(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151339
(43)【公開日】2024-10-24
(54)【発明の名称】仮固定用組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 4/02 20060101AFI20241017BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024118767
(22)【出願日】2024-07-24
(62)【分割の表示】P 2024509795の分割
【原出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2022048920
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】谷川(星野) 貴子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 拓充
(72)【発明者】
【氏名】内田(濱口) 留智
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準
(57)【要約】
【課題】仮固定用途においてテープ剥離時のテープの割れを抑制できる手段の提供。
【解決手段】下記(A)~(B)を含有し、23℃における貯蔵弾性率が、0.66GPa以下であることを特徴とする仮固定用組成物。
(A)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(B)光ラジカル重合開始剤
前記硬化体は、前記仮固定用組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μmになるまで押し広げ、UV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2)を用いて積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化したものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(B)を含有し、23℃における硬化体の貯蔵弾性率が、0.66GPa以下であることを特徴とする仮固定用組成物。
(A)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(B)光ラジカル重合開始剤
前記硬化体は、前記仮固定用組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μmになるまで押し広げ、UV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2)を用いて積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化したものである。
【請求項2】
(A)成分が、
(A-1)芳香族2官能(メタ)アクリレート、および
(A-2)脂環式2官能(メタ)アクリレート
を含むことを特徴とする請求項1に記載の仮固定用組成物。
【請求項3】
更に下記(C)を含有する、請求項1又は2に記載の仮固定用組成物。
(C)非環式脂肪族2官能(メタ)アクリレート
【請求項4】
(C)成分がオリゴマー及び/又はポリマーを含む、請求項3に記載の仮固定用組成物。
【請求項5】
(A)成分と(C)成分の質量比において、(A)成分の量が50%以上である、請求項3又は4に記載の仮固定用組成物。
【請求項6】
更に下記(D)を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
(D)UV吸収剤
【請求項7】
更に下記(E)を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
(E)単官能(メタ)アクリレート
【請求項8】
(A)成分と(E)成分の質量比において、(E)成分を0%超50%以下含有する請求項7に記載の仮固定用組成物。
【請求項9】
単官能(メタ)アクリレートを含有しない、請求項1~6のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
【請求項10】
更に下記(F)を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
(F)3官能以上の多官能(メタ)アクリレート
【請求項11】
(A)成分と(F)成分の質量比において、(F)成分を0%超50%以下含有する請求項10に記載の仮固定用組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の仮固定用組成物の硬化体。
【請求項13】
窒素雰囲気下において、2%質量減少温度が300℃以上である請求項12に記載の硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮固定に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造にあたっては、シリコンに代表される無機系の材料を基板として用いる。その表面へ、絶縁膜形成、回路形成、研削による薄化等の加工を施すことで得られた、厚さ数百μm程度のウエハ型の基板がよく用いられる。しかし基板には脆くて割れやすい材質のものが多いため、特に研削による薄化に際しては破損防止措置が必要である。この措置には、従来、研削対象面の反対側の面(裏面ともいう)に、加工工程終了後に剥離することが可能な、仮固定用保護テープを貼るという方法が採られている。このテープは、有機樹脂フィルムを基材に用いており、柔軟性がある反面、強度や耐熱性が不充分であり、高温となる工程での使用には適さない。
【0003】
そこで、電子デバイス用基板をシリコンやガラス等の支持体に接着剤を介して接合することによって、裏面研削や裏面電極形成の工程の条件に対する充分な耐久性を付与するシステムが提案されている。この際に重要なのが、基板を支持体に接合する際の接着剤層である。これは基板を支持体に隙間なく接合でき、後の工程に耐えるだけの充分な耐久性が必要であり、最後に薄化したウエハを支持体から簡便に剥離できる、即ち仮固定ができることが必要である。
【0004】
このようなウエハの加工では主に、スピンコート工程、真空接合と光硬化工程、研削・研磨による薄化加工、高温処理工程、レーザー剥離工程、仮固定剤の除去工程が行われる。
【0005】
スピンコート工程では、仮固定剤の膜をウエハ上に均一に形成できるようにするために、仮固定剤が適した粘度を有すること及びニュートン流体であること(又はせん断粘度のせん断速度非依存性を持つこと)が求められる。
【0006】
真空接合/UV硬化工程では、ガラス等の支持体上で短時間に紫外線(UV)等光照射による硬化ができること、及びアウトガス発生が少ないこと(低アウトガス性)が仮固定剤に求められる。
【0007】
研削・研磨による薄化加工工程では、研削機の荷重が基板に局所的に掛かることによる破損を避けるため、荷重を面内方向に分散させつつ基板の局所的な沈下を防いで平面性を保てる適度な硬度が仮固定剤に求められる。さらに加えて、支持体との接着力、エッジを保護するための弾性率の適度な高さ、及び耐薬品性も求められることになる。
【0008】
高温処理工程では、真空中での長時間に亘る高温処理(例えば300℃以上で一時間以上)に耐えうる耐熱性が仮固定剤に求められる。
【0009】
レーザー剥離工程では、UVレーザー等のレーザーにより、高速に剥離できることが仮固定剤に求められる。
【0010】
除去工程では、基板を支持体から簡便に剥離できる易剥離性のほか、剥離後に基板上に接着剤の残渣が残らないための凝集特性、易洗浄性が求められる。
【0011】
こうした背景に鑑み、例えば特許文献1では、(A-1)側鎖が炭素数18以上のアルキル基で、ホモポリマーのTgが-100℃~60℃である単官能(メタ)アクリレート、(A-2)多官能(メタ)アクリレート、(B)ポリイソブテン単独重合体及び/又はポリイソブテン共重合体、及び(C)光ラジカル重合開始剤を含む仮固定用組成物を開示しており、耐熱性、低アウトガス性、剥離性に優れることが謳われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電子デバイスのさらなる高集積化、小型化の要請が高まるにつれ、基板のさらなる薄化も行われるようになり、70μm厚、50μm厚といった基板も実用化されてきている。このような薄い基板では、テープを剥離する際に基板上のテープが割れてしまうと、その衝撃で電子デバイスが破損してしまいかねない問題がある。上述した要請、特に耐熱性を満たしつつ、さらにテープ剥離性を向上させるべく、従来技術からの発展が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明では以下の態様を提供できる。
【0015】
態様1.
下記(A)~(B)を含有し、23℃における硬化体の貯蔵弾性率が、0.66GPa以下であることを特徴とする仮固定用組成物。
(A)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(B)光ラジカル重合開始剤
前記硬化体は、前記仮固定用組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μmになるまで押し広げ、UV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2)を用いて積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化したものである。
【0016】
態様2.
(A)成分が、
(A-1)芳香族2官能(メタ)アクリレート、および
(A-2)脂環式2官能(メタ)アクリレート
を含むことを特徴とする態様1に記載の仮固定用組成物。
【0017】
態様3.
