(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150985
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】合成樹脂レザー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20241017BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064072
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000550
【氏名又は名称】オカモト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛徳
(72)【発明者】
【氏名】松本 直人
(72)【発明者】
【氏名】中屋 真
(72)【発明者】
【氏名】浅田 頼崇
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055DA02
4F055DA12
4F055DA17
4F055FA08
4F055HA06
4F100AK15A
4F100AK42A
4F100AK42J
4F100AK51A
4F100AT00
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4F100EJ18A
4F100EJ402
4F100EJ40A
4F100GB08
4F100GB33
4F100HB21A
4F100JK13
4F100JK17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】天然皮革のようなサラサラとした良触感を有し、耐圧性に優れ、表皮層の表面同士の擦れ音を低減した合成樹脂レザーを提供する。
【解決手段】基材1と、前記基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層2と、を備え、前記表皮層の表面には、多数の微小凹部21がそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設けられ、前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面2sから略同じ深さで形成される多数の底面部21bと、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部21wと、を有する、合成樹脂レザーA。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層と、を備え、
前記表皮層の表面には、多数の微小凹部がそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設けられ、
前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面から略同じ深さで形成される多数の底面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部と、を有する、合成樹脂レザー。
【請求項2】
前記多数の微小凹部は、前記多数の底面部が平面状となる略円柱状、もしくは前記多数の底面部が曲面状となる半球状に形成される請求項1記載の合成樹脂レザー。
【請求項3】
前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面における内径と、前記表面から前記底面部までの深さと、前記微小凹部の相互間隔との比率の平均が、2.0~5.5:1.5~5.0:9.0~15.5であり、前記内径よりも前記相互間隔が長くなるように設定される請求項1又は2記載の合成樹脂レザー。
【請求項4】
前記表面から前記底面部までの深さは、前記表皮層の厚みよりも小さい、請求項1又は2に記載の合成樹脂レザー。
【請求項5】
前記表皮層の前記表面のうち、前記微小凹部以外の部分に、さらに多数の極微小凸部が砂目調に設けられ、
前記多数の極微小凸部の平均高さは、前記多数の微小凹部の前記深さよりも小さい、請求項1又は2に記載の合成樹脂レザー。
【請求項6】
基材に弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層を設ける積層工程と、
前記表皮層の表面全体に亘って多数の微小凹部をそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設ける絞付け工程を含み、
前記絞付け工程では、前記多数の微小凹部として、前記表皮層の前記表面から略同じ深さで形成される多数の底面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部と、をエンボス加工することを特徴とする合成樹脂レザーの製造方法。
【請求項7】
前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面における内径と、前記表面から前記底面部までの深さと、前記微小凹部の相互間隔との比率の平均が、2.0~5.5:1.5~5.0:9.0~15.5であり、前記内径よりも前記相互間隔が長くなるように設定される、請求項6記載の合成樹脂レザーの製造方法。
【請求項8】
前記絞付け工程において、前記表皮層の前記表面のうち、前記微小凹部以外の部分に、さらに多数の極微小凸部を砂目調に設け、
前記多数の極微小凸部の平均高さは、前記多数の微小凹部の前記深さよりも小さい、請求項6又は7記載の合成樹脂レザーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用内装材、椅子やソファー等の張地、靴の胛被材、手帳等の文具やスマートフォンケース等の表皮材として用いられる合成樹脂レザー、及び、その物を生産する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の合成樹脂レザーとして、基布上の塩化ビニル樹脂を主成分とする表皮層に対し、皮革様の微細な凹凸模様である絞(シボ)模様が彫刻されているエンボスロールを、表面が加熱されている状態で押し当てることにより、表面に絞模様を形成した合成樹脂表皮材及びその製造方法がある(特許文献1等)。
