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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150982
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】水解性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/24 20060101AFI20241017BHJP
   D21H 23/24 20060101ALI20241017BHJP
   D21H 17/24 20060101ALI20241017BHJP
   A47L 13/17 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
D21H21/24
D21H23/24
D21H17/24
A47L13/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064068
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
【テーマコード(参考)】
3B074
4L055
【Fターム(参考)】
3B074AA01
3B074AA04
3B074AA08
3B074AB01
3B074CC03
4L055AA11
4L055AG44
4L055AG48
4L055AG52
4L055AH29
4L055AH37
4L055BE08
4L055BE11
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA11
(57)【要約】
【課題】従来よりも水解性が向上した水解性シートを提供すること。
【解決手段】水解性シートは、セルロース繊維を含有する実質的に水分散可能なシートである。水解性シートは、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、カチオン基を有する多糖誘導体と、を含有する。セルロース繊維が古紙由来のセルロース繊維であることが好ましい。セルロース繊維は、フィブリル度が1.6%以下であるセルロース繊維を原料としたものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含有する実質的に水分散可能な水解性シートであって、
アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、
カチオン基を有する多糖誘導体と、
を含有する、水解性シート。
【請求項2】
前記セルロース繊維が古紙由来のセルロース繊維である、請求項1に記載の水解性シート。
【請求項3】
前記セルロース繊維は、フィブリル度が1.6%以下であるセルロース繊維を原料としたものである、請求項1又は2に記載の水解性シート。
【請求項4】
前記多糖誘導体が、カチオン化されたグアーガム及びカチオン化されたデンプンから選択される少なくとも1種である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水解性シート。
【請求項5】
水溶性バインダ又は水膨潤性バインダを更に含有する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の水解性シート。
【請求項6】
前記水溶性バインダが、カルボキシル基を有する、請求項5に記載の水解性シート。
【請求項7】
セルロース繊維と、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、を混合して混合液を得る工程と、
前記混合液を用いて基材シートを抄造する抄造工程と
前記混合液を得る工程若しくは前記抄造工程の途中で、又は該抄造工程の後に、カチオン基を有する多糖誘導体を添加する工程と、を有する、実質的に水分散可能な水解性シートの製造方法。
【請求項8】
前記抄造工程の後に、更に、前記基材シートに、水溶性バインダ又は水膨潤性バインダを添加する工程を有する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記基材シートに前記水溶性バインダ又は前記水膨潤性バインダを添加する前に、該基材シートに前記多糖誘導体を添加する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記セルロース繊維を水に分散させて分散液を得る工程と、
前記多糖誘導体と、前記分散液と、前記アニオン性界面活性剤及び前記両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、を混合する工程と、を有する、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記セルロース繊維を水に分散させて分散液を得る工程と、
前記多糖誘導体と前記分散液とを混合する工程と、
前記アニオン性界面活性剤及び前記両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、前記分散液とを混合する工程とを有する、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記セルロース繊維のフィブリル度が1.6%以下である、請求項7ないし11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して前記多糖誘導体を0.1質量%以上0.5質量%以下用い、
前記基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して前記界面活性剤を0.1質量%以上1.0質量%以下用いる、請求項7ないし12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記界面活性剤に対する前記多糖誘導体の質量比が、0.1以上3.0以下となるように該多糖誘導体を用いる、請求項7ないし13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記セルロース繊維に対する前記界面活性剤の吸着率が50%以上となるように該界面活性剤を混合する、請求項7ないし14のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水解性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ等の繊維を含む水解性シートに関する従来の技術として本出願人は先に、繊維と界面活性剤とを原料とする水解紙に、水性洗浄剤を含浸させてなる水解性シートを提案した(特許文献1参照)。
【0003】
また本出願人は、繊維として古紙由来のセルロース繊維を用い、界面活性剤を含む水解性シートも提案した(特許文献2参照)。同文献に記載の水解性シートは、古紙由来のセルロース繊維を含むことで、未使用のセルロース繊維に比べて吸水率が劣る場合においても、水解性が高いという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-194635号公報
