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特開2024-151400亜鉛負極二次電池の正極において導電助剤として用いられる、親水化カーボンブラック水性分散体、及び、亜鉛負極二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151400
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】亜鉛負極二次電池の正極において導電助剤として用いられる、親水化カーボンブラック水性分散体、及び、亜鉛負極二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/26 20060101AFI20241018BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241018BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20241018BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20241018BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M4/26 E
H01M4/62 C
H01M4/24 H
H01M4/583
H01B1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064658
(22)【出願日】2023-04-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「電気自動車用革新型蓄電池開発/フッ化物電池の研究開発、亜鉛負極電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【弁理士】
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】吉川 正晃
(72)【発明者】
【氏名】藤本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】安部 武志
【テーマコード(参考)】
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
5G301DA18
5G301DA60
5G301DD02
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA11
5H050CA16
5H050CB13
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】水系電解質を用いる亜鉛負極二次電池の正極用導電助剤を提供する。
【解決手段】固形分である親水化カーボンブラックが水中に分散している、親水化カーボンブラック水性分散体を、亜鉛負極二次電池の正極において導電助剤として用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分である親水化カーボンブラックが水中に分散している、親水化カーボンブラック水性分散体であって、亜鉛負極二次電池の正極において導電助剤として用いられる、親水化カーボンブラック水性分散体。
【請求項2】
請求項1に記載の親水化カーボンブラック水性分散体であって、固形分濃度が3質量%~25質量%である、親水化カーボンブラック水性分散体。
【請求項3】
請求項1に記載の親水化カーボンブラック水性分散体であって、水中に分散した状態で親水化カーボンブラックのアグロメレートの平均粒径が70nm~200nmである、親水化カーボンブラック水性分散体。
【請求項4】
請求項1に記載の親水化カーボンブラック水性分散体であって、前記親水化カーボンブラックは、NaOHに浸漬した後HClで中和滴定した場合に検出される全酸性官能基量が0.5mmol/g以上1.00mmol/g以下であり、NaCOに浸漬した後HCl中和で滴定した場合に検出される酸性官能基量が0.1mmol/g以上0.30mmol/g以下であり、かつ、NaHCOに浸漬した後HClで中和滴定した場合に酸性官能基量が0.05mmol/g以上0.20mmol/g以下である、親水化カーボンブラック水性分散体。
【請求項5】
請求項1に記載の親水化カーボンブラック水性分散体であって、pHが6.0~9.0である、親水化カーボンブラック水性分散体。
【請求項6】
正極活物質と、導電助剤として、請求項1~5のいずれか1項に記載の親水化カーボンブラックとを含む正極と、亜鉛負極と、水系電解質とを備えた、亜鉛負極二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の亜鉛負極二次電池であって、
