(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151018
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】印刷用紙
(51)【国際特許分類】
D21H 21/28 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
D21H21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064125
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名越 応昇
(72)【発明者】
【氏名】下之段 智
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宏二
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG12
4L055AG48
4L055AG72
4L055AH01
4L055AH02
4L055AH03
4L055AH09
4L055AH13
4L055AH16
4L055AH18
4L055AH35
4L055CD01
4L055CF36
4L055CH02
4L055EA11
4L055FA11
4L055FA12
4L055FA15
4L055GA17
(57)【要約】
【課題】白色顔料を含有する塗工層を有しない普通紙型の印刷用紙であって、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感、並びに印刷文字視認性を備える印刷用紙を提供することである。
【解決手段】課題は、パルプ、填料及び着色剤を少なくとも含有する原紙と、前記原紙をサイズプレス処理を施して表面サイズ剤及び消泡剤を少なくとも含有し、前記着色剤が青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料から選ばれる一種又は二種以上であり、ISO8254-1:1999に準じて測定した光沢度が10%以上20%以下、及びISO5631:2000に準じて測定した色相のa*値が1.6以上3.1以下及びb*値が-8.5以上-3.5以下である印刷用紙によって達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ、填料及び着色剤を少なくとも含有する原紙と、前記原紙をサイズプレス処理を施して表面サイズ剤及び消泡剤を少なくとも含有し、前記着色剤が青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料から選ばれる一種又は二種以上であり、ISO8254-1:1999「Paper and board-Measurement of specular gloss-Part-1:75° gloss with a converging beam, TAPPI method」に準拠して測定した光沢度が10%以上20%以下であり、及びISO5631:2000「Paper and board-Determination of colour(C/2°)-Diffuse reflectance method」に準拠して測定した色相のa*値が1.6以上3.1以下及びb*値が-8.5以上-3.5以下である印刷用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色顔料を含有する塗工層を有しない印刷用紙に関する。さらには、デジタル印刷機の一種であるインクジェット印刷機に好適な白色顔料を含有する塗工層を有しない印刷用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷業では、雑誌、書籍、画集、写真集、アート集、美術書、MOOK本、冊子、カタログ、チラシ及びパンフレットなどの商業印刷物が商品になる。商業印刷物の生産に用いる印刷用紙は、光沢紙及びマット紙に限らない。近年の印刷用紙では、光沢感又は艶消し感、平滑感、色相、及び手触り感などにおいて様々な風合いが存在する。
画集、写真集、アート集及び美術書などに代表される高価な商業印刷物には、コレクター性が重視され、厚みのある塗工層を備える高い白色性、高い光沢感及び高い平滑感を有する重厚かつ高価な印刷用塗工紙を使用する。
一方、雑誌、書籍、MOOK本、冊子、カタログ、チラシ及びパンフレットなどの商業印刷物では、用紙コストの削減を目的に、塗工層の塗工量が極めて少ない微塗工紙、非塗工紙又は普通紙型の印刷用紙を採用する場合が増加する傾向にある。
【0003】
例えば、非塗工紙でありながら、塗工層の塗工量が少ない軽量の塗工紙(LWC紙)のような光沢を有する印刷用紙が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
厚みのある塗工層を備える高い白色性、高い光沢感及び高い平滑感を有する重厚な印刷用塗工紙は、高価であるばかりではなく視認性に劣るという課題を有する。この理由は、作品に対する優れた画像再現性を得るための高い白色性、高い光沢感及び高い平滑感に起因する。高い白色性、高い光沢感及び高い平滑感を有する印刷用塗工紙は、特に、印刷文字の視認性に劣る。白過ぎ、過剰な光の反射及び散乱、並びに高い平滑を有する商業印刷物は、鮮鋭であるけれど、実用的な視認に難がある。