【特許文献2】特開2021-172904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の水解性シートによれば、水中で迅速に繊維レベルまで崩壊させることは可能である。しかし、近年の水解性シートの高性能化に伴い、この種の水解性シートにおいては、水解性に関して更なる向上が要求されている。特に繊維として古紙由来のセルロース繊維を用いた場合においては、特許文献1及び2に記載の水解性シートについても改善の余地があった。
したがって本発明の課題は、従来よりも水解性が向上した水解性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セルロース繊維を含有する実質的に水分散可能な水解性シートに関する。
一実施形態において、
アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、
カチオン基を有する多糖誘導体と、
を含有することが好ましい。
【0007】
また本発明は、セルロース繊維と、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、を混合して混合液を得る工程と、
前記混合液を用いて基材シートを抄造する抄造工程と
前記混合液を得る工程若しくは前記抄造工程の途中で、又は該抄造工程の後に、カチオン基を有する多糖誘導体を添加する工程と、を有する、実質的に水分散可能な水解性シートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも水解性が向上した水解性シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、水解性シートに関するものである。水解性シートは、水性薬剤が含浸されている程度では水解しないが、大量の水中に廃棄されると速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊する実質的に水分散可能なシートである。水解性シートの水解の程度は、JIS P 4501-1993(トイレットペーパー)に規定されるほぐれやすさで表され、この値が低いほど水解性が良好であることを意味する。本発明の水解性シートのほぐれやすさの目安として好ましくは110秒以下であり、より好ましくは100秒以下であり、更に好ましくは90秒以下である。
【0010】
本発明の水解性シートは、セルロース繊維を含有する実質的に水分散可能なシートであって、好ましくは水性薬剤が含浸されてなるウエットシートである。
セルロース繊維は、天然セルロース繊維でもよく、非天然セルロース繊維でもよい。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木材パルプ;綿パルプ、麻パルプ等の非木材パルプ等が挙げられる。非天然セルロース繊維としては、例えば、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース繊維等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
セルロース繊維として、木材パルプを用いる場合、該木材パルプは、バージンパルプ及び古紙由来のセルロース繊維(すなわち古紙パルプ)の双方を包含することができる。古紙由来のセルロース繊維は、バージンパルプを原料として製造された紙をリサイクルして得られたセルロース繊維、及び古紙をリサイクルして得られたセルロース繊維を含み、バージンパルプそのものは含まない。
【0012】
古紙としては、製紙原料として回収されたものを用いることができる。我が国では、資源有効利用促進法(平成3年10月25日施行)運用通達で、古紙を以下のように定義している。
古紙の定義:紙、紙製品、書籍等その全部又は一部が紙である物品であって、一度使用され、又は使用されずに収集されたもの、又は廃棄されたもののうち、有用なものであって、紙の原料として利用することができるもの(収集された後に輸入されたものも含む。)又はその可能性があるもの。ただし、紙製造事業者の工場又は事業場(以下「工場等」という。)における製紙工程で生じるもの及び紙製造事業者の工場等において加工等を行う場合(当該紙製造事業者が、製品を出荷する前に委託により、他の事業者に加工を行わせる場合を含む)に生じるものであって、商品として出荷されずに当該紙製造事業者により紙の原材料として利用されているものは除く。
【0013】
本発明で使用可能な古紙として、例えば、新聞、雑誌、段ボール、「上白・カード」(例えば、上白、クリーム上白、罫白)、特白、中白、「模造・色上」(例えば、模造、色上、ケント、白アート、チラシ、飲料用紙パック、オフィスペーパー)、「切符・中更反古」(例えば、特上切、別上切、中更反古)、茶模造紙(例えば、切茶・無地茶、雑袋、クラフト段ボール)、「台紙・地券・ボール」(例えば、ワンプ、上台紙、台紙、雑がみ)等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの古紙の中でも、水解性シートに所望の性能(水解性、湿潤強度)を確実に付与する観点から、「模造・色上」(インキのついている上質紙や飲料用紙パック)が好ましく、牛乳パックなどの飲料用紙パックがより好ましい。
【0014】
水解性シートが含有するセルロース繊維として古紙由来のセルロース繊維を用いる場合、該セルロース繊維は、典型的には、木材パルプ(NBKP、NBSP、LBKP等)由来である。
水解性シートは、バージンパルプ100質量%から構成されていてもよく、バージンパルプ及び古紙由来のセルロース繊維の双方を含んでいてもよく、あるいは古紙由来のセルロース繊維100質量%から構成されていてもよい。水解性シートが古紙由来のセルロース繊維を含んでいる場合、古紙の再利用を促進する観点から、該水解性シートに含まれる古紙由来のセルロース繊維の割合は好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0015】
水解性シートには、水解性を有し、多量の水中に投入された場合に速やかに崩壊分散することが要望される。かかる要望に応え、水解性を向上させる観点から、水解性シートに含有されるセルロース繊維は、フィブリル度が所定の数値以下であるセルロース繊維を原料としたものであることが好ましい。フィブリル度は、セルロース繊維のフィブリル化(特に外部フィブリル化)の程度を示す指標となるものである。フィブリル度の数値が大きいほど、セルロース繊維のフィブリル化が進行していることを意味している。
相対的にフィブリル度が大きいセルロース繊維は、相対的にフィブリル度が小さいセルロース繊維に比べて、外部フィブリル化が進行しており、繊維の外側のフィブリルが毛羽立っていて比表面積が増大していることに起因して、フィブリルによる物理的絡み合いが促進され、繊維どうしの結合が強まる結果、紙の水解性が低下してしまい、多量の水中に投入しても崩壊分散し難い紙となってしまう。したがって、水解性シートの水解性を向上させる観点から、該水解性シートに含有されるセルロース繊維のフィブリル度は、所定の数値以下であることが好ましい。古紙由来のセルロース繊維はバージンパルプに比べてフィブリル度が高く、そのことに起因して、一般に、古紙由来のセルロース繊維を含む紙の水解性は、バージンパルプからなる紙の水解性に比べて劣っている。このこととは対照的に、本発明の水解性シートは、セルロース繊維の原料として古紙由来のセルロース繊維を用いた場合であっても、十分に水解性の高いものとなる。したがって本発明の水解性シートに含まれるセルロース繊維は、フィブリル度が好ましくは1.6%以下という高い値であるセルロース繊維を原料としたものである場合であっても、高い水解性を発現する。
