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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151195
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20241017BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20241017BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C11/03 100C
B60C11/12 D
B60C11/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064407
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達矢
(72)【発明者】
【氏名】大石 直人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晴之
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 賢
(72)【発明者】
【氏名】早苗 隆平
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC44
3D131EB38V
3D131EB48V
3D131EB82V
3D131EC06V
(57)【要約】
【課題】雪上性能を維持しつつ、ノイズ性能を向上することができるタイヤを提供する。
【解決手段】本発明は、トレッド部2を有するタイヤである。トレッド部2は、陸部4を含み、陸部4は、第1エッジ6と、第2エッジ7と、接地面4sとを含む。接地面4sには、複数の溝状要素8が形成されている。溝状要素8は、周方向部10と、傾斜部15とを含む。周方向部10は、第1エッジ6を部分的に切り欠くように第1エッジ6を含んで形成されている。溝状要素8のそれぞれは、第1端8aと、第2端8bとを備えている。第1端8aは、第2端8bよりもタイヤ周方向の第1の側に位置している。複数の溝状要素8は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられている。第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する溝状要素8のペアにおいて、一方の溝状要素8の第1端8aが、他方の溝状要素8の第2端8bと、タイヤ周方向で同じ位置とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、陸部を含み、
前記陸部は、タイヤ軸方向の一方側でタイヤ周方向と平行に延びる第1エッジと、タイヤ軸方向の他方側でタイヤ周方向と平行に延びる第2エッジと、前記第1エッジと前記第2エッジとの間の接地面とを含み、
前記接地面には、前記接地面をタイヤ軸方向に完全に横切る複数の溝状要素が形成されており、
前記溝状要素は、タイヤ周方向と平行にのびる第1周方向部と、前記第1周方向部に連なり、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した傾斜部とを含み、
前記第1周方向部は、前記第1エッジを部分的に切り欠くように前記第1エッジを含んで形成されており、
前記溝状要素のそれぞれは、前記第1周方向部の前記傾斜部が連なる側とは反対側の端部である第1端と、前記第2エッジで開口する第2端とを備え、
前記第1端は、前記第2端よりもタイヤ周方向の第1の側に位置しており、
前記複数の溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、
前記第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する前記溝状要素のペアにおいて、一方の前記溝状要素の前記第1端が、他方の前記溝状要素の前記第2端と、タイヤ周方向で同じ位置とされている、
タイヤ。
【請求項2】
前記溝状要素は、前記傾斜部に連なり、かつ、タイヤ周方向と平行にのびる第2周方向部を含み、
前記第2周方向部は、前記第2エッジを部分的に切り欠くように前記第2エッジを含んで形成されている、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記溝状要素の一つ又は複数は、前記第1周方向部と前記傾斜部とが、円弧状部を介して接続されている、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記溝状要素の一つ又は複数は、前記第1周方向部と前記傾斜部とが、円弧状部を介することなく接続されている、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項5】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、陸部を含み、
前記陸部は、タイヤ軸方向の一方側でタイヤ周方向と平行に延びる第1エッジと、タイヤ軸方向の他方側でタイヤ周方向と平行に延びる第2エッジと、前記第1エッジと前記第2エッジとの間の接地面とを含み、
前記接地面には、前記接地面をタイヤ軸方向に完全に横切る複数の溝状要素が形成されており、
前記溝状要素は、前記第1エッジ及び前記第2エッジの両方からタイヤ軸方向にそれぞれ距離を隔てた位置でタイヤ周方向と平行にのびる周方向部と、前記周方向部のタイヤ周方向の両側に連なり、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した2つの傾斜部とを含み
