(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151395
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】多巻きコイル用高温超伝導テープシート、それを用いた多巻きコイル、超伝導磁束トランス、および、超伝導マグネトメータ
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20241018BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01B12/06
H01F6/06 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064605
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】小森 和範
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA38
5G321CA42
5G321CA50
5G321DB21
5G321DB34
5G321DB40
(57)【要約】
【課題】 接合を不要とし、かつ、閉回路である多巻きコイル用の高温超伝導テープシート、それを用いた低背形状の多巻きコイル、それを用いた超伝導磁束トランス、および、超伝導マグネトメータを提供すること。
【解決手段】 本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシートは、巻き数が1ターンである複数の平面コイル部と、複数の平面コイル部のそれぞれを接続する配線部とを備え、複数の平面コイル部および配線部が閉回路を構成し、複数の平面コイル部の少なくともいくつかの平面コイル部は、電流の流れる向きが同じとなるよう互いに重ね合わせられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き数が1ターンである複数の平面コイル部と、
前記複数の平面コイル部のそれぞれを接続する配線部と
を備え、
前記複数の平面コイル部および前記配線部が閉回路を構成し、
前記複数の平面コイル部の少なくともいくつかの平面コイル部は、電流の流れる向きが同じとなるよう互いに重ね合わせられる、多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項2】
前記少なくともいくつかの平面コイル部は、テープシートの面内方向の曲げにより互いに重ね合わせられる、請求項1に記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項3】
前記少なくともいくつかの平面コイル部は、テープシートの面に垂直な方向への曲げにより立体的なループを形成することで互いに重ね合わせられる、請求項1または2に記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項4】
前記高温超伝導テープシートの幅は、2mm以上20mm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項5】
前記高温超伝導テープシートの長さは、50mm以上1m以下である、請求項1~4のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項6】
前記高温超伝導テープシートの幅に対する前記少なくともいくつかの平面コイル部の外径の割合は、0.2以上1.0以下である、請求項1~5のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項7】
前記少なくともいくつかの平面コイル部の内径は、0.1mm以上10mm以下である、請求項1~6のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項8】
前記少なくともいくつかの平面コイルの数は、2以上5以下である、請求項1~7のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項9】
前記複数の平面コイル部の形状は、円、楕円、および、多角形からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1~8のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項10】
前記高温超伝導テープシートの超伝導層は、希土類元素(RE)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、および、酸素(O)を含有する一般式REBaaCu3Obで表され、REは、イットリウム(Y)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、および、イッテルビウム(Yb)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、aは、0<a≦2を満たし、bは、6.2≦b≦7を満たす、請求項1~9のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシート。
【請求項11】
高温超伝導テープからなる多巻きコイルであって、
前記高温超伝導テープは、請求項1~10のいずれかに記載の多巻きコイル用高温超伝導テープシートである、多巻きコイル。
