(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151104
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】BCOR変異を検出するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6881 20180101AFI20241017BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241017BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241017BHJP
【FI】
C12Q1/6881 Z ZNA
C12N15/12
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064243
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】513229509
【氏名又は名称】株式会社ヘリオス
(74)【代理人】
【識別番号】100203253
【弁理士】
【氏名又は名称】村岡 皓一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】真野 修一
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅司
(72)【発明者】
【氏名】木村 博信
(72)【発明者】
【氏名】田村 康一
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA17
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】多能性幹細胞におけるBCOR遺伝子変異を簡便に検出できる新規のバイオマーカーおよびそれを用いた方法を提供すること。
【解決手段】PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物又はタンパク質からなる、多能性幹細胞のBCOR遺伝子変異を検出するためのバイオマーカー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物又はタンパク質からなる、多能性幹細胞のBCOR遺伝子変異を検出するためのバイオマーカー。
【請求項2】
多能性幹細胞集団において、請求項1に記載のバイオマーカーの1種以上を検出する工程を含む、該多能性幹細胞集団におけるBCOR遺伝子の変異の有無を判定する方法。
【請求項3】
(1)対象の多能性幹細胞集団及びBCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団において、請求項1に記載の1種以上のバイオマーカーの存在量を測定する工程、及び
(2)少なくとも1種のバイオマーカーにおいて、BCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団において測定された値よりも、対象の多能性幹細胞集団において測定された値の方が高い場合に、該対象の多能性幹細胞集団にBCOR遺伝子に変異を有する多能性幹細胞が存在すると判定する工程
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(1)対象の多能性幹細胞集団において、請求項1に記載の1種以上のバイオマーカーの存在量を測定する工程、及び
(2)工程(1)で測定された値が基準値を超える場合に、該多能性幹細胞集団にBCOR遺伝子に変異を有する多能性幹細胞が存在すると判定する工程
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記基準値が、BCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団における請求項1に記載のバイオマーカーの測定値に基づく値である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
BCOR遺伝子の変異が機能欠失型変異である、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物を特異的に認識する核酸プローブ及び/若しくは核酸プライマー、又は該転写産物にコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、前記バイオマーカーを検出することを特徴とする、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物を特異的に認識する核酸プローブ及び/若しくは核酸プライマー、又は該転写産物にコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体を含む、多能性幹細胞のBCOR遺伝子変異を検出するための判定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞のBCOR変異を検出するためのバイオマーカーに関する。より詳細には、PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物又はタンパク質からなるバイオマーカー、及び該バイオマーカーを用いて多能性幹細胞のBCOR変異を検出する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
日本において、ES細胞やiPS細胞など、これまでヒトに使用されたことが極めて少ないため、既知・未知を含めてリスクが高く想定される細胞を用いる場合には、特定認定再生医療等委員会での審査を経る必要がある。特定認定再生医療等委員会では、原材料となる多能性幹細胞において、造腫瘍性を否定できないゲノム所見を確認することが審査のポイントとなっており、該ゲノム所見としては、(1)核型異常、(2)腫瘍関連遺伝子のSNV/Indel及びコピー数異常(CNV)を含む構造異常、及び(3)腫瘍化促進の可能性のある外来因子の有意な残存が挙げられる。上記(2)の腫瘍関連遺伝子の1つとして、BCOR(BCL6 corepressor)遺伝子が存在する。
【0003】
BCORは、ポリコーム複合体1.1の構成分子であり、エピジェネティックの制御因子として機能する。ポリコーム複合体1.1は、ヒストンH2A(H2AK119)のLys119のユビキチン化を介して遺伝子発現を抑制し、胚発生、幹細胞機能、造血の調節因子として働く。また、BCOR遺伝子の体細胞における変異は、肉腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、血液悪性腫瘍など、様々ながん種において認められる。また、iPS細胞は、BCOR遺伝子に変異が生じやすく、そしてわずかでも遺伝子変異によりBCOR機能が欠失したiPS細胞が混在すると、数継代の培養によりBCOR変異を持つiPS細胞が選択されていくことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature Genetics volume 54, pages 1406-1416 (2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、BCOR遺伝子の機能欠失型変異には特定のパターンが無く、細胞における該遺伝子変異の検出系を構築することは困難である。よって、本発明は、多能性幹細胞におけるBCOR遺伝子変異を簡便に検出できる新規のバイオマーカーおよびそれを用いた方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、RNA-seq解析を用いた網羅的な解析により、多能性幹細胞におけるBCOR遺伝子変異に連動してその発現が増大する遺伝子を複数見出した。これらの遺伝子は、定量PCRを用いた場合であっても、RNA-seq解析の結果と一致して、BCOR遺伝子に変異を有する多能性幹細胞において高発現することが示された。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1-1]
PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物又はタンパク質からなる、多能性幹細胞のBCOR遺伝子変異を検出するためのバイオマーカー。
[1-2]
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、[1-1]にバイオマーカー。
[1-3]
多能性幹細胞がヒト由来である、[1-1]又は[1-2]にバイオマーカー。
[1-4]
BCOR遺伝子の変異が機能欠失型変異である、[1-1]~[1-3]のいずれか1つに記載のバイオマーカー。
[2]
多能性幹細胞集団において、[1-1]~[1-4]のいずれか1つに記載のバイオマーカーの1種以上を検出する工程を含む、該多能性幹細胞集団におけるBCOR遺伝子の変異の有無を判定する方法。
[3]
(1)対象の多能性幹細胞集団及びBCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団において、[1-1]~[1-4]のいずれか1つに記載の1種以上のバイオマーカーの存在量を測定する工程、及び
(2)少なくとも1種のバイオマーカーにおいて、BCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団において測定された値よりも、対象の多能性幹細胞集団において測定された値の方が高い場合に、該対象の多能性幹細胞集団にBCOR遺伝子に変異を有する多能性幹細胞が存在すると判定する工程
を含む、[2]に記載の方法。
[4]
(1)対象の多能性幹細胞集団において、[1-1]~[1-4]のいずれか1つに記載の1種以上のバイオマーカーの存在量を測定する工程、及び
(2)工程(1)で測定された値が基準値を超える場合に、該多能性幹細胞集団にBCOR遺伝子に変異を有する多能性幹細胞が存在すると判定する工程
を含む、[2]に記載の方法。
[5]
前記基準値が、BCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団における[1-1]~[1-4]のいずれか1つに記載のバイオマーカーの測定値に基づく値である、[4]に記載の方法。
[6-1]
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、[2]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[6-2]
多能性幹細胞がヒト由来である、[2]~[6-1]のいずれか1つに記載の方法。
[7]
BCOR遺伝子の変異が機能欠失型変異である、[2]~[6-2]のいずれか1つに記載の方法。
[8]
PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物を特異的に認識する核酸プローブ及び/若しくは核酸プライマー、又は該転写産物にコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、前記バイオマーカーを検出することを特徴とする、[2]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9-1]
PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物を特異的に認識する核酸プローブ及び/若しくは核酸プライマー、又は該転写産物にコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体を含む、多能性幹細胞のBCOR遺伝子変異を検出するための判定キット。
[9-2]
さらに[1-1]~[1-4]のいずれか1つに記載の1種以上のバイオマーカーを含む、[9-1]に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便に多能性幹細胞におけるBCOR遺伝子の変異を検出する方法が提供される。この方法により、腫瘍化のリスクが低い多能性幹細胞を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】BCOR遺伝子変異陽性及びBCOR遺伝子野生型のiPS細胞におけるTBX1遺伝子の定量PCRの増幅曲線を示す図である。
【
図2】BCOR遺伝子変異陽性及びBCOR遺伝子野生型のiPS細胞におけるPRAC1遺伝子の定量PCRの増幅曲線を示す図である。
【
図3】BCOR遺伝子変異陽性及びBCOR遺伝子野生型のiPS細胞におけるPRAC2遺伝子の定量PCRの増幅曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.BCOR変異を検出するためのバイオマーカー
本発明は、多能性幹細胞におけるBCOR(BCL6 corepressor)遺伝子の変異を検出するためのバイオマーカー(以下、「本発明のバイオマーカー」とも称する。)を提供する。本発明のバイオマーカーとして、具体的には、PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物またはタンパク質が挙げられる。以下では、PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物を、「本発明のバイオマーカー転写産物」と称する場合がある。また、PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択されるタンパク質(即ち、本発明のバイオマーカー転写産物にコードされるタンパク質)を、「本発明のバイオマーカータンパク質」と称する場合がある。
【0011】
本明細書において、「転写産物」は、タンパク質をコードするRNAを意味し、特に断らない限り、以下ではmRNAを指す。RNAを鋳型に逆転写酵素により合成した相補的DNA(cDNA)も、転写産物に含まれるものとする。また、本発明のバイオマーカーの中には、アイソフォームが存在するものがあり、例えば、PRAC2タンパク質は、アイソフォームa及びアイソフォームbが知られている。この場合には、特に断らない限り、アイソフォームa及びアイソフォームbをまとめてPRAC2タンパク質と称し、またアイソフォームaをコードする転写産物及びアイソフォームbをコードする転写産物をまとめてPRAC2転写産物と称する。他のタンパク質及び転写産物についても同様である。
【0012】
また、アイソフォームが存在するタンパク質について、各アイソフォーム又は該アイソフォームをコードする転写産物は、いずれも本発明のバイオマーカーとして用いることが可能であるが、多能性幹細胞において最も発現量の多いアイソフォームや、該アイソフォームと他のアイソフォームの組合せが本発明のバイオマーカーとして好ましい。例えば、PRAC2タンパク質の場合にはアイソフォームbが、TBX1タンパク質の場合にはアイソフォームDが、MT1Fタンパク質の場合にはアイソフォーム1、PITX2タンパク質の場合にはアイソフォームc、MT1Gタンパク質の場合にはアイソフォーム2が好ましい。
