(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151391
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
B23C 5/28 20060101AFI20241018BHJP
B23P 15/34 20060101ALI20241018BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20241018BHJP
B22F 7/00 20060101ALI20241018BHJP
B23B 31/107 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B23C5/28
B23P15/34
B22F10/28
B22F7/00 F
B23B31/107 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064591
(22)【出願日】2023-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 展示日時: 令和 5年 4月12日 展示会名: 第5回名古屋 次世代3Dプリンタ展 開催場所: ポートメッセなごや
(71)【出願人】
【識別番号】522455940
【氏名又は名称】ティーケーエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】駒田 拓也
【テーマコード(参考)】
3C032
4K018
【Fターム(参考)】
3C032FF01
4K018AA14
4K018AA24
4K018BA08
4K018BA13
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】冷却効率が良好であり、切削刃の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングを効果的に抑制(防止)することが可能な工具ホルダを提供する。
【解決手段】工具ホルダ1は、三次元データに基づいて鉄系原料の粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法を用いて一体的に形成されている。そして、工具ホルダ1は、先端際に、切削刃を取り付けるための凹部6,6が設けられているとともに、それらの凹部6,6に取り付けられる切削刃へ冷却媒体を供給するための冷却媒体流路9が内部に形成されている。また、冷却媒体流路9は、主流路から小径の複数の従流路を枝分かれ状に形成したものであり、それらの従流路の先端が、凹部6,6へ冷却媒体を吹き付けるための噴射孔(第一噴射孔16,16・・、第二噴射孔17,17・・)になっている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削刃を取り付けた状態で工作機械に装着されて被加工物の切削加工に供される工具ホルダであって、
金属によって棒状に一体的に形成されており、前記切削刃を着脱可能な取付部が設けられているとともに、
その取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を供給するための冷却媒体流路が内部に形成されていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記冷却媒体流路が、一定ではない内径を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記冷却媒体流路が、主流路から小径の複数の従流路を枝分かれ状に形成したものであり、それらの従流路の先端が、前記取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を吹き付けるための噴射孔になっていることを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項4】
三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法を用いて一体的に形成されたものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削刃を取り付けた状態で工作機械に装着されて被加工物(ワーク)の切削加工に供される工具ホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物を加工するための工具として、長手方向に沿った軸心周りに回転しながら被加工物を切削するドリルやエンドミル等の切削工具が知られている。また、そのような切削工具の中には、切削中の発熱による切削刃の摩耗やチッピング(欠損)を防止するために、クーラント等の冷却液を切削刃や被加工物との接触点に向けて供給するための流路を、工具ホルダを貫通するように形成したものもある。たとえば、特許文献1の切削工具においては、工具ホルダの本体部の軸心に沿って第一流路が直線状に形成されているとともに、その第一流路の先端際に交差して切削刃付近まで至るように、第二流路が工具ホルダの本体部の軸心に対して傾斜した直線状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の如き従来の切削工具は、ドリルによってホルダの本体部を複数回にわたり穿設することによって第一流路および第二流路を形成しなければならない上、第二流路の基端を樹脂等で封止しなければならないため、製造に手間が掛かる、という不具合がある。また、特許文献1の切削工具は、設計上、第二流路の先端の冷却液の吐出口を切削刃に近付けるのが難しいことや、第一流路と第二流路との交差位置において冷却液が逆流するために圧力損失が大きいことに起因して、冷却液を高い圧力で切削刃に吹き付けることができないため、冷却効率が不十分であった。
【0005】