【請求項12】
前記高温超伝導テープシートにおいて、前記複数の平面コイル部のうち少なくともいくつかの平面コイル部は、電流の流れる向きが同じとなるように重ね合わせられている、請求項11に記載の多巻きコイル。
【請求項13】
請求項11または12に記載の多巻きコイルを備えた、超伝導磁束トランス。
【請求項14】
請求項13に記載の超伝導磁束トランスと、
高温超伝導SQUID、AMR素子、TMR素子、GMR素子を含むMR素子、MI素子、フラックスゲート、および、ホール素子からなる群から選ばれる1つまたは2以上の磁気センサと
を備える、超伝導マグネトメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多巻きコイル用高温超伝導テープシート、それを用いた多巻きコイル、超伝導磁束トランス、および、超伝導マグネトメータに関する。
【背景技術】
【0002】
精密磁気測定に用いられる超伝導磁束トランスとして金属超伝導線材を用いた多巻きコイルが実用化されている。超伝導磁束トランスは超伝導永久電流を利用するため、線材端部の接合などを用いてコイルを超伝導閉回路にすることが不可欠である。
【0003】
一方、液体窒素沸点温度(1気圧下で77K)以上で超伝導転移温度を有し、臨界電流密度などの優れた特性を有する高温超伝導セラミックス材料を用いたテープ線材が市販されており、テープ線材間を接合する技術が知られている(例えば、非特許文献1および2を参照)。
【0004】
非特許文献1の
図2によれば、テープ線材の超伝導層を露出させ、高温高圧下で溶融拡散させ、酸素雰囲気中350時間焼鈍し、液体窒素沸点温度で良好な超伝導特性を有する接合を可能にする。また、非特許文献2の
図1によれば、超伝導バルク体を用いたテープ線材の接合技術を報告する。しかしながら、これらのいずれも、長い処理時間を要したり、接合部形状が大きくなったり、制約が生じる。
【0005】
接合を用いずに超伝導閉回路をテープ線材に作製する技術が報告されている(例えば、特許文献1および2を参照)。特許文献1は、テープ線材の線長方向に沿ってスリットを設け、湾曲させることにより超伝導閉回路を作製する方法を開示する。この方法によれば、閉回路の作製に接合を用いないため液体窒素沸点温度において閉回路全体を超伝導状態に維持することができる。この方法を採用すれば、大口径かつ多巻き構造のコイルを提供できるが、コイルの高さは使用する平テープ線材の線幅に制限される。そのため、低背型コイルを作製するためには、非常に細い幅のテープ線材に対してスリット加工を行う必要があり、高精度な加工が要求される。また、加工した細線の曲げ耐性の点から、小口径コイルの作製も困難である。
【0006】
特許文献2は、イオンミリングによりテープ線材など平面形状の基板上に閉回路をパターンニングすることで、接合を用いない超伝導閉回路を作製する方法を開示する。この方法によれば、液体窒素沸点温度において閉回路全体を超伝導状態に維持した、低背形状のコイルを提供できる。しかしながら、巻き線回数は1ターンに制限され、かつ、コイルの外径は基板の幅を超えない小口径になる。
【0007】
さらに、特許文献1および2によれば、上述のコイルを超伝導磁束トランスに用いることを開示する。磁気センサと結合して用いられる超伝導磁束トランスでは、伝達磁束の漏洩を低減するために、磁気センサと超伝導磁束トランスとの距離が小さい構造が有利である。特に、超伝導磁束トランスと小型のループ形状である高温超伝導SQUIDとの結合では、低背の平面型超伝導コイルである超伝導磁束トランスをSQUIDのループに密接させる構造が望ましい。また、磁束伝達の効率向上には、小口径の多巻きコイルを用いた超伝導磁束トランスが有効である。
【0008】
これまで、多層超伝導薄膜を用いた層間配線による多巻き平面コイルの作製例が報告されている(例えば、非特許文献3を参照)。非特許文献3によれば、コイル作製には真空プロセスや単結晶基板が必要などプロセス上の制約が多い。また、真空プロセスを用いずに柔軟なテープ線材を利用したコイルの報告もある(例えば、非特許文献4を参照)。非特許文献4によれば、柔軟なテープ線材上に形成された、同一回路内に複数の平面コイル部を含む超伝導閉回路について、このテープ線材を曲げることで、2つの平面コイル部を電流の向きが逆になるように離して配置した、超伝導グラジオメータが報告されている。この超伝導グラジオメータでは、それぞれの平面コイル部の巻き数は1である。また、お互いの電流の向きが逆であるから、この平面コイル部を重ねても巻き数を増やした多巻きコイルは実現できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-175577号公報
【特許文献2】特開2011-181559号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y.J.Park et al.,Supercond.Sci.Technol.27 085008 (2014).
【非特許文献2】X.Jin et al.,Supercond.Sci.Technol.28 075010 (2015).
【非特許文献3】A.H.Miklich et al.,Appl.Phys.Lett.59, 988 (1991).