前記溝状要素のそれぞれは、前記第1エッジ側の第1端と、前記第2エッジ側の第2端とを備え、
前記第1端は、前記第2端よりもタイヤ周方向の第1の側に位置しており、
前記複数の溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、
前記第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する前記溝状要素のペアにおいて、一方の溝状要素の前記第1端が、他方の溝状要素の前記第2端と、タイヤ周方向で同じ位置とされている、
タイヤ。
【請求項6】
前記複数の溝状要素のそれぞれは、幅が2mmよりも大きい溝である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記複数の溝状要素のそれぞれは、幅が2mm以下のサイプである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記タイヤが、正規リムに正規内圧でリム組みされ、かつ、正規荷重を負荷してキャンバー角ゼロで平面に接触させた正規荷重負荷状態の接地面において、前記陸部を横切る前記接地面の縁のタイヤ周方向の長さは、前記溝状要素の一つのタイヤ周方向の長さの20%以下である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤのトレッド部には、氷雪路性能やドライ路面での操縦安定性を向上させる観点から、溝やサイプが設けられる(例えば、下記特許文献1参照)。一方、溝やサイプは、走行時にノイズを発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-156025号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の車両の静粛化に伴い、タイヤについても、さらなるノイズ性能の改善が求められており、溝やサイプに起因する走行ノイズを低減させる必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、雪上性能を維持しつつ、ノイズ性能を向上することができるタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、陸部を含み、前記陸部は、タイヤ軸方向の一方側でタイヤ周方向と平行に延びる第1エッジと、タイヤ軸方向の他方側でタイヤ周方向と平行に延びる第2エッジと、前記第1エッジと前記第2エッジとの間の接地面とを含み、前記接地面には、前記接地面をタイヤ軸方向に完全に横切る複数の溝状要素が形成されており、前記溝状要素は、タイヤ周方向と平行にのびる第1周方向部と、前記第1周方向部に連なり、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した傾斜部とを含み、前記第1周方向部は、前記第1エッジを部分的に切り欠くように前記第1エッジを含んで形成されており、前記溝状要素のそれぞれは、前記第1周方向部の前記傾斜部が連なる側とは反対側の端部である第1端と、前記第2エッジで開口する第2端とを備え、前記第1端は、前記第2端よりもタイヤ周方向の第1の側に位置しており、前記複数の溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、前記第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する前記溝状要素のペアにおいて、一方の前記溝状要素の前記第1端が、他方の前記溝状要素の前記第2端と、タイヤ周方向で同じ位置とされている、タイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤは、雪上性能を維持しつつ、ノイズ性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の平面図である。
図2】溝状要素が配された陸部の拡大図である。
図3図2の溝状要素の拡大斜視図である。
図4】他の実施形態の陸部の拡大図である。
図5】他の実施形態の陸部の拡大図である。
図6】接地面の形状を示すトレッド部の平面図である。
図7】比較例のタイヤについての、溝状要素が設けられた陸部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のいくつかの実施形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の特徴を内包して記載されているが、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている場合がある。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0010】
図1は、本実施形態のタイヤ1の正規状態におけるトレッド部2の展開図である。図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして実施される。望ましい態様として、本実施形態のタイヤ1は、ドライ路面及び氷雪路面の双方での走行を想定したオールシーズン用のタイヤとして用いられる。本発明は、自動二輪車用タイヤや、重荷重用タイヤとして実施されても良い。
【0011】