【0013】
本発明のバイオマーカー転写産物は、公知の転写産物であり、例えば、PRAC1転写産物はNCBI Accession No.: NM_032391.3(配列番号1)として、PRAC2転写産物はNCBI Accession No.: NM_001282276.1(配列番号2)(アイソフォームa)及びNCBI Accession No.: NM_001282275.2(配列番号3)(アイソフォームb)として、TBX1転写産物はNCBI Accession No.: NM_080646.2(配列番号4)(アイソフォームA)、NCBI Accession No.: NM_005992.1(配列番号5)(アイソフォームB)、NCBI Accession No.: NM_080647.1(配列番号6)(アイソフォームC)及びNCBI Accession No.: NM_001379200.1(配列番号7)(アイソフォームD)として、MT1F転写産物はNCBI Accession No.: NM_005949.4(配列番号8)(アイソフォーム1)及びNCBI Accession No.: NM_001301272.2(配列番号9)(アイソフォーム2)として、ZIC1転写産物はNCBI Accession No.: NM_003412.4(配列番号10)として、PITX2転写産物はNCBI Accession No.: NM_001204399.1(配列番号11)及びNM_153427.3(配列番号12)(アイソフォームa)、NCBI Accession No.: NM_001204397.2(配列番号13)、NM_001204398.1(配列番号14)及びNM_153426.3(配列番号15)(アイソフォームb)、並びにNCBI Accession No.: NM_000325.6(配列番号16)(アイソフォームc)として、MT1G転写産物はNCBI Accession No.: NM_005950.3(配列番号17)(アイソフォーム1)及びNCBI Accession No.: NM_001301267.2(配列番号18)(アイソフォーム2)として、FOXC1転写産物はNCBI Accession No.: NM_001453.3(配列番号19)として配列が開示されている。本発明において、各転写産物は、配列番号1~19のいずれかで示される塩基配列(但し、TをUと読み替えるものとする)を含むRNAであってもよく、該塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含むRNAであってもよい。
【0014】
配列番号1~19のいずれかで示される塩基配列と実質的に同一な塩基配列としては、例えば、これらの塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上(例:96%、97%、98%、99%又はそれ以上)の同一性を有する塩基配列であり、かつ本発明のバイオマーカータンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする配列などが挙げられる。
【0015】
また、配列番号1~19のいずれかで示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列としては、これらの塩基配列のうち1又は2個以上(好ましくは、1~300個程度、好ましくは1~150個程度、さらに好ましくは1~30個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10)個)のヌクレオチドが置換、挿入、付加及び/又は欠失した塩基配列を含み、かつ本発明のバイオマーカータンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする配列も挙げられる。
【0016】
本発明のバイオマーカー転写産物は、例えば、該転写産物を含有する細胞又は生体試料から、自体公知の方法により単離、精製することにより得ることができる。また、化学合成により作製してもよく、またインビトロ転写反応(IVT)法により作製することもできる。
【0017】
本発明のバイオマーカータンパク質は、公知のタンパク質であり、例えば、PRAC1タンパク質はNCBI Accession No.: NP_115767.1(配列番号20)として、PRAC2タンパク質はNCBI Accession No.: NP_001269205.1(配列番号21)(アイソフォームa)及びNCBI Accession No.: NP_001269204.1(配列番号22)(アイソフォームb)として、TBX1タンパク質はNCBI Accession No.: NP_542377.1(配列番号23)(アイソフォームA)、NCBI Accession No.: NP_005983.1(配列番号24)(アイソフォームB)、NCBI Accession No.: NP_542378.1(配列番号25)(アイソフォームC)及びNCBI Accession No.: NP_001366129.1(配列番号26)(アイソフォームD)として、MT1Fタンパク質はNCBI Accession No.: NP_005940.1(配列番号27)(アイソフォーム1)及びNCBI Accession No.: NP_001288201.1(配列番号28)(アイソフォーム2)として、ZIC1タンパク質はNCBI Accession No.: NP_003403.2(配列番号29)として、PITX2タンパク質はNCBI Accession No.: NP_001191328.1及びNP_700476.1(いずれも同一アミノ酸配列である。)(配列番号30)(アイソフォームa)、NCBI Accession No.: NP_001191326.1、NP_001191327.1及びNP_700475.1(いずれも同一アミノ酸配列である。)(配列番号31)(アイソフォームb)、並びにNCBI Accession No.: NP_000316.2(配列番号32)(アイソフォームc)として、MT1Gタンパク質はNCBI Accession No.: NP_005941.1(配列番号33)(アイソフォーム1)及びNCBI Accession No.: NP_001288196.1(配列番号34)(アイソフォーム2)として、FOXC1タンパク質はNCBI Accession No.: NP_001444.2(配列番号35)として配列が開示されている。本発明において、各タンパク質は、配列番号20~35のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよく、該アミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。
【0018】