【非特許文献4】M.Bick et al.,IEEE Trans.Appl. Supercond.,15(2),765(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、接合を不要とし、かつ、閉回路である多巻きコイル用の高温超伝導テープシート、それを用いた多巻きコイル、それを用いた超伝導磁束トランス、および、超伝導マグネトメータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による多巻きコイル用高温超伝導テープシートは、巻き数が1ターンである複数の平面コイル部と、複数の平面コイル部のそれぞれを接続する配線部とを備え、複数の平面コイル部および前記配線部が閉回路を構成し、複数の平面コイル部の少なくともいくつか(少なくとも2以上)の平面コイル部は、電流の流れる向きが同じとなるよう互いに重ね合わせられることにより、上記課題を解決する。
前記少なくともいくつかの平面コイル部は、テープシートの面内方向の曲げにより互いに重ね合わせられてもよい。
前記少なくともいくつかの平面コイル部は、テープシートの面に垂直な方向への曲げにより立体的なループを形成することで互いに重ね合わせられてもよい。
前記高温超伝導テープシートの幅は、2mm以上20mm以下であってもよい。
前記高温超伝導テープシートの長さは、50mm以上1m以下であってもよい。
前記高温超伝導テープシートの幅に対する前記少なくともいくつかの平面コイル部の外径の割合は、0.2以上1.0以下であってもよい。
前記少なくともいくつかの平面コイル部の内径は、0.1mm以上10mm以下であってもよい。
前記少なくともいくつかの平面コイルの数は、2以上5以下であってもよい。
前記複数の平面コイル部の形状は、円、楕円、および、多角形からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記高温超伝導テープシートの超伝導層は、希土類元素(RE)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、および、酸素(O)を含有する一般式REBaaCu3Obで表される材料であってもよい。ここで、REは、イットリウム(Y)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、および、イッテルビウム(Yb)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、aは、0<a≦2を満たし、bは、6.2≦b≦7を満たす。
本発明による多巻きコイルは、前記高温超伝導テープからなり、これにより上記課題を解決する。
前記多巻きコイルは、前記高温超伝導テープシートにおいて、前記複数の平面コイル部のうち少なくともいくつかの平面コイル部は、電流の流れる向きが同じとなるように重ね合わせられてもよい。
本発明による超伝導磁束トランスは、前記多巻きコイルを備え、これにより上記課題を解決する。
本発明による超伝導マグネトメータは、前記超伝導磁束トランスと、高温超伝導SQUID、AMR素子、TMR素子、GMR素子を含むMR素子、MI素子、フラックスゲート、および、ホール素子からなる群から選ばれる1つまたは2以上の磁気センサとを備え、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による高温超伝導テープシートは、巻き数が1ターンである複数の平面コイル部と、それぞれを接続する配線部とを備え、それらが閉回路を構成している。さらに、複数の平面コイル部のいくつか(少なくとも2以上)の平面コイル部は、電流の流れる向きが同じとなるように互いが重ねられるようになっているので、接合が不要で、かつ、閉回路である多巻きコイルを提供できる。このような多巻きコイルを用いれば、超伝導磁束トランス、超伝導マグネトメータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの上面図
【
図2】本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの断面図
【
図5】
図1のテープシート100から多巻きコイルを作製する手順を示す図
【
図6】本発明の別の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの上面図
【
図7】
図6に示すテープシートを使って作製した多巻きコイルを示す図
【
図8】本発明の別の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの上面図
【
図9】
図8のテープシートを使って作製した多巻きコイルを示す図
【
図10】本発明の多巻きコイルを用いた超伝導グラジオメータを示す模式図
【
図11】本発明による超伝導マグネトメータを示す模式図
【
図12】実施例1の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの写真
【
図13】実施例2の高温超伝導磁束トランスを示す写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシート、その製造方法、および、それによって得られる多巻きコイル、超伝導磁束トランスについて説明する。
【0017】
図1は、本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの上面図である。
図2は、本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの断面図である。
【0018】
