(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151401
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】透光性カバー、灯具、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
F21V 3/10 20180101AFI20241018BHJP
F21V 31/00 20060101ALI20241018BHJP
F21S 8/04 20060101ALI20241018BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20241018BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20241018BHJP
F21Y 115/15 20160101ALN20241018BHJP
【FI】
F21V3/10 330
F21V31/00 100
F21S8/04 130
F21Y115:10 500
F21Y115:10 300
F21Y115:30
F21Y115:15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064659
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390014546
【氏名又は名称】三菱電機照明株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 豪
【テーマコード(参考)】
3K014
【Fターム(参考)】
3K014AA01
3K014NA02
(57)【要約】
【課題】光源を長寿命化させるとともに防水性の低下を抑制する透光性カバー、灯具、及び照明装置を提供する。
【解決手段】透光性カバーは、基板と基板に設けられた発光素子とを有する光源を覆い、光源から発せられる光が透過する透光性カバーであって、光源の劣化を引き起こす原因物質を吸着する吸着物質が含まれている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と前記基板に設けられた発光素子とを有する光源を覆い、前記光源から発せられる光が透過する透光性カバーであって、
前記光源の劣化を引き起こす原因物質を吸着する吸着物質が含まれている
透光性カバー。
【請求項2】
透光性を有する基層と、
前記基層に重ねられ、前記吸着物質が含まれた吸着層と、を有する
請求項1に記載の透光性カバー。
【請求項3】
前記吸着層は、前記基層との2色成形によって形成される、又は前記基層に対するコーティングを行うことで形成される
請求項2に記載の透光性カバー。
【請求項4】
前記吸着物質が全体に含まれている
請求項1に記載の透光性カバー。
【請求項5】
前記原因物質には、硫黄ガス、塩素ガス、及び臭素ガスのうち、少なくとも何れか一つが含まれる
請求項1~4の何れか1項に記載の透光性カバー。
【請求項6】
前記吸着物質には、少なくとも銀が含まれる
請求項1~4の何れか1項に記載の透光性カバー。
【請求項7】
請求項1~3の何れか1項に記載の透光性カバーと、
前記光源と、
パッキンと、を備え、
前記透光性カバーは、端部に開口が形成された筒状に形成され、
前記パッキンは、前記透光性カバーの前記端部に設けられ、
前記吸着物質は、前記透光性カバーの、前記発光素子よりも前記パッキンに近い部位に含まれる
灯具。
【請求項8】
請求項7に記載の灯具と、
前記灯具を壁又は天井に取り付ける取付器具と、を備える
照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光源を覆う透光性カバー、透光性カバーを有する灯具、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防雨機能及び防湿機能を有する密閉型の照明装置が知られている。このような照明装置では、防水性を確保しつつ、光源として用いられる発光ダイオード(以下、LEDと称する)周辺に酸素を供給するため、LEDが設けられた照明装置の内部を閉塞するパッキンの材料にシリコーンゴム等を用いることがある。パッキンの材料に気体透過性が高いシリコーンゴム等を用いると、パッキンを通して大気中の成分が光源を覆う透光性カバーの内部に侵入する。照明装置は、種々の環境下で使用されることがあり、例えば、ゴム加工工場又はタイヤ製造工場等のような、硫黄系ガスが大気中に滞留し、かつ高温になる特殊な環境で使用されることもある。このような特殊な環境下で照明装置を用いた場合、照明装置周辺のアウトガス及び大気中の汚染物質がパッキンを通過することで、照明装置に不具合が生じることがある。特に、光源としてLEDを用いた場合、電極及び配線等に銀が含まれるため、硫黄ガスにより腐食し、全光束の低下又は不点を招くことがあった。
