(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150993
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】配線基板の製造方法、配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/16 20060101AFI20241017BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H05K3/16
H05K3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064090
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】深田 和宏
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA12
5E343BB72
5E343CC61
5E343DD25
5E343DD43
5E343ER43
5E343GG08
(57)【要約】
【課題】絶縁層に銅を直接スパッタしても、密着強度の高い銅配線を実現することが可能な配線基板の製造方法、及び配線基板を提供すること。
【解決手段】上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る配線基板の製造方法は、絶縁樹脂層に真空紫外線を照射する工程と、前記真空紫外線が照射された前記絶縁樹脂層の上にスパッタにより銅膜を直接形成する工程とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層に真空紫外線を照射し、
前記真空紫外線が照射された前記絶縁樹脂層の上にスパッタにより銅膜を直接形成する
配線基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の配線基板の製造方法であって、
前記スパッタを行う際のチャンバ内圧力は、中真空である
配線基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の配線基板の製造方法であって、
前記スパッタを行う際のチャンバ内圧力は、0.13Pa以上13Pa以下である
配線基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の配線基板の製造方法であって、さらに、
前記絶縁樹脂層の上に前記銅膜が直接形成された積層体をアニールする
配線基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の配線基板の製造方法であって、
前記真空紫外線を照射する工程は、前記絶縁樹脂層に前記真空紫外線を大気中で照射する工程であり、
前記真空紫外線の照射量は、0.1J/cm2以上5J/cm2以下である
配線基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の配線基板の製造方法であって、
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程は、前記銅膜として銅シード層を形成し、
さらに、前記銅シード層上に電解めっきにより銅配線層を形成する
配線基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の配線基板の製造方法であって、
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程は、前記銅膜として銅配線層を形成する
配線基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の配線基板の製造方法であって、
前記銅膜が形成される前記絶縁樹脂層の表面の表面粗さは、算術平均粗さRaで表して40nm以下である
配線基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の配線基板の製造方法であって、
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程は、前記銅膜を形成する前に、前記銅膜が形成される前記絶縁樹脂層の表面に対してプラズマにより表面処理を行う
配線基板の製造方法。
【請求項10】
請求項10に記載の配線基板の製造方法であって、
前記表面処理を行う際のチャンバ内圧力は、10Pa以上100Pa以下である
配線基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の配線基板の製造方法であって、さらに、
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程の前に、前記絶縁樹脂層を加熱して脱ガスする
配線基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の配線基板の製造方法であって、
前記絶縁樹脂層を加熱して脱ガスする工程は、前記真空紫外線を照射する前に行う
配線基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の配線基板の製造方法であって、
前記真空紫外線の光源は、キセノンエキシマランプ、又は低圧水銀ランプの少なくとも一方である
配線基板の製造方法。
【請求項14】
表面粗さが算術平均粗さRaで表して40nm以下である絶縁樹脂層と、
前記絶縁樹脂層の上に直接形成された銅膜と
を具備する配線基板。
【請求項15】
請求項14に記載の配線基板であって、
前記絶縁樹脂層に対する前記銅膜の密着強度は、1N/cm以上である
配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等に用いられる配線基板の製造方法、及び配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子等を搭載する配線基板が知られている。配線基板では、樹脂材料からなる絶縁層の表面に、導電材料からなる配線層が形成される。絶縁層の表面に導電材料を設ける方法としては、例えば無電解銅めっきが用いられてきた。無電解銅めっきでは、絶縁層の表面に凸凹を形成することで、アンカー効果及び分子間引力により絶縁層に銅めっきを密着させることができる。
【0003】
一方で、絶縁層の表面に凸凹があると、表皮効果によって高周波数の信号の品質が劣化することが考えられる。このため、高速な通信や高周波数での通信を行うためには、例えば樹脂材料と導電材料との界面としてより平滑な面が要求される。また高周波数の信号の伝送損失を低減するため、誘電率や誘電正接が低い樹脂材料が開発されている。このような樹脂材料は分子内の極性基の量が少なく、分子間引力が小さくなると考えられる。このため、絶縁層の表面に導電材料を設ける方法として、無電解銅めっきに代えてスパッタを用いる方法が注目されている。
【0004】
例えば特許文献1には、配線層と絶縁層とを積層した多層配線基板の製造方法が記載されている。この方法では、レーザを用いて絶縁層にビアホールが形成され、この時発生したスミア(残滓)を除去するため、波長220nm以下の紫外線が照射される。紫外線が照射された絶縁層の表面には、密着強度を確保するためにチタン(Ti)のスパッタ膜が形成され、その上にシード層となる銅のスパッタ膜が形成される。このシード層を給電経路として電解めっきにより銅のめっき層が形成される。スミアの除去に紫外線を利用することで、絶縁層の表面を平滑に保ちつつ、チタン及び銅からなるスパッタ膜の密着性を向上することが可能となっている(特許文献1の明細書段落[0011]-[0013]、[0018]
図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、配線基板の絶縁層を構成する樹脂材料に対しては、銅のスパッタ膜の密着強度に比べ、チタンやニッケル(Ni)等のスパッタ膜の密着強度が高いことが知られている。従って樹脂材料と導電材料とを十分に密着させるためには、特許文献1のように、絶縁層の表面にまずチタンやニッケル等を用いた密着層を形成し、その上に銅のシード層等を形成する必要があった。
