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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151165
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】車両用サイレンサー
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/08 20060101AFI20241017BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20241017BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B60R13/08
G10K11/162
B32B27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064320
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】杉田 高朗
【テーマコード(参考)】
3D023
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA02
3D023BA03
3D023BB17
3D023BB21
3D023BB29
3D023BB30
3D023BC01
3D023BD12
3D023BD25
3D023BE03
3D023BE04
3D023BE05
3D023BE19
3D023BE20
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03B
4F100AK07A
4F100AK15B
4F100AK25A
4F100AK42A
4F100AK46A
4F100AK46B
4F100AK68B
4F100AL09B
4F100BA02
4F100CA13A
4F100DG01A
4F100DG06A
4F100DG18A
4F100EJ17A
4F100EJ42A
4F100GB31
4F100JB16B
4F100JD02A
4F100JD02B
4F100JH01
5D061AA06
5D061AA22
(57)【要約】
【課題】形状の自由度が高い車両用サイレンサーを提供する。
【解決手段】通気性を有する繊維質層10は、表面に現れている第一の面21と反対側の第二の面22を有し、繊維13とバインダー14を含んでいる。非通気性の樹脂層30は、第二の面22に接着している。繊維質層10は、第一の目付範囲の第一繊維質部分11と第一の目付範囲よりも高い第二の目付範囲の第二繊維質部分12を含んでいる。樹脂層30は、第三の目付範囲の第一樹脂部分31と第三の目付範囲よりも高い第四の目付範囲の第二樹脂部分32を含んでいる。三次元形状3を有する車両用サイレンサー1は、第一繊維質部分11と第一樹脂部分31とが重なった第一部位41、第一繊維質部分11と第二樹脂部分32とが重なった第二部位42、第二繊維質部分12と第一樹脂部分31とが重なった第三部位43、及び、第二繊維質部分12と第二樹脂部分32とが重なった第四部位44を含んでいる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元形状を有する車両用サイレンサーであって、
表面に現れている第一の面、及び、該第一の面とは反対側の第二の面を有し、繊維とバインダーを含み、通気性を有する繊維質層と、
前記第二の面に接着した非通気性の樹脂層と、を含み、
前記繊維質層は、第一の目付範囲の第一繊維質部分、及び、前記第一の目付範囲よりも高い第二の目付範囲の第二繊維質部分を含み、
前記樹脂層は、第三の目付範囲の第一樹脂部分、及び、前記第三の目付範囲よりも高い第四の目付範囲の第二樹脂部分を含み、
前記車両用サイレンサーは、前記第一繊維質部分と前記第一樹脂部分とが重なった第一部位、前記第一繊維質部分と前記第二樹脂部分とが重なった第二部位、前記第二繊維質部分と前記第一樹脂部分とが重なった第三部位、及び、前記第二繊維質部分と前記第二樹脂部分とが重なった第四部位を含む、車両用サイレンサー。
【請求項2】
前記車両用サイレンサーは、車両のホイールハウスに対応するホイールハウス部を含み、
前記ホイールハウス部において、該ホイールハウス部の総面積に対する面積比で前記第二部位が50%以上存在する、請求項1に記載の車両用サイレンサー。
【請求項3】
前記車両用サイレンサーは、該車両用サイレンサーの厚さ方向へ貫通した開口を有し、
前記車両用サイレンサーのうち前記開口の周囲には、前記第四部位が配置されている、請求項1に記載の車両用サイレンサー。
【請求項4】
前記車両用サイレンサーは、前記第一の面が10°以上傾いている屈曲部を含み、
前記屈曲部のうち前記車両用サイレンサーの厚さ方向へ貫通した開口から離隔した箇所には、前記第三部位が配置されている、請求項1に記載の車両用サイレンサー。
【請求項5】
前記車両用サイレンサーの縁部において、該縁部の全長に対する長さ比で前記第一部位が50%以上存在する、請求項1に記載の車両用サイレンサー。
【請求項6】
前記車両用サイレンサーのうち前記第二部位と前記第三部位との間の箇所には、前記第四部位が配置されている、請求項1又は請求項2に記載の車両用サイレンサー。
【請求項7】
前記車両用サイレンサーのうち前記第三部位の周囲には、前記第四部位が配置されている、請求項1又は請求項2に記載の車両用サイレンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状を有する車両用サイレンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に設置されるサイレンサーとして、例えば、三次元形状を有するダッシュパネルに取り付けられるダッシュサイレンサーが知られている。ダッシュパネルには屈曲部があるため、ダッシュサイレンサーはダッシュパネルの屈曲部に合わせられた三次元形状を有する。
