(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001511
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ジルコニア連続繊維を強化繊維とする酸化物系セラミック基複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20231227BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C04B35/80 300
C04B35/488
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100201
(22)【出願日】2022-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年10月刊行、公益社団法人日本ガスタービン学会発行、第49回日本ガスタービン学会定期講演会 講演論文集、A-18 (2)令和3年10月13日~10月14日開催、公益社団法人日本ガスタービン学会主催、第49回日本ガスタービン学会定期講演会、https://www.gtsj.or.jp/html_calender/teiki49-hakata.html
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 利光
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 良雄
(72)【発明者】
【氏名】秦 青
(57)【要約】
【課題】改良された高耐熱性のジルコニア連続繊維を強化材とするジルコニア系セラミックスをマトリックスとする耐熱、耐環境性に優れた複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】耐熱性が改良されたジルコニア連続繊維を強化材とするジルコニア系セラミックスをマトリックスとする耐熱、耐環境性に優れた複合材料を、ジルコニア連続繊維に炭素をコーティングしてなる繊維束、二次元織物、または三次元織物の少なくとも一種類を提供する第一工程と、ジルコニア系セラミックス粉末を水またはジルコニア系セラミックス前駆体溶液でスラリー調製を行う第二工程と、前記スラリーを前記繊維束、二次元織物、または三次元織物に塗布または含浸しプリプレグを作製する第三工程と、前記プリプレグを乾燥またはゲル化後乾燥する第四工程と、PIPプロセスで緻密化する第五工程とを備えるジルコニア連続繊維強化ジルコニア系セラミック基複合材料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア連続繊維に炭素をコーティングしてなる繊維束、二次元織物、または三次元織物の少なくとも一種類を提供する第一工程と、
細粒のBaZrO3粉末またはジルコニア系セラミックス粉末を、水またはジルコニア系セラミックス前駆体を有機溶媒に溶解した前駆体溶液と、所定割合で混合したスラリー調製を行う第二工程と、
前記スラリーを前記繊維束、二次元織物、または三次元織物の少なくとも一種類に塗布または含浸しプリプレグを作製する第三工程と、
前記プリプレグを乾燥またはゲル化後乾燥する第四工程と、
常温から非酸化成雰囲気で所定の昇温速度で所定温度まで焼成しプリフォームを作製し、焼成後さらに前記前駆体溶液を含侵、ゲル化させ、再び焼成を繰り返し、焼成して緻密化する第五工程と、
を備えるジルコニア連続繊維を強化繊維とする酸化物系セラミック基複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記第四工程において、さらに前記スラリーまたは前記前駆体溶液を前記プリプレグに追加しながら、水分または有機溶媒の少なくとも一方を除去して、乾燥またはゲル化後乾燥する請求項1に記載のセラミック基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記第五工程に続いて、さらに、前記複合材料が使用される温度を最高加熱温度として大気中または非酸化性雰囲気で最終焼成する第六工程を有する請求項1又は2に記載のセラミック基複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーは、BaZrO3、または安定化若しくは部分安定化ZrO2であり、平均粒径がサブミクロン以下の小さな細粒を水または前記前駆体溶液を用いてスラリー状態にして前記繊維束、二次元織物、または三次元織物の少なくとも一種類に含浸させてから、焼結されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のセラミック基複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記第三工程において、
