(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151055
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 43/04 20060101AFI20241017BHJP
G01B 5/12 20060101ALI20241017BHJP
G01B 5/02 20060101ALI20241017BHJP
G01B 5/24 20060101ALI20241017BHJP
F16C 23/06 20060101ALI20241017BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
F16C43/04
G01B5/12
G01B5/02
G01B5/24
F16C23/06
F16C19/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064174
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】久保 喬弘
【テーマコード(参考)】
2F062
3J012
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
2F062AA01
2F062AA34
2F062AA41
2F062AA71
2F062BC37
2F062CC27
2F062EE62
2F062EE63
2F062FF02
3J012AB20
3J012BB03
3J012FB10
3J012HB01
3J117HA04
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA80
3J701DA11
3J701DA20
3J701FA41
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】従来技術と比較して製造工程を効率化できるとともに、従来技術と比較して接触角のバラツキを抑制することができるアンギュラ玉軸受の製造方法を提供する。
【解決手段】アンギュラ玉軸受の製造方法1は、内輪及び外輪をそれぞれ単体で測定する内輪測定工程S05及び外輪測定工程S06と、測定された複数の内輪及び外輪について測定結果を関連付けて記録する内輪データ記録保管工程S07及び外輪データ記録保管工程S08と、記録された複数の内輪及び外輪の中から、組み付けた場合の差幅が所定の範囲内となるように所定の内輪及び外輪の組み合わせを選択する選択工程S09と、選択工程S09で選択された内輪及び外輪を組み付ける組付工程S10と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンギュラ玉軸受の内輪を単体で測定する内輪測定工程と、
前記アンギュラ玉軸受の外輪を単体で測定する外輪測定工程と、
前記内輪測定工程にて測定された複数の前記内輪について、前記内輪ごとに前記内輪測定工程で測定された測定結果を関連付けて記録するとともに複数の前記内輪を保管する内輪データ記録保管工程と、
前記外輪測定工程にて測定された複数の前記外輪について、前記外輪ごとに前記外輪測定工程で測定された測定結果を関連付けて記録するとともに複数の前記外輪を保管する外輪データ記録保管工程と、
前記内輪データ記録保管工程で記録された複数の前記内輪及び前記外輪データ記録保管工程で記録された複数の前記外輪の中から、組み付けた場合の差幅が所定の範囲内となるように所定の前記内輪及び前記外輪の組み合わせを選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された前記内輪及び前記外輪を組み付ける組付工程と、
を備える、
アンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項2】
前記内輪測定工程より前に実施され、前記内輪を形成する内輪形成工程及び形成された前記内輪を洗浄する内輪洗浄工程と、
前記外輪測定工程より前に実施され、前記外輪を形成する外輪形成工程及び形成された前記外輪を洗浄する外輪洗浄工程と、
を備え、
前記内輪形成工程では、前記内輪測定工程における測定結果がフィードバックされ、フィードバックされた情報に基づいて前記内輪の寸法を調整し、
前記外輪形成工程では、前記外輪測定工程における測定結果がフィードバックされ、フィードバックされた結果に基づいて前記外輪の寸法を調整する、
請求項1に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項3】
前記内輪形成工程及び前記外輪形成工程から前記組付工程へ至るまでの間に、前記内輪及び前記外輪を仮組みする工程を有することなく前記アンギュラ玉軸受を製造する、
請求項2に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項4】
前記内輪測定工程及び前記外輪測定工程から前記組付工程へ至るまでの間に、前記内輪及び前記外輪の研削を行う工程を有することなく前記アンギュラ玉軸受を製造する、
請求項1に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項5】
前記内輪データ記録保管工程では、複数の前記内輪を互いに識別可能な内輪識別部を前記内輪ごとに設け、前記内輪識別部と前記内輪測定工程で測定された測定結果とを関連付けて記録し、
前記外輪データ記録保管工程では、複数の前記外輪を互いに識別可能な外輪識別部を前記外輪ごとに設け、前記外輪識別部と前記外輪測定工程で測定された測定結果とを関連付けて記録し、
前記選択工程では、前記内輪識別部及び前記外輪識別部に基づいて、所定の前記内輪及び前記外輪を自動で選択する、
請求項1に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項6】
前記内輪測定工程では、前記内輪の軌道面に沿って測定子を移動させることにより、前記内輪の径方向に沿う前記測定子の径方向位置を示す第一寸法と、前記内輪の軸方向に沿う前記測定子の高さ位置を示す第二寸法と、前記第一寸法及び前記第二寸法の変化量に基づいて算出される前記測定子と前記内輪の軌道面との接触角である内輪側接触角と、を少なくとも測定し、
前記外輪測定工程では、前記外輪の軌道面に沿って前記測定子を移動させることにより、前記外輪の径方向に沿う前記測定子の径方向位置を示す第三寸法と、前記外輪の軸方向に沿う前記測定子の高さ位置を示す第四寸法と、前記第三寸法及び前記第四寸法の変化量に基づいて算出される前記測定子と前記外輪の軌道面との接触角である外輪側接触角と、を少なくとも測定する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項7】
