(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151310
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】硫酸アンモニウムを豊富に含む(廃)水からのアンモニアと硫酸の抽出
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20241017BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20241017BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241017BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241017BHJP
C25B 9/21 20210101ALI20241017BHJP
C01C 1/02 20060101ALI20241017BHJP
C01B 17/74 20060101ALI20241017BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/20 B
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/21
C01C1/02 C
C01C1/02 E
C01B17/74 D
B01D61/44 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024048524
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】23166752.8
(32)【優先日】2023-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス ストックマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】シルビア ブランク シム
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ステンナー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ウィンクラー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー スタウル
(72)【発明者】
【氏名】ジョルグ ホアキム ニッツ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】硫酸アンモニウムを豊富に含む(廃)水からアンモニアと硫酸を回収する方法であって、工業規模で実行可能であり、エネルギー効率が良好な方法を提供する。
【解決手段】電気透析と水電気分解を併用する。陽極3が配置された陽極電極室1を含み、陰極4が配置された陰極電極室2を含み、電極室1、2の間には、スタックが配置され、陽極端部膜6は、スタックと陽極電極室1との間に配置され、陰極端部膜7は、スタックと陰極電極室2との間に配置され、セパレータ15は、2つのコンパートメント13、14の間に配置され、2つのコンパートメント13、14を互いに区切る電気化学セルにおいて、第1コンパートメント13からアンモニア水を排出し、第2コンパートメント14から硫酸水溶液を排出し、アンモニア水からアンモニアを除去し、アンモニアを失った水を得る方法である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アンモニウムを豊富に含む水からアンモニアと硫酸水溶液を製造する方法であり、下記の非時系列的工程:
(a)少なくとも1つの電気化学セルを準備する工程、
(b)電圧源を準備する工程、
(c)水と硫酸アンモニウムとを含む硫酸アンモニウムを豊富に含む水を準備する工程、
(d)水と硫酸を含む酸性電解質を準備する工程、
(e)水、硫酸、および/または硫酸アンモニウムを含む電極洗浄液を準備する工程、
(f)前記硫酸アンモニウムを豊富に含む水を、前記電気化学セルの第1コンパートメントに充填する工程、
(g)前記酸性電解質を、前記電気化学セルの第2コンパートメントに充填する工程、
(h)電極室を前記電極洗浄液で洗浄する工程、
(i)前記電気化学セルを、前記電圧源から得られる電圧で充電し、陽極と陰極の間に電位差が生じるようにする工程、
(j)前記電気化学セルの前記第1コンパートメントからアンモニア水を排出する工程、
(k)前記電気化学セルの前記第2コンパートメントから硫酸水溶液を排出する工程、
(l)アンモニア水からアンモニアを除去し、アンモニアを失った水を得る工を有し、
前記電気化学セルは、
(i)陽極が配置された陽極電極室を含み、
(ii)陰極が配置された陰極電極室を含み、
(iii)スタックを含み、
(iv)2つの端部膜を含み、第1端部膜は、前記スタックと前記陽極電極室との間に配置され、第2端部膜は、前記スタックと前記陰極電極室との間に配置され、両方の端部膜は、陰イオン伝導膜、陽イオン伝導膜、双極性膜からなる群から同様に選択され、
(v)各双極性膜は、前記電気化学セル内において、その正電荷部分が前記陽極に向かい、その負電荷部分が前記陰極に向かうように配置される
という特徴を有し、
前記スタックは、
‐繰り返し単位を有し、前記繰り返し単位の数は、厳密にnであり、nは自然数であり
‐第1コンパートメントを有し、前記第1コンパートメントの数は厳密にnであり、
‐第2コンパートメントを有し、前記第2コンパートメントの数は厳密にnであり、
‐セパレータを有し、前記セパレータの数は厳密にsであり、sはs=2×n-1で計算され、
‐前記第1コンパートメントと前記第2コンパートメントは、前記スタック内で交互に配置され、それぞれ前記セパレータによって互いに分離され、
‐各セパレータは、陰イオン伝導膜または双極性膜のいずれかであり、
‐陰イオン伝導膜であるセパレータの数aは、n=1の場合、a=1、n>1 の場合、a=n-1で計算され、
‐双極性膜であるセパレータの数bは、n=1の場合、b=0、n>1の場合、b=nで計算され、
‐n>1の場合、陰イオン伝導膜である前記セパレータと双極性膜である前記セパレータは、前記スタック内で交互に配置され、
‐各第1コンパートメントは、隣接する双極性膜の陽極側に配置されるが、隣接する前記双極性膜は、前記スタックの一部である必要はなく、
‐各第2コンパートメントは、隣接する双極性膜の陰極側に配置されるが、隣接する前記双極性膜は、前記スタックの一部である必要はない
という構造を有する、方法。
【請求項2】
前記電気化学セルが、厳密に1つの陽極電極室と、厳密に1つの陰極電極室と、厳密に1つのスタックと、厳密に2つの端部膜とを有し、前記第1端部膜が前記スタックおよび前記陽極電極室に直接隣接し、前記第2端部膜が前記スタックおよび前記陰極電極室に直接隣接している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スタックが請求項1記載の前記コンパートメントおよび前記セパレータを含む、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのコンパートメントおよび/または少なくとも1つの電極室は、スペーサによって跨がれている、請求項1~請求項3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記電圧源に並列接続された複数の電気化学セルを含む系内で実行される、請求項1~請求項4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記アンモニアが、空気または窒素によるストリッピングにより、前記アンモニア水から除去される、請求項1~請求項5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記アンモニアが、0hPa~1013hPaの圧力で、前記アンモニア水から除去される、請求項1~請求項6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
バッチ、半バッチ、フィードアンドブリード、およびシングルパスの群から選択される動作モードで実行される、請求項1~請求項7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
バッチ動作モードで実行され、
前記硫酸アンモニウムを豊富に含む水が第1貯留容器に供給され、前記アンモニアを失った水が前記第1貯留容器に輸送され、
および/または前記酸性電解質が第2貯留容器に供給され、前記硫酸水溶液が前記第2貯留容器に輸送される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
半バッチ動作モードで実行され、
前記硫酸アンモニウムを豊富に含む水が第1貯留容器に供給され、前記アンモニアを失った水が前記第1貯留容器に輸送され、前記第1貯留容器の内容物の一部が随時取り出され、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水と交換され、
および/または前記酸性電解質が第2貯留容器に供給され、前記硫酸水溶液が前記第2貯留容器に輸送され、前記第2貯留容器の内容物の一部が随時取り出され、新鮮な酸性電解質または水と交換される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
フィードアンドブリード動作モードで実行され、
前記硫酸アンモニウムを豊富に含む水が第1貯留容器に供給され、前記アンモニアを失った水が前記第1貯留容器に輸送され、前記第1貯留容器の内容物の一部が継続的に取り出され、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水と交換され、
および/または前記アンモニアを失った水の一部が、前記第1貯留容器に輸送される前に、継続的に取り出され、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水と交換され、
および/または、前記酸性電解質が第2貯留容器に供給され、前記硫酸水溶液が前記第2貯留容器に輸送され、前記第2貯留容器の内容物の一部が継続的に取り出され、新鮮な酸性電解質または水と交換される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
シングルパス動作モードで実行され、
新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水が継続的に供給され、アンモニアを失った水が継続的に排出され、
および/または新鮮な酸性電解質が継続的に供給され、硫酸水溶液が継続的に排出される、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水は、前記新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水の質量に対し、30%~40%の濃度で硫酸アンモニウムを含み、
