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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151017
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】山林苗の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20241017BHJP
   A01G 22/00 20180101ALI20241017BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20241017BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
A01G7/00 602A
A01G22/00
A01P21/00
A01N59/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064124
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 謙史郎
(72)【発明者】
【氏名】中浜 克彦
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信明
(72)【発明者】
【氏名】根岸 直希
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022AB20
4H011AB03
4H011BB18
4H011DA12
4H011DD04
4H011DD07
(57)【要約】
【課題】本発明は、山林苗の根の成長を促進でき、環境条件による生理障害及び生育不良の発生を抑制できる、山林苗の生産方法を提供することを目的とする。
【解決手段】育苗容器中で生育する山林苗に対し、山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、土壌及び/又は灌水用の水を介して酸素を供給する等の酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の生産方法、を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
育苗容器中で生育する山林苗に対し、山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、酸素を供給する酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の生産方法。
【請求項2】
酸素供給処理は、少なくとも4~6月の間に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素供給処理は、山林苗の発芽から15日後以降に行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸素供給処理は、育苗容器中の土壌及び/又は灌水用の水を介して酸素を供給す処理である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
土壌を介して苗に酸素を供給する酸素供給処理は、土壌への酸素供給剤の添加処理である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸素供給剤は、酸素供給効果持続期間が3カ月以上の剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
灌水用の水を介して苗に酸素を供給する酸素供給処理は、酸素を含む空気混入水を灌水する処理である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
空気混入水の灌水は、1日1~3回行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
空気混入水の灌水は、3カ月以上継続して行う、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
空気混入水の灌水は、酸素供給剤の効果持続期間を含む期間行う、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
空気混入水の溶存酸素量は、酸素ガス供給前の水の溶存酸素量よりも0.5mg/L以上高い、請求項7記載の方法。
【請求項12】
山林苗は、冬季に発芽した苗である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
山林苗がスギ属植物の苗である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項14】
山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、育苗容器中で生育している山林苗に対し、酸素を供給する酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の成長促進方法。
【請求項15】