また、シート材の表面に対し、型押しロール等によるエンボス加工で凹凸を付与した後、サンドペーパー、ブラシ等によって起毛処理が施されたヌバック調外観を有する皮革様シートおよびその製造方法がある(特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-111024号公報
【特許文献2】特開平08-060557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような特許文献1では、エンボス加工による微細な凹凸模様において凸部が弾性変形不能で且つ連続的に配置されており、使用者の手先や指先等で微細な凹凸模様を触れても弾性が小さく動きが感じられないため、全体的に平面的なフラット感や、ゴムのようなベタベタとしたゴム感を強く受けて、天然皮革のようなサラサラとした触感が得られず、天然皮革と比べると違和感を覚えるという問題があった。
特許文献2では、サンドペーパー等による細かい起毛加工面が、使用者の手先や指先等の接触等で過度に変形するため、耐圧や耐摩耗性による形状保持性が悪く、特に高い耐圧性や耐摩耗性を必要とする座面に用いることが困難であり、用途が限られるという問題があった。
さらに、表面の凹凸模様によりレザーの表面同士の摩擦が大きくなり、擦れ音が発生しやすいという問題もあった。
このような状況下で、天然皮革と同様な良触感を有し、耐圧性や耐摩耗性に優れ、また、表皮層の表面同士の擦れ音を低減させた合成樹脂レザーが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために本発明の合成樹脂レザーは、基材と、前記基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層と、を備え、前記表皮層の表面には、多数の微小凹部がそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設けられ、前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面から略同じ深さで形成される多数の底面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部と、を有することを特徴とする。
【0006】
前記表皮層の前記表面のうち、前記微小凹部以外の部分に、さらに多数の極微小凸部が砂目調に設けられてもよい。この場合、前記多数の極微小凸部の平均高さは、前記多数の微小凹部の前記深さよりも小さい。
【0007】
また、このような課題を解決するために本発明の合成樹脂レザーの製造方法は、基材に弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層を設ける積層工程と、前記表皮層の表面全体に亘って多数の微小凹部をそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設ける絞付け工程を含み、前記絞付け工程では、前記多数の微小凹部として、前記表皮層の前記表面から略同じ深さで形成される多数の底面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部と、をエンボス加工することを特徴とする。
【0008】
前記絞付け工程において、前記表皮層の前記表面のうち、前記微小凹部以外の部分に、さらに多数の極微小凸部を砂目調に設けてもよい。この場合、前記多数の極微小凸部の平均高さは、前記多数の微小凹部の前記深さよりも小さい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、天然皮革と同様な良触感を有し、耐圧性や耐摩耗性に優れ、また、表皮層の表面同士の擦れ音を低減させた合成樹脂レザーを提供することができる。また、かかる合成樹脂レザーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の合成樹脂レザーの表皮層の概要を示す図である。
【
図2】本発明の合成樹脂レザーの一例の、要部を部分拡大した縦断正面図である。
【
図3】本発明の合成樹脂レザーの他の一例の、要部を部分拡大した縦断正面図である。
【
図4】本発明の合成樹脂レザーの他の一例の、要部を部分拡大した縦断正面図である。
【
図5】本発明の合成樹脂レザーの他の一例の、要部を部分拡大した縦断正面図である。
【
図6】本発明の合成樹脂レザーの製造方法の一例の全体構造を示す縮小した側面図である。
【
図7】
図7(a)は本発明の合成樹脂レザーの他の一例の、要部を部分拡大した縦断正面図、
図7(b)は
図7(a)の合成樹脂レザーの表面同士を接触させ擦り合わせた場合のイメージ図である。
【
図8】
図8(a)は本発明の合成樹脂レザーの他の一例の、要部を部分拡大した縦断正面図、
図8(b)は
図8(a)本発明の合成樹脂レザーの表面同士を接触させ擦り合わせた場合のイメージ図である。
【
図9】微小凹部の一例を示す説明図であり、
図9(a)が配列状態の拡大写真、
図9(b)がより拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAは、自動車等の車両用内装材、椅子やソファー等の張地、靴の胛被材、手帳等の文具やスマートフォンケース等の表皮材として用いられる合成皮革や人工皮革である。このような合成皮革や人工皮革の中には、
図1~
図9に示すように、基材1に設けられる表皮層2に対し、エンボス加工によって微細な絞(シボ)模様を付けた合成樹脂レザーAがある。
【0013】
本発明の合成樹脂レザーAは、基材1と表皮層2を備えるものである。
【0014】
基材1は、合成樹脂レザーAの裏側に配置される、織物や編物或いは不織布等の生地であり、後述する表皮層2の柔軟性を失うことなく、強度及び適度な厚みを与えるものが好ましい。
基材1の材料としては、ポリエステル繊維,レーヨン,ポリ塩化ビニル(PVC),ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂からなる繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、綿、レーヨン、これらの混紡糸等が用いられる。