【0003】
そこで、特許文献1には、パッキンを通過しようとするアウトガス及び大気中の汚染物質を吸着する吸着物質をパッキンに含ませた照明装置が開示されている。特許文献1は、アウトガス及び大気中の汚染物質が透光性カバーの内部に侵入し、光源の光効率が低下することを抑制することで、光源の長寿命化を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにパッキンに吸着物質を含ませると、吸着物質と、アウトガス及び大気中の汚染物質とが化学反応し結晶が生じることがある。この場合、成長した結晶の内部、又は結晶同士の間に隙間が生じて、防水性が損なわれる恐れがある。
【0006】
そこで、本開示は、上述した課題を解決することを目的としており、光源を長寿命化させるとともに防水性の低下を抑制する透光性カバー、灯具、及び照明装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る透光性カバーは、基板と基板に設けられた発光素子とを有する光源を覆い、光源から発せられる光が透過する透光性カバーであって、光源の劣化を引き起こす原因物質を選択的に吸着する吸着物質が含まれている。
【0008】
本開示に係る灯具は、透光性カバーと、光源と、パッキンと、を備え、透光性カバーは、端部に開口が形成された筒状に形成され、パッキンは、透光性カバーの端部に設けられ、吸着物質は、透光性カバーの、発光素子よりもパッキンに近い部位に含まれる。
【0009】
本開示に係る照明装置は、灯具と、灯具を壁又は天井に取り付ける取付器具と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る透光性カバーには吸着物質が含まれている。このため、透光性カバーは、内部空間に流入した原因物質を吸着することができる。そして、透光性カバーによって原因物質を吸着することができるため、パッキンには吸着物質を設ける必要がない。よって、パッキンに結晶が生じない。したがって、本開示の透光性カバーは、防水性の低下を抑制しつつ、光源を長寿命化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る照明装置を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係る照明装置を示す分解斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る灯具を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1に係る灯具を示す分解斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係る連結部を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【
図7】実施の形態1に係る透光性カバーの吸着効果を説明するための図である。
【
図8】実施の形態1に係る第1空間及び第2空間を説明するための図である。
【
図9】実施の形態1に係る流路を説明するための図である。
【
図10】実施の形態1の比較例に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【
図11】実施の形態1の比較例における発光素子及び発光素子近傍の基板での黒化現象を説明するための図である。
【
図12】実施の形態1の比較例における発光素子近傍の基板の拡大図である。
【
図13】実施の形態1の変形例1に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【
図14】実施の形態1の変形例2に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【
図15】実施の形態1の比較例における環境暴露試験前後の照度を比較した図である。
【
図16】実施の形態1の変形例3に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【
図17】実施の形態1の変形例4に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【
