(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151197
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ボールねじ装置の異常検出装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/02 20190101AFI20241017BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01M13/02
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064411
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000200334
【氏名又は名称】JFEプラントエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】中城 朋也
(72)【発明者】
【氏名】前田 啓博
(72)【発明者】
【氏名】畠中 大祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸二
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AB11
2G024BA11
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】ナットのフランジに金型等の移送対象物を固定して移送する態様のボールねじ装置の異常を正確に検出することができるボールねじ装置の異常検出装置及び方法を得る。
【解決手段】本発明に係るボールねじ装置1の異常検出装置11は、ナット7におけるフランジ部7bが形成された側と反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動を検出する振動センサ13と、振動センサ13から入力された振動波形に対してナット7の円筒部7aの上下方向固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出するバンドパスフィルタ23と、バンドパスフィルタ23によって処理された振動波形に基づいてRMS値を算出するRMS値算出手段25と、RMS値算出手段25の算出したRMS値と予め設定されている正常時の円筒部7aのRMS値とを比較して異常の有無を判定する判定手段27と、を備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動装置によって回転するボールねじ軸と、該ボールねじ軸の回転に伴って前記ボールねじ軸に沿って移動するナットと、該ナットに取り付けられてナットによって移送される移送体とを備えたボールねじ装置に設けられて該ボールねじ装置の異常を検出するボールねじ装置の異常検出装置であって、
前記ナットは、ボールが移動するボール溝が形成された円筒部と、該円筒部の一端に形成されて前記移送体を支持するフランジ部とを備えてなり、
前記円筒部における前記フランジ部が形成された側と反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動を検出する振動センサと、該振動センサから入力された振動波形に対して前記ナットの円筒部の上下方向固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタによって処理された振動波形に基づいてRMS値を算出するRMS値算出手段と、該RMS値算出手段の算出したRMS値と予め設定されている正常時の前記円筒部のRMS値とを比較して異常の有無を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とするボールねじ装置の異常検出装置。
【請求項2】
前記ボールねじ軸の回転数を検出する回転数検出センサと、該回転数検出センサの回転数に基づいて回転数が一定のときの振動波形を抽出する波形抽出手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置の異常検出装置。
【請求項3】
回転駆動装置によって回転するボールねじ軸と、該ボールねじ軸の回転に伴って前記ボールねじ軸に沿って移動するナットと、該ナットに取り付けられてナットによって移送される移送体とを備えたボールねじ装置に設けられて該ボールねじ装置の異常を検出するボールねじ装置の異常検出方法であって、
前記ナットは、ボールが移動するボール溝が形成された円筒部と、該円筒部の一端に形成されて前記移送体を支持するフランジ部とを備えてなり、
前記円筒部における前記フランジ部が形成された側と反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動波形を取得する振動波形取得工程と、
取得した振動波形に対して前記ナットの円筒部の上下方向固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出するバンドパスフィルタ処理工程と、
該バンドパスフィルタで処理された振動波形に基づいてRMS値を算出するRMS値算出工程と、
該RMS値算出工程で算出したRMS値と予め設定されている正常時の前記円筒部のRMS値とを比較して異常の有無を判定する異常判定工程と、を備えたことを特徴とするボールねじ装置の異常検出方法。
【請求項4】
