(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151403
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】凝固状態判別方法及び両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 18/18 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A61B18/18 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064662
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤史
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JK02
4C160JK03
4C160KK04
4C160KK15
4C160KK24
4C160KK26
4C160KK30
4C160KK39
4C160KK62
4C160MM43
(57)【要約】
【課題】凝固状態の判別マーカーを採用した両電極式マイクロ波手術器具(装置)の凝固対象組織の凝固状態判別方法、両電極式マイクロ波手術器具、並びに、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置を提供することである。
【解決手段】マイクロ波の反射係数の移動速度の変化を凝固状態の判別マーカー、さらには該変化の条件を設定することにより、両電極式マイクロ波手術器具(装置)の凝固対象組織の凝固状態判別方法、両電極式マイクロ波手術器具、並びに、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置を提供することができた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の反射係数の移動速度の変化を組織凝固状態の判別マーカーとする、両電極式マイクロ波手術器具の凝固対象組織の凝固状態判別方法。
【請求項2】
前記反射係数の移動速度の変化はマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固推進、封止及び完了となる条件が以下である、
(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から40%以下のスパイクのみが発生し、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件、
である、
請求項1に記載の凝固状態判別方法。
【請求項3】
前記反射係数の移動速度の変化はマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固完了となる条件が以下である、
(a)該過渡期において、6秒以内に1又は複数の最大値の60%以上のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期とは、該過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下となった後の相をとり、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件
である、
請求項1に記載の凝固状態判別方法。
【請求項4】
前記マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固未完了である条件が以下の(1)~(3)のいずれか1である、請求項1に記載の凝固状態判別方法。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期及び/又は該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から25%を超えるスパイクが発生する、条件
(3)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期及び/又は該終息期において、該過渡期に発生したスパイク値よりも高いスパイクが発生する、条件
【請求項5】
前記マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固未完了である条件が以下の(1)(2)のいずれか1である、請求項1に記載の凝固状態判別方法。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%を超えるスパイクが発生する条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生する条件
【請求項6】
マイクロ波の反射係数の移動速度変化を凝固状態の判別マーカーとする、両電極式マイクロ波手術器具。
【請求項7】
以下を備えることを特徴とする、請求項6に記載の両電極式マイクロ波手術器具。
(1)マイクロ波発生器から発生したマイクロ波を供給するための中心導体及び外部導体を含む同軸ケーブル、
(2)マイクロ波の出力時間を制御する出力制御部、
(3)マイクロ波の反射係数を検出するセンサ部又は反射係数のスミスチャート上における移動速度の変化の計測部
(4)該同軸ケーブルの中心導体に直接又は間接的に接続されたマイクロ波印加用アンテナ、
(5)該同軸ケーブルの外部導体に直接又は間接的に接続されたマイクロ波受手用アンテナ、及び