前記正極活物質は、活性炭である、亜鉛負極二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、亜鉛負極二次電池の正極において導電助剤として用いられる、親水化カーボンブラック水性分散体、及び、亜鉛負極二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、薄型化、軽量化が進む中、電子機器の電源用やバックアップ用の電池として、高エネルギー密度で充電でき、高効率で放電できる二次電池が開発されている。二次電池は、電気自動車の動力源や、分散型の電力貯蔵用電池としての開発も行われている。二次電池として、現状、最も普及しているリチウムイオン二次電池は、有機電解液が使用されるため、電池が短絡した場合に、発煙、発火、爆発の危険性がある。これに対して、水系電解質を用いた二次電池は、その安全性と環境負荷が少ないことから幅広い分野での利用が期待されている。特に電気自動車用途などでは発火の危険性を無くすため、有機電解質に代わる水系電解質を用いる二次電池が必要不可欠である。水系電解質を用いる二次電池としては、亜鉛負極二次電池の重要性が高い。とりわけ、正極に炭素材料を用いた亜鉛―炭素電池は、軽量かつ低コストになるため、注目されている。正負極にそれぞれ炭素、亜鉛を用いた最近の二次電池の報告としては、非特許文献1が知られている。非特許文献1によれば、活性炭クロスを用いた炭素正極で硫酸亜鉛および過塩素酸亜鉛の電解系を用いた場合の容量はそれぞれ34、50Ah/kgである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Eskusson et. al., Journal of the Electrochemical Society, 2022 169 020512
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
亜鉛負極電池の高容量化には、活性炭などの高比表面積炭素材を用いることが望ましい。しかし、活性炭は導電性が乏しく、適切な導電助剤の配合が不可欠である。
【0005】
有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池では、導電助剤として、カーボンブラックが用いられている。しかしながら、カーボンブラックは疎水性であり水に対する濡れ性が低いために水中に高濃度で安定して分散させることは困難である。これは水分子等の水性媒体との親和性が高い親水性官能基、例えばカルボキシ基やヒドロキシル基等の酸性水酸基のカーボンブラック表面における存在量が極めて少ないことに起因する。それゆえ、カーボンブラックを高分散したスラリーを作成することが困難であるという欠点を有している。分散性が悪いと、高い導電性が得られず、電極活物質の本来の特性を発揮できなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、亜鉛負極二次電池の正極に用いる導電助剤として、親水化カーボンブラック水性分散体を用いる。親水化カーボンブラック水性分散体においては、固形分である親水化カーボンブラックが水中に分散している。
【0007】
親水化カーボンブラック水性分散体においては、固形分濃度は、3質量%~25質量%であってもよい。
【0008】
親水化カーボンブラック水性分散体において、水中に分散した状態で親水化カーボンブラックのアグロメレートの平均粒径が70nm~200nmであってもよい。
【0009】
親水化カーボンブラックは、NaOHに浸漬した後HClで中和滴定した場合に検出される全酸性官能基量が0.5mmol/g以上1.00mmol/g以下であり、NaCOに浸漬した後HCl中和で滴定した場合に検出される酸性官能基量が0.1mmol/g以上0.30mmol/g以下であり、かつ、NaHCOに浸漬した後HClで中和滴定した場合に酸性官能基量が0.05mmol/g以上0.20mmol/g以下であってもよい。
【0010】
親水化カーボンブラック水性分散体のpHが6.0~9.0であってもよい。
【0011】
本開示の亜鉛負極二次電池は、
正極活物質と、導電助剤として、親水化カーボンブラックとを含む正極と、
亜鉛負極と、
水系電解質と、
を備える。
【0012】
亜鉛負極二次電池において、正極活物質は、活性炭であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の親水化カーボンブラック水性分散体は、高い親水性を示し、亜鉛負極電池の正極用導電助剤に好適に使用することができる。親水化カーボンブラック水性分散体を導電助剤に用いた亜鉛負極二次電池は、高い充放電容量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の亜鉛負極二次電池は、亜鉛負極と、正極と、水系電解質とを備えている。正極は、正極活物質と、導電助剤とを含む。
【0015】
本実施形態では、正極活物質として、活性炭を用いる。活性炭は、炭素材料を薬剤賦活又は水蒸気賦活をして製造する。
【0016】
本実施形態においては、正極の導電助剤として、親水化カーボンブラック水性分散体を用いる。親水化カーボンブラック水性分散体は、親水化カーボンブラックを水中に分散させたものである。
