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特開2024-151414ラピドクリカイトの製造方法、及び、析出物
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  • 特開-ラピドクリカイトの製造方法、及び、析出物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151414
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ラピドクリカイトの製造方法、及び、析出物
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C01F11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064688
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】亀井 真之介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 利貴
(72)【発明者】
【氏名】外山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】古川 茂樹
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA14
4G076AA16
4G076AB09
4G076BA13
4G076BA43
4G076BC02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA29
(57)【要約】
【課題】新規な、ラピドクリカイトの製造方法、及び、該製造方法で得られる析出物を提供する。
【解決手段】炭酸カルシウムを希硫酸に混合し、混合液を得る混合工程と、前記混合液から析出物を析出させ、前記析出物を分取する分取工程と、を備える、ラピドクリカイトの製造方法。前記分取工程が、前記混合液を静置することを含むことが好ましく、前記混合液が透明な溶液であることが好ましく、前記炭酸カルシウムと前記希硫酸の中の硫酸との混合モル比が、0.96:1.00~1.04:1.00であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを希硫酸に混合し、混合液を得る混合工程と、
前記混合液から析出物を析出させ、前記析出物を分取する分取工程と、を備える、ラピドクリカイトの製造方法。
【請求項2】
前記分取工程が、前記混合液を静置することを含む、請求項1に記載のラピドクリカイトの製造方法。
【請求項3】
前記混合液が透明な溶液である、請求項1又は2に記載のラピドクリカイトの製造方法。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムと前記希硫酸の中の硫酸との混合モル比が、0.96:1.00~1.04:1.00である、請求項1又は2に記載のラピドクリカイトの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のラピドクリカイトの製造方法で得られる析出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラピドクリカイトの製造方法、及び、該製造方法で得られる析出物に関する。
【背景技術】
【0002】
セッコウの複塩化合物であるラピドクリカイト(Rapidcreekite、Ca(SO)(CO)・4HO)が天然にまれに発見されている(非特許文献1~4)。
現存使用されているセッコウボード(天井、壁材)は二水セッコウからなる単塩構造材料である。一方、ラピドクリカイトの結晶構造(原子配列)は,概ね、二水セッコウ構造中のCa2+イオン基とSO 2-イオン基が交互に配列した構造のうち、SO 2-イオン基を一層おきにCO 2-イオン基に交換した構造となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ANDREW C. ROBERTS, H. GARY ANSELL and IAN R. JONASSON, Canadian Mineralogist, 24 (1986) 51-54.
【非特許文献2】Bogdan P. Onac, Herta s. Effenberger, Jonathan G. Wynn, and Ioan Povara, Rapidcreekite in the sulfuric acid weathering environment of Diana Cave, Romania, American Mineralogist, 98 (2013) 1302-1309.
【非特許文献3】Margarita S. AVDONTCEVA, Andrey A. ZOLOTAREV, Sergey V. KRIVOVICHEV, Maria G. KRZHIZHANOVSKAYA, Vladimir N. BOCHAROV, Vladimir V. SHILOVSKIKH, Rapidcreekite of anthropogenic origin - ’korkinoite' from burnt mine dump in the Chelyabinsk coal basin, South Urals, Russia: CRYSTAL structure refinement, thermal behavior and spectroscopic characterization, Journal of Geosciences, 66 (2021), 147-156.
