(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151090
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】遮水性検査方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/08 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
E02D1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064223
(22)【出願日】2023-04-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年8月1日、令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会 講演概要、https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2022/notifications 令和4年9月15日(開催期間 令和4年9月15日から令和4年9月16日)、令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会、京都大学吉田キャンパス(京都府京都市左京区吉田本町)
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 無何有
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】石黒 健
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AA07
2D043AC03
2D043BA10
(57)【要約】
【課題】地盤Gの遮水性を検査する。
【解決手段】ダム1の下の地盤Gにおける遮水性を検査する遮水性検査方法であって、地盤Gに形成されたグラウチングカーテンGCよりも上流側において、地盤Gに検査孔HDを形成する工程と、検査孔HDにおいて水圧を加える工程と、グラウチングカーテンGCよりも下流側に配置される間隙水圧計Pの水圧変化に基づいて遮水性を検査する工程と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの下の地盤における遮水性を検査する遮水性検査方法であって、
前記地盤に形成されたグラウチングカーテンよりも上流側において、前記地盤に検査孔を形成する工程と、
前記検査孔において水圧を加える工程と、
前記グラウチングカーテンよりも下流側に配置される間隙水圧計の水圧変化に基づいて前記遮水性を検査する工程と、
を含む遮水性検査方法。
【請求項2】
前記遮水性を検査する工程において、前記グラウチングカーテンよりも下流側に配置される間隙水圧計の水圧変化と、前記グラウチングカーテンよりも上流側に配置される間隙水圧計の水圧変化とを比較して、前記遮水性を検査する、
請求項1に記載の遮水性検査方法。
【請求項3】
前記検査孔は、下流側から上流側に向かうに従い下に下がるように形成される部分を含み、
前記水圧を加える工程において、少なくとも、前記検査孔のうち下流側から上流側に向かうに従い下に下がるように形成される部分において水圧を加える、
請求項1又は2に記載の遮水性検査方法。
【請求項4】
前記遮水性を検査する工程において、貯水池に水を貯めて行う湛水試験で用いるために予め前記地盤内に配置されている間隙水圧計を流用する、
請求項1又は2に記載の遮水性検査方法。
【請求項5】
前記湛水試験を行う前に前記遮水性を検査する工程を行う、
請求項4に記載の遮水性検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水性検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、ダムの下の地盤に人工的な遮水壁を形成するグラウチング工法が知られている。グラウチング工法においては、複数のボーリング孔を順次形成し、セメントミルクを充填することで地盤の亀裂を埋めている。また、従来、貯水池に水を貯めて地盤を通じて下流側に漏れ出さないかを検査する湛水試験が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、グラウチング工法により地盤にグラウチングカーテンを形成した後において、予め地盤の遮水性を検査する要請がある。
【0005】
本発明の目的は、地盤の遮水性を検査する遮水性検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下のとおりである。