本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシート(以降では単にテープシートと称する場合がある)100は、巻き数がそれぞれ1ターンである複数の平面コイル部121~123と、複数の平面コイル部121~123を接続する配線部130とを備え、これらが全体として電気的に閉じた閉回路110を構成している。
【0019】
本発明のテープシート100は、液体窒素沸点温度(1気圧で77K)以上で超伝導転移温度を有する高温超伝導体からなる高温超伝導層230を有し、テープ状のシートに上述の閉回路110を有する限り制限はないが、例示的には、
図2に示すように、基材210と、その上に中間層220と、その上に高温超伝導層230と、その上に金属カバー層240とを備えたシートであってよい。
【0020】
基材210は、テープ状の金属基材であり、例示的には、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、銅合金、銀合金、ステンレス鋼等公知のテープ基材が採用される。基材210は、好ましくは、10μm以上500μmの範囲の厚さを有する。
【0021】
中間層220は、基材210と高温超伝導層230との間に位置し、拡散防止層、ベッド層、バッファ層等の1層以上であってよい。拡散防止層とは、基材210の成分が高温超伝導層230に拡散することを抑制する層である。例示的な拡散防止層は、Si3N4、Al2O3等であり、10nm以上500nm以下の範囲の厚さを有する。ベッド層は、基材210と高温超伝導層230との間の界面反応を抑制する層である。例示的なベッド層は、希土類酸化物であり、10nm以上150nm以下の範囲の厚さを有する。ここで希土類酸化物とは、イットリウム(Y)、エルビウム(Er)等の希土類元素をREとするとき、通常はRE2O3で表され、セリウム(Ce)等の少数の例外についてはREO2で表される化合物を意味する。バッファ層は、高温超伝導層230の配向性を制御する層である。例示的なバッファ層は、IBAD法で形成されるCeO2、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、Zr2O3、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2-Y2O3(YSZ)、SrTiO3等の金属酸化物であり、50nm以上500nm以下の範囲の厚さを有する。
【0022】
高温超伝導層230は、好ましくは、ビスマス系超伝導セラミックスまたは希土類系超伝導セラミックスであってよい。これらは、高温超伝導体として知られており、物理的気相成長法、化学的気相成長法、塗布法で積層できる。ビスマス系超伝導セラミックスは、例えば、公知のBi2Sr2Ca2Cu3O10、Bi2Sr2CaCu2O10であってよい。希土類系超伝導セラミックスは、好ましくは、希土類元素(RE)、バリウム(Ba)、銅(Cu)、および、酸素(O)を含有する一般式REBaaCu3Obで表され、REは、イットリウム(Y)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、および、イッテルビウム(Yb)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、aは、0<a≦2を満たし、bは、6.2≦b≦7を満たす。このような希土類系超伝導酸化物を用いれば、臨界電流密度などの特性に優れた高温超伝導テープシートを提供できる。高温超伝導層230は、好ましくは、100nm以上1μm以下の範囲の厚さを有する。
【0023】
金属カバー層240は、高温超伝導層230を保護し、例示的には、銀(Ag)である。金属カバー層240は、好ましくは、500nm以上5μm以下の範囲の厚さを有する。この他に、図示しないが、基材210の下にもカバー層240があってもよく、一方または両方の金属カバー層240のさらに外側に、安定化層として、例示的には銅(Cu)である、メッキ層があってもよい。
【0024】
なお、
図2において、高温超伝導層230が残っている箇所が、
図1に示す平面コイル部121~123および配線部130となる。それ以外の部分については、
図2では、中間層220がむき出しとなっているが、これに限らない。基材210をむき出しにするようにしてもよい。
【0025】
再度
図1に戻る。
図1の矢印は、閉回路110に流れる電流の向きを示す。テープシート100において、複数の平面コイル部121~123は、電流の流れる向きが同じとなるよう互いに重ね合わせされるようになっている。これにより、接合を不要とし、かつ、閉回路である多巻きコイルを提供できる。
【0026】
テープシート100は、閉回路110以外の部分に切り目や切り欠きを有してもよい。これにより、複数の平面コイル部の重ね合わせが容易になる。具体的には、テープシート100に切り欠き140があることで、複数の平面コイル部121~123は、テープシート100の面内方向の曲げにより、電流の流れる向きがすべて同じとなるように互いに重ね合わせしやすくなる。
【0027】
図1では、少なくともいくつか(少なくとも2以上)の平面コイル部として、3個の平面コイル部121~123を示すが、閉回路に含まれる平面コイル部の数に特に制限はない。重ね合わせる平面コイル部の数は、好ましくは、2以上5以下である。この範囲であれば、重ね合わせ時に生じる変形によるひずみを小さくし、超伝導特性の低下を抑制できる。より好ましくは、平面コイル部の数は、3以上4以下である。この範囲であれば、必要十分なコイルの巻き数の多巻きコイルを供給することができる。