また、基材1として軟質発泡体シートを用いることや、生地と軟質発泡体シートが一体的に積層されたものを用いることが可能である。
【0015】
基材1の表側面1aには、下地層3を積層して形成することが好ましい。
下地層3は、基材1の表側面1aと後述する表皮層2の裏面2bとを接着させる接着剤層であり、ポリ塩化ビニルペースト、エチレン-酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、二液型ポリウレタン接着剤等が用いられる。
さらに、下地層3は、基材1の表側面1aに接着剤が塗布されることや、表皮層2の裏面2bに接着剤が塗布されることで、基材1の表側面1aと表皮層2の裏面2bとの間に積層することが好ましい。
また、その他の例として図示しないが、基材1の表側面1aと表皮層2の裏面2bとの間には、ポリプロピレンフォーム等の軟質発泡体シートを介在させることも可能である。
【0016】
表皮層2は、合成樹脂レザーAの表側に配置され、軟質ポリ塩化ビニル(PVC),熱可塑性ポリウレタン,アクリル系軟質樹脂,共重合ポリエステル,部分架橋ポリオレフィンエラストマー等の弾性変形可能で柔軟性がある低硬度の熱可塑性樹脂からなり、特に軟質ポリ塩化ビニルを主成分とすることが好ましい。
表皮層2の厚みは、0.3mm~0.6mm、好ましくは0.3mm~0.4mmであり、表皮層2の表面2sから底面部21bまでの深さ21dは、表皮層2の厚みよりも小さい。
【0017】
表皮層2の表面2sには、多数の微小凹部21がそれぞれ断続的(不連続的)に分離して設けられ、多数の微小凹部21は、表皮層2の表面2sに沿って規則的に配置される。
微小凹部21は、エンボス版を用いたエンボス加工により、表皮層2の表面2sの全体に亘って絞付けされたミクロンサイズのマイクロドットである。
図6に例示されるように、エンボス版としては、エンボスロールEを用いることが好ましく、表皮層2の表面2sと対向するエンボスロールEの版面には、レーザー加工,エッチング加工,ミル加工,サンドブラスト等のうちいずれ一つ又は複数の加工を組み合わせることで、エンボスパターンE1が彫刻される。エンボスパターンE1としては、少なくとも多数の微小凹部21に対応する多数の微細凸部(模式的に図示)が、版面の略全体に亘り断続的で且つ規則的に設けられる。さらに、その他のエンボスパターンE1として特定な模様等の図柄用凹凸部(図示しない)を組み合わせて彫刻することも可能である。
【0018】
さらに、微小凹部21は、表皮層2の表面2sから略同じ深さ21dで形成される底面部21bと、表皮層2の表面2sから底面部21bに亘って弾性変形可能に形成される内側面部21wと、を有する。
微小凹部21は、底面部が平面状となる略円柱状、もしくは底面部が曲面状となる半球状(ヘルメット型)等に形成される。略円柱状の場合には
図3に示されるように底面部21bが平面状となり、半球状の場合には
図1-2、4、7、9に示されるように底面部21bが曲面状となる。その他、微小凹部21の表皮層2の表面2sにおける孔の形状を多角形として、微小凹部21を略角柱状としてもよいし、
図8のように微小凹部21を円錐台の形状としてもよい。
【0019】
多数の微小凹部21のサイズは、ミクロン単位であるため、微小凹部21の有無を肉眼で認識することが困難であり、
図9(a)、
図9(b)に示されるように、顕微鏡等で拡大しないと認識できない。
図9(a)に示す3D測定レーザー顕微鏡等のデジタル顕微鏡の3D表示機能による立体画像では、多数の微小凹部21のサイズを確認するため、50μmピッチのXY軸スケールが表示されるとともに、高低差を示す高さカラー表示が用いられ、さらに
図9(b)では、多数の微小凹部21のより詳細な構造を読み取れるように一部が部分拡大されて表示している。なお、
図9(a)、
図9(b)においては、立体画像はグレースケールで表示している。
【0020】
表皮層2の表面2sのうち、微小凹部21以外の部分に、さらに多数の極微小凸部22が砂目調に設けられ、表皮層2の表面2sに沿って規則的に配置されてもよい。
極微小凸部22は、エンボス版を用いたエンボス加工により、表皮層2の表面2sのうち、微小凹部21以外の部分に絞付けされたミクロンサイズのマイクロドットである。
図6に例示されるように、エンボス版としては、エンボスロールEを用いることが好ましく、表皮層2の表面2sと対向するエンボスロールEの版面には、レーザー加工,エッチング加工,ミル加工,サンドブラスト等のうちいずれ一つ又は複数の加工を組み合わせることで、エンボスパターンE1が彫刻される。エンボスパターンE1としては、少なくとも多数の極微小凸部22に対応する多数の極微細凹部(図示しない)が、版面に設けられる。かかる多数の極微小凸部22に対応する多数の極微細凹部は、上述した多数の微小凹部21に対応する多数の微細凸部とともに、エンボスパターンE1の版面に設けられることが好ましい。さらに、その他のエンボスパターンE1として特定な模様等の図柄用凹凸部(図示しない)を組み合わせて彫刻することも可能である。
【0021】
図4及び
図5に例示されるように、多数の極微小凸部22は、表皮層2の表面2sから平均高さ22hで形成されることが好ましい。また、多数の極微小凸部22の平均高さ22hは、多数の微小凹部21の深さ21dよりも小さい。
【0022】
そして、天然皮革と同等なサラサラした良触感と、優れた耐圧性や耐摩耗性とを同時に得るには、多数の微小凹部21において各微小凹部21の内径21r,各微小凹部21の深さ21d,隣り合う微小凹部21の相互間隔21pを、所定のサイズバランスに設定する必要がある。さらに、極微小凸部22が形成される場合は、上記微小凹部21の内径21r、深さ21d、相互間隔21pに加え、極微小凸部22の高さ22hを含めて、所定のサイズバランスに設定する必要がある。