(6)該センサ部で検出した反射係数の移動速度変化をマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類し、以下の条件に該当する場合には凝固推進,封し完成のタイミングであると判断し、該出力制御部にマイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部
(a)該過渡期において、6秒以内に1又は複数の最大値の60%以上のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期とは、該過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下となった後の相をとり、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件
【請求項8】
前記凝固判別処理部は、さらに、以下の条件(1)又は(2)に該当する場合には凝固未完了であると判断する、請求項6に記載のマイクロ波手術器具。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生する、条件
【請求項9】
マイクロ波の反射係数の移動速度の変化を凝固状態の判別マーカーとする、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置。
【請求項10】
以下を備えることを特徴とする、請求項9に記載の両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置、
マイクロ波の反射係数の移動速度の変化をマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類し、以下の条件に該当する場合には凝固推進、封し完成のタイミングであると判断し、マイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部。
(a)該過渡期において、6秒以内に1又は複数の最大値の60%以上のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期とは、該過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下となった後の相をとり、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件
【請求項11】
さらに、以下の条件(1)又は(2)に該当する場合には凝固未完了であると判断する、請求項9に記載の凝固判別処理装置。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生する、条件
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固状態判別方法及び両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(マイクロ波を使用したデバイス)
マイクロ波は、消化器、肝臓、膀胱、前立腺、子宮、血管、腸管等の生体組織を低温で凝固(固定化)できることが知られている。そして、マイクロ波を用いた手術支援用の種々のデバイスが開発されている。
【0003】
臨床医は、マイクロ波手術器具を何でも切れるデバイスとして長時間連続使用する場面があり、器具の刃近傍の組織が熱損傷を受けたり、該器具の発熱が危惧される場面もあった。このような危惧の対策として、不要な凝固操作、マイクロ波照射の適正化が挙げられている。
【0004】
(先行文献)
マイクロ波を使用したデバイスとして、以下の複数が報告されている。
特許文献1は、「マイクロ波を出力する本体装置と、該本体装置にケーブル接続されるとともに生体組織に刺入等され,前記生体組織に前記マイクロ波を照射して前記生体組織の凝固,止血等を行う手術電極とを備えたマイクロ波手術装置の異常検出処理装置において、前記本体装置のマイクロ波出力の進行波及び反射波を検出するセンサ部と、前記本体装置の前記マイクロ波の出力中に前記センサ部の前記進行波,前記反射波の検出レベルの差を監視して前記ケーブル接続の不良,前記手術電極の未装着等の前記本体装置の負荷側の異常を検出する異常検出手段と、該異常検出手段の異常の検出により警報を発生する異常警報手段と、前記異常の検出により前記本体装置の前記マイクロ波の発生を停止するマイクロ波停止手段とを備えたことを特徴とするマイクロ波手術装置の異常検出処理装置」を開示している。
特許文献2は、「処置部位の組織をマイクロ波で加熱凝固時に組織の温度上昇と共に水分が減少し、直流電気抵抗値が変化するのを利用して、組織の凝固(止血)終了を検知させ、マイクロ波(高周波)の発振出力を制御するマイクロ波手術装置の制御方法」を開示している。
【0005】
先行特許文献は、本発明のマイクロ波照射対象の凝固完了条件を開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09-117457