【0028】
図1では、閉回路110には反時計回りに電流が流れる様子を示すが、時計回りに電流が流れてもよい。この場合も、同様に、複数の平面コイル部121~123は、電流の流れる向きが同じとなるように重ね合わせられることは言うまでもない。
【0029】
テープシート100の幅Wとテープシートの長さLとは、目的とする多巻きコイルの寸法に合わせて、適宜設定されるが、好ましくは、テープシート100の幅Wは、2mm以上20mm以下である。この範囲であれば、市販される線材からの選択が容易であり、とりわけ低背の多巻きコイルの寸法を実現できる。加工の観点から、幅Wは、10mm以上15mm以下の範囲であれば、歩留まりよく低背の多巻コイルを提供できる。また、好ましくは、テープシートの長さLは、50mm以上1メートル以下である。この範囲であれば、一般的に必要となる多巻きコイルの巻き数を実現できる。
【0030】
図3は、
図1の平面コイル部121を拡大して示す図である。
【0031】
平面コイル部121の配線を含まないコイル内側の最大の長さを内径d、および、配線を含んだコイルの外側の最大の長さを外径Dとする。平面コイル部121の外径Dは、テープシート100の幅Wを超えることはないが、その範囲内において、目的とする多巻きコイルの寸法に合わせて、適宜設定されてよい。テープシート100の幅Wに対する平面コイル部の外径Dの割合(D/W)は、好ましくは、0.2以上1.0以下である。この範囲であれば、一般的に必要とされる多巻きコイルの寸法を実現できる。D/Wは、より好ましくは、0.45以上1.0以下であってよい。これにより、低背の多巻コイルを提供できる。平面コイル部121の内径dは、好ましくは、0.1mm以上10mm以下である。この範囲であれば、高温超伝導SQUIDなどの磁気センサ素子との結合が容易であり、かつ一般的に必要とされる多巻きコイルの領域を実現できる。なお、配線の幅は、例示的には、0.2mm以上1mm以下の範囲である。
【0032】
図4は、別の平面コイル部の形状を示す模式図である。
【0033】
図1のテープシート100は、円形の平面コイル部121~123を有するが、平面コイル部の形状は円形に限らず、任意の形状を選択することができる。複数の平面コイル部の形状は、
図4に示すように、例示的には、円、楕円、および、多角形からなる群から選択されてよい。例えば、本発明の多巻きコイルを超伝導磁束トランスとして利用する場合に、多巻きコイルの形状が検出したい領域と同じになるように平面コイル部の形状を選択することができる。
【0034】
なお、平面コイル部の形状が楕円である場合、内径d、および、外径Dは、それぞれ、配線を含まない長軸、および、配線を含む長軸であり、平面コイル部の形状が多角形である場合、それぞれ、多角形を内接する円または楕円、および、多角形を外接する円または楕円、を描いた際に、配線を含まない直径または長軸、および、配線を含む直径または長軸である。
【0035】
テープシート100上に閉回路110を作製する方法について説明する。テープシート100の閉回路110以外の部分についてのみ高温超伝導層230を除去することで、テープシート100上の閉回路110において電流が流れ、テープシート100上の閉回路110以外の部分については電流が流れないようにすることができる。
【0036】
テープシート100の閉回路110以外の部分の高温超伝導層230を除去する場合、それ以外の積層も除去する方法であってもよい。例示的には、金属カバー層240と高温超伝導層230を除去する方法であっても、金属カバー層240から基材210までを除去する方法であってもよい。
【0037】
テープシート100の閉回路110以外の部分の高温超伝導層230を除去する方法として、切断、切削、化学エッチングがある。また、これらを複数組み合わせた方法を選択することもできる。
【0038】
切断による方法は、テープシート100の閉回路110以外の部分について、高温超伝導層230を含む層全体を、閉回路から物理的に切り離す方法である。切断するには、切断に一般的に使用される道具を使うことができ、ハサミ、裁断機のようにせん断力を利用するものであっても、カッター、ナイフ、穴あけパンチのように引き裂き力を利用するものであってもよい。
【0039】
切削による方法は、テープシート100の閉回路110以外の部分について、高温超伝導層230を含む層を削り取ることによって物理的に除去する方法である。切削の方法としては、例示的に、イオンミリング、レーザー加工、ダイヤモンドミルビットを用いた機械(フライス)加工、放電加工、ウォータージェットによる加工が挙げられる。加工時に、必要な積層(例えば、閉回路110の高温超伝導層230)が剥離しないよう、無理な力や大きな熱応力などが生じない方法であることが望ましい。
【0040】
化学エッチングによる方法は、テープシート100上の閉回路110以外の部分について、高温超伝導層230を含む層を化学的に溶解することで除去する方法である。
【0041】