前記選択工程では、複数の前記内輪のうちのひとつ及び複数の前記外輪のうちのひとつの組み合わせについて、前記内輪を測定したときの前記内輪側接触角と前記外輪を測定したときの前記外輪側接触角とが同等の値となり、かつ前記第一寸法と前記第三寸法とが同等の値となるときの前記第二寸法と前記第四寸法との差分に基づいて、前記アンギュラ玉軸受の前記差幅を算出する、
請求項6に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項8】
前記測定子は、前記内輪及び前記外輪の軌道面において径方向に互いに対向するように一対設けられており、
一対の前記測定子の間の距離に基づいて前記第一寸法及び前記第三寸法を測定する、
請求項6に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【請求項9】
前記選択工程の前に実施され、前記内輪データ記録保管工程で記録された前記内輪のデータ及び前記外輪データ記録保管工程で記録された前記外輪のデータに基づいて、複数の前記内輪のひとつと複数の前記外輪のひとつとを組み付けた場合の差幅をシミュレートすることにより推定する差幅推定工程をさらに備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアンギュラ玉軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギュラ玉軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンギュラ玉軸受は、内輪と外輪との間に所定の接触角を持って配置される転動体を有する転がり軸受であり、アキシャル荷重及びラジアル荷重の双方を負荷することができる。これらのアンギュラ玉軸受では、アンギュラ玉軸受を組み付けた際の内輪及び外輪の端面の位置の差である差幅(寸法)を所定の範囲内に収める必要がある。アンギュラ玉軸受の差幅は軸受の予圧を規定する重要な寸法であり、許容範囲内に無い場合、耐荷重や振動特性等の軸受性能が低下するため、高精度に測定及び調整を行う必要がある。従来、アンギュラ玉軸受の差幅を測定及び調整するための技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、アンギュラ玉軸受を組み付けた状態で差幅を測定する構成が開示されている。
特許文献2には、アンギュラ玉軸受の差幅を測定した後、内輪及び外輪の端面を片側ずつ研削することで、差幅を調整する構成が記載されている。研削工程ではさらに、幅寸法が内輪及び外輪で一致するように研削を行う。特許文献2に記載の技術によれば、これにより、正面差幅及び背面差幅の両方において目標差幅を満たすアンギュラ玉軸受を生産できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-171201号公報
【特許文献2】特開2019-141978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術にあっては、内輪及び外輪を組み付けた状態で差幅を測定するので、測定後、例えば組み付け状態で内輪及び外輪の研削を行うことで差幅を許容範囲内に収めている。このような方法では、内輪及び外輪の軌道面や転動体等に付着した研磨屑や脱落砥粒等の異物を洗浄により除去しているが、もし異物を洗浄しきれない場合は、軸受を回転させた際に軌道面及び転動体に異物による傷が生じ、音響性能や軸受寿命が低下するおそれがある。
【0006】
また、別の手法として、例えば少ない玉数で仮組みを行って差幅を測定した後、差幅調整及び洗浄のために一旦分解して再び本組み付けする場合がある。
図11は、従来技術に係るアンギュラ玉軸受の製造方法のフロー図である。
図11に示すように、従来技術にあっては、内外輪の洗浄工程S101,S102の後に、仮組工程S103と、差幅測定工程S104と、バラシ工程S105と、調整研削工程S106と、洗浄工程S107と、組付工程S108と、を有する。しかしながら、この従来技術においては、仮組工程S103やその後のバラシ工程S105及び洗浄工程S107を有するので、作業工程の増加による生産性の低下や、仮組み時に使用する玉の誤差による測定誤差の発生、分解及び組み付け時の傷付き等が発生するおそれがある。
【0007】
特許文献2に記載の技術にあっては、差幅測定後に内輪及び外輪を研削する必要があるため、研削盤等の設備が必要であり、アンギュラ玉軸受の製造に係るコストが増加するおそれがあった。また、差幅測定後に研削工程を設ける必要があるので、アンギュラ玉軸受の製造工程が煩雑化するおそれがあった。研削工程を設けた場合には、さらに研磨屑の洗浄工程をも必要となるため、製造工程がより増加し、製造効率が低下するおそれがあった。さらに、内輪及び外輪の径寸法差やR寸法差に起因する接触角のバラツキが大きくなるおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、従来技術と比較して製造工程を効率化できるとともに、従来技術と比較して接触角のバラツキを抑制することができるアンギュラ玉軸受の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係るアンギュラ玉軸受の製造方法は、アンギュラ玉軸受の内輪を単体で測定する内輪測定工程と、前記アンギュラ玉軸受の外輪を単体で測定する外輪測定工程と、前記内輪測定工程にて測定された複数の前記内輪について、前記内輪ごとに前記内輪測定工程で測定された測定結果を関連付けて記録するとともに複数の前記内輪を保管する内輪データ記録保管工程と、前記外輪測定工程にて測定された複数の前記外輪について、前記外輪ごとに前記外輪測定工程で測定された測定結果を関連付けて記録するとともに複数の前記外輪を保管する外輪データ記録保管工程と、前記内輪データ記録保管工程で記録された複数の前記内輪及び前記外輪データ記録保管工程で記録された複数の前記外輪の中から、組み付けた場合の差幅が所定の範囲内となるように所定の前記内輪及び前記外輪の組み合わせを選択する選択工程と、前記選択工程で選択された前記内輪及び前記外輪を組み付ける組付工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアンギュラ玉軸受の製造方法によれば、従来技術と比較して製造工程を効率化できるとともに、従来技術と比較して接触角のバラツキを抑制することができるアンギュラ玉軸受の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るアンギュラ玉軸受の概略縦断面図。
