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  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151307
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/22 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
C01B17/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040042
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2023063881
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】角木 祥太朗
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(57)【要約】
【課題】過剰な硫黄ガスを廃ガスとして排出することができるため、未反応原料の残留や副生成物の発現を抑制することができ、高品質な硫化リチウムを安定して製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム塩を収容した反応容器内に硫黄ガスを流通させて加熱し、硫化リチウムを生成する加熱処理工程を有することを特徴とする。前記加熱処理工程における加熱条件は、加熱温度が500℃以上938℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩を収容した反応容器内に硫黄ガスを流通させて加熱し、硫化リチウムを生成する加熱処理工程を有することを特徴とする硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理工程における加熱条件は、加熱温度が500℃以上938℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記リチウム塩は、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムから選択される一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理工程における前記反応容器内の硫黄分圧Pが1Pa以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理工程における前記反応容器内の酸素分圧Pが1×10Pa以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記リチウム塩として炭酸リチウム以外を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば全固体電池の硫化物系固体電解質に好適な硫化リチウムを製造する硫化リチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)等の車両から、携帯電話、ノートパソコン等の電子機器に至るまで、電源としてリチウムイオン電池が広く用いられている。従来のリチウムイオン電池は、電解質として有機溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩を溶解した有機電解液が用いられている。
【0003】
こうした有機電解液は可燃性であり、過度な昇温、衝撃によって破損する可能性がある。また、負極に金属リチウムを用いたリチウムイオン電池は、充電時に負極表面にデンドライト状の金属リチウムが成長して、これが電極間の内部短絡の原因となり不具合を引き起こす可能性がある。
【0004】
このような有機電解液を使用した従来のリチウムイオン電池の安全性、耐久性を向上させるために、硫化物系固体電解質を使用した全固体型のリチウムイオン電池が提案されている。現在提案されている硫化物系固体電解質としては、例えばLiS-P系、LiS-P系、LiS-SiS系、LiS-Ga系、LiS-GeS系などが挙げられる。
これらいずれの硫化物系固体電解質においても、構成材料として高純度な硫化リチウム(LiS)が用いられる。
【0005】
