(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151212
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】水素バルブの漏れ検査システム
(51)【国際特許分類】
G01M 3/28 20060101AFI20241017BHJP
G01M 3/20 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01M3/28 Z
G01M3/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064435
(22)【出願日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 汐音
(72)【発明者】
【氏名】楳田 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰
(72)【発明者】
【氏名】中川 源一郎
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA37
2G067BB02
2G067BB03
2G067BB30
2G067CC13
2G067DD04
2G067EE01
2G067EE13
(57)【要約】
【課題】水素バルブにおいて高精度に漏れを検知することができる漏れ検査システムを提供する。
【解決手段】水素バルブ10の漏れ検査システム1に備えられる評価装置60は、漏れ量検知装置40から水素バルブ10に充填された検査ガスの漏れ量の波形データを取得する漏れ波形データ取得部61と、検査ガスのガス圧の異なる複数の検査状態毎に波形データを分割した分割データを作成する分割データ作成部62と、分割データから検査状態毎に特徴量を抽出する特徴量抽出部63と、特徴量と水素バルブ10の気密状態との対応関係が予め記憶された対応関係記憶部64と、検査対象の水素バルブ10について取得された特徴量と対応関係記憶部64に記憶された対応関係とに基づいて、検査対象の水素バルブ10の漏れ状態の評価を行う評価部65とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素バルブの漏れ検査システムであって、
上記水素バルブに接続されて上記水素バルブ内の流路に検査ガスを所定圧で充填するガス充填装置と、
上記検査ガスが充填された水素バルブからの上記検査ガスの漏れ量を検知する漏れ量検知装置と、
上記ガス充填装置により上記検査ガスが第1のガス圧で充填された第1検査状態と、上記ガス充填装置により上記検査ガスが上記第1のガス圧よりも高圧である第2のガス圧で充填された第2検査状態とを含む複数の検査状態における上記水素バルブの気密状態を評価する評価装置と、
を有し、
上記評価装置は、
上記漏れ量検知装置から上記検査ガスの漏れ量の波形データを取得する漏れ波形データ取得部と、
上記波形データを上記検査状態毎に分割した分割データを作成する分割データ作成部と、
上記分割データから上記検査状態毎に特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
上記特徴量と上記水素バルブの気密状態との対応関係が予め記憶された対応関係記憶部と、
検査対象の上記水素バルブについて取得された上記特徴量と上記対応関係記憶部に記憶された上記対応関係とに基づいて、上記検査対象の水素バルブの漏れ状態の評価を行う評価部と、を備える水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項2】
上記特徴量抽出部は、上記特徴量として、上記検査状態毎に上記波形データにおける2回目以降の極大値の総和である上昇量を抽出する、請求項1に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項3】
上記特徴量抽出部は、上記特徴量として、上記検査状態毎に上記波形データの最大値及び上記波形データの積分値を抽出する、請求項2に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項4】
上記評価部は、
