(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151058
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】熱交換器コア及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20241017BHJP
F28F 1/32 20060101ALI20241017BHJP
F28F 19/06 20060101ALI20241017BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20241017BHJP
F28D 1/053 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C22C21/00 J
F28F1/32 G
F28F19/06 A
F28F21/08 A
F28D1/053 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064179
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 友貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一
(72)【発明者】
【氏名】小路 知浩
(72)【発明者】
【氏名】土公 武宜
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA12
3L103BB38
3L103BB39
3L103CC02
3L103CC17
3L103CC18
3L103CC22
3L103DD08
3L103DD34
3L103DD85
3L103DD97
(57)【要約】
【課題】優れた耐食性を有する熱交換器コア及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱交換器コア1は、フィン2と、チューブ3と、フィン2とチューブ3とを接合するろう付接合4とを有している。フィン2は、Si:2.0~3.0質量%、Fe:0.05~1.2質量%、Cu:0.25質量%以下、Mn:0.3~1.8質量%、Zn:0.3~5.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている。チューブ3は、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材から構成されている。チューブ3の外表面には犠牲陽極層31が形成されている。犠牲陽極層31の自然電極電位、チューブ3の内表面の自然電極電位、ろう付接合4におけるフィレットの自然電極電位及びフィン2の自然電極電位が特定の条件を満たしている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、
Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブと、
前記フィンと前記チューブとを接合するろう付接合と、を有し、
前記チューブの外表面には、前記チューブの内表面よりも低い自然電極電位を有する犠牲陽極層が形成されており、
(1)前記犠牲陽極層の自然電極電位、前記ろう付接合におけるフィレットの自然電極電位及び前記フィンの自然電極電位のうち最も高い自然電極電位を基準としたときの前記チューブの内表面の自然電極電位が+80mV以上である、(2)前記フィレットの自然電極電位を基準としたときの前記犠牲陽極層の自然電極電位が+80mV以下である、(3)前記フィン、前記フィレット及び前記犠牲陽極層のそれぞれの自然電極電位と、前記フィンの自然電極電位、前記フィレットの自然電極電位及び前記犠牲陽極層の自然電極電位の平均との電位差の絶対値が50mV以下である、の3つの条件を満たす、熱交換器コア。
【請求項2】
前記フィンは、さらに、Zr:0質量%超え0.3質量%以下、Cr:0質量%超え0.3質量%以下、Ti:0質量%超え0.3質量%以下、V:0質量%超え0.3質量%、Ni:0質量%超え0.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.1質量%以下、In:0質量%超え0.03質量%以下及びSn:0質量%超え0.1質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる、請求項1に記載の熱交換器コア。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱交換器コアの製造方法であって、
Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上4.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブとを交互に重ね合わせて組立体を組み立て、
前記組立体を加熱し、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で前記組立体のろう付を行うことにより前記フィンと前記チューブとの間に前記ろう付接合を形成するとともに、前記チューブの外表面に前記犠牲陽極層を形成する、熱交換器コアの製造方法。
【請求項4】
前記フィンは、さらに、Zr:0質量%超え0.3質量%以下、Cr:0質量%超え0.3質量%以下、Ti:0質量%超え0.3質量%以下、V:0質量%超え0.3質量%、Ni:0質量%超え0.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.1質量%以下、In:0質量%超え0.03質量%以下及びSn:0質量%超え0.1質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる、請求項3に記載の熱交換器コアの製造方法。
【請求項5】
外表面にZn溶射皮膜が設けられた前記チューブを用いて前記組立体を組み立てる、請求項3に記載の熱交換器コアの製造方法。
【請求項6】
ろう付後における前記フィン中のZnの含有量が、ろう付前における前記フィン中のZnの含有量に対して0.1質量%以上高い、請求項3に記載の熱交換器コアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器コア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のラジエータや自動車に組み込まれる空気調和装置のコンデンサ及びエバポレータなどには、アルミニウム合金製のパラレルフロー型熱交換器が用いられている。この種の熱交換器は、伝熱媒体が流通可能に構成された複数のチューブと、複数のフィンとを含む熱交換器コアを有している。パラレルフロー型熱交換器のコアにおいて、チューブとフィンとは交互に積層されており、ろう付接合を介して互いに接合されている。
【0003】
従来、熱交換器コアのフィンとしては、心材の少なくとも一方の面上にろう材が設けられたブレージングシートが多用されている。一方、近年では、相手材との間にろう付接合を形成する機能を有する単層のアルミニウム合金材をフィンとして用いることが提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、Si:1.0~5.0mass%、Fe:0.01~2.0mass%、Mn:0.05~2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、液相率が5%以上35%以下となる温度において単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、熱交換器コアの耐食性を向上させる方法として、チューブの外表面にZn溶射皮膜を形成することにより、チューブの外表面をチューブの内部に対する犠牲陽極として機能させる方法が知られている。しかし、Zn溶射皮膜を設けたチューブと、特許文献1の熱交換器用フィン材とを組み合わせる場合、ろう付接合やフィン材の腐食が早期に進行し、熱交換器コアの耐食性の低下を招くことがあった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた耐食性を有する熱交換器コア及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、Si(シリコン):2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe(鉄):0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu(銅):0質量%以上0.25質量%以下、Mn(マンガン):0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn(亜鉛):0.3質量%以上5.0質量%以下を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、
Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブと、
前記フィンと前記チューブとを接合するろう付接合と、を有し、
前記チューブの外表面には、前記チューブの内表面よりも低い自然電極電位を有する犠牲陽極層が形成されており、