山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、育苗容器中で生育している山林苗に対し、酸素を供給する酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の生育不良抑制方法。
【請求項16】
請求項1又は2記載の方法により山林苗を生産し、得られた苗を植林地へ植えつけする、植林地の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山林苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スギ、ヒノキ等の山林苗は、一般的に露地(野外)やハウス等の設備にて生産されている。中でもスギは、気象の影響を受けやすく、野外環境下での安定生産に課題がある。その原因は、梅雨の長雨などによって根が生育不良を起こすためである。
【0003】
根は代謝に必要なエネルギー生成に酸素を消費するところ、植物は、根の呼吸により酸素を獲得している。そのため、梅雨の長雨等により培土が酸欠状態になると、根も酸欠を起こし、生育不良や根腐れを起こすおそれがある。根の生育不良によって根張りが不十分な状態で、根の呼吸が活発となり易い夏季の高温期を迎えてしまうと、酸素欠乏に伴う生理障害を起こし枯死する場合がある。
【0004】
このような問題を解消するため、スギ等の気象の影響を受けやすい苗は、梅雨明けの時期までハウス設備などで栽培することが考えられるが、設備投資による生産コストがかかるという問題があった。一方、気象の影響を受けにくい健全な苗であれば野外にて安定的に栽培できるが、そのような苗を得るためには、梅雨時期に発生する根の酸欠に伴う生育不良を改善し、夏季を迎えるまでにいかに根張りを充実させるかができるかが重要となってくる。
【0005】
特許文献1および非特許文献1には、針葉樹の苗を、ファインバブルを含有する水又は水溶液を用いて栽培することにより、苗木を効率的に育成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-156410号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】奥田及び山瀬(2019)J.Jpn.Soc.Reveget.Tech.,45(1),185-187https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/45/1/45_185/_pdf/-char/ja
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び非特許文献1の方法では、山林苗の根の成長を十分に改善することができない。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、山林苗の根の成長を促進でき、環境条件による生理障害及び生育不良の発生を抑制できる、山林苗の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の〔1〕~〔16〕を提供する。
〔1〕育苗容器中で生育する山林苗に対し、山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、酸素を供給する酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の生産方法。
〔2〕酸素供給処理は、少なくとも4~6月の間に行う、〔1〕に記載の方法。
〔3〕酸素供給処理は、山林苗の発芽から15日後以降に行う、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕酸素供給処理は、育苗容器中の土壌及び/又は灌水用の水を介して酸素を供給する処理である〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕土壌を介して苗に酸素を供給する酸素供給処理は、土壌への酸素供給剤の添加処理である、〔4〕に記載の方法。
〔6〕酸素供給剤は、酸素供給効果持続期間が3カ月以上の剤である、〔5〕に記載の方法。
〔7〕灌水用の水を介して苗に酸素を供給する酸素供給処理は、酸素を含む空気混入水を灌水する処理である、〔4〕に記載の方法。
〔8〕空気混入水の灌水は、1日1~3回行う、〔7〕に記載の方法。
〔9〕空気混入水の灌水は、3カ月以上継続して行う、〔7〕又は〔8〕に記載の方法。
〔10〕空気混入水の灌水は、酸素供給剤の効果持続期間を含む期間行う、〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法。
〔11〕空気混入水の溶存酸素量は、酸素ガス供給前の水の溶存酸素量よりも0.5mg/L以上高い、〔7〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
〔12〕山林苗は、冬季に発芽した苗である、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕山林苗がスギ属植物の苗である、〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔14〕山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、育苗容器中で生育している山林苗に対し、酸素を供給する酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の成長促進方法。
