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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151423
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】尿素の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 273/04 20060101AFI20241018BHJP
   C07C 275/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07C273/04
C07C275/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064707
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(72)【発明者】
【氏名】柳川 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 保彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 恵二
(72)【発明者】
【氏名】河田 将伍
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC57
4H006AD18
4H006BD10
4H006BD84
4H006BE14
4H006BE41
(57)【要約】
【課題】尿素合成率が比較的高く、エネルギー消費量が比較的少ない尿素の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を含むガス10を、吸収液であるリーン液20に吸収分離させてリッチ液11を得る二酸化炭素分離工程、このリッチ液11をストリッピングすることによって、高濃度の二酸化炭素を含むガス21を得るリッチ液ストリッピング工程、このガス21を用いてカーバメート液25を得る高圧吸収工程及びこのカーバメート液25を原料の一部として用いる尿素合成工程を有する尿素の製造方法;並びに、これら工程を行う為の二酸化炭素分離設備(CO-AB)、リッチ液ストリッピング設備(RST)、高圧吸収設備(HA)及び尿素合成設備(R)を有する尿素の製造装置。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る二酸化炭素分離工程、
前記二酸化炭素分離工程で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、該リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とするリッチ液ストリッピング工程、
前記リッチ液ストリッピング工程で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る高圧吸収工程、及び、
前記高圧吸収工程で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る尿素合成工程
を有する尿素の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素分離工程で得たリッチ液のうち、リッチ液ストリッピング工程においてストリッピングするリッチ液以外の少なくとも一部のリッチ液から、高純度の二酸化炭素ガスを分離する再生工程をさらに有し、
尿素合成工程において、前記高純度の二酸化炭素ガスも併せて原料の一部として用い、尿素合成液を得る請求項1に記載の尿素の製造方法。
【請求項3】
尿素合成工程で得た尿素合成液から二酸化炭素とアンモニアを含む分離ガスを分離し、この分離後の精製尿素水溶液を得る分離・精製工程、並びに、該精製尿素水溶液から水と微量存在するアンモニア及び二酸化炭素とを蒸発させて濃縮尿素液を得、蒸発させた水、アンモニア、二酸化炭素及び蒸発ガスに同伴する尿素を水溶液として回収し、余剰な水は処理してクリーン処理水を得る濃縮工程をさらに有し、
高圧吸収工程において、分離・精製工程で分離した分離ガスに対して濃縮工程で分離した水溶液の一部を吸収溶媒として作用させ、得られたカーバメート液を尿素合成原料の一部として用いる請求項1に記載の尿素の製造方法。
【請求項4】
二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る為の二酸化炭素分離設備(CO-AB)、
前記二酸化炭素分離設備(CO-AB)で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、該リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とする為のリッチ液ストリッピング設備(RST)、
前記リッチ液ストリッピング設備(RST)で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る為の高圧吸収設備(HA)、及び、
前記高圧吸収設備(HA)で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る尿素合成設備(R)
を有する尿素の製造装置。
【請求項5】
二酸化炭素分離設備(CO-AB)で得たリッチ液のうち、リッチ液ストリッピング設備(RST)においてストリッピングするリッチ液以外の少なくとも一部のリッチ液から、高純度の二酸化炭素ガスを分離する再生設備(CO-D)をさらに有し、
尿素合成設備(R)において、前記高純度の二酸化炭素ガスも併せて原料の一部として用い、尿素合成液を得る請求項4に記載の尿素の製造装置。
【請求項6】