配列番号20~35のいずれかで示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、これらのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上(例:96%、97%、98%、99%又はそれ以上)の類似性又は同一性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「類似性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方若しくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸及び類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。本明細書におけるアミノ酸配列の類似性又は同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
【0019】
また、配列番号20~35のいずれかで示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、これらのアミノ酸配列のうち1又は2個以上(好ましくは、1~100個程度、好ましくは1~50個程度、さらに好ましくは1~10個程度、特に好ましくは1~数(2、3、4若しくは5)個)のアミノ酸が置換、挿入、付加及び/又は欠失したアミノ酸配列を含むタンパク質も挙げられる。
【0020】
本発明のバイオマーカータンパク質は、公知のタンパク質合成法、例えば、固相合成法、液相合成法等に従って製造することができる。得られたタンパク質は、公知の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせ等により精製単離することができる。また、自体公知の方法により、生体試料から単離、精製してもよい。あるいは、本発明のバイオマーカータンパク質は、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物からタンパク質を分離精製することによって製造することもできる。かかる核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。
【0021】
本発明のバイオマーカーは、機能欠失型変異(即ち、ナンセンス変異又はフレームシフト変異)のみならず、BCOR遺伝子が野生型の細胞と比較して、BCORの機能の低下及び/又はBCORの遺伝子産物の発現量の低下を伴う、ミスセンス変異、スプライシング異常を伴う変異及び遺伝子調節領域(例:プロモーター、エンハンサー)の変異などの機能減弱型変異の有無も検出し得る。また、BCOR遺伝子はX染色体上にあり、本発明の方法により検出し得るBCOR遺伝子の変異は、多能性幹細胞がXX型である場合には、不活化の起きていないアレル、もしくは両方のアレルにあってもよい。アレルについて考慮しなくてもよい点からは、本発明で用いる多能性幹細胞は、XY型であることが好ましいが、活性型X染色体に変異が挿入されたBCOR遺伝子の機能欠失を生じるXX型も検出可能である。なお、本明細書において、機能欠失型変異は、機能減弱型変異に包括されるものとする。
【0022】
本発明のバイオマーカーにより検出対象となるBCOR遺伝子の機能減弱型変異としては、例えば、ナンセンス変異やフレームシフト変異により、正常よりもアミノ酸配列が短くなる変異や、ミスセンス変異によるアミノ酸置換によりBCORタンパク質としての機能が減弱される変異が挙げられる。フレームシフト変異として、具体的には、例えばchrX:40,064,431(hg38)での1塩基挿入変異、chrX:40,057,258(hg38)での1塩基挿入変異などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書において、「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、生体の種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、三胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)のどの系統の細胞にも分化し得る能力を有する幹細胞を指す。本発明に用いる多能性幹細胞としては、例えば、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(nuclear transfer Embryonic stem cell:ntES細胞)、多能性生殖幹細胞(multipotent germline stem cell)(「mGS細胞」)、胚性生殖幹細胞(embryonic germ cell:EG細胞)が挙げられるが、好ましくはiPS細胞(より好ましくはヒトiPS細胞)である。上記多能性幹細胞がES細胞又はヒト胚に由来する任意の細胞である場合、その細胞は胚を破壊して作製された細胞であっても、胚を破壊することなく作製された細胞であってもよいが、倫理的な観点からは、好ましくは、胚を破壊することなく作製された細胞である。
【0024】
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例:胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman(1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された(J.A. Thomson et al.(1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al.(1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848; J.A. Thomson et al.(1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall(1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。あるいは、ES細胞は、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて樹立することもできるし(Chung Y. et al. (2008), Cell Stem Cell 2: 113-117)、発生停止した胚を用いて樹立することもできる(Zhang X. et al. (2006), Stem Cells 24: 2669-2676.)。
【0025】
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(Wakayama T. et al.(2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al.(2005), Biol. Reprod., 72:932-936; Byrne J. et al.(2007), Nature, 450:497-502)。即ち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(Cibelli J.B. et al.(1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008), 実験医学, 26巻, 5号(増刊), 47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0026】