微小凹部21の内径21r(大きさ、平均直径)とは、内側面部21wにおいて表皮層2の表面2s側の平均直径21rに相当する。各微小凹部21の深さ21dとは、表皮層2の表面2sから底面部21bまでの平均深さ21dに相当する。隣り合う微小凹部21の相互間隔21pとは、隣り合う内側面部21w同士の平均中心間隔21pに相当する。表面2s上の砂目調の極微小凸部22の高さ22hとは、表面2s側から極微小凸部22の頂点までの平均高さ22hに相当する。
【0023】
微小凹部21の内径21r(大きさ、平均直径)は、40μm~110μm、好ましくは60μm~100μm、さらに好ましくは65μm~75μmに設定される。微小凹部21の相互間隔21p及び平均深さ21dが一定で微小凹部21の平均内径21rが小さくなる、たとえば40μm未満となる場合には、表面2s及び内側面部21wの面積が相対的に大きくなり、弾性変形し難くなる。一方、微小凹部21の相互間隔21p及び平均深さ21dが一定で微小凹部21の平均直径21rが大きくなる、たとえば110μmよりも大きくなる場合には、表面2s及び内側面部21wの面積が相対的に小さくなり過ぎて、必要以上に弾性変形や潰れ変形し易くなる。
【0024】
微小凹部21の深さ21d(平均深さ)は、30μm~100μm、好ましくは40μm~80μm、さらに好ましくは60μm~70μmに設定される。微小凹部21の相互間隔21p及び内径21rが一定で微小凹部21の平均深さ21dが小さくなる、たとえば30μm未満となる場合には、表面2sから底面部21bまでの距離が小さく(浅く)、微小凹部21が相対的に太短くなり過ぎて、底面部21bが表皮層2の表面2sと限りなく接近し、かつ、内側面部21wが弾性変形し難くなる。一方、微小凹部21の相互間隔21p及び内径21rが一定で微小凹部21の平均深さ21dが深くなる、たとえば100μmよりも深くなる場合には、表面2sから底面部21bまでの距離が大きく、微小凹部21が相対的に細長くなり過ぎて、荷重で内側面部21wの折曲変形が発生しやすくなる。
【0025】
隣り合う微小凹部21の相互間隔21p(平均中心間隔)は、180μm~310μm、好ましくは190μm~280μm、さらに好ましくは195μm~210μmに設定される。微小凹部21の内径21r及び深さ21dが一定で微小凹部21の平均中心間隔21pが小さくなる、たとえば180μm未満となる場合には、微小凹部21同士が相互に接近過ぎて、表皮層2の表面2sに対する微小凹部21の密度が高くなるため、表皮層2の表面2sに使用者の手先や指先等が接触した際に内側面部21wが弾性変形しやすくなり、擦れ音が大きくなる。一方、微小凹部21の内径21r及び深さ21dが一定で微小凹部21の平均中心間隔21pが大きくなる、たとえば310μmよりも大きくなる場合には、底面部21b及び内側面部21w同士が相互に離れ過ぎて、表皮層2の表面2sに対する微小凹部21の密度が低くなるため、表皮層2の表面2sに使用者の手先や指先が接触した際に内側面部21wが弾性変形し難くなる。
【0026】
微小凹部21の内径21r(大きさ、平均直径)、深さ21d(平均深さ)、相互間隔21p(平均中心間隔)の大小と弾性変形について1つずつ述べたが、実際には内径21r、深さ21d、相互間隔21pは相対的に関連し合うため、相互のバランスをとることが望ましい。
すなわち、多数の微小凹部21においてそれぞれの内径21r(大きさ、平均直径)と深さ21d(平均深さ)と相互間隔21p(平均中心間隔)の比率の平均は、次のような「内径21r:深さ21d:相互間隔21p」であり、かつ、内径21rよりも相互間隔21pを長くしたサイズバランスとすることが好ましい。
「内径21r:深さ21d:相互間隔21p=40μm~110μm:30μm~100μm:180μm~310μm=約2.0~5.5:約1.5~5.0:約9.0~15.5」
【0027】
さらに、極微小凸部22を形成させる場合、砂目調の極微小凸部22の高さ22h(平均高さ)は、5.0μm~12.5μm程度、外径および相互間隔については、砂目調のように細かくランダムに設定し、平均表面粗さRaは1.0μm~2.6μm程度が例示される。
【0028】
また、多数の微小凹部21により表皮層2の表面2sは立体的構造を有しつつ、多数の微小凹部21が設けられた表皮層2は、本発明の微小凹部21と同程度のサイズ及び相互間隔を有する多数の突起が表皮層の表面から突出した場合に比べ、表皮層2同士が擦れ合っても摩擦が少なく擦れ音を低減することができる(
図7及び
図8参照)。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAの具体例について説明する。
図1に、合成樹脂レザーAの表皮層2の概要を示す。表皮層2の表面2sに対し、微小凹部21が設けられている。
図2に例示される合成樹脂レザーAは、表皮層2の表面2sに対し、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凸部による絞付けで、多数の微小凹部21のみが千鳥状にそれぞれ所定間隔又は等間隔を空けて規則的に配列されている。微小凹部21の底面部21bは曲面状である。なお、
図2は要部である表皮層2の表面2s付近が部分拡大されていることに留意する。
図3に例示される合成樹脂レザーAは、表皮層2の表面2sに対し、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凸部による絞付けで、多数の微小凹部21のみが千鳥状にそれぞれ所定間隔又は等間隔を空けて規則的に配列されている。微小凹部21の底面部21bは平面状である。なお、
図3は要部である表皮層2の表面2s付近が部分拡大されていることに留意する。
【0030】
図4に例示される合成樹脂レザーAは、表皮層2の表面2sに対し、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凸部と極微細凹部による絞付けで、多数の微小凹部21と多数の極微小凸部22が配列されたものである。微小凹部21の底面部21bは曲面状である。
図5に例示される合成樹脂レザーAは、表皮層2の表面2sに対し、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凸部と極微細凹部による絞付けで、多数の微小凹部21と多数の極微小凸部22が配列されたものである。微小凹部21の底面部21bは平面状である。
