(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151185
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20241017BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241017BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241017BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064377
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】君塚 絵美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】金 相勲
(72)【発明者】
【氏名】扇 一輝
(72)【発明者】
【氏名】倉永 裕貴
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021BC09
4K021CA11
4K021CA15
(57)【要約】
【課題】安定して動作する堅牢性の高い電解装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係る電解装置1は、電解槽2と、ガス気液分離タンク31と、ガスを圧縮して吐出する圧縮機32と、第1の配管34と、第1の弁35と、第2の配管36と、第2の弁37と、第1の制御部51と、第2の制御部52と、を備え、第1の制御部51は、制御が行われない場合に比べて、内圧P
0(t)の変動が小さくなるように、電流(t)に基づく第1のフィードフォワード制御と、内圧P
0(t)に基づく第1のフィードバック制御により第1の弁35の開度u
1(t)を制御し、第2の制御部52は、制御が行われない場合に比べて、前段圧力P
1(t)の変動が小さくなるように、第1の水素流量f
1(t)に基づく第2のフィードフォワード制御と、前段圧力P
1(t)に基づく第2のフィードバック制御とにより、第2の弁37の開度u
2(t)を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する電解槽と、
前記電解槽から流出されたガス及び液体を分離するガス気液分離タンクと、
前記ガスを圧縮して吐出する圧縮機と、
前記ガス気液分離タンクと前記圧縮機の入口とを連通させる第1の配管と、
前記第1の配管を流れる前記ガスの流量である第1のガス流量を調整する第1の弁と、
前記圧縮機の出口と該圧縮機の入口とを前記圧縮機の外部において連通させる第2の配管と、
前記第2の配管を流れる前記ガスの流量であるスピルバック流量を調整する第2の弁と、
前記第1の弁の開度を制御する第1の制御部と、
前記第2の弁の開度を制御する第2の制御部と、を備え、
前記第1の制御部は、制御が行われない場合に比べて、前記ガス気液分離タンクの内圧の変動が小さくなるように、前記電流に基づく第1のフィードフォワード制御と、前記内圧に基づく第1のフィードバック制御とにより前記第1の弁の開度を制御し、
前記第2の制御部は、制御が行われない場合に比べて、前記圧縮機の入口の圧力である前段圧力の変動が小さくなるように、前記第1のガス流量に基づく第2のフィードフォワード制御と、前記前段圧力に基づく第2のフィードバック制御とにより、前記第2の弁の開度を制御する、電解装置。
【請求項2】
前記第1の制御部は、前記前段圧力にさらに基づく前記第1のフィードフォワード制御により、前記第1の弁の開度を制御する、請求項1に記載の電解装置。
【請求項3】
前記第2の制御部は、前記圧縮機が吐出したガスの流量である吐出ガス流量と、前記圧縮機の出口の圧力である後段圧力とにさらに基づく前記第2のフィードフォワード制御により、前記第2の弁の開度を制御する、請求項1に記載の電解装置。
【請求項4】
前記第2の制御部は、前記電流から前記第1のガス流量を推定し、推定された前記第1のガス流量に基づく前記第2のフィードフォワード制御により、前記第2の弁の開度を制御する、請求項1に記載の電解装置。
【請求項5】
前記第1の制御部は、前記ガス気液分離タンクへ流入する流入ガス流量、及び前記第1のガス流量に基づく前記内圧の特性を示す伝達関数と、前記電流に基づく前記流入ガス流量の特性を示す伝達関数と、前記第1の弁の開度に基づく前記第1のガス流量の特性を示す伝達関数と、前記前段圧力に基づく前記第1のガス流量の特性を示す伝達関数とを用いて前記内圧の変動を表す第1の数式における、前記電流を含む項と前記前段圧力を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように前記第1の弁の開度を制御し、
前記第2の制御部は、前記第1のガス流量、前記吐出ガス流量、及び前記スピルバック流量に基づく前記前段圧力の特性を示す伝達関数と、前記第2の弁の開度に基づく前記スピルバック流量の特性を示す伝達関数と、前記圧縮機の出口の圧力である後段圧力に基づく前記スピルバック流量の特性を示す伝達関数とを用いて前記前段圧力の変動を表す第2の数式における、前記第1のガス流量を含む項と、前記吐出ガス流量を含む項と、前記後段圧力を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように前記第2の弁の開度を制御する、
請求項3に記載の電解装置。
【請求項6】
前記圧縮機から吐出された前記ガスを収容するユーザ取合タンクと、
前記圧縮機と前記ユーザ取合タンクとを連通させる第3の配管と、
前記第3の配管に設けられた第3の弁と、
前記第3の弁の開度を制御する第3の制御部と、をさらに備え、
前記第3の制御部は、制御が行われない場合に比べて、前記圧縮機の出口の圧力である後段圧力の変動が小さくなるように、前記スピルバック流量に基づく第3のフィードフォワード制御と、前記後段圧力に基づく第3のフィードバック制御とにより、前記第3の弁の開度を制御する、請求項1から5のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項7】
前記第3の制御部は、前記圧縮機が吐出したガスの流量である吐出ガス流量と、前記ユーザ取合タンクの内圧とにさらに基づく前記第3のフィードフォワード制御により、前記第3の弁の開度を制御する、請求項6に記載の電解装置。
【請求項8】
前記第3の制御部は、前記圧縮機から前記第3の弁までを流れるガスの流量である第2のガス流量、及び前記第3の弁から前記ユーザ取合タンクまでを流れるガスの流量である第3のガス流量に基づく前記後段圧力の特性を示す伝達関数と、前記第3の弁の開度に基づく前記第3のガス流量の特性を示す伝達関数と、前記ユーザ取合タンクの内圧に基づく前記第3のガス流量の特性を示す伝達関数とを用いて前記後段圧力を表す第3の数式における、前記吐出ガス流量を含む項と、前記スピルバック流量を含む項と、前記ユーザ取合タンクの内圧を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように前記第3の弁の開度を制御する、請求項7に記載の電解装置。
【請求項9】
前記第3の制御部は、前記電流から前記スピルバック流量を推定し、推定された前記スピルバック流量に基づく前記第3のフィードフォワード制御により、前記第3の弁の開度を制御する、請求項6に記載の電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解膜を用いて水を電気分解して、電解膜の一方の面側に酸素を発生させ、他方の面側に水素を発生させる水電解装置が提案されている。例えば、特許文献1には、このような水電解装置における電解膜の破損を防止するため、酸素気液分離タンクと外部とを連通させる酸素用配管に設けられた酸素圧力制御弁と、水素気液分離タンクと外部とを連通させる水素用配管に設けられた水素圧力制御弁とを制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような水電解装置のような電解装置が安定して動作することにより、電解装置の堅牢性を向上させることが求められている。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、安定して動作する堅牢性の高い電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
電流が供給されることによって分解されてガスを発生させる液体を収容する電解槽と、
前記電解槽から流出されたガス及び液体を分離するガス気液分離タンクと、
前記ガスを圧縮して吐出する圧縮機と、
前記ガス気液分離タンクと前記圧縮機の入口とを連通させる第1の配管と、
前記第1の配管を流れる前記ガスの流量である第1のガス流量を調整する第1の弁と、
前記圧縮機の出口と該圧縮機の入口とを前記圧縮機の外部において連通させる第2の配管と、
前記第2の配管を流れる前記ガスの流量であるスピルバック流量を調整する第2の弁と、
前記第1の弁の開度を制御する第1の制御部と、
前記第2の弁の開度を制御する第2の制御部と、を備え、
前記第1の制御部は、制御が行われない場合に比べて、前記ガス気液分離タンクの内圧の変動が小さくなるように、前記電流に基づく第1のフィードフォワード制御と、前記内圧に基づく第1のフィードバック制御とにより前記第1の弁の開度を制御し、
前記第2の制御部は、制御が行われない場合に比べて、前記圧縮機の入口の圧力である前段圧力の変動が小さくなるように、前記第1のガス流量に基づく第2のフィードフォワード制御と、前記前段圧力に基づく第2のフィードバック制御とにより、前記第2の弁の開度を制御する、電解装置。
[2]
前記第1の制御部は、前記前段圧力にさらに基づく前記第1のフィードフォワード制御により、前記第1の弁の開度を制御する、[1]に記載の電解装置。
[3]
前記第2の制御部は、前記圧縮機が吐出したガスの流量である吐出ガス流量と、前記圧縮機の出口の圧力である後段圧力とにさらに基づく前記第2のフィードフォワード制御により、前記第2の弁の開度を制御する、[1]又は[2]に記載の電解装置。
[4]
前記第2の制御部は、前記電流から前記第1のガス流量を推定し、推定された前記第1のガス流量に基づく前記第2のフィードフォワード制御により、前記第2の弁の開度を制御する、[1]から[3]のいずれかに記載の電解装置。
[5]
前記第1の制御部は、前記ガス気液分離タンクへ流入する流入ガス流量、及び前記第1のガス流量に基づく前記内圧の特性を示す伝達関数と、前記電流に基づく前記流入ガス流量の特性を示す伝達関数と、前記第1の弁の開度に基づく前記第1のガス流量の特性を示す伝達関数と、前記前段圧力に基づく前記第1のガス流量の特性を示す伝達関数とを用いて前記内圧の変動を表す第1の数式における、前記電流を含む項と前記前段圧力を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように前記第1の弁の開度を制御し、