〔15〕山林苗の発芽から1年以内かつ少なくとも夏季より前を含む時期に、育苗容器中で生育している山林苗に対し、酸素を供給する酸素供給処理を行うことを含む、山林苗の生育不良抑制方法。
〔16〕〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載の方法により山林苗を生産し、得られた苗を植林地へ植えつけする、植林地の生産方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、山林苗の根の成長を促進でき、環境条件による生理障害及び生育不良の発生を抑制できる。そのため、野外環境下でも健全な山林苗を安定的に生産することが可能である。また、温室、ハウス等の設備投資を抑制でき、生産コストの低減につなげることができる。そのため、山林苗の効率的な生産による林業の発展への寄与が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1. 山林苗の生産方法]
山林苗の生産方法においては、山林苗の育苗の過程において、酸素供給処理を行う。
【0013】
[1.1.山林苗]
山林苗は、木本植物の苗であればよい。木本植物としては、例えば、スギ属(Cryptomeria)植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、ヒノキ属(Chamaecyparis)植物(ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)など)、マツ科(Pinaceae)植物(マツ属(Pinus)植物(クロマツ(Pinus thunbergii)など)、カラマツ属(Larix)植物(カラマツ(Larix kaempferi)、グイマツ(Larix gmelinii)など)、モミ属(Abies)植物(トドマツ(Abies sachalinensis)など)など)、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギなど(Quercus acutissima))、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、ナシ属(Pyrus)植物(ナシ(Pyrus serotina Rehder、Pyrus pyrifolia)など)、ビャクダン属(Santalum)植物(ビャクダン(サンダルウッド;Santalum album)など)が挙げられ、スギ属植物が好ましく、スギがより好ましい。山林苗は、通常、実生苗である。実生苗は発芽、根の生長に培土の酸欠が影響しやすいところ、酸素供給処理を行うことにより、成長不良を効果的に抑制できる。
【0014】
[1.2.育苗容器]
山林苗は、育苗容器を用いて生育する、いわゆるコンテナ苗である。育苗容器は、培土を収容できる収容部を備え、山林苗を個別に収容でき根鉢を形成させる容器であればよく、略底部に開口を備える容器が好ましい。例えば、コンテナ(例、特開2017-0797026号公報に記載されたコンテナ、マルチキャビティコンテナ(JFA-150、JFA-300:非特許文献1参照)等)が挙げられる。
【0015】
山林苗は、育苗容器に直接播種してもよいが、播種は別の容器(例えば、育苗箱、バット、トレー)で行い、発芽後に育苗容器へ定植してもよい。定植の時期は、通常は1週間以上、好ましくは15日以上後である。山林苗の播種(発芽)時期は、冬季(例えば2月、平均気温約5~約6℃)が好ましい。これにより、酸素供給処理による根の生長促進効果を効率的に発揮できる。播種後、発芽等の促進のため、必要に応じて培土を加温(例えば、平均温度15~30℃に調整)してもよい。加温の方法としては、例えば、発芽室、人工気象器、園芸用保温マットを用いる方法が挙げられる。
【0016】
[1.3.酸素供給処理]
本明細書において酸素供給処理とは、山林苗に酸素を供給する処理を意味し、好ましくは葉又は根に、より好ましくは根に、酸素を供給する処理である。植物の酸素吸収は、主に根及び葉から(特に根から)行われるため、生育不良を良好に改善できる。酸素供給処理は、例えば、山林苗が定植された育苗容器中の土壌を介して酸素を供給する処理、灌水用の水を介して酸素を供給する処理、葉面への酸素供給処理が挙げられ、好ましくは、土壌及び/又は灌水用の水を介して酸素を供給する処理である。
【0017】
(土壌を介する酸素供給処理)
土壌を介する酸素供給処理は、例えば、酸素供給剤の土壌への添加、散布により行うことができる。
【0018】
-酸素供給剤の種類-
酸素供給剤は、培土に添加でき、かつ山林苗の根に酸素を供給できる剤であればよい。酸素供給剤の有効成分としては、例えば、過酸化水素、過酸化カルシウム等の過酸化物が挙げられる。これらの過酸化物を含む製剤は、水分と触れると化学反応により酸素を発生することができる。酸素供給剤の剤型としては、例えば、液体、固体(例、粉末、錠剤)が挙げられ、固体が好ましい。
【0019】