一方、写真、絵、図柄及び図形と文字とが混在する雑誌、書籍及びMOOK本などの商業印刷物では、実用性が重視される。すなわち、実用性を重視する商業印刷物には、十分な印刷適性を有しながら、視認性に有効であるための白さ、しっとりした光沢感及びシルキータッチ(silky touch)感を有し、並びに用紙コストが低い印刷用紙が必要である。柔らかい光の反射及び散乱をもたらすような軽度の光沢が認められるしっとりした光沢感が、視認性に有効である。
【0006】
本発明の目的は、白色顔料を含有する塗工層を有しない用紙コストが低い印刷用紙であって、十分な印刷適性を有しながら、視認性に有効であるための白さ、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感を有する印刷用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意開発に取り組んだ結果、本発明を見出した。
本発明の目的は、以下により達成できる。
【0008】
[1]パルプ、填料及び着色剤を少なくとも含有する原紙と、前記原紙をサイズプレス処理を施して表面サイズ剤及び消泡剤を少なくとも含有し、前記着色剤が青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料から選ばれる一種又は二種以上であり、ISO8254-1:1999「Paper and board-Measurement of specular gloss-Part-1:75° gloss with a converging beam, TAPPI method」に準拠して測定した光沢度が10%以上20%以下であり、及びISO5631:2000「Paper and board-Determination of colour(C/2°)-Diffuse reflectance method」に準拠して測定した色相のa*値が1.6以上3.1以下及びb*値が-8.5以上-3.5以下である印刷用紙。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、印刷用紙は、白色顔料を含有する塗工層を有しない用紙コストが低く抑えられた用紙でありながらかつ十分な印刷適性を有する用紙でありながら、視認性に有効であるための白さ、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の印刷用紙は、パルプ、填料及び着色剤を少なくとも含有する原紙と、前記原紙をサイズプレス処理を施して表面サイズ剤及び消泡剤を少なくとも含有する。
印刷用紙は、原紙が填料を含有することによって印刷適性のみならず印刷用紙の白色度を良化することができる。印刷用紙は、原紙が着色剤を含有することによって視認性に有効であるための白さ及びしっとりした光沢感を得ることができる。印刷用紙は、サイズプレス処理で表面サイズ剤及び消泡剤を含有することによって、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感を得ることができる。
【0011】
いくつかの実施態様において、上記原紙は、パルプ、填料及び着色剤を少なくとも含有する紙料を従来公知の抄紙方法によって抄紙して成る。これにより、原紙は、パルプ、填料及び着色剤を含有することができる。印刷用紙は、前記原紙をサイズプレス処理して成る。印刷用紙は、前記サイズプレス処理に使用するサイズプレス液が表面サイズ剤及び消泡剤を含有することによって表面サイズ剤及び消泡剤を含有することができる。印刷用紙が含有する表面サイズ剤及び消泡剤は、サイズプレス処理によって、紙料に表面サイズ剤及び消泡剤を配合することで結果的に印刷用紙が表面サイズ剤及び消泡剤を含有する場合に比べて、サイズプレス液に表面サイズ剤及び消泡剤を配合することで結果的に印刷用紙が表面サイズ剤及び消泡剤を含有する場合は、相対的に印刷用紙の表層付近に表面サイズ剤及び消泡剤が多く存在するために、これらの効果を発現し易い。
【0012】
上記抄紙方法は、例えば、製紙分野で従来公知の抄紙機を用いる方法を挙げることができる。抄紙機の例としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機及びヤンキー抄紙機などを挙げることができる。
上記サイズプレス処理は、製紙分野で従来公知のサイズプレス装置を用いる方法を挙げることができる。サイズプレス装置の例としては、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、フィルムトランスファー方式としてロッドメタリングサイズプレス、ロールメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスを、ロッドメタリングサイズプレスではシムサイザー、オプティサイザー、スピードサイザー、フィルムプレスを、ロールメタリングサイズプレスではゲートロールコーターを挙げることができる。その他にも、サイズプレス装置の例としては、ビルブレードコーター、ツインブレードコーター、ベルバパコーター、タブサイズプレス、カレンダーサイズプレスなどを挙げることができる。
【0013】