尿素合成設備(R)で得た尿素合成液から二酸化炭素とアンモニアを含む分離ガスを分離し、この分離後の精製尿素水溶液を得る分離・精製設備(D)、並びに、該精製尿素水溶液から水と微量存在するアンモニア及び二酸化炭素とを蒸発させて濃縮尿素液を得、蒸発させた水、アンモニア、二酸化炭素及び蒸発ガスに同伴する尿素を水溶液として回収し、余剰な水は処理してクリーン処理水を得る濃縮設備(EV)をさらに有し、
高圧吸収設備(HA)において、分離・精製設備(D)で分離した分離ガスに対して濃縮設備(EV)で分離した水溶液の一部を吸収溶媒として作用させ、得られたカーバメート液を尿素合成原料の一部として用いる請求項4に記載の尿素の製造装置。
【請求項7】
既存の尿素の製造装置の改良方法であって、
既存の尿素の製造装置に対して、少なくとも、
二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る為の設備である二酸化炭素分離設備(CO-AB)と、
高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、該リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とする為の設備であるリッチ液ストリッピング設備(RST)を追加することにより、
二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る二酸化炭素分離工程、
前記二酸化炭素分離工程で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、前記リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とするリッチ液ストリッピング工程、
前記リッチ液ストリッピング工程で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る高圧吸収工程、及び、
前記高圧吸収工程で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る尿素合成工程
を有する尿素の製造方法を可能とする、既存の尿素の製造装置の改良方法。
【請求項8】
二酸化炭素分離設備(CO-AB)で得たリッチ液のうち、リッチ液ストリッピング設備(RST)においてストリッピングするリッチ液以外の少なくとも一部のリッチ液から、高純度の二酸化炭素ガスを分離する再生設備(CO-D)をさらに追加することにより、
二酸化炭素分離工程で得たリッチ液のうち、リッチ液ストリッピング工程においてストリッピングするリッチ液以外の少なくとも一部のリッチ液から、高純度の二酸化炭素ガスを分離する再生工程、及び、
尿素合成工程において、前記高純度の二酸化炭素ガスも併せて原料の一部として用い、尿素合成液を得ることを可能とする、請求項7に記載の既存の尿素の製造装置の改良方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素合成率が比較的高く、エネルギー消費量が比較的少ない尿素の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気ガスから二酸化炭素を吸収分離する為の様々な技術が知られている。例えばその技術の一つとして、排気ガスをアンモニア水(吸収液)に接触させることによって、排気ガスに含まれている二酸化炭素をアンモニア水に吸収分離させる方法がある。そしてこの吸収分離によって、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液(リッチ液)が生成する。
【0003】
一方、尿素合成プロセスにおいては、通常、二酸化炭素及びアンモニアを高温高圧下で反応させて尿素合成液を得る。このような尿素合成プロセスにおいて、上述した二酸化炭素を吸収した後の吸収液(リッチ液)を、尿素合成の原料の一部として利用する方法が知られている。特許文献1にはそのような方法が記載されている。具体的には、特許文献1においては、アンモニア製造プラントと尿素製造プラントを統合し、アンモニア製造プラントにおける燃焼により生じた排気ガス中の二酸化炭素をアンモニア水(吸収液)に吸収させて、そのリッチ液を尿素合成の原料の一部として利用する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1の図1においては、アンモニア製造プラント1における燃焼により生じた排気ガス流5がCAP吸収塔10に供給される。また、混合流11(二酸化炭素の濃度が低い吸収液であるリーン液流24に対してアンモニア製造プラント1で製造されたアンモニア流9を混合した液)もCAP吸収塔10に供給される。そして、このCAP吸収塔10において、排気ガス流5中の二酸化炭素が、混合流11の溶液(吸収液)に吸収分離される。二酸化炭素を吸収した後の溶液(高濃度の二酸化炭素を含むリッチ液流13)は、尿素合成セクション15に供給される。また、アンモニア製造プラント1で製造したアンモニア流8、並びに、アンモニア製造プラント1で生成した合成ガスから分離された二酸化炭素流7も尿素合成セクション15に供給される。そして、これらが尿素合成の原料として使用される。
【0005】
特許文献1の図2においては、排気ガス流25がスチーム改質器14から低圧吸収塔29に供給される。また、リーン液流42も低圧吸収塔29に供給される。そして、この低圧吸収塔29において、排気ガス流25中の二酸化炭素が、リーン液流42の溶液(吸収液)に吸収分離される。二酸化炭素を吸収した後のリーン液流42の溶液(比較的高濃度の二酸化炭素を含むセミリッチ溶媒流30)の部分流31は尿素製造プラント38に供給され、他の部分流はリーン液流42の部分流32と共に高圧吸収塔33に供給される。また、水素/二酸化炭素流28も高圧吸収塔33に供給される。そして、この高圧吸収塔33において、水素/二酸化炭素流28中の二酸化炭素が、セミリッチ溶媒流30の部分流及びリーン液流42の混合溶液(吸収液)に吸収分離される。二酸化炭素を吸収した後の混合溶液の一部であるリッチ液流37は、尿素製造プラント38に供給される。アンモニア生成ユニット41で生成したアンモニア流43も、尿素製造プラント38に供給される。そして、これらが尿素合成の原料として使用される。