更に下記(C)を含有する、態様1又は2に記載の仮固定用組成物。
(C)非環式脂肪族2官能(メタ)アクリレート
【0018】
態様4.
(C)成分がオリゴマー及び/又はポリマーを含む、態様3に記載の仮固定用組成物。
【0019】
態様5.
(A)成分と(C)成分の質量比において、(A)成分の量が50%以上である、態様3又は4に記載の仮固定用組成物。
【0020】
態様6.
更に下記(D)を含有する、態様1~5のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
(D)UV吸収剤
【0021】
態様7.
更に下記(E)を含有する、態様1~6のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
(E)単官能(メタ)アクリレート
【0022】
態様8.
(A)成分と(E)成分の質量比において、(E)成分を0%超50%以下含有する態様7に記載の仮固定用組成物。
【0023】
態様9.
単官能(メタ)アクリレートを含有しない、態様1~6のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
【0024】
態様10.
更に下記(F)を含有する、態様1~9のいずれか一項に記載の仮固定用組成物。
(F)3官能以上の多官能(メタ)アクリレート
【0025】
態様11.
(A)成分と(F)成分の質量比において、(F)成分を0%超50%以下含有する態様10に記載の仮固定用組成物。
【0026】
態様12.
態様1~11のいずれか一項に記載の仮固定用組成物の硬化体。
【0027】
態様13.
窒素雰囲気下において、2%質量減少温度が300℃以上である態様12に記載の硬化体。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、仮固定用途において優れた耐熱性を呈し、かつテープ剥離時のテープの割れを抑制できる新規な仮固定用組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書においては別段の断わりがない限りは、数値範囲はその上限値及び下限値を含むものとする。本明細書において単官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。n官能(メタ)アクリレートとは、1分子中にn個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリレートにおける重合性官能基としては、アクリロイル基のみを有してもよく、メタクリロイル基のみを有してもよく、アクリロイル基とメタクリロイル基の両方を有してもよい。
【0030】
本発明の実施形態では、(A)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート、及び(B)光ラジカル重合開始剤を含有し、かつ23℃における貯蔵弾性率が、0.66GPa以下である仮固定用組成物(「仮固定剤」とも称する)を提供できる。なお本明細書においては、貯蔵弾性率の測定のために用いる硬化体は、仮固定用組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μmになるまで押し広げ、UV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2)を用いて積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化したものとする。
【0031】
本組成物が含む(A)成分である環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレートは、本組成物中で剛直骨格を構成する役割を担い、粘度を適切に向上できる効果を提供できる。2官能(メタ)アクリレートとしては、(A-1)芳香族2官能(メタ)アクリレート、(A-2)脂環式2官能(メタ)アクリレートが挙げられる。好ましい実施形態では、(A)成分は(A-1)成分又は(A-2)成分のいずれかを含んでもよく、あるいは(A-1)成分と(A-2)成分の両方を含んでもよい。(A)成分はモノマーであることが好ましい。
【0032】
(A-1)成分である芳香族2官能(メタ)アクリレートは、一般により剛直な骨格を構成できるため好ましい。より好ましくは(A-1)成分が、縮合環骨格を有することで、さらに剛直性を高めてもよい。
【0033】
(A-1)成分の例としては、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシC1~C20アルコキシ)フェニル]フルオレンジ(メタ)アクリレート、C1~C20アルコキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ベンジルジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシC1~C20アルキル)ベンゼン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、又はそれらの構造異性体といったものが挙げられる。好ましくは、縮合環骨格、例えばフルオレン、インデン、インデセン、アントラセン、アズレン、トリフェニレンの骨格を有するジ(メタ)アクリレートが含まれていてよい。これらのうちの一種又は二種以上の組み合わせを(A-1)成分としてよい。
【0034】
(A-2)成分である脂環式2官能(メタ)アクリレートは、上記(A-1)成分よりは一般に剛直性が低いが、非環式の分子(非環式2官能(メタ)アクリレート等)よりは一般に剛直な骨格を提供できる成分である。好ましい実施形態では、(A-2)成分を(A-1)成分と組み合わせることで、仮固定剤にとって好ましい物性を与える架橋構造の形成が可能となる。好ましくは(A-2)成分が、縮合環骨格を有することで、さらに剛直性を高めてもよい。好ましくは(A)成分が、縮合環骨格を有する(A-2)成分を、縮合環骨格を有する(A-1)成分と共に含んでいてもよい。或る実施形態では、(A-1)成分若しくは(A-2)成分又はその双方が有する環(縮合環を含む)の数がそれぞれ、二個以上であってよく、好ましくは二個以上五個以下であってよい。
【0035】
(A-2)成分の例としては、C1~C20アルコキシ化水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシアダマンタン、トリシクロC10~C20アルカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(例えばトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等)、ジシクロC5~C20ジ(メタ)アクリレート、又はそれらの構造異性体等が挙げられる。脂環式2官能(メタ)アクリレートの中では、炭素数5以上の脂環式骨格を有する脂環式2官能(メタ)アクリレートがより好ましい。炭素数5以上の脂環式骨格を有する脂環式2官能(メタ)アクリレートとしては、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート及び1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシアダマンタンから選択される一種以上が好ましい。
【0036】
(A)成分が(A-1)成分と(A-2)成分を共に含む実施形態においては、(A-1)成分と(A-2)成分の質量比が、好ましくは1:1~4:1の範囲、より好ましくは2:1~4:1の範囲であってよい。
【0037】
本組成物が含む(B)成分である光ラジカル重合開始剤は、光照射を受けて(A)成分(及び必要に応じて含むその他のモノマー)のラジカル重合を開始できる物質であって、例えば、紫外線或いは可視光線(例えば波長350~700nm、好ましくは365~500nm、より好ましくは385~450nm)の照射により分子が切断され、2つ以上のラジカルに分裂する化合物をいう。光ラジカル重合開始剤の例としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)が挙げられる。(B)成分は、これらのうち一種以上又は二種以上の組み合わせを含んでよい。
【0038】
好ましくは(B)成分は、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を含んでよい。好ましいアシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが挙げられる。光ラジカル重合開始剤としては、高感度であること、光褪色性を有することから深部硬化性に優れることに加え、ラジカルを発生させるための吸収波長領域が比較的長波長領域にまで拡がっていることが好ましい。上述した好ましい化合物では、吸収波長領域は波長約440nmまでの範囲であり、後述するUVレーザー剥離工程で用いるUV吸収剤の吸収波長領域との差が大きい。つまり、UV吸収剤によるUV硬化阻害の度合いが小さく、より長波長の光でラジカル重合を開始できる。そのため、UV吸収剤の共存下であっても比較的高速度で効率良くラジカル重合を開始し、硬化できるという効果が得られる。