【0007】
しかしながら、このような密着層を設けた場合、リソグラフィ後のエッチング工程で銅のエッチングとチタンやニッケルのエッチングの2つの工程が必要となり、工程が複雑になる。さらに、2つの工程は異なるエッチングプロセスであるため、例えば銅配線の下地となる密着層がエッチングされてアンダーカットに至ることや、密着層が絶縁層上に残留して信頼性が低下するといったことが考えられる。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、絶縁層に銅を直接スパッタしても、密着強度の高い銅配線を実現することが可能な配線基板の製造方法、及び配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る配線基板の製造方法は、絶縁樹脂層に真空紫外線を照射する工程と、前記真空紫外線が照射された前記絶縁樹脂層の上にスパッタにより銅膜を直接形成する工程とを含む。
【0010】
この配線基板の製造方法では、絶縁樹脂層に真空紫外線を照射することで、絶縁樹脂層の表面から一定の深さの表層にかけて銅原子と結合可能な官能基が生成される。これにより、絶縁樹脂層の表面だけでなく絶縁樹脂層の内部にも絶縁樹脂層と銅膜との結合部を形成することが可能となる。この結果、絶縁層に銅を直接スパッタしても、密着強度の高い銅配線を実現することが可能となる。
【0011】
前記スパッタを行う際のチャンバ内圧力は、中真空であってもよい。
【0012】
前記スパッタを行う際のチャンバ内圧力は、0.13Pa以上13Pa以下であってもよい。
【0013】
前記配線基板の製造方法は、さらに、前記絶縁樹脂層の上に前記銅膜が直接形成された積層体をアニールしてもよい。
【0014】
前記真空紫外線を照射する工程は、前記絶縁樹脂層に前記真空紫外線を大気中で照射する工程であってもよい。この場合、前記真空紫外線の照射量は、0.1J/cm2以上5J/cm2以下であってもよい。
【0015】
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程は、前記銅膜として銅シード層を形成し、
さらに、前記銅シード層上に電解めっきにより銅配線層を形成してもよい。
【0016】
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程は、前記銅膜として銅配線層を形成してもよい。
【0017】
前記銅膜が形成される前記絶縁樹脂層の表面の表面粗さは、算術平均粗さRaで表して40nm以下であってもよい。
【0018】
前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程は、前記銅膜を形成する前に、前記銅膜が形成される前記絶縁樹脂層の表面に対してプラズマにより表面処理を行ってもよい。
【0019】
前記表面処理を行う際のチャンバ内圧力は、10Pa以上100Pa以下であってもよい。
【0020】
前記配線基板の製造方法は、さらに、前記スパッタにより前記銅膜を形成する工程の前に、前記絶縁樹脂層を加熱して脱ガスしてもよい。
【0021】
前記絶縁樹脂層を加熱して脱ガスする工程は、前記真空紫外線を照射する前に行ってもよい。
【0022】
前記真空紫外線の光源は、キセノンエキシマランプ、又は低圧水銀ランプの少なくとも一方であってもよい。
【0023】
本発明の一形態に係る配線基板は、絶縁樹脂層と、銅膜とを有する。
前記絶縁樹脂層は、表面粗さが算術平均粗さRaで表して40nm以下である。
前記銅膜は、前記絶縁樹脂層の上に直接形成される。
【0024】
前記絶縁樹脂層に対する前記銅膜の密着強度は、1N/cm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、絶縁層に銅を直接スパッタしても、密着強度の高い銅配線を実現することが可能となる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る配線基板の構成例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本実施形態に係る配線基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】配線基板に用いる絶縁層の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図4】絶縁層におけるVUVの吸収特性を示すグラフである。
【
図5】VUVが照射された絶縁層に形成される官能基を示す模式図である。
【
図6】VUVが照射された絶縁層と銅膜との結合状態を示す模式図である。
【
図7】配線基板の製造方法の実施例を示すフローチャートである。
【
図8】
図7に示す配線基板の製造方法の工程について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
[配線基板]
図1は、本発明の一実施形態に係る配線基板の構成例を示す模式的な断面図である。配線基板100は、例えば半導体素子等を搭載するための配線パターンが形成された基板である。
図1には、配線基板100を厚さ方向に沿って切断した断面図が模式的に図示されている。配線基板100は、支持基板10と、絶縁層20と、配線層30とを有する。
【0029】
支持基板10は、絶縁層20及び配線層30を支持する部材である。支持基板10は、例えばガラスエポキシ樹脂等の絶縁性の材料を用いて構成される。また支持基板10の主面には、銅箔等の導電材料が設けられてもよい。この他、支持基板10の種類は限定されず、例えば剛性の高いリジッド基板や、屈曲が可能なフレキシブル基板等が用いられてもよい。
【0030】
図1に示す例では、平板状の支持基板の一方の主面に、絶縁層20及び配線層30がこの順番で積層される。以下では絶縁層20及び配線層30が積層される側(図中の上側)を、配線基板100の上側と記載し、その反対側(図中の下側)を、配線基板100の下側と記載する場合がある。また支持基板10、絶縁層20、配線層30において、上側に向けられる面を上面と記載し、下側に向けられる面を下面と記載する場合がある。
【0031】
絶縁層20は、絶縁性の樹脂材料を用いて構成された層であり、支持基板10の表面(ここでは支持基板10の上面)に設けられる。本実施形態では、絶縁層20は、絶縁樹脂層に相当する。絶縁層20を構成する樹脂材料としては、例えばガラスエポキシ樹脂が用いられる。例えばガラスエポキシ樹脂をフィルム状に加工したガラスエポキシフィルム等を支持基板10に貼り付けることで、絶縁層20が形成される。
【0032】
なお絶縁層20を形成する方法は限定されず、例えば絶縁性の樹脂材料となる組成物を支持基板10に塗布した後、樹脂材料を硬化処理する方法等が用いられてもよい。また絶縁層20を構成する樹脂材料の種類は限定されず、例えばエポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂などを用いることができる。また絶縁層20には、粒状フィラー等の任意の材料が含まれていてもよい。
【0033】
配線層30は、絶縁層20の上に銅を積層した層である。すなわち、配線層30は、絶縁層20の表面(ここでは絶縁層20の上面)に銅を直接積層した層である。従って、配線層30と絶縁層20との間には、銅以外の金属層は設けられない。本実施形態では、配線層30は、銅配線層に相当する。配線層30には、配線基板100の用途等に応じた各種の配線パターン(銅配線)が形成される。
【0034】
配線基板100では、配線層30のうち、少なくとも絶縁層20と配線層30との界面となる部分は、スパッタにより形成される。つまり、絶縁層20に密着する部分は、銅のスパッタ膜である。後述するように、配線層30は、銅のスパッタ膜をシード層として電解めっきにより形成されてもよいし、銅のスパッタ膜だけで配線層30が形成されてもよい。
【0035】
図1に示す配線基板100は、絶縁層20と配線層30とが1組だけ積層された基板であるが、本発明は、絶縁層20と配線層30とが交互に積層された多層基板に適用することも可能である。例えば