前記プリプレグは、
前記スラリーを塗布した繊維束を収束させた複合化後のセラミックス繊維集合体中の繊維軸が一方向連続状であるプリプレグ(一方向強化複合材料)、
前記スラリーを塗布した織布による二次元方向に繊維軸を配置したプリプレグ(二次元強化複合材料)、または
前記スラリーを塗布した三次元織物による三次元方向に繊維軸を配置したプリプレグ(三次元強化複合材料)である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のセラミック基複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記第五工程が、前記第四工程で得られた前記プリプレグを常温から非酸化成雰囲気で所定の昇温速度で所定温度まで焼成して得られたプリフォームに対して、さらに前駆体溶液を含侵、ゲル化、乾燥するプロセスを三回以上繰り返し、さらに焼成を行うポリマー含浸焼成プロセスを二回以上繰り返して緻密化することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のセラミック基複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の製造方法により製造された、ジルコニア連続繊維を強化繊維とする酸化物系セラミック基複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物系セラミック基複合材料の製造方法に関し、特に改良された高耐熱性のジルコニア連続繊維を強化材とするジルコニア系セラミックスをマトリックスとする耐熱、耐環境性に優れた複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー需給に関しては、エネルギー価格の高騰により、熱効率の改善が実現できるような発電設備の更新が要請されている。特に、日本においては、東日本大震災に起因する原子力発電所の運転停止により、代替エネルギー策として火力発電所や自然エネルギーを用いた発電設備の増強が必要とされ、熱効率の改善が実現できる発電設備の更新が経済的合理性を有するようになっている。さらに、京都議定書にみられるように、地球環境保全の立場から二酸化炭素排出量の削減が要請されている。
【0003】
このような発電設備の熱効率の改善や二酸化炭素排出量の削減の社会的要請に対して、例えば、ガスタービン複合発電は、自然エネルギーや原子力発電と共存する最もクリーンで経済的な火力発電設備として、長期的な市場拡大が予想される。
こうして、マイクロガスタービンは1990年代に分散電源として導入が開始され、その後多くのメーカが市場に参入している。構造が単純なこと、負荷変動特性に優れること、保守が容易なこと、環境への影響が小さいことなど多くのメリットは認識されている。しかしながら、発電用大型ガスタービンと異なり、タービン内部を冷却できないため燃焼器出口温度が低く、発電効率が最大28%程度と低いため市場規模の拡大は進んでいない。
このような状況の中で、上記要請に応える材料として、セラミック基複合材料(CMC)が既にジェットエンジンにおいて、SiC繊維強化SiCマトリックスのCMCとして実用化され、大幅な燃費向上を実現している。この材料は高温強度が良好であるが、耐環境性に限界がある(酸化する)ため使用可能温度は最高1300℃程度にとどまっている。一方、耐環境性が優れた酸化物系CMCとしてアルミナマトリックス/アルミナ繊維複合材料が実用化されているが、高温強度が低いため使用可能温度はSiC/SiC複合材料よりもさらに低く、目標とする用途には使用できないという課題があった。
【0004】
例えば非特許文献1に記載されているように、『1700℃級ガスタービンが複合発電設備の主機として実用化されると、発電効率は62%超(低発熱量基準)となり、従来火力発電設備に対して大幅な効率改善となる。例えば、125万KW石炭火力設備の熱効率を44%(低位発熱量基準)と仮定すると、年間CO2排出量は853万トンとなる。これを天然ガス焚き1700℃級複合発電設備に置換するとCO2の排出量は324万トンとなり、62%の削減となる。』そこで、天然ガス焚き1700℃級複合発電設備に利用できる耐熱材料を開発することは、大いに意義がある。