20℃でガラス電極を使用して測定された前記新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水のpHが5~9である、請求項10~請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記電極洗浄液が洗浄タンクに供給され、前記電極洗浄液が前記洗浄タンクから前記2つの電極室に継続的に循環され、そこから再び前記洗浄タンクに戻る、請求項1~請求項13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記電極洗浄液は、一方の電極室を順次通過し、次いでもう一方の電極室を通過する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記電極洗浄液のpHは、継続的に監視され、
公称pHを超えた場合は、水および/または硫酸が計量投入され、
および/または公称pHを下回った場合は、水および/または硫酸アンモニウムが計量投入される、請求項14または請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記洗浄タンクの充填レベルは、継続的に監視され、
公称充填レベルを超えた場合は、電解質洗浄液が排出され、
および/または公称充填レベルを下回った場合は、水および/または硫酸および/または硫酸アンモニウムが計量投入される、請求項14~請求項16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの貯留容器の充填レベルが継続的に監視され、
公称充填レベルを超えた場合は、硫酸アンモニウムを豊富に含む水または酸性電解質が排出され、
および/または公称充填レベルを下回った場合は、水および/または硫酸および/または硫酸アンモニウムが計量投入される、請求項8、請求項10または請求項11のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸アンモニウムを豊富に含む(廃)水から電気透析によってアンモニアおよび硫酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸アンモニウム(NH4)2SO4は、伝統的な農業および園芸で使用される窒素肥料です。しかしながら、これに使用される硫酸アンモニウムは、通常、特別に製造されるのではなく、カプロラクタムまたはシアン化水素の製造など、アンモニウム化合物を出発物質として使用する大規模な化学プロセスにおける副産物として生じることがほとんどである。ただし、この場合、硫酸アンモニウムは、一般に固体(塩)ではなく、水に溶解している。水に硫酸アンモニウム以外の製造残留物が含まれていない場合、硫酸アンモニウムを含む廃水は、過去に農業用に販売され、肥料として畑に散布されていた。
【0003】
硫酸アンモニウムの特性、製造、および用途の概要は、下記によって説明されている。
Zapp,K.-H.、Wostbrock,K.-H.、Schafer,M.、Sato,K.、Seiter,H.、Zwick,W.、Creutziger,R.、およびLeiter,H.(2000年)。アンモニウム化合物。第2節:硫酸アンモニウム。ウルマン工業化学百科事典(編)。DOI:10.1002/14356007.a02_243
【0004】
畑の肥料過多が増え、地下水中の硝酸塩濃度が上昇したため、欧州連合では、窒素肥料の散布に関する規制が強化された。その結果、硫酸アンモニウムを含む製造廃水の農業利用の範囲は縮小している。
【0005】
しかし、アンモニウム化合物を処理する工場では、このような廃水が蓄積し続けているため、これらの廃水を再利用する代替手段が模索されている。
【0006】
その出発点は、廃水中に存在する硫酸アンモニウムの回収である。アンモニアと硫酸から硫酸アンモニウムへの反応は可逆的であり、これは、エネルギーを投入することで、硫酸アンモニウムをアンモニアと硫酸に戻すことが可能であることを意味している。このようにして回収された物質は、硫酸アンモニウムを含む廃水を生成する化学工場で、反応物として再利用され得る。
【0007】
したがって、本発明の目的は、硫酸アンモニウムを含む廃水からアンモニアと硫酸を工業規模で回収できる方法を開発することであった。
【0008】
アンモニウム塩は、電気化学的手段、より正確には電気透析によって、水から除去できることはすでに知られている。
【0009】
電気透析は、電解質のイオン成分を、電界内で、少なくとも1つの選択的イオン伝導膜で分離する膜分離法である。
【0010】
イオン伝導膜には、陰イオン伝導膜(陰イオン交換膜-AEM)、陽イオン伝導膜(陽イオン交換膜-CEM)、および双極性膜(BPM)の3種類がある。AEMは、陽イオンよりも陰イオンに対して、優れたイオン伝導性があり、イオン的に正に帯電している。CEMは、陰イオンよりも陽イオンに対して、優れたイオン伝導性があり、イオン的に負に帯電している。BPMには、イオン的に正に帯電した部分と、イオン的に負に帯電した部分がある。BPMは、陰イオンと陽イオンの両方を伝導するが、方向が異なる。その目的は、電界印加したときに、BPMに拡散する水分子を、イオン的に正に帯電した部分とイオン的に負に帯電した部分との接触面で、塩基性陰イオンと酸性陽イオンに分割することである。これらのイオンが隣接する媒体に輸送された結果、BPM全体にpH勾配が生じる。イオン的に正に帯電した部分に面した側では、高pHの塩基性環境が発生し、イオン的に負に帯電した部分に面した側では、低pHの酸性環境が発生する。
【0011】
イオン伝導膜は通常、特殊なフッ素化またはスルホン化ポリマーで構成されている。よく知られている例としては、DuPont社のNafion(登録商標)膜がある。ただし、セラミックイオン伝導膜もある。
【0012】
電気透析で使用される電気化学セルは、通常、異なる種類の複数の選択的イオン伝導膜をスタックに組み合わせる。スタック内では、反復ユニットと呼ばれる一連の同種の膜を複数並列化できる。
【0013】
セル内に別個に存在する電解質の数に応じて、二室セルと三室セルが区別される。二室セルは、2つの電解質で動作するが、三室セルには、さらに3つ目の電解質が存在する。
【0014】
電気透析の簡単な紹介は、下記に記載されている。
Van der Bruggen、B.(2017年)。膜技術。第7.5節 電気透析。カーク・オスマー工業化学百科事典、John Wiley & Sons、Inc(編)。
DOI:10.1002/0471238961.1305130202011105.a01.pub3
【0015】
水から塩化アンモニウムを除去する電気透析法は、例えば中国特許第104445755号明細書に記載されている。そこに開示されている方法は、双極性膜を使用し、最大で2モル/Lの塩化アンモニウム濃度で水中に存在する塩化アンモニウムの転化を可能にする。
【0016】
中国特許第104445755号明細書で使用される膜がどの程度硫酸アンモニウムに耐性があるかは不明である。さらに、NH3を処理する工場からの関連廃水には、最大で6モル/Lの非常に高濃度のアンモニウムが含まれている。したがって、中国特許第104445755号明細書に記載の方法で処理する前に、廃水をまず希釈する必要がある。これは、経済的ではないようである。
【0017】
Gainらは、硝酸アンモニウムを除去するための電解と電気透析との複合方法を提案した。
Gain,E.、Laborie,S.、Viers,P.ら。膜電解と電気透析を組み合わせた硝酸アンモニウム廃水処理。Journal of Applied Electrochemistry 32、969~975頁(2002年)。DOI:10.1023/A:1020908702406
【0018】
遊離したアンモニアは、エアストリッピングにより電解質から除去される。この文献中でも、硝酸アンモニウムの濃度は非常に低い。さらに、Gainらは、別の物質系を主題としている。
【0019】
LvらとLiらの論文はどちらも、交互に配置された陰イオン交換膜と双極性膜から構成されるスタックを使用した電気透析バッチ実験について説明している。
Yan Lv、Haiyang Yan、Baojun Yang、Cuiming Wu、Xu Zhang、Xiaolin Wang:塩化アンモニウム廃水の再利用のための双極性膜電気透析:膜選択と方法最適化。化学工学研究と設計、第138巻、2018年、105~115頁、ISSN0263-8762。DOI10.1016/j.cherd.2018.08.014.
Ya Li、Shaoyuan Shi、Hongbin Cao、Xinmin Wu、Zhijuan Zhao、Liying Wang:人工塩化アンモニウム廃水から塩酸とアンモニアを生成するための双極性膜電気透析。水研究、第89巻、2016年、201~209頁、ISSN0043-1354、DOI:10.1016/j.watres.2015.11.038.
【0020】
しかしながら、本文献中でもアンモニウム塩濃度は非常に低く、どちらの場合も、硫酸アンモニウムではなく塩化アンモニウムである。
【0021】
最後に、例えば 日本特許出願公開第2011224445号明細書、中国特許出願公開第102515317号明細書、米国特許出願公開第2021/0069645号明細書から、三室セルを使用するアンモニウムの電気透析濃縮のためのいくつかのアプローチが発表されている。三室セルは、双極性膜、陰イオン交換膜、陽イオン交換膜、双極性膜から構成されるスタックを有する。したがって、それらは、3つのコンパートメントを形成する。双極性膜と陰イオン交換膜の間の第1の酸性コンパートメント、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の間の第2の中央コンパートメント、陽イオン交換膜と双極性膜の間の第 3の塩基性コンパートメントである。ほとんどの系では、電極に直接面している室は、別の電解質である電極洗浄液で、さらに洗浄される。供給物は、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の間の中央コンパートメントで、その塩が除去される。酸性コンパートメントでは酸が生成され、塩基性コンパートメントではアンモニウムが豊富になる。
【0022】
二室セルと比較した三室セルの欠点は、そのスタック構造が複雑であるため、内部の電気抵抗がかなり高く、そのため、動作原理上、二室セルと同モル量の物質を分離するためにはより高い電圧が必要になることである。したがって、同じ分離性能を得るには、三室セルの電気エネルギー要件は、二室セルのそれよりも高くなる。
【0023】
さらに、分離対象物質の濃度が高い供給物を使用すると、2室セル構造と比較して、三室セル構造内の濃度勾配が高くなる。三室セル構造では、浸透作用により、低濃度のコンパートメントから隣接する高濃度のコンパートメントへ水が大幅に移動し、これが本方法に関連するさらなる課題となる。
