IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2024-151061立体造形物の製造方法及び立体造形物
<>
  • 特開-立体造形物の製造方法及び立体造形物 図1A
  • 特開-立体造形物の製造方法及び立体造形物 図1B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151061
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】立体造形物の製造方法及び立体造形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/379 20170101AFI20241017BHJP
   B29C 64/129 20170101ALI20241017BHJP
   B29C 64/135 20170101ALI20241017BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241017BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20241017BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241017BHJP
   B29C 64/35 20170101ALI20241017BHJP
   A61C 13/15 20060101ALI20241017BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20241017BHJP
【FI】
B29C64/379
B29C64/129
B29C64/135
B33Y10/00
B33Y40/20
B33Y80/00
B29C64/35
A61C13/15
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064182
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】雪田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 在
【テーマコード(参考)】
4C089
4F213
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089AA03
4C089BD01
4C089BD02
4C089BE03
4F213AA44
4F213AH63
4F213WA25
4F213WA54
4F213WA58
4F213WA86
4F213WA87
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL55
4F213WW34
4F213WW37
4F213WW38
(57)【要約】
【課題】表面に設けられた被膜の接着性に優れる立体造形物の製造方法、及び、この方法により得られる立体造形物を提供する。
【解決手段】光硬化性組成物(a)を用いた光造形法により、未硬化部を含む立体造形物を得る工程1と、前記立体造形物の表面に被膜を形成する工程2と、前記被膜を有する立体造形物の未硬化部を硬化させる工程3と、をこの順に有する、立体造形物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性組成物(a)を用いた光造形法により、未硬化部を含む立体造形物を得る工程1と、
前記立体造形物の表面に被膜を形成する工程2と、
前記被膜を有する立体造形物の未硬化部を硬化させる工程3と、をこの順に有する、立体造形物の製造方法。
【請求項2】
前記被膜の形成は光硬化性組成物(b)を用いて行われる、請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項3】
光硬化性組成物(b)は、光硬化性組成物(a)に含まれる光重合性成分と同じ光重合成分を含む、請求項2に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項4】
立体造形物を洗浄する工程4をさらに有する、請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項5】
工程4は工程1と工程2との間に実施する、請求項4に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項6】
前記光造形法はSLA方式又はDLP方式である、請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項7】
歯科用製品の製造方法である、請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法により製造された立体造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物の製造方法及び立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用補綴物、マウスピースのような歯科用製品として、3Dプリンタを用いた光造形法によって形成される立体造形物を用いる方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4160311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光造形法で形成される立体造形物は、製造プロセスの特性上、表面に微小な階段状の造形跡が残存する。一方、歯科用製品として使用される立体造形物には表面が滑らかであること(滑沢性)が求められる。そこで、光造形法により形成された立体造形物を研磨して表面に滑沢性を付与する工程が実施されている。