【0031】
図7(a)に例示される合成樹脂レザーAの表皮層2は、多数の微小凹部21と多数の極微小凸部22が配列されたものであり、微小凹部21の底面部21bは曲面状である。
図7(b)は、
図7(a)の合成樹脂レザーAの表皮層2同士を接触させて擦り合わせた場合の拡大イメージ図である。微小凹部21は表面2sから“凹み”として形成されているため、微小凹部21同士が噛み合い難く、異音発生を軽減することができる。一方、極微小凸部22は、表皮層2の表面2sのうち、手と表皮層2や表皮層2同士が直接的に接触する部分に“砂目調の極微細なドット”として形成されているため、さらにより良い触感を得ることができる。
【0032】
図8(a)に例示される合成樹脂レザーAの表皮層2は、多数の微小凹部21と多数の極微小凸部22が配列されたものであり、微小凹部21の底面部21bは平面状である。
図8(b)は、
図8(a)の合成樹脂レザーAの表皮層2同士を接触させて擦り合わせた場合の拡大イメージ図である。微小凹部21は表面2sから“凹み”として形成されているため、微小凹部21同士が噛み合い難く、異音発生を軽減することができる。一方、極微小凸部22は、表皮層2の表面2sのうち、手と表皮層2や表皮層2同士が直接的に接触する部分に“砂目調の極微細なドット”として形成されているため、さらにより良い触感を得ることができる。
【0033】
その他の例として、図示しないが、多数の微小凹部21を格子状(碁盤目状)にそれぞれ所定間隔又は等間隔毎に配列すること等の変更が可能である。
さらに必要に応じて、表皮層2の表面2sには、多数の微小凹部21や多数の極微小凸部22を被覆するように表面処理層(図示しない)が形成されることで、優れた耐摩耗性や光沢の調整等を図ることも可能である。表面処理層の材料としては、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等が用いられ、表皮層2の表面2sに対して均等厚みで塗布することにより、表面処理層が形成される。表面処理層の厚みは、1μm~30μm、好ましくは10μm~20μmである。
【0034】
[製造方法]
本発明の合成樹脂レザーAの製造方法は、
図6に例示されるように、基材1に弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層2を設ける積層工程と、表皮層2の表面2s全体に亘って多数の微小凹部21をそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設ける絞付け工程と、を含む。
【0035】
積層工程では、カレンダー成形、押出し成形等によって、基材1の表側面1aに対して表皮層2の裏面2bが直接的に接着される、又は、下地層3を介して接着される。
絞付け工程では、表皮層2の表面2sに対してエンボスロールEによる絞(シボ)加工等により、多数の微小凹部21等が、表面2sの全体に亘りそれぞれ断続的に、かつ、規則的に付けられる。
また、表皮層2の表面2sに多数の微小凹部21を被覆する表面処理層が形成される場合には、少なくとも絞付け工程よりも前の時点で、表皮層2の表面2sに表面処理層の材料となるウレタン樹脂等を塗工することが好ましい。
【0036】
合成樹脂レザーAの製造方法の具体例として
図6に示される場合には、積層工程の後に絞付け工程を行っている。
カレンダー成形機Cで所定の厚さに圧延された表皮層2の裏面2bに対し、下地層3を介して基材1の表側面1aが積層され、これら積層体Bの表面側をヒーターHで加熱する。これに続いて、エンボスロールEとタッチロールTとの間に積層体Bを挟み込んで、表皮層2の表面2sに多数の微小凹部21を転写している。
この場合には、事前の積層工程で、表皮層2の厚みに下地層3や基材1の厚みが加えられて全体的に厚くなるため、エンボスロールEによる絞加工(多数の微小凹部21)を深く転写できて好ましい。
また、その他の例として図示しないが、カレンダー成形機Cによる表皮層2の圧延加工と、下地層3を介した基材1の積層加工を別々に行うことや、表皮層2の表面2sに対する多数の微小凹部21の転写後に、下地層3を介した基材1の積層を行う等の変更が可能である。
また、優れた耐摩耗性のために、表面処理層を形成する場合は、積層体Bの表面に表面処理層を形成後、ヒーターHで加熱し、エンボスロールEとタッチロールTで挟み込んで転写を行ってもよい。表面処理層の形成は、絞付け工程と同時や別々に加工することなど変更が可能である。
【0037】
このような本発明の合成樹脂レザーA及びその製造方法によると、弾性変形可能な表皮層2の表面2sに亘りそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設けられた多数の微小凹部21を有する表皮層2の表面2sを、使用者の手先や指先等が触ることにより、手先や指先等の接触でいくつかの内側面部21wが弾性変形して表面2sが動く(微動する)。これに続いて、表面2sから手先や指先等が離れることにより、接触で弾性変形した内側面部21wや動いた(微動した)表面2sが接触前の形状に復元する。このため、表皮層2の表面2sが微動可能な多数の微小凹部21で全体的に立体的となり、かつ、ベタベタとしなくなって、天然皮革と同じ程度にサラサラな風合いに仕上がる。また、このような手先や指先等の接触を繰り返しても、内側面部21wの弾性変形や底面部21bの動き(微動)が無理なく繰り返されるため、塑性変形が生じ難くなる。
したがって、天然皮革のようなサラサラとした良触感で且つ耐圧性に優れた合成樹脂レザーAを提供することができる。
その結果、エンボス加工による微細な凹凸模様において凹凸部が弾性変形不能でかつ連続的に配置される従来のものに比べ、全体的に平面的なフラット感や、ゴムのようなベタベタとしたゴム感が無くなって、スエード調ファブリック(椅子やソファー等の張り地)等のようなしっとりとして柔らかい良触感を得ることができる。また、サンドペーパー等による細かい起毛加工面を有する従来のものに比べ、使用者の手先や指先等の接触等で過度に変形せず、特に高い耐圧性を必要とする座面に用いることが可能となる。