【0005】
このような状況に鑑み、1700℃級ガスタービンでは、発電用タービンエンジンのタービン動・静翼材として金属材料が使用されているが、燃焼温度そのものは金属材料の融点以上であるため、空気、蒸気等で冷却して材料温度を下げることが必須となっている。しかしながらそれでも材料温度は最高900℃程度となることから、クリープ強度、靭性、熱疲労特性、高サイクル疲労特性、耐酸化性、耐食性などの特性が必要である。さらに、燃焼温度1800℃級ガスタービンでは、仮に冷却を行ってもメタル温度はさらに上昇することからクリープ強度、靭性、耐酸化性が最も基本的に重要な特性となる。
従来の1500℃級ガスタービンでは、クリープ強度と靭性を同時に付与するには、延性と靭性に富んだ固溶体相と高温強度に優れた金属間化合物相を組み合わせた延性(Ductile)/脆性(Brittle)複相材料を採用している。Ni基超合金はその典型例であり、最も優れた耐熱材料の1つである。しかし、1800℃級ガスタービンでは、このNi基超合金を使用できるようにするためには極度の冷却によって材料温度を1800℃から大幅に下げる必要がある。そのため、多大なエネルギーロスが生じ、目標とした効率向上を果たすことができないという課題があった。そこで、この冷却を必要としない、または軽微な冷却ですむ超高温での強度、耐環境性を有する材料が燃焼温度1700℃級から1800℃級ガスタービンには求められている。
【0006】
このような金属では困難な高温においても使用可能な材料として注目されている耐熱材料としては、セラミック基複合材料(CMC)の中でもSiC繊維/SiCマトリックス複合材料がある。いわゆるSiC/SiC複合材料は、前述したように、ジェットエンジンにおいて実用化され、大幅な燃費向上を実現している。しかしながら、このSiC/SiC複合材料は高温強度が高いものの、耐環境性に限界があり、超高温では酸化が容易に進行するため、これまで最高使用可能温度は1400℃程度とされてきた。つまり、目的とする燃焼温度1700℃級から1800℃級ガスタービンにおいて、冷却なしまたは軽微な冷却で使用可能な材料としては、不適当であった。
一方、超高温の耐環境性が本質的に優れている材料としては酸化物セラミックが挙げられる。つまり、酸化物はすでに酸化しているため、これ以上酸化が進行することはない。この酸化物に基づくセラミック基複合材料としては、例えば本出願人の提案にかかる特許文献1のように、二次元的に織り込まれたムライト繊維の間にアルミナマトリックスを含浸させたものなどが存在する。しかしながら、この材料は耐環境性(耐酸化性)が良好なものの、高温の強度が不十分なため耐熱温度は1100℃程度にとどまっている。
【0007】
酸化物において高温強度が高い材料としてジルコニアが知られている。また、特許文献2では、酸化物系セラミックス繊維/酸化物系セラミックス複合材料が提案されており、セラミックス繊維の主成分である金属酸化物としてジルコニアが提案されている。しかし、用途であるガスタービンエンジン関連部材としては抽象的な羅列が行われているだけで、燃焼温度1700℃級から1800℃級ガスタービンとしての使用に耐えられる材料は提示されていない。
そこで、本発明者らは、上述の問題点を解消すべく、鋭意研究を重ねた。即ち、研究の目的は、燃焼温度1700℃級から1800℃級ガスタービンに用いられるセラミック基複合材料に関し、特に耐熱性、耐環境性の高いセラミックマトリックスを、同様に耐熱性、耐環境性が高いセラミック繊維で繊維強化したセラミック基複合材料を提供することである。そして、ジルコニア繊維強化ジルコニア複合材料に使用することができる、安定化ジルコニア連続繊維をまたは部分安定化ジルコニア連続繊維及びその製造方法を提供し(特許文献3)、さらに、この繊維を用いるジルコニア系マトリックスを有する複合材料の製造方法を提案した(特許文献4)。このセラミック基複合材料の製造方法によれば、ジルコニア連続繊維/BaZrO3マトリックス複合材料素材が製造でき、この素材は燃焼温度1700℃級から1800℃級ガスタービンとしての使用に耐えられる材料であるとされる。
【0008】