図18】実施の形態1の変形例5に係る灯具の断面を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る透光性カバー、灯具、及び照明装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々に変更することが可能である。また、本開示は、以下の各実施の形態に示す構成のうち、組み合わせ可能な構成のあらゆる組み合わせを含むものである。また、図面に示す透光性カバー、灯具及び照明装置は、本開示が適用される機器の一例を示すものであり、図面に示された透光性カバー、灯具及び照明装置によって本開示の適用機器が限定されるものではない。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。なお、各図面では、各構成部材の相対的な寸法関係又は形状等が実際のものとは異なる場合がある。
【0013】
実施の形態1.
実施の形態1に係る照明装置は、例えば、室内等の照明対象空間の天井又は壁等に取り付けられ、照明対象空間に光を照射するものである。照明装置は、防雨機能及び防湿機能を有する密閉型の照明装置である。照明装置は、例えば、ゴム加工工場又はタイヤ製造工場等のような、硫黄系ガスが大気中に滞留し、かつ高温になる特殊な環境で使用されることがある。
図1は、実施の形態1に係る照明装置1を示す斜視図である。
図2は、実施の形態1に係る照明装置1を示す分解斜視図である。まず、
図1及び
図2を参照して、実施の形態1に係る照明装置1の全体構成を説明する。なお、以下の各図において、照明装置1の長手方向を矢印Xで示し、長手方向に対する短手方向を矢印Yで示し、長手方向及び短手方向のそれぞれに直交する上下方向を矢印Zで示す。また、照明装置1に対して、照明装置1が取り付けられる被取付部としての天井9が存在する方向を上方向とし、上方向と反対側の方向であり照明装置1が光を照射する照射対象空間側の方向を下方向とする。
図1及び
図2に示すように、照明装置1は、取付器具2、及び灯具3を備えている。なお、照明装置1、取付器具2、及び灯具3は何れも略直方体状であるが、これに限定されることはない。
【0014】
(取付器具2)
取付器具2は、灯具3を天井9に取り付けるための器具である。取付器具2は、吊ボルト(図示せず)等の固定具を用いて被取付部である天井9に取り付けられる。取付器具2は、天面部20、側面部21、及び連結部22からなる下部が開口した箱形である。天面部20は、天井9に取り付けられる部分であって、長手方向に沿って矩形の平板状に形成される。側面部21は、天面部20の短手方向の両端部からそれぞれ下方向に延びて形成される。連結部22は、灯具3を取り付けるための部分であって、天面部20の長手方向の両端部のそれぞれ下側に設けられる。連結部22は、側面部21の長手方向の両端部と当接している。取付器具2は、鋼板等からなり、プレス加工又はロール加工等によって屈曲されて剛性が確保される。また、取付器具2は、押出成形等によって形成されてもよい。
【0015】
取付器具2には、収容部23(
図2にのみ図示)が形成されている。収容部23は、天面部20、側面部21、及び連結部22によって囲まれることで、天面部20の長手方向に沿って形成された空間である。取付器具2には、収容部23に灯具3の上部を収容した状態で、連結部22を介して灯具3が取り付けられる。
【0016】
(灯具3)
灯具3は、照明対象空間に光を照射する器具であって、取付器具2に着脱自在に取り付けられる。
図3は、実施の形態1に係る灯具3を示す斜視図である。
図4は、実施の形態1に係る灯具3を示す分解斜視図である。
図3及び
図4に示すように、灯具3は、透光性カバー30、端部蓋31、パッキン32、台座33(
図4にのみ図示)、光源34(
図4にのみ図示)、電源35(
図4にのみ図示)、及び電線36(
図3にのみ図示)を有する。
【0017】
透光性カバー30は、台座33、光源34、及び電源35を覆い保護する。透光性カバー30は、長手方向の両端部に開口が形成された筒形状であって、灯具3の外郭を構成する。透光性カバー30は、光源34から照射される光を拡散及び透過させる。詳細は後述するが、実施の形態1の透光性カバー30は、光源34等の劣化を引き起こす原因物質を選択的に吸着する吸着物質が含まれる点を特徴としている。
【0018】
端部蓋31は、透光性カバー30の長手方向における両端部に形成された開口を覆うように、パッキン32を介して透光性カバー30に取り付けられる。端部蓋31は、射出成形等の製法によって形成される。端部蓋31には、少なくとも可視光が透過する透光性の材料が用いられる。
【0019】
パッキン32は、Oリング状であり、透光性カバー30の長手方向の両端部に取り付けられる。パッキン32は、透光性カバー30と端部蓋31との間に設けられる。パッキン32は、透光性カバー30の開口を端部蓋31によって閉塞した際、透光性カバー30内の内部空間に液体及び塵埃等の異物が侵入しないように、透光性カバー30と端部蓋31との間に形成される隙間を埋める。
【0020】