高純度な硫化リチウムの製造方法として、例えば、特許文献1には、水酸化リチウムを非プロトン性有機溶媒の中で硫化水素と反応させて水硫化リチウムを生成し、この水硫化リチウムから硫化リチウムを得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、金属リチウムと硫黄ガスまたは硫化水素とを反応させて、金属リチウムの表面に硫化リチウムを生成させ、次いで未反応の金属リチウムを溶融し、既に生成している硫化リチウムに拡散、浸透させた後、再び未反応の金属リチウムと硫黄ガスや硫化水素とを反応させるといった反応サイクルを繰り返して硫化リチウムを得る方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、炭酸リチウムを硫化水素と反応させて硫化リウムを製造する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献4には、硫酸リチウムと炭素材料を混合して加熱することによって、硫化リチウムを製造する方法が開示されている。この方法では、硫酸リチウムと炭素材料の両方を微粒子状にして、反応面積を増加させることによって、未反応原料を低減させることも開示されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、真空雰囲気下で硫酸リチウムを炭素材料で熱還元することによって、硫化リチウムを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-151725号公報
【特許文献2】特開平09-110404号公報
【特許文献3】特開2012-221819号公報
【特許文献4】特開2013-227180号公報
【特許文献5】特開2021-147251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献1に開示された発明では、非プロトン性有機溶媒を用いる必要があり、また、使用した有機溶媒の処理が別途必要であるために、製造工程が複雑で製造コストが高いという課題があった。また、非プロトン性有機溶媒の一部が生成した硫化リチウムに残存するおそれがあった。
【0012】
特許文献2に開示された発明では、金属リチウムと硫黄ガスまたは硫化水素とを繰り返し複数回反応させる必要があり、製造時間が長くなり、製造効率が低いという課題があった。また、金属リチウムは反応性が高く、表面に酸化膜が発生しやすいため、不活性ガス雰囲気で取り扱う必要があるなど、原材料の取り扱いが難しいといった問題があった。また、反応サイクルが不十分であった場合には、未反応物が生成した硫化リチウムに残存するおそれがあった。
【0013】
特許文献3に開示された発明では、有毒な硫化水素ガスを使用する必要があり、反応装置の気密性の管理、未反応の硫化水素ガスの処理など、設備コストが高くなるという課題があった。また、反応な不十分な場合には、未反応物が生成した硫化リチウムに残存するおそれがあった。
【0014】
ここで、特許文献4,5においては、有機溶剤や硫化水素を用いる必要がなく、取り扱いや管理が比較的容易である。
【0015】
しかしながら、特許文献4に開示された発明では、顆粒状混合物を得るために、粉砕、混合、押出造粒等の工程を実施する必要があり、原料のロスが生じて歩留まりが低下するといった問題があった。また、多工程のために、混合物中の硫酸リチウムと炭素材料との混合比にばらつきが生じるおそれがあった。さらに混合工程で加水した際に水溶性の硫酸リチウムの一部が溶解することで、顆粒状混合物中で組成のばらつきが生じるおそれがあった。このため、製造された硫化リチウムの品質が安定しないといった問題があった。
【0016】
また、特許文献5に開示された発明では、造粒を行わないことから、原料のロスや組成ばらつきを抑制することが可能であるが、硫酸リチウムと炭素材料との接触不良による未反応原料の残留や副生成物の発現等の問題が生じるおそれがあった。
【0017】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、過剰な硫黄ガスを廃ガスとして排出することができるため、未反応原料の残留や副生成物の発現を抑制することができ、高品質な硫化リチウムを安定して製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の硫化リチウムの製造方法は、リチウム塩を収容した反応容器内に硫黄ガスを流通させて加熱し、硫化リチウムを生成する加熱処理工程を有することを特徴としている。
【0019】
本発明の態様1の硫化リチウムの製造方法によれば、リチウム塩を収容した反応容器内に硫黄ガスを流通させて加熱し、硫化リチウムを生成する加熱処理工程を有しているので、リチウム塩と硫黄ガスとを直接反応させることによって硫化リチウムを効率的に製造することができ、未反応原料の残留や副生成物の発現を抑制することが可能となる。
なお、硫黄ガス(単体硫黄ガス)は、不活性ガスと任意の割合で混合して反応容器内に流通してもよい。
【0020】
本発明の態様2の硫化リチウムの製造方法は、本発明の態様1の硫化リチウムの製造方法において、前記加熱処理工程における加熱条件は、加熱温度が500℃以上938℃以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0021】