上記第1検査状態において、上記特徴量としての上記最大値、上記積分値及び上記上昇量を成分とする評価ベクトルと、上記対応関係における上記最大値、上記積分値及び上記上昇量を成分とする特徴量ベクトルとに基づいて上記気密状態の評価を行い、
上記第2検査状態において、上記特徴量としての上記最大値及び上記積分値を成分とする評価ベクトルと、上記対応関係における上記最大値及び上記積分値を成分とする特徴量ベクトルとに基づいて上記気密状態を評価するとともに、上記特徴量としての上記上昇量と、上記対応関係における上記上昇量とに基づいて上記気密状態の評価を行う、請求項3に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項5】
上記対応関係記憶部は、上記対応関係として、
機械学習により作成された、上記第1検査状態における上記最大値、上記積分値及び上記上昇量を成分とする特徴量ベクトルと上記気密状態との対応関係と、
機械学習により作成された、上記第2検査状態における上記最大値及び上記積分値を成分とする特徴量ベクトルと上記気密状態との対応関係及び上記上昇量の基準値と、
が記憶されている、請求項4に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項6】
上記評価部は、上記水素バルブと上記ガス充填装置との接続を解除された状態であって、上記水素バルブ内の流路に上記検査ガスが第3のガス圧で充填された第3検査状態において、検査対象の上記水素バルブについて取得された上記特徴量と上記対応関係記憶部に記憶された上記対応関係とに基づいて、上記水素バルブの気密状態を評価する、請求項1~5のいずれか一項に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項7】
上記対応関係記憶部は、上記対応関係として、上記第1検査状態において気密状態が良好である良品の水素バルブのうち、上記特徴量が所定基準値を満たすものを用いて機械学習により作成された学習済みモデルが記憶されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【請求項8】
上記評価部は、上記対応関係記憶部に記憶された特徴量と、上記検査対象の上記水素バルブについて取得された上記特徴量とのマハラノビス距離に基づいて、上記気密状態を評価する、請求項1~5のいずれか一項に記載の水素バルブの漏れ検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素バルブの漏れ検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素ガスを利用する燃料電池車などに備えられる水素バルブの構成が開示されている。このような水素バルブにおいて気密検査を行うにあたって、検査ガスとしてのヘリウムガスを水素バルブの流路に充填して流路からのヘリウムガスの漏れ量を検知してする方法が広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の漏れ検知方法は漏れ量波形の最大値と閾値と比較して漏れを検知する単純な方法であって、漏れ量波形が最大値が閾値を超えない場合は漏れを検知しないと判定されていた。しかしながら、漏れ量波形が最大値が閾値を超えない場合でも、許容できない漏れが発生する場合があり、高精度に漏れを検知することができる検査システムが求められている。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、水素バルブにおいて高精度に漏れを検知することができる漏れ検査システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
水素バルブの漏れ検査システムであって、
上記水素バルブに接続されて上記水素バルブ内の流路に検査ガスを所定圧で充填するガス充填装置と、
上記検査ガスが充填された水素バルブからの上記検査ガスの漏れ量を検知する漏れ量検知装置と、
上記漏れ量検知装置で取得された上記検査ガスの漏れ量の波形データを取得する漏れ波形データ取得装置と、
上記ガス充填装置により上記検査ガスが第1のガス圧で充填された第1検査状態と、上記ガス充填装置により上記検査ガスが上記第1のガス圧よりも高圧である第2のガス圧で充填された第2検査状態とを含む複数の検査状態における上記水素バルブの気密状態を評価する評価装置と、