化学エッチングでは、まず、テープシート100上の閉回路110に対してエッチングから保護するためのマスク処理を行う。テープシート100上にフォトレジストと呼ばれる感光性材料を塗布し、閉回路110のパターンが印刷されたフォトマスクを通して、露光処理を行う。露光には、フォトレジストの材料に応じてハロゲンランプ、半導体レーザー、紫外線、電子線を使用できる。露光処理の結果、テープシート100上の閉回路110になる部分のフォトレジストと、テープシート100上の閉回路110以外の部分になるフォトレジストに照射される露光量は大きく異なる。フォトレジストはネガ型、ポジ型、いずれでもよく、それぞれの型に合わせたフォトマスクを用意すればよい。フォトレジストは露光により現像液への溶解性が変化するので、露光処理の後に現像液に浸すと、余分なフォトレジスト、つまりテープシート100上の閉回路110以外の部分について、フォトレジストを除去することができる。
【0042】
テープシート100上の閉回路110の部分のみにフォトレジストが残っている状態で、テープシート100にエッチング処理を行う。エッチングは、ウェットエッチング、ドライエッチングのいずれであってもよい。エッチング処理により、フォトレジストがないテープシート100上の閉回路110以外の部分については、金属カバー層240と高温超伝導層230が除去される。中間層220、基材210は残存しても、閉回路110を構成しないので、影響はない。テープシート100上の閉回路110については、表面にフォトレジストが残っているので、金属カバー層240、高温超伝導層230がエッチングから保護され、その結果、中間層220、基材210とともに残る。化学エッチング後に、不要となったフォトレジストは、溶剤により除去することができる。
【0043】
以上のいずれかの方法で、テープシート100上に閉回路110を作製することができる。
【0044】
次に、テープシート100を使って多巻きコイルを作製する方法について説明する。
【0045】
図5は、
図1のテープシート100から多巻きコイルを作製する手順を示す図である。
【0046】
複数の平面コイル部121~123は、テープシート100の面内方向の曲げ応力により互いに重ね合わせられている。複数の平面コイル部121~123を単に重ね合わせすると、多巻きコイル用高温超伝導テープシート100に皺が生じることがあり好ましくない。これを防ぐために、
図1の多巻きコイル用高温超伝導テープシート100の閉回路の存在しない部分であって、平面コイル部121~123を重ね合わせする際に皺となる部分にあらかじめ切り込みを入れる、あるいは、切り離すことにより、皺を生じにくくして重ね合わせを実現できる。それぞれの平面コイル部121~123は、重ね合わせをした後も、配線部130を通じて閉回路110を構成していて、かつ、上下に重ね合わせられた平面コイル部121~123を流れる電流の向きは同じ向きになっている。このようにして多巻きコイル500が得られる。当然ながら、多巻きコイル500は、閉回路をなしている。
【0047】
図6は、本発明の別の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの上面図である。
【0048】
別のテープシート600は、巻き数がそれぞれ1ターンである複数の平面コイル部621~624と、複数の平面コイル部621~624を接続する配線部630とを備え、これらが全体として電気的に閉じた閉回路610を構成している。
図6においても、閉回路610には反時計回りに電流が流れる様子を示し、平面コイル部621~624の電流の流れる向きが同じとなるよう互いに重ね合わせられるようになっている。
【0049】
図7は、
図6に示すテープシートを使って作製した多巻きコイルを示す図である。
【0050】
図7の多巻きコイルでは、テープシート600の面に対して垂直な方向への曲げにより、テープシートが立体的なループを形成し、電流の流れる向きがすべて同じとなるように平面コイル部621~624が重ね合わせされて、多巻きコイル701を構成している。
図6のテープシート600は、その面に対して垂直な方向の曲げ応力を利用する点で、その面内方向の曲げを利用した
図1や
図5のテープシートとは異なるが、それ以外は
図1、
図5を参照して説明した構成と同様であってよいため、説明を省略する。
【0051】
次に、一つの閉回路内に複数の多巻きコイルを作製する方法について説明する。
【0052】
図8は、本発明の別の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの上面図である。
【0053】
別のテープシート800は、巻き数がそれぞれ1ターンである複数の平面コイル部821~827と、複数の平面コイル部821~827を接続する配線部830とを備え、これらが全体として電気的に閉じた閉回路810を構成している。
図8においても、閉回路810には反時計回りに電流が流れる様子を示し、平面コイル部821~827の電流の流れる向きが同じとなるよう互いに重ね合わせられるようになっている。より詳細には、複数の平面コイル部821~827のうち平面コイル部821~823、および、平面コイル部825~827が、それぞれ、テープシート800の面内方向の曲げにより、電流の流れる向きがすべて同じとなるように互いに重ね合わせられるようになっている。このように、平面コイル部を重ね合わせて多巻きコイルにする部分を別々に複数備えることで、同一の閉回路に2以上の多巻きコイルを持つことが可能である。ここで、同一の閉回路において、複数の平面コイル部を重ね合わせた多巻きコイルを少なくとも1つ含む場合には、重ね合わせをしない平面コイル部、つまり平面コイル部824のような1ターンのコイルについても、便宜上多巻きコイルとして取り扱うものとする。
【0054】