しかしながら、実際には評価された特性は、超高温大気酸化試験による外観の形状保持と重量変化による耐酸化性評価と1800℃での圧縮強度であり、複合材料そのものの機械的特性などは評価されていない。そもそも、この複合材料は、強化材としての繊維の直径も大きく織布などへの加工性が乏しいため、複合材料そのものの強度は望めず、セラミックス、ガラスセラミックス、または炭素の構造体に貼付して、複合構造物として使用されるために開発された。したがって、複合材料そのものは、燃焼温度1700℃級から1800℃級ガスタービンとしての使用に耐えられる材料ではないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2012/077787A1
【特許文献2】特開2002-173376号
【特許文献3】特許第6238286号
【特許文献4】特許第6327512号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】三菱重工技報第47巻(2010)第1号第25頁~第30頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上述の問題点を解消するもので、SiC/SiC複合材料よりも最高使用温度が高いセラミック基複合材料に関し、特に耐熱性、耐環境性の高いセラミックマトリックスを、同様に耐熱性、耐環境性が高いセラミック繊維で強化した高靭性、高強度セラミック基複合材料の製造方法を提供することを目的とする。ここで、SiC/SiC複合材料は、高温強度は高いものの、耐環境性に限界があり、超高温では酸化が容易に進行するため、これまで最高使用可能温度は1400℃程度とされてきた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のセラミック基複合材料の製造方法は、例えば
図1に示すように、ジルコニア連続繊維に炭素をコーティングしてなる繊維束、二次元織物、または三次元織物の少なくとも一種類を提供する第一工程と、細粒のBaZrO
3粉末またはジルコニア系セラミックス粉末を水またはジルコニア系セラミックス前駆体を有機溶媒に溶解した溶液と所定割合で混合したスラリー調製を行う第二工程と、前記スラリーを前記繊維束、二次元織物、または三次元織物に塗布または含浸しプリプレグを作製する第三工程と、前記プリプレグに必要によりさらにスラリーまたは前駆体溶液を追加しながら、水分または有機溶媒を除去し乾燥またはゲル化後乾燥する第四工程と、常温から非酸化成雰囲気で所定の昇温速度で所定温度まで一次焼成しプリフォームを作製し、焼成後さらに前駆体溶液を含侵、ゲル化させ、再び焼成を繰り返し、焼成して緻密化する第五工程と、必要により、複合材料が使用される温度を最高加熱温度として大気中または非酸化性雰囲気で二次焼成する第六工程とを備える。
【0013】
本発明のセラミック基複合材料の製造方法は、耐熱性、耐環境性の高い材料よりなるセラミックマトリックス、すなわちジルコニア系セラミックマトリックスを、同様に耐熱性、耐環境性が高いジルコニア系連続繊維に炭素をコーティングした繊維を強化材とするセラミック基複合材料の製造方法であって、炭素界面層を機能させることで高靭性、高強度な複合材料である。前記セラミックマトリックスはBaZrO3またはジルコニア系セラミックスからなり、前記強化材として耐熱性が改良されたジルコニア連続繊維を用いたことを特徴とする。
本発明のセラミック基複合材料の製造方法において、好ましくは、前記BaZrO3は、平均粒径が1μm程度以下の微粉末であり、ジルコニア系セラミック粉末はやはり、平均粒径が1μm程度以下の微粉末であり、安定化または部分安定化ジルコニアが好ましい。さらに、これら微粉末に、焼成により安定化ジルコニアを生成するジルコニア及びイットリアなどの金属あるオキシドの共加水分解縮合で合成された前駆体ポリマーを含侵しておくことは、焼成後に焼結が促進するので望ましい。
本発明のセラミック基複合材料は、使用される温度では、二次焼成により炭素界面層を焼失させたギャップ界面層を機能させて高靭性を維持させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセラミック基複合材料の製造方法によれば、ジルコニア連続繊維/BaZrO3マトリックス複合材料またはジルコニア連続繊維/ジルコニアマトリックス基複合材料が製造できる。そこで、製造されたセラミック基複合材料は、最高使用可能温度が1400℃程度とされてきたSiC/SiC複合材料よりも最高使用温度が高い、高靭性、高強度複合材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明のセラミック基複合材料の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は繊維に炭素をコーティングするためのヘキサンバブルフロー法を実施する装置の概略図である。