本発明の態様2の硫化リチウムの製造方法によれば、前記加熱処理工程における加熱温度が500℃以上938℃以下の範囲内とされているので、リチウム塩と硫黄ガスとの反応を十分に促進でき、未反応原料および副生成物の少ない高品質な硫化リチウムを効率的に製造することができる。
【0022】
本発明の態様3の硫化リチウムの製造方法は、本発明の態様1又態様2の硫化リチウムの製造方法において、前記リチウム塩は、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムから選択される一種又は二種以上であることを特徴としている。
【0023】
本発明の態様3の硫化リチウムの製造方法によれば、前記リチウム塩が、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムから選択される一種又は二種以上とされているので、これらのリチウム塩と硫黄ガスとの反応によって確実に硫化リチウムを製造することが可能となる。
【0024】
本発明の態様4の硫化リチウムの製造方法は、本発明の態様1から態様3のいずれかひとつの硫化リチウムの製造方法において、前記加熱処理工程における前記反応容器内の硫黄分圧Pが1Pa以上であることを特徴としている。
【0025】
本発明の態様4の硫化リチウムの製造方法によれば、前記加熱処理工程における前記反応容器内の硫黄分圧Pが1Pa以上とされているので、リチウム塩と硫黄ガスとの反応が確実に進行し、硫化リチウムを効率良く製造することが可能となる。また、リチウム原料が残存して、生成した硫化リチウムに不純物として混入することを抑制でき、さらに不純物の少ない高品質な硫化リチウムを製造することが可能となる。
【0026】
本発明の態様5の硫化リチウムの製造方法は、本発明の態様1から態様4のいずれかひとつの硫化リチウムの製造方法において、前記加熱処理工程における前記反応容器内の酸素分圧Pが1×10Pa以下であることを特徴としている。
【0027】
本発明の態様5の硫化リチウムの製造方法によれば、前記加熱処理工程における前記反応容器内の酸素分圧Pが1×10Pa以下とされているので、リチウム塩と酸素との反応によって硫化リチウム以外のリチウム化合物が生成することを抑制でき、さらに不純物の少ない高品質な硫化リチウムを製造することが可能となる。また、酸素ガスにリチウム塩の消費を抑制でき、硫化リチウムを効率良く製造することができる。
【0028】
本発明の態様6の硫化リチウムの製造方法は、本発明の態様1から態様5のいずれかひとつの硫化リチウムの製造方法において、前記リチウム塩として炭酸リチウム以外を用いることを特徴としている。
【0029】
本発明の態様6の硫化リチウムの製造方法によれば、前記リチウム塩として炭酸リチウム以外を用いているので、反応時に炭酸ガスが生成することを抑制できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、過剰な硫黄ガスを廃ガスとして排出することができるため、未反応原料の残留や副生成物の発現を抑制することができ、高品質な硫化リチウムを安定して製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例において生成した硫化リチウムの粉末X線回折測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0033】
本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法は、例えば、全固体電池を構成する固体電解質として用いられる硫化物固体電解質の構成材料である硫化リチウム(LiS)を製造するものである。硫化物固体電解質材料は、イオン伝導度が高く、且つ、不燃性であって安全性が高いことから、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の車載バッテリーの材料として好適である。
【0034】
本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法においては、リチウム塩を収容した反応容器内に硫黄ガス(単体硫黄ガス)を流通させるとともに高温に加熱することにより、リチウム塩と硫黄ガスとを反応させ、硫化リチウムを生成させる加熱処理工程を有している。
【0035】
なお、硫黄ガス(単体硫黄ガス)は、反応容器の外部に硫黄蒸気発生装置を配置しておき、この硫黄蒸気発生装置で発生した硫黄ガスを、Arガス等の不活性ガスからなるキャリアガスとともに、反応容器内に供給する方式とすることが好ましい。反応容器に供給される硫黄ガスの濃度は、硫黄蒸気発生装置での硫黄ガス発生量、および、キャリアガスの流量によって調整することが可能である。ここで、不活性ガスと硫黄ガス(単体硫黄ガス)の混合割合に特に制限はなく、任意の割合で混合することができる。
【0036】
