IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社合同資源の特許一覧

特開2024-151021ヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物
<>
  • 特開-ヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物 図1
  • 特開-ヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151021
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物
(51)【国際特許分類】
   C01D 17/00 20060101AFI20241017BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C01D17/00
B01D21/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064129
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100169498
【弁理士】
【氏名又は名称】水長 雄大
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】久保井 廉
(72)【発明者】
【氏名】水越 教博
(72)【発明者】
【氏名】藤田 崇広
(57)【要約】
【課題】ヨウ化タリウムに対するヨウ化セシウムの選択性に優れるヨウ化セシウムの再生方法を提供する。
【解決手段】本発明のヨウ化セシウムの再生方法は、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む水溶液を用いて、ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に除去し、ヨウ化セシウムの少なくとも一部を水溶液中に残存させることにより、ヨウ化セシウム再生物を得る精製工程を含むものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む水溶液を用いて、前記ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に除去し、前記ヨウ化セシウムの少なくとも一部を前記水溶液中に残存させることにより、ヨウ化セシウム再生物を得る精製工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程は、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む混合物に水溶媒を添加し、前記ヨウ化セシウムおよび前記ヨウ化タリウムが前記水溶媒に溶解してなる前記水溶液を準備する溶解工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程は、前記水溶液中に析出させた前記ヨウ化タリウムを、固液分離により除去する濾過工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項4】
請求項3に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程は、前記濾過工程の後、前記ヨウ化セシウムの少なくとも一部が溶解した前記水溶液中の水を除去する乾燥工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む原料を使用して製造された製品またはその製造装置から生じる廃棄物中から、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む固体状または液体状の混合物を回収する回収工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程において除去された前記ヨウ化タリウムを精製する工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程中、前記ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に除去したときの前記水溶液の液温が、5℃以上50℃以下である、ヨウ化セシウムの再生方法。
【請求項8】
ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む、ヨウ化セシウム再生物であって、
前記ヨウ化タリウムの含有量が、前記ヨウ化セシウムに対して、質量換算で50ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
【請求項9】
請求項8に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
前記ヨウ化タリウムの含有量が、前記ヨウ化セシウムに対して、質量換算で30ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
カールフィッシャー水分計により測定される水分量が、800ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
【請求項11】
請求項8又は9に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
IPC発光分析法により測定される、I、Cs、およびTl以外の金属不純物の含有量が、1000ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
【請求項12】
請求項11に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
前記金属不純物が、Fe、Li、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ag、Si、およびPからなる群から選ばれる一または二以上を含む、ヨウ化セシウム再生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで無機ヨウ化物の回収方法について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。