を有し、
上記評価装置は、
上記漏れ量検知装置から上記検査ガスの漏れ量の波形データを取得する漏れ波形データ取得部と、
上記波形データを上記検査状態毎に分割した分割データを作成する分割データ作成部と、
上記分割データから上記検査状態毎に特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
上記特徴量と上記水素バルブの気密状態との対応関係が予め記憶された対応関係記憶部と、
検査対象の上記水素バルブについて取得された上記特徴量と上記対応関係記憶部に記憶された上記対応関係とに基づいて、上記検査対象の水素バルブの漏れ状態の評価を行う評価部と、を備える水素バルブの漏れ検査システムにある。
【発明の効果】
【0007】
上記態様の水素バルブの漏れ検査システムによれば、低圧の検査ガスを用いた第1検査状態と高圧の検査ガスを用いた第2検査状態とを含み、水素バルブにおける検査ガスの漏れ量の波形データを検査状態毎に分割した分割データから検査状態毎に特徴量を抽出する。当該特徴量を用いて、予め記憶された特徴量と水素バルブの気密状態との対応関係に基づいて、検査対象の水素バルブの漏れ状態の評価を行う。これにより、低圧と高圧の両方の状態で漏れ検査を行う際に検査状態毎に分割した分割データを用いることで、漏れの検知精度を向上することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、水素バルブにおいて高精度に漏れを検知することができる検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、検査システムの構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、評価装置の構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態1における、(a)連続データから、(b)分割データの作成態様を説明する概念図。
【
図4】実施形態1における、特徴量としての上昇量を説明するための概念図。
【
図5】実施形態1における、学習済みデータを示す概念図。
【
図6】実施形態1における、良品データと特定良品データとの関係を説明する概念図。
【
図7】実施形態1における、漏れ検査のフローを示すフロー図。
【
図8】実施形態1における、BG検査のフローを示すフロー図。
【
図9】実施形態1における、低圧検査のフローを示すフロー図。
【
図10】実施形態1における、高圧検査のフローを示すフロー図。
【
図11】実施形態1における、漏れ判定処理のフローを示すフロー図。
【
図12】実施形態1における、確認試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
1.水素バルブ10
実施形態1の漏れ検査システム1は、
図1に示すように水素バルブ10の漏れ検査を行う。本実施形態では、検査対象の水素バルブ10は、水素ガスを燃料とする燃料電池車に搭載されるものであって、図示しない燃料タンクに接続される第1接続部11と、図示しない燃料電池に接続される第2接続部12と、燃料タンクに水素ガスを供給するための供給ノズルが接続される第3接続部13と、各接続部11~13を連通させる流路14とを有する。第1接続部11の上流側には開閉弁111が設けられている。開閉弁111は第1接続部11に燃料タンクが接続された状態では開放状態となり、燃料タンクが取り外された状態では閉塞状態となる。また、開閉弁111は第1接続部11に燃料タンクが取り付けられた状態で手動で閉塞状態に切り替えることができるように構成されている。
【0011】
第2接続部12の上流側には電磁弁121が設けられている。電磁弁121の開閉は図示しない車両のECUにより制御されるように構成されているが、車両に搭載されていない状態では、電磁弁121は閉塞状態に維持されている。第3接続部13の上流側には逆止弁131が設けられている。逆止弁131は、水素ガス供給ノズルが接続された状態で供給される水素ガスのガス圧で開放し、水素ガスの供給を停止することで閉塞するように構成されている。そして、開閉弁111、電磁弁121及び逆止弁131のすべてが閉塞状態のとき、流路14は密閉された状態となる。
【0012】