このため、品質の向上が図れて天然皮革と比べても違和感を覚えず、天然皮革の代替品として多くの分野に利用できて利便性に優れる。
【0038】
特に、多数の微小凹部21は、
図2、
図4や
図7に示されるように、多数の底面部21bを曲面状となる半球状に形成すること、
図3や
図5に示されるように、多数の底面部21bを平面状となる略円柱状に形成することや、
図8に示されるように、微小凹部21を円錐台の形状に形成することが好ましい。
底面部21bが曲面状、平面状の場合は、点形状の場合に比べ、手先や指先等による接触が繰り返されても、局所的な塑性変形がより生じ難くなる。
したがって、多数の微小凹部21や底面部21bの耐圧性を更に向上させることができる。
その結果、長期使用に伴う劣化を防止できる。これにより、商品寿命が延びてコストの低減化が図れる。
【0039】
さらに、多数の微小凹部21は、内径21r(平均内径)と深さ21d(平均深さ)と相互間隔21p(平均中心間隔)と、それらの比率の平均を、40μm~110μm(約2.0~5.5):30μm~100μm(約1.5~5.0):180μm~310μm(約9.0~15.5)とし、かつ、内径21rよりも相互間隔21pを長く設定することが好ましく、2倍程度にすることがより好ましい。
この場合には、使用者が手先や指先等で多数の微小凹部21を触ることによる内側面部21wの弾性変形と底面部21bの動き(微動)や、多数の微小凹部21から手先や指先等が離れることによる内側面部21wの復元変形と底面部21bの復元微動が、スムーズに実施される配置バランスとなる。
したがって、天然皮革のようなサラサラとした良触感と耐圧性を確実に達成することができる。
【0040】
また、多数の微小凹部21により表皮層2の表面2sは立体的構造を有しつつ、多数の微小凹部21が設けられた表皮層2は、本発明の微小凹部21と同程度のサイズ及び相互間隔を有する多数の突起が表皮層の表面から突出した場合に比べ、表皮層2同士が擦れ合っても摩擦が少なく擦れ音を低減することができる。
【0041】
絞付け工程において、表皮層2の表面2sのうち、微小凹部21以外の部分に、さらに多数の極微小凸部22を砂目調に設けてもよい。多数の極微小凸部22は、表皮層2の表面2sから平均高さ22hで形成される。また、多数の極微小凸部22の平均高さ22hは、多数の微小凹部21の深さ21dよりも小さい。
【0042】
極微小凸部22を形成させる場合、砂目調の極微小凸部22の高さ22h(平均高さ)は、5.0μm~12.5μm程度、外径および相互間隔については、砂目調のように細かくランダムに設定し、平均表面粗さRaは1.0μm~2.6μm程度が例示される。
【0043】
多数の極微小凸部22を併せて設ける場合、一例として、エンボスロールEのエンボスパターンE1として彫刻された多数の微細凸部と極微細凹部により、絞付け工程を行うことが可能である。
【実施例0044】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1~9及び比較例1~9]
表1に示す実施例1~9と表2に示す比較例1~9の合成樹脂レザーは、表に記載された微小凹部の内径(平均直径)、深さ(平均深さ)、相互間隔(平均中心間隔)と、砂目調の極微小凸部の高さ(平均高さ)に対応する微細凹凸部を多数彫刻して作製されたエンボス版(エンボスロール)を用いて行われたエンボス加工により、軟質ポリ塩化ビニルが主成分の表皮層の表面に対して、多数の微小凹部を表皮層の表面に転写して作製されたものである。これらの評価試料は、表皮層の厚みが0.4mm、表皮層と下地層と基材の合計の厚みが1.1mmとなるように作製した。
実施例1~9及び比較例1~9では、
図2、3に示されるように、表皮層の表面に対し、平面状の底面部を有する円柱状の微小凹部が多数それぞれ断続的に、かつ、規則的(千鳥状に等間隔毎)に配列され、かつ表皮層の裏面に下地層を介して下地層が積層されたものであり、共通の構成にしている。比較例8は、多数の微小凹部をそれぞれ不規則(ランダム)に配列したところが、実施例1~9及び比較例1~7と異なっている。また、比較例9は、微小凹部を微小凸部(微小突起)にして配列した。
これに加えて、表皮層の表面に多数の微小凹部を被覆するように表面処理層が形成された実施例1~9及び比較例1~9の各評価試料もそれぞれ作製した。
【0045】
実施例1~9では、微小凹部の内径(平均内径)が40μm~110μm、微小凹部の深さ(平均深さ)が30μm~100μm、微小凹部の相互間隔(平均中心間隔)が180μm~310μmであり、表皮層の厚みは0.4mmであった。実施例1~8には砂目調の極微小凸部が設けられ、その高さ(平均高さ)は5μm~12μmである。実施例9には極微小凸部は設けられていない。
実施例1の微小凹部では、平均内径を50μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を200μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを8μmにしている。
実施例2の微小凹部では、平均内径を110μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を200μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを8μmにしている。
実施例3の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを30μm、平均中心間隔を200μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを8μmにしている。
実施例4の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを100μm、平均中心間隔を200μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを8μmにしている。
実施例5の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を180μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを8μmにしている。