(1)前記犠牲陽極層の自然電極電位、前記ろう付接合におけるフィレットの自然電極電位及び前記フィンの自然電極電位のうち最も高い自然電極電位を基準としたときの前記チューブの内表面の自然電極電位が+80mV以上である、(2)前記フィレットの自然電極電位を基準としたときの前記犠牲陽極層の自然電極電位が+80mV以下である、(3)前記フィン、前記フィレット及び前記犠牲陽極層のそれぞれの自然電極電位と、前記フィンの自然電極電位、前記フィレットの自然電極電位及び前記犠牲陽極層の自然電極電位の平均との電位差の絶対値が50mV以下である、の3つの条件を満たす、熱交換器コアにある。
【0009】
また、本発明の他の態様は、前記の態様の熱交換器コアの製造方法であって、
Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上4.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブとを交互に重ね合わせて組立体を組み立て、
前記組立体を加熱し、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で前記組立体のろう付を行うことにより前記フィンと前記チューブとの間に前記ろう付接合を形成するとともに、前記チューブの外表面に前記犠牲陽極層を形成する、熱交換器コアの製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
前記熱交換器コアにおけるフィンは、前記特定の化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている。前記熱交換器コアは、少なくとも、前記特定の化学成分を有するフィンを用いることにより、前記犠牲陽極層の表面、前記チューブの内表面、前記ろう付接合のフィレット及び前記フィンの自然電極電位を、従来の熱交換器コアでは実現が困難であった前記3つの条件の全てを満たすように調整することができる。そして、熱交換器コアにおける各部位の自然電極電位を前記の態様とすることにより、熱交換器コアの耐食性を向上させることができる。
【0011】
また、前記熱交換器コアの製造方法においては、前記特定の化学成分を有するフィンと、チューブとを組み合わせて組立体を作製した後、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で組立体のろう付を行う。ろう付雰囲気中の亜鉛蒸気は、フィン及びろう付接合の自然電極電位を適度に卑化させることができる。さらに、ろう付雰囲気中の亜鉛蒸気は、チューブの外表面に犠牲陽極層を形成することができる。
【0012】
このように、単に前記特定のフィンを用いるだけではなく、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で組立体のろう付けを行うことにより、熱交換器コアの各部位の自然電極電位を従来の熱交換器コアでは実現できなかった前記3つの条件がすべて満たされるように調整することができる。その結果、優れた耐食性を有する熱交換器コアを容易に得ることができる。
【0013】
以上のように、前記の態様によれば、優れた耐食性を有する熱交換器コア及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例おける熱交換器コアの平面図である。
【
図3】
図3は、実施例におけるチューブの断面図である。
【
図4】
図4は、実験例におけるミニコア試験体の斜視図である。
【
図5】
図5は、実験例における自然電極電位の測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(熱交換器コア)
前記熱交換器コアは、フィンと、チューブとを有している。また、フィンとチューブとの間に両者を接合するろう付接合が形成されている。熱交換器コアは、例えば、フィンとチューブとが交互に積層された、いわゆるパラレルフロー型熱交換器のコアとして構成されていてもよい。また、熱交換器コアには、フィン及びチューブに加え、さらに、複数のフィンのうち最も外側に位置するフィンに接合されたサイドプレートや、チューブの両端に取り付けられたヘッダなどが設けられていてもよい。
【0016】
〔フィン〕
熱交換器コアのフィンは、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金の単一の層から構成されている。フィンの厚みは、例えば0.04mm以上0.15mm以下の範囲内から適宜設定することができる。
【0017】
以下、フィンの化学成分及びその限定理由について説明する。
【0018】
・Si
フィン中には、必須成分として、2.0質量%以上3.0質量%以下のSiが含まれている。フィン中のSiの含有量を2.0質量%以上とすることにより、ろう付加熱によってAl及びSiを含む融液を生成し、フィンとチューブとの間にろう付接合を形成することができる。Siの含有量は、2.1質量%以上であることが好ましく、2.2質量%以上であることがより好ましく、2.3質量%以上であることがさらに好ましい。この場合には、ろう付加熱によって生じる融液の量をより多くし、ろう付性をより向上させることができる。Siの含有量が2.0質量%未満の場合は、ろう付加熱によって生じる融液の量が不足するため、ろう付性の悪化を招くおそれがある。
【0019】
一方、Siの含有量が過度に多くなると、ろう付加熱の際にフィンの融解量が多くなり、フィンの強度の低下を招くおそれがある。その結果、ろう付中に、熱交換器コアの形状が維持できなくなるおそれがある。かかる問題を回避する観点から、Siの含有量は3.0質量%以下とする。同様の観点から、Siの含有量は2.9質量%以下とすることが好ましく、2.8質量%以下とすることがより好ましく、2.7質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0020】
前記フィン中のSiの含有量の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述したSiの含有量の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、前記フィン中のSiの含有量の好ましい範囲は、2.1質量%以上2.9質量%以下であってもよく、2.2質量%以上2.8質量%以下であってもよく、2.3質量%以上2.7質量%以下であってもよい。
【0021】
・Fe
フィン中には、必須成分として、0.05質量%以上1.2質量%以下のFeが含まれている。Feの一部は、Alマトリクス中に固溶してフィンの強度を向上させる作用を有している。また、Feの残部は、晶出物としてAlマトリクス中に分散しており、常温及び高温におけるフィンの強度を向上させる作用を有している。さらに、Feは、前記フィンの結晶粒を微細化させる作用を有している。前記フィンの結晶粒を微細化させることにより、ろう付加熱中に結晶粒界から融液が染み出しやすくなり、ろう付性を向上させることができる。
【0022】
従って、フィン中のFeの含有量を0.05質量%以上とすることにより、フィンの強度及びろう付性を向上させることができる。フィンの強度及びろう付性をより向上させる観点からは、フィン中のFeの含有量は0.07質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.13質量%以上であることがさらに好ましく、0.15質量%以上であることが特に好ましい。フィン中のFeの含有量が0.05質量%未満の場合には、前述した効果の低下を招くおそれがある。
【0023】
一方、Feの含有量が過度に多くなると、鋳造時に粗大な金属間化合物が形成されやすくなり、フィンの製造性の低下を招くおそれがある。フィン中のFeの含有量を1.2質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下、特に好ましくは0.4質量%以下とすることにより、フィンへの粗大な金属間化合物の形成を抑制することができる。
【0024】
前記フィン中のFeの含有量の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述したFeの含有量の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、前記フィン中のFeの含有量の好ましい範囲は、0.07質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.10質量%以上0.8質量%以下であってもよく、0.13質量%以上0.6質量%以下であってもよく、0.15質量%以上0.4質量%以下であってもよい。
【0025】
・Cu
フィン中には、任意成分として、0質量%以上0.25質量%以下のCuが含まれていてもよい。フィン中のCuは、Feと同様にAlマトリクス中に固溶してフィンの強度を向上させる作用を有している。また、Cuは、Feと同様に、フィンの結晶粒を微細化させる作用を有している。しかし、Cuの含有量が過度に多くなると、ろう付加熱中にフィンから生じる融液の量が過度に多くなり、高温における強度の低下を招くおそれがある。また、この場合には、フィンの自然電極電位が貴化し、熱交換器コアにおける犠牲防食効果の低下を招くおそれもある。
【0026】
