(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151282
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】石垣の構築構造および構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20241017BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20241017BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
E02D29/02 303
E02D17/18 A
E02D17/20 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123324
(22)【出願日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2023064460
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598093484
【氏名又は名称】有徳コンクリート株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391047190
【氏名又は名称】岡三リビック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯田 晋市
(72)【発明者】
【氏名】小浪 岳治
【テーマコード(参考)】
2D044
2D048
【Fターム(参考)】
2D044CA01
2D044DB53
2D048AA22
2D048AA71
(57)【要約】
【課題】 締付け具を用いることなく、しかも、従来の手間を要することなく、築石を所望箇所に設置可能な石垣の構築構造および構築方法を提供する。
【解決手段】 第1スリング6は、環状部が設けられた一方の末端の第1端部6aが、築石3の控え部分3bの一方の側面3b1に位置させられる。他方の末端の第2端部6bには、盛土2中に設けられる抵抗材から引抜き抵抗力が与えられる。第2スリング7は、一方の側面3b1に対向する控え部分3bの他方の側面3b2で、一方の末端の第3端部7aに設けられた環状部に、一方の側面3b1から控え部分3bの周囲の一部を覆って、第1スリング6が通される。また、一方の側面3b1に位置させられた第1端部6aの環状部に、他方の側面3b2から控え部分3bの周囲の残部を覆って、他方の末端の第4端部7bが通される。この第4端部7bには、盛土2中に設けられる抵抗材から引抜き抵抗力が与えられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部が設けられた一方の末端の第1端部が築石の控え部分の一方の側面に位置させられ、前記控え部分の背後に存在する盛土または地山中に設けられる抵抗材から他方の末端の第2端部に引抜き抵抗力が与えられる第1スリングと、
前記一方の側面に対向する前記控え部分の他方の側面で、一方の末端の第3端部に設けられた環状部に、前記一方の側面から前記控え部分の周囲の一部を覆って前記第1スリングが通され、前記一方の側面に位置させられた前記第1端部の環状部に、前記他方の側面から前記周囲の残部を覆って他方の末端の第4端部が通されて、前記盛土または地山中に設けられる抵抗材から前記第4端部に引抜き抵抗力が与えられる第2スリングとをそれぞれ少なくとも1本備え、
前記第1端部の端末側の前記第1スリングが前記周囲の一部を締め付け、前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記周囲の残部を締め付ける石垣の構築構造。
【請求項2】
築石の控え部分の一方の側面で、前記控え部分の全周囲を覆いながら一方の末端の第1端部に設けられた環状部に他方の末端の第2端部が通され、前記控え部分の背後に存在する盛土または地山中に設けられる抵抗材から前記第2端部に引抜き抵抗力が与えられる第1スリングと、
前記一方の側面に対向する前記控え部分の他方の側面で、前記控え部分の全周囲を覆いながら一方の末端の第3端部に設けられた環状部に他方の末端の第4端部が通され、前記盛土または地山中に設けられる抵抗材から前記第4端部に引抜き抵抗力が与えられる第2スリングとをそれぞれ少なくとも1本備え、
前記第1端部の端末側の前記第1スリングおよび前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記控え部分の全周囲をそれぞれ締め付ける石垣の構築構造。
【請求項3】
前記第3端部に設けられた環状部を前記第1スリングが通る箇所で、前記第3端部に設けられた環状部と前記第1スリングとを緊結して、前記第1端部の端末側の前記第1スリングが前記控え部分の周囲の一部を締め付けている状態に保つ第1緊結材と、
前記第1端部に設けられた環状部を前記第2スリングが通る箇所で、前記第1端部に設けられた環状部と前記第2スリングとを緊結して、前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記周囲の残部を締め付けている状態に保つ第2緊結材と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の石垣の構築構造。
【請求項4】
前記第1端部に設けられた環状部を前記第1スリングが通る箇所で、前記第1端部に設けられた環状部と前記第1スリングとを緊結して、前記第1端部の端末側の前記第1スリングが前記控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第1緊結材と、
前記第3端部に設けられた環状部を前記第2スリングが通る箇所で、前記第3端部に設けられた環状部と前記第2スリングとを緊結して、前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第2緊結材と
を備えることを特徴とする請求項2に記載の石垣の構築構造。
【請求項5】
前記第2端部および前記第4端部にそれぞれ環状部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項6】
隣接する築石間において、前記控え部分を覆って隣接する、または、前記盛土側もしくは前記地山側に引き込まれて隣接する前記第1スリング同士または前記第2スリング同士または前記第1スリングと前記第2スリングとを連結する結束材を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項7】
前記盛土中に設けられる前記抵抗材は、前記第2端部の側の前記第1スリングおよび前記第4端部の側の前記第2スリングが前記盛土にそれぞれ所定長埋められて構成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項8】
前記盛土中に設けられる前記抵抗材は、前記第2端部および前記第4端部のいずれか一方または双方が連結される帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材から構成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項9】
前記抵抗材は、前記第2端部および前記第4端部と前記帯状抵抗材または前記網状抵抗材または前記アンカー抵抗材の築石側の端部との間に、その間の距離に応じた長さの連結材を備えることを特徴とする請求項8に記載の石垣の構築構造。
【請求項10】
アンカー抵抗材から構成される前記抵抗材は、築石と反対側の端部に雄ネジ部が設けられた棒状部材と、前記雄ネジ部に螺合するナットにより前記雄ネジ部の任意の位置に固定される抵抗体とを有することを特徴とする請求項8に記載の石垣の構築構造。
【請求項11】
アンカー抵抗材から構成される前記抵抗材は、前記第2端部および前記第4端部の双方が連結される場合に、前記第2端部および前記第4端部が互いに逆向きに巻き付けられることを特徴とする請求項8に記載の石垣の構築構造。
【請求項12】
前記地山中に設けられる前記抵抗材は、前記地山に開けられた削孔に挿入されて一方の末端部が前記地山の表面に露出される芯材と、前記芯材が挿入された前記削孔に充填される定着剤と、前記芯材の前記末端部に固定されて前記地山の表面に定着されるプレートと、前記地山の表面に露出して前記プレートに固定され前記第2端部および前記第4端部のいずれか一方または双方が連結されるフックとから構成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項13】
前記第1スリングおよび前記第2スリングは、前記第2端部および前記第4端部の双方が1つの前記抵抗材に連結される場合に、前記抵抗材との連結部において相互の成す角度が90度以下に設定されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項14】
前記盛土は、築石側の前面が壁面工に覆われて前記盛土中に盛土補強材が敷設された補強土構造体、または、盛土材が拘束補強されて構成された補強土構造体として構築され、
前記第2端部および前記第4端部のいずれか一方または双方に引抜き抵抗力を与える前記抵抗材は前記補強土構造体に定着されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項15】
前記地山は、末端部が地山表面に露出する補強材によって表面側の土の緩みが補強され、
前記第2端部に引抜き抵抗力を与える前記抵抗材および前記第4端部に引抜き抵抗力を与える前記抵抗材は前記補強材によって構成され、
前記第2端部および前記第4端部のいずれか一方または双方は、前記補強材の前記地山に露出する各前記末端部に連結されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項16】
前記第1スリングおよび前記第2スリングが前記引抜き抵抗力を得て前記控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力は、前記築石が前記第1スリングおよび前記第2スリングからの束縛を逃れて石垣の前面側へ押し出される押出力に対抗して、前記第1スリングおよび前記第2スリングが前記控え部分の各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる締め付け力に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項17】
前記押出力は、前記第1スリングおよび前記第2スリングが前記緊縛状態を設計上維持するのに必要な前記押出力に所定の安全率を見込んだ値に設定されていることを特徴とする請求項16に記載の石垣の構築構造。
【請求項18】
前記築石は、前記築石が前記第1スリングおよび前記第2スリングからの束縛を逃れて石垣の前面側へ押し出される押出力に対抗して前記控え部分の周囲を緊縛できない、前記第1スリングまたは前記第2スリングが巻き付く前記控え部分の周囲に、前記第1スリングまたは前記第2スリングとの接触抵抗を増やす抵抗部材が固着されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の石垣の構築構造。
【請求項19】
環状部が設けられた第1スリングの一方の末端の第1端部が築石の控え部分の一方の側面に位置させられ、前記一方の側面に対向する前記控え部分の他方の側面で、第2スリングの一方の末端の第3端部に設けられた環状部に、前記一方の側面から前記控え部分の周囲の一部を覆って前記第1スリングが通され、前記一方の側面に位置させられた前記第1端部の環状部に、前記他方の側面から前記周囲の残部を覆って前記第2スリングが通された状態に、前記第1スリングおよび前記第2スリングを前記控え部に巻き付ける巻き付け工程と、
前記第1スリングの他方の末端の第2端部および前記第2スリングの他方の末端の第4端部を吊り上げて前記築石を宙に浮かすことで、前記第1端部の端末側の前記第1スリングが前記控え部分の周囲の一部を締め付け、前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記周囲の残部を締め付けた状態にする締め付け工程と、
前記第1端部の端末側の前記第1スリングおよび前記第3端部の端末側の前記第2スリングによって前記控え部分の周囲が締め付けられた状態で、前記第3端部に設けられた環状部を前記第1スリングが通る箇所で、前記第3端部に設けられた環状部と前記第1スリングとを第1緊結材で緊結して、前記第1端部の端末側の前記第1スリングが前記控え部分の周囲の一部を締め付けている状態に保つ第1緊結工程と、
前記第1端部の端末側の前記第1スリングおよび前記第3端部の端末側の前記第2スリングによって前記控え部分の周囲が締め付けられた状態で、前記第1端部に設けられた環状部を前記第2スリングが通る箇所で、前記第1端部に設けられた環状部と前記第2スリングとを第2緊結材で緊結して、前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記周囲の残部を締め付けている状態に保つ第2緊結工程と、
前記第1スリングおよび前記第2スリングが巻き付けられて前記第1緊結材および前記第2緊結材が取り付けられた前記築石を一旦降ろしてその姿勢を正した後、再度吊り上げて所定の箇所に設置する設置工程と
を備える石垣の構築方法。
【請求項20】
築石の控え部分の一方の側面で、前記控え部分の全周囲を覆いながら第1スリングの一方の末端の第1端部に設けられた環状部に前記第1スリングの他方の末端の第2端部が通され、前記一方の側面に対向する前記控え部分の他方の側面で、前記控え部分の全周囲を覆いながら第2スリングの一方の末端の第3端部に設けられた環状部に前記第2スリングの他方の末端の第4端部が通された状態に、前記第1スリングおよび前記第2スリングを前記控え部に巻き付ける巻き付け工程と、
前記第2端部および前記第4端部を吊り上げて前記築石を宙に浮かすことで、前記第1端部の端末側の前記第1スリングおよび前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記控え部分の全周囲をそれぞれ締め付けた状態にする締め付け工程と、
前記第1端部の端末側の前記第1スリングおよび前記第3端部の端末側の前記第2スリングによって前記控え部分の周囲が締め付けられた状態で、前記第1端部に設けられた環状部を前記第1スリングが通る箇所で、前記第1端部に設けられた環状部と前記第1スリングとを第1緊結材で緊結して、前記第1端部の端末側の前記第1スリングが前記控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第1緊結工程と、
前記第1端部の端末側の前記第1スリングおよび前記第3端部の端末側の前記第2スリングによって前記控え部分の周囲が締め付けられた状態で、前記第3端部に設けられた環状部を前記第2スリングが通る箇所で、前記第3端部に設けられた環状部と前記第2スリングとを第2緊結材で緊結して、前記第3端部の端末側の前記第2スリングが前記控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第2緊結工程と、
前記第1スリングおよび前記第2スリングが巻き付けられて前記第1緊結材および前記第2緊結材が取り付けられた前記築石を一旦降ろしてその姿勢を正した後、再度吊り上げて所定の箇所に設置する設置工程と
を備える石垣の構築方法。
【請求項21】
請求項14に記載のいずれか一方の前記補強土構造体の前面側に、当該前記補強土構造体に定着される各前記抵抗材との連結部を露出させながら、当該前記補強土構造体を複数層に積み上げて所望高の補強土構造体を構築する補強土構造体構築工程と、
前記補強土構造体構築工程によって前記所望高の補強土構造体が構築された後に、前記第2端部および前記第4端部のいずれか一方または双方を各前記連結部に連結させながら、前記所望高の補強土構造体の前面側に、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の、前記盛土中に設けられる抵抗材を使った石垣の構築構造を有する石垣を複数層に積み上げて所望高の石垣を構築する石垣構築工程と
を備える石垣の構築方法。
【請求項22】
前記締め付け工程の後に、
前記第1スリングおよび前記第2スリングが前記引抜き抵抗力を得て前記控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力が、前記築石が前記第1スリングおよび前記第2スリングからの束縛を逃れて石垣の前面側へ押し出される押出力に対抗して、前記第1スリングおよび前記第2スリングが前記控え部分の各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる基準締め付け力を有するかを判定する性能評価工程を備え、
前記第1緊結工程および前記第2緊結工程は、前記性能評価工程で前記締め付け力が前記基準締め付け力を有すると判定された場合に行われる
ことを特徴とする請求項19または請求項20に記載の石垣の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、城郭等に用いられる石垣の構築構造および構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の石垣の構築構造および構築方法としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
この特許文献1に開示された構造および方法では、石垣を構成する築石の控えの部分の周囲にベルトが巻き付けられる。ベルトは、荷締め機能を備えた締付け具を有する。締付け具は、ベルトの長さを調節すると共に、ベルトを調節された長さに保つ。築石が配置される箇所の背面側には栗石が積まれ、その栗石の内部には補強ネットが配置される。築石に巻き付けられたベルトは、連結部材を介して補強ネットに連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された上記従来の石垣の構築構造および構築方法では、築石の周囲にベルトを巻き付けるのに締付け具を使用し、締付け具の荷締め機能によって築石の周囲にベルトを巻き付ける。このため、上記従来の石垣の構築構造および構築方法では、石垣を構築する際、築石の周囲にベルトを巻き付けるために締付け具が必要とされ、また、築石の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
環状部が設けられた一方の末端の第1端部が築石の控え部分の一方の側面に位置させられ、控え部分の背後に存在する盛土または地山中に設けられる抵抗材から他方の末端の第2端部に引抜き抵抗力が与えられる第1スリングと、
一方の側面に対向する控え部分の他方の側面で、一方の末端の第3端部に設けられた環状部に、一方の側面から控え部分の周囲の一部を覆って第1スリングが通され、一方の側面に位置させられた第1端部の環状部に、他方の側面から前記周囲の残部を覆って他方の末端の第4端部が通されて、盛土または地山中に設けられる抵抗材から第4端部に引抜き抵抗力が与えられる第2スリングとをそれぞれ少なくとも1本備え、