前記第2の制御部は、前記第1のガス流量、前記吐出ガス流量、及び前記スピルバック流量に基づく前記前段圧力の特性を示す伝達関数と、前記第2の弁の開度に基づく前記スピルバック流量の特性を示す伝達関数と、前記圧縮機の出口の圧力である後段圧力に基づく前記スピルバック流量の特性を示す伝達関数とを用いて前記前段圧力の変動を表す第2の数式における、前記第1のガス流量を含む項と、前記吐出ガス流量を含む項と、前記後段圧力を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように前記第2の弁の開度を制御する、[4]に記載の電解装置。
[6]
前記圧縮機から吐出された前記ガスを収容するユーザ取合タンクと、
前記圧縮機と前記ユーザ取合タンクとを連通させる第3の配管と、
前記第3の配管に設けられた第3の弁と、
前記第3の弁の開度を制御する第3の制御部と、をさらに備え、
前記第3の制御部は、制御が行われない場合に比べて、前記圧縮機の出口の圧力である後段圧力の変動が小さくなるように、前記スピルバック流量に基づく第3のフィードフォワード制御と、前記後段圧力に基づく第3のフィードバック制御とにより、前記第3の弁の開度を制御する、
[1]から[5]のいずれかに記載の電解装置。
[7]
前記第3の制御部は、前記圧縮機が吐出したガスの流量である吐出ガス流量と、前記ユーザ取合タンクの内圧とにさらに基づく前記第3のフィードフォワード制御により、前記第3の弁の開度を制御する、
[6]に記載の電解装置。
[8]
前記第3の制御部は、前記圧縮機から前記第3の弁までを流れるガスの流量である第2のガス流量、及び前記第3の弁から前記ユーザ取合タンクまでを流れるガスの流量である第3のガス流量に基づく前記後段圧力の特性を示す伝達関数と、前記第3の弁の開度に基づく前記第3のガス流量の特性を示す伝達関数と、前記ユーザ取合タンクの内圧に基づく前記第3のガス流量の特性を示す伝達関数とを用いて前記後段圧力を表す第3の数式における、前記吐出ガス流量を含む項と、前記スピルバック流量を含む項と、前記ユーザ取合タンクの内圧を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように前記第3の弁の開度を制御する、
[7]に記載の電解装置。
[9]
前記第3の制御部は、前記電流から前記スピルバック流量を推定し、推定された前記スピルバック流量に基づく前記第3のフィードフォワード制御により、前記第3の弁の開度を制御する、
[6]から[8]のいずれかに記載の電解装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電解装置によれば、安定して動作することにより、堅牢性を向上させことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る電解装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す電解装置における圧力の特性と水素流量の特性との関係を表すモデルを示す図である。
【
図3】
図2に示すモデルを伝達関数で表した図である。
【
図4A】
図1に示す電解装置における水素気液分離タンクの内圧の一例を示す図である。
【
図4B】
図1に示す電解装置における前段圧力の一例を示す図である。
【
図5】第2の実施形態に係る電解装置の一例を示す概略図である。
【
図6】
図5に示す電解装置における圧力の特性と水素流量の特性との関係を表すモデルを示す図である。
【
図7】
図6に示すモデルを伝達関数で表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<<第1の実施形態>>
図1を参照して第1の実施形態の電解装置1について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電解装置1の一例を示す概略図である。
【0010】
図1に示すように、第1の実施形態に係る電解装置1は、電解槽2と、水素気液分離タンク(ガス気液分離タンク)31と、圧縮機32と、ユーザ取合タンク33と、第1の水素用配管(第1の配管)34と、第1の水素用弁(第1の弁)35と、第2の水素用配管(第2の配管)36と、第2の水素用弁(第2の弁)37と、第3の水素用配管(第3の配管)38と、第3の水素用弁(第3の弁)39と、酸素気液分離タンク41と、酸素用配管42と、酸素用弁43と、制御装置5とを備えている。電解装置1は、1つの電解槽2を備えてもよいし、複数の電解槽2を備えてもよい。
【0011】
電解装置1は、液体を第1のガス及び第2のガスに電気分解することができる。例えば、液体は水であってよく、電解装置1は、水を酸素および水素に電気分解する水電解装置とすることができる。しかしながら、この例に限られず、例えば、液体は食塩水であってよく、電解装置1が食塩水を電気分解する食塩水電気分解装置であってもよい。なお、以降の説明では、電解装置1が水を電気分解する例を説明し、該例では、液体は水であり、第1のガスは水素(以降、単に「ガス」ということがある)、及び第2のガスは酸素である。
【0012】
電解槽2は、水(液体)Wtを収容し、電流Ic(t)が供給されることによって分解されて水素(ガス)及び酸素(ガス)を発生させる。具体的には、電解槽2は、陰極が取り付けられた陰極室21と、陽極が取り付けられた陽極室22と、陰極室21と陽極室22とを区画する電解膜23とを備える。このように構成された電解槽2に収容された水Wtに電流Ic(t)が供給されて該水Wtが電気分解されると、陰極室21内(即ち、電解膜23の一方の面23a側の区画。以下、「水素発生部」ともいう。)に水素が発生する。発生した水素と水Wtとは、配管24を介して、水素気液分離タンク31に送出される。また、電解槽2に収容された水Wtが電流Ic(t)により電気分解されると、陽極室22内(即ち、電解膜23の他方の面23b側の区画。以下、「酸素発生部」ともいう。)に酸素が発生する。発生した酸素と水Wtとは、配管25を介して、酸素気液分離タンク41に送られる。なお、上述した電流Ic(t)は、発電装置によって供給される。発電装置は、自然エネルギーによって発電する装置であってよく、例えば、風力発電装置、太陽光発電装置、及び地熱発電装置とすることができる。
【0013】
電解膜23は、イオン透過性を有する。電解膜23は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いことが好ましい。電解膜23は、例えば、イオン交換能を有するイオン交換膜、電解液を浸透できる多孔膜とすることができる。
【0014】
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、電解液が透過できる構造を有する膜状部材である。電解液が多孔膜に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径、気孔率、親水性といった多孔構造の調整が非常に重要となる。また、多孔膜は、電解液を透過させるだけでなく、発生ガスを通過させないこと、即ちガスの遮断性を有することも求められる。そのため、ガスの遮断性の観点からも、多孔構造の調整が重要となる。
【0015】
多孔膜は、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等の膜状部材とすることができる。これらの膜状部材は、公知の技術によって製造され得る。例えば、高分子多孔膜は、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等によって製造され得る。また、多孔膜の材料は、例えば、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましい。親水性無機粒子を含むことにより、多孔膜に親水性を付与することができる。
【0016】
高分子材料は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、及びポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1つ以上を含むことが好ましく、ポリスルホンを含むことがより好ましい。
【0017】
多孔膜の孔径は、分離能、強度等の膜物性を適切に得るために、調整されることが好ましい。また、電解装置1がアルカリ水を電解する場合、陽極から発生する酸素及び陰極から発生する水素の混合を防止し、かつ電解における電圧損失を低減する観点からも、孔径が調整されることが好ましい。例えば、多孔膜の平均孔径が大きいほど、単位面積あたりの多孔膜の透過量は大きくなり、特に、電解においては多孔膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなる傾向にある。また、多孔膜の平均孔径が大きいほど、アルカリ水との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
【0018】
一方、多孔膜の平均孔径が小さいほど、多孔膜の分離精度が高くなり、電解においては多孔膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。さらに、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を多孔膜に担持した場合、欠落せず保持することができる。これにより、親水性無機粒子が持つ高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
【0019】
かかる観点から、多孔膜の平均孔径は、0.1μm以上1.0μm以下の範囲であることが好ましい。多孔膜は、孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを両立することができる。また、多孔膜の孔径は、実際に使用する温度域において調整されることが好ましい。例えば、多孔膜を90℃の環境下でアルカリ水電解に用いる場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが好ましい。また、多孔膜をアルカリ水電解に用いる場合、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを発現できる範囲として、多孔膜の平均孔径は0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態の多孔膜の平均孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定される平均透水孔径とすることができる。平均透水孔径の測定では、まず、多孔膜から芯材も含めて所定の大きさのサンプルを切り出す。次に、サンプルを任意の耐圧容器にセットして、耐圧容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から上面側へ純水が透過してくるので、純水が透過してくる際のサンプルの上面側の圧力及びサンプルを透過する純水の透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ0/(εP)}0.5