【0039】
好ましい実施形態においては、光ラジカル重合開始剤を吸光度から選定できる。具体的には、300~500nmの波長領域に極大吸収をもたない溶媒(例えば、アセトニトリルやトルエンなど)に0.1質量%の濃度で溶解させた際に、365nmの波長において吸光度が0.5以上であること、385nmの波長において吸光度が0.5以上であること、及び405nmの波長において吸光度が0.5以上であることのいずれかひとつ以上の条件を満たすような化合物の一種以上から、光ラジカル重合開始剤を選択できる。そのような条件を満たす化合物としては例えば、溶媒としてのアセトニトリルに対して0.1質量%の濃度で溶解させた際において、365nmの波長において吸光度が0.5以上である1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)、365nmと385nmの波長において吸光度が0.5以上である1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、365nmと385nmと405nmの波長において吸光度が0.5以上であるビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0040】
また、光ラジカル重合開始剤による硬化性とUVレーザー剥離を両立する観点からは、400~500nmの範囲に吸収波長領域を有するビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムも、光ラジカル重合開始剤として使用できる。
【0041】
(B)光ラジカル重合開始剤としては、反応速度、硬化後の耐熱性、低アウトガス性、後述するUVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長とも該UVレーザー剥離に用いるUV吸収剤の吸収波長領域とも異なる領域での吸収特性を有する点で、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、又はα-アミノアルキルフェノン系化合物から選択される一種以上が好ましい。また、後述する構造を有する仮固定用組成物の内の、UVレーザー剥離プロセスに対応するための層ではない、加工対象基材のサポート基材との接合から加熱工程までの破損防止の仮固定用途のための樹脂組成物用光ラジカル重合開始剤としては、上記以外に、オキシムエステル系化合物を選択することもできる。
【0042】
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの中では、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0043】
チタノセン系化合物としては、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムが挙げられる。
【0044】
α-アミノアルキルフェノン系化合物としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。
【0045】
オキシムエステル系化合物としては、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。これらの中では、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)が好ましい。
【0046】
(B)光ラジカル重合開始剤の使用量は、反応速度及び硬化後の耐熱性、低アウトガス性の点で、(A)成分100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。(B)成分が0.01質量部以上であると十分な硬化性が得られ、5質量部以下だと低アウトガス性及び耐熱性が損なわれにくい効果が得られる。
【0047】
本組成物の硬化体の貯蔵弾性率E’は、23℃において0.66GPa以下である。貯蔵弾性率が0.66GPa超であると、電子デバイス製造時の仮固定用途においてテープ剥離工程を行った際に、テープが割れやすい問題が生じる。貯蔵弾性率は、公知の粘弾性測定器により測定可能であり、例えば後述する実施例に記載の方法により測定できる。本組成物の硬化体の23℃における貯蔵弾性率E’は好ましくは、0.01GPa以上0.66GPa以下であってよく、0.02GPa以上0.66GPa以下であってよく、又は0.05GPa以上0.66GPa以下であってよい。より好ましい実施形態では、本組成物の硬化体の23℃における貯蔵弾性率E’が、0.01GPa以上0.60GPa以下、又は0.01GPa以上0.55GPa以下であってよい。
【0048】
また、レーザー剥離がしやすいという観点からは、本組成物の貯蔵弾性率E’は、23℃において0.01GPa以上であることが好ましい。
【0049】
本組成物は、(C)成分として非環式脂肪族2官能(メタ)アクリレートを含んでもよい。(C)成分により、架橋構造に柔軟性を付与できる。
【0050】
(C)成分の例としては、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
(C)成分は、モノマー、又はそのモノマーからなるオリゴマー若しくはポリマーのいずれを含んでいてもよく、あるいはその任意の混合物であってもよい。或る実施形態では、(C)成分がポリマーを含まなくてもよい。
【0052】
本組成物が(C)成分を含む場合には、(A)成分と(C)成分の質量比において、(A)成分の量が50質量%以上95質量%以下、好ましくは50質量%以上90質量%以下、より好ましくは50質量%以上85質量%以下であってよい。或る実施形態では、(A)成分と(C)成分の質量比において、(A)成分が50質量%以上95質量%以下であって、かつ(C)成分がポリマーを含まないことが好ましい。
【0053】
本組成物は、(D)成分としてUV吸収剤を含んでいてもよい。UV吸収剤とは、例えば、紫外線或いは可視光線のレーザーの照射により分子が切断されて分解・気化し、該分解・気化がサポート基材(又は支持体)と仮固定剤の界面で発生することにより、剥離工程直前まで維持されていた仮固定剤・サポート基材(又は支持体)間の接着力を喪失させる化合物を指す。
【0054】
(D)UV吸収剤としては、UV吸収波長領域のUVレーザー波長との重なりの度合い、同波長でのUV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点で、ベンゾトリアゾール系化合物、及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選択される一種以上が好ましい。
【0055】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2,2'-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、及び2-[2-ヒドロキシ-3-(3, 4, 5, 6-テトラヒドロフタルイミド-メチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾールからなる群から選択される一種以上が、樹脂成分との相溶性、UV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点から特に好ましい。
【0056】
ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2'-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、及び2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンからなる群から選択される一種以上が、(A)成分との相溶性、UV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点から特に好ましい。
【0057】