第1端部の端末側の第1スリングが前記周囲の一部を締め付け、第3端部の端末側の第2スリングが前記周囲の残部を締め付ける石垣の構築構造を構成した。
【0007】
また、本発明は、
築石の控え部分の一方の側面で、控え部分の全周囲を覆いながら一方の末端の第1端部に設けられた環状部に他方の末端の第2端部が通され、控え部分の背後に存在する盛土または地山中に設けられる抵抗材から第2端部に引抜き抵抗力が与えられる第1スリングと、
一方の側面に対向する控え部分の他方の側面で、控え部分の全周囲を覆いながら一方の末端の第3端部に設けられた環状部に他方の末端の第4端部が通され、盛土または地山中に設けられる抵抗材から第4端部に引抜き抵抗力が与えられる第2スリングとをそれぞれ少なくとも1本備え、
第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲をそれぞれ締め付ける石垣の構築構造を構成した。
【0008】
これらの構成では、築石を所望箇所に設置する際、第1スリングおよび第2スリングが上記の各所定の態様に築石の周囲に巻き付けられ、第1スリングの第2端部および第2スリングの第4端部が吊り上げられる。このようにして築石を一旦宙に浮かすことで、第1端部の端末側の第1スリングが築石の控え部分の周囲の一部を締め付け、第3端部の端末側の第2スリングがその周囲の残部を締め付けるようになる。または、第1端部の端末側の第1スリング、および、第3端部の端末側の第2スリングが、築石の控え部分の全周囲をそれぞれ締め付けるようになる。
【0009】
このため、築石の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石を一度吊り上げるだけで、築石の周囲にベルト等の第1スリングおよび第2スリングを巻き付けることが可能になる。
【0010】
また、同時に、巻き付けた第1スリングおよび第2スリングが築石から抜け出さないかを、容易に確認することができる。また、種々の形状および大きさをした築石に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリングおよび第2スリングを確実に巻き付けることが可能になる。また、このような第1スリングおよび第2スリングを少なくともそれぞれ1本備え、必要に応じて築石に巻き付ける第1スリングおよび第2スリングの対の数、または、第1スリングもしくは第2スリングの各数を増やして、または、第1スリングにおける第2端部が通される第1端部の築石周囲における周位置、および、第2スリングにおける第4端部が通される第3端部の築石周囲における周位置を変えて、各抵抗材から築石に与える各引抜き抵抗力の方向を調整することで、歪な形状をした築石に対しても、所望の姿勢にして設置することができる。
【0011】
また、本発明は、
第3端部に設けられた環状部を第1スリングが通る箇所で、第3端部に設けられた環状部と第1スリングとを緊結して、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の周囲の一部を締め付けている状態に保つ第1緊結材と、
第1端部に設けられた環状部を第2スリングが通る箇所で、第1端部に設けられた環状部と第2スリングとを緊結して、第3端部の端末側の第2スリングが前記周囲の残部を締め付けている状態に保つ第2緊結材と
を備えることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、第1緊結材によって第3端部に設けられた環状部と第1スリングとが緊結されることで、第1端部の端末側の第1スリングが築石の控え部分の周囲の一部を締め付けている状態が保たれる。また、第2緊結材によって第1端部に設けられた環状部と第2スリングとが緊結されることで、第3端部の端末側の第2スリングが前記周囲の残部を締め付けている状態が保たれる。このため、築石の設置施工過程において、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石に地震動が作用して築石が振動しても、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付け力が低下することはない。
【0013】
また、本発明は、
第1端部に設けられた環状部を第1スリングが通る箇所で、第1端部に設けられた環状部と第1スリングとを緊結して、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第1緊結材と、
第3端部に設けられた環状部を第2スリングが通る箇所で、第3端部に設けられた環状部と第2スリングとを緊結して、第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第2緊結材と
を備えることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、第1端部に設けられた環状部と第1スリングとが緊結されることで、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態が保たれる。また、第3端部に設けられた環状部と第2スリングとが緊結されることで、第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態が保たれる。このため、本構成によっても、築石の設置施工過程において、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石に地震動が作用して築石が振動しても、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付け力が低下することはない。
【0015】
また、本発明は、第2端部および第4端部にそれぞれ環状部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本構成によれば、第2端部および第4端部にそれぞれ環状部が設けられるため、第1スリングおよび第2スリングと盛土または地山中に設けられる抵抗材との接続は、特別な接続治具を必要とせずに作業性良く、確実に、しかも、コストを抑えて、行える。
【0017】
また、本発明は、隣接する築石間において、控え部分を覆って隣接する、または、盛土側もしくは地山側に引き込まれて隣接する第1スリング同士または第2スリング同士または第1スリングと第2スリングとを連結する結束材を備えることを特徴とする。
【0018】
コンクリート等で強固に固定していない石垣は、大きな地震動の作用を受けると、あらゆる方向に大きく動き、変形したり崩壊したりする。しかし、本構成によれば、隣接する築石間において、控え部分を覆って隣接する、または、盛土側もしくは地山側に引き込まれて隣接する第1スリング同士または第2スリング同士または第1スリングと第2スリングとが、結束材によって連結される。このため、隣接する築石間は、結束材によってフレキシブルに連結され、大きな地震動の作用を受けても大きく動かなくなり、構築される石垣の耐震性が向上する。
【0019】
また、本発明は、盛土中に設けられる抵抗材が、第2端部の側の第1スリングおよび第4端部の側の第2スリングが盛土にそれぞれ所定長埋められて構成されることを特徴とする。
【0020】
本構成によれば、盛土にそれぞれ所定長埋められる第2端部の側の第1スリング自体および第4端部の側の第2スリング自体が、最小数の構成要素で、盛土と摩擦抵抗を生じる抵抗材になる。したがって、第2端部の側の第1スリングおよび第4端部の側の第2スリングは、それ自体による引抜き抵抗力でそれぞれ盛土に定着する。このため、築石背面からの土圧や、地震動による築石の振動により、石垣の前面側へ抜け出る力が築石に作用しても、第1スリングおよび第2スリングが巻き付いた築石は、第1スリング自体および第2スリング自体の引抜き抵抗力により、背後の盛土に第2端部の側および第4端部の側が定着した第1スリングおよび第2スリングに引っ張られて、石垣の前面にとどまり、石垣の崩壊が防がれる。
【0021】
また、本構成によれば、第1スリングおよび第2スリングの盛土への定着位置に制限が課されない。したがって、築石の大きさが不揃いな場合にも、築石のそれぞれの大きさに合った盛土への敷設高さに、第1スリングおよび第2スリングを容易に定着させることができる。このため、本構成は、築石の大きさが不揃いな場合にも、容易に適用することができる。
【0022】
また、本発明は、盛土中に設けられる抵抗材が、第2端部および第4端部のいずれか一方または双方が連結される帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材から構成されることを特徴とする。
【0023】
本構成によれば、帯状抵抗材または網状抵抗材は、盛土との摩擦抵抗による引抜き抵抗力で、盛土に定着する。また、アンカー抵抗材は、盛土との支圧抵抗による引抜き抵抗力で、盛土に定着する。このため、築石背面からの土圧や、地震動による築石の振動により、石垣の前面側へ抜け出る力が築石に作用しても、第1スリングおよび第2スリングが巻き付いた築石は、第1スリングおよび第2スリングのいずれか一方または双方が連結される各帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の引抜き抵抗力により、第1スリングおよび第2スリングに引っ張られて石垣の前面にとどまり、石垣の崩壊が防がれる。
【0024】
また、本構成によれば、帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材が、第2端部および第4端部の双方に連結される場合、帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の使用数を減らせる。このため、石垣の施工作業時の煩雑さおよび施工コストを低減することができる。築石の大きさが小さい場合、石垣の同じ高さに積み上げる築石の個数が増えるので、帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の使用数を減らせることによるこの効果は、特に高くなる。
【0025】
また、帯状抵抗材およびアンカー抵抗材は、第1スリングおよび第2スリングの盛土への定着位置に制限が課されない。したがって、築石の大きさが不揃いな場合にも、築石のそれぞれの大きさに合った盛土への敷設高さに、第1スリングおよび第2スリングを容易に定着させることができる。このため、本構成は、築石の大きさが不揃いな場合にも、容易に適用することができる。
【0026】
また、網状抵抗材は、第1スリングの第2端部および第2スリングの第4端部との連結位置が網状抵抗材の端部に制限されるため、築石の大きさが比較的揃っている場合に適用される。
【0027】
また、本発明は、第2端部および第4端部と帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の築石側の端部との間に、その間の距離に応じた長さの連結材を備えることを特徴とする。
【0028】
第2端部および第4端部と帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の築石側の端部との間の距離は、築石の大きさに応じて第1スリングおよび第2スリングが築石に巻き付く長さが異なるため、変化する。本構成によれば、第2端部および第4端部と帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の築石側の端部との間は、その間の距離に応じた長さの連結材で連結される。このため、第1スリングおよび第2スリングの長さを調節することなく、第2端部および第4端部と帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の築石側の端部との間を連結することができ、第1スリングおよび第2スリングを、帯状抵抗材または網状抵抗材またはアンカー抵抗材の築石側の端部との間の距離に応じて切断して接続したりする手間が不要となる。
【0029】
また、本発明は、アンカー抵抗材から構成される抵抗材が、築石と反対側の端部に雄ネジ部が設けられた棒状部材と、雄ネジ部に螺合するナットにより雄ネジ部の任意の位置に固定される抵抗体とを有することを特徴とする。
【0030】
築石の大きさに応じて第1スリングおよび第2スリングが築石に巻き付く長さが異なるため、第1スリングおよび第2スリングに連結されるアンカー抵抗部材は、その支圧抵抗による盛土への定着位置を調節する必要がある。本構成によれば、アンカー抵抗材の定着位置は、棒状部材の雄ネジ部の任意の位置に抵抗体を固定することで、可変することができる。このため、第1スリングおよび第2スリングの長さを調節することなく、アンカー抵抗材の支圧抵抗による定着位置を調節することができ、第1スリングおよび第2スリングを築石に巻き付く長さに応じて切断して接続したりする手間が不要となる。
【0031】
また、本発明は、アンカー抵抗材から構成される抵抗材が、第2端部および第4端部の双方が連結される場合に、第2端部および第4端部が互いに逆向きに巻き付けられることを特徴とする。
【0032】
本構成によれば、第1スリングの第2端部と第2スリングの第4端部との同じアンカー抵抗部材への連結は、第2端部および第4端部が同じアンカー抵抗部材に互いに逆向きに単に巻き付けられ、各スリングからアンカー抵抗部材にかかる力のバランスがとられることで、各スリングをアンカー抵抗部材に特別縛り付けることなく、簡単に行える。
【0033】
また、本発明は、地山中に設けられる抵抗材が、地山に開けられた削孔に挿入されて一方の末端部が地山の表面に露出される芯材と、芯材が挿入された削孔に充填される定着剤と、芯材の末端部に固定されて地山の表面に定着されるプレートと、地山の表面に露出してプレートに固定され第2端部および第4端部のいずれか一方または双方が連結されるフックとから構成されることを特徴とする。
【0034】
本構成によれば、地山中に設けられる抵抗材は、芯材の周りに充填される定着剤と地山との間の摩擦抵抗により生じる引抜き抵抗力により、地山に定着する。また、第1スリングの第2端部および第2スリングの第4端部のいずれか一方または双方は、プレートを介して芯材の末端部に固定される各フックに連結される。このため、築石背面からの土圧や、地震動による築石の振動により、石垣の前面側へ抜け出る力が築石に作用しても、第1スリングおよび第2スリングが巻き付いた築石は、第1スリングおよび第2スリングのいずれか一方または双方が連結される各抵抗材の引抜き抵抗力により、第1スリングおよび第2スリングに引っ張られて、石垣の前面にとどまり、石垣の崩壊が防がれる。
【0035】
また、本発明は、第1スリングおよび第2スリングが、第2端部および第4端部の双方が1つの抵抗材に連結される場合に、抵抗材との連結部において相互の成す角度が90度以下に設定されることを特徴とする。
【0036】
本構成によれば、抵抗材との連結部において、第1スリングおよび第2スリング相互の成す角度が90度以下に設定され、90度を超える角度にならなくなることで、第1スリングおよび第2スリングに作用する張力の大きさを抑えることができる。また、第1スリングおよび第2スリング相互の成す角度が90度を超える角度にならなくなることで、第1スリングおよび第2スリングとの接続箇所におけるシャックル等の接続材に、第1スリングおよび第2スリングからそれら相互の成す角度方向にかかる、接続材を広げようとする荷重負担が過大になるのを抑えることができる。
【0037】
また、本発明は、
盛土が、築石側の前面が壁面工に覆われて盛土中に盛土補強材が敷設された補強土構造体、または、盛土材が拘束補強されて構成された補強土構造体として構築され、
第2端部および第4端部のいずれか一方または双方に引抜き抵抗力を与える抵抗材が補強土構造体に定着されることを特徴とする。
【0038】
本構成によれば、築石の背面からの大きな土圧は、築石の背面側に構築された補強土構造体に抵抗させることで、築石の背面に作用する土圧を小さくすることができる。このため、築石を高く積み上げて築石の背面から大きな土圧がかかる場合にも、補強土構造体に定着した抵抗材によって築石を積み上げ箇所にとどめることが可能となり、また、石垣の耐震性を向上させることができる。また、築石の背面に作用する土圧を小さくすることができるため、抵抗材の補強土構造体への定着長さが短くて済む。このため、抵抗材の補強土構造体への定着長さを予め必要長より長めに確保しておくことで、抵抗材の長さを調整する必要がなくなり、石垣の施工性が向上する。
【0039】
また、本発明は、
地山が、末端部が地山表面に露出する補強材によって表面側の土の緩みが補強され、
第2端部に引抜き抵抗力を与える抵抗材および第4端部に引抜き抵抗力を与える抵抗材が補強材によって構成され、
第2端部および第4端部のいずれか一方または双方が補強材の地山に露出する各末端部に連結されることを特徴とする。
【0040】
本構成によれば、築石背面からの土圧や、地震動による築石の振動により、石垣の前面側へ抜け出る力が築石に作用しても、第1スリングおよび第2スリングが巻き付いた築石は、第1スリングおよび第2スリングのいずれか一方または双方が連結される地山中の各抵抗材の引抜き抵抗力により、第1スリングおよび第2スリングに引っ張られて、石垣の前面にとどまる。抵抗材が定着する地山が強固な場合、地山中の抵抗材により生じる引抜き抵抗力は、大きな地震動によって築石に作用する大きな力に十分対抗させることでき、石垣の耐震性を向上させることができる。また、地山が強固でない場合には、地山に設ける補強材の長さを長くすることで、同様に、石垣の耐震性を向上させることができる。
【0041】
また、本構成は、築石の背後の地山を掘削する量を最小限に抑えることができるので、築石背後の地山の掘削が制限される箇所に石垣を構築する場合に、有効となる。
【0042】
また、本発明は、第1スリングおよび第2スリングが引抜き抵抗力を得て控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力が、築石が第1スリングおよび第2スリングからの束縛を逃れて石垣の前面側へ押し出される押出力に対抗して、第1スリングおよび第2スリングが控え部分の各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる締め付け力に設定されていることを特徴とする。
【0043】
本構成によれば、第1スリングおよび第2スリングが控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力が不十分で、築石の背後からの土圧や、築石の自重によって地震時に生じる慣性力により築石が受ける押出力に対抗できないことが、築石の設置後に判明して、築石の設置をやり直す事態を回避することが出来る。
【0044】