【
図2】実施形態に係るアンギュラ玉軸受の製造方法のフロー図。
【
図3】内輪測定工程における測定方法の一例を示す図。
【
図4】内輪測定工程における各測定値についての説明図。
【
図6】外輪測定工程における測定方法の一例を示す図。
【
図7】外輪測定工程における各測定値についての説明図。
【
図8】内輪データ記録保管工程において記録されるデータの一例を示す図。
【
図9】外輪データ記録保管工程において記録されるデータの一例を示す図。
【
図10】測定子間距離及び測定子高さを用いてアンギュラ玉軸受の差幅を測定する方法を示す説明図。
【
図11】従来技術に係るアンギュラ玉軸受の製造方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明において、アンギュラ玉軸受10の内輪11(又は外輪12)の軸方向に沿う方向を軸方向と言い、内輪11(又は外輪12)の径方向に沿う方向を径方向と言い、内輪11(又は外輪12)の周方向に沿う方向を周方向と言う場合がある。
【0013】
(アンギュラ玉軸受の製造方法)
図1は、実施形態に係るアンギュラ玉軸受10の概略縦断面図である。
図1に示すように、アンギュラ玉軸受10は、内輪11と、外輪12と、複数の転動体13と、保持器14と、を備える。内輪11の外周面には、転動体13が転動する内輪軌道面11aが形成されている。外輪12の内周面には、転動体13が転動する外輪軌道面12aが形成されている。複数の転動体13は、内輪軌道面11a及び外輪軌道面12aに対して所定の接触角αを持って接触しており、内輪軌道面11a及び外輪軌道面12a間において転動自在に設けられている。保持器14は、複数の転動体13を転動自在に保持する。アンギュラ玉軸受10はアキシャル荷重及びラジアル荷重の両方を負荷することができる。
【0014】
このアンギュラ玉軸受10の差幅X(
図1に示す例では、軸方向の左側に位置する正面差幅)が予圧等級に応じた許容範囲内にない場合、耐荷重や振動特性等の軸受性能が低下することから、この差幅Xを調整及び管理する必要がある。そこで、以下に説明するアンギュラ玉軸受の製造方法1により、差幅Xの寸法が許容範囲内に収められたアンギュラ玉軸受10を製造する。調整が行われる対象となる差幅Xは、アンギュラ玉軸受10の軸方向一方側(
図1における左側)における内輪11と外輪12の端面の高さの差である正面差幅と、アンギュラ玉軸受10の軸方向他方側(
図1における右側)における内輪11と外輪12の端面の高さの差である背面差幅と、のうち少なくとも一方である。
【0015】
図2は、実施形態に係るアンギュラ玉軸受の製造方法1のフロー図である。
図2に示すように、アンギュラ玉軸受の製造方法1は、内輪形成工程S01と、外輪形成工程S02と、内輪洗浄工程S03と、外輪洗浄工程S04と、内輪測定工程S05と、外輪測定工程S06と、内輪データ記録保管工程S07と、外輪データ記録保管工程S08と、選択工程S09と、組付工程S10と、を備える。本実施形態において、内輪形成工程S01、内輪洗浄工程S03、内輪測定工程S05及び内輪データ記録保管工程S07と、外輪形成工程S02、外輪洗浄工程S04、外輪測定工程S06及び外輪データ記録保管工程S08と、は同時進行で実施される。なお、これらの工程を時間的に重ならないように実施してもよい。
【0016】
(内輪形成工程)
内輪形成工程S01では、アンギュラ玉軸受10の内輪11を形成する。内輪形成工程S01は、内輪11の軸方向に沿う厚みが所定の値となるまで内輪11の軸方向両側の端面を研削する工程を含む。さらに内輪形成工程S01では、詳しくは後述する内輪測定工程S05における内輪11の測定結果がフィードバックされることにより、フィードバックされた情報に基づいて内輪11の寸法を調整する。例えば、予め設定された寸法の目標値と、内輪測定工程S05で測定された実測値(フィードバックされた情報)と、を比較した結果に基づいて、内輪11の研削を行う際の必要な加工寸法の補正値を算出し、内輪11の加工時にこの補正値を適用する。これにより、実測値に基づいてより高精度に内輪11を形成することが可能となる。
【0017】
(外輪形成工程)
外輪形成工程S02では、アンギュラ玉軸受10の外輪12を形成する。外輪形成工程S02は、外輪12の軸方向に沿う厚みが所定の値となるまで外輪12の軸方向両側の端面を研削する工程を含む。内輪形成工程S01と同様に、外輪形成工程S02では、詳しくは後述する外輪測定工程S06における外輪12の測定結果がフィードバックされることにより、フィードバックされた情報に基づいて外輪12の寸法を調整する。これにより、内輪11及び外輪12のそれぞれについて、実測値に基づいてより高精度に外輪12を形成することが可能となる。
【0018】
(内輪洗浄工程)(外輪洗浄工程)
次に、内輪洗浄工程S03では、内輪形成工程S01で形成された内輪11を洗浄する。同様に、外輪洗浄工程S04では、外輪形成工程S02で形成された外輪12を洗浄する。内輪洗浄工程S03及び外輪洗浄工程S04を分けて設けることにより、例えば内輪11及び外輪12を仮組みした状態で洗浄する場合と比較して、研磨屑等の異物の残留が抑制される。よって、残留した異物による傷の発生や音響性能への影響が抑制される。
【0019】
(内輪測定工程)
内輪洗浄工程S03の後に、内輪測定工程S05が実施される。内輪測定工程S05では、内輪11を単体で測定する。具体的に、内輪測定工程S05では、内輪軌道面11aに沿って一対の測定子4(
図3参照)を移動させることにより、測定子間距離L1(請求項の第一寸法)と、測定子高さH1(請求項の第二寸法)と、内輪側接触角θ1(いずれも
図4参照)と、を少なくとも測定する。測定子間距離L1は、一対の測定子4間の径方向の距離であり、内輪軌道面11aの径方向に関する位置を示す寸法である。測定子高さH1は、内輪11の一方の端面から測定子4までの軸方向に沿う高さであり、内輪軌道面11aの軸方向に関する位置を示す寸法である。内輪側接触角θ1は、測定子間距離L1及び測定子高さH1の変化量に基づいて算出される測定子4と内輪軌道面11aとの接触角である。
【0020】
図3は、内輪測定工程S05における測定方法の一例を示す図である。
図4は、内輪測定工程S05における各測定値についての説明図である、
図5は、内輪側接触角θ1の算出方法を説明する図である。以下、