本発明で用いるES細胞株としては、マウスES細胞であれば、例えば、inGenious targeting laboratory社、理研(理化学研究所)等が樹立した各種マウスES細胞株が利用可能であり、ヒトES細胞株であれば、例えば、ウィスコンシン大学、NIH、理研、京都大学、国立成育医療研究センター、Cellartis社、ESI Bio社、WiCell Research等が樹立した各種ヒトES細胞株が利用可能である。具体的には、例えば、ヒトES細胞株としては、ESI Bio社が分譲するCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WiCell Researchが分譲するH1株、H9株等、理研が分譲するKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株などが挙げられる。
【0027】
iPS細胞は、哺乳動物体細胞又は未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞である。現在、iPS細胞にはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S., Cell, (2006) 126: 663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S., et al. Cell, (2007) 131: 861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPS細胞(Okita, K., Ichisaka, T., and Yamanaka, S. (2007). Nature 448, 313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPS細胞(Nakagawa M, Yamanaka S., et al. Nature Biotechnology, (2008) 26, 101 - 106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPS細胞(Okita K et al. Nat. Methods 2011 May;8(5):409-12, Okita K et al. Stem Cells. 31(3):458-66.)等も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J., Thomson JA. et al., Science (2007) 318: 1917-1920.)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH, Daley GQ. et al., Nature (2007) 451: 141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(特開2008-307007号)等も用いることができる。
【0028】
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y., Ding S., et al., Cell Stem Cell, (2008) Vol3, Issue 5,568-574;、Kim JB., Scholer HR., et al., Nature, (2008) 454, 646-650;Huangfu D., Melton, DA., et al., Nature Biotechnology, (2008) 26, No 7, 795-797)、あるいは特許文献(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、j2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。
【0029】
人工多能性幹細胞株としては、NIH、理研、京都大学、Lonza社等が樹立した各種iPS細胞株が利用可能である。例えば、ヒトiPS細胞株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株等、京都大学の253G1株、253G4株、1201C1株、1205D1株、1210B2株、1383D2株、1383D6株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株、1231A3株、FfI-01s04株、QHJI01s04株、Lonza社のTC-1133HKK_05G株、TC-1133HKK_06E株、或いは上記iPS細胞株に遺伝子改変を行ったiPS細胞株等が挙げられる。
【0030】
多能性幹細胞の由来種も特に限定されず、例えば、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類などの細胞であってよい。好ましい由来種は、ヒトである。
【0031】
2.BCOR遺伝子変異の有無の判定方法
本発明は、多能性幹細胞集団について、本発明のバイオマーカーを検出する工程を含む、該多能性幹細胞集団におけるBCOR遺伝子の変異の有無を判定する方法(以下、「本発明の判定方法」と称することがある。)を提供する。本発明の判定方法では、本発明のバイオマーカーを1種のみ検出してもよく、また2種以上検出してもよい。2種以上検出する場合に、検出対象のバイオマーカーの組合せは特に限定されず、異なる種類の転写産物又はタンパク質を検出してもよく(例えば、PRAC1転写産物及びPRAC2転写産物を検出するなど)、同種の転写産物又はタンパク質を検出してもよい(例えば、PRAC2転写産物及びPRAC2タンパク質を検出する、またはPRAC2のアイソフォームa及びPRAC2のアイソフォームbを検出するなど)。一態様において、本発明の判定方法は、多能性幹細胞集団において、本発明のバイオマーカーが検出された場合に、該多能性幹細胞集団にBCOR遺伝子の変異が存在すると判定する方法である。
【0032】
本明細書において、特に断りのない限り、「細胞」には、「細胞集団」が含まれるものとする。細胞集団は、1種類の細胞から構成されていてもよく、2種類以上の細胞から構成されていてもよい。よって、「多能性幹細胞」との用語には、単一の多能性幹細胞だけでなく、多能性幹細胞集団も包含されるものとする。また、「多能性幹細胞集団」は、1つ以上の多能性幹細胞を含む細胞集団を意味するが、特に断りのない限り、多能性幹細胞集団は、主として多能性幹細胞を含む細胞集団(典型的には、細胞集団における多能性幹細胞の割合(多能性幹細胞数/全細胞数 × 100)が90%以上の細胞集団)である。さらに、BCOR遺伝子に変異を有さない多能性幹細胞集団(以下、「野生型細胞集団」とも称する)は、下述の実施例で示されるように、アンプリコンシーケンス解析により、細胞集団における機能欠失型変異を有する細胞の割合が1%未満又は未検出である細胞集団を意味する。また、本発明の判定方法において、典型的には、細胞集団において、BCOR遺伝子に変異を有する細胞が1つ以上(好ましくは1%以上の割合で)含まれる場合に、多能性幹細胞集団にBCOR遺伝子の変異が存在すると判定される。
【0033】
また、本明細書において、「バイオマーカーを検出する」には、多能性幹細胞集団において本発明のバイオマーカーの存在の有無(即ち、検出方法における検出限界以上の量の転写産物又はタンパク質が存在するか否か)を調べることだけでなく、その存在量を測定する(定量する)ことも包含されるものとする。よって、本発明のバイオマーカーの存在量を指標として、本発明の判定方法を実施することもできる。従って、別の態様において、本発明の判定方法は、
(1)対象の多能性幹細胞集団(以下、「対象細胞集団」とも称する。)及び野生型細胞集団において、1種以上の本発明のバイオマーカーの存在量を測定する工程、及び