図1に示す配線層30の表面(上面)に、2層目の絶縁層20が形成され、2層目の絶縁層20の表面(上面)に、銅のスパッタ膜を積層して2層目の配線層30が形成される。多層基板を構成する場合、全ての絶縁層20に対して銅のスパッタ膜を直接積層するようにしてもよいし、一部の絶縁層20に対して銅のスパッタ膜を直接積層するようにしてもよい。
【0036】
また、
図1では、支持基板10の片面に絶縁層20及び配線層30を積層しているが、例えば支持基板10の両面に、絶縁層20及び配線層30を積層してもよい。
また必ずしも支持基板10を設ける必要は無い。例えば絶縁層20がそのまま配線基板100全体を支える構造部材として構成されてもよい。
【0037】
[配線基板の製造方法の概要]
図2は、本実施形態に係る配線基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2には、配線基板100の製造方法の基本的な工程が示されている。これらの工程は、絶縁層20と配線層30(銅のスパッタ膜)とを密着させるために必ず行われる工程である。以下では、支持基板10上に絶縁層20が設けられた基板材料が予め用意されているものとする。
【0038】
まず、絶縁層20に真空紫外線(VUV:Vacuum Ultra Violet)が照射される(ステップ101)。具体的には絶縁層20の表面側から、絶縁層20に向けてVUVが照射される。ここで絶縁層20の表面とは、配線層30が積層される面であり、基板材料において絶縁層20が露出した面である。例えば絶縁層20の支持基板10とは反対側に向けられる面(
図1では絶縁層20の上面)が、VUVが照射される絶縁層20の表面となる。
【0039】
VUVは、紫外線のうち大気成分に効率よく吸収される波長帯の光である。例えば、VUVを伝播させるためには、一般に真空環境(減圧雰囲気)が用意される。VUVの波長λは、例えば200nm≧λ≧10nmである。従ってVUVの一部は、軟X線の領域と重なっている。
【0040】
例えばVUVを出射する光源(エキシマランプ等)を備える照射装置により、絶縁層20に向けてVUVが照射される。
後述するように、本発明者は、VUVを絶縁層20に照射することで、絶縁層20と銅のスパッタ膜との密着強度(密着力)が大きくなるように絶縁層20の表面から内部にかけて絶縁層20の性質を変化させることが可能となる点を見出した。従って、絶縁層20にVUVを照射する工程は、絶縁層20を改質するための工程となる。
【0041】
次に、VUVが照射された絶縁層20の上にスパッタにより銅膜が形成される(ステップ102)。スパッタ(スパッタリング法)は、真空チャンバ内で行われるドライプロセスである。例えばスパッタ装置の真空チャンバに、VUVが照射された基板材料が導入され、所定の圧力に減圧された状態で銅のスパッタ膜が形成される。
【0042】
スパッタ装置では、例えばアルゴン(Ar)等のプラズマを銅製のスパッタリングターゲットに衝突させ、弾き出された銅粒子(銅イオン等)が絶縁層20に積層される。このとき、絶縁層20を構成する樹脂材料は、VUVの照射により改質されているため、表面から内部にかけて銅粒子との結合が形成されやすい状態となっている。これにより、絶縁層20の表層領域において樹脂材料と銅粒子との結合が可能となる。ここで絶縁層20の表層領域とは、例えば絶縁層20の表面から一定の深さまでの領域であり、銅粒子との結合が形成される領域である。
このように、VUVを照射することで、樹脂材料の表面だけでなく内部でも銅粒子との化学的な結合を実現することが可能となる。この結果、密着強度の高い銅膜を形成することが可能となる。
【0043】
絶縁層20の上にスパッタにより形成される銅膜は、例えば電解銅めっきを行うためのシード層である。すなわち、スパッタにより銅膜を形成する工程では、銅膜として銅シード層が形成される。銅シード層は、銅めっき層を成長させるための給電経路(電極)となる層である。この工程は、絶縁層20の上に銅シード層を直接形成するダイレクト銅シード形成工程であると言える。
銅シード層の膜厚は比較的薄く、例えば1μm以下であるが、電解銅めっきとして機能する膜厚であれば任意の膜厚で銅シード層(銅のスパッタ膜)が形成されてよい。
【0044】
また銅シード層が形成される場合、さらに、銅シード層上に電解めっきにより銅配線層が形成される。例えば銅シード層が形成された基板材料を電解銅めっきの溶液につけて、銅シード層上に銅のめっき層である銅配線層が形成される。銅配線層の膜厚は限定されないが、例えば数十μm程度である。この場合、銅シード層と銅配線層とにより、
図1に示す配線層30が構成される。
【0045】
また、絶縁層20の上にスパッタにより形成される銅膜は、銅配線層であってもよい。すなわち、スパッタにより銅膜を形成する工程では、銅膜として銅配線層が形成されてもよい。この場合、銅膜の上に電解めっき等は行われず、銅膜がそのまま配線として利用される。この工程は、絶縁層20の上に銅配線層を直接形成するダイレクト銅配線層形成工程であると言える。
銅配線層となる銅膜の膜厚は、配線基板100の配線を構成可能な範囲で適宜設定される。例えば銅配線層として膜厚が1μm以上の銅膜がスパッタにより形成されてもよいし、より薄い銅膜が銅配線層として形成されてもよい。この場合、銅のスパッタ膜(銅膜)だけで、
図1に示す配線層30が構成される。
【0046】
このように、絶縁層20の上にスパッタにより形成される銅膜は、電解めっきのシード層であってもよいし、銅膜そのものが配線として用いられてもよい。いずれの場合でも、樹脂材料(絶縁層20)の界面に接する導電材料(配線層30)は、VUVが照射された絶縁層20にスパッタにより形成される銅膜であるため、密着強度の高い銅配線を実現することが可能となる。
【0047】
[VUV照射の作用]
絶縁層20と配線層30(スパッタにより形成された銅膜)との界面を調べるため、本発明者は、絶縁層20に形成した配線層30を絶縁層20から剥離し、配線層30の界面をX線電子分光法(XPS)により測定した。この結果、密着強度が高い場合には、COCuを示す分光スペクトルピークの強度が高くなった。COCuは、炭素原子(C)と銅原子(Cu)とを酸素原子(O)が単結合により結合した構造(C-O-Cu)である(
図6参照)。
【0048】
つまり、絶縁層20と配線層30とが高い密着性をもつ配線基板100では、その界面でCOCuの形成が見られることが分かった。これは、絶縁層20に前処理としてVUVを照射することで絶縁層20にヒドロキシル基(COH)が形成され、スパッタにより飛来したCuとCOHとが反応してCOCuが形成されるためであると考えられる。
【0049】
さらに、本発明者は、VUVを照射した場合に、絶縁層20のどこにCOHが形成されるのかを調べた。
図3は、配線基板100に用いる絶縁層20の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図4は、絶縁層20におけるVUVの吸収特性を示すグラフである。まず、
図3及び
図4を参照して絶縁層20に対するVUVの吸収特性について説明する。
【0050】
従来、樹脂材料はVUVの吸収が極めて高く、樹脂内にはVUVはほとんど侵入しないと考えられていた。この場合、樹脂材料に照射されたVUVは、樹脂材料の表面で吸収されてしまい、樹脂材料の内部にまで到達しないことになる。この点について、本発明者は、樹脂材料に対するVUVの透過率を測定し、VUVの吸収特性を調べた。
【0051】
図3は、VUVの透過率測定に用いた絶縁層20を含む測定試料の断面を撮影したSEM像である。絶縁層20としては、ガラスエポキシ樹脂40のフィルムを用いた。透過率測定には、合成石英のガラス基板41にガラスエポキシ樹脂40をラミネートし、ガラスエポキシ樹脂40を1μmの厚さまで研磨した測定試料を用いた。
図3において右側の灰色の厚い層がガラス基板41であり、ガラス基板41上の薄い層がガラスエポキシ樹脂40(絶縁層20)である。
【0052】