μ0(m/s)=流量(m3/s)/流路面積(m2)
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μ0は見かけの流速、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
【0021】
電解装置1がアルカリ水を電解する場合、ガス遮断性、親水性の維持、気泡の付着によるイオン透過性低下の防止、さらには長時間安定した電解性能(低電圧損失等)が得られるといった観点から、多孔膜の気孔率が調整されることが好ましい。特に、ガス遮断性、低電圧損失等を高いレベルで両立させるといった観点から、多孔膜の気孔率の下限は、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、気孔率の上限は、70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、55%以下であることが更に好ましい。多孔膜の気孔率が上記上限値以下であれば、膜内をイオンが透過しやすく、膜の電圧損失を抑制することができる。
【0022】
本実施形態の多孔膜の気孔率は、アルキメデス法により求められる開気孔率を用いて求められる。例えば、開気孔率は、以下の式から求めることができる。
開気孔率P(%)=ρ/(1+ρ)×100
ρ=(W3-W1)/(W3-W2)
ここで、W1は多孔膜の乾燥質量(g)、W2は多孔膜の水中質量(g)、W3は多孔膜の飽水質量(g)である。
【0023】
気孔率の測定では、まず、純水で洗浄した多孔膜から3cm×3cmの大きさのサンプルを3枚切り出し、3枚のサンプルのW2及びW3を測定する。次に、3枚のサンプルを50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させた後、3枚のサンプルのW1を測定する。開気孔率は、測定したW1、W2、W3の値を使い、上記の式から求めることができる。そして、3枚のサンプルそれぞれの開気孔率の算術平均値を気孔率とする。
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、100μm以上700μm以下であることが好ましく、100μm以上600μm以下であることがより好ましく、200μm以上600μm以下であることが更に好ましい。多孔膜の厚みが100μm以上であると、突刺し等で破れ難く、電極間がショートし難く、またガス遮断性が良好となる。また、600μm以下であると、電圧損失が増大し難く、また厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
【0024】
また、多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度を一層向上させることができる。この観点より、多孔膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく、400μm以上であることがより一層好ましい。一方、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性が阻害され難く、一層優れたイオン透過性を維持することができる。この観点より、多孔膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。
【0025】
多孔膜は、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために、親水性無機粒子を含有していることが好ましい。多孔膜に親水性無機粒子を含有させる方法としては、例えば、親水性無機粒子を多孔膜の表面に付着させる方法、親水性無機粒子の一部を多孔膜の内部に埋没させる方法、親水性無機粒子を多孔膜の空隙部に内包させる方法を使用できる。また、多孔膜の空隙部に内包させる方法によれば、親水性無機粒子が多孔膜の空隙から脱離し難くなり、多孔膜の高いイオン透過性及び高いガス遮断性を長時間維持できる。
【0026】
親水性無機粒子は、例えば、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物とすることができる。親水性無機粒子は、これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物とすることが好ましく、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物とすることがより好ましく、酸化ジルコニウムを用いることが更に好ましい。また、親水性無機粒子の形態は、例えば、微粒子形状であることが好ましい。
【0027】
また、電解槽2には、電解槽2に供給される電流Ic(t)を検出する電流センサS1と、電解槽2内の水Wtの温度TH(t)、TO(t)を検出する温度センサS2とが設けられていてもよい。ここで、温度TH(t)は、陰極室21内の陰極近傍における水Wtの温度である。即ち、水素発生部の水Wtの温度である。また、温度TO(t)は、陽極室22内の陽極近傍における水Wtの温度である。即ち、酸素発生部の水Wtの温度である。また、電流Ic(t)、並びに温度TH(t)及びTO(t)を示す情報は、制御装置5に入力される。
【0028】
水素気液分離タンク31は、電解槽2から流出された水素と水とを分離する。具体的には、水素気液分離タンク31は、電解槽2から送られてくる水素と水Wtとを収容する。水素気液分離タンク31内では、水Wtが下側に位置し、水素が上側に位置することにより、水素と水Wtとが分離される。水素気液分離タンク31の下端側には、電解槽2の給水口側と連通する水用配管26が連通されている。そして、水素気液分離タンク31内の水Wtは、水用配管26を介して電解槽2の陰極室21及び陽極室22に供給される。なお、電気分解等により電解槽2に収容されていた水Wtが減少すると、水供給ポンプ27を介して電解槽2に水Wtが外部から供給される。
【0029】
また、水素気液分離タンク31には水素気液分離タンク31内の水位LH(t)を検出する水位センサS3が設けられていてもよい。水位LH(t)を示す情報は、制御装置5に入力される。さらに、水素気液分離タンク31内には、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)を検出する圧力センサS4が設けられていてもよい。圧力センサS4によって検出された、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)を示す情報は制御装置5に入力される。
【0030】
圧縮機32は、ガスを圧縮して送出する。具体的には、圧縮機32は、水素気液分離タンク31から流出した水素を該圧縮機32内に流入させてユーザ取合タンク33に向けて吐出する。
【0031】
ユーザ取合タンク33は、圧縮機32から吐出された水素を収容する。具体的には、ユーザ取合タンク33は、水素気液分離タンク31から流出され、圧縮機32によって吐出された水素を収容する。ユーザ取合タンク33は、1)水素気液分離タンク31の気相部分と第1の水素用配管34の第1の水素用弁35までの容積、2)第1の水素用配管34の第1の水素用弁35から圧縮機32入口までの容積(第2の水素用配管36の第2の水素用弁37から圧縮機32入口側の配管を含む)に対して十分に大きい容積を有するため、流入する水素流量の変動によるユーザ取合タンク33の内圧Puの変動は、第1の水素用配管34及び第2の水素用配管36における圧力の変動に比べて小さい。ユーザ取合タンク33内には、ユーザ取合タンク33の内圧Pu(t)を検出する圧力センサS7が設けられていてもよい。圧力センサS7によって検出された、ユーザ取合タンク33の内圧Pu(t)を示す情報は制御装置5に入力される。
【0032】
第1の水素用配管34は、水素気液分離タンク31と圧縮機32とを連通させる。例えば、第1の水素用配管34の一方の端部は、水素気液分離タンク31の上端側に設けられ、第1の水素用配管34の他方の端部は圧縮機32の入口に設けられていてもよい。これにより、水素気液分離タンク31から流出された水素は、圧縮機32に流入することができる。
【0033】
第1の水素用弁35は、第1の水素用配管34を流れる水素の流量である第1の水素流量(第1のガス流量)f1(t)を調整する。第1の水素用弁35の開度u1(t)が高いほど第1の水素流量f1(t)が大きく、開度u1(t)が低いほど第1の水素流量f1(t)が小さくなる。具体的には、第1の水素用弁35の開度u1(t)は、追って詳細に説明する第1の制御部51によって制御される。
【0034】
第1の水素用配管34の第1の水素用弁35と圧縮機32の間には、圧縮機32の入口の圧力である前段圧力P
1(t)を検出する圧力センサS8が設けられる。圧力センサS8によって検出された、前段圧力P
1(t)を示す情報は制御装置5に入力される。なお、
図1において、圧力センサS8は、紙面の都合により第1の水素用配管34の外側に示されているが、圧力センサS8は、第1の水素用配管34内に設けられている。
【0035】
第2の水素用配管36は、圧縮機32の出口と入口とを該圧縮機32の外部において連通させる。これにより、圧縮機32から流出された水素の一部は、圧縮機32の入口に流入することができる。
【0036】
第2の水素用弁37は、第2の水素用配管36を流れる水素の流量であるスピルバック流量f21(t)を調整する。第2の水素用弁37の開度u2(t)が高いほどスピルバック流量f21(t)が大きく、開度u2(t)が低いほどスピルバック流量f21(t)が小さくなる。具体的には、第2の水素用弁37の開度u2(t)は、追って詳細に説明する第2の制御部52によって制御される。
【0037】
第3の水素用配管38の圧縮機32と第2の水素用弁37との間には、圧縮機32の出口の圧力である後段圧力P
2(t)を検出する圧力センサS9が設けられる。圧力センサS9によって検出された、後段圧力P
2(t)を示す情報は制御装置5に入力される。なお、
図1において、圧力センサS8は、紙面の都合により第3の水素用配管38の外側に示されているが、圧力センサS8は、第3の水素用配管38内に設けられている。
【0038】