パッキン32は、シリコーンゴム等の気体透過性を有する材料からなる。具体的に、シリコーンゴム組成物は、オルガノポリシロキサン及び有機過酸化物を含有している。シリコーンゴム組成物は、典型的な過酸化物硬化型のシリコーンゴム組成物である。なお、パッキン32には、吸着物質は含まれない。
【0021】
オルガノポリシロキサンは、このシリコーンゴム組成物の主剤であり、好ましくは1分子内に少なくとも2個のアルケニル基を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン生ゴムである。
【0022】
有機過酸化物は硬化剤であり、公知の有機過酸化物を使用することが可能である。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ジクミル、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシド、及びビス(p-メチルベンゾイル)ペルオキシド等が挙げられる。有機過酸化物の配合量は、好ましくはオルガノポリシロキサン100質量%に対して、0.1質量%~5質量%である。
【0023】
台座33は、光源34が取り付けられる板状の部材である。台座33は、透光性カバー30の内部に収容される。台座33の下部には、光源34が取り付けられる光源配置面331が形成されている。台座33は、光源34から生じた熱を空気中に放出するヒートシンクとしての機能を有する。台座33には、アルミニウム、又は銀等の少なくとも可視光を反射する光反射性を有する金属材料が用いられる。台座33は、プレス加工又はロール加工等の製法により形成される。台座33が光反射性を有するため、光源34から照射された光を効率よく照明対象空間に向かわせることができる。
【0024】
光源34は、電源35から電線36を介して供給される点灯電力によって、光を発する発光ユニットである。光源34は、透光性カバー30の内部に収容され、透光性カバー30に向けて光を照射する。光源34は、透光性カバー30内に挿入された端部蓋31及びパッキン32によって固定される。
【0025】
光源34は、基板340及び発光素子341を有する。基板340は、台座33の光源配置面331に配置され、矩形の平板状に形成されている。基板340の光源配置面331には、配線パターン(図示せず)が設けられている。配線パターンは、一端が電線36と電気的に接続しており、他端が発光素子341と電気的に接続している。
【0026】
発光素子341は、例えばLED等の発光体である。光源34には、複数の発光素子341が設けられ、複数の発光素子341は、基板340の長手方向に沿って、一定の間隔で一列に並んで実装される。複数の発光素子341は、基板340の長手方向の全体に亘って実装されている。発光素子341と、基板340の表面に設けられた配線パターンとが電気的に接続されることにより、光源回路が形成される。発光素子341と基板340の表面に設けられた配線パターンとの接続は、例えば半田付け等によって行われる。
【0027】
発光素子341は、例えば表面実装タイプのLEDで構成される。実施の形態1の場合、LEDとしては、例えば、疑似白色LEDを用いる。疑似白色LEDは、例えば440nm~480nm程度の波長の青色光を発するLEDチップ上に、青色光を黄色光に波長変換する蛍光体を付してパッケージ化したものである。これ以外に、紫外線を発するLEDと、紫外線によって赤色、緑色及び青色の3色を発光する蛍光体とを組み合せた白色LED、あるいは、赤色LED、緑色LED、及び青色LEDから白色を生成する白色LED等を用いることができる。
【0028】
なお、発光素子341は、例えば、LEDチップが基板340に直接実装されたCOB(Chip-On-Board)型のLEDモジュールでもよい。また、発光素子341の個数、配置又は種類は、照明装置1の用途等に応じて適宜変更することも可能である。例えば、発光素子341は、基板340の長手方向に沿って一定の間隔で一列に設けられている例を示したが、これに限らず、長手方向に沿って複数列で設けられてもよい。また、発光素子341を備えた基板340が、台座33の短手方向に複数設けられてもよい。また、発光素子341を備えた基板340が、台座33の長手方向において複数設けられてもよい。
【0029】
また、発光素子341には、固体レーザ素子、半導体レーザ(Semiconductor Laser)素子、又は有機EL(Organic Electro-Luminescenc)素子を用いてもよい。発光素子341として、有機EL素子等を用いる場合、複数の発光素子341を基板340に実装する代わりに、長手方向に延在した板状の1個の発光素子341を、基板340に実装するようにしてもよい。
【0030】
電源35は、外部の商用電源(図示せず)から電力の供給を受ける装置である。電源35は、電線36に接続されている。
【0031】