図3から
図5を用いて内輪測定工程S05における各寸法の測定方法についてより詳細に説明する。
図3及び
図4に示すように、内輪測定工程S05では、測定装置20を用いて測定子間距離L1、測定子高さH1及び内輪側接触角θ1を測定する。
図3に示すように、測定装置20は、ベース部2と、ワーク支持部3と、一対の測定子4と、測定子間距離検出部6と、測定子高さ検出部7と、記録部9と、を備える。測定装置20には、被測定対象物としてワークが取り付けられる。内輪測定工程S05におけるワークは内輪11である。
【0021】
ベース部2は、床面に設置されている。ベース部2は、平面視において、例えば環状又は左右に離間して一対設けられている。
ワーク支持部3は、床面に設置されている。ワーク支持部3は、平面視において、ベース部2の中央部に設けられている。ワーク支持部3の上部には、内輪11が着脱可能に固定されている。内輪11は、内輪11の軸方向と測定装置20の上下方向とが一致するように固定される。ワーク支持部3は、駆動機構51によりベース部2に対して上下方向に移動可能となっている。換言すれば、駆動機構51は、ベース部2に対して、ワークを上下方向(ワークの軸方向に沿う方向)に移動させる。
【0022】
一対の測定子4は、ベース部2の上面に設けられている。一対の測定子4は、駆動機構52によりベース部2に対して左右方向に移動可能となっている。一対の測定子4は、平面視において内輪11を挟み込むように互いに離間して設けられている。一対の測定子4は、内輪11の周方向において互いに対向する位置に設けられている。各測定子4は、内輪軌道面11aに接触するように内輪11に対して径方向の外側に配置される。
【0023】
測定子4は、少なくとも内輪11(内輪軌道面11a)と接触する部分が球状に形成されている。本実施形態において、測定子4は、ワークである内輪11と組み合わせられる転動体13(
図1参照)の直径と同じ直径を有する球状に形成されている。測定子4は、内輪11に対して、内輪軌道面11a上を内輪11の軸方向及び径方向に沿って移動可能に設けられている。本実施形態では、ワーク支持部3が上下方向(内輪11の軸方向)に移動し、かつ測定子4が左右方向(内輪11の径方向)に移動することにより、測定子4が内輪軌道面11aに沿って相対移動する。
【0024】
測定子間距離検出部6は、測定子4の径方向における位置及び移動量を検出する。測定子間距離検出部6は、径方向における一対の測定子4の間の距離である測定子間距離L1(
図4参照)を検出する。測定子間距離L1は、例えば一対の測定子4における球体の中心同士を結ぶ距離(長さ)である。本実施形態の測定子間距離検出部6は、例えば電気マイクロメータである。測定子間距離検出部6は、一対の測定子4に応じて一対設けられている。各測定子間距離検出部6の基端部は、例えばワーク支持部3に取り付けられている。測定子間距離検出部6の先端部は、測定子4と接触している。よって測定子4が径方向に移動すると、測定子間距離検出部6により、内輪11に対する測定子4の径方向に沿う移動量や位置が検出される。
【0025】
測定子高さ検出部7は、測定子4の軸方向における位置及び移動量を検出する。測定子高さ検出部7は、内輪11の一方の端面と測定子4との間の軸方向に沿う高さである測定子高さH1(
図4参照)を測定する。「内輪11の一方の端面」とは、例えば内輪11の2個の端面のうち、ワーク支持部3に支持される下側の端面であり、例えば正面側の端面である。測定子高さH1は、内輪11の一方の端面と測定子4における球体の中心とを結ぶ長さである。測定子高さ検出部7は、例えば電気マイクロメータである。測定子高さ検出部7は、一対の測定子4に応じて一対設けられている。各測定子高さ検出部7の基端部は、測定子4の上面に取り付けられている。測定子高さ検出部7の先端部は、内輪11の一方の端面と接触している。よって内輪11と測定子4とが軸方向に相対移動すると、測定子高さ検出部7により、内輪11に対する測定子4の軸方向に沿う移動量や位置が検出される。
【0026】
記録部9は、少なくとも測定子間距離検出部6及び測定子高さ検出部7からの検出結果を取得して記録する。記録部9は、内輪11について、測定子間距離検出部6により検出された測定子間距離L1と、測定子高さ検出部7により検出された測定子高さH1と、を互いに対応付けて記録する。
【0027】
図4に示すように、内輪測定工程S05では、内輪11における測定子間距離L1、測定子高さH1、及び内輪側接触角θ1を算出する。具体的に、
図3に示すように、ワーク支持部3に内輪11が固定された状態で、測定子4を内輪軌道面11aに沿って移動させる。このとき、記録部9は、測定子4の移動軌跡として、内輪11に対する測定子4の軸方向位置及び径方向位置を互いに対応付けて記録する。さらに記録部9は、
図4に示すように、内輪軌道面11aに沿って測定子4を移動させた場合における所定寸法の微小変化量に基づいて内輪側接触角θ1を算出する。以下、内輪側接触角θ1の算出原理について具体的に説明する。
図4に示すように、左右一対の測定子4の中心座標をそれぞれ(x1,y)及び(x2,y)とした場合、測定子高さH1、測定子間距離L1、及び内輪側接触角θ1は、次の(1)から(3)式によりそれぞれ算出される。
H1=y・・・(1)
L1=x2-x1・・・(2)
θ1=arcTan(y/Δx2)=arcTan(y/-Δx1)・・・(3)
【0028】
上記各式により内輪側接触角θ1を算出可能な原理について、
図5を用いてより詳細に説明する。
図5は、内輪側接触角θ1の算出方法を説明する図である。
図5は、
図4における左側部分の拡大図である。
図5に示すように、測定子4を内輪11の軌道面11aに沿って移動させると、測定値から測定子中心P1の軌跡である測定子中心軌跡TRが得られる。さらに、得られた測定子中心軌跡TRに基づいて、最小二乗法により内輪溝中心P2(x0,y0)が得られる。ここで、測定子4と内輪11の軌道面11aとの当接点を当接点P3(x3,y3)とすると、測定子中心P1(x1,y)、内輪溝中心P2(x0,y0)、及び当接点P3(x3,y3)は必ず一直線上にある。よって、内輪側接触角θ1、すなわち当接点P3において軌道面11aに垂直な直線と水平線とのなす角度は、
図4に示すθ1と同じ角度となる。この角度θ1(=内輪側接触角θ1)は、測定子中心P1(x1,y)及び内輪溝中心P2(x0,y0)から、次の(4)式により算出される。
θ1=arcTan((y0-y)/(x1-x0))・・・(4)
なお、(4)式においてy0を高さ方向の基準位置とする、すなわちy0=0とすることにより、上述の(3)式が得られる。右側の測定子4(