第3の水素用配管38は、圧縮機32とユーザ取合タンク33とを連通させる。これにより、圧縮機32から流出された水素がユーザ取合タンク33に流入することができる。なお、第3の水素用配管38における圧縮機32から第3の水素用弁39までを流れる水素の流量を第2の水素流量(第2のガス流量)f2(t)として説明する。第2の水素流量f2(t)は、圧縮機32が吐出した水素の流量である吐出水素流量(吐出ガス流量)fc(t)からスピルバック流量f21(t)を減じた流量である。
【0039】
第3の水素用弁39は、第3の水素用配管38に設けられている。第3の水素用弁39は、第3の水素用配管38における第3の水素用弁39からユーザ取合タンク33までを流れる水素の流量である第3の水素流量(第3のガス流量)f3(t)を調整することができる。第3の水素用弁39の開度u3(t)が高いほど第3の水素流量f3(t)が大きく、開度u3(t)が低いほど第3の水素流量f3(t)が小さくなる。具体的には、第3の水素用弁39の開度u2(t)は、追って詳細に説明する第3の制御部53によって制御される。
【0040】
酸素気液分離タンク41は、電解槽2から流出される酸素と水Wtとを収容する。酸素気液分離タンク41内では、水Wtが下側に位置し、酸素が上側に位置し、収容された酸素と水Wtとが分離される。また、酸素気液分離タンク41の下端には、水素気液分離タンク31と同様に、水用配管26が連通されている。そして、酸素気液分離タンク41に収容されている水Wtも水用配管26を介して陰極室21及び陽極室22に供給される。
【0041】
また、酸素気液分離タンク41には酸素気液分離タンク41内の水位LO(t)を検出する水位センサS5が設けられていてもよい。水位LO(t)を示す情報は、制御装置5に入力される。さらに、酸素気液分離タンク41内には、酸素による酸素気液分離タンク41のタンク内圧PO0(t)を検出する圧力センサS6が設けられていてもよい。酸素用タンク内圧センサによって検出されたタンク内圧PO0(t)は制御装置5に入力される。
【0042】
酸素用配管42は、酸素気液分離タンク41と外部のタンクとを連通させる。これにより、酸素気液分離タンク41から流出された酸素は、外部のタンクに流入することができる。
【0043】
酸素用弁43は、酸素用配管42を流れる酸素の流量を調整することができる。酸素用弁43の開度uO1(t)が高いほど酸素用配管42を流れる酸素の流量fO1(t)が大きく、開度uO1(t)が低いほど酸素用配管42を流れる酸素の流量fO1(t)が小さくなる。なお、酸素の流量fO1(t)は、流量計MO1によって計測されてよい。具体的には、酸素用弁43の開度uO1(t)は、追って詳細に説明する酸素用制御部54によって制御される。
【0044】
制御装置5は、メモリ、プロセッサ等を備えるコンピュータによって構成される。メモリは、プロセッサで実行可能な制御装置5の制御プログラムを記憶している。また、メモリは制御プログラムの実行に必要な各種データを記憶する。プロセッサは、メモリから制御プログラムを読み出し、追って詳細に説明する制御装置5の処理を実行する。
【0045】
制御装置5は、第1の制御部51と、第2の制御部52と、第3の制御部53と、酸素用制御部54とを備える。
【0046】
第1の制御部51は、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。第1の制御部51は、制御が行われない場合に比べて、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)の変動が小さくなるように、電流Ic(t)に基づく第1のフィードフォワード制御と、内圧P0(t)に基づく第1のフィードバック制御とにより、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。
【0047】
具体的には、第1の制御部51は、前段圧力P1(t)にさらに基づく第1のフィードフォワード制御により、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。さらに具体的には、第1の制御部51は、第1のフィードフォワード制御及び第1のフィードバック制御によって決定される、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)及び電流Ic(t)に応じて水素気液分離タンク31へ流入する流入水素流量(流入ガス流量)f0(t)と、第1の水素用弁35の開度u1(t)に応じた第1の水素流量f1(t)とに基づいて第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。このとき、上述したように、第1の制御部51は、該制御が行われない場合に比べて、内圧P0(t)の変動が小さくなるように第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。例えば、第1の制御部51は、内圧P0(t)の変動がなくなるように第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御してもよい。
【0048】
流入水素流量f
0(t)は、水素気液分離タンク31の入口に設けられた流量計によって測定されてもよい。また、第1の水素流量f
1(t)は、第1の水素用配管34内に設けられた流量計M1によって測定されてもよい。なお、
図1において、流量計M1は、紙面の都合により第1の水素用配管34の外側に示されているが、流量計M1は、第1の水素用配管34内に設けられている。流量計M1によって測定された、第1の水素流量f
1(t)を示す情報は制御装置5に入力されてよい。
【0049】
第2の制御部52は、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。第2の制御部52は、制御が行われない場合に比べて、圧縮機32の入口の圧力である前段圧力P1(t)の変動が小さくなるように、第1の水素流量f1(t)に基づく第2のフィードフォワード制御と、前段圧力P1(t)に基づく第2のフィードバック制御とにより第2の酸素用弁37の開度u2(t)を制御する。上述したように、第1の水素流量f1(t)は、第1の水素用配管34を流れる水素の流量である。前段圧力P1(t)は、圧縮機32の入口における圧力である。なお、第1の水素用配管34における、第1の水素用弁35の出口から圧縮機32までは遮られることなく連通されているため、前段圧力P1(t)は、第1の水素用弁35の出口の圧力でもある。
【0050】
具体的には、第2の制御部52は、圧縮機32が吐出した水素の流量である吐出水素流量fc(t)と、圧縮機32の出口の圧力である後段圧力P2(t)とにさらに基づく第2のフィードフォワード制御により、第2の弁の開度を制御する。例えば、第2の制御部52は、第1のフィードフォワード制御及び第1のフィードバック制御によって決定される第1の水素流量f1(t)と、圧縮機32が吐出した水素の流量である吐出水素流量fc(t)と、スピルバック流量f21(t)とに基づいて第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。このとき、上述したように、第2の制御部52は、該制御が行われない場合に比べて前段圧力P1(t)の変動が小さくなるように第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。例えば、第2の制御部52は、前段圧力P1(t)の変動がなくなるように第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御してもよい。
【0051】
なお、吐出水素流量f
c(t)は、圧縮機32の設定により予め定められた流量となるように吐出される量であってよい。また、スピルバック流量f
21(t)は、第2の水素用配管36内に設けられた流量計M21によって測定されてもよい。なお、
図1において、流量計M21は、紙面の都合により第2の水素用配管36の外側に示されているが、流量計M1は、第2の水素用配管36内に設けられている。流量計M21によって測定された、スピルバック流量f
21(t)を示す情報は制御装置5に入力されてよい。
【0052】
第3の制御部53は、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する。第3の制御部53は、制御が行われない場合に比べて、後段圧力P2(t)の変動が小さくなるように、スピルバック流量f21(t)に基づく第3のフィードフォワード制御と、後段圧力P2(t)に基づく第3のフィードバック制御とにより、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する。後段圧力P2(t)は、圧縮機32の出口の圧力である。なお、第1の水素用配管34における、圧縮機32の出口から第3の水素用弁39の入口までは遮られることなく連通されているため、後段圧力P2(t)は、第3の水素用弁39の入口の圧力でもある。
【0053】
具体的には、第3の制御部53は、吐出水素流量fc(t)と、ユーザ取合タンク33の内圧Pu(t)とにさらに基づく第3のフィードフォワード制御により、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する。さらに、具体的には、第3の制御部53は、吐出水素流量fc(t)から、第2のフィードフォワード制御及び第2のフィードバック制御によって決定されるスピルバック流量f21(t)を減じた第2の水素流量f2(t)と、第3の水素用弁39からユーザ取合タンク33に向けて流れる第3の水素流量f3(t)とに基づいて第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する。このとき、上述したように、第3の制御部53は、該制御が行われない場合に比べて後段圧力P2(t)の変動が小さくなるように第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御することができる。例えば、第3の制御部53は、後段圧力P2(t)の変動がなくなるように第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御してもよい。
【0054】
なお、第2の水素流量f
2(t)は、第3の水素用配管38内における圧縮機32から第3の水素用弁39までの任意の位置に設けられた流量計M2によって測定されてもよい。なお、
図1において、流量計M2は、紙面の都合により第3の水素用配管38の外側に示されているが、流量計M2は、第3の水素用配管38内における圧縮機32から第3の水素用弁39までの任意の位置に設けられている。また、第3の水素流量f
3(t)は、第3の水素用配管38内における第3の水素用弁39からユーザ取合タンク33までの任意の位置に設けられた流量計M3によって測定されてもよい。なお、