【特許文献2】特開2008-237627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の方法とは異なる、凝固状態の判別マーカーを採用した両電極式マイクロ波手術器具(装置)の凝固対象組織の凝固状態判別方法、両電極式マイクロ波手術器具、並びに、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マイクロ波の反射係数の移動速度の変化を凝固状態の判別マーカー、さらには該変化の条件を設定することにより、両電極式マイクロ波手術器具(装置)の凝固対象組織の凝固状態判別方法、両電極式マイクロ波手術器具、並びに、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置を提供することができた。
【0009】
すなわち本発明は、以下からなる。
1.マイクロ波の反射係数の移動速度の変化を組織凝固状態の判別マーカーとする、両電極式マイクロ波手術器具の凝固対象組織の凝固状態判別方法。
2.前記反射係数の移動速度の変化はマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固推進、封止及び完了となる条件が以下である、
(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から40%以下(又は、50%以下、60%以下)のスパイクのみが発生し、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件、
である、
前項1に記載の凝固状態判別方法。
3.前記反射係数の移動速度の変化はマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が封し完了となる条件が以下である、
(a)該過渡期において、6秒以内に1又は複数の最大値の60%以上のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期とは、該過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下となった後の相をとり、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、及び、必要に応じて、
(d)該終息期において、ゼロに収束する、
である、
前項1に記載の凝固状態判別方法。
4.前記マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間が30秒以内であり、かつ前記過渡期は6秒以内である、前項2に記載の凝固状態判別方法。
5.前記マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間が20秒以内であり、かつ前記過渡期は6秒以内である、前項2に記載の凝固状態判別方法。
6.前記マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固未完了である条件が以下の(1)~(3)のいずれか1である、前項1に記載の凝固状態判別方法。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期及び/又は該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%(又は、50%)を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から25%を超えるスパイクが発生する、条件
(3)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期及び/又は該終息期において、該過渡期に発生したスパイク値よりも高いスパイクが発生する、条件
7.前記マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、前記凝固状態が凝固未完了である条件が以下の(1)(2)のいずれか1である、前項1に記載の凝固状態判別方法。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%(又は、25%)を超えるスパイクが発生する、又は、ゼロに収束しない条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生し、さらに、必要に応じて、(b)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から25%を超えるスパイクが発生、かつ、ゼロ収束しない、条件
さらに、必要に応じて、(3)(a)該過渡期(例、6秒)を超えて、1又は複数のスパイクが発生する、条件
8.マイクロ波の反射係数の移動速度変化を凝固状態の判別マーカーとする、両電極式マイクロ波手術器具。
9.以下を備えることを特徴とする、前項8に記載の両電極式マイクロ波手術器具。
(1)マイクロ波発生器から発生したマイクロ波を供給するための中心導体及び外部導体を含む同軸ケーブル、
(2)マイクロ波の出力時間を制御する出力制御部、
(3)マイクロ波の反射係数を検出するセンサ部又は反射係数のスミスチャート上における移動速度の変化の計測部
(4)該同軸ケーブルの中心導体に直接又は間接的に接続されたマイクロ波印加用アンテナ、
(5)該同軸ケーブルの外部導体に直接又は間接的に接続されたマイクロ波受手用アンテナ、及び
(6)該センサ部で検出した反射係数の移動速度変化をマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間は過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、以下の条件に該当する場合には凝固進行、封し完了のタイミングであると判断し、該出力制御部にマイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部。