本発明の目的は、上記した従来の工具ホルダの問題点を解消し、製造が容易である上、冷却効率が良好であり、切削刃(特に刃先)の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングを効果的に抑制(防止)することができる上、熱変形(ホルダ自体および切削刃の熱変形)による加工精度の低下を効果的に防止することが可能な工具ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、切削刃を取り付けた状態で工作機械に装着されて被加工物の切削加工に供される工具ホルダであって、金属によって棒状(少なくとも一部が円柱状や角柱状であるもの等)に一体的に形成されており、前記切削刃を着脱可能な取付部が設けられているとともに、その取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を供給するための(ひと繋がりの)冷却媒体流路が内部に形成されている(すなわち、冷却媒体流路へ冷却媒体を供給するための供給口、冷却媒体流路から冷却媒体を噴出するための噴出孔以外の口や孔を有しない一連の冷却媒体流路が、内部に一体的に(本体の形成と同時に)形成されている)ことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記冷却媒体流路が、一定ではない内径を有するものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記冷却媒体流路が、主流路から小径の複数の従流路を枝分かれ状に形成したものであり、それらの従流路の先端が、前記取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を吹き付けるための噴射孔になっていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載された発明は、請求項1~3のいずれかに記載された発明において、三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(以下、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法という)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(以下、導電性物質の溶融押出積層方法という)を用いて形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
上記した導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法において造形の原料として用いる導電性物質とは、実質的に磁性を有しておらず、かつ、良好な導電性を有する物質のことを言う。かかる導電性物質としては、鉄、アルミニウム等を挙げることができる。また、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を利用して本発明に係る工具ホルダを造形する場合には、敷設された造形の原料(すなわち、導電性物質からなる粉末)をレーザあるいは電子ビームの照射によって溶融させる必要がある。その際のレーザとしては、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等を好適に用いることができるが、ファイバレーザ(すなわち、Yb等の希土類元素を添加した光ファイバをレーザ媒質として用いるレーザ)を用いると、小型の装置により高い出力でビーム品質の良いレーザ光を得ることが可能となり、寸法精度の高い工具ホルダを非常に効率良く製造することが可能となるので好ましい。さらに、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法により工具ホルダを造形する場合のファイバレーザの出力、波長は、特に限定されないが、出力を400~1,000wの範囲内に調整し、波長を1,000~1,100nmの範囲内に調整すると、短時間での効率的な造形が可能となるので好ましい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の工具ホルダは、金属によって一体的に形成されているため、冷却媒体流路を別個に設ける必要がないので、安価かつ容易に製造することができる。また、請求項1に記載の工具ホルダによれば、クーラント等の冷却媒体を、内部の冷却媒体流路を介して圧力損失を生じさせることなく、取付部に取り付けられる切削刃へ高い圧力で吹き付けることができるので、切削刃(特に刃先)の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングを効果的に抑制することができる。それゆえ、請求項1に記載の工具ホルダによれば、熱変形(ホルダ自体および切削刃の熱変形)による加工精度の低下を効果的に防止することが可能となる。さらに、請求項1に記載の工具ホルダによれば、切削時に切削刃の刃先に出来る構成刃先や切削時に発生する長い切り屑を防止(分断)でき、加工効率を上げることも可能となる。
【0012】
請求項2に記載の工具ホルダは、一定ではない内径を有する(すなわち、長手方向において内径(断面積)が変化する)冷却媒体流路が内部に形成されているため、冷却媒体流路の先端からの冷却媒体の噴出圧力を容易にコントロールすることができる。
【0013】