図1において、流量計M3は、紙面の都合により第3の水素用配管38の外側に示されているが、流量計M3は、第3の水素用配管38内における第3の水素用弁39からユーザ取合タンク33までの任意の位置に設けられている。流量計M21によって測定された、スピルバック流量f
21(t)を示す情報は制御装置5に入力されてよい。
【0055】
続いて、第1の実施形態における、制御装置5の制御対象について、
図2を参照して詳細に説明する。
図2は、電解装置1における圧力の特性と水素流量の特性との関係を表すモデルを示す図である。
【0056】
図2に示すように、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は、流入水素流量f
0(t)と、第1の水素流量f
1(t)と、水素流量に対する水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の特性とに基づいて定まる。なお、内圧P
0(t)の特性は水素気液分離タンク31の気相体積V
0に依存する。また、流入水素流量f
0(t)は、電解槽2に供給される電流I
c(t)と、電流I
c(t)に対する水素発生特性と水素発生量に対する流入水素流量f
0(t)の特性とに基づいて定まる。なお、電流I
c(t)に対する水素発生特性は、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)及び温度T
H(t)に依存する。さらに、第1の水素流量f
1(t)は、第1の水素用弁35の開度u
1(t)と、開度u
1(t)に対する第1の水素流量f
1(t)の特性とに基づいて定まる。なお、開度u
1(t)に対する第1の水素流量f
1(t)の特性は内圧P
0(t)及び前段圧力P
1(t)に依存する。
【0057】
水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の時間変化は、以下の式(1)に示すように、流入水素流量f
0(t)と第1の水素流量f
1(t)との差分に基づいて定まる。式(1)において、pの上に「-」を付した記号は定圧であり、vの上に「-」を付した記号は比容積である。
【数1】
【0058】
式(1)に示すように、流入水素流量f0(t)が増加すると内圧P0(t)の上昇率は高く、第1の水素流量f1(t)が増加すると内圧P0(t)の上昇率は低い。また、水素気液分離タンク31内の気相体積V0が小さいほど内圧P0(t)の上昇率は高く、水素気液分離タンク31内の気相体積V0が大きいほど内圧P0(t)の上昇率は低い。なお、水素気液分離タンク31のサイズは一定であるため、気相体積V0は、水素気液分離タンク31に収容されている水Wtの体積に基づいて算出され得る。また、水素気液分離タンク31の形状は一定であるため、水Wtの体積は上述した水位LH(t)に基づいて算出され得る。
【0059】
式(1)に示される内圧P
0(t)の時間変化をラプラス変換することによって、内圧P
0は、以下の式(2)に示すように表される。式(2)において、sはラプラス演算子である。
【数2】
【0060】
また、流入水素流量f
0(t)は、以下の式(3)によって表される。式(3)において、T
Vは時定数であり、τは換算係数(ゲイン)であり、測定された電流I
c(t)及び流入水素流量f
0(t)を示すデータに式(3)をフィッティングすることによって決定されてよい。
【数3】
【0061】
式(3)に示すように、電解槽2に供給される電流Ic(t)が大きいほど流入水素流量f0(t)は大きく、電流Ic(t)が小さいほど流入水素流量f0(t)は小さい。また、熱力学における状態方程式により、水素気液分離タンク31内の温度TH(t)が高いほど、流入水素流量f0(t)は大きい。また、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)が低いほど、流入水素流量f0(t)は大きい。また、式(3)における1/(TVs+1)は電解槽2で発生した水素が内圧P0(t)に影響を及ぼすまでの時間特性を表している。具体的には、式(3)における1/(TVs+1)により、流入水素流量f0(t)が、電解槽2に電流Ic(t)が供給されたときに増加するのではなく、一次遅れを伴って増加することが表されている。
【0062】
また、第1の水素流量f
1(t)は、以下の式(4)によって表される。式(4)において、Cv
maxは、第1の水素用弁35における水素の流れやすさを示す容量係数であるCv(flow capacity rating of valve)値である。m(u
1)は、第1の水素用弁35の特性に応じた関数である。例えば、m(u
1)は、第1の水素用弁35の開度u
1(t)に対して線形又は非線形に0から1の範囲の値を出力する関数である。kは定数であり、例えば、13.7である。なお、以降に示す数式では、各値又は各関数におけるカッコ書きで示されるパラメータは省略されていることがある。例えば、以下の式(4)において、P
0(t)及びP
1(t)それぞれの(t)が省略され、単にP
0及びP
1と示されている。
【数4】
【0063】
また、第1の水素用弁35は、水素を圧送する機能を有さず、単に、第1の水素用配管34を開閉しているため、式(4)からも理解されるように、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)が前段圧力P1(t)より高い場合に、水素は、水素気液分離タンク31から圧縮機32に向かって流出される。また、開度u1(t)が同じである場合、内圧P0(t)と前段圧力P1(t)との関係が変化すると、第1の水素流量f1(t)は変化する。具体的には、内圧P0(t)が高いほど第1の水素流量f1(t)は大きく、前段圧力P1(t)が低いほど第1の水素流量f1(t)は小さくなる。
【0064】
また、
図2に示すように、前段圧力P
1(t)は、第1の水素流量f
1(t)と、吐出水素流量f
c(t)と、スピルバック流量f
21(t)と、水素流量に対する前段圧力P
1(t)の特性とに基づいて定まる。また、スピルバック流量f
21(t)は、第2の水素用弁37の開度u
2(t)と、開度u
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性とに基づいて定まる。なお、開度u
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性は、前段圧力P
1(t)及び後段圧力P
2(t)に依存し、水素流量に対する前段圧力P
1(t)の特性は、第1の水素用配管34における気相体積V
1に依存する。
【0065】
前段圧力P
1(t)の時間変化は、以下の式(5)に示すように、第1の水素流量f
1(t)及びスピルバック流量f
21(t)の合計と、吐出水素流量f
c(t)との差分に基づいて定まる。
【数5】
【0066】
スピルバック流量f
21(t)は、以下の式(6)によって表される。式(6)において、m(u
2)は、上述したm(u
1)と同様に、弁の特性に基づく関数である。例えば、m(u
2)は、第2の水素用弁37の開度u
2(t)に対して線形又は非線形に0から1の範囲の値を出力する関数である。
【数6】
【0067】
また、
図2に示すように、後段圧力P
2(t)は、吐出水素流量f
c(t)と、スピルバック流量f
21(t)と、第3の水素流量f
3(t)と、水素流量に対する後段圧力P
2(t)の特性とに基づいて定まる。また、第3の水素流量f
3(t)は、第3の水素用弁39の開度u
3(t)と、開度u
3(t)に対する後段圧力P
2(t)の特性とに基づいて定まる。なお、開度u
3(t)に対する後段圧力P
2(t)の特性は、後段圧力P
2(t)及びユーザ取合タンク33の内圧P
u(t)に依存し、水素流量に対する後段圧力P
2(t)の特性は、第3の水素用配管38の気相体積V
2に依存する。
【0068】
後段圧力P
2(t)の時間変化は、以下の式(7)に示すように、第2の水素流量f
2(t)と第3の水素流量f
3(t)との差分に基づいて定まる。
【数7】
【0069】
ここで、第2の水素流量f
2(t)は、以下の式(8)によって表される。
【数8】
【0070】
第3の水素流量f
3(t)は、以下の式(9)によって表される。式(9)において、m(u
3)は、上述したm(u
1)と同様に、弁の特性に基づく関数である。例えば、m(u
3は、第3の水素用弁39の開度u
3(t)に対して線形又は非線形に0から1の範囲の値を出力する関数である。
【数9】
【0071】
続いて、
図2を参照して説明した内圧P
0(t)、前段圧力P
1(t)、及び後段圧力P
2(t)を伝達関数により表現する例について
図3を参照して説明する。
【0072】
図3に示すように、流入水素流量f
0(t)及び第1の水素流量f
1(t)に対する水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
P0(s,V
0)、電流I
c(t)に対する流入水素流量f
0(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
I(s,T
0,P
0)、第1の水素用弁35の開度u
1(t)に対する第1の水素流量f
1(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
u1(s)、前段圧力P
1(t)に対する第1の水素流量f
1(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
v1(s)とすると、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は、以下の式(10)から式(12)により表される。
【数10】
【数11】
【数12】
【0073】
また、第1の水素流量f
1(t)、吐出水素流量f
c(t)、及びスピルバック流量f
21(t)に対する前段圧力P
1(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
P1(s)、第2の水素用弁37の開度u
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
u2(s)、第2の水素用配管36における後段圧力P
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
v2(s)とすると、前段圧力P
1(t)は、以下の式(13)及び式(14)により表される。
【数13】
【数14】
【0074】
また、吐出水素流量f
c(t)、スピルバック流量f
21(t)、及び第3の水素流量f
3(t)に対する後段圧力P
2(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
P2(s)、第3の水素用弁39の開度u
3(t)に対する第3の水素流量f
3(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