透過率測定では、波長域140nmから225nmの領域を分光光度計(マクファーソン社製、VUVAS-1000型)を用いて測定し、エキシマランプの発光中心波長である172nmの透過率データを得た。
図4は、ガラスエポキシ樹脂40(絶縁層20)に対するVUVの透過率の測定結果を示すグラフである。グラフの横軸は、ガラスエポキシ樹脂40の深さ(nm)であり、縦軸は、透過率(%)である。なお、ガラスエポキシ樹脂40の深さとは、VUVが照射される表面からの距離である。
【0053】
VUVの透過率の測定結果から算出したガラスエポキシ樹脂40の吸光度は3.0×10^3であった。また、この吸光度に関する考察は、エキシマランプの発光スペクトルに関するもので、例えば半値幅14nmをもつ放射領域において、単波長の光や合成波長の光についても同様に吸光度を計算することができる。この場合、
図4に示すように、ガラスエポキシ樹脂40の表面から1000nm程度の深さまでは、一部のVUVが樹脂に吸収され、それ以外のVUVが樹脂中を透過することになる。以下では、VUVの吸収が生じる領域を、吸収領域45と記載する。吸収領域45は、例えば深さが1000nmまでの領域である。
【0054】
特に、ガラスエポキシ樹脂40の表面から数十nm程度の深さでは、透過率が100%から90%に低下し、VUVが10%程度吸収されることが判明した。この領域は、スパッタされた銅粒子との結合が形成される表層領域46となる。表層領域46は、例えば表面から深さが20nm~40nm程度までの領域である。
図4には、表層領域46が、灰色の領域により模式的に図示されている。
【0055】
なお、ガラスエポキシ樹脂40において吸収領域45よりも深い領域にはVUVはほとんど到達しない。従って実用的な厚み(数μm以上)を持つガラスエポキシ樹脂40は、VUVをまったく透過しないようにふるまう。実際には、このような比較的厚いガラスエポキシ樹脂40であっても、VUVが照射される表面側では、一定の深さでVUVを吸収・透過する吸収領域45が発生することになる。
【0056】
以上の結果を踏まえ、VUVを照射することで生じる作用について説明する。
図5は、VUVが照射された絶縁層20に形成される官能基を示す模式図である。
図5には、VUVが照射することで絶縁層20にできる官能基や、絶縁層20内にある炭素鎖等が模式的に図示されている。また
図5では、絶縁層20に対して空気中でVUVが照射されるものとする。
【0057】
絶縁層20を構成する樹脂材料には、炭素原子(C)、酸素原子(O)、水素原子(H)等からなる鎖状の重合体が含まれる。重合体には各原子同士の単結合(例えばC-C、C-O、C-H、O-H等)や、2重結合(例えばC=O)等が含まれる。
【0058】
絶縁層20にVUVが照射されると、絶縁層20の表面21及び内部(表層領域46を含む吸収領域45等)では、VUVのエネルギーが吸収される。このとき、VUVのエネルギーの一部は、重合体を構成する原子を励起する励起エネルギーとなる。この結果、重合体の結合状態が変化し、新たな官能基が形成される。
【0059】
具体的には、VUVが照射されると、分子内の再結合によって、重合体にはヒドロキシル基(COH)が形成される。COHは、一次の酸化官能基であり、銅原子(Cu)と結合しやすい官能基である。COHにCuが結合するとCOCuが形成される。
【0060】
上記したように、VUVのエネルギーの吸収は、絶縁層20の表面21だけでなく内部でも生じる。このため、COHは、絶縁層20の表面21及び内部に形成される。
図5には、絶縁層20の表面21にできるCOHと、絶縁層20の内部(特に表層領域46)にできるCOHとが模式的に図示されている。このうち、点線で囲ったCOHは、表層領域46にできるCOHを表している。このように、VUVの照射で絶縁層20の表層領域46が改質され絶縁層20の内部にもCOH官能基が形成される。
【0061】
またVUVが空気中を伝播する過程で、酸素分子(O2)が励起され、オゾン(O3)、基底状態の酸素原子(O(1
D))、励起状態の酸素原子(O(3
P))等が生成される。これらの酸素由来の生成物は、例えば絶縁層20の表面21でCOHやCOOH等を形成する。
【0062】
このように、COHが形成された絶縁層20に対して、スパッタにより銅膜が形成される。このとき、絶縁層20に飛来する銅原子(Cu)とCOHとの間に仮結合が生じると考えられる。ここで仮結合とは、例えばCOHとCuとの完全な結合部(COCu)の形成にまでは至っていないが、COCuとなり得る状態である。例えばCOHと結合可能な範囲にCuが存在するような状態が、仮結合となり得る。
【0063】
スパッタされた銅原子(Cu)は、例えば絶縁層20の表面21に形成されたCOHや、絶縁層20の内部、特に表層領域46に形成されたCOHと仮結合を形成する。従って、スパッタにより銅膜が形成された絶縁層20には、表面21だけでなく内部の表層領域46にも仮結合ができる。なお、スパッタされた銅原子(Cu)がそのままCOHと結合してCOCuが形成されることも考えられる。
【0064】
後述するように、本実施形態では、仮結合を結合させるための加熱処理(アニール処理)が実行される。これにより、絶縁層20の表層領域46にかけて、完全な結合部(COCu)が形成される。例えばスパッタ後に銅めっき層を形成する場合には、銅めっき層の応力分散を図るためにアニール処理が行われる。このアニール処理を利用して上記した仮結合を完全な結合にすることが可能である。
なお仮結合は、例えばスパッタ時に他のCuの運動エネルギーを吸収して結合部(COCu)となる場合や、配線基板100の製造工程で加わる熱エネルギーを吸収して結合部(COCu)となる場合等も考えられる。このため、例えばアニール処理が無くても十分な密着強度を得られる場合には、必ずしもアニール処理を行う必要はない。
【0065】
図6は、VUVが照射された絶縁層20と銅膜3との結合状態を示す模式図である。
図6では、VUVが照射された絶縁層20の上に、スパッタにより銅膜3が直接形成され、基板全体で絶縁層20と銅膜3との結合部(COCu)が形成されている。
例えば、銅膜3として銅シード層を形成し、電解銅めっきが行われる。この間、COHとCuとの仮結合が維持される。銅めっき層(配線層30)を形成した後で、アニール処理を実行することでCOCuが形成される。また電解銅めっきを行わない場合には、例えばスパッタにより銅膜3を形成した後に適切なタイミングでアニール処理が実行される。
【0066】
絶縁層20と銅膜3との結合部(COCu)を構成する銅原子(Cu)は、酸素原子(O)と図示しない他の銅原子とに結合している。つまり、COCuは、絶縁層20(重合体)と銅膜3とを結合しているともいえる。またCOCuは、絶縁層20の表面21だけでなく、絶縁層20の内部である表層領域46にも形成される。従って表面21から深さが数十nmの表層領域46にかけて、絶縁層20と銅膜3とが結合することになる。これにより、表層領域46には、例えば深さ方向に結合部のグラデーションがかかった密着界面が形成される。この結果、銅膜3を絶縁層20に直接スパッタしても、例えば表面だけにCOHを形成するような場合と比べで、密着強度を大幅に向上することが可能となる
【0067】
これまでは、VUVは樹脂材料の表面を改質する作用を持ち、樹脂材料の表面にCOHやCOOHのような官能基を形成すると考えられてきた。これに対し、本発明者が行った測定により、VUVは樹脂材料(絶縁層20)を部分的に透過し、樹脂材料の内部で吸収されていることがわかった(
図4参照)。この結果、VUVの照射により絶縁層20の表面21だけでなく内部(表層領域46等)にもCOH等の官能基が形成される点が明らかになった。
【0068】
ところで、スパッタ装置では、スパッタの前にプラズマを用いた表面処理を行い、成膜対象の表面をクリーニングする方法が知られている。プラズマが樹脂材料の表面に作用することで、例えばVUVを照射した場合と同様の官能基が樹脂材料の表面にできることも考えられる。しかしながらプラズマは、VUVとは異なり樹脂材料の内部には侵入しない。
【0069】