【0007】
(1)ダムの下の地盤における遮水性を検査する遮水性検査方法であって、前記地盤に形成されたグラウチングカーテンよりも上流側において、前記地盤に検査孔を形成する工程と、前記検査孔において水圧を加える工程と、前記グラウチングカーテンよりも下流側に配置される間隙水圧計の水圧変化に基づいて前記遮水性を検査する工程と、を含む遮水性検査方法。
【0008】
(2)(1)において、前記遮水性を検査する工程において、前記グラウチングカーテンよりも下流側に配置される間隙水圧計の水圧変化と、前記グラウチングカーテンよりも上流側に配置される間隙水圧計の水圧変化とを比較して、前記遮水性を検査する、遮水性検査方法。
【0009】
(3)(1)又は(2)において、前記検査孔は、下流側から上流側に向かうに従い下に下がるように形成される部分を含み、前記水圧を加える工程において、少なくとも、前記検査孔のうち下流側から上流側に向かうに従い下に下がるように形成される部分において水圧を加える、遮水性検査方法。
【0010】
(4)(1)~(3)のいずれかにおいて、前記遮水性を検査する工程において、貯水池に水を貯めて行う湛水試験で用いるために予め前記地盤内に配置されている間隙水圧計を流用する、遮水性検査方法。
【0011】
(5)前記湛水試験を行う前に前記遮水性を検査する工程を行う、遮水性検査方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地盤の遮水性を検査する遮水性検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ダム及び地盤の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】グラウチングカーテンの一例を模式的に示す図である。
【
図3A】本実施形態におけるルジオン値判定の一例を示すフローチャートである。
【
図3B】本実施形態における第1の水圧変化判定の一例を示すフローチャートである。
【
図3C】本実施形態における第2の水圧変化判定の一例を示すフローチャートである。
【
図4】地盤に形成される自然遮水層の一例を示す断面図である。
【
図5】グラウチングカーテンが完成した後におけるダム及び地盤の一例を示す断面図である。
【
図6】本実施形態に係る管理システムにおける表示画面の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態に係る管理システムの物理構成の一例を示す図である。
【
図8】本実施形態に係る管理システムで実現される機能の一例を示す機能ブロック図である。
【
図9】本実施形態に係る管理システムにおける表示画面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態(以下、本実施形態という)について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
[概要]
まず、本実施形態におけるダム1について説明する。各図における矢印X1は後方、矢印X2は前方、矢印Y1は右方、矢印Y2は左方、矢印Z1は上方、矢印Z2は下方をそれぞれ示している。
図1に示すように、ダム1を介して後方が貯水池Wとなっている。本実施形態において、後方はダム1の上流であり、前方はダム1の下流である。また、本実施形態において、左右方向はダム軸Oが延伸する方向である。
【0016】
図1は、ダム及び地盤の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、ダム1は、コア10と、コア10の前後に形成されるフィルタ20と、フィルタの前後に形成されるロック30とを含む。コア10は、粘土等を含む遮水性の高い層である。フィルタ20は、砂利等を含む層である。ロック30は、土や岩等を含む層である。ダム1は、このような積層構造を有することで、貯水池Wに貯められた水がダム1よりも下流に漏れ出すことを抑制する。
【0017】
ダム1の下には地盤Gが設けられている。本実施形態において、地盤Gは、火成岩や堆積岩、変成岩などで形成された岩盤から成る。岩盤から成る地盤Gには亀裂CR等の間隙が含まれる。この亀裂CRを通じて、貯水池Wに貯められた水がダム1よりも下流に漏れ出すことを抑制する必要がある。
【0018】
そこで、
図1に示すように、ダム1の下にグラウチングカーテンGCを形成する。グラウチングカーテンGCは、ダム軸Oに沿って並ぶ複数のボーリング孔H内にセメントが充填されて成るものである(後述の