【0006】
特許文献1の図3においては、図2に示される高圧吸収塔33と尿素製造プラント38の間に再生塔44が追加されている。高圧吸収塔33で二酸化炭素を吸収した後の混合溶液の一部であるリッチ液流37は再生塔44に供給される。再生塔44においては、リッチ液流37の溶液から二酸化炭素が分離精製され、高純度の二酸化炭素が得られる。この高純度の二酸化炭素流45は、尿素製造プラント38に供給される。アンモニア生成ユニット41で生成したアンモニア流43も尿素製造プラント38に供給される。そして、これらが尿素合成の原料として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第9428449号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、尿素合成の際に水が多量に存在する場合、水は反応平衡上、尿素合成を阻害するため、尿素合成率が著しく低下することが知られている(例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Fifth, Completely Revised Edition, 1996, Vol. A27, "Urea" p. 333-365 を参照)。したがって尿素合成率の点から、尿素合成における水の量はある程度少ないことが必要である。その水の量の目安として、通常、水と二酸化炭素のモル比H/C(水/二酸化炭素)が使用される。具体的には、尿素合成におけるH/Cは1.5未満の低いモル比であることが望ましい。
【0009】
一方、二酸化炭素に対する吸収液としてアンモニア水を使用する場合は、たとえ二酸化炭素を吸収した後のリッチ液であっても多量の水を含んでいる。例えば、特許文献1に記載のリッチ液中のアンモニアの濃度は2~12mol/L(約3~12質量%)、二酸化炭素の濃度は1~10mol/L(約4~27質量%)であり、これらの質量比から水の濃度は約56mol/L(約61~93質量%)と推定される。
【0010】
そして特許文献1の図2に記載の方法において、尿素製造プラント38への二酸化炭素の供給源はリッチ液(セミリッチ溶媒流30の部分流31及びリッチ液流37)のみである。したがって、リッチ液に含まれる水分(リッチ液組成として約56mol/L[約61~93質量%])の共存下で尿素を合成する場合のH/Cは約4.1と推定され、尿素合成率は著しく低下すると推定される。
【0011】
一方、特許文献1の図1に記載の方法においては、尿素合成セクション15への二酸化炭素の供給源として、二酸化炭素流7だけでなく、約56mol/L(約61~93質量%)の水を含むリッチ液流13も使用されている。したがって、図1の尿素合成におけるH/Cは、二酸化炭素流7及びリッチ液流13中の二酸化炭素の合計量に対する水のモル比として計算されるので、二酸化炭素流7のみを二酸化炭素源とする一般的な尿素合成におけるH/Cよりも高いモル比になる。したがって、特許文献1の図1に記載の方法は、一般的な尿素合成法よりも尿素合成率が低いと推定される。
【0012】
以上説明したとおり、特許文献1の図1及び図2に記載の各方法は、何れも尿素合成率が非常に低いと推定される。なお、この各方法のような低い合成率で尿素の工業的製造を行う場合は、未反応物質の分解及び分離のために、尿素プラントの各機器を非常に大きくすることが必要であり、エネルギー消費量が極端に増加してしまう。
【0013】
一方、特許文献1の図3に記載の方法においては、多量の水を含むリッチ液をそのまま尿素合成の原料として使用するのではなく、再生塔44においてリッチ液流37から分離精製した高純度の二酸化炭素流45も尿素製造プラント38に供給する。したがって、図3の尿素合成におけるH/Cは、図1及び図2の尿素合成におけるH/Cよりも低いと推定される。一方、二酸化炭素流45の圧力は、特許文献1には明記されていないが、通常は約2MPaGと推測される(例えば、Energy Procedia, 114, "Chilled Ammonia Process Scale-up and Lessons Learned" 2017 p. 5593-5615 を参照。特に5615頁に「Regenerator operates at 19.5 bar g」という記載が有る。19.5 bar gは約 2 MPaGである。)。このような二酸化炭素流を約15MPaGの高い圧力で運転される一般的な尿素合成設備へ導入するには、CO圧縮機が必要となる。したがって、二酸化炭素をリッチ液状態とガス状態で尿素合成セクション15へ送る図1に記載の方法及び二酸化炭素全量をリッチ液状態で尿素製造プラント38へ送る図2に記載の方法と比較して、二酸化炭素をガス状態でのみ尿素製造プラント38へ送る図3に記載の方法のCO圧縮機の圧縮動力は増大する。
【0014】
すなわち本発明の目的は、尿素合成率が比較的高く、エネルギー消費量が比較的少ない尿素の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、リッチ液をストリッピングして高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、このガスを用いてカーバメート液を生成し、このカーバメート液を尿素合成の原料の一部として用いることが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る二酸化炭素分離工程、
前記二酸化炭素分離工程で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、該リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とするリッチ液ストリッピング工程、