請求項3に記載の工具ホルダは、冷却媒体流路の主流路を流下した冷却媒体を、従流路の先端の噴射孔から高い圧力で取付部に取り付けられた切削刃に吹き付けることができるので、非常に効率的に切削刃を冷却することができる。したがって、請求項3に記載の工具ホルダによれば、切削刃の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングを一段と効果的に抑制することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の工具ホルダは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、冷却媒体流路を内部に形成した複雑な形状を有しているにも拘わらず、安価かつ非常に容易に製造することができる。その上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、請求項4に記載の工具ホルダは、銀ロウによる接着部分等が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って高い加工精度を保持することができる。加えて、請求項4に記載の工具ホルダによれば、設計上、冷却媒体流路の先端を切削刃に近接させることが可能となるので、切削刃の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングをきわめて効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】工具ホルダの斜視図(左側から見た斜視図)である。
【
図2】工具ホルダの斜視図(右側から見た斜視図)である。
【
図7】工具ホルダの鉛直断面図である(aは、
図3におけるA-A線断面図であり、bは、
図3におけるB-B線断面図である)。
【
図8】工具ホルダの斜視図(左側から見た内部を透視した斜視図)である。
【
図9】工具ホルダの正面図である(aは、内部を透視した正面図であり、bは、aのα部分の拡大図である)。
【
図10】工具ホルダの平面図である(aは、内部を透視した平面図であり、bは、aのβ部分の拡大図である)。
【
図11】工具ホルダを製造する様子を示す説明図である(aは平面図であり、bは鉛直断面図である)。
【
図12】工具ホルダの使用状態(切削刃を装着した状態)を示す説明図(左側から見た斜視図)である。
【
図13】工具ホルダの変更例の斜視図(左側から見た内部を透視した斜視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る工具ホルダの一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
<工具ホルダの構造>
図1~
図10は、工具ホルダを示したものであり、工具ホルダ1は、鉄系の原料を用いた導電性物質粉末層の部分溶着積層方法(三次元データに基づいて鉄系原料の粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法)によって、長尺な略円柱状に一体的に形成されている。かかる工具ホルダ1の基端側(
図3における右側)には、工作機械に装着させるための略円柱状の把持部(シャンク)2が形成されており、先端側(
図3における左側)には、把持部よりわずかに小径の加工部3が形成されている。そして、工具ホルダ1は、直径(把持部2の直径)=32mmφ×長さ=155mmの大きさを有している。
【0018】
また、把持部2の基端面の中心には、扁平な円錐台状の係合凹部14が形成されており、当該係合凹部14の左右には、後述する冷却媒体流路9へ冷却媒体(クーラント等)を供給するための略矩形の2つの供給口15,15が、軸心(係合凹部14の中心)に対して対称となるように設けられている。
【0019】
一方、加工部3の先端際には、略1/4円柱状の2つの溝4,4が、軸心に対して対称になるように形成されており、先端面が、中心角90°の2つの扇形を軸心に対して対称になるように配置させた形状を有している。そして、それらの溝4,4によって、所謂、掬い面と逃げ面が直交するように形成された状態になっている。また、加工部3の先端の逃げ角は、約160°になっている。さらに、先端面の中心には、扁平な円錐台状の係合凹部5が形成されている。
【0020】
そして、各溝4,4の先端際には、それぞれ、切削刃を取り付けるための取付部として機能する扁平な直方体状の凹部6が刻設されており、それらの凹部6,6が、軸心(係合凹部5の中心)に対して対称に配置された状態になっている。さらに、各凹部6,6の中心には、切削刃を螺着する際に用いるネジ孔7が刻設されている。また、各溝4,4の基端側には、切削加工時に切削屑を排出させるための排出溝8が連設されており、把持部2の先端際まで至った状態になっている。各排出溝8,8は、内面(軸方向に垂直な断面)が円弧状になるように形成されており、先端面側からみたときに、先端から基端にかけて時計回りに約90°回転するように、螺旋状(スパイラル状)に形成されている。
【0021】
<冷却媒体流下路の構造>
一方、
図7~10の如く、工具ホルダ1の内部には、加工部2の先端際の凹部(取付部)6に取り付けられる切削刃およびその付近へ冷却媒体(クーラント等)を供給するための冷却媒体流路9が形成されている。当該冷却媒体流路9は、把持部2の内部に形成された2本の第一主流路10,10、加工部3の内部に形成された2本の第二主流路11,11、各第二主流路11,11の先端際に連設された18本ずつの第一従流路12,12・・、および、各第二主流路11,11の先端に連設された小径の4本の第二従流路13,13・・によって構成されている。
【0022】
各第一主流路10,10は、基端側が四角柱状になっており、先端側が円柱状になっている(すなわち、基端から先端にかけて四角柱の稜線が次第に大きな曲率半径になるように面取りされた状態になっている)。また、第一主流路10,10の先端側は、基端側よりも小径(約6mmφ)になっている(断面積が小さくなっている)。そして、各第一主流路10,10の基端は、把持部2の基端面に形成された供給口15,15になっており、各第一主流路10,10の先端は、各第二主流路11,11と連通した状態になっている。なお、各第一主流路10,10の基端は、約8mm×8mmの大きさの正方形状になっている。加えて、各第一主流路10,10は、基端から先端に至るまで、軸心に対して対称となるように配置されている(