また、本発明は、押出力が、第1スリングおよび第2スリングが緊縛状態を設計上維持するのに必要な押出力に所定の安全率を見込んだ値に設定されていることを特徴とする。
【0045】
本構成によれば、第1スリングおよび第2スリングが控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力は、基準締め付け力を確実に有するようになる。このため、万が一、想定外の押出力が築石に作用した場合でも、築石は第1スリングおよび第2スリングに緊縛された状態に確実に保たれる。
【0046】
また、本発明は、築石が第1スリングおよび第2スリングからの束縛を逃れて石垣の前面側へ押し出される押出力に対抗して控え部分の周囲を緊縛できない、第1スリングまたは第2スリングが巻き付く控え部分の周囲に、第1スリングまたは第2スリングとの接触抵抗を増やす抵抗部材が固着されることを特徴とする。
【0047】
本構成によれば、押出力に対抗して控え部分の周囲を緊縛できない第1スリングまたは第2スリングと控え部分の周囲との間における接触抵抗を増やすことが出来る。このため、第1スリングおよび第2スリングによって控え部分の周囲を確実に束縛できるようになる。
【0048】
また、本発明は、
環状部が設けられた第1スリングの一方の末端の第1端部が築石の控え部分の一方の側面に位置させられ、一方の側面に対向する控え部分の他方の側面で、第2スリングの一方の末端の第3端部に設けられた環状部に、一方の側面から控え部分の周囲の一部を覆って第1スリングが通され、一方の側面に位置させられた第1端部の環状部に、他方の側面から周囲の残部を覆って第2スリングが通された状態に、第1スリングおよび第2スリングを控え部に巻き付ける巻き付け工程と、
第1スリングの他方の末端の第2端部および第2スリングの他方の末端の第4端部を吊り上げて築石を宙に浮かすことで、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の周囲の一部を締め付け、第3端部の端末側の第2スリングが前記周囲の残部を締め付けた状態にする締め付け工程と、
第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングによって控え部分の周囲が締め付けられた状態で、第3端部に設けられた環状部を第1スリングが通る箇所で、第3端部に設けられた環状部と第1スリングとを第1緊結材で緊結して、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の周囲の一部を締め付けている状態に保つ第1緊結工程と、
第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングによって控え部分の周囲が締め付けられた状態で、第1端部に設けられた環状部を第2スリングが通る箇所で、第1端部に設けられた環状部と第2スリングとを第2緊結材で緊結して、第3端部の端末側の第2スリングが前記周囲の残部を締め付けている状態に保つ第2緊結工程と、
第1スリングおよび第2スリングが巻き付けられて第1緊結材および第2緊結材が取り付けられた築石を一旦降ろしてその姿勢を正した後、再度吊り上げて所定の箇所に設置する設置工程と
を備える石垣の構築方法を構成した。
【0049】
本構成では、巻き付け工程により、控え部分の他方の側面で、第2スリングの一方の末端の第3端部に設けられた環状部に第1スリングが通され、控え部分の一方の側面に位置させられた第1端部の環状部に第2スリングが通された状態に、第1スリングおよび第2スリングが築石の周囲に巻き付けられる。締め付け工程により、第1スリングの第2端部および第2スリングの第4端部が吊り上げられて、第1端部の端末側の第1スリングが築石の控え部分の周囲の一部を締め付け、第3端部の端末側の第2スリングがその周囲の残部を締め付ける状態になる。その状態で、第1緊結工程が行われることで、第3端部に設けられた環状部と第1スリングとが緊結されて、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の周囲の一部を締め付けている状態に保たれる。また、第2緊結工程が行われることで、第1端部に設けられた環状部と第2スリングとが緊結されて、第3端部の端末側の第2スリングが前記周囲の残部を締め付けている状態に保たれる。その後、設置工程が行われることで、築石が所定の箇所に設置される。
【0050】
したがって、本構成によれば、築石の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石を所定の箇所に設置することができる。また、種々の形状および大きさをした築石に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリングおよび第2スリングを確実に巻き付けて、築石を所定の箇所に設置することができる。
【0051】
また、第1緊結材によって第3端部に設けられた環状部と第1スリングとが緊結され、第2緊結材によって第1端部に設けられた環状部と第2スリングとが緊結されることで、築石の設置施工過程において、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石に地震動が作用して築石が振動しても、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付け力が低下することはない。
【0052】
また、本発明は、
築石の控え部分の一方の側面で、控え部分の全周囲を覆いながら第1スリングの一方の末端の第1端部に設けられた環状部に第1スリングの他方の末端の第2端部が通され、一方の側面に対向する控え部分の他方の側面で、控え部分の全周囲を覆いながら第2スリングの一方の末端の第3端部に設けられた環状部に第2スリングの他方の末端の第4端部が通された状態に、第1スリングおよび第2スリングを控え部に巻き付ける巻き付け工程と、
第2端部および第4端部を吊り上げて築石を宙に浮かすことで、第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲をそれぞれ締め付けた状態にする締め付け工程と、
第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングによって控え部分の周囲が締め付けられた状態で、第1端部に設けられた環状部を第1スリングが通る箇所で、第1端部に設けられた環状部と第1スリングとを第1緊結材で緊結して、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第1緊結工程と、
第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングによって控え部分の周囲が締め付けられた状態で、第3端部に設けられた環状部を第2スリングが通る箇所で、第3端部に設けられた環状部と第2スリングとを第2緊結材で緊結して、第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態に保つ第2緊結工程と、
第1スリングおよび第2スリングが巻き付けられて第1緊結材および第2緊結材が取り付けられた築石を一旦降ろしてその姿勢を正した後、再度吊り上げて所定の箇所に設置する設置工程と
を備える石垣の構築方法を構成した。
【0053】
本構成では、巻き付け工程により、控え部分の一方の側面で、第1スリングの一方の末端の第1端部に設けられた環状部に第1スリングの他方の末端の第2端部が通され、控え部分の他方の側面で、第2スリングの一方の末端の第3端部に設けられた環状部に第2スリングの他方の末端の第4端部が通された状態に、第1スリングおよび第2スリングが築石の周囲に巻き付けられる。締め付け工程により、第1端部の端末側の第1スリングおよび第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲をそれぞれ締め付けた状態になる。その状態で、第1緊結工程が行われることで、第1端部の端末側の第1スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態に保たれる。また、第2緊結工程が行われることで、第3端部の端末側の第2スリングが控え部分の全周囲を締め付けている状態に保たれる。その後、設置工程が行われることで、築石が所定の箇所に設置される。
【0054】
したがって、本構成によっても、築石の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石を所定の箇所に設置することができる。また、種々の形状および大きさをした築石に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリングおよび第2スリングを確実に巻き付けて、築石を所定の箇所に設置することができる。
【0055】
また、第1緊結材によって第1端部に設けられた環状部と第1スリングとが緊結され、第2緊結材によって第3端部に設けられた環状部と第2スリングとが緊結されることで、築石の設置施工過程において、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石に地震動が作用して築石が振動しても、第1スリングおよび第2スリングの築石への締め付け力が低下することはない。
【0056】
また、本発明は、
築石側の前面が壁面工に覆われて盛土中に盛土補強材が敷設された補強土構造体、または、盛土材が拘束補強されて構成された補強土構造体のいずれか一方の前面側に、補強土構造体に定着される各抵抗材との連結部を露出させながら、補強土構造体を複数層に積み上げて所望高の補強土構造体を構築する補強土構造体構築工程と、
補強土構造体構築工程によって所望高の補強土構造体が構築された後に、第2端部および第4端部のいずれか一方または双方を各連結部に連結させながら、所望高の補強土構造体の前面側に、盛土中に設けられる抵抗材を使った上記に記載の石垣の構築構造を有する石垣を複数層に積み上げて所望高の石垣を構築する石垣構築工程と
を備える石垣の構築方法を構成した。
【0057】
本構成によれば、補強土構造体を複数層に積み上げて所望高の補強土構造体を構築する補強土構造体構築工程が先行して行われた後、築石を複数層に積み上げて所望高の石垣を構築する石垣構築工程が行われる。したがって、補強土構造体の構築を専門とする作業者による補強土構造体構築工程と、石垣の構築を専門とする作業者による石垣構築工程とを分けて施工することが可能になる。このため、石垣の構築が効率よく行え、しかも、各専門工種の作業者が施工時に交錯することで生じる危険性も低減することができる。
【0058】
また、本発明は、締め付け工程の後に、
第1スリングおよび第2スリングが引抜き抵抗力を得て控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力が、築石が第1スリングおよび第2スリングからの束縛を逃れて石垣の前面側へ押し出される押出力に対抗して、第1スリングおよび第2スリングが控え部分の各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる基準締め付け力を有するかを判定する性能評価工程を備え、
第1緊結工程および第2緊結工程が、性能評価工程で締め付け力が基準締め付け力を有すると判定された場合に行われる
ことを特徴とする。
【0059】
本構成によれば、第1スリングおよび第2スリングが控え部分の各周囲を締め付ける締め付け力が不十分で、築石の背後からの土圧や、築石の自重によって地震時に生じる慣性力により築石が受ける押出力に対抗できないことが、築石の設置後に判明して、築石の設置をやり直す事態を回避することが出来る。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、築石の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石を所望箇所に設置可能な石垣の構築構造および構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明の第1の実施形態による石垣の構築構造を示すである。
【
図2】本発明の各実施形態による石垣の構築構造および構築方法における、第1スリングおよび第2スリングの築石への巻き付け態様を示す図である。
【
図3】各実施形態による石垣の構築構造において、石垣を構成するある層の築石を斜め後方から見た斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態による石垣の構築方法を説明する図である。
【
図5】各実施形態による石垣の構築構造および構築方法における、第1スリングおよび第2スリングの、変形例による築石への巻き付け態様を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図8】第3の実施形態による石垣の構築構造を使って地面に構築された石垣の全体像を示す側面図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図10】本発明の第5の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図11】本発明の第6の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図12】本発明の第7の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図13】本発明の第8の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図14】本発明の第9の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図15】本発明の第10の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図16】本発明の第11の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図17】第11の実施形態による石垣の構築構造を使って地面に構築された石垣の全体像を示す側面図である。
【
図18】本発明の第12の実施形態による石垣の構築構造を示す図である。
【
図19】本発明の第3の実施形態による石垣の構築方法によって構築される石垣を示す図である。
【
図20】本発明の第4の実施形態による石垣の構築方法によって構築される石垣を示す図である。
【
図21】第1の実施形態による石垣の構築方法において、第1スリングおよび第2スリングを築石に締め付けた状態にする締め付け工程の後に行われる性能評価工程を説明する図である。
【
図22】
図21を用いて説明する性能評価工程の変形例を説明する一部拡大図である。
【
図23】
図2に示す第1スリングおよび第2スリングの築石への巻き付け態様で、築石の控え部分の周囲を第1スリングまたは第2スリングが緊縛できない箇所に抵抗部材を固着した一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
次に、本発明による石垣の構築構造および構築方法を実施するための形態について説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0063】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態による石垣1Aの構築構造を示す、石垣1Aの一つの層の平面図、同図(b)は側面図である。
【0064】
石垣1Aは、盛土2の前面側に築石3が積み上げられて構成される。築石3と盛土2との間には石4が設けられている。築石3は、石垣の表面に露出する表面3a側からその背後の盛土2側に向かってすぼみ、断面が小さくなる控え部分3bを有する。このため、築石3は、同図(b)に示すように、各控え部分3bの間に介石5が設けられて、表面3aが面一となるようにその姿勢が保たれている。
【0065】
各築石3は、第1スリング6および第2スリング7が
図2に示すように巻き付けられ、第1スリング6の第2端部6b側および第2スリング7の第4端部7b側が盛土2に定着されて、盛土2の前面に石4を介して固定される。第2端部6bおよび第4端部7bは、
図1(b)に示すように、盛土2の構築過程においてアンカーピン8によって盛土2に仮止めされて、築石3から延ばされて張られた第1スリング6および第2スリング7の緩み止めが施される。第1スリング6および第2スリング7は、本実施形態では高強度繊維で作られたベルトで構成される場合について説明するが、高強度ロープ・ワイヤロープやチェーンなどで構成されていてもよい。
【0066】
図2(a)は、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付け態様を示す側面図、同図(b)は背面図、同図(c)は平面図である。
【0067】
第1スリング6は、その両端部の第1端部6aおよび第2端部6bに、第2スリング7は、その両端部の第3端部7aおよび第4端部7bに、アイ部が環状部として作られている。これら環状部は、高強度繊維で作られたベルト製の場合には、輪状にかたどったベルト端部の根元が縫い付けられることで、形成される。また、高強度ロープ製やワイヤロープ製の場合には、第1スリング6および第2スリング7を構成する各ロープのロープ繊維を一度ほどいて、輪を作ってから再びベルトに編み込んでいくさつま編み加工により、形成される。しかし、環状部はこれらの構成に限定されるものではなく、輪状にかたどったロープ端部の根元をアルミ合金スリーブで圧縮加工したり、ワイヤクリップで締めて形成したりする等してもよい。
【0068】
第1スリング6は、同図(b)に示すように、環状部が設けられた一方の末端の第1端部6aが築石3の控え部分3bの一方の側面3b1に位置させられる。他方の末端の第2端部6bには、控え部分3bの背後に存在する盛土2中に設けられる抵抗材から引抜き抵抗力が与えられる。第2スリング7は、一方の側面3b1に対向する控え部分3bの他方の側面3b2で、一方の末端の第3端部7aに設けられた環状部に、一方の側面3b1から控え部分3bの周囲の下方の略半分を覆って、第1スリング6が通される。そして、第2スリング7は、一方の側面3b1に位置させられた第1端部6aの環状部に、他方の側面3b2から控え部分3bの周囲の残部である上方の略半分を覆って、他方の末端の第4端部7bが通される。この第4端部7bには、盛土2中に設けられる抵抗材から引抜き抵抗力が与えられる。
【0069】
第1端部6aの端末側の第1スリング6は、控え部分3bの周囲の下方の略半分を締め付け、第3端部7aの端末側の第2スリング7は、控え部分3bの周囲の上方の略半分を締め付ける。これら第1スリング6および第2スリング7は、それぞれ少なくとも1本が築石3に巻き付けられ、巻き付ける第1スリング6および第2スリング7により、各抵抗材から築石3に与える各引抜き抵抗力の方向が調整される。
【0070】