【0005】
立体造形物を研磨する工程は多大な時間を要するため、生産効率の観点から負担が大きい。研磨以外に立体造形物の表面を平滑化する方法としては、立体造形物の表面に被膜(コーティング)を形成する方法が考えられる。しかしながら、立体造形物と被膜との接着性が不充分であると、被膜の剥がれなどの問題が生じるおそれがある。
上記事情に鑑み、本開示の一態様は、表面に設けられた被膜の接着性に優れる立体造形物の製造方法、及び、この方法により得られる立体造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1>光硬化性組成物(a)を用いた光造形法により、未硬化部を含む立体造形物を得る工程1と、
前記立体造形物の表面に被膜を形成する工程2と、
前記被膜を有する立体造形物の未硬化部を硬化させる工程3と、をこの順に有する、立体造形物の製造方法。
<2>前記被膜の形成は光硬化性組成物(b)を用いて行われる、<1>に記載の立体造形物の製造方法。
<3>光硬化性組成物(b)は、光硬化性組成物(a)に含まれる光重合性成分と同じ光重合成分を含む、<2>に記載の立体造形物の製造方法。
<4>立体造形物を洗浄する工程4をさらに有する、<1>又は<2>に記載の立体造形物の製造方法。
<5>工程4は工程1と工程2との間に実施する、<4>に記載の立体造形物の製造方法。
<6>前記光造形法はSLA方式又はDLP方式である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
<7>歯科用製品の製造方法である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
<8><1>~<6>のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法により製造された立体造形物。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、表面に設けられた被膜の接着性に優れる立体造形物の製造方法、及び、この方法により得られる立体造形物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】実施例で作製した立体造形物の形状を示す図である。
図1B】実施例で作製した立体造形物の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリルモノマー」は、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念である。
【0010】
<立体造形物の製造方法>
本開示に係る立体造形物の製造方法は、
光硬化性組成物(a)を用いた光造形法により、未硬化部を含む立体造形物を得る工程1と、
前記立体造形物の表面に被膜を形成する工程2と、
前記被膜を有する立体造形物の未硬化部を硬化させる工程3と、をこの順に有する。
【0011】
後述する実施例に示すように、本開示に係る方法で製造された立体造形物は、表面に設けられた被膜の接着性に優れている。
【0012】
本開示の方法では、光造形法により立体造形物を製造する。
光造形法では一般に、光硬化性組成物に光を照射して層を形成し、形成された層の上に新たな層を形成する工程を繰り返して立体造形物を形成する。このとき、層間の密着性を確保するために、各層の形成は光硬化性組成物が完全に硬化しない条件(例えば、硬化率65~85%)で行われる。
積層工程の後、形成された未硬化部を含む立体造形物にさらに光を照射して立体造形物をより一層硬化させる(例えば、硬化率85%以上)ことで、光硬化性組成物の硬化物からなる立体造形物が得られる。
【0013】
本開示の方法では、光造形で得られた未硬化部を含む立体造形物をより一層硬化させる前に、立体造形物の表面に被膜を形成する。このため、より一層硬化させた後の立体造形物の表面に滑沢性を付与するための研磨等の工程を省略することができる。このため、立体造形物の生産効率に優れている。
以下、本開示の方法について詳細に説明する。
【0014】
(工程1)
工程1では、光硬化性組成物(a)を用いて未硬化部を含む立体造形物を得る。以下、工程1を光造形工程ともいう。
工程1を実施する方法は特に制限されず、種々の光造形方式から選択できる。
【0015】
代表的な光造形法としては、SLA(Stereo Lithography Apparatus)方式、DLP(Digital Light Processing)方式等の液槽方式の光造形方式、インクジェット方式などが挙げられる。
SLA方式としては、スポット状の光を光硬化性組成物に照射して形成される層を積層して立体造形物を得る方式が挙げられる。
DLP方式としては、面状の光を光硬化性組成物に照射して形成される層を積層して立体造形物を得る方式が挙げられる。
インクジェット方式としては、インクジェットノズルから光硬化性組成物の液滴を基材に連続的に吐出し、基材に付着した液滴に光を照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
【0016】
立体造形物の生産効率の観点からは、光造形法は液槽方式の光造形方式であることが好ましく、SLA方式又はDLP方式であることがより好ましい。
【0017】