特許文献1には、繊維質吸音材と繊維質表皮材を重ねたシート状繊維質材料を敷設位置の形状に合わせてプレス成形することにより得られるダッシュサイレンサーが示されている。繊維質吸音材にはポリエステル繊維フェルトといった繊維質材料が用いられ、繊維質表皮材にはニードルパンチ不織布といった繊維質材料が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-264736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元形状を有するダッシュサイレンサーを形成するためのフェルト及び不織布には、全体にわたって一定の目付を有するシート状繊維質材料が用いられている。シート状繊維質材料がプレス成形されることにより、屈曲部を有するダッシュサイレンサーが形成される。しかし、ダッシュサイレンサーの目付は全体にわたって一定であるため、ダッシュサイレンサーのうち吸音性能がほとんど求められない箇所にも多くの繊維質材料が用いられる。また、ダッシュサイレンサーには、エンジン等からの音を遮ることが求められる箇所もあれば、遮音性能がほとんど求められない箇所もある。
尚、上述のような問題は、フロアサイレンサー、車両用アンダーカバー、等、ダッシュサイレンサー以外の車両用サイレンサーにも考えられる。
【0005】
本発明は、形状の自由度が高い車両用サイレンサーを開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用サイレンサーは、三次元形状を有する車両用サイレンサーであって、
表面に現れている第一の面、及び、該第一の面とは反対側の第二の面を有し、繊維とバインダーを含み、通気性を有する繊維質層と、
前記第二の面に接着した非通気性の樹脂層と、を含み、
前記繊維質層は、第一の目付範囲の第一繊維質部分、及び、前記第一の目付範囲よりも高い第二の目付範囲の第二繊維質部分を含み、
前記樹脂層は、第三の目付範囲の第一樹脂部分、及び、前記第三の目付範囲よりも高い第四の目付範囲の第二樹脂部分を含み、
前記車両用サイレンサーは、前記第一繊維質部分と前記第一樹脂部分とが重なった第一部位、前記第一繊維質部分と前記第二樹脂部分とが重なった第二部位、前記第二繊維質部分と前記第一樹脂部分とが重なった第三部位、及び、前記第二繊維質部分と前記第二樹脂部分とが重なった第四部位を含む、態様を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、形状の自由度が高い車両用サイレンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両用サイレンサーを備える自動車の要部を模式的に例示する図。
図2】車両用サイレンサーを備える自動車の要部を模式的に例示する垂直断面図。
図3】車両用サイレンサーに配置される各部位の例を模式的に示す図。
図4】ホイールハウス部の総面積S1に対する第二部位の面積S2の比(面積比Rh)の例を模式的に示す図。
図5】車両用サイレンサーの屈曲部の例を模式的に示す断面図。
図6】車両用サイレンサーの縁部の全長L1に対する第一部位の長さL2の比(長さ比Re)の例を模式的に示す図。
図7】繊維集合物形成装置の例を模式的に示す図。
図8】サイレンサー形成装置の例を模式的に示す図。
図9】比較例にかかる車両用サイレンサーを模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0010】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~9に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。(「本発明に含まれる技術の概要」において、括弧内は直前の語の補足説明を意味する。)
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0011】
[態様1]
本技術の一態様に係る車両用サイレンサー1は、図1~3等に例示するように、三次元形状3を有する車両用サイレンサー1であって、繊維質層10、及び、非通気性の樹脂層30を含んでいる。前記繊維質層10は、表面に現れている第一の面21、及び、該第一の面21とは反対側の第二の面22を有し、繊維13とバインダー14を含み、通気性を有している。前記樹脂層30は、前記第二の面22に接着している。前記繊維質層10は、第一の目付範囲の第一繊維質部分11、及び、前記第一の目付範囲よりも高い第二の目付範囲の第二繊維質部分12を含んでいる。前記樹脂層30は、第三の目付範囲の第一樹脂部分31、及び、前記第三の目付範囲よりも高い第四の目付範囲の第二樹脂部分32を含んでいる。本車両用サイレンサー1は、前記第一繊維質部分11と前記第一樹脂部分31とが重なった第一部位41、前記第一繊維質部分11と前記第二樹脂部分32とが重なった第二部位42、前記第二繊維質部分12と前記第一樹脂部分31とが重なった第三部位43、及び、前記第二繊維質部分12と前記第二樹脂部分32とが重なった第四部位44を含んでいる。
以下、車両用サイレンサー1を単にサイレンサー1と称することがある。また、低目付範囲の第一繊維質部分11と低目付範囲の第一樹脂部分31とが重なった第一部位を「低目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第一部位」と称することがあり、低目付範囲の第一繊維質部分11と高目付範囲の第二樹脂部分32とが重なった第二部位を「低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位」と称することがあり、高目付範囲の第二繊維質部分12と低目付範囲の第一樹脂部分31とが重なった第三部位を「高目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第三部位」と称することがあり、高目付範囲の第二繊維質部分12と高目付範囲の第二樹脂部分32とが重なった第四部位を「高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位」と称することがある。
【0012】
上記サイレンサー1は第一部位41、第二部位42、第三部位43、及び、第四部位44を含んでいるので、これらの部位をサイレンサー1の板厚の制限、求められる吸音性能、求められる遮音性能、等に応じてサイレンサー1に配置することができる。例えば、サイレンサー1全体の内、厚くすることができ、且つ、吸音性能と遮音性能が求められる箇所には、高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44を配置することができる。サイレンサー1全体の内、厚くすることができるが、遮音性能が求められることが少ない箇所には、サイレンサー1の軽量化のため、高目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第三部位43を配置することができる。サイレンサー1全体の内、厚くすることができないが、遮音性能が求められる箇所には、低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位42を配置することができる。サイレンサー1全体の内、吸音性能も遮音性能も求められない箇所には、サイレンサー1の軽量化のため、低目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第一部位41を配置することができる。