【0017】
次に、本実施形態に係る親水化カーボンブラックについて説明する。
【0018】
本実施形態に係る親水化カーボンブラックは、水中に分散した状態で水中に分散した状態におけるアグロメレートの平均粒径D50が70nm~200nmであることが好ましい。
【0019】
本実施形態に係る親水化カーボンブラックは、NaOHで滴定して場合に検出される全官能基量が0.2mmol/g以上0.60mmol/gであり、NaCOで滴定した場合の官能基量が0.05mmol/g以上0.30mmol/gであり、NaHCOで滴定した場合の官能基量が0.05mmol/g以上0.20mmol/gであることが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る親水化カーボンブラックは、水中に分散した状態におけるアグロメレートの平均粒径D50が、70nm~200nmであり、90nm~160nmであることが好ましく、100nm~150nmであることがより好ましい。
【0021】
<親水化カーボンブラック粒子のアグロメレートの平均粒径D50
なお、本出願書類において、上記親水化カーボンブラックのアグロメレートの平均粒径D50は、水分散液の状態でレーザー回折・散乱方式粒子径分布測定装置を用いてレーザー光を照射し、散乱光の周波数変調度合から得られるアグロメレート粒径の累積度数分布曲線において、累積度数50%の値を意味する。
【0022】
各酸化カーボンブラック水分散体において、レーザードップラー方式粒度分布測定装置「マイクロトラック社製、MT3300」を用いてカーボンブラック粒子凝集体の粒径を測定して累積度数分布曲線を作成し、この累積度数分布曲線から50%累積度数の値をカーボンブラック粒子凝集体の平均粒径(D50)として求めた。
【0023】
上述したアグロメレートの平均粒径D50が上記範囲内であれば、水性媒体中で好適に分散して、導電助剤に好適に使用することができる。
上記アグロメレートの平均粒径D50は水性媒体に分散した状態における親水化カーボンブラック粒子の凝集体の大きさに関連する特性と考えられる。上記親水化カーボンブラックのアグロメレートの平均粒径D50が70nm未満であると、導電助剤に用いた場合に、粒径が小さく、電極活物質間に添加した場合電極製造が困難になる。カーボンブラックのアグロメレートの平均粒径D50が200nmを超えると、水性媒体中で親水化カーボンブラックのアグロメレートが接触する確率が高くなり、水性分散体中で親水化カーボンブラックが凝集し易くなることから、分散性が低下し、導電性も低下する。
【0024】
また、親水化カーボンブラックは、表面が-COOH基、-OH基あるいは-COC=O基などで修飾されていることが必須であり、こうした表面酸性官能基は一般にBohemの方法で定量化できる。
【0025】
この方法は、活性炭等に広く用いられている分析方法で、酸/塩基滴定により活性炭表面の酸性酸素官能基を分類し、定量するものである。分析手法は、まず、試料を105℃で恒量まで乾燥し水分を除去した後、1gを正確に秤量し、50mlのアルカリ水溶液に浸漬する。アルカリ水溶液はNaOH(水酸化ナトリウム)、NaCO(炭酸ナトリウム)、NaHCO(炭酸水素ナトリウム)の3種類を用い、濃度はいずれも0.1N(mol/L)とする。この浸漬液は三角フラスコに保存し、開口部をシールし、24hr振とう後、試料を濾過し取り出し、浸漬液の10mlをピペットで秤取し、1NのHClで滴定する。滴定は3回行い、平均値を用いる。この値と、ブランクのアルカリ滴定値との差から、試料の表面酸性官能基量を算出する。
【0026】
アルカリの種類と反応する表面酸性酸素官能基は以下の通りである。
NaOH :-OH(フェノール性水酸基)、-COC=O(ラクトン基)
-COOH(カルボキシ基)
NaCO :-COC=O(ラクトン基)、-COOH(カルボキシ基)
NaHCO :-COOH(カルボキシ基)
【0027】
従って、NaOHの滴定値から全酸性官能基量が算出され、NaOHとNaCOとの滴定値から算出される表面酸性酸素官能基量の差が-OH(フェノール性水酸基)量に相当し、NaCOとNaHCO3との滴定値から算出される表面酸性酸素官能基量の差が-COC=O(ラクトン基)量に相当し、NaHCOの滴定値から算出される表面酸性酸素官能基量が-COOH(カルボキシ基)量に相当する。
【0028】
本実施形態の親水化カーボンブラックは、NaOHに浸漬した後HClで中和滴定した場合に検出される全酸性官能基量が0.5mmol/g以上1.00mmol/g以下であり、NaCOに浸漬した後HCl中和で滴定した場合に検出される酸性官能基量が0.1mmol/g以上0.30mmol/g以下であり、NaHCOに浸漬した後HClで中和滴定した場合に酸性官能基量が0.05mmol/g以上0.20mmol/g以下である。以上のような表面酸性官能基があると、導電助剤として優れた性能を発揮することができる。これらよりも官能基量が少なくても導電助剤としても効果は得られるが、一般的なカーボンブラックと性能があまり変わらない。これらよりもさらに官能基量が高いと水溶液のpHが低下するため、電池として性能が劣化する。