2.漏れ検査システム1の構成
漏れ検査システム1は
図1に示すように、チャンバ20、ガス充填装置30、漏れ量検知装置40、減圧装置50、評価装置60を備える。チャンバ20は、密閉可能な容器であって、検査対象となる水素バルブ10が収容される。
【0013】
ガス充填装置30は、水素バルブ10に接続されて水素バルブ10内の流路14に検査ガスを所定圧で充填する。本実施形態では、ガス充填装置30は水素バルブ10の第3接続部13に接続される。ガス充填装置30から所定圧で検査ガスが供給されることで逆止弁131は開放状態となる。検査ガスの種類は限定されないが、本実施形態では、ヘリウムガスを採用している。ガス充填装置30により充填される検査ガスのガス圧は限定されないが、第1のガス圧と第1のガス圧よりも高圧である第2のガス圧とを含む複数のガス圧を設定することができる。
【0014】
漏れ量検知装置40は、検査ガスが充填された水素バルブ10からの検査ガスの漏れ量を検知する。漏れ量検知装置40の構成は、検査ガスの種類に応じて適宜選択することができる。本実施形態では、漏れ量検知装置40は、検査ガスとしてのヘリウムを検知可能なリークディテクタからなる。なお、リークディテクタ40は、水素バルブ10からチャンバ20内に漏出されるヘリウムの流量(リークレート)を検出可能に構成されている。
【0015】
減圧装置50は、チャンバ20に接続されて、チャンバ20内を減圧して真空状態とするように構成されている。漏れ量検知装置40によるリークレートの検出はチャンバ20内を真空状態とした状態で行う。
【0016】
2-1.評価装置60の構成
評価装置60は、水素バルブ10の流路14に、検査ガスが第1のガス圧(低圧)で充填された第1検査状態と、検査ガスが第2のガス圧(高圧)で充填された第2検査状態とを含む複数の検査状態における水素バルブ10の気密状態を評価する。本実施形態では、さらに、水素バルブ10とガス充填装置30との接続が解除された状態であって、水素バルブ10内の流路14に検査ガスが第3のガス圧で充填された第3検査状態における水素バルブ10の気密状態も評価する。
【0017】
なお、検査ガスが低圧である第1のガス圧で充填された第1検査状態を低圧検査状態といい、検査ガスが高圧である第2のガス圧で充填された第2検査状態を高圧検査状態というものとする。また、第3検査状態は、前検査の終了後の状態を利用することができることから、BG(バックグランド)検査状態というものとする。そして、本実施形態では、検査状態は、BG検査状態、低圧検査状態、高圧検査状態の順に実施されるものとした。
【0018】
本実施形態では、評価装置60は、演算処理装置及び記憶装置からなり、
図2に示すように、漏れ波形データ取得部61、分割データ作成部62、特徴量抽出部63、対応関係記憶部64、評価部65、制御部66、学習部67を有する。
【0019】
漏れ波形データ取得部61は、漏れ量検知装置40により検出されたリークレートに基づいて、漏れ量の波形データを取得する。取得された波形データは図示しない記憶部に記憶される。漏れ量の波形データは、上述のBG検査状態、低圧検査状態及び高圧検査状態の波形データが連続した連続データとすることができる。
【0020】
分割データ作成部62は、漏れ波形データ取得部61により取得された波形データを検査状態毎に分割した分割データを作成する。すなわち、本実施形態では、BG検査状態、低圧検査状態及び高圧検査状態の少なくとも3つに分割した分割データとすることができる。なお、漏れ波形の連続データが不要なデータを含む場合は、当該不要データを分割データから除外するようにしてもよい。
【0021】
図3(a)に示す漏れ波形の連続データの例では、分割データ作成部62は、
図3(b)に示すように、低圧検査状態に対応する第1分割データ、高圧検査状態に対応する第2分割データ、BG検査状態に対応する第3分割データの3つの分割データを作成する。なお、第3分割データよりも前の波形データ、第1分割データと第2分割データとの間の波形データ、及び第2分割データよりも後の波形データは除外する。
【0022】
特徴量抽出部63は、分割データから検査状態毎に特徴量を抽出する。特徴量は限定されないが、水素バルブ10における漏れ量と相関を有するものを採用することが好ましい。本実施形態では、特徴量として、検査状態毎の、漏れ波形データの最大値、積分値及び上昇量とすることができる。なお、上昇量とは、検査状態毎に波形データにおける2回目以降の極大値の総和である。