このような第1の実施形態による石垣1Aの構築構造では、築石3を所望箇所に設置する際、第1スリング6および第2スリング7が上記の所定の態様に築石3の周囲に巻き付けられ、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bが吊り上げられる。このようにして築石3を一旦宙に浮かすことで、第1端部6aの端末側の第1スリング6が築石3の控え部分3bの周囲の略下半分を締め付け、第3端部7aの端末側の第2スリング7が控え部分3bの周囲の残部の略上半分を締め付けるようになる。
【0071】
このため、築石3の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石3の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石3を一度吊り上げるだけで、築石3の周囲にベルト等の第1スリング6および第2スリング7を巻き付けることが可能になる。
【0072】
また、同時に、巻き付けた第1スリング6および第2スリング7が築石3から抜け出さないかを、容易に確認することができる。また、種々の形状および大きさをした築石3に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリング6および第2スリング7を確実に巻き付けることが可能になる。また、このような第1スリング6および第2スリング7を少なくともそれぞれ1本備え、必要に応じて築石3に巻き付ける第1スリング6および第2スリング7の対の数を増やして、各抵抗材から築石3に与える各引抜き抵抗力の方向を調整することで、歪な形状をした築石3に対しても、所望の姿勢にして設置することができる。
【0073】
また、本実施形態では、各端部6b,7bに引抜き抵抗力を与える、盛土2中に設けられる抵抗材は、第2端部6bの側の第1スリング6および第4端部7bの側の第2スリング7が、
図1に示すように、盛土2にそれぞれ所定長埋められて構成される。
【0074】
本構成によれば、盛土2にそれぞれ所定長埋められる第2端部6bの側の第1スリング6自体および第4端部7bの側の第2スリング7自体が、最小数の構成要素で、盛土2と摩擦抵抗を生じる抵抗材になる。したがって、第2端部6bの側の第1スリング6および第4端部7bの側の第2スリング7は、それ自体による引抜き抵抗力でそれぞれ盛土2に定着する。このため、築石3の背面からの土圧や、地震動による築石3の振動により、石垣1Aの前面側へ抜け出る力が築石3に作用しても、第1スリング6および第2スリング7が巻き付いた築石3は、第1スリング6自体および第2スリング7自体の引抜き抵抗力により、背後の盛土2に第2端部6bの側および第4端部7bの側が定着した第1スリング6および第2スリング7に引っ張られて、石垣1Aの前面にとどまり、石垣1Aの崩壊が防がれる。本構成は、盛土2が土砂の場合に適用されることが多い。
【0075】
また、本構成によれば、第1スリング6および第2スリング7の盛土2への定着位置に制限が課されない。したがって、築石3の大きさが不揃いな場合にも、築石3のそれぞれの大きさに合った盛土2への敷設高さに、第1スリング6および第2スリング7を容易に定着させることができる。このため、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造は、築石3の大きさが不揃いな場合にも、容易に適用することができる。
【0076】
また、本実施形態では、
図2(b)に示すように、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付けが、高強度ロープによって構成される第1緊結材9および第2緊結材10によって締め付け状態に保持される。
【0077】
第1緊結材9は、第2スリング7の第3端部7aに設けられた環状部を第1スリング6が通る箇所で、第3端部7aに設けられた環状部と第1スリング6とを緊結する。第2緊結材10は、第1端部6aに設けられた環状部を第2スリング7が通る箇所で、第1端部6aに設けられた環状部と第2スリング7とを緊結する。
【0078】
本構成によれば、第1緊結材9によって第3端部7aに設けられた環状部と第1スリング6とが緊結されることで、第1端部6aの端末側の第1スリング6が、築石3の控え部分3bの周囲の略下半分を締め付けている状態が保たれる。また、第2緊結材10によって第1端部6aに設けられた環状部と第2スリング7とが緊結されることで、第3端部7aの端末側の第2スリング7が、控え部分3bの周囲の残部の略上半分を締め付けている状態が保たれる。このため、築石3の設置施工過程において、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石3に地震動が作用して築石3が振動しても、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付け力が低下することはない。
【0079】
また、本実施形態では、
図3(a)に一例を示すように、隣接する築石3間において、控え部分3bを覆って隣接する、または、盛土2側に引き込まれて隣接する、第1スリング6同士、または、第2スリング7同士、または、第1スリング6と第2スリング7とが、結束材によって連結される。結束材は、本実施形態では、高強度ロープ11や、鋼製リング12などによって構成される。
図3(a)は、石垣1Aを構成するある層の築石3を斜め後方から見た斜視図である。
【0080】
図示する例では、隣接する築石3間において、控え部分3bを覆って隣接する第2スリング7同士が、
図3(b)に示す一部拡大図のように、高強度ロープ11と鋼製リング12とを用いて連結される。また、同図(c)に示す一部拡大図のように、控え部分3bを覆って隣接する第2スリング7同士は、8の字状に結ばれた高強度ロープ11を用いて連結される。また、隣接する築石3間において、盛土2側に引き込まれて隣接する第1スリング6と第2スリング7とは、同図(b)や(c)に示す一部拡大図のように、高強度ロープ11を用いて連結される。
【0081】
コンクリート等で強固に固定していない石垣は、大きな地震動の作用を受けると、あらゆる方向に大きく動き、変形したり崩壊したりする。しかし、本構成によれば、隣接する築石3間において、控え部分3bを覆って隣接する、または、盛土2側に引き込まれて隣接する第1スリング6同士、または、第2スリング7同士、または、第1スリング6と第2スリング7とが、結束材によって連結される。このため、隣接する築石3間は、結束材によってフレキシブルに連結され、大きな地震動の作用を受けても大きく動かなくなり、構築される石垣1Aの耐震性が向上する。なお、以下に説明する各実施の形態による築石の構築構造においても、
図3に一例を示すように、隣接する築石3間において、第1スリング6同士、または、第2スリング7同士、または、第1スリング6と第2スリング7とが、結束材によって連結されるように構成することで、同様な作用効果が奏される。
【0082】
また、本実施形態では、
図2に示すように、第1スリング6の両端部の第1端部6aおよび第2端部6bに、第2スリング7の両端部の第3端部7aおよび第4端部7bに、環状部が設けられている。
【0083】
本構成によれば、第2端部6bおよび第4端部7bにもそれぞれ環状部が設けられるため、盛土2中に設けられる抵抗材が、第1スリング6自体および第2スリング7自体ではなく、第2端部6bおよび第4端部7bに接続される形態のものである場合、第1スリング6および第2スリング7と盛土2に設けられる抵抗材との接続は、特別な接続治具を必要とせずに作業性良く、確実に、しかも、コストを抑えて、行える。
【0084】
次に、本発明の第1の実施形態による上記の石垣1Aの構築方法について、説明する。
【0085】
最初に、第1スリング6および第2スリング7を
図2に示すように築石3の控え部分3bに巻き付ける巻き付け工程が行われる。この巻き付け工程では、環状部が設けられた第1スリング6の一方の末端の第1端部6aが、築石3の控え部分3bの一方の側面3b1に位置させられる。次に、一方の側面3b1に対向する控え部分3bの他方の側面3b2で、第2スリング7の一方の末端の第3端部7aに設けられた環状部に、一方の側面3b1から控え部分3bの周囲の略下半分を覆って、第1スリング6が通される。そして、一方の側面3b1に位置させられた第1端部6aの環状部に、他方の側面3b2から控え部分3bの周囲の略上半分を覆って、第2スリング7が通された状態にされる。
【0086】
次に、第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け工程が行われる。この締め付け工程では、まず、
図4(a),(b)に示すように、第1スリング6の他方の末端の第2端部6b、および第2スリング7の他方の末端の第4端部7bが吊り上げられて、築石3が宙に浮かされる。築石3が宙に浮かされることで、第1端部6aの端末側の第1スリング6が控え部分3bの周囲の一部を締め付け、第3端部7aの端末側の第2スリング7が控え部分3bの周囲の残部を締め付けた状態になる。
【0087】
次に、第3端部7aに設けられた環状部と第1スリング6とを緊結する第1緊結工程が行われる。この第1緊結工程は、第1端部6aの端末側の第1スリング6および第3端部7aの端末側の第2スリング7によって、控え部分3bの周囲が締め付けられた状態で、行われる。本実施形態では、築石3が
図4(b)に示すように宙に浮いた状態で行われ、第3端部7aに設けられた環状部を第1スリング6が通る箇所で、第3端部7aに設けられた環状部と第1スリング6とが、
図2(a),(b)および
図4(b)に示すように第1緊結材9で緊結される。この緊結により、第1端部6aの端末側の第1スリング6が控え部分3bの周囲の一部を締め付けている状態に保たれる。
【0088】
次に、第1端部6aに設けられた環状部と第2スリング7とを緊結する第2緊結工程が行われる。この第2緊結工程も、第1端部6aの端末側の第1スリング6および第3端部7aの端末側の第2スリング7によって、控え部分3bの周囲が締め付けられた状態で、行われる。本実施形態でも、築石3が
図4(b)に示すように宙に浮いた状態で行われ、第1端部6aに設けられた環状部を第2スリング7が通る箇所で、第1端部6aに設けられた環状部と第2スリング7とが、
図2(b)に示すように第2緊結材10で緊結される。この緊結により、第3端部7aの端末側の第2スリング7が控え部分3bの周囲の残部を締め付けている状態に保たれる。
【0089】
次に、築石3を所定の箇所に設置する設置工程が行われる。この設置工程では、上記のように、第1スリング6および第2スリング7が巻き付けられて、第1緊結材9および第2緊結材10が取り付けられた築石3が、
図4(c)に示すように、一旦地面に降ろされる。この際、第2端部6bおよび第4端部7bが吊り上げられて、築石3の表面3aが地面に向けられていた姿勢が、同図(c)に示すように、築石3の表面3aが地面に垂直に立つ姿勢に正される。また、築石3の移動時や設置時に第1スリング6および第2スリング7が邪魔にならないように、図示するように束ねられる。その後、築石3の控え部分3bの周りにワイヤロープ13が巻かれて、築石3が正された姿勢で、同図(d)に示すようにワイヤロープ13によって再度吊り上げられる。吊り上げられた築石3は、同図(e)に示すように所定の箇所に降ろされて、設置される。
【0090】
上記の石垣1Aの構築方法によれば、築石3の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石3の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石3を所定の箇所に設置することができる。また、種々の形状および大きさをした築石3に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリング6および第2スリング7を確実に巻き付けて、築石3を所定の箇所に設置することができる。
【0091】
また、第1緊結材9によって第3端部7aに設けられた環状部と第1スリング6とが緊結され、第2緊結材10によって第1端部6aに設けられた環状部と第2スリング7とが緊結されることで、築石3の設置施工過程において、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石3に地震動が作用して築石3が振動しても、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付け力が低下することはない。
【0092】
図5(a)は、第1スリング6および第2スリング7の、変形例による築石3への巻き付け態様を示す側面図、同図(b)は背面図、同図(c)は平面図である。また、同図(d)は、この変形例による巻き付け態様における、第1スリング6の築石3への結び状態を示す図、同図(e)は、第2スリング7の築石3への結び状態を示す図である。
【0093】
第1スリング6は、築石3の控え部分3bの一方の側面3b1で、控え部分3bの全周囲を覆いながら一方の末端の第1端部6aに設けられた環状部に、他方の末端の第2端部6bが通される。第2端部6bには、控え部分3bの背後に存在する盛土2中に設けられる抵抗材から引抜き抵抗力が与えられる。第2スリング7は、一方の側面3b1に対向する控え部分3bの他方の側面3b2で、控え部分3bの全周囲を覆いながら一方の末端の第3端部に7a設けられた環状部に、他方の末端の第4端部7bが通される。第4端部7bには、盛土2中に設けられる抵抗材から引抜き抵抗力が与えられる。
【0094】
第1端部6aの端末側の第1スリング6および第3端部7aの端末側の第2スリング7は、控え部分3bの全周囲をそれぞれ締め付ける。これら第1スリング6および第2スリング7は、それぞれ少なくとも1本が築石3に巻き付けられ、巻き付ける第1スリング6および第2スリング7により、各抵抗材から築石3に与える各引抜き抵抗力の方向が調整される。
【0095】
このような変形例による築石3への巻き付け態様でも、築石3を所望箇所に設置する際、第1スリング6および第2スリング7が上記の所定の態様に築石3の周囲に巻き付けられ、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bが吊り上げられる。このようにして築石3を一旦宙に浮かすことで、第1端部6aの端末側の第1スリング6、および、第3端部7aの端末側の第2スリング7が、築石3の控え部分3bの全周囲をそれぞれ締め付けるようになる。
【0096】
このため、本変形例による築石3への巻き付け態様でも、築石3の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石3の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石3を一度吊り上げるだけで、築石3の周囲にベルト等の第1スリング6および第2スリング7を巻き付けることが可能になる。
【0097】
また、同時に、巻き付けた第1スリング6および第2スリング7が築石3から抜け出さないかを、容易に確認することができる。また、種々の形状および大きさをした築石3に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリング6および第2スリング7を確実に巻き付けることが可能になる。また、このような第1スリング6および第2スリング7を少なくともそれぞれ1本備え、必要に応じて築石3に巻き付ける第1スリング6および第2スリング7の対の数、または、第1スリング6もしくは第2スリング7の各数を増やして、または、第1スリング6における第2端部6bが通される第1端部6aの築石周囲における周位置、および、第2スリング7における第4端部7bが通される第3端部7aの築石周囲における周位置を変えて、各抵抗材から築石3に与える各引抜き抵抗力の方向を調整することで、歪な形状をした築石3に対しても、所望の姿勢にして設置することができる。
【0098】
本変形例においても、
図5(b)に示すように、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付けが、高強度ロープによって構成される第1緊結材9および第2緊結材10によって締め付け状態に保持される。
【0099】
第1緊結材9は、第1端部6aに設けられた環状部を第1スリング6が通る箇所で、第1端部6aに設けられた環状部と第1スリング6とを緊結する。第2緊結材10は、第3端部7aに設けられた環状部を第2スリング7が通る箇所で、第3端部7aに設けられた環状部と第2スリング7とを緊結する。
【0100】
本構成によれば、第1端部6aに設けられた環状部と第1スリング6とが緊結されることで、第1端部6aの端末側の第1スリング6が控え部分3bの全周囲を締め付けている状態が保たれる。また、第3端部7aに設けられた環状部と第2スリング7とが緊結されることで、第3端部7aの端末側の第2スリング7が控え部分3bの全周囲を締め付けている状態が保たれる。このため、本変形例によっても、築石3の設置施工過程において、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石3に地震動が作用して築石3が振動しても、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付け力が低下することはない。
【0101】
また、本変形例による築石3への巻き付け態様も、
図2に示す築石3への巻き付け態様と同様に、上記の石垣1Aの構築構造に適用することができる。本変形例による築石3への巻き付け態様で上記の石垣1Aの構築構造を構成しても、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様な作用効果が奏される。
【0102】
本変形例による築石3への巻き付け態様で、上記の石垣1Aの構築構造を施工する場合における、本発明の第2の実施形態による石垣1A’の構築方法は、次のように説明される。
【0103】
最初に、第1スリング6および第2スリング7を
図5に示すように控え部分3bに巻き付ける巻き付け工程が行われる。この巻き付け工程では、築石3の控え部分3bの一方の側面3b1で、第1スリング6の一方の末端の第1端部6aに設けられた環状部に、控え部分3bの全周囲を覆いながら、第1スリング6の他方の末端の第2端部6bが通される。次に、一方の側面3b1に対向する控え部分3bの他方の側面3b2で、第2スリング7の一方の末端の第3端部7aに設けられた環状部に、控え部分3bの全周囲を覆いながら、第2スリング7の他方の末端の第4端部7bが通される。
【0104】
次に、第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け工程が行われる。この締め付け工程でも、まず、第2端部6bおよび第4端部7bが吊り上げられて築石3が宙に浮かされる。築石3が宙に浮かされることで、第1端部6aの端末側の第1スリング6および第3端部7aの端末側の第2スリング7が、控え部分3bの全周囲をそれぞれ締め付けた状態になる。
【0105】