【0024】
Yangらは、電気透析による廃水からの硫酸アンモニウムの除去について記載している。
Yang,H.、Zhang,X.-S.、およびYuan,W.-K.(2008年)、電気透析による硫酸アンモニウムの濃縮に対する動作パラメータの影響。Chem.Eng.Technol.、31:1261~1264年。https://doi.org/10.1002/ceat.200700461
【0025】
回収される目標生成物は、硫酸アンモニウムであった。
【0026】
ドイツ特許第2727409号明細書は、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜を含むスタックを備えた三室セルを使用して、硫酸アンモニウムをアンモニアと硫酸に電気透析する方法を開示している。実施例では、6%(NH4)2SO4溶液がセルに注入されている。これは、約0.45モル/Lに相当する。この方法の欠点は、三室セルについて、上記で一般的に説明した通りである。さらに、この装置を拡大してより大きな(廃)水流に対応するには、膜と電極の表面積を拡大するか、または多数の同一モジュールを並列に接続することによってのみ可能であると思われる。
【0027】
Luoらは、第1双極性膜、陰イオン交換膜、陽イオン交換膜、および第2 双極性膜を含むスタックを備えた三室セルを使用して、硫酸アンモニウムをアンモニアと硫酸に電気透析する方法について記載している。
Luo Mingrui、Zhang Zeqiang、Zhang Hanquan、Li Donglian、He Dongsheng。双極性膜電気透析による硫酸アンモニウムの分解に影響する要因、化学鉱物および処理。2015年、44(11)DOI:10.16283/j.cnki.hgkwyjg.2015.11.007
【0028】
Luoらは、濃度が最大で1061モル/Lの硫酸アンモニウムの分解を調査した。
【0029】
Gaoは、第1の双極性膜、陰イオン交換膜、および第2の双極性膜を含むスタックを備えた二室セルによる、硫酸アンモニウムからの硫酸の生成を記載している。
Gao Li-hua、双極性膜電気透析による硫酸アンモニウムからの硫酸生成に関する研究、HeBei HuaGong、第35巻、第6号、2012年6月。
【0030】
ただし、この方法では、アンモニアは生成されなかった。
【0031】
水からアンモニアを除去する電気透析方法は、van Lindenらによって徹底的に調査された。
Niels van Linden、Henri Spanjers、Jules B.van Lier:電気透析によるアンモニウム濃縮のための濃縮係数の増加とエネルギー消費の削減のための動的電流密度の適用。水研究、第163巻、2019年、114856、ISSN0043-1354、DOI:10.1016/j.watres.2019.114856。
【0032】
アンモニウム含有廃水の電気化学処理における特別な特徴は、pHシフトによって生成されたアンモニアが、水に溶解した非荷電分子として存在することである。非荷電の小分子であるアンモニアは、水で膨潤したイオン交換膜を通過することができ、濃度勾配の結果として、他の室の電解質に拡散する。拡散するアンモニアの量は、滞留時間による。この望ましくない効果は、廃水中にアンモニウムが高濃度で存在する場合に、特に顕著である。
【0033】
酸性環境では、解離平衡は、アンモニウム側に戻るが、その電荷により、陽イオン交換膜のみを通過することができる。この関係により、電気透析で生成される目的生成物であるアンモニアは、できるだけ短い滞留時間の後に、基本電解質から除去される必要がある。
【0034】
さらに、アンモニアは水に非常によく溶けるため(20℃で531g/L)、自発的なガス放出なしで高濃度を実現できる。このため、電気透析の下流で、できるだけ迅速に除去する必要性が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】中国特許第104445755号明細書
【特許文献2】日本特許出願公開第2011224445号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第102515317号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2021/0069645号明細書
【特許文献5】ドイツ特許第2727409号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
この従来技術に鑑みて、本発明の目的は、硫酸アンモニウムを高濃度で含む水からアンモニアと硫酸を回収する方法を提供することである。この方法は、工業規模で実行可能であり、エネルギー効率が良好でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0037】
この目的は、下記の非時系列的工程:
(a)少なくとも1つの電気化学セルを準備する工程、
(b)電圧源を準備する工程、
(c)水と硫酸アンモニウムとを含む硫酸アンモニウムを豊富に含む水を準備する工程、
(d)水と硫酸を含む酸性電解質を準備する工程、
(e)水、硫酸、および/または硫酸アンモニウムを含む電極洗浄液を準備する工程、
(f)硫酸アンモニウムを豊富に含む水を、電気化学セルの第1コンパートメントに充填する工程、
(g)酸性電解質を、電気化学セルの第2コンパートメントに充填する工程、
(h)電極室を電極洗浄液で洗浄する工程、
(i)電気化学セルを、電圧源から得られる電圧で充電し、陽極と陰極の間に電位差が生じるようにする工程、
(j)電気化学セルの第1コンパートメントからアンモニア水を排出する工程、
(k)電気化学セルの第2コンパートメントから硫酸水溶液を排出する工程、
(l)アンモニア水からアンモニアを除去し、アンモニアを失った水を得る工を有し、
電気化学セルは、
(i)陽極が配置された陽極電極室を含み、
(ii)陰極が配置された陰極電極室を含み、
(iii)スタックを含み、
(iv)2つの端部膜を含み、第1端部膜は、スタックと陽極電極室との間に配置され、第2端部膜は、スタックと陰極電極室との間に配置され、両方の端部膜は、陰イオン伝導膜、陽イオン伝導膜、双極性膜からなる群から同様に選択され、
(v)各双極性膜は、電気化学セル内において、その正電荷部分が陽極に向かい、その負電荷部分が陰極に向かうように配置される
という特徴を有し、
スタックは、
‐繰り返し単位を有し、繰り返し単位の数は、厳密にnであり、nは自然数であり
‐第1コンパートメントを有し、第1コンパートメントの数は厳密にnであり、
‐第2コンパートメントを有し、第2コンパートメントの数は厳密にnであり、
‐セパレータを有し、前記セパレータの数は厳密にsであり、sはs=2×n-1で計算され、
‐第1コンパートメントと第2コンパートメントは、スタック内で交互に配置され、それぞれセパレータによって互いに分離され、
‐各セパレータは、陰イオン伝導膜または双極性膜のいずれかであり、
‐陰イオン伝導膜であるセパレータの数aは、n=1の場合、a=1、n>1 の場合、a=n-1で計算され、
‐双極性膜であるセパレータの数bは、n=1の場合、b=0、n>1の場合、b=nで計算され、
‐n>1の場合、陰イオン伝導膜であるセパレータと双極性膜であるセパレータは、スタック内で交互に配置され、
‐各第1コンパートメントは、隣接する双極性膜の陽極側に配置されるが、隣接する双極性膜は、スタックの一部である必要はなく、
‐各第2コンパートメントは、隣接する双極性膜の陰極側に配置されるが、隣接する双極性膜は、スタックの一部である必要はない
という構造を有する方法により達成される。
【0038】
本発明は、このような方法を提供する。
【0039】
本発明の方法は、電気透析と水電気分解の併用である。その結果、硫酸アンモニウムがアンモニアと硫酸に分解される。
【0040】
従来の三室方法とは異なり、本発明の方法は、2つのコンパートメントのみを持つセルを使用するが、そのコンパートメントは、スタック内で複数並列化できる。この種のスケールアップは、複数のセルを並列に接続するよりも、はるかにコスト効率が高い。さらに、本発明のセル構造により、アンモニウムがセル内に滞留する時間が短くなるため、アンモニウムが膜を通過して他のコンパートメントまたは電極室に戻るのに十分な時間がなくなる。本発明の装置により、アンモニアを迅速に除去することもできる。
【0041】
特殊なスタック構造のおかげで、アンモニウム系化学物質の製造において世界規模で生成される、硫酸アンモニウム含量が非常に高い水を処理することも可能になる。
【0042】
好ましくは、電気化学セルは、厳密に1つの陽極電極室と、厳密に1つの陰極電極室と、厳密に1つのスタックと、厳密に2つの端部膜を備え、第1端部膜は、スタックと陽極電極室に直接隣接し、第2端部膜は、スタックと陰極電極室に直接隣接している。追加の構成要素を省くことで、セル構造は、非常に効率的になる。
【0043】
具体的には、スタックは、上記のコンパートメントとセパレータで構成されている。つまり、スタックには、上記の構成要素以外の構成要素はない。
【0044】
ただし、コンパートメントまたは電極室を、スペーサで跨ぐことも可能である。スペーサは、コンパートメントまたは電極室内の自由空間をあけたままにするプレースホルダーである。スペーサには電気化学的効果はないため、スタックの独立した構成要素ではない。むしろ、スペーサは、電極室またはコンパートメントの一部であると理解されるべきである。
【0045】
好ましくは、スケールアップは、スタック内の反復ユニットの数を増やすことにより達成される。さらに、ナンバリングアップも考えられる。その場合、方法を実行する系には、電圧源に並列に接続された多数の電気化学セルが含まれる。
【0046】
方法で生成されたアンモニアは、アンモニア水とともにセルから排出される。アンモニア水液体からのアンモニアガスの除去は、空気または窒素によるストリッピングによって達成されるのが好ましい。
【0047】
本発明の特に好ましい実施形態では、アンモニアは、減圧または真空下、すなわち0hPa~1013hPaの圧力下で、アンモニア水から除去される。減圧では、アンモニアは、ほぼ自然に逃げるため、必要なストリッピングガスが少なくなる。ただし、減圧下でも、ストリッピングガスによるストリッピングは可能である。この場合、それほど強い真空は必要ない。
【0048】
この方法は、バッチ、半バッチ、フィードアンドブリード、およびシングルパスのいずれかの動作モードで実行されることが好ましい。
【0049】
バッチ動作モードでは、硫酸アンモニウムを豊富に含む水が第1貯留容器に供給され、アンモニアを失った水が第1貯留容器に輸送される。および/または、酸性電解質が第2貯留容器に供給され、水性硫酸が第2貯留容器に輸送される。バッチ法は、特に実行しやすい。
【0050】