【0023】
例えば、
図4に示すように、低圧検査状態の波形データにおいて、1回目の極大値は漏れ量の最大値Mxを示す。そして、その後に低下した漏れ量から2回目の極大値までの値m1と、さらに2回目の極大値から低下した漏れ量から3回目の極大値までの値m2との総和(m1+m2)を上昇量とする。なお、4回目以降の極大値が存在する場合は、これらもの値も加えたものを上昇量とする。
【0024】
対応関係記憶部64には、特徴量と水素バルブ10の気密状態との対応関係が予め記憶されている。すなわち、本実施形態では、検査状態毎の、漏れ波形データの最大値、積分値及び上昇量と水素バルブ10の気密状態との対応関係が予め記憶されている。対応関係記憶部64に記憶される対応関係は、学習部67により、学習対象の水素バルブ10について、漏れ波形データ取得部61及び分割データ作成部62により作成した分割データを用いて、予め機械学習により作成した学習済みモデルとすることができる。学習済みモデルの作成は、気密状態が良品である特徴量からなる教師ありデータに基づいて作成することができる。
【0025】
本実施形態では、機械学習の教師ありデータの例として、
図5(a)に示す良品データである学習済みデータと、
図5(b)に示す不良品データである学習済みデータを用いた。学習済みモデルの形態は、限定されず、Transformerモデル、ニューラルネットワークであってもよい。なお、対応関係記憶部64に記憶される対応関係は、学習済みモデルに限らず、ルールベースのモデルであってもよい。
【0026】
本実施形態では、対応関係記憶部64には対応関係として、機械学習により作成された、低圧検査状態における波形データの最大値、積分値及び上昇量を成分とする特徴量ベクトルと気密状態との対応関係と、機械学習により作成された、高圧検査状態における波形データの最大値及び積分値を成分とする特徴量ベクトルと気密状態との対応関係及び波形データの上昇量の基準値とが記憶されている。
【0027】
特徴量ベクトルを作成するに先立って、特徴量ベクトルの各成分の単位が不揃いであるため、各成分に対して標準化を行って特徴量を無次元量とする。各成分を標準化して得られた特徴量ベクトルについての検証は、学習済みモデルの作成に使用したデータから作した検証用データを用いて行うことができる。
【0028】
対応関係記憶部64は、本実施形態では、対応関係として、低圧検査状態において気密状態が良好である良品の水素バルブ10のうち、所定の基準を満たすものを用いて機械学習により作成された学習済みモデルが記憶されている。例えば、
図6(a)に示す低圧検査における良品データ群について、
図6(b)に示すように特徴量が基準値A未満との基準を満たすものを特定して特定良品データとして用いて機械学習により作成された学習済みモデルが記憶されている。一方、
図6(c)に示す特徴量が基準値A未満との基準を満たさないものは除外良品データとして除外し、機械学習に使用しない。当該基準値Aは、特定良品データにおける当該特徴量のバラツキが小さくなるように設定することができる。
【0029】
評価部65は、検査対象の水素バルブ10について取得された特徴量と対応関係記憶部64に記憶された対応関係とに基づいて、検査対象の水素バルブ10の漏れ状態の評価を行う。漏れ状態の評価の方法は、限定されないが、本実施形態では、低圧検査状態において、特徴量としての波形データの最大値、積分値及び上昇量を成分とする評価ベクトルと、対応関係における波形データの最大値、積分値及び上昇量を成分とする特徴量ベクトルとに基づいて気密状態の評価を行うことができる。また、高圧検査状態において、特徴量としての波形データの最大値及び積分値を成分とする評価ベクトルと、対応関係における最大値及び積分値を成分とする特徴量ベクトルとに基づいて気密状態を評価するとともに、特徴量としての波形データの上昇量と、対応関係における波形データの上昇量とに基づいて上記気密状態の評価を行うことができる。
【0030】