図2参照)。ボーリング孔Hは地盤Gの亀裂CRと繋がるため、ボーリング孔Hに注入されたセメントミルクは亀裂CRに流れ込み、固化する。このように、ダム1の下にカーテン状の遮水壁となるグラウチングカーテンGCを形成することで、貯水池Wに貯められた水が地盤Gの亀裂CRを通じてダム1よりも下流に漏れ出すことを抑制している。
【0019】
なお、グラウチングカーテンGCは、コア10の地盤側に形成される作業員や機材が配置できる監査廊(不図示)と呼ばれる通路においてグラウチング施工を行うことで形成される。ボーリング孔Hは、監査廊の直下に形成されており、上下方向に延伸する、深さが数メートル~数百メートルの孔である。
【0020】
なお、本実施形態においては、ボーリング孔Hにセメントミルクを充填させる例を説明するが、これに限られず、モルタルや合成樹脂等から成る他のグラウトミルクを用いてもよい。
【0021】
[グラウチング施工]
次に、
図2~
図5を参照して、グラウチングカーテンGCを形成するグラウチング施工について説明する。
図2は、グラウチングカーテンの一例を模式的に示す図である。なお、
図2の上側においては複数のボーリング孔を上方から見た平面図を模式的に示しており、
図2の下側においては
図1のII-II切断線で切り取った切断面を示す断面図を模式的に示している。
図1のII-II切断線はダム軸Oに対応する線である。グラウチングカーテンGCを構成する複数のボーリング孔Hは、パイロット孔HP、1次孔H1・・・n次孔Hn(nは1以上の整数)を含む。
【0022】
グラウチング施工においては、まず、パイロット孔HPを形成する。
図2においては、左右方向の端にそれぞれパイロット孔HPを形成する例を示している。その後、左右方向における2つのパイロット孔HPの中間に1次孔H1を形成する。さらに、パイロット孔HPと1次孔H1との中間に2次孔H2を形成する。このように、遮水性が十分に確保できるまで、n次孔Hnを順次形成する。
【0023】
グラウチング施工においては、遮水性が十分に確保できているか否かを判定するために、透水試験が行われる。透水試験においては、ボーリング孔Hに水圧を加えてルジオン値を取得する。ルジオン値は、流量に関する情報であって、地盤Gにおける水の通しやすさを表す。ルジオン値が所定値未満であれば、遮水性が十分に確保できていると判定できる。一方、ルジオン値が所定値以上であれば、遮水性が不十分であると判定できる。なお、ルジオン値は一般的なグラウチング施工における透水試験により取得されるものであるとよい。透水試験におけるルジオン値は、測定対象となるボーリング孔H内に水圧を加える水を注入するための注入管、及び注入管に設置される圧力計(いずれも不図示)によって測定される。
【0024】
ここで、ボーリング孔Hの数が多く、互いに隣り合うボーリング孔Hの間隔が近いと、ボーリング孔Hを通じてセメントが充填される亀裂部分が重なることとなる。すなわち、互いに隣り合うボーリング孔Hにそれぞれ充填されたセメントミルクが、共通の亀裂CRに侵入し、結合することとなる。その結果、グラウチングカーテンGCにおける遮水性が高くなる。
【0025】
本実施形態においては、従来より行われている透水試験に加えて、間隙水圧計Pにより測定された水圧変化を確認することで、遮水性が確保できていることをより確実にする方法を採用する。
【0026】
ここで、間隙水圧計Pとは、亀裂などの間隙が形成される地盤内の水圧を測定する機器である。間隙水圧計Pは、ダム1が完成して、貯水池Wに水を貯めた後の湛水試験のために地盤G内に予め配置されるものを流用するとよい。また、間隙水圧計Pは、地盤G内の異なる地層ごとに複数箇所に配置されているとよい。間隙水圧計Pは、少なくとも、グラウチングカーテンGCの上流側と下流側のそれぞれに配置されているとよい。地盤G内のどこに配置されている間隙水圧計Pがどれだけの水圧変化を示したかを確認することで、地盤Gのどの領域の遮水性が十分でないかを確認することができる。
【0027】
図3A~
図3Cを参照して、グラウチング施工の流れについて説明する。
図3Aは、本実施形態におけるルジオン値判定の一例を示すフローチャートである。
【0028】
まず、パイロット孔HPを形成する(ステップS1)。そして、パイロット孔HPにセメントミルクを注入して固化させる(ステップS2)。次に、1次孔H1を形成する(ステップS3)。そして、1次孔H1において水圧を加えて、1次孔H1内に設置した圧力計の測定値からルジオン値を取得するとともに、複数の間隙水圧計Pのそれぞれにおいても水圧を測定する(ステップS4)。その後、1次孔にセメントミルクを注入して固化させる(ステップ5)。
【0029】