前記リッチ液ストリッピング工程で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る高圧吸収工程、及び、
前記高圧吸収工程で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る尿素合成工程
を有する尿素の製造方法である。
【0017】
さらに本発明は、二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る為の二酸化炭素分離設備(CO-AB)、
前記二酸化炭素分離設備(CO-AB)で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、該リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とする為のリッチ液ストリッピング設備(RST)、
前記リッチ液ストリッピング設備(RST)で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る為の高圧吸収設備(HA)、及び、
前記高圧吸収設備(HA)で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る尿素合成設備(R)
を有する尿素の製造装置である。
【0018】
さらに本発明は、
既存の尿素の製造装置の改良方法であって、
既存の尿素の製造装置に対して、少なくとも、
二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る為の設備である二酸化炭素分離設備(CO-AB)と、
高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、該リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とする為の設備であるリッチ液ストリッピング設備(RST)を追加することにより、
二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、該ガスに含まれている二酸化炭素を該リーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る二酸化炭素分離工程、
前記二酸化炭素分離工程で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、前記リッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とするリッチ液ストリッピング工程、
前記リッチ液ストリッピング工程で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る高圧吸収工程、及び、
前記高圧吸収工程で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る尿素合成工程
を有する尿素の製造方法を可能とする、既存の尿素の製造装置の改良方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の尿素の製造方法においては、二酸化炭素分離工程で得たリッチ液をそのまま尿素合成の原料として使用するのではなく、リッチ液ストリッピング工程においてこのリッチ液から高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、さらに高圧吸収工程においてこのガスを用いてカーバメート液を得る。そして、このカーバメート液を尿素合成の原料の一部として用いる。
【0020】
その結果、本発明の尿素の製造方法は、多量の水を含むリッチ液をそのまま尿素合成の原料として使用する場合(特許文献1の図1及び図2)と比較して、尿素合成におけるH/Cが低く、尿素合成率が高くなる。また尿素合成率が高いので未反応物質が少なくなり、尿素プラントの各機器を大きくしなくても未反応物質を十分分解又は分離でき、工業的製造が可能であり、エネルギー消費量を増加させる必要が無い。
【0021】
さらに、本発明の尿素の製造方法は、リッチ液から高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、このガスを用いてカーバメート液を得て、このカーバメート液を尿素合成の原料の一部として用いるので、尿素合成の二酸化炭素の供給源としてリッチ液から分離精製した高純度の二酸化炭素を併せて原料として用いる場合であっても、その高純度の二酸化炭素の量は比較的少なくても構わない。したがって、本発明の尿素の製造方法は、尿素合成の二酸化炭素の供給源としてリッチ液から分離精製した高純度の二酸化炭素のみを用いる場合(特許文献1の図3)と比較して、エネルギー消費量が少ない。例えば、高純度の二酸化炭素の量が比較的少ない場合は、これを尿素合成設備へ導入する為に必要なCO圧縮機の圧縮動力は減少する。また、この高純度の二酸化炭素を使用しない場合は、CO圧縮機が不要になる。
【0022】
したがって、本発明によれば、尿素合成率が比較的高く、エネルギー消費量が比較的少ない尿素の製造方法及び製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の方法の一実施形態を示すプロセスフロー図である。
図2】本発明の方法の他の一実施形態を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<二酸化炭素分離工程>
本発明において、二酸化炭素分離工程は、二酸化炭素を含むガスを、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリーン液に接触させることによって、このガスに含まれている二酸化炭素をリーン液に吸収分離させて、高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であるリッチ液を得る工程である。また、二酸化炭素分離設備(CO-AB)は、この二酸化炭素分離工程を行う為の設備である。