(2)少なくとも1種のバイオマーカー(好ましくは測定した全てのバイオマーカー)において、野生型細胞集団において測定された値よりも、対象細胞集団で測定された値の方が高い場合に、該対象細胞集団にBCOR遺伝子の変異が存在すると判定する工程
を含む方法である。
【0034】
上記工程(1)において、バイオマーカーの存在量の測定は、典型的には、細胞数が同じ細胞集団において行われる。
【0035】
対象の多能性幹細胞において測定した存在量を、予め設定した基準値と比較することで、該多能性幹細胞におけるBCOR遺伝子の変異の有無を判定してもよい。従って、さらに別の態様において、本発明の判定方法は、
(1’)対象細胞集団において、1種以上の本発明のバイオマーカーの存在量を測定する工程、及び
(2’)工程(1)で測定された値が基準値を超える場合に、該対象細胞集団にBCOR遺伝子の変異が存在すると判定する工程
を含む方法である。
【0036】
本発明の一態様において、上記工程(2’)で用いる基準値は、野生型細胞集団における本発明のバイオマーカーの測定値に基づく値である。かかる測定値は、典型的には、多能性幹細胞数が同じ細胞集団において測定されたものである。本発明に用いる「基準値」としては、例えば、複数の細胞集団における測定値の平均値、最頻値、中央値や、これらの値から四則演算により算出した値などを採用することもできる。
【0037】
上記基準値は、カットオフ値であってもよい。カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、対象細胞集団及び野生型細胞集団において本発明のバイオマーカーの量を測定し、測定された値における診断感度及び診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。
【0038】
また、本明細書において、「BCOR遺伝子の変異の有無を判定する」には、細胞集団において、BCOR遺伝子に変異を有する細胞が存在するか否かの判定をすることだけでなく、該細胞集団におけるBCOR遺伝子に変異を有する細胞の割合や、変異の種類を分析等(例:分析、評価、算定等)することも含まれるものとする。例えば、BCOR遺伝子に変異を有する細胞の割合が既知の複数のサンプルを用いて本発明のバイオマーカーの存在量を測定して検量線を作成し、該検量線に基づき、BCOR遺伝子に変異を有する細胞の割合が未知の細胞集団における本発明のバイオマーカーの存在量から、該割合を算出することもできる。
【0039】
細胞集団における本発明のバイオマーカーの検出又は定量は、該試料からRNA(例:全RNA、mRNA)画分を調製し、該画分中に含まれる本発明のバイオマーカー転写産物を検出することにより調べることができる。従って、一実施態様において、本発明の判定方法は、本発明のバイオマーカー転写産物をそれぞれ特異的に認識し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて検出又は定量することを含む。
【0040】
RNA画分の調製は、グアニジン-CsCl超遠心法、AGPC法など公知の手法を用いて行うことができ、市販のRNA抽出用キット(例:RNeasy Mini Kit;QIAGEN製等)を用いて、微量検体から迅速かつ簡便に高純度の全RNAを調製することもできる。RNA画分中の本発明のバイオマーカー転写産物を検出する手段としては、例えば、ハイブリダイゼーション(ノーザンブロット、ドットブロット等)を用いる方法、あるいは定量PCR(例:リアルタイムPCRR、デジタルPCR等)などを用いる方法などが挙げられる。
【0041】
ノーザンブロット又はドットブロットハイブリダイゼーションによる場合、本発明のバイオマーカー転写産物の検出又は定量は、例えば、本発明のバイオマーカーの各転写産物を特異的に認識し得る核酸プローブを用いて行うことができる。そのような核酸プローブとして、例えば、前述の公知の転写産物の塩基配列において、15塩基以上、好ましくは16~100塩基、より好ましくは17~80塩基、さらに好ましくは18~50塩基の連続した領域の配列と相補的な配列を含む核酸などが挙げられる。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、プローブとして用いられる核酸は、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、アンチセンス鎖配列を含むものを用いることができる。
【0042】
上記核酸プローブは、標的核酸の検出を可能とするために、標識剤により標識されていることが好ましい。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔32P〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、プローブと標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジンを用いることもできる。
【0043】
上記核酸プローブは、本発明のバイオマーカー転写産物の配列に基づき設計したプライマーセットを用い、細胞由来のcDNA若しくはゲノムDNAを鋳型としてPCR法によって所望の長さの核酸を増幅するか、該cDNA若しくはゲノムDNAライブラリーから、コロニー若しくはプラークハイブリダイゼーション等により上記の遺伝子若しくはcDNAをクローニングし、必要に応じて制限酵素等を用いて適当な長さの断片とすることにより取得することができる。あるいは、市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによっても得ることができる。
【0044】
ノーザンハイブリダイゼーションによる場合は、上記のようにして調製したRNA画分をゲル電気泳動にて分離した後、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等のメンブレンに転写し、上記のようにして調製された標識プローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液中、特異的にハイブリダイゼーションさせた後、適当な方法でメンブレンに結合した標識をバンド毎に検出するか、あるいは標識量をバンド毎に検出又は定量することにより、本発明のバイオマーカーの転写量を測定することができる。ドットブロットの場合も、RNA画分をスポットしたメンブレンを同様にハイブリダイゼーション反応に付し、スポットの標識を検出するか、あるいはスポットの標識量を測定することにより、本発明のバイオマーカーの転写を検出又は転写量を測定することができる。
【0045】
好ましい実施態様によれば、本発明のバイオマーカー転写産物を検出又は定量する方法として、定量PCRが用いられる。定量PCRは、公知の方法で行うことができ、例えば、全RNAを鋳型に逆転写酵素によりcDNAを合成し、標的の遺伝子に特異的な一組の核酸プライマー、DNAポリメラーゼ、さらに、発現量を定量するためのDNAインターカレーターとして機能できる色素又はプローブの存在下でPCRを行うことにより実施できる。
【0046】
デジタルPCRとしては、例えば、ドロプレットデジタルPCR(ddPCR)、チップベースのデジタルPCR(Chip-based digital PCR; cdPCR)などが挙げられる。デジタルPCRは、例えば、次の手順により行われる。デジタルPCR装置に、プローブセット、DNAサンプル、PCRプライマーセット及びDNAポリメラーゼを含む反応溶液をセットする。ここで各反応液成分の混合比率は、公知の範囲で適宜選択し、最適化することができ、使用するプライマーセットやプローブセット等に応じて適宜変更することができる。