工程1において光を照射する条件は特に制限されず、使用する光硬化性組成物(a)の種類、立体造形物の大きさ等に応じて選択できる。例えば、1層あたりの光照射の積算光量を0.1J/cm~100J/cmの範囲内で選択してもよい。また、照射光の波長は、光硬化性組成物(a)に含まれる光重合開始剤の励起波長等を考慮して適宜選択できる。例えば、照射光は300nm~500nmの波長領域を含むものであってもよい。
【0018】
工程1において光硬化性組成物(a)から形成される層を積層する場合、各層の厚み(積層幅)は特に制限されない。
立体造形物の生産効率の観点からは、各層の厚みは10μm以上であることがあることが好ましく、25μm以上であることがあることがより好ましく、50μm以上であることがあることがさらに好ましい。
立体造形物の表面の滑沢性の観点からは、各層の厚みは300μm以下であることがあることが好ましく、200μm以下であることがあることがより好ましく、100μm以下であることがあることがさらに好ましい。
【0019】
工程1で使用する光硬化性組成物(a)は、光を照射すると硬化する性質を持つものであれば特に制限されない。光硬化性組成物(a)として具体的には、光を照射すると重合する性質を持つ成分(光重合性成分)を含む組成物が挙げられる。
【0020】
光硬化性組成物(a)に含まれる光重合性成分としては、エチレン性二重結合を含む化合物が挙げられる。
エチレン性二重結合を含む化合物としては、(メタ)アクリルモノマー、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0021】
光硬化性組成物(a)は、光重合性成分として(メタ)アクリルモノマーを少なくとも1種含むことが好ましい。
【0022】
光硬化性組成物(a)に含まれる(メタ)アクリルモノマーは、単官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であっても二官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に2つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であっても多官能(メタ)アクリルモノマー(即ち、分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0023】
単官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、ラウリル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ドデシル-1-ヘキサデカニル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-コハク酸、2-[[(ブチルアミノ)カルボニル]オキシ]エチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
二官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスカルバミン酸ビス(2-(メタ)アクリロキシエチル)N,N’-1,9-ノニレン((メタ)アクリル酸ジウレタン)、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコージ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0025】
光硬化性組成物(a)の硬化を促進させる観点からは、光硬化性組成物(a)は光重合性成分として二官能(メタ)アクリルモノマーを少なくとも含むことが好ましい。
この場合、光硬化性組成物(a)に含まれる二官能(メタ)アクリルモノマーの合計量は、光重合性成分全体の60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0026】
光硬化性組成物(a)に含まれる光重合性成分の量は、特に制限されない。
光重合性成分の量は、例えば、光硬化性組成物(a)全体の60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0027】
光硬化性組成物(a)は、光重合性成分とともに光重合開始剤を含有してもよい。
光重合開始剤としては、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、オキシムエステル化合物、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、α-アシロキシムエステル化合物、フェニルグリオキシレート化合物、ベンジル化合物、アゾ化合物、ジフェニルスルフィド化合物、鉄-フタロシアニン化合物、ベンソインエーテル化合物、アントラキノン化合物等が挙げられる。
【0028】
反応性の観点からは、光重合開始剤としてはアルキルフェノン化合物及びアシルホスフィンオキサイド化合物が好ましい。
【0029】
光硬化性組成物(a)は、必要に応じ、光重合性成分及び光重合開始剤以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、光硬化性組成物(a)は無機フィラー、改質剤、安定剤、酸化防止剤、溶剤、着色剤等を含んでいてもよい。
【0030】
光硬化性組成物(a)は、E型粘度計により25℃及び5rpmの条件で測定される粘度(以下、単に「粘度」ともいう)が、5mPa・s~50000mPa・sであることが好ましい。
ここで、rpmは、revolutions per minute(回転毎分)を意味する。
光硬化性組成物(a)の粘度が上記範囲内であると、光造形によって立体造形物を製造する際の光硬化性組成物(a)の取り扱い性が良好である。
【0031】
(工程2)
工程2では、工程1で得られた立体造形物の表面に被膜を形成する。以下、工程2を被膜形成工程ともいう。