【0025】
二酸化炭素分離工程において使用する二酸化炭素を含むガスの種類は特に限定されない。例えば工場や発電所等の設備の燃焼プロセスで発生する排気ガスには、通常、多量の二酸化炭素が含まれている。本発明においては、二酸化炭素を含むガスとしてそのような排気ガスを使用し、排気ガス中の二酸化炭素を分離して尿素合成の原料の一部として利用することが環境保護の点から好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。必要に応じてその他のガスを、二酸化炭素を含むガスとして使用しても良い。
【0026】
二酸化炭素分離工程においては、上述したガスに含まれている二酸化炭素をリーン液に吸収分離させてリッチ液を得る。リーン液は、低濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液であり、適度な温度及び圧力下においてガスに含まれている二酸化炭素を吸収分離することが可能な液(アンモニア含有水溶液)である。このリーン液が二酸化炭素を吸収することによって、二酸化炭素の濃度が高くなったリッチ液(高濃度の二酸化炭素、アンモニア及び水を含む吸収液)になる。
【0027】
二酸化炭素分離工程において使用するリーン液の組成は特に限定されない。ガス中の二酸化炭素を吸収することが可能な組成であれば良い。例えば、特許文献1に記載の通り、リーン液中の二酸化炭素の濃度は、通常0.2~4.0mol/L(約1~13質量%)であり、アンモニアの濃度は、通常2~12mol/L(約3~15質量%)であり、アンモニアと二酸化炭素の濃度比は、通常1:1~3:1である。
【0028】
二酸化炭素分離工程における温度及び圧力は、特に限定されない。アンモニアを含む吸収液を用いてガス中の二酸化炭素を吸収する方法における公知の温度及び圧力を適用すれば良い。例えば、特許文献1に記載の通り、二酸化炭素分離工程における温度は、通常0~25℃、圧力は、通常0~2.5MPaGである。
【0029】
二酸化炭素分離工程において得られるリッチ液の組成は特に限定されない。二酸化炭素分離工程において所望の量の二酸化炭素を吸収した後の組成であれば良い。例えば、特許文献1に記載の通り、リッチ液中の二酸化炭素の濃度は、通常1.0~10mol/L(約4~27質量%)であり、アンモニアの濃度は、通常2~12mol/L(約3~12質量%)であり、アンモニアと二酸化炭素の濃度比は、通常1:1~3:1である。
【0030】
二酸化炭素分離工程において得たリッチ液の少なくとも一部は、後述するリッチ液ストリッピング工程において処理する。このリッチ液の他の一部を、後述する再生工程で処理しても良い。
【0031】
二酸化炭素分離工程において、二酸化炭素が吸収分離された後のガス(例えばクリーンガス)は系外へ排出しても良い。また、このガスに含まれる少量のアンモニアを回収・再生し、リーン液や尿素合成の原料の一部として再利用しても良い。
【0032】
二酸化炭素分離設備(CO-AB)として使用する設備の種類は、特に限定されない。例えば、吸収液(例えばアンモニア水)を使用してガス中の二酸化炭素を吸収する為の公知の設備を使用できる。特許文献1に記載の吸収塔を使用しても良い。
【0033】
<リッチ液ストリッピング工程>
本発明において、リッチ液ストリッピング工程は、
二酸化炭素分離工程で得たリッチ液の少なくとも一部をストリッピングすることによって、二酸化炭素を優先的にガス化して高濃度の二酸化炭素を含むガスを分離し、このリッチ液を低濃度の二酸化炭素及びアンモニアを含む水溶液とする工程である。また、リッチ液ストリッピング設備(RST)は、このリッチ液ストリッピング工程を行う為の設備である。
【0034】
リッチ液ストリッピング工程において、ストリッピングとは、リッチ液を適度な圧力下で適度な温度に加熱することによってリッチ液に含まれる二酸化炭素を優先的にガス化して分離し、リッチ液を二酸化炭素の濃度が低い水溶液の状態に戻すことを意味する。このストリッピングによって得られるガスは、高濃度の二酸化炭素と、比較的低濃度のアンモニア及び水(水蒸気)を含む。二酸化炭素はアンモニア及び水よりも沸点が低く、アンモニアは水よりも沸点が低い。したがって、ストリッピングにおける温度等の条件を調整することによって、上記のガスが得られる。
【0035】
リッチ液ストリッピング工程における温度及び圧力は、特に限定されない。吸収液(例えばアンモニア水)中の二酸化炭素等の成分をガス化して分離する方法における公知の温度及び圧力を適用すれば良い。ただし、リッチ液ストリッピング工程における温度は、好ましくは100~230℃、より好ましくは130~210℃であり、圧力は、好ましくは1~16MPaG、より好ましくは1~2.5MPaGである。特に圧力は、後述する高圧吸収工程における圧力と同程度の圧力であることが後工程との関連性の点で好ましい。
【0036】
リッチ液ストリッピング工程において得られるガスの組成は、特に限定されない。後述する高圧吸収工程においてそのガスを高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得ることができる組成であれば良い。ただし、ガス中の二酸化炭素の濃度は、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%であり、アンモニアの濃度は、例えば0~25質量%である。
【0037】
リッチ液ストリッピング工程において得られる水溶液の組成は特に限定されない。この水溶液をそのままリーン液として使用しても良いし、この水溶液とリッチ液の一部を混合した液をリーン液として使用しても良い。例えば、特許文献1に記載の通り、リーン液中の二酸化炭素の濃度は、通常0.2~4.0mol/L(約1~13質量%)、アンモニアの濃度は、通常2~12mol/L(約3~15質量%)であり、アンモニアと二酸化炭素の濃度比は、通常1:1~3:1である。このリーン液は、先に述べた二酸化炭素分離設備(CO-AB)において再使用することが好ましい。また、二酸化炭素を分離するリーン液としての最適な組成とする為に、この水溶液にアンモニア及び/又は水を添加してあらかじめ濃度を調整することも好ましい。