以上例示したように、上記態様は、形状の自由度が高い車両用サイレンサーを提供することができる。
【0013】
ここで、車両用サイレンサー1の三次元形状3は、高低差が車両用サイレンサー1の第一部位41の厚さを超える形状であるものとする。
繊維質層10は、繊維13同士の間に隙間を有する層を意味し、繊維13とバインダー14を含んでいれば他の材料を含んでいてもよい。
繊維質層10が通気性を有することは、繊維質層10において第一の面21から第二の面22へ空気が流通可能であることを意味する。非通気性の樹脂層30は、樹脂層30において一方の面から他方の面へ空気が流通しないことを意味する。
本願における「第一」、「第二」、「第三」、…は、類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0014】
[態様2]
図1,4に例示するように、本車両用サイレンサー1は、車両(例えば自動車100)のホイールハウス125に対応するホイールハウス部55を含んでいてもよい。前記ホイールハウス部55において、該ホイールハウス部55の総面積S1に対する面積比Rhで前記第二部位42が50%以上存在してもよい。
ホイールハウス部55は、車両(100)のタイヤに対応する位置にあるので、厚くすることができない一方、タイヤからの音を遮ることが求められる。低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位42がホイールハウス部55に面積比Rhで50%以上存在することにより、タイヤからの音が効果的に遮られる。従って、上記態様は、厚くすることができないホイールハウス部により車両のタイヤからの音を効果的に遮る車両用サイレンサーを提供することができる。
【0015】
[態様3]
図1~3に例示するように、本車両用サイレンサー1は、該車両用サイレンサー1の厚さ方向D3へ貫通した開口52を有していてもよい。本車両用サイレンサー1のうち前記開口52の周囲(例えば開口隣接部53)には、前記第四部位44が配置されていてもよい。
サイレンサー1において開口52が存在する箇所は、音が厚さ方向D3へ通り抜けやすい。高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44がサイレンサー1において開口52の周囲(53)に配置されていることにより、サイレンサー1において開口52が存在する箇所の吸音性能及び遮音性能が向上する。従って、上記態様は、吸音性能及び遮音性能を向上させる車両用サイレンサーを提供することができる。
【0016】
[態様4]
図5に例示するように、本車両用サイレンサー1は、前記第一の面21が10°以上傾いている屈曲部61を含んでいてもよい。前記屈曲部61のうち本車両用サイレンサー1の厚さ方向D3へ貫通した開口52から離隔した箇所には、前記第三部位43が配置されていてもよい。
サイレンサー1の屈曲部61のうち開口52から離隔した箇所は、車体パネル110の凹凸形状に追従させるために厚くすることが求められる一方、遮音性能が求められることが少ない。そこで、屈曲部61のうち開口52から離隔した箇所に高目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第三部位43を配置することにより、屈曲部61を厚くする一方で軽くさせることができる。従って、上記態様は、遮音性能と軽量化を両立させた車両用サイレンサーを提供することができる。
【0017】
ここで、屈曲部61の傾き角度θは、屈曲部61の断面において第一の面21に対する接線(TG1,TG2)の向きが変わる角度とする。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0018】
[態様5]
図6に例示するように、本車両用サイレンサー1の縁部66において、該縁部66の全長L1に対する長さ比Reで前記第一部位41が50%以上存在してもよい。
サイレンサー1の縁部66には、吸音性能と遮音性能が求められないことが多い。低目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第一部位41がサイレンサー1の縁部66に長さ比Reで50%以上存在することにより、上記態様は、車両用サイレンサーを軽量化させることができる。
【0019】
[態様6]
図2,3に例示するように、本車両用サイレンサー1のうち前記第二部位42と前記第三部位43との間の箇所71には、前記第四部位44が配置されてもよい。
低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位42が高目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第三部位43に隣接する場合、第二部位42と第三部位43との境界において繊維質層10の目付と樹脂層30の目付の両方が変化するため、当該境界を起点としてサイレンサー1が不用意に曲がることがある。高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44が第二部位42と第三部位43との間に配置されているので、上記態様は、サイレンサーが第二部位と第三部位との間で不用意に曲がることを抑制することができる。
【0020】
[態様7]
図3に例示するように、本車両用サイレンサー1のうち前記第三部位43の周囲76には、前記第四部位44が配置されてもよい。
以上の場合、サイレンサー1における厚い部位において、第三部位43の低目付範囲の第一樹脂部分31が周囲の高目付範囲の第二樹脂部分32で補強される。従って、上記態様は、吸音性能を維持しながら車両用サイレンサーを軽量化させることができる。
【0021】
(2)車両用サイレンサーの具体例:
図1は、車両用サイレンサー1を備える自動車100(車両の例)の要部を模式的に例示している。図1の下部には、A1-A1の位置における車体パネル110及びサイレンサー1の垂直断面が示されている。図2は、自動車100の要部を模式的に例示する垂直断面図である。図2の下部には、サイレンサー1に含まれる繊維質層10の断面の模式的な拡大図が示されている。尚、本願の図中、LEFT、RIGHT、UP、DOWNは、それぞれ、左、右、上、下を示す。左右の位置関係は、自動車100の前を見る方向を基準とする。また、符号D1は自動車100の上下方向、符号D2は自動車100の幅方向、符号D3はサイレンサー1の厚さ方向を示す。分かり易く示すため、上下方向D1、幅方向D2、及び、前後方向の拡大率は異なることがあり、各部の厚さが誇張され、各図は整合していないことがある。
【0022】
自動車100の車体は、例えば、鋼板製といった金属製の車体パネル110で形成されている。図1,2に示す車体パネル110は、エンジン室側RM1と車室側RM2とを仕切るダッシュパネル120、及び、自動車100の左右のタイヤに合わせて車室側RM2へ膨出しているホイールハウス125を含み、三次元形状を有している。尚、エンジン室はダッシュパネル120の前側にあり、車室はダッシュパネル120の後側にある。ダッシュパネル120は、エンジン室側RM1から車室側RM2にスタッドボルトといったボルト、ワイヤハーネス、等といった貫通部材を厚さ方向D3へ通すための複数の開口122を有している。ホイールハウス125は、車体パネル110における左右の下部に配置されている。サイレンサー1は、プレス成形により形成され、車体パネル110における車室側RM2の面111に配置され、車体パネル110の屈曲部に合わせられた三次元形状3を有している。
【0023】
成形されたサイレンサー1は、ダッシュパネル120に対応する本体部50、及び、ホイールハウス125に対応するホイールハウス部55を含んでいる。本体部50は、ダッシュパネル120の各開口122に繋がった開口52を有し、ダッシュパネル120に対応する位置においてダッシュパネル120に接触している。各開口52は、サイレンサー1の厚さ方向D3へ貫通している。ホイールハウス部55は、ホイールハウス125に対応する位置においてホイールハウス125に接触している。尚、ホイールハウス部55は、サイレンサー1において車室側RM2に凸である範囲とする。図1に示すサイレンサー1には、本体部50とホイールハウス部55との境界が二点鎖線で示されている。
【0024】
図2に示すように、サイレンサー1には、薄い箇所と厚い箇所とがある。サイレンサー1における薄い箇所の板厚は、特に限定されないが、例えば3~10mmに設定されてもよい。サイレンサー1における厚い箇所の板厚は、特に限定されないが、例えば20~50mmに設定されてもよい。
【0025】
図2に示すサイレンサー1は、厚さ方向D3への通気性を有する繊維質層10、及び、非通気性の樹脂層30を含み、繊維質層10が車体パネル110に接触する状態でボルトにより車体パネル110に取り付けられる。従って、樹脂層30が車室側RM2に向き、サイレンサー1の厚さ方向D3において繊維質層10が車体パネル110と樹脂層30との間に存在する。
尚、通気性があるとは、通気度が0.05cc/cm2/sec以上(より好ましくは1cc/cm2/sec以上、さらに好ましくは3cc/cm2/sec以上)であることを意味する。通気度は、ASTMインターナショナルが発行しているASTM C522-03(2016)(吸音材の通気抵抗の標準試験方法)に規定された通気抵抗測定結果から計算されるcc/cm2/sec単位の数値とする。
【0026】
繊維質層10は、サイレンサー1の表面に現れている第一の面21、及び、該第一の面21とは反対側の第二の面22を有している。繊維質層10は、図2の下部に示すように、繊維13とバインダー14を含有する成形された繊維集合物である。バインダー14で固定されている繊維13同士の間に空隙があることにより、繊維質層10は、通気性を有する。繊維13には、熱可塑性樹脂繊維といった樹脂繊維、植物繊維といったセルロース系繊維、動物繊維といった天然繊維、ガラス繊維といった無機繊維、衣料反毛繊維といった反毛繊維、これらのうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。樹脂繊維には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂といったポリエステル樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂といったポリオレフィン樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂、これらのうち少なくとも一部の組合せ、等の合成樹脂の繊維を用いることができる。樹脂繊維には、着色剤等といった添加剤が含まれてもよい。バインダー14には、熱可塑性バインダー、熱硬化性バインダー、等を用いることができる。熱可塑性バインダーには、PP樹脂やPE樹脂といったポリオレフィン樹脂、低融点のPET樹脂といったポリエステル樹脂、等を用いることができる。バインダー14には、エラストマーや着色剤等といった添加剤が含まれてもよい。バインダー14は、繊維状であるバインダー繊維でもよく、また、芯鞘構造やサイドバイサイド構造等といったコンジュゲート構造の繊維に含まれていてもよい。繊維集合物(繊維質層10)におけるバインダー14の含有比率は、例えば、1~40重量%とすることができる。
【0027】
樹脂層30は、繊維質層10における第二の面22に接着している。樹脂層30には、熱可塑性樹脂といった合成樹脂(エラストマーを含む。)を少なくとも含む材料を用いることができる。樹脂層30のための熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、PE樹脂やPP樹脂といったポリオレフィン樹脂、PA樹脂、エチレン酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、これらの樹脂のいずれかにエラストマーを添加した改質樹脂、これらの樹脂のいずれかに着色剤や充填剤といった添加剤を添加した材料、これらのうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。
尚、樹脂層30における車室側RM2の面38、すなわち、樹脂層30において繊維質層10とは反対側の面の少なくとも一部には、繊維質層10とは別に繊維とバインダーを含む第二の繊維質層が配置されてもよい。むろん、第二の繊維質層の構成は、繊維質層10の構成とは異なっていてもよい。