評価部65における気密状態の評価は、MT法(Maharanobis-Taguchi System)に基づいて行うことができる。具体的には、学習済みモデルにおいて、気密状態についての良品データの平均ベクトル(μ)と良品データの分散共分散行列(Σ)を用いて、下記の式1から算出した検査対象の特徴量ベクトル(x)におけるマハラノビス距離dが所定の基準値内であれば、気密状態は良好であると評価できる。
【0031】
【0032】
制御部66は、ガス充填装置30及び減圧装置50の動作を制御する。例えば、制御部66は、検査開始前にチャンバ20内が真空状態となるように減圧装置50を制御し、BG検査状態の後、低圧検査のタイミングが到来したらガス充填装置30から第1のガス圧で検査ガスが供給されるようにガス充填装置30を制御し、高圧検査のタイミングが到来したらガス充填装置30から第2のガス圧で検査ガスが供給されるようにガス充填装置30を制御する。
【0033】
3.漏れ検査
次に、本実施形態1の漏れ検査システム1による漏れ検査を
図7に示すフローを用いて説明する。
図7に示すように、漏れ検査は、BG検査S1、低圧検査S2、高圧検査S3、漏れ判定S4の順に行う。
【0034】
BG検査S1は、
図8に示すように、まず、ステップS11において、検査対象の水素バルブ10の流路14を密閉状態に維持する。本実施形態では、水素バルブ10における各接続部11~13には未接続の状態であるため、開閉弁111、電磁弁121及び逆止弁131はいずれも閉塞状態であって流路14は密閉状態となっており、当該漏れ検査の前の検査において流路14内にヘリウムガスが所定のガス圧で充填されている。
【0035】
次いで、ステップS12において、検査対象の水素バルブ10をチャンバ20内に載置し、ステップS13において減圧装置50により、チャンバ20内を減圧して真空状態とする。そして、ステップS14において、漏れ量検知装置40により水素バルブ10の流路14からチャンバ20内に漏れ出したヘリウムガスの漏れ量(リークレート)を検知する。その後、所定時間が経過したタイミングで、BG検査S1を終了する。
【0036】
その後、
図9に示す低圧検査S2を実施する。低圧検査S2では、まず、ステップS21において、漏れ量検知装置40において、ヘリウムガスの漏れ量(リークレート)の検出値のゼロリセットを行い、BG検査終了時のリークレートを基準値とする。そして、ステップS22において、水素バルブ10の第3接続部13にガス充填装置30を接続して、逆止弁131を開放して水素バルブ10の流路14に低圧のヘリウムガスを充填する。そして、ステップS23において、漏れ量検知装置40により水素バルブ10の流路14からチャンバ20内に漏れ出したヘリウムガスの漏れ量を検知する。その後、所定時間が経過したタイミングで、低圧検査S2を終了する。
【0037】
次いで、
図10に示す高圧検査S3を実施する。高圧検査S3では、まず、ステップS31において、ガス充填装置30により、水素バルブ10の流路14に低圧のヘリウムガスに加えて、高圧のヘリウムガスを充填する。そして、ステップS32において、漏れ量検知装置40により水素バルブ10の流路14からチャンバ20内に漏れ出したヘリウムガスの漏れ量を検知し、ヘリウムガスの漏れ量が所定値に到達するまで待機する。その後、ステップS33において、チャンバ20内へのヘリウムガスの漏れ量を検知し、所定時間が経過したタイミングで高圧検査S3を終了する。
【0038】
そして、
図11に示す漏れ判定処理S4を実施する。漏れ判定処理S4では、まず、ステップS41において、漏れ波形データ取得部61により漏れ量検知装置40が検知したリークレートを蓄積してヘリウムガスの漏れ量の波形データを取得する。当該波形データは、例えば
図3(a)に示すように連続データとなっている。次いで、ステップS42において、分割データ作成部62により漏れ波形データ取得部61が取得した連続データをBG検査状態、低圧検査状態及び高圧検査状態に分割した分割データを作成する。なお、
図3(b)に示すように高圧検査状態の始期は高圧のヘリウムガスが充填されてチャンバ20内へのヘリウムガスの漏れ量が所定値に到達までの待機期間が経過した時点とする。
【0039】
次に、ステップS43において、特徴量抽出部63により、各分割データに基づいて検査状態毎の特徴量を抽出する。本実施形態では、BG検査状態において、特徴量として波形データの最大値及び積分値を抽出し、低圧検査状態及び高圧検査状態において、特徴量として波形データの最大値、積分値及び上昇量を抽出する。