次に、第1端部6aに設けられた環状部と第1スリング6とを緊結する第1緊結工程が行われる。この第1緊結工程は、第1端部6aの端末側の第1スリング6および第3端部7aの端末側の第2スリング7によって、控え部分3bの周囲が締め付けられた状態で、行われる。本実施形態では、築石3が宙に浮いた状態で行われ、第1端部6aに設けられた環状部を第1スリング6が通る箇所で、第1端部6aに設けられた環状部と第1スリング6とが第1緊結材9で緊結される。この緊結により、第1端部6aの端末側の第1スリング6が控え部分3bの全周囲を締め付けている状態に保たれる。
【0106】
次に、第3端部7aに設けられた環状部と第2スリング7とを緊結する第2緊結工程が行われる。この第2緊結工程も、第1端部6aの端末側の第1スリング6および第3端部7aの端末側の第2スリング7によって、控え部分3bの周囲が締め付けられた状態で、行われる。本実施形態でも、築石3が宙に浮いた状態で行われ、第3端部7aに設けられた環状部を第2スリング7が通る箇所で、第3端部7aに設けられた環状部と第2スリング7とを第2緊結材10で緊結して、第3端部7aの端末側の第2スリング7が控え部分3bの全周囲を締め付けている状態に保たれる。
【0107】
次に、築石3を所定の箇所に設置する設置工程が行われる。この設置工程では、上記のように、第1スリング6および第2スリング7が巻き付けられて、第1緊結材9および第2緊結材10が取り付けられた築石3が、一旦地面に降ろされる。この際、第2端部6bおよび第4端部7bが吊り上げられて、築石3の表面3aが地面に向けられていた姿勢が、築石3の表面3aが地面に垂直に立つ姿勢に正される。また、築石3の移動時や設置時に第1スリング6および第2スリング7が邪魔にならないように、束ねられる。その後、築石3の控え部分3bの周りにワイヤロープが巻かれて、築石3が正された姿勢で、ワイヤロープによって再度吊り上げられる。そして、吊り上げられた築石3は、所定の箇所に降ろされて、設置される。
【0108】
本変形例による築石3への巻き付け態様で石垣1Aを構築する構築方法によっても、築石3の周囲にベルトを巻き付けるために従来必要とされた締付け具を用いることなく、しかも、築石3の周囲に締付け具によってベルトを巻き付ける従来の手間を要することなく、築石3を所定の箇所に設置することができる。また、種々の形状および大きさをした築石3に対して、特別な道具および手間を要することなく、同様にして、その周囲に第1スリング6および第2スリング7を確実に巻き付けて、築石3を所定の箇所に設置することができる。
【0109】
また、第1緊結材9によって第1端部6aに設けられた環状部と第1スリング6とが緊結され、第2緊結材10によって第3端部7aに設けられた環状部と第2スリング7とが緊結されることで、築石3の設置施工過程において、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付けが緩むのを確実に防止できる。また、築石3に地震動が作用して築石3が振動しても、第1スリング6および第2スリング7の築石3への締め付け力が低下することはない。
【0110】
次に、本発明の第2の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0111】
図6(a)は、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造を示す、石垣1Bの一つの層の平面図、同図(b)は側面図である。
【0112】
第2の実施形態による石垣1Bの構築構造は、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材の構成が、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と相違する。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。
【0113】
第1の実施形態による石垣1Aの構築構造に使用される抵抗材は、第1スリング6自体および第2スリング7自体が帯状抵抗材として使用された。第2の実施形態による石垣1Bの構築構造に使用される抵抗材は、帯鋼21と連結材22とから構成される。帯鋼21は、帯状の鋼板からなり、連結材22を介して、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bのいずれか一方、または、双方が連結される。
【0114】
同図(a)に示す平面図のように、築石3に巻き付けられた第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bがそれぞれ個別に連結材22を介して帯鋼21に接続される場合と、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つの連結材22を介して一つの帯鋼21に接続される場合とがある。第2端部6bおよび第4端部7bの双方が、一つの連結材22を介して一つの帯鋼21に連結される場合、第1スリング6および第2スリング7は、連結材22との連結部において、相互の成す角度が90度以下に設定される。
【0115】
連結材22は、第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間の距離に応じた長さを有する。第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間の距離は、築石3の大きさに応じて第1スリング6および第2スリング7が築石3に巻き付く長さが異なるため、変化する。連結材22は、シャックル22aと鋼板22bとボルト22cおよびナット22dとから構成される場合と、シャックル22aのみから構成される場合とがある。
【0116】
第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間の距離が長い場合、連結材22は、同図(c)の一部拡大側面図に示すように、シャックル22aと鋼板22bとボルト22cおよびナット22dとから構成される。帯鋼21の築石3側の端部、および、鋼板22bには、それらの長手方向に沿って所定間隔で穴が形成されている。シャックル22aは、鋼板22bに形成された穴のうち、築石3側に最も寄った穴にそのピンが挿入されて、鋼板22bの一端と接続される。鋼板22bの他端は、第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間の距離に応じて、鋼板22bおよび帯鋼21に形成された各穴のうちの適切な位置の各穴にボルト22cおよびナット22dで固定されて、帯鋼21と接続される。
【0117】
第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間の距離が短い場合、連結材22は、シャックル22aのみから構成される。この場合、シャックル22aは、帯鋼21に形成された穴のうち、築石3側に最も寄った穴にそのピンが挿入されて、帯鋼21の一端と接続される。
【0118】
このような第2の実施形態による石垣1Bの構築構造によれば、帯鋼21は、盛土2との摩擦抵抗による引抜き抵抗力で、盛土2に定着する。このため、築石3の背面からの土圧や、地震動による築石3の振動により、石垣1Bの前面側へ抜け出る力が築石3に作用しても、第1スリング6および第2スリング7が巻き付いた築石3は、第1スリング6および第2スリング7のいずれか一方または双方が連結される各帯鋼21の引抜き抵抗力により、第1スリング6および第2スリング7に引っ張られて石垣1Bの前面にとどまり、石垣1Bの崩壊が防がれる。
【0119】
また、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方が連結材22を介して一つの帯鋼21に連結される場合、帯鋼21および連結材22の使用数を減らせる。このため、石垣1Bの施工作業時の煩雑さおよび施工コストを低減することができる。築石3の大きさが小さい場合、石垣1Bの同じ高さに積み上げる築石3の個数が増えるので、帯鋼21および連結材22の使用数を減らせることによるこの効果は、特に高くなる。
【0120】
また、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方が連結材22を介して一つの帯鋼21に連結される場合、連結材22との連結部において、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度以下に設定され、90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7に作用する張力の大きさを抑えることができる。また、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7との接続箇所におけるシャックル22a等の接続材に、第1スリング6および第2スリング7からそれら相互の成す角度方向にかかる、シャックル22a等を広げようとする荷重負担が過大になるのを抑えることができる。
【0121】
また、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造によっても、第1スリング6および第2スリング7の盛土2への定着位置に制限が課されない。したがって、築石3の大きさが不揃いな場合にも、築石3のそれぞれの大きさに合った盛土2への敷設高さに、第1スリング6および第2スリング7を容易に定着させることができる。このため、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造は、築石3の大きさが不揃いな場合にも、容易に適用することができる。
【0122】
また、第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間の距離は、上記のように、築石3の大きさに応じて第1スリング6および第2スリング7が築石3に巻き付く長さが異なるため、変化するが、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間は、その間の距離に応じた長さの連結材22で連結される。このため、第1スリング6および第2スリング7の長さを調節することなく、第2端部6bおよび第4端部7bと帯鋼21の築石3側の端部との間を連結することができ、第1スリング6および第2スリング7を、帯鋼21の築石3側の端部との間の距離に応じて切断して接続したりする手間が不要となる。
【0123】
なお、第2の実施形態による石垣1Bの構築構造は、盛土2が土砂から構成される場合および石4から構成される場合の両方に適用することができる。また、本実施形態では、帯状抵抗材が帯鋼21から構成される場合について説明したが、チェーンや高強度プラスチックプレートなどから構成される場合にも、同様に適用することができる。
【0124】
次に、本発明の第3の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0125】
図7(a)は、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造を示す、石垣1Cの一つの層の平面図、同図(b)は側面図である。
【0126】
第3の実施形態による石垣1Cの構築構造は、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材が、網状抵抗材であるジオシンセティックス23と連結材24とから構成される点が、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と相違する。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。
【0127】
ジオシンセティックス23は、地盤補強用の高分子補強材であるジオテキスタイル、ジオメンブレン、ジオコンポジットの総称であり、連結材24を介して、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bの双方が連結される。ジオシンセティックス23は、同図(b)に示すように、盛土2の構築過程において、築石3と反対側の端部がアンカーピン8によって盛土2に仮止めされて、築石3側から延ばされて張られたジオシンセティックス23の緩み止めが施される。
【0128】
同図(a)に示す平面図のように、築石3に巻き付けられた第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間の距離に応じて、第2端部6bおよび第4端部7bがそれぞれ個別に連結材24を介してジオシンセティックス23に接続される場合と、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つの連結材24を介してジオシンセティックス23に接続される場合とがある。第2端部6bおよび第4端部7bの双方が、一つの連結材24を介してジオシンセティックス23に連結される場合、第1スリング6および第2スリング7は、連結材24との連結部において、相互の成す角度が90度以下に設定される。
【0129】
連結材24は、第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間の距離に応じた長さを有する。
【0130】
第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間の距離が長い場合、連結材24は、同図(c)の一部拡大側面図に示すように、クリップ24aと、鋼板24b1,24b2と、鋼管24cと、上下で一対の鋼管止め具24dと、棒鋼24eとから、構成される。クリップ24aと鋼板24b1の一端との間は、鋼板24b1の一端がクリップ24aの端部間に挟まれて、ボルトおよびナットで固定される。鋼板24b1の他端と鋼管24cとの間は、鋼板24b1の他端と鋼管24cとの双方が上下方向から一対の鋼管止め具24dで挟まれて、ボルトおよびナットで固定される。この際、同時に、鋼板24b2も上下方向から一対の鋼管止め具24dで挟まれて、ボルトおよびナットで固定される。ジオシンセティックス23の築石3側の一端は、鋼管止め具24dの各設置箇所で切断されて、鋼管24cに巻き付けられて築石3から離れる側へ折り返される。折り返された末端付近に重なるジオシンセティックス23は、下の網が上の網をかいくぐった間に棒鋼24eが差し込まれることで、その末端が止められる。
【0131】
第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間の距離が短い場合、連結材24は、同図(d)の一部拡大側面図に示すように、クリップ24aと、鋼板24b1,24b2と、鋼管24cと、一対の鋼管止め具24dと、棒鋼24eとから、構成される。この場合、クリップ24aは端部の取付穴が1箇所にされて端部が短く形成され、鋼板24b1も長さが短いものが用いられる。
【0132】
このような第3の実施形態による石垣1Cの構築構造によれば、ジオシンセティックス23は、盛土2との摩擦抵抗による引抜き抵抗力で、盛土2に定着する。このため、築石3の背面からの土圧や、地震動による築石3の振動により、石垣1Cの前面側へ抜け出る力が築石3に作用しても、第1スリング6および第2スリング7が巻き付いた築石3は、第1スリング6および第2スリング7の双方が連結される各ジオシンセティックス23の引抜き抵抗力により、第1スリング6および第2スリング7に引っ張られて石垣1Cの前面にとどまり、石垣1Cの崩壊が防がれる。
【0133】
また、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方が一つにまとめられてジオシンセティックス23に連結される場合、連結材24の使用数を減らせる。このため、石垣1Cの施工作業時の煩雑さおよび施工コストを低減することができる。
【0134】
また、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方が一つにまとめられて、連結材24を介してジオシンセティックス23に連結される場合、連結材24との連結部において、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度以下に設定され、90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7に作用する張力の大きさを抑えることができる。また、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7との接続箇所におけるクリップ24a等の接続材に、第1スリング6および第2スリング7からそれら相互の成す角度方向にかかる、クリップ24a等を広げようとする荷重負担が過大になるのを抑えることができる。
【0135】
また、ジオシンセティックス23等の網状抵抗材は、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bとの連結位置が網状抵抗材の端部に制限されるため、築石3の大きさが比較的揃っている場合に適用される。
【0136】
また、第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間の距離も、上記のように、築石3の大きさに応じて第1スリング6および第2スリング7が築石3に巻き付く長さが異なるため、変化するが、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間は、その間の距離に応じた長さの連結材24で連結される。このため、第1スリング6および第2スリング7の長さを調節することなく、第2端部6bおよび第4端部7bとジオシンセティックス23の築石3側の端部との間を連結することができ、第1スリング6および第2スリング7を、ジオシンセティックス23の築石3側の端部との間の距離に応じて切断して接続したりする手間が不要となる。
【0137】
なお、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造は、盛土2が石4から構成される場合、ジオシンセティックス23等の網状抵抗材が損傷しやすいため、盛土2が土砂から構成される場合に適用されることが多い。また、本実施形態では、網状抵抗材がジオシンセティックス23から構成される場合について説明したが、その他の高強度ネット(網)や金網などから構成される場合にも、同様に適用することができる。
【0138】
図8は、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造を使って地面25に構築された石垣1Cの全体像を示す側面図である。この石垣1Cにおける盛土2は土砂から構成され、石垣1Cの高さは8[m]程度になる。
【0139】
次に、本発明の第4の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0140】
図9(a)は、第4の実施形態による石垣1Dの構築構造を示す、石垣1Dの一つの層の平面図、同図(b)は側面図である。
【0141】