酸素供給剤は、速効性(即効性)及び持続性に分類され、持続性が好ましい。これにより、酸素供給効果を長期間持続させることができる、持続性酸素供給剤は、効果持続期間が長いものが好ましく、例えば、1か月以上又は2カ月以上、好ましくは3カ月以上、4カ月以上、又は5カ月以上である。酸素供給剤は、1種単独又は2種以上の組み合わせである。
【0020】
-酸素供給剤の使用量-
酸素供給剤の使用量(1回あたりの添加量)は、酸素供給剤の種類(持続期間、酸素発生量)、培土の量、気候、山林苗の種類等の条件に応じて適宜調整できる。例えば、酸素供給剤の酸素発生量に着目する場合、酸素発生量が30L/kgの場合、培土の量に対する酸素供給剤の量は、通常1g/L以上、好ましくは2g/L以上、より好ましくは2.5g/L以上又は3g/L以上である。これにより、酸素供給剤の投与効果を効率的に発揮できる。上限は、特に限定されないが、例えば、5g/L以下、6g/L以下でもよい。酸素供給剤を培土に混合する量としては、培土1Lあたりの酸素発生量が、好ましくは0.05L以上、より好ましくは0.10L以上、さらに好ましくは0.15L以上となるよう調整すればよい。その上限は特に制限されないが、通常、0.3L以下である。
【0021】
-酸素供給剤の添加時期-
酸素供給剤は、1回投与してもよいし、2回以上投与してもよい。例えば、酸素供給剤を1回投与後、投与効果がなくなった段階で順次追加投与(2回目以降)してもよい。2回目以降の投与の際は、1回目に用いたのと同じ投与条件(酸素供給剤の種類、投与量、投与方法など)でもよいし、異なる投与条件でもよい。投与回数を減らせる点でも、持続性酸素供給剤(効果持続期間が、通常、2カ月以上、好ましくは3カ月以上、好ましくは4カ月以上)を用いることが好ましい。
【0022】
-酸素供給剤の添加方法-
酸素供給剤の投与方法は、根に酸素を供給できる方法であればよく、例えば、培土へ混合する方法、培土の表面(山林苗の周囲)に散布する方法が挙げられる。1回目の投与は前者によることが好ましい。2回目以降の投与は、後者によることが好ましい。
【0023】
(灌水用の水を介して酸素を供給する処理)
灌水用の水を介して酸素を供給する場合、空気混入水を用いることが好ましい。
【0024】
-空気混入水-
本明細書において、空気混入水とは、空気(酸素ガスを含む気体)を含有する水を意味する。
【0025】
空気混入水の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、水に空気を混入させる装置を用いる方法が挙げられる。このような装置としては、例えば、水を、空気と混合する装置(例えば、環緑株式会社製、根域空気供給機「ロッキィ(商品名)」)、マイクロナノバブル生成装置(例、株式会社協和機設製の「BUVITAS(商品名)」、株式会社オーラテック製の「OM4-MDG-020(商品名)」)が挙げられる。より容易に本発明の効果が達成できる観点から、酸素を含有する気体と混合する装置を用いる方法が好ましい。この装置は、放水用ホースに接続でき、接続した状態で通水することで装置が備える吸気口より空気が混入され、空気混入水を製造できる。空気混入させる水は、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水等の水であればよく、特に限定されない。
【0026】
空気混入水の溶存酸素量は、空気混入前の水と比較して高いことが好ましく、通常、0.5mg/L以上、好ましくは0.6mg/L以上、より好ましくは0.7mg/L以上高い。空気未供給の水の溶存酸素量は、水温により異なるところ、空気混入水の溶存酸素量が上記数値範囲を満たすことにより、十分に山林苗の根に酸素を供給することができる。上限は特に限定されない。溶存酸素量は、溶存酸素計を用いて測定できる。
【0027】
-灌水方法-
空気混入水を用いた灌水は、頭上灌水及び底面灌水のいずれによってもよいが、頭上灌水が好ましい。灌水作業は、手灌水および自動灌水装置のいずれで行ってもよい。なお、底面灌水の方法としては、例えば、育苗容器(開口を有する育苗容器)を水に浸漬する方法、吸水性部材を介して挿し穂に灌水する方法が挙げられる。
【0028】
-灌水の頻度-
空気混入水を用いる灌水は、定期的に行うことが好ましい。例えば、毎日、1日おき、2日おき、3日おき、又は1週間おきでもよく、毎日が好ましい。また、1日あたりの灌水回数は、例えば、1~5回の間で設定でき、1回が好ましい。
【0029】
(葉面への酸素を供給する処理)
葉面へ酸素を供給する場合、液体状の酸素供給剤を葉面に接触させる(塗布又は散布)ことが好ましい。酸素供給剤については、上段で説明したとおりである。
【0030】
(酸素供給処理の時期)
酸素供給処理は、土壌を介して酸素を供給する処理、灌水用の水を介して酸素を供給する処理、又はその両方の処理が好ましい。
また、酸素供給処理は、継続して行うことが好ましく、少なくとも一定期間、両方の処理を同時進行することが好ましい。土壌を介する酸素供給処理を一定期間継続して行うことができる点で、持続性の酸素供給剤を用いることが好ましい。また、灌水による酸素供給処理を継続して行うには、例えば、一定期間、灌水の際に空気混入水を用いる方法によればよい。土壌及び灌水を介する酸素供給処理を同時進行する方法としては、例えば、1回又は2回以上培土に添加される酸素供給剤が培土中で酸素を供給している(効力を発揮している)期間内(通常、2カ月以上、好ましくは3か月以上、より好ましくは4カ月以上)に、空気混入水を用いた灌水を行う(好ましくは、酸素供給剤の効果持続期間中の灌水は、空気混入水のみを用いる)が挙げられる。酸素供給処理の期間の上限は、特に限定されないが、通常は8カ月以下又は7カ月以下である。土壌及び灌水を介する酸素供給処理を同時進行する場合、一方の処理を先に開始してもよく、及び/又は、先に終了してもよい。