図9は、
図8のテープシートを使って作製した多巻きコイルを示す図である。
【0055】
図9には、3つの多巻きコイル901~903が示される。
図9の多巻きコイル901は、複数の平面コイル部821~823を重ね合わせた3ターンの多巻きコイル、多巻きコイル902は、平面コイル部824からなる1ターンの多巻きコイル、多巻きコイル903は、複数の平面コイル部825~827を重ね合わせた3ターンの多巻きコイルであり、これらが同一の閉回路で接続されている。
【0056】
当然ながら、
図7のように、テープシートの面に対して垂直な方向への曲げにより、テープシートが立体的なループを形成して重ね合わせる場合にも、同一の閉回路に2以上の多巻きコイルを備えることは可能である。
【0057】
本発明による多巻きコイルを備えた閉回路は、磁場と電流の変換作用を利用して、印加された磁場の強度を変換し、離れた場所に伝達する目的の超伝導磁束トランスとして機能し得る。
【0058】
例えば、少なくとも2以上の多巻きコイルを備えた閉回路からなる超伝導磁束トランスでは、同一の閉回路中の少なくとも1つの多巻きコイルを磁気センサと結合するインプットコイル、残りの多巻きコイルを信号捕捉を担うピックアップコイルとして使用する。ピックアップコイルに磁場が印加されると、閉回路には磁束の変化を打ち消すように遮蔽電流が生じ、この遮蔽電流によってインプットコイルに磁界が作られる。
【0059】
3以上の多巻きコイルを含む場合、超伝導磁束トランスの一種である超伝導グラジオメータを提供できる。超伝導グラジオメータは、磁束の低次の成分を除去するように、流れる電流の向きを変えて、2以上のピックアップコイルを離して配置する。ピックアップコイルが多巻きコイルである場合、これを複数のコイル部に分割することが可能であり、これによって磁場変化の二次微分、三次微分を計測する高次のグラジオメータ構造が可能となる。
【0060】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した多巻きコイル用高温超伝導テープシートから作製される多巻きコイルを用いた用途として、超伝導グラジオメータおよび超伝導マグネトメータについて説明する。
【0061】
図10は、本発明の多巻きコイルを用いた超伝導グラジオメータ(磁場勾配計)を示す模式図である。
【0062】
図10では、3つの多巻きコイルを備えた閉回路において、2つの多巻きコイルがピックアップコイル1011および1012として機能し、残る1つの多巻きコイルがインプットコイル1020として機能する。ピックアップコイル1011とピックアップコイル1012が検知する磁場が異なる場合、各々のコイルに流れる電流が異なり、その差分の電流がインプットコイル1020に磁界を生成する。このため、
図10の構造は一次の超伝導グラジオメータとなる。図示しないが、さらなる多巻きコイルを用い、すなわち、ピックアップコイルの数を増やし、磁束変化の低次成分を除去することにより、二次、三次の超伝導グラジオメータを提供してもよい。このように、多巻きコイルの配置によって検出する磁場の種類は異なるが、いずれの場合も、検出した磁場に応じて超伝導磁束トランスに電流が流れて、インプットコイル1020に磁界が発生する。
【0063】
図11は、本発明による超伝導マグネトメータを示す模式図である。
【0064】
本発明の超伝導マグネトメータ1100は、超伝導磁束トランス1110と、高温超伝導SQUID1140(SQUID素子とも呼ぶ)とを備える。超伝導磁束トランス1110は、実施の形態1で説明した多巻きコイルを備える閉回路からなり、ここでは、2つの多巻きコイルを有し、それぞれが、ピックアップコイル1120およびインプットコイル1130として機能する。超伝導磁束トランス1110のインプットコイル1130は、ジョゼフソン接合を含むSQUID素子1140と相互インダクタンスを有するように結合する。これにより、ピックアップコイル1120における磁場を計測することができる。好ましくは、ピックアップコイル1120のインダクタンスとインプットコイル1130のそれとは、等しくなるようにするとよい。これにより、ピックアップコイル1120で計測する磁場に対してSQUID素子1140が受け取る信号の伝達率が最大となる。なお、ピックアップコイル1120およびインプットコイル1130のインダクタンスは、重ね合わせする多巻きコイルの巻き数、コイルの長さ、コイルの断面積を調整することによって、制御され得る。
【0065】
本発明による超伝導マグネトメータは、非冷却型の汎用磁気センサ、例えば、AMR素子、TMR素子、GMR素子を含むMR(磁気抵抗)素子、MI素子、フラックスゲート、ホール素子を備えた構成としてもよい。その場合には、インプットコイル1130をこれらの汎用磁気センサへの入力とすればよい。
【0066】
目的に応じて、超伝導磁束トランスとして、超伝導グラジオメータを使用してもよい。超伝導グラジオメータでは、一様な磁場や一応な磁場勾配に影響を受けないようにすることができるので、遠方に発生源のある磁気雑音は除去される。したがって、特別な磁気シールド室ではなく普通の部屋でも必要な信号を検出しやすくなる。
【0067】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0068】
[実施例1]
実施例1では、4つの平面コイル部を備える多巻きコイル用高温超伝導テープシートを製造した。
【0069】
高温超伝導テープシートの線材として、RE