しかし、より経済的な選択肢は、有効な動作条件がより長く利用される半バッチ法である。この場合、硫酸アンモニウムを豊富に含む水が第1貯留容器に供給され、アンモニアを失った水が第1貯留容器に輸送され、第1貯留容器の内容物の一部が随時取り出され、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水と交換される。および/または、酸性電解質が二次貯蔵容器に供給され、水性硫酸が二次貯蔵容器に輸送され、二次貯蔵容器の内容物の一部が随時取り出され、新鮮な酸性電解質または水と交換される。
【0051】
特に好ましい動作モードは「フィードアンドブリード」であり、これは、硫酸アンモニウムを豊富に含む水が第1貯留容器に供給され、アンモニアを失った水が第1貯留容器に輸送され、第1貯留容器の内容物の一部が継続的に取り出され、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水と交換されること;
および/または、アンモニアを失った水の一部が第1貯留容器に輸送される前に継続的に取り出され、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水と交換されること;
および/または、酸性電解質が第2貯留容器に供給され、水性硫酸が第2貯留容器に輸送され、第2貯留容器の内容物の一部が連続的に取り出され、新鮮な酸性電解質または水と交換されること、および/または水性硫酸の一部が第1貯留容器に輸送される前に継続的に取り出され、新鮮な酸性電解質または水と交換されること
を特徴とする。
【0052】
フィードアンドブリード動作の利点は、このモードでは、充填されたアンモニウムのコンパートメント内での滞留時間が特に短くなることである。その結果、アンモニウムが膜を通過して移動する時間がない。これは、アンモニウムが高濃度でセルに流入する場合に特に有利である。
【0053】
サイクル式バッチ、半バッチ、およびフィードアンドブリード動作方法の代替として、本方法は、本明細書中で「シングルパス」と呼ばれる非サイクル式の設定で動作することもできる。これは、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水が継続的に供給され、アンモニアを失った水が継続的に排出されること、および/または新鮮な酸性電解質が継続的に供給され、水性硫酸が継続的に排出されることを特徴とする。シングルパスモードも同様に、アンモニウム濃度が高い場合に特に興味深い、方法の特に好ましい実行バリエーションである。これは、フィードアンドブリードモードと同様に、シングルパスでも滞留時間が短く、アンモニウムが膜を通過する時間がほとんどないためである。
【0054】
好ましくは、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水とは、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水の質量に対し、硫酸アンモニウムが25重量%~75重量%の濃度で存在する水であり、ガラス電極を使用して20℃で測定した新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水のpHは、5~9である。これらは、化学製品製造からの硫酸アンモニウム含有廃水の典型的な値である。特に好ましくは、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水の硫酸アンモニウム濃度は、30重量%~40重量%である。
【0055】
30重量%は、2.27モル/Lに相当する。40重量%は、3.03モル/Lに相当する。それぞれの場合、溶液中に存在するアンモニウムイオンのモル濃度は、2倍高くなる(1モル/Lの(NH4)2SO4は、2モル/LのNH4
+を生じる)。
【0056】
シングルパス動作モードでは、新鮮硫酸アンモニウム含有水がセルに直接流し込まれる。バッチ動作では、これは最初だけ当てはまる。バッチ動作の過程で、セルに流し込まれる硫酸アンモニウムを豊富に含む水の中の硫酸アンモニウム濃度は低下する。半バッチ動作では、硫酸アンモニウムを豊富に含む水の中の硫酸アンモニウム濃度は、一定の間隔後、第1貯留容器の内容物の一部を交換することにより、再び上昇する。フィードアンドブリード法では、セルに新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水が継続的に補充され、その結果、硫酸アンモニウムを豊富に含む水の中の硫酸アンモニウムの含有量はほぼ一定になる。
【0057】
好ましくは、電極洗浄液は循環される。この目的のために、電極洗浄液は、洗浄タンクに供給され、電極洗浄液は、洗浄タンクから2つの電極室に継続的に流し込まれ、そこから再び洗浄タンクに戻る。特に好ましくは、電極洗浄液は、一方の電極室に連続して通され、その後、他方の電極室に通される。
【0058】
電極洗浄液のpHは一定であるべきなので、電極洗浄液のpHを継続的に監視し、公称pHを超えた場合は水および/または硫酸を計量投入し、公称pHを下回った場合は水および/または硫酸アンモニウムを計量投入することが好ましい。
【0059】
循環される電極洗浄液の量も同様に一定であるべきである。これを確保するために、洗浄タンクの充填レベルを継続的に監視し、公称充填レベルを超えた場合は電解質洗浄液を排出させ、公称充填レベルを下回った場合は水および/または硫酸および/または硫酸アンモニウムを計量投入する必要がある。
【0060】
同様に、貯留容器の充填レベルも継続的に監視する必要があり、公称充填レベルを超えた場合は硫酸アンモニウムを豊富に含む水または酸性電解質を排出させ、公称充填レベルが下回った場合は水および/または硫酸および/または硫酸アンモニウムを計量投入する必要がある。
【0061】
本発明のさらなる好ましい実施形態は、図の説明および実施例から明らかになる。
【0062】
本発明の方法で使用される電気化学セル0の基本構造について、図面を参照して以下に説明する。図は概略図で示す。
図1:電気化学セル、基本構造
図2:双極性膜の分解図
図3.1:1個の反復ユニットを有するスタックの分解図
図3.2:2個の反復ユニットを有するスタックの分解図
図3.3:3個の反復ユニットを有するスタックの分解図
図4:媒体を充填した電気化学セル
図5:バッチ動作モード
図6:半バッチ動作モード
図7:フィードアンドブリード動作モード
図8:シングルパス動作モード
図9:セル内の電気化学プロセス
【0063】
電気化学セル0は、2つの電極室1、2、すなわち陽極電極室1と陰極電極室2を有する。陽極電極室1には陽極3が配置され、陰極電極室2には陰極4 が配置される。2つの電極室1、2には、各電極3、4に加えて、スペーサ(図示せず)も存在する。スペーサは、電極室の空間をまたいで開放状態に保つプレースホルダーである。スペーサにより、電極洗浄液が電極室1、2を通過できるようになる。これについては後で詳しく説明する。スペーサは、多孔質構造または織り合わせ構造であり得る。
【0064】
2つの電極室1、2の間には、スタック5が配置される。これについては後で詳しく説明する。ただし、スタック5は、2つの電極室1、2に直接隣接しているわけではない。代わりに、端部膜6、7が、スタック5と2つの電極室1、2のそれぞれとの間に配置される。陽極電極室1とスタック5の間には、陽極端部膜6が配置され、陰極電極室2とスタック5の間には、陰極端部膜7が配置される。
【0065】
2つの端部膜6、7は、陰イオン交換膜AEM、陽イオン交換膜CEM、または双極性膜BPMのいずれかである。両方の端部膜6、7が常に同種の膜であることが重要である。例えば、陽極端部膜6と陰極端部膜7は、どちらもAEM、CEM、またはBPMであってよい。2つの端部膜の揃いの膜タイプは、通常、自由に選択できる。反復ユニットが1つだけのスタックの場合のみ、両方の端部膜6、7が双極性膜BPMである必要がある。
【0066】
図2は、双極性膜BPMの構造を分解図で示す。双極性膜BPMは、正電荷のイオン交換膜8と負電荷のイオン交換膜9からなる積層体である。イオン交換膜8、9のそれぞれの電荷は、各イオン交換膜8、9が製造されるポリマーのプロトン化または脱プロトン化によって得られる。
【0067】
2つのイオン交換膜8、9は、双極性膜BPM内で直接隣接している。
図2に示されている距離は、分解図によるものである。スタック5内/電気化学セル0内の双極性膜BPMの配置は、正電荷のイオン交換膜8が陽極3に面し、負電荷のイオン交換膜9が陰極4に面するように配置される。
【0068】
図1に示す電気化学セル0の基本構造に関して、2つの電極3、4がそれぞれ第1の電気リード10と第2の電気リード11を介して、電圧源12に接続され、これにより、セル0が電圧源12から引き出された電圧Uで充電されることも言及する必要がある。次に、対応する電位が陽極3と陰極4の間で作用する。電圧源12は、陽極3が正(+)端子として機能し、陰極4が負(-)端子を形成するように接続される。動作中、電流Iが2つのリード10および11と電圧源12とを流れる。スタック5は電気絶縁体として機能するため、電極2、3の間には、電気ショートはない。
【0069】
図3.1は、スタック5の最も単純な構造を分解図で示す。最も単純な構造では、スタック5は、1つの反復ユニットRのみを有する。反復ユニットとは、スタック内で複数回繰り返すことができる構成要素の連続である。反復ユニットRの構成要素の連続は、本発明によれば下記の通りである。
コンパートメント-セパレータ-コンパートメント
【0070】
スタックは、複数の同一構造の反復ユニットを次々に接続することによって形成される。スタックの各構成要素は、厳密に1つの反復ユニットの一部である。スタックを構成する反復ユニットの数は、nで指定される。nは、自然数である。0は自然数ではないため、nが0になることはない。したがって、スタックには常に、少なくとも1つの反復ユニットが存在する。
【0071】
図3.1に示すスタック5の最も単純な形態では、反復ユニット数nは、ちょうど1である(n=1)。つまり、
図3.1に示すスタック5は、厳密に1つの反復ユニットRで構成されている。
【0072】
反復ユニットは、次の構成要素を有する:第1コンパートメント13、第2コンパートメント14、およびセパレータ15。セパレータ15は、2つのコンパートメント13、14の間に配置され、2つのコンパートメント13、14を互いに区切っている。
【0073】
2つのコンパートメント13、14は、流動性媒体を収容するために使用される空間である。これについては後で詳しく説明する。各コンパートメント13、14には、各コンパートメント13、14の空間にまたがり、その空間をあいたままにするスペーサ(図示せず)が充填されていてよい。スペーサは、例えば、流動媒体で満たされ得る多孔質構造または織り合わせ構造である。スペーサを使用すると、コンパートメント13、14内の規定容積を維持しながら、スタック5を積み重ねることが容易になる。
【0074】
2つのコンパートメント13、14の間に配置されるセパレータ15は、電気的に絶縁性であると同時に、イオン伝導性でなければならない。具体的には、セパレータ15は、電気絶縁材料で作られたイオン伝導膜である。セパレータ5の膜タイプは、任意に選択できないことが重要である。