このように、樹脂材料の表面においては、プラズマによる表面処理は、VUVの作用と重複する作用をもたらす。仮に、表面の官能基だけが結合をつくるとすると、VUVを照射せずプラズマによる表面処理だけを行った場合でも密着強度が向上するはずであるが、後述するように、実際にはVUVを照射しない場合には、密着強度は低いままである。
【0070】
これに対し、VUVで改質された樹脂材料(絶縁層20)では、表面21だけでなく内部の表層領域46においてもスパッタにより成膜した銅がCOHと反応する。この結果、
図6に示すような密着強度を示す結合が形成されたと考えられる。このように、本発明は、VUVを照射することで絶縁層20の表層領域46にかけて形成される官能基に、銅粒子が結合することで、絶縁層20と配線層30との強い密着を形成するものである。
【0071】
上記した方法は、絶縁層20と配線層30との界面に形成される化学的な結合部(COCu)により密着強度を向上させる方法である。この方法を用いることで、例えば平滑な絶縁層20を備える配線基板100が構成される。具体的には、配線基板100は、表面粗さが算術平均粗さRaで表して40nm以下である絶縁層20と、当該絶縁層20の上に直接形成された銅膜3と有する。
【0072】
ここで、算術平均粗さRaとは、例えば基準となる範囲における凹凸の深さの平均値である。基準となる範囲は、例えば各辺の長さが凹凸の深さの10倍以上となるような矩形の範囲である。例えば、算術平均粗さRaが150nm以下となる場合、アンカー効果等の物理的な形状に依存した密着効果が期待できない。従ってRaが40nm以下となるような絶縁層20では、アンカー効果により密着強度を高めることは難しい。このように十分に平滑な絶縁層20に対しても、本発明を適用することで、十分な密着強度を発揮することが可能である。
【0073】
また平滑な絶縁層20を備えた配線基板100において、絶縁層20に対する銅膜3(配線層30)の密着強度は、1N/cm以上であることが好ましい。例えば本実施形態に係る製造方法を用いることで、後述する表1~表3等に示すように、1N/cm以上の密着強度が実現できる。これにより、密着強度が十分に高く銅だけで構成された平滑な配線等を実現することが可能となる。
【0074】
[配線基板の製造方法]
図7は、配線基板の製造方法の実施例を示すフローチャートである。
図8は、
図7に示す配線基板の製造方法の工程について説明するための模式図である。
図7及び
図8は、本発明に係る配線基板100の製造方法の一例である。以下では、スパッタにより銅シード層を形成し、その後電解銅めっきにより配線層30を形成するものとする。
【0075】
まず絶縁層20が形成される(ステップ201)。この工程は、絶縁層20を持つ基板材料を形成する工程である。ここでは、
図8に示すように、支持基板10の一方の主面に、絶縁層20が設けられる。以下では、支持基板10に絶縁層20が積層された基板材料を、基板材料5aと記載する。支持基板10としては、ガラスエポキシ基板等が用いられる。また絶縁層20としては、ガラスエポキシフィルム等が用いられる。
【0076】
ガラスエポキシフィルムのような絶縁層20を支持基板10に貼り付ける場合、例えばキャリアフィルムにより対象を挟んで密着させる真空ラミネート装置等が用いられる。この場合、絶縁層20と支持基板10とを張り合わせた基板材料5aは、キャリアフィルムに覆われた状態で搬出される。その後、オーブン等の加熱装置を用いて、ガラスエポキシフィルムを硬化させるための加熱処理が行われる。この加熱処理は、例えばキャリアフィルムに覆われた状態で行われる。この他、絶縁層20を持つ基板材料5aを形成する方法は限定されない。
【0077】
次に、脱ガス用の加熱が行われる(ステップ202)。この工程は、絶縁層20や支持基板10に含まれるガス成分を除去する工程である。例えばオーブン等の加熱装置を用いて、基板材料5aが所定の温度に加熱される。脱ガス用の加熱温度は、例えば樹脂のガラス転移点(ガラス転移温度)から、最大で200℃までの範囲に設定される。
【0078】
このように、本実施形態では、スパッタにより銅膜3を形成する工程の前に、絶縁層20を加熱して脱ガスする工程が行われる。例えば、スパッタにより形成される銅膜3は緻密な膜であり、絶縁層20内のガスを閉じ込めることがある。このため、脱ガスが不十分である場合には、電解銅めっきの際にボイドと呼ばれる空気層が発生する可能性がある。従って、スパッタの前に脱ガス用の加熱処理を行うことで、ボイド等の発生を回避することが可能となる。
なお、ガラスエポキシフィルムの硬化処理の直後等には、絶縁層20に含まれるガスが十分に少なくなる。このような場合には、脱ガス用の加熱処理を実行しなくてもよい。
【0079】
次に、絶縁層20にVUVが照射される(ステップ203)。この工程は
図2を参照して説明したステップ101の工程に対応する。例えばVUV照射装置に、基板材料5aが導入され、絶縁層20の表面21に向けてVUVが照射される。これにより、絶縁層20の表面21や内部(吸収領域45)には、COH等の官能基が形成される。
図8では、VUVを照射して改質された絶縁層20がグラデーションにより模式的に図示されている。
【0080】
VUVの光源としては、例えば、キセノンガスを封入したキセノンエキシマランプ(ピーク波長172nm)、又は低圧水銀ランプ(185nm輝線)などを用いることが可能である。またこれらの光源を組み合わせて用いてもよい。またVUV照射装置によるVUVの照射量は、例えば照射時間、光源の明るさ、照射距離等により調整される。また絶縁層20に照射されるVUVの照射量を検出するセンサ(照度計)等が設けられてもよい。
【0081】
本実施形態では、大気中でVUVが照射される。すなわちVUVを照射する工程は、絶縁層20にVUVを大気中で照射する工程である。大気中でVUVを照射するため、VUV照射装置に真空チャンバ等を設ける必要がなく、基板材料5aを真空チャンバに導入する工程や、真空チャンバの真空引きを行う工程等が不要となる。従って、VUVを照射する工程を、短時間で完了することが可能となる。また大気中の酸素を利用した表面改質も可能となる。
【0082】
なお、大気中でVUVを照射する構成に限定されず、例えば所定の減圧雰囲気中あるいは低酸素濃度雰囲気中でVUVが照射されてもよい。この場合、大気によるVUVの吸収がなくなるため、例えばVUVの光量を小さくして消費電力を抑えるといったことが可能である。また例えば、スパッタ装置のチャンバ内にVUVの光源を設けてもよい。これにより、一つの装置内で、VUVの照射からスパッタまでの処理を行うことが可能となる。
【0083】
基板材料5aの絶縁層20にVUVが照射されると、基板材料5aがスパッタ装置の真空チャンバに導入される。以下で記載するステップ204及びステップ205の工程は、スパッタ装置により実行される工程である。
【0084】
スパッタ装置では、まずプラズマによる表面処理が行われる(ステップ204)。この工程は、スパッタの前処理であり、プラズマを用いて絶縁層20の表面21のクリーニング等を行う工程である。プラズマによる表面処理により、例えばVUVを照射してからスパッタ装置に導入するまでの間に汚染された絶縁層20の表面21がクリーニングされる。
プラズマを生成するための雰囲気ガスとしては、例えばアルゴンと水素との混合ガス(Ar/H2)やアルゴンと酸素との混合ガス(Ar/O2)等が材料に応じて適宜選択して用いられる。
【0085】
本実施形態では、表面処理にホローカソードプラズマ(HCDプラズマ)が用いられる。すなわち、スパッタにより銅膜3を形成する前に、銅膜3が形成される絶縁層20の表面21に対してホローカソードプラズマにより表面処理が行われる。
ホローカソードプラズマは、例えば筒状の陰極(ホローカソード)を用いて生成されるプラズマであり、高密度のプラズマ噴流として放出される。例えばスパッタ装置に内蔵されたホローカソードプラズマ装置により、真空チャンバ内にプラズマ噴流(ホローカソードプラズマ)が生成される。このプラズマにより絶縁層20の表面21がクリーニングされる。
【0086】
