されているものよりも大きくなる。したがって、高温超電導線材W(
図6)が、剥離劣化しやすくなる。しかし、それぞれの超電導コイル11で使用される高温超電導線材Wの補強層6(第3金属層)による補強により、それぞれの超電導コイル11において、熱応力に対する歪みを低減することができる。
【0065】
その結果、超電導層3(
図6)が、剥離しにくくなり、劣化せず、超電導コイル11としての特性を維持することができる。さらに、高温超電導線材Wの特徴である高磁場を発生させることが可能な超電導コイル11とすることができる。
【0066】
以上、本発明が第1実施形態から第9実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0067】
なお、前述の実施形態は、パンケーキ状の超電導コイル11を例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、超電導コイル11が、長円形状でもよいし、筒状でもよいし、直線状でもよい。
【0068】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、第2金属層の上から超電導積層体Bの外周を覆う第3金属層を備えることにより、高温超電導線材Wの各層が剥離する方向への機械的な強度を向上させて剥離を抑制することができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
1…金属基板、2…中間層、3…超電導層、4…保護層、5…安定化層、6…補強層、7…絶縁テープ、8…含浸樹脂、9…絶縁層、10…離形層、11…超電導コイル、12…超電導磁石装置、13…端子、14…外周接続部、15…内周接続部、B…超電導積層体、C…中心軸、N…非めっき部、W…高温超電導線材。