(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151412
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】回転体の装着装置及びハードディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G11B 17/038 20060101AFI20241018BHJP
G11B 33/14 20060101ALI20241018BHJP
G11B 33/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G11B17/038
G11B33/14 501Z
G11B33/12 313S
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064685
(22)【出願日】2023-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】594101226
【氏名又は名称】株式会社コムラテック
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(72)【発明者】
【氏名】権田 誠
(57)【要約】
【課題】回転軸を回転体の装着孔に挿通させるにあたり、装着孔の中心を回転軸の軸心に位置させる位置合せを、回転軸が装着孔の周縁に接触しない状態で自動的に行うことを課題とする。
【解決手段】回転体はエアの作用により保持具の保持面に非接触状態で保持され、回転軸と同一軸心をなし且つその先端部が回転軸の一端部と直接対向する可動軸を、その軸方向の移動可能な状態で保持具の挿入部に収容して設け、保持具を装着孔が回転軸の延長線上に位置した状態で回転軸の軸方向に移動することにより、可動軸が装着孔に挿通された状態から、回転軸が装着孔に挿通された状態に切り換える一連の過程で、可動軸又は回転軸の外周と装着孔の周縁との間を介して、回転体の被保持面と反対側の面側から該被保持面側に流動するエアによってベルヌーイ効果を生じさせることにより、前記位置合せが自動的に行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を回転軸に装着させる回転体の装着装置であって、
板状に形成された前記回転体の片面である被保持面と直接対向する保持面が形成された保持具を含み、前記回転体を前記保持面側に保持する保持ユニットと、
前記保持面側に保持された前記回転体に穿設された装着孔を、前記回転軸の延長線上に位置させた状態で、該保持具を前記回転軸の軸方向に移動作動させる作動機構と、
前記回転軸と同一軸心をなし且つその一端面である先端部が該回転軸の一端部である挿入側端部と直接対向する可動軸と、を備え、
前記保持具には、前記可動軸を、その軸方向に可動可能な状態で、その少なくとも一部の外周面を収容するとともに、前記回転軸を挿入させることも可能に前記保持面側に開口された挿入部が形成され、
前記作動機構は、前記可動軸の少なくとも先端部が前記挿入部から外部に突出し且つ該可動軸の前記挿入部から外部に突出した部分が前記装着孔に挿通された状態の前記回転体が前記保持具に保持された状態である可動軸側装着状態から、前記回転軸が前記装着孔に挿通された状態の前記回転体が前記保持具に保持され且つ前記可動軸の先端部及び前記回転軸の挿入側端部を含む部分が前記挿入部内に収容された状態である回転軸側装着状態に切り換えることが可能に構成され、
前記保持ユニットは、前記可動軸側装着状態時又は前記回転軸側装着状態時、前記回転体における前記被保持面と反対側の面側のエアを、前記装着孔と前記回転軸又は前記可動軸の外周面との間の隙間を介して、前記挿入部の内周面と、前記回転軸又は前記可動軸の外周面との間の隙間に流入させる吸気機器と、前記保持面側に開口した吐出口から前記被保持面に向かってエアを吐出する排気機器と、を含み、
前記吸気機器及び前記吸気機器は、エアの吸排気によって、前記回転体を、その被保持面が前記被保持面と非接触で可動可能な状態で、該保持面側に保持するように構成され、
前記吸気機器は、前記可動軸側装着状態時又は前記回転軸側装着状態時、エアの吸気によりベルヌーイ効果を生じさせ、前記装着孔の中心が前記回転軸の軸心上に位置するように前記回転体を移動させるように構成された
ことを特徴とする回転体の装着装置。
【請求項2】
前記可動軸を前記挿入部から外部に突出する側に付勢する付勢部材を備え、
前記可動軸は、前記可動軸側装着状態から前記回転軸側装着状態への切換時、その先端部が、前記回転軸の挿入側端部に当接し、前記付勢部材の付勢力に抗して前記挿入部内まで押し込まれるように構成された