電線36は、基板340と電源35とを電気的に接続する。電線36は、光源34の長手方向の一端部に設けられている。電線36が電源35と接続されることで、基板340上の配線パターンを介して、発光素子341と電源35とが電気的に接続される。
【0032】
図5は、実施の形態1に係る連結部22を示す斜視図である。
図5は、
図1の拡大図に相当する。灯具3は、
図5に示すように、長手方向における両端部の端部蓋31が、取付器具2の長手方向における両端部に設けられた連結部22に対してネジ37を用いて取り付けられる。なお、端部蓋31には、ネジ37用の取付穴31aが形成されている。また、取付穴31aには、キャップ38が取り付けられる。
【0033】
以下では、灯具3の詳細な構造、特に、吸着物質の性質、及び吸着物質を有する透光性カバー30による原因物質の吸着について説明する。
図6は、実施の形態1に係る灯具3の断面を示す概略模式図である。
図6は、灯具3をXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図6に示すように、灯具3は、透光性カバー30の長手方向の両端部が、パッキン32を介して端部蓋31によって閉塞されている。これにより、透光性カバー30の内部に、外部空間Soから隔離された閉塞空間である内部空間Siが形成されている。透光性カバー30の内部空間Siには、台座33、台座33に配置された光源34、及び電源35が収納される。
【0034】
具体的に、パッキン32は、台座33の長手方向の端部から外方に向けて張り出した張出部320を有する。パッキン32の張出部320は、X方向において端部蓋31とは反対側の面である内面が窪んだ形状に形成されている。張出部320は、透光性カバー30の長手方向の端部に形成された開口の全周に亘って形成されており、張出部320の窪んだ内面が透光性カバー30の長手方向の端部の外周面と内周面とに密着する。張出部320の外面は、端部蓋31に形成された嵌合部310に密着するように取り付けられる。嵌合部310は、パッキン32の張出部320延いては透光性カバー30の開口に対応して環状に窪んだ部分である。つまり、透光性カバー30の長手方向における両端部とパッキン32とが、端部蓋31の嵌合部310に入り込む構造となっている。このような形状によって、パッキン32は、透光性カバー30の両端部に形成された開口を閉塞する。
【0035】
灯具3の内部空間には、液体及び塵埃等の異物の侵入が抑制されるが、上述したようにパッキン32が気体透過性を有することから、パッキン32を通して大気中の気体成分が透光性カバー30の内外を行き来する。例えば、パッキン32は、空気中の酸素を透過させる。このため、灯具3の内部空間Siには、外部空間Soから酸素が入り込むため、発光素子341の光によって変色する物質を酸化分解する。つまり、酸素の供給によって、発光素子341、及び基板340の発光素子341の周辺部の変色が防止される。
【0036】
透光性カバー30は、基層300及び吸着層301を有する。基層300は、吸着層301よりも透光性カバー30の外側に位置する層であって、透光性を有する。具体的に、透光性カバー30の基層300には、ガラス、乳白色等のアクリル樹脂、PC(ポリカーボネート)又はPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)等の少なくとも可視光を透過する透光性を有する樹脂材料が用いられる。基層300は、押出成形、射出成形又は積層造形等の製法により形成される。なお、押出成形によって製造する場合、筒状部材を製品の仕様に応じて必要な長さに切断することで製造できる。なお、透光性カバー30の材料は樹脂に限定されない。
【0037】
吸着層301は、基層300の光源34側の面、つまり内面に設けられ、光源34の劣化を引き起こす原因物質を選択的に吸着する吸着物質が含まれている層である。ここで、原因物質とは、硫黄系ガス、塩素系ガス、又は臭素系ガスのうち、少なくとも1種類以上からなり、光源34に少なからず悪影響を及ぼすものである。吸着物質は、例えば、粉末状の純銀又は銀合金等である。銀合金としては、銀を50質量%以上(例えば、50質量%~99質量%)、特に70質量%以上(例えば、70質量%~95質量%)含む銀-銅合金、又は銀-パラジウム合金が代表的である。また、その他としては、亜鉛、錫、マグネシウム、ニッケル等の金属を有する銀合金が挙げられる。吸着層301は、基層300の内面に対して、吸着物質をコーティングすることで形成される。コーティングは、基層300の表面に塗膜を形成することを意味する。実施の形態1では、基層300の内部の全面に対して吸着物質のコーティングを施している。また、吸着層301の厚さよりも内部空間に露出する表面積が重要となるため、銀成分が表面に多く露出するようにコーティング剤の組成等が検討される。特に、原因物質が発光素子341に付着する前に吸着することができるように、発光素子341の電極、半田フラックス、及び配線パターンに含まれる銀成分よりコーティングされる銀成分が多いことが望ましい。なお、2色成形によって、基層300と吸着層301とからなる透光性カバー30を製造するようにしてもよい。このとき、押出成形又は射出成形を行うようにしてもよい。この場合、吸着層301は、吸着物質を樹脂に含ませた層として形成される。