前記ボールねじ軸の回転数を取得する回転数取得工程と、該回転数取得工程で取得した回転数に基づいて回転数が一定のときの振動波形を抽出する波形抽出工程と、をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載のボールねじ装置の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ボールねじ軸に沿って移動するナットと、該ナットに取り付けられてナットによって移送される移送体とを備えたボールねじ装置に設けられて、該ボールねじ装置の異常を検出するボールねじ装置の異常検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置の異常を、加速度センサを用いて検出するものとして、例えば特許文献1の「ボールねじの異常判定方法、並びに異常判定装置およびこれを備えた直動駆動装置」や、特許文献2に開示された「転動装置及び転動装置の異常検出方法」が挙げられる。
【0003】
特許文献1に開示のものは、振動センサをナットのフランジや、ナットによって搬送されるテーブル送り装置本体に取り付けている。
また、フィルタ処理工程では、ボールねじを構成するナットの固有振動数以下の振動信号に限って通過させている。
【0004】
特許文献2に開示のものは、振動センサがナットのフランジにボールねじの軸方向に平行又は直交方向に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-38567号公報
【特許文献2】特開2009-210301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明が対象としているボールねじ装置は、ボールねじ軸に沿って移動するナットがフランジを有し、そのフランジに金型等の移送対象物を固定して移送する態様のものである。このような取付態様のものにおいて、ボールねじ装置に異常が発生したときにどのようなモードの振動が発生するかについて十分な検討がなされていない。
そのため、特許文献1、2を含む従来例においては、上記取付態様と振動センサの取付位置との関係や、いかなる振動数帯域の波形を抽出すべきかについて検討されておらず、それ故に正確にボールねじ装置の異常を検知することは難しいという課題があった。
【0007】
また、特許文献1の方法では、ボールねじ装置の異常時のRMS値は正常時の2倍程度で低く、ノイズが大きい環境では誤った異常検知をしてしまう可能性がある。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、ナットのフランジに金型等の移送対象物を固定して移送する態様のボールねじ装置の異常を正確に検出することができるボールねじ装置の異常検出装置及び方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るボールねじ装置の異常検出装置は、回転駆動装置によって回転するボールねじ軸と、該ボールねじ軸の回転に伴って前記ボールねじ軸に沿って移動するナットと、該ナットに取り付けられてナットによって移送される移送体とを備えたボールねじ装置に設けられて該ボールねじ装置の異常を検出するものであって、
前記ナットは、ボールが移動するボール溝が形成された円筒部と、該円筒部の一端に形成されて前記移送体を支持するフランジ部とを備えてなり、
前記円筒部における前記フランジ部が形成された側と反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動を検出する振動センサと、該振動センサから入力された振動波形に対して前記ナットの円筒部の上下方向固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタによって処理された振動波形に基づいてRMS値を算出するRMS値算出手段と、該RMS値算出手段の算出したRMS値と予め設定されている正常時の前記円筒部のRMS値とを比較して異常の有無を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記ボールねじ軸の回転数を検出する回転数検出センサと、該回転数検出センサの回転数に基づいて回転数が一定のときの振動波形を抽出する波形抽出手段と、をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明に係るボールねじ装置の異常検出方法は、回転駆動装置によって回転するボールねじ軸と、該ボールねじ軸の回転に伴って前記ボールねじ軸に沿って移動するナットと、該ナットに取り付けられてナットによって移送される移送体とを備えたボールねじ装置に設けられて該ボールねじ装置の異常を検出する方法であって、
前記ナットは、ボールが移動するボール溝が形成された円筒部と、該円筒部の一端に形成されて前記移送体を支持するフランジ部とを備えてなり、
前記円筒部における前記フランジ部が形成された側と反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動波形を取得する振動波形取得工程と、
取得した振動波形に対して前記ナットの円筒部の上下方向固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出するバンドパスフィルタ処理工程と、
該バンドパスフィルタで処理された振動波形に基づいてRMS値を算出するRMS値算出工程と、
該RMS値算出工程で算出したRMS値と予め設定されている正常時の前記円筒部のRMS値とを比較して異常の有無を判定する異常判定工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記ボールねじ軸の回転数を取得する回転数取得工程と、該回転数取得工程で取得した回転数に基づいて回転数が一定のときの振動波形を抽出する波形抽出工程と、をさらに備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ナットにおけるフランジ部が形成された側と反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動を検出する振動センサと、該振動センサから入力された振動波形に対して前記ナットの円筒部の上下方向固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出するバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタによって処理された振動波形に基づいてRMS値を算出するRMS値算出手段と、該RMS値算出手段の算出したRMS値と予め設定されている正常時の前記円筒部のRMS値とを比較して異常の有無を判定する判定手段と、を備えたことにより、ボールねじ軸に沿って移動するナットがフランジを有し、そのフランジに金型等の移送対象物を固定して移送するボールねじ装置における、異常を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態に係るボールねじ装置の異常検出装置の構成を説明するブロック図である。