請求項1に記載の回転体の装着装置。
【請求項3】
前記排気機器は、前記保持面側における前記吐出口よりも前記挿入部から遠い箇所に開口された排気口を含み、
前記排気機器は、前記吐出口から吐出されエアを、前記排気口から外部に排気させる構造とした
請求項1に記載の回転体の装着装置。
【請求項4】
前記回転体が、中心部に装着孔が穿設された円盤状の磁気ディスクである
請求項1に記載の回転体の装着装置。
【請求項5】
請求項4に記載の回転体の装着装置を用いてハードディスクドライブを製造するハードディスクドライブの製造方法であって、
前記可動軸側装着状態への切換を行う可動軸側装着工程と、
前記可動軸側装着状態から前記回転軸側装着状態への切換を行う回転軸側装着工程と、を有する
ことを特徴とするハードディスクドライブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を回転軸に装着させる回転体の装着装置及びハードディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円盤状に形成され且つその中心部に装着孔が穿設された磁気ディスク(回転体)を、回転作動する回転軸に挿通させて装着する回転体の装着装置が従来公知である。
【0003】
例えば、磁気ディスクの片面である被保持面と直接対向して該磁気ディスクを保持する保持面を有する保持具と、該保持具に保持された磁気ディスクを移動作動させる作動機構と、エアを吐出す排気機器と、エアを吸引する吸引機器と、を備え、磁気ディスクを、吸引するエアによって、保持面に保持させる一方で、吐出するエアによって、保持具に保持された磁気ディスクの被保持面と前記保持面との間に隙間を生じさせて互いを非接触な状態とする回転体の装着装置が公知になっている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
上記文献の回転体の装着装置によれば、保持具に回転体を保持させた状態でも、保持具の保持面に沿う方向への回転体の移動が許容されるため、装着孔の中心を回転軸の軸心上に位置させる位置合せが容易になり、装着孔への回転軸の挿通が行い易くなるというメリットがある。
【0005】
一方、上記文献の回転体の装着装置では、前記位置合せの作業自体を、回転軸が装着孔の周縁に接触しない状態で、自動的に行わせることは困難である。ちなみに、上記文献では、エアの作用によって前記位置合せに必要な力を発生させる技術内容についての記載はあるものの、その力は非常に弱いため、この力のみで前記位置合せ作業を自動的に行わせることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、回転軸を回転体の装着孔に挿通させるにあたり、装着孔の中心を回転軸の軸心に位置させる位置合せを、回転軸が装着孔の周縁に接触しない状態で自動的に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の回転体の装着装置は、回転体を回転軸に装着させる回転体の装着装置であって、板状に形成された前記回転体の片面である被保持面と直接対向する保持面が形成された保持具を含み、前記回転体を前記保持面側に保持する保持ユニットと、前記保持面側に保持された前記回転体に穿設された装着孔を、前記回転軸の延長線上に位置させた状態で、該保持具を前記回転軸の軸方向に移動作動させる作動機構と、前記回転軸と同一軸心をなし且つその一端面である先端部が該回転軸の一端部である挿入側端部と直接対向する可動軸と、を備え、前記保持具には、前記可動軸を、その軸方向に可動可能な状態で、その少なくとも一部の外周面を収容するとともに、前記回転軸を挿入させることも可能に前記保持面側に開口された挿入部が形成され、前記作動機構は、前記可動軸の少なくとも先端部が前記挿入部から外部に突出し且つ該可動軸の前記挿入部から外部に突出した部分が前記装着孔に挿通された状態の前記回転体が前記保持具に保持された状態である可動軸側装着状態と、前記回転軸が前記装着孔に挿通された状態の前記回転体が前記保持具に保持され且つ前記可動軸の先端部及び前記回転軸の挿入側端部を含む部分が前記挿入部内に収容された状態である回転軸側装着状態との一方から他方及び他方から一方に切換可能に構成され、前記保持ユニットは、前記可動軸側装着状態時又は前記回転軸側装着状態時、前記回転体における前記被保持面と反対側の面側のエアを、前記装着孔と前記回転軸又は前記可動軸の外周面との間の隙間を介して、前記挿入部の内周面と、前記回転軸又は前記可動軸の外周面との間の隙間に流入させる吸気機器と、前記保持面側に開口した吐出口から前記被保持面に向かってエアを吐出する排気機器と、を含み、前記吸気機器及び前記吸気機器は、エアの吸排気によって、前記回転体を、その被保持面が前記被保持面と非接触で可動可能な状態で、該保持面側に保持するように構成され、前記吸気機器は、前記可動軸側装着状態時又は前記回転軸側装着状態時、エアの吸気によりベルヌーイ効果を生じさせ、前記装着孔の中心が前記回転軸の軸心上に位置するように前記回転体を移動させるように構成されたことを特徴とする。