【0038】
リッチ液ストリッピング設備(RST)として使用する設備の種類は、特に限定されない。例えば、溶液中の成分をストリッピングにより分離する為の公知の設備を使用できる。
【0039】
<高圧吸収工程>
本発明において、高圧吸収工程は、リッチ液ストリッピング工程で分離したガスの少なくとも一部を、高圧下でアンモニアと接触させることによって、カーバメート液を得る工程である。また、高圧吸収設備(HA)は、この高圧吸収工程を行う為の設備である。
【0040】
このように、高濃度の二酸化炭素を含むガスに対して別途供給したアンモニアを高圧下で接触させると、尿素合成反応における中間体であるカーバメートが生成する。このカーバメートを含む溶液(カーバメート液)を、後述する尿素合成工程において尿素合成の原料の一部として使用すれば、特許文献1の方法と比較して、尿素合成率が比較的高く、エネルギー消費量が比較的少ない尿素の製造が可能になる。
【0041】
高圧吸収工程において、別途供給するアンモニアの量は特に限定されない。高圧下でカーバメートが生成する程度の量であれば良い。ただし、そのアンモニアの量は、カーバメート液中のアンモニアと二酸化炭素のモル比N/C(アンモニア/二酸化炭素)が2.0~3.0となるよう供給することが好ましい。
【0042】
高圧吸収工程における圧力は、生成したカーバメート液の蒸気圧より高い圧力であれば良い。その圧力は、好ましくは1.0~10MPaG、より好ましくは1.4~2.0MPaGである。高圧吸収工程における温度は特に限定されない。カーバメートが生成する温度であれば良い。ただし、その温度は、好ましくは90~180℃、より好ましくは90~120℃である。
【0043】
高圧吸収工程において得られるカーバメート液の組成は、特に限定されないが、通常、二酸化炭素、アンモニア及び水を含む。カーバメート液中の二酸化炭素の濃度は、好ましくは20~50質量%、アンモニアの濃度は、好ましくは20~60質量%である。なお、この二酸化炭素の濃度及びアンモニアの濃度は、カーバメートを構成する二酸化炭素及びアンモニアと、未反応の二酸化炭素及びアンモニアとの各々の合算量についての濃度である。
【0044】
さらに、この高圧吸収工程においては、例えば、後述する分離・精製工程で分離した分離ガス、及び、後述する濃縮工程で分離した水溶液も、カーバメート液を得る為の原料の一部として併用することが好ましい。
【0045】
高圧吸収設備(HA)として使用する設備の種類は、特に限定されない。例えば、高圧下でカーバメート液を生成する為の公知の設備を使用できる。また、高圧吸収設備(HA)で発生する吸収熱の少なくとも一部を、二酸化炭素分離設備(CO-AB)で必要とされる低温を作り出すための吸収冷凍装置に使用することもできる。
【0046】
<尿素合成工程>
本発明において尿素合成工程は、高圧吸収工程で得たカーバメート液を原料の一部として用い、尿素合成液を得る工程である。また、尿素合成設備(R)は、この尿素合成工程を行う為の設備である。
【0047】
尿素合成工程においては、少なくともカーバメート液に含まれる成分(カーバメート、二酸化炭素及びアンモニア等)を原料とし、さらに必要に応じて別途供給する二酸化炭素及び/又はアンモニアも原料として反応させる。また、そのような合成反応を直接行う反応器だけでなく、さらに、例えば特開平10-182587号公報や特開2002-145850号公報に記載のような公知の凝縮器(カーバメートコンデンサー)や公知のストリッパーを併せて尿素合成工程に使用することが好ましい。
【0048】
尿素合成工程においては、多量の水を含むリッチ液は使用しないので、リッチ液をそのまま尿素合成の原料として使用する場合と比較して、尿素合成における水と二酸化炭素のモル比H/Cが低く、尿素合成率が高くなる。具体的には、そのH/Cは、好ましくは1.5以下である。また、尿素合成におけるアンモニアと二酸化炭素とのモル比N/C(アンモニア/二酸化炭素)は、好ましくは3.0~4.0である。
【0049】
尿素合成工程における尿素合成の温度及び圧力は、特に限定されない。尿素合成反応における公知の温度及び圧力を適用すれば良い。ただし、尿素合成の温度は、好ましくは170~200℃であり、圧力は、好ましくは13~25MPaGである。
【0050】
尿素合成工程において得られる尿素合成液(後述する分解・精製工程で処理する液)の組成は、特に限定されないが、通常、尿素、未反応の二酸化炭素、未反応のアンモニア及び水を含む。尿素合成液中の尿素の量は、好ましくは40~60質量%であり、二酸化炭素の量は、好ましくは0~20質量%であり、アンモニアの量は、好ましくは10~30質量%であり、水の量は、好ましくは20~30質量%である。
【0051】
尿素合成設備(R)として使用する設備の種類は、特に限定されない。例えば、高圧下で尿素合成する為の公知の設備を使用できる。さらに、先に述べたような凝縮器(カーバメートコンデンサー)やストリッパーを併せて使用することが好ましい。
【0052】
本発明においては、尿素合成工程で得た尿素合成液を、例えば以下に説明する分解・精製工程、濃縮工程などの所望の工程を経て製品尿素とすることが好ましい。
【0053】
<分解・精製工程>
分解・精製工程は、尿素合成工程で得た尿素合成液から二酸化炭素とアンモニアを含む分離ガスを分離し、この分離後の精製尿素水溶液を得る工程である。また、分解・精製設備(D)は、この分解・精製工程を行う為の設備である。
【0054】
先に述べたように、この分離・精製工程で分離した分離ガスに対して、後述する濃縮工程で分離した水溶液の一部を吸収溶媒として作用させ、高圧吸収工程においてカーバメート液を得る為の原料の一部として併用することが好ましい。