【0031】
酸素供給処理を行う時期は、夏季よりも前を含む時期であり、好ましくは梅雨の時期を少なくとも含む。例えば、4~6月(平均気温が約15~20℃~約25℃の月)を含み、6~7月(平均気温が約20℃~約27℃の時期)を少なくとも含み、より好ましくは5月~7月(平均気温が約21℃~約28℃の時期)、さらに好ましくは4~8月又は3~8月(平均気温が約15℃~約28℃の時期、又は約10℃~約28℃の時期)である。これにより、梅雨から夏季の高温期にかけて培土の酸欠を抑制し、植物の根への酸素供給量を維持できるので、梅雨の長雨の際の生育不良を抑制でき、1年生の苗であっても夏季を迎えるまでに根張りを充実させることができ、夏季の高温期における酸素欠乏に伴う生理障害及び枯死の発生を抑制できる。
【0032】
酸素供給処理は、山林苗の発芽から1年以内に行う。下限は、通常、山林苗の発芽から15日後以降、好ましくは20日後以降であり、山林苗が発芽し、コンテナに移植してからであればよい。
【0033】
[1.4.育苗の任意条件]
その他任意条件は、対象植物、地域、使用設備等に応じて選択すればよく、特に限定されないが、一例を挙げると以下の通りである。
【0034】
[培土]
本発明において、育苗に用いられる培土は、通常、山林苗に用いられる土であればよく、特に限定されない。例えば、砂、土(例、赤玉土、鹿沼土)等の自然土壌;ピートモス、籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ガラスビーズ、籾殻等の人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品;固化剤(例、寒天又はゲランガム)、これらのうち2以上の組み合わせが挙げられ、2以上の組み合わせが好ましく、2種以上の自然土壌を少なくとも含む組み合わせ、又は、1種以上の人工土壌と2種以上の自然土壌とを少なくとも含む組み合わせが好ましい。自然土壌としては、赤玉土、及び鹿沼土が好ましく、人工土壌としては、ピートモスが好ましい。培土の量は、育苗容器の容量に応じて適宜調整できるが、過度に充填せずに空隙が設けられる程度とすることが好ましい。
【0035】
[肥料]
発芽工程、及び育苗工程において、培土は、上述の酸素供給剤以外の他の成分と共に用いられてもよい。他の成分としては、例えば、元肥、保存剤が挙げられることが好ましい。元肥を含めることにより、苗の生長を促進できる。元肥は特に限定されず、速効性肥料又は緩効性肥料でもよく、無機肥料、有機肥料、化成肥料のいずれでもよい。施肥量は特に限定されず、用いる肥料に適した量が選択できる。元肥に含まれる成分としては、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。元肥の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
【0036】
無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。無機成分として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。本発明で用いられる液体培地においては、窒素、リン、カリウムが必須元素として含まれることが好ましい。よって、これら無機成分の具体例のうち、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩、リンを含む無機塩、及びカリウムを含む無機塩が好ましく、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩がより好ましい。無機成分は、液体培地中の濃度が、1種の場合は約1μM~約100mMとなるように添加することが好ましく、約0.1μM~約100mMとなるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ約0.1μM~約100mMとなるよう添加することが好ましく、約1μM~約100mMとなるように添加することがより好ましい。
【0037】
銀イオンとしては、例えば、チオ硫酸銀(STS、AgS46)、硝酸銀等の銀化合物(銀イオン源)が挙げられ、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよく、STSが好ましい。STSは培地中で、チオ硫酸銀イオンの形態を取り、マイナスに帯電していると推測され、これにより健全な根の発根及び伸長を促進に寄与することができる。銀イオンを含む場合、銀イオンの量は、0.5μM~6μMが好ましく、2μM~6μMがより好ましい。
【0038】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。抗酸化剤を含む場合、その量は、5mg/l~200mg/lが好ましく、20mg/l~100mg/lがより好ましい。