【0047】
定量PCRに用いる核酸プライマーは、合成したcDNA上に存在し、増幅の対象とする遺伝子に特異的な一組のプライマーとすることができる。プライマーは、増幅のサイズ(例えば、80-150bpが好ましい)、プライマーのサイズ(例えば、17-25塩基とする)、GC含量(例えば、40-60%とする)、3’末端の配列(例えば、3’末端の塩基をなるべくG又はCとする、3’末端の近傍のGC含量が多すぎるプライマーは避ける)、配列の隔たり(例えば、配列のリピートがないようにする)、配列の相補性(例えば、上流プライマー内部やプライマー間で3塩基以上相補しないようにする)、Tm値(例えば、上流プライマーと下流プライマーのTm値を揃える。Tm値とは2(A+T)+4(G+C))等を考慮して設計でき、また当業者に周知のプライマー設計ソフトウエアを使用して設計することができる。PCRプライマーの設計は、また、Applied Biosystems Inc.等に依頼することができる。かかるプライマーも、核酸プローブと同様の方法により調製や合成等することができる。
【0048】
定量PCRに用いるプローブ(該プローブも「核酸プローブ」に包含されるものとする。)には、蛍光色素を結合させることができる。かかる蛍光色素は、種々のものが市販されており、例えば、6-FAM(フルオレセイン)、HEX、TE、Quasar 670、Quasar 570、Quasar 705、Pulsar 650、TET、HEX、VIC、JOE、CAL Fluor Orenge、CAL Fluor Gold、CAL Fluor Red、Texas Red、Cy、Cy5などが挙げられる。また、各プローブは、さらに蛍光色素からの蛍光を消光できるクエンチャーが結合されていることが好ましい。クエンチャーとしては、蛍光色素からの蛍光を消光できるものであれば特に制限されず、蛍光色素であっても非蛍光色素であってもよいが、検出の精度の観点から非蛍光色素が好ましい。具体的なクエンチャーとしては、例えば、6-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、Eclipse Dark Quencher、Iowa black FQ(IBFQ)、minor groove binder(MGB)、非蛍光クエンチャー(NFQ)などが挙げられる。好ましい態様において、各プローブの5’又は3’末端に蛍光色素が結合され、反対側の末端にクエンチャーが結合される。
【0049】
本発明のバイオマーカータンパク質の検出又は定量は、細胞集団からタンパク質画分を調製し、該画分中に含まれるタンパク質を検出又は定量することにより調べることができる。これらのタンパク質の検出又は定量は、各タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的測定法(例:ELISA、FIA、RIA、ウェスタンブロット等)によって行うことができるが、典型的には、免疫学的測定法、特にELISAにより行う。また、下記3.で記載の本発明の簡易キットを用いた方法を用いてもよい。
【0050】
本発明のバイオマーカータンパク質をそれぞれ特異的に認識し得る抗体は、これらのタンパク質又はエピトープを有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、及びこれらの結合性断片などが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAbなどが挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。また、本発明において、本発明のバイオマーカータンパク質をそれぞれ特異的に認識し得る抗体として、市販の抗体又は抗体を含むキットやアレイ等を使用することもまた好ましい。
【0051】
個々の免疫学的検出法又は定量法を本発明の判定方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のバイオマーカーの検出又は定量系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。例えば、入江寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol.70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書Vol.73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書Vol.74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書Vol.84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書Vol.92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書Vol.121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0052】
また、本発明のバイオマーカーの検出又は定量は、ハイスループットなタンパク質の検出又は定量解析が可能なiTRAQTM試薬(ABI社)及び質量分析計の組み合わせによりプロテオーム解析を用いて検出又は定量してもよい。
【0053】
以上より、一態様において、本発明の測定方法は、1種以上の本発明のバイオマーカー転写産物を特異的に認識する核酸プローブ及び/若しくは核酸プライマー、又は該転写産物にコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、前記バイオマーカーを検出することを特徴とする方法である。
【0054】
3.BCOR遺伝子変異の有無の判定キット
さらに本発明は、多能性幹細胞のBCOR遺伝子変異を検出するための判定キット(以下、本発明の判定キット)を提供する。本発明の判定キットには、好ましくは、PRAC1、PRAC2、TBX1、MT1F、ZIC1、PITX2、MT1G及びFOXC1からなる群から選択される転写産物を特異的に認識する核酸プローブ及び/若しくは核酸プライマー、又は該転写産物にコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体が含まれる。これらは1種類のみ含まれていてもよいし、複数種類含まれていてもよい。
【0055】
一態様において、本発明の判定キットは、ELISA法を利用して、試料を基板に接触させるだけで、該試料中に本発明のバイオマーカーの有無を検出できるキット(本明細書において、「本発明の簡易キット」とも称することがある。)としても提供される。本発明の簡易キットは、本発明のバイオマーカータンパク質を特異的に認識する抗体(以下、「第一の抗体」ともいう。)が固定された基板を含み、典型的には、該抗体は標識された抗体である。また、本発明の簡易キットに含まれる基板には、上記抗体とは別の、本発明のバイオマーカータンパク質を特異的に認識する抗体(以下、「第二の抗体」ともいう。)が含まれることが好ましく、かかる態様により、サンドイッチELISA法により本発明のバイオマーカーを検出することができる。また、本発明の簡易キットに含まれる基板には、第一の抗体を認識する抗体(例:抗IgG抗体又は抗IgM抗体)がさらに固定されていることも好ましく、かかる抗体により、キットによる判定が正常に行われたことを確認することができる。