【0016】
水解性を一層高める観点から、本発明の水解紙に含まれるセルロース繊維はフィブリル度が低い値であるセルロース繊維を原料とすることが望ましい。この観点から、本発明の水解紙に含まれるセルロース繊維はフィブリル度が1.6%以下、特に1.4%以下であるセルロース繊維を原料とすることが好ましい。原料として用いるセルロース繊維のフィブリル度が小さいほど、水解紙の水解性の向上に一層寄与するが、フィブリル度の下限値は0.8%が現実的である。
【0017】
セルロース繊維のフィブリル度は、以下の方法で測定する。
具体的には、フィブリル度は、市販の繊維画像分析アナライザー(バルメットオートメーション製ValmetFS5)を用い、そのマニュアルに従って測定する。測定原理は、測定対象の繊維の水分散液を調製し、この水分散液を内径0.5mmの管に注入して一方向に流し、その流れる様子を光源の存在下でCCDカメラ等の撮像手段によって撮像し、得られた画像に基づき、各繊維について、繊維のフィブリル部分と、それ以外の部分とに識別する。そして、「繊維の全体面積に対する、フィブリル部分の面積の割合」(以下、「フィブリル面積率」ともいう。)を測定するというものである。このフィブリル面積率がフィブリル度である。フィブリル度が小さいということは、フィブリル面積率が小さい、すなわち、外部フィブリル化があまり進行していないことを意味する。
【0018】
セルロース繊維は、その平均繊維長が所定の数値範囲にあるセルロース繊維を原料としたものであることが好ましい。これによっても、水解性シートの水解性を向上させることができる。この観点から、水解性シートの原料であるセルロース繊維は、その平均繊維長が好ましくは0.5mm以上3.0mm以下であり、より好ましくは0.6mm以上1.5mm以下であり、更に好ましくは0.8mm以上1.3mm以下である。なお、抄造の前後においてセルロース繊維の繊維長は実質的に変化しない。
【0019】
セルロース繊維の平均繊維長は、前述のフィブリル度の測定で用いた測定機器(ValmetFS5)を用い、そのマニュアルに従って測定することができる。
【0020】
水解性シートに含有されるセルロース繊維として、古紙由来のセルロース繊維を用いると、環境負荷の低減に寄与するので好ましい。古紙由来のセルロース繊維を積極的に使用することで、地球温暖化防止や廃棄物削減などの様々な環境問題の防止・解決に貢献することが可能となる。また、古紙由来のセルロース繊維を原料として使用することで、水解性シートの製造コストの低減が期待できる。しかし上述したとおり、古紙由来のセルロース繊維を含む水解性シートは、バージンパルプからなる水解性シートに比べて水解性が向上しにくいという課題があった。
この点を改善することに関し本発明者が鋭意検討したところ、水解性シートにおいて、所定の界面活性剤と所定の多糖誘導体とを組み合わせて含有させることで、意外にも、該水解性シートの水解性が従来よりも向上することを見出した。またこの優れた水解性は、水解性シートがバージンパルプを主として含有する場合だけでなく、水解性シートが古紙由来のセルロース繊維を主として含有する場合においても、発現されることも見出した。
【0021】
詳細には、本発明の水解性シートは、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤を含有することが好ましい。このような界面活性剤は、水解性シートの水解性を向上させる機能を有する。この機能は、界面活性剤と所定の多糖誘導体とを組み合わせて用いることで一層顕著なものとなる。水解性シートがこのような界面活性剤を含有することで、該界面活性剤が、後述するカチオン基を有する多糖誘導体を介して該水解性シートにおけるセルロース繊維の表面に吸着し、それによって該水解性シートの水解性が従来よりも向上する。特に、水解性シートが古紙由来のセルロース繊維を主として含有する場合においても、優れた水解性が発現する。
【0022】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリルエーテルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、カルボン酸型高分子活性剤等が挙げられる。これらのアニオン性界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水解性シートの水解性を従来よりも向上させる観点から、特にセルロース繊維として古紙由来のセルロース繊維を用いた水解性シートの水解性を向上させる観点から、アニオン性界面活性剤として、ジアルキルスルホコハク酸塩、又はラウリル硫酸塩等のアルキル硫酸エステル塩を用いることが好ましい。
【0023】
ジアルキルスルホコハク酸塩における各アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に5以上18以下であることが、水解性シートの水解性の一層の向上の点から好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩としては、例えば花王社製のペレックスOT-P等の市販品を用いることもできる。
【0024】
アルキル硫酸エステル塩における各アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に5以上18以下であることが、水解性シートの水解性の一層の向上の点から好ましい。アルキル硫酸エステル塩としては、例えば花王社製のエマール2F-30等の市販品を用いることもできる。
【0025】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン等が挙げられる。これらの両性界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水解性シートの水解性を従来よりも向上させる観点から、特にセルロース繊維として古紙由来のセルロース繊維を用いた水解性シートの水解性を向上させる観点から、両性界面活性剤として、アルキルジメチルアミンオキサイドを用いることが好ましい。
【0026】
アルキルジメチルアミンオキサイドにおける各アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に5以上18以下であることが、水解性シートの水解性の一層の向上の点から好ましい。両性界面活性剤としては、例えば花王社製のアンヒトール20N等の市販品を用いることもできる。
【0027】