第4の実施形態による石垣1Dの構築構造は、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材が、アンカー抵抗材26と連結材27とから構成される点が、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と相違する。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。なお、
図9では、盛土2が石4から構成される場合を図示しているが、第4の実施形態による石垣1Dの構築構造は、盛土2が土砂から構成される場合、および、石4から構成される場合の両方に適用することができる。
【0142】
アンカー抵抗材26は、棒状部材である棒鋼26aと、傘形状をした抵抗体である鋼製プレート26bと、ナット26cとを有して構成される。棒鋼26aは、築石3と反対側の端部に、ナット26cに螺合する雄ネジ部26a1が設けられている。ナット26cは、鋼製プレート26bを挟む雄ネジ部26a1の両側に一対設けられている。雄ネジ部26a1の長さはある程度確保され、鋼製プレート26bは、両側からナット26cに挟まれることで、雄ネジ部26a1の任意の位置に固定される。この位置調整により、鋼製プレート26bが発生させる支圧抵抗の位置が調整されて、アンカー抵抗材26の盛土2における定着位置が適切に調整される。
【0143】
また、築石3の大きさが均一の場合、鋼製プレート26bの位置調整をしなくても、鋼製プレート26bは十分な支圧抵抗を生じさせることができる。この場合、同図(b)の1段目および2段目の各層に示されるように、雄ネジ部26a1は、棒鋼26aの端部に鋼製プレート26bをナット26cで固定するのに最小限の長さで形成される。鋼製プレート26bは、この雄ネジ部26a1に一対のナット26cで固定される。
【0144】
アンカー抵抗材26は、連結材27を介して、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bのいずれか一方、または、双方が連結される。同図(a)に示す平面図のように、築石3に巻き付けられた第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bがそれぞれ個別に連結材27を介してアンカー抵抗材26に接続される場合と、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つの連結材27を介して一つのアンカー抵抗材26に接続される場合とがある。第2端部6bおよび第4端部7bの双方が、一つの連結材27を介して一つのアンカー抵抗材26に連結される場合、第1スリング6および第2スリング7は、連結材27との連結部において、相互の成す角度が90度以下に設定される。
【0145】
連結材27は、第2端部6bおよび第4端部7bとアンカー抵抗材26の築石3側の端部との間の距離に応じた長さを有する。第2端部6bおよび第4端部7bとアンカー抵抗材26の築石3側の端部との間の距離は、築石3の大きさに応じて第1スリング6および第2スリング7の築石3に巻き付く長さが異なるため、変化する。
【0146】
連結材27は、シャックル27aとアイ型接続ボルト27bとターンバックル27cとから構成される。シャックル27aはクラウンが第2端部6bまたは第4端部7bに通され、ピンにアイ型接続ボルト27bの頭部の輪が通される。アイ型接続ボルト27bの雄ねじが形成された軸部の端部と、棒鋼26aの築石3側端部に設けられた図示に現れない雄ねじ部との間は、棒鋼接続材を構成するターンバックル27cにより、連結される。ターンバックル27cを回転させることで、第2端部6bおよび第4端部7bと、棒鋼26aの築石3側端部との間の距離が調節されて、連結材27は、第2端部6bおよび第4端部7bとアンカー抵抗材26の築石3側の端部との間の距離に応じた長さになる。
【0147】
このような第4の実施形態による石垣1Dの構築構造によれば、アンカー抵抗材26は、鋼製プレート26bの支圧抵抗による引抜き抵抗力で、盛土2に定着する。このため、築石3の背面からの土圧や、地震動による築石3の振動により、石垣1Dの前面側へ抜け出る力が築石3に作用しても、第1スリング6および第2スリング7が巻き付いた築石3は、第1スリング6および第2スリング7のいずれか一方または双方が連結される各アンカー抵抗材26の引抜き抵抗力により、第1スリング6および第2スリング7に引っ張られて石垣1Dの前面にとどまり、石垣1Dの崩壊が防がれる。
【0148】
また、第4の実施形態による石垣1Dの構築構造によれば、アンカー抵抗材26が、第2端部6bおよび第4端部7bの双方に連結される場合、アンカー抵抗材26および連結材27の使用数を減らせる。このため、石垣1Dの施工作業時の煩雑さおよび施工コストを低減することができる。築石3の大きさが小さい場合、石垣1Dの同じ高さに積み上げる築石3の個数が増えるので、アンカー抵抗材26および連結材27の使用数を減らせることによるこの効果は、特に高くなる。
【0149】
また、第4の実施形態による石垣1Dの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方が連結材27を介して一つのアンカー抵抗材26に連結される場合、連結材27との連結部において、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度以下に設定され、90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7に作用する張力の大きさを抑えることができる。また、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7との接続箇所におけるシャックル27a等の接続材に、第1スリング6および第2スリング7からそれら相互の成す角度方向にかかる、シャックル27a等を広げようとする荷重負担が過大になるのを抑えることができる。
【0150】
また、第4の実施形態による石垣1Dの構築構造によっても、第1スリング6および第2スリング7の盛土2への定着位置に制限が課されない。したがって、築石3の大きさが不揃いな場合にも、築石3のそれぞれの大きさに合った盛土2への敷設高さに、第1スリング6および第2スリング7を容易に定着させることができる。このため、第4の実施形態による石垣1Dの構築構造は、築石3の大きさが不揃いな場合にも、容易に適用することができる。
【0151】
また、第2端部6bおよび第4端部7bとアンカー抵抗材26の築石3側の端部との間の距離は、上記のように、築石3の大きさに応じて第1スリング6および第2スリング7が築石3に巻き付く長さが異なるため、第1スリング6および第2スリング7に連結されるアンカー抵抗材26は、その支圧抵抗による盛土2への定着位置を調節する必要がある。第4の実施形態による石垣1Dの構築構造によれば、アンカー抵抗材26の定着位置は、棒鋼26aの雄ネジ部26a1の任意の位置に鋼製プレート26bをナット26cで固定することで、可変することができる。また、第2端部6bおよび第4端部7bとアンカー抵抗材26の築石3側の端部との間の距離は、連結材27を構成するターンバックル27cにより調整することができる。このため、第1スリング6および第2スリング7の長さを調節することなく、アンカー抵抗材26の支圧抵抗による定着位置を調節することができ、第1スリング6および第2スリング7を築石3に巻き付く長さに応じて切断して接続したりする手間が不要となる。
【0152】
第4の実施形態による石垣1Dの構築構造は、上記のように、盛土2が土砂から構成される場合および石4から構成される場合の両方に適用することができる。また、本実施形態では、アンカー抵抗材26が、棒鋼26aに抵抗体として鋼製プレート26bを組み合わせて構成される場合について説明したが、チェーンや高強度プラスチックロッドなどに抵抗体を組み合わせてアンカー抵抗材が構成される場合にも、同様に本発明を適用することができる。
【0153】
次に、本発明の第5の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0154】
図10(a)は、第5の実施形態による石垣1Eの構築構造を示す、石垣1Eの一つの層の平面図、同図(b)は側面図である。
【0155】
第5の実施形態による石垣1Eの構築構造は、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材が、アンカー抵抗材としてのコンクリートブロック28から構成される点が、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と相違する。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。なお、
図10では、盛土2が石4から構成される場合を図示しているが、第5の実施形態による石垣1Eの構築構造は、盛土2が土砂から構成される場合、および、石4から構成される場合の両方に適用することができる。
【0156】
コンクリートブロック28は、直方体形状をしており、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bのいずれか一方、または、双方が連結される。同図(a)に示す平面図のように、築石3に巻き付けられた第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bがそれぞれ個別にコンクリートブロック28に接続される場合と、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つのコンクリートブロック28に接続される場合とがある。
【0157】
第1スリング6および第2スリング7は、個別にコンクリートブロック28に接続される場合、同図(a)の上方に記載される築石3、および、同図(b)の1段目および2段目の各層に示される築石3のように、各端部6b,7bに形成された環状部が各コンクリートブロック28に単に掛けられることで、各端部6b,7bが各コンクリートブロック28に固定される。
【0158】
また、第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つのコンクリートブロック28に接続される場合、同図(a)の中央に記載される築石3、および、同図(b)の3段目および4段目の各層に示される築石3のように、各端部6b,7bが一つのコンクリートブロック28に互いに逆向きに巻き付けられて、各端部6b,7bが一つのコンクリートブロック28に固定される。この場合、各端部6b,7bには環状部が形成されない。同図(c)はコンクリートブロック28に各端部6b,7bが互いに逆向きに巻き付けられた状態の一部拡大平面図、同図(d)は一部拡大側面図である。
【0159】
また、第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つのコンクリートブロック28に接続される場合、同図(a)の下方に記載される築石3のように、各端部6b,7bに形成された環状部が一つのコンクリートブロック28に単に掛けられることで、各端部6b,7bが各コンクリートブロック28に固定される場合もある。
【0160】
このような第5の実施形態による石垣1Eの構築構造によれば、アンカー抵抗材を構成するコンクリートブロック28は、その支圧抵抗による引抜き抵抗力で、盛土2に定着する。このため、築石3の背面からの土圧や、地震動による築石3の振動により、石垣1Eの前面側へ抜け出る力が築石3に作用しても、第1スリング6および第2スリング7が巻き付いた築石3は、第1スリング6および第2スリング7のいずれか一方または双方が連結される各コンクリートブロック28の引抜き抵抗力により、第1スリング6および第2スリング7に引っ張られて石垣1Eの前面にとどまり、石垣1Eの崩壊が防がれる。
【0161】
また、第5の実施形態による石垣1Eの構築構造によれば、コンクリートブロック28が、第2端部6bおよび第4端部7bの双方に連結される場合、コンクリートブロック28の使用数を減らせる。このため、石垣1Eの施工作業時の煩雑さおよび施工コストを低減することができる。築石3の大きさが小さい場合、石垣1Eの同じ高さに積み上げる築石3の個数が増えるので、コンクリートブロック28の使用数を減らせることによるこの効果は、特に高くなる。
【0162】
また、第5の実施形態による石垣1Eの構築構造によっても、第1スリング6および第2スリング7の盛土2への定着位置に制限が課されない。したがって、築石3の大きさが不揃いな場合にも、築石3のそれぞれの大きさに合った盛土2への敷設高さに、第1スリング6および第2スリング7を容易に定着させることができる。このため、第5の実施形態による石垣1Eの構築構造は、築石3の大きさが不揃いな場合にも、容易に適用することができる。
【0163】
また、第5の実施形態による石垣1Eの構築構造によれば、第1スリング6の第2端部6bと第2スリング7の第4端部7bとの同じコンクリートブロック28への連結は、第2端部6bおよび第4端部7bが同じコンクリートブロック28に互いに逆向きに単に巻き付けられ、各スリング6,7からコンクリートブロック28にかかる力のバランスがとられることで、各スリング6,7をコンクリートブロック28に特別縛り付けることなく、簡単に行える。
【0164】
第5の実施形態による石垣1Eの構築構造は、上記のように、盛土2が土砂から構成される場合、および、石4から構成される場合の両方に適用することができる。また、
図10では、第2端部6bおよび第4端部7bのコンクリートブロック28への連結は、第2端部6bおよび第4端部7bが、図示するように、コンクリートブロック28の天面および底面に巻き付くことで、行われた。しかし、第2端部6bおよび第4端部7bは、コンクリートブロック28の左右の側面に巻き付くことで、コンクリートブロック28に連結するようにしてもよい。また、本実施形態では、アンカー抵抗材がコンクリートブロック28から構成される場合について説明したが、石や、鋼板プレート、棒鋼、H鋼等の形鋼などでアンカー抵抗材が構成される場合にも、同様に本発明を適用することができる。
【0165】
次に、本発明の第6の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0166】
図11(a)は、第6の実施形態による石垣1Fの構築構造を示す、石垣1Fの一つの層の平面図、同図(b)は側面図である。
【0167】
上記の第1の実施形態から第5の実施形態による各石垣1A,1B,1C,1D,1Eの構築構造では、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材が、盛土2中に設けられていた。第6の実施形態による石垣1Fの構築構造では、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材32が補強材として地山31中に設けられ、築石3は、その地山31の前面側に石4を介して設けられる。地山31は、補強材としての抵抗材32によって表面側の土の緩みが補強される。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。
【0168】
同図(c)は、第2端部6bおよび第4端部7bと抵抗材32との連結部の水平断面を一部拡大して示す一部拡大水平断面図、同図(d)は、その連結部の垂直断面を一部拡大して示す一部拡大垂直断面図である。
【0169】
地山31中に補強材として設けられる抵抗材32は、異形棒鋼や鋼管パイプ等から構成される芯材32aと、グラウト等から構成される定着剤32bと、矩形状の鋼板等から構成されるアンカープレート32cと、Uの字状をした金属製の取り付けフック32dとから構成される。芯材32aは、地山31に開けられた削孔に挿入されて、一方の末端部が地山31の表面に露出される。定着剤32bは、芯材32aが挿入された削孔に充填される。アンカープレート32cは、芯材32aの末端部に固定されて、地山31の表面に定着される。取り付けフック32dは、地山31の表面に露出してアンカープレート32cに固定され、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方、または、双方が連結される。
【0170】
同図(a)に示す平面図では、築石3に巻き付けられた第1スリング6および第2スリング7は、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つの取り付けフック32dにそれぞれ結ばれて、接続されている。第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つの取り付けフック32dに連結される場合、第1スリング6および第2スリング7は、取り付けフック32dとの連結部において、相互の成す角度が90度以下に設定される。
【0171】
このような第6の実施形態による石垣1Fの構築構造によれば、地山31中に設けられる抵抗材32は、芯材32aの周りに充填される定着剤32bと地山31との間の摩擦抵抗により生じる引抜き抵抗力により、地山31に定着する。また、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bのいずれか一方、または、双方は、アンカープレート32cを介して芯材32aの末端部に固定される各取り付けフック32dに連結される。このため、築石3の背面からの土圧や、地震動による築石3の振動により、石垣1Fの前面側へ抜け出る力が築石3に作用しても、第1スリング6および第2スリング7が巻き付いた築石3は、第1スリング6および第2スリング7のいずれか一方または双方が連結される各抵抗材32の引抜き抵抗力により、第1スリング6および第2スリング7に引っ張られて、石垣1Fの前面にとどまり、石垣1Fの崩壊が防がれる。
【0172】
また、抵抗材32が定着する地山31が強固な場合、地山31中の抵抗材32により生じる引抜き抵抗力は、大きな地震動によって築石3に作用する大きな力に十分対抗させることでき、石垣1Fの耐震性を向上させることができる。また、地山31が強固でない場合には、地山31に設ける補強材、つまり、抵抗材32の長さを長くすることで、同様に、石垣1Fの耐震性を向上させることができる。
【0173】
また、第6の実施形態による石垣1Fの構築構造は、築石3の背後の地山31を掘削する量を最小限に抑えることができるので、築石3の背後の地山31の掘削が制限される箇所に石垣1Fを構築する場合に、有効となる。
【0174】
また、第6の実施形態による石垣1Fの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方がまとめられて、一つの取り付けフック32dを介して一つの抵抗材32に連結される場合、抵抗材32の使用数を減らせる。このため、石垣1Fの施工作業時の煩雑さおよび施工コストを低減することができる。築石3の大きさが小さい場合、石垣1Fの同じ高さに積み上げる築石3の個数が増えるので、抵抗材32の使用数を減らせることによるこの効果は、特に高くなる。