【0028】
図2に示すように、繊維質層10は、第一の目付範囲の第一繊維質部分11、及び、第一の目付範囲よりも高い第二の目付範囲の第二繊維質部分12を含んでいる。第一の目付範囲は、特に限定されないが、例えば200~800g/m2に設定されてもよい。第二の目付範囲は、特に限定されないが、例えば1000~2000g/m2に設定されてもよい。
また、樹脂層30は、第三の目付範囲の第一樹脂部分31、及び、第三の目付範囲よりも高い第四の目付範囲の第二樹脂部分32を含んでいる。第三の目付範囲は、特に限定されないが、例えば600~1000g/m2に設定されてもよい。第四の目付範囲は、特に限定されないが、例えば2000~5000g/m2に設定されてもよい。
【0029】
図9は、比較例にかかる車両用サイレンサー900を模式的に示す断面図である。サイレンサー900は、繊維質層910と樹脂層930とが重ねられた加熱状態の元材をプレス成形機200でプレス成形することにより形成される。プレス成形機200は、互いに対向する型(201,202)を備えている。繊維質層910側の下型202の成形面は、車体パネル110の凹凸形状に合わせられた凹凸形状を有する。繊維質層910と樹脂層930は、いずれも、全体にわたって一定の目付を有する。この場合、繊維質層910及び樹脂層930の目付はサイレンサー900において薄い部分であっても厚い部分と同じ目付となり、その分、サイレンサー900が重くなる。また、サイレンサー900において薄い部分から厚い部分に変わる箇所に繊維質層910の形状が追従せず、車体パネル110と繊維質層910との間に隙間GP9が生じる。
【0030】
本具体例のサイレンサー1は、繊維質部分(11,12)と樹脂部分(31,32)とを組み合わせた4つの部位(41~44)を含む特徴を有する。低目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第一部位41には、低目付範囲の第一繊維質部分11と低目付範囲の第一樹脂部分31とが重なっている。低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位42には、低目付範囲の第一繊維質部分11と高目付範囲の第二樹脂部分32とが重なっている。高目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第三部位43には、高目付範囲の第二繊維質部分12と低目付範囲の第一樹脂部分31とが重なっている。高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44には、高目付範囲の第二繊維質部分12と高目付範囲の第二樹脂部分32とが重なっている。
以上より、4つの部位(41~44)をサイレンサー1の板厚の制限、求められる吸音性能、求められる遮音性能、等に応じてサイレンサー1に配置することができ、繊維質層10を車体パネル110の凹凸形状に追従させることができる。
【0031】
図3は、サイレンサー1における4つの部位(41~44)の配置例を模式的に示している。むろん、4つの部位(41~44)の配置は、図3に示す例に限定されない。
図3に示す例において、低目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第一部位41は、サイレンサー1の縁部66に配置されている。低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位42は、左右のホイールハウス部55に配置されている。高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44は、開口52の周囲である開口隣接部53、第二部位42と第三部位43との間の箇所71、及び、第三部位43の周囲76に配置されている。以下、4つの部位(41~44)の好ましい配置例を説明する。
【0032】
図4は、左側のホイールハウス部55の総面積S1に対する第二部位42の面積S2の比(面積比Rh)を模式的に例示している。面積比Rhは、S2/S1であり、百分率表記で100×S2/S1(%)である。図示していないが、右側のホイールハウス部55における面積比RhもS2/S1である。
ホイールハウス部55において、第二部位42の面積比Rhの百分率は、50%以上が好ましく、60%以上、70%以上、80%以上、さらには90%以上でもよい。ホイールハウス部55は、自動車100のタイヤに対応する位置にあるので、厚くすることができない一方、タイヤからの音を遮ることが求められる。低目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第二部位42がホイールハウス部55に多く存在することにより、ホイールハウス部55が高い遮音性能を発揮する。従って、厚くすることができないホイールハウス部55で自動車100のタイヤからの音が効果的に遮られる。
【0033】
図3に例示するように、サイレンサー1のうち開口隣接部53には第四部位44が配置されることが好ましい。サイレンサー1において開口52が存在する箇所は、音が厚さ方向D3へ通り抜けやすい。高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44が開口隣接部53に配置されていることにより、開口52付近を厚さ方向D3へ通り抜けようとする音を開口隣接部53において高目付範囲の第二繊維質部分12が吸収したり高目付範囲の第二樹脂部分32が遮ったりする。これにより、サイレンサー1において開口52が存在する箇所の吸音性能及び遮音性能が向上する。
【0034】
図5は、サイレンサー1において第一の面21が外側に凸である向きに大きく曲がっている屈曲部61の断面を模式的に例示している。屈曲部61は、サイレンサー1において、第一の面21が所定角度以上傾いている部分とする。
屈曲部61の傾き角度θは、屈曲部61の断面において、屈曲部61の一端における第一の面21への接線TG1から、屈曲部61の他端における第一の面21への接線TG2までの傾き角度とする。図5に示す断面図が鉛直面に沿った垂直断面図である場合、傾き角度θは、屈曲部61の下端における第一の面21への接線TG1と、屈曲部61の上端における第一の面21への接線TG2と、のなす角度となる。屈曲部61の傾き角度θは、10°以上が好ましく、20°以上、30°以上、さらには45°以上でもよい。尚、傾き角度θは、90°以上になることがあり、180°に達することがある。