次に、ステップS4で測定されたルジオン値を判定することにより、遮水性を判定する(ステップS6)。ルジオン値が所定値以上であれば、十分な遮水性が得られていないと判定できるため、さらに2次孔H2を形成する(ステップS3)。そして、2次孔H2において水圧を加えて、2次孔H2内に設置した圧力計の測定値からルジオン値を取得するとともに、複数の間隙水圧計Pのそれぞれにおいても水圧を測定する(ステップS4)。そして、2次孔にセメントミルクを注入して固化させる(ステップ5)。ステップS4で測定されたルジオン値が所定値以上であれば、十分な遮水性が得られていないと判定できるため、さらに3次孔H3を形成する(ステップS3)。
【0030】
一方、ステップS4で測定されたルジオン値が所定値未満であれば、十分な遮水性が得られていると判定できる。ルジオン値が所定値未満であることを確認した後、ルジオン値判定に関する工程を終了するとよい。
【0031】
本実施形態においては、グラウチングカーテンGCの品質を向上するため、さらに第1の水圧変化判定を行う。
図3Bは、本実施形態における第1の水圧変化判定の一例を示すフローチャートである。第1の水圧変化判定は、
図3Aを参照して説明したルジオン値判定に関する工程が終了した後に行われるとよい。
【0032】
まず、
図3Bに示すように、
図3AのステップS4で測定された水圧に基づいて、複数の間隙水圧計Pそれぞれにおける水圧変化を判定する(ステップS7)。この際、いずれかの間隙水圧計Pが大きな水圧変化を示していれば遮水性が不合格であると判定する。不合格であった場合、さらに次のボーリング孔(本例においては4次孔H4とする)を形成する(ステップS8)。さらに、4次孔H4において水圧を加えて、複数の間隙水圧計Pのそれぞれにおいて水圧を測定する(ステップS9)。その後、追加で形成した4次孔H4にセメントミルクを注入して固化させる(ステップS10)。次に、ステップS9で測定された水圧に基づいて、複数の間隙水圧計Pそれぞれにおける水圧変化を判定する(ステップS7)。この際、いずれの間隙水圧計Pも大きな水圧変化を示していなければ遮水性が合格であると判定する。合格であった場合、第1の水圧変化判定に関する工程を終了する。
【0033】
本実施形態においては、グラウチングカーテンGCの更なる品質向上を図るため、
図3Cに示す第2の水圧変化判定を行う。
図3Cは、本実施形態における第2の水圧変化判定の一例を示すフローチャートである。第2の水圧変化判定は、
図3Bを参照して説明した第1の水圧変化判定に関する工程が終了した後に行われるとよい。
【0034】
まず、
図3Cに示すように、予め形成される検査孔HD(詳細については
図5を参照して後述する)において水圧を加えて、複数の間隙水圧計Pそれぞれにおける水圧を測定する(ステップS11)。そして、複数の間隙水圧計Pそれぞれにおける水圧変化を判定する(ステップS12)。いずれかの間隙水圧計Pが大きな水圧変化を示していれば遮水性が不合格であると判定する。不合格であった場合、さらに次のボーリング孔(本例においては5次孔H5とする)を形成する(ステップS13)。そして、追加で形成した5次孔H5にセメントミルクを注入し固化させる(ステップS14)。
【0035】
さらに、検査孔HDにおいて水圧を加えて、複数の間隙水圧計Pのそれぞれにおいて水圧を測定する(ステップS11)。そして、複数の間隙水圧計Pそれぞれにおける水圧変化を判定する(ステップS12)。いずれの間隙水圧計Pも大きな水圧変化を示していなければ遮水性が合格であると判定する。合格であった場合、検査孔HDに対してセメントミルクを注入して埋めた後、第2の水圧変化判定に関する工程を終了する。
【0036】
なお、上述のように間隙水圧計Pは予め地盤G内に配置されているものを流用すればよいが、これに限られず、ボーリング孔Hの形成のための検査を行う用に別途間隙水圧計Pを配置してもよい。また、地盤G内に配置される複数の間隙水圧計Pにより測定された水圧変化の全てを確認するものに限られず、ボーリング孔Hの位置等に応じて特定の間隙水圧計Pのみの水圧変化を確認することとしてもよい。また、本実施形態においては、ルジオン値判定に関する工程が終了した後、間隙水圧計Pの水圧変化を判定する例を示したが、これに限られない。例えば、ルジオン値を確認するのに伴って常に間隙水圧計Pの水圧変化を判定してもよい。これにより、グラウチング工法における特定のタイミングに限らず、経時的に地盤Gの遮水性を把握することが可能となる。
【0037】
なお、
図3Bを参照して説明した第1の水圧変化判定と、
図3Cを参照して説明した第2の水圧変化判定は、グラウチング工程において少なくともいずれか一方が行われるとよい。すなわち、