従って、フィン中のCuの含有量を0.25質量%以下とすることにより、高温における強度の低下及び犠牲防食効果の低下を容易に回避することができる。かかる効果をより確実に得る観点からは、フィン中のCuの含有量は、0質量%以上0.20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.15質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上0.10質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%以上0.05質量%以下であることが特に好ましく、0質量%以上0.04質量%以下であることが最も好ましい。
【0027】
・Mn
前記フィン中には、必須成分として、0.3質量%以上1.8質量%以下のMnが含まれている。Mnの一部は、前記フィン中にAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化によって前記フィンの強度を向上させる作用を有する。また、Mnの残部は、Alマトリクス中に固溶し、固溶強化によって前記フィンの強度を向上させる作用を有する。
【0028】
前記フィン中のMnの含有量を0.3質量%以上とすることにより、分散強化及び固溶強化によって前記フィンの強度を向上させることができる。また、フィン中のMnの含有量を0.3質量%以上とすることにより、ろう付加熱中におけるフィンの結晶粒の成長を促進し、ろう付加熱中におけるフィンの変形や座屈の発生を抑制することができる。Mnによるフィンの強度の向上及びろう付け中の変形の抑制の効果をより高める観点からは、Mnの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、0.7質量%以上であることがより好ましく、0.9質量%以上であることがさらに好ましい。Mnの含有量が0.3質量%未満の場合には、前述した効果が低下し、ろう付加熱中に前記フィンの変形や座屈が発生しやすくなるおそれがある。
【0029】
一方、Mnの含有量が過度に多い場合には、前記フィンの製造過程において粗大な金属間化合物が形成されやすくなる。この粗大な金属間化合物を包含したまま圧延を行うと、ピンホールが発生しやすくなるおそれがある。また、Mnの含有量が過度に多くなると、MnとSiとを含む金属間化合物が形成されやすくなり、融液の形成に関与することができるSiの量が不足しやすくなる。その結果、ろう付性の低下を招くおそれがある。これらの問題を容易に回避する観点から、Mnの含有量は1.8質量%以下とする。同様の観点から、Mnの含有量は、1.7質量%以下であることがより好ましく、1.6質量%以下であることがさらに好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
前記フィン中のMnの含有量の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述したMnの含有量の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、前記フィン中のMnの含有量の好ましい範囲は、0.5質量%以上1.7質量%以下であってもよく、0.7質量%以上1.6質量%以下であってもよく、0.9質量%以上1.5質量%以下であってもよい。
【0031】
・Zn
前記フィン中には、必須成分として、0.3質量%以上5.0質量%以下のZnが含まれている。フィン中のZnは、前記フィンから生じる融液の量を多くするとともに、フィンの自然電極電位を卑化させる作用を有している。フィン中のZnの含有量を0.3質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上とすることにより、フィンの自然電極電位Efを、前述した条件を満たす範囲に容易に調整することができる。フィン中のZnの含有量が0.3質量%未満の場合には、フィンの自然電極電位Efが過度に貴化し、犠牲防食効果の低下を招くおそれがある。
【0032】
一方、フィン中のZnの含有量が過度に多くなると、フィンの自然電極電位Efが過度に卑化し、フィンの自己耐食性の低下を招くおそれがある。また、フィン中のZnの含有量が過度に多くなると、フィンの製造過程において割れが発生しやすくなり、生産性の低下を招くおそれがある。フィン中のZnの含有量を5.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下とすることにより、これらの問題を容易に回避することができる。
【0033】
前記フィン中のZnの含有量の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述したZnの含有量の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、前記フィン中のZnの含有量の好ましい範囲は、0.5質量%以上3.5質量%以下であってもよく、0.5質量%以上3.0質量%以下であってもよく、0.7質量%以上2.5質量%以下であってもよく、0.9質量%以上2.0質量%以下であってもよく、0.9質量%以上1.5質量%以下であってもよく、1.0質量%以上1.5質量%以下であってもよい。
【0034】
前記フィン中には、前述した必須成分及びAlの他に、任意成分として、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Ni(ニッケル)、Mg(マグネシウム)、In(インジウム)及びSn(スズ)等の元素が含まれていてもよい。
【0035】
・Zr、Cr、Ti、V
前記フィンには、任意成分として、Zr:0質量%超え0.3質量%以下、Cr:0質量%超え0.3質量%以下、Ti:0質量%超え0.3質量%以下及びV:0質量%超え0.3質量%からなる群より選択される1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。これらの元素は、ろう付加熱中にフィンの結晶粒の成長を促進する作用を有している。それ故、フィン中におけるZrの含有量、Crの含有量、Tiの含有量及びVの含有量をそれぞれ前記特定の範囲内とすることにより、ろう付加熱中におけるフィンの変形や座屈の発生をより効果的に抑制することができる。
【0036】
・Ni
前記フィンには、任意成分として、0質量%超え0.8質量%以下のNiが含まれていてもよい。Niは、前記フィン中に金属間化合物を形成し、分散強化によって前記フィンのろう付後の強度を向上させる作用を有する。一方、Niの含有量が過度に多くなると、前記フィンの自己耐食性の低下を招くおそれがある。前記フィン中のNiの含有量を0質量%超え0.8質量%以下とすることにより、前述した問題を容易に回避しつつ前記フィンの強度をより向上させることができる。
【0037】
・Mg
前記フィンには、任意成分として、0質量%超え0.1質量%以下のMgが含まれていてもよい。Mgは、ろう付後の前記フィン中にMg2Siを形成し、時効硬化によりフィンの強度を向上させる作用を有している。一方、Mgの含有量が過度に多くなると、フラックスを用いてろう付を行う場合にMgとフラックスとが反応し、ろう付性の低下を招くおそれがある。Mgの含有量を0質量%超え0.1質量%以下とすることにより、かかる問題を容易に回避しつつフィンの強度をより向上させることができる。
【0038】
・In、Sn
前記フィンには、任意成分として、In:0質量%超え0.03質量%以下及びSn:0質量%超え0.1質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素が含まれていてもよい。Sn及びInは、Znと同様に前記フィンの電位を卑化させる作用を有している。前記フィン中のSnの含有量及びInの含有量を前記特定の範囲内とすることにより、自己耐食性の低下を回避しつつ前記フィンの電位を調整し、アルミニウム構造体の耐食性をより高めることができる。
【0039】
前記フィンには、前述した任意成分のうち1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。例えば、前記フィンは、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下及びTi:0質量%超え0.30質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。
【0040】
また、前記フィンは、例えば、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.6質量%以下、Cu:0質量%以上0.05質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下及びTi:0質量%超え0.30質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。
【0041】
また、前記フィンは、例えば、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.6質量%以下、Cu:0質量%以上0.04質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下及びTi:0質量%超え0.30質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。
【0042】