【0040】
その後、ステップS44において、評価部65により水素バルブ10の気密状態を評価する。本実施形態では、BG検査状態においては、最大値及び積分値の標準化を行い、これらを成分とするBG検査状態の評価ベクトルを作成する。そして、当該BG検査状態の評価ベクトルについて、対応関係記憶部64に記憶された対応関係としてのBG検査状態の良品データの平均ベクトルと良品データの分散共分散行列を用いて学習済みの良品データに対するマハラノビス距離を算出し、当該マハラノビス距離を予め設定された基準値とを比較する。当該マハラノビス距離が基準値を超えない場合は気密状態が良好であると評価し、当該マハラノビス距離が基準値を超える場合は気密状態が不良であると評価する。
【0041】
また、低圧検査状態においては、最大値、積分値及び上昇量の標準化を行い、これらを成分とする低圧検査状態の評価ベクトルを作成する。そして、当該低圧検査状態の評価ベクトルについて、対応関係記憶部64に記憶された対応関係としての低圧検査状態の良品データの平均ベクトルと良品データの分散共分散行列を用いて学習済みの良品データに対するマハラノビス距離を算出し、当該マハラノビス距離を予め設定された基準値とを比較する。当該マハラノビス距離が基準値を超えない場合は気密状態が良好であると評価し、当該マハラノビス距離が基準値を超える場合は気密状態が不良であると評価する。
【0042】
また、高圧検査状態においては、最大値及び積分値の標準化を行い、これらを成分とする高圧検査状態の評価ベクトルを作成する。そして、当該高圧検査状態の評価ベクトルについて、対応関係記憶部64に記憶された対応関係としての高圧検査状態の良品データの平均ベクトルと良品データの分散共分散行列を用いて学習済みの良品データに対するマハラノビス距離を算出し、当該マハラノビス距離を予め設定された基準値とを比較する。これとともに、高圧検査状態において取得された特徴量としての上昇量と、対応関係記憶部64に記憶された対応関係として上昇量の基準値とを比較する。当該マハラノビス距離と上昇量のいずれかが基準値を超えない場合は気密状態が良好であると評価し、当該マハラノビス距離と上昇量とがいずれも基準値を超える場合は気密状態が不良であると評価する。
【0043】
そして、各検査状態における水素バルブ10の気密状態の評価結果のいずれかが気密状態が不良である場合には水素バルブ10に漏れありと判定し、評価結果のすべてが気密状態が良好である場合には水素バルブ10に漏れなしと判定して、漏れ判定処理を終了する。
【0044】
4.確認試験
従来の検査手法では漏れなしと判定されたが、後工程において気密状態が不良であって漏れが発生することが判明した不良試験品について、本実施形態1の
図7~
図11に示すフローに従って漏れ検査を行い、学習済みの良品データに対するマハラノビス距離を算出した結果を
図12に示した。
図12に示すように、従来の検査手法では漏れなしと判定されたものであっても、学習済みの良品データに対するマハラノビス距離が基準値以上のものが存在し、これらはいずれも漏れが発生することが判明したものであることが確認できた。
【0045】
5.作用効果
本実施形態1の水素バルブ10の漏れ検査システム1によれば、低圧の検査ガスを用いた第1検査状態と高圧の検査ガスを用いた第2検査状態とを含み、水素バルブ10における検査ガスの漏れ量の波形データを検査状態毎に分割した分割データから検査状態毎に特徴量を抽出する。当該特徴量を用いて、予め記憶された特徴量と水素バルブの気密状態との対応関係に基づいて、検査対象の水素バルブ10の漏れ状態の評価を行う。これにより、低圧と高圧の両方の状態で漏れ検査を行う際に検査状態毎に分割した分割データを用いることで、漏れの検知精度を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態1では、特徴量抽出部63は、特徴量として、検査状態毎に波形データにおける2回目以降の極大値の総和である上昇量を抽出する。これにより、従来は検出困難であった気密不良の水素バルブ10を容易に出することができるため、漏れの検知精度をさらに向上することができる。
【0047】