特許文献1には、無機ヨウ化物を含んだ反応廃棄物の混合無機塩水溶液に有機溶媒を添加し、二層に分離(水性二層抽出)した状態の有機溶媒層を分離し有機溶媒を濃縮することで、有機溶媒中に溶解した無機ヨウ化物の水溶液または結晶を単離できると記載されている(特許文献1の段落0012等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-314158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の無機ヨウ化物の回収方法において、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムの混合物から選択的にヨウ化セシウムを回収する点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、適切な溶媒として水を選択し、かつ、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムの水に対する溶解度の違いを利用して、両者を含む水溶液からヨウ化タリウムを水系外に選択的に除去することにより、水系中にヨウ化セシウムを選択的に回収(精製)できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下のヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物が提供される。
1. ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む水溶液を用いて、前記ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に除去し、前記ヨウ化セシウムの少なくとも一部を前記水溶液中に残存させることにより、ヨウ化セシウム再生物を得る精製工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
2. 1.に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程は、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む混合物に水溶媒を添加し、前記ヨウ化セシウムおよび前記ヨウ化タリウムが前記水溶媒に溶解してなる前記水溶液を準備する溶解工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
3. 1.又は2.に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程は、前記水溶液中に析出させた前記ヨウ化タリウムを、固液分離により除去する濾過工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
4. 3.に記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程は、前記濾過工程の後、前記ヨウ化セシウムの少なくとも一部が溶解した前記水溶液中の水を除去する乾燥工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む原料を使用して製造された製品またはその製造装置から生じる廃棄物中から、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む固体状または液体状の混合物を回収する回収工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程において除去された前記ヨウ化タリウムを精製する工程を含む、ヨウ化セシウムの再生方法。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載のヨウ化セシウムの再生方法であって、
前記精製工程中、前記ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に除去したときの前記水溶液の液温が、5℃以上50℃以下である、ヨウ化セシウムの再生方法。
8. ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む、ヨウ化セシウム再生物であって、
前記ヨウ化タリウムの含有量が、前記ヨウ化セシウムに対して、質量換算で50ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
9. 8.に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
前記ヨウ化タリウムの含有量が、前記ヨウ化セシウムに対して、質量換算で30ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
10. 8.または9.に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
カールフィッシャー水分計により測定される水分量が、800ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
11. 8.~10.のいずれか一つに記載のヨウ化セシウム再生物であって、
IPC発光分析法により測定される、I、Cs、およびTl以外の金属不純物の含有量が、1000ppm以下である、ヨウ化セシウム再生物。
12. 11.に記載のヨウ化セシウム再生物であって、
前記金属不純物が、Fe、Li、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ag、Si、およびPからなる群から選ばれる一または二以上を含む、ヨウ化セシウム再生物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヨウ化タリウムに対するヨウ化セシウムの選択性に優れるヨウ化セシウムの再生方法、およびヨウ化セシウム再生物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のヨウ化セシウムの再生プロセスの一例を示すフロー図である。
図2】本実施形態のヨウ化セシウム再生システムの構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0010】
本実施形態のヨウ化セシウムの再生方法の概要を説明する。
【0011】
本実施形態のヨウ化セシウムの再生方法は、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む水溶液を用いて、ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に除去し、ヨウ化セシウムの少なくとも一部を水溶液中に残存させることにより、ヨウ化セシウム再生物を得る精製工程を含む。
【0012】
本発明者の知見によれば、ヨウ化セシウムが水易溶性であり、一方のヨウ化タリウムが水微溶性であるという各単体の水溶解性の違いは、これらの混合物の水溶液中でも同様の傾向があることがあるため、当該水溶液中から一方を選択的に回収できることが判明した。具体的には、水微溶性のヨウ化タリウムを水溶液中に析出させて、これを除去することで、水溶液中に水易溶性のヨウ化セシウムを選択的に残すこと(回収)が可能になることが分かった。