また、前記フィンは、例えば、Si:2.2質量%以上2.7質量%以下、Fe:0.13質量%以上0.6質量%以下、Cu:0質量%以上0.04質量%以下、Mn:0.7質量%以上1.6質量%以下、Zn:0.9質量%以上2.0質量%以下及びTi:0質量%超え0.30質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。
【0043】
・その他の元素
前記フィン中には、前述した効果を損なわない範囲内において、前述した必須成分及び任意成分以外の元素が含まれていてもよい。フィン中に含まれ得る元素としては、例えば、Sr、Na及び希土類元素などが挙げられる。これらの元素は、個々の元素の含有量が0.05質量%以下であり、かつ、含有量の合計が0.15質量%以下であれば、前述した作用効果に影響を及ぼさず、不可避的不純物として取り扱うことができる。
【0044】
・フィンの製造方法
前記フィンの製造方法は種々の態様を取り得る。例えば、前記フィンは、展伸加工が施されてなる展伸材であってもよく、鍛造加工が施されてなる鍛造材であってもよい。また、前記フィンは、鋳造により得られる鋳物であってもよい。
【0045】
ろう付性及び強度の向上の観点からは、前記フィンは、展伸材であることが好ましい。展伸材は、その製造過程における加工度が鍛造材や鋳物等に比べて大きいため、製造過程において第二相粒子が分断されやすい。そのため、展伸材からなる前記フィンは、Alマトリクス中に分散したSi粒子やSi系金属間化合物、Al系金属間化合物等の数をより多くすることができる。その結果、ろう付性及び強度をバランスよく向上させることができる。
【0046】
展伸材からなる前記フィンを作製する場合、例えば、双ロール式連続鋳造圧延法や双ベルト式連続鋳造法などの連続鋳造法を採用することができる。連続鋳造法は、DC鋳造法に比べて鋳造時の冷却速度を高くすることができる。そのため、前記フィン中に、多数の微細なSi粒子等の第二相粒子を形成することができる。そして、前記フィン中に多数の微細な第二相粒子を分散させることにより、ろう付加熱中に形成される融液の量を多くし、ろう付性を向上させることができる。
【0047】
双ロール式連続鋳造圧延法により前記フィンを作製する場合、鋳造速度を0.5m/分以上3m/分以下とすることが好ましい。双ロール式連続鋳造圧延法において、鋳造速度を0.5m/分以上とすることにより、鋳造時の冷却速度を十分に高くし、前記フィン中の第二相粒子を容易に微細化することができる。また、鋳造速度を3m/分以下とすることにより、鋳造中に溶湯を十分に冷却して凝固させることができる。
【0048】
また、鋳造時の溶湯の温度は、650℃以上800℃以下であることが好ましく、680℃以上750℃以下であることがより好ましい。溶湯の温度を好ましくは650℃以上、より好ましくは680℃以上とすることにより、溶湯中への巨大な晶出物の形成を回避することができる。また、溶湯の温度を好ましくは800℃以下、より好ましくは750℃以下とすることにより、鋳造中に溶湯を十分に冷却して凝固させることができる。
【0049】
鋳造により得られる圧延板の厚みは、2mm以上10mm以下であることが好ましく、4mm以上8mm以下であることがより好ましい。圧延板の厚みを好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上とすることにより、健全な圧延板を安定して製造することができる。また、圧延板の厚みを好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下とすることにより、鋳造後の圧延板をロールに巻き取りやすくなる。
【0050】
連続鋳造法により得られる圧延板は、そのまま前記フィンとして使用されてもよい。また、圧延板に冷間圧延や熱処理等を施して厚み及び質別を調整することにより、所望の厚み及び質別を備えた前記フィンを得ることもできる。前記フィンは、例えば、質別記号O、H1nまたはH2nで表される質別を有していてもよい。ろう付時のエロージョンを抑制する観点からは、前記フィンは、質別記号H1nまたはH2nで表される質別を有していることが好ましい。
【0051】
また、展伸材からなる前記フィンは、例えば、DC鋳造により鋳塊を作製した後、鋳塊に展伸加工を施す方法により作製されていてもよい。DC鋳造により鋳塊を作製する場合、鋳造速度は20mm/分以上100mm/分以下であることが好ましく、30mm/分以上80mm/分以下であることがより好ましい。DC鋳造において、鋳造速度を好ましくは20mm/分以上、より好ましくは30mm/分以上とすることにより、鋳造時の冷却速度を十分に高くし、前記フィン中の第二相粒子を容易に微細化することができる。また、鋳造速度を好ましくは100mm/分以下、より好ましくは80mm/分以下とすることにより、鋳造中に溶湯を十分に冷却して凝固させることができる。
【0052】
DC鋳造によりスラブを作製する場合、スラブの厚みは600mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましい。この場合には、鋳造時の冷却速度を十分に高くし、前記フィン中の第二相粒子を容易に微細化することができる。
【0053】
DC鋳造により鋳塊を作製した後、鋳塊に展伸加工を行うことにより、所望の形状を備えたフィンを得ることができる。例えば、DC鋳造においてスラブを作製した後、スラブに圧延加工を行うことにより、所望の厚みを有する圧延板からなる前記フィンを得ることができる。圧延加工としては、熱間圧延及び冷間圧延を適宜組み合わせて行えばよい。また、圧延加工を行う前から圧延加工が完了した後までの間に、必要に応じて、均質化処理や焼鈍処理などの熱処理を行い、前記フィンの質別を調整することもできる。前記フィンは、例えば、質別記号O、H1nまたはH2nで表される質別を有していてもよい。ろう付時のエロージョンを抑制する観点からは、前記フィンは、質別記号H1nまたはH2nで表される質別を有していることが好ましい。
【0054】
また、DC鋳造においてビレットを作製した後、ビレットに熱間押出加工を行うことにより所望の断面形状を備えた押出材からなる前記フィンを得ることができる。熱間押出加工を行う前に、必要に応じてビレットに均質化処理を施してもよい。ビレットの鋳造は、ホットトップ鋳造法またはGDC鋳造法等の鋳造法より行われる。
【0055】
前記製造方法において、鋳造時の鋳造原料としては、アルミニウム新地金、中間合金及びアルミニウム廃材を使用することができる。鋳造原料として使用されるアルミニウム廃材には、例えば、廃棄されたアルミニウム製品、廃棄された製品から分離されたアルミニウム製部品、アルミニウム製品やアルミニウム製部品の製造過程で発生する端材及び切りくず等が含まれる。アルミニウム廃材を鋳造原料として用いる場合には、アルミニウム廃材をそのまま溶解してもよい。また、アルミニウム廃材を切断したり、圧縮したりすることによりアルミニウム廃材のサイズを調整した後に溶解してもよい。さらに、アルミニウム廃材から一旦アルミニウム再生地金を作製した後、アルミニウム再生地金を鋳造原料として使用してもよい。
【0056】
〔チューブ〕
前記熱交換器コアにおけるチューブは、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材から構成されている。
【0057】
熱交換器コアにおけるチューブとしては、扁平管や扁平多穴管などの、扁平な断面形状を有する管材を使用することができる。より具体的には、チューブは、互いに間隔をあけて対向して配置された一対の平坦壁部と、平坦壁部の幅方向における両端同士を接続する接続壁部と、を有しており、平坦壁部と接続壁部とによって囲まれた伝熱媒体流路に伝熱媒体を流通可能に構成されていればよい。また、チューブは、さらに、平坦壁部と接続壁部とによって囲まれた内部空間を複数の伝熱媒体流路に区画する隔壁部を有していてもよい。熱交換器コアにおいては、チューブの平坦壁部とフィンとがろう付接合を介して接合されている。
【0058】
チューブの長手方向に垂直な断面における断面形状は特に限定されることはなく、長方形状や長円形状などの種々の態様を取り得る。また、伝熱媒体流路の断面形状も特に限定されることはなく、円形状や長円形状、楕円形状、三角形状、四角形状などの種々の態様を取り得る。
【0059】
チューブを構成するアルミニウム合金押出材の化学成分は、Cuの含有量が前記特定の範囲内であればよい。例えば、チューブを構成するアルミニウム合金押出材は、Cu:0質量%以上0.05質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。チューブ中のCuは、ろう付時にチューブからZn溶射皮膜やろう付接合に拡散し、これらの部分の自然電極電位を貴化させる作用を有しているため、チューブ中のCuの含有量が過度に多くなると、熱交換器コアの各部の自然電極電位のバランスが損なわれ、耐食性の低下を招くおそれがある。従って、チューブ中のCuの含有量を前記特定の範囲内とすることにより、熱交換器コアの耐食性の低下を容易に回避することができる。
【0060】