また、水解性シートがアニオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤を含有する場合、該アニオン性界面活性剤及び該両性界面活性剤の合計の含有量は、該水解性シートの質量に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。また、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の合計の含有量は、水解性シートの質量に対して、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.9質量%以下である。アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の合計の含有量が0.1質量%以上であることで、後述するカチオン基を有する多糖誘導体を介して、負に帯電したセルロース繊維の表面と該界面活性剤とが吸着しやすくなり、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。また、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の合計の含有量が1.0質量%以下であることで、該界面活性剤どうしが反発してしまい、それによって負に帯電したセルロース繊維の表面に該界面活性剤が吸着しにくくなることを抑制できる。この観点から、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上0.9質量%以下である。
【0028】
水解性シートの質量に対するアニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の含有量は、以下の方法で算出する。
後述する基材シートを抄造したときに得られる白水の電荷量を、粒子電荷計(MTG社製 PCD-T3)を用いて測定する。具体的には、セルロース繊維を水に分散させた分散液の電荷量(A)、及び該分散液と前記界面活性剤とを混合して得られる混合液の電荷量(C)をそれぞれ測定する。これとは別に、前記の界面活性剤の電荷量(B)、並びに混合液中の前記界面活性剤の含有量(D)を予め測定する。その後、下記式(1)に基づき、水解性シートの質量に対するアニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の含有量、すなわちセルロース繊維に残存した該界面活性剤の量を算出する。
含有量 = 〔(B)-(C)〕/〔(A)+(B)〕×(D)×100・・(1)
【0029】
本発明の水解性シートは、上述したアニオン性界面活性剤に加えてカチオン基を有する多糖誘導体を含有することが好ましい。多糖誘導体はカチオン基を有するので、全体としてカチオン性を呈することが多い。
【0030】
カチオン基を有する多糖誘導体におけるカチオン基としては、例えば四級アンモニウム基が挙げられる。
カチオン基を有する多糖誘導体における多糖類としては、例えばアルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、デンプン、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン等が挙げられる。
カチオン基を有する多糖誘導体の具体例としては、カチオン化されたグアーガムである四級アンモニウム化されたグアーガムや、カチオン化されたデンプンである四級アンモニウム化されたデンプン等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
水解性シートにおけるセルロース繊維の表面、特に該水解性シートを製造するときに得られるセルロース繊維が水に分散された分散液中のセルロース繊維の表面は、負に帯電している。したがって、水解性シートが、前述の界面活性剤に加えて更にカチオン基を有する多糖誘導体を含有することで、該多糖誘導体が、負に帯電したセルロース繊維の表面と該界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤として機能する。それによって、前述の界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。したがって、フィブリル度の高いセルロース繊維、例えば古紙由来のセルロース繊維を含むシートであっても、その水解性を高めることが可能になる。
カチオン基を有する多糖誘導体が水解性向上の助剤として機能する機構は明確でないが、本発明者は以下のように考えている。しかし、この理論に拘束されるものではない。
負に帯電したセルロース繊維の表面とカチオン基を有する多糖誘導体とが引き寄せられて該セルロース繊維全体が電気的に中和し、それによって該セルロース繊維の表面にアニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤が吸着しやすくなる。
水解性シートの水解性を従来よりも向上させる観点から、カチオン基を有する多糖誘導体は、カチオン化されたグアーガム及びカチオン化されたデンプンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
カチオン基を有する多糖誘導体としては、例えば星光PMC社製のDD4280、三晶社製のMEYPRO-BOND 111等の市販品を用いることもできる。
【0033】
水解性シートがカチオン基を有する多糖誘導体を含有する場合、該多糖誘導体の含有量は、該水解性シートの質量に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上である。また、前記多糖誘導体の含有量は、水解性シートの質量に対して、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下である。前記多糖誘導体の含有量が0.1質量%以上であることで、負に帯電したセルロース繊維の表面と前述の界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤としての機能が十分に得られる。また、前記多糖誘導体の含有量が0.5質量%以下であることで、セルロース繊維の表面と前述の界面活性剤とが容易に吸着することができる。この観点から、前記多糖誘導体の含有量は、好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以上0.4質量%以下である。
【0034】
水解性シートにおいて、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤に対する、カチオン基を有する多糖誘導体の質量比Rは、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.2以上である。また、質量比Rは、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.75以下、更に好ましくは2.5以下である。質量比Rが0.1以上であることで、カチオン基を有する多糖誘導体が、負に帯電したセルロース繊維の表面と前述の界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤として効果的に機能できる。それによって、セルロース繊維の表面に前述の界面活性剤が吸着しやすくなり、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。また、質量比Rが3.0以下であることで、カチオン基を有する多糖誘導体どうしが反発してしまい、それによって、該多糖誘導体が、負に帯電したセルロース繊維の表面と前述の界面活性剤とに作用しにくくなることを抑制できる。この観点から、質量比Rは、好ましくは0.1以上3.0以下であり、より好ましくは0.15以上2.75以下であり、更に好ましくは0.2以上2.5以下である。