図3.1に示すスタック5の最も単純な実施形態では、n=1であり、セパレータ15は陰イオン交換膜AEMである。
【0075】
本発明のセル設計では、第1コンパートメント13は常に、双極性膜BPM の陽極側に配置される必要があり、第2コンパートメント14は常に、双極性膜BPMの陰極側に配置される必要がある。n=1のスタックには、BPMが含まれていないため、両方の端部膜をBPMとして実行する必要がある。その場合、n=1のスタック5の順序は、陽極方向(
図3.1の左側)で次のようになる:第1コンパートメント13-セパレータ15-第2コンパートメント 14。
【0076】
スタックに複数の反復ユニットがある場合(n>1)、スタック内の選択されるセパレータは、陰イオン交換膜AEMと双極性膜BPMを交互に使用する必要がある。隣接する2つの反復ユニットの間にも、セパレータを配置する必要がある。したがって、反復ユニットは、互いに直接連続するのではなく、AEMとして実行されるセパレータによって分離される。端部膜は、自由に選択できる。
【0077】
厳密に2つの反復ユニットR(n=2)を有するスタック構造を
図3.2に示す。これは陰極方向である(
図3.2の右側):
第1コンパートメント13-双極性膜BPMとしてのセパレータ15-第2コンパートメント14-陰イオン交換膜AEMとしてのセパレータ15-第1コンパートメント13-双極性膜BPMとしてのセパレータ15-第2コンパートメント14。
【0078】
したがって、n=2の場合、スタック5には、厳密に2つの第1コンパートメント13と、厳密に2つの第2コンパートメント14とが含まれる。本発明のセル設計では、すべてのコンパートメント(陽極および陰極)の数kは、反復ユニットの数nの2倍に相当する(式1):
k=2×n(式1)
【0079】
さらに、n=2のスタック5には、3つのセパレータ15が含まれており、そのうちの2つは、BPMとして、1つはAEMとして実行される。したがって、セパレータ15は、交互に双極性膜と陰イオン交換膜になる。
【0080】
本発明のスタック構造では、AEMとして実行されるセパレータの数aは、式2による反復ユニットの数nから、次のように決定される:
【0081】
【0082】
本発明のスタック構造では、BPMとして実行されるセパレータの数bは、式3による反復ユニットの数nから、次のように決定される
【0083】
【0084】
式2および3から、スタック内のセパレータの総数sは、式4のとおりであることが直接わかる:
s=2×n-1 (式 4)
【0085】
図3.3は、n=3のスタック5の構造を示す。
表1は、反復ユニットの数nに応じて、コンパートメントの数k、陰イオン交換膜の数a、双極性膜の数b、およびセパレータの数sをまとめたものである。
表1:n<8の場合のk、s、a、bの値
【0086】
【0087】
スタック内の反復ユニットRの数nは、理論的には必要なだけ大きくすることができる。反復ユニットの数を増やすと、セルの電気化学的に活性な表面積が増加し、それによってスループットが向上する。ただし、取り付けられたセパレータの数に応じてセルの内部抵抗が増加するため、方法の電気効率は低下する。したがって、反復ユニットの数には、経済的な最適値がある。より具体的には、これは、セパレータの固有抵抗と膜材料コストの関数である。
【0088】
例えば、本発明の方法で使用される電気化学セルは、反復ユニットを100 個でも10個でも同じように簡単に有することができる。
【0089】
次に、
図4を参照して、電気化学セル0を動作させるために使用される媒体について説明する。
【0090】
硫酸アンモニウムを豊富に含む水16は、電気化学セル0で実施される電気透析の実際の供給物を表す。これには、水H2Oと硫酸アンモニウム(NH4)2SO4が含まれる。硫酸アンモニウムを豊富に含む水16は、セル0の第1コンパートメント13に流入する。電気化学セル0のスタックが1より多い反復ユニット(n>1)を有する場合、セルもそれに応じて、n個の第1コンパートメントを有する。硫酸アンモニウムを豊富に含む水16は、存在するすべての一時コンパートメント13に流入する。
【0091】
第1コンパートメント13では、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16がアンモニア水17に転化される。アンモニア水17には、水H2Oと、新たに生成されたアンモニアNH3が含まれており、アンモニアは、部分的に解離したNH4
+の形で存在する。アンモニア水には、未反応の硫酸アンモニウム(NH4)2SO4(図示せず)も含まれ得る。アンモニア水17に存在するすべての硫酸アンモニウムの濃度は、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16中の濃度よりも低くなる。硫酸イオンが水酸化物イオンと交換されると、アンモニア水17は塩基性になる。そのpHは、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16のpHよりも高くなる。アンモニア水17のpHは、9~14である。アンモニア水17は、方法の中間物であり、第1コンパートメント13から取り出される。
【0092】
酸性電解質18は、方法で生成された硫酸を排出するための補助媒体である。酸性電解質18は、水H2Oと硫酸H2SO4、および/または硫酸アンモニウム (NH4)2SO4を含む。酸性電解質18は、第2コンパートメント14に、またはスタックに複数の反復ユニットがある場合はすべての第2コンパートメント14に流入する。第2コンパートメント14に入る際、酸性電解質18は、イオン伝導性であるために、すでに硫酸および/または硫酸アンモニウムを含んでいる。
【0093】
第2コンパートメント14では、酸性電解質18で硫酸H2SO4がさらに生成され、それにより、酸性電解質18が硫酸水溶液19に転化される。硫酸水溶液19中の硫酸H2SO4の濃度は、酸性電解質18中よりも高くなっている。したがって、硫酸水溶液19のpHは、酸性電解質18のpHよりも高い。硫酸水溶液19は、第2コンパートメント14から取り出される。硫酸水溶液19の到達した硫酸濃度に応じて、後述するように、これを二次目的生成物として直接使用することも、またはさらに濃縮することもできる。
【0094】
電極洗浄液20も同様に補助媒体であり、電極3、4で反応物として機能すると同時に電解質としても機能する水を供給するために使用される。これには、水と硫酸および/または硫酸アンモニウムが含まれる。電極洗浄液は、2つの電極室1、2に流入し、そこで電極3、4と接触する。電極洗浄液20は、特に、対応するタンク21から取り出され、2つの電極室1、2を直列または並列に循環する(図示せず)。
【0095】
主な目的生成物であるアンモニアを得るために、アンモニア水17は、ストリッパー22に運ばれ、そこでストリッピングガス23、例えば窒素N2または空気が充填される(図示せず)。ガス状アンモニアNH3は、ストリッピングガス23によって、アンモニア水17からパージされ、アンモニアを失った水24が残る。ストリッピングプロセスは、必要に応じて、真空下、すなわち1013hPa未満の圧力で実施されてよい。
【0096】
本発明の方法は、バッチ、半バッチ、フィードアンドブリード、およびシングルパスの4つの動作モードが可能である。
【0097】
バッチ原理を
図5に示す。この場合、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16 は、第1貯留容器25に供給され、そこから電気化学セル0の第1コンパートメント13に流入する。第1コンパートメント13から取り出されたアンモニア水17は、ストリッパー22においてアンモニアが除去され、硫酸アンモニウムを失った水24が残る。ただし、これは、第1貯留容器25に戻され、最初に供給された硫酸アンモニウムを豊富に含む水と混合される。その結果、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16中の硫酸アンモニウムの濃度は、時間の経過とともに低下する。媒体が第1コンパートメント13、ストリッパー22、および第1貯留容器25を循環するため、硫酸アンモニウムを豊富に含む水 16のpHも常に変化する。
【0098】
バッチ動作では、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16の組成は、硫酸アンモニウムを豊富に含む水の総重量に対し、最初は約30~40重量%の(NH4)2SO4である。最初のpHは、5~9である。方法の過程で、組成は(NH4)2SO4、NH3、H2O、9<pH<14に変化する。NH3の最大見込み割合は、2つの物質の解離平衡により測定されるNH4
+ の残留割合に基づく。pH値は、適切な試験液で較正されたガラス電極を使用して20℃で測定した値である。
【0099】
図5に示すバッチ動作では、酸性電解質/水性硫酸も同様に循環される。このため、酸性電解質18は、第2貯留容器26に供給され、そこから第2コンパートメント14に流入する。そこから取り出された水性硫酸19は、第2貯留容器26に戻される。その結果、酸性電解質18内の硫酸濃度は、方法の過程で継続的に上昇し、pHも上昇する。
【0100】
酸性電解質18の開始値は、酸性電解質の体積を基準として、約1体積%のH2SO4および/または0~50g/Lの(NH4)2SO4の濃度である。方法の過程で、組成は、(NH4)2SO4、5%~20体積%のH2SO4、H2O、0<pH<7に変化する。
【0101】
一定期間後、方法で大量のアンモニアが生成され排出されるため、第1貯留容器25内の硫酸アンモニウム濃度が非常に低くなり、方法を経済的に運用できなくなる。その後、バッチ法は終了する。第2貯留容器26には、濃硫酸が保持されており、これはアンモニアとともに、この方法の第2の目的生成物である。
【0102】
バッチ法に最大濃度の硫酸アンモニウムを豊富に含む水16を充填する代わりに、一定期間の後に、第1貯留容器25の内容物の一部を、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水27と交換し、混合比から得られる濃度のアンモニアを豊富に含む水16を得ることも可能である。したがって、セルに流入するアンモニアを豊富に含む水16の硫酸アンモニウム濃度は、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水27の硫酸アンモニウム濃度以下になる。硫酸アンモニウムを豊富に含む水16の硫酸アンモニウム濃度は、セルに新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水27が補充されるまで低下する。
【0103】
同様に、第2貯留容器26の内容物の一部(濃硫酸H2SO4)を、一定期間後に取り出し、新鮮な水28と交換することができる。これにより、酸性電解質18のpHが再び上昇する。