図3参照)についても同様の原理にて算出可能であるため、右側の測定子4についての説明は省略する。
【0029】
よって、記録部9は、内輪11に対する任意の測定子高さH1の位置に関して、そのときの測定子間距離L1及び内輪側接触角θ1を対応付けて記録する。以上により内輪測定工程S05が完了する。
本実施形態では、予め準備(形成)された複数の内輪11に対して、上述した内輪測定工程S05を順次実施する。複数の内輪11は規格やサイズが同等のものであるが、例えば加工誤差等により実測値が個体によって異なるため、全ての内輪11について計測を実施する。
【0030】
(外輪測定工程)
内輪測定工程S05と同様に、外輪洗浄工程S04の次に、外輪測定工程S06が実施される。外輪測定工程S06では、外輪12を単体で測定する。具体的に、外輪測定工程S06では、外輪軌道面12aに沿って一対の測定子4を移動させることにより、測定子間距離L2(請求項の第三寸法)と、測定子高さH2(請求項の第四寸法)と、外輪側接触角θ2(いずれも
図7参照)と、を少なくとも測定する。測定子間距離L2は、一対の測定子4間の径方向の距離であり、外輪軌道面12aの径方向に関する位置を示す寸法である。測定子高さH2は、外輪12の一方の端面から測定子4までの軸方向に沿う高さであり、外輪軌道面12aの軸方向に関する位置を示す寸法である。外輪側接触角θ2は、測定子間距離L2及び測定子高さH2の変化量に基づいて算出される測定子4と外輪軌道面12aとの接触角である。
【0031】
図6は、外輪測定工程S06における測定方法の一例を示す図である。
図7は、外輪測定工程S06における各測定値についての説明図である、以下、
図6及び
図7を用いて外輪測定工程S06における各寸法の測定方法についてより詳細に説明する。
図6及び
図7に示すように、外輪測定工程S06では、測定装置20を用いて測定子間距離L2、測定子高さH2及び外輪側接触角θ2を測定する。外輪測定工程S06で用いられる測定装置20は、内輪測定工程S05で用いられる測定装置20と同じである。つまり
図6に示すように、測定装置20は、ベース部2と、ワーク支持部3と、一対の測定子4と、測定子間距離検出部6と、測定子高さ検出部7と、記録部9と、を備える。測定装置20には、被測定対象物としてワークが取り付けられる。外輪測定工程S06におけるワークは外輪12である。
【0032】
以下の説明において、内輪測定工程S05と同等の工程及び測定装置20の同等な構成については説明を省略する場合がある。以下の説明では、内輪測定工程S05と異なる部分について主に説明する。
【0033】
図6に示すように、外輪測定工程S06において、一対の測定子4は、外輪12の周方向において互いに対向する位置に設けられている。各測定子4は、外輪軌道面12aに接触するように外輪12に対して径方向の内側に配置される。測定子4は、外輪12に対して、外輪軌道面12a上を外輪12の軸方向及び径方向に沿って移動可能に設けられている。本実施形態では、ワーク支持部3が上下方向(外輪12の軸方向)に移動し、かつ測定子4が左右方向(外輪12の径方向)に移動することにより、測定子4が外輪軌道面12aに沿って相対移動する。
【0034】
測定子間距離検出部6は、径方向における一対の測定子4の間の距離である測定子間距離L2(
図7参照)を検出する。測定子間距離L2は、例えば一対の測定子4における球体の中心同士を結ぶ距離(長さ)である。測定子4が径方向に移動すると、測定子間距離検出部6により、外輪12に対する測定子4の径方向に沿う移動量や位置が検出される。
【0035】
測定子高さ検出部7は、測定子4の軸方向における位置及び移動量を検出する。測定子高さ検出部7は、外輪12の一方の端面と測定子4との間の軸方向に沿う高さである測定子高さH2(
図7参照)を測定する。「外輪12の一方の端面」とは、例えば外輪12の2個の端面のうち、ワーク支持部3に支持される下側の端面であり、例えば正面側の端面である。測定子高さH2は、外輪12の一方の端面と測定子4における球体の中心とを結ぶ長さである。外輪12と測定子4とが軸方向に相対移動すると、測定子高さ検出部7により、外輪12に対する測定子4の軸方向に沿う移動量や位置が検出される。
【0036】
記録部9は、外輪12について、測定子間距離検出部6により検出された測定子間距離L2と、測定子高さ検出部7により検出された測定子高さH2と、を互いに対応付けて記録する。外輪測定工程S06における記録部9と内輪測定工程S05における記録部9とは共用であってよい。つまり記録部9には、内輪11を計測した際の各種寸法に関する情報と、外輪12を計測した際の各種寸法に関する情報と、がともに記録されている。
【0037】
図7に示すように、外輪測定工程S06では、外輪12における測定子間距離L2、測定子高さH2、及び外輪側接触角θ2を算出する。具体的に、
図6に示すように、ワーク支持部3に外輪12が固定された状態で、測定子4を外輪軌道面12aに沿って移動させる。このとき、記録部9は、測定子4の移動軌跡として、外輪12に対する測定子4の軸方向位置及び径方向位置を互いに対応付けて記録する。さらに記録部9は、
図7に示すように、外輪軌道面12aに沿って測定子4を移動させた場合に、測定子間距離検出部6により検出された測定子間距離L2の微小変化量ΔL2と、対応する位置において測定子高さ検出部7により検出された測定子高さH2の微小変化量ΔH2と、により外輪側接触角θ2を算出する。外輪側接触角θ2は、測定子間距離L2の微小変化量をΔL2、測定子高さH2の微小変化量をΔH2とした場合、次の(2)式により算出される。
θ2=arcTan(ΔH2/ΔL2)・・・(2)
【0038】
よって、記録部9は、外輪12に対する任意の測定子高さH2の位置に関して、そのときの測定子間距離L2及び外輪側接触角θ2を対応付けて記録する。以上により外輪測定工程S06が完了する。
本実施形態では、予め準備(形成)された複数の外輪12に対して、上述した外輪測定工程S06を順次実施する。複数の外輪12は規格やサイズが同等のものであるが、例えば加工誤差等により実測値が個体によって異なるため、全ての外輪12について計測を実施する。
【0039】
(内輪データ記録保管工程)
図2に示すように、内輪測定工程S05の後には、内輪データ記録保管工程S07が実施される。内輪データ記録保管工程S07では、内輪測定工程S05にて測定された複数の内輪11について、内輪11ごとに内輪測定工程S05で測定された測定結果を関連付けて記録するとともに、複数の内輪11を保管する。これらの記録は、上述した測定装置20の記録部9において行われる。なお、測定装置20の記録部9とは別の第二の記録部(不図示)を設けてもよい。この場合、測定装置20の記録部9で記録された情報を第二の記録部が取得できるように構成してもよい。