図3Aを参照して説明したルジオン値判定を行った後、第1の水圧変化判定と第2の水圧変化判定とのうちいずれか一方のみを行うこととしてもよい。
【0038】
本実施形態のグラウチング施工においては、ボーリング孔Hの形成を終了するタイミングを定量的に判定することが可能となる。また、グラウチングカーテンGCの品質を向上し、より確実に遮水性を確保することができる。
【0039】
さらに、
図4を参照して、グラウチング施工時に行われる自然遮水層Nの存在の確認について説明する。
図4は、地盤に形成される自然遮水層の一例を示す断面図である。
図4においては、地盤Gの形状及び地質等に応じて深さの異なる複数のボーリング孔Hが形成されている様子を示している。
【0040】
図4に示すように、地盤Gによっては、自然遮水層Nが形成されている場合がある。ここで、自然遮水層Nとは、人工的に形成される遮水層であるグラウチングカーテンGCと異なり、地盤Gにおいて年月を経て自然に形成されている遮水性の高い層である。自然遮水層Nがどの範囲に形成されているかを予め把握しておくことは、地盤Gに形成するボーリング孔Hの数や深さを判定する上で重要である。自然遮水層Nの形状や大きさによっては、人工的に形成される遮水壁であるグラウチングカーテンGCにおけるボーリング孔Hの数や深さを低減することができるためである。
【0041】
自然遮水層Nが存在しているか否かは地盤Gにおける地質等を確認することで把握することはできるが、その自然遮水層Nがどの範囲に形成されているかを把握することは難しい。具体的には、自然遮水層Nが左右方向において連続的に形成されているか否かを把握することは難しい。
【0042】
そこで、本実施形態においては、グラウチング施工の過程において、
図4に示す間隙水圧計P1~3により測定された水圧変化を確認することにより、自然遮水層Nが連続的に形成されているか否かを判定することで、グラウチング施工における遮水性の確認を補足することとした。具体的には、
図3Aで示したステップS6と併せて、自然遮水層Nが左右方向に連続的に形成されているか否かの判定を行うこととした。
【0043】
図4においては、上下方向に並んで3つの間隙水圧計P1~3が配置される例を示している。また、
図4においては、左右方向に連続して形成される2層の自然遮水層N1、N2が存在する例を示している。
【0044】
間隙水圧計P1は、自然遮水層N1よりも上側に配置されている。間隙水圧計P2は、上下方向において自然遮水層N1と自然遮水層N2との間に配置されている。間隙水圧計P3は、自然遮水層N2よりも下側に配置されている。
【0045】
図4の例においては、上下方向における自然遮水層N1と自然遮水層N2の間において水圧を加えるとよい。
図4においては、水圧を加える加圧部をWPとして示している。加圧部WPにおいて水圧を加えた際、間隙水圧計P2で大きな水圧変化が測定され、間隙水圧計P1及びP3で大きな水圧変化が測定されなければ、自然遮水層N1及び自然遮水層N2が左右方向に連続して形成されていると判定することができる。一方、例えば、仮に間隙水圧計P1で大きな水圧変化が測定された場合、自然遮水層N1は左右方向において一部が断続的に形成されていることが分かる。自然遮水層の一部が断続している場合、その部分から水が漏れ出してしまうおそれがある。
【0046】
以上のように、グラウチング施工の過程において、間隙水圧計P1~P3により測定された水圧変化を確認することにより、自然遮水層Nが左右方向に連続的に形成されているか否かを判定することができる。これにより、グラウチング施工において、自然遮水層Nを設計条件として考慮して深度を設定することが出来る。自然遮水層Nの連続性が確認された場合は、設計深度(自然遮水層Nまで)の施工を行えばよい。一方、遮水性の連続性が確認されなかった場合は、設計の見直しを図ることができ、ボーリング工数の適切な見直しを図ることが出来る。
【0047】
[グラウチングカーテンGCの遮水性の検査]
次に、
図5を参照して、
図3CのステップS11における遮水性の検査の具体例について説明する。
図5は、検査孔が形成された地盤の一例を示す断面図である。本実施形態においては、
図5に示すように、グラウチングカーテンGCよりも上流側に配置される間隙水圧計P4と、グラウチングカーテンGCよりも下流側に配置される間隙水圧計P5とを用いる。
【0048】
貯水池Wに水を貯めて行う湛水試験を行う前に、監査廊の位置から、グラウチングカーテンGCよりも上流側にボーリング加工により検査孔HDを形成する。検査孔HDは、各ボーリング孔Hとは別に形成されるとよい。検査孔HDは、下流側から上流側に向かうに従い下に下がるように形成されるとよい。