UVレーザー剥離工程用として好ましい実施形態においては、最も好ましいUV吸収剤は、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、又は2,2'-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール] からなる群から選択される一種以上である。これらは成分(A)との相溶性に優れ、融点が高く、300℃以下程度の温度条件下で蒸気圧が比較的低いため、使用量の広い範囲内での選択が可能で、且つ硬化後の仮固定用組成物からの本温度条件下でのアウトガス低減に寄与することができる。
【0058】
(D)UV吸収剤として最も好ましくは以下に挙げる、UV透過率から選定された吸収剤を用いることができる。(D)成分がこのようなUV透過率を有することで、組成物の硬化と剥離を適切に制御可能となる効果が得られる。
【0059】
290~410nmの波長において極大吸収を持たない溶媒に対して、UV吸収剤を0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が50%以下であり、かつ波長385~420nmで50%より高い透過率であることが好ましい。更に好ましくは、355nmの波長において透過率が40%以下であり、かつ波長385~420nmで60%以上の透過率であってよい。
【0060】
最も好ましい(D)UV吸収剤としては例えば下記が挙げられる。
溶媒として用いるトルエンに対して、0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が20%以下であり、かつ波長385~420nmで60%以上の透過率である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール (BASF社製Tinuvin 900、アデカ社製アデカスタブ LA-24、Everlight Chemical社製EVERSORB 76 / EVERSORB 234、分子量447)。
溶媒としてのトルエンに対して0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が30%以下であり、かつ波長385~420nmで70%以上の透過率である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール (BASF社製Tinuvin 928、Everlight Chemical社製EVERSORB 89/89FD、分子量442)。
溶媒としてのテトラヒドロフランに対して0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が40%以下であり、かつ波長385~420nmで90%以上の透過率である2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2'-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製Tinuvin405、分子量584)。
溶媒としてのテトラヒドロフランに対して0.002質量%の濃度で溶解させ、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が10%以下であり、かつ波長385~420nmで80%以上の透過率である2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン (BASF社製Tinuvin 460、分子量630)。
【0061】
本明細書における硬化体のUV透過率は、反射率測定分光法により得られる値である。具体的には、透過率は、下記の条件にて、PET樹脂のシートに挟んで作製した厚さ約50μmの硬化体のフィルムを用い、反射率分光測定装置(日本分光株式会社製V-650)を使用して得られる。
【0062】
セル長:10mm
測光モード:T (Transmittance)
測定範囲:450-200nm
データ取込間隔:1nm
UV/visバンド幅:2.0nm
レスポンス:medium
走査速度:40nm/min
光源切換:340nm
光源:D2/WI
フィルタ切換:ステップ
補正:ベースライン
【0063】
(D)成分であるUV吸収剤の量は、(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部が好ましく、0.5~2.5質量部がより好ましい。0.01質量部以上だと十分なUVレーザー剥離速度が得られ、5質量部以下だと低アウトガス性及び耐熱性が損なわれにくい効果が得られる。
【0064】
本組成物は、(E)成分として単官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。(E)成分としては、分子量が550以下の単官能(メタ)アクリレートが好ましく、アルキル基を有する単官能アルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0065】
当該アルキル基としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、及び脂環式アルキル基から選択される一種以上が好ましく、直鎖状アルキル基、及び分岐鎖状アルキル基から選択される一種以上がより好ましい。(A)成分との相溶性向上の観点からは、(E)成分は長鎖かつ分岐鎖状又は環状のアルキル基を有することが好ましく、例えば炭素数18~40、より好ましくは炭素数18~32の、例えばイソステアリル基、イソテトラコサニル基(2-デシル-1-テトラデカニル基等)、イソトリアコンタニル基(2-テトラデシル-1-オクタデカニル基等)等の分岐鎖状アルキル基、又はシクロアルキル基を有することが好ましい。このような長鎖・高分子量かつ脂肪族炭化水素の性格の強い成分を用いること(更に好ましくは系全体の脂肪族炭化水素的性質を高めること)で、仮固定用組成物に求められる低揮発性、耐薬品性及び耐熱性を向上できる。
【0066】
(E)成分としては、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-デシル-1-テトラデカニル(メタ)アクリレート、2-ドデシル-1-ヘキサデカニル(メタ)アクリレート、2-テトラデシル-1-オクタデカニル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種以上が好ましい。(E)成分としては、下記式1の(メタ)アクリレートが好ましい。
【0067】
【化1】
R
1は水素原子又はメチル基であり、水素原子がより好ましい。R
2はアルキル基であり、その炭素数は18~32が好ましい。これらの(メタ)アクリレートは一種以上を使用できる。
【0068】
R2が炭素数18~32のアルキル基である単官能アルキル(メタ)アクリレートとしては、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-デシル-1-テトラデカニル(メタ)アクリレート、2-テトラデシル-1-オクタデカニル(メタ)アクリレート等といった、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。製造時に析出による不良を起こしにくくする観点からは、R2の炭素数は、18以上23以下であることが好ましい。
【0069】
(E)成分を含む実施形態では、(E)成分の使用量は、(A)成分と(E)成分の合計100質量部中、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましい。別の実施形態においては、本組成物が(E)成分を含まないことが好ましく、それによってアウトガス量を低減し、耐熱性を向上することも可能である。(E)成分の使用量は、0質量%超であってよい。
【0070】
本組成物は、(F)成分として3官能以上の(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。(F)成分の分子量は900以下が好ましく、700以下がより好ましく、500以下が最も好ましく、400以下が尚更好ましい。
【0071】
(F)成分に含まれうる3官能(メタ)アクリレートとしては、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられる。
【0072】
(F)成分に含まれる4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(F)成分に含まれる3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体等が挙げられる。
【0073】
(F)成分の中では、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体が好ましい。側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体としては、根上工業社製「ART CURE RA-341」等が挙げられる。
【0074】