【0040】
図8は、内輪データ記録保管工程S07において記録されるデータの一例を示す図である。
図8に示すように、内輪データ記録保管工程S07では、まず、測定が完了した複数の内輪11に対して、複数の内輪11同士を互いに識別可能な内輪識別部21を設ける。例えばM個の内輪11を保管する場合、1番からM番までの全ての内輪11に対して互いに異なる内輪識別部21を付与する。内輪識別部21は、カメラやバーコードリーダー等により読み取り可能な形態となっており、例えば二次元コードや刻印、シール等である。内輪識別部21の他の態様として、例えばストッカーに番号付けがされており、このストッカーの番号により識別するようにしてもよい。内輪データ記録保管工程S07では、各々の内輪識別部21と、内輪測定工程S05で測定された測定結果と、が互いに関連付けて記録される。
【0041】
例えば
図8に示す例では、複数の内輪11のうち特定の1個に識別番号X1番の内輪識別部21が付与されている。さらに記録部9には、識別番号X1番の内輪11における測定子間距離L1、測定子高さH1及び内輪側接触角θ1を含む実測値が記録されている。別の内輪11には、識別番号X2番の内輪識別部21が付与されており、記録部9には、識別番号X2番の内輪11における各種実測値が記録されている。このようにして複数の内輪11の全てに対して識別番号X1番からXM番までの内輪識別部21を付与する。これにより、内輪11に付与された内輪識別部21を読み取ることにより、複数の内輪11の個体識別を自動で行うことが可能となっている。
【0042】
(外輪データ記録保管工程)
同様に、外輪測定工程S06の後には、外輪データ記録保管工程S08が実施される。外輪データ記録保管工程S08では、外輪測定工程S06にて測定された複数の外輪12について、外輪12ごとに外輪測定工程S06で測定された測定結果を関連付けて記録するとともに、複数の外輪12を保管する。これらの記録は、上述した測定装置20の記録部9において行われる。
【0043】
図9は、外輪データ記録保管工程S08において記録されるデータの一例を示す図である。
図9に示すように、外輪データ記録保管工程S08では、まず、測定が完了した複数の外輪12に対して、複数の外輪12同士を互いに識別可能な外輪識別部22を設ける。例えばN個の外輪12を保管する場合、1番からN番までの全ての外輪12に対して互いに異なる外輪識別部22を付与する。外輪データ記録保管工程S08では、各々の外輪識別部22と、外輪測定工程S06で測定された測定結果と、が互いに関連付けて記録される。
【0044】
例えば
図9に示す例では、複数の外輪12のうち特定の1個に識別番号Y1番の外輪識別部22が付与されている。さらに記録部9には、識別番号Y1番の外輪12における測定子間距離L2、測定子高さH2及び外輪側接触角θ2を含む実測値が記録されている。別の外輪12には、識別番号Y2番の外輪識別部22が付与されており、記録部9には、識別番号Y2番の外輪12における各種実測値が記録されている。このようにして複数の外輪12の全てに対して識別番号Y1番からYN番までの外輪識別部22を付与する。これにより、外輪12に付与された外輪識別部22を読み取ることにより、複数の外輪12の個体識別を自動で行うことが可能となっている。
【0045】
(選択工程)(差幅推定工程)
図2に示すように、内輪データ記録保管工程S07及び外輪データ記録保管工程S08が完了した後、選択工程S09が実施される。選択工程S09では、内輪データ記録保管工程S07で記録された複数の内輪11及び外輪データ記録保管工程S08で記録された複数の外輪12の中から、内輪11及び外輪12を組み付けた場合の差幅X(
図10参照)が所定の範囲内となるような所定の内輪11及び外輪12の組み合わせを選択する。これらの選択の決定は、例えば記録部9と一体化された制御部26によって実行される。なお、制御部26は記録部9とは別に設けられていてもよい。この場合、制御部26は、記録部9に記録された情報(識別番号と実測値とが対応付けられた情報)を取得可能に構成されてもよい。
【0046】
選択工程S09では、まず、内輪データ記録保管工程S07で保管及び記録されている複数の内輪11のうちのひとつと、外輪データ記録保管工程S08で保管及び記録されている複数の外輪12のうちのひとつと、を組み付けた場合の差幅Xを計算により算出する。
【0047】
図10は、測定子間距離及び測定子高さを用いてアンギュラ玉軸受10の差幅Xを測定する方法を示す説明図である。
図10に示すように、制御部26は、内輪11を測定した際の内輪側接触角θ1と外輪12を測定した際の外輪側接触角θ2とが同等の値(θ1=θ2)となり、かつ内輪11を測定した際の測定子間距離L1と外輪12を測定した際の測定子間距離L2とが同等の値(L1=L2)となるポイントを検出する。制御部26は、このポイントにおける内輪11及び外輪12の測定子高さH1,H2の差分をアンギュラ玉軸受10の一方の端面11b,12bにおける差幅X(正面差幅X)として算出する。換言すれば、θ1=θ2かつL1=L2となるときの測定子間距離L1,L2にそれぞれ対応する内輪11及び外輪12の測定子高さH1,H2の差分をアンギュラ玉軸受10の一方の端面11b,12bにおける差幅Xとする(X=H1-H2)。 なおこのとき、測定子高さH1,H2の差分の絶対値を差幅Xとしてもよい(X=|H1-H2|)。
【0048】
この計算方法により、内輪11及び外輪12を組み付けることなく単体で測定することにより、アンギュラ玉軸受10の一方の端面11b,12bにおける差幅X(正面差幅X)が算出される。内輪11及び外輪12を上下逆にして同様の測定及び計算を実施することにより、背面差幅も測定することが可能である。なお、予め内輪11及び外輪12の軸方向に沿う厚みを計測しておき、この厚みから算出された正面差幅Xを減じることにより背面差幅を計算により算出してもよい。
【0049】