【0049】
検査孔HDにおいて水圧を加えて、間隙水圧計P4と間隙水圧計P5により測定された水圧変化を確認する。間隙水圧計P4で測定された水圧変化が大きく、間隙水圧計P5で測定された水圧変化が小さければ、グラウチングカーテンGCが十分な遮水性を有していることが確認できる。なお、検査孔HDにおいて加えられる水圧は、貯水圧相当の圧力であるとよい。これにより、貯水時に水圧が加わった状態を再現してグラウチングカーテンGCの遮水性を確認することができる。なお、検査孔HDの形状は
図5に示すものに限られず、本実施形態の遮水性の検査において、間隙水圧計P4の反応と間隙水圧計P5の反応を比較するのに有効な形状であればよい。
【0050】
[管理システム]
次に、
図6~
図8を参照して、本実施形態に係る管理システムについて説明する。
図6は、本実施形態に係る管理システムにおける表示画面の一例を示す図である。
図7は、本実施形態に係る管理システムの物理構成の一例を示す図である。
図8は、本実施形態に係る管理システムで実現される機能の一例を示す機能ブロック図である。
【0051】
管理システム100は、グラウチング施工において取得される各データを一元的に管理すること、及びそれらデータを分析することを可能とするシステムである。
【0052】
グラウチング施工における各データの取得は、異なる業者が行うことが通常である。例えば、水圧データを取得する者と、ボーリング孔Hの削孔状況等に関するグラウチングデータを取得する者とは異なるのが通常である。そのため、従来においては、グラウチング施工全体の状況を把握したり分析したりする者は、各データを取得した者から、それぞれデータを受けとって管理する必要があった。
【0053】
本実施形態に係る管理システム100においては、
図6に示すように、グラウチングデータに含まれる情報と水圧データに含まれる情報を一の画面上に同時に表示する。また、管理システム100は、グラウチングデータに含まれる情報と水圧データに含まれる情報とを、時間軸の尺度を揃えて、かつ並べて表示させる。
【0054】
図6における左側においては、地盤Gの地層の様子、及び地盤G内に配置される間隙水圧計P1、P2を示しており、これは
図4で示す断面図の一部に対応している。
図6に示す間隙水圧計データにおいては、横軸は時間軸であり、縦軸は深さであり、配置される深さが異なる間隙水圧計P1及びP2により測定された水圧の推移を示している。
図6に示すグラウチングデータにおいては、横軸は時間軸であり、縦軸は深さであり、削孔工程、透水工程、注入工程が行われた期間をそれぞれ示している。なお、削孔工程とはボーリング孔を形成する工程であり、透水工程とは水圧を加える工程であり、注入工程とはセメントミルクをボーリング孔に注入する工程である。
【0055】
本実施形態に係る管理システム100には、例えば
図7に示すように、制御部101、通信部102、記憶部103、操作部104、及び表示部105が含まれるとよい。管理システム100は、少なくとも一つのコンピュータを含んでいればよい。管理システム100が複数のコンピュータを含む場合、それらはネットワークを介して接続されているとよい。
【0056】
制御部101は、少なくとも1つのプロセッサを含む。制御部101は、例えば、管理システム100にインストールされるプログラムに従って動作するCPU等のプログラム制御デバイスであるとよい。通信部102は、例えば無線LANモジュールなどの通信インタフェースなどであるとよい。記憶部103は、RAM等の揮発性メモリと、ハードディスク等の不揮発性メモリと、を含むとよい。記憶部103には、プロセッサによって実行されるプログラムなどが記憶されるとよい。操作部104は、マウス、キーボード、又はタッチパネル等の入力デバイスであるとよい。表示部105は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであるとよい。
【0057】
図8は、本実施形態に係る管理システムで実現される機能の一例を示す機能ブロック図である。
図8で示される各機能は、記憶部103に記憶されるプログラムをコンピュータが実行することで実現される。プログラムはコンピュータに読み取り可能な情報記憶媒体に格納されていてもよい。
【0058】
管理システム100では、水圧データ取得部111、グラウチングデータ取得部112、及び表示制御部113が実現される。水圧データ取得部111及びグラウチングデータ取得部112は制御部101及び通信部102を主として実現される。表示制御部113は制御部101及び表示部105を主として実現される。
【0059】