【0032】
本開示の方法では、工程1で得られた立体造形物に対して、工程2の前に、立体造形物の未硬化部分の硬化(例えば、光照射)は行われない。すなわち、被膜の形成は光造形により形成された立体造形物が完全に硬化していない状態で形成される。このため、より一層硬化した立体造形物の表面に被膜を形成する場合に比べて立体造形物の本体に対する被膜の密着性に優れている。
【0033】
立体造形物の表面の滑沢性を制御する観点からは、被膜の形成は光硬化性組成物(b)を用いて行うことが好ましい。
例えば、光硬化性組成物(b)を立体造形物の表面に付与して被膜を形成することにより、立体造形物の表面の造形跡に由来する凹凸形状が被膜で覆われた状態になる。その結果、表面の滑沢性に優れる立体造形物が得られる。
光硬化性組成物(b)を立体造形物の表面に付与する方法は特に制限されない。付与の方法として具体的には、塗布、スプレー、浸漬等が挙げられる。
【0034】
光硬化性組成物(b)を用いて被膜を形成する場合、光硬化性組成物(b)に含まれる成分は特に制限されない。
立体造形物の表面に対する被膜の接着性の観点からは、光硬化性組成物(b)は光硬化性組成物(a)に含まれる光重合性成分と同じ光重合成分を含むことが好ましい。
【0035】
光硬化性組成物(b)を用いて被膜を形成する方法としては、光硬化性組成物(b)を立体造形物の表面に付与し、必要に応じて光を照射して光硬化性組成物(b)を硬化させる方法が挙げられる。光を照射する条件としては、照射装置(LED光照射器等)の性能等を考慮した上で光硬化性組成物(b)が硬化しうる条件から適宜選択できる。例えば、積算光量1.0J/cm~10J/cmの範囲内で選択してもよく、照射を複数回行ってもよい。また、照射光の波長は、光硬化性組成物(b)に含まれる光重合開始剤の励起波長等を考慮して適宜選択できる。例えば、照射光は300nm~500nmの波長領域を含むものであってもよい。光硬化性組成物(b)を硬化させる場合は、光硬化性組成物(b)を完全に硬化させても完全に硬化させなくてもよい。
【0036】
工程2で形成される被膜の厚み(厚みが一定でない場合は、厚みの最小値)は、特に制限されない。
立体造形物の表面の滑沢性の観点からは、被膜の厚みは2μm以上であることがあることが好ましく、5μm以上であることがあることがより好ましく、10μm以上であることがあることがさらに好ましい。
被膜の均等性の観点からは、被膜の厚みは500μm以下であることがあることが好ましく、250μm以下であることがあることがより好ましく、200μm以下であることがあることがさらに好ましい。
【0037】
被膜は、立体造形物の表面の全体に形成されていても、立体造形物の表面の一部にのみ形成されていてもよい。
被膜は、立体造形物の本体と区別できる状態であっても、区別できない状態であってもよい。
【0038】
(工程3)
工程3では、被膜を有する立体造形物の未硬化部を硬化させる。以下、工程3を本硬化工程ともいう。
【0039】
工程3を実施する方法は特に制限されない。例えば、LEDランプ等を用いて立体造形物の表面に光を照射して実施してもよい。
【0040】
工程3において光を照射する条件は特に制限されず、使用する光硬化性組成物の種類、立体造形物の大きさ等に応じて選択される。例えば、積算光量0.1J/cm~100J/cmの範囲内で選択してもよく、照射を数回行ってもよい。また、照射光の波長は、光硬化性組成物に含まれる光重合開始剤の励起波長等を考慮して適宜選択できる。例えば、照射光は300nm~500nmの波長領域を含むものであってもよい。
【0041】
(工程4)
本開示の方法では、立体造形物の表面を洗浄する工程4を実施してもよい。以下、工程4を洗浄工程ともいう。
【0042】
工程4を実施する方法は特に制限されない。例えば、有機溶剤を用いて立体造形物の表面を洗浄してもよい。有機溶剤の種類は特に制限されず、イソプロパノール(IPA)、エタノール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0043】
工程4は、工程1と工程2との間に実施しても、工程3の後に実施してもよい。
工程1と工程2との間に工程4を実施することで、未硬化部を立体造形物の表面に露出させることができ、被膜の接着性が向上する傾向にある。
工程3の後に工程4を実施することで、表面に残存する未硬化の光硬化性組成物を除去することができる。
工程4は、工程1と工程2との間に少なくとも実施することが好ましく、工程1と工程2との間及び工程3の後にそれぞれ実施することがより好ましい。
【0044】
<立体造形物>
本開示に係る立体造形物は、上述した本開示に係る立体造形物の製造方法により製造される。
本開示に係る立体造形物は、種々の用途に使用することができる。
本開示に係る立体造形物は、例えば、歯科用製品として好適に使用できる。
【0045】
歯科用製品の種類は特に制限されない。具体的には、口腔内に装着される器具、歯科用モデル(歯科手術用モデル等)、歯科材料(歯科用修復材等)が挙げられる。
口腔内に装着される器具として具体的には、義歯床、裏装材、マウスピース、マウスガード、スプリント等が挙げられる。
【0046】
本開示に係る立体造形物は表面の滑沢性に優れている。このため、口腔内に装着した際の装着感に優れ、かつ、口腔内を傷付けにくく安全性に優れている。さらに、表面の被膜の接着性に優れ耐久性に優れている。
【実施例0047】
以下、本開示に係る実施形態を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0048】
<引張試験用試験片の作製>