(F)成分の使用量は、(A)成分と(F)成分の合計100質量部中、50質量部以下が好ましく、1~40質量部がより好ましく、20~30質量部がさらに好ましい。(F)成分が50質量部以下であれば混合後の組成物が相分離しにくく、かつ耐熱性が低下しにくい効果が得られる。(F)成分の使用量は、0質量%超であってよい。
【0075】
本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定される標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、重量平均分子量は、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー株式会社製SC-8010)を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して求められる。
【0076】
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー株式会社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー株式会社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
送液圧力:39kg/cm2
検出器:RI検出器(示差屈折率検出器)
【0077】
本発明の或る実施形態では、上述した組成物の硬化体も提供できる。そのような硬化は、後述する光源を用いて行ってよい。当該硬化体を、厚さ50μmの硬化フィルムの形態としたときには、以下の条件をひとつ以上満たすことが好ましく、全て満たすことがより好ましい。以下の条件は、例えばUV吸収剤を用いることにより満たすことができる。
・該硬化フィルムの光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の395nm以上の波長領域の光透過率が70%以上であること。
・該硬化フィルムの光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の385nm以上395nm未満の波長領域の光透過率が20%以上であること。
・該硬化フィルムの光透過率の内、UVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長(355nm)での光透過率が1%以下であること。
これらの条件を満たすことで、実用上十分に高い硬化速度とUVレーザー剥離速度を両立させることが可能である。更には、十分に高い硬化速度とUVレーザー剥離速度の両立に加え、硬化後の加熱条件下における質量減少の割合を低下(又は高温真空下におけるアウトガス量を低減)させることができる。このような特性を持つ仮固定剤は、特に薄化後の裏面工程においてイオン注入、アニーリングやスパッタによる電極形成といった高温真空プロセスを含むプロセスに、好適に使用することができる。
【0078】
スピンコートとは、例えば、基板に液状組成物を滴下し、基板を所定の回転数で回転させることにより、組成物を基板表面に塗布する方法である。スピンコートにより、高品質な塗膜を効率良く生産できる。
【0079】
本組成物は、仮固定用樹脂組成物、仮固定用接着剤、粘着シート、又は電子デバイス製造用仮固定用接着剤として使用できる。本明細書においては、仮固定用組成物、仮固定用樹脂組成物、仮固定用接着剤を、仮固定剤と総称することもある。
【0080】
本組成物を用いて加工対象基材と光学的に透明なサポート基材(又は支持体)を接着する際は、可視光線若しくは紫外線(波長又は中心波長365~405nm)においてエネルギー量が1~20000mJ/cm2になるように照射することが好ましい。エネルギー量が1mJ/cm2以上だと十分な接着性が得られ、20000mJ/cm2以下だと生産性が優れ、光ラジカル重合開始剤からの分解生成物が発生しにくく、アウトガスの発生が抑制される。生産性、接着性、低アウトガス性、易剥離性の点で、1000~10000mJ/cm2であることが好ましい。
【0081】
本組成物によって接着される基材は、特に制限はないものの、少なくとも一方の基材は光を透過する透明基材が好ましい。透明基材としては、水晶、ガラス、石英、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等の無機基材、プラスチック等の有機基材等が挙げられる。これらの中では、汎用性があり、大きい効果が得られる点で、無機基材が好ましい。無機基材の中では、ガラス、及び石英から選択される一種以上が好ましい。
【0082】
本組成物は光硬化型であってよく、それにより提供される硬化体は優れた耐熱性及び剥離性を有する。本発明の組成物の硬化体は一実施形態において、高温で暴露されてもアウトガス量が少なく、種々の光学部品や光学デバイス、電子部品の接合、封止、コーティングに好適である。本発明の組成物は、耐溶剤性、耐熱性、接着性等といった、多岐にわたる耐久性が必要とされる用途、特に半導体製造プロセス用途に適している。
【0083】
本組成物の硬化体は、室温から高温までの幅広い温度範囲におけるプロセスに使用できる。プロセス中の加熱温度は、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、250℃以下が最も好ましい。好ましい実施形態においては、当該硬化体の加熱質量減少率が2%となる温度が、250℃以上であってよい。本組成物により接着した接着体は、高いせん断接着力を有するため薄化工程等には耐えることができ、絶縁膜形成等の加熱工程を経た後には容易に剥離できる。高温で使用する場合、本組成物の硬化体は、例えば、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上の高温のプロセスで使用できる。
【0084】
或る実施形態では、本組成物を接着剤として用いることにより基材を接着した接着体も提供される。当該接着体は、外力を加えることにより剥離できる。例えば、刃物、シート又はワイヤーを、接合部分に差し込むことにより剥離できる。あるいは、当該接着体の光学的に透明な基材側からUVレーザー又はIRレーザーを全面に、走査するように照射することにより剥離することも可能である。
【0085】
<薄型ウエハの製造方法>
或る実施形態では、薄型ウエハの製造方法も提供できる。当該製造方法は、半導体回路等を有するウエハと支持体との接着剤層として、上述した仮固定用組成物又は仮固定用接着剤(以下、単に接着剤又は仮固定剤ということもある)を用いることを特徴とする。当該薄型ウエハの製造方法は下記(a)~(e)の工程を有する。
【0086】
[工程(a)]
工程(a)は、表面に回路形成面を有し、裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、接着剤を介して、支持体に接合する際に、前記支持体又は回路付きウエハ上にスピンコート法で接着剤を塗布し、もう一方の支持体又は回路付きウエハと真空下で貼り合わせる工程である。
【0087】
回路形成面及び回路非形成面を有するウエハは、一方の面が回路形成面であり、他方の面が回路非形成面であるウエハである。本発明が適用できるウエハは、通常、半導体ウエハである。該半導体ウエハとしては、シリコンウエハのみならず、窒化ガリウムウエハ、タンタル酸リチウムウエハ、ニオブ酸リチウムウエハ、炭化ケイ素ウエハ、ゲルマニウムウエハ、ガリウム-ヒ素ウエハ、ガリウム-リンウエハ、ガリウム-ヒ素-アルミニウムウエハ等が挙げられる。該ウエハの厚さは、特に制限はないが、600~800μmが好ましく、625~775μmがより好ましい。支持体としては、例えば、光を透過する透明基材が用いられる。
【0088】
[工程(b)]
工程(b)は、接着剤を光硬化させる工程である。前記ウエハ加工体(積層体基板)が形成された後、可視光線若しくは紫外線(波長又は中心波長は350~405nmが好ましく、365~405nmがより好ましく、385~405nmが最も好ましい)領域においてエネルギー量が1~20000mJ/cm2になるように照射することが好ましい。エネルギー量が1mJ/cm2以上だと十分な接着性が得られ、20000mJ/cm2以下だと生産性が優れ、光ラジカル重合開始剤からの分解生成物が発生しにくく、アウトガスの発生も抑制される。生産性、接着性、低アウトガス性、易剥離性の点で、1000~10000mJ/cm2がより好ましい。
【0089】
組成物の硬化にあたっては、光源としてブラックライトやUV-LEDや可視光-LEDが使用可能であり、例えば以下のような光源を用いることができる。ブラックライトとしては、その中心波長にかかわらず、波長385nm以上の成分を含むライトが好ましく用いられる。なお、本明細書において波長の範囲が記載されているときには、中心波長がその範囲に含まれているか否かで、その範囲に含まれるか否かを判断するものとする。