u3(s)、ユーザ取合タンク33の内圧P
u(t)に対する第3の水素流量f
3(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
v3(s)とすると、後段圧力P
2(t)は、以下の式(15)及び式(16)により表される。
【数15】
【数16】
【0075】
上述の通り、第1の制御部51は、制御が行われない場合に比べて、ガス気液分離タンクの内圧P
0(t)の変動が小さくなるように、電流I
c(t)及び圧縮機の入口の圧力である前段圧力P
1(t)に基づく第1のフィードフォワード制御と、ガス気液分離タンクの内圧P
0(t)に基づく第1のフィードバック制御とにより、第1の水素用弁35の開度u
1(t)を制御する。このとき、第1の水素用弁35の開度u
1(t)は、電流I
c(t)、前段圧力P
1(t)、ガス気液分離タンクの内圧P
0(t)を用いて、以下の式(17)により表される。なお、式(17)において、F
I(s)は電流I
c(t)に基づく第1の水素用弁35の開度u
1(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
p1(s)は前段圧力P
1(t)に基づく第1の水素用弁35の開度u
1(t)のフィードフォワード制御の制御器、C
1(s,Vo)は水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)に基づく第1の水素用弁35の開度u
1(t)のフィードバック制御の制御器、r
1(t)は水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の圧力指令値である(
図3参照)。
【数17】
【0076】
したがって、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は、上述した伝達関数を用いて、以下の式(18)(第1の数式)により表される。なお、上述したように、以降に示す式では、各関数におけるカッコ書きで示されるパラメータが省略されていることがある。
【数18】
【0077】
そこで、第1の制御部51は、式(18)を用いて、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御することができる。具体的には、第1の制御部51は、流入水素流量f0(t)及び第1の水素流量f1(t)に基づく内圧P0の特性を示す伝達関数GP0(s,V0)と、電流Ic(t)に基づく流入水素流量f0(t)の特性を示す伝達関数GI(s,T0,P0)と、第1の水素用弁35の開度u1(t)に基づく第1の水素流量f1(t)の特性を示す伝達関数Gu1(s)と、前段圧力P1(t)に基づく第1の水素流量f1の特性を示す伝達関数Gv1(s)とを用いて内圧P0(t)を表す式(18)における、電流Ic(t)を含む項と前段圧力P1(t)を含む項との1つ以上が0又は漸近的に0になるように第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御することができる。
【0078】
このような構成において、第1の制御部51は、以下の式(19)及び式(20)の1つ以上を満たすように、第1の開度u
1(t)を制御する。
【数19】
【数20】
【0079】
すなわち、第1の制御部51は、以下の式(21)及び式(22)の1つ以上を満たすように、第1の開度u
1(t)を制御する。
【数21】
【数22】
【0080】
また、上述の通り、第2の制御部52は、制御が行われない場合に比べて、前段圧力P
1(t)の変動が小さくなるように、第1の水素流量f
1(t)と、圧縮機32が吐出した水素の流量である吐出水素流量f
c(t)と、圧縮機32の出口の圧力である後段圧力P
2(t)とに基づく第2のフィードフォワード制御と、前段圧力P
1(t)に基づく第2のフィードバック制御とにより、第2の水素用弁37の開度u
1(t)を制御する。このとき、第2の水素用弁37の開度u
2(t)は、第1の水素流量f
1(t)、吐出水素流量f
c(t)、後段圧力P
2(t)、前段圧力P
1(t)を用いて、以下の式(23)により表される。なお、式(23)において、F
f1(s)は第1の水素流量f
1(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
fc1(s)は吐出水素流量f
c(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
p2(s)は後段圧力P
2(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードフォワード制御の制御器、C
2(s)は前段圧力P
1(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードバック制御の制御器、r
2(t)は前段圧力P
1(t)の圧力指令値である(
図3参照)。
【数23】
【0081】
したがって、前段圧力P
1(t)は、上述した伝達関数を用いて、以下の式(24)(第2の数式)により表される。
【数24】
【0082】
そこで、第2の制御部52は、式(24)を用いて、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御することができる。具体的には、第2の制御部52は、第1の水素流量f1(t)、吐出水素流量fc(t)、及びスピルバック流量f21(t)に基づく前段圧力P1(t)の特性を示す伝達関数Gp1(s)と、第2の水素用弁37の開度u2(t)に基づくスピルバック流量f21(t)の特性を示す伝達関数Gu2(s)と、後段圧力P2(t)に基づくスピルバック流量f21(t)の特性を示す伝達関数Gv2(s)とを用いて前段圧力P1(t)を表す式(24)における、第1の水素流量f1(t)を含む項と、吐出水素流量fc(t)を含む項と、後段圧力P2(t)を含む項との1つ以上が0又は漸近的に0になるように第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御することができる。
【0083】
このような構成において、第2の制御部52は、以下の式(25)から式(27)の1つ以上を満たすように、第2の開度u
2(t)を制御する。なお、Iは単位行列である。
【数25】
【数26】
【数27】
【0084】
すなわち、第2の制御部52は、以下の式(28)から式(30)を満たすように、第1の開度u
1(t)を制御する。
【数28】
【数29】
【数30】
【0085】
また、上述の通り、第3の制御部53は、制御が行われない場合に比べて、後段圧力P
2(t)の変動が小さくなるように、吐出水素流量f
c(t)と、及び第2の制御部52によって制御された第2の水素用弁37の開度u
2(t)によって定まるスピルバック流量f
21(t)と、ユーザ取合タンク33の内圧P
u(t)とに基づく第3のフィードフォワード制御と、後段圧力P
2(t)に基づく第3のフィードバック制御とにより、第3の水素用弁39の開度u
3(t)を制御する。このとき、第3の水素用弁39の開度u
3(t)は、吐出水素流量f
c(t)、スピルバック流量f
21(t)、ユーザ取合タンク33の内圧P
u(t) を用いて、以下の式(31)により表される。なお、式(31)において、F
fc2(s)は吐出水素流量f
c(t)に基づく第3の水素用弁39の開度u
3(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
f21(s)はスピルバック流量f
21(t)に基づく第3の水素用弁39の開度u
3(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
pu(s)はユーザ取合タンク33の内圧P
u(t)に基づく第3の水素用弁39の開度u
3(t)のフィードフォワード制御の制御器、C
3(s)は後段圧力P
2(t)に基づく第3の水素用弁39の開度u
3(t)のフィードバック制御の制御器、r
3は後段圧力P
2(t)の圧力指令値である(
図3参照)。
【数31】
【0086】
したがって、後段圧力P
2(t)は、上述した伝達関数を用いて、以下の式(32)により表される。
【数32】
【0087】
そこで、第3の制御部53は、式(32)を用いて、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御することができる。具体的には、第3の制御部53は、第2の水素流量f2(t)及び第3の水素流量f3(t)に基づく後段圧力P2(t)の特性を示す伝達関数Gp2(s)と、第3の水素用弁39の開度u3(t)に基づく第3の水素流量f3(t)の特性を示す伝達関数Gu3(s)と、ユーザ取合タンク33の内圧Puに基づく第3の水素流量f3(t)の特性を示す伝達関数Gv3(s)とを用いて後段圧力P2(t)を表す式(32)における、吐出水素流量fc(t)を含む項と、スピルバック流量f21(t)を含む項と、ユーザ取合タンク33の内圧Puを含む項との1つ以上が0又は漸近的に0になるように第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御することができる。
【0088】
このような構成において、第3の制御部53は、以下の式(33)から式(35)の1つ以上を満たすように、第3の開度u
3(t)を制御する。
【数33】
【数34】
【数35】
【0089】
すなわち、第3の制御部53は、以下の式(36)から式(38)の1つ以上を満たすように、第3の開度u
3(t)を制御する。
【数36】
【数37】
【数38】
【0090】
酸素用制御部54は、制御が行われない場合に比べて、酸素気液分離タンク41の内圧PO0(t)の変動が小さくなるように、電流Ic(t)に基づくフィードフォワード制御と、内圧PO0(t)に基づくフィードバック制御とにより、酸素用弁43の開度uO1(t)を制御する。酸素用制御部54は、酸素用弁43の後段の圧力PO1(t)にさらに基づくフィードフォワード制御により、酸素用弁43の開度uO1(t)を制御してよい。
【0091】
このように、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)の変動と酸素気液分離タンク41の内圧PO0(t)の変動とをともに抑制することで、電解膜23ヘの負荷を抑制し、電解装置1の堅牢性を向上させることができる。
【0092】