【0035】
サイレンサー1の屈曲部61のうち開口52から離隔した箇所には高目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第三部位43が配置されることが好ましい。屈曲部61のうち開口52から離隔した箇所は、車体パネル110の凹凸形状に追従させるために厚くすることが求められる一方、遮音性能が求められることが少ない。第三部位43が屈曲部61のうち開口52から離隔した箇所に存在することにより、高目付範囲の第二繊維質部分12が車体パネル110と屈曲部61との間の隙間を抑制して防音性能を向上させ、低目付範囲の第一樹脂部分31が屈曲部61を軽量化させる。
【0036】
図6は、サイレンサー1の縁部66の全長L1に対する第一部位41の長さL2の比(長さ比Re)の例を模式的に例示している。長さ比Reは、L2/L1であり、百分率表記で100×L2/L1(%)である。
サイレンサー1の縁部66において、第一部位41の長さ比Reの百分率は、50%以上が好ましく、60%以上、70%以上、80%以上、さらには90%以上でもよい。サイレンサー1の縁部66は、例えば車体パネル110と不図示のインストルメントパネルとによって挟まれるため、吸音性能と遮音性能が求められないことが多い。低目付繊維質部分且つ低目付樹脂部分の第一部位41がサイレンサー1の縁部66に多く存在することにより、サイレンサー1が軽くなる。
【0037】
図2,3に例示するように、サイレンサー1のうち第二部位42と第三部位43との間の箇所71には第四部位44が配置されることが好ましい。第四部位44無しに第二部位42と第三部位43とが隣接する場合、第二部位42から第三部位43に変わる境界部において、低目付範囲の第一繊維質部分11が高目付範囲の第二繊維質部分12に変わるうえ、高目付範囲の第二樹脂部分32が低目付範囲の第一樹脂部分31に変わる。このため、第二部位42と第三部位43との境界部を起点としてサイレンサー1が不用意に曲がることがある。高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44が第二部位42と第三部位43との間に配置されると、繊維質層10において目付が変わる部分と樹脂層30において目付が変わる部分とが離れる。これにより、サイレンサー1が第二部位42と第三部位43との間で不用意に曲がることが抑制される。
【0038】
図3に例示するように、サイレンサー1のうち第三部位43の周囲76には第四部位44が配置されることが好ましい。サイレンサー1において厚い部分全てに高目付繊維質部分且つ高目付樹脂部分の第四部位44が配置されると、サイレンサー1が重くなる。第三部位43の周囲76に第四部位44が配置されることにより、第三部位43の低目付範囲の第一樹脂部分31が周囲の高目付範囲の第二樹脂部分32で補強される。これにより、吸音性能の維持とサイレンサー1の軽量化を両立させることができる。
【0039】
(3)車両用サイレンサーの製造方法の具体例:
図7は、繊維質層10となる繊維集合物300を形成するように構成された繊維集合物形成装置400を模式的に例示している。図7の上部には、繊維集合物形成装置400を上から見た模式的な平面図が例示されている。図8は、サイレンサー1を形成するように構成されたサイレンサー形成装置500を模式的に例示している。
図7に示す繊維集合物形成装置400は、繊維F1を下へ送り出す第一繊維供給部410、繊維F2を下へ送り出す第二繊維供給部420、必要に応じて繊維F3を下へ送り出す第三繊維供給部430、コンベヤ440、及び、制御部450を備えている。第三繊維供給部430は、繊維集合物形成装置400から除かれてもよい。繊維F1~F3には、繊維質層10を構成する繊維、すなわち、繊維13と繊維状の熱可塑性のバインダー14が用いられる。
【0040】
第一繊維供給部410は、繊維F1用の原糸を解繊及び混綿し、移動方向D4へ移動するコンベヤ440上に繊維F1を厚さ及び目付が略一定となるように供給して第一供給繊維層310を形成する。主に第一繊維供給部410とコンベヤ440とで第一繊維供給工程ST1が実施される。
移動方向D4において第一繊維供給部410よりも下流側に配置された第二繊維供給部420は、繊維F2用の原糸を解繊及び混綿し、移動方向D4へ移動する第一供給繊維層310上に繊維F2を厚さ及び目付が部分的に異なるように供給して第二供給繊維層320を形成する。主に第二繊維供給部420とコンベヤ440とで第二繊維供給工程ST2が実施される。図7に示す第二繊維供給部420は、繊維F2の供給箇所がコンベヤ440の幅方向D5において互いに異なる複数の分割繊維供給部425を備えている。図7には第二繊維供給部420が分割繊維供給部#1~#10に分割されていることが示されているが、第二繊維供給部420に設置される分割繊維供給部425の数は10に限定されない。各分割繊維供給部425は、繊維F2の計量機能を有する。各分割繊維供給部425からは、コンベヤ440で移送される第一供給繊維層310の上面における任意の位置に任意の量の繊維F2を堆積させることができる。言い換えると、繊維F2の供給量は、移動方向D4及び幅方向D5に沿った平面における二次元の位置に応じて変えることができる。
【0041】
移動方向D4において第二繊維供給部420よりも下流側に配置された第三繊維供給部430は、繊維F3用の原糸を解繊及び混綿し、移動方向D4へ移動する供給繊維層(310,320)上に繊維F3を厚さ及び目付が略一定となるように供給して第三供給繊維層330を形成する。主に第三繊維供給部430とコンベヤ440とで第三繊維供給工程ST3が実施される。第三繊維供給工程ST3は、製造方法から除かれてもよい。
コンベヤ440は、供給繊維層(310,320,330)を含む繊維集合物300を載せて移動方向D4へ移送する。コンベヤ440には、ベルトコンベヤ等を用いることができる。
【0042】
制御部450は、繊維質層10に含まれる繊維質部分(11,12)の目標の目付に基づいて、コンベヤ440の移動速度V1、繊維供給部(410,430)からの繊維F1,F3の供給速度、各分割繊維供給部425からの繊維F2の供給速度V2、等を制御する。特に、制御部450は、第一供給繊維層310上の事前に設定した領域のみに繊維F2を供給する制御を行い、さらに、繊維F2を供給する領域において繊維F2の供給量も制御する。制御部450は、制御プログラムを構成するシーケンスに従って、分割繊維供給部425から第一供給繊維層310上に供給する繊維F2の目付を分割繊維供給部425の単位で可変制御する。制御部450は、第一の目付範囲の第一繊維質部分11に対応する領域に供給する繊維F2を少なくさせ、第一の目付範囲よりも高い第二の目付範囲の第二繊維質部分12に対応する領域に供給する繊維F2を多くさせる。