【0009】
前記可動軸を前記挿入部から外部に突出する側に付勢する付勢部材を備え、前記可動軸は、前記可動軸側装着状態から前記回転軸側装着状態への切換時、その先端部が、前記回転軸の挿入側端部に当接し、前記付勢部材の付勢力に抗して前記挿入部内まで押し込まれるように構成されたものとしてもよい。
【0010】
前記排気機器は、前記保持面側における前記吐出口よりも前記挿入部から遠い箇所に開口された排気口を含み、前記排気機器は、前記吐出口から吐出されエアを、前記排気口から外部に排気させる構造としたものとしてもよい。
【0011】
前記回転体が、中心部に装着孔が穿設された磁気ディスクであるものとしてもよい。
【0012】
一方、本発明のハードディスクの製造方法は、前記回転体の装着装置を用いてハードディスクドライブを製造するハードディスクドライブの製造方法であって、前記可動軸側装着状態への切換を行う可動軸側装着工程と、前記可動軸側装着状態から前記回転軸側装着状態への切換を行う回転軸側装着工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
回転体へ回転軸への装着を行うにあたり、装着孔の中心が回転軸の軸心に位置させる回転体の位置合せを、ベルヌーイ効果を利用し、回転軸が装着孔の周縁に非接触な状態で、自動的に行わせることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用した磁気ディスクの装着装置の要部構成を示す断面図である。
【
図4】ベルヌーイ効果を概略的に示す装着孔、回転軸又は可動軸の平面図である。
【
図5】磁気ディスクの装着装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】磁気ディスクの装着方法の構成を示すフロー図である。
【
図7】初期状態の磁気ディスクの装着装置の要部断面図である。
【
図8】可動軸側装着状態の磁気ディスクの装着装置の要部断面図である。
【
図9】回転軸側装着状態の磁気ディスクの装着装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明を適用した磁気ディスクの装着装置の要部構成を示す断面図であり、
図2は
図1の要部拡大図であり、
図3は
図2の要部拡大図である。図示する磁気ディスクの装着装置(回転体の装着装置)は、ハードディスクの組立装置の一部を構成し、磁気ディスク(回転体)51を、位置決め載置されたワーク50に組み付ける(装着する)。
【0016】
ワーク50は、磁気ディスク装置の一種であるハードディスクの一部を構成している。そして、磁気ディスク51を含む各種の部品の全てをワーク50に組み付けることによって、ハードディスクの組立が完了する。
【0017】
図示するワーク50は、片面側開放された厚板直方体状をなすボックスである筐体本体52と、筐体本体52の内部の底面側に回転可能に支持され且つ円筒状に形成された回転軸53と、を有している。筐体本体52の開放側は、該筐体本体52内への部品の組付けが完了した後、該筐体本体52の底面と平行又は略平行なケース蓋(図示しない)によって閉塞される。
【0018】
回転軸53は、筐体本体52の底面に対して垂直な方向に突出し、且つ、該底面からケース蓋の内面側に至る範囲に形成されている。回転軸53は、その内部に少なくとも一部が収容されたモータ(図示しない)によって回転駆動される。回転軸53の突出側の端部(挿入側端部)54における端面には、該回転軸53の軸心Z上に位置し且つ筐体本体52の底面側に円錐状に窪んだ係合穴54aが凹設されている。
【0019】
磁気ディスク51は、円盤状に成形され、その中心部には、回転軸53を嵌合状態で挿通させる円状の装着孔51aが形成されている。ちなみに、この嵌合状態での挿入を実現するため、回転軸53の外周面は、その断面形状が(軸方向に垂直な面で切断した形状)が装着孔51aと同一又は略同一の円状をなしている。
【0020】