【0039】
炭素源としては、例えば、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物が挙げられる。炭素源として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。炭素源を含む場合、その量は、1g/l~100g/lが好ましく、10g/l~100g/lがより好ましい。
【0040】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及びリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。ビタミン類として、上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。ビタミン1種を含む場合、その量は、0.01mg/l~200mg/lが好ましく、0.02mg/l~100mg/lがより好ましい。2種以上の組み合わせを添加する場合、それぞれの量は、0.01mg/l~150mg/lが好ましく、0.02mg/l~100mg/lがより好ましい。
【0041】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及びリジン等が挙げられる。アミノ酸類は、1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用いうる。アミノ酸類1種を含む場合、その量は、0.1mg/l~1000mg/lが好ましく、2種以上の組み合わせを含む場合、その合計量は、0.2mg/l~1000mg/lが好ましい。
【0042】
植物ホルモン類としては、例えば、オーキシン類及び/又はサイトカイニン類を使用することができる。オーキシン類としては、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、p-クロロフェノキシ酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)、インドール酪酸(IBA)及びこれらの誘導体等が例示され、これらから選択される1種以上又は2種以上を組み合わせて用い得る。また、サイトカイニン類としてはベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン及びこれらの誘導体等が例示され、これらから選択される1種以上又は2種以上を組み合わせて用い得る。植物ホルモン類としては、オーキシン類のみ、サイトカイニン類のみ、或いはオーキシン類とサイトカイニン類の両方を組み合わせて用いうる。植物ホルモンを1種類含む場合、その量は0.001mg/l~10mg/lが好ましく、0.01mg/l~10mg/lがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの量は0.001mg/l~10mg/lが好ましく、0.01mg/l~10mg/lがより好ましい。
【0043】
[施肥]
育苗、又は後述する発芽工程の途中で、上述の酸素供給剤以外の肥料を用いて施肥を行ってもよい。これにより苗の生長を促進できる。肥料としては、元肥として説明したものと同様の具体例が挙げられる。施肥量、時期、施肥方法等の施肥条件は特に限定されず、用いる肥料に適した方法が選択できる。
【0044】
[育苗場所]
酸素供給処理における育苗場所は、解放空間(例えば、野外)又は閉鎖空間(例えば、ビニールハウス内、炭酸ガス培養室内、温室内、屋内)でもよい。本発明においては、解放空間でも山林苗の育苗を効率よく行うことができ、根張りが充実した山林苗を得ることができる。
【0045】
[温度]
温度条件は、特に限定されないが、必要があれば調整してもよい。例えば、日中温度15~35℃(好ましくは20~35℃)、夜間温度10~25℃(好ましくは10~20℃、より好ましくは15~20℃)に調整してもよい。
【0046】
[湿度]
湿度は、山林苗の植物種等栽培条件に応じて調整することができるが、通常は、50%以上、好ましくは60%以上である。これにより、発芽を促進することができる。上限については特に制限はない。
【0047】
[育苗期間の終了時]
育苗期間は、苗が目的の大きさまで生長した段階まで等の基準で定めてもよく、特に限定されない。通常は4ヶ月以上、6ヶ月以上が好ましく、7ヶ月以上がより好ましい。上限は特にないが、育苗効率の観点から、通常は13か月以下、好ましくは12か月以下、より好ましくは10か月以下である。育苗は、林野庁が示すコンテナ苗出荷規格(5号苗)を満たすまで、すなわち、苗高が30cm程度以上、地際直径3.5mm程度以上まで、続けることが好ましいところ、苗が観察された後も育苗を継続してもよいし、他の育苗容器に移し替えて育苗を継続してもよい。上記酸素供給処理を行うことにより、1年生苗の段階で十分生長させることができる。
【0048】
[2.植林地の生産方法]
上記方法により得られた山林苗は、植林地又は植林予定地に植え付けることにより、植林地を生産、維持することができる。
【0049】
[3.根の生長促進方法、生育不良抑制方法]
