(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151010
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】徐放性芳香組成物及びその製造方法。
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20241017BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20241017BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241017BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20241017BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20241017BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A61L9/01 Q
A61L9/04
A61K8/02
A61Q13/00 102
C11B9/00 Z
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064114
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】521143103
【氏名又は名称】株式会社ディーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】白 鴻志
【テーマコード(参考)】
4C083
4C180
4G072
4H059
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083AB172
4C083BB14
4C083BB41
4C083CC50
4C083DD47
4C083EE50
4C083FF01
4C083KK03
4C180AA13
4C180CA04
4C180CC15
4C180EA22Y
4C180EA23Y
4C180EA24Y
4C180EA27Y
4C180EA28Y
4C180EA30Y
4C180EA33Y
4C180EA34Y
4C180EA36Y
4C180EA37Y
4C180EA38Y
4C180EA39Y
4C180EA40Y
4C180EA44Y
4C180EA45Y
4C180EA52Y
4C180EA64Y
4C180EB24X
4C180EB26Y
4C180EB27Y
4C180FF07
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB15
4G072DD03
4G072HH30
4G072JJ47
4G072KK03
4G072KK17
4G072LL15
4G072UU17
4H059DA09
4H059DA15
4H059EA35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、従来よりも長時間にわたって香調が変化しにくい徐放性芳香組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様は、空隙を有する3次元連続網目構造の骨格体20と、上記空隙の少なくとも一部に存在する徐放液と、を備える徐放性芳香組成物である。さらに、上記空隙が、上記骨格体の表面22から内部に向けて延在する、上記骨格体の表面に分散して存在する複数のマクロ孔30、及び、上記骨格体の表面及び上記マクロ孔の内表面32から骨格体の内部に向けて延在する、上記骨格体の表面及び上記マクロ孔の内表面に分散して存在する複数のメソ孔であり、かつ、上記複数のメソ孔のうち少なくとも一部が貫通孔である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐放性芳香組成物であって、
空隙を有する3次元連続網目構造の骨格体と、
前記空隙の少なくとも一部に存在する徐放液と、
を備え、
前記空隙が、前記骨格体の表面から内部に向けて延在する、前記骨格体の表面に分散して存在する複数のマクロ孔、及び、前記骨格体の表面及び前記マクロ孔の内表面から骨格体の内部に向けて延在する、前記骨格体の表面及び前記マクロ孔の内表面に分散して存在する複数のメソ孔であり、かつ、
前記複数のメソ孔のうち少なくとも一部が貫通孔である、徐放性芳香組成物。
【請求項2】
前記マクロ孔の最頻孔径が、0.1μm以上100μm以下であり、かつ、
前記メソ孔の最頻孔径が、0.1nm以上100nm未満である、請求項1に記載の徐放性芳香組成物。
【請求項3】
前記骨格体が粒状骨格体であり、前記粒状骨格体の最長径が、500μm以下である、請求項1又は2に記載の徐放性芳香組成物。
【請求項4】
前記骨格体が、シリカ、又はケイ素酸化物を主として含むケイ素酸化物複合体である、請求項1又は2に記載の徐放性芳香組成物。
【請求項5】