【0029】
次に、本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体について説明する。
【0030】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体は、その固形分濃度が、3質量%~25質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、6~15質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体は、その固形分濃度が上記範囲内にあることにより、導電助剤に用いたときに、好適な分散性を容易に発揮することができる。
【0032】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体において、水性媒体としては、水や、水を主成分としさらに水溶性有機溶剤を含むものを挙げることができ、水のみからなるものが好ましい。水性媒体を構成する水としては、イオン交換水(脱イオン水)や蒸留水等の精製水が挙げられる。
【0033】
亜鉛負極電池では、負極の亜鉛金属が両性元素であることから、その反応性を考慮すると、本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体は、そのpHが、6.0~9.0であるものが好ましく、6.5~8.5であるものがより好ましく、7.0~8.0であるものがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体は、そのpHが上記範囲内にあることにより、導電性助剤として好適に使用することができる。親水化カーボンブラック水性分散体のpHが6.0未満であると、親水化カーボンブラック表面に付与した酸性官能基の解離が妨げられ、粒子表面の電気的な反発作用が失われ凝集しやすくなる。また、親水化カーボンブラック水性分散体のpHが9.0を超えると、分散体中のイオン濃度が過剰となり、塩析により凝集しやすくなるとともに、空気中の炭酸ガスを吸引し易くなって、分散体のpHが不安定になり易くなる。
【0035】
次に、本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法について説明する。
【0036】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法は、水性媒体中で、カーボンブラック100質量部に対し、30~500質量部の親水化剤を少量ずつ順次添加することにより親水化処理して親水化処理物を得た後、得られた親水化処理物を遠心分離して水中に分散した状態におけるアグロメレートの平均粒径D50が70nm~200nmである親水化カーボンブラックの水性分散体を得ることを特徴とするものである。
【0037】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法において、親水化処理されるカーボンブラックは、特に制限されない。親水化カーボンブラック水性分散体は市販のカーボンブラックを酸化処理した後、水に分散させて得ることができる。
【0038】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン(株)製シースト5H、3H、NH、116HM、116、トーカブラック#5500、#4500、#4400や、旭カーボン(株)製F-200、SUNBLACK 270や、三菱化学(株)製ダイヤブラックSA、N234、II(IISAF)、N(N339)、SH(HAF)、MA600、#20、#3050、#3230や、キャボット社製ショウブラック N234、N339、MAF、VULCANXC 72、BLACK PEARLS 480や、新日化カーボン(株)製ニテロン#200IS、#10や、デンカ(株)製デンカブラックFX-35、HS-100や、エボニックデグサ社製Colour Black FW200、FW2、FW285、FW1、FW18、S170、S160、Special Black 6、5、4、4A、Printex U、V、140U、140V、L6、3、HIBLACK 40B1、40B2、420B、150B、Corax HP1107、HP130、N234、N339、N351、MAF、N550、Purex HS55、HS45や、コロンビアン社製Raven 820、Conductex 7055ULTRA等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0039】
カーボンブラックの親水化処理方法も、特に制限されず、親水化剤として、酸化剤、アゾ化剤、界面活性剤またはマイクロカプセルを用いた方法を挙げることができる。
【0040】