【0035】
本発明の水解性シートは、前述のセルロース繊維に加えて、更に他の繊維を含有してもよい。他の繊維としては、例えば、ポリ乳酸等からなる生分解性繊維;ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の合成繊維等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水解性シートに含有される全ての繊維に占める他の繊維の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0036】
本発明の水解性シートは、バインダを更に含有することが好ましい。バインダは、水性薬剤を含浸した状態下での湿潤強度発現、及び水中に廃棄したときの水解性に寄与するものである。湿潤強度発現及び水解性の向上の観点から、水解性シートは、バインダとして、水溶性バインダ又は水膨潤性バインダを含有することが好ましい。
【0037】
水溶性バインダとしては、水解性シートが後述する水性薬剤を保持して湿潤状態にあるときに、該バインダが一時的に不溶化することで、該水解性シートの構成繊維どうしの結合を維持する結合剤として機能し、該水解性シートの使用時の強度維持の役割を果たすものが好ましい。このような機能を有する水溶性バインダとして、天然多糖類、多糖誘導体(カチオン基を有する多糖誘導体を除く。)、合成高分子を例示できる。なお、前記の「水溶性バインダの一時的な不溶化」は、典型的には、水解性シートに保持される水性薬剤中のバインダ不溶化成分(例えばバインダの架橋剤)の作用によって起こる。
【0038】
天然多糖類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン等が挙げられる。
多糖誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチル化デンブン又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。
【0039】
前述の水溶性バインダの中でも、カルボキシル基を有する水溶性バインダが、バインダとしての性能が良好となる点、及び後述する架橋剤との親和性が良好である点から好ましい。カルボキシル基を有する水溶性バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース又はそれらの塩を例示できる。
【0040】
水膨潤性バインダとしては、水解性シートが水性薬剤を保持して湿潤状態にあるときに、該バインダの膨潤が一時的に抑制されて該水解性シートの構成繊維間の結合を維持する結合剤として機能し、該水解性シートの使用時の強度維持の役割を果たすものが好ましい。このような機能を有する水膨潤性バインダとして、繊維状のポリビニルアルコールを例示できる。
【0041】
前述の水膨潤性バインダの中でも、カルボキシメチルセルロースが、バインダとしての性能が良好となる点から好ましい。
【0042】
水溶性バインダ又は水膨潤性バインダの含有量は、水解性シートの質量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。また、水溶性バインダ又は水膨潤性バインダの含有量は、水解性シートの質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。水溶性バインダ又は水膨潤性バインダの含有量は、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以上8質量%以下である。水膨潤性バインダの含有量がこの範囲にあることで、水解性シートの湿潤強度が向上する。
【0043】
本発明の水解性シートは水解性を有するものなので、これを水中に廃棄したり或いはこれに水性液を含浸させたりすると容易に崩壊してしまう。そこで本発明においては水解性シートに水性薬剤を含浸させてウエットの水解性シートを製造するにあたり、該水性薬剤中にバインダの架橋剤を含有させておくことが好ましい。架橋剤によってバインダが架橋して不溶化するか或いは膨潤が一時的に抑制される結果、少量の水では該バインダが溶解しなくなる。しかし大量の水中に廃棄すれば不溶化或いは膨潤が一時的に抑制されていた該バインダが再び水に溶解するようになって、速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊する。
【0044】
架橋剤は、バインダの種類に応じて適切なものが用いられる。例えば、バインダが前述したCMC等のカルボキシル基を有する水溶性バインダである場合には、架橋剤として多価金属イオンを用いることが好ましい。特にアルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の二価の金属イオンを用いることが、水解性シートの構成繊維間が十分に結合されて使用に耐え得る強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが特に好ましい。
【0045】
金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩などの水溶性金属塩の形で水性薬剤に添加される。金属イオンは、本発明の水解性シート中に存する水溶性バインダにおけるカルボキシル基1モルに対して1/4モル以上、特に1/2モル以上の量となるように添加されることが、十分な架橋反応を起こさせる点から好ましい。
【0046】
一方、バインダとして前述した水膨潤性バインダを用いる場合の架橋剤としてはホウ酸を用いることが好ましい。これによってポリビニルアルコールとホウ酸との間に架橋反応が生じ、ポリビニルアルコールが不溶化する。ホウ酸は、水性薬剤中に1質量%以上5質量%の濃度で配合されていることが好ましい。特に高重合度のポリビニルアルコールを用いる場合には1質量%以上3質量%以下、中重合度ないし低重合度のポリビニルアルコールを用いる場合には3質量%以上5質量%以下の濃度で配合されることが好ましい。
【0047】
バインダが水溶性のものか水膨潤性のものかを問わず、水性薬剤には、前述した架橋剤に加えて有機溶剤が配合されることが、十分な強度を有する水解性シートを得る点から好ましい。有機溶剤を併用することによって、バインダと架橋剤との架橋コンプレックスの生成が著しく増大し、そのコンプレックスが不溶化した状態で存在するので、水解性シートに含浸される水性薬剤中の水の量が多くても、使用に耐え得る十分な強度が発現する。
【0048】