前記徐放液が、芳香成分を含むオイルである、請求項1又は2に記載の徐放性芳香組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性芳香組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や洗剤などの様々な製品に、香料が添加されている。香料は、揮発性の高い順に、トップノート、ミドルノート及びベースノートに分類される。通常、これら複数の香料を調合して、複雑な香りや経時的な香りの変化を構成することが行われている。
【0003】
香りを長時間持続させること、特に、香調を長時間にわたって維持することは、普遍的な課題である。具体的には、トップノートは揮発性が高く、初期に香りの印象を決定づけるが、短時間で揮発する。一方、ミドルノート及びベースノートはトップノートに比べて揮発性が低いため、トップノートが揮発した後も香る。このように、香料ごとの揮発性の差に応じて、時間経過とともに香調が変化してしまう。特許文献1には、香料を安定に内包できる香料内包カプセルが開示されている。この技術によれば、摩擦等によってトップノートを含む香りを適宜実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、一時的にトップノートを含む香りを実現することはできるが、長時間にわたって香調を維持することはできない。そこで本発明は、従来よりも長時間にわたって香調が変化しにくく、かつ汎用性が高い徐放性芳香組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の骨格体を徐放液の担持体とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、以下が提供される。
[1]徐放性芳香組成物であって、
空隙を有する3次元連続網目構造の骨格体と、
上記空隙の少なくとも一部に存在する徐放液と、
を備え、
上記空隙が、上記骨格体の表面から内部に向けて延在する、上記骨格体の表面に分散して存在する複数のマクロ孔、及び、上記骨格体の表面及び上記マクロ孔の内表面から骨格体の内部に向けて延在する、上記骨格体の表面及び上記マクロ孔の内表面に分散して存在する複数のメソ孔であり、かつ、
上記複数のメソ孔のうち少なくとも一部が貫通孔である、徐放性芳香組成物。
[2]上記マクロ孔の最頻孔径が、0.1μm以上100μm以下であり、かつ、
上記メソ孔の最頻孔径が、0.1nm以上100nm未満である、[1]に記載の徐放性芳香組成物。
[3]上記骨格体が粒状骨格体であり、上記粒状骨格体の最長径が、500μm以下である、[1]又は[2]に記載の徐放性芳香組成物。
[4]上記骨格体が、シリカ、又はケイ素酸化物を主として含むケイ素酸化物複合体である、[1]又は[2]に記載の徐放性芳香組成物。
[5]上記徐放液が、芳香成分を含むオイルである、[1]又は[2]に記載の徐放性芳香組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも長時間にわたって香調が変化しにくく、かつ汎用性が高い徐放性芳香組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る粒状骨格体の概略断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る骨格体の部分拡大概略断面図である。
【
図3】
図3は、塊状多孔体の電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、塊状多孔体の部分拡大電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、塊状多孔体について、窒素吸着測定によるBJH測定により測定した孔径分布の結果である。
【
図6】
図6は、粒状骨格体Aの電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、各サンプル1gあたりのアロマオイル担持量を示すグラフである。
【
図8】
図8は、各サンプルにおける経過時間ごとの香調の評価を示すグラフである。
【
図9】
図9は、各サンプルにおける経過時間ごとの担持量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。以下、本発明に係る骨格体及びその製造方法、並びに徐放性芳香組成物の順に説明する。
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態及び本実施形態に係る図面において、同一の符号が付された構成要素は、同様の構造又は機能を有するものとする。また、各図は説明のために誇張されており、縮尺は実際のとおりでない場合がある。
【0012】
<骨格体>
図1は、一実施形態に係る粒状骨格体10の概略断面図である。また、
図2は、本実施形態に係る骨格体20の部分拡大概略断面図である。本実施形態に係る粒状骨格体10は、3次元連続網目構造の骨格体20からなる。骨格体20には、空隙が設けられている。空隙は、複数のマクロ孔30及び複数のメソ孔40からなる。マクロ孔30は、骨格体20の表面22に分散して存在しており、骨格体20の表面22から内部に向けて延在している。本実施形態に係るマクロ孔30は、非貫通孔(非貫通マクロ孔30a)であってもよく、貫通孔(貫通マクロ孔30b)であってもよく、非貫通孔(非貫通マクロ孔30a)と貫通孔(貫通マクロ孔30b)を含んでいてもよい。メソ孔40は、骨格体20の表面22及びマクロ孔30の内表面32に分散して存在しており、骨格体20の表面22及びマクロ孔30の内表面32から骨格体20の内部に向けて延在している。このように、本実施形態に係る骨格体20は、2段階階層的多孔構造である。