【0104】
貯留容器25、26の内容物を部分的に交換するこの動作モードは、半バッチと呼ばれ、
図6に概略が示されている。
【0105】
半バッチ動作では、バッチ法と同じアンモニウムを豊富に含む水16を使用するが、媒体を交換することで、開始濃度および/または終了濃度がそれほど極端ではなくなる。例えば、第1貯留容器の内容物は、(NH4)2SO4、NH3、H2O、9<p<14で部分的に交換され、第2貯留容器は、(NH4)2SO4、H2SO4、H2O、0<pH<7で水で希釈されてよい。
【0106】
本発明の好ましい実施形態では、新鮮な硫酸アンモニウムを豊富に含む水27が第1貯留容器25に継続的に流入し、硫酸アンモニウムを失った水24 が方法から継続的に排出される。前と同様に、混合比から得られる濃度のアンモニアを豊富に含む水16が生成される。同様に、硫酸水溶液19は方法から継続的に取り出され、第1貯留容器26には新鮮な水28が補充される。ここでの目的は、両方の貯留容器のpHを狭い範囲内で一定に保つことである。この動作モードは、フィードアンドブリードと呼ばれる。
図7に概要を示す。
【0107】
フィードアンドブリードモードで選択される濃度は次のとおりである。
第1貯留容器25では、組成は、(NH4)2SO4が0~40重量%、5.5<pH<14に設定される。NH3濃度は、継続的に取り出されることによって可能な限り低く保たれる。第1コンパートメント13から取り出されたアンモニア水17の組成は、次のとおりである。(NH4)2SO4の残留割合は、0~10重量%であり、NH3の最大見込み割合は、9.5<pH<14での2つの物質の解離平衡によって決定されるNH4
+の残留割合に基づく。
【0108】
フィードアンドブリードモードでは、真水28の添加と、処理済みの「ブリード」、つまり水性硫酸19の排出とによって、第2貯留容器26において一定の動作点が確立される。この場合、第2貯留容器26内で、水と硫酸アンモニウムと硫酸との混合物が 0~7のpHで得られる。濃度は、添加された水による希釈に左右されるため、正確な濃度を規定しても役に立たない。第2コンパートメント14の出口には、次の組成が存在する:0~20体積%のH2SO4、H2O、pH0~7。
【0109】
バッチ、半バッチ、フィードアンドブリードの各動作モードで、2つのコンパートメント13、14を循環させる代わりに、各媒体を1回で(再利用せずに)コンパートメントから排出することも可能である。この動作モードは、シングルパスと呼ばれ、
図8に示される。
【0110】
シングルパス動作で選択される濃度は、次のとおりである:
シングルパス動作では、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16が、セル0の第1コンパートメント13に直接流入する。(NH4)2SO4の濃度は、25~75重量%、または30~40重量%である。pHは、5~9である。第1コンパートメント13の出口では、次の組成を有するアンモニア水17が取り出される:(NH4)2SO4は、0~10重量%であり、NH3の最大見込み割合は、pH9~14での2つの物質の解離平衡によって決定されるNH4
+の残留割合に基づく。
【0111】
シングルパス法では、酸性電解質18の組成は、酸性電解質の体積に対し、約1体積%のH2SO4、および/または0~50g/Lの(NH4)2SO4の濃度である。シングルパス法で第2コンパートメント14から取り出された水性硫酸は、pHが0~7であり、H2SO4濃度が5~20体積%である。
【0112】
もちろん、本明細書中で提示した動作モードを混合することも可能である。例えば、フィードアンドブリードによる循環で第1コンパートメントを通過させ、シングルパスで第2コンパートメントを通過させることができる。
【0113】
すべての動作モードに共通しているのは、電極洗浄液20がタンクと2つの電極室1、2とを循環することである。その理由は、電極洗浄液20の組成がほとんど変化しないためである。電極洗浄液20には、水、硫酸、および/または硫酸アンモニウムが含まれ、ガラス電極を使用して20℃で測定した電極洗浄液のpHは、0~9である。
【0114】
最後に、共通モデル概念に従って、セル0中で予想される電気化学プロセスについて説明する。このために
図9を使用する。
【0115】
図9に示す電気化学セル0には、2つの反復ユニットR(n=2)が存在する。2つの端部膜6、7は、陰イオン交換膜AEMとして実行される。セパレータ15もAEMである。したがって、
図9に示されるセル0のスタック5は、
図3.2に示すものに対応する。
【0116】
方法は、水性媒体で動作されるため、すべてのコンパートメント13、14および電極室1、2には、水H2Oが存在する。
【0117】
さらに、第1コンパートメント13には、硫酸アンモニウム(NH4)2SO4が存在する。これは、硫酸アンモニウムを豊富に含む水16とともに、第1コンパートメント13に導入されていた。硫酸アンモニウムは、水に溶解しているため、アンモニウム陽イオンNH4
+と硫酸陰イオンSO4
2-の形で存在する。
【0118】
さらに、第2コンパートメント14には、水のほかに、硫酸H2SO4も存在する。これは、酸性電解質18とともに、第2コンパートメント14に導入されていた。硫酸は、水中で解離するため、オキソニウム陽イオンH3O+と硫酸陰イオンSO4
2-の形で存在する。
【0119】
電極洗浄液20には水だけでなく、硫酸アンモニウムと硫酸も含まれるため、前述のイオンも同様に、2つの電極室1、2に存在し得る。
【0120】
電気化学セル0には電圧源(本明細書では示されていない)から引き出された電圧Uが印加されるため、対応する電位が陽極と陰極の間で作用する。これにより、陰イオンが陽極3に向かって移動し、陽イオンが陰極4に向かって移動する。この方法中、硫酸陰イオンSO4
2-は、陰イオン交換膜AEMを通過できる。しかし、双極性膜BPMは、その負電荷のイオン交換膜9が陰極4に面するように配置されているため、硫酸陰イオンSO4
2-は、BPMにより拒絶される。その結果、硫酸陰イオンSO4
2-は、双極性膜BPMの陰極側、つまり第2コンパートメント14に蓄積される。同様に、アンモニウム陽イオンNH4
+は、双極性膜BPMを陰極4の方向に通過できず、第1コンパートメント13に蓄積される。特定の陰イオンと陽イオンを専用コンパートメントに濃縮する方法は、電気透析と呼ばれる。
【0121】
本発明の方法では、水H2Oのオキソニウム陽イオンH3O+と水酸化物アニオンOH-への電気分解が、電気透析と並行して行われる。水電気分解は、各電極室で起こる陽極反応(I)と陰極反応(II)とに分けられる:
6H2O→O2+4H3O++4e- (I)
2H2O+2e-→H2+2OH- (II)
【0122】
2つの副次反応(I)および(II)による水電気分解は、中性溶液における水電気分解のバリエーションである。陽極電極室1と陽極電極室2の酸性条件が強まると、酸性溶液における水分解のバリエーションも生じる(図示せず)。方法の開始時に、電極洗浄液20が塩基性である場合、塩基性水の分解も生じる(図示せず)。
【0123】
水分解で生成される水素H2および酸素O2のガスは、電極洗浄液20から除去され、他の方法の材料として使用することも、燃料電池中で電気を生成するために使用することもできる。得られた電気は、電圧源に電力を供給するために使用できる。ガスは、電極洗浄液から自然に泡立ち出てくるため、ガスの除去は容易である。唯一重要なことは、爆発性ガス混合物の爆発が起こらないように、酸素と水素を別々に除去することである。スタックの有効表面積は、電極室の有効表面積よりもはるかに大きいため、本明細書ではこれについて詳しく説明しない。スタック内の電気化学的効果は、電極室のそれよりも大幅に大きい。その結果、水素および酸素よりも多くのアンモニアおよび硫酸が生成される。
【0124】
さらに重要なことは、双極性膜BPM内で生じる第2の水分解である。すでに述べたように、双極性膜の材料は、水を吸収するため、BPMの界面の電位では、水は同様に、OH-とH3O+に分解される。BPMの極性により、生成された水酸化物イオンOH-が、BPMの陽極側に配置された第1コンパートメント13に移動し、オキソニウム陽イオンH3O+がBPMの陰極側にある第2コンパートメント14に移動する。
【0125】
第1コンパートメント13では、水分解に伴って、水酸化物イオンOH-がそこに存在するアンモニウム陽イオンNH4
+と結合し、平衡反応(IV)に従ってアンモニアNH3を形成する:
NH4++OH-⇔NH3+H2O (IV)
【0126】
第2コンパートメント14では、オキソニウム陽イオンH3O+がそこに蓄積している硫酸陰イオンと結合し、平衡反応(V)に従って硫酸H2SO4と水H2Oを形成する:
2H3O++SO4
2-⇔H2SO4+2H2O (V)
【0127】
硫酸は、水中で通常の方法で解離する。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【
図3.1】1個の反復ユニットを有するスタックの分解図である。
【
図3.2】2個の反復ユニットを有するスタックの分解図である。
【
図3.3】3個の反復ユニットを有するスタックの分解図である。
【
図10】Fuji社のAEMとRalex社のAEMを使用したバッチ実験における体積変化率の比較である。
【
図11】Fuji社のAEMとRalex社のAEMを使用したバッチ実験でのアンモニウムおよびアンモニアの濃度の比較である。
【
図12】Fuji社のAEMを使用したバッチ実験でのpH進行の比較である。
【
図13】半バッチ実験におけるRalex社AEMとBPMで構成される5個と7個の反復ユニット間のpH進行の比較である。
【
図14】半バッチ実験におけるRalex社AEMとBPMで構成される5個と7個の反復ユニット間のアンモニウム濃度の比較である。
【
図15】半バッチ実験におけるRalex社AEMとBPMで構成される5個と7個の反復ユニット間の体積進行の比較である。
【実施例0129】
実験
本発明により達成される効果を実験的に調べる。これに関連して、本発明の方法のさらなる詳細を開示する。
【0130】
実験のセットアップと手順
材料
実験では、表2記載の膜を使用した。取り付ける前に、膜を10g/Lの硫酸アンモニウム(Carl Roth GmbH + Co. KG社、99.5%以上、分析グレード)に少なくとも24時間浸漬した。
表2:膜タイプ
【0131】
【0132】
電解質溶液は、いずれの場合も、硫酸アンモニウム(Carl Roth GmbH + Co. KG社、99.5%以上、分析グレード)、硫酸ナトリウム(Merck KGaA社、Supelco、EMSURE)、脱塩水で調製した。
【0133】
実験のセットアップ
実験のセットアップの中心は、
図9に示すように、電気化学セルの内部にあるセルスタックである。これは、陰イオン(この場合は、硫酸イオンおよび/または水酸化物イオン)と非荷電物質(この場合は、水および未溶解アンモニア)のみを通過させる陰イオン交換膜(AEM)と、水がOH