繊維供給工程(ST1,ST2,ST3)を経て形成される繊維集合物300には、樹脂積層工程ST4においてベース樹脂層350(図8参照)が重ねられ、サイレンサー形成装置500に搬入される。
【0043】
図8に示すサイレンサー形成装置500は、繊維集合物300とベース樹脂層350を含む元材340を移送方向D6へ搬送する移送機510、元材340におけるベース樹脂層350上に追加樹脂360を供給する複数の分割供給部520、制御部530、不図示の加熱機、プレス成形機200、不図示の裁断機、等を備えている。ベース樹脂層350と追加樹脂360は、樹脂層30となる。ベース樹脂層350と追加樹脂360には、樹脂層30となる熱可塑性樹脂が用いられる。
移送機510には、ベルトコンベヤといった公知のコンベヤ等を用いることができる。
【0044】
複数の分割供給部520は、元材340の幅方向D7へ並べられている。尚、複数の分割供給部520は、幅方向D7において異なる位置にあれば幅方向D7からずれた方向へ並べられてもよい。図8に示す複数の分割供給部520は、幅方向D7において順に分割供給部521,522,523,524,525を含んでいる。むろん、分割供給部520の数は、2個以上であれば、4個以下でもよいし、6個以上でもよい。各分割供給部520は、吐出速度を変更可能に溶融状態の追加樹脂360を吐出するノズル526を備えている。追加樹脂360の吐出速度を変更可能であることは、元材340が移送方向D6へ移動している最中に追加樹脂360の吐出速度が速くなったり遅くなったりと変わることがあることを意味する。従って、追加樹脂360の供給量は、移送方向D6における位置に応じて変えることができ、且つ、幅方向D7における位置に応じて変えることができる。言い換えると、追加樹脂360の供給量は、移送方向D6及び幅方向D7に沿った平面における二次元の位置に応じて変えることができる。
【0045】
制御部530は、繊維質層10に含まれる樹脂部分(31,32)の目標の目付に基づいて、移送機510による元材340の移送速度、各分割供給部520による追加樹脂360の吐出速度、等を制御する。特に、制御部530は、ベース樹脂層350上の事前に設定した領域のみに追加樹脂360を供給する制御を行い、さらに、追加樹脂360を供給する領域において追加樹脂360の供給量も制御する。制御部530は、制御プログラムを構成するシーケンスに従って、分割供給部521~525からベース樹脂層350上に供給する追加樹脂360の目付を分割供給部521~525の単位で可変制御する。制御部530は、第三の目付範囲の第一樹脂部分31に対応する領域に供給する追加樹脂360を少なくさせ、第三の目付範囲よりも高い第四の目付範囲の第二樹脂部分32に対応する領域に供給する追加樹脂360を多くさせる。例えば、図8に示すように、制御部530は、分割供給部521,523,525から追加樹脂360を吐出させずに分割供給部522,524から追加樹脂360を吐出させることが可能であり、分割供給部522による追加樹脂360の吐出速度と分割供給部524による追加樹脂360の吐出速度とを異ならせることが可能である。図8には、比較的速い吐出速度でベース樹脂層350上に吐出された追加樹脂361、及び、比較的遅い吐出速度でベース樹脂層350上に吐出された追加樹脂362が示されている。
以上のようにして、追加樹脂供給工程ST5が実施される。元材340及び追加樹脂360を含む材料は、サイレンサー1を含む大きさに不図示の切断機によって切断され、不図示の加熱機に搬入される。
【0046】
尚、図7に示す制御部450、及び、図8に示す制御部530には、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、等を備え制御プログラムを実行するコンピューター等を用いることができる。制御部450,530は、一つのコンピューターに含まれていてもよい。
【0047】
図8に示す成形工程ST6は、元材340及び追加樹脂360を含む材料を加熱する加熱工程ST61、加熱された材料をプレス成形するプレス工程ST62、及び、成形された材料をサイレンサー1の形状に裁断する裁断工程ST63を含んでいる。
加熱工程ST61において、不図示の加熱機は、元材340及び追加樹脂360が含有している熱可塑性樹脂の融点よりも少し高い温度まで、元材340及び追加樹脂360を含む材料を加熱する。加熱機には、サクションヒーター(熱風循環ヒーター)、赤外線ヒーター、等を用いることができる。加熱された材料は、プレス成形機200に搬入される。
【0048】
プレス工程ST62において、プレス成形機200は、加熱された材料をプレス成形する。プレス成形は、熱成形に含まれる。図8に示すプレス成形機200は、プレス成形型を構成する上型201及び下型202が近接及び離隔可能に設けられている。上型201は、樹脂層30における車室側RM2の面38の形状に合わせた型面を対向面に有する金型とされている。下型202は、繊維質層10における第一の面21の形状に合わせた型面を対向面に有する金型とされている。図8に示す例では、元材340及び追加樹脂360を含む材料が型(201,202)の間で上下逆に配置される。プレス成形は、加熱を伴う熱間プレスでもよいし、加熱を伴わない冷間プレスでもよい。プレス成形機200が上型201及び下型202を近接させると、材料が三次元形状3にプレス成形される。プレス成形後に材料の温度が熱可塑性樹脂の融点よりも下がり該熱可塑性樹脂が固化すると、異目付の繊維質部分(11,12)を含む繊維質層10と、異目付の樹脂部分(31,32)を含む樹脂層30と、が一体化された状態で三次元形状3が維持される。すなわち、通気性を有する繊維質層10は繊維13と固化したバインダー14を含み、非通気性の樹脂層30は固化した樹脂で形成されている。プレス工程ST62は、プレス成形された材料を冷却する冷却工程を含んでいてもよい。プレス成形機200が上型201及び下型202を離隔させると、三次元形状3のプレス成形物を取り出すことができる。取り出されたプレス成形物は、不図示の裁断機に搬入される。
【0049】