チューブには、Cuの他に、任意成分として1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。例えば、チューブを構成するアルミニウム合金押出材は、Cu:0質量%以上0.05質量%以下、Si:0.7質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Mn:1.2質量%以下、Ti:0.3質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、チューブを構成するアルミニウム合金押出材は、Cu:0質量%以上0.05質量%以下、超え0.6質量%以下、Si:0.05質量%以上0.7質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.5質量%以下、Mn:0.05質量%以上1.2質量%以下及びTi:0.01質量%以上0.3質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。
【0061】
また、チューブの外表面には、前記チューブの内表面よりも低い自然電極電位を有する犠牲陽極層が形成されている。犠牲陽極層は、例えばZn溶射皮膜であってもよい。犠牲陽極層としてのZn皮膜は、例えば、ろう付前のチューブの外表面に設けられたZn溶射皮膜の一部がろう付後に残存することにより形成される。
【0062】
また、犠牲陽極層は、例えば、周囲よりもZnの濃度の高いZn濃化層であってもよい。犠牲陽極層としてのZn濃化層は、例えば、亜鉛蒸気やZn溶射皮膜に含まれるZn原子がろう付中にチューブの外表面から内部に向かって拡散することにより形成される。なお、犠牲陽極層がZn濃化層である場合、チューブにおける、Zn濃化層とZn濃化層に隣接する層との境界は必ずしも明確でない場合がある。このような場合であっても、犠牲陽極層としてのZn濃化層の表面における自然電極電位Etsが前述した条件を満たしていれば、前述した効果を得ることができる。
【0063】
〔自然電極電位〕
前記熱交換器コアにおけるチューブ、フィン及びろう付接合は、(1)前記犠牲陽極層の自然電極電位、前記ろう付接合におけるフィレットの自然電極電位及び前記フィンの自然電極電位のうち最も高い自然電極電位を基準としたときの前記チューブの内表面の自然電極電位が+80mV以上である、(2)前記フィレットの自然電極電位を基準としたときの前記犠牲陽極層の自然電極電位が+80mV以下である、(3)前記フィン、前記フィレット及び前記犠牲陽極層のそれぞれの自然電極電位と、前記フィンの自然電極電位、前記フィレットの自然電極電位及び前記犠牲陽極層の自然電極電位の平均との電位差の絶対値が50mV以下である、の3つの条件の全てを満たしている。
【0064】
換言すると、前記犠牲陽極層の自然電極電位Ets、前記チューブの内表面の自然電極電位Eti、前記ろう付接合におけるフィレットの自然電極電位Ej及び前記フィンの自然電極電位Efは、下記の3つの条件を全て満たしている。
(1)チューブの内表面の自然電極電位Etiと、犠牲陽極層の自然電極電位Ets、フィレットの自然電極電位Ej及びフィンの自然電極電位Efのうち最も高い自然電極電位Eとの電位差Eti-Eが80mV以上である。
(2)犠牲陽極層の自然電極電位Etsと、フィレットの自然電極電位Ejとの電位差Ets-Ejが80mV以下である。
(3)フィンの自然電極電位Ef、フィレットの自然電極電位Ej及び犠牲陽極層の自然電極電位Etsのそれぞれと、フィンの自然電極電位Ef、フィレットの自然電極電位Ej及び犠牲陽極層の自然電極電位Etsの平均Eavとの電位差Eav-Ef、Eav-Ej、Eav-Etsの絶対値が50mV以下である。なお、フィン、フィレット及び犠牲陽極層の自然電極電位の平均Eavは、フィンの自然電極電位Efと、フィレットの自然電極電位Ejと、犠牲陽極層の自然電極電位Etsとの算術平均値(つまり、(Ef+Ej+Ets)/3)である。
【0065】
このような自然電極電位の関係は、例えば、ブレージングシートやろう付接合を形成する能力を有しない単層のアルミニウム材からなるフィンを用いて得られる従来の熱交換器コアでは実現することが困難である。前述した3つの条件の全てを満たす熱交換器コアは、フィン及びチューブを構成するアルミニウム合金の化学成分を前記特定の範囲内とした上で、ろう付時に亜鉛蒸気の存在下でろう付を行うことにより初めて実現することができる。
【0066】
前記条件(1)は、チューブの内表面の自然電極電位Etiと、犠牲陽極層の自然電極電位Ets、ろう付接合の自然電極電位Ej及びフィンの自然電極電位Efのそれぞれとの電位差を規定している。前記条件(1)を満たすためには、より具体的には、(1-1)チューブの内表面の自然電極電位Etiと犠牲陽極層の自然電極電位Etsとの電位差Eti-Etsが80mV以上である、(1-2)チューブの内表面の自然電極電位Etiとフィレットの自然電極電位Ejとの電位差Eti-Ejが80mV以上である、(1-3)チューブの内表面の自然電極電位Etiとフィンの自然電極電位Efとの電位差Eti-Efが80mV以上である、の3つの条件の全てを満たせばよい。
【0067】
このように、チューブの内表面の自然電極電位Etiを犠牲陽極層、フィン及びろう付接合のいずれに対しても80mV以上高い(つまり、貴な)電位とすることにより、犠牲陽極層、ろう付接合及びフィンをチューブの内表面に対する犠牲陽極として機能させ、チューブの内部の腐食を抑制することができる。前述した電位差Eti-Eが80mV未満の場合、つまり、電位差Eti-Ets、電位差Eti-Ej及び電位差Eti-Efのうちいずれか1つ以上の電位差が80mV未満の場合には、犠牲防食効果が不十分となり、チューブの内部が腐食しやすくなる。その結果、チューブからの伝熱媒体の漏出が早期に起こりやすくなるおそれがある。
【0068】
前記条件(2)は、犠牲陽極層の自然電極電位Etsとろう付接合におけるフィレットの自然電極電位Ejとの電位差Ets-Ejを規定している。犠牲陽極層とフィレットとの電位差Ets-Ejを80mV以下とすることにより、犠牲陽極層とろう付接合との電位のバランスを最適な範囲内とし、ろう付接合の早期の消失を容易に回避することができる。その結果、熱交換器コアからのフィンの脱落を抑制することができる。犠牲陽極層とフィレットとの電位差Ets-Ejが80mVを超える場合には、ろう付接合が熱交換器コアの他の部位よりも腐食しやすくなり、ろう付接合が早期に消失するおそれがある。その結果、フィンが熱交換器コアから早期に脱落しやすくなるおそれがある。
【0069】
前記条件(3)は、フィン、フィレット及び犠牲陽極層のそれぞれの自然電極電位Ef、Ej、Etsと、これらの自然電極電位の平均Eavとの関係を規定している。前記条件(3)を満たすためには、より具体的には、(3-1)前記平均Eavとフィンの自然電極電位Efとの電位差Eav-Efが-50mV以上50mV以下である、(3-2)前記平均Eavとフィレットの自然電極電位Ejとの電位差Eav-Ejが-50mV以上50mV以下である、(3-3)前記平均Eavと犠牲陽極層の自然電極電位Etsとの電位差Eav-Etsが-50mV以上50mV以下である、の3つの条件の全てを満たせばよい。
【0070】
熱交換器コアの各部の自然電極電位が、前記条件(1)~(2)に加え、さらに前記条件(3)を満たすことにより、フィン、ろう付接合及び犠牲陽極層のうちいずれかの部位が他の部位よりも早期に消失することを容易に回避することができる。
【0071】
前述した平均Eavと、フィンの自然電極電位Ef、フィレットの自然電極電位Ej及び犠牲陽極層の自然電極電位Etsのうちいずれか1つ以上の自然電極電位との電位差が-50mV未満となる場合、前記特定の範囲から逸脱した自然電極電位を有する部位が、他の部位よりも腐食しやすくなる。その結果、当該部位が他の部位よりも早期に消失し、熱交換器コアの耐食性の低下を招くおそれがある。また、前述した平均Eavと、フィンの自然電極電位Ef、フィレットの自然電極電位Ej及び犠牲陽極層の自然電極電位Etsのうちいずれか1つ以上の自然電極電位との電位差が50mVを超える場合、前記特定の範囲から逸脱した自然電極電位を有する部位が腐食しにくくなる一方で、当該部位以外の部位が相対的に腐食しやすくなる。その結果、前記特定の範囲から逸脱した自然電極電位を有する部位以外の部位が早期に消失し、熱交換器コアの耐食性の低下を招くおそれがある。
【0072】
以上のように、熱交換器コアにおける各部位の自然電極電位が前記3つの条件の全てを満たすことにより、熱交換器コアの各部位における自然電極電位のバランスを最適な範囲内に調整することができる。その結果、犠牲陽極層、フィン及びろう付接合のうちいずれかの部位が他の部位よりも早期に腐食することを容易に回避し、熱交換器コア全体としての耐食性を向上させることができる。
【0073】
(熱交換器コアの製造方法)
前記熱交換器コアは、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上4.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブとを交互に重ね合わせて組立体を組み立て、
前記組立体を加熱し、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で前記組立体のろう付を行うことにより前記フィンと前記チューブとの間に前記ろう付接合を形成するとともに、前記チューブの外表面に前記犠牲陽極層を形成することにより得られる。
【0074】
熱交換器コアの作製に用いられるフィンの化学成分は、ろう付後の熱交換器コアにおけるフィンの化学成分と同様である。従って、ろう付前のフィンに含まれる元素の種類、含有量及びその効果については、前述したろう付後の熱交換器コアにおけるフィンの説明を適宜参照することができる。
【0075】