例えば、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過硫酸塩、過硼酸塩、過炭酸塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等の酸化剤の水溶液中にカーボンブラックを添加して酸化する方法を挙げることができる。
【0041】
また、カーボンブラックの親水化処理方法としては、過酸化水素、オゾン、オゾン水あるいはM(Mはアルカリ金属)、重クロム酸塩、過マンガン酸塩等の酸化剤で処理する方法を挙げることができる。
【0042】
さらに、カーボンブラックの親水化処理方法としては、ジアゾカップリング処理を実行する方法等を挙げることができ、例えば、p-ニトロ安息香酸を亜硝酸でアゾ化し、それをカーボンブラックの表面にアゾ化して結合させるアゾ化剤を用いた方法を挙げることができる。
【0043】
その他、カーボンブラックの親水化処理方法としては、カーボンブラックを界面活性剤で処理する界面活性剤を用いた方法や、カーボンブラックの表面に高分子をマイクロカプセル化して水中に分散させるマイクロカプセルを用いた方法等を挙げることができる。
【0044】
カーボンブラックの親水化処理方法は、得られる親水化処理物を水性媒体中に良好に分散させ得るものであればいずれの親水化方法であってもよく、酸化剤で酸化する方法が好ましい。
【0045】
水性媒体としては、水や、水を主成分としさらに水溶性有機溶剤を含むものを挙げることができ、水のみからなるものが好ましい。
【0046】
水性媒体を構成する水としては、イオン交換水(脱イオン水)や蒸留水等の精製水が挙げられる。
【0047】
また、分散性を向上させるため、必要に応じて水性媒体に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系いずれのものも使用することができる。
【0048】
カーボンブラックの親水化処理は、親水化剤と水性媒体とを攪拌混合してなる親水化溶液とカーボンブラックとを分散機で攪拌混合し、スラリー化することにより行うことが好ましい。
【0049】
分散機としては、高圧ホモジナイザー、サンドミル、ダイノーミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、高圧の室内にてキャビテーション効果で分散する分散機等を挙げることができる。また、通常の撹拌羽を用いた攪拌機や、高速の分散機、乳化機等によって分散処理を施してもよい。
【0050】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、水性媒体中で、カーボンブラック100質量部に対し、30~500質量部の親水化剤を少量ずつ順次添加しつつ酸化処理して酸化処理物を得ることが好ましい。カーボンブラック100質量部に対する親水化剤の添加量は、30~500質量部であり、100~500質量部であることが好ましく、150~500質量部であることがより好ましい。
【0051】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法において、カーボンブラック100質量部に対する親水化剤の添加量が上記範囲内にあることにより、カーボンブラックの表面を好適に親水化することができる。
【0052】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、カーボンブラック100質量部に対し、上記親水化剤を少量ずつ順次添加する。親水化剤は、カーボンブラックに対し、少量ずつ連続して加えてもよいし、少量ずつ時間間隔を空けて(断続的に)添加してもよい。親水化剤は、上述したように少量ずつ連続して加えてもよいが、少量ずつ断続的に添加する場合は、添加する総量の1/10~1/2ずつ加えることが好ましく、添加する総量の1/10~1/3ずつ加えることがより好ましく、添加する総量の1/10~1/5ずつ加えることがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、カーボンブラック100質量部に対し、上述したように親水化剤を少量ずつ連続して(回数に依らずに)添加してもよいが、少量ずつ断続的に添加する場合は、上記親水化剤を2~10回に分けて添加することが好ましく、3~10回に分けて添加することがより好ましく、5~10回に分けて添加することがさらに好ましい。
【0054】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、カーボンブラック100質量部に対し、上記親水化剤を少量ずつ順次添加する。上記親水化剤は、上述したように少量ずつ連続して添加してもよいが、少量ずつ断続的に添加する場合は、5~90分間毎に1回添加することが好ましく、5~60分間毎に1回添加することがより好ましく、5~30分間毎に1回添加することがさらに好ましい。