「正規状態」とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤや、非空気式タイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。また、本明細書において、特に断りの無い限り、前記寸法の測定方法には、公知の方法を適宜適用することができる。
【0012】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0013】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0014】
トレッド部2は、第1トレッド端T1及び第2トレッド端T2と、第1トレッド端T1と第2トレッド端T2との間の接地面とを含む。第1トレッド端T1及び第2トレッド端T2は、正規状態のタイヤ1に正規荷重の70%が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。
【0015】
「正規荷重」は、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、「正規荷重」は、上述の規格に準じ、タイヤを使用する上で適用可能な最大の荷重を指す。
【0016】
トレッド部2は、陸部4を含む。具体的には、トレッド部2が、第1トレッド端T1と第2トレッド端T2との間でタイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝3と、複数の周方向溝3に区分された複数の陸部4とを含んでいる。
【0017】
図2には、一つの陸部4の拡大図が示されている。図2に示されるように、陸部4は、第1エッジ6及び第2エッジ7と、これらの間の接地面4sとを含む。第1エッジ6は、タイヤ軸方向の一方側(図2では左側である。)でタイヤ周方向と平行に延びている。第2エッジ7は、タイヤ軸方向の他方側(図2では右側である。)でタイヤ周方向と平行に延びている。これらのエッジは、陸部4の接地面4sと周方向溝3(図1に示す)の開口部との境界となる。
【0018】
陸部4の接地面4sには、複数の溝状要素8が形成されている。なお、本明細書の各図において、溝状要素8には、ドットが施されている。複数の溝状要素8のそれぞれは、接地面4sをタイヤ軸方向に完全に横切っている。溝状要素8は、陸部4の接地面4sから凹んだ長手方向を有する空隙であって、サイプ及び溝の双方を含む包括的な概念である。本明細書において、溝状要素8は、溝である場合を示す。代替的に、溝状要素8は、サイプであっても良い。なお、本明細書の各図では、本発明に関連する溝状要素8以外の構成は、省略されている。このため、本発明の具体的な実施において、トレッド部2には、本明細書の各図に示されない溝やサイプが追加されても構わない。
【0019】
本明細書において、「溝」は、長手方向と直交する幅が2mmよりも大きいものを指す。溝の幅は、例えば、3mm以上であり、望ましくは5mm以上である。これにより、溝が、上述の正規荷重が負荷された状態で地面に接地したときでも、溝に含まれる一対の溝壁は、互いに接触せず、溝の容積が維持される。溝の幅の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、15mm以下であり、望ましくは10mm以下である。
【0020】
また、本明細書において、「サイプ」は、長手方向と直交する幅が2mm以下、好ましくは1.5mm以下のスリット状の空隙である。サイプは、例えば、上述の正規荷重が負荷された状態で地面に接地したときに、一対のサイプ壁の少なくとも一部が互いに接触するように機能する。したがって、サイプは、陸部の剛性低下を最小限に抑え、ひいては、操縦安定性を維持するのに役立つ。
【0021】
図3には、溝状要素8の拡大斜視図が示されている。図2及び図3に示されるように、溝状要素8は、タイヤ周方向と平行にのびる第1周方向部11と、第1周方向部11に連なり、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した傾斜部15とを含む。第1周方向部11は、第1エッジ6を部分的に切り欠くように第1エッジ6を含んで形成されている。
【0022】
図2に示されるように、溝状要素8のそれぞれは、第1周方向部11の傾斜部15が連なる側とは反対側の端部である第1端8aと、第2エッジ7で開口する第2端8bとを備えている。また、第1端8aは、第2端8bよりもタイヤ周方向の第1の側A1に位置している。なお、第1端8aは、一つの溝状要素8におけるタイヤ周方向の第1の側A1の端である。また、第2端8bは、一つの溝状要素8におけるタイヤ周方向の第2の側A2(前記第1の側A1の反対側である。)の端である。したがって、第1端8a及び第2端8bは、溝状要素8の開口幅を2等分する中心線の端とは相違する。
【0023】
複数の溝状要素8は、タイヤ1周に亘って、第1の配列で並べられている。第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する溝状要素8のペアにおいて、一方の溝状要素8の第1端8aが、の溝状要素8の第2端8bと、タイヤ周方向で同じ位置とされている。これにより、本発明のタイヤ1は、雪上性能を維持しつつ、ノイズ性能を向上することができる。そのメカニズムは、以下の通りである。
【0024】
本発明では、スノー路面において、溝状要素8が摩擦力を提供する。とりわけ、溝状要素8の第1周方向部11がタイヤ軸方向にも摩擦力を提供できるため、雪上性能が確実に維持される。
【0025】