また、熱交換器コアの作製に用いられるチューブの構成は、外表面に犠牲陽極層が形成されていない以外は、ろう付後の熱交換器コアにおけるチューブの構成と同様である。従って、ろう付前のチューブに含まれる元素の種類、含有量及びその効果については、前述したろう付後の熱交換器コアにおけるチューブの説明を適宜参照することができる。
【0076】
前記熱交換器コアの製造方法においては、チューブとフィンとを交互に重ね合わせて組立体を組み立てた後、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で組立体を加熱してろう付を行う。ろう付時の雰囲気は、より具体的には、例えば、亜鉛蒸気を含む非酸化性ガス雰囲気であってもよい。非酸化性ガスとしては、例えば、窒素やアルゴンなどを用いることができる。また、ろう付時の雰囲気は、亜鉛蒸気を含む減圧雰囲気であってもよい。
【0077】
前記組立体をろう付する際の加熱温度は、フィンの液相率、つまり、ろう付前のフィンの質量に対するフィンから生じる融液の質量の比が5質量%を超え35質量%以下となるように設定することが好ましく、7質量%以上25質量%以下となるように設定することがより好ましい。加熱中のフィンの液相率を前記特定の範囲内とすることにより、加熱中のフィンの強度の低下を抑制しつつ、フィンから十分な量の融液を生じさせ、チューブとの間にろう付接合を容易に形成することができる。
【0078】
また、前記組立体をろう付する際の加熱温度の保持時間は、前記フィンの液相率が5質量%以上となる時間が30秒以上3600秒以下となるように設定することが好ましく、60秒以上1800秒以下となるように設定することがより好ましい。ろう付時の保持時間を前記特定の範囲内とすることにより、加熱中のフィンの強度の低下を抑制しつつ、フィンから生じた融液を、フィンとチューブとの間に十分に充填することができる。なお、フィンとチューブとの接合においては、フィンの全面から融液が生じるため、フィンとチューブとの間に形成されるろう付接合の面積とは無関係に保持時間の長さを設定することができる。
【0079】
より具体的には、例えば、ろう付における加熱温度は、580℃以上620℃以下の範囲から適宜設定することができる。また、前記加熱温度の保持時間は、例えば0分以上10分以下、好ましくは30秒以上5分以下の範囲から適宜設定することができる。ここで、保持時間とは、加熱温度が所望の温度に達した時点からの経過時間をいう。加熱温度の保持時間が0分の場合には、加熱温度が所望の時間に達した後、直ちに加熱を終了して熱交換器コアの冷却を開始すればよい。
【0080】
前述したフィンの液相率は、所望の温度における平衡状態図に基づき、てこの原理(lever rule)に基づいて決定することができる。液相率の算出に用いる平衡状態図としては、公知となっている平衡状態図を用いてもよく、平衡状態図を算出するためのソフトウェアにより作成された平衡状態図を用いてもよい。この種のソフトウェアとしては、例えば、Thermo-CalcSoftwareAB社製の熱力学計算システム「Thermo-Calc(登録商標)」等を使用することができる。
【0081】
また、ろう付を行う前に、組立体におけるろう付接合を形成しようとする部分に予めフラックスを配置し、その後に組立体を加熱してろう付を行ってもよい。フラックスとしては、例えば、KAlF4、K2AlF5、K2AlF5・H2O、K3AlF6、AlF3、KZnF3及びK2SiF6等のフッ化物系フラックスや、Cs3AlF6、CsAlF4・2H2O、Cs2AlF5・H2O等のセシウム系フラックス、塩化物系フラックス等のアルミニウムのろう付用フラックスとして用いられる化合物を使用することができる。
【0082】
前記製造方法において、組立体を加熱すると、フィンから微量の融液が生じる。この融液が表面張力によってフィンとチューブとの当接部に集まることにより、フィンとチューブとの間にフィレットを備えたろう付接合が形成される。
【0083】
また、前記製造方法においては、亜鉛蒸気を含む雰囲気中でろう付が行われる。このように、亜鉛蒸気の存在下でろう付を行うことにより、チューブの表面に犠牲陽極層を形成することができる。さらに、亜鉛蒸気中のZn原子は、ろう付接合の形成過程において、フィンから生じる融液に容易に溶け込むことができる。そのため、フィンとチューブとの当接部に集まった融液にZn原子が溶け込むことにより、ろう付接合の自然電極電位を適度に卑化させることができる。また、フィンから生じた融液はごく微量であるため、フィンとチューブとの当接部から離れた位置に存在する融液は、フィンとチューブとの当接部に引き込まれず、フィン上に留まっている。それ故、フィンの融液に溶け込んだZn原子はフィンの内部まで容易に拡散し、フィンの自然電極電位を適度に卑化させることができる。
【0084】
以上のように、前記特定の化学成分を有し、単層でろう付接合を形成可能なアルミニウム合金からなるフィンを用いるとともに、亜鉛蒸気を含む雰囲気中でろう付けを行うことにより、フィン及びろう付接合の自然電極電位を適度に卑化させると共に、チューブの外表面に犠牲陽極層を容易に形成することができる。その結果、前記熱交換器コアをより容易に得ることができる。
【0085】
前記製造方法において、ろう付時に亜鉛蒸気を発生させる方法は特に限定されることはなく、種々の態様を取り得る。例えば、前記製造方法においては、ろう付に用いる加熱炉内に亜鉛を配置し、ろう付時の加熱によって加熱炉内の亜鉛から亜鉛蒸気を発生させる方法を採用することができる。また、後述するように、ろう付前のチューブの外表面にZn溶射皮膜を形成し、ろう付時にZn溶射皮膜から亜鉛蒸気を発生させる方法を採用することもできる。
【0086】
熱交換器コアの作製に用いられるチューブの外表面には、Zn溶射皮膜が設けられていることが好ましい。外表面にZn溶射皮膜が設けられた前記チューブを用いて前記組立体を組み立てた後、ろう付を行うことにより、Zn溶射皮膜中のZn原子をチューブに拡散させ、チューブの外表面に犠牲陽極層をより容易に形成することができる。さらに、Zn溶射皮膜は、ろう付時に加熱されることによって亜鉛蒸気を発生させることができる。この亜鉛蒸気がフィンやろう付接合と接触することにより、フィン及びろう付接合の自然電極電位を卑化させることができる。以上の結果、ろう付後の熱交換器コアにおける各部位の自然電極電位をより容易に前記特定の範囲内に調整することができる。
【0087】
チューブの外表面に設けられるZn溶射皮膜におけるZnの付着量は、特に限定されることはないが、例えば3g/m2以上9g/m2以下の範囲から適宜設定することができる。
【0088】
前記製造方法においては、ろう付後における前記フィン中のZnの含有量が、ろう付前における前記フィン中のZnの含有量に対して0.1質量%以上高いことが好ましい。この場合には、ろう付後の熱交換器コアにおける各部位の自然電極電位をより容易に前記特定の範囲内に調整することができる。
【0089】
なお、ろう付後におけるフィン中のZnの含有量とろう付前におけるフィン中のZnの含有量との差は、例えば、ろう付時の雰囲気における亜鉛蒸気の濃度によって調整することができる。例えば、ろう付後におけるフィン中のZnの含有量をより多くしようとする場合には、ろう付時の雰囲気中の亜鉛蒸気の濃度を高くすればよい。また、ろう付時の雰囲気における亜鉛蒸気の濃度は、例えば、加熱炉内に配置される亜鉛の総量によって容易に調整することができる。例えば、ろう付時の雰囲気における亜鉛蒸気の濃度を高くしようとする場合には、加熱炉内に配置される亜鉛及び/またはチューブの外表面に設けられるZn溶射皮膜の量を多くすればよい。
【実施例0090】
(実施例)
前記熱交換器コア及びその製造方法の実施例を、
図1~
図3を参照しつつ説明する。本例の熱交換器コア1は、
図1及び
図2に示すように、フィン2と、チューブ3と、フィン2とチューブ3とを接合するろう付接合4とを有している。フィン2は、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている。
【0091】
チューブ3は、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材から構成されている。
図2に示すように、チューブ3の外表面には、チューブ3の内表面よりも低い自然電極電位を有する犠牲陽極層31が形成されている。また、熱交換器コア1は、(1)犠牲陽極層31の自然電極電位、ろう付接合4におけるフィレットの自然電極電位及びフィン2の自然電極電位Efのうち最も高い自然電極電位を基準としたときのチューブ3の内表面の自然電極電位が+80mV以上である、(2)フィレットの自然電極電位を基準としたときの犠牲陽極層31の自然電極電位が+80mV以下である、(3)フィン2、フィレット及び犠牲陽極層31のそれぞれの自然電極電位と、フィン2の自然電極電位、フィレットの自然電極電位及び犠牲陽極層31の自然電極電位の平均との電位差の絶対値が50mV以下である、の3つの条件を満たしている。
【0092】
本例の熱交換器コア1は、
図1に示すように、複数のフィン2と複数のチューブ3とを有しており、フィン2とチューブ3とが交互に積層された、いわゆるパラレルフロー型熱交換器のコアとして構成されている。本例の熱交換器コア1におけるフィン2は、プレス加工によってコルゲート形状が付与されており、
図2に示すように、U字状に湾曲した複数のフィン頂部21と、フィン頂部21同士の間を接続するフィン中間部22とから構成されている。また、チューブ3は、