図6参照)。
【0023】
また、第二主流路11,11は、各第一主流路10,10の先端部分と同一な内径(約5mmφ)を有する一定の内径の円柱状に形成されている。そして、先端側からみたときに、基端から先端にかけて時計回りに約90°回転するように(排出溝8,8に沿って回転するように)、螺旋状(スパイラル状)に形成されている。加えて、各第二主流路11,11は、
図7の如く、基端から先端に至るまで、軸心に対して対称となるように、かつ、各排出溝8,8の周面からの距離が等しくなるように配置された状態になっている。
【0024】
一方、第一従流路12,12・・は、各第二主流路11,11より大幅に小径(約1.0mmφ)の円柱状に形成されており、各第二主流路11,11の先端際に、軸方向(前後方向)6列×径方向3行になるように等間隔かつ平行に配置されている。また、各第一従流路12,12・・の先端は、溝4,4および排出溝8,8まで至っており、第一噴射孔16,16・・を形成した状態になっている。さらに、各第一従流路12,12・・は、軸心方向に対して約30°傾斜した状態になっており、先端方向への外挿線が、凹部6に取り付けられる切削刃の表面に対して約30°傾斜した状態になっている。
【0025】
また、第二従流路13,13・・は、各第二主流路11,11より大幅に小径(約1.0mmφ)の円柱状に形成されており、各第二主流路11,11の先端に、径方向4列の等間隔かつ平行に配置されている。また、各第二従流路13,13・・の先端側は、各第二主流路11,11と同様な螺旋を描いて先端面まで至っており、第二噴射孔17,17・・を形成した状態になっている。そして、各第二従流路13,13・・の先端際の部分は、先端面と直交した状態になっている。
【0026】
<工具ホルダの製造方法>
図11は、工具ホルダ1を形成する様子を示したものであり、工具ホルダ1を形成するための三次元プリンタ装置Mは、中央に直方体状の凹状部を形成してなるフレームF、そのフレームFに対して昇降可能に設けられた昇降部材、レーザLを照射するための照射手段S、レーザを反射させるための反射手段R、昇降部材を昇降させるための駆動手段(図示せず)等を有している。そして、昇降部材には、フレームFの凹状部の開口部分と略同一の面積を有するテーブルTが設けられている。
【0027】
三次元プリンタ装置Mにより工具ホルダ1を製造する際には、まず、上昇位置にある昇降部材のテーブルTの表面に、鉄系原料の粉末(以下、鉄系粉末という)を、所定の厚み(たとえば、30μm)になるように敷設する(テーブルTの表面とフレームFの外枠の表面とのギャップだけ鉄系粉末を敷き詰める)。そして、その鉄系粉末に対して、所定の出力のレーザ(ファイバレーザ)Lを所定の形状に照射して鉄系粉末の一部を溶融させ、冷却して凝固させることによって、工具ホルダ1の一部を形成する。
【0028】
上記の如く、工具ホルダ1の一部を形成した後には、駆動手段により昇降部材のテーブルTを所定の高さ(たとえば、30μm)だけ降下させる。そして、その高さ位置において、“先に形成された工具ホルダ1の一部の上側での鉄系粉末の敷設→鉄系粉末に対するレーザLの照射→溶融した鉄の冷却・固化(凝固による固化)”という動作を繰り返す。そして、上記の如く、“昇降部材のテーブルTを降下→鉄系粉末の敷設→鉄系粉末に対するレーザLの照射→溶融した鉄の冷却・固化”という動作を、所定の回数(たとえば、5,000回)だけ繰り返すことによって、鉄系原料からなる工具ホルダ1を一体的に形成することができる。
【0029】
<工具ホルダの作用>
上記の如く構成された工具ホルダ1は、
図12の如く、先端の2箇所の凹部(取付部)6,6に、それぞれ、切削刃(超硬刃)CをボルトBによって螺着して切削工具として用いることができる。そして、長手方向に沿った軸心の周りに回転可能に工作機械に装着した状態(把持部2を工作機械に把持させた状態)で、被加工物(ワーク)の切削加工に供することができる。そして、工具ホルダ1は、切削加工中には、外部の供給装置から供給されたクーラント(切削油)等の冷却媒体を、冷却媒体流路9の基端の2つの供給口15,15から導入し、冷却媒体流路9(すなわち、第一主流路10,10、第二主流路11,11、第一従流路12,12・・、および、第二従流路13,13・・)の内部を流下させた後に、先端際の第一噴射孔16,16・・からシャワー状に高圧で噴出させることによって、切削刃Cを集中的に冷却することができる。同時に、冷却媒体を、先端面の第二噴射孔17,17・・からシャワー状に高圧で噴出させることによって、被加工物の加工面をも冷却することができる。なお、切削刃Cが摩耗した場合等には、交換することも可能である。
【0030】
<工具ホルダの効果>
工具ホルダ1は、上記の如く、金属によって一体的に形成されているため、冷却媒体流路9を別個に設ける必要がないので、安価かつ容易に製造することができる。また、工具ホルダ1によれば、クーラント等の冷却媒体を、内部の冷却媒体流路9を介して圧力損失を生じさせることなく、凹部6,6(すなわち、取付部)に取り付けられる切削刃Cへ高い圧力で吹き付けることができるので、切削刃C(特に刃先)の温度上昇、切削刃Cの摩耗やチッピングを効果的に抑制することができる。それゆえ、工具ホルダ1によれば、熱変形(工具ホルダ1自体および切削刃Cの熱変形)による加工精度の低下を効果的に防止することができる。さらに、工具ホルダ1によれば、切削刃Cに付着した切削屑を効果的に除去して、加工効率を高く保つことができる。
【0031】
また、工具ホルダ1は、冷却媒体流路9が一定ではない内径を有する(すなわち、長手方向において内径(断面積)が変化する)ものであるため、冷却媒体流路9の先端(第一噴射孔16,16・・および第二噴射孔17,17・・)からの冷却媒体の噴出圧力を容易にコントロールすることができる。
【0032】