実施例6の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を310μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを8μmにしている。
実施例7の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を200μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを5μmにしている。
実施例8の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を200μm、砂目調の極微小凸部では、平均高さを12μmにしている。
実施例9の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを60μm、平均中心間隔を200μmにしており、砂目調の極微小凸部は設けられていない。
【0046】
一方、比較例1~9では、実施例1~9の微小凹部に対して平均内径,平均深さ,平均中心間隔のいずれかが範囲外になっている。
比較例1の微小凹部では、平均内径が30μmであるところが実施例1や実施例2と異なり、その他は実施例1や実施例2と同じである。
比較例2の微小凹部では、平均内径が130μmであるところが実施例1や実施例2と異なり、その他は実施例1や実施例2と同じである。
比較例3の微小凹部では、平均深さが15μmであるところが実施例3や実施例4と異なり、その他は実施例3や実施例4と同じである。
比較例4の微小凹部では、平均深さが120μmであるところが実施例3や実施例4と異なり、その他は実施例3や実施例4と同じである。
比較例5の微小凹部では、平均中心間隔が150μmであるところが実施例5や実施例6と異なり、その他は実施例5や実施例6と同じである。
比較例6の微小凹部では、平均中心間隔が330μmであるところが実施例5や実施例6と異なり、その他は実施例5や実施例6と同じである。
比較例7の砂目調極微小凸部では、平均高さが20μmであるところが実施例7や実施例8と異なり、その他は実施例7や実施例8と同じである。
【0047】
比較例8の微小凹部では、平均内径を70μm、平均深さを60μm、平均中心間隔が200μmであるものの、配列が規則的ではなくランダムであるところが異なっている。
比較例9は、微小凹部が微小突起となっており、実施例での微小凹部が表皮層2の表面2sに対して線対称に突起した構造となっている。
【0048】
[評価基準]
表1及び表2に示される評価結果(触感,耐圧性,耐摩耗性、擦れ音)は、以下の指標に基づくものである。
「触感」の評価は、実施例1~9及び比較例1~9において、表面の肌触りを確認するための試験である。指先で触れた際の触感試験を行い、その試験結果を5段階で評価した。
この「触感」の評価結果において、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面に近いサラサラとした状態を「サラサラ」、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面よりもややフラット感があるサラサラとツルツルの間の状態を「ツルサラ」、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面よりもフラット感があるツルツルした状態を「ツルツル」、指先で触れた際の触感が砂目調のカサカサした状態を「カサカサ」、指先で触れた際の触感が天然皮革の表面よりも砂目感があるザラザラした状態を「ザラザラ」、のように評価した。
「耐圧性」の評価は、実施例1~9及び比較例1~9において、微小凹部の劣化(復元力)の有無を確認するための試験である。各評価試料の上に30cm×30cmの平滑な鉄板を載せ、さらに荷重60.0Kgが均等にかかるようにして30分静置し、鉄板と荷重を取り外して5分後の表面状態を確認した。その試験結果を三段階で評価した。
この「耐圧性」の評価結果において、○:微小凹部の劣化が全く無い、△:微小凹部の劣化がほとんど無い、×:微小凹部の劣化が有る、のように評価した。
「耐摩耗性」の評価は、表皮層の表面に表面処理層が形成された実施例1~9及び比較例1~9において、表皮層の表面及び微小凹部に摩耗(ケズレ)の有無を確認するための試験である。JIS L 0823(染色堅牢度試験用摩擦試験機)に規定する学振形摩擦試験機を用い、荷重1.0KgでJIS L3102の6号綿帆布による摩擦試験を30,000回往復実施した。なお、表面処理剤が塗布された各評価試料に対して、幅10mmで厚み4mmのウレタンフォームを貼り付けたものを用いた。その試験結果を三段階で評価した。この「耐摩耗性」の評価結果において、○:30,000回往復で摩耗が目立たない、△:20,000回往復で摩耗が有り、×:20,000回往復で表皮層の破れが有り、のように評価した。
「擦れ音」の評価は、表皮層同士を重ね、Stick-Slip試験及び音で評価した。擦れ音は動摩擦力の標準偏差と実際に手で擦り合せた際の音を4段階で評価した。
「4:全く音がしない」、「3:僅かに音がする」、「2:若干音がする」、「1:音がする」のように評価した。
「総合評価」とは、前述した「触感」「耐圧性」「耐摩耗性」「擦れ音」の評価結果に基づいて総合的に三段階で評価した。
この「総合評価」の評価結果において、触感,耐圧性,耐摩耗性、擦れ音の全てが優れたものを「◎:最適」、触感,耐圧性,耐摩耗性のいずれかで若干劣るものの許容範囲に収まるものを「○:良好」、触感,耐圧性,耐摩耗性のいずれかで劣って許容範囲から外れるものを「×:不向き」、のように評価した。
【0049】
【0050】
【0051】
[評価結果]
実施例1~9及び比較例1~9を比較すると、実施例1~9は、触感,耐圧性,耐摩耗性、擦れ音の全てにおいて良好な評価結果が得られている。
この評価結果から明らかなように、実施例1~9は、天然皮革のようなサラサラ、あるいは、サラサラとツルツルの間のいわゆる「ツルサラ」とした良触感を有し、耐摩耗性や耐圧性に優れ、擦れ音を低減させた合成樹脂レザーであることが実証できた。