上述した磁気ディスクの装着装置は、磁気ディスク51を、その厚み方向が回転軸53の軸方向に向けられた姿勢で保持し、且つ、該磁気ディスク51を、その装着孔51aの中心位置を回転軸53の軸心Z上に位置させた状態で、回転軸53の軸方向の一方側(
図1では下方であり、以下、「装着側」)に移動させることにより、回転軸53を装着孔51aに挿通させて磁気ディスク51の回転軸53への装着を行う。
【0021】
ちなみに、回転軸53には、複数の磁気ディスク51が装着される。回転軸53に装着された複数の磁気ディスク51は、該回転軸53の軸方向で隣接するもの同士の間にスペーサが介在され、その間隔が維持される。
【0022】
磁気ディスク51の片面又は両面は、各種の磁気によって大容量の情報が記憶される記憶面として機能している。この記憶面上に埃や微細な欠片等の異物が存在すると、誤作動の原因になる。このため、回転軸53を磁気ディスク51の装着孔51aに挿入する際や、回転軸53が装着孔51aに挿通された状態で磁気ディスク51を該回転軸53の軸方向に移動する際に、装着孔51aの周縁に回転軸52の端面54や外周面が接触し、極小の欠片等の異物が発生し、その微細な異物が磁気ディスク51の記憶面上に位置した場合、ハードディスクの動作不良の原因になる。
【0023】
要するに、磁気ディスク51の回転軸52への装着時、磁気ディスク51と回転軸52との接触は極力防止する必要がある。
【0024】
なお、ハードディスクのその他の構成は、磁気ディスク51及び回転軸53の構成も含め、従来公知であるため、説明は割愛する。
【0025】
続いて、
図1乃至
図9に基づいて磁気ディスクの装着装置の構成を詳述する。
【0026】
磁気ディスクの装着装置は、ワーク50の筐体本体52の開放側を鉛直方向上側に向けた姿勢で位置決め載置される載置台(図示しない)と、磁気ディスク51の片面(本例では、上面であり、以下、「被保持面」)51bと直的対向し且つ該磁気ディスク51を保持する保持具1を含む保持ユニットと、磁気ディスク51が保持された保持具1を、回転軸53の軸方向に移動作動させる作動機構2(
図5参照)と、載置台に位置決めしてセットされるワーク50の回転軸53と同一の軸心Zを有し且つその軸方向に移動可能に保持具1側に支持された可動軸3と、該可動軸3をワーク50側に弾性的に付勢する付勢部材4と、を備えている。
【0027】
上記載置台に位置決め載置されたワーク50と、保持具1との相対位置は、載置台及び保持具1の一方又は両方の位置を変位させる相対位置変更機構6(
図5参照)によって変更される。磁気ディスク51の回転軸53への装着時、保持具1に保持された磁気ディスク51の装着孔51aが回転軸53の延長線上に位置するように(具体的には、装着孔51aの中心が回転軸53の軸心Z上に位置するように)、相対位置変更機構6が作動される。
【0028】
ここで、自身が保持した磁気ディスク51の装着孔51aの中心が回転軸53の軸心Z上に位置している状態の保持具1における平面視での回転軸53に対する相対位置を、以下、「装着位置」と称する。そして、これ以降、特に言及がない限り、保持具1は装着位置に移動されているものとする。
【0029】
上記保持具1は、回転軸53の軸方向に往復移動可能に支持され、スライド部材7と、該スライド部材7のワーク50側端部(下端部)に取り付け固定された保持部材8と、を有している。
【0030】
スライド部材7は、回転軸53と同一軸心をなし且つ筒状に形成されたスライド部9と、該スライド部9の外周面におけるワーク50側の端部から、その全周に亘り、径方向外側に延設されてフランジ状をなす取付部11と、を一体的に有している。
【0031】
保持部材8は、スライド部7と同一軸心をなす筒状に形成され且つ該スライド部材9よりも装着側に配置された保持部12と、該保持部12の外周面における取付部11側の端部から、その全周に亘り、径方向外側に延設されてフランジ状をなす被取付部13とが含まれた本体14と、該本体14と別体で円形リング状に成形され且つ保持部12に外装固定された外装体16によっても上述の保持部材8の一部が構成されている。
【0032】
スライド部材7のスライド部9の内周面と、保持部材8の保持部12の内周面とは、その端部同士が一体的に連接されて挿入穴(挿入部)17を構成している。外装体16のワーク50側の端面と、保持部12のワーク50側の端面とは、フラットな面一の保持面18を構成している。
【0033】