1Ba
2Cu
3O
y(RE=Dy)平テープ線材(米国SuperPower社製、型番SF12050-AP)を用いた。平テープ線材は、基材210(
図2)としてハステロイ-C合金テープ(厚さ50μm)を有し、その上に中間層220(
図2)として結晶配向化処理を施した酸化物バッファ層(材料MgO、厚さ0.2μm)、高温超伝導層230としてREBCO層(RE
1Ba
2Cu
3O
y、RE=Dy、厚さ0.5μm)の積層を有し、金属カバー層240としてAg層(厚さ2μm)で全体が被覆されている。平テープ線材の幅、長さおよび厚さは、それぞれ、12mm、50mmおよび0.06mmであった。
【0070】
平テープ線材に切削加工により4つの平面コイル部および配線部を形成した。詳細には、プロクソン ミニルーターMM100にダイヤモンド刃、イチネンアクセス ダイヤモンドドリル 28576 1.0mm、新潟精機 SK ダイヤモンドインターナル 平φ6 ♯200 F6 φ2.35mmを取り付けて手作業で切削することによりパターンを形成した。外径D=6mm、内径d=3mmの円形ワッシャー形状の3つの平面コイル部、および、外径D=8mm、内径d=6mmの円形の平面コイル部を形成し、これらを線幅0.5mmの配線部によって接続した。なお、配線部間の距離は、0.2mmであった。このようにして得られた実施例1の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの外観を
図12に示す。
【0071】
図12は、実施例1の多巻きコイル用高温超伝導テープシートの写真である。
【0072】
図12に示されるように、3つの直列に接続された平面コイル部(外径D=6mm、内径d=3mm)、および、1つの円形の平面コイル部(外径D=8mm、内径d=6mm)が配線部(線幅0.5mm)で接続されたテープシートが得られた。
図12によれば、電気的に接続されていない部分は、平面コイル部を重ね合わせしやすいように、切り離された。
【0073】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で得られたテープシートによって得られる多巻きコイルを用いた高温超伝導磁束トランスを製造した。
【0074】
実施例1で得られたテープシートの3つの直列の平面コイル部を電流の流れる向きが同じとなるよう、テープシートの面内方向の曲げ応力により互いに重ね合わせた。これにより、3ターンと1ターンの多巻きコイルを含む高温超伝導磁束トランスを製造した。
図12に実施例2の高温超伝導磁束トランスの外観を示す。
【0075】
図13は、実施例2の高温超伝導磁束トランスを示す写真である。
【0076】
図13に示すように、3つの平面コイル部を重ね合わせて得られる3ターンの多巻きコイルは、わずか0.2mmの低背であることが分かった(湾曲した配線部を含めても2mm)。また、3ターンの多巻きコイルと、1ターンの多巻きコイルとは、配線部により電気的に接続されており、1ターンの多巻きコイルをピックアップコイルとし、3ターンの多巻きコイルをインプットコイルとした高温超伝導磁束トランスとなる。
【0077】
次いで、実施例2の高温超伝導磁束トランスの動作を確認した。詳細には、実施例2の高温超伝導磁束トランスを、周囲に磁場が無い状況において液体窒素で全体を冷却して超伝導転移させ、ピックアップコイル(内径6mmの平面コイル部)に静磁場を印加し、インプットコイル(内径3mmの重ね合わせた3つの平面コイル部)に発生する磁場を磁気センサにより測定した。静磁場は、直径6mm、長さ14mmの空芯ボビンにΦ0.2mmポリウレタンコート銅線を500ターン巻いた磁場印加コイルを、ピックアップコイルと中心軸を同じにして隣接させ、定電流を流すことにより印加された。
【0078】
磁場印加コイルに500mAおよび1000mAの定電流を流したところ、磁気センサで測定された磁場は、それぞれ、0.47μTおよび0.94μTであった。このことからピックアップコイルへの印加磁場に比例して、インプットコイルへの伝達磁場が増加し、超伝導磁束トランスとして機能することが確認された。
【0079】
[比較例1]
実施例2の超伝導磁束トランスを設置せずに、磁場印加コイルと磁気センサとを同じ位置に設置し、磁場印加コイルを液体窒素で冷却し、定電流を流し、発生する磁場を測定した。磁場印加コイルに500mAおよび1000mAの定電流を流したところ、磁気センサで測定された磁場は、それぞれ、-0.26μTおよび-0.54μTであった。磁場印加コイルからの漏洩磁場が存在するため、磁気センサでは印加磁場に比例した有限の磁場が観測されるが、その値は、実施例2の超伝導磁束トランスがある場合に比べて顕著に小さく、また符号が逆転していた。
【0080】
実施例2と比較例1との比較の結果、磁場印加コイルと磁気センサとの間に、本発明の超伝導磁束トランスを設置することにより、大きな磁気信号の伝達が行われたことが示された。
本発明の多巻きコイル用高温超伝導テープシートを用いれば、超伝導接続した閉回路に特有の機能を活かし、液体窒素温度において動作する多巻きコイルを提供できる。これにより、本発明の多巻きコイルは、超伝導磁束トランス、超伝導磁束トランスを高温超伝導SQUIDやMIセンサなどの磁気センサと組み合わせた高感度マグネトメータシステムに利用可能である。特に、低背かつ小口径の多巻きコイルを提供できるので、サイズに制約のある小型の検知ヘッドをもつプローブ型磁気顕微鏡などに有利である。