(a)該過渡期において、6秒以内に1又は複数の最大値の60%以上のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期とは、該過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下となった後の相をとり、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件
10.前記凝固判別処理部は、さらに、以下の条件(1)又は(2)に該当する場合には凝固未完了であると判断する、前項8に記載のマイクロ波手術器具。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%(又は、25%、30%、35%)を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生し、必要に応じて、(b)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から25%を超えるスパイクが発生する、条件
11.マイクロ波の反射係数の移動速度の変化を凝固状態の判別マーカーとする、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置。
12.以下を備えることを特徴とする、前項11に記載の両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置、
マイクロ波の反射係数の移動速度の変化はマイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、以下の条件に該当する場合には凝固進行、封し完成のタイミングであると判断し、マイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部。
(a)該過渡期において、6秒以内に1又は複数の最大値の60%以上のスパイクが発生し、かつ
(b)該安定凝固期とは、該過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下となった後の相をとり、かつ
(c)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上のスパイクは発生しない、条件
13.さらに、以下の条件(1)又は(2)に該当する場合には凝固未完了であると判断する、前項11に記載の凝固判別処理装置。
(1)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)該安定凝固期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から40%(又は、25%、30%、35%)を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)該過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生し、必要に応じて、(b)該終息期において、該過渡期に発生したスパイクの最大長から25%を超えるスパイクが発生する、条件
【発明の効果】
【0010】
本発明の医療用処置具は、以下のいずれか1以上の情報を該器具使用者に提供することができる。
(1)凝固対象組織の凝固の順調な進行状態,封止の完成を示す情報
(2)凝固対象組織の凝固の順調でない進行、未完了状態を示す情報
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】凝固対象である豚から採取した動脈にマイクロ波を印加している図
【
図4】マイクロ波印加時の反射係数の移動速度の測定システム
【
図5】スミスチャート上に表示された反射係数の時間による変化の軌跡を示す図
【
図6】反射係数の移動速度の変化の時間経過(実施例2)
【
図7】マイクロ波印加時間15秒での組織凝固完了(封止良好)を示す図(実施例2)
【
図8】マイクロ波印加時間20秒まで組織凝固完了(封止良好)を確認した結果(実施例3)
【
図9】マイクロ波印加時間30秒まで組織凝固完了(封止良好) を確認した結果(実施例4)
【
図10】マイクロ波印加時間15秒での組織凝固未完了(封止不良)を確認した結果(実施例5)
【
図11】マイクロ波印加時間30秒まで組織凝固未完了(封止不良)を確認した結果(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、両電極式マイクロ波手術器具(装置)の凝固対象組織の凝固状態判別方法(以後、「本発明の凝固状態判別方法」と略する場合がある)、該方法を採用した両電極式マイクロ波手術器具(以後、「本発明の手術器具」と略する場合がある)、並びに、両電極式マイクロ波手術器具用凝固判別処理装置(以後、「本発明の凝固判別処理装置」と略する場合がある)に関する。
以下、本発明について、図面等を参照して、説明するが、本発明は以下の発明に限定されるものではない。
また、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、最大スパイク値)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組み合わせて「10~90」とすることができる。
【0013】