【0013】
本実施形態に係る骨格体20の基材は、後述する徐放液を担持できるものであれば、特に限定されない。本実施形態に係る骨格体20の基材として、典型的には、無機化合物が挙げられ、金属酸化物又は金属酸化物複合体であることが好ましい。本実施形態に係る骨格体20の基材は、シリカ(シリカゲル又はシリカガラス)又はケイ素酸化物を主として含むケイ素酸化物複合体であることが特に好ましい。このような基材であると、骨格体20の製造が容易となる。また、本実施形態に係る骨格体20の基材として、アルミニウム、リン、ゲルマニウム及びスズ等の典型金属元素、並びにチタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金及び亜鉛等の遷移金属元素を含む金属酸化物複合体も利用可能である。さらに、本実施形態に係る骨格体20の基材として、リチウム及びナトリウム等のアルカリ金属元素や、マグネシウム及びカルシウム等のアルカリ土類金属元素、並びにランタン及びセリウム等のランタン系元素を含む金属酸化物複合体も利用可能である。
【0014】
本実施形態に係るマクロ孔30の最頻孔径(以下、単に「マクロ孔径」ともいう)は、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1、0.5、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90及び100μmのうち任意の2つの値の範囲内であってもよい。ここで、本明細書における「最頻孔径」は、周知の方法で測定した孔径分布の最頻値(モード値)を意味する。孔径分布の測定方法としては、例えば、水銀圧入法が挙げられる。なお、マクロ孔30の最頻孔径は、骨格体20を撮影した電子顕微鏡写真において、任意の20~30程度のマクロ孔30の孔径を計測し、その平均値を算出することで求められる平均孔径と同等である。マクロ孔30の最頻孔径がこのような範囲であると、充分量の徐放液を含むことができ、香りを長時間持続することができる。
【0015】
本実施形態に係るメソ孔40の最頻孔径(以下、単に「メソ孔径」ともいう)は、0.1nm以上100nm未満であることが好ましく、0.1、0.5、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80又は90nmのうち任意の2つの値の範囲内であってもよい。このように、本明細書において、「メソ孔」には、最頻孔径が2nm以下の細孔(マイクロ孔)も含み得る。なお、メソ孔40の最頻孔径を求める際のメソ孔40の孔径分布として、周知の窒素吸着測定によるBJH法により導出されたものを使用してもよい。本実施形態に係るメソ孔40の少なくとも一部は、貫通孔であることが好ましい。メソ孔40がこのような構造である骨格体20を使用して徐放性芳香組成物を作製すると、メソ孔40内において徐放液の対流が起きにくくなるため、トップノートのような揮発性の高い物質を含む徐放液であっても、一定の濃度比を保って徐放されやすい。換言すると、本実施形態に係る骨格体20を使用して徐放性芳香組成物を作製すると、徐放液の均一な蒸散が可能となる。
【0016】
本実施形態に係るマクロ孔径は、メソ孔径を基準として、5倍以上であることが好ましく、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、100倍以上又は150倍以上であってもよい。骨格体20がこのような構造であると、安定した2段階階層的多孔構造となる。
【0017】
本実施形態に係る骨格体20は、粒状骨格体10である。本実施形態に係る粒状骨格体10の最長径は、500μm以下が好ましく、200μm以下、100μm以下又は50μm以下がさらに好ましい。粒状骨格体10の最長径がこのような範囲の場合、粒状骨格体10を使用して徐放性芳香組成物を作製すると、香調を維持する効果を保ちつつ、様々な用途に利用できる。
【0018】
<骨格体の製造方法>
本実施形態に係る粒状骨格体10の製造方法について、以下に詳述する。本実施形態に係る粒状骨格体10の製造方法は、塊状多孔体をゾルゲル法で合成する合成工程と、焼結前又は焼結後に粉砕して粒状骨格体10を作製する粒状化工程とを含む。
【0019】
本実施形態に係る合成工程は、典型的には、スピノーダル分解を伴うゾルゲル法である。本実施形態に係る合成工程は、ゾル調製工程、ゲル化工程及び除去工程を含む。
【0020】
本実施形態に係るゾル調製工程は、原料を添加する添加工程と、原料を混合して均一な前駆体ゾルとする混合工程を含む。本実施形態に係る原料には、例えば、酸又はアルカリ性水溶液中に、シリカゲル又はシリカガラスの原料となるシリカ前駆体と、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質とを含む。
【0021】