有機溶剤は水溶性の溶剤であることが好ましい。具体的にはエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、これらグリコール類とメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールとのモノ又はジエーテル、前記グリコール類と低級脂肪酸とのエステル、グリセリンやソルビトール、3-メチル-1,3-ブタンジオール等の多価アルコールが挙げられる。水性薬剤中における有機溶剤の配合量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
水性薬剤は、60質量%以上90質量%以下含まれる水を媒体とし、前述した架橋剤(つまり金属イオンやホウ酸)及び有機溶剤が配合されてなるものである。水性薬剤には、これらの成分に加えて必要に応じて前述の界面活性剤以外の界面活性剤、殺菌剤、消臭剤などを配合して、該水性薬剤の性能を高めてもよい。界面活性剤としては、例えばノニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤が用いられる。
【0050】
水性薬剤は、水解性シートの質量(乾燥基準)に対して50質量%以上500質量%以下、特に100質量%以上500質量%以下、とりわけ100質量%以上300質量%以下含浸されることが、十分な清拭効果が発現する点から好ましい。
【0051】
本発明の水解性シートは、水性薬剤が含浸された湿潤状態での強度が高いものである。しかも、水性薬剤が含浸されている程度では水解しないが、大量の水中に廃棄されると速やかに且つ繊維レベルでばらばらに崩壊する。
【0052】
次に、本発明の水解性シートの好適な製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、セルロース繊維と、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、を混合して混合液を得る工程と、該混合液を用いて基材シートを抄造する抄造工程とを有する。詳細には、まず、セルロース繊維を水に分散させて分散液を調製する。セルロース繊維としては、例えば前述のバージンパルプ又は古紙由来のセルロース繊維を用いることができる。セルロース繊維のフィブリル度は、好ましくは1.6%以下である。また、必要に応じて、セルロース繊維に加えて、他の繊維を用いてもよい。
【0053】
分散液の調製においては、撹拌翼を用いた撹拌装置によって、セルロース繊維を水に十分に分散させる。セルロース繊維として古紙由来のセルロース繊維を用いる場合、該セルロース繊維の性状によっては、ビーターやリファイナーなど、一般的な湿式抄造方法で用いられる装置による処理を併用してもよい。
【0054】
次いで、調製した分散液と前述の界面活性剤とを混合して混合液を得る。得られる基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、界面活性剤を所定量用いることが、水解性シートの水解性を従来よりも向上させる観点から好ましい。この観点から、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、界面活性剤を、0.1質量%以上用いることが好ましく、0.2質量%以上用いることがより好ましい。また、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、界面活性剤を、1.0質量%以下用いることが好ましく、0.9質量%以下用いることがより好ましい。基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、界面活性剤を0.1質量%以上用いることで、カチオン基を有する多糖誘導体を介して、負に帯電した繊維の表面と該界面活性剤とが吸着しやすくなり、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。また、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、界面活性剤を1.0質量%以下用いることで、該界面活性剤どうしが反発してしまい、それによって負に帯電した繊維の表面に該界面活性剤が吸着しにくくなることを抑制できる。この観点から、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、界面活性剤を、0.1質量%以上1.0質量%以下用いることが好ましく、0.2質量%以上0.9質量%以下用いることがより好ましい。
界面活性剤を用いる量は、セルロース繊維の種類、及び後述する多糖誘導体の種類に応じて、適切な値にすることができる。
【0055】
また、セルロース繊維に対する前述の界面活性剤の吸着率が所定の値以上となるように該界面活性剤を混合することが、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができるので好ましい。この観点から、セルロース繊維に対する界面活性剤の吸着率が50%以上となるように界面活性剤を混合することが好ましく、55%以上となるように界面活性剤を混合することがより好ましく、60%以上となるように界面活性剤を混合することが更に好ましく、95%以下が現実的である。
吸着率の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0056】
本発明の製造方法は、更に、混合液とカチオン基を有する多糖誘導体とを混合する工程を有する。カチオン基を有する多糖誘導体としては、前述した種類のものを用いることができる。また、混合液とカチオン基を有する多糖誘導体とは、任意の工程で混合することができる。具体的には、例えば、前記の混合液を得る工程の途中で、前記多糖誘導体を混合することができる。若しくは、前記の抄造工程の途中で、前記多糖誘導体を混合することができる。換言すれば、(ア)セルロース繊維を水に分散させた分散液と、界面活性剤とを混合して混合液を得るときに、前記多糖誘導体を併せて混合することができる。若しくは、(イ)セルロース繊維を水に分散させた分散液と、界面活性剤とを混合して混合液を得る前に、該分散液と前記多糖誘導体とを混合することができる。混合液と前記多糖誘導体とを混合するときに(イ)を採用する場合、セルロース繊維を水に分散させて分散液を得た後に、界面活性剤を混合することができる。
(ア)及び(イ)のいずれを採用しても、得られる水解性シートの水解性は従来よりも向上したものとなるが、(イ)を採用することが好ましい。(イ)を採用して得られた水解性シートは、(ア)を採用した得られた水解性シートに比べ、より優れた水解性を発現することを本発明者が見出したからである。
【0057】