【0055】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、上記のとおりカーボンブラック100質量部に対し、上記親水化剤の全量を一度に加えることなく少量ずつ順次加えることにより、酸化剤等の親水化剤の添加に伴う発熱暴走を抑制し、親水化剤を有効に使用して効果的に親水化することができる。また、親水化剤の濃度を低く保つことが出来るため酸化反応速度等の親水化反応速度を遅くすることが可能となり、親水化剤がカーボンブラック表面と接触する前に分解することや、局所的に親水化反応が進むことを抑制することができる。
【0056】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法において、酸化処理時の温度は、50~100℃が好ましく、60~90℃がより好ましく、60~80℃がさらに好ましい。
【0057】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法において、酸化処理時間は、2~24時間が好ましく、3~12時間がより好ましく、4~10時間がさらに好ましい。
【0058】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、上記酸化処理後に、さらに限外濾過膜を用いて残塩を分離処理してもよい。
【0059】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、上記処理によって得られた親水化処理物を、3kg/分間~8kg/分間の流量で送液して遠心分離することが好ましく、3.5kg/分間~7.5kg/分間の流量で送液して遠心分離することがより好ましく、4.0kg/分間~7.0kg/分間の流量で送液して遠心分離することがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態に係る親水化カーボンブラック水性分散体の製造方法においては、親水化処理物を上記流量で送液して遠心分離することにより、カーボンブラックに含まれるグリットと呼ばれるカーボンブラック以外の粒子を除去することができる。
【0061】
上記遠心分離処理により得られた上澄み液をそのまま目的とする親水化カーボンブラック水性分散体としてもよいし、さらに限外濾過膜によって処理することにより、上澄み液中の余剰の塩類を除去するとともに、水性媒体を除去して所望濃度まで濃縮処理を施してもよい。
【0062】
以上、市販のカーボンブラックを酸化処理した後、水に分散させて親水化カーボンブラック水性分散体を得る方法について説明した。一方、一般に、市販のインクジェットプリンター用の黒色インクは、親水化カーボンブラック水性分散体である。市販のインクジェットプリンター用の黒色インクを、亜鉛負極二次電池の正極の導電助剤として用いることも可能である。
【実施例0063】
以下、実施例により本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
正極活物質としては、活性炭を用いた。活性炭としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)をKOH賦活したものを用いた。具体的には、大阪ガスケミカル(株)製メソカーボンマイクロビーズ10gと所定量の水酸化カリウム(KOH:賦活助剤)との混合物に水とアセトンを加え、均一に混合して、スラリーとした。次いで、該スラリーを窒素ガス雰囲気中で室温から850℃まで10℃/分の昇温速度で加熱し、同温度に1時間保持した後、反応生成物を100℃以下に冷却し、水洗し、残存アルカリを除去した後乾燥させた。
【0065】
得られたKOH賦活メソカーボンマイクロビーズと、バインダーとしてSBRのCMC溶液とを混合した。ここに導電助剤として親水化カーボンブラック水性分散体である東海カーボン製Aqua-Black(固形分濃度15%)をKOH賦活メソカーボンマイクロビーズに対し固形分として10重量%添加することによってペーストを調製した。このペーストを、グラファイトシート上に10mg/cmの塗布量で塗布することにより電極(正極)を作製した。なお、バインダーの割合は、得られた亜鉛負極電池用炭素正極材100重量部に対して8重量部とした。
【0066】
上記のように作製した電極(正極)と、対極として金属亜鉛箔(負極)、電解液として酸化亜鉛を飽和させた4M-KOH溶液を用い、二極式密閉セルを組み立て、充放電試験を行った。充放電試験においては、0.2mA/grの定電流で、電圧範囲0.5~1.5Vの範囲で充放電サイクル試験を行った。
【0067】
(比較例1)
実施例1において、導電助剤を親水化していない汎用の導電助剤であるデンカブラックに置き換える以外は実施例1と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。
【0068】
(実施例2)
実施例1において、賦活助剤の添加量を変える以外は実施例1と同様の方法で比表面積の異なるKOH賦活メソカーボンマイクロビーズを調製し、実施例1と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。