さらに、工具ホルダ1は、冷却媒体流路9が、主流路(第一主流路10,10および第二主流路11,11)から小径の複数の従流路(第一従流路12,12・・および第二従流路13,13・・)を枝分かれ状に形成したものであるとともに、それらの従流路の先端が、凹部6,6へ冷却媒体を吹き付けるための噴射孔(第一噴射孔16,16・・および第二噴射孔17,17・・)になっており、冷却媒体流路9の主流路を流下した冷却媒体を、従流路の先端の噴射孔から高い圧力で凹部6,6に取りつけられた切削刃C,Cに吹き付けることができるので、非常に効率的に切削刃C,Cを冷却することができる。したがって、工具ホルダ1によれば、切削刃C,Cの温度上昇、切削刃C,Cの摩耗やチッピングを非常に効果的に抑制することができる。
【0033】
加えて、工具ホルダ1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法(すなわち、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)によって形成されるものであるため、枝分かれ状の冷却媒体流路9を内部に形成した複雑な形状を有しているにも拘わらず、非常に容易に製造することができる。その上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、工具ホルダ1は、銀ロウによる接着部分等が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って高い加工精度を保持することができる。加えて、工具ホルダ1は、冷却媒体流路9の先端(第一噴射孔16,16・・)が切削刃C,Cに近接しているため、切削刃C,Cの温度上昇、切削刃C,Cの摩耗やチッピングをきわめて効果的に抑制することができる。
【0034】
<工具ホルダの変更例>
本発明に係る工具ホルダは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、材質や大きさ、把持部、加工部(切削刃の取付部、溝、排出溝)、冷却媒体流路(主流路、従流路)等の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0035】
たとえば、工具ホルダは、上記実施形態の如く、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法(三次元データに基づいて導電性物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法)によって製造されたものに限定されず、導電性物質の溶融押出積層方法(三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法)によって製造されたものでも良い。なお、工具ホルダの造形方法として、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を用いると、複雑な形状・構造を有する工具ホルダを容易に製造することが可能となるので好ましい。さらに、工具ホルダは、上記実施形態の如く、鉄系の原料によって形成されたものに限定されず、必要に応じて形成原料をアルミニウム等の他の金属等に変更することができる。
【0036】
また、工具ホルダは、上記実施形態の如く、冷却媒体流路が一定ではない内径を有するもの(冷却媒体流路の径(断面積)が変化しているもの)に限定されず、冷却媒体流路が一定の内径を有するものでも良い。さらに、工具ホルダは、上記実施形態の如く、冷却媒体流路の主流路および/または従流路が螺旋状(スパイラル状)のものに限定されず、主流路および/または従流路の少なくとも一部が直線状のもの等でも良い。
【0037】
加えて、工具ホルダは、上記実施形態の如く、冷却媒体流路の主流路の先端あるいは先端際に従流路を枝分かれ状に形成したものに限定されず、冷却媒体流路が枝分かれしていないものでも良い。たとえば、工具ホルダは、
図13の如く、複数の主流路(のみ)21,21を軸心に対して対称に配置されており同一方向に回転した螺旋状(スパイラル状)に形成し、先端の噴射孔を逃げ面あるいは掬い面に形成したもの等でも良い。そのように冷却媒体流路(主流路21,21)を形成した工具ホルダ1’も、上記実施形態の工具ホルダと同様に、切削刃および被加工物を効果的に冷却して加工精度の低下を防止することができ、また、切削刃の摩耗やチッピングを一段と効果的に抑制することが可能となる。
【0038】
また、工具ホルダは、上記実施形態の如く、冷却媒体流路の主流路の先端あるいは先端際に、冷却媒体をシャワー状に噴射するための複数種類の非常に小径な従流路を枝分かれ状に形成したものに限定されず、主流路の先端あるいは先端際に、冷却媒体をシャワー状に噴射するための単一種類の非常に小径な従流路を枝分かれ状に形成したものでも良い。
【0039】
さらに、工具ホルダは、上記実施形態の如く、切削刃を取り付けるための取付部を先端(あるいは先端際)に設けたものに限定されず、取付部を先端から任意の長さだけ後方の部位に設けたもの等に変更することも可能である。
【0040】
加えて、工具ホルダは、上記実施形態の如く、噴出孔に繋がった冷却媒体流路(第一従流路)の先端部分の外挿線(先端方向への外挿線)が取付部に取り付けられる切削刃の表面に対して約30°傾斜した状態になっているものに限定されず、当該外挿線と切削刃の表面との傾斜角度(噴出角度)を必要に応じて、適宜変更することができる。なお、噴出角度を10°~40°に調整した場合には、切削刃の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングの抑制機能、および、切削刃表面からの切削屑除去機能を一段と良好なものとすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る工具ホルダは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、切削刃を取り付けた状態で工作機械に装着して被加工物の切削加工に供するための部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1,1’・・工具ホルダ