得られる基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、カチオン基を有する多糖誘導体を所定量用いることが、混合液中で負に帯電したセルロース繊維の表面と界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤として、該セルロース繊維の全体に行き渡るので好ましい。それによって、混合液中のセルロース繊維の全体に界面活性剤が吸着しやすくなり、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。この観点から、混合液中において、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、前記多糖誘導体を、0.1質量%以上用いることが好ましく、0.15質量%以上用いることがより好ましい。また、混合液中において、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、前記多糖誘導体を、0.5質量%以下用いることが好ましく、0.4質量%以下用いることがより好ましい。基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、前記多糖誘導体を、0.1質量%以上用いることで、負に帯電した繊維の表面と前述の界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤としての機能が十分に得られる。また、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、前記多糖誘導体を、0.5質量%以下用いることで、カチオン基を有する多糖誘導体を介して、繊維の表面と前述の界面活性剤とが容易に吸着することができる。この観点から、基材シートを構成する全ての繊維の乾燥質量に対して、前記多糖誘導体を、0.1質量%以上0.5質量%以下用いることが好ましく、0.15質量%以上0.4質量%以下用いることがより好ましい。
前記多糖誘導体を用いる量は、セルロース繊維の種類、及び前述の界面活性剤の種類に応じて、適切な値にすることができる。
【0058】
また、前述の界面活性剤に対するカチオン基を有する多糖誘導体の質量比Rが、所定の範囲にあることが、混合液中で負に帯電したセルロース繊維の表面と界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤として効果的に機能できるので好ましい。それによって、混合液中のセルロース繊維の表面に、カチオン基を有する多糖誘導体を介して界面活性剤が吸着しやすくなり、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。この観点から、質量比Rが、0.1以上となるように該多糖誘導体を用いることが好ましく、0.15以上となるように該多糖誘導体を用いることがより好ましく、0.2以上となるように該多糖誘導体を用いることが更に好ましい。また、質量比Rが、3.0以下となるように該多糖誘導体を用いることが好ましく、2.75以下となるように該多糖誘導体を用いることがより好ましく、2.5以下となるように該多糖誘導体を用いることが更に好ましい。質量比Rが0.1以上となるように該多糖誘導体を用いることで、該多糖誘導体が、負に帯電した繊維の表面と該界面活性剤とを効果的に吸着させる助剤として効果的に機能できる。それによって、繊維の表面に界面活性剤が吸着しやすくなり、該界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能を効果的に発現させることができる。また、質量比Rが3.0以下となるように該多糖誘導体を用いることで、該多糖誘導体どうしが反発してしまい、それによって、該多糖誘導体が、負に帯電した繊維の表面と該界面活性剤とに作用しにくくなることを抑制できる。この観点から、質量比Rが0.1以上3.0以下となるように該多糖誘導体を用いることが好ましく、0.15以上2.75以下となるように該多糖誘導体を用いることがより好ましく、0.2以上2.5以下となるように該多糖誘導体を用いることが更に好ましい。
【0059】
このようにして混合液が得られたら、該混合液を脱水・プレスして基材シートを抄造する。基材シートにおけるセルロース繊維の坪量を、15g/m以上60g/m以下に設定することが、該基材シートの湿潤強度及び水解性の両立という物性の点、並びに該基材シートの風合いの点から好ましい。
脱水・プレスには一般的な湿式抄造方法で用いられる抄紙機、例えば丸網抄紙機や長網抄紙機を用いることができる。
脱水によって形成された基材シートは、例えば80質量%以上90質量%以下の水を含んでいる。
プレスは、例えば脱水によって形成された基材シートをその両面から圧縮することで行われる。基材シートの圧縮には例えば厚手のフェルトを用いることができる。プレスによって基材シートに含まれる水の割合を40質量%以上70質量%以下まで低下させることができる。
【0060】
プレスによって得られた基材シートは、次に、乾燥工程に付される。基材シートの乾燥は例えばヤンキードライヤーなど、一般的な湿式抄造方法で用いられる加熱乾燥装置を用いることができる。加熱乾燥の条件としては、例えばヤンキードライヤーを用いる場合には、周面の温度を90℃以上140℃以下に設定することが好ましい。乾燥後の基材シートの含水率は好ましくは10質量%以下である。
【0061】
本発明の製造方法は、抄造工程の後に、更に、基材シートに、水溶性バインダ又は水膨潤性バインダを添加(外添)する工程を有する。水溶性バインダ及び水膨潤性バインダとしては、前述した種類のものを用いることができる。また、基材シートに、前述のバインダを添加する方法として、任意の方法を採用することができる。例えば、基材シートが完全に乾燥する前にバインダを添加してもよく、あるいは乾燥後の基材シートにバインダを添加してもよい。また、基材シートにバインダを噴霧することで添加してもよく、あるいは、基材シートをバインダに浸漬することで添加してもよい。
【0062】
本発明の製造方法においては、前述の(ア)及び(イ)に代えて、抄造工程の後に、前述の界面活性剤を含有する混合液を用いて得られた基材シートに、カチオン基を有する多糖誘導体を添加(外添)することによっても、得られた水解性シートの水解性を従来よりも向上させることができる。詳細には、抄造した基材シートに水溶性バインダ又は水膨潤性バインダを添加する前に、該基材シートに前述の多糖誘導体を添加することができる。前記多糖誘導体は、基材シートが完全に乾燥する前に添加してもよく、あるいは乾燥後の基材シートに添加してもよい。また、基材シートに前記多糖誘導体を噴霧することで添加してもよく、あるいは、基材シートを多糖誘導体に浸漬することで添加してもよい。
【0063】
このようにして基材シートが得られたら、該基材シートに前述の水性薬剤を添加してウエットシートとなす。
以上の工程によって、本発明の水解性シートを得ることができる。
【0064】
このようにして得られた水解性シートは、例えば清掃シートとして、物品の清掃に用いたり、あるいは人体の清拭に用いたりすることができる。詳細には、例えば、トイレ、洗面所、台所等の水回り用の清掃シートとして用いることができる。あるいは、おしり拭き、介護用からだ拭き、メーク落とし用シート等の清掃シートとして用いることができる。本発明の水解性シートは、使用後に、上水道又は下水道に流して廃棄した場合でも、速やかに崩壊することから、特にトイレ用の清掃シートとして有用である。
【0065】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、水解性シートは、その表面が実質的に凸部を有しない平坦面であってもよい。あるいは、水解性シートは、その表面に凹凸形状を有していてもよい。凹凸形状を有する水解性シートとして、例えば特開2021-065488号公報に記載されたシートを例示できる。
【0066】