・ブラックライト(中心波長365nm、照度10mW/cm2、株式会社トーヨーアドテック製TUV-8271)
・UV-LED (波長385±5nm、照度350mW/cm2(条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V2-1S19+専用設計ミラーユニット)
・UV-LED (波長395±5nm、照度375mW/cm2(条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V3-1S19+専用設計ミラーユニット)
・UV-LED (波長405±5nm、照度400mW/cm2(条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V4-1S19+専用設計ミラーユニット)
・UV-LED (中心波長405nm、照度10mW/cm2、CCS社製HLDL-120V0-NWPSC)
・可視光-LED (波長451±5nm、照度550mW/cm2(条件:照射ユニット先端からのワークディスタンス10mm)、CCS株式会社製HLDL-155VL450‐PSC)
・可視光-LED (波長492±5nm、照度400mW/cm2(条件:照射ユニット先端からのワークディスタンス10mm)、CCS株式会社製HLDL-155BG‐PSC)
【0090】
好ましい実施形態においては、照射波長が一般にbroadであるため積算光量が多く、照射時間が長くなる傾向にあるブラックライトよりも、積算光量が少なくて済む(照射時間が短くて済む)UV-LED又は可視光-LEDを光源としてよい。即ち、照射波長帯域がnarrowであるLED光源を使用することで、仮固定を短時間で行い、結果として製造工程に掛かる時間を短縮できるという効果が得られる。
【0091】
[工程(c)]
工程(c)は、支持体と接合したウエハの回路非形成面を研削及び/又は研磨する工程、即ち、工程(a)にて貼り合わせて得られたウエハ加工体のウエハ裏面側を研削して、該ウエハの厚みを薄くする工程である。薄化されたウエハの厚さは、10~300μmが好ましく、30~100μmがより好ましい。ウエハ裏面の研削/研磨加工の方式には特に制限はなく、公知の研削/研磨方式が採用される。研削は、ウエハと砥石(ダイヤモンド刃付き砥石等)に水をかけて、冷却しながら行うことが好ましい。
【0092】
[工程(d)]
工程(d)は、回路非形成面を研削/研磨したウエハ加工体、即ち、裏面研削/研磨によって薄化されたウエハ加工体の回路非形成面に加工を施す工程である。この工程にはウエハレベルで用いられる様々なプロセスが含まれる。例えば、電極形成、金属配線形成、保護膜形成等が挙げられる。より具体的には、電極等の形成のための金属スパッタリング、金属スパッタリング層をエッチングするためのウェットエッチング、金属配線形成のマスクとするためのレジストの塗布、露光、及び現像によるパターンの形成、レジストの剥離、ドライエッチング、金属めっきの形成、TSV形成のためのシリコンエッチング、シリコン表面の酸化膜形成等、従来公知のプロセスが挙げられる。
【0093】
[工程(e)]
工程(e)は剥離工程である。本工程は工程(d)で加工を施したウエハをウエハ加工体から剥離する工程である。例えば、薄化したウエハに様々な加工を施した後、ダイシングする前にウエハ加工体からウエハを剥離する工程である。この際、あらかじめ薄化、加工した面にダイシングテープを貼り付けておくことができる。この剥離工程は、一般に室温から60℃程度までの比較的低温の条件で実施される。この剥離工程としては、公知のUVレーザー剥離工程、IRレーザー剥離工程、又はメカニカル剥離工程のいずれも採用することができる。
【0094】
UVレーザー剥離工程とは、例えば、ウエハ加工体の光学的に透明な支持体側の端部から接線方向に、直線状に往復しながら走査するように、UVレーザーをウエハ加工体全面に照射し、レーザーのエネルギーにより接着剤層を分解させて剥離する工程である。このような剥離工程は、例えば、特表2019-501790号公報や特表2016-500918号公報に記載されている。
【0095】
IRレーザー剥離工程とは、例えば、ウエハ加工体の光学的に透明な支持体側の端部から接線方向に、直線状に往復しながら走査するように、IRレーザーをウエハ加工体全面に照射し、レーザーのエネルギーにより接着剤層を加熱・分解させて剥離する工程である。このような剥離工程は例えば特許第4565804号公報に記載されている。このIRレーザー剥離工程を実施するために、仮固定剤層とガラス支持体の間にIRレーザー光を吸収して熱に変換する光熱変換層(例えば3M社のLTHC; Light-To-Heat-Conversion release coating)を設けてもよい。3M社のLTHCを用いる場合、例えば、LTHCをガラス支持体上にスピンコートして硬化する。そして、仮固定剤層はウエハ上にスピンコートしてからLTHC層が形成された前記ガラス支持体と貼り合わせてUV硬化することができる。3M社のLTHCを用いてIRレーザー剥離工程を実施する方法は、例えば上記と同じ特許第4565804号公報に記載されている。
【0096】
メカニカル剥離工程とは、例えば、ブレードをウエハ加工体の界面端部に挿入してウエハ・支持体間に開裂を発生させるために、ウエハ加工体のウエハを下側にして水平に固定しておき、該ブレード挿入後に上方の支持体及び/又は該ブレードに上向きの応力を印加して前記開裂を進展させてウエハ・支持体を剥離させる工程を含む剥離工程である。このような剥離工程は、例えば、特許第6377956号公報や特開2016-106404号公報に記載されている。
【0097】
本組成物の剥離に当たっては、これらの剥離方法のいずれかが使用できる。この時、ウエハ加工体のウエハ又は支持体の一方を水平に固定しておき、ブレードを入れることや溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)で接着剤層の外周部を膨潤させて剥離のきっかけを作った後、他方を水平方向から一定の角度を付けて持ち上げることが好ましい。これらの剥離方法は、通常、室温で実施されるが、上限90℃程度で加温することも好ましい。レーザーを用いる場合は、YAGレーザー又はYVO4レーザーを用いることが好ましい。
【0098】
上記の工程(e)の加工を施したウエハを支持体から剥離する工程は、メカニカル剥離工程の場合には更に、
(f)加工を施したウエハのウエハ面にダイシングテープを接着する工程と、
(g)ダイシングテープ面を吸着面に真空吸着する工程と、
(h)吸着面の温度が10~100℃の温度範囲で、前記支持体を、加工を施した前記ウエハから剥離する工程と、
を含むことが好ましい。このようにすると、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することができ、後のダイシング工程を容易に行うことができる。
【0099】
またUVレーザー又はIRレーザーで剥離する場合は、当該製造方法が更に例えば
(i)加工を施したウエハを光学的に透明な支持体側を上にして、水平な場所に、好ましくはダイシングテープを介して設置/固定する工程と、
(j)加工を施した前記ウエハの支持体側からレーザーを走査するようにウエハ全面に照射する工程と、
を含むことが好ましい。このようにすると、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することができ、後のダイシング工程を容易に行うことができる。
【0100】
また、工程(e)の加工を施したウエハを支持体からUVレーザー又はIRレーザーにより剥離する工程の次には、
(k)ウエハの表面に残存している仮固定剤を除去する工程、
を実施する必要がある。仮固定剤の除去方法としては、薄化した面を吸着面に真空吸着させた状態で、もう片方の、仮固定剤が残存している面の全面にダイシングテープのような粘着テープを貼り、そのテープごと仮固定剤を剥離する方法、及びウエハを溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)中に浸漬し、接着剤層を膨潤させて剥離させる方法がある。これらの方法の内、工程数の少なさ、所要時間の短さの点から、テープ剥離方式が好ましい。
【0101】
仮固定剤除去後のウエハは、表面を洗浄せずにそのまま次の工程に進ませることもできる。洗浄する場合は更に、
(l)支持体と仮固定剤を除去したウエハを、回路形成面を上にした状態で溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)を用いて洗浄する工程
を行うことが好ましい。
【0102】