また、本実施形態1では、特徴量抽出部63は、特徴量として、検査状態毎に波形データの最大値及び波形データの積分値を抽出する。これにより、上述の上昇量とともに波形データの最大値及び積分値を用いることで、漏れの検知精度をさらに向上することができる。
【0048】
また、本実施形態1では、評価部65は、第1検査状態(低圧検査状態)において、特徴量としての最大値、積分値及び上昇量を成分とする評価ベクトルと、対応関係記憶部64に記憶された対応関係における最大値、積分値及び上昇量を成分とする特徴量ベクトルとに基づいて水素バルブ10の気密状態の評価を行う。そして、第2検査状態(高圧検査状態)において、特徴量としての最大値及び積分値を成分とする評価ベクトルと、上記対応関係における最大値及び積分値を成分とする特徴量ベクトルとに基づいて水素バルブ10の気密状態を評価するとともに、特徴量としての上昇量と、対応関係記憶部64に記憶された対応関係における上昇量とに基づいて上記気密状態の評価を行う。低圧検査状態では、上記3つの成分を有する特徴量ベクトルを用いることで気密状態の評価精度を向上できる。一方で、特徴量としての上昇量は、高圧検査状態における特徴量ベクトルの成分として用いると気密状態の評価の感度が高くなりすぎるため、高圧検査状態では特徴量ベクトルの成分として用いずに単独の特徴量として用いることで気密状態の評価の感度を適正な範囲とすることができ、結果的に漏れの検知精度をさらに向上することができる。
【0049】
また、本実施形態1では、対応関係記憶部64は対応関係として、機械学習により作成された第1検査状態(低圧検査状態)における波形データの最大値、積分値及び上昇量を成分とする特徴量ベクトルと気密状態との対応関係と、機械学習により作成された第2検査状態(高圧検査状態)における波形データの最大値及び積分値を成分とする特徴量ベクトルと気密状態との対応関係及び上昇量の基準値とが記憶されている。これにより、低圧検査状態での気密状態の評価精度を向上しつつ、高圧検査状態での気密状態の評価の感度を適正な範囲とすることができ、結果的に漏れの検知精度をさらに向上することができる。
【0050】
また、本実施形態1では、評価部65は、水素バルブ10とガス充填装置30との接続を解除された状態であって、水素バルブ10内の流路14に検査ガスが第3のガス圧で充填された第3検査状態(BG検査状態)において、検査対象の水素バルブ10について取得された特徴量と対応関係記憶部64に記憶された対応関係とに基づいて、水素バルブ10の気密状態を評価する。これにより、第3検査状態(BG検査状態)では、水素バルブ10の第3接続部13にガス充填装置30が接続されない状態であるため、他の接続部11、12とともに第3接続部13の気密状態の評価を行うことができる。
【0051】
また、本実施形態1では、対応関係記憶部64は対応関係として、第1検査状態(低圧検査状態)において気密状態が良好である良品の水素バルブ10のうち、特徴量が所定基準値を満たすものを用いて機械学習により作成された学習済みモデルが記憶されている。これにより、低圧検査状態では良品データがバラツキやすいが、当該良品データのうちバラツキが少ないものを機械学習の教師データとして用いることができるため、気密状態の評価の精度を向上することができる。
【0052】
また、本実施形態1では、評価部65は、対応関係記憶部64に記憶された特徴量と、検査対象の水素バルブ10について取得された特徴量とのマハラノビス距離に基づいて、水素バルブ10の気密状態を評価する。これにより、演算量を比較的少なくすることができるため、漏れ検査に要する時間を短縮することができる。
【0053】
以上のごとく、上記態様によれば、水素バルブ10において高精度に漏れを検知することができる漏れ検査システム1を提供することができる。
【0054】
本発明は上記実施形態1及び変形形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 漏れ検査システム
10 水素バルブ
11 第1接続部
12 第2接続部
13 第3接続部
14 流路
20 チャンバ
30 ガス充填装置
40 漏れ量検知装置(リークディテクタ)
50 減圧装置
60 評価装置
61 波形データ取得部
62 分割データ作成部
63 特徴量抽出部
64 対応関係記憶部
65 評価部
66 制御部
67 学習部
111 開閉弁
121 電磁弁
131 逆止弁