図3に示すように、互いに間隔をあけて対向して配置された一対の平坦壁部32と、平坦壁部32の幅方向における両端同士を接続する接続壁部33と、平坦壁部32と接続壁部33とによって囲まれた内部空間を複数の伝熱媒体流路34に区画する隔壁部35と、を備えた押出多穴管から構成されている。そして、
図2に示すように、フィン2のフィン頂部21とチューブ3の平坦壁部32とがろう付接合4を介して接合されている。
【0093】
図1に示すように、本例の熱交換器コア1は、複数のチューブ3の両端に取り付けられたヘッダタンク11と、複数のフィン2のうち積層方向における最も外側のフィン2に接合されたサイドプレート12とを有していてもよい。ヘッダタンク11の内部空間は、チューブ3の伝熱媒体流路34に伝熱媒体を流通可能に構成されている。ヘッダタンク11は、ヘッダタンク11内の伝熱媒体を複数のチューブ3に分配し、またはチューブ3から導出された伝熱媒体をヘッダタンク11において合流させることができる。
【0094】
図には示さないが、ヘッダタンク11とチューブ3とはろう付接合を介して接合されている。ヘッダタンク11とチューブ3との接合方法は特に限定されることはなく、公知の方法によりろう付接合を形成すればよい。例えば、ろう付前のヘッダタンク11を、心材と心材の少なくとも片面上に積層されたろう材とを備えたブレージングシートから構成し、ヘッダタンク11のろう材によってろう付接合4を形成する方法を採用することができる。また、ヘッダタンク11とチューブ3との間に別途ろう材を配置し、このろう材によってろう付接合を形成してもよい。
【0095】
また、サイドプレート12とフィン2とは、ろう付接合4を介して接合されている。
【0096】
本例の熱交換器コア1の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上4.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィン2と、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブ3とを交互に重ね合わせて積層体を作製する。この積層体におけるチューブ3の両端にヘッダタンク11を取り付けるとともに、複数のフィン2のうち最も外側に位置するフィン2にサイドプレート12を当接させることにより、組立体を得る。
【0097】
次に、組立体を加熱し、亜鉛蒸気を含む雰囲気中でろう付を行う。以上により、
図1に示す熱交換器コア1を得ることができる。
【0098】
次に、本例の作用効果を説明する。本例の熱交換器コア1におけるフィン2は、前記特定の化学成分を有するアルミニウム合金から構成されている。熱交換器コア1は、少なくとも、前記特定の化学成分を有するフィン2を用いることにより、各部位の自然電極電位が前記3つの条件の全てを満たす熱交換器コア1を得ることができる。そして、熱交換器コア1における各部位の自然電極電位を前記の態様とすることにより、熱交換器コア1の耐食性を向上させることができる。
【0099】
また、前記熱交換器コア1の製造方法においては、前記特定の化学成分を有するフィン2と、チューブ3とを組み合わせて組立体を作製した後、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で組立体のろう付を行う。ろう付雰囲気中の亜鉛蒸気は、フィン2及びろう付接合4の自然電極電位を適度に卑化させることができる。さらに、ろう付雰囲気中の亜鉛蒸気は、チューブ3の外表面に犠牲陽極層31を形成することができる。このように、亜鉛蒸気によって熱交換器コア1の各部位の電位が調整されることにより、各部位の自然電極電位が前述した3つの条件の全てを満たす熱交換器コア1を容易に得ることができる。
【0100】
(実験例)
本例では、熱交換器コア1を模擬したミニコア試験体S1を用いて耐食性の評価を行う例を説明する。なお、本例において用いる符号のうち、既出の実施例において用いた符号と同一の符号は、既出の実施例における構成要素と同一の構成要素等を示す。
【0101】
図4に示すように、ミニコア試験体S1は、互いに間隔をあけて配置された2本のチューブ3(3a、3b)と、2本のチューブ3の間に介在するフィン2とを有している。また、チューブ3の平坦壁部32はフィン2のフィン頂部21と当接しており、チューブ3とフィン2との間にろう付接合4が形成されている。
【0102】
ミニコア試験体S1の作製に用いるチューブ3は、具体的には、表1に示す化学成分を有するアルミニウム合金押出材から構成された扁平多穴管である。なお、表1における「Bal.」は残部であることを示す記号である。チューブ3の幅は14mmであり、長さは40mmであり、平坦壁部32、接続壁部33及び隔壁部35の厚みはいずれも0.2mmである。また、チューブ3の外表面には、予めZn溶射皮膜が形成されている。Zn溶射皮膜におけるZn原子の付着量は約8g/m2である。
【0103】
ミニコア試験体S1の作製に用いるフィン2は、具体的には、表1に示す化学成分を有するアルミニウム合金からなる単層構造のコルゲートフィンである。また、フィン2の厚みは0.08mmであり、フィン頂部21の間隔は3mmであり、フィン2の高さは10mmである。2本のチューブ3のうち、第1のチューブ3aと当接するフィン頂部21の数は11であり、第2のチューブ3bと当接するフィン頂部21の数は12である。
【0104】
ミニコア試験体S1を作製するに当たっては、まず、チューブ3とフィン2とを重ね合わせた後、チューブ3とフィン2との当接部にフラックスを塗布して組立体を作製する。この組立体10個を加熱炉に入れた後、組立体の周囲に亜鉛を配置する。さらに、亜鉛蒸気を組立体の周囲に滞留させるために、10個の組立体及び亜鉛に覆いを被せる。その後、組立体を不活性ガス雰囲気中で加熱し、亜鉛及びZn溶射皮膜から亜鉛蒸気を発生させつつ、亜鉛蒸気の存在下で組立体のろう付を行う。以上によりミニコア試験体S1を得ることができる。
【0105】
このようにして得られるミニコア試験体S1のフィン2中のZnの含有量は、ろう付時の亜鉛蒸気との接触により、ろう付前のフィン2中のZnの含有量に比べて多くなる。例えば、本例のミニコア試験体S1においては、ろう付後におけるフィン2中のZnの含有量を、ろう付前のフィン2中のZnの含有量よりも0.47質量%多い1.95質量%とすることができる。なお、ろう付後におけるフィン2中のZnの含有量の測定は、例えば、電子線プローブマイクロアナライザ(つまり、EPMA)を用いて行うことができる。EPMAを用いてフィン2中のZnの含有量を測定する場合、具体的には、ミニコア試験体S1の中心部においてフィン2の表面の線分析を行い、得られたZn濃度のプロファイルの平均値をZnの含有量とすればよい。
【0106】
表2に、ミニコア試験体S1の各部位の自然電極電位及び耐食性を示す。なお、表2に示すミニコア試験体R1は、ミニコア試験体S1との比較のための試験体である。ミニコア試験体R1は、フィン2として、心材の両面にろう材が積層された両面ブレージングシートが用いられている点を除き、ミニコア試験体S1と同様の構成を有している。ミニコア試験体R1のフィン2における心材及びろう材の化学成分は、表1に示す通りである。また、ろう付前の両面ブレージングシートの厚みは0.08mmであり、ろう材のクラッド率はそれぞれ10%である。また、ミニコア試験体R1の作製方法は、単層のアルミニウム合金からなるフィン2に替えて両面ブレージングシートを用いる以外は、ミニコア試験体S1の製造方法と同様である。なお、ミニコア試験体R1のろう付後におけるフィン中のZnの含有量は、ろう付前のフィンの心材中のZnの含有量よりも0.28質量%少ない1.20質量%となる。
【0107】
表2に示した自然電極電位の測定方法及び耐食性の評価方法は以下の通りである。
【0108】
・犠牲陽極層31の自然電極電位Ets
ろう付後のミニコア試験体S1、R1からフィン2を切除し、第1のチューブ3aを取り外す。このチューブ3aの犠牲陽極層31において、いずれか1か所のろう付接合4から当該ろう付接合4の隣のろう付接合4までの間の領域を特定し、この領域を電位測定領域とする。すなわち、電位測定領域は、第1のチューブ3aの外表面における、1ピッチのフィンに対面する領域である。
【0109】
以上のように電位測定領域を特定した後、電位測定領域以外の部分をシーラントで被覆する。その後、以下のようにして電位測定領域の自然電極電位の測定を行う。自然電極電位の測定には、
図5に示す測定装置5を使用する。測定装置5は、チューブ3を浸漬するための溶液を入れる第1の容器51と、参照電極54を浸漬するための溶液を入れる第2の容器52と、第1の容器51内の溶液と第2の容器52内の溶液とを電気的に接続するための塩橋53と、参照電極54に対する電位測定領域の電位を測定及び記録するためのエレクトロメータ55と、を有している。なお、
図5においては、チューブ3の形状を模式的に示した。
【0110】
自然電極電位の測定は、以下のようにして行われる。まず、第1の容器51内に酢酸を用いてpHを3に調整した5%NaCl水溶液を準備するとともに、第2の容器52内に飽和NaCl水溶液を準備する。そして、第1の容器51内の溶液と第2の容器52内の溶液とを塩橋53を介して電気的に接続する。なお、各溶液の温度は室温とする。
【0111】