【0175】
また、第6の実施形態による石垣1Fの構築構造によれば、第2端部6bおよび第4端部7bの双方が一つの取り付けフック32dを介して一つの抵抗材32に連結される場合、取り付けフック32dとの連結部において、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度以下に設定され、90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7に作用する張力の大きさを抑えることができる。また、第1スリング6および第2スリング7相互の成す角度が90度を超える角度にならなくなることで、第1スリング6および第2スリング7との接続箇所における取り付けフック32d等の接続材に、第1スリング6および第2スリング7からそれら相互の成す角度方向にかかる、取り付けフック32d等を広げようとする荷重負担が過大になるのを抑えることができる。
【0176】
次に、本発明の第7の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0177】
図12は、第7の実施形態による石垣1Gの構築構造を示す、石垣1Gの側面図である。
【0178】
上記の第1の実施形態から第5の実施形態による各石垣1A,1B,1C,1D,1Eの構築構造では、築石3が盛土2の前面側に石4を介して設けられ、第6の実施形態による石垣1Fの構築構造では、築石3が地山31の前面側に石4を介して設けられた。第7の実施形態による石垣1Gの構築構造では、補強土構造体41として構築された盛土2の前面側に、築石3が石4を介して設けられる。
【0179】
すなわち、第7の実施形態による石垣1Gの構築構造では、盛土2が補強土構造体41として構築され、盛土2の築石3側の前面が壁面工42に覆われている。補強土構造体41は、壁面工42の背後の盛土2中に盛土補強材40が敷設されて、構成されている。第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリングの第4端部7bは、補強土構造体41として構築された盛土2中に設けられる抵抗材によって、補強土構造体41に定着される。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。
【0180】
壁面工42は、補強土構造体41の前面を形成する壁面材42aと、壁面材42aを支持する支持材42bと、支持材42bの根元部を盛土補強材40に連結するクリップ42cとから構成される。壁面材42aは平板状の溶接金網やエキスパンドメタルなどから構成され、支持材42bはアッパーフックとロワーフックとの対から構成される。クリップ42cはアッパーフックとロワーフックとが交わる箇所を固定する。盛土補強材40は帯状の鋼板である帯鋼から構成される。盛土補強材40の築石3側の端部は、クリップ42cにボルトおよびナットで固定される。
【0181】
盛土2中に設けられる抵抗材は、本実施形態では、第1の実施形態と同様、第1スリング6自体および第2スリング7自体によって構成され、第2端部6bの末端側の第1スリング6および第4端部7bの末端側の第2スリング7が、抵抗材として所定長盛土2に埋設される。抵抗材の末端の第2端部6bおよび第4端部7bは、築石3側から張られる第1スリング6および第2スリングの張りの緩みを、盛土2が盛られるまでの間、仮に防ぐ、アンカーピン8に接続される。各抵抗材は、第2端部6bおよび第4端部7bの双方に引抜き抵抗力を与える。
【0182】
第7の実施形態による石垣1Gの構築構造によれば、築石3の背面からの大きな土圧は、築石3の背面側に構築された補強土構造体41に抵抗させることで、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができる。このため、築石3を高く積み上げて築石3の背面から大きな土圧がかかる場合にも、補強土構造体41に定着した第2端部6bの末端側の第1スリング6および第4端部7bの末端側の第2スリング7によって築石3を積み上げ箇所にとどめることが可能となり、また、石垣1Gの耐震性を向上させることができる。また、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができるため、第2端部6bの末端側の第1スリング6および第4端部7bの末端側の第2スリング7の補強土構造体41への定着長さが短くて済む。このため、これら抵抗材の補強土構造体41への定着長さを予め必要長より長めに確保しておくことで、抵抗材の長さを調整する必要がなくなり、石垣1Gの施工性が向上する。
【0183】
第7の実施形態による石垣1Gの構築構造は、補強土構造体41を構成する盛土2が土砂の場合で、築石3の大きさが不揃いの場合の組み合わせに、適した構造である。
【0184】
次に、本発明の第8の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0185】
図13は、第8の実施形態による石垣1Hの構築構造を示す、石垣1Hの側面図である。
【0186】
第8の実施形態による石垣1Hの構築構造では、補強土構造体43として構築された盛土2の前面側に、築石3が石4を介して設けられる。
【0187】
すなわち、第8の実施形態による石垣1Hの構築構造では、盛土2が補強土構造体43として構築され、盛土2の築石3側の前面が壁面工44に覆われている。補強土構造体43は、壁面工44の背後の盛土2中に盛土補強材45が敷設されて、構成されている。第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリングの第4端部7bは、補強土構造体43として構築された盛土2中に設けられる抵抗材によって、補強土構造体43に定着される。その他の構成は第3の実施形態による石垣1Cの構築構造と同様である。
【0188】
壁面工44は、補強土構造体43の前面を形成する壁面材44aと、Lの字状に曲げられた壁面材44aの各折り曲げ面間を斜めに連結する斜め連結材44bとから構成される。壁面材44aの水平折り曲げ面の端部には、フック部44a1が形成され、同じ高さのフック部44a1間には棒鋼44cが掛け渡されている。壁面材44aはLの字状に曲げられた溶接金網やエキスパンドメタルなどから構成される。盛土補強材45はジオシンセティックス等の網状抵抗材から構成される。盛土補強材45の築石3側の端部は、フック部44a1間の棒鋼44cに掛けられて築石3と反対側へ折り返される。また、盛土補強材45の築石3側と反対側の端部は、アンカーピン8によって盛土2に仮止めされて、築石3側から延ばされて張られた盛土補強材45の緩み止めが施される。
【0189】
盛土2中に設けられる抵抗材は、本実施形態では、第3の実施形態と同様、ジオシンセティックス23等の網状抵抗材によって構成され、連結材24を介して、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方に連結されて、それらに引抜き抵抗力を与える。ジオシンセティックス23は、盛土2の構築過程において、築石3と反対側の端部がアンカーピン8によって盛土2に仮止めされて、築石3側から延ばされて張られたジオシンセティックス23の緩み止めが施される。
【0190】
第8の実施形態による石垣1Hの構築構造によっても、築石3の背面からの大きな土圧は、築石3の背面側に構築された補強土構造体43に抵抗させることで、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができる。このため、築石3を高く積み上げて築石3の背面から大きな土圧がかかる場合にも、補強土構造体43に定着したジオシンセティックス23等の網状抵抗材によって築石3を積み上げ箇所にとどめることが可能となり、また、石垣1Hの耐震性を向上させることができる。また、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができるため、ジオシンセティックス23等の網状抵抗材の補強土構造体43への定着長さが短くて済む。
【0191】
第8の実施形態による石垣1Hの構築構造は、補強土構造体43を構成する盛土2が主に土砂または粘土分の多い土砂の場合で、築石3の大きさが比較的揃っている場合の組み合わせに、適した構造である。
【0192】
次に、本発明の第9の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0193】
図14は、第9の実施形態による石垣1Iの構築構造を示す、石垣1Iの側面図である。
【0194】
第9の実施形態による石垣1Iの構築構造でも、第8の実施形態による石垣1Hの構築構造と同様な補強土構造体43が、築石3の背後に構築される。本実施形態は、盛土2中に設けられる抵抗材の構成が第8の実施形態と異なり、その他の構成は第8の実施形態による石垣1Hの構築構造と同様である。抵抗材の構成は第5の実施形態による石垣1Eの構築構造と同様である。
【0195】
すなわち、第1スリング6および第2スリング7に引抜き抵抗を与える抵抗材は、本実施形態では、アンカー抵抗材としてのコンクリートブロック28から構成される。コンクリートブロック28は、第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリング7の第4端部7bのいずれか一方、または、双方が連結される。なお、
図14では、第2端部6bおよび第4端部7bは、図示するように、コンクリートブロック28の天面および底面に巻き付くことで、コンクリートブロック28に連結されている。しかし、第2端部6bおよび第4端部7bは、コンクリートブロック28の左右の側面に巻き付くことで、コンクリートブロック28に連結するようにしてもよい。
【0196】
第9の実施形態による石垣1Iの構築構造によっても、第8の実施形態による石垣1Hの構築構造と同様な作用効果が奏され、石垣1Hの耐震性を向上させることができ、また、石垣1Hの施工性が向上する。
【0197】
第9の実施形態による石垣1Iの構築構造は、補強土構造体41を構成する盛土2が主に土砂または粘土分の多い土砂の場合で、築石3の大きさが不揃いの場合の組み合わせに、適した構造である。
【0198】
次に、本発明の第10の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0199】
図15は、第10の実施形態による石垣1Jの構築構造を示す、石垣1Jの側面図である。
【0200】
第10の実施形態による石垣1Jの構築構造では、補強土構造体46として構築された盛土2の前面側に、築石3が石4を介して設けられる。
【0201】
すなわち、第10の実施形態による石垣1Jの構築構造では、盛土2が補強土構造体46として構築され、盛土2の築石3側の前面が壁面工47に覆われている。補強土構造体46は、壁面工47の背後の盛土2中に盛土補強材48が敷設されて、構成されている。第1スリング6の第2端部6bおよび第2スリングの第4端部7bは、補強土構造体46として構築された盛土2中に設けられる抵抗材によって、補強土構造体46に定着される。本実施形態では、抵抗材はアンカー抵抗材49から構成される。その他の構成は第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。
【0202】
壁面工47は、複数の土のう47aが積み上げられて構成されている。盛土補強材48はジオシンセティックス等の網状抵抗材から構成される。盛土補強材48の築石3側の端部は、所定数の土のう47aの石4側の面を最下層のものから最上層のものにわたって下方から上方に向けて包んで、築石3と反対側へ折り返される。また、盛土補強材48の築石3側と反対側の端部は、アンカーピン8によって盛土2に仮止めされて、築石3側から延ばされて張られた盛土補強材48の緩み止めが施される。
【0203】
盛土2中に設けられる抵抗材は、シャックル49aとアイ型接続ボルト49bと鋼製プレート49cとから、アンカー抵抗材49として構成される。シャックル49aはそのクラウンに第2端部6bまたは第4端部7bが通され、そのピンに、アイ型接続ボルト49bの頭部の輪が通される。矩形状をした鋼製プレート49cは、アイ型接続ボルト49bの雄ねじが形成された軸部において、両側がナットで締め付けられて、アイ型接続ボルト49bに固定される。アンカー抵抗材49は、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方に連結されて、それらに引抜き抵抗力を与える。
【0204】
第10の実施形態による石垣1Jの構築構造によっても、築石3の背面からの大きな土圧は、築石3の背面側に構築された補強土構造体46に抵抗させることで、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができる。このため、築石3を高く積み上げて築石3の背面から大きな土圧がかかる場合にも、補強土構造体46に定着したアンカー抵抗材49によって築石3を積み上げ箇所にとどめることが可能となり、また、石垣1Jの耐震性を向上させることができる。また、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができるため、アンカー抵抗材49の補強土構造体46への定着長さが短くて済む。このため、アンカー抵抗材49の補強土構造体43への定着長さを予め必要長より長めに確保しておくことで、アンカー抵抗材49の長さを調整する必要がなくなり、石垣1Jの施工性が向上する。
【0205】
第10の実施形態による石垣1Jの構築構造は、主に塩害の影響を受ける場所において、補強土構造体46を構成する盛土2が主に土砂または粘土分の土砂の場合で、築石3の大きさが不揃いの場合の組み合わせに、適した構造である。
【0206】
次に、本発明の第11の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0207】
図16は、第11の実施形態による石垣1Kの構築構造を示す、石垣1Kの側面図である。
【0208】
第11の実施形態による石垣1Kの構築構造では、盛土2が補強土構造体51として構築され、盛土2の築石3側の前面が壁面工52に覆われている。補強土構造体51は、壁面工52とアンカー抵抗材49の鋼製プレート49cとの間で、盛土2の盛土材が拘束補強されて、構成されている。壁面工52は、鉄線かご枠52aに石4が詰め込まれて構成され、盛土補強材53によって盛土2に定着されている。盛土補強材53は、両端部に雄ねじ部が形成された2本の棒鋼53a,53bと、2本の棒鋼53a,53b間を接続する棒鋼接続材53cと、棒鋼53aの一方側の端部に設けられる鋼製の矩形状プレート53dと、棒鋼53bの他方側の端部に設けられる鋼製の傘状プレート53eとから、構成される。
【0209】
棒鋼接続材53cはターンバックルからなり、各棒鋼53a,53bの隣接する端部に形成された雄ねじ部に螺合して、各棒鋼53a,53bの隣接する端部間を連結する。この棒鋼接続材53cを回転させることで、各棒鋼53a,53bの隣接する端部間の距離が調整され、盛土補強材53の盛土2における定着位置が調整される。矩形状プレート53dは、鉄線かご枠52aの築石3側の面において、棒鋼53aの端部にナットで固定される。傘状プレート53eは、棒鋼53bの端部において、両側部がナットで締め付けられて固定される。その他の構成は第10の実施形態による石垣1Jの構築構造と同様である。
【0210】
盛土2中に設けられるアンカー抵抗材49は、第10の実施形態による石垣1Jの構築構造と同様に構成され、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方に連結されて、それらに引抜き抵抗力を与える。
【0211】
第11の実施形態による石垣1Kの構築構造によっても、築石3の背面からの大きな土圧は、築石3の背面側に構築された補強土構造体51に抵抗させることで、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができる。このため、第10の実施形態による石垣1Jの構築構造と同様な作用効果が奏され、石垣1Kの耐震性を向上させることができ、また、石垣1Kの施工性が向上する。
【0212】
第11の実施形態による石垣1Kの構築構造は、補強土構造体51を構成する盛土2が図示するように主に石4の場合で、築石3の大きさが不揃いの場合の組み合わせに、適した構造である。また、壁面工52は、鉄線かご枠52aに代えて、大型土のうなどで構成してもよい。
【0213】
図17は、第11の実施形態による石垣1Kの構築構造を使って地面25に構築された石垣1Kの全体像を示す側面図である。この石垣1Kにおける盛土2は石4から構成される。上記のように、築石3の背面からの大きな土圧は、築石3の背面側に構築された補強土構造体51に抵抗させることで、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができるため、石垣1Cの高さは例えば20[m]程度に高く構築される。すなわち、築石3の背後が盛土2の場合の、例えば、
図8に示す、第3の実施形態による石垣1Cの構築構造を使って構築された石垣1C等に比較して、石垣1Kは高く構築することが可能である。
【0214】
次に、本発明の第12の実施形態による石垣の構築構造について説明する。
【0215】
図18は、第12の実施形態による石垣1Lの構築構造を示す、石垣1Lの側面図である。
【0216】
第12の実施形態による石垣1Lの構築構造では、盛土2が補強土構造体54として構築される。補強土構造体54は、鉄線かご枠54aに石4が詰め込まれて、石4が鉄線かご枠54aに拘束補強されて構成されている。
【0217】
盛土2中に設けられるアンカー抵抗材49は、第10の実施形態による石垣1Jの構築構造と同様に構成され、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方に連結されて、それらに引抜き抵抗力を与える。
【0218】
第12の実施形態による石垣1Lの構築構造によっても、築石3の背面からの大きな土圧は、築石3の背面側に構築された補強土構造体54に抵抗させることで、築石3の背面に作用する土圧を小さくすることができる。このため、第10の実施形態による石垣1Jの構築構造と同様な作用効果が奏され、石垣1Lの耐震性を向上させることができ、また、石垣1Lの施工性が向上する。
【0219】
第12の実施形態による石垣1Lの構築構造は、補強土構造体54を構成する盛土2が主に石4の場合、または、盛土2の背後の地山の掘削が制限される場合で、築石3の大きさが不揃いの場合の組み合わせに、適した構造である。鉄線かご枠54aで構成される補強土構造体54は、盛土2の奥行き方向に占める長さが短くても、その自重と石4の拘束補強効果とで大きな抵抗力を発揮するため、第12の実施形態による石垣1Lの構築構造は、盛土2の背後の地山の掘削が制限される場合に、適している。また、補強土構造体54は、盛土2の石4を拘束補強する鉄線かご枠54aに代えて、盛土2の土を拘束補強する大型土のうなどで構成してもよい。