上記パルプは、製紙分野で従来公知の木材パルプ及び非木材パルプから選ばれる一種又は二種以上である。
木材パルプの例としては、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)などの機械パルプ、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などのセミケミカルパルプ、DIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプ(Waste Paper Pulp)、及び製紙工場で発生する損紙(Spoilage)を離解して成るパルプを挙げることができる。
非木材パルプは、製紙分野で従来公知の非木材繊維からなるパルプである。非木材繊維の原料例としては、コウゾ、ミツマタ及びガンピなどの木本靭皮、亜麻、大麻及びケナフなどの草本靭皮、マニラ麻、アバカ及びサイザル麻などの葉繊維、イネわら、ムギわら、サトウキビバガス、タケ及びエスパルトなどの禾本科植物、並びにワタ及びリンターなどの種毛を挙げることができる。
【0014】
上記填料は、製紙分野で従来公知の顔料である。顔料は、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、シリカ、珪酸アルミニウム、珪藻土、活性白土、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料を挙げることができる。さらに、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂及びマイクロカプセルなどの有機顔料を挙げることができる。いくつかの実施態様において、填料は、前記無機顔料及び前記有機顔料から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0015】
着色剤は、製紙分野で従来公知のものである。着色剤は、紙を着色するために用いる白色以外の有色染料又は有色顔料である。有色顔料では、さらに、無機有色顔料と有機有色顔料とがある。
着色剤は、例えば、アゾ化合物(ジチゾン、ホルマザン)、キノン系(ナフトキノン、アントラキノン、アクリドン、アントアントロン、インダントレン、ピレンジオン、ビオラントロン)、キノンイミン(アジン、オキサジン、チアジン)、インジゴ染料(インジルビン、オキシインジゴ、チオインジゴ)、硫化染料、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン(フルオラン、フルオレセイン、ローダミン)、フェロセン、フルオレノン、フルギド、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン(カロテン、マレイン酸誘導体、ピロラゾン、スチルベン、スチリル)、ポリメチン(シアニン、ピリジニウム、ピリリウム、キノリニウム、ローダニン)、キサンテン、アリザリン、アクリジン、アクリジノン、カルボスチリル、クマリン、ジフェニルアミン、キナクリドン、キノフタロン、フェノキサジン、フタロペリノン、ポルフィン、クロロフィル、フタロシアニン、クラウン化合物、スクアリリウム、チアフルバレン、チアゾール、ニトロ染料、ニトロソ染料、黒色水溶性硫化染料などの黒色染料及び発色後のロイコ染料などの染料系着色剤、チタンブラック、チタニウムイエロー、群青、紺青、コバルト青、カーボンブラック、鉄黒、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化珪素、水酸化アルミニウム、アゾ顔料、アゾレーキ顔料、フタロシアニン系顔料、建染染料系顔料、キナクリドン系顔料及びジオキサジン系顔料などの顔料系着色剤、澱粉、尿素-ホルマリン樹脂、メラミン樹脂などの着色された合成樹脂粒子、着色シリコーン粒子、並びにスチルベン系、ジスチルベン系、ベンゾオキサゾール系、クマリン系、イミダゾール系、ベンゾイミダゾール系及びピラゾリン系などの蛍光染料を挙げることができる。
【0016】
上記原紙が含有する着色剤は、青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料から選ばれる一種又は二種以上である。いくつかの実施態様において、着色剤は、青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料からのみ選ばれる一種又は二種以上である。いくつかの実施態様において、着色剤は、青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料から選ばれる一種又は二種以上と、必要に応じて青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料を除く着色剤から選ばれる一種又は二種以上とである。原紙が青色系、紫色系及び黒色系の染料及び顔料から選ばれる一種又は二種以上の着色剤を含有することによって、印刷用紙は、ISO5631:2000「Paper and board-Determination of colour(C/2°)-Diffuse reflectance method」に準拠して測定した色相のa*値が1.6以上3.1以下及びb*値が-8.5以上-3.5以下に制御することができる。
【0017】