【0052】
一方、比較例1~9は、触感,耐圧性,耐摩耗性、擦れ音のいずれかで不良な評価結果になっている。
比較例1は、微小凹部(底面部及び内側面部)の平均内径が小さくなり過ぎて、使用者の手先や指先等との接触により弾性変形しづらくなるため、触感が「ツルツル」して不良な評価結果になった。
比較例2は、微小凹部(底面部及び内側面部)の平均内径が大きくなり過ぎて、使用者の手先や指先等が表面部に触れた際に凹部内側面部が弾性変形しやすいため、触感が「サラサラ」して良好な評価結果になったものの、微小凹部内径と表面の径が相対的に近似となる為、擦り合わせた際の噛合いが良くなってしまい、擦れ音が不良な評価結果となった。また、使用者の手先や指先等との接触によって表面や内側面部が必要以上に弾性変形するため、耐摩耗性でも不良な評価結果になった。
比較例3は、微小凹部(底面部及び内側面部)の平均深さが小さく(相対的に太短く)なり過ぎて、底面部が表皮層の表面と限りなく接近した場合には、使用者の手先や指先等が微小凹部の底面部にも触れるため、触感が「ツルツル」して不良な評価結果になった。
比較例4は、微小凹部(底面部及び内側面部)の平均深さが大きく(相対的に細長く)なり過ぎて、弾性変形しやすくなり、擦り合わせ時の摩擦が大きくなり、擦り音が不良な評価結果となった。また、使用者の手先や指先等との接触により底面部や内側面部が必要以上に弾性変形するため、耐摩耗性でも不良な評価結果になった。
比較例5は、微小凹部(底面部及び内側面部)の平均中心間隔が短くなり過ぎて、表皮層の表面に対する微小凹部の密度が高く、使用者の手先や指先等が底面部に触れた際に内側面部が弾性変形しやすいため、触感が「サラサラ」して良好な評価結果になったものの、弾性変形しやすい為に、耐摩耗性が不良な評価結果となった。
比較例6は、微小凹部(底面部及び内側面部)の平均中心間隔が長くなり過ぎて、表皮層の表面に対する微小凹部の密度が低く、使用者の手先や指先等が底面部に触れた際に表皮層2の表面2sに多く直接的に接触されるため、触感が「ツルツル」して不良な評価結果になった。
比較例7は、極微小凸部の高さが大きくなり過ぎて、使用者の手先や指先等が触れた際に砂目調触感の「カサカサ」とした触感となり不良な評価結果となった。
比較例8は、微小凹部の配列が不規則(ランダム)であるから、微小凹部が配列されない箇所では表皮層の表面に対する微小凹部の粗密感もランダムとなるため、一部の触感が「ザラザラ」して不良な評価結果になった。
比較例9は、微小凹部を微小凸部(微小突起)としたことで、使用者の手先や指先等が触れた際に弾性変形しやすく、触感は「サラサラ」と良好な評価結果となったものの、耐摩耗性や擦れ音において不良な評価結果となった。
【0053】
なお、前示の実施例1~9及び比較例1~9では、表皮層の表面に対し、平面状の底面部を有する略円柱状の微小凹部が多数それぞれ断続的に、かつ、規則的(千鳥状に等間隔毎)に配列された評価試料で評価したが、これに限定されず、曲面状の底面部を有する半球状の微小凹部が多数それぞれ規則的(千鳥状に等間隔毎)に配列された評価試料や、略円柱状、角柱状又は半球状の微小凹部が多数それぞれ規則的(格子状に等間隔毎)に配列された評価試料であっても、実施例1~8と同様な評価結果が得られた。
【0054】
本発明は以下に示した項目の構成を有し得る。
[項1]
基材と、
前記基材に積層された弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層と、を備え、
前記表皮層の表面には、多数の微小凹部がそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設けられ、前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面から略同じ深さで形成される多数の底面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部と、を有する、合成樹脂レザー。
[項2]
前記多数の微小凹部は、前記多数の底面部が平面状となる略円柱状、もしくは前記多数の底面部が曲面状となる半球状に形成される上記項1記載の合成樹脂レザー。
[項3]
前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面における内径と、前記表面から前記底面部までの深さと、前記微小凹部の相互間隔との比率の平均が、2.0~5.5:1.5~5.0:9.0~15.5であり、前記内径よりも前記相互間隔が長くなるように設定される上記項1又は2記載の合成樹脂レザー。
[項4]
前記表面から前記底面部までの深さは、前記表皮層の厚みよりも小さい、上記項1~3いずれか一項に記載の合成樹脂レザー。
[項5]
前記表皮層の前記表面のうち、前記微小凹部以外の部分に、さらに多数の極微小凸部が砂目調に設けられ、
前記多数の極微小凸部の平均高さは、前記多数の微小凹部の前記深さよりも小さい、上記項1~4いずれか一項に記載の合成樹脂レザー。
[項6]
基材に弾性変形可能な合成樹脂からなる表皮層を設ける積層工程と、
前記表皮層の表面全体に亘って多数の微小凹部をそれぞれ断続的に、かつ、規則的に設ける絞付け工程を含み、
前記絞付け工程では、前記多数の微小凹部として、前記表皮層の前記表面から略同じ深さで形成される多数の底面部と、前記表皮層の前記表面から前記多数の底面部に亘って弾性変形可能に形成される多数の内側面部と、をエンボス加工することを特徴とする合成樹脂レザーの製造方法。
[項7]
前記多数の微小凹部は、前記表皮層の前記表面における内径と、前記表面から前記底面部までの深さと、前記微小凹部の相互間隔との比率の平均が、2.0~5.5:1.5~5.0:9.0~15.5であり、前記内径よりも前記相互間隔が長くなるように設定される、上記項6記載の合成樹脂レザーの製造方法。
[項8]
前記絞付け工程において、前記表皮層の前記表面のうち、前記微小凹部以外の部分に、さらに多数の極微小凸部を砂目調に設け、
前記多数の極微小凸部の平均高さは、前記多数の微小凹部の前記深さよりも小さい、上記項6又は7記載の合成樹脂レザーの製造方法。
上記項5記載の合成樹脂レザーの製造方法。