また、原料となるリチウム塩は、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムから選択される一種又は二種以上であることが好ましい。
これらのリチウム塩と硫黄ガスとを反応させることで、硫化リチウムが確実に生成することになる。
なお、反応時に炭酸ガス(COガス)の発生を抑制するためには、リチウム塩として炭酸リチウム以外を用いることが好ましい。
【0037】
ここで、本実施形態においては、加熱処理工程における加熱条件は、雰囲気を露点-60℃以下、加熱温度を500℃以上938℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を5分以上420分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
雰囲気を露点-60℃以下とした場合には、雰囲気中の水分量が十分に低く、生成物である硫化リチウムの劣化を抑制することができる。
【0039】
また、加熱温度を500℃以上とした場合には、リチウム塩と硫黄ガスとの反応速度が確保され、硫化リチウムを効率的に生成することが可能となる。一方、加熱温度を938℃以下とした場合には、硫化リチウムの融点以下での反応となり、硫化リチウムを歩留良く生成することが可能となる。
なお、加熱温度は600℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱温度は750℃以下であることがさらに好ましい。
【0040】
加熱温度での保持時間を5分以上とした場合には、リチウム塩と硫黄ガスとを十分に反応させることができ、未反応物の残留や副生成物の発現をさらに抑制することが可能となる。一方、加熱温度での保持時間を300分以下とした場合には、硫化リチウムをさらに効率的に生成することが可能となる。
なお、加熱温度での保持時間は60分以上であることがさらに好ましい。また、加熱温度での保持時間は300分以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法においては、加熱処理工程における反応容器内の硫黄分圧Pが1×Pa以上であることが好ましい。
加熱処理工程における反応容器内の硫黄分圧Pが1Pa以上である場合には、反応容器中に硫黄ガスが十分に存在しており、リチウム塩と硫黄ガスとの反応が促進され、硫化リチウムを効率良く生成することができる。また、リチウム原料が残存して、生成した硫化リチウムに不純物として混入することを抑制できる。
なお、加熱処理工程における反応容器内の硫黄分圧Pは、1×10Pa以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理工程における反応容器内の硫黄分圧Pの上限に特に制限はないが、1×10Pa以下であることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法においては、加熱処理工程における反応容器内の酸素分圧Pが1×10Pa以下であることが好ましい。
加熱処理工程における反応容器内の酸素分圧Pが1×10Pa以下である場合には、反応容器中における酸素ガスの含有量が少なく、リチウム塩と酸素ガスとの反応によって硫化リチウム以外のリチウム化合物(例えば、酸化リチウム、硫酸リチウム等)が生成することを抑制できる。よって、不純物の少ない硫化リチウムを製造できるとともに、リチウム塩の消費を抑制でき、硫化リチウムを効率良く製造することができる。
なお、加熱処理工程における反応容器内の酸素分圧Pは、1×10Pa以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理工程における反応容器内の酸素分圧Pの下限に特に制限はないが、実質的に1×10-5Pa以上となる。
【0043】
なお、本実施形態においては、反応容器に特に制限はないが、例えば、反応容器をロータリーキルンとし、硫黄ガスを流通させるとともに所定温度に保持されたロータリーキルンの炉内にリチウム塩を投入することで、リチウム塩と硫黄ガスとを反応させて硫化リチウムを生成させることが可能となる。
本実施形態において、反応容器としてロータリーキルンを用いる場合、キルンの回転数は0.1rpm以上、20rpm以下に設定すればよい。
【0044】
具体的には、リチウム塩をロータリーキルン上部のホッパーに収容し、ロータリーキルン内に硫黄ガスを不活性ガスとともに流通させるとともにロータリーキルン内を所定の加熱温度にまで加熱しておき、ホッパー内のリチウム塩をロータリーキルンへスクリューフィーダーを用いて一定速度で供給することにより、リチウム塩と硫黄ガスとを連続的に反応させ、硫化リチウムを製造する。
【0045】