一方、従来から、タイヤ走行時のノイズとして、ピッチ音が知られている。このピッチ音の発生原因の一つは、例えば、溝状要素8が路面に接触するときに生じるインパクト力である。このインパクト力により、トレッド部2(図1に示す)やサイドウォール部(図示省略)が周期的に振動し、ピッチ音が生じ得る。
【0026】
本発明では、複数の溝状要素8が、上述の第1の配列とされているため、タイヤ走行時、溝状要素8が、絶え間なく連続的に接地することができる。これにより、上述のインパクト力の変動を小さくすることができる。したがって、本発明のタイヤ1は、インパクト力に起因したピッチ音を低減することができ、ノイズ性能を向上させることが可能となる。
【0027】
なお、上述の「タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられている」とは、溝状要素8が所定のピッチでタイヤ1周に亘って設けられており、かつ、これらの溝状要素8の80%以上において、第1端8aと第2端8bとが上述の通り配置されていることを意味する。望ましい態様では、前記溝状要素8の90%以上、さらに望ましい態様では、全ての溝状要素8において、第1端8aと第2端8bとが上述の通り配置されている。
【0028】
また、タイヤ等のゴム製品に含まれる誤差を許容する観点から、「第1端8aと第2端8bとがタイヤ周方向で同じ位置とされている」とは、第1端8aと第2端8bとのタイヤ周方向の距離が、溝状要素8のタイヤ周方向の長さL1(第1端8aから第2端8bまでのタイヤ周方向の長さである。)の5%以下である態様を含むものとする。望ましい態様では、第1端8aと第2端8bとのタイヤ周方向の距離が0とされる。
【0029】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される各構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本開示は、以下で説明される構成を備えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を備えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか一つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0030】
図1に示されるように、本実施形態では、2つの周方向溝3の間に区分された陸部4に、溝状要素8が配されている。溝状要素8は、第1トレッド端T1又は第2トレッド端T2を含む陸部4に配されても良い。溝状要素8が配された陸部4の接地面4sのタイヤ軸方向の幅W1は、例えば、トレッド幅TWの15%~30%である。但し、陸部4の前記幅W1は、このような態様に限定されるものではない。なお、トレッド幅TWは、前記正規状態における、第1トレッド端T1から第2トレッド端T2までのタイヤ軸方向の距離に相当する。
【0031】
図2に示されるように、溝状要素8の1ピッチ長さP1は、例えば、陸部4の接地面4sの幅W1の100%~200%である。これにより、ノイズ性能と雪上性能とがバランス良く向上する。なお、前記1ピッチ長さP1は、例えば、タイヤ周方向で隣接する2つの溝状要素8の第1端8a間のタイヤ周方向の距離に相当する。本発明では、前記1ピッチ長さP1が、溝状要素8のタイヤ周方向の長さL1と実質的に同じとなる。
【0032】
傾斜部15は、互いに平行に延びる2本のエッジ15eで構成されている。本実施形態の傾斜部15は、タイヤ軸方向に対して一定の角度θ1で直線状に延びている。傾斜部15の前記角度θ1は、例えば、25~45°である。但し、このような態様に限定されるものではなく、傾斜部15は、例えば、湾曲して延びるものや、ジグザグ状に延びるものでも良い。
【0033】
図2及び図3に示されるように、第1周方向部11は、周方向溝3で開口しており、陸部4の側壁4wにおいて凹部を構成している。また、第1周方向部11は、第1端8aからタイヤ軸方向に延びる1本の微小横エッジ21と、微小横エッジ21に連なり、タイヤ周方向に平行に延びる1本の単独縦エッジ22とを含んでいる。第1周方向部11は、雪上走行時、周方向溝3とともに雪を押し固めて雪柱を形成することができる。また、この雪柱がせん断されて反力が発揮され、雪上性能が向上する。
【0034】
図2に示されるように、溝状要素8の一つ又は複数は、第1周方向部11と傾斜部15とが、円弧状部を介することなく接続されている。具体的には、傾斜部15を構成する直線状のエッジ15eと、第1周方向部11の単独縦エッジ22とが連なることにより、折れ曲がったエッジを構成している。これにより、第1周方向部11の長さが十分に確保され、スノー路面での旋回性能が向上し得る。
【0035】
第1周方向部11のタイヤ周方向の長さL2は、例えば、溝状要素8のタイヤ周方向の長さL1の40%~60%である。これにより、ノイズ性能と雪上性能とがバランス良く向上する。なお、第1周方向部11の前記長さL2は、例えば、第1周方向部11によって陸部4の側壁4w(図3に示す)に構成された凹部についての、接地面4s上で測定されるタイヤ周方向の最大の長さとして定義される。
【0036】
図4には、本発明の他の実施形態の陸部4の拡大図が示されている。この実施形態の溝状要素8は、第2周方向部12を含んでいる。第2周方向部12は、傾斜部15に連なり、タイヤ周方向と平行に延びている。第2周方向部12は、第2エッジ7を部分的に切り欠くように第2エッジ7を含んで形成されている。この実施形態において、第2端8bは、第2周方向部12の傾斜部15が連なる側とは反対側の端部となる。なお、本実施形態では、溝状要素8が点対称の形状を備えており、第2周方向部12には、第1周方向部11の構成を適用することができる。