【0038】
透光性カバー30の断面形状には、円形、楕円形又は多角形等の種々の形状を適用できる。なお、断面形状が大きいほど、気体の流入経路が大きくなり発光素子341の劣化が早まり、長手方向の端部と発光素子341との距離が近いほど、原因物質に晒されやすく劣化しやすい。つまり、透光性カバー30は、断面形状が大きく、長さが短いほど、発光素子341の劣化が早い。そして、透光性カバー30は、断面形状が小さく、長さが長いほど、発光素子341の劣化が遅い。この傾向は、長手方向の中央に設けられた発光素子341ほどよく現れる。
【0039】
図7を用いて、以上のように構成された透光性カバー30による作用効果を説明する。
図7は、灯具3をYZ断面で切断した場合の断面を示している。
図7は、実施の形態1に係る透光性カバー30の吸着効果を説明するための図である。透光性カバー30の外部空間Soに前述した原因物質が存在する場合、原因物質がパッキン32を透過して透光性カバー30の内部空間Siに侵入する。その際、原因物質は透光性カバー30の吸着層301で吸着される。このときの反応式を以下に示す。
【0040】
2Ag+S →Ag2S
2Ag+Cl2 → 2AgCl
2Ag+Br2 → 2AgBr
上記反応式は一例であり、吸着物質は、硫黄系ガス、塩素系ガス、又は臭素系ガスも銀と反応し、吸着することができる。
【0041】
原因物質が透光性カバー30の吸着層301で吸着されることで、内部空間Siにおける原因物質の濃度が下がる。これにより、原因物質が光源34に接触することが抑制される、又は光源34に接触する原因物質の量が減少する。特に、吸着物質に銀を用いることで、銀と反応する原因物質を選択的に吸着することができる。
【0042】
図8は、実施の形態1に係る第1空間S1及び第2空間S2を説明するための図である。
図9は、実施の形態1に係る流路Pを説明するための図である。
図8及び
図9は、灯具3をYZ断面で切断した場合の断面を示している。
図8に示すように、内部空間を、台座33を境として光源34が取り付けられている側の第1空間S1と、台座33を挟んで第1空間S1と反対側の第2空間S2とに分けた場合、台座33は、第1空間S1の体積が第2空間S2の体積よりも小さくなる位置に取り付けられている。つまり、例えば透光性カバー30が上下方向において対称的な形状であった場合、台座33は、上下方向の中央よりも下方に取り付けられる。また
図9に示すように、台座33は、透光性カバー30に対して、短手方向において接触しないように設けられている。すなわち、台座33と透光性カバー30との間には、短手方向の両側に流路Pが形成されている。このような構成によれば、第1空間S1に流入した原因物質が流路Pを通って、第2空間S2に流入することができる。第2空間S2には、光源34が存在しないため、原因物質が光源34に接触することを抑制することができる。そして、第2空間S2は、第1空間S1よりも体積が大きいため、第2空間S2に面する吸着層301において、第1空間S1に面する吸着層301よりも多くの原因物質を吸着することができる。
【0043】
(比較例)
ここで、実施の形態1と比較例とを比較することで、実施の形態1の効果について説明する。
図10は、実施の形態1の比較例に係る灯具3Xの断面を示す概略模式図である。
図10は、灯具3XをXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図10に示すように、実施の形態1の比較例に係る灯具3Xは、透光性カバー30に吸着物質を含んでいない。
【0044】
図11は、実施の形態1の比較例における発光素子341及び発光素子341近傍での基板340の黒化現象を説明するための図である。
図12は、実施の形態1の比較例における発光素子341近傍の基板340の拡大図である。
図12は、
図11の破線B2で示す領域を拡大した図である。
図11及び
図12は、原因物質が存在する空間に、吸着物質を備えていない比較例に係る灯具3Xを一定期間設置した時の基板340及び発光素子341の状態を示している。
図11の破線B1に示すように、実施の形態1の比較例に係る発光素子341の電極は、原因物質と化学反応を引き起こすことで黒化している。また、
図11及び