工程(k)により、仮固定剤を除去したウエハの回路形成面には、接着剤(仮固定剤)が一部残存している場合がある。また、剥離した支持体は洗浄し再利用することが好ましいが、この支持体の表面にも接着剤残渣が固着している場合がある。これらの接着剤残渣を除去する方法としては、溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)に浸漬し、膨潤させて剥離させる方法等が挙げられる。
【0103】
或る実施形態では、上記組成物を硬化して硬化体を得るにあたって、下記のような種々の手法を採用できる。
【0104】
まず第一の手法として、上述した成分を含む仮固定用組成物からなる層を硬化し、単層硬化体を得ることが可能である。
【0105】
そして第二の手法としては、少なくとも(A)成分及び(B)成分を含有しかつ(D)成分であるUV吸収剤を含まない仮固定用組成物からなる第一の層と、少なくとも(A)(B)(D)成分を含む仮固定用組成物からなる第二の層とをそれぞれ用意し、硬化させることで、一体化した単層又は多層(複層)を有する硬化体を得る手法が挙げられる。この硬化体では、その厚み方向に関して成分の濃度分布が異なること、又は硬化体の厚み方向に関しての上面と下面において成分の濃度分布が異なっていることが好ましい。成分の濃度分布が異なっていることは、上述した反射率測定分光法により、硬化体の両面についてUV透過率を定量することにより確認可能である。この手法により、光透過性の異なる層を組み合わせることで、最適な硬化を実現可能になる効果が得られる。また上述した硬化にあたっては、光源としてブラックライトやUV-LEDを使用可能である(下記の手法も同様)。ブラックライトの例としては、株式会社トーヨーアドテック製TUV-8271(中心波長365nm、照度10mW/cm2)が挙げられる。またUV-LEDとしては、HOYA株式会社製H-4MLH200-V2-1S19+専用設計ミラーユニット(波長385±5nm、照度350mW/cm2、条件:ミラーユニット先端からのスキャンピッチ20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V3-1S19+専用設計ミラーユニット(波長395±5nm、照度375mW/cm2、条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V4-1S19+専用設計ミラーユニット(波長405±5nm、照度400mW/cm2、条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、といったものが挙げられる。
【0106】
また第三の手法としては、少なくとも(A)成分及び(B)成分を含む仮固定用組成物からなる硬化層の上に、(D)成分を塗布(例えばスピンコートによる塗布)することで、少なくとも部分的に一体化した単層を有する硬化体を得る手法も可能である。この場合、当該硬化体の厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる。成分の濃度分布は、上述したように対象層ごとの反射率測定分光法により定量可能である。この手法により、UV吸収特性を精密に制御できる、といった効果が得られる。
【0107】
また第四の手法として、少なくとも(A)成分及び(B)成分を含む仮固定用組成物からなる層の上に、市販のLTHC剤(光熱変換剤)の層を載せて硬化させることで、多層硬化体を得てもよい。これにより簡便に硬化体を得られるという効果が得られる。
【0108】
上述したような手法で得られた硬化体を、被着体と組み合わせて構造体として提供可能である。
【0109】
上述したような構造体の製造方法としても、種々の例を挙げられる。例えば第一の製造方法には、ウエハ上に少なくとも(A)成分及び(B)成分を含有しかつ(D)成分を含まない第一の仮固定用組成物を塗布し部分硬化させるステップと、上記の部分硬化した仮固定用組成物の上に、少なくとも(A)(B)(D)成分を含有する第二の仮固定用組成物を塗布するステップと、塗布した第二の仮固定用組成物の上に透明基板を更に載せ、光硬化させるステップとを含めてよい。
【0110】
また構造体の第二の製造方法として、ウエハ上に少なくとも(A)成分及び(B)成分を含有しかつ(D)成分を含まない第一の仮固定用組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、透明基板上に少なくとも(A)(B)(D)成分を含有する第二の仮固定用組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、ウエハと透明基板のそれぞれに仮固定用組成物を塗布した側の面同士を密着させてから、光硬化により接合するステップと、を含むものがあってもよい。
【0111】
また構造体の第三の製造方法として、ウエハ上に少なくとも(A)成分及び(B)成分を含有しかつ(D)成分を含まない仮固定用組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、透明基板上にLTHC層を塗布し、乾燥し硬化させるステップと、ウエハの仮固定用組成物を塗布した側の面と、透明基板のLTHC層を塗布した側の面とを密着させてから、光硬化により接合するステップとを含むものがあってもよい。
【0112】
上記仮固定用組成物とは別に、本発明の仮固定用組成物に用いられるものと同じ組成物は、特許第4565804号公報に記載のIRレーザー光を吸収して熱に変換する光熱変換(LTHC)層の原料としても使用可能である。本組成物を光熱変換(LTHC)層の成分として加えることで、その耐熱性を向上させることが可能となる。
【0113】
或る実施形態では、仮固定用組成物を半導体ウエハ基材及び/又は支持部材に塗布して、前記半導体ウエハ基材と前記支持部材を接着するステップと、波長350~700nm(好ましくは365~500nm、より好ましくは385~450nm)の光を照射することで前記仮固定用接着剤を硬化させ、接着体を得るステップと、前記接着体に波長385nm未満のレーザー光(好ましくは波長200nm以上波長385nm未満のレーザー光)を照射して、前記半導体ウエハ基材を剥離するステップとを含む、半導体ウエハの製造方法を提供できる。本製造方法は、硬化及び剥離のステップが共に常温下での工程であり、部材を加熱したり冷却したりする必要が無く、一般的には溶媒等を用いる必要が無く、簡単で、かつタクトタイム(cycle time)が短いという利点がある。
【0114】
更には、硬化した仮固定用接着剤が、前記接着体中で単層を構成してもよい。そうすることで、工程の簡略化やタクトタイムの短縮が可能になる。
【0115】
好ましい実施形態においては、上述した好ましい(B)成分の光ラジカル重合開始剤と(D)成分のUV吸収剤を共に組成物が含むことにより、たとえ単層の仮固定接着材であっても、早い硬化速度と早い剥離速度を両立させることが可能である。更に、仮固定用接着剤をUV硬化した際に硬化体に残留する未硬化のUV硬化性単量体成分を著しく少なくすることが可能で、硬化体の耐熱性を向上させ、かつ、窒素雰囲気下での揮発分を減少させることが可能となる。即ち、例えば硬化体のTg/DTA測定における2%加熱質量減少温度を高くすることが可能となる。硬化体の高い耐熱性や、窒素雰囲気下での揮発分を減少させた仮固定用接着剤は、最近の半導体製造プロセスにとって極めて有用である。本硬化体は好ましくは、窒素雰囲気下において、2%質量減少温度が300℃以上であってよく、好ましくは320℃以上であってよく、より好ましくは326℃以上であってよい。
【実施例0116】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0117】
特記しない限り、23℃、湿度50%で実験した。下記表に示す組成(単位は質量部)の硬化性樹脂組成物(以下、液状樹脂組成物ということもある)を調製し、評価した。各成分としては、以下の化合物を選択した。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
(組成)
(A-1)成分として以下を用いた。
A-BPEF-2: 9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルA-BPEF-2」)
A-BPE-2: エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルA-BPE-2」、下記構造式においてR=-CH2CH2O-、m=n=1)
A-BPP-3: エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルA-BPP-3」、下記構造式においてR=-CH2CH(CH3)-、m+n≒3)