上述の挿入穴17は、上述した構成により、回転軸53及び可動軸3と同一軸心をなし且つ、上述した保持面18側に開口している。回転軸53は、この開口部分から、挿入穴17に嵌合状態で挿脱可能に挿入される。これに対応して、挿入穴17における回転軸53が挿入される範囲である挿入範囲17aは、軸心Zの方向全体に亘り、その径が同一であり、その断面形状が回転軸53の外周面よりも若干大径の円状をなしている。このため、回転軸53が挿入範囲17aに正確に挿入された状態では、挿入範囲17aの内周面と回転軸53の外周面との間に、その全周に亘って等間隔にドーナツ状の隙間S1が形成される。
【0034】
この挿入範囲17aは、挿入穴17の内周における最も開口部分に近い側に形成されている。挿入穴17の挿入範囲17aよりも奥側の範囲には、段差によりなる係止部17b,17cが、該挿入穴17の形成方向(すなわち、軸心Zの方向)に並べて複数設けられている。各係止部17a,17cは、挿入穴17の内周面に全周に亘り形成され、軸心Zの方向から視て円形リング状をなしている。
【0035】
上述の保持面18は、上述した構成により、軸心Zの方向から視て、挿入穴17を囲繞した円形環状をなしている。この保持面18には、後述する手段によって、磁気ディスク51が非接触状態で保持される。具体的には、保持面18と被保持面51bとの間における直接対向する範囲の全体に亘り、隙間S2が形成された状態で、磁気ディスク51が保持具1に保持される。
【0036】
保持具1は、さらに、スライド部材7のスライド部9の内周面側の空間に配置された支持部19を一体的に有している。支持部19は、スライド部9と同一軸心をなし且つスライド部19よりも小径な筒状に形成されている。また、このスライド部9の外周面側は、その全周に亘り、カバー部材21によって覆われている。このカバー部材21は、スライド部19と同一軸心をなし、該スライド部9よりも大径の筒状に成形されている。
【0037】
上記可動軸3は、スライド部材7のスライド部9と同一軸心をなし且つ該スライド部9よりも小径な筒状に形成された軸本体22と、該軸本体22の筒形状の内周面側に空間に配置され且つ該軸本体22と同一軸心をなすように一直線状に形成された支持軸23と、を有している。
【0038】
軸本体22は、その少なくとも一部(図示する例では、その大部分又は全部)の外周面が挿入穴に嵌合状態で収容され、自身の軸心Zの方向に往復移動可能に支持されている。
【0039】
軸本体22の外周面における前記挿入範囲17aに挿通され得る大部分の範囲(作用範囲)22aは、軸心Zの方向全体に亘り、その径が同一又は略同一であり、その断面形状が前記挿入範囲17aの内周面よりも若干小径であって且つ回転軸53の外周面の断面形状と同一又は略同一の円状をなしている。このため、挿入範囲17aの内周面と、作用範囲22aの外周面との間には、その全周に亘って等間隔にドーナツ状の隙間S3が形成される。
【0040】
この作用範囲22aは、軸本体22の外周における挿入穴17の開口側の端部寄り範囲である。一方、軸本体22の外周面における作用範囲22aよりも挿入穴17の奥側に位置する範囲には、上述した係止部17b,17c毎に専用の被係止部22b,22cが一体的に形成されている。被係止部22b,22cは、軸本体22の軸方向に並べて複数設けられ、隣接するもの同士の間隔も上述した複数の係止部17a,17cの隣接するもの同士の間隔と同一又は略同一に設定されている。
【0041】
この軸本体22の作用範囲22a側の端部(先端部)における端面は、回転軸53の挿入側端部54における端面と直接対向している。また、軸本体22の内周面側の空間は、該空間の先端寄り部分が閉塞部24によって全体的に閉塞される一方、先端部の反対側の端部である基端部は全体的に開放されている。この閉塞部24の軸心Z上に位置する中心部には、支持軸23を挿通させる挿通孔24aが穿設されている。
【0042】
支持軸23における作用範囲22a側の端部(先端部)23aは、上述した係合穴54aに嵌合して挿入される円錐状に形成された係合部を構成している。また、支持軸23の先端寄り部分の外周面は挿通孔24aに挿通される一方で、先端と反対側の端(基端)寄り部分は、上述した支持部23の筒形状の内周面側に嵌合して挿入される。この支持部23及び閉塞部24の2箇所によって、支持軸23は、自身の軸心Zの方向の往復移動可能に、軸本体22及び保持具1に支持される。
【0043】
この支持軸23における挿通孔24aに挿通される部分よりも先端部23aから遠い側(奥側)の部分には、連結スリープ26が、その軸方向の移動可能に外装されている。支持軸23の連結スリープ26が装着される部分よりも奥側の部分の外周面からは、その径を全周に亘り拡大させる鍔状且つ円形環状の係止部23bが一体的に延設されている。
【0044】
上記付勢部材4は、支持軸23の外装される圧縮コイルばねである。この付勢部材4は、圧縮された状態で、支持部23の端部と、係止部23bとの間に介在している。