【0037】
この実施形態では、第1周方向部11に加え、第2周方向部12を含んだ複数の溝状要素8が、上述の第1の配列とされている。これにより、スノー路面において、第2周方向部12もタイヤ軸方向に反力を提供することができる。
【0038】
この実施形態において、溝状要素8の一つ又は複数は、第1周方向部11と傾斜部15とが、円弧状部24を介して接続されている。すなわち、第1周方向部11のエッジと傾斜部15のエッジとが連なって円弧状のエッジを構成している。このような円弧状部24は、陸部4の偏摩耗を抑制するのに役立つ。
【0039】
図5には、本発明の他の実施形態の陸部4の拡大図が示されている。この実施形態において、溝状要素は、周方向部10と、その両側に配された2つの傾斜部15とを含む。周方向部10は、第1エッジ6及び第2エッジ7の両方からタイヤ軸方向にそれぞれ距離を隔てた位置でタイヤ周方向と平行にのびている。一方の傾斜部15は、周方向部10のタイヤ周方向の第1の側A1の端部に連なり、第1エッジ6まで延びている。他方の傾斜部15は、周方向部10のタイヤ周方向の第2の側A2の端部に連なり、第2エッジ7まで延びている。これら2つの傾斜部15は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜している。
【0040】
この実施形態でも、複数の溝状要素8は、タイヤ1周に亘って上述の第1の配列で並べられている。すなわち、タイヤ周方向で隣接する溝状要素8のペアにおいて、一方の溝状要素8の第1端8aが、他方の溝状要素8の第2端8bと、タイヤ周方向で同じ位置とされている。この実施形態においても、上述された機序により、雪上性能を維持しつつ、ノイズ性能を向上することができる。
【0041】
この実施形態において、周方向部10のタイヤ周方向の長さL3(溝状要素8の中心線で測定されるものとする)は、例えば、溝状要素8のタイヤ周方向の長さL1の50%~70%である。望ましい態様では、周方向部10の前記長さL3は、一つの傾斜部15の長さ(ペリフェリ長さである。)よりも大きい。これにより、雪上性能が確実に維持される。
【0042】
周方向部10は、例えば、陸部4の接地面4sをタイヤ軸方向に3等分したうちの中央の領域に配置されるのが望ましい。具体的には、第1エッジ6から周方向部10の中心線までのタイヤ軸方向の距離L4は、陸部4の接地面4sの幅W1の40%~60%である。これにより、陸部4の偏摩耗を抑制しつつ、上述の効果が得られる。
【0043】
図6には、図1で示される実施形態についての正規荷重負荷状態の接地面GLが仮想線で占めされている。前記正規荷重負荷状態とは、タイヤ1が、正規リムに正規内圧でリム組みされ、かつ、正規荷重を負荷してキャンバー角ゼロで平面に接触させた状態を意味する。図6に示されるように、前記正規荷重負荷状態の接地面GLにおいて、陸部4を横切る接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さL5は、溝状要素8の一つのタイヤ周方向の長さL1の20%以下とされる。
【0044】
発明者らは、ノイズ改善効果をより高く発揮させるために、溝状要素8のタイヤ周方向の長さL1と、接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さL5との関係性に着目した。本発明における第1の配列が期待するインパクト力の変動抑制効果を得るためには、陸部4を横切る接地面GLの縁GLaがタイヤ軸方向と平行であることが最も有効である。しかし、実際のタイヤでは、接地面GLの縁GLaは、円弧状になる傾向がある。このような場合でも、接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さL5が、溝状要素8の前記長さL1の20%以下とすることにより、インパクト力の変動抑制効果を十分に発揮することが可能となる。より望ましい態様では、接地面GLの縁GLaのタイヤ周方向の長さL5は、溝状要素8の一つのタイヤ周方向の長さL1の10%以下であり、さらに望ましくは5%以下とされる。
【0045】
以上、本発明のタイヤのいくつかの実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0046】
実施例1~3として、陸部に溝状要素が図2図4又は図5の態様で配置されたサイズ195/65R15(装着リムは15×6.0、内圧250kPa)の空気入りタイヤが試作された。比較例として、図7に示される陸部aを有するタイヤが試作された。図7に示されるように、比較例のタイヤの陸部aには、複数の溝状要素bが配置されているが、上述の第1の配列を満たしていない。すなわち、比較例のタイヤにおいて、複数の溝状要素bのそれぞれは、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜して直線状に延びており、本発明の周方向部を含んでいない。また、比較例のタイヤにおいて、一つの溝状要素bの第1端b1は、これと隣接する溝状要素bの第2端b2とタイヤ周方向で異なる位置とされている。比較例のタイヤは、上記の事項を除き、実施例のタイヤと実質的に同じである。これらのテストタイヤについて、ノイズ性能及び雪上性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0047】
<ノイズ性能>
ドラム試験機上で、縦荷重4.51kN負荷、かつ、速度40~100km/hの条件で各テストタイヤを走行させたときのノイズが測定された。結果は、比較例の前記ノイズの音圧の逆数を100とする指数であり、数値が大きいほど、前記ノイズが小さく、優れたノイズ性能を発揮していることを示す。