【0220】
次に、本発明の他の実施形態による石垣の構築方法について説明する。
【0221】
図12,
図13,
図14および
図15に示す第7,第8,第9および第10の各実施形態による石垣1G,1H,1Iおよび1Jの構築構造では、前面が壁面工42,44,44および47に覆われて、盛土2中に盛土補強材40,45,45および48が敷設された補強土構造体41,43,43および46に、抵抗材としての各スリング6,7,抵抗材23,28および49が定着された。また、
図16および
図18に示す第11および第12の各実施形態による石垣1Kおよび1Lの構築構造では、盛土2の盛土材が拘束補強された補強土構造体51および54にアンカー抵抗材49がそれぞれ定着された。
【0222】
例えば、
図13および
図14に示す、前面に壁面工44を有する補強土構造体43に抵抗材を定着させる石垣の構築方法として、次のような構築方法がある。
【0223】
図19は、第3の実施形態による石垣の構築方法で構築される石垣1Mの側面図である。
【0224】
石垣1Mは、補強土構造体43に抵抗材55が定着される。補強土構造体43は、
図13および
図14に示すように、築石3側の前面が壁面工44に覆われて、盛土2中にジオシンセティックス等の盛土補強材45が敷設されて構成される。抵抗材55は、帯状の鋼板からなる帯鋼55aによって構成され、帯鋼55aの築石3側の端部は壁面工44から露出される。壁面工44に露出する帯鋼55aの端部は、シャックル55bのピンに固定される。シャックル55bには、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方が連結される。石垣1Mのその他の構成は、
図13および
図14に示す第8および第9の実施形態による石垣1Hおよび1Iの構築構造と同様である。
【0225】
このような構造をした石垣1Mの構築方法は、補強土構造体構築工程と、石垣構築工程とを備える。
【0226】
補強土構造体構築工程では、補強土構造体43の前面側に、当該補強土構造体43に定着される各抵抗材55との連結部であるシャックル55bを露出させながら、補強土構造体43が複数層に積み上げられて、所望高の補強土構造体43が構築される。次に、この補強土構造体構築工程によって所望高の補強土構造体43が構築された後、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方を各シャックル55bに連結させながら、所望高の補強土構造体43の前面側に石垣1Mを複数層に積み上げて、所望高の石垣1Mが構築される。これにより、盛土2中に設けられる抵抗材55を使った上記の石垣1Mの構築構造が形成される。
【0227】
第3の実施形態による石垣1Mの構築方法によれば、補強土構造体43を複数層に積み上げて所望高の補強土構造体43を構築する補強土構造体構築工程が先行して行われた後、築石3を複数層に積み上げて所望高の石垣1Mを構築する石垣構築工程が行われる。したがって、補強土構造体43の構築を専門とする作業者による補強土構造体構築工程と、石垣1Mの構築を専門とする作業者による石垣構築工程とを分けて施工することが可能になる。このため、石垣1Mの構築が効率よく行え、しかも、各専門工種の作業者が施工時に交錯することで生じる危険性も低減することができる。
【0228】
図12,
図15に示す、前面に壁面工42,47を有する補強土構造体41,46に抵抗材を定着させる石垣1G,1Jの構築構造も、上記の第3の実施形態による構築方法と同様に、補強土構造体構築工程と石垣構築工程とを備えて、構築することが可能である。この場合も、上記の第3の実施形態による構築方法と同様な作用効果が奏される。
【0229】
図20は、第4の実施形態による石垣の構築方法で構築される石垣1Nの側面図である。
【0230】
石垣1Nは、盛土2が補強土構造体57として構築されている。補強土構造体57は、築石3側の前面が
図16に示す壁面工52に覆われて、盛土2中に盛土補強材53が敷設されて構成されている。壁面工52は、鉄線かご枠52aに石4が詰め込まれて構成されている。アンカー抵抗材56は、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方に引抜き抵抗力を与える。
【0231】
アンカー抵抗材56は、シャックル56aとアイ型接続ボルト56bと棒鋼接続材56cと棒鋼56dと鋼製プレート56eとから、構成される。シャックル56aは壁面工52の築石3側の表面に露出される。シャックル56aはそのクラウンに第2端部6bまたは第4端部7bが通され、そのピンに、アイ型接続ボルト56bの頭部の輪が通される。アイ型接続ボルト56bの雄ねじが形成された軸部には、棒鋼接続材56cによって棒鋼56dの一方の端部が接続される。棒鋼56dの他方の端部は、壁面工52の築石3側と反対側の表面に露出し、鋼製プレート56eがナットによって固定される。石垣1Nのその他の構成は、第1の実施形態による石垣1Aの構築構造と同様である。
【0232】
このような構造をした石垣1Nの構築方法は、補強土構造体構築工程と、石垣構築工程とを備える。
【0233】
補強土構造体構築工程では、補強土構造体57の前面側に、当該補強土構造体57に定着される各アンカー抵抗材56との連結部であるシャックル56aを露出させながら、補強土構造体57が複数層に積み上げられて、所望高の補強土構造体57が構築される。次に、この補強土構造体構築工程によって所望高の補強土構造体57が構築された後、第2端部6bおよび第4端部7bのいずれか一方または双方を各シャックル56aに連結させながら、所望高の補強土構造体57の前面側に築石3を複数層に積み上げて、所望高の石垣1Nが構築される。
【0234】
第4の実施形態による石垣1Nの構築方法によっても、補強土構造体57を複数層に積み上げて所望高の補強土構造体57を構築する補強土構造体構築工程が先行して行われた後、築石3を複数層に積み上げて所望高の石垣1Nを構築する石垣構築工程が行われる。したがって、第3の実施形態による石垣1Mの構築方法と同様な作用効果が奏され、石垣1Nの構築が効率よく行え、しかも、各専門工種の作業者が施工時に交錯することで生じる危険性も低減することができる。
【0235】
なお、本実施形態でも、補強土構造体57は、盛土2の石4を拘束補強する鉄線かご枠52aに代えて、盛土2の土を拘束補強する大型土のうなどで構成してもよい。
【0236】
このような第3および第4の実施形態による石垣の構築方法は、
図16および
図18に示す第11および第12の各実施形態による石垣1Kおよび1Lの構築構造の構築についても、同様に適用することができる。
【0237】
この場合、補強土構造体構築工程は、盛土材が拘束補強されて構成された補強土構造体51,54の前面側に、補強土構造体51,54に定着される各アンカー抵抗材49との連結部を露出させながら、補強土構造体51,54が複数層に積み上げられて、所望高の補強土構造体51,54が構築される。築石3を複数層に積み上げて所望高の石垣1K,1Lを構築する石垣構築工程は、補強土構造体構築工程によって所望高の補強土構造体51,54が構築された後に、行われる。この場合にも、第3および第4の実施形態による石垣の構築方法と同様な作用効果が奏される。
【0238】
また、上記の第2から第12の実施形態による石垣1B~1Lの構築構造、および、第3および第4の実施形態による石垣1M,1Nの構築方法では、築石3に第1スリング6および第2スリング7を巻き付ける態様が
図2に示す態様であった。しかし、これらの石垣1B~1Lの構築構造、および、第3および第4の実施形態による石垣1M,1Nの構築方法についても、
図5に示す変形例による、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付け態様を適用することができる。これらの場合においても、各実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0239】
また、上記の第1の実施形態による石垣の構築方法においては、
図4(a),(b)に示すように、第1スリング6の他方の末端の第2端部6b、および第2スリング7の他方の末端の第4端部7bが吊り上げられて、第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け工程が行われた後に、第3端部7aに設けられた環状部と第1スリング6とを第1緊結材9で緊結する第1緊結工程、および、第1端部6aに設けられた環状部と第2スリング7とを第2緊結材10で緊結する第2緊結工程が行われた。
【0240】
しかし、第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け工程の後に、第1スリング6および第2スリング7の締め付け力が控え部分3bの各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる基準締め付け力を有するかを判定する性能評価工程を備え、第1緊結工程および第2緊結工程は、その性能評価工程で、第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け力が基準締め付け力を有すると判定された場合に行われるように構成してもよい。
【0241】
ここで、基準締め付け力とは、第1スリング6および第2スリング7が、盛土2または地山31中に設けられる抵抗材から第2端部6bおよび第4端部7bに与えられる引抜き抵抗力を得て、控え部分3bの各周囲を締め付ける締め付け力が、築石3が第1スリング6および第2スリング7からの束縛を逃れて石垣1A~1Nの前面側へ押し出される押出力に対抗して、第1スリング6および第2スリング7が控え部分3bの各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる締め付け力である。
【0242】
上記の性能評価工程における性能評価は、例えば、
図21(a)に正面図、同図(b)に側面図が示される試験台61を用いて行われる。試験台61は、基台62上に門形にH型鋼が組まれて構成される支柱63の中央部下方にアタッチメント64が取り付けられて構成される。アタッチメント64は角形鋼管であるコラム64aが重ねられて構成される。性能評価は、
図2に示すように第1スリング6および第2スリング7が周囲に巻き付けられた、性能評価対象になる築石3が、
図21に示すように、築石3の後端にアタッチメント64の下端が当接された状態で、第2端部6bおよび第4端部7bが図示しないクレーンで吊り上げられることで行われる。築石3の下方における基台62上にはクッション65が載置される。
【0243】
クレーンによる築石3の吊り上げ力は、ワイヤロープ66の端部に設けられるロードセルやクレーンスケール等の計測器67によって測定される。計測器67によって測定されるこの吊り上げ力は、築石3の背後からの土圧や、築石3の自重によって地震時に生じる慣性力により、築石3が第1スリング6および第2スリング7からの束縛を逃れて石垣1の前面側へ押し出される押出力に相当する。この押出力は、例えば、第1スリング6および第2スリング7が上記の緊縛状態を設計上維持するのに必要な押出力に所定の安全率を見込んだ値に設定され、安全を見込んで、最低限必要な押出力よりも大きな値に設定される。
【0244】
抵抗材からの引抜き抵抗力により第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け力が、この押出力に対抗できず、基準締め付け力に満たない場合、築石3は、第1スリング6および第2スリング7からの束縛を逃れて落下するが、クッション65は、この際に生じる築石3の衝撃を緩和する。また、築石3の吊り上げ高さが、アタッチメント64を構成するコラム64aの積み重ね数によって調整されることによっても、築石3の落下によって生じる衝撃が緩和される。
【0245】
一方、抵抗材からの引抜き抵抗力により第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け力が、この押出力に対抗できて、築石3が落下しない場合、当該締め付け力は、基準締め付け力を有するものと、性能評価される。
【0246】
このように、第1スリング6および第2スリング7を築石3に締め付けた状態にする締め付け工程の後に、第1スリング6および第2スリング7の締め付け力が控え部分3bの各周囲を緊縛する緊縛状態に維持できる基準締め付け力を有するかを判定する性能評価工程を備えることで、築石3を実際の現場に設置する前に、第1スリング6および第2スリング7が控え部分3bの各周囲を締め付ける締め付け力が十分であるか否かを判定することが出来る。
【0247】
また、第1スリング6および第2スリング7が引抜き抵抗力を得て控え部分3bの各周囲を締め付ける締め付け力が、上記の押出力に対抗して上記の緊縛状態に維持できる締め付け力に設定されている石垣の構築構造を提供することができる。この際、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付けを、
図2(b)に示すように、第1緊結材9および第2緊結材10によって締め付け状態に保持することができる。
【0248】
このため、これら石垣の構築方法および構築構造によれば、第1スリング6および第2スリング7が控え部分3bの各周囲を締め付ける締め付け力が不十分で、築石3の背後からの土圧や、築石3の自重によって地震時に生じる慣性力により築石3が受ける押出力に対抗できないことが、築石3の設置後に判明して、築石3の設置をやり直す事態を回避することが出来る。
【0249】
また、押出力が、第1スリング6および第2スリング7が上記の緊縛状態を設計上維持するのに必要な押出力に所定の安全率を見込んだ値に設定されることで、第1スリング6および第2スリング7が控え部分3bの各周囲を締め付ける締め付け力は、基準締め付け力を確実に有するようになる。このため、万が一、想定外の押出力が築石3に作用した場合でも、築石3は第1スリング6および第2スリング7に緊縛された状態に確実に保たれて、石垣構造の安全性および景観を確保することが出来る。
【0250】
なお、築石3の後端の形状が歪で平坦でなく、アタッチメント64の下端と築石3の後端との間の隙間に図示しないクサビ等を挿入して、築石3の吊り上げ時に築石3が傾くのを防ごうとしても、その傾きを防ぐことが出来ず、築石3の吊り上げ力を正確に計測できない場合がある。このような場合、性能評価工程における性能評価は、
図21に示される試験台61において、アタッチメント64に代えて、
図22の一部拡大正面図に示すようにジャッキ71を設けて行うのが好ましい。
【0251】
この場合、ジャッキ71の設置位置によって、そのロッドの先端が築石3の後端に当接する高さが異なる。つまり、築石3の後端との当接位置に応じてジャッキ71のストローク長さを調整することで、クサビ等で傾きの修正が追いつかない歪な形状を後端が有する築石3の傾きをコントロールすることが出来る。よって、第2端部6bおよび第4端部7bをクレーンで吊り上げて、築石3の後端に押出力を加える場合、築石3が傾くことなく、築石3の後端に垂直下方の押出力を掛けることが出来、性能評価を正確に行うことが出来る。この場合も、築石3の後端に加える押出力は計測器67によって測定される。
【0252】
また、第1スリング6または第2スリング7が巻き付く控え部分3bの形状が歪で、第1スリング6または第2スリング7が控え部分3bの周囲を上記の押出力に対抗して束縛出来ない場合、
図23の斜視図に示すように、控え部分3bの周囲を緊縛できない箇所に、モルタル等の抵抗部材81を固着するのが好ましい。この抵抗部材81は、同図では4箇所に設けられているが、築石3の歪な形状に対応して第1スリング6または第2スリング7が巻き付く形状で、その歪な箇所に対応した個数が、最低1箇所に設けられる。
【0253】
このように、押出力に対抗して控え部分3bの周囲を緊縛できない、第1スリング6または第2スリング7が巻き付く控え部分3bの周囲に、抵抗部材81を設けることで、第1スリング6または第2スリング7と控え部分3bの周囲との間における接触抵抗を増やすことが出来る。このため、第1スリング6および第2スリング7によって控え部分3bの周囲を確実に束縛できるようになり、築石3が第1スリング6および第2スリング7からの束縛を逃れて、石垣1A~1Nの前面側へ押し出されるのを確実に防止することが出来るようになる。
【0254】
また、
図21~
図23を用いた説明では、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付け態様が
図2に示す態様であった場合について、説明した。しかし、第1スリング6および第2スリング7の築石3への巻き付け態様が
図5に示す態様の場合においても、上記と同様なことがいえる。
【0255】
すなわち、第2の実施形態による石垣の構築方法において、第1スリング6および第2スリング7を
図5に示す態様で築石3に締め付けた状態にする締め付け工程の後に、上記の性能評価工程を備え、第1緊結工程および第2緊結工程は、その性能評価工程で、第1スリング6および第2スリング7を
図5に示す態様で築石3に締め付けた状態にする締め付け力が基準締め付け力を有すると判定された場合に行われるように構成してもよい。また、第1スリング6および第2スリング7が引抜き抵抗力を得て控え部分3bの各周囲を
図5に示す態様で締め付ける締め付け力が、押出力に対抗して緊縛状態に維持できる締め付け力に設定されている石垣の構築構造を提供することできる。また、その押出力は、第1スリング6および第2スリング7が緊縛状態を設計上維持するのに必要な押出力に所定の安全率を見込んだ値に設定してもよい。また、第1スリング6または第2スリング7が控え部分3bの周囲を
図5に示す態様で緊縛できない箇所に、モルタル等の抵抗部材81を固着するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0256】
上記の各実施形態・変形例による石垣の構築構造および構築方法は、城郭における石垣を始め、各所に用いられる各種の石垣に利用することができる。
【符号の説明】
【0257】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K,1L,1M,1N…石垣、2…盛土、3…築石、3a…築石3の表面、3b…築石3の控え部分、4…石、5…介石、6…第1スリング、6a…第1端部、6b…第2端部、7…第2スリング、7a…第3端部、7b…第4端部、8…アンカーピン、9…第1緊結材、10…第2緊結材、11…高強度ロープ(結束材)、12…鋼製リング(結束材)、13…ワイヤロープ、21…帯鋼、22…連結材、23…ジオシンセティックス、24,27…連結材、25…地面、26,49,56…アンカー抵抗材、28…コンクリートブロック、31…地山、32,55…抵抗材、41,43,46,51,54,57…補強土構造体、42,44,47,52…壁面工、40,45,48,53…盛土補強材