【0045】
この付勢部材4は、その弾性的な付勢力により、連結スリーブ26の一端部を閉塞部24に当接させ且つ他端部を係止部23bに当接させて軸本体22及び支持軸23の互いの相対位置を一定に保持するとともに、可動軸3を挿入穴17から外部に突出する側(すなわち、ワーク50側であり、以下、「突出側」)に常時付勢する。
【0046】
ちなみに、支持軸23の軸本体22に対する相対位置が一定に保持されている状態の支持軸23は、その係合部23aが軸本体22の先端部よりもさらにワーク50側に突出して外部に露出した状態になる。
【0047】
また、可動軸3は、付勢部材4からの付勢力によって、保持具1に対し、突出側に移動作動する。ただし、可動軸3は、保持具1における突出側の予め定めた所定位置(突出位置)まで移動した場合(
図1参照)、複数の被係止部22b,22cの夫々が対応する係止部17b,17cに個別且つ同時に係止され、保持具1に対して、それ以上突出側に移動することが規制(さらに具体的には、禁止)される。
【0048】
このようにして保持具1の突出位置で係止されている可動軸3は、その少なくとも先端部(本例では先端部のみ)が挿入穴17(保持具1)から外部の突出側に突出した状態で、該保持具1と一体で、その軸方向(具体的には軸心Zの方向)に往復移動される。
【0049】
可動軸3の保持具1(挿入穴17)から外部の装着側に突出した部分を、装着孔51aに挿通させることにより、保持具1の先端部の外周面に磁気ディスク51が装着された状態(可動軸側装着状態)に切り換えられる。
【0050】
可動軸3が突出位置に係止された状態の保持具1を、装着側に移動作動させた場合、まず、可動軸3の先端部の端面(正確には、軸本体22の先端部の端面)が回転軸53の挿入側端部54における端面に当接され且つ係合部23bが係合穴54aに挿入されて係合される状態(当接状態)に切り換えられる。係合部23bと係合穴54aとの係合によって、可動軸3及び回転軸53の軸心Zが互いにずれることが防止される。
【0051】
この当接状態から、保持具1をさらに装着側に移動作動させた場合、可動軸3が、回転軸53との当接により、付勢部材4の付勢力に抗し、挿入穴17の奥側に押し入れされ、該可動軸3の先端部の含む部分が該挿入穴17内に収容され(本例では可動軸3の全部が該挿入穴17内に完全に収容され)、これに伴って回転軸53の挿入側端部54を含む部分も挿入穴17内に挿入された状態(挿入状態)に切り換えられる。
【0052】
上記保持ユニットは、上述した保持具1の他、磁気ディスク51を保持具1に非接触な状態で且つ変位可能な状態で保持させるエア機器ユニット27(
図5参照)を有している。
【0053】
エア機器ユニット27は、エアを吸気する吸気機器28と、エアを吐出する排気機器29と、を有している(
図5参照)。また、このエア機器ユニット27はコンプレッサ等によってエアの吸気や圧縮を行うとともに、電磁バルブによって流路の切換を行う。
【0054】
吸気機器28は、エアの吸引によって、保持具1の保持面18側に保持された磁気ディスク51の被保持面51bと反対側の面(本例では、下面)側のエアを、装着孔51aに挿通された可動軸3(具体的に軸本体22)又は回転軸53の外周面と、該装着孔51aの周縁との間に形成された隙間S4から、上述した隙間S1,S3側に流入させる。隙間S1,S3に流入したエアは、挿入穴17内をさらに奥側(
図1に示す例では上方)に流動し、図示しない吸引口からコンプレッサ等により吸引される。
【0055】
一方、排気機器29は、保持部12に穿設され且つ軸心Zと平行な方向に延びる流路31を有している。流路31は、筒形状をなす保持部12の周方向の並べて所定間隔毎に満遍なく複数配置されている。流路31の保持面18側の端部は開口された吐出口31aを構成している。圧縮させたエアは、流路31を流動し、その吐出口31aから被保持面51bに向かって吐出される。
【0056】
ところで、図示する例では、保持部材8における本体14の保持部12の外周面と外装体16の外周面との間に、排気路30が保持面18側に開口した状態で形成されている。言い換えると、排気路30の保持面18側には、自身を開口させる排気口30aが形成されている。上述した配置関係によれば、排気口30aは、保持面18において吐出口31よりも挿入穴17から遠い位置に配置されている。そして、この排気路30は、吐出口31aから吐出されて隙間S2を軸心Zから遠ざかる側(外側)に流動してくるエアを、排気口30aから自身の内部に流入させて外部に排出させるように構成されている。
【0057】