-とH
3O
+に解離し、非荷電物質のみを通過させる双極性膜(BPM)と、を含む。これらの膜は、交互に配置され(実験例では、AEM、BPM、AEM、BPM、AEM)、塩基性サイクルと酸性サイクルとを分ける。シーリングエッジを備えたスペーサ(Deukum GmbH社)を、膜の間と、最も外側の膜と電極室の間と、に取り付ける。BPMとAEMの組み合わせを、本明細書では反復ユニットと呼ぶ。2つの外側室には、水をH
2とO
2に分解する電極がある。これらの電極室を流れるのは電極洗浄液であり、電極洗浄液は、導電性を付与し、生成されたガスを運び去る。溶解アンモニアが塩基性サイクルで生成され、硫酸は酸サイクルで生成される。
【0134】
全体的な状況では、実験セットアップは、
図5に示すように、電気透析セル (EDセル、17.5×17.5cm
2の活性膜表面積、Deukum GmbH社)と、それぞれにポンプを備えた貯留容器(Verder Deutschland GmbH & Co. KG社、供給物と酸用のV-MD20C-H、電極洗浄液用のV-MD10)と、エアストリッパーとで構成されている。エアストリッパーの目的は、生成されたアンモニアを空気流を介して基本電解質から排出することである。
図5は、EDセルに電力を供給するために使用した整流器(FuG Elektronik GmbH社、0~30Aで0~150V)を示していない。
【0135】
実験手順
硫酸アンモニウム濃度が高い廃水からアンモニアを抽出するには、双極性膜(BPM)-陰イオン交換膜(AEM)-BPMの順に膜が取り付けられた電気透析セルが必要である。セルは、シリコンホースで、供給物と酸と電極洗浄液とを含む3つの貯留容器に接続されている。3つのポンプが3つのループで溶液をセルに循環させる。供給物は、0~350g/Lの硫酸アンモニウムを含み、酸容器と電極洗浄液は、それぞれ0~50g/Lの硫酸アンモニウムを含む。電気透析セルの供給ループ下流には、生成されたアンモニアを除去するエアストリッパーがある。フィードアンドブリードモードでは、セルとエアストリッパーの下流のバルブを介して、ループから液体を取り出すことができる。
【0136】
2つの異なるモードで実験を実施した。1つは「バッチ」モードで、もう1つは「半バッチ」モードであり、これは同時に、滞留時間が延びた「フィードアンドブリード」モードをシミュレートする。
【0137】
バッチモードは、以下のように実施する。
1.貯留容器に液体を充填する。
2.液体を循環させ、室とホースから空気をパージする。
3.電気透析セルに電圧を印加する。
4.供給物導電率が約10mS/cm未満になるまでアンモニウムを喪失させる。
【0138】
その後、実験を終了し、貯留容器から排水し、洗浄する。実験が進行している間、イオンクロマトグラフィー測定用に定期的に試料を採取し、pHと導電率を監視する。
【0139】
半バッチモードの方法手順は、次のとおりである。
1.貯留容器に液体を充填する。
2.液体を循環させ、室とホースから空気をパージする。
3.電気透析セルに電圧を印加する。
4.供給物導電率が約10mS/cm未満になるまでアンモニウムを喪失させる。
5.供給物の一部を取り出す(ブリードモード)。
6.新鮮な供給物を添加する。
7.目的の供給物溶液が精製されるまで手順4~6を繰り返す。
半バッチモードでも、試料を採取し、上記のように測定を行う。
【0140】
アンモニウム濃度のイオンクロマトグラフィー測定
試料中のアンモニウム濃度を、Metrohm社のイオンクロマトグラフを使用して測定した。この測定手順では、液体試料を溶離液に導入し、イオン交換樹脂コーティングが施されたカラムに通す。イオン交換樹脂と溶液中のイオンとの相互作用により、試料は個々の画分に分離され、導電率検出器で定量化される。
この方法では、イオン交換樹脂コーティングの継続的な破壊を防ぐために、試料のpHを約2に調整する必要がある。これにより、供給物試料に溶解したアンモニアがアンモニウムに転化する。したがって、測定するのは常に、総アンモニウム濃度である。実験中に記録したpH値から、式5を使用して、溶解したアンモニア濃度を逆算できる。
【0141】
【0142】
9.5は、20℃でのアンモニウム/アンモニア溶液のpKaである。
【0143】
実験結果と考察
方法の工業的実用性を調べるために、さまざまなスタック構成、開始媒体および開始濃度、電流密度、ならびに膜を使用した実験室実験を行った。実験での焦点は、一般的な実現可能性を実証することであったが、それに加えて、経済的実現可能性も評価した。その補助として、系のスケールアップに影響を与えるさまざまな要因をシミュレートして調査するために、Pythonモデルを使用した。
【0144】
方法の実現可能性に影響を与える要因の1つは、ループ間の水輸送である。したがって、目標は、可能な限りバランスのとれた水分バランスと、水電気分解による電極洗浄液のみの不足でなければならない。水輸送は、使用する膜、電流密度、および存在する濃度によって大きく左右される。さらに、溶解した硫酸アンモニウムは、可能な限り短い滞留時間で反応する必要があり、生成されたアンモニアは、「間違った」ループへの拡散が最小限に抑えられる必要がある。この拡散は、滞留時間と膜の特性によって影響を受ける。
【0145】
選択したAEMの影響
同じ実験条件で異なるAEM膜を使用した2つのバッチ実験を比較すると、貯留容器の充填レベルの推移が著しく異なることがすぐにわかる。
【0146】
図10は、Fuji社のAEMとBPMを使用した実験における数日間の実験期間にわたる充填レベルの推移と、Ralex社のAEMとBPMを使用した実験における推移とを比較したものである。
図10:Fuji社のAEMとRalex社のAEMを使用したバッチ実験における体積変化率の比較。いずれの場合も、反復ユニットは2つであった。
【0147】
実験を590A/m2で実施した。使用した開始濃度は、供給物に350g/Lの硫酸アンモニウム、酸に0.5g/L、電極洗浄液に100g/Lの硫酸ナトリウムであった。
【0148】
両方の実験において、18A(588A/m2)の電圧が印加され、供給物には硫酸アンモニウム350g/L、酸には0.5g/L、電極洗浄液には硫酸ナトリウム100g/Lを充填した。体積を開始体積(100%)に正規化し、脱塩水による断続的な補充や溶液の一部の流出は、除外した。
【0149】
図10は Fuji膜を使用した実験を示す。この実験では、14時間以内に、酸貯留容器の容量が100%から174%に即座に増加しているのが確認できる。6.75時間の実験時間後、実験を一晩停止した。その後、勾配がわずかに増加した。供給物と電極洗浄液の充填レベルは、同じ時間間隔で、酸と逆の挙動を示す。供給物の体積は、19%に低下し、勾配の増加も同様に確認され、電極洗浄液の体積は、勾配に変化なく54%に低下する。
【0150】
Ralex膜を使用した実験では、すべての充填レベルの推移は、約8時間(1実験日)まで比較的一定である。その後、酸の充填レベルは、52.5時間~66時間の間に、最低で32%に低下し、その後、76.5時間で再び38%に上昇する。供給物の充填レベルは、ほぼ一定の推移を示し続け、約31.5時間から着実に低下し、76.5時間で6%になる。電極洗浄液の充填レベルは、16時間で118%の極大値に達した後、供給物とほぼ同時に着実に上昇し始め、76.5時間で170%になる。
【0151】
図11の濃度推移の比較でも違いが見られる。
図11:Fuji社のAEMとRalex社のAEMを使用したバッチ実験でのアンモニウムおよびアンモニアの濃度の比較。いずれの場合も、反復ユニットは2つであった。
【0152】
図11に示す実験を、590A/m
2で実施した。使用した開始濃度は、供給中に350g/Lの硫酸アンモニウム、酸に0.5g/L、電極洗浄液に100g/Lの硫酸ナトリウムであった。
【0153】
両方の実験とも、供給物中のアンモニウム濃度は約4モル/Lから開始した。これは、構造のデッドボリューム内に残っている水による希釈のため、35重量%溶液の予想される5.30モル/Lよりも低くなる。IC測定方法で説明したように、測定の性質上、測定したアンモニウム濃度は、アンモニウムとアンモニアの総量を表す。
【0154】
Fuji膜の場合(
図11のグラフA)、この濃度は、14時間以内に0.44モル/Lに低下し、同時に、酸中のアンモニウム濃度は1.97モル/Lに、電極洗浄液中のアンモニウム濃度は1.43モル/Lに上昇する。記録したpH値の推移から、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して、供給物中に存在する溶解アンモニアの濃度を計算することができる。これは、0モル/Lから始まり、3時間で最大1.42モル/Lに達し、その後、約10.75時間から総アンモニウム濃度と重なる。後者は、すべてのアンモニウムがアンモニアとして存在することを意味する。
【0155】
Ralex膜を使用した実験(
図11のグラフB)では、供給物濃度も同様に低下し、40.5時間以内に0.47モル/Lの値に達し、その後、濃度はより緩やかに低下し、76.5時間後に0.1モル/Lになる。他の貯留容器内のアンモニウム濃度も同様に、極大値(酸では20時間後に2.2モル/L、電極洗浄液では67.5時間後に0.94モル/L)に達する。供給物に溶解したアンモニアは、0モル/Lから始まり、8時間で2.06モル/Lの最大値に達し、その後低下し、31.5時間以降は総アンモニウム濃度と重なる。
【0156】
Fuji膜を使用した実験は、水の膜保持が大幅に低下したことを示している。これは、アンモニウムイオンの水和エンベロープを持つ高電流密度によって輸送される。この流れは、最初は、低濃度(酸)の室から高濃度(供給液)の室への高い浸透圧差から生じる水流により妨害される。しかし、この実験ではその影響は認められない。水は電極室内で着実にH2とO2に転化されているため、電極洗浄液の体積が着実に減少することは、このような方法中で予想される。さらに、膜は、アンモニウムイオンと溶解アンモニアの保持も比較的低くなっている。酸と電極洗浄液のアンモニウム濃度の急激な上昇は、この透過性を証明している。溶解した非荷電アンモニアは、膜で妨げられることなく拡散すると考えられる。このため、滞留時間をできるだけ短くし、アンモニア濃度を低くすることが望ましい。拡散するアンモニアの量は、これらの要因に左右される。
【0157】
対照的に、Ralex膜は、高いイオン電流と浸透圧差の両方の結果として、水輸送に対してはるかに高い抵抗を示す。これは、開始体積からの変化がごくわずかであることから認められる。約8時間後から、高濃度勾配の結果として、浸透圧による酸から電極洗浄液への水輸送が生じる。これは、電極洗浄液中の高濃度が維持されていることを示す。さらに、供給溶液の体積減少の急な始まりは、アンモニウムからアンモニアへの完全な転化と同時に発生する。ここでも、滞留時間とアンモニア濃度に関して、同じ結論を導き出すことができる。
【0158】
実験ごとに異なる3A(100A/m
2)~18A(590A/m