(両電極式マイクロ波手術器具の凝固対象組織の凝固状態判別方法)
本発明の凝固状態判別方法は、以下の実施例により、凝固対象組織に照射したマイクロ波の反射係数の移動速度の変化を凝固状態の判別マーカーにすることにより、凝固対象組織の凝固進行状況、凝固完了、凝固不良又は凝固未完了を判別することができる。
【0014】
(凝固対象組織凝固の順調な推進、封し完了条件)
マイクロ波の反射係数の移動速度変化は、マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、凝固状態が凝固完了である条件が以下である。
(a)過渡期において、6秒以内(又は、5秒以内、7秒以内、8秒以内、9秒以内、10秒以内)に1又は複数の最大値の60%以上(又は、40%以上、50%以上又は70%以上)のスパイクが発生し、かつ
(b)安定凝固期とは、過渡期に発生した最後のスパイクの最大値から40%以下(又は、50%以下又は30%以下)となった後の相をとり、かつ
(c)終息期において、過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上(又は、30%以上、40%以上又は50%以上)のスパイクは発生しない、
さらに必要に応じて、
(d)終息期において、ゼロに収束する。
【0015】
加えて、別の凝固状態が封し完了である条件は以下の通りである。
(a)過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)安定凝固期において、過渡期に発生したスパイクの最大値から50%以下(又は、40%以下、60%以下)のスパイクのみが発生し、かつ
(c)終息期において、過渡期に発生したスパイクの最大値から25%以上(又は、20%以上、30%以上)のスパイクは発生しない、条件、
【0016】
過渡期、安定凝固期及び終息期は、以下のように設定することができる。
マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間が15秒以内の場合、過渡期は開始から6秒、安定凝固期は6~12秒、終息期は12~15秒に設定する。
マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間が20秒以内の場合、過渡期は開始から8秒、安定凝固期は8~14秒、終息期は14~20秒に設定する。
マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間が30秒以内の場合、過渡期は開始から10秒、安定凝固期は10~20秒、終息期は20~30秒に設定する。
また、過渡期、安定凝固期及び終息期は、以下のように設定することができる。
過渡期:最初の6秒内に発生するスパイクの最大値の60%以上のスパイクが出なくなって、さらに、最大スパイクの40%まで低下し、減衰局面となる。
安定凝固期:過渡期の後に続く期間であり、特に、25%以上のスパイクが出ない期間。
終息期:減衰が続き、ゼロに収束する期間。なお、過渡期が6秒を超える場合、安定期を経てゼロに収束する終息期に入りゼロに接する時間としても良い。なお、ゼロに収束するとは、反射速度が0.25(又は、0.15、0.20、0.30、0.35)を超えない、又は、照射開始15秒以上時点において、最大ピークSLと比較して、10%以下(又は、8%以下、5%以下)のピークしか存在しないと設定することができる。
【0017】
(凝固対象組織の凝固未完了条件)
マイクロ波の反射係数の移動速度の変化は、マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類され、凝固状態が凝固未完了である条件が以下である。
(1)(a)過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒内に発生し、かつ
(b)安定凝固期において、過渡期に発生したスパイクの最大長から40%(又は、25%、30%、35%)を超えるスパイクが発生する、又は、ゼロに収束しない条件
(2)(a)過渡期において、1又は複数のスパイクが6秒を超えて発生し、かつ
(b)終息期において、過渡期に発生したスパイクの最大長から25%を超えるスパイクが発生、かつ、必要に応じてゼロ収束しない、
【0018】
加えて、別の凝固状態が凝固不良又は未完了である条件は以下の通りである。
(1)(a)過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)安定凝固期及び/又は終息期において、過渡期に発生したスパイクの最大長から40%(又は、30%、50%、60%)を超えるスパイクが発生する、条件
(2)(a)過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)終息期において、過渡期に発生したスパイクの最大長から25%(又は、30%、35%、20%)を超えるスパイクが発生する、条件
(3)(a)過渡期において、1又は複数のスパイクが発生し、かつ
(b)安定凝固期及び/又は終息期において、過渡期に発生したスパイク値よりも高いスパイクが発生する、条件
必要に応じて、(4)過渡期(例えば、6秒)を超えて、1又は複数のスパイクが発生する、条件
【0019】
(両電極式マイクロ波手術器具)
本発明のマイクロ波手術器具は、両電極式(一方の電極から他方の電極にマイクロ波が流れる形式)マイクロ波手術器具に関する。
本発明のマイクロ波手術器具は、以下を備える。