上述の工程により、未反応原料や副生成物の混入が抑制された硫化リチウムが製造されることになる。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態である硫化リチウムの製造方法によれば、リチウム塩を収容した反応容器内に硫黄ガスを流通させて加熱し、硫化リチウムを生成する加熱処理工程を有しているので、リチウム塩と硫黄ガスとを直接反応させることによって硫化リチウムを効率的に製造することができ、未反応原料の残留や副生成物の発現を抑制することが可能となる。
【0047】
本実施形態において、加熱処理工程における加熱条件として、雰囲気を露点-60℃以下、加熱温度を500℃以上938℃以下の範囲内とした場合には、リチウム塩と硫黄ガスとの反応を十分に促進でき、未反応原料および副生成物の少ない高品質な硫化リチウムを効率的に製造することができる。
【0048】
本実施形態において、リチウム塩を、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムから選択される一種又は二種以上とした場合には、これらのリチウム塩と硫黄ガスとの反応によって確実に硫化リチウムを製造することが可能となる。
【0049】
本実施形態において、リチウム塩として炭酸リチウム以外を用いた場合には、加熱処理工程に炭酸ガスが生成することを抑制できる。
【0050】
本実施形態において、加熱処理工程における反応容器内の硫黄分圧Pが1×10-5Pa以上である場合には、リチウム塩と硫黄ガスとの反応が確実に進行し、硫化リチウムを効率良く製造することが可能となる。
また、リチウム原料が残存して、未反応のリチウム原料が生成した硫化リチウムに不純物として混入することを抑制でき、さらに不純物の少ない高品質な硫化リチウムを製造することが可能となる。
【0051】
本実施形態において、加熱処理工程における反応容器内の酸素分圧Pが1×10-2Pa以下である場合には、リチウム塩と酸素との反応によって硫化リチウム以外のリチウム化合物が生成することを抑制でき、さらに不純物の少ない高品質な硫化リチウムを製造することが可能となる。また、酸素ガスにリチウム塩の消費を抑制でき、硫化リチウムを効率良く製造することができる。
【0052】
本実施形態において、反応容器がロータリーキルンとされている場合には、硫黄ガスが流通されているロータリーキルンにリチウム塩を連続的に供給することで、リチウム塩と硫黄ガスとを連続的に反応させることができ、硫化リチウムをさらに効率的に製造することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0054】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0055】
(実施例1~12)
十分に乾燥させたリチウム塩の粉末(平均粒径25μm)を、表1に示す重量となるように秤量し、アルミナ製のボートに収容し、管状炉に装入し、表1に示す雰囲気および加熱温度で加熱した。
そして、硫黄を配置した硫黄発生槽を400℃に加熱することで硫黄ガスを発生させ、この硫黄発生装置内を流通させたArガスを管状炉内に流入させることで、硫黄ガスを管状炉内に流通させた。硫黄ガスの発生量、および、管状炉内へのガス(硫黄ガスとArの混合ガス)の導入量、管状炉内の硫黄分圧および酸素分圧を表1に示す。
管状炉内でリチウム塩と硫黄ガスを反応させることで、硫化リチウムを製造した。
【0056】
(比較例)
十分に乾燥させたリチウム塩の粉末(平均粒径25μm)を、表1示す重量となるように秤量し、アルミナ製のボードに収容し、管状炉に装入し、表1に示す加熱温度まで加熱した。
この比較例では、硫黄ガスを導入せず、Arガスのみを管状炉内に流通させた。なお、管状炉内の硫黄分圧および酸素分圧を表1に示す。
【0057】
上述のようにして得られた試料について、以下のようにして、未反応物および副生成物の有無、を評価した。
得られた試料をメノウ乳鉢で粉砕し、この粉末試料を用いて粉末X線回折測定を実施し、未反応物および副生成物の有無を、「不純物強度比」として評価した。粉末X線回折測定結果の一例を図1に示す。
なお、不純物強度比としては、バックグラウンドを除外した各種不純物の最強ピーク強度を27.04°に位置する硫化リチウムの最強ピーク強度で割ったものを不純物強度比として記載した
【0058】
【表1】
【0059】
比較例においては、硫酸リチウムが確認された。炉内に硫黄ガスを導入しておらず、硫酸リチウムが未反応で残存したものと推測される。
これに対して、実施例においては、図1に示すように、硫化リチウム以外の未反応の残留物、副生成物は確認されなかった。
【0060】
以上のように、本発明によれば、過剰な硫黄ガスを廃ガスとして排出することができるため、未反応原料の残留や副生成物の発現を抑制することができ、高品質な硫化リチウムを安定して製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供可能であることが確認された。
図1