また、水解性シートにおける基材シートの積層数は特に制限されず、該水解性シートは1枚の基材シートからなる単層構造を有していてもよい。あるいは、水解性シートは、2枚以上の基材シートが厚み方向に積層されてなる積層構造を有していてもよい。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0068】
〔実施例1及び2〕
古紙パルプA(フィブリル度1.34%、平均繊維長0.87mm)を水に分散させ、分散液を調製した。この分散液に、古紙パルプA由来のセルロース繊維に対する量が表1に記載の値となるように、カチオン化されたデンプン(星光PMC社製、商品名DD4280)を添加して両者を十分に混合した。次いで、これに、古紙パルプA由来のセルロース繊維に対する量が表1に記載の値となるように、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、ペレックスOT-P)を添加して十分に混合して混合液を得た。その後、手漉きによって基材シートを得た。この基材シートを、130℃に加熱されたヤンキードライヤーで乾燥させた。
【0069】
得られた基材シートに、該基材シートに対する添加量が4.0%となるように、カルボキシメチルセルロース水溶液を噴霧した。その後、基材シートに、以下に示す水性薬剤を含浸させた。含浸量は基材シートの質量の2倍とした。このようにして、水解性シートを製造した。水解性シートの坪量は40g/mであった。
【0070】
〔水性薬剤〕
・アルキルグルコシド 0.2%
・CaCl 3%
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 13%
・3-メチル-1,3-ブタンジオール 5%
・水 バランス
【0071】
〔実施例3及び4〕
実施例1及び2において、カチオン化されたデンプンに代えて、カチオン化されたグアーガム(三晶社製、MEYPRO-BOND 111)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして水解性シートを製造した。
【0072】
〔実施例5〕
実施例4において、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムに代えてラウリル硫酸ナトリウム(花王社製、エマール2F-30)を用いた。これ以外は実施例4と同様にして水解性シートを製造した。
【0073】
〔実施例6〕
実施例4において、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムに代えてラウリルジメチルアミンオキサイド(花王社製、アンヒトール20N)を用いた。これ以外は実施例4と同様にして水解性シートを製造した。
【0074】
〔実施例7〕
実施例4において、古紙パルプAに代えてバージンパルプ(フィブリル度0.92%、平均繊維長2.02mm)を水に分散させ、分散液を調製した。これ以外は実施例4と同様にして水解性シートを製造した。
【0075】
〔実施例8〕
実施例4において、古紙パルプAに代えて古紙パルプB(フィブリル度1.56%、平均繊維長1.03mm)を水に分散させ、分散液を調製した。これ以外は実施例4と同様にして水解性シートを製造した。
【0076】
〔比較例1〕
実施例1において、カチオン化されたデンプン及びジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを用いなかった。これ以外は実施例1と同様にして水解性シートを製造した。
【0077】
〔比較例2及び3〕
実施例1及び2において、カチオン化されたデンプンを用いなかった。これ以外は実施例1と同様にして水解性シートを製造した。
【0078】
〔比較例4〕
比較例3において、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムに代えて塩化ベンザルコニウム(花王社製、サニゾールC)を用いた。これ以外は比較例3と同様にして水解性シートを製造した。
【0079】
〔比較例5〕
実施例5において、ラウリル硫酸ナトリウムに代えて塩化ベンザルコニウム(花王社製、サニゾールC)を用いた。これ以外は実施例5と同様にして水解性シートを製造した。
【0080】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた水解性シートについて、上述の方法で、該水解性シートの質量に対するアニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤の含有量、並びに該水解性シートの質量に対するカチオン基を有する多糖誘導体の含有量を測定した。
また、実施例及び比較例で得られた水解性シートについて、前記質量比Rを算出した。
また、実施例及び比較例で得られた水解性シートについて、以下の方法でセルロース繊維に対するアニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤の吸着率、及び水解時間を評価した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0081】
〔吸着率の評価〕
基材シートを抄造したときに得られた白水の電荷量を、粒子電荷計(MTG社製 PCD-T3)を用いて測定した。具体的には、実施例及び比較例で用いたパルプ(セルロース繊維)を水に分散させた分散液の電荷量(A)、及び該分散液と前記の界面活性剤とを混合して得られた混合液の電荷量(C)をそれぞれ測定した。これとは別に、前記の界面活性剤の電荷量(B)を予め測定した。その後、下記式(2)に基づき、セルロース繊維に対する前記の界面活性剤の吸着率(すなわち活性剤含有量)を算出した。
吸着率(活性剤含有量) = 〔(B)-(C)〕/〔(A)+(B)〕×100 ・・(2)
吸着率が高いほど、アニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤が有する、水解性シートの水解性を向上させる機能が効果的に発現したと評価できる。
【0082】
〔水解時間の評価〕
水300ml(水温20±5℃)及び回転子(直径35mm、厚さ12mmの円盤状)が入った容量300mlのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、該回転子の回転数を600±10回転/分に設定する。このビーカーの中に、70mm×60mmの平面視四角形形状の水解性シートを投入し、ストップウォッチを押す。回転子の回転数は、水中に存在する試験片の抵抗によって一旦は約500回転に減少するが、試験片の崩壊分散が進行するに従って増加する。回転子の回転数が540回転まで回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で測定する。以上の測定を1種類の水解性シートにつき5回行い、それらの測定値の平均を当該水解性シートの水解時間とする。水解時間が短いほど、水解性に優れ水中で容易に崩壊分散しやすいと評価される。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた水解性シートは、各比較例で得られた水解性シートに比べて水解性が向上したものであることが分かる。