上述したように、第1の実施形態によれば、電解装置1は、電流Ic(t)が供給されることによって分解されて水素を発生させる水Wtを収容する電解槽2と、電解槽2から流出された水素及び水Wtを分離する水素気液分離タンク31と、水素を圧縮して吐出する圧縮機32と、水素気液分離タンク31と圧縮機32の入口とを連通させる第1の水素用配管34と、第1の水素用配管34を流れる水素の流量である第1の水素流量f1(t)を調整する第1の水素用弁35と、圧縮機32の出口と該圧縮機32の入口とを圧縮機32の外部において連通させる第2の水素用配管36と、第2の水素用配管36を流れる水素の流量であるスピルバック流量f21(t)を調整する第2の水素用弁37と、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する第1の制御部51と、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する第2の制御部52と、を備える。第1の制御部51は、制御が行われない場合に比べて、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)の変動が小さくなるように、電流Ic(t)に基づく第1のフィードフォワード制御と、内圧P0(t)に基づく第1のフィードバック制御により第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御し、第2の制御部52は、制御が行われない場合に比べて、圧縮機32の入口の圧力である前段圧力P1(t)の変動が小さくなるように、第1の水素流量f1(t)に基づく第2のフィードフォワード制御と、圧縮機32の入口の圧力である前段圧力P1(t)に基づく第2のフィードバック制御とにより、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。
【0093】
具体的には、第1の制御部51は、前段圧力P1(t)にさらに基づく第1のフィードフォワード制御により、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。また、第2の制御部52は、圧縮機32が吐出した水素の流量である吐出水素流量fc(t)と、圧縮機32の出口の圧力である後段圧力P2(t)とにさらに基づく第2のフィードフォワード制御により、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。
【0094】
これにより、電解装置1は、内圧P
0及び前段圧力P
1(t)の変動を低減させることができる。具体的には、電解槽2に収容された水Wtに電流I
c(t)が供給されると(
図4Aの太線参照)、内圧P
0に基づくフィードバック制御のみを行った場合(
図4Aの破線参照)に比べて、上述した先行技術文献に記載されたように制御した場合(
図4Aの一点鎖線参照)と同程度に、内圧P
0の変動(
図4Aの実線参照)を抑制することができる。さらに、電解槽2に収容された水Wtに電流I
c(t)が供給されると(
図4Bの太線参照)、上述した先行技術文献に記載されたように制御した場合(
図4Bの破線参照)、及びそれに加えて前段圧力P
1(t)に基づくフィードバック制御のみを行った場合(
図4Bの一点鎖線参照)に比べて、前段圧力P
1(t)の変動(
図4Bの実線参照)を抑制することができる。このように、電解装置1は、電流I
c(t)に伴う内圧P
0の変動を第1の水素用弁35の開度u
1(t)を制御することで抑制し、さらにこれに伴って発生する前段圧力P
1(t)の変動を第2の水素用弁37の開度u
2(t)を制御することで抑制する。これにより、電解装置1は、内圧P
0の変動による電解膜23への負荷、前段圧力P
1(t)の変動等による圧縮機32への負荷を低減し、堅牢性を向上させることができる。また、電解装置1は、水素気液分離タンク31から圧縮機32までの水素の搬送経路における圧力変動による影響を受けることなく、速やかに水素を搬送することができる。
【0095】
また、第1の実施形態によれば、電解装置1は、圧縮機32から吐出された水素を収容するユーザ取合タンク33と、圧縮機32とユーザ取合タンク33とを連通させる第3の水素用配管と、第3の水素用配管38に設けられた第3の水素用弁39と、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する第3の制御部53と、をさらに備える。第3の制御部53は、制御が行われない場合に比べて、圧縮機32の出口の圧力である後段圧力P2(t)の変動が小さくなるように、スピルバック流量f21(t)に基づく第3のフィードフォワード制御と、後段圧力P2(t)に基づく第3のフィードバック制御とにより、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する。
【0096】
具体的には、第3の制御部53は、吐出水素流量fc(t)と、ユーザ取合タンク33の内圧Pu(t)とにさらに基づく第3のフィードフォワード制御により、第3の水素用弁39の開度u3(t)を制御する。
【0097】
これにより、電解装置1は、後段圧力P2(t)の変動を抑制することができ、後段圧力P2(t)の変動による第3の水素用配管38にかかる負荷や圧縮機32にかかる負荷を抑制することができる。したがって、電解装置1は、電解槽2から圧縮機32においてだけでなく、電解装置1の系全体において安定して動作し、これにより堅牢性を向上させることができる。
【0098】
また、上述したように、ユーザ取合タンク33は、1)水素気液分離タンク31の気相部分と第1の水素用配管34の容積(第2の水素用配管36の第2の水素用弁37から圧縮機32入口側の配管を含む)に対して十分に大きい容積を有するため、流入する水素流量の変動によるユーザ取合タンク33の内圧Puの変動は、第1の酸素水素用配管34や第2の酸素水素用配管36、第3の水素用配管38における圧力の変動に比べて小さい。したがって、電解槽に供給される電流Ic(t)の変動に起因する水素流量の変動を、第1の水素用配管34や第2の水素用配管36、第3の水素用配管38での圧力変動を生じさせずにユーザ取合タンク33に集約させることにより、系全体における圧力変動を最小化し、電解装置1の安定した動作と堅牢性の向上を実現することができる。
【0099】
<<第2の実施形態>>
図5を参照して第2の実施形態の電解装置1-1について説明する。
図5は、第2の実施形態に係る電解装置1-1の一例を示す概略図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の機能部については同じ符号を付加し、説明を省略する。
【0100】
図5に示すように、本発明の実施形態に係る電解装置1-1は、電解槽2と、水素気液分離タンク(気液分離タンク)31と、第1の水素用配管(第1の配管)32と、圧縮機32と、ユーザ取合タンク33と、第2の水素用配管(第2の配管)36と、第2の水素用弁(第2の弁)37と、第3の水素用配管(第3の配管)38と、第3の水素用弁(第3の弁)39と、酸素気液分離タンク41と、酸素用配管42と、酸素用弁43と、制御装置5-1とを備えている。電解装置1は、1つの電解槽2を備えてもよいし、複数の電解槽2を備えてもよい。すなわち電解装置1-1は、電解装置1から、第1の水素用弁35を除き、制御装置5を制御装置5-1に代えた装置である。
【0101】
制御装置5-1は、第2の制御部52-1と、第3の制御部53と、酸素用制御部54とを備える。
【0102】
第2の制御部52-1は、制御が行われない場合に比べて、水素気液分離タンク31の内圧P0(t)の変動が小さくなるように、電流Ic(t)に基づくフィードフォワード制御と、内圧P0(t)に基づくフィードバック制御とにより、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。
【0103】
具体的には、第2の制御部52は、吐出水素流量fc(t)と、後段圧力P2(t)とにさらに基づくフィードフォワード制御により第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。
【0104】
続いて、第2の実施形態における、制御装置5-1の制御対象について、
図6を参照して詳細に説明する。
図6は、電解装置1-1における圧力の特性と水素流量の特性との関係を表すモデルを示す図である。
【0105】
図6に示すように、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は、流入水素流量f
0(t)と、吐出水素流量f
c(t)と、スピルバック流量f
21(t)と、水素流量に対する水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の特性とに基づいて定まる。なお、水素流量に対する内圧P
0(t)の特性は、水素気液分離タンク31の気相体積V
0と、第1の水素用配管34の気相体積V
1との合計である気相体積V
01に依存する。また、流入水素流量f
0(t)は、電解槽2に供給される電流I
c(t)と、電流I
c(t)に対する水素発生特性と水素発生量に対する流入水素流量f
0(t)の特性とに基づいて定まる。なお、電流I
c(t)に対する水素発生特性は、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)及び温度T
H(t)に依存する。さらに、スピルバック流量f
21(t)は、第2の水素用弁37の開度u
2(t)と、開度u
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性とに基づいて定まる。
【0106】
具体的には、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の時間変化は、以下の式(39)に示すように、流入水素流量f
0(t)及びスピルバック流量f
21(t)の合計と、吐出水素流量f
c(t)との差分に基づいて定まる。
【数39】
【0107】
第2の実施形態における流入水素流量f
0(t)は、第1の実施形態で説明した式(3)と同様に表される。また、第2の実施形態におけるスピルバック流量f
21(t)は、以下の式(40)によって表される。
【数40】
【0108】
続いて、
図6を参照して説明した内圧P
0(t)及び後段圧力P
2(t)を伝達関数により表現する例について
図7を参照して説明する。
【0109】
図7に示すように、水素流量に対する水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
P0(s,V
01)、電流I
c(t)に対する流入水素流量f
0(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
I(s,T
0,P
0)、第2の水素用弁37の開度u
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
u2(s)、後段圧力P
2(t)に対するスピルバック流量f
21(t)の特性モデルを表す伝達関数をG
v2(s)とすると、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は、以下の式(41)により表される。なお、流入水素流量f