【
図3】
図3は炭素コーティングの厚みを示す繊維の断面のSEM写真である。
【
図4】
図4は1D-CMCのCMC(ZB)-5の曲げ試験の応力-歪曲線で、破壊時に繊維のプルアウトが起きていることを示す図である。
【
図5】
図5は1D-CMCのCMC(ZB)-5の曲げ試験後の強制破面での繊維のプルアウトを示すSEM写真である。
【
図6】
図6は1D-CMCのCMC(ZB)-15の強制破面のSEM写真で、繊維とマトリックス間のギャップ界面層の形成を示すSEM写真である。
【
図7】
図7は1D-CMCのCMC(ZB)-15の強制破面のSEM写真で、繊維とマトリックス間のギャップ界面層の形成を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を具体的に説明する。なお数値範囲を示す『~』については、下限値と上限値の間の数値範囲を示すもので、本明細書においては、特に明記する場合を除いて、下限値以上で上限値以下の範囲を表すものとする。
図1は本発明のジルコニア連続繊維を強化繊維とする酸化物系セラミック基複合材料の製造方法を説明するフローチャートであり、セラミック基複合材料として、ジルコニア連続繊維/BaZrO
3マトリックスおよびジルコニア連続繊維/ジルコニア系セラミックよりなる複合材料の製造方法を説明する。
【0017】
まず、ジルコニア連続繊維束、またはジルコニア連続繊維束を二次元に編んでなる二次元織物、またはジルコニア連続繊維束を三次元に編んでなる三次元織物を準備し(S102)、次にジルコニア連続繊維束、織布、または三次元織物に炭素をコーティングする(S104、第一工程)。このジルコニア繊維束、二次元織物、三次元織物は、ジルコニア連続繊維束を所定本数束ねること、または既存技術で編むことで作製できる。ジルコニア繊維の複合材料中に占める体積含有率Vf、または質量含有率Mfは、作製される複合材料の見かけの全体積、または全質量(繊維+マトリックス)に対して40%以下で制御できる。ジルコニア連続繊維の平均直径は、例えば10~20μm程度である。なお、耐熱性が改善されたジルコニア連続繊維の作製手順については、後で説明する。
【0018】
次に、BaZrO3またはジルコニア系セラミックス細粒を所定割合で配合したスラリーを調製する(S106、第二工程)。細粒とは、BaZrO3は、平均粒径が1μm程度以下の微粉末であり、ジルコニア系セラミック粉末はやはり、平均粒径が1μm程度以下の微粉末であり、安定化または部分安定化ジルコニアが好ましい。スラリーを調製するための分散媒は、水または3重量%程度のポリビニルアルコールを溶解した水溶液やアセトン、キシレンなどの有機溶媒でもよいが、以後の工程で複合材料プリプレグ中の気孔率を低下させ、さらに、用いた細粒間の焼結を促進させるためには、焼成により安定化ジルコニアを生成するジルコニア及びイットリアなどの金属アルコキシドの共加水分解縮合で合成された前駆体ポリマーを有機溶媒に溶解した溶液を用いることが望ましい。
スラリーの中のBaZrO3またはジルコニア系セラミック粉末の濃度は、スラリー粘度が大きくなりすぎず繊維束内に効率よく含浸できる50重量%以上80重量%以下が好ましい。50重量%以下ではマトリックスの気孔率が大きくなりすぎるので好ましくない。
前駆体溶液を用いる場合は、前駆体の濃度は40重量%以上70重量%以下であれば、スラリー粘度が大きくなりすぎず好ましい。70重量%程度以上では粘度が大きくなりすぎ、場合によってはゲル化するので好ましくない。40重量%以下では効率よくマトリックスを緻密化できない。
【0019】
次に、前記第二工程で調製されたスラリーを、前記第一工程で炭素コーティングされたジルコニア連続繊維束、二次元織物、または三次元織物に、塗布して含浸する(S108、第三工程)。ジルコニア繊維表面が水を分散媒とするスラリーに対して撥水性を呈する場合には、まずアセトンやメタノールなど親水性で揮発性の大きな溶媒を含浸させて乾燥し撥水性を抑制することができる。この塗布、含浸工程は、公知のバギング法や加圧法で含浸を効率よく行うことができる。すなわち、スラリーを塗布した繊維束、二次元織物、三次元織物をバッグに入れ、真空引きして溶媒を除去しながら、さらにスラリーを追加して真空引きを繰り返すバギング法や、または、繊維束や二次元織物を用いる場合は、繊維束では、スラリーを塗布または含浸した繊維束を所定の形状のチューブ内に引き込んで加圧しながら溶媒を除去しながら成型する引き込み法や、二次元織物の場合は、スラリーを塗布または含浸した二次元織物を所定の枚数積層して、これをSUS製の方に挟み加圧して成型する加圧法を用いることができる。