【0069】
(比較例2)
実施例2において、導電助剤を親水化していない汎用の導電助剤であるデンカブラックに置き換える以外は実施例1と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。
【0070】
以上の実施例1、2,比較例1,2の結果を表1に示す。表1より、活物質であるKOH賦活メソカーボンマイクロビーズの比表面積が同じである場合、実施例1の親水化カーボンブラック水性分散体を正極の導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池は、比較例1のデンカブラックを正極の導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池に比べて、放電容量が大きい。同様に、実施例2の親水化カーボンブラック水性分散体を正極の導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池は、比較例2のデンカブラックを正極の導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池に比べて、放電容量が大きい。また、実施例1と2を比較すると、正極の導電助剤である、親水化カーボンブラック水性分散体の添加量が同等である場合、活物質であるKOH賦活メソカーボンマイクロビーズの比表面積が大きくなると、放電容量も大きくなる。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例3)
実施例1において、KOH賦活助剤を添加せず、900℃で1時間水蒸気賦活したメソカーボンマイクロビーズを活物質として用い、実施例1と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。この際、親水化カーボンブラック水性分散体である東海カーボン株式会社製Aqua-Black(固形分濃度15%)を固形分として10重量%添加した。
【0073】
(実施例4)
親水化カーボンブラック水性分散体である東海カーボン株式会社製Aqua-Black(固形分濃度15%)を固形分として20%添加すること以外は実施例3と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。
【0074】
(実施例5)
親水化カーボンブラック水性分散体である東海カーボン株式会社製Aqua-Black(固形分濃度15%)を固形分として30%添加すること以外は実施例3と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。
【0075】
(比較例3)
実施例3において、導電助剤を汎用の導電助剤であるデンカブラックに置き換える以外は実施例3と同様の方法で亜鉛負極電池を調製し、充放電試験を行った。
【0076】
以上の実施例3~5、比較例3の結果を表2に示す。表2より、実施例3~5の親水化カーボンブラック水性分散体を正極の導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池は、比較例3のデンカブラックを正極の導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池に比べて、放電容量が大きい。また、実施例3~5を比較すると、正極の導電助剤である、親水化カーボンブラック水性分散体の添加量が増加するに伴い、放電容量は大きくなる。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例1、2および比較例1,2で用いたカーボンブラックの粒度分布およびBohemの中和滴定方法で測定した官能基量を表3に示す。粒度分布測定は、マイクロトラックベル株式会社製MT-3300IIを用いた。表3より、実施例1の親水化カーボンブラックの平均粒径D50は、比較例1のデンカブラックの平均粒径D50に比べて大きい。また、実施例1の親水化カーボンブラックは、比較例1のデンカブラックに比べて、-OH基、-COOH基などの酸性官能基量が多い。
【0079】
【表3】
【0080】
以上をまとめると、本実施例の親水化カーボンブラックは、表面が、-OH基、-COOH基などの酸性官能基で修飾されており、水性媒体中で良好な分散性を示す。本実施例の親水化カーボンブラック水性分散体を亜鉛負極二次電池の正極導電助剤として用いることにより、充放電容量の高い二次電池を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示の親水化カーボンブラック水性分散体は、亜鉛負極二次電池の正極の導電助剤に適している。特に、正極に活性炭などの高比表面積炭素材を用いた場合の導電助剤に適する。
【0082】
本開示の親水化カーボンブラック水性分散体を正極導電助剤として用いた亜鉛負極二次電池は、充放電容量が高い。本開示の亜鉛負極二次電池は、電子機器の電源用やバックアップ用、電気自動車の動力源用、分散型の電力貯蔵用として、利用できる。