【0055】
分解・精製工程における条件や設備は、例えば尿素合成の後工程として公知の分解・精製条件や設備を使用できる。
【0056】
<濃縮工程>
濃縮工程は、分離・精製工程で得た精製尿素水溶液から、水と微量存在するアンモニア及び二酸化炭素とを蒸発させて濃縮尿素液を得、蒸発させた水、アンモニア、二酸化炭素及び蒸発ガスに同伴する尿素を水溶液として回収し、余剰な水は処理してクリーン処理水を得る工程である。また、濃縮設備(EV)は、この濃縮工程を行う為の設備である。
【0057】
先に述べたように、この濃縮工程で分離・回収した水溶液(リサイクル液)の一部を、分離・精製工程で分離した分離ガスに対して吸収溶媒として作用させ、高圧吸収工程においてカーバメート液を得る為の原料の一部として併用することが好ましい。
【0058】
濃縮工程における条件や設備は、例えば尿素合成の後工程として公知の濃縮条件や設備を使用できる。
【0059】
本発明においては、例えば以下に説明する再生工程において、一部のリッチ液から高純度の二酸化炭素ガスを分離し、これも尿素合成の原料の一部として併用することが好ましい。この場合、尿素合成におけるH/Cをさらに低減し、尿素合成率をさらに高めることができる。
【0060】
<再生工程>
再生工程は、二酸化炭素分離工程で得たリッチ液のうち、リッチ液ストリッピング工程においてストリッピングするリッチ液以外の少なくとも一部のリッチ液から、高純度の二酸化炭素ガスを分離する工程である。また、再生設備(CO-D)は、この再生工程を行う為の設備である。
【0061】
再生工程においては、例えば、蒸留やストリッピング等の公知の分離法によってリッチ液から二酸化炭素を含むガスを分離する。さらに、そのガス中の二酸化炭素に微量のアンモニアが含まれる場合は、例えば水洗等の精製法によってガス中のアンモニアを除去する。その結果、高純度の二酸化炭素ガスが得られる。そして、尿素合成工程において、この高純度の二酸化炭素ガスも併せて原料の一部として用いる。高純度の二酸化炭素ガスも併せて原料の一部として用いる場合は、ガス圧縮時に二酸化炭素とアンモニアの固体化合物の生成・付着による圧縮機のトラブルを防止出来る。また本発明においては、尿素合成工程に対する二酸化炭素の供給源として、高純度の二酸化炭素ガスだけを用いるのでなく、リッチ液から分離したガスから得たカーバメート液も用いる。したがって、高純度の二酸化炭素の量が少なくても構わないので、二酸化炭素の供給源として高純度の二酸化炭素ガスのみを使用する従来法と比較して、CO圧縮機の圧縮動力が減少する。
【0062】
再生工程における条件や設備は、例えばリッチ液から、高純度の二酸化炭素ガスを分離する為の公知の精製条件や設備を使用できる。特許文献1に記載の再生塔を使用しても良い。また、尿素プラント内から回収した熱の一部を再生工程の熱源として使用することもできる。
【0063】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の方法の一実施形態を示すプロセスフロー図である。
【0064】
図1に示す装置は、二酸化炭素分離設備1と尿素プラント2を有する。そして、二酸化炭素分離設備1は、二酸化炭素分離設備(CO-AB)としての二酸化炭素吸収塔(CO2 Absorber)を有する。尿素プラント2は、リッチ液ストリッピング設備(RST)としてのリッチ液ストリッパー(Rich Solution Stripper)、高圧吸収設備(HA)としての高圧吸収塔(High Pressure Absorber)、尿素合成設備(R)[少なくとも反応器(Reactor)を有し、凝縮器及びストリッパーを含んでいても良い]、分解・精製設備(D)としての分解器(Decomposer)、及び、濃縮設備(EV)としての蒸発器(Evaporator)を有する。
【0065】
図1においては、排気ガス10を、二酸化炭素吸収塔[二酸化炭素分離設備(CO-AB)]に供給する。また、リッチ液ストリッパー[リッチ液ストリッピング設備(RST)]からのリーン液20を供給する。そして、二酸化炭素吸収塔[二酸化炭素分離設備(CO-AB)]において排気ガス10とリーン液20を接触させることによって、二酸化炭素を吸収したリッチ液11と二酸化炭素が除かれたクリーンガス12を生成する。生成したリッチ液11は、リッチ液ストリッパー[リッチ液ストリッピング設備(RST)]に供給する。一方、生成したクリーンガス12は、系外に排出する、または、更なる洗浄工程を経て系外へ排出する。
【0066】
図1に示すリッチ液ストリッパー[リッチ液ストリッピング設備(RST)]において、リッチ液11をストリッピングして、リーン液20とガス21を生成する。リーン液20は、二酸化炭素吸収塔[二酸化炭素分離設備(CO-AB)]に戻して再使用する。あらかじめ戻す前にこのリーン液20にはアンモニア22及び水13を各々添加してリーン液20の濃度を調整する。
【0067】
図1に示す高圧吸収塔[高圧吸収塔設備(HA)]には、ガス21と、アンモニア22と、分解・精製設備Dで分離された二酸化炭素、アンモニア及び水を含む分離ガス23と、濃縮設備EVからのリサイクル液24を供給する。そして、高圧下でカーバメート液25を生成する。生成したカーバメート液25は、反応器[尿素合成設備(R)]に供給する。
【0068】
図1に示す反応器[尿素合成設備(R)]には、カーバメート液25と、アンモニア22を供給する。これらを原料として尿素を合成し、尿素合成液26を生成する。この尿素合成液26は、分解器[分解・精製設備(D)]に供給する。
【0069】
図1に示す分解器[分解・精製設備(D)]においては、尿素合成液26からアンモニア、二酸化炭素及び水を含む分離ガス23を分離し、尿素水溶液27とする。この尿素水溶液27は蒸発器[濃縮設備(EV)]に供給し、分離ガス23は、高圧吸収塔[高圧吸収塔設備(HA)]に供給する。
【0070】