【0013】
また本発明者のさらなる検討により、混合物の水溶液中におけるヨウ化タリウムの溶解度は、液温(温度)や水溶液中のヨウ化セシウム濃度等によって調整できるという知見も得た。このような知見により、ヨウ化タリウムの溶解度が低くなるようにプロセス条件を制御することにより、ヨウ化タリウムに対するヨウ化セシウムの選択性をさらに高めることが可能になる。
【0014】
本実施形態のヨウ化セシウムの再生方法によれば、タリウム活性化ヨウ化セシウムが利用された製品(シンチレータなど)やその製造過程等からの廃棄物中から、ヨウ化セシウムを選択的に回収する(リサイクル)ことが可能となる。
【0015】
以下、本実施形態のヨウ化セシウムの再生方法の構成を詳述する。
【0016】
図1は、ヨウ化セシウムの再生プロセスの一例を示すフロー図である。図2は、ヨウ化セシウム再生システムの構成の一例を模式的に示す図である。
【0017】
ヨウ化セシウムの再生方法において、ヨウ化セシウム再生物を得る精製工程の一例は、図1に示すように、溶解工程、濾過工程、および乾燥工程を含む。
【0018】
上述の精製工程は、図2に示すシステム100を用いて実施され得る。
図2のヨウ化セシウム再生システム(以下、システム100と呼称する。)は、溶解槽10、濾過装置20、貯蔵槽30、および乾燥装置40を備える。
【0019】
図1の溶解工程は、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む混合物1に水溶媒2を添加し、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムが水溶媒2に溶解してなる水溶液を準備する。
【0020】
図2のシステム100中では、混合物1および水溶媒2を、それぞれライン(配管)を介して、溶解槽10に供給する。溶解槽10中で、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを水溶媒2に溶解させる。
溶解槽10は、混合物1および水溶媒2を含む水溶液を適切な回転速度で攪拌する攪拌器を備えてもよい。
【0021】
混合物1には、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む廃棄物から得られるものを使用して、この廃棄物からヨウ化セシウムを再生する。
混合物1としては、固体状のものまたは液体状のものいずれも使用できる。
ヨウ化セシウムの再生方法では、溶解工程の前に、廃棄物中からヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む固体状の混合物1または液体状の混合物1を回収する回収工程を含んでもよい。
【0022】
廃棄物としては、例えば、タリウム活性化ヨウ化セシウムが利用された製品(シンチレータ、フラットパネルディテクター、フラットパネル型以外のシンチレータなど)等のヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む原料を使用して製造された製品のスクラップ品、その製造過程で排出された廃棄物、製造に使用された装置(蒸留装置など)を清掃したときに生じた廃棄物等が挙げられる。
【0023】
製造装置中からの混合物1の回収には、たとえば、蒸留装置などの装置の清掃には、装置に付着した付着物をヘラで除去する方法や、かかる付着物を洗浄水で除去する方法等が使用できる。この場合、混合物1として、固形状の付着物や、付着物が含まれる洗浄水を用いることができる。付着物が含まれる洗浄水等の廃液は、フィルタリングなどの公知の前処理を施したものを混合物1に使用してもよい。すなわち、上記回収工程で得られた液状の混合物1は、そのまま水溶液として使用してもよいが、前処理を施したものを使用してもよく、必要なら前処理後に水溶媒を添加してもよい。
【0024】
水溶媒2は、水を含む溶媒であればとくに限定されないが、水(H0)を主成分(全量の50質量%)に含むものでもよい。水溶媒2中の水の含有量は、例えば、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。
水溶媒2には、例えば、蒸留水やイオン交換水等が挙げられる。水溶媒2は、本発明の効果を損なわない限り、金属や非金属等のイオンまたは化合物等の微量な不純物を許容する。
また、同様に、水溶媒2は、水以外の他の溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の水溶性アルコール、アセトン、アセトアルデヒド、酢酸等の水溶性ケトン、アルデヒド、カルボン酸等を含んでもよい。
【0025】
図2の溶解槽10中では、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む水溶液中において、ヨウ化タリウムの少なくとも一部を析出させる。
【0026】
本発明者の知見によれば、ヨウ化タリウム単独の水溶液中でのTI溶解度と、ヨウ化セシウム飽和水溶液中でのTI溶解度を比較した場合、約20~45℃(とくに約25~40℃)において、ヨウ化セシウム飽和水溶液中におけるヨウ化タリウムの溶解度(TI溶解度)の方が小さくなることが判明した。
【0027】
このような知見に基づいて、ヨウ化セシウム水溶液中におけるTI溶解度について、ヨウ化セシウム濃度と液温の関係をさらに検討した。その結果、ヨウ化セシウム水溶液中のCsI濃度(質量%)が、約15~45質量%、より好ましくは約20~40質量%のときに、その他の濃度の場合と比べてTI溶解度が小さくなることが判明した。
また、CsI濃度約15~45質量%のヨウ化セシウム水溶液の時には、液温が、約5~50℃、好ましくは約10~40℃、さらに好ましくは約10~30℃において、その他の液温の場合と比べてTI溶解度が小さくなることが判明した。
一方、水溶液を乾燥させた際のヨウ化セシウム中のヨウ化タリウムの残存濃度を検討した場合、ヨウ化セシウム水溶液のCsI濃度が約20~40質量%、液温が約5~25℃の条件が、他の条件の場合よりも、ヨウ化タリウムの残存濃度を低減できることが判明した。
【0028】
水溶液中からのヨウ化タリウムの除去量や、水溶液を乾燥した後のヨウ化タリウムの残量のバランスを考慮して、水溶液中のヨウ化セシウム濃度および水溶液の液温を適切な範囲を決めることが可能である。これにより、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを含む水溶液中において、ヨウ化セシウムを溶解させたまま、ヨウ化タリウムの少なくとも一部を選択的に析出させることが可能となる。
【0029】