図12の破線B2に示すように、発光素子341近傍の基板340は、半田フラックス又は配線パターン等が原因物質と化学反応を引き起こすことで黒化している。このような場合、光源34の光効率が低下し、寿命が短くなってしまう。
【0045】
また従来、発光素子341及び発光素子341近傍の基板340の黒化現象を抑制するため、パッキン32に吸着物質を含ませた例が知られている。しかしながら、パッキン32に吸着物質を含ませると、吸着物質と、アウトガス及び大気中の汚染物質とが化学反応し、パッキン32に結晶が生じることがある。この場合、成長した結晶の内部、又は結晶同士の間に隙間が生じて、パッキン32の防水性が損なわれる恐れがある。
【0046】
これに対して、実施の形態1では、透光性カバー30に吸着物質が含まれている。このため、透光性カバー30は、内部空間に流入した原因物質を吸着することができる。そして、透光性カバー30によって原因物質を吸着することができるため、実施の形態1では、パッキン32には吸着物質は含まれていない。よって、パッキン32に結晶が生じない。したがって、実施の形態1の透光性カバー30は、防水性の低下を抑制しつつ、光源34を長寿命化させることができる。
【0047】
また、実施の形態1の透光性カバー30は、基層300に対してコーティングを行うことで、吸着層301を形成している。これにより、例えば吸着物質を含有したシートを接着剤又は両面テープ等で貼り付けるような場合と比較して吸着層301が剥がれる可能性が小さいと言えるため、光源34をより確実に長寿命化することができる。特に、発光素子341とシートとの距離を近くすることで、吸着効果を高めることができることから、シートの貼り付け位置を、台座33の光源配置面331等にすることが考えられる。しかしながら、この場合では、自重によってシートが剥がれる場合がある。加えて、シートに厚みがある場合、発光素子341が照射する光で影が生じる懸念がある。この点に関して、実施の形態1では、基層300に対してコーティングを行うことで、吸着層301が剥がれたり、影を生じさせたりする虞がないため、光源34の長寿命化と意匠性の向上との両方を達成することができる。
【0048】
(変形例1)
図13は、実施の形態1の変形例1に係る灯具3Aの断面を示す概略模式図である。
図13は、灯具3AをXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図13に示すように、透光性カバー30を基層300と吸着層301とによって構成せず、透光性カバー30の全体に吸着物質を含有させるようにしてもよい。この場合、透光性カバー30は、例えば、ガラス、乳白色等のアクリル樹脂、PC(ポリカーボネート)又はPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)等の少なくとも可視光を透過する透光性を有する樹脂材料に、吸着物質を含有させた材料からなる。透光性カバー30は、押出成形、射出成形又は積層造形等の製法により形成される。
【0049】
実施の形態1の変形例1によっても、透光性カバー30に吸着物質が含まれている。したがって、実施の形態1の変形例1の透光性カバー30も、防水性の低下を抑制しつつ、光源34を長寿命化させることができる。
【0050】
(変形例2)
図14は、実施の形態1の変形例2に係る灯具3Bの断面を示す概略模式図である。
図14は、灯具3BをXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図14に示すように、吸着層301を設ける領域は、基板340の内部の全面ではなくてもよい。
【0051】
図15は、実施の形態1の比較例における環境暴露試験前後の照度を比較した図である。
図15は、原因物質が存在する空間に、上述の吸着物質を備えていない比較例に係る灯具3Xを一定期間設置し、設置前後の照度低下を表したグラフを示している。グラフの右側が長手方向の端部側で、グラフの左側が長手方向の中心側を示している。グラフの実線が初期照度値を表し、太線が測定値を表し、破線が2つの距離の間で照度が直線的に変化するものとして推測した推測値を表している。
図15を見るに、長手方向の端部側、すなわちパッキン32に近い位置で照度が大きく低下していることが分かる。したがって、パッキン32に近いほど原因物質の濃度が濃いことが考えられる。
【0052】
図15に示した図から、吸着層301をパッキン32が設けられる透光性カバー30の長手方向の端部に形成することで、原因物質の吸着効果を十分に得ることができる。このため、吸着層301の形成位置を、透光性カバー30の長手方向の端部に限定してもよい。特に、吸着層301の形成位置を、透光性カバー30の、最も長手方向の端部側に位置する発光素子341よりもパッキン32に近い部位にしてもよい。なお、