水圧データ取得部111は、間隙水圧計で測定された水圧データを取得する。水圧データ取得部111は、地盤G内に配置される複数の間隙水圧計と無線通信で接続されており、間隙水圧計で測定された水圧データをリアルタイムで取得可能であるとよい。または、水圧データ取得部111は、管理システム100以外のコンピュータと有線又は無線通信で接続されており、当該コンピュータを通じて水圧データを取得するものであってもよい。
【0060】
グラウチングデータ取得部112は、グラウチングデータを取得する。グラウチングデータは、例えば、ボーリング孔の削孔に関する情報、透水性の検査に関する情報、及びセメントミルクの注入に関する情報を含むデータであるとよい。
【0061】
表示制御部113は、水圧データ取得部111により取得された水圧データに基づいて
図6に示す間隙水圧計データに関する情報を表示させ、グラウチングデータ取得部112により取得されたグラウチングデータに基づいて
図6に示すグラウチングデータに関する情報を表示させる。また、表示制御部113は、間隙水圧データに関する情報とグラウチングデータに関する情報とを同じ画面に同時に表示させるとよい。また、表示制御部113は、間隙水圧計データの時間軸とグラウチングデータの時間軸とを同じ尺度で並べて表示させるとよい。
【0062】
具体的には、例えば、
図6に示すように、表示制御部113は、水圧データに基づいて、間隙水圧計で測定された水圧の推移を示す折れ線グラフを表示させるとよい。また、表示制御部113は、グラウチングデータに基づいて、ボーリング孔を形成した期間(
図6中に示す「削孔」)、ボーリング孔において水圧を加える透水試験を行った期間(
図6中に示す「透水」)、及びボーリング孔にグラウトミルクを注入した期間(
図6中に示す「注入」)それぞれの長さに応じた長さの帯状部Bを時間軸に沿うように表示させるとよい。
【0063】
なお、表示制御部113は、間隙水圧計が測定した水圧変化が大きいタイミングが目立つよう間隙水圧計データを強調して表示させてもよい。例えば、表示制御部113は、間隙水圧計が測定した水圧変化が大きいタイミングにおけるグラフの色を変えて表示させたりするとよい。これにより、ユーザは間隙水圧計が測定した水圧変化が大きいタイミングを目視で認識しやすくなる。また、表示制御部113は、「削孔」、「透水」、「注入」に対応する帯状部Bを互いに異なる色で表示させるとよい。
【0064】
管理システム100においては、間隙水圧計で測定された水圧データと、ボーリング孔の削孔等に関するグラウチングデータとを一元的に管理を行うことが可能となる。これにより、ユーザは、グラウチング施工の各タイミングにおける間隙水圧計により測定された水圧変化を確認することができる。その結果、効率的なグラウチング施工を行うことが可能となる。
【0065】
さらに、
図9を参照して、本実施形態に係る管理システムにおける表示画面の他の例を説明する。
図9は、本実施形態に係る管理システムにおける表示画面の他の例を示す図である。
【0066】
図9においては、グラウチングカーテンGCにおける各部位における遮水性を可視化して表示する表示画面を示している。
図9においては、円柱が大きいほど遮水性が低いことを示している。具体的には、間隙水圧計Pにおける反応が大きい部位ほど、径の大きい円柱を示している。また、グラウチングカーテンGCに対する間隙水圧計Pの距離が遠い部位ほど、長い円柱を示している。また、
図9においては、グラウチング施工の進行に応じて遮水性を可視化して表示する様子を示している。
図9に示す例においては、全体としては遮水性が向上しているが、四角で囲んだ部位においては、施工が進行したにも関わらず遮水性が低下していることが分かる。このような傾向が見られたことより、施工を進めるにあたり、四角で囲んだ部位の遮水性を注意して確認するとよい。なお、
図9においては、グラウチング施工中の2つの時点における画面を示すが、遮水性を可視化して表示する画面は、間隙水圧計Pにより水圧を測定した時点毎に表示されるとよい。グラウチング施工の進行に応じて遮水性を可視化して表示することにより、遮水性に懸念のある箇所を早期に発見することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1 ダム、10 コア、20 フィルタ、30 ロック、100 管理システム、101 制御部、102 通信部、103 記憶部、104 操作部、105 表示部、111 水圧データ取得部、112 グラウチングデータ取得部、113 表示制御部、G 地盤、GR 亀裂、GC グラウチングカーテン、W 貯水池、H ボーリング孔、HD 検査孔、P1~P5 間隙水圧計、WP 加圧部。