精製工程では、次の固液分離の前における水溶液中のヨウ化セシウム濃度を、好ましくは20~45質量%、より好ましくは30~40質量%とすることができ、および/または次の固液分離の前における水溶液の液温を、好ましくは5~25℃、より好ましくは10~20℃とすることができる。
【0030】
また溶解槽10は、水溶液の温度を調整するために、温度センサーやヒータあるいは冷却器などの調温器を備えてもよい。また、水溶液中のヨウ化セシウム濃度を調整するために、溶解槽10には、ヨウ化セシウムやヨウ化セシウムを含む混合物を、別のラインを介して供給されてもよい。
【0031】
図1の精製工程は、水溶液中に析出させたヨウ化タリウムの少なくとも一部を、固液分離により除去する濾過工程を含む。
ヨウ化タリウムを固液分離する手法としては、濾過法や晶析法などの公知の手段が用いられる。
【0032】
図2のシステム100は、濾過装置20を備える。
溶解槽10からラインを介して水溶液を濾過装置20に供給する。供給された水溶液を、濾過装置20中の濾過層を通過させて、通過した濾液を貯蔵槽30で回収する。一方、水溶液に析出したヨウ化タリウムは、濾過槽に残存することになる。
これにより、析出したヨウ化タリウムが除去され、ヨウ化セシウムが溶解した水溶液を回収できる。
【0033】
また貯蔵槽30で回収した濾液には、必要なら、ヒドラジンを添加してもよい。これにより、濾液の色を透明にすることが可能である。このとき、ヒドラジンとの反応を進める観点から、貯蔵槽30で回収した濾液を再び貯蔵槽30に循環させてもよい。
【0034】
図1の精製工程は、濾過工程の後、ヨウ化セシウムの少なくとも一部が溶解した水溶液中の水を除去する乾燥工程を含む。水を除去する方法としては、公知の手法が用いられる。
【0035】
図2のシステム100は、貯蔵槽30に回収された水溶液を、ラインを介して乾燥装置40に供給する。この乾燥装置40中では、水溶液中の水溶媒(例えば水)を除去する。これにより、乾燥したヨウ化セシウム再生物(精製品)を回収できる。
【0036】
乾燥装置40は、公知の乾燥装置を使用できるが、例えば、連続スプレー流動造粒乾燥機などが使用できる。なお、乾燥装置40の乾燥速度や乾燥温度は、公知の条件を採用できる。
【0037】
なお、本再生方法は、図1の精製工程で除去されたヨウ化タリウムを精製する工程を含んでもよい。
図1の濾過工程において、濾過装置20で除去されたヨウ化タリウムを含む残留物3は、別の再生プロセスに基づいて精製されてもよい。
精製の一例として、残留物3を公知の手法で乾燥させることにより、ヨウ化タリウムを含むヨウ化タリウム再生品(精製品)を回収できる。
【0038】
本実施形態の再生方法で得られたヨウ化セシウム再生物について詳述する。
【0039】
ヨウ化セシウム再生物は、ヨウ化セシウムを主成分に含むものであり、かつ、ヨウ化タリウムを含まないか、または含んだとしても、ヨウ化タリウムの含有量が、ヨウ化セシウムに対して、質量換算で50ppm以下、より好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
ヨウ化セシウム再生物中のヨウ化セシウムの含有量は、例えば、98質量%以上、好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.99質量%以上である。
【0040】
別の形態では、ヨウ化セシウム再生品は、これを使用する製品や製造プロセス中で許容される限り、ヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウム以外の他の成分を微量含んでもよい。他の成分として、例えば、金属不純物が挙げられる。
【0041】
金属不純物が、例えば、Fe、Li、Na、K、Rb、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ag、Si、およびPからなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。
【0042】
また、ヨウ化セシウム再生物の中のI、Cs、およびTl以外の金属不純物の含有量は、例えば、1000ppm以下でもよい。これにより、ヨウ化セシウム再生物を用いて製造されたシンチレータなどのヨウ化セシウムが再利用された製品の性能を良好とすることが可能である。
なお、再利用の際、ヨウ化セシウム再生物に対して所定量のヨウ化タリウムを添加したものを使用してもよい。
【0043】
ヨウ化セシウム再生物は、室温で固体であるが、その形状はとくに限定されないが、粉粒体で構成されてもよい。
【0044】
また、カールフィッシャー水分計により測定されるヨウ化セシウム再生物の水分量は、例えば、800ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは100ppm以下である。これにより、固結の防止を向上できる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0046】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0047】
<ヨウ化セシウムの精製>
(実施例1)
ヨウ化セシウムスクラップ200gを水400gに溶解させ液温を18℃に保持した溶液を濾過した。濾液を110℃で乾燥させ、ヨウ化セシウムの精製物を得た。
実施例1のヨウ化セシウム収率は92重量%であった。実施例1の精製物中におけるタリウム残量が、重量換算で、12ppmであった。
【0048】
(実施例2)
ヨウ化セシウムスクラップ200gを水1130gに溶解させ液温を23℃に保持した溶液をろ過した。濾液を110℃で乾燥させ、ヨウ化セシウムの精製物を得た。
実施例2のヨウ化セシウム収率は92重量%であった。実施例2の精製物中におけるタリウム残量が、重量換算で、13ppmであった。
【0049】
(比較例1)
ヨウ化セシウムスクラップ200gを水173gに溶解させ、液温を3℃に下げて結晶を析出させた。この結晶を含んだ溶液を濾紙を用いてろ過し、結晶(残留物)を110℃で乾燥させ、ヨウ化セシウムの精製物を得た。
比較例1のヨウ化セシウム収率は55重量%であった。比較例1の精製物中におけるタリウム残量が、重量換算で、1.3%であった
【0050】
実施例1、2のヨウ化セシウムの精製方法は、比較例1と比べて、収率が高く、かつタリウム残量が小さいという結果を示した。また、実施例1、2では、ヨウ化セシウムの精製プロセスにおいて、濾紙に残存した残留物を回収する手間がない点で比較例1よりも簡便な手法である。
【符号の説明】
【0051】
1 混合物
2 水
3 残留物
4 ヨウ化セシウム再生物
10 溶解槽
20 濾過装置
30 貯蔵槽
40 乾燥装置
100 ヨウ化セシウム再生システム
図1
図2