なお、ホローカソードプラズマは絶縁層20の表面21だけに作用し、絶縁層20の内部には作用しない。このため、例えばVUVの照射により絶縁層20の内部に形成されたCOH等の官能基は維持される。一方で、絶縁層20の表面21では、汚染物質のクリーニングに加え、COH等の官能基が形成される。このように、ホローカソードプラズマで絶縁層20の表面21を改質することで、絶縁層20と銅膜3との密着強度をさらに向上することが可能となる。
【0087】
また、ホローカソードプラズマによる表面処理を行う際のチャンバ内圧力は、10Pa以上100Pa以下である。この圧力範囲とすることで、ホローカソードプラズマにより十分な表面改質を実現することができる。また圧力が比較的高いため、減圧に要する時間が短くてすむ。これにより、表面処理に要する時間を短縮することが可能となる。
【0088】
次にスパッタ装置では、真空紫外線が照射された前記絶縁樹脂層の上にスパッタにより銅膜3が直接形成される(ステップ204)。この工程は
図2を参照して説明したステップ102の工程に対応する。ここでは、銅膜3として電解銅めっきの給電経路となる銅シード層31が形成される。銅シード層31の膜厚は、例えば300nm程度であるが、任意の膜厚が設定されてよい。
図8には、絶縁層20の上に成膜された銅シード層31が模式的に図示されている。以下では、絶縁層20の上に銅シード層31が形成された部材を基板材料5bと記載する。
【0089】
例えばスパッタ装置に内蔵されたプラズマ装置によりプラズマが生成され、銅のスパッタターゲットがプラズマによりスパッタされる。スパッタターゲットから弾き出された銅粒子が、絶縁層20の表面21に積層されて、銅シード層31が形成される。このとき銅シード層31の膜厚がモニタリングされ、所定の膜厚までスパッタが継続される。
プラズマを生成するための雰囲気ガスは、例えばアルゴンである。またプラズマ装置としては、上記したホローカソードプラズマ装置が用いられてもよいし、スパッタ専用の装置が用いられてもよい。
【0090】
本実施形態では、スパッタを行う際のチャンバ内圧力は、中真空である。すなわち、スパッタ装置では、中真空スパッタが行われる。ここで、中真空の圧力は、0.1Pa以上100Pa以下の圧力である。
チャンバ内圧力が中真空である場合、例えばスパッタターゲットから絶縁層20に飛来する銅粒子が、プラズマの雰囲気ガス等と衝突する確率が高くなり、銅粒子の運動エネルギーが低下する。このため、スパッタ中の絶縁層20の温度上昇を抑制することが可能となる。この結果、例えば銅原子(Cu)と官能基(COH)との仮結合を消失させることなく、銅シード層31を形成することが可能となる。
【0091】
一般にスパッタによる成膜は、0.1Paよりも十分に低い圧力(例えば0.01Pa等)で行われる。この場合、成膜対象には、比較的高い運動エネルギーを持ったターゲット粒子が飛来し、成膜対象が加熱されることが考えられる。
これに対し、本実施形態では、あえて中真空の圧力でスパッタを行うことで、絶縁層20の温度上昇を抑制し、絶縁層20と銅シード層31とが良好に結合できる状態を維持している。これにより、密着強度の強い銅シード層31を形成することが可能となる。また、中真空の圧力に達するまでの排気時間は比較的短い。このため、スパッタに要する時間を短縮することが可能となる。
【0092】
次に、電解銅めっきにより、銅配線層32が形成される(ステップ206)。ここでは、スパッタにより形成された銅シード層31を給電経路として電解銅めっきが行われ、銅のめっき層により銅配線層32が形成される。銅配線層32の膜厚は、例えば数十μm程度であるが、任意の膜厚が設定されてよい。
図8には、銅シード層31の上に成膜された銅配線層32が模式的に図示されている。以下では、銅シード層31の上に銅配線層32が形成された部材を基板材料5cと記載する。
【0093】
例えば硫酸銅溶液が入った電解銅めっき浴に、ステップ205で生成せれた基板材料5bと銅電極が浸漬される。銅電極を陽極とし、銅シード層31を陰極として、所定の電流密度で電流が供給される。これにより、銅シード層31には、銅めっき層(銅配線層32)が形成される。銅めっきが完了した基板材料5cは、乾燥処理にかけられる。
【0094】
次に、アニール処理が行われる(ステップ207)。この工程は、例えば銅シード層31と絶縁層20との界面に形成された仮結合を、完全な結合部(COCu等)にするための加熱処理である。ここでは、絶縁層20の上に銅シード層31及び銅配線層32が形成された基板材料5cがアニールされる。ここで基板材料5cは、絶縁樹脂層の上に銅膜が直接形成された積層体の一例である。アニール処理を終えた基板試料5cは、配線基板100となる。
【0095】
例えばオーブン等の加熱装置を用いて、基板材料5cが所定の温度に加熱される。アニール処理の加熱温度は、例えば200℃程度であり、加熱時間は、例えば1時間程度である。なお、アニール処理の加熱温度や加熱時間は、所望の密着強度が実現されるように適宜設定されてよい。
アニール処理を行うことで、絶縁層20の表面21から表層領域46にかけて完全な結合部が形成される。これにより密着強度の強い配線層30(銅シード層31及び銅配線層32)を形成することが可能となる。
【0096】
[密着性の評価]
以下では、配線基板100における絶縁層20と配線層30との密着性を評価した実験について説明する。この実験では、基本的に
図7及び
図8を参照して説明した製造方法により製造した試料について密着強度を評価した。また、比較のためにステップ203を省略しVUVを照射しないで製造した試料についても密着性を評価した。
【0097】
実験に用いた配線基板100は、支持基板10として、CCLと呼ばれる銅貼り積層板(例えば日立化成製:MCL-800)を用いた。また絶縁層20として、ガラスエポキシフィルム(例えば味の素ファインテクノ社製:ABF-GX-T31)を用いた。実験では、銅張り積層板の一方の面にガラスエポキシフィルムを真空ラミネート装置(名機製作所製:型式MVLP-500/600-IIA)で張り合わせ、ラミネート後に絶縁層20のガラスエポキシ樹脂の成分を硬化させるため、オーブンを用いて加熱処理を行った(ステップ201)。この処理では、100℃で30分の加熱処理の後に、180℃で30分の加熱処理を行った。
【0098】
ステップ201以降の放置時間が長い場合は、VUVを照射する前にオーブンで脱ガス用の加熱処理を(ステップ202)を行うことが好ましい。この処理では、190℃で1時間の加熱処理を行った。なお、ガラスエポキシ樹脂を硬化させた後、直ちに次の工程に移る場合は、ステップ202を省略し、真空ラミネート装置で使用したキャリアフィルムを剥がしてVUVの照射を行った。
【0099】
次に絶縁層20に対してVUVを照射した(ステップ203)。VUV照射装置としては、172nmの波長の光を放射するエキシマ照射装置(ウシオ電機製:SVM-453S型)を用いた。VUVの照射は、大気雰囲気下で行った。またステージ搬送機構を利用して試料を移動させ、照射距離を5mmに設定した。VUVの照射量は、172nmの波長の光に対応した照度計(ウシオ電機製:UIT-250型)により測定した。実験では、VUVの照射量は、0~5.4J/cm2の水準で照射した。
【0100】
またVUVを照射した後に、絶縁層20の表面粗さを原子間力顕微鏡により測定した。表面粗さの測定範囲は、1μm×1μmとした。なお、後述する実験番号1については、VUVを照射しない状態での表面粗さを測定した。これは、キャリアフィルムを剥がした状態での絶縁層20の表面粗さである。VUVを照射していない絶縁層20の表面粗さは、Ra=32nmであった。
【0101】
次に中真空スパッタ装置にVUVを照射した試料を導入し、プラズマによる表面処理を行った(ステップ204)。実験では、中真空スパッタ装置に内蔵されたホローカソードプラズマ装置により生成されたプラズマ噴流により、試料(絶縁層20)の表面21をクリーニングした。
次に中真空の圧力下でスパッタにより絶縁層20の上に銅シード層31を形成した(ステップ205)。銅シード層31の膜厚は、300nmとした。なお実験では、中真空スパッタの圧力範囲に含まれない圧力でも試料を作成した。
【0102】