【非特許文献4】安江任、「カルシウム系素材の材料設計」、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, 13 (2006) 309-320.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単塩構造材料の二水セッコウを、高い物理的・化学的性質を示すことができると期待できる複塩化合物のラピドクリカイトに変更して用いることができれば、耐火性、耐強度性、長寿命性などがさらに優れるラピドクリカイトボードが開発できると考えられる。
しかしながら、ラピドクリカイトの人工的合成の報告は見当たらない。
【0005】
本発明は、新規な、ラピドクリカイトの製造方法、及び、該製造方法で得られる析出物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、炭酸カルシウムを希硫酸と混合した後、静置すると、間もなく析出物が生じ、該析出物をX線結晶解析したところ、主ピークが、ラピドクリカイトのX線回折(XRD)パターンシミュレーションで得られる主ピークと一致し、ラピドクリカイトの合成が可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1] 炭酸カルシウムを希硫酸に混合し、混合液を得る混合工程と、
前記混合液から析出物を析出させ、前記析出物を分取する分取工程と、を備える、ラピドクリカイトの製造方法。
[2] 前記分取工程が、前記混合液を静置することを含む、[1]に記載のラピドクリカイトの製造方法。
[3] 前記混合液が透明な溶液である、[1]又は[2]に記載のラピドクリカイトの製造方法。
[4] 前記炭酸カルシウムと前記希硫酸の中の硫酸との混合モル比が、0.96:1.00~1.04:1.00である、[1]~[3]のいずれかに記載のラピドクリカイトの製造方法。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のラピドクリカイトの製造方法で得られる析出物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な、ラピドクリカイトの製造方法、及び、該製造方法で得られる析出物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1及び2で得られた析出物のX線回折(XRD)の測定結果である。
図2】実施例で用いた炭酸カルシウム粉末のX線回折(XRD)の測定結果である。
図3】硫酸カルシウム粉末のX線回折(XRD)の測定結果である。
図4】実施例1で得られた析出物の熱重量曲線及び示唆熱曲線である。
図5】実施例1で得られた析出物の電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ラピドクリカイトの製造方法>
本発明の一実施形態に係るラピドクリカイトの製造方法は、炭酸カルシウムを希硫酸に混合し、混合液を得る混合工程と、前記混合液から析出物を析出させ、前記析出物を分取する分取工程と、を備える。
【0011】
(混合工程)
前記混合工程は、炭酸カルシウムを希硫酸に混合し、混合液を得る。
原材料として用いる炭酸カルシウムは、粉体であることが好ましい。ラピドクリカイト類似結晶構造のアラゴナイト(CaCO)であってもよく、これに限定されない。カルサイト(CaCO)であってもよく、バテライト(CaCO)であってもよい。廃棄貝殻(カルサイト,アラゴナイト)を用いることもできる。
【0012】
希硫酸の硫酸濃度は、0.010~0.200mol/Lであってよく、0.015~0.150mol/Lであってよく、0.020~0.100mol/Lであってよい。
【0013】
前記炭酸カルシウムと前記希硫酸の中の硫酸との混合モル比は、0.96:1.00~1.04:1.00であることが好ましく、0.98:1.00~1.02:1.00であることがより好ましく、0.99:1.00~1.01:1.00であることがさらに好ましい。
前記混合モル比は、前記炭酸カルシウム中のCO 2-イオンと前記希硫酸の中のSO 2-イオンとのモル比でもある。前記混合モル比を1.00:1.00に近しくなるよう調整することで、析出物中のラピドクリカイトの純度を上げることができる。
【0014】
炭酸カルシウムを希硫酸に混合することで得られる混合液は、透明な溶液であることが好ましい。透明な溶液は、前記混合モル比を上述の範囲に調整し、よく撹拌することで得られる。透明な溶液内には、実質的に、Ca2+イオン、CO 2-イオン、SO 2-イオン、及び、HOのみが存在する。このためラピドクリカイト(Ca(SO)(CO)・4HO)を簡易に析出させることができ、析出物中のラピドクリカイトの純度を上げることができる。
【0015】
混合工程の温度条件は、10~80℃が好ましく、15~60℃がより好ましく、20~40℃の範囲の常温がさらに好ましい。ここで、常温とは、特に冷やしたり熱したりしない温度をいう。
【0016】
(分取工程)
前記分取工程は、前記混合液から析出物を析出させ、前記析出物を分取する。
【0017】
前記分取工程は、前記混合液を静置することを含むことが好ましい。ここで、混合液を静置することとは、混合液を撹拌することなく、混合液の容器を静止した状態に置くことをいう。混合液を静置することにより、析出物の収率を上げることができる。
静置する時間は、0.2~20分間であってよく、0.3~10分間であってもよく、0.5~5分間であってもよく、0.8~3分間であってよい。前記混合モル比を上述の範囲に調整し、よく撹拌することで、静置する時間を短くしても、析出物の収率を上げることができる。
【0018】
前記析出物をろ過し、必要により、洗浄し、乾燥することで、複塩化合物であるラピドクリカイト(Rapidcreekite、Ca(SO)(CO)・4HO)を含む粉体を得ることができる。