引張試験用の試験片を、光造形法により下記の条件で作製した。
Solidworks2022(ソリッドワークス・ジャパン製)を用い、図1A及び図1Bに示すような形状の立体造形物のデータを作成した。
図1Aは立体造形物を主面(33.65mm×9.9mm)側から観察したときの図であり、図1Bは立体造形物を側面(33.65mm×3.3mm)側から観察したときの図である。図1Bに示すように、立体造形物は角度45°で傾斜している傾斜面Xを有する。
作成したデータに基づき、下記に示す各条件で、未硬化部を含む立体造形物の試験体1A、1B及び1Cを作製した。インクの積層幅は100μmとした。
【0049】
プリンタA:Pro95(Spirntray製)
インクA:die and model2 grey(Spirntray製)
洗浄・乾燥方法A:Pro Wash(Sprintray製)を使用したIPA洗浄を2回実施(1回目:3分、2回目:3分)、及び乾燥5分の設定で実施する。
本硬化装置A:ProCure(Sprintray製)
【0050】
プリンタB:Form3B+(Formlabs製)
インクB:Dental LT Clear(Formlabs製)
洗浄・乾燥方法B:Form Wash(Formlabs製)を使用したIPA洗浄を2回実施(1回目:10分、2回目:5分)し、圧縮空気を用いて表面に残るIPAを吹き飛ばして乾燥させる。
本硬化装置B: Formcure(Formlabs製)
【0051】
プリンタC:Cara4.0Pro(Kulzer製)
インクC:dima Print Digital Denture Original Pink(Kulzer製)
洗浄・乾燥方法C:超音波洗浄機(ブランソン製)を使用したIPA超音波洗浄を2回(1回目:3分、2回目:3分)し、圧縮空気を用いて表面に残るIPAを吹き飛ばして乾燥させる。
本硬化装置C:Hi Lite 3D(Kulzer製)
【0052】
(実施例1A)
プリンタA、インクA及び洗浄・乾燥方法Aを用いて作製した2個の試験体1Aの一方の傾斜面XにインクAを塗布し、もう一方の試験体1Aの傾斜面Xを密着させた。この状態で、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒2回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、両試験体を接着させた。
接着させた試験体に対し、本硬化装置Aを用い、毎分88mJ/cmで8分間(積算光量:0.7J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。硬化後の試験体をIPAで洗浄し、実施例1Aに係る試験片を得た。
【0053】
(比較例1A)
プリンタA、インクA及び洗浄・乾燥方法Aを用いて作製した2個の試験体1Aに対し、本硬化装置Aを用い、毎分88mJ/cmで8分間(積算光量:0.7J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。その後、試験体1Aの一方の傾斜面XにインクAを塗布し、もう一方の試験体1Aの傾斜面Xを密着させた。この状態で、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒2回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、両試験体を接着させた。
接着させた試験体をIPAで洗浄し、比較例1Aに係る試験片を得た。
【0054】
(実施例1B)
プリンタB、インクB及び洗浄・乾燥方法Bを用いて作製した2個の試験体1Bの一方の傾斜面XにインクBを塗布し、もう一方の試験体1Bの傾斜面Xを密着させた。この状態で、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒2回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、両試験体を接着させた。
接着させた試験体に対し、本硬化装置Bを用い、毎分3740mJ/cmで15分間(積算光量:56.1J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。硬化後の試験体をIPAで洗浄し、実施例1Bに係る試験片を得た。
【0055】
(比較例1B)
プリンタB、インクB及び洗浄・乾燥方法Bを用いて作製した2個の試験体1Bに対し、本硬化装置Bを用い、毎分3740mJ/cmで15分間(積算光量:56.1J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。その後、試験体1Bの一方の傾斜面XにインクBを塗布し、もう一方の試験体1Bの傾斜面Xを密着させた。この状態で、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒2回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、両試験体を接着させた。
接着させた試験体をIPAで洗浄し、比較例1Bに係る試験片を得た。
【0056】
(実施例1C)
プリンタC、インクC及び洗浄・乾燥方法Cを用いて作製した2個の試験体1Cの一方の傾斜面XにインクCを塗布し、もう一方の試験体1Cの傾斜面Xを密着させた。この状態で、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒2回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、両試験体を接着させた。