【0020】
次に、前記第三工程でスラリーを含浸した成型体を乾燥し、さらに、前駆体溶液を含浸溶液中に混合している場合は水蒸気雰囲気中で加熱して前駆体をゲル化し分解して生成した有機成分を揮発させてもよい(S110、第四工程)。こうして乾燥されたプリプレグから、水分または有機溶媒を除去し乾燥またはゲル化後乾燥する第四工程は、前記プリプレグの乾燥後または水蒸気雰囲気中で乾燥後、さらに必要により前駆体溶液を追加含浸し、水分または有機溶媒を除去し乾燥またはゲル化後乾燥する工程を繰り返してもよい。即ち、この工程を繰り返すことにより、第五工程での前駆体溶液の含浸焼成プロセスの回数を減らすことができる。この追加含浸の回数は、1回以上4回以下が好適で、5回以上繰り返しても、前駆体がセラミックス化していないためプリプレグ中の空孔が極端に減少しており、マトリックスの緻密化の効果が得られない。熱処理温度は60℃以上150℃以下が好適で、水蒸気雰囲気は熱処理時にウォーターバス上にプリプレグを設置し、所定時間熱処理することで達成できる保持時間は、温度にもよるが、1時間以上10時間以下で十分である。
【0021】
次に、前記第四工程で得られたプリプレグを、1000℃以上1500℃以下で、不活性ガス雰囲気中で一次焼成する(S112、第五工程)。一次焼成は炭素界面層を残しながら、マトリックスを焼結させる工程であり、雰囲気は窒素ガス、アルゴンガス雰囲気または真空中が好ましい。特にアルゴンガスは、窒化物の形成の可能性がなく好適である。得られた複合材料はプリフォームと呼ばれ、気孔率が50%以上になることがある。したがって、気孔率をさらに低減させるために、プリフォームに、さらに前駆体溶液を含侵、ゲル化、乾燥するプロセスを三回以上繰り返し、さらに一次焼成を行うポリマー含浸焼成プロセスを二回以上繰り返して緻密化することを特徴とする。
前駆体溶液は、前駆体の濃度が、40重量%以上70重量%以下であれば、スラリー粘度が大きくなりすぎず効率よく含浸できるので好ましい。70重量%以上では粘度が大きくなりすぎ、場合によってはゲル化するので好ましくない。40重量%以下では効率よくマトリックスを緻密化できない。
【0022】
次に、前記第五工程で得られた複合材料を、必要により、複合材料が使用される温度を最高加熱温度として大気中または非酸化性雰囲気で最終焼成する(S114、第六工程)。この工程は、複合材料が実際に使用される環境で実施されてもよく、複合材料が使用される温度を最高加熱温度として最終焼成される工程であり、大気中で焼成し、界面層である炭素層を焼失させ、生成する繊維表面とマトリックス間のギャップを界面層として機能させる。最高加熱温度は1400℃以上1600℃以下が好ましい。1600℃を超える温度では本複合材料の特性が低下するので好ましくない。
【0023】
図2は繊維に炭素をコーティングするためのヘキサンバブルフロー法を実施する装置の概略図である。図において、ガス供給口10から窒素ガスまたはアルゴンガスを反応室24に送り、ガス排気口28から排出する。ガス流量計12a、12bは、ガス供給口10送られるガス流量を測定するもので、一方のガス流量計12aは有機溶媒を含まないガス流量を測定し、他方のガス流量計12bは有機溶媒を含むガス流量を測定する。試験管14は、有機溶媒16を収容すると共に、ガス流量計12bをへたガスに有機溶媒ガスを含有させる。有機溶媒としては、例えばヘキサンが用いられるが、これに限定されない。コック18は、有機溶媒を含むガスを反応室24に送る場合は開き、送らない場合は閉じる。
【0024】
温度コントローラ20は、管状加熱炉22の炉内温度を制御する。管状加熱炉22は、反応室24の温度をジルコニア連続繊維束、二次元織物、または三次元織物から選ばれる繊維26の焼成温度に加熱・維持する。
このように作成されたセラミック基複合材料について、耐酸化性と高温強度を評価する。
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〈実施例1〉
まず第1工程において、所定量のジルコニウムテトラ-n-ブトキシドに、3-オキソブタン酸エチルを所定量混合し、発熱反応が終了した後、所定量のH2Oを2-プロパノールを用いて希釈して混合した。