本実施形態に係る酸又はアルカリ性水溶液は、溶媒である水に、シリカ前駆体の加水分解反応を促進する触媒として機能する酸又は塩基が溶解した水溶液であることが好ましい。本実施形態に係る酸として、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸及びクエン酸が挙げられ、本実施形態に係る塩基として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びトリメチルアンモニウム等のアミン類、tert-ブチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウムヒドロキシド類、並びにソディウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類等が挙げられる。なお、本実施形態に係る溶媒は、シリカ前駆体の加水分解反応が進めば、エタノール及びメタノール等のアルコール類であってもよい。
【0022】
本実施形態に係るシリカ前駆体の主成分として、例えば、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)、又は無機若しくは有機シラン化合物が使用できる。本実施形態に係る無機シラン化合物として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-イソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトラ-t-ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類が挙げられる。また、本実施形態に係る有機シラン化合物として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドデシル、フェニル、ビニル、ヒドロキシル、エーテル、エポキシ、アルデヒド、カルボキシル、エステル、チオニル、チオ及びアミノ等の置換基を有するトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン及びトリフェノキシシラン等のトリアルコキシシラン類、メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン及びエチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類、並びにジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシラン等のモノアルコキシシラン類が挙げられる。さらに、本実施形態に係るシリカ前駆体として、モノアルキル、ジアルキル及びフェニルトリエトキシ等の架橋反応速度制御基置換体を含むアルコキシシリケートや、その二量体であるジシラン、三量体であるトリシランといったオリゴマーも使用できる。上述の種々の加水分解性シランは市販されており、容易かつ安価に入手可能である。
【0023】
本実施形態に係る共存物質として、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸及びポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドブロック共重合体等のブロック共重合体、セチルトリメチルアンモニウムクロリド等の陽イオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、並びにポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0024】
本実施形態に係る混合工程は、ゾルゲル転移が進行しにくい低温下(例えば、5℃以下)で撹拌することにより行うことができる。これにより、シリカ前駆体の加水分解反応が進行し、均一な前駆体ゾルが調製される。
【0025】
本実施形態に係るゲル化工程は、加温工程を含む。上述したゾル調製工程でされた前駆体ゾルを、ゲル化容器内に注入し、ゾルゲル転移が進行しやすい温度下(例えば、40℃程度)に静置することにより行うことができる。前駆体ゾル内には、上述のとおり、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が存在しているため、スピノーダル分解が誘起される。これにより、3次元連続網目状構造を有するシリカヒドロゲル(湿潤ゲル)相と溶媒相の共連続構造体が徐々に形成される。
【0026】