次に銅シード層31が形成された試料を電解銅めっき浴に浸漬させて電解銅めっきを行った(ステップ206)。電流密度は1ASD(Ampere per Square Decimeter)に設定し、銅めっき層の膜厚は25μmとした。また銅めっき後の試料に対して乾燥処理を行った。
次に銅めっき後の試料にアニール処理を行った(ステップ207)。実験では、オーブンを用いて、200℃で1時間の加熱処理を行い、銅膜のアニールを行った。
【0103】
アニール後の試料を測定対象として、絶縁層20と配線層30との密着性を評価した。実験では、配線層30に幅1cmの切り込みを入れ、ピール試験機(島津製作所製:EZ-TEST)により配線層30を剥がして密着強度を測定した。密着強度は50mm/sの速度で配線層30をはがした時の最大値を記録した。
【0104】
[VUV照射量と密着強度の関係]
以下では、表1を参照してVUVの照射量を変えた場合の密着強度について説明する。
【0105】
【0106】
表1に示す実験番号1~10では、スパッタ圧力を1.3Paに設定し、VUVの照射量を変えて配線層30を形成した試料について、絶縁層20の表面粗さと、密着強度とを測定した。なお、実験番号1では、VUVを照射していない。
【0107】
実験番号1に示すように、キャリアフィルムを剥がした状態での絶縁層20の表面21は、例えばアンカー効果が生じるような表面にくらべ、平滑な表面となっている。また実験番号1ではVUVを照射していないため、中真空スパッタ装置を使用した銅のスパッタ膜は不安定である。このため密着強度は0.9N/cmであり非常に小さい。
【0108】
実験番号2~10では、VUVの照射量を徐々に増加させた。この場合、VUVの照射によって、絶縁層20の表面粗さはわずかに増加するが、例えば実験番号10のように5.4J/cm2の照射量でもRaの値は6nmしか増加しない。この表面粗さでは、アンカー効果による密着強度の向上は期待できない。
一方で実験番号2~9では、VUVを照射しない場合(実験番号1)と比べ、密着強度が大きくなった。このうち実験番号4では、0.54J/cm2の照射量で密着強度が4.5N/cmとなり最大となった。この最大値は、VUVを照射しない場合の5倍である。これは、VUVを照射することで絶縁層20の表層領域46に形成されたCOHがスパッタされた銅粒子と結合し、絶縁層20の表面21だけでなく内部にも結合部(COCu)が形成されるためであると考えられる。このように、表面粗さがほとんど変化していないにも関わらず、VUVを照射することで密着強度を十分に向上することが可能となる。
【0109】
また実験番号2に示すように、0.1J/cm2の照射量では、密着強度が1.2N/cmとなり、VUVを照射しない場合(実験番号1)と比べ、密着強度が大きくなった。なお、実験番号2よりも小さい0.01J/cm2の照射量でも実験を行ったが、密着強度の向上はほとんど見られなかった。
また、密着強度の傾向をみると、VUVの照射量が0.54J/cm2の付近でピークとなり、さらにVUVの照射量が増えると密着強度は徐々に低下する。例えば実験番号9に示すように、5J/cm2の照射量では、密着強度が1N/cmとなった。これは、ピーク時よりも低下するものの、VUVを照射しない場合よりも密着強度が向上している結果となった。
一方で実験番号10では、VUVを照射しない場合(実験番号1)と比べ、密着強度が小さくなった。これは、VUVの照射によって絶縁層20の改質が進みすぎて、銅粒子と結合しやすい構造(COH)が減少し、銅粒子と結合しにくい構造が増加したためである。銅粒子と結合しにくい構造とは、例えばCOOHのように炭素原子と酸素原子との2重結合(C=O)を持つ構造である。
【0110】
これらの結果から、大気中でVUVを照射する場合、VUVの照射量は、0.1J/cm2以上5J/cm2以下とすることが好ましい。この範囲で照射量を設定することで、高い密着強度を実現することが可能となる。なお、VUVの照射量が0.1J/cm2未満である場合、照射量が少ないために十分な官能基が形成されず、密着強度が増加しないことが考えられる。また例えばVUVの照射量が5J/cm2より大きい場合、上記したように一次の酸化官能基であるCOHの量が減少し、逆にCOOH等の銅粒子と結合しにくい構造が増加し、十分な密着強度を得られなくなる可能性がある。
【0111】
なお、本実験で使用した樹脂材料は、ガラスエポキシ樹脂(吸光度は3×10^3)を用いたものであるが、配線基板として用いられる樹脂材料であれば、上記した照射量の範囲で密着強度の向上を図ることが可能である。例えば次世代の絶縁材料として期待される液晶ポリマー基板(LCP基板)の場合、吸光度は5×10^2であり、実験により得られた最適なVUV照射量は1.4J/cm2であった。
この他、VUVの照射量は限定されない。例えば、銅膜3との密着を示す表層領域46の深さは、樹脂材料の吸光度に依存すると考えられる。また吸光度も樹脂材料によって10^2から10^4程度の幅がある。このような様々な樹脂材料に対応するため、VUVの照射量は、樹脂材料の吸光度等の特性に応じて、所望の密着強度が実現できるように適宜設定されてもよい。
【0112】
[スパッタ圧力と密着強度の関係]
以下では、表2を参照してスパッタ圧力を変えた場合の密着強度について説明する。
【0113】
【0114】
表2に示す実験番号11~15では、VUVの照射を行わず、スパッタ圧力を変えて配線層30を形成し、密着強度を測定した。表2に示すように、VUVを照射しない場合、スパッタ圧力を変えても密着強度に大きな差がなかった。なおスパッタ圧力を133Paとした実験番号15では、密着強度が若干低下した。また実験では実験番号11に示す0.013Pa以下の圧力迄スパッタ圧力を低下させてみたが、0.01Pa以下の圧力に到達するまでに5時間を要したため、生産性の点から評価はしなかった。
【0115】
表2に示す実験番号16~20では、VUVの照射量を0.54J/cm2に設定し、スパッタ圧力を変えて配線層30を形成した。このうち、実験番号17、18、19では、スパッタ圧力が中真空の範囲に設定された。例えばスパッタ圧力が、0.13Paの場合(実験番号17)、密着強度は3.6N/cmとなり、1.3Paの場合(実験番号18)、密着強度は4.5N/cmとなり、13Paの場合(実験番号19)、密着強度は2.4N/cmとなった。
【0116】
なお、実験番号16では、スパッタ圧力を0.013Paに設定したが、同じ圧力でVUVを照射しない場合(実験番号11)と比べ密着強度が低下した。例えば高真空の環境では、絶縁層20に飛来するスパッタ粒子(銅粒子)の運動エネルギーが高く、樹脂に到達したときには運動エネルギーが熱に変換されて試料(絶縁層20)が過剰に加熱される可能性がある。実験番号16では、試料が過剰に加熱されたことで、VUVの照射により形成された樹脂内部の仮結合が消失してしまい、かえって密着強度が低下してしまったものと考えられる。
【0117】
また、実験番号20では、スパッタ圧力を133Paに設定したが、密着強度が測定できないほど低くなった。このように、スパッタ圧力が高い場合には、銅粒子の運動エネルギーが過剰に低くなり、絶縁層20(樹脂材料)の内部に銅粒子が侵入できなくなる可能性がある。この結果、実験番号20では、銅粒子が表面に堆積するだけとなり、簡単にはがれるようになったと考えられる。
【0118】
これらの結果から、スパッタ圧力は、0.13Pa以上13Pa以下であることが好ましい。この範囲でスパッタ圧力を設定することで、例えばVUVを照射しない場合に比べ2.5倍以上の密着強度を実現することが可能となる。なお、スパッタ圧力が0.13Pa以下である場合、真空引きに時間がかかるとともに、試料が加熱されて密着強度が増加しないことが考えられる。また例えばスパッタ圧力が13Paより大きい場合、銅粒子の運動エネルギーが低くなり、絶縁層20の内部での結合が抑制されることが考えられる。
【0119】
[脱ガス工程と密着強度の関係]
以下では、表3を参照して脱ガス工程の順番及び加熱温度を変えた場合の密着強度について説明する。
【表3】
【0120】