発熱反応終了後、さらに、イットリウムトリ-n-ブトキシドまたはエルビウムアセチルアセトナートの2-プロパノール溶液を、ZrO2に対してY2O3またはEr2O3が所定のモル%になるように計算量を混合し、15分攪拌を行った。その後、結晶化抑制剤となる金属酸化物の原料アルコキシドであるアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、テトラエトキシシラン、テトラ-i-プロポキシチタンを所定量添加し、さらに、所定量のH2Oを2-プロパノールを用いて希釈して混合した。
発熱反応終了後、ロータリーエバポレーターを使用し、室温からウォーターバスで徐々に加熱しながら反応を進め、溶媒と加水分解生成物である2-プロパノールなど低沸点成分を除去し、95℃まで濃縮し、イットリアまたはエルビア安定化ジルコニア繊維前駆体を得た。
【0026】
次の第二工程において、場合によりポリカルボシラン(PCS)を添加して、第一工程で得られた前駆体を所定濃度のキシレン溶液として紡糸筒に入れ、前駆体溶液が適当な粘度で押しだされる温度で、紡糸筒内を窒素ガスでおよそ2.5MPa以下に加圧し、直径100μmのノズルから前駆体を押し出しながら、およそ1800m/分の速度で連続的に巻き取った。
次の第三工程で、得られた生繊維を飽和水蒸気中で45~200℃まで、10℃/時で加熱し、1時間保持して不融化した。不融化は150℃のホットプレート上で溶融しないことで確認した。
【0027】
不融化した繊維は、次の第四工程において、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、100~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して低温焼成、すなわち一次焼成した。飽和水蒸気圧の水を含む不活性ガスは、室温で水中にArガスをバブリングした後、焼成炉に導入する方法で調製した。大気中焼成繊維では白色繊維が得られ、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中の焼成では黒色繊維となり、炭素分析の結果から6%以下の炭素を含有していた。繊維径はほぼ6~20μmであった。
表1に合成した繊維の前駆体の組成と繊維製造条件および繊維特性を示す。なお、前駆体の『-』以下の3桁の数字は合成ロット番号である。同じ組成の前駆体があるが、表1に示すように合成条件が異なるので、合成ロットが異なることがわかるように付記している。合成ロット番号の表記に関しては、表2、表3でも同様である。
【0028】
【0029】
これらの繊維を用いて、
図1に示す工程の方法で、直径約2mmで長さおよそ10mmの棒状の一次元強化複合材料を製造した。
まず、
図2の装置を用い、表1の各繊維束をヘキサンバブルフロー法によりヘキサン蒸気を含むArガスを繊維束を設置した環状炉空に導入しながら、200℃/時で1000℃まで加熱し、0.5時間保持して繊維表面に炭素をコーティングした。
図3にコーティングの厚みを示す繊維の断面のSEM写真を示す。
次に、含浸用のスラリーを調製した。まず、平均粒子径1μm以下の、BaZrO
3または8モル%Y
2O
3安定化ZrO
2(8YSZ)微粉末を75wt%になるように3wt%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液と混合してスラリーに調製した。また、BaZrO
3スラリーは、繊維の合成に用いた表1に示した前駆体Zr-Y(0.1)-077の50wt%キシレン溶液を用いて、BaZrO
3微粉末の濃度が75wt%になるように調製した。
【0030】
次に、表1の繊維束の所定量に前記調製したスラリーを塗布または含浸しながら、内径2mm、長さ100mmのアルミナチューブ内に余分の溶媒及びスラリーを除去しながら引き込み成型した。成型後,85℃で5時間~10時間乾燥後,さらに、前駆体Zr-Y(0.1)-077の50wt%キシレン溶液を真空含浸して、85℃で0.5時間乾燥し、丸棒のプリプレグを作製した。
次に、これらプリプレグをArガス雰囲気中,100℃/時で1000℃まで加熱し、1時間保持して一次焼成を行い、焼成後、アルミナチューブから取り出し、プリフォームを作製した。
【0031】
次に、5モル%Y2O3を含有するように分子設計して合成した5YSZ前駆体ポリマーである前記前駆体Zr-Y(0.1)-077の65wt%キシレン溶液を調製して、得られたプリフォームに真空含浸し、85℃で0.5時間乾燥後、85℃の飽和水蒸気雰囲気で含浸した前駆体をゲル化後、85℃で0.5時間乾燥する工程を4回繰り返した後、Ar雰囲気中で、200℃/時で1000℃まで加熱し、1時間保持して追加の一次焼成を行った。得られたプリフォームにさらに、この前駆体の含浸と焼成を行うPIP(Polymer Impregnation and Pyrolysis)法を再度行い、一次元強化CMCであるミニコンポジット(1D-CMC)を作製した。