なお、この排気路30を省略し、そのまま、隙間S2から外部に排気させてもよいし、或いは、隙間S2を被保持面51b及び保持面18に沿って流動するエアが排気路30に吸気する圧力をコンプレッサ等によって発生させてもよい。
【0058】
吸気機器28によるエアの吸引によって磁気ディスク51の被保持面51bが保持面18に吸い寄せられる一方で、排気機器29によるエアの吐出によって磁気ディスク51の被保持面51bと保持面18との間に上述した隙間S2が形成される。これによって、磁気ディスク51が、被保持面51bに沿う方向に平面的に移動可能な状態で、保持具1の保持面18に非接触な状態で保持される。また、こうなるようにエアの吸排気の圧力を適切に設定する。
【0059】
図4は、ベルヌーイ効果を概略的に示す装着孔、回転軸又は可動軸の平面図である。可動軸3又は回転軸53の何れか一方が装着孔51aに挿通された状態において、吸引機器28によりエアを吸気した場合、磁気ディスク51の被保持面51bと反対側の面側のエアが、可動軸3又は回転軸53の外周面と装着孔51aの周縁との間に形成された隙間S4を通過し、可動軸3又は回転軸53の外周面と挿入穴17の挿入範囲17aの内周面との間に形成された隙間S1,S3に流入する。
【0060】
この際、磁気ディスク51の円状をなす装着孔51aの中心が軸心Zからずれている状態(例えば、
図4に実践で示す状態であり、以下、「不均一状態」)である場合、可動軸3又は回転軸53の外周面と装着孔51aの周縁との間の間隔は、その周方向に亘り不均質になる。この状態時、隙間S4における間隔が狭い範囲(縮小範囲)S4aの方が、間隔が広い範囲(拡大範囲)S4bよりも、流動抵抗が大きいこと等に起因してエアの流速が低速になる。
【0061】
この縮小範囲S4aと、拡大範囲S4bとの流速差は、ベルヌーイ効果によって、両者の圧力差になる。具体的には、流速が遅い縮小範囲S4aよりも、流速が早い拡大範囲S4bの方が低圧な状態になる。
【0062】
装着孔51aが可動軸3又は回転軸53の軸心Z上に位置する状態(例えば、
図4に仮想線で示す状態であり、以下、「均一状態」)になるまで、上述した圧力差が継続して発生する。この圧力差によって、保持具1に非接触な状態で可動可能に保持された磁気ディスク51には不均一状態から均一状態への切換側へ移動力が作用する。この作用を以下「センタリング作用」と称し、このセンタリング作用によって、磁気ディスク51の装着孔51aの中心を軸心Z上に位置させる位置合せ作業が自動的に行われる。
【0063】
図5は、磁気ディスクの装着装置の構成を示すブロック図である。磁気ディスクの装着装置には、各種の制御を行うマイコン等から構成された制御部32が搭載されている。
【0064】
制御部32の出力側には、上述した作動機構2の一部を構成し且つ保持具1を軸心Zの方向に移動作動させる動力を発生させる電動モータ又は電動シリンダ等の作動アクチュエータ33と、上述した相対位置変更機構6の一部を構成し且つ上述した相対位置を変更する動力を発生させる電動モータ又は電動シリンダ等の相対位置変更アクチュエータ34と、上述したエア機器ユニット27と、が接続されている。
【0065】
制御部32の入力側には、保持具1の軸方向における作動位置を検出する作動位置検出センサ36と、相対位置変更機構6による変更される相対位置の検出する相対位置検出センサ37と、各種の設定操作や手動操作を行う操作ユニット38と、が接続されている。
【0066】
制御部32は、作動位置検出センサ36及び相対位置検出センサ37による検出結果に基づいて作動アクチュエータ33及び相対位置変更アクチュエータ34の作動を制御することにより、複数設定された所定タイミング毎に、作動位置及び相対位置を予め定めた所定の位置に適宜変化させる。
【0067】
次に、
図1と、
図5と、
図6乃至
図9とに基づき、上述した磁気ディスクの装着装置を用いたハードディスクの製造方法について説明する。
【0068】
図6は磁気ディスクの装着方法の構成を示すフロー図である。
図7は初期状態の磁気ディスクの装着装置の要部断面図であり、
図8は可動軸側装着状態の磁気ディスクの装着装置の要部断面図であり、
図9は回転軸側装着状態の磁気ディスクの装着装置の要部断面図である。本発明を適用したハードディスクの製造方法は、回転軸53に磁気ディスク51を装着させる前の段階までハードディスクの組立作業を行う第1組立工程と、第1組立工程の後、後述する初期状態から可動軸側装着状態への切換を行う可動軸側装着工程と、可動軸側装着工程の後、可動軸側装着状態から後述する回転軸側装着状態への切換を行う回転軸側装着工程と、回転軸53への磁気ディスク51の装着が完了した後、ハードディスクが完成するまでの組立作業を行う第2組立工程と、を有している。