本実施形態に係る加温工程において、シリカヒドロゲル相が形成された後も、当該湿潤ゲルの重縮合反応が緩やかに進行して、ゲルの収縮が起こる。そこで、本実施形態に係るゲル化工程は、加温工程の後に、さらに、上述の共連続構造体を、アンモニア水等の塩基性水溶液に浸漬して、加熱処理する水熱処理工程を行うことが好ましい。これにより、シリカヒドロゲル相の加水分解反応、重縮合反応、及び溶解再析出反応がさらに進行し、シリカヒドロゲル相の骨格構造をより強固なものにすることが可能となる。なお、水熱処理は、加圧容器又は密閉容器内で行うことが好ましい。これにより、加熱によるアンモニア等の有害成分の環境中への排出を防ぐことができる。このように、本実施形態に係るゲル化工程は、加温工程及び水熱処理工程の2段階の加熱処理により行うことが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る加温工程において、シリカヒドロゲル相の骨格体を形成するシリカ微粒子の溶解再析出反応が進行するため、メソ孔40の孔径が拡大する。さらに、水熱処理工程によって、当該溶解再析出反応を繰り返すことにより、メソ孔40の孔径をさらに拡大することが可能となる。水熱処理工程は、25℃以上100℃未満の範囲で行うことが好ましく、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃又は95℃のうち任意の2つの値の範囲内であってもよい。また、水熱処理工程の処理時間は、例えば1時間以上100時間以上が好ましく、3時間、5時間、10時間、20時間、50時間又は80時間のうち任意の2つの値の範囲内であってもよい。このような条件で水熱処理をすることで、メソ孔40が貫通孔となる。なお、前駆体ゾルに、さらに、尿素を添加することによっても、メソ孔40の孔径の制御を行うことができる。尿素は60℃以上の温度下で加水分解してアンモニアを生成するため、当該アンモニアにより、湿潤ゲルの骨格体に形成されるメソ孔40の孔径が拡張される。
【0028】
一方、本実施形態に係るマクロ孔30の構造及び孔径の制御は、ゾル調整工程で前駆体ゾルに添加する溶媒及びシリカ前駆体の量、又は共存物質の組成及び添加量を調節することにより行うことができる。
【0029】
本実施形態に係る除去工程は、湿潤ゲルを乾燥して乾燥ゲルとする乾燥工程を含む。これにより、添加剤及び未反応物等を含む溶媒相を除去することができる。本実施形態に係る乾燥工程は、自然乾燥であってもよいが、湿潤ゲルを乾燥させる際に生ずる歪みや割れを解消するために、湿潤ゲル内の溶媒を、イソプロパノール、アセトン、ヘキサン、ハイドロフルオロカーボン等の水より表面張力が低い低表面張力溶媒に置換してから行う乾燥、凍結昇華による乾燥、又は湿潤ゲル内の溶媒を超臨界状態の二酸化炭素に交換してから無表面張力状態で行う超臨界乾燥が好ましい。
【0030】
本実施形態に係る除去工程は、乾燥工程の前に、さらに、湿潤ゲルを洗浄する洗浄工程を含むことが好ましい。これにより、溶媒相内に残留した添加剤や未反応物等によって生ずる乾燥時の表面張力を解消し、乾燥時にゲルに歪みや割れが生じるのを抑制できる。本実施形態に係る洗浄工程は、有機溶剤及び水溶液等の液体を用いて洗浄することが好ましい。本実施形態に係る液体は、有機化合物や無機化合物を溶解させた液体であってもよく、酸や塩基を含むゲルの等電点と異なるpHの溶液であってもよい。本実施形態に係る液体に含まれ得る酸として、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酢酸、ギ酸、炭酸、クエン酸及びリン酸が挙げられ、また、本実施形態に係る液体に含まれ得る塩基として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水溶性アミン、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る合成工程において、除去工程の後に、さらに、乾燥ゲルを焼成する焼成工程を含んでもよい。これにより、乾燥ゲルを焼結させてシリカガラスとすることができる。なお、焼成温度がシリカのガラス転移温度(約1000℃)より低温の場合は、シリカガラスにはならない。
【0032】
本実施形態に係る合成工程により、空隙を有する3次元連続網目構造である塊状多孔体を得ることができる。本実施形態に係る塊状多孔体は、マクロ孔及びメソ孔を有する2段階階層的多孔構造である。すなわち、後述する粒状化工程を経ていない塊状多孔体も、本発明の骨格体20の範囲に含まれる。また、合成工程後に、切削などにより任意の形状に整形した塊状多孔体も、本発明の骨格体20の範囲に含まれる。このとき、マクロ孔30の一部が閉塞されても構わない。なお、本実施形態に係る骨格体20の孔径分布は、合成工程後に測定してもよい。合成工程の条件によって、マクロ孔及びメソ孔の孔径は決定される。
【0033】
本実施形態は、合成工程の後に、さらに、塊状多孔体を粉砕して粒状骨格体10とする粒状化工程を含むことが好ましい。本実施形態に係る粉砕の方法は、特に限定されない。人手によって行ってもよく、乳鉢等を用いてもよく、また、ボールミル等の破砕装置を使用してもよい。なお、粒状化工程は、上記除去工程で得られた乾燥ゲルを焼結させる焼結工程を含む場合、当該焼結工程の前後の何れで行ってもよい。このとき、マクロ孔30の一部が閉塞されても構わない。本実施形態に係る粒状骨格体10は、マクロ孔30の一部が閉塞されていても、後述の方法で徐放性芳香組成物としたときに徐放液の均一な蒸散が可能である。
【0034】
粒状化工程後の粒状骨格体10は、所定の目開きの篩で篩掛けして分級することで、所望の粒径範囲内の粒状骨格体10のみを回収することができる。本実施形態に係る粒状骨格体10のサイズは、粒状骨格体10の使用用途に応じて、適宜調節することができる。
【0035】
<徐放性芳香組成物>