【
図2】本実施の形態に係るボールねじ装置の異常検出方法のフローチャートである。
【
図3】バンドパスフィルタ通過前の加速度波形と回転速度を示すグラフである(
図3(a)異常時、
図3(b)正常時)。
【
図4】
図3に示した加速度波形における回転数一定部分の周波数解析結果のグラフである(
図4(a)異常時、
図4(b)正常時)。
【
図5】バンドパスフィルタ通過後の加速度波形と回転速度を示すグラフである(
図5(a)異常時、
図5(b)正常時)。
【
図6】ボールねじ装置の損傷の進行に伴う加速度波形を示す図である。
【
図7】ボールねじ装置の損傷の進行とRMS値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態を説明する前に本発明に至った経緯を説明する。
本発明は、ナットのフランジに金型等の移送対象物を固定して移送するボールねじ装置を対象としている。そこで、このようなボールねじ装置における異常時に発生する振動について、発生する振動モード、振動数をFEM解析により調査した。
【0016】
発生する振動モードとしては、ナットの円筒部の端部(フランジと反対側の端部)が上下に振動するモード(円筒部上下振動)、円筒部が周方向にねじれるように振動するモード(円筒部ねじれ振動)、円筒部が軸方向前後に振動するモード(円筒部前後振動)、円筒部が軸直交方向に曲がるように振動するモード(円筒部曲げ振動)が生ずる。
上記の4つの振動モードのうち、円筒部上下振動がもっとも振動数が小さく、振幅が大きいことが分かった。
【0017】
一方、実際にナットをボールねじに取り付けると共に3軸の振動センサを設置し、ハンマーによる打撃試験を行って、各モードの固有振動数を求めたところFEM解析による結果と一致した。
【0018】
以上の実験結果から、ナットのフランジに金型等の移送対象物を固定して移送するボールねじ装置の異常時に発生する振動は、フランジと反対側の端部が上下に振動するモード(円筒部上下振動)が最も大きく、かつその振動数はナットの固有振動数とほぼ一致することが分かった。
このことから、ナットの円筒部におけるフランジと反対側に、ナット上下方向の振動を検知できる振動センサを取り付けること、及び、円筒部上下振動の固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出すことが異常検出に有効であるとの知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づくものである。
以下、具体的な実施の形態を説明する。
【0019】
本実施の形態が異常検出の対象としているボールねじ装置1は、
図1に示すように、回転駆動装置3である例えばサーボモータによって回転するボールねじ軸5と、ボールねじ軸5の回転に伴ってボールねじ軸5に沿って移動するナット7と、ナット7に取り付けられてナット7によって移送される移送体9とを備えている。
そして、ボールねじ装置1の異常検出装置11(以下、単に「異常検出装置11」という)は、振動センサ13と、振動波形データ記憶手段15と、回転数検知センサ17と、回転数データ記憶手段19と、波形抽出手段21と、バンドパスフィルタ23と、RMS値算出手段25と、判定手段27と、を備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0020】
<ボールねじ軸>
ボールねじ軸5は、一端が回転駆動装置3に取り付けられ、他端が固定軸受29にて回転自在に保持されている。
【0021】
<ナット>
ナット7は、ボールが移動するボール溝が形成された円筒部7aと、円筒部7aの一端に形成されて金型等の移送体9を支持するフランジ部7bとを備えている。
【0022】
<振動センサ>
振動センサ13は、ナット7の円筒部7aにおけるフランジ部7bと反対側の端部に設けられ、ナット上下方向の振動を検出する例えば加速度センサによって構成される。
振動センサ13を、この位置に設けたのは、上述したように、当該位置におけるナット上下方向の振動が最も顕著に現れるからである。
【0023】
<振動波形データ記憶手段>
振動波形データ記憶手段15は、振動センサ13からの信号を入力してその波形データを記憶する。
【0024】
<回転数検知センサ>
回転数検知センサ17は、サーボモータに取り付けられて、ボールねじ軸5の回転数を例えば回転パルス信号として検知する。
【0025】
<回転数データ記憶手段>
回転数データ記憶手段19は、回転数検知センサ17の信号を入力して、ボールねじ軸5の回転数を記憶する。
【0026】
<波形抽出手段>
波形抽出手段21は、振動波形データ記憶手段15に記憶されている振動波形のうちボールねじ軸5の回転数が一定のときの振動波形を抽出する。
【0027】
<バンドパスフィルタ>
バンドパスフィルタ23は、波形抽出手段21によって抽出された振動波形に対してナット7の円筒部上下固有振動数の±所定範囲の帯域の振動波形を抽出する。