上述の酸素供給処理を所定条件で実施することにより、山林苗の根の成長を促進でき、生育不良を抑制できる。これにより、環境条件に関わらず根の成長を促進でき、1年生苗であっても出荷可能な状態まで生長促進できる。
【0050】
[4.植林地の生産方法]
上述の生産方法により得られた山林苗は、植林地又は植林予定地に植え付けることにより、植林地を生産、維持することができる。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0052】
<スギの育苗試験>
(実施例1)
2022年2月に赤玉土細粒(簗島商事(株)製)を敷き詰めた育苗箱に加温条件下(約25℃)でスギ種子を播種し、発芽させた。
発芽した苗は、2021年3月(平均気温12℃)に、ピートモス((株)サン&ホープ製)、鹿沼小粒土(あかぎ園芸製)と赤玉小粒土(簗島商事(株)製)を4:1:1(容量比、以下同じ。)を混合し、水分と触れると酸素が発生する酸素供給剤(タキイ種苗株式会社社製、商品名「オキソパワー5」、粒状、成分:過酸化カルシウム、効果持続期間:5か月)を3g/L加えすき込んだ培土300gを充填した育苗用コンテナ容器(容量:300cc)に移植し、野外の育苗用棚に設置した。
【0053】
育苗期間中は2022年3月~10月末までを酸素供給期間とし、空気混入水を用いた散水と、培土への酸素供給剤の添加を行った。空気混入水は、水道水(温度調節なし、例えば、表2の水温)を根域空気供給機「ロッキィ」(環緑株式会社製)を接続したホースに通水し、大気を混入させて調製した。灌水条件は、1日に1回、育苗容器1つあたり200ml、頭上灌水とした。酸素供給剤は、育苗開始時に使用したのと同じ剤を同量、2022年5月に追加した。追加は、各育苗用コンテナ容器の開口部の培土表面(苗の周囲)に散布した。育苗期間中は、ハイポネックス原液((株)ハイポネックスジャパン製)を500~2000倍希釈で毎週1回散布した。
【0054】
2022年7月に苗を育苗用コンテナ容器から引き抜き、その根張り具合について下記基準を元に目視評価を実施した。
[根張り具合の評価基準]
◎:根が白色で細かく分岐発達し、ほとんど全ての苗においてコンテナ全体に根が回っている状態
〇:根が白色で細かく分岐発達し、コンテナ全体に根が回っている苗が優勢であるが、一部で根回りが不十分な苗がある状態
△:根は白色であるが分岐発達が不十分で、コンテナ全体に対して半分程度しか根が回っていない苗が優勢の状態
×:根が焦げ茶色で根量も少なく、コンテナの一部にしか根が回っていない苗が優勢の状態
【0055】
2022年7月と10月に生存しているスギ苗数を確認し、苗生存率の算出を行った(表1)。
【0056】
(実施例2)
育苗期間中の酸素供給期間を3~8月までに限定した(実施例1における2022年5月における酸素供給剤の補充を行わず、8月中に酸素供給剤の効力が切れ、一方、9月以降は気体含有水に代えて通常の水道水による灌水を行った)以外、実施例1と同様に行った(表1)。
【0057】
(実施例3)
酸素供給期間中、空気混入水を用いた散水を行わなかった(気体含有水に代えて通常の水道水を用いて行った)以外は、実施例1と同様に行った(表1)。
【0058】
(実施例4)
酸素供給期間中、培土へ酸素供給剤を配合、追加しなかった以外は、実施例1と同様に行った(表1)。
【0059】
(実施例5)
酸素供給期間を3~8月とした以外は、実施例4と同様に行った(表1)。
【0060】
(実施例6)
酸素供給期間を3~8月とした以外は、実施例5と同様に行った(表1)。
【0061】
(比較例1)
酸素供給期間を8~10月とした以外は、実施例1と同様に行った(表1)。
【0062】
(比較例2)
酸素供給期間を8~10月までに限定した以外は、実施例4と同様に行った(表1)。
【0063】
(比較例3)
酸素供給期間を8~10月までに限定した以外は、実施例5と同様に行った(表1)。
【0064】
(比較例4)
酸素供給期間を設けなかった以外は、実施例1と同様に行った(表1)。
【0065】
【表1】
【0066】
<散水中に酸素を吹き込んだ水の溶存酸素量測定>
散水に用いた水(水道水、及び空気混入水)の溶存酸素量を4月19日及び7月22日に測定した。測定は、デジタル溶存酸素計 DO-5510HA(株式会社マザーツール製)を用いて行った(表2)。
【0067】
【表2】
【0068】
酸素供給処理を8~10月に行うか、又は酸素供給処理未処理の比較例1~4に対し、酸素供給処理を夏季前を含む3月~10月又は3~8月に行った実施例1~4では、根張りの評価が◎又は〇であり、夏季前後(7月及び10月)の苗生存率が良好であった(表1)。これらの評価から、1年生苗の間に出荷可能な程度まで生長するものと推測された。また、空気混入水中の溶存酸素量は、通常散水(水道水)よりも溶存酸素量が0.6mg/L以上高かった。なお、試験期間は3~10月の範囲内であり、水道水の水温が高く溶存酸素量が比較的低量であるため、測定値を示した4月19日、7月22日以外の時点でも、溶存酸素量の差は同様であり、少なくとも0.5mg/L以上であった(表2)。
【0069】
以上の結果は、本発明により、酸素供給処理を1年生のコンテナ苗に対し夏季よりも前(好ましくは梅雨)を含む時期に行うことで、気象の状況を受けにくい健全な苗を生産でき、根の発育が良好で出荷も可能な1年生苗の育成が可能であることを示している。