次に、エレクトロメータ55にチューブ3及び参照電極54を電気的に接続する。なお、参照電極54としては、例えば、飽和カロメル電極(いわゆるSCE)を使用することができる。
【0112】
この状態で第1の容器51内の溶液を攪拌しながらチューブ3の電位測定領域Mを浸漬するととともに、第2の容器52内の飽和NaCl水溶液に参照電極54を浸漬することにより、参照電極54を基準としたときのチューブ3の電位測定領域Mの自然電極電位(単位:mV vs SCE)を測定することができる。そして、測定開始から20時間経過した時点から24時間経過した時点までの電位測定領域Mの自然電極電位の算術平均値を、犠牲陽極層31の自然電極電位Etsとする。
【0113】
・チューブ3の内表面の自然電極電位Eti
ろう付後のミニコア試験体S1、R1からフィン2を切除し、第1のチューブ3aを取り外す。このチューブ3aから、フィン頂部21と接合されていない平坦壁部32a、接続壁部33及び隔壁部35を面削することにより、フィン頂部21と接合された平坦壁部32b(
図4参照)の内表面を露出させる。この内表面上に電位測定領域を設定し、電位測定領域以外の部分をシーラントで被覆する。その後、犠牲陽極層31の自然電極電位Etsと同様の方法により、電位測定領域の自然電極電位を測定する。このようにして得られた自然電極電位をチューブ3の内表面の自然電極電位Etiとする。
【0114】
・フィン2の自然電極電位Ef
ろう付後のミニコア試験体S1、R1から第1のチューブ3a及び第1のチューブ3aと接合されたフィン頂部21を切除する。次に、第2のチューブ3bに接合されたフィン2の表面上に電位測定領域を設定し、電位測定領域以外の部分をシーラントで被覆する。その後、犠牲陽極層31の自然電極電位Etsと同様の方法により、電位測定領域の自然電極電位を測定する。このようにして得られた自然電極電位をフィン2の自然電極電位Efとする。
【0115】
・フィレットの自然電極電位Ej
ろう付後のミニコア試験体S1、R1からフィン2を切除し、第1のチューブ3aを取り外す。次に、ろう付接合4のフィレットとフィン頂部21との両方が共通の平面上に露出するようにして、第1のチューブ3aに残存するフィン頂部21を面削する。次に、面削によって露出したフィレット上に電位測定領域を設定し、電位測定領域以外の部分をシーラントで被覆する。その後、犠牲陽極層31の自然電極電位Etsと同様の方法により、電位測定領域の自然電極電位を測定する。このようにして得られた自然電極電位をフィレットの自然電極電位Ejとする。
【0116】
・耐食性
前述した方法により得られたミニコア試験体S1、R1における、チューブ3の端面、チューブ3の接続壁部33及びフィン2と接合していない平坦壁部32aをシーラントで被覆した後、ASTM-G85-A3に準拠した方法によりSWAAT試験を実施する。なお、試験期間は20日または40日のいずれかとする。酸を用いて試験終了後のミニコア試験体S1、R1を洗浄した後、チューブ3の貫通の有無及びチューブ3からのフィン2の剥離の有無に基づいて耐食性を評価する。
【0117】
表2における「フィンの剥離」欄に示した記号の意味は以下の通りである。
A:全てのフィン頂部がチューブに接合されている
B:一部のフィン頂部がチューブから剥離している
C:全てのフィン頂部がチューブから剥離している
【0118】
また、表2における「チューブの貫通」欄に示した記号は以下の通りである。
A:チューブを貫通する腐食が生じていない
B:チューブを貫通する腐食が生じている
【0119】
【0120】
【0121】
表1に示すように、ミニコア試験体S1は、前記特定の化学成分を有するアルミニウム合金からなる単層のフィン2と、外表面に犠牲陽極層31を有するチューブ3とを有している。また、ミニコア試験体S1における各部位の自然電極電位Ets、Eti、Ef及びEjは、前記3つの条件をすべて満たしている。それ故、ミニコア試験体S1は、犠牲陽極層31、フィン2またはろう付接合4のいずれかが早期に消失することを回避でき、優れた耐食性を有している。
【0122】
一方、両面ブレージングシートからなるフィンを有するミニコア試験体R1は、ミニコア試験体S1に比べて耐食性に劣り、SWAAT試験を20日間継続した時点で、チューブ3からのフィンの剥離が発生する。また、ミニコア試験体R1のSWAAT試験を40日間継続すると、フィンがチューブ3から完全に剥離すると共に、チューブ3を貫通する腐食が生じる。この理由としては、例えば以下の理由が考えられる。ブレージングシートをフィンとして用いる場合、ろう材が溶融してなる溶融ろうの流動性が高いため、Zn原子を含む溶融ろうがろう付接合のフィレットまで容易に移動し易いと考えられる。これにより、ろう付接合におけるZnの含有量が過度に多くなり、ろう付接合の自然電極電位Ejが過度に低くなりやすいと考えられる。
【0123】
また、ろう付時に溶融ろうが容易に流動することにより、溶融ろうから心材へのZnの拡散が不十分となりやすいと考えられる。これにより、ろう付後のフィンの表面に形成される犠牲陽極層の効果が不十分となり、チューブの内部まで腐食が進行しやすくなると考えられる。
【0124】
以上、実施例及び実験例に基づいて本発明に係る熱交換器コア及びその製造方法の態様を説明したが、本発明に係る熱交換器コア及びその製造方法の具体的な態様は実施例及び実験例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0125】
例えば、前記熱交換器コアは、以下の〔1〕~〔2〕に係る態様を取り得る。
【0126】
〔1〕Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上5.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、
Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブと、
前記フィンと前記チューブとを接合するろう付接合と、を有し、
前記チューブの外表面には、前記チューブの内表面よりも低い自然電極電位を有する犠牲陽極層が形成されており、
(1)前記犠牲陽極層の自然電極電位、前記ろう付接合におけるフィレットの自然電極電位及び前記フィンの自然電極電位のうち最も高い自然電極電位を基準としたときの前記チューブの内表面の自然電極電位が+80mV以上である、(2)前記フィレットの自然電極電位を基準としたときの前記犠牲陽極層の自然電極電位が+80mV以下である、(3)前記フィン、前記フィレット及び前記犠牲陽極層のそれぞれの自然電極電位と、前記フィンの自然電極電位、前記フィレットの自然電極電位及び前記犠牲陽極層の自然電極電位の平均との電位差の絶対値が50mV以下である、の3つの条件を満たす、熱交換器コア。
【0127】
〔2〕前記フィンは、さらに、Zr:0質量%超え0.3質量%以下、Cr:0質量%超え0.3質量%以下、Ti:0質量%超え0.3質量%以下、V:0質量%超え0.3質量%、Ni:0質量%超え0.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.1質量%以下、In:0質量%超え0.03質量%以下及びSn:0質量%超え0.1質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる、〔1〕に記載の熱交換器コア。
【0128】
また、前記熱交換器コアの製造方法は、以下の〔3〕~〔6〕に示す態様を取り得る。
【0129】
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載の熱交換器コアの製造方法であって、
Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上1.2質量%以下、Cu:0質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.3質量%以上1.8質量%以下、Zn:0.3質量%以上4.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するフィンと、Cuの含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金押出材からなるチューブとを交互に重ね合わせて組立体を組み立て、
前記組立体を加熱し、亜鉛蒸気を含む雰囲気中で前記組立体のろう付を行うことにより前記フィンと前記チューブとの間に前記ろう付接合を形成するとともに、前記チューブの外表面に前記犠牲陽極層を形成する、熱交換器コアの製造方法。
【0130】
〔4〕前記フィンは、さらに、Zr:0質量%超え0.3質量%以下、Cr:0質量%超え0.3質量%以下、Ti:0質量%超え0.3質量%以下、V:0質量%超え0.3質量%、Ni:0質量%超え0.8質量%以下、Mg:0質量%超え0.1質量%以下、In:0質量%超え0.03質量%以下及びSn:0質量%超え0.1質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる、〔3〕に記載の熱交換器コアの製造方法。
【0131】
〔5〕外表面にZn溶射皮膜が設けられた前記チューブを用いて前記組立体を組み立てる、〔3〕または〔4〕に記載の熱交換器コアの製造方法。
[6]ろう付後における前記フィン中のZnの含有量が、ろう付前における前記フィン中のZnの含有量に対して0.1質量%以上高い、〔3〕または〔4〕に記載の熱交換器コアの製造方法。