(1)マイクロ波発生器から発生したマイクロ波を供給するための中心導体及び外部導体を含む同軸ケーブル
(2)マイクロ波の出力時間を制御する出力制御部
(3)マイクロ波の反射波を検出するセンサ部(特に、反射係数のスミスチャート上における移動速度の変化の計測部)
(4)同軸ケーブルの中心導体に直接又は間接的に接続されたマイクロ波印加用アンテナ
(5)同軸ケーブルの外部導体に直接又は間接的に接続されたマイクロ波受手用アンテナ
(6)凝固判別処理部
なお、本発明のマイクロ波手術器具は、マイクロ波の出力時間を制御する出力制御部及び凝固判別処理部を公知の両電極式マイクロ波手術器具に搭載又は接続することにより、構成することもできる。
【0020】
本発明のマイクロ波手術器具は、マイクロ波印加用アンテナ及びマイクロ波受手用アンテナである両電極間の隙間に組織を把持できるように可動であれば特に限定されないが、例えば鉗子、鑷子を例示することができる。鉗子の例としては、本発明で使用する鉗子は、自体公知の鉗子を使用可能であり、ケリー鉗子、コッヘル鉗子、ペアン鉗子、アリス鉗子型、等を例示することができるが、特に限定されない。
【0021】
(照射マイクロ波)
本発明のマイクロ波手術器具の同軸ケーブルに伝送されるマイクロ波は、特に、限定されないが、300MHz~300GHz(波長:1m~1mm)、好ましくは、0.9GHz~30GHzである。なお、伝送方法は、自体公知の方法、例えば、自体公知のマイクロ波を発振するマイクロ波発振器に接続すること、又は、該発振器をマイクロ波手術器具に内蔵することにより容易に達成することができる。
なお、本発明において使用される電力は0.1W~200W、好ましくは0.1W~80Wである。
【0022】
(同軸ケーブル)
本発明で用いられる同軸ケーブルは、例えば、銅からなる導電体の中心導体と、中心導体を覆う絶縁体又は誘電体(例えば、テフロン(登録商標)、ポリエチレン等からなる)のシールドチューブと、銅、ステンレス、真鍮等からなる外部導体(導電体)のアースパイプ又は編組銅線からなる。
なお、同軸ケーブルは、自体公知のセミリジット同軸ケーブルでも良い。
尚、デバイスグリップに発振器を内蔵する場合はDCコードでも良い。
【0023】
(アンテナ)
本発明のマイクロ波印加用アンテナ及びマイクロ波印加用アンテナは、マイクロ波を供給することができる材質であれば特に、限定されない。例えば、銀、銅、金、鉄、チタン、ステンレス、リン青銅又は真鍮等広く導電性材料が使用可能である。好適には、銀、銅、金、ステンレス、真鍮等が例示される。
本発明のマイクロ波受手用アンテナ及びマイクロ波受手用アンテナは、マイクロ波を受けることができる材質であれば特に、限定されない。例えば、銀、銅、金、鉄、チタン、ステンレス、リン青銅又は真鍮等広く導電性材料が使用可能である。好適には、銀、銅、金、ステンレス、真鍮等が例示される。
アンテナの形状は、特に限定されないが、円錐、三角錐、四角錐、円柱、四角柱、三角柱、球、立方体、直方体、刃形状、丸型、棒状、のこぎり歯形状等が例示される。さらに、アンテナの内表面(特に、組織との接触面)は、平面型、凹凸型等が広く適用可能である。
本発明のマイクロ波印加用アンテナの具体的な構成は、四角柱であり、組織との接触面は組織が滑りにくいようにのこぎり歯形状であり、マイクロ波受手用アンテナの具体的な構成は、四角柱であり、組織との接触面は組織が滑りにくいようにのこぎり歯形状であってもよい。
【0024】
(シャフト部)
本発明のシャフト部は、自体公知の医療器具のシャフト部と同様な構造でも良いが、好ましくは、同軸ケーブルを有する又は内蔵する。さらに、シャフト部は、シャフト回転用ノブを有しても良い。シャフト回転用ノブを回転させることにより、マイクロ波印加用アンテナ及びマイクロ波印加用アンテナ並びにシャフト部を回転させることができる。
【0025】
(グリップ部)
本発明のグリップ部は、自体公知のマイクロ波手術器具と同様な構造でも良いが、コネクタ及びマイクロ波照射スイッチを有しても良い。
コネクタは、同軸ケーブルと接続することにより、コネクタの回転により、マイクロ波印加用アンテナ及びマイクロ波印加用アンテナ並びにシャフト部が回転可能となる。
マイクロ波照射スイッチは、マイクロ波照射のon/offだけでなく、強弱も調整可能である。
電極可動用スイッチは、両電極による開閉を操作することができる。
【0026】
(マイクロ波の出力時間を制御する出力制御部)
本発明のマイクロ波の出力時間を制御する出力制御部は、本発明のマイクロ波手術器具の使用者(医師、医療従事者)のマイクロ波照射スイッチの操作によるマイクロ波の出力の開始又は停止の通知だけでなく、凝固過程の状況等、以下で述べる凝固判別処理部のマイクロ波出力の開始・停止の通知を受けて、マイクロ波の出力の開始及び停止を行う(制御する)。
【0027】
(マイクロ波の反射波を検出するセンサ部、反射係数のスミスチャート上における移動速度の変化の計測部)
本発明のマイクロ波の反射波を検出するセンサ部は、凝固対象組織に照射したマイクロ波の反射波を検出することができれば自体公知のセンサを使用することができる。具体的には、センサ部は、マイクロ波印加用アンテナ又は中心導体のいずれかの箇所の反射波を検出する。センサ部は反射波の振幅と位相を検出できる。これにより反射係数を得ることができる。反射係数のスミスチャート上における移動速度は、得られた反射係数のスミスチャート上の座標位置の時間変化により求めることができる。
【0028】
(マイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部)