本例では、円筒部7aの固有振動数が1.9kHzだったので、±所定範囲として固有振動数の例えば-30%~+30%の帯域の振動波形を抽出する。
抽出する帯域の所定範囲は、-30%~+30%に限定するものではなく、固有振動数前後において異常時に明確に振動値の上昇がみられる周波数範囲を適宜設定すればよい。
【0028】
<RMS値算出手段>
RMS値算出手段25は、バンドパスフィルタ23によって処理された振動波形に基づいてRMS値を算出する。
【0029】
<判定手段>
判定手段27は、RMS値算出手段25の算出したRMS値と、予め取得されて記憶されている正常時の円筒部7aのRMS値とを比較して異常の有無を判定する。
RMS(Root Mean Square)値とは、個々の値を二乗した上で二乗値の平均を算出し、その平方根をとったものであり、RMS値を求めることで、判定手段27による数値判定が可能になる。
【0030】
以上のように構成された本実施の形態の動作を、
図2に示すフローチャート及び
図1、
図3~
図7に基づいて説明する。
ボールねじ装置1は、
図1に示すように、サーボモータを駆動することでボールねじ軸5が回転し、その回転に伴ってナット7がボールねじ軸5に沿って移動する。ボールねじ軸5の回転方向によって、ナット7は前進又は後進する。
【0031】
ボールねじ装置1の異常の最も一般的なものとして、ナット7やボールねじ軸5におけるボールが移動する溝に、疲労による剥離や摩耗に起因する凹凸が生じ、ボールが通過時に凹凸を打撃して振動が発生するというものである。
発生する振動は、前述したように、ナット7のフランジ部7bと反対側の端部が最も大きい。
【0032】
ボールねじ装置1の異常検出方法としては、まず振動センサ13及び回転数検知センサ17によって振動波形及びボールねじ回転数を検知し、これらを振動波形データ記憶手段15及び回転数データ記憶手段19に記憶することで取得する(S1)。
【0033】
図3は、振動センサ13と回転数検知センサ17で検知した、加速度波形と回転速度をグラフ表示したものである。図中、左側の縦軸が加速度(m/s
2)、右側の縦軸が回転速度(rpm)、横軸が時間(sec)を示している。図中、上下方向に振動するギザギザが加速度波形で、加速度波形を囲むように描かれた線が回転速度である。
図3(a)は異常が発生した状態、
図3(b)は正常な状態を示している。
図3からは、正常時と異常時の差異がほとんど分からない。
【0034】
図4は、波形抽出手段21によって、振動波形データ記憶手段15に記憶されている振動波形のうちボールねじ軸5の回転数が一定のときの振動波形を抽出し、周波数解析を実施した結果を示すグラフである。
図4(a)が異常時、
図4(b)が正常時を示している。
図4のグラフを見ると、全体的に異常時の方が正常時よりも加速度波形が大きくなっていることが分かるが、正常時と異常時の差異が明確とは言えない。
【0035】
図5は、波形抽出手段21によって、振動波形データ記憶手段15に記憶されている振動波形のうちボールねじ軸5の回転数が一定のときの振動波形を波形抽出手段21によって抽出し(S3)、バンドパスフィルタ23によって、波形抽出手段21によって抽出された振動波形に対してナット7の円筒部7a上下振動数の-30%~+30%の帯域の振動波形を抽出した(S5)ものである。
図5(a)が異常時、
図5(b)が正常時を示している。
図5に示されるように、バンドパスフィルタ23によるフィルタ処理を施すことで正常時と異常時の差異が明確になる。
【0036】
次に、
図5に示した振動波形の特徴値として、RMS値算出手段25によってRMS値を算出する(S7)。
判定手段27は、RMS値算出手段25の算出したRMS値と予め設定されている正常時の円筒部7aのRMS値とを比較して異常の有無を判定する(S9)。
図6は、損傷の進行過程における加速度波形を示したものであり、正常時(
図6(a))を1とすると、損傷小(
図6(b))ではRMS値が正常時の3倍、損傷中(
図6(c))ではRMS値が正常時の4倍、損傷大(
図6(d))ではRMS値が正常時の5倍、損傷がさらに大きくなり末期状態(
図6(e))ではRMS値が正常時の17倍となっている。
【0037】
判定手段27の異常の有無の判定基準として、例えば、損傷大で異常と判定する場合には、RMS値が正常時の5倍を超えたときに異常と判定するようにすればよい。
判定手段27が異常と判定した場合には、例えばモニタ等の表示手段31に異常を表示して目視できるようにしたり、音等によって異常を知らせたりする報知手段等によって異常を報知するようにすればよい(S11)。
異常と判定されない場合には、S1~S9の処理を、所定の期間ごと(例えば6カ月に1度)繰り返す。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、本実施の形態が異常検出の対象としているボールねじ装置1において、異常振動が最も現れやすい部位でかつ現れやすい方向の振動を、適切な周波数帯域で取得できるようにしているので、ボールねじ装置1の異常を正確に検知することができる。
【0039】
図7は、
図6をグラフ化したものであり、このように損傷の程度をRMS値で管理すれば、ボールねじ装置1の状態管理を適切に行うことができる。状態管理をする場合には、
図7のグラフをモニタ等の画面表示するのが好ましい。
なお、振動データの取得のタイミングは、ボールねじ装置1の大きさや使用頻度等により適宜設定すればよいが、例えば6カ月に1回等、定期的に行うようにすればよい。
【符号の説明】
【0040】
1 ボールねじ装置
3 回転駆動装置
5 ボールねじ軸
7 ナット
7a 円筒部
7b フランジ部
9 移送体
11 異常検出装置
13 振動センサ
15 振動波形データ記憶手段
17 回転数検知センサ
19 回転数データ記憶手段
21 波形抽出手段
23 バンドパスフィルタ
25 RMS値算出手段
27 判定手段
29 固定軸受
31 表示手段