2・・把持部
3・・加工部
4,4’・・溝
5・・係合凹部
6・・凹部
7・・ネジ孔
8・・排出溝
9・・冷却媒体流路
10・・第一主流路
11・・第二主流路
12・・第一従流路
13・・第二従流路
14・・係合凹部
15・・供給口
16・・第一噴射孔
17・・第二噴射孔
21・・主流路
【手続補正書】
【提出日】2023-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削刃を取り付けた状態で工作機械に装着されて被加工物の切削加工に供される工具ホルダであって、
金属によって棒状に一体形成されており、前記切削刃を着脱可能な取付部が設けられているとともに、
その取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を供給するための冷却媒体流路が内部に形成されており、
前記冷却媒体流路が、主流路から小径の複数の従流路を枝分かれ状に形成したものであり、それらの従流路の先端が、前記取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を吹き付けるための噴射孔になっているとともに、
前記主流路の基端が四角柱状になっており、前記主流路の先端が基端よりも断面積の小さな円柱状になっていることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の工具ホルダを製造するための製造方法であって、
三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法によって前記工具ホルダを一体形成することを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、切削刃を取り付けた状態で工作機械に装着されて被加工物の切削加工に供される工具ホルダであって、金属によって棒状(少なくとも一部が円柱状や角柱状であるもの等)に一体形成されており、前記切削刃を着脱可能な取付部が設けられているとともに、その取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を供給するための(ひと繋がりの)冷却媒体流路が内部に形成されており(すなわち、冷却媒体流路へ冷却媒体を供給するための供給口、冷却媒体流路から冷却媒体を噴出するための噴出孔以外の口や孔を有しない一連の冷却媒体流路が、内部に的に(本体の形成と同時に)一体形成されており)、前記冷却媒体流路が、主流路から小径の複数の従流路を枝分かれ状に形成したものであり、それらの従流路の先端が、前記取付部へ取り付けられる切削刃へ冷却媒体を吹き付けるための噴射孔になっているとともに、前記主流路の基端が四角柱状になっており、前記主流路の先端が基端よりも断面積の小さな円柱状になっていることを特徴とするものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の工具ホルダを製造するための製造方法であって、三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(以下、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法という)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(以下、導電性物質の溶融押出積層方法という)によって前記工具ホルダを一体形成することを特徴とするものである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
請求項1に記載の工具ホルダは、一定ではない内径を有する(すなわち、長手方向において内径(断面積)が変化する)冷却媒体流路が内部に形成されているため、冷却媒体流路の先端からの冷却媒体の噴出圧力を容易にコントロールすることができる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
請求項1に記載の工具ホルダは、冷却媒体流路の主流路を流下した冷却媒体を、従流路の先端の噴射孔から高い圧力で取付部に取り付けられた切削刃に吹き付けることができるので、非常に効率的に切削刃を冷却することができる。したがって、請求項1に記載の工具ホルダによれば、切削刃の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングを一段と効果的に抑制することが可能となる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
請求項2に記載の工具ホルダの製造方法は、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって工具ホルダを製造するものであるため、工具ホルダの形状が、冷却媒体流路を内部に形成した複雑な形状であるにも拘わらず、安価かつ非常に容易に製造することができる。その上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、請求項2に記載の製造方法によって製造される工具ホルダは、銀ロウによる接着部分等が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って高い加工精度を保持することができる。加えて、請求項2に記載の工具ホルダの製造方法によれば、設計上、工具ホルダの冷却媒体流路の先端を切削刃に近接させることが可能となるので、切削刃の温度上昇、切削刃の摩耗やチッピングをきわめて効果的に抑制することが可能となる。