本発明のマイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部は、センサ部で検出した反射係数(又は、スミスチャート上の反射係数)の移動速度の変化から判別する。マイクロ波照射開始時点から終了時点の期間を過渡期、安定凝固期及び終息期に分類し、上記に述べた凝固、封し完了条件に該当する場合には凝固終了のタイミングであると判断し、出力制御部にマイクロ波出力の停止を通知する。凝固不良、未完了条件になった場合には、未完了条件になった時点でマイクロ波出力の停止とその通知をすることができる。
加えて、本発明のマイクロ波出力の停止を通知する凝固判別処理部は、必要に応じて、上記に述べた凝固完了条件に該当する場合には表示部に終了通知又は上記に述べた凝固不良、未完了条件に該当する場合には表示部に凝固未完了通知を行う。
表示部は、ブザー音,音声メッセージ等の音又はランプ点灯、文字や図形のメッセージ等の光で凝固の終了又は未完了を表示する。
【0029】
本発明におけるマイクロ波凝固の時間経過は、おおよそ以下の通りである。
凝固対象にマイクロ波手術器具を接触させてマイクロ波照射を開始すると、それにより対象部位の誘電加熱が始まる。加熱当初は、急速な加熱のため凝固対象と手術器具の接触部界面の状態が急変し、検出しているマイクロ波反射波が大きく変動する。この状態に対応するのが過渡期の状態である。
界面の状態がある程度安定化すると、凝固対象の温度上昇と、凝固対象の固化がある程度一定の割合で進行するようになる。この状態に対応するのが安定凝固期の状態である。血管であれば、刃に向かい長軸方向に血管が短縮し続ける。凝固対象の接触界面エネルギーが大きい場合、スミスチャート上での動きは一点で小刻みに揺れ、大きな動きはない。
さらに継続してマイクロ波を照射すると、凝固対象のほぼ全体が一様に凝固し、血管であれば封止が完了する。それに伴い反射係数微分値の変動は非常に少なくなり、ゼロに収束する。この状態に対応するのが終息期の状態である。
加熱途中で凝固対象組織からの水蒸気の突沸や、凝固対象組織の破断、焦付き等が起こると反射係数速度が大きく変動する。このような場合、封止がうまくいかなくなることが多いが、本発明の方法を用いれば、加熱中の異常を速やかに検知することができ、このような異常に速やかに対処することができる。
スミスチャート上における反射係数の移動速度は、以下の処理により求めることができる。凝固対象からの反射波の振幅と位相を検出することにより、凝固対象からの反射電力を得ることができ、これより反射係数(Γ)を得ることができる。反射係数はスミスチャート上にプロットして表示することができる。
スミスチャート上の反射係数の移動速度は、スミスチャート上における反射係数の位置の時間変化から得られる。スミスチャート上で可視表示することによって、その動きの変動具合から、直接凝固状況を判断することも可能となる。下記実施例ではこのようにして求めた反射係数の移動速度を縦軸にして、その時間経過を横軸にプロットし、反射係数の速度の時間変化を示している。
【0030】
凝固状態の判別は、まず、過渡期における反射係数の移動速度の変化のスパイクの数とそれぞれのピーク値(スパイク長)を求め、その中の最大値(SL)を検出し、安定凝固期、終息期それぞれにおけるスパイクの数とそれぞれのピーク値(スパイク長)を求め、過渡期におけるスパイク最大値(スパイク長SL)に対する大きさを百分比で求め、その値から判別する。ここでいうスパイクとは、反射係数の移動速度の時間変化をプロットした折れ線状のグラフにおける、山のことである。
凝固対象からの反射波の振幅と位相は、ネットワークアナライザーやマルチポートコリレータ等を用いることによって、リアルタイムで計測、表示することができる。コリレータは、入射波と反射波が導波路上で干渉を起こすという現象を利用して反射電力並びに反射位相をリアルタイムに観測する回路のことである。反射波を検出する導波路上のポイントを複数設けたものがマルチポートで、これにより反射波の振幅と位相を知ることができる。下記実施例では4ポートのコリレータを用いた。4ポートコリレータは回路構成が簡単であり、計測装置を非常に安価で小型に組むことができる。
スミスチャート上の反射係数の移動速度の変化を計測する手法は、単に凝固対象のインピーダンスを測定する手法に比べて、凝固状態をより正確に、またより感度良く把握できる。またスミスチャート上の反射係数をディスプレイに表示して、リアルタイムの目視で凝固状況の判別も可能であることから、マイクロ波手術器具を使う術者にとっては、極めて使い勝手のよいものである。
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例では、組織凝固完了(封止良好)の反射係数の移動速度及び組織凝固未完了(封止不良)の反射係数の移動速度の変化を測定した。詳細は以下の通りである。
【実施例0032】
(材料・方法)
〇使用したマイクロ波止血鉗子:
図1に記載の試作の鉗子(22W)、
図2はその先端部
〇凝固対象:豚から採取した動脈(
図3:径4-5mm)
〇マイクロ波印加時の反射係数の移動速度は、マルチポートコリレータをマイクロ波止血鉗子のマイクロ波電源接続部に接続して、計測した(
図4)。
〇マイクロ波印加完了時の封止部の破裂圧を測定した。この値を封止圧と呼ぶ。そして、封止圧が400mmHgを超えた凝固対象を組織封止完了(封止良好)、それ以下のものを組織凝固未完了(封止不良)と判断した。