上記表面サイズ剤は、製紙分野で従来公知のものである。表面サイズ剤は、例えば、アクリルアミド系重合体、アクリル系重合体、スチレン-アクリル酸系共重合体、スチレン-メタアクリル酸系共重合体、アクリロニトリル-ビニルホルマール-アクリル酸エステル系共重合体、スチレン-マレイン酸系共重合体、オレフィン-マレイン酸系共重合体、各種ポリビニルアルコール及び各種変性ポリビニルアルコール、澱粉類、並びにカルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。
いくつかの実施態様において、表面サイズ剤は、各種ポリビニルアルコール及び各種変性ポリビニルアルコール並びに澱粉類から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。この理由は、下記(1)及び(2)による。
(1):各種ポリビニルアルコール及び各種変性ポリビニルアルコール並びに澱粉類から成る群から選ばれる一種又は二種以上が、透明又は白色でありかつ上記着色剤への相互作用が小さいために視認性に有効であるための白さを得易い。
(2):印刷用紙が、下記する消泡剤との相乗効果によって、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感を得ることができる。
【0018】
上記消泡剤は、製紙分野及び塗工紙分野で従来公知のものである。消泡剤は、泡を形成する被膜を部分的に不均一な状態へと変化して、泡を不安定化及び消泡する機能を有するか添加剤である。本発明の効果に係るしっとりした光沢感及びシルキータッチ感に対する消泡剤の作用効果は知られていない。消泡剤の消泡機能を有する化合物には、例えば、鉱油系、油脂系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルコール系、アミド系、リン酸エステル系、金属セッケン系及びシリコーン系である。また、消泡剤には、オイルタイプ、界面活性剤タイプ、エマルジョンタイプ及びコンパウンドタイプがある。
いくつかの実施態様において、消泡剤は、高級アルコール、アセチレングリコールタイプ、エチレンオキサイド鎖及び/又はプロピレンオキサイド鎖を有するアセチレングリコールタイプ、脂肪酸エステル、並びにポリオキシエチレン及び/又はポリオキシプロピレンとの脂肪酸エステルである。この理由は、上記表面サイズ剤との相乗効果によって、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感が良化するからである。
【0019】
紙料及びサイズプレス液には、必要に応じて製紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤は、例えば、内添サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、嵩高剤、印刷適性向上剤、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩などのカチオン化剤、凝結剤、紙力剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、並びに乾燥紙力増強剤などを挙げることができる。
【0020】
印刷用紙は、ISO8254-1:1999「Paper and board-Measurement of specular gloss-Part-1:75° gloss with a converging beam, TAPPI method」に準拠して測定した光沢度が10%以上20%以下である。印刷用紙は、当該光沢度と下記する色相との相乗効果によって、視認性に有効であるための白さ及びしっとりした光沢感を有することができる。
【0021】
印刷用紙は、ISO5631:2000「Paper and board-Determination of colour(C/2°)-Diffuse reflectance method」に準拠して測定した色相のa*値が1.6以上3.1以下及びb*値が-8.5以上-3.5以下である。印刷用紙は、当該色相と上記光沢度との相乗効果によって、視認性に有効であるための白さ及びしっとりした光沢感を有することができる。
【0022】
いくつかの実施態様において、印刷用紙は、ISO2471:1998「Paper and board-Determination of opacity(paper backing)-Diffuse reflectance method」に準拠して測定した不透明度が91%以上95%以下である。この理由は、印刷用紙の耐裏抜け性が良化するからである。不透明度は、例えば、原紙が含有する填料の種類及び含有量、原紙が含有する着色剤の種類及び含有量などによって調整することができる。
【0023】
印刷用紙は、抄紙機におけるプレスパートのプレス条件によって又はカレンダー処理を施すことによって、光沢度及び平滑度を高めることができる。いくつかの実施態様において、原紙及びサイズプレス処理によってしっとりした光沢感及びシルキータッチ感を有する印刷用紙を得るために、プレスパート及びカレンダー処理は、過度の光沢及び平滑を得る条件に設定しない。過度の光沢及び平滑を得る条件の設定では、印刷用紙がしっとりした光沢感及びシルキータッチ感を得難くなる。
【0024】