【0032】
表2に、上記の製造条件にて製造した1D-CMCの繊維体積含有率と室温曲げ強度を示す。CMC(ZB)およびCMC(YSZ)のZBとYSZは含浸したスラリーに用いたBaZrO
3と8モル%Y
2O
3安定化ZrO
2(8YSZ)を表す。室温曲げ強度は最高で199MPaが得られた。
図4にCMC(ZB)-5の曲げ試験の応力-歪曲線を示す。この応力-歪曲線から、製造した1D-CMCは脆性的な破壊を示さないことが判った。また
図5を参照すると、破断面では繊維の引き抜け(プルアウト)が観測され、界面層が十分機能していることを確認した。
【表2】
【0033】
表3には、1D-CMCの室温での引張り試験の結果を示す。気孔率が最も小さいCMC(ZB)-31で引張強度175.3MPaが得られた。強制破面ではいずれも繊維のプルアウトが観測され界面層が機能していることが確認できた。
【表3】
【0034】
〈実施例2〉
実施例1と同様に、Zr-Y(0.1)-077+PCS(0.05)前駆体から製造した繊維を用いて製造した1D-CMCについて、高温で処理(二次焼成に相当)した後、室温での曲げ試験を行った。高温での処理は、所定の雰囲気で300℃/時で1500℃まで昇温し、1時間保持した。処理後の1D-CMCの室温での曲げ試験結果を表4に示す。CMC(ZB)-32は252MPaの曲げ強度を示し、二次焼成でマトリックスが焼結することにより気孔率の減少と緻密化が進むことによる強度向上効果を裏付けた。
図6には、CMC(ZB)-15の強制破面のSEM写真を示した。この図から、大気中焼成で炭素界面層が焼失し、繊維とマトリックス間にギャップ下形成され、このギャップが界面層として働き繊維のプルアウトが起きることが分かった。
【0035】
【0036】
〈実施例3〉
Zr-Y(0.1)-077+PCS(0.05)前駆体から、ニ次焼成を大気中1300℃で行った繊維を用いて、まず、250フィラメント程度からなる繊維束に実施例1と同様に炭素コーティングを行い、これを平織りの織布にしたのち、実施例1とほぼ同様の工程で二次元強化CMC(2D-CMC)を作製した。
まず、含浸用のスラリーを調製した。スラリー用の微粉末はBaZrO3または8モル%Y2O3安定化ZrO2(8YSZ)を用い、BaZrO3スラリーは、前駆体Zr-Y(0.1)-077の50wt%キシレン溶液を用いて調製した。
【0037】
次に、前記織布を65mm×65mm程度の寸法に裁断し、これに調製したスラリーを塗布または含浸した後、3枚積層し、バギング法で余剰の溶媒を除去した後、SUS製の板に挟んで加圧して固定してプリプレグとし、真空中で1200℃まで200℃/時で加熱し、1200℃で1時間保持してプリフォームを作製した。得られたプリフォームに、前駆体溶液を含侵、乾燥、水蒸気処理、乾燥を4回繰り返した後、1200℃で一次焼成(PIP処理)した。こうして、2D-CMCを作製した。得られた2D-CMCの外観写真を
図7に示す。2D-CMC(YSZ)と2D-CMC(ZB)の厚みはそれぞれ2.0mmと2.8mmであった。この2種類の2D-CMCについて、エロージョン試験による耐熱性評価を、石川島播磨重工業株式会社製エロージョン試験機を用い、直流アーク加熱(20kW)、ノズル径75mm、試験温度1800℃で180秒間行った。
【0038】
各CMCの特性とエロージョン試験結果を表5に示す。いずれも変形はほぼなく、質量変化も非常に小さく、優れた耐熱性を示した。厚み変化は2D-CMC(YSZ)で特に小さく、試験温度が1800℃と非常に高いにもかかわらず、損耗速度は9.7×10-5mm/secとなり、高いエロージョン特性を示した。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のセラミック基複合材料の製造方法によれば、ジルコニア連続繊維強化/ジルコニア系セラミック基複合材料が製造でき、この酸化物系複合材料は従来SiC/SiC複合材料以上の燃焼温度に耐えられるガスタービン用材料として好適である。
【符号の説明】
【0040】
10 ガス供給口
12a、12b ガス流量計
14 試験管
16 有機溶媒(ヘキサン)
18 コック
20 温度コントローラ
22 管状加熱炉
24 反応室
26 繊維
28 ガス排気口