差幅Xが算出されると、次に、算出された差幅Xが所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定する。算出された差幅Xが許容範囲内に収まっている場合、その内輪11とその外輪12との組み合わせについては組み合わせ可能であると判断する。一方、算出された差幅Xが許容範囲内に収まっていない場合、その内輪11とその外輪12との組み合わせについては組み合わせ不可であると判断する。制御部26は、上記の判定が行われた内輪11及び外輪12の組み合わせと、組み合わせの可否の結果と、を対応付けて記録する。ここで、「算出された差幅Xが所定の許容範囲内に収まっている」とは、例えば算出された差幅Xの絶対値が、予め規定された上限値未満であることを指す。或いは、例えば内輪11に対して外輪12が大きい場合の差幅Xを+の値で表し、内輪11に対して外輪12が小さい場合の差幅を-の値で表したとき、算出された差幅Xが-β1以上かつ+β2以下(-β1≦X≦+β2:β2はβ1と同じ又は異なる値)となることを「算出された差幅Xが所定の許容範囲内に収まっている」と定義してもよい。
【0050】
次に、さらに複数の内輪11及び複数の外輪12のうち他の組み合わせについても同様に差幅Xを算出するとともに、組み合わせの可否を判断し、結果を記録する。全ての組み合わせについての判定が完了したら、例えば組み合わせ可能な内輪11及び外輪12の個数が最大となるように一対の内輪11及び外輪12を選択する。
【0051】
さらに本実施形態において、選択工程S09では、内輪識別部21及び外輪識別部22に基づいて、所定の内輪11及び外輪12を自動で選択する。具体的には、例えば内輪識別部21及び外輪識別部22を読み取り可能な読取装置を有するロボットを用いて、制御部26で組み合わせが決められた一対の内輪11及び外輪12を自動でピックアップし、次の組付工程S10に進む。
【0052】
なお、上述した実施形態では、差幅Xを算出(シミュレート)することと、算出された差幅Xが所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定することと、最終的に組み合わせる内輪11及び外輪12を選択することと、をまとめて選択工程S09としたが、これに限られない。上述した選択工程S09のうち一部(例えば差幅Xを算出(シミュレート)すること)を、選択工程S09とは別の差幅推定工程として設けてもよい。この場合、差幅推定工程は、選択工程S09の前に実施されてよい。また、選択工程S09が差幅推定工程を含むようにしてもよい。
【0053】
(組付工程)
組付工程S10では、選択工程S09において選択された内輪11及び外輪12を組み付けてアンギュラ玉軸受10を製造する。
以上の工程を経ることにより、差幅Xが所定の許容範囲内となるアンギュラ玉軸受10が製造される。
本実施形態のアンギュラ玉軸受の製造方法1は、内輪形成工程S01及び外輪形成工程S02から組付工程S10へ至るまでの間に、内輪11及び外輪12を仮組みする工程を有することなくアンギュラ玉軸受10を製造する。また、本実施形態のアンギュラ玉軸受の製造方法1は、内輪測定工程S05及び外輪測定工程S06から組付工程S10へ至るまでの間に、内輪11及び外輪12の研削を行う工程を有することなくアンギュラ玉軸受10を製造する。
【0054】
(作用、効果)
本実施形態のアンギュラ玉軸受の製造方法1によれば、内輪測定工程S05と、外輪測定工程S06と、内輪データ記録保管工程S07と、外輪データ記録保管工程S08と、選択工程S09と、組付工程S10と、を経てアンギュラ玉軸受10が製造される。内輪測定工程S05及び外輪測定工程S06では、内輪11及び外輪12をそれぞれ単体で測定できる。これにより、アンギュラ玉軸受10を組み付けた状態や仮組みした状態で差幅を測定する従来技術と比較して、研磨屑等の異物の混入を抑制し、異物による軌道面11a,12aへの傷の発生や振動騒音の発生を抑制できる。
選択工程S09では、内輪11及び外輪12の測定結果に基づいて、複数の内輪11及び外輪12の中から目標となる差幅Xの寸法を満たす内輪11及び外輪12の組み合わせを選定する。これにより、測定後に内輪11及び外輪12を研削することなく、差幅Xに関する条件を満たすアンギュラ玉軸受10を製造できる。よって、差幅測定後に研削工程を有する従来技術と比較して、アンギュラ玉軸受10の製造工程を簡素化できる。また、選択工程S09では複数の内輪11及び外輪12の中から適当な組み合わせを選択することにより、内輪11や外輪12等の各部品の形成(加工)時に生じる寸法ばらつきを複数の部品の中から選択することによって吸収できる。よって、アンギュラ玉軸受10の製造工程を効率化することができる。
さらに、差幅測定後に内輪11及び外輪12を研削する従来技術と比較して、研削による内輪11及び外輪12の径寸法差やR寸法差に起因する接触角θ1,θ2のバラツキが増大することを抑制できる。
したがって、従来技術と比較して製造工程を効率化できるとともに、従来技術と比較して接触角θ1,θ2のバラツキを抑制することができるアンギュラ玉軸受の製造方法1を提供できる。
【0055】
内輪測定工程S05における測定結果は内輪形成工程S01にフィードバックされ、内輪形成工程S01では、フィードバックされた情報に基づいて内輪11の寸法を調整する。同様に、外輪測定工程S06における測定結果は外輪形成工程S02にフィードバックされ、外輪形成工程S02では、フィードバックされた結果に基づいて外輪12の寸法を調整する。これにより、寸法条件を満たすアンギュラ玉軸受10及びその部品となる内輪11及び外輪12をより安定的に製造できる。
【0056】
本実施形態のアンギュラ玉軸受の製造方法1は、内輪形成工程S01及び外輪形成工程S02から組付工程S10へ至るまでの間に、内輪11及び外輪12を仮組みする工程(仮組工程)を有しない。これにより、差幅測定の前に仮組工程S103(
図11参照)を有する従来技術と比較して、作業工程数を削減できる。よって、従来技術と比較してアンギュラ玉軸受10の製造工程を簡素化し、製造効率を向上できる。
【0057】
本実施形態のアンギュラ玉軸受の製造方法1は、内輪測定工程S05及び外輪測定工程S06から組付工程S10へ至るまでの間に、内輪11及び外輪12の研削工程を有しない。これにより、
図11に示すように測定後に研削工程S106を有する従来技術と比較して、研削工程S106及びその後の2回目の洗浄工程S107を省略できる。よって、従来技術と比較してアンギュラ玉軸受10の製造工程を簡素化し、製造効率を向上できる。
【0058】
内輪データ記録保管工程S07では、複数の内輪11を互いに識別可能な内輪識別部21を内輪11ごとに設け、内輪識別部21と内輪測定工程S05で測定された測定結果とを関連付けて記録する。これにより、各部品についての測定結果を容易に取得することができる。また、内輪11と外輪12とで付与する識別部を異ならせることにより、内輪11と外輪12とを容易に区別できる。さらに選択工程S09では、内輪識別部21及び外輪識別部22に基づいて、所定の内輪11及び外輪12を自動で選択する。これにより、制御部26で選択された一対の内輪11及び外輪12を自動でピックアップし、組付工程S10に速やかに移行できる。よって、アンギュラ玉軸受10の製造を自動化し、アンギュラ玉軸受10の製造に係る効率を向上できる。