絶縁樹脂を用いた基板は一般に吸湿しやすい特性がある。例えば絶縁樹脂の基材(コア材)となる繊維の隙間に水分が混入することや、樹脂そのものが空気中の水分を吸ってガスを取り込むことが考えられる。これらのガスは配線を形成する工程に悪影響を及ぼすことがある。
【0121】
例えば、脱ガスが不十分な基板に銅を直接スパッタすると、スパッタ膜による閉じ込め作用で内部のガスが抜けにくくなる。その上に電解銅めっきを行うと、ボイドと呼ばれる空気層が発生してしまい、めっき後に不良となる場合がある。また、めっき後のアニール時に、基板内のガスが膨らみ、銅配線と樹脂との仮結合を分断するような応力がはたらき、適正な結合部が形成されず密着不良等が生じる可能性がある。
【0122】
このような事態を回避するため、例えば絶縁樹脂をラミネートした基板材料は、直ちに次の工程に移ることが望ましい。一方で、製造工程の管理面では、途中で基板材料をストックできることも必要である。このため、適正な脱ガス処理を行うことが重要となる。
【0123】
表3に示す実験番号21~27では、VUVの照射前の段階でストックした試料を用いた。具体的には、絶縁層20(ガラスエポキシフィルム)を支持基板10(CCL)にラミネートした後に、エポキシ樹脂の硬化処理(100℃で30分の加熱処理の後に、180℃で30分の加熱処理)を行い、その後室内で試料を1週間暴露した。これらの試料に対して、脱ガス工程の順番及び加熱温度を変えて、配線層30を形成した。なお実験番号21~27では、VUVの照射量を0.54J/cm2に設定し、スパッタ圧力を1.3Paに設定した。
【0124】
実験番号21では、VUVの照射前に十分に高い温度(190℃)で脱ガス処理を行った。この場合、脱ガス処理を行うタイミングでは絶縁層20はVUVによる改質を受けていない。脱ガス処理の後、絶縁層20にVUVを照射し、スパッタ及び電解銅めっきにより配線層30が形成された。この結果、十分に高い密着強度(4.6N/cm)が実現できた。
【0125】
なおVUVの照射前に行う脱ガス処理の加熱温度は100℃以上200℃以下であることが好ましい。加熱温度をこの範囲に設定することで、十分な脱ガス効果を得られる。なお加熱温度が100℃未満だと水分等が残ってしまい十分にガスを放出できない。一方、加熱温度が200℃以上だと樹脂の特性が悪化する可能性がある。
【0126】
実験番号22、23、24、25では、VUVの照射後に脱ガス処理が行われ、加熱温度が90℃、110℃、130℃、150℃にそれぞれ設定される。表3に示すように、この温度範囲では、温度を上げると密着強度は高くなっていることがわかる。なお、加熱温度が90℃の場合(実験番号22)、密着強度が大幅に小さくなっているが、これは、加熱温度が水分の蒸発に十分な温度となっていないためと考えられる。
【0127】
実験番号26、27では、VUVの照射後に脱ガス処理が行われ、加熱温度がそれぞれ170℃、190℃に設定される。この場合、密着強度は急激に低下して、VUVを照射していない水準になっている。これは脱ガス処理の加熱によって樹脂内部に形成された結合に関与する部分(COH)が、失活してしまったためと考えられる。特に樹脂のガラス転移点温度以上となると、樹脂内部での分子の動きが活発になり、活性をもった部分は分子内再結合によって失われてしまう。
【0128】
このように、絶縁層20を加熱して脱ガスする工程は、VUVを照射する前に行うことが好ましい。これにより、脱ガス処理を行っても、VUVを照射して形成される官能基等を損なうことはなく、比較的高温で十分な脱ガス処理を行うことが可能である。この結果、樹脂からのガス放出を十分に抑制することが可能となり、例えば電解銅めっき後の界面の膨らみ(ボイド)や、密着不良の発生等を回避することが可能となる。
【0129】
以上、本実施形態に係る配線基板100の製造方法では、絶縁層20にVUVを照射することで、絶縁層20の表面21から一定の深さの表層領域46にかけて銅原子と結合可能な官能基が生成される。これにより、絶縁層20の表面21だけでなく絶縁層20の内部(表層領域46)にも絶縁層20と銅膜3との結合部を形成することが可能となる。この結果、絶縁層20に銅を直接スパッタしても、密着強度の高い銅配線を実現することが可能となる。
【0130】
近年では、半導体素子の高速化や通信の大容量化等に伴い、高速通信や高周波通信に対応した配線基板の需要が高まっている。高速通信を実現するためには、配線と絶縁樹脂との界面での表皮効果の影響を抑えることが重要であり、平滑な界面が要求される。また絶縁樹脂の材質も改良され、信号の損失が少なくなるように極性基の少ない材料が開発されている。アンカー効果や分子間引力で密着させる無電解銅めっきでは、このように平滑で極性基が少ない樹脂に配線を形成することが難しい。
【0131】
一方でスパッタにより配線を形成する方法が考えられるが、樹脂の表面に銅をそのままスパッタしただけでは、十分な密着強度が得られない。このため、スパッタを用いる場合には、先にチタンやニッケル等の密着層を樹脂の表面に形成してから、その後で銅をスパッタする方法が一般的であった。しかしながら、密着層を設けることでエッチング工程が複雑化する。また密着層が除去できない可能性や、密着層を過剰にエッチングしてしまう可能性があり、配線基板の信頼性の管理が難しくなる。
【0132】
本実施形態では、絶縁層20にVUVを照射することで、絶縁層20の表面21から内部にかけて銅との結合を形成する官能基(COH)が形成される。この官能基にスパッタされた銅粒子が結合することで、絶縁層20の表面21及び内部(表層領域46)に銅膜3との結合部(COCu)が形成される。これにより、絶縁層20に銅を直接スパッタした場合でも、高い密着強度を実現することが可能となる。
【0133】
このように、本実施形態では、銅だけで構成された配線層30を形成することが可能となる。従って、配線パターン等を形成するためのエッチング工程では、銅のエッチングだけを行えばよい。これにより、例えばチタンやニッケル等の密着層を設ける場合に比べ、エッチング工程が単純になり、工程の数を減らすことが可能となる。また、銅以外の金属が残留することで生じる配線不良や、種類の異なるエッチング工程により生じるアンダーカット等が生じることもない。この結果、信頼性の高い配線基板100を実現することが可能となる。
【0134】
また、極性基が少ない樹脂材料等が用いられる場合でも、VUVを照射することで、銅と結合しやすいCOHを生成することが可能である。また絶縁層20の表面21の形状に係わらず、絶縁層20の表面21から内部にかけて配線層30との結合部(COCu)が形成される。このため、例えば平滑で極性基が少ない樹脂に対しても、VUVを照射して銅を直接スパッタすることで、密着強度の高い配線を形成することが可能となる。これにより、表皮効果による信号の劣化や伝送中の信号の損失が少なく、高速通信に対応可能な配線基板100を実現することが可能となる。
【0135】
また本実施形態では、中真空スパッタにより銅膜3が形成される。中真空スパッタは、成膜対象の温度上昇を抑えることができるが、温度上昇を抑えるだけでは、密着性の高い銅膜3を実現することは難しかった(例えば表1の実験番号1等)。本発明では、VUVの照射と中真空スパッタとを組み合わせることで、VUVにより生成される官能基を十分に活用することが可能となる。これにより、銅配線の密着強度を十分に高めることが可能となる。
【0136】
本開示において、「Aより大きい」「Aより小さい」といった「より」を使った表現は、Aと同等である場合を含む概念と、Aと同等である場合を含なまい概念の両方を包括的に含む表現である。例えば「Aより大きい」は、Aと同等は含まない場合に限定されず、「A以上」も含む。また「Aより小さい」は、「A未満」に限定されず、「A以下」も含む。
本技術を実施する際には、上記で説明した効果が発揮されるように、「Aより大きい」及び「Aより小さい」に含まれる概念から、具体的な設定等を適宜採用すればよい。
【0137】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0138】
3…銅膜
20…絶縁層
21…表面
30…配線層
31…銅シード層
32…銅配線層
45…吸収領域
46…表層領域
100…配線基板