裁断工程ST63において、裁断機は、冷却されたプレス成形物をサイレンサー1の形状に裁断する。裁断機は、プレス成形物の外周を裁断し、該外周よりも内側において開口52を形成するようにプレス成形物を裁断する。これにより、図1~3に示すサイレンサー1が得られる。裁断機には、裁断刃を備える裁断機、ウォータージェットによる裁断を行う裁断機、等を用いることができる。また、プレス成形物の裁断は、裁断刃による裁断やウォータージェット裁断以外にも、カッターを用いた手裁断等により行うことができる。
【0050】
上述した製造方法により、繊維13と固化したバインダー14を含む繊維質層10、及び、固化した樹脂層30を含み、三次元形状3を有するサイレンサー1が得られる。繊維質層10では、低目付範囲の第一繊維質部分11と高目付範囲の第二繊維質部分12とが第一方向(例えば移動方向D4)、及び、第一方向と交差する第二方向(例えば幅方向D5)に沿った平面における二次元の位置に応じて配置される。従って、繊維質層10については、吸音性能が求められる箇所の目付を増やし、吸音性能が求められることが少ない箇所の目付を減らすことにより、繊維質層10トータルとして繊維質層10の重量を減らすことができる。また、屈曲部61に高目付範囲の第二繊維質部分12を割り当てることにより、屈曲部61を車体パネル110の凹凸形状に追従させることができ、サイレンサー1の防音性能も向上させることができる。樹脂層30では、低目付範囲の第一樹脂部分31と高目付範囲の第二樹脂部分32とが第三方向(例えば移送方向D6)、及び、第三方向と交差する第四方向(例えば幅方向D7)に沿った平面における二次元の位置に応じて配置される。従って、樹脂層30については、遮音性能が求められる箇所の目付を増やし、遮音性能が求められることが少ない箇所の目付を減らすことにより、樹脂層30トータルとして樹脂層30の重量を減らすことができる。第一繊維質部分11と第一樹脂部分31とを重ねることにより第一部位41が形成され、第一繊維質部分11と第二樹脂部分32とを重ねることにより第二部位42が形成され、第二繊維質部分12と第一樹脂部分31とを重ねることにより第三部位43が形成され、第二繊維質部分12と第二樹脂部分32とを重ねることにより第四部位44が形成される。
【0051】
以上より、吸音性能と遮音性能が求められる箇所に第四部位44を配置し、吸音性能が求められるが遮音性能が求められることが少ない箇所に第三部位43を配置し、遮音性能が求められるが吸音性能が求められることが少ない箇所に第二部位42を配置し、吸音性能も遮音性能も求められることが少ない箇所に第一部位41を配置することができる。これにより、所望の吸音性能及び所望の遮音性能を確保しながらサイレンサー1を軽量化することができる。
【0052】
尚、サイレンサー1の製造方法は、上述した例に限定されない。例えば、ベース樹脂層350と追加樹脂360とで樹脂層30を形成し、該樹脂層30に繊維集合物300を重ね、得られる積層物に対して上述した成形工程ST6を実施することによっても、サイレンサー1を製造することができる。この場合、サイレンサー1の製造方法は、樹脂層30を形成する追加樹脂供給工程ST5、樹脂層30上に第一供給繊維層310を形成する第一繊維供給工程ST1、第一供給繊維層310上に繊維F2を厚さ及び目付が部分的に異なるように供給して第二供給繊維層320を形成する第二繊維供給工程ST2、必要に応じて供給繊維層(310,320)上に第三供給繊維層330を形成する第三繊維供給工程ST3、及び、樹脂層30と繊維集合物300との積層物をプレス成形しサイレンサー1を形成する成形工程ST3を含む。第三繊維供給工程ST3は製造方法から除かれてもよいし、第三繊維供給工程ST3の代わりに第一繊維供給工程ST1が製造方法から除かれてもよい。
【0053】
(4)変形例:
本発明は、さらに種々の変形例が考えられる。
例えば、本技術を適用可能な車両用サイレンサーは、フロアサイレンサー、ドア用のサイレンサー、車室天井部のサイレンサー、車両用アンダーカバー、等でもよい。
また、本技術には、第三部位43の周囲76に第四部位44が配置されない場合、第二部位42と第三部位43との間に第四部位44が配置されない場合、サイレンサー1の縁部66に第一部位41が配置されない場合、屈曲部61に第三部位43が配置されない場合、開口52の周囲に第四部位44が配置されない場合、ホイールハウス部55に第二部位42が配置されない場合、等も含まれる。これらの場合でも、サイレンサー1が4つの部位(41~44)を含んでいれば、形状の自由度が高いサイレンサー1を提供する効果が得られる。
【0054】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、形状の自由度が高い車両用サイレンサー等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…サイレンサー、3…三次元形状、
10…繊維質層、11…第一繊維質部分、12…第二繊維質部分、
13…繊維、14…バインダー、
21…第一の面、22…第二の面、
30…樹脂層、31…第一樹脂部分、32…第二樹脂部分、38…車室側の面、
41…第一部位、42…第二部位、43…第三部位、44…第四部位、
50…本体部、52…開口、53…開口隣接部、55…ホイールハウス部、
61…屈曲部、66…縁部、
71…第二部位と第三部位との間の箇所、76…第三部位の周囲、
100…自動車(車両の例)、
110…車体パネル、111…車室側の面、
120…ダッシュパネル、122…開口、125…ホイールハウス、
200…プレス成形機、201…上型、202…下型、
300…繊維集合物、
340…元材、350…ベース樹脂層、360~362…追加樹脂、
400…繊維集合物形成装置、
410…第一繊維供給部、420…第二繊維供給部、425…分割繊維供給部、
430…第三繊維供給部、
500…サイレンサー形成装置、520~525…分割供給部、
D1…上下方向、D2…幅方向、D3…厚さ方向、
D4…移動方向、D5…コンベヤの幅方向、D6…移送方向、D7…幅方向、
Re…長さ比、Rh…面積比、
RM1…エンジン室側、RM2…車室側、
ST1…第一繊維供給工程、ST2…第二繊維供給工程、ST3…第三繊維供給工程、
ST4…樹脂積層工程、ST5…追加樹脂供給工程、ST6…成形工程、
TG1,TG2…接線、θ…屈曲部の傾き角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9