図15から、透光性カバー30の長手方向の縁部から50mmまでは照度の低下が見られ、20mm~30mmまでは照度の低下が大きいと言える。このため、吸着層301は特に透光性カバー30の長手方向の縁部から50mmまでの位置に形成することが望ましい。
【0053】
なお、変形例1で示したように、透光性カバー30を基層300と吸着層301とによって構成しない場合においても、吸着物質を、透光性カバー30の、最も長手方向の端部側に位置する発光素子341よりもパッキン32に近い部位に含ませるようにしてもよい。この場合も、変形例2と同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、吸着物質が純銀又は銀合金である場合、吸着物質は有色であるため、吸着層301は、透光性カバー30の内面のうち、光源34から照射される光が当たらない光源34の裏側に設けることが望ましい。つまり、実施の形態1で説明した第2空間S2に面する領域に吸着層301を形成するようにしてもよい。あるいは、透光性カバー30を基層300と吸着層301とによって構成しない場合においても、吸着物質を、透光性カバー30の第2空間S2に面する領域にのみ含ませるようにしてもよい。この場合、光源34から照射される光によって影を生じさせず、照度の低下も少なくすることができる。
【0055】
(変形例3)
図16は、実施の形態1の変形例3に係る灯具3Cの断面を示す概略模式図である。
図16は、灯具3CをXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図16に示すように、吸着体40を基板340及び光源34と、パッキン32との間に設けるようにしてもよい。吸着体40は、例えば、樹脂部材に吸着物質を含ませたものである。この場合、原因物質の吸着効果を更に高めることができる。特に、吸着体40が光源34よりもパッキン32に近い位置に設けられていることから、光源34に付着する原因物質を更に削減することができる。
【0056】
(変形例4)
図17は、実施の形態1の変形例4に係る灯具3Dの断面を示す概略模式図である。
図17は、灯具3DをXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図17に示すように、吸着体40を端部蓋31と、パッキン32との間に設けるようにしてもよい。この場合も、原因物質の吸着効果を更に高めることができる。
【0057】
(変形例5)
図18は、実施の形態1の変形例5に係る灯具3Eの断面を示す概略模式図である。
図18は、灯具3EをXZ断面で切断した場合の断面を示している。
図18に示すように、吸着体40を台座33の光源配置面331と反対側の面に設けるようにしてもよい。この場合も、原因物質の吸着効果を更に高めることができる。
【0058】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0059】
(付記1)
基板と前記基板に設けられた発光素子とを有する光源を覆い、前記光源から発せられる光が透過する透光性カバーであって、
前記光源の劣化を引き起こす原因物質を吸着する吸着物質が含まれている
透光性カバー。
(付記2)
透光性を有する基層と、
前記基層に重ねられ、前記吸着物質が含まれた吸着層と、を有する
付記1に記載の透光性カバー。
(付記3)
前記吸着層は、前記基層との2色成形によって形成される、又は前記基層に対するコーティングを行うことで形成される
付記2に記載の透光性カバー。
(付記4)
前記吸着物質が全体に含まれている
付記1に記載の透光性カバー。
(付記5)
前記原因物質には、硫黄ガス、塩素ガス、及び臭素ガスのうち、少なくとも何れか一つが含まれる
付記1~4の何れか1つに記載の透光性カバー。
(付記6)
前記吸着物質には、少なくとも銀が含まれる
付記1~5の何れか1つに記載の透光性カバー。
(付記7)
付記1~6の何れか1つに記載の透光性カバーと、
前記光源と、
パッキンと、を備え、
前記透光性カバーは、端部に開口が形成された筒状に形成され、
前記パッキンは、前記透光性カバーの前記端部に設けられ、
前記吸着物質は、前記透光性カバーの、前記発光素子よりも前記パッキンに近い部位に含まれる
灯具。
(付記8)
付記7に記載の灯具と、
前記灯具を壁又は天井に取り付ける取付器具と、を備える
照明装置。
【符号の説明】
【0060】
1 照明装置、2 取付器具、3、3A、3B、3C、3D、3E、3X 灯具、9 天井、20 天面部、21 側面部、22 連結部、23 収容部、30 透光性カバー、31 端部蓋、31a 取付穴、32 パッキン、33 台座、34 光源、35 電源、36 電線、37 ネジ、38 キャップ、40 吸着体、300 基層、301 吸着層、310 嵌合部、320 張出部、331 光源配置面、340 基板、341 発光素子。