【0056】
本発明の判定キットが前記の核酸プローブ又は核酸プライマー(単に「核酸」ともいう。)を構成として含む場合、これらの核酸としては、上記2.の本発明の判定方法で例示されたものと同じものを用いることができる。これらの核酸は、乾燥した状態若しくはアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水若しくは適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。標識プローブとして用いられる場合、核酸は予め上記のいずれかの標識物質で標識した状態で提供することもできるし、標識物質とそれぞれ別個に提供され、用時標識して用いることもできる。あるいは、該核酸は、適当な基板に固定された(担持された、又は固相化されたともいう。)状態で提供することもできる。基板としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、固定化手段としては、予め核酸にアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入しておき、一方、基板上にも該核酸と反応し得る官能基(例:アルデヒド基、アミノ基、SH基、ストレプトアビジンなど)を導入し、両官能基間の共有結合で基板と核酸を架橋したり、ポリアニオン性の核酸に対して、基板をポリカチオンコーティングして静電結合を利用して核酸を固定化するなどの方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明の判定キットが前記の抗体を構成として含む場合、これらの抗体としては、上記2.の本発明の判定方法で例示された抗体と同じものが挙げられる。
【0058】
本発明の判定キットには、上記核酸や抗体に加えて、本発明のバイオマーカーの発現を検出又は定量するための反応において必要な他の物質を含んでいてもよい。これらの他の物質は、反応に悪影響を及ぼさない限り、核酸や抗体等と共存状態で提供されてもよく、あるいは、別個の試薬とともに提供されてもよい。例えば、本発明のバイオマーカーの発現を検出又は定量するための反応がPCRの場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、dNTPs、耐熱性DNAポリメラーゼ等が挙げられる。定量PCRを用いる場合は、competitor核酸や蛍光試薬(上記インターカレーターや蛍光プローブ等)などをさらに含むことができる。また、本発明のバイオマーカーの発現を検出又は定量するための反応が抗原抗体反応の場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、competitor抗体、標識された二次抗体(例えば、一次抗体がウサギ抗体の場合、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等で標識されたマウス抗ウサギIgGなど)、ブロッキング液、ELISA用プレートなどが挙げられる。また、本発明の判定キットには、キットや試薬の使用方法や、判定基準等の説明が記載された説明書を含んでいてもよい。さらに、上記判定キットには、例えばポジティブコントロールとして用いるため、本発明のバイオマーカーを1種以上含んでいてもよい。本発明の判定キットに用いる試薬などの種類や具体例、使用方法等は、「2.BCOR遺伝子変異の有無の判定方法」に記載の内容が全て援用される。
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例0060】
BCOR遺伝子変異陽性のiPS細胞における遺伝子解析
iPS細胞の維持培養はiMatrix-511MG(マトリクソーム、Catalogue No. 892-005)を0.5 μg/cm2でコーティングした培養皿及びStemFit(登録商標)AK03N培地(味の素)を用いた。継代時はEDTA(ナカライテスク、Catalogue No. 13567-84)で2倍希釈したTrypLE Select(Gibco、Catalogue No. A1285901)を用いて細胞を剥離後、10 μMのY-27632(富士フイルム和光純薬、Catalogue No. 039-24591)を含むStemFit(登録商標)AK03N培地に懸濁し、iMatrix-511MGでコーティングされた培養皿上に播種した。播種から一日後にY-27632を含まないStemFit(登録商標)AK03N培地に変更し、細胞がコンフルエントに近づくまで培養を継続した。
【0061】
BCOR遺伝子変異を含むiPS細胞(2株)及びBCOR遺伝子野生型のiPS細胞(6株)についてRNA-seq解析を実施した。各種iPS細胞からRNeasy Mini kit(QIAGEN、Catalogue No. 74104)を用いてRNAを抽出した。得られたRNAからSMART(Switching Mechanism At 5’End of RNA Template)法によりアダプター配列を含むcDNAを合成した後、Novaseq6000(Illumina社)によりシーケンス解析を実施した。得られたリード配列をDRAGEN Bio-IT Platform(Illumina社)によりゲノム配列へマッピングし、遺伝子単位での発現量を定量化した。得られたRNA-seqデータについてR言語の発現変動遺伝子抽出ソフトウェアであるedgeRを用いてlogFCを算出した。BCOR遺伝子変異陽性のiPS細胞で野生型と比較して32倍以上(logFC > 5)発現増加が見られた遺伝子を表1に示す。なお、本実施例で用いたiPS細胞は、全てヒトの男性由来の細胞である。
【0062】
各種iPS細胞からRNAを抽出後、超微量分光光度計(Thermo Fisher Scientific、Catalogue No. ND-ONE-W)によりRNA濃度を測定した。得られたRNAを500 ngと0.5 μgのOligo dt Primer(Promega、Catalogue No.C110A)及び10 nmolのdNTP Mix(Invitrgen、Catalogue No.18427-013)と混合した後、65℃で5分間加熱処理した。得られたサンプルについてSUPERase-InTM Rnase Inhibitor(Invitrogen、Catalogue No.AM2696)及びSuper Script IV(Invitrogen、Catalogue No.18090050)を用いて逆転写反応を実施し、cDNAを合成した。
得られたcDNAとTaqman Fast Advanced Master Mix(Thermo Fisher Scientific、Catalogue No.4444557)及びQuantStudio 5 リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific、Catalogue No.A28138)を用いて定量PCRを実施した。定量PCRのプライマー・プローブにはTaqman Probe(Thermo Fisher Scientific)を使用した(表3)。
以上の結果から、BCOR遺伝子変異陽性のiPS細胞株では、TBX1、PRAC1、PRAC2の遺伝子発現が亢進していることが明らかとなった。また、これら遺伝子以外の表1に記載の遺伝子についても、同様にiPS細胞株で遺伝子発現が亢進していると強く示唆される。