【0048】
<雪上性能>
インサイドドラム試験機にて再現されたスノー路面にて各テストタイヤを走行させ、走行時のグリップ力が測定された。結果は、比較例の各グリップを100とする指数であり、数値が大きい程、雪上性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、各実施例において、は、雪上性能は100~120ポイントと維持されている一方、ノイズ性能は150ポイントと有意に向上している。すなわち、本発明のタイヤは、雪上性能を維持しつつ、ノイズ性能を向上させていることが確認できた。
【0051】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0052】
[本発明1]
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、陸部を含み、
前記陸部は、タイヤ軸方向の一方側でタイヤ周方向と平行に延びる第1エッジと、タイヤ軸方向の他方側でタイヤ周方向と平行に延びる第2エッジと、前記第1エッジと前記第2エッジとの間の接地面とを含み、
前記接地面には、前記接地面をタイヤ軸方向に完全に横切る複数の溝状要素が形成されており、
前記溝状要素は、タイヤ周方向と平行にのびる第1周方向部と、前記第1周方向部に連なり、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した傾斜部とを含み、
前記第1周方向部は、前記第1エッジを部分的に切り欠くように前記第1エッジを含んで形成されており、
前記溝状要素のそれぞれは、前記第1周方向部の前記傾斜部が連なる側とは反対側の端部である第1端と、前記第2エッジで開口する第2端とを備え、
前記第1端は、前記第2端よりもタイヤ周方向の第1の側に位置しており、
前記複数の溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、
前記第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する前記溝状要素のペアにおいて、一方の前記溝状要素の前記第1端が、他方の前記溝状要素の前記第2端と、タイヤ周方向で同じ位置とされている、
タイヤ。
[本発明2]
前記溝状要素は、前記傾斜部に連なり、かつ、タイヤ周方向と平行にのびる第2周方向部を含み、
前記第2周方向部は、前記第2エッジを部分的に切り欠くように前記第2エッジを含んで形成されている、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明3]
前記溝状要素の一つ又は複数は、前記第1周方向部と前記傾斜部とが、円弧状部を介して接続されている、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明4]
前記溝状要素の一つ又は複数は、前記第1周方向部と前記傾斜部とが、円弧状部を介することなく接続されている、本発明1に記載のタイヤ。
[本発明5]
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、陸部を含み、
前記陸部は、タイヤ軸方向の一方側でタイヤ周方向と平行に延びる第1エッジと、タイヤ軸方向の他方側でタイヤ周方向と平行に延びる第2エッジと、前記第1エッジと前記第2エッジとの間の接地面とを含み、
前記接地面には、前記接地面をタイヤ軸方向に完全に横切る複数の溝状要素が形成されており、
前記溝状要素は、前記第1エッジ及び前記第2エッジの両方からタイヤ軸方向にそれぞれ距離を隔てた位置でタイヤ周方向と平行にのびる周方向部と、前記周方向部のタイヤ周方向の両側に連なり、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した2つの傾斜部とを含み
前記溝状要素のそれぞれは、前記第1エッジ側の第1端と、前記第2エッジ側の第2端とを備え、
前記第1端は、前記第2端よりもタイヤ周方向の第1の側に位置しており、
前記複数の溝状要素は、タイヤ1周に亘って第1の配列で並べられており、
前記第1の配列は、タイヤ周方向で隣接する前記溝状要素のペアにおいて、一方の溝状要素の前記第1端が、他方の溝状要素の前記第2端と、タイヤ周方向で同じ位置とされている、
タイヤ。
[本発明6]
前記複数の溝状要素のそれぞれは、幅が2mmよりも大きい溝である、本発明1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
[本発明7]
前記複数の溝状要素のそれぞれは、幅が2mm以下のサイプである、本発明1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
[本発明8]
前記タイヤが、正規リムに正規内圧でリム組みされ、かつ、正規荷重を負荷してキャンバー角ゼロで平面に接触させた正規荷重負荷状態の接地面において、前記陸部を横切る前記接地面の縁のタイヤ周方向の長さは、前記溝状要素の一つのタイヤ周方向の長さの20%以下である、本発明1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0053】
2 トレッド部
4 陸部
4s 接地面
6 第1エッジ
7 第2エッジ
8 溝状要素
8a 第1端
8b 第2端
10 周方向部
15 傾斜部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7