カレンダー処理は、製紙分野で従来公知のカレンダー処理装置を用いて達成することができる。カレンダー処理とは、ロール間に紙を通すことによって平滑性や厚みを平均化する処理である。カレンダー処理装置は、例えば、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダーなどを挙げることができる。
【0025】
いくつかの実施態様において、印刷用紙は、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から選ばれる一種又は二種以上を含有する。この理由は、インクジェット印刷機に代表されるデジタル印刷機に対する印刷適性が良化するからである。カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から選ばれる一種又は二種以上を印刷用紙が含有する方法は、カチオン性樹脂及び水溶性多価陽イオン塩から選ばれる一種又は二種以上を、上記紙料に配合する方法又は上記サイズプレス液に配合する方法を挙げることができる。
【0026】
カチオン性樹脂は、カチオン性ポリマー又はカチオン性オリゴマーであり、インクジェット印刷用紙分野で従来公知のものである。いくつかの実施態様において、カチオン性樹脂は、プロトンが配位し易く、水に溶解したとき離解してカチオン性を呈する1級~3級アミン又は4級アンモニウム塩を含有するポリマー若しくはオリゴマーである。カチオン性樹脂は、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド-ホルマリン縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどの化合物及びこれらの塩酸塩、さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドなどとの共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物やジエチレントリアミンエピクロルヒドリン重縮合物などの脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物を挙げることができる。
少なくとも一つの実施態様において、カチオン性樹脂は、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物である。この理由は、デジタル印刷機への印刷適性のみならず、印刷用紙の紙力向上にも幾分効果を有するからである。
【0027】
水溶性多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンを含む水溶性塩である。水溶性多価イオン塩は、金属の多価陽イオンを含み、最終的に20℃の水に1質量%以上溶解することができる塩である。金属の多価陽イオンの例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガンなどの二価陽イオン;アルミニウム、鉄、クロムなどの三価陽イオン;又はチタン、ジルコニウムなどの四価陽イオン;並びにそれらの錯イオンである。金属の多価陽イオンと塩を形成する陰イオンとしては、無機酸及び有機酸のいずれでもよく、特に限定されない。無機酸の例としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などを挙げることができる。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸などを挙げることができる。但し、従来からサイズ剤の定着剤として公知である硫酸アルミニウムは水溶性多価陽イオン塩から除く。
いくつかの実施態様において、水溶性多価陽イオン塩はカルシウム塩である。この理由はインクジェット印刷機などのデジタル印刷機への印刷適性が良化するからである。
【0028】
いくつかの実施態様において、印刷用紙は、坪量が45g/m2以上90g/m2以下である。この理由は、雑誌、書籍及びMOOK本などの商業印刷物において取り扱い性に優れるからである。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「質量部」及び「質量%」は、特に明示がない限り、乾燥固形分換算あるいは実質成分の質量部及び質量%を示す。また、サイズプレス処理における付与量は乾燥固形分量を示す。
【0030】
(原紙)
紙料は下記の内容により調製した。
パルプ(CSF瀘水度430mlのLBKP) 1000質量部
填料(軽質炭酸カルシウム) 250質量部/0質量部
着色剤 色相により適宜
定着剤(硫酸アルミニウム) 10質量部
紙力剤(カチオン化澱粉) 10質量部
歩留まり剤(アクリルアミド系樹脂) 0.4質量部
【0031】
(サイズプレス液)
サイズプレス液は、水を媒体に下記の内容により調製した。
表面サイズ剤 40質量部/0質量部
消泡剤 0.02質量部/0質量部
カチオン化剤 50質量部
【0032】
(印刷用紙)
紙料を、長網抄紙機で抄造して坪量60g/m2の原紙を得た。前記原紙に対してサイズプレス装置でサイズプレス処理を施し、続いてスーパーカレンダー処理を施して印刷用紙を得た。サイズプレス処理では、原紙片面当たりの付与量を1.5g/m2とした。
長網抄紙機のプレスパート及びスーパーカレンダー処理は、光沢度を確認しつつ条件を調整した。
【0033】