ABE-300: エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルABE-300」、下記構造式においてR=-CH2CH2O-、m+n≒3)
【0122】
【0123】
(A-2)成分として以下を用いた。
HBPE-4: EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート(第一工業製薬社製「HBPE-4」、m+n≒4)
A-DCP: トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業社製「NKエステルA-DCP」)
【0124】
(B)成分として以下を用いた。
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製「Irgacure 819」)
【0125】
(C)成分として以下を用いた。
HX-620: カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドHX-620」、m+n≒4)
HX-220: カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製「カヤラッドHX-220」、m+n≒2)
PHOTOMER-4362: ヘキサンジオール[2PO]ジアクリレート(IGM社製「PHOTOMER 4362」)
DDDA: 1,10-デカンジオールジアクリレート(日立化成社製「FA-1210A」)
NDDA: 1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製「ビスコート#260」)
RC100C: 両末端にアクリロイル基を有するアクリレートポリマー(カネカ社製「カネカXMAP RC100C」、下記構造式を有する)
【0126】
【0127】
(D)成分として以下を用いた。
2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製「Tinuvin 460」)
【0128】
(E)成分として以下を用いた。
DTDA: 2-デシル-1-テトラデカニルアクリレート(共栄社化学社製「ライトアクリレートDTD-A」)
nSTA: n-ステアリルアクリレート(大阪有機化学工業社製「STA」)
ISTA: イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業社製「ISTA」)
【0129】
(F)成分として以下を用いた。
RA-341: 3官能以上の多官能メタクリレートポリマー(根上工業社製「ART CURE RA-341」、重量平均分子量80,000)
【0130】
(液状サンプル作製)
材料を80℃で加温混合することで均一な混合物とした。なお、この時点で析出が発生した例については以降の評価から除外した。また、後述するように硬化させたときに硬化不良が生じたもの、及び加熱時に300℃以下で溶解した例についても、評価から除外した。
【0131】
(貯蔵弾性率の測定)
上記の加温混合により均一化した液状樹脂組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μmになるまで押し広げ、積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化させ、硬化体サンプルを作製した。硬化にはUV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2、CCS社製HLDL-120V0-NWPSC)を用いた。
【0132】
ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製粘弾性測定装置RSA-G2を用いて硬化体サンプルの動的粘弾性を測定した。測定はチャック間距離7mm、サンプル幅5mm、サンプル厚み50μm、歪み0.1%、引張周波数1Hz、昇温速度3℃/min、温度範囲-50℃~250℃の範囲で行い、23℃におけるE’の値を求めた。
【0133】
(2%質量減少温度の測定)
上記の加温混合により均一化した液状樹脂組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μmになるまで押し広げ、積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化させ、硬化体サンプルを作製した。硬化にはUV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2、CCS社製HLDL-120V0-NWPSC)を用いた。
【0134】
秤量した硬化体サンプル10mgを、ネッチ・ジャパン社製示差熱・熱質量同時測定装置「STA-2500」により、キャリアーガス流速70ml/minの窒素気流下、昇温速度10℃/分で室温から600℃まで昇温し、その後に硬化体を秤量した。これにより窒素雰囲気下での加熱質量減少率(2%質量減少温度)を計算した。
【0135】
(真空耐熱性の評価)
作製した液状樹脂組成物を用いて、4インチシリコンウエハ(直径10cm×厚さ50μmt)と4インチガラスウエハ(直径10cm×厚さ0.7mm)を貼り合わせたものを4インチサンプルとした。また同様に液状樹脂組成物を用いて、8インチシリコンウエハ(直径10cm×厚さ50μmt)と8インチガラスウエハ(直径20cm×厚さ70μmt)を貼り合わせたものを8インチサンプルとした。貼り合わせに際し、樹脂組成物の厚みは仮固定剤に宇部エクシモ社製のシリカ粒子(商品名ハイプレシカ TS N3N 平均粒径50μm)を0.1質量%添加し、混合したものを用いることで調整した。貼り合わせ後、LED積算光量5000mJ/cm2(中心波長405nm、照度100mW/cm2)の条件にて硬化させ、接合サンプルを作製した。硬化にはUV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2、CCS社製HLDL-120V0-NWPSC)を用いた。
【0136】
各接合サンプルを真空ホットプレートチャンバーに入れ、300℃、20Paの条件下で1時間の加熱を行い、その後に接合サンプルの円周側端部を目視により観察し、下記基準により評価した。4インチサンプルの評価結果は、表中の「真空耐熱性4in50μmt」として示した。8インチサンプルの評価結果は、表中の「真空耐熱性8in70μmt」として示した。
優:端部が全く剥離していなかった。
良:端部の剥離箇所の長さが、縁から5mm未満であった。
可:端部の剥離箇所の長さが、縁から5mm以上10mm未満であった。
不可:端部の剥離箇所の長さが、縁から10mm以上であった。
【0137】
(テープ剥離性の評価)
上記の接合サンプルに剥離用テープ(デンカ社製「ELEGRIP(登録商標)TAPE P-Series」)を貼りつけたものを剥離サンプルとした。二軸引張試験システム(島津製作所製「オートグラフAG-Xplus」)を使用し、下記条件により剥離試験を行った。
剥離方向:90°
剥離速度:2mm/sec
測定幅:25mm
ストローク:80mm
試験厚み:0.070mm
押さえ棒:φ7mm
押さえ:1N/mm2
【0138】
剥離時にテープの割れが発生したかどうかを目視で確認した。
【0139】
上記の結果から、本発明の実施例に係る組成物では、耐熱性、テープ剥離性ともに優れていた。一方、貯蔵弾性率の条件を満たさない比較例1~4、7、8、12~16では、いずれもテープ剥離性に難があった。また、(A)成分を含まない比較例9~11はいずれも予後不良であった。貯蔵弾性率が0.66GPaを超える比較例5は、耐熱性に難があった。比較例6は、製造時に析出を起こしてしまったため実質的な貯蔵弾性率を持たず、やはり本発明の条件を満たさない。
【0140】
実施例3、4の組成物を用いてシリコンウエハをガラス支持体と接合して得られたシリコンウエハ加工体について、その回路非形成面(裏面)を研削する実験(すなわち、上記の工程(c)の再現)を行った。加工前のガラス支持体の厚さは約715μm、シリコンウエハの厚みは約722μmのものを用いた。厚みは五回の試行結果の平均値として算出した。
【0141】
実施例3の組成物を仮固定接着層としたシリコンウエハ加工体の厚さ
裏面研削前:1506.6μm
裏面研削後:833.8μm
研削後のシリコンウエハの厚み:49.7μm
【0142】
実施例4の組成物を仮固定接着層としたシリコンウエハ加工体の厚さ
裏面研削前:1508.8μm
裏面研削後:835.0μm
研削後のシリコンウエハの厚み:49.8μm
【0143】
上記の実験結果から、本願の実施例に係る組成物を仮固定接着材として用いたシリコンウエハ加工体では、シリコンウエハを好適に薄化できることが確かめられた。