本実施形態に係る徐放性芳香組成物は、上述の方法で作製した骨格体20(粒状骨格体10又は塊状多孔体)と、骨格体20の空隙の少なくとも一部に存在する徐放液とを備える。本実施形態に係る徐放性芳香組成物は、上述の骨格体20を徐放液に接触させる(例えば、浸漬させる)ことによって作製することができる。本実施形態に係る骨格体20には、骨格体の表面22に分散して形成された複数のマクロ孔30及び複数のメソ孔40があるため、骨格体表面22から、骨格体20の内部へと徐放液が入り込む。
【0036】
本実施形態に係る徐放性芳香組成物は、2段階階層的多孔構造であり、より多くの徐放液を担持することができる。また、本実施形態に係る徐放性芳香組成物は、メソ孔40の少なくとも一部が貫通孔であることにより、徐放液が揮発性の異なる液体の混合物であっても、従来よりも長時間にわたって香調が変化しにくい。
【0037】
本実施形態に係る徐放液としては、精油等の芳香成分を含むオイルを使用することができる。本実施形態に係る徐放性芳香組成物は、従来よりも長時間にわたって香調が変化しにくい。したがって、本実施形態に係る徐放液は、揮発性を変化させるような人為的な操作(例えば、化学修飾)を行う必要はない。
【0038】
本実施形態に係る徐放性芳香組成物は、例えば、衛生用品及び化粧品などに利用することができる。本実施形態に係る徐放性芳香組成物が塊状多孔体を使用している場合、例えば、置き型の芳香剤として利用できる。また、本実施形態に係る徐放性芳香組成物が粒状骨格体10を使用している場合、洗剤や化粧品などの様々な製品に香料として混合することができ、汎用性が高い。
【実施例0039】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0040】
1.粒状骨格体の作製
粒状骨格体A及びBを、スピノーダル分解を伴うゾルゲル法によって作製した。具体的には、まず、0.01mol/Lの酢酸水溶液10mLに、ポリエチレングリコール(分子量10000)0.9gを溶解させた。次に、上記の溶液に、テトラメトキシシラン5mLを加えて撹拌し、均一溶液とした。続いて、上記の均一溶液を40℃に設定したインキュベータ内に静置してゲル化させた。
【0041】
上記のゲルを、0.1Mアンモニア水に浸し、密閉容器内で30℃以上80℃以下の設定温度で24時間加熱した。さらに、当該ゲルを600℃以上の設定温度で5時間焼結し、塊状多孔体を得た。得られた塊状多孔体の電子顕微鏡写真を
図3及び
図4に示す。
図3に示されるように、塊状多孔体は、空隙を有する3次元連続網目構造の骨格体であり、かつ骨格体の表面から内部に向けて延在する、骨格体の表面に分散して存在する複数のマクロ孔を有していた。マクロ孔の最頻孔径は、電子顕微鏡写真(
図4参照)から、約1μmであった。また、塊状多孔体について、窒素吸着測定によるBJH測定により測定した孔径分布の結果を、
図5に示す。
図5に示されるように、塊状多孔体は、骨格体の表面及びマクロ孔の内表面から骨格体の内部に向けて延在する、骨格体の表面及びマクロ孔の内表面に分散して存在する複数のメソ孔を有していた。また、メソ孔の最頻孔径は約8nmであり、少なくとも一部は貫通孔であった。このように、上述の方法により得られた塊状多孔体は、マクロ孔及びメソ孔を有する2段階階層的多孔構造であった。
【0042】
上記の塊状多孔体について、破砕装置を用いて粉砕し、種々のサイズの粒状骨格体を得た。この粒状骨格体を、所定の目開きの篩で分級し、粒状骨格体A及び粒状骨格体Bを得た。粒状骨格体Aの電子顕微鏡写真を
図6に示す。このとき、篩の目開きに応じて、粒状骨格体Aの最長径は約45μm以上63μm以下、粒状骨格体Bの最長径は20μm以下であった。
【0043】
2.徐放性芳香組成物の作製
20mLガラス瓶に、1.で作製した粒状骨格体A、粒状骨格体B及び市販されている多孔質シリカゲル(以下「従来品」ともいう;YMC Gel SIL-HG、粒径10μm、メソ孔径12nm;YMC社製)各1gと、4種類のアロマオイル(香料A、B、C及びD)各10gをそれぞれ入れ、均一になるまで約20分間撹拌した。撹拌後、8時間以上静置した。静置後、混合物をろ紙に移して吸引ろ過した。ろ紙上に残った固体の質量を測定して、各サンプルのアロマオイル担持量を算出した(n=5)。このときの結果を、
図7に示す。
図7に示されるように、粒状骨格体A及び粒状骨格体Bは、従来品と比べてサンプル1gあたりのアロマオイル担持量が多いことが分かった。
【0044】
3.香調の変化及び徐放性の評価
2.のろ過後の各サンプルについて、香調の変化についての官能試験を行った。具体的には、各サンプルを蓋なしのシャーレに移し、ドラフトチャンバー内に設置した。所定時間経過ごとに、シャーレを取り出し、試験者5名が、表1の評価基準にしたがって評価した。また、このとき所定時間経過ごとの各サンプルの質量を測定した。
【0045】
【0046】
経過時間ごとの香調の評価の平均値を、
図8に示す。
図8に示されるように、粒状骨格体A及び粒状骨格体Bは、従来品と比べて、長時間にわたって香調の変化が少ないことが分かった。
【0047】
経過時間ごとのサンプル質量の測定結果を、
図9に示す。
図9に示されるように、粒状骨格体A及び粒状骨格体Bは、従来品と比べて、長時間にわたって香料を担持できることが分かった。