(印刷)
印刷用紙への印刷には水性染料インクを搭載するセイコーエプソン社のカラリオ(登録商標)プリンターEP-301インクジェット印刷機を用いた。評価画像には、各色ベタ画像、人物写真画像、風景写真画像、並びに白紙部分及びベタ画像に6ポイントから14ポイントまでの文字画像をランダムに配置した評価用画像を用いた。
下記表1に記載の各実施例及び各比較例の印刷用紙について、比較例7及び8を除き、印刷適性に特段の不具合は無かった。比較例7及び8では、印刷画像に鮮鋭性の悪化を認めた。
【0034】
下記表1に記載する用いた材料は以下である。
着色剤には、青色系染料、紫色系染料、黒色系顔料、橙色系染料及び赤色系染料を用いた。印刷用紙の色相はこれら着色剤を用いて調整した。
表面サイズ剤には、「S1」としてポリビニルアルコール、「S2」としてエステル化澱粉、又は「S3」としてアクリルアミド系重合体を用いた。
消泡剤には、「D1」としてアセチレングリコールタイプ消泡剤(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール類)又は「D2」としてシリコーンタイプ消泡剤を用いた。
カチオン化剤には、「C1」として塩化カルシウム又は「C2」としてジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物を用いた。
【0035】
(白さ)
白さは、白色度と視認性とを組み合わせた総合的な観点からの評価とした。
白色度は、ISO2470:1999「Paper,board,and pulps-Measurement of diffuse blue reflectance factor(ISO brightness)」に準じたISO白色度とした。白色度の測定には、日本電色工業社の「SPECTRO COLOR METER MODEL PF-10」を使用して、C光源2°視野で測定した。また、白色度の測定は、420nmカットオフフィルタを光路に置かない状態とした。印刷用紙は、250μm以上の厚みとなるように重ね合わせて測定用試料とした。白色度の評価は、測定結果から下記の2段階とした。
a:ISO白色度の値が83%以上。
b:ISO白色度の値が83%未満。
視認性は、印刷された印刷用紙において各種印刷文字を観察した20人の被験者による官能評価とした。被験者は、文字の読み易さの観点から下記の基準に従い評価した。
2点:読み易い。
1点:概ね難無く読める。
0点:読み難い又はどちらかというと読み難い傾向。
視認性の評価は、各評価点数を合計し、合計の点数結果から下記の4段階とした。
a:20点超。
b:10点超20点以下。
c:5点超10点以下。
d:5点以下。
最終的な評価は、下記の基準とした。本発明において、印刷用紙は、最終的な評価がA又はBであれば視認性に有効であるための白さを有するものとする。
A:白色度が「a」及び視認性が「a」。
B:白色度が「a」及び視認性が「b」。
C:白色度が「a」及び視認性が「c」。
D:白色度が「b」又は視認性が「d」。
【0036】
(光沢感)
光沢感は、印刷された印刷用紙をLED白色灯の下で観察した20人の被験者による官能評価とした。被験者は、人間が知覚する正反射光及び拡散反射光の光を意識した光反射の強さ、人間が感じる反射光の拡散及び色感の観点から下記の基準に従い評価した。
2点:光沢を強めに感じる又はどちらかといえば強めに感じる傾向。
1点:概ね程良い範囲の光沢に感じる。
0点:マット系に感じる又はどちらかといえばマット系に感じる傾向。
光沢感の評価は、各評価点数を合計し、合計の点数結果から下記の3段階とした。本発明において、印刷用紙は、評価がA又はBであればしっとりした光沢感を有するものとする。
A:15点超25点以下
B:10点超15点以下又は25点超30点以下。
C:10点以下又は30点超。
【0037】
(シルキータッチ感)
シルキータッチ感は、白紙の印刷用紙を確認した20人の被験者による官能評価とした。被験者は、既存のシルキータッチ感を有する印刷用紙(CROWN VAN GELDER社Crown Letsgo Silk)と対比した感覚から下記の基準に従い評価した。
2点:平滑で、シルキータッチ感を感じない又はどちらかといえば感じない。
1点:シルキータッチ感を感じる又は概ね感じる。
0点:マットで、シルキータッチ感を感じない又はどちらかといえば感じない。
シルキータッチ感の評価は、各評価点数を合計し、合計の点数結果から下記の3段階とした。本発明において、印刷用紙は、評価がA又はBであればシルキータッチ感を有するものとする。
A:15点超25点以下
B:10点超15点以下又は25点超30点以下。
C:10点以下又は30点超。
【0038】
結果を表1に記載する。
【0039】
【0040】
表1より、本発明に該当する各実施例の印刷用紙は、白色顔料を含有する塗工層を有しない用紙コストが低く抑えられた用紙でありながらかつ十分な印刷適性を有する用紙でありながら、視認性に有効であるための白さ、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感を有することができる。
一方、本発明の構成を満足しない各比較例の印刷用紙は、視認性に有効であるための白さ、しっとりした光沢感及びシルキータッチ感の効果について少なくとも一つを満足できないと分かる。