0(t)及びスピルバック流量f
21(t)は、第1の実施形態の式(11)、式(14)と同様に表される。
【数41】
【0110】
また、吐出水素流量fc(t)、スピルバック流量f21(t)、及び第3の水素流量f3(t)に対する後段圧力P2(t)の特性モデルを表す伝達関数をGP2(s)、第3の水素用弁39の開度u3(t)に対する第3の水素流量f3(t)の特性モデルを表す伝達関数をGu3(s)、ユーザ取合タンク33の内圧Pu(t)に対する第3の水素流量f3(t)の特性モデルを表す伝達関数をGv3(s)とすると、後段圧力P2(t)は、第1の実施形態の式(15)及び式(16)と同様に表される。
【0111】
第2の制御部52は、吐出水素流量f
c(t)と、電流I
c(t)と、後段圧力P
2(t)とに基づくフィードフォワード制御と、内圧P
0(t)に基づく第1のフィードバック制御とにより、第2の水素用弁37の開度u
2(t)を制御する。このとき、第2の水素用弁37の開度u
2(t)は、吐出水素流量f
c(t)と、電流I
c(t)と、後段圧力P
2(t)と、内圧P
0(t)とを用いて、以下の式(42)により表される。なお、式(42)において、F
fc1(s)は吐出水素流量f
c(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
I(s)は電流I
c(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードフォワード制御の制御器、F
p2(s)は後段圧力P
2(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードフォワード制御の制御器、C
2(s)は水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)に基づく第2の水素用弁37の開度u
2(t)のフィードバック制御の制御器、r
2(t)は水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)の圧力指令値である(
図6参照)。
【数42】
【0112】
したがって、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は、上述した伝達関数を用いて、以下の式(43)(第4の数式)により表される。
【数43】
【0113】
そこで、第2の制御部52-1は、式(43)を用いて、第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御することができる。具体的には、第2の制御部52-1は、流入水素流量f0(t)、吐出水素流量fc(t)、及びスピルバック流量f21(t)に基づく内圧P0(t)の特性を示す伝達関数GP0(s,V01)と、電流Ic(t)に基づく流入水素流量f0(t)の特性を示す伝達関数GI(s,T0,P0)と、第2の水素用弁37の開度u2(t)に基づくスピルバック流量f21(t)の特性を示す伝達関数Gu2(s)と、後段圧力P2(t)に基づくスピルバック流量f21(t)の特性を示す伝達関数Gv2(s)とを用いて内圧P0(t)を表す式(43)における、電流Icを含む項と、後段圧力P2(t)を含む項と、吐出水素流量fc(t)を含む項との1つ以上が0あるいは漸近的に0になるように第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御することができる。
【0114】
具体的には、第1の制御部51は、以下の式(44)から式(46)の1つ以上を満たすように、第2の開度u
2(t)を制御する。
【数44】
【数45】
【数46】
【0115】
すなわち、第2の制御部52-1は、以下の式(47)から式(49)の1つ以上を満たすように、第2の開度u
2(t)を制御する。
【数47】
【数48】
【数49】
【0116】
上述したように、第2の実施形態によれば、電解装置1-1において、第2の制御部52-1は、第2の制御部52-1は、電流Ic(t)に基づく水素の発生に伴う内圧P0(t)の変化に先んじた、電流Ic(t)に基づくフィードフォワード制御と、内圧P0(t)に基づくフィードバック制御とにより、第1の水素用弁35の開度u1(t)を制御する。
【0117】
具体的には、第2の制御部52は、流入水素流量f0(t)と、吐出水素流量fc(t)と、スピルバック流量f21(t)とに基づいて第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。このとき、第2の制御部52は、該制御が行われない場合に比べて内圧P0(t)の変動が小さくなるように第2の水素用弁37の開度u2(t)を制御する。
【0118】
これにより、電解装置1-1は、内圧P0の変動を低減することができる。したがって、電解装置1-1は、第1の水素用配管34にかかる負荷を抑制することができ、圧縮機32にかかる負荷を抑制することができる。また、電解装置1-1は、電解槽2においてだけではなく、電解槽2から圧縮機32までにおいて安定して動作し、これにより堅牢性を向上させことができる。さらに、電解装置1-1は、後段圧力P2(t)の変動を抑制することができる。これにより、第3の水素用配管38にかかる負荷を抑制することができ、圧縮機32にかかる負荷をさらに抑制することができる。したがって、電解装置1は、電解槽2から圧縮機32においてだけではなく、電解装置1の系全体において安定して動作し、これにより堅牢性を向上させことができる。また、電解装置1-1は、水素気液分離タンク31からユーザ取合タンク33までの水素の搬送経路における圧力変動による影響を受けることなく、速やかに水素を搬送することができる。
【0119】
酸素用制御部54は、制御が行われない場合に比べて、酸素気液分離タンク41の内圧PO0(t)の変動が小さくなるように、電流Ic(t)に基づくフィードフォワード制御と、内圧PO0(t)に基づくフィードバック制御とにより、酸素用弁43の開度uO1(t)を制御する。
【0120】
この場合において、水素気液分離タンク31の気相体積V0及び第1の水素用配管34の気相体積V1の合計である気相体積V01と、酸素気液タンクの気相体積VO0とに基づいて、水素気液タンクの内圧P0(t)と酸素気液分離タンクの内圧PO0(t)の感度が等しくなるように、それぞれのフィードバック制御のゲインが設定されてよい。
【0121】
(変形例1)
なお、上述した第1の実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる流入水素流量f0(t)、第1の水素流量f1(t)、スピルバック流量f21(t)、第2の水素流量f2(t)、及び第3の水素流量f3(t)は、それぞれ流量計によって測定される例が示された。しかしながら、この例に限られず、フィードフォワード制御に用いられる流入水素流量f0(t)、第1の水素流量f1(t)、スピルバック流量f21(t)、第2の水素流量f2(t)、及び第3の水素流量f3(t)は、電流Ic(t)に基づいて算出されてもよい。
【0122】
具体的には、流入水素流量f
0(t)は上述した式(3)によって算出される。また、水素気液分離タンク31の内圧P
0(t)は変動が小さくなるように制御されるため、式(1)の左辺は0に近似する。このため、第1の水素流量f
1(t)は、流入水素流量f
0(t)に近似する。したがって、第2の制御部52は、電流I
c(t)を用いて式(3)により算出される流入水素流量f
0(t)が第1の水素流量f
1(t)に等しいものとみなして、第1の水素流量f
1(t)を推定し、当該推定値に基づく第2のフィードフォワード制御により、第2の水素用弁37の開度u
2(t)を制御してよい。すなわち、第2の制御部は、電流I
c(t)から以下の式(50)により第1の水素流量f
1(t)を推定し、推定された第1の水素流量f
1(t)に基づく第2のフィードフォワード制御により、第2の水素用弁37の開度u
2(t)を制御してよい。
【数50】
【0123】
また、前段圧力P
1(t)は変動が小さくなるように制御されるため、式(5)の左辺は0に近似する。このため、スピルバック流量f
21(t)は、第1の水素流量f
1(t)から吐出水素流量f
c(t)を減じた値に近似する。また、上述した通り、第1の水素流量f
1(t)は、流入水素流量f
0(t)に近似する。したがって、第3の制御部53は、電流I
c(t)を用いて式(3)により算出される流入水素流量f
0(t)から吐出水素流量f
c(t)を減じた値がスピルバック流量f
21(t)に等しいものとみなして、スピルバック流量f
21(t)を推定し、当該推定値に基づく第3のフィードフォワード制御により、第3の水素用弁39の開度u
3(t)を制御してよい。すなわち、第3の制御部は、電流I
c(t)から以下の式(51)によりスピルバック流量f
21(t)を推定し、推定されたスピルバック流量f
21(t)に基づく第3のフィードフォワード制御により、第3の水素用弁39の開度u
3(t)を制御してよい。
【数51】
【0124】
変形例1により、電解装置1は、流量計によって測定された、誤差を含む各種流量ではなく、電流Ic(t)を用いて算出された高い精度の各種流量に基づいて、各弁を制御することができる。このため、電解装置1が配管の圧力の変動を抑制することができる蓋然性が高まる。
【0125】
第2の実施形態においても各水素流量は、同様にして電流Ic(t)を用いて算出されてもよい。
【0126】
(変形例2)
上述した第1の実施形態において、電解装置1は、第3の水素用弁39を備えなくてもよい。第2の実施形態において、電解装置1-1も同様に、第3の水素用弁39を備えなくてもよい。
【0127】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本開示の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0128】
1、1-1 電解装置
5、5-1 制御装置
2 電解槽
21 陰極室
22 陽極室
23 電解膜
23a 電解膜の一方の面
23b 電解膜の他方の面
24、25 配管
26 水用配管
27 水供給ポンプ
31 水素気液分離タンク(ガス気液分離タンク)
32 圧縮機
33 ユーザ取合タンク
34 第1の水素用配管(第1の配管)
35 第1の水素用弁(第1の弁)
36 第2の水素用配管(第2の配管)
37 第2の水素用弁(第2の弁)
38 第3の水素用配管(第3の配管)
39 第3の水素用弁(第3の弁)
41 酸素気液分離タンク
42 酸素用配管
43 酸素用弁
51 第1の水素用制御部(第1の制御部)
52、52-1 第2の水素用制御部(第2の制御部)
53 第3の水素用制御部(第3の制御部)
54 酸素用制御部