接着させた試験体に対し、本硬化装置Cを用い、毎分364mJ/cmで15分間(積算光量:5.5J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。硬化後の試験体をIPAで洗浄し、実施例1Cに係る試験片を得た。
【0057】
(比較例1C)
プリンタC、インクC及び洗浄・乾燥方法Cを用いて作製した2個の試験体1Cに対し、本硬化装置Cを用い、毎分364mJ/cmで15分間(積算光量:5.5J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。その後、試験体1Cの一方の傾斜面XにインクCを塗布し、もう一方の試験体1Cの傾斜面Xを密着させた。この状態で、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒2回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、両試験体を接着させた。
接着させた試験体をIPAで洗浄し、比較例1Cに係る試験片を得た。
【0058】
(引張試験)
実施例及び比較例で作製した試験片に対し、引張試験を実施した。
具体的には、フォースゲージZTS-1000N、電動計測スタンドEMX-1000N及びパンタグラフチャックPGC-0510(いずれもイマダ製)を用い、速度60mm/sにて引張強度(N)を測定した。得られた結果を下記表1に記す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、本硬化させる前の試験片にインクを塗布した実施例1A、1B及び1Cの試験片は、本硬化させた後の試験片にインクを塗布した比較例1A、1B及び1Cの試験片に比べて引張強度が大きい。
以上の結果から、本硬化させる前の立体造形物の表面に形成した被膜は、本硬化させた後の立体造形物の表面に形成した被膜に比べて接着性に優れることがわかる。
【0061】
<クロスカット試験用試験片の作製>
引張試験用の試験片を、光造形法により下記の条件で作製した。
Solidworks2022(ソリッドワークス・ジャパン製)を用い、縦64mm×横20mm×厚み3.3mmの立体造形物のデータを作成した。作成したデータに基づき、引張試験用の試験片の作製に関して上述した各条件で、未硬化部を含む立体造形物の試験体2A、2B及び2Cを作製した。インクの積層幅は100μmとした。
【0062】
(実施例2A)
試験体2Aの64mm×20mmの面の一方にインクAを塗布し、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒6回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、被膜を形成した。被膜を形成した試験体に対し、本硬化装置Aを用い、毎分88mJ/cmで8分間(積算光量:0.7J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。硬化後の試験片をIPAで洗浄し、実施例2Aに係る試験片を得た。
【0063】
(比較例2A)
VALOコードレスによる光照射と本硬化の順番を入れ替えた以外は実施例2Aと同様の方法で比較例2Aに係る試験片を得た。
【0064】
(実施例2B)
試験体2Bの64mm×20mmの面の一方にインクBを塗布し、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒6回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、被膜を形成した。被膜を形成した試験体に対し、本硬化装置Bを用い、毎分3740mJ/cmで15分間(積算光量:56.1J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。硬化後の試験片をIPAで洗浄し、実施例2Bに係る試験片を得た。
【0065】
(比較例2B)
VALOコードレスによる光照射と本硬化の順番を入れ替えた以外は実施例2Bと同様の方法で比較例2Bに係る試験片を得た。
【0066】
(実施例2C)
試験体2Cの64mm×20mmの面の一方にインクCを塗布し、VALOコードレス(ウルトラデント製)を用いて、エキストラモード3秒6回の光照射(1回あたりの積算量:3.1J/cm)を行い、被膜を形成した。被膜を形成した試験体に対し、本硬化装置Cを用い、毎分364mJ/cmで15分間(積算光量:5.5J/cm)の条件で光を照射して完全に硬化させた。硬化後の試験片をIPAで洗浄し、実施例2Cに係る試験片を得た。
【0067】
(比較例2C)
VALOコードレスによる光照射と本硬化の順番を入れ替えた以外は実施例2Cと同様の方法で比較例2Cに係る試験片を得た。
【0068】
(クロスカット試験)
実施例及び比較例で作製した試験片に対し、クロスカット試験を実施した。
具体的には、試験片の被膜が形成された面に対して2mm間隔にてクロスカット試験(JIS-K5600)を実施し、0~5の段階による分類分けを行った。得られた結果を下記表2に記す。表2に示すクロスカット分類の数字が小さいほど、被膜の密着度が高いことを意味する。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、本硬化させる前の試験片にインクを塗布した実施例2A、2B及び2Cの試験片は、本硬化させた後の試験片にインクを塗布した比較例2A、2B及び2Cの試験片に比べてクロスカット分類の数字が小さい。
以上の結果から、本硬化させる前の立体造形物の表面に形成した被膜は、本硬化させた後の立体造形物の表面に形成した被膜に比べて接着性に優れることがわかる。
図1A
図1B