図1に示す蒸発器[濃縮設備(EV)]においては、尿素水溶液27を濃縮して、尿素製品28と処理水29を生成する。この尿素製品28及び処理水29は後工程に供給する。
【0071】
図2は本発明の方法の他の一実施形態を示すプロセスフロー図である。図2に示す装置は、図1に示す装置の、二酸化炭素分離設備1に再生設備(CO-D)としての再生塔(CO2 Desorber)が追加されている。再生塔から得たCOガスは圧縮された後、尿素合成設備(R)へ送られる。
【0072】
<尿素の製造装置の改良方法>
本発明においては、既存の尿素の製造装置に対して、少なくともリッチ液ストリッピング設備(RST)[及び必要に応じて二酸化炭素分離設備(CO-AB)]を追加することにより、本発明の方法、すなわち、以上説明した二酸化炭素分離工程、リッチ液ストリッピング工程、高圧吸収工程及び尿素合成工程を有する尿素の製造方法を可能とする改良を行っても良い。
【0073】
この改良方法の実施形態としては、例えば、特許文献1の図1に記載の装置(アンモニア製造プラントと尿素製造プラントを統合した装置)に対して、リッチ液ストリッピング設備(RST)を追加し、また、高圧吸収設備(HA)を追加もしくは強化して改良する方法がある。また例えば、通常の尿素製造プラントに対して二酸化炭素分離設備(CO-AB)及びリッチ液ストリッピング設備(RST)[並びに高圧吸収設備(HA)が無い場合は高圧吸収設備(HA)]を追加して改良する方法がある。また、再生設備(CO-D)をさらに追加することにより、尿素合成工程において高純度の二酸化炭素ガスも併せて原料の一部として用いることも可能である。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。ただし本発明は実施例に限定されない。
【0075】
<実施例1>
図1に示した本発明の実施形態に沿って尿素合成を行う場合のプロセスシミュレーションを行った。プロセスシミュレーションに用いた条件は、以下のとおりである。
(1)二酸化炭素分離設備(CO-AB)
リーン液の組成:二酸化炭素8質量%、アンモニア7質量%、水85質量%
温度:21℃
圧力:0.01MPaG
リッチ液の組成:二酸化炭素11質量%、アンモニア7質量%、水82質量%
(2)リッチ液ストリッピング設備(RST)
温度:162℃
圧力:1.7MPaG
ガスの組成:二酸化炭素88質量%、アンモニア4質量%、水8質量%
(3)高圧吸収設備(HA)
温度:107℃
圧力:1.7MPaG
カーバメート液の組成:二酸化炭素38質量%、アンモニア42質量%、水20質量%
(4)尿素合成設備(R)
温度:188℃
圧力:15MPaG
【0076】
以上の条件でシミュレーションした結果、尿素合成におけるH/Cは1.1であり、尿素合成率は58%であった。
【0077】
<実施例2>
図2に示した本発明の実施形態に沿って尿素合成を行う場合のプロセスシミュレーションを行った。
(1)二酸化炭素分離設備(CO-AB)
リーン液の組成:二酸化炭素8質量%、アンモニア7質量%、水85質量%
温度:21℃
圧力:0.01MPaG
リッチ液の組成:二酸化炭素11質量%、アンモニア7質量%、水82質量%
(2)リッチ液ストリッピング設備(RST)
温度:162℃
圧力:1.7MPaG
ガスの組成:二酸化炭素88質量%、アンモニア4質量%、水8質量%
(3)高圧吸収設備(HA)
温度:107℃
圧力:1.6MPaG
カーバメート液の組成:二酸化炭素42質量%、アンモニア37質量%、水21質量%
(4)尿素合成設備(R)
温度:182℃
圧力:15MPaG
(5)再生設備(CO-D)
温度:146℃
圧力:2.4MPaG
CO圧縮機吸込圧:2.5MPaG
CO圧縮機動力:29kWh/t-尿素
【0078】
以上の条件でシミュレーションした結果、尿素合成におけるH/Cは0.6であり、尿素合成率は64%であった。
【0079】
<比較例1>
特許文献1の図2に記載の方法のようにリッチ液のみを炭素供給源として尿素合成を行う場合のプロセスシミュレーションを行った。プロセスシミュレーションに用いた条件は、以下のとおりである。
リッチ液の組成:二酸化炭素11質量%、アンモニア7質量%、水82質量%
カーバメート液の組成:二酸化炭素13質量%、アンモニア14質量%、水73質量%
尿素合成温度:188℃
尿素合成圧力:15MPaG
【0080】
以上の条件でシミュレーションした結果、尿素合成におけるH/Cは4.1と推定された。
【0081】
以上の実施例1及び2並びに比較例1のシミュレーションにより得たH/Cを、以下の表1に記載する。また参考までに公知例(一般的な尿素プラント)のCO圧縮機吸込圧及びCO圧縮機動力の一般的に推定される値も表1に記載する。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に記載のとおり、実施例1及び2におけるH/Cは低い。一方、比較例1におけるH/Cは高く、尿素合成率は低いと推定される。また、実施例2においては、公知例(二酸化炭素の供給源として高純度の二酸化炭素ガスのみを使用する場合の例)よりも高純度の二酸化炭素ガスの必要供給量が少ないので、尿素1トン当たりに必要な電力(CO圧縮機動力)が、公知例よりも少ない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、尿素合成率が比較的高く、エネルギー消費量が比較的少ない尿素の製造方法及び製造装置として有用である。
【符号の説明】
【0085】
CO-AB 二酸化炭素分離設備
RST リッチ液ストリッピング設備
HA 高圧吸収設備
R 尿素合成設備
D 分解・精製設備
EV 濃縮設備
CO-D 再生設備
1 二酸化炭素分離設備
2 尿素プラント
10 排気ガス
11 リッチ液
12 クリーンガス
13 水
20 リーン液
21 ガス
22 アンモニア
23 分離ガス
24 リサイクル液
25 カーバメート液
26 尿素合成液
27 尿素水溶液
28 尿素製品
29 処理水

図1
図2