【0019】
乾燥は、大気圧化であってもよく、減圧下であってもよい。
乾燥の温度条件は、20~80℃あってもよく、20~60℃あってもよく、20~40℃あってもよい。
【0020】
<析出物>
本発明の一実施形態に係る析出物は、上述の実施形態に係るラピドクリカイトの製造方法で得られるものである。
本実施形態に係る析出物は、単塩構造材料の二水セッコウに代わるインフラ材料として、実用化の可能性がある。また,混合添加による補強材として活用されている炭酸カルシウムと同じ役割の実用化の可能性がある。
【実施例0021】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
<ラピドクリカイトの人工的合成>
0.500gの炭酸カルシウム粉末(CaCO、0.0050mol、富士フイルム和光純薬株式会社製)を100mLの希硫酸(0.05mol/L、0.0050mol)に混合し、室温下で、約1分間撹拌すると、炭酸カルシウムの全てが溶解して、透明な溶液を得た。炭酸カルシウムと希硫酸の中の硫酸との混合モル比は、1.00:1.00である。室温下で約1分間静置したところ、溶液の表面に、結晶性の析出物が生じた。析出物をろ過し、さらに、析出物を大気圧下、40℃で12時間乾燥させた。析出物の質量は約1.82g(収率:約90%)であった。
【0023】
・X線回折(XRD)
乾燥後の析出物を測定試料用ホルダーに充填し、広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製、MiniflexII)にセットし、Cu/Kα線、30kV/15mA、スキャンスピード:2θ=8°/min、走査範囲:2θ=5°以上60°以下の条件で測定を行った。測定結果を図1に示す。
【0024】
図2は、実施例で用いた炭酸カルシウム粉末のX線回折(XRD)の測定結果である。
図3は、硫酸カルシウム粉末のX線回折(XRD)の測定結果である。
【0025】
図1に示される、実施例1で得られた析出物のX線回折(XRD)パターンでは、カルサイト(▲、CaCO)、アラゴナイト(★、CaCO)、及び、バテライト(●、CaCO)の不純物の小さなピークが観測されるが、4つの主ピーク(2θ=11.1°、20.2°、22.9°、28.6°)はいずれも、ラピドクリカイトのX線回折(XRD)パターンシミュレーション(ICSD♯425547)で得られる主ピークと一致した。実施例1で得られた析出物のX線回折(XRD)パターンは、炭酸カルシウムの単塩と、硫酸カルシウムの単塩と混合物は異なり、ラピドクリカイトが合成できていることが確認できた。
【0026】
・熱重量-示唆熱分析
乾燥後の析出物について、熱分析測定装置(熱分析計TG/DTA同時測定装置 DTG-60、株式会社島津製作所製)を用い、測定試料とほぼ同量のアルミナ粒子を参照試料として大気雰囲気下、昇温速度10℃/分で20℃から1000℃まで測定し、熱重量曲線及び示唆熱曲線を求めた。結果を図4に示す。
【0027】
・電子顕微鏡観察
乾燥後の析出物について、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で撮影した。FE-SEMの画像を図5に示す。
二水セッコウに類似する形状の板状結晶が観察された。平均粒子径はおよそ30~100μm、アスペクト比はおよそ1:3であった。
【0028】
・エネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素分析
乾燥後の析出物について、エネルギー分散型X線分光法(EDS)によりEDS像を測定した。
一様に、ラピドクリカイト(Ca(SO)(CO)・4HO)を構成する、Ca、C、O、Sの、4種の元素が検出された。
【0029】
[実施例2]
<ラピドクリカイトの人工的合成>
実施例1と同じく、0.500gの炭酸カルシウム粉末(CaCO、0.0050mol)を100mLの希硫酸(0.05mol/L、0.0050mol)に混合し、室温下で、約1分間撹拌して、透明な溶液を得た。炭酸カルシウムと希硫酸の中の硫酸との混合モル比は、1.00:1.00である。室温下で約1分間静置したところ析出物が生じた。析出物をろ過し、さらに、析出物を51℃で、12時間真空乾燥させた(ゲージ圧:-90kPa)。
51℃で真空乾燥後の析出物のX線回折(XRD)の測定結果を図1に示す。
主ピークはいずれも、ラピドクリカイトのX線回折(XRD)パターンシミュレーション(ICSD♯425547)で得られる主ピークと一致し、ラピドクリカイトが合成できていることが確認できた。ただし、得られた回折ピーク強度が小さく、結晶性が低い。20~30°のふくらみは、ラピドクリカイトの結晶性が低いために、石英セルのバックグラウンドピークが残ったものと思われる。
【0030】
[比較例1]
0.525gの炭酸カルシウム粉末(CaCO、0.00525mol)を100mLの希硫酸(0.05mol/L、0.0050mol)に混合し、室温下で、約1分間撹拌して、透明な溶液を得た。炭酸カルシウムと希硫酸の中の硫酸との混合モル比は、1.05:1.00である。室温下で静置したところ析出物が生じなかった。
【0031】
以上の結果から、炭酸カルシウムを希硫酸に混合し、混合液を得る工程と、混合液を静置し、析出物を分取する工程と、を経ることで、ラピドクリカイトが合成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のラピドクリカイトの製造方法により、多量のラピドクリカイトを、簡易に、人工的に合成できる。これにより、単塩構造材料の二水セッコウに代わるインフラ材料として、実用化の可能性がある。また,混合添加による補強材として活用されている炭酸カルシウムと同じ役割の実用化の可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5