【0059】
内輪測定工程S05及び外輪測定工程S06では、内輪11及び外輪12のそれぞれについて、軌道面11a,12aに沿って測定子4を移動させることにより、測定子間距離L1,L2及び測定子高さH1,H2を測定する。また、測定子間距離L1,L2及び測定子高さH1,H2の変化量により接触角θ1,θ2を測定できる。このような方法により内輪11及び外輪12をそれぞれ単体で測定するので、仮組工程S103(
図11参照)を有する従来技術と比較して、アンギュラ玉軸受の製造方法1を簡素化できる。
【0060】
選択工程S09では、内輪側接触角θ1及び外輪側接触角θ2、及び測定子間距離L1,L2がそれぞれ同様の値を示すときの内輪11及び外輪12の測定子高さH1,H2の差分を差幅Xとして算出する。このような計算により、アンギュラ玉軸受10を組むことなく内輪11及び外輪12をそれぞれ単体で測定して差幅Xを測定できる。よって、従来技術と比較して簡素な構成によりアンギュラ玉軸受10の差幅Xを測定できる。また、例えば仮組みを行った後に差幅測定を行う従来技術と比較して、差幅Xの測定にかかる作業工程を簡素化できる。さらに、測定子間距離L1,L2及び測定子高さH1,H2を用いて計算により差幅Xを測定するので、例えば軌道面11a,12aの加工誤差等による接触角の変化が生じた場合であっても、正確に差幅Xを算出することができる。よって、従来技術よりも加工誤差の影響を受けにくい、高精度な差幅測定を行うことができる。
【0061】
測定子4は、内輪11及び外輪12の軌道面11a,12aにおいて径方向に互いに対向するように一対設けられ、一対の測定子4間の距離を計測することにより測定子間距離L1,L2が検出される。これにより、特に径方向に沿う測定子間距離L1,L2の測定をより容易かつ高精度に実施することができる。よって、差幅Xの測定に係る作業性を向上できる。また、内輪11の測定時と外輪12の測定時とで共通の測定子4を使うことができるので、測定装置20の構成を簡素化できる。よって、アンギュラ玉軸受10の製造に係るコストの増加を抑制できる。
【0062】
アンギュラ玉軸受の製造方法1は、選択工程S09における少なくとも組み合わせる内輪11及び外輪12を選択する工程の前に実施される差幅推定工程を備える。差幅推定工程では、内輪データ記録保管工程で記録された内輪の測定データ及び外輪データ記録保管工程で記録された外輪の測定データに基づいて、複数の内輪のひとつと複数の外輪のひとつとを組み付けた場合の差幅をシミュレートすることにより推定する。このようなシミュレーションを実施することにより、従来技術のように仮組み及び分解の工程が不要となり、製造工程を効率化できる。
【0063】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態では、選択工程S09において、組み合わせ可能な内輪11及び外輪12の個数が最大となるように一対の内輪11及び外輪12を選択したが、一対の内輪11及び外輪12を選択する具体的な方法はこれに限られない。例えば全ての組み合わせについての判定が完了した後、特に最適な組み合わせを優先的に選択してもよい。特に最適な組み合わせとは、例えば差幅Xが目標差幅の値そのものとなる内輪11及び外輪12の組み合わせである。或いは、差幅Xの許容範囲を複数段階(例えば最も条件が厳しい第1許容範囲から条件が比較的緩い第3許容範囲までの3段階)に設定し、算出された差幅Xが第1許容範囲内に収まる組み合わせを優先的に選択してもよい。
【0064】
上述の実施形態では、選択工程S09において、始めに全ての内輪11及び外輪12の組み合わせについて差幅Xを算出したが、これに限られない。例えば識別番号X1番の内輪11に対して、識別番号Y1番の外輪12、識別番号Y2番の外輪12・・・と順番に差幅Xを算出し、組み合わせ可能な外輪12が見つかった時点で、識別番号X1番の内輪11及び対応する外輪12を組み合わせとして選択してもよい。この場合、既に選択された内輪11及び外輪12を以降の計算で使用しないようにしてもよい。
【0065】
上述の実施形態では、内輪データ記録保管工程S07及び外輪データ記録保管工程S08において部品に識別部21,22を付与する構成としたが、識別部21,22を付与するタイミングは実施形態のタイミングに限定されない。例えば内輪洗浄工程S03が完了して内輪測定工程S05が開始される前のタイミングで識別部21,22を付与してもよい。
【0066】
上述の実施形態では一対の測定子4,4が設けられる構成としたが、これに限られない。例えば測定子4が1個のみ設けられてもよい。この場合、始めにワークである内輪11又は外輪12の径方向の中心位置を検出し、その中心位置と測定子4の位置とに基づいて測定子間距離L1,L2を算出してもよい。また、3個以上の測定子4が設けられてもよい。この場合、複数の測定子4は、内輪11又は外輪12の周方向において互いに等間隔に離間して設けられてもよい。
【0067】
記録部9には、測定子間距離L1,L2、測定子高さH1,H2、及び接触角θ1,θ2に加え、さらに他の情報が記録されていてもよい。同様に、内輪測定工程S05及び外輪測定工程S06において、測定子間距離L1,L2及び測定子高さH1,H2以外の寸法をさらに計測してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 アンギュラ玉軸受の製造方法
4 測定子
10 アンギュラ玉軸受
11 内輪
11a 内輪軌道面
12 外輪
12a 外輪軌道面
21 内輪識別部
22 外輪識別部
S01 内輪形成工程
S02 外輪形成工程
S03 内輪洗浄工程
S04 外輪洗浄工程
S05 内輪測定工程
S06 外輪測定工程
S07 内輪データ記録保管工程
S08 外輪データ記録保管工程
S09 選択工程
S10 組付工程
H1 測定子高さ(第二寸法)
ΔH1 測定子高さの微小変化量(第二寸法の変化量)
H2 測定子高さ(第四寸法)
ΔH2 測定子高さの微小変化量(第四寸法の変化量)
L1 測定子間距離(第一寸法)
ΔL1 測定子間距離の微小変化量(第一寸法の変化量)
L2 測定子間距離(第三寸法)
ΔL2 測定子間距離の微小変化量(第三寸法の変化量)
θ1 内輪側接触角
θ2 外輪側接触角
X 差幅