2)の固定電圧で、Fuji膜を使用した実験では、供給物のpH値の進行を測定した(
図12のグラフを参照)。
図12:Fuji社のAEMを使用したバッチ実験でのpH進行の比較(いずれの場合も、2つの反復ユニットを使用)。
【0159】
使用した開始濃度は、供給液に硫酸アンモニウム350g/L、酸に0.5g/L、電極洗浄液に硫酸ナトリウム100g/Lであった。
【0160】
100A/m2での実験では、約3時間後にpHが最大8.25まで上昇し、その後約7時間で7.44まで低下し、その後7.25時間で7.51までわずかに上昇する。より高い電流密度での実験は、基本的に異なる推移を示す。pHは、約30分以内に急速に上昇し、その後はわずかな変化しか見られない。したがって、pHは、160A/m2では約6.5時間で8.93であり、330A/m2では4.75時間で9.17であり、590A/m2では約8.6時間で9.64であり、690A/m2では7時間で9.81である。後半2つのケースでは、その後pHが急激に上昇し、その後はほぼ一定のままである。590A/m2では10.75時間で約12.1であり、690A/m2では9時間で約12.2である。
【0161】
これらの実験から、電流密度が高いほど、アンモニウムが完全に転化される前のpHも高くなることが推測できる。さらに、電流密度が最も高い2つの実験におけるpHの急上昇は、アンモニウムが完全に転化された時間であると解釈でき、十分な時間が経過すれば他の実験でも確実に発生する。ただし、前述のアンモニア損失のため、滞留時間をできるだけ短くし、電流密度を高くすることを目標とする。記録した急上昇は、ファラデーの法則から計算した時間(590A/m2の場合は約4時間、690A/m2の場合は約3.2時間)よりもかなり後に発生するが、この転化効率は、後述するように、方法の調整とスケールアップによって大幅に向上できる。
【0162】
半バッチでの挙動と膜数の影響
スケールアップには、さらなるデータが必要であり、方法を可能な限り継続的に動作させる必要がある。その結果、
図13に示すように、半バッチ動作でさらに実験を行った。
図13:半バッチ実験におけるRalex社AEMとBPMで構成される5個と7個の反復ユニット間のpH進行の比較。
【0163】
実験を590A/m2で行った。供給物導電率が10mS/cmを下回った場合は、溶液の一部を新鮮な供給物と交換した。使用した硫酸アンモニウムの開始濃度は、供給物中で50g/L、酸と電極洗浄液中で30g/Lであった。
【0164】
さらに、フィードアンドブリードモードでの動作をシミュレートするために最初に投入した濃度を調整した。フィードアンドブリードモードでは、アンモニウムを豊富に含む供給溶液がすべてのサイクルで継続的に希釈され、硫酸アンモニウムと交換される。同時に、電極洗浄液の影響を最小限に抑えるために、反復ユニットの数をそれぞれ5個と7個に増やした。
【0165】
示した実験では、開始濃度は、供給物で50g/L、酸と電極洗浄液で30g/Lであった。両方の実験は、590A/m2(18A)で実施した。供給物の導電率が10mS/cmを下回るまで、実験を実施した。その後、溶液の一部を交換した。
【0166】
2つの実験において、pH値の推移は、基本的に同様である。供給物では、pH、は約30分以内に9.75(5個の反復ユニット、
図13のグラフA)または10.5(7個の反復ユニット、
図13のグラフB)まで上昇する。その後、導電率がアンモニウム転化の指標となる閾値を下回ったときに、250 mL(約16%)の供給溶液を350g/Lの硫酸アンモニウム溶液と継続的に交換することにより、pHをA)では9.36~10.0、B)では9.39~10にそれぞれ維持する。酸のpHと電極洗浄液のpHは、まず、約30分以内に、A)ではそれぞれ約1.17と3.0まで低下し、B)ではそれぞれ3.55と1.34まで低下する。その後、A)ではそれぞれ約0.69と1.78まで低下し続け、B)ではそれぞれ0.73と1.86まで低下し続ける。
アンモニウム濃度の推移を
図14に示す。
図14:半バッチ実験におけるRalex社AEMとBPMで構成される5個と7個の反復ユニット間のアンモニウム濃度の比較。
【0167】
アンモニウム濃度(
図14)は、A)とB)の両方において、供給物中での上昇傾向を示している。アンモニア転化とエアストリッパーを介したオフガスへの排出の段階が、供給物の一部の規定の交換と交互に行われる。
【0168】
5個の反復ユニットを使用した実験(
図14、グラフA)では、供給物の初期濃度0.71モル/Lは、0.58時間後に、0.6モル/Lに低下し、その後の交換で1.28モル/Lに上昇する。その後の低下は、より顕著である。濃度は、1.15時間で1.01モル/Lに低下し、その後、1.53モル/Lに上昇する。この挙動を、濃度が最終的に2.95時間後に1.39モル/Lに低下するまで、繰り返す。補充と停止の間隔は、常に約35.4分である。酸および電極洗浄液中の濃度は、約0.2モル/Lでほぼ一定のままである。酸中の濃度のみが1.78時間で0.13モル/Lまで顕著に低下し、その後、2.95時間で0.29モル/Lに上昇する。
【0169】
同様の挙動が、7個の反復ユニット(
図14のグラフB)でも見られる。供給物では、濃度は、0.46時間後に、0.76モル/Lから0.63モル/Lに低下する。その後の混同(350g/Lの硫酸アンモニウム溶液と交換する代わりに、水と交換した)により、0.58モル/Lまで低下した。ただし、次のサイクルでは、濃度は、0.85時間後に、0.94モル/Lまで再び上昇した。これは、時間の経過とともにわずかに上昇し、1.22時間後に0.98モル/Lになった。その後、濃度は、2.1時間で最後に低下した後、交換と処理によって1.44モル/Lまで上昇した。間隔の平均時間は、約25.2分であった。この実験でも、酸および電極洗浄液中の濃度は、約0.2モル/Lで一定のままであったが、酸中の濃度は、1.22時間から、2.1時間で0.28モル/Lに上昇した。
【0170】
体積変化も、連続プロセスの実現可能性に関する重要なパラメータとして監視した。
図15:半バッチ実験におけるRalex社AEMとBPMで構成される5個と7個の反復ユニット間の体積進行の比較。
【0171】
図15に示すように、両方の実験では、供給物は1600mLで開始し、他の2つの溶液はそれぞれ2000mLで開始した。供給物を、各サイクル後に、上記のように開始体積まで補充し、体積が増加した後、酸を開始値まで流出させた。5個の反復ユニットを使用した実験(
図15のグラフA)では、供給物体積が各サイクルで約1500mLまで大幅に減少していることがわかる。酸は、毎回約2100mLまで増加している。電極洗浄液は、2.95時間後に、2330mLまで継続的に増加している。
【0172】
7個の反復ユニットを使用した実験(
図15のグラフB)では、まず、供給物体積1350mLまでより顕著に減少し、その後、体積はほぼ1600mLのままである。言い換えると、再度補充する必要もなかった。酸では、まず、体積が2130mLまで増加し、その後は、2回の小さな増加を除いて、約2000mLのままである。電極洗浄液は、まず、2100mLまで増加し、その後はほぼこの体積のままである。
【0173】
これらの実験は、第一に、膜の数が多いほど転化が速くなることを示している。これは、膜の数が多いほど、同じ電流密度で同じ滞留時間内に輸送されるイオンが増えるためである。これに反すると、抵抗が増し、したがって必要な電圧が高くなる。電極洗浄液の影響が小さいことも明らかであり、これは、抵抗が比例して低くなることにより示されている。
【0174】
NH4の濃度と体積を調べると、まず、開始濃度を調整しても酸と電極洗浄液にほとんど変化がないことがわかる。これは、反復ユニットが多い場合に特に顕著である。供給物では、体積もほとんど変化しないが、アンモニウム濃度の上昇が記録されている。これは、アンモニアをストリッピングするために使用した実験室セットアップが十分な出力を提供できず、パスのたびにアンモニアが蓄積するためである。したがって、工業規模では、適切な割合の市販のストリッパーを工場設備に装備する必要がある。
【0175】
さらなる動作モードのモデル予測
フィードアンドブリードモードで動作するパイロットプラントでは、膜スタックの抵抗評価とファラデー式に基づくシミュレーションモデルをさらに作成した。このために、開始アンモニウム濃度をさらに推定し、理想的な膜挙動を推定した。
【0176】
図7は、このようなセットアップの概要を示す。パイロットモジュールは、膜あたりの有効膜表面積が大きく、この例では、より多くの反復ユニットで動作する。
【0177】
理想的仮定に基づいて、Ralex膜で達成可能なアンモニア製造の最低エネルギーコスト(周辺コストなし)は、6.5kWh/kgNH3で計算した。これらのエネルギーコストは、小規模の実験室条件下で得られる文献値(3.9kWh/kgNH3、van Lindenら、2019年)に相当する。したがって、さらに大規模な製造工場では、さらなるエネルギー節約が可能になると予想される。
【0178】
結論
3つの膜(追加のCEMを含む)ではなく、2つの膜(BPMとAEM)のみを使用することで、電気透析中のサイクル間の濃度差が小さくなる。これにより、水の輸送が妨げられることが少なくなる。この効果は、反復ユニットの数が増えることでも高まる。
フィードアンドブリードモードには、同様の利点がある:コンパートメント間の濃度勾配は、従来のシングルパスモードよりも低くなる。これにより、膜を通したアンモニアの損失と水の輸送が減る。
フィードアンドブリードパイロット操作のシミュレーションでは、アンモニアの回収に有望なエネルギーコストが示されている。対応する方法は、工業規模でも実行可能であると思われる。
【0179】
符号リスト
0 電気化学セル
1 陽極電極室
2 陰極電極室
3 陽極
4 陰極
5 スタック
6 陽極端部膜
7 陰極端部膜
8 正荷電イオン交換膜
9 負荷電イオン交換膜
10 第1電気リード線
11 第2電気リード線
12 電圧源
13 第1コンパートメント
14 第2コンパートメント
15 セパレータ
16 硫酸アンモニウムを豊富に含む水
17 アンモニア水
18 酸性電解質
19 硫酸水溶液
20 電極洗浄液
21 電極洗浄液タンク
22 ストリッパー
23 ストリッピングガス
24 アンモニアを失った水
25 一次貯留容器
26 二次貯留容器
27 硫酸アンモニウムを豊富に含む新鮮な水
28 新鮮な水
AEM 陰イオン交換膜
CEM 陽イオン交換膜
BPM 双極性膜
(+) 正極
(-) 負極
R 反復ユニット
n 反復ユニットの数
s セパレータの数
k コンパートメントの数
a AEMとして実行されるセパレータの数
b BPMとして実行されるセパレータの数
N2 窒素
H2 水素
O2 酸素
NH3 アンモニア
H2SO4 硫酸
H2O 水
(NH4)2SO4 硫酸アンモニウム
NH4
+ アンモニウム陽イオン
SO4
2- 硫酸陰イオン
OH- 水酸化物陰イオン
H3O+ オキソニウム陽イオン