【0069】
初期状態は、
図7に示す通り、可動軸3が保持具1の突出位置で係止され、その外周面には磁気ディスク51が装着されておらず、保持具1の軸心(正確には、スライド部9及び保持部12の軸心)上における装着側(図示する例では下側)に、保持具1に保持されていない状態の磁気ディスク51の装着孔51aの中心を位置させた状態である。ちなみに、この初期状態において、相対位置を上述した装着位置としてもよいが、それ以外の位置としてもよく、後者の場合には、埃や欠片等の異物が、ワーク50の筐体本体52内に混入することが防止できる。
【0070】
可動軸装着工程では、初期状態において、保持具1を作動機構2によって自身の軸心の方向における磁気ディスク51側(本例では、鉛直方向下側)に移動させることにより、可動軸3を、装着孔51aに挿通させ、これによって可動軸装着状態への切換を行う。
【0071】
この切換の過程において、少なくとも可動軸3を装着孔51aに挿入させる際及び挿通されている最中に、エア機器ユニット27によるエアの吸排気を実行し、上述したセンタリング作用を生じさせる。ちなみに、この可動軸装着工程において、可動軸3が、磁気ディスク51の被保持面51bが保持面18に保持させる挿通深さまで、装着孔51aに挿通される。
【0072】
また、可動軸3の外周面(正確には、軸本体22の外周面)における作用範囲22aよりもさらに先端側の範囲は、該可動軸3の先端部の端面(正確には、軸本体22の先端面)に向かってその径が次第に減少するテーパー面22dよって構成されている。このテーパー面22dによって、上述した挿通がスムーズに実行される。
【0073】
回転軸装着工程では、まず、相対位置が装着位置に切り換えられていない場合、相対位置変更機構6によって相対位置を装着位置に切り換える一方で、相対位置が装着位置に切り換えられている場合、相対位置をその位置のまま保持する。続いて、その装着孔51aの中心が軸心Z上に位置させた磁気ディスク51を保持した保持具1を、その軸心Zの方向の装着側に移動させることにより、
図1に示す状態から、
図8に示す当接状態を経て、
図9に示す挿入状態への切換を行い、回転軸側装着工程を完了させる。
【0074】
この切換の過程において、少なくとも回転軸53を装着孔51aに挿入させる際及び挿通されている最中に、エア機器ユニット27によるエアの吸排気を実行し、上述したセンタリング作用を生じさせる。
【0075】
ちなみに、この回転軸側装着工程において、回転軸53が装着孔51aに挿通された状態で、磁気ディスク51が回転軸52の外周面の所定箇所に位置する挿通深さまで、該磁気ディスク51を軸心Zの方向における装着側に移動させる。この移動過程において、センタリング作用を生じさせておくことが重要である。
【0076】
また、回転軸53の外周面における挿入側端部54の先端側の範囲は、該回転軸52の可動軸3と対向又は当接する端面に向かってその径が次第に減少するテーパー面54bよって構成されている。このテーパー面54bによって、上述した挿通がスムーズに実行される。
【0077】
上述した第1組立工程及び第2組立工程は、従来公知であるため、説明は省略する。
【0078】
以上のような構成によれば、可動軸3又は回転軸53を装着孔51aに挿通させて磁気ディスク51を可動軸3又は回転軸53に装着する際、可動軸3又は回転軸53の外周面が装着孔51aの周縁に接触することがセンタリング作用によって効率的に防止される。
【0079】
なお、本発明は、磁気ディスク51以外に光ディスク等の装着孔を有する回転体一般に適用することができる。
【0080】
また、可動軸3を、それを保持具1とは別に、その軸心Zの方向に往復移動させる可動軸側作動機構を、上述の作動機構2とは別に設け、上述の例と同様に動作をさせてもよい。この場合、可動軸側作動機構用のアクチュエータは、作動アクチュエータ33とは別に設けた方が機械的な構成が複雑化しない。
【0081】
さらに、吸排気は、制御部32による制御を行うことは必須ではなく、手動で吸排気を切り換えてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 保持具
2 作動機構
3 可動軸
4 付勢部材(圧縮コイルばね)
17 挿入穴(挿入部)
18 保持面
28 吸気機器
29 排気機器
30a 排気口
31a 吐出口
51 磁気ディスク(回転体,光ディスク)
51a 装着孔
51b 被保持面
53 回転軸
